説明

電動パワーステアリング装置

【課題】トルクセンサ、または電流センサの異常時においても、継続して安定したステアリング操作を行なうことのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【解決手段】ステアリングの操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵軸に加わる軸力を検出する軸力センサと、モータに流れる実電流を検出する電流センサとを備え、更に、トルクセンサ、軸力センサ及び電流センサの異常を検出する異常検出手段を有する。そして、上記異常検出手段により、軸力センサが正常、且つトルクセンサが異常の場合には、軸力センサにて、トルクセンサの値を推定する。また、軸力センサが正常、且つ電流センサが異常の場合には、軸力センサ及びトルクセンサにて、電流センサの値を推定することができる構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のパワーステアリング装置には、モータを駆動源とする電動パワーステアリング装置(EPS)がある。通常、このようなEPSでは、トルクセンサにより、その操舵系に入力される操舵トルクが検出されており、操舵トルクに基づいて、操舵系に付与すべきアシスト力目標値が演算される。そして、そのアシスト力目標値に相当するモータトルクを発生させるべく、モータに対する駆動電力の供給を通じて、その作動が制御される構成となっている。
【0003】
ところが、このような構成では、そのトルクセンサに異常が生じた場合には、操舵トルクに基づくパワーアシスト制御は実行できなくなる。そこで、従来、ステアリングセンサにより検出される操舵角に基づいて、その代替的なアシスト力目標値を演算する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、その操舵角及び操舵方向の判定結果に基づくアシスト力目標値の算出に、ヒステリシス特性を持たせる方法が開示されている。また、特許文献2には、操舵角に対応する係数を操舵速度に乗ずることにより、そのアシスト力目標値を演算する方法が開示されている。そして、これにより、トルクセンサ異常時においても、好適にアシスト力を付与することができる構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−338562号公報
【特許文献2】特開2004−114755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら従来の方法は、何れも操舵トルクに基づくアシスト力目標値を代替する目標値を演算する位置付けであり、その電流フィードバックループの要である、トルクセンサを欠いた状況下においては、その安定的な制御の継続可能性に疑問が残る。即ち、トルクセンサによる実トルクの検出ができない状態になることで、路面状況の変化等といった、外乱の影響を受けやすくなる虞があった。
【0007】
更に、上記電流フィードバックループには、実電流値を検出する電流センサが必要であり、電流センサに異常が生じた場合には、上記電流フィードバックループ自体が構成できなくなり、最適なステアリング操作を行なうことができないという虞があり、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、トルクセンサ、または電流センサの異常時においても、継続して安定したステアリング操作を行なうことのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、操舵系にステアリング(2)操作を補助するアシスト力を付与すべく設けられた操舵力補助装置(13)と、前記操舵力補助装置(13)の駆動源であるモータ(12)に対して駆動電力を供給することにより、操舵力補助装置(13)の作動を制御する制御手段(21)と、前記モータ(12)が発生するアシスト力を操舵軸に伝え、操舵軸の軸長方向の移動に応じてなされる操舵を補助する電動パワーステアリング装置(1)において、前記ステアリング(2)の操舵トルクを検出するトルクセンサ(15)と、前記操舵軸に加わる軸力を検出する軸力センサ(17)と、前記モータ(12)に流れる実電流を検出する電流センサ(26)と、を備え、前記制御手段(21)は、前記トルクセンサ(15)、軸力センサ(17)及び電流センサ(26)の異常を検出する異常検出手段(21)を有し、前記軸力センサ(17)が正常、且つ前記トルクセンサ(15)または前記電流センサ(26)のどちらかが異常の場合には、前記軸力センサ(17)にて検出された軸力を用いて、前記トルクセンサ(15)または前記電流センサ(26)のうち異常となったセンサの値を推定し、その推定した値に基づいて前記アシスト力を決定し、アシスト力の付与を継続すること、を要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、軸力センサが正常の場合、且つトルクセンサまたは電流センサのどちらかが異常の場合には、軸力センサにて、トルクセンサが異常の場合は、トルクセンサの値を推定、また、電流センサが異常の場合は、電流センサの値を推定することができる。
