説明

電動パーキングブレーキ装置

【課題】電動パーキングブレーキ装置は電気的に制御される特性上、電源電圧の低下といった不測の事態にも十分に備えておくことが望ましい。
【解決手段】電動パーキングブレーキ装置150において、電動アクチュエータ30は制動要求があったときにパーキングブレーキ14を作動させる。アクチュエータ制御手段102は、電動アクチュエータ30の動作を制御することによりパーキングブレーキ14の作動および解除を制御する。状態記憶手段106は、パーキングブレーキ14の制御状態を記憶する。アクチュエータ制御手段102は、車両システムの起動時において状態記憶手段106に記憶されたパーキングブレーキ14の制御状態がパーキングブレーキ14の作動または解除の制御未完了を示す場合に、その未完了の制御を再開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パーキングブレーキ装置に関し、特に電動パーキングブレーキの動作を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両にはパーキングブレーキが搭載されている。パーキングブレーキの最も単純なものは、操作レバーを引くことによりワイヤを駆動して摩擦部材を動作させ、回転部材およびホイールを制動するものである。また、スイッチ操作などによりモータを駆動し、ワイヤの巻き上げや巻き戻しをする電動パーキングブレーキ装置も普及している。電動パーキングブレーキ装置は、運転者によるスイッチ操作などの意図的な操作に加え、車両状態を認識してなされる自動制御によってもブレーキ状態と非ブレーキ状態とを切り替えることができる。
【0003】
一方、電動パーキングブレーキ装置の動作における安全性をより高めるために、車両が所定の走行状態にある場合に電動パーキングブレーキにおける制動力の発生を制限する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−180270号公報
【特許文献2】特開平7−144623号公報
【特許文献3】特開平11−183193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動パーキングブレーキ装置を用いた制御は種々提案されているが、車両のインテリジェント化や操作の簡略化、自動化が進む一方で、一層の機能向上やより高い安全性の追求も要求されている。特に電動パーキングブレーキ装置が電気的に制御される特性上、電源電圧の低下といった不測の事態にも十分に備えておくことが望ましい。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両における電源電圧の低下といった不測の事態が生じた場合にもより適切に動作し得る電動パーキングブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の電動パーキングブレーキ装置は、制動要求があったときにパーキングブレーキを作動させる電動アクチュエータと、前記電動アクチュエータの動作を制御することにより前記パーキングブレーキの作動および解除を制御するアクチュエータ制御手段と、車両システムの起動時において前記パーキングブレーキの解除制御を規制する解除規制手段と、を備える。
【0007】
ここで「車両システムの起動」は、例えば車両に搭載された電子制御ユニットの起動であってもよく、例えば車両の動力源が始動される際に起動がなされてもよい。この態様によると、車両システムの起動時にパーキングブレーキが無条件に解除されることが回避されるので、勾配のある場所で車両システムが起動された途端に車両が動き出してしまうような事態が回避され、安全性を担保することができる。
【0008】
前記解除規制手段は、運転者によるブレーキ操作部材の操作状態を取得する操作状態取得部と、車両システムの起動時において前記ブレーキ操作部材が非操作状態であることが取得された場合に前記パーキングブレーキの解除制御を禁止する解除禁止制御部と、を有してもよい。ここでいう「ブレーキ操作部材」は、例えばフットブレーキペダルであり、フットブレーキペダルが踏まれた状態のときにだけパーキングブレーキの解除を許可してもよい。この態様によれば、ブレーキ操作部材が操作されていないときにはパーキングブレーキが解除されないので、車両システムが起動された途端に車両が動き出してしまうような事態が回避され、安全性を担保することができる。一方、ブレーキ操作部材が操作されてさえいれば電動パーキングブレーキ装置としての本来の制御が実行されるので、車両システム起動時にパーキングブレーキの解除を状況に応じて自動制御することも可能となる。
