説明

電動パワーステアリング装置

【課題】ヒステリシスを考慮して電動モータに供給する電流量を制御することで、操舵フィーリングの向上および安全性の向上を図ることができる技術を提供する。
【解決手段】ステアリングホイールの操舵トルクに応じた値を検出するトルク検出部210と、実際の操舵トルクとトルク検出部が検出する検出値との間のヒステリシスを考慮してトルク検出部210が検出した検出値を補正するトルク値補正部220と、トルク値補正部220が補正した検出値に基づいて電動モータ110に供給する目標電流を算出する目標電流算出部20と、を備え、トルク値補正部220は、トルク検出部210が検出した検出値に応じた補正量を用いて、操舵トルクが小さい場合にはヒステリシスを小さく、操舵トルクが大きい場合にはヒステリシスを大きくするように補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トルクセンサにより検出されたステアリングホイールの操舵力の大きさに応じて電動モータに流す電流量を制御する電動パワーステアリング装置が提案されている。
例えば、特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置は、ステアリングの操舵機構に動力を与えてステアリングの操舵力を補助する電動モータと、ステアリングの操舵力を検出するトルクセンサと、このトルクセンサにより検出された操舵力の大きさに応じて電動モータに流す電流量を制御する制御回路とを備えている。そして、トルクセンサは、入力軸と出力軸とを同軸上に連結するトーションバー、入力軸の端部に取り付けられる磁石、出力軸の端部に取り付けられる一組の磁気ヨーク、及びこの一組の磁気ヨーク間に生じる磁束密度を検出する磁気センサ等より構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−149062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トルクセンサからの出力値には、ステアリングホイール、入力軸等の操舵系に生じる機械的な摩擦抵抗が外乱として含まれる。そのため、ステアリングホイールを左から右へ操舵する場合のトルクセンサの出力値と、右から左へ操舵する場合のトルクセンサの出力値とが異なる現象(ヒステリシス)が生じる。
したがって、ヒステリシスを考慮して電動モータに供給する電流量を制御することで、操舵フィーリングの向上および安全性の向上を図ることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと、本発明は、ステアリングホイールの操舵トルクに応じた値を検出する検出手段と、実際の操舵トルクと前記検出手段が検出する検出値との間のヒステリシスを考慮して当該検出手段が検出した検出値を補正する補正手段と、前記補正手段が補正した検出値に基づいて電動モータに供給する目標電流を算出する目標電流算出手段と、を備え、前記補正手段は、前記検出手段が検出した検出値に応じた補正値を用いて、前記操舵トルクが小さい場合には前記ヒステリシスを小さく、当該操舵トルクが大きい場合には当該ヒステリシスを大きくするように補正することを特徴とする電動パワーステアリング装置である。
【0006】
ここで、前記補正手段の前記補正値は、前記検出手段が検出した検出値の絶対値が予め定められた値よりも小さい場合と大きい場合とで符号が反転するとよい。
また、前記補正手段は、前記検出手段が検出した検出値に基づいて前記補正値を決定する決定手段と、当該検出手段が検出した検出値に対して当該決定手段が決定した補正値を用いた四則演算を行うことにより当該検出手段が検出した検出値を補正するとともに補正した検出値を出力する出力手段と、を備えるとよい。
【0007】
また、前記操舵トルクの方向が、前記ステアリングホイールの一方の回転方向である場合をプラス、他方の回転方向である場合をマイナスとした場合に、前記補正手段の前記決定手段は、前記補正値の符号を、前記検出手段が検出した検出値の絶対値が予め定められた値よりも小さい場合にはプラス、大きい場合にはマイナスに決定し、前記出力手段は、前記操舵トルクが増加している場合には、当該検出手段が検出した検出値に当該決定手段が決定した補正値を加算し、当該操舵トルクが減少している場合には、当該検出手段が検出した検出値から当該決定手段が決定した補正値を減算することにより当該検出手段が検出した検出値を補正するとよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヒステリシスを考慮して電動モータに供給する電流量を制御するので、操舵フィーリングの向上および安全性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成を示す図である。