その結果、トルクセンサまたは電流センサが異常となった場合でも、アシスト力を継続して付与することができるので、安定したステアリング操作を行なうことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トルクセンサ、または電流センサの異常時においても、継続して安定したステアリング操作を行なうことのできる電動パワーステアリング装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】EPSの制御ブロック図。
【図3】アシスト制御判定を行なう処理手順を示す概略フローチャート。
【図4】操舵トルクセンサ異常判定を行う処理手順を示すフローチャート。
【図5】軸力センサ異常判定を行う処理手順を示すフローチャート。
【図6】電流センサ異常判定を行う処理手順を示すフローチャート。
【図7】アシスト制御判定を行なう処理手順を示す詳細フローチャート。
【図8】操舵トルク推定部のブロック図。
【図9】実電流の推定を行う処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、コラム型の電動パワーステアリング装置1(以下、EPSという)に具体化した本発明の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態のEPS1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。
【0014】
尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9、及びピニオンシャフト10を連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角が変更される。
【0015】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ13と、EPSアクチュエータ13の作動を制御するECU11とを備えている。
【0016】
本実施形態のEPSアクチュエータ13は、コラム型のEPSアクチュエータであり、その駆動源であるモータ12は、減速機構14を介してコラムシャフト8と駆動連結されている。EPSアクチュエータ13は、モータ12の回転を減速機構14により減速してコラムシャフト8に伝達することによって、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する。
【0017】
ECU11には、車速センサ16、トルクセンサ15、軸力センサ17、及びモータ回転角センサ18が接続されている。ECU11は、これら各センサの出力信号に基づいて、車速V、操舵トルクτ、軸力Fr及びモータ回転角θmを検出する。例えば、本実施形態のトルクセンサ15は、一対のレゾルバが図示しないトーションバーの両端に設けられたツインレゾルバ型のトルクセンサである。また、ECU11は、これらの検出される各状態量に基づいて目標アシスト力を演算し、モータ12への駆動電力の供給を通じて、EPSアクチュエータ13の作動、即ち、操舵系に付与するアシスト力を制御する。
【0018】
次に、本実施形態のEPSにおけるアシスト制御の態様について説明する。
図2に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するマイコン21と、そのモータ制御信号に基づいて、モータ12に駆動電力を供給する駆動回路25とを備えて構成されている。
【0019】
本実施形態では、ECU11には、モータ12に通電される実電流値Imを検出するための電流センサ26、及びモータ12の回転角θmを検出するためのモータ回転角センサ18(図1参照)が接続されている。そして、マイコン21は、上記各車両状態量、並びにこれら電流センサ26及びモータ回転角センサ18の出力信号に基づき検出された、モータ12の実電流値Im及びモータ回転角θmに基づいて、駆動回路25に出力するモータ制御信号を生成する。