【0009】
前記パーキングブレーキの制御状態を記憶する状態記憶手段をさらに備えてもよい。前記アクチュエータ制御手段は、車両システムの起動時において前記状態記憶手段に記憶された前記パーキングブレーキの制御状態が前記パーキングブレーキの作動または解除の制御未完了を示す場合に、その未完了の制御を前記解除規制手段による規制の下で再開してもよい。ここでいう「状態記憶手段」は、例えばEEPROMのような不揮発性メモリであってもよい。この態様によれば、電動パーキングブレーキの制御途中に電源電圧が低下するといった不測の事態が生じても、その制御中であった制御内容を後から容易に認識することができる。したがって、中断された電動パーキングブレーキの制御を車両システム起動時に再開させることができ、電動パーキングブレーキの制御をより完全なかたちで実現することができる。
【0010】
前記解除規制手段は、前記パーキングブレーキの制御状態量を取得する制御状態量取得部と、車両システムの起動時において前記パーキングブレーキの制御状態量が所定範囲内にあった場合に前記パーキングブレーキが作動状態となるよう前記アクチュエータ制御手段により作動制御を実行させる状態規制部と、を含んでもよい。ここで「パーキングブレーキの制御状態量」は、例えばパーキングブレーキの制動力を生むためのケーブル張力といった、電源がオフにされても機械的に保持され得る物理量であってもよい。「所定範囲」は、例えばパーキングブレーキが正常な作動または解除の状態にあるとはいえない状態を示す制御状態量の範囲であってもよい。この態様においても、電動パーキングブレーキの制御途中に電源電圧が低下するといった不測の事態が生じた場合、車両システム起動時に電動パーキングブレーキを自動的に作動させることができ、電動パーキングブレーキをより適切に制御することができる。また、電動パーキングブレーキにおける制御中の内容を「状態記憶手段」に記憶させる態様と比べると、制御中の内容を記憶させる必要がないため、EEPROMなどのメモリ領域の消費を節約することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電動パーキングブレーキ装置によれば、電動パーキングブレーキの作動および解除をより適切に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1の実施の形態)
本実施の形態においては、電動パーキングブレーキの制御状態をEEPROMに記憶させておき、車両システムの起動時にEEPROMに記憶された制御状態に応じて電動パーキングブレーキを動作させるか否かを判定する。例えば、電動パーキングブレーキの制御途中で何らかの原因により電源電圧が低下してしまったような場合であっても、EEPROMには制御途中であることが記憶される。これにより、中断された電動パーキングブレーキの制御を車両システムの起動時に再開させることができ、より完全な制御を確保することができる。
【0013】
図1は、第1の実施の形態における車両10の全体構成図である。車両10には、左前輪12FL、右前輪12FR、左後輪12RL、右後輪12RR(以下、必要に応じて左前輪12FL、右前輪12FR、左後輪12RL、右後輪12RRを総じて「車輪12」と記載する。)が設けられており、左後輪12RLおよび右後輪12RRにはそれぞれ、左後輪パーキングブレーキ14Lおよび右後輪パーキングブレーキ14R(以下、必要に応じて左後輪パーキングブレーキ14Lおよび右後輪パーキングブレーキ14Rを総じて「パーキングブレーキ14」と記載する。)が設けられている。
【0014】
左後輪パーキングブレーキ14Lおよび右後輪パーキングブレーキ14Rは、それぞれケーブル48によって電動アクチュエータ30に接続されている。電動アクチュエータ30にはモータ32が設けられている。モータ32は、その駆動力によりケーブル48を引っ張り、左後輪パーキングブレーキ14Lおよび右後輪パーキングブレーキ14Rを作動させる。左後輪パーキングブレーキ14Lおよび右後輪パーキングブレーキ14Rのそれぞれは、ケーブル48が引っ張られることにより左後輪12RLおよび右後輪12RRのそれぞれを制動する。左後輪パーキングブレーキ14Lおよび右後輪パーキングブレーキ14Rに接続されるケーブル48のうち少なくともいずれかには、ケーブル48の張力を検出する張力センサ34が設けられている。