【図2】電動パワーステアリング装置の制御装置の概略構成図である。
【図3】目標電流算出部の概略構成図である。
【図4】制御部の概略構成図である。
【図5】トルク値補正部の概略構成図である。
【図6】検出トルク信号と補正量との関係を示す図である。
【図7】補正量決定部が行う補正量決定処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】増減度合い判定部が行う増減度合い判定処理の手順を示すフローチャートである。
【図9】出力部が行う出力処理の手順を示すフローチャートである。
【図10】本実施の形態に係るステアリング装置における操舵トルクと制御トルク信号との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係る電動パワーステアリング装置100の概略構成を示す図である。
電動パワーステアリング装置100(以下、単に「ステアリング装置100」と称する場合もある。)は、乗り物の進行方向を任意に変えるためのかじ取り装置であり、本実施の形態においては自動車に適用した構成を例示している。
【0011】
ステアリング装置100は、ドライバが操作する車輪(ホイール)状のステアリングホイール(ハンドル)101と、ステアリングホイール101に一体的に設けられたステアリングシャフト102とを備えている。また、ステアリング装置100は、ステアリングシャフト102と自在継手103aを介して連結された上部連結シャフト103と、この上部連結シャフト103と自在継手103bを介して連結された下部連結シャフト108とを備えている。下部連結シャフト108は、ステアリングホイール101の回転に連動して回転する。
【0012】
また、ステアリング装置100は、転動輪としての左右の前輪150のそれぞれに連結されたタイロッド104と、タイロッド104に連結されたラック軸105とを備えている。また、ステアリング装置100は、ラック軸105に形成されたラック歯105aとともにラック・ピニオン機構を構成するピニオン106aを備えている。ピニオン106aは、ピニオンシャフト106の下端部に形成されている
【0013】
また、ステアリング装置100は、ピニオンシャフト106を収納するステアリングギアボックス107を有している。ピニオンシャフト106は、ステアリングギアボックス107にてトーションバーを介して下部連結シャフト108と連結されている。ステアリングギアボックス107の内部には、下部連結シャフト108とピニオンシャフト106との相対回転角度に応じた電気信号(例えば電圧信号)出力するトルクセンサ109が設けられている。
【0014】
また、ステアリング装置100は、ステアリングギアボックス107に支持された電動モータ110と、電動モータ110の駆動力を減速してピニオンシャフト106に伝達する減速機構111とを有している。本実施の形態に係る電動モータ110は、3相ブラシレスモータである。電動モータ110に実際に流れる実電流の大きさおよび方向は、モータ電流検出部33(図4参照)にて検出される。
そして、ステアリング装置100は、電動モータ110の作動を制御する制御装置10を備えている。制御装置10には、上述したトルクセンサ109の出力値、自動車の移動速度である車速Vcを検出する車速センサ170の出力値が入力される。
【0015】
以上のように構成されたステアリング装置100は、ステアリングホイール101に加えられた操舵トルクTに応じた値をトルクセンサ109からの出力に基づいて検出し、その検出された値に応じて電動モータ110を駆動し、電動モータ110の発生トルクをピニオンシャフト106に伝達する。これにより、電動モータ110の発生トルクが、ステアリングホイール101に加える運転者の操舵力をアシストする。
【0016】
次に、制御装置10について説明する。
図2は、ステアリング装置100の制御装置10の概略構成図である。
制御装置10は、CPU11、ROM12、RAM13等からなる算術論理演算回路である。
制御装置10には、上述したトルクセンサ109から出力された電気信号と、車速センサ170にて検出された車速Vcが出力信号に変換された車速信号vなどが入力される。
そして、制御装置10は、トルクセンサ109から入力される信号に基づいて操舵トルクTに応じた値を検出するトルク検出部210と、トルク検出部210からの出力値(Tp)を補正し、補正後のトルク信号である制御トルク信号Tdを出力するトルク値補正部220とを有している。また、トルク値補正部220から出力された制御トルク信号Tdに基づいて目標補助トルクを算出し、この目標補助トルクを電動モータ110が供給するのに必要となる目標電流を算出する目標電流算出部20と、目標電流算出部20が算出した目標電流に基づいてフィードバック制御などを行う制御部30とを有している。