【0020】
尚、以下に示す各制御ブロックは、マイコン21が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。そして、同マイコン21は、所定のサンプリング周期で上記各状態量を検出し、所定周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、モータ制御信号を生成する。
【0021】
詳述すると、本実施形態のマイコン21は、マイコン21に入力する状態量の異常を検出する状態量異常検出部22と、モータ12に対する電力供給の目標値である電流指令値Iq*を演算する電流指令値演算部23と、電流指令値演算部23により演算された電流指令値Iq*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部24とを備えている。
【0022】
具体的には、状態量異常検出部22は、操舵トルクτの異常を検出する操舵トルク異常検出部30と、軸力Frの異常を検出する軸力異常検出部31と、実電流Imの異常を検出する実電流異常検出部32とを備えている。
【0023】
操舵トルク異常検出部30は、操舵トルクが正常な場合には、操舵トルク切替部35の接点35aに、操舵トルクτを出力する。一方、操舵トルクが異常な場合には、操舵トルク切替部35の接点を35aから、35bに切替える、操舵トルク異常検出フラグStrを出力する。操舵トルク異常検出フラグStrは、操舵トルクが正常な場合には「0」が(Str=「0」)、操舵トルクが異常な場合には「1」が(Str=「1」)セットされる。
【0024】
軸力異常検出部31は、後段に、操舵トルク推定部33と、実電流推定部34を有する構成となっている。操舵トルク推定部33には、軸力Fr、操舵トルク異常検出フラグStr、軸力異常検出フラグSfr及び実電流異常検出フラグScuが入力されている。そして、実電流推定部34には、軸力Fr、操舵トルクτ、操舵トルク異常検出フラグStr、軸力異常検出フラグSfr及び実電流異常検出フラグScuが入力されている。
【0025】
そして、操舵トルク推定部33は、操舵トルク異常検出フラグStrが「1」(Str=「1」)、軸力異常検出フラグSfrが「0」(Sfr=「0」)、及び実電流異常検出フラグScuが「0」(Scu=「0」)の場合は、軸力Frによって推定操舵トルクτsuを演算する。演算された推定操舵トルクτsuは、操舵トルク切替部35の接点35bに接続される。
【0026】
一方、実電流推定部34は、実電流異常検出フラグScuが「1」(Scu=「1」)、軸力異常検出フラグSfrが「0」(Sfr=「0」)、及び操舵トルク異常検出フラグStrが「0」(Str=「0」)の場合は、軸力Fr及び操舵トルクτによって推定実電流Imsuを演算する。演算された推定実電流Imsuは、実電流切替部36の接点36aに接続される。
【0027】
実電流異常検出部32は、実電流が正常な場合には、実電流切替部36の接点36bに、実電流Imを出力する。一方、実電流が異常な場合には、実電流切替部36の接点を36bから、36aに切替える、実電流異常検出フラグScuを出力する。実電流異常検出フラグScuは、実電流が正常な場合には「0」が(Scu=「0」)、実電流が異常な場合には「1」が(Scu=「1」)セットされる。
【0028】
電流指令値演算部23には、電流指令値Iq*を演算する操舵トルクτ1/電流指令値Iq*生成マップ部40が設けられており、本実施形態では、この操舵トルクτ1/電流指令値Iq*生成マップ部40には、車速V、および操舵トルクτ1が入力されるようになっている。そして、操舵トルクτ1/電流指令値Iq*生成マップ部40は、操舵トルクτ1の絶対値が大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きなアシスト力を付与すべき旨の電流指令値Iq*を演算する構成となっている。
【0029】
モータ制御信号出力部24には、この電流指令値演算部23が出力する電流指令値Iq*とともに、実電流切替部36の接点36cより入力された実電流値Im1、およびモータ回転角センサ18により検出されたモータ回転角θmが入力される。そして、モータ制御信号出力部23は、この電流指令値Iq*に実電流値Im1を追従させるべく電流フィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を演算する。
【0030】