【0015】
車両10の室内には、イグニッションスイッチ16、パーキングブレーキ作動スイッチ18が設けられている。イグニッションスイッチ16が車両10の乗員によってオンオフ操作されることにより、車両10の電源がオンオフされる。
【0016】
車両10には、電動アクチュエータ30を制御する電子制御ユニット(以下、「ECU」と記載する。)100が設けられている。イグニッションスイッチ16が乗員によってオンオフ操作されることにより、ECU100に設けられているCPU(Central Processing Unit)の電源もオンオフされる。パーキングブレーキ作動スイッチ18が乗員によってオンオフ操作されることにより、パーキングブレーキ作動スイッチ18の入力情報がECU100に入力される。張力センサ34により検知されたケーブル48の張力データもまたECU100に入力される。
【0017】
ECU100は、パーキングブレーキ作動スイッチ18の入力情報に基づいて、パーキングブレーキ作動スイッチ18がオンされたのかオフされたのかを判定する。ECU100は、張力センサ34から入力を受けたケーブル48の張力データに基づいて、電動アクチュエータ30に設けられたモータ32に動作信号を入力する。モータ32は、電動アクチュエータ30を介してケーブル48を引っ張り、または引っ張りを解除することにより、パーキングブレーキ作動スイッチ18がオンオフ操作されたとおりにパーキングブレーキ14の作動および解除を動作させる。また、ECU100は、パーキングブレーキ14の制御指示信号を他のシステムから受け取った場合にも、パーキングブレーキ作動スイッチ18のオンオフと同様にパーキングブレーキ14を制御する。
【0018】
図2は、第1の実施の形態における電動パーキングブレーキ装置150の全体構成図である。電動パーキングブレーキ装置150は、電動アクチュエータ30、2本のケーブル48、ECU100に含まれるアクチュエータ制御手段102、ECU100に含まれる状態記憶手段106を備える。ケーブル48は、一端が電動アクチュエータ30に接続され、他端が車両10の車輪12に接続される。
【0019】
本実施の形態における電動パーキングブレーキ装置150は、左後輪12RLに設けられた左後輪パーキングブレーキ14Lと、右後輪12RRに設けられた右後輪パーキングブレーキ14Rとに接続されている。なお、変形例においては、パーキングブレーキ14が電動パーキングブレーキ装置150の構成の一部として含まれるものとして電動パーキングブレーキ装置150の概念を定義してもよい。
【0020】
左後輪パーキングブレーキ14Lおよび右後輪パーキングブレーキ14Rには、ドラムブレーキが採用されている。左後輪パーキングブレーキ14Lおよび右後輪パーキングブレーキ14Rは、車輪12に固着されて車輪12とともに回転する筒状のブレーキドラム50と、ブレーキドラム50の内部に配置される一対のブレーキシュー51と、ブレーキシュー51に固着されてブレーキドラム50に押接されることにより車輪12に制動力を与えるライニング52と、を有する。
【0021】
ブレーキドラム50の内部に配置された一対のブレーキシュー51の一方には、ブレーキシューレバー53がレバーピンにより取り付けられている。ブレーキシューレバー53には、ケーブル48の一端が接続される。ブレーキシューレバー53は、シューストラット54を介して他方のブレーキシュー51に接続されている。ケーブル48が電動アクチュエータ30により引っ張られると、ブレーキシューレバー53およびシューストラット54により一対のブレーキシュー51が拡開され、ライニング52がブレーキドラム50の内周面に押接されることにより車輪12に制動力が与えられる。
【0022】
電動アクチュエータ30は、モータ32と、モータ32により駆動されるボールネジ40と、バランサ44とを有する。モータ32に制動要求としての動作信号が入力されると、モータ32が作動し、モータ32の駆動軸に固定された第1ギア36が回転する。第1ギア36は第2ギア38に噛合しており、第2ギア38はボールネジ部を有するボールネジ40に固定されている。これにより、第1ギア36が回転することにより、第2ギア38を介してボールネジ40が回転する。
