電動ブレーキ装置および電動ブレーキ装置の制御方法
【課題】 トルクに寄与しない電流を流さずに高応答性が要求される状況でのモータ回転数の向上と、高応答性が要求されない状況での静粛性の確保との両立を図ることができる電動ブレーキ装置および電動ブレーキ装置の制御方法を提供する。
【解決手段】 ステップS6で急増圧要求があると判断され、ステップS7で出力電圧指令が正弦波出力可能電圧よりも高いと判断され、ステップS9でモータ回転速度が大であると判断された場合には、180度矩形波駆動によりモータを駆動し、それ以外の場合には、正弦波駆動によりモータを駆動する。
【解決手段】 ステップS6で急増圧要求があると判断され、ステップS7で出力電圧指令が正弦波出力可能電圧よりも高いと判断され、ステップS9でモータ回転速度が大であると判断された場合には、180度矩形波駆動によりモータを駆動し、それ以外の場合には、正弦波駆動によりモータを駆動する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータの駆動により制動力を発生する電動ブレーキ装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動ブレーキ装置では、必要に応じてモータトルクを低下させることなく、モータ回転数を高めるために、モータのダイナミクスに影響を与えるモータの電磁界の部分を弱める制御を行っている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特表2002−537170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術にあっては、モータ回転数を重視した正弦波駆動によりモータトルクに寄与しない電流を流しているため、モータ効率の低下を伴い、また、電流増による発熱が問題であった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、トルクに寄与しない電流を流さずに高応答性が要求される状況でのモータ回転数の向上と、高応答性が要求されない状況での静粛性の確保との両立を図ることができる電動ブレーキ装置および電動ブレーキ装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、演算された制動要求が所定のポンプ吐出流量を必要とする増圧勾配より大きい時にはブラシレスモータの各相に第1の波形電圧を印加し、所定の増圧勾配より小さい時には第2の波形電圧を印加する。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、トルクに寄与しない電流を流さずに高応答性が要求される状況でのモータ回転数の向上と、高応答性が要求されない状況での静粛性の確保との両立を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の電動ブレーキ装置および電動ブレーキ装置の制御方法を実現するための最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
[システム構成]
図1は実施例1の電動ブレーキ装置を適用した4輪ブレーキバイワイヤシステムのシステム構成図、図2は油圧制御装置CUの油圧回路図である。
【0009】
実施例1の4輪ブレーキバイワイヤシステムでは、4輪全輪のホイルシリンダW/C(FL〜RR)が1つのポンプMain/Pによって増圧される。マスタシリンダM/Cはいわゆるタンデム型であり、マニュアル回路A(FL),A(FR)によってFL,FR輪ホイルシリンダW/C(FL,FR)に接続されている。
【0010】
マスタシリンダM/CはリザーバRSVと接続し、各電磁弁はコントロールユニットECUにより駆動される。液圧源であるポンプは常用のメインポンプMain/Pと非常用のサブポンプSub/Pが並列に設けられている。
【0011】
メインポンプMain/Pは双方向ポンプ、サブポンプSub/Pは一方向ポンプであり、それぞれコントロールユニットECUからの指令に基づきメインモータMain/MおよびサブモータSub/Mによって駆動される。実施例1では、メインポンプMain/Pとしてギヤポンプを用い、メインモータMain/Mとして3相ブラシレスモータを用いている。
【0012】
マニュアル回路A(FL),A(FR)上には常開電磁弁(ON/OFF弁)であるシャットオフバルブS.OFF/V(FL,FR)が設けられ、それぞれ第1、第2マスタシリンダM/C,M/C2とFL,FR輪ホイルシリンダW/C(FL,FR)を連通/遮断する。
【0013】
マニュアル回路A(FL)上であって第1マスタシリンダM/CとシャットオフバルブS.OFF/V(FL)の間にはストロークシミュレータS/Simが設けられている。このストロークシミュレータS/Simは常閉電磁弁(ON/OFF弁)であるキャンセルバルブCan/Vを介してマニュアル回路A(FL)に接続する。
【0014】
FLシャットオフバルブS.OFF/V(FL)が閉弁され、キャンセルバルブCan/Vが開弁されている際、ブレーキペダルBPの踏み込みに伴って第1マスタシリンダM/C内の作動油がストロークシミュレータS/Simに導入され、ペダルストロークを確保する。
【0015】
メインおよびサブポンプMain/P,Sub/Pの吐出側は増圧回路Cに接続し、接続点I(FL〜RR)において各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)に接続する。一方、各ポンプMain/P,Sub/Pの吸入側は減圧回路Bと接続される。
【0016】
この増圧回路C上には常閉電磁弁(比例弁)であるインバルブIN/V(FL〜RR)が設けられ、各ポンプMain/P,Sub/Pと各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)の連通/遮断を切り替える。
【0017】
また、各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)は接続点I(FL〜RR)において減圧回路Bと接続する。この減圧回路B上には常閉電磁弁(比例弁)であるアウトバルブOUT/V(FL〜RR)が設けられ、各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)とリザーバRSVとの連通/遮断を切り替える。
【0018】
各ポンプMain/P,Sub/Pの吐出側にはそれぞれチェック弁C/Vが設けられ、ポンプPを介して増圧回路Cから減圧回路Bへ作動油が逆流することを回避する。さらに、増圧回路Cと減圧回路Bとはリリーフ弁Ref/Vを介して接続され、増圧回路Cの圧力が規定値以上となった場合に作動油を減圧回路Bに逃がす。