具体的には、本実施形態では、モータ12には、三相(U,V,W)の駆動電力の供給により回転するブラシレスモータが用いられている。そして、モータ制御信号出力部24は、実電流値Im1として入力されたモータ12の相電流値(Iu,Iv,Iw)をd/q座標系のd、q軸電流値に変換(d/q変換)することにより、上記電流フィードバック制御を行う。
【0031】
即ち、電流指令値Iq*は、q軸電流指令値としてモータ制御信号出力部24に入力され、モータ制御信号出力部24は、モータ回転角センサ18により検出されたモータ回転角θmに基づいて相電流値(Iu,Iv,Iw)をd/q変換する。また、モータ制御信号出力部24は、そのd、q軸電流値およびq軸電流指令値に基づいてd、q軸電圧指令値を演算する。そして、そのd、q軸電圧指令値をd/q逆変換することにより相電圧指令値(Vu*,Vv*,Vw*)を演算し、当該相電圧指令値に基づいてモータ制御信号を生成する。
【0032】
このようにして生成されたモータ制御信号は、マイコン21から駆動回路25へと出力され、同駆動回路25によりモータ制御信号に基づく三相の駆動電力がモータ12へと供給される。そして、その操舵トルクτ1に基づくアシスト力目標値としての電流指令値Iq*に相当するモータトルクが発生することにより、アシスト力目標値に対応するアシスト力が操舵系に付与される構成となっている。
【0033】
次に、アシスト制御判定を行なう処理手順を図3に基づいて説明する。
まず、マイコン21は、イグニッションスイッチ(以下、IGと記す)がオンか否かを判定する(ステップS101)。そして、IGがオフ(ステップS101:NO)の場合は、ステップS101を繰り返す。一方、マイコン21は、IGがオン(ステップS101:YES)の場合は、初期設定を行なう(ステップS102)。
初期設定では、マイコン21内部のCPU(記載せず)、ROM(記載せず)、RAM(記載せず)等の動作確認を行なう。
【0034】
次に、マイコン21は、検出された操舵トルク値が正常か異常かを、判定する操舵トルク異常検出処理を行なう(ステップS103)。そして、検出された軸力値が正常か異常かを、判定する軸力異常検出処理を行なう(ステップS104)。更に、検出された実電流値が正常か異常かを、判定する実電流異常検出処理を行なう(ステップS105)。そして、マイコン21は、以上の異常検出処理の結果から、アシスト制御を停止するか、継続するかの判定を実施する(ステップS106)。そして、IGがオフか否かを判定する(ステップS107)。IGがオン(ステップS107:NO)の場合は、ステップS103に戻り、ステップS103〜ステップS107を繰り返す。一方、マイコン21は、IGがオフ(ステップS107:YES)の場合は、処理を終える。
【0035】
次に、上記の異常検出処理について図4〜図6を用いて詳細に説明する。
図4は、操舵トルクセンサ異常検出を行う処理手順を示すフローチャートである。
マイコン21は、操舵トルクτを読み込む(ステップS201)。そして、読み込んだ操舵トルクτが、操舵トルク上限異常閾値τuより大きいか否かを判定する(ステップS202)。操舵トルクτが、操舵トルク上限異常閾値τuより大きい場合(ステップS202:YES)には、操舵トルクτが異常であると判定して、操舵トルク異常検出フラグStrに「1」をセット(Str=「1」)し(ステップS203)、この処理からメインの処理に戻る。
【0036】
一方、マイコン21は、操舵トルクτが、操舵トルク上限異常閾値τu以下の場合(ステップS202:NO)には、操舵トルクτが、操舵トルク下限異常閾値τlより小さいか否かを判定する(ステップS204)。そして、マイコン21は、操舵トルクτが、操舵トルク下限異常閾値τlより小さい場合(ステップS204:YES)には、操舵トルクτが異常であると判定して、操舵トルク異常検出フラグStrに「1」をセット(Str=「1」)し(ステップS203)、この処理からメインの処理に戻る。一方、マイコン21は、操舵トルクτが、操舵トルク下限異常閾値τl以上の場合(ステップS204:NO)には、操舵トルクτが正常であると判定して、操舵トルク異常検出フラグStrに「0」をセット(Str=「0」)し(ステップS205)、この処理からメインの処理に戻る。
【0037】
図5は、軸力センサ異常検出を行う処理手順を示すフローチャートである。
マイコン21は、軸力Frを読み込む(ステップS301)。そして、読み込んだ軸力Frが、軸力上限異常閾値Fruより大きいか否かを判定する(ステップS302)。軸力Frが、軸力上限異常閾値Fruより大きい場合(ステップS302:YES)には、軸力Frが異常であると判定して、軸力異常検出フラグSfrに「1」をセット(Sfr=「1」)し(ステップS303)、この処理からメインの処理に戻る。