【0023】
ボールネジ40のボールネジ部には、内周面にギア部が形成された螺合部材42が螺合している。螺合部材42は、ボールネジ40が回転することによりボールネジ40の軸方向に移動する。螺合部材42には、回動軸46を介してバランサ44が、回動軸46を中心に回動可能となるように取り付けられている。バランサ44の両端には、パーキングブレーキ14に接続されたケーブル48がそれぞれ接続される。ボールネジ40が回転すると、螺合部材42がボールネジ40の軸方向に移動し、ケーブル48を引っ張りまたは引っ張りを緩めることにより、パーキングブレーキ14の作動または解除がなされる。このとき、バランサ44が螺合部材42に回動可能に取り付けられていることから、2本のケーブル48の張力の差はバランサ44が回動することにより吸収される。この結果、モータ32の駆動力により、2本のケーブル48は同じ張力により引っ張られ、左後輪12RLおよび右後輪12RRに均等な制動力が与えられる。
【0024】
電動アクチュエータ30の内部には、ケーブル48の張力を検出する張力センサ34が設けられる。ケーブル48の張力は、パーキングブレーキ14の制御状態量を示す。張力センサ34は、バランサ44とパーキングブレーキ14の間に設けられる。張力センサ34は、2本のケーブル48が均等な張力で引っ張られた状態にてその張力を検出することができるので、張力を精度よく検出することができる。張力センサ34はECU100に接続されており、張力センサ34によって検知されたケーブル48の張力データがECU100に入力される。ケーブル48の張力は電力供給の有無にかかわらず機械的に維持されるので、電動アクチュエータ30への電力供給が遮断されたときであってもそのまま維持される。
【0025】
ECU100は、モータ32に動作信号を出力してモータ32の駆動を制御するアクチュエータ制御手段102を含む。アクチュエータ制御手段102は、パーキングブレーキ作動スイッチ18のオンオフ操作に応じてモータ32へ動作信号を出力することにより、パーキングブレーキ14の作動および解除を制御する。また、アクチュエータ制御手段102は、パーキングブレーキ14の制御指示信号を他のシステムから受け取った場合にも、パーキングブレーキ作動スイッチ18のオンオフ操作と同様にパーキングブレーキ14の作動および解除を制御する。アクチュエータ制御手段102は、パーキングブレーキ14を作動させる場合には、張力センサ34からフィードバックされる張力データが「正常作動」といえる範囲の制御目標値に上がるまでモータ32へ正転の動作信号を出力する。アクチュエータ制御手段102は、パーキングブレーキ14を解除させる場合には、張力センサ34からフィードバックされる張力データが「正常解除」といえる範囲の制御目標値に下がるまでモータ32へ逆転の動作信号を出力する。「正常作動」といえる制御目標値および「正常解除」といえる制御目標値は、車両10が置かれた状態、例えば車両10が駐車された場所における勾配の大きさに応じて決定される。アクチュエータ制御手段102は、駐車場所の勾配データを、図示しない加速度センサから取得するとともに、勾配値と張力の対応関係が定められたテーブルを参照して必要な張力としての制御目標値を決定する。このように勾配の大きさに応じて張力の制御目標値が決定されるので、必要以上の張力発生を抑制でき、パーキングブレーキ14やケーブル48の耐久性を維持することができる。
【0026】
ECU100は、パーキングブレーキ14の制御状態を記憶する状態記憶手段106をさらに含む。状態記憶手段106は例えばEEPROMなどの不揮発メモリで構成される。アクチュエータ制御手段102は、パーキングブレーキ14を作動制御するときは状態記憶手段106に「パーキングブレーキ作動制御未完了」を示すフラグをオンし、パーキングブレーキ14を解除制御するときは状態記憶手段106に「パーキングブレーキ解除制御未完了」を示すフラグをオンする。
【0027】