【0017】
先ずは、トルク検出部210について詳述する。
トルク検出部210は、トルクセンサ109から入力される信号に基づいて操舵トルクTを算出し、算出した操舵トルクTを電気信号(電圧信号)に変換した検出トルク信号Tpをトルク値補正部220へ出力する。トルクセンサ109から出力される電気信号と、操舵トルクTとの関係を示すマップをROM12に記憶しておき、トルク検出部210は、このマップに、トルクセンサ109からの電気信号を代入することにより操舵トルクTを算出する。又は、トルクセンサ109からの電気信号と操舵トルクTとの関係を示す関数を組み込んでおき、トルク検出部210は、この関数にトルクセンサ109からの電気信号を代入して操舵トルクTを算出してもよい。なお、トルク検出部210は、トーションバーの捩れ量が零の状態を中点にし、右回転方向の操舵トルクTをプラス、左回転方向の操舵トルクTをマイナスの値として出力する。
トルク値補正部220については、後で詳述する。
【0018】
次に、目標電流算出部20について詳述する。図3は、目標電流算出部20の概略構成図である。
目標電流算出部20は、目標電流を設定する上で基準となるベース電流を算出するベース電流算出部21と、電動モータ110の慣性モーメントを打ち消すための電流を算出するイナーシャ補償電流算出部22と、モータの回転を制限する電流を算出するダンパー補償電流算出部23とを備えている。また、目標電流算出部20は、ベース電流算出部21、イナーシャ補償電流算出部22、ダンパー補償電流算出部23などからの出力に基づいて目標電流を決定する目標電流決定部25を備えている。さらに、目標電流算出部20は、制御トルク信号Tdの位相補償を行う位相補償部26を備えている。
【0019】
なお、目標電流算出部20には、トルク信号Tdと、車速信号vと、電動モータ110の回転速度Nmが出力信号に変換された回転速度信号Nmsとが入力される。回転速度信号Nmsは、例えば3相ブラシレスモータである電動モータ110の回転子(ロータ)の回転位置を検出するセンサ(例えば、回転子の回転位置を検出するレゾルバ、ロータリエンコーダ等で構成されるロータ位置検出回路)の出力信号が微分されることにより得られるものであることを例示することができる。
なお、制御装置10には、車速センサ170などからの信号がアナログ信号として入力されるので、図示しないA/D変換部によりアナログ信号をデジタル信号に変換し、目標電流算出部20に取り込んでいる。
【0020】
ベース電流算出部21は、位相補償部26にてトルク信号Tdが位相補償されたトルク信号Tsと、車速センサ170からの車速信号vとに基づいてベース電流を算出し、このベース電流の情報を含むベース電流信号Imbを出力する。なお、ベース電流算出部21は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROM12に記憶しておいた、トルク信号Tsおよび車速信号vとベース電流との対応を示すマップに、検出されたトルク信号Tsおよび車速信号vを代入することによりベース電流を算出する。
【0021】
イナーシャ補償電流算出部22は、トルク信号Tdと車速信号vとに基づいて電動モータ110およびシステムの慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流を算出し、この電流の情報を含むイナーシャ補償電流信号Isを出力する。なお、イナーシャ補償電流算出部22は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROM12に記憶しておいた、トルク信号Tdおよび車速信号vとイナーシャ補償電流との対応を示すマップに、検出されたトルク信号Tdおよび車速信号vを代入することによりイナーシャ補償電流を算出する。
【0022】
ダンパー補償電流算出部23は、トルク信号Tdと、車速信号vと、電動モータ110の回転速度信号Nmsとに基づいて、電動モータ110の回転を制限するダンパー補償電流を算出し、この電流の情報を含むダンパー補償電流信号Idを出力する。なお、ダンパー補償電流算出部23は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROM12に記憶しておいた、トルク信号Td、車速信号vおよび回転速度信号Nmsと、ダンパー補償電流との対応を示すマップに、検出されたトルク信号Tdと車速信号vと回転速度信号Nmsとを代入することによりダンパー補償電流を算出する。
【0023】