【0038】
一方、マイコン21は、軸力Frが、軸力上限異常閾値Fru以下の場合(ステップS302:NO)には、軸力Frが、軸力下限異常閾値Frlより小さいか否かを判定する(ステップS304)。そして、マイコン21は、軸力Frが、軸力下限異常閾値Frlより小さい場合(ステップS304:YES)には、軸力Frが異常であると判定して、軸力異常検出フラグSfrに「1」をセット(Sfr=「1」)し(ステップS303)、この処理からメインの処理に戻る。一方、マイコン21は、軸力Frが、軸力下限異常閾値Frl以上の場合(ステップS304:NO)には、軸力Frが正常であると判定して、軸力異常検出フラグSfrに「0」をセット(Sfr=「0」)し(ステップS305)、この処理からメインの処理に戻る。
【0039】
図6は、電流センサ異常検出を行う処理手順を示すフローチャートである。
マイコン21は、実電流Imを読み込む(ステップS401)。そして、読み込んだ実電流Imが、実電流上限異常閾値Imuより大きいか否かを判定する(ステップS402)。マイコン21は、実電流Imが、実電流上限異常閾値Imuより大きい場合(ステップS402:YES)には、実電流Imが異常であると判定して、実電流異常検出フラグScuに「1」をセット(Scu=「1」)し(ステップS403)、この処理からメインの処理に戻る。
【0040】
一方、マイコン21は、実電流Imが、実電流上限異常閾値Imu以下の場合(ステップS402:NO)には、実電流Imが、実電流下限異常閾値Imlより小さいか否かを判定する(ステップS404)。そして、マイコン21は、実電流Imが、実電流下限異常閾値Imlより小さい場合(ステップS404:YES)には、実電流Imが異常であると判定して、実電流異常検出フラグScuに「1」をセット(Scu=「1」)し(ステップS403)、この処理からメインの処理に戻る。一方、マイコン21は、実電流Imが、実電流下限異常閾値Iml以上の場合(ステップS404:NO)には、実電流Imが正常であると判定して、実電流異常検出フラグScuに「0」をセット(Scu=「0」)し(ステップS405)、この処理からメインの処理に戻る。
【0041】
次に、アシスト制御判定を行なう処理手順について図7を用いて詳細に説明する。
まず、マイコン21は、操舵トルク異常検出フラグStrを読み込む(ステップS501)。次に、マイコン21は、軸力異常検出フラグSfrを読み込む(ステップS502)。そして、マイコン21は、実電流異常検出フラグScuを読み込む(ステップS503)。
【0042】
そして、マイコン21は、操舵トルク異常検出フラグStrが「0」か、否かを判定する(Str=「0」、ステップS504)。そして、マイコン21は、操舵トルク異常検出フラグStrが「0」でない場合(Str=「1」、ステップS504:NO)には、実電流異常検出フラグScuが「0」か、否かを判定する(Scu=「0」、ステップS505)。そして、マイコン21は、実電流異常検出フラグScuが「0」でない場合(Scu=「1」、ステップS505:NO)には、アシスト制御を停止し(ステップS506)、この処理からメインの処理に戻る。
【0043】
一方、マイコン21は、実電流異常検出フラグScuが「0」の場合(Scu=「0」、ステップS505:YES)には、実電流切替部36の接点36b、36cを接続する(ステップS507)。そして、マイコン21は、軸力異常検出フラグSfrが「0」か、否かを判定する(Sfr=「0」、ステップS508)。そして、マイコン21は、軸力異常検出フラグSfrが「0」でない場合(Sfr=「1」、ステップS508:NO)には、アシスト制御を停止し(ステップS506)、この処理からメインの処理に戻る。
【0044】
一方、マイコン21は、軸力異常検出フラグSfrが「0」の場合(Sfr=「0」、ステップS508:YES)には、操舵トルクτの推定演算を行なう(ステップS509)。そして、マイコン21は、操舵トルク切替部35の接点35b、35cを接続する(ステップS510)。そして、マイコン21は、アシスト制御を継続し(ステップS511)、この処理からメインの処理に戻る。
【0045】