アクチュエータ制御手段102は、車両システムの起動時において状態記憶手段106に記憶されたパーキングブレーキ14の制御状態を読み出す。アクチュエータ制御手段102は、状態記憶手段106に記憶されたパーキングブレーキ14の制御状態がパーキングブレーキ14の作動または解除の制御未完了を示す場合にその未完了である制御を再開する。例えば、パーキングブレーキ14の作動制御中や解除制御中にECU100の電源がオフになるといった原因で制御が中断されてしまったような不測の事態が生じても、制御中の内容が状態記憶手段106に記憶されることとなる。ECU100の電源がオフになる原因としては、例えばエンジンのクランキング時に生じ得るバッテリ電圧の低下や、故意にバッテリが外されるといった正常でない状況が考えられる。アクチュエータ制御手段102は、未完了であったパーキングブレーキ14の作動または解除の制御を再開した場合、その完了時に状態記憶手段106に記憶させていた「パーキングブレーキ作動制御未完了」または「パーキングブレーキ解除制御未完了」を示すフラグをオフする。
【0028】
図3は、第1の実施の形態のシステム起動時におけるパーキングブレーキ14の制御手順を示すフローチャートである。まず、ECU100が起動されると(S10)、アクチュエータ制御手段102は状態記憶手段106からパーキングブレーキ14の制御状態を読み出し(S12)、パーキングブレーキ14の制御状態として作動制御未完了を示すフラグがオンになっていた場合はS16へ移行し(S14のY)、作動制御未完了を示すフラグはオフであるが(S14のN)、解除制御未完了を示すフラグがオンになっていた場合はS24へ移行する(S22のY)。解除制御未完了を示すフラグがオフになっていた場合はS24以降の処理をスキップする(S22のN)。
【0029】
S16からS20までの過程はシステム起動時以外にも実行される通常のパーキングブレーキ14の作動制御を示すものであり、システム起動時を示す本図のフローにおいても、特に状態記憶手段106の記憶状態如何を問わず通常のパーキングブレーキ14の作動制御を実行するものとする。まず、パーキングブレーキ14の作動制御開始に先立ち、アクチュエータ制御手段102は状態記憶手段106における作動制御未完了を示すフラグをオンにする書込を実行し(S16)、アクチュエータ制御手段102がモータ32を駆動させてパーキングブレーキ14の作動制御を実行し(S18)、作動制御が完了し次第、状態記憶手段106における作動制御未完了を示すフラグをオフにする(S20)。なお、通常のパーキングブレーキ14の作動制御の過程も含め、S18の途中で電源電圧の低下などによりECU100のリセットが生じた場合、S20は実行されず、S16で書き込まれた作動制御未完了フラグがオンのまま状態記憶手段106に記憶されることとなる。これにより、次のシステム起動時に作動制御未完了フラグが読み出され、未完了であったパーキングブレーキ14の作動制御が再開されることとなる。
【0030】
S24からS28までの過程はシステム起動時以外にも実行される通常のパーキングブレーキ14の解除制御を示すものであり、システム起動時を示す本図のフローにおいても、特に状態記憶手段106の記憶状態如何を問わず通常のパーキングブレーキ14の解除制御を実行するものとする。まず、パーキングブレーキ14の解除制御開始に先立ち、アクチュエータ制御手段102は状態記憶手段106における解除制御未完了を示すフラグをオンにする書込を実行し(S24)、アクチュエータ制御手段102がモータ32を駆動させてパーキングブレーキ14の解除制御を実行し(S26)、解除制御が完了し次第、状態記憶手段106における解除制御未完了を示すフラグをオフにする(S28)。なお、通常のパーキングブレーキ14の解除制御の過程も含め、S24の途中で電源電圧の低下などによりECU100のリセットが生じた場合、S28は実行されず、S24で書き込まれた解除制御未完了フラグがオンのまま状態記憶手段106に記憶されることとなる。これにより、次のシステム起動時に解除制御未完了フラグが読み出され、未完了であったパーキングブレーキ14の解除制御が再開されることとなる。
【0031】
以上、本実施の形態における電動パーキングブレーキ装置150は、システム起動時においてパーキングブレーキ14をより適切なかたちで制御する。ここで、従来はパーキングブレーキ14の制御途中で不測の電圧低下が生じたとしても、電源復帰時のパーキングブレーキ14の状態を「作動状態」と「解除状態」のいずれかに切り分け、実際の状態とは裏腹にパーキングブレーキ14の作動状態を示すインジケータを点灯または消灯せざるを得なかった。したがって、実際には十分な制動力が働いていないにもかかわらずパーキングブレーキ14の作動を示すインジケータを点灯させるといった状況が考えられた。本実施の形態によれば、パーキングブレーキ14の制御中に不測の電圧低下により制御が中断されてしまっても、次のECU100の起動時に制御を再開できるので、パーキングブレーキ14をより完全な状態へ制御することができる。また、パーキングブレーキ14を完全な作動状態または解除状態にした上でインジケータの点灯または消灯をすることができる。