目標電流決定部25は、ベース電流算出部21から出力されたベース電流信号Imb、イナーシャ補償電流算出部22から出力されたイナーシャ補償電流信号Isおよびダンパー補償電流算出部23から出力されたダンパー補償電流信号Idに基づいて目標電流を決定し、この電流の情報を含む目標電流信号ITを出力する。目標電流決定部25は、例えば、ベース電流に、イナーシャ補償電流を加算するとともにダンパー補償電流を減算して得た補償電流を、予め経験則に基づいて作成しROM12に記憶しておいた、補償電流と目標電流との対応を示すマップに代入することにより目標電流を算出する。
【0024】
次に、制御部30について詳述する。図4は、制御部30の概略構成図である。
制御部30は、電動モータ110の作動を制御するモータ駆動制御部31と、電動モータ110を駆動させるモータ駆動部32と、電動モータ110に実際に流れる実電流Imを検出するモータ電流検出部33とを有している。
モータ駆動制御部31は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流と、モータ電流検出部33にて検出された電動モータ110へ供給される実電流Imとの偏差に基づいてフィードバック制御を行うフィードバック(F/B)制御部40と、電動モータ110をPWM駆動するためのPWM(パルス幅変調)信号を生成するPWM信号生成部60とを有している。
【0025】
フィードバック制御部40は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流とモータ電流検出部33にて検出された実電流Imとの偏差を求める偏差演算部41と、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行うフィードバック(F/B)処理部42とを有している。
偏差演算部41は、目標電流算出部20からの出力値である目標電流信号ITFとモータ電流検出部33からの出力値であるモータ電流信号Imsとの偏差の値を偏差信号41aとして出力する。
【0026】
フィードバック(F/B)処理部42は、目標電流と実電流Imとが一致するようにフィードバック制御を行うものであり、例えば、入力された偏差信号41aに対して、比例要素で比例処理した信号を出力し、積分要素で積分処理した信号を出力し、加算演算部でこれらの信号を加算してフィードバック処理信号42aを生成・出力する。
PWM信号生成部60は、フィードバック制御部40からの出力値に基づいてPWM信号60aを生成し、生成したPWM信号60aを出力する。
【0027】
モータ駆動部32は、所謂インバータであり、例えば、スイッチング素子として6個の独立したトランジスタ(FET)を備え、6個の内の3個のトランジスタは電源の正極側ラインと各相の電気コイルとの間に接続され、他の3個のトランジスタは各相の電気コイルと電源の負極側(アース)ラインと接続されている。そして、6個の中から選択した2個のトランジスタのゲートを駆動してこれらのトランジスタをスイッチング動作させることにより、電動モータ110の駆動を制御する。
モータ電流検出部33は、モータ駆動部32に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から電動モータ110に流れる実電流Imの値を検出して、検出した実電流Imをモータ電流信号Imsに変換して出力する。
【0028】
以上のように構成されたステアリング装置100において、トルクセンサ109からの出力値には、ステアリングホイール101、下部連結シャフト108等の操舵系に生じる機械的な摩擦抵抗が外乱として含まれる。そのため、ステアリングホイール101を左から右へ操舵する場合(以下、「右回転時」と称する場合もある)のトルクセンサ109の出力値と、右から左へ操舵する場合(以下、「左回転時」と称する場合もある)のトルクセンサ109の出力値とが異なる現象(ヒステリシス)が生じる。
かかる事項に鑑み、本実施の形態に係るステアリング装置100においては、トルク検出部210から出力された検出トルク信号Tpを、ヒステリシスを考慮した値に補正するためにトルク値補正部220を備えている。
【0029】
図5は、トルク値補正部220の概略構成図である。
トルク値補正部220は、トルク検出部210から出力された検出トルク信号Tpに基づいて補正量αを決定する補正量決定部221と、トルク検出部210から出力された検出トルク信号Tpに基づいて操舵トルクTの増減を判定する増減度合い判定部222と、を備えている。また、トルク値補正部220は、トルク検出部210から出力された検出トルク信号Tp、補正量決定部221にて決定された補正量αおよび増減度合い判定部222にて判定された操舵トルクTの増減に基づいて制御トルク信号Tdを決定するとともに、決定した制御トルク信号Tdを目標電流算出部20へ出力する出力部223を備えている。
【0030】
図6は、検出トルク信号Tpと補正量αとの関係を示す図である。