一方、マイコン21は、操舵トルク異常検出フラグStrが「0」の場合(Str=「0」、ステップS504:YES)には、操舵トルク切替部35の接点35a、35cを接続する(ステップS512)。そして、マイコン21は、実電流異常検出フラグScuが「0」か、否かを判定する(Scu=「0」、ステップS513)。そして、マイコン21は、実電流異常検出フラグScuが「0」でない場合(Scu=「1」、ステップS513:NO)には、軸力異常検出フラグSfrが「0」か、否かを判定する(Sfr=「0」、ステップS514)。そして、マイコン21は、軸力異常検出フラグSfrが「0」でない場合(Sfr=「1」、ステップS514:NO)には、アシスト制御を停止し(ステップS506)、この処理からメインの処理に戻る。
【0046】
一方、マイコン21は、軸力異常検出フラグSfrが「0」の場合(Sfr=「0」、ステップS514:YES)には、実電流Imの推定演算を行なう(ステップS515)。そして、マイコン21は、実電流切替部36の接点36a、36cを接続する(ステップS516)。そして、マイコン21は、アシスト制御を継続し(ステップS511)、この処理からメインの処理に戻る。
【0047】
更に、マイコン21は、実電流異常検出フラグScuが「0」の場合(Scu=「0」、ステップS513:YES)には、実電流切替部36の接点36b、36cを接続するを接続する(ステップS517)。そして、マイコン21は、アシスト制御を継続し(ステップS511)、この処理からメインの処理に戻る。
【0048】
次に、操舵トルク推定部33の処理について図8を用いて説明する。
操舵トルク推定部33は、軸力Fr/推定操舵トルクτsu生成マップ部33aと、軸力切替部33b及びメモリ33mで構成されている。そして、操舵トルク推定部33には、軸力Fr、軸力異常検出フラグSfr、操舵トルク異常検出フラグStr及び実電流異常検出フラグScuが入力され、推定操舵トルクτsuが出力される。
【0049】
マイコン21は、軸力異常検出フラグSfrが「0」、操舵トルク異常検出フラグStrが「1」及び実電流異常検出フラグScu「0」の場合には、軸力切替部33bの接点33baと接点33bcを接続し、後段の軸力Fr/推定操舵トルクτsu生成マップ部33aに軸力Frを入力する。そして、軸力Fr/推定操舵トルクτsu生成マップ部33aは、入力された軸力Frに基づいて推定操舵トルクτsuを生成する。
【0050】
次に、実電流推定部34の処理手順について図9を用いて説明する。
まず、マイコン21は、操舵トルク異常検出フラグStrを読み込む(ステップS601)。そして、マイコン21は、軸力異常検出フラグSfrを読み込む(ステップS602)。更に、マイコン21は、実電流異常検出フラグScuを読み込む(ステップS603)。
【0051】
そして、マイコン21は、操舵トルク異常検出フラグStrが「0」か、否かを判定する(Str=「0」、ステップS604)。そして、マイコン21は、操舵トルク異常検出フラグStrが「0」の場合(Str=「0」、ステップS604:YES)には、
次に、軸力異常検出フラグSfrが「0」か、否かを判定する(Sfr=「0」、ステップS605)。そして、マイコン21は、軸力異常検出フラグSfrが「0」の場合(Sfr=「0」、ステップS605:YES)には、実電流異常検出フラグScuが「1」か、否かを判定する(Scu=「1」、ステップS606)。
【0052】
そして、マイコン21は、実電流異常検出フラグScuが「1」の場合(Scu=「1」、ステップS606:YES)には、操舵トルクτを読み込む(ステップS607)。次に、マイコン21は、軸力Frを読み込む(ステップS608)。更に、マイコン21は、推定実電流Imsuを演算するために必要な、EPSを構成する各種パラメータを読み込む。即ち、コラムシャフトバネ定数K、モータギヤ比η、モータイナーシャJ及びモータトルク定数Ktを読み込む(ステップS609)。そして、マイコン21は、下記(1)式にて推定実電流Imsuを演算し(ステップS610)、この処理からメインの処理に戻る。
Imsu=J/Kt×d/dt(d/dt(Ft−τ)/(K×η))・・・(1)式
【0053】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
モータが発生するアシスト力を操舵軸に伝え、操舵軸の軸長方向の移動に応じてなされる操舵を補助する電動パワーステアリング装置において、ステアリングの操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵軸に加わる軸力を検出する軸力センサと、モータに流れる実電流を検出する電流センサとを備え、更に、トルクセンサ、軸力センサ及び電流センサの異常を検出する異常検出手段を有する構成とした。
【0054】