【0032】
(第2の実施の形態)
本実施の形態におけるアクチュエータ制御手段102は、以下に説明する解除規制手段による規制の下でパーキングブレーキ14の制御を再開する点で第1の実施の形態におけるアクチュエータ制御手段102と制御内容が異なる。以下、第1の実施の形態との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略する。
【0033】
図4は、第2の実施の形態における車両10の全体構成図である。本実施の形態における電動パーキングブレーキ装置は、運転者によるブレーキ操作部材の操作状態をECU100がブレーキ検出手段20から取得する点を除いて第1の実施の形態における電動パーキングブレーキ装置と同様の構成および機能を有する。ブレーキ操作部材の操作状態は、運転者によりフットブレーキペダルが踏まれた状態を示す。ブレーキ検出手段20は、ブレーキ操作部材が操作されたかどうかを、図示しないブレーキランプの電圧を測定することで検出してもよいし、フットブレーキの動作を監視するECUから取得される情報に基づいて検出してもよい。
【0034】
図5は、第2の実施の形態における電動パーキングブレーキ装置152の全体構成図である。本実施の形態における電動パーキングブレーキ装置152は、ECU100内に解除規制手段104を含む点を除いて第1の実施の形態における電動パーキングブレーキ装置150と同様の構成および機能を有する。解除規制手段104は、車両システムの起動時においてパーキングブレーキ14の解除制御を規制する。解除規制手段104は、運転者によるブレーキ操作部材の操作状態をブレーキ検出手段20から取得する操作状態取得部110と、車両システムの起動時においてブレーキ操作部材が非操作状態であることが取得された場合にパーキングブレーキ14の解除制御を禁止する解除禁止制御部112とを含む。アクチュエータ制御手段102は、解除禁止制御部112によりパーキングブレーキ14の解除制御禁止が指示される間はモータ32の駆動制御を実行しない。すなわち、アクチュエータ制御手段102は、解除禁止制御部112により解除制御禁止が指示されていない場合に限って、システム起動時におけるパーキングブレーキ14の解除制御再開を実行することができる。
【0035】
図6は、第2の実施の形態のシステム起動時におけるパーキングブレーキ14の制御手順を示すフローチャートである。本図のフローは、S44を除いて第1の実施の形態における図3のフローと同様である。すなわち、本図のS30からS42は図3のS10からS22と同様であり、本図のS46からS50は図3のS24からS28と同様である。
【0036】
S42において状態記憶手段106に記憶された解除制御未完了を示すフラグがオンであった場合(S42のY)、ブレーキ操作部材が操作されていた場合に限りS46以降の解除制御を実行し(S44のY)、ブレーキ操作部材が操作されていなければS46以降の解除制御をスキップする(S44のN)。
【0037】
本実施の形態によれば、システム起動時にブレーキ操作部材が操作されていなければパーキングブレーキ14が自動解除されない。したがって、たとえシステム起動時に状態記憶手段106においてパーキングブレーキ14の解除制御未完了を示すフラグがオンになっていたとしても、システムが起動された途端に車両が動き出してしまうような事態が回避され、安全性を担保することができる。一方、システム起動時にブレーキ操作部材が操作されてさえいれば、未完了であったパーキングブレーキ14の解除制御が自動的に再開されるので、電動パーキングブレーキをより完全なかたちで制御することができる。
【0038】
(第3の実施の形態)
本実施の形態における電動パーキングブレーキ装置は、解除規制手段による規制手順が第2の実施の形態における電動パーキングブレーキ装置と異なる。以下、第2の実施の形態との相違点を中心に説明し、第1および第2の実施の形態と共通する事項の説明を省略する。