補正量決定部221は、トルク検出部210から出力された検出トルク信号Tpに基づいて補正量αを決定する。例えば、予め経験則に基づいてトルク検出部210から出力される検出トルク信号Tpに応じた最適な補正量αを図6に示すように導き出しておく。そして、補正量決定部221は、予め作成しROM12に記憶しておいた、検出トルク信号Tpと補正量αとの対応を示すマップに、検出トルク信号Tpを代入することにより補正量αを算出する。あるいは、予め作成した検出トルク信号Tpと補正量αとの関係式に検出トルク信号Tpを代入することにより補正量αを算出してもよい。
【0031】
図6に示すように、本実施の形態においては、補正量αは、検出トルク信号Tpの絶対値が予め定められた値Toより小さい場合にはプラスの符号であり、検出トルク信号Tpの絶対値が予め定められた値Toより大きい場合にはマイナスの符号である。つまり、補正量αは、検出トルク信号Tpの絶対値が予め定められた値Toよりも小さい場合と大きい場合とで符号が反転する。
【0032】
増減度合い判定部222は、トーションバーの捩れ量が零の状態を中点にし、右方向の操舵トルクTをプラス、左方向の操舵トルクTをマイナスとした場合に、現時点における操舵トルクTの増減を判定する。増減度合い判定部222は、トルク検出部210から定期的に入力された検出トルク信号Tpの履歴から現時点における操舵トルクTの増減を判定する。
より具体的には、増減度合い判定部222は、RAM13に記憶された検出トルク信号Tpの内、最新の検出トルク信号Tp(n)を含む過去k個分の検出トルク信号Tpの平均値である今回平均値Tpave(n)を算出するとともに、最新の検出トルク信号Tp(n)を含まない、つまり最新の検出トルク信号Tp(n)より前に入力された過去k個分のトルク信号Tpの平均値である前回平均値Tpave(n−1)を算出する。例えば、kが2である場合、Tpave(n)=(Tp(n)+Tp(n−1))/2、Tpave(n−1)=(Tp(n−1)+Tp(n−2))/2である。
【0033】
そして、増減度合い判定部222は、今回平均値Tpave(n)から前回平均値Tpave(n−1)を減算することにより得られた平均値変化ΔTpave(=Tpave(n)−Tpave(n−1))に基づいて操舵トルクTの増減の度合いを判定する。増減度合い判定部222は、平均値変化ΔTpaveが、予め定められたの第1の判定値よりも大きい場合には、増加量が大きいと判定し、操舵トルクTが増加している場合にセットされる増加判定をRAM13にセットする。他方、増減度合い判定部222は、平均値変化ΔTpaveが、予め定められたの第2の判定値よりも小さい場合には、減少量が大きいと判定し、操舵トルクTが減少している場合にセットされる減少判定をRAM13にセットする。また、増減度合い判定部222は、平均値変化ΔTpaveが第1の判定値以下である場合には、RAM13にセットされた増加判定をクリアし、平均値変化ΔTpaveが第2の判定値以上である場合には、RAM13にセットされた減少判定をクリアする。なお、第1の判定値はプラスの値、第2の判定値はマイナスの値であることを例示することができる。
【0034】
出力部223は、RAM13に増加判定がセットされている場合には、トルク検出部210から出力された検出トルク信号Tpが示す値に補正量決定部221が決定した補正量αを加算した値に応じた電気信号を今回の制御トルク信号Td(n)として出力する。また、出力部223は、RAM13に減少判定がセットされている場合には、トルク検出部210から出力されたトルク信号Tpが示す値から補正量決定部221が決定した補正量αを減算した値に応じた電気信号を今回の制御トルク信号Td(n)として出力する。また、出力部223は、RAM13に増加判定も減少判定もセットされていない場合には、今回の制御トルク信号Td(n)として、前回出力した制御トルク信号Td(n−1)と同じ信号を出力する。
【0035】
次に、フローチャートを用いて、補正量決定部221が行う補正量決定処理について説明する。
図7は、補正量決定部221が行う補正量決定処理の手順を示すフローチャートである。補正量決定部221は、定期的に、例えば10ms毎にこの補正量決定処理を実行する。
補正量決定部221は、先ず、トルク検出部210から出力され、RAM13に記憶された最新の検出トルク信号Tp(n)を読み込む(ステップ(以下、単に、「S」と記す。)701)。
次に、補正量決定部221は、S701にて読み込んだ最新の検出トルク信号Tp(n)とROM12に記憶されたマップとに基づいて補正量αを決定する(S702)。
【0036】
次に、フローチャートを用いて、増減度合い判定部222が行う増減度合い判定処理について説明する。