そして、本実施形態では、上記異常検出手段により、軸力センサが正常、且つトルクセンサが異常の場合には、軸力センサにて、トルクセンサの値を推定する。また、軸力センサが正常、且つ電流センサが異常の場合には、軸力センサ及びトルクセンサにて、電流センサの値を推定することができる構成とした。
【0055】
その結果、トルクセンサまたは電流センサが異常となった場合でも、アシスト力を継続して付与することができるので、安定したステアリング操作を行なうことができる。
【0056】
尚、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態では、本発明を、所謂コラム型のEPS1に具体化したが、本発明は、所謂ピニオン型やラックアシスト型のEPSに適用してもよい。
【0057】
・上記実施形態では、本発明を、ブラシレスモータを駆動源とするEPSに具体化したが、本発明は、ブラシ付の直流モータを駆動源とするEPSに適用してもよい。
【0058】
・上記実施形態では、操舵トルク、軸力、実電流の異常検出を、それぞれの上限値異常閾値及び下限値異常閾値を用いて判定したが、他に、車速、ハンドル操舵角速度等を用いて更に高精度に判定してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1:電動パワーステアリング装置(EPS)、2:ステアリング、
3:ステアリングシャフト、4:ラックアンドピニオン機構、5:ラック軸、
6:タイロッド、7:転舵輪、8:コラムシャフト、
9:インターミディエイトシャフト、10:ピニオンシャフト、11:ECU、
12:モータ、13:EPSアクチュエータ、14:減速機構、
15:トルクセンサ、16:車速センサ、17:軸力センサ、18:モータ回転角センサ、
21:マイコン、22:状態量異常検出部、23:電流指令値演算部、
24:モータ制御信号出力部、25:駆動回路、26:電流センサ、
30:操舵トルク異常検出部、31:軸力異常検出部、32:実電流異常検出部、
33:操舵トルク推定部、33a:軸力Fr/推定操舵トルクτsu生成マップ部、
33b:軸力切替部、33ba、33bb、33bc:接点、
33c:メモリ(ROM)、34:実電流推定部、
35:操舵トルク切替部、36:実電流切替部、
35a、35b、35c、36a、36b、36c:接点、
40:操舵トルクτ1/電流指令値Iq*生成マップ部、
V:車速、τ、τ1:操舵トルク、Fr:軸力、
Im、Im1:実電流、Iq*:電流指令値、θm:モータ回転角、
Str:操舵トルク異常検出フラグ、Sfr:軸力異常検出フラグ、
Scu:実電流異常検出フラグ、
τsu:推定操舵トルク、Imsu:推定実電流、
τu:操舵トルク上限異常閾値、τl:操舵トルク下限異常閾値、
Fru:軸力上限異常閾値、Frl:軸力下限異常閾値、
Imu:実電流上限異常閾値、Iml:実電流下限異常閾値、
K:コラムシャフトバネ定数、J:モータイナーシャ、Kt:モータトルク定数、
η:モータギヤ比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵系にステアリング操作を補助するアシスト力を付与すべく設けられた操舵力補助装置と、
前記操舵力補助装置の駆動源であるモータに対して駆動電力を供給することにより、操舵力補助装置の作動を制御する制御手段と、
前記モータが発生するアシスト力を操舵軸に伝え、操舵軸の軸長方向の移動に応じてなされる操舵を補助する電動パワーステアリング装置において、
前記ステアリングの操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記操舵軸に加わる軸力を検出する軸力センサと、
前記モータに流れる実電流を検出する電流センサと、を備え、
前記制御手段は、前記トルクセンサ、軸力センサ及び電流センサの異常を検出する異常検出手段を有し、
前記軸力センサが正常、且つ前記トルクセンサまたは前記電流センサのどちらかが異常の場合には、前記軸力センサにて検出された軸力を用いて、前記トルクセンサまたは前記電流センサのうち異常となったセンサの値を推定し、その推定した値に基づいて前記アシスト力を決定し、アシスト力の付与を継続すること、
を特徴とした電動パワーステアリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−103601(P2013−103601A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248515(P2011−248515)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】