【0039】
図7は、第3の実施の形態における電動パーキングブレーキ装置154の全体構成図である。本実施の形態における電動パーキングブレーキ装置154は、アクチュエータ制御手段102が張力センサ34から受け取る張力データに基づいてモータ32の駆動を制御する点で第2の実施の形態における電動パーキングブレーキ装置152と異なる。
【0040】
本実施の形態における解除規制手段104は、パーキングブレーキ14の制御状態量を取得する制御状態量取得部114と、車両システムの起動時においてパーキングブレーキ14の制御状態量に応じてアクチュエータ制御手段102によるパーキングブレーキ14の制御を規制する状態規制部116とを含む。
【0041】
制御状態量取得部114は、パーキングブレーキ14の制御状態量として、張力センサ34から張力データを取得する。状態規制部116は、システム起動時においてパーキングブレーキ14の制御状態量が正常範囲以外の範囲にあった場合にパーキングブレーキ14の制御状態量が正常範囲に収まるよう、アクチュエータ制御手段102を介してパーキングブレーキ14の作動制御を実行させる。パーキングブレーキ14の制御状態量が正常といえる範囲は、車両10が駐車された場所の勾配の大きさに応じて決定される。
【0042】
図8は、パーキングブレーキ14の制御状態量の範囲を模式的に示す。図示する通り、パーキングブレーキ14の制御状態量の大きさが「正常範囲」または「異常範囲」にあるかどうかにより、パーキングブレーキ14の制御状態を判定する。例えば、状態規制部116は、パーキングブレーキ14の制御状態量が正常作動範囲120に属する値であれば、パーキングブレーキ14は完全に作動している状態であると判定する。状態規制部116は、パーキングブレーキ14の制御状態量が正常解除範囲124に属する値であれば、パーキングブレーキ14は完全に解除された状態であると判定する。状態規制部116は、パーキングブレーキ14の制御状態量が正常作動範囲120にも正常解除範囲124にも属さない値、すなわち異常範囲122に属する値であれば、パーキングブレーキ14の作動制御または解除制御が未完了であると判定する。
【0043】
ここで、パーキングブレーキ14の制御状態量が異常範囲122に属していたとしても、それがパーキングブレーキ14の作動制御未完了を示すのか解除制御未完了を示すのかは判別されない。そこで、本実施の形態における状態規制部116は、パーキングブレーキ14の制御状態量が異常範囲122に属していれば一律にパーキングブレーキ14の制御再開を作動制御の再開として実行する。これにより、パーキングブレーキ14の制御不完全な状態が解消されるだけでなく、不用意にパーキングブレーキ14を自動解除することによる車両10の不意の動き出しを防止することもできる。
【0044】
図9は、第3の実施の形態のシステム起動時におけるパーキングブレーキ14の制御手順を示すフローチャートである。まず、ECU100が起動されると(S60)、アクチュエータ制御手段102は張力センサ34から取得する張力データに基づいて電動アクチュエータ30の制御目標値を決定する(S62)。張力センサ34から取得する張力データが正常作動範囲120にも正常解除範囲124にも属しない場合(S64のN)、状態規制部116はパーキングブレーキ14の制御が未完了の状態にあると判定し、アクチュエータ制御手段102を介してパーキングブレーキ14を作動制御する(S66)。S64において張力センサ34から取得する張力データが正常作動範囲120または正常解除範囲124に属する場合はS66をスキップする(S64のY)。
【0045】
本実施の形態によれば、パーキングブレーキ14の制御途中に電源電圧が低下するといった不測の事態が生じた場合、システム起動時にパーキングブレーキ14を自動的に作動させることができる。これにより、他の実施の形態と同様、パーキングブレーキ14をより適切に制御することができる。また、第1および第2の実施の形態と比べて、パーキングブレーキ14の制御中の内容を状態記憶手段106のような不揮発メモリに記憶させる必要がないため、メモリ領域の消費を節約することができる。また、システム起動時にパーキングブレーキ14の自動解除を回避するので、車両10の不意の動き出しを防止することができ、安全性を担保することができる。
【0046】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれ得る。