図8は、増減度合い判定部222が行う増減度合い判定処理の手順を示すフローチャートである。増減度合い判定部222は、定期的に、例えば10ms毎にこの増減判定処理を実行する。
増減度合い判定部222は、先ず、トルク検出部210から出力され、RAM13に記憶された検出トルク信号Tp(n)を読み込む(S801)。その後、今回平均値Tpave(n)を算出する(S802)とともに前回平均値Tpave(n−1)を算出し(S803)、平均値変化ΔTpaveを算出する(ΔTpave=Tpave(n)−Tpave(n−1))(S804)。
【0037】
その後、増減度合い判定部222は、S804にて算出された平均値変化ΔTpaveが第1の判定値よりも大きいか否かを判別する(S805)。そして、平均値変化ΔTpaveが第1の判定値よりも大きい場合(S805でYes)、増加判定をRAM13にセットし(S806)、RAM13にセットされた減少判定をクリアする(S807)。
一方、平均値変化ΔTpaveが第1の判定値よりも大きくない場合(S805でNo)、S804にて算出された平均値変化ΔTpaveが第2の判定値よりも小さいか否かを判別する(S808)。そして、平均値変化ΔTpaveが第2の判定値よりも小さい場合(S808でYes)、減少判定をRAM13にセットし(S809)、RAM13にセットされた増加判定をクリアする(S810)。他方、平均値変化ΔTpaveが第2の判定値よりも小さくない場合(S808でNo)、言い換えれば、平均値変化ΔTpaveが、第2の判定値以上、第1の判定値以下である場合、RAM13にセットされた増加判定をクリアし(S811)、減少判定をクリアする(S812)。
【0038】
次に、フローチャートを用いて、出力部223が行う出力処理について説明する。
図9は、出力部223が行う出力処理の手順を示すフローチャートである。出力部223は、定期的に、例えば10ms毎にこの出力処理を実行する。
出力部223は、先ず、RAM13に増加判定がセットされているかどうかを判別する(S901)。そして、増加判定がセットされている場合(S901でYes)、トルク検出部210から今回出力された検出トルク信号Tp(n)が示す値に補正量決定部221が決定した補正量αを加算した値(Tp(n)+α)に応じた電気信号を今回の制御トルク信号Td(n)として出力する(S902)。
【0039】
一方、増加判定がセットされていない場合(S901でNo)、RAM13に減少判定がセットされているかどうかを判別する(S903)。そして、減少判定がセットされている場合(S903でYes)、トルク検出部210から今回出力された検出トルク信号Tp(n)が示す値から補正量決定部221が決定した補正量αを減算した値(Tp(n)−α)に応じた電気信号を今回の制御トルク信号Td(n)として出力する(S904)。他方、減少判定がセットされていない場合(S903でNo)、今回の制御トルク信号Td(n)として、前回出力した制御トルク信号Td(n−1)と同じ信号を出力する(S905)。
【0040】
図10は、本実施の形態に係るステアリング装置100における操舵トルクTと制御トルク信号Tdとの関係を示す図である。操舵トルクTと制御トルク信号Tdとの関係を実線で示している。また、この図10には、操舵トルクTと検出トルク信号Tpとの関係を破線で示している。
上述したように、トルクセンサ109からの出力値にはヒステリシスが生じることから、操舵トルクTに対するトルク検出部210から出力された検出トルク信号Tpは、図10の破線で示したように、ステアリングホイール101の右回転時の検出トルク信号Tpの値と、左回転時の検出トルク信号Tpの値とで異なる。
【0041】
本実施の形態に係るステアリング装置100においては、図6に示すように、トルク検出部210から出力された検出トルク信号Tpの絶対値の値が小さい場合には補正量αの値がプラスに設定される。そして、操舵トルクTの増加量が大きい場合、言い換えればステアリングホイール101の右回転時には、検出トルク信号Tpが示す値に補正量αを加算した値に応じた電気信号が制御トルク信号Td(n)として設定される。また、操舵トルクTの減少量が大きい場合、言い換えればステアリングホイール101の左回転時には、検出トルク信号Tpが示す値から補正量αを減算した値に応じた電気信号が制御トルク信号Td(n)として設定される。それゆえ、操舵トルクTが小さい場合には、検出トルク信号Tpのヒステリシスよりも小さいヒステリシスとなる。言い換えれば、操舵トルクTが小さい場合には、検出トルク信号Tpのヒステリシスの幅よりも小さな幅のヒステリシスとなる。その結果、操舵トルクTが小さい場合には、ステアリングホイール101の戻りが良い特性とすることができる。
【0042】