【0047】
第2の実施の形態においては、システム起動時にブレーキ操作部材が操作されているか否かに応じてパーキングブレーキ14の解除制御を規制する例を説明した。また、第3の実施の形態においては、システム起動時におけるパーキングブレーキ14の制御状態量に応じてパーキングブレーキ14の解除制御を規制する例を説明した。これらの変形例においては、第2、3の実施の形態で説明した方法以外の方法にて、パーキングブレーキ14の解除制御を規制してもよい。そうした解除規制手段を第1の実施の形態に加えるかたちで本発明の電動パーキングブレーキ装置を実現してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第1の実施の形態における車両の全体構成図である。
【図2】第1の実施の形態における電動パーキングブレーキ装置の全体構成図である。
【図3】第1の実施の形態のシステム起動時におけるパーキングブレーキの制御手順を示すフローチャートである。
【図4】第2の実施の形態における車両の全体構成図である。
【図5】第2の実施の形態における電動パーキングブレーキ装置の全体構成図である。
【図6】第2の実施の形態のシステム起動時におけるパーキングブレーキの制御手順を示すフローチャートである。
【図7】第3の実施の形態における電動パーキングブレーキ装置の全体構成図である。
【図8】パーキングブレーキの制御状態量の範囲を模式的に示す。
【図9】第3の実施の形態のシステム起動時におけるパーキングブレーキの制御手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
10 車両、 12 車輪、 14 パーキングブレーキ、 20 ブレーキ検出手段、 30 電動アクチュエータ、 32 モータ、 34 張力センサ、 100 ECU、 102 アクチュエータ制御手段、 104 解除規制手段、 106 状態記憶手段、 110 操作状態取得部、 112 解除禁止制御部、 114 制御状態量取得部、 116 状態規制部、 150 電動パーキングブレーキ装置、 152 電動パーキングブレーキ装置、 154 電動パーキングブレーキ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動要求があったときにパーキングブレーキを作動させる電動アクチュエータと、
前記電動アクチュエータの動作を制御することにより前記パーキングブレーキの作動および解除を制御するアクチュエータ制御手段と、
車両システムの起動時において前記パーキングブレーキの解除制御を規制する解除規制手段と、
を備えることを特徴とする電動パーキングブレーキ装置。
【請求項2】
前記解除規制手段は、
運転者によるブレーキ操作部材の操作状態を取得する操作状態取得部と、
車両システムの起動時において前記ブレーキ操作部材が非操作状態であることが取得された場合に前記パーキングブレーキの解除制御を禁止する解除禁止制御部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキ装置。
【請求項3】
前記パーキングブレーキの制御状態を記憶する状態記憶手段をさらに備え、
前記アクチュエータ制御手段は、車両システムの起動時において前記状態記憶手段に記憶された前記パーキングブレーキの制御状態が前記パーキングブレーキの作動または解除の制御未完了を示す場合に、その未完了の制御を前記解除規制手段による規制の下で再開することを特徴とする請求項1または2に記載の電動パーキングブレーキ装置。
【請求項4】
前記解除規制手段は、
前記パーキングブレーキの制御状態量を取得する制御状態量取得部と、
車両システムの起動時において前記パーキングブレーキの制御状態量が所定範囲内にあった場合に前記パーキングブレーキが作動状態となるよう前記アクチュエータ制御手段により作動制御を実行させる状態規制部と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−216896(P2007−216896A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41576(P2006−41576)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】