一方、図6に示すように、トルク検出部210から出力された検出トルク信号Tpの絶対値の値が大きい場合には、絶対値が大きくなるに従って補正量αの値がマイナス方向に大きくなるように設定される。そして、ステアリングホイール101の右回転時には、検出トルク信号Tpが示す値に補正量αを加算した値に応じた電気信号が制御トルク信号Td(n)として設定され、ステアリングホイール101の左回転時には、検出トルク信号Tpが示す値から補正量αを減算した値に応じた電気信号が制御トルク信号Td(n)として設定される。それゆえ、操舵トルクTが大きくなるに従って、検出トルク信号Tpのヒステリシスよりも大きなヒステリシスとなる。その結果、操舵トルクTが大きい場合には、ステアリングホイール101のすわり感を向上させることができる。これにより、例えば、ステアリングホイール101の切り戻し時に、電動モータ110の戻し方向の駆動トルクが減少するので、車両の挙動を安定させることができる。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態に係るステアリング装置100においては、操舵トルクTが小さい場合および大きい場合の広い領域でヒステリシスが調整されるので、広域で操舵感(操舵特性)を向上させることができ、操舵フィーリングの向上および安全性の向上を図ることができる。また、トルクセンサ109からの出力値のみをパラメータとしているので、簡便な構成で操舵フィーリングの向上と安全性の向上の両立を実現している。
また、図6に例示した、検出トルク信号Tpと補正量αとの関係を、任意に変更することで、操舵トルクTに対する制御トルク信号Tdの値(ヒステリシス)を任意に変更することができる。それゆえ、本実施の形態に係るステアリング装置100が搭載される車両毎に、容易にヒステリシスを変更することが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
10…制御装置、20…目標電流算出部、25…目標電流決定部、30…制御部、100…電動パワーステアリング装置、101…ステアリングホイール(ハンドル)、109…トルクセンサ、110…電動モータ、210…トルク検出部、220…トルク値補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの操舵トルクに応じた値を検出する検出手段と、
実際の操舵トルクと前記検出手段が検出する検出値との間のヒステリシスを考慮して当該検出手段が検出した検出値を補正する補正手段と、
前記補正手段が補正した検出値に基づいて電動モータに供給する目標電流を算出する目標電流算出手段と、
を備え、
前記補正手段は、前記検出手段が検出した検出値に応じた補正値を用いて、前記操舵トルクが小さい場合には前記ヒステリシスを小さく、当該操舵トルクが大きい場合には当該ヒステリシスを大きくするように補正することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記補正手段の前記補正値は、前記検出手段が検出した検出値の絶対値が予め定められた値よりも小さい場合と大きい場合とで符号が反転することを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記検出手段が検出した検出値に基づいて前記補正値を決定する決定手段と、当該検出手段が検出した検出値に対して当該決定手段が決定した補正値を用いた四則演算を行うことにより当該検出手段が検出した検出値を補正するとともに補正した検出値を出力する出力手段と、を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記操舵トルクの方向が、前記ステアリングホイールの一方の回転方向である場合をプラス、他方の回転方向である場合をマイナスとした場合に、
前記補正手段の前記決定手段は、前記補正値の符号を、前記検出手段が検出した検出値の絶対値が予め定められた値よりも小さい場合にはプラス、大きい場合にはマイナスに決定し、前記出力手段は、前記操舵トルクが増加している場合には、当該検出手段が検出した検出値に当該決定手段が決定した補正値を加算し、当該操舵トルクが減少している場合には、当該検出手段が検出した検出値から当該決定手段が決定した補正値を減算することにより当該検出手段が検出した検出値を補正することを特徴とする請求項3に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−67340(P2013−67340A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208938(P2011−208938)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】