【0019】
マニュアル回路A(FL),A(FR)上であってシャットオフバルブS.OFF/V(FL,FR)とマスタシリンダM/Cとの間、にはそれぞれ第1,第2マスタシリンダ圧センサMC/Sen1,2が設けられ、各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)には液圧センサWC/Sen(FL〜RR)が設けられている。
【0020】
コントロールユニットECUには検出された第1,第2マスタシリンダ圧Pm1,Pm2および各液圧P(FL〜RR)、およびブレーキペダルBPのストロークを検出するストロークセンサS/Senの検出値が入力される。
【0021】
これらの検出値に基づき、コントロールユニットECUは各輪FL〜RRの目標液圧P*(FL〜RR)を演算し、油圧制御装置CUを駆動し、ホイルシリンダW/C(FL〜RR)の液圧を制御する。
【0022】
また、コントロールユニットECUは各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)の目標液圧P*(FL〜RR)と実液圧P(FL〜RR)の比較を行い、目標液圧に対して実液圧が異常な応答を示した場合は異常信号をワーニングランプWLへ出力する。加えて、コントロールユニットECUには車輪速VSPが入力され、車両の走行/停止を判断する。
【0023】
次に、コントロールユニットECUの構成について説明する。
図3は、コントロールユニットECUの内部構成を示す図であって、コントロールユニットECUは、例えば、エンジンルーム内に配置されている。このコントロールユニットECUは、データ信号線を介して4輪ブレーキバイワイヤシステムの状態、例えばブレーキ液圧の現在値や動作モード現在値の情報等をCAN通信1により受信する。
【0024】
このように4輪ブレーキバイワイヤシステムの状態を監視しながら、ペダル操作量または車両挙動制御処理の結果として得られる制動力目標値に応じた適切な制御信号をCPU2によって演算し、データ信号線を介して制御信号をアクチュエータ制御装置3に送信し、ブレーキバイワイヤシステムを適切に動作させる。また、システム失陥時には、フェールセーフ等の制御も行う。
【0025】
次に、実施例1の4輪ブレーキバイワイヤシステムの各動作モードについて説明する。
(増圧モード)
通常の増圧モードでは、キャンセルバルブCan/Vを開弁、シャットオフバルブS.OFF/V(FL,FR)を遮断して運転者によるブレーキペダルBPの踏み込みをストロークセンサS/Senにより検出し、この検出値に基づきコントロールユニットCUにおいて各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)の目標液圧P*(FL〜RR)を演算する。
【0026】
また、コントロールユニットECUはモータMによりメインモータMain/MまたはサブモータSub/Mを駆動して吐出圧を増圧回路Cに作用させる。さらに演算された目標液圧P*(FL〜RR)に応じて各インバルブIN/V(FL〜RR)を駆動し、各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)に作動油を供給して制動力を得る。
【0027】
(減圧モード)
減圧モードでは、コントロールユニットECUにより各アウトバルブOUT/V(FL〜RR)を駆動し、減圧回路Bを介して各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)からリザーバRSVへ作動油を排出する。
【0028】
(保持モード)
保持モードでは、各インバルブIN/V(FL〜RR)、各アウトバルブOUT/V(FL〜RR)を閉弁し、各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)と増圧、減圧回路C,Bとを遮断する。
【0029】
(マニュアルブレーキ)
システム失陥時には、常開のシャットオフバルブS.OFF/V(FL,FR)が開弁され、常閉の各インバルブIN/V(FL〜RR)およびアウトバルブOUT/V(FL〜RR)が閉弁される。これによりマスタシリンダM/CとFL,FR輪ホイルシリンダ(FL,FR)が連通し、マニュアルブレーキが確保される。
【0030】
図4は、コントロールユニットECUにおける制動制御処理の制御ブロック図である。
摩擦/回生制動力配分ブロック6では、運転者4によるブレーキペダルBPのペダル操作量、およびABS(Antilock Brake System),TCS(Traction Control System),VDC(Vehicle Dynamics Control),前方車追従制御,前方衝突回避ブレーキ制御等の自動ブレーキ制御作動時(車両制御ブロック5)による液圧指令を、4輪ブレーキバイワイヤシステムへの液圧指令と回生ブレーキRB(図1参照)への制動力指令とに分配する。
【0031】
液圧サーボブロック7は、油圧制御装置CUに対し、実制動力を制動力要求(液圧指令)に一致させる各バルブ、メインモータMain/M(以下、単にモータMと称す。)の駆動信号を出力する。油圧制御CUでは、駆動信号に従って動作することで、ホイルシリンダW/C(FL〜RR)にブレーキ液圧が発生する。このブレーキ液圧によってブレーキパッドで各ディスクロータを挟むように押圧することで車両9に制動力を発生させる。
【0032】
ここで、摩擦/回生制動力配分ブロック6では、4輪ブレーキバイワイヤシステムへの液圧指令が、急増圧要求であるか否かを判断し、急増圧要求である場合には、急増圧フラグをセット、急増圧要求でない場合には急増圧フラグをリセットする。液圧サーボブロック7では、急増圧フラグその他の条件に基づいて、モータMの各相に印加する電圧波形を異ならせる印加電圧切り替え制御を実施する。
【0033】
図5は、コントロールユニットECUにおける印加電圧切り替え制御の制御ブロック図であり、コントロールユニットECUは、制動要求演算部11と、電圧指令値判断部12と、回転速度検出部13と、180度矩形波駆動部(第1波形駆動部)14と、正弦波駆動部(第2波形駆動部)15と、印加電圧切り替え部16と、を有している。
【0034】
制動要求演算部11は、車両の状態に応じて4輪ブレーキバイワイヤシステムへの制動要求を演算する。
電圧指令値判断部12は、モータMの出力電圧指令値が正弦波電圧の出力可能電圧か否かを判断する。
回転速度検出部13は、モータMの回転速度を検出する。
【0035】
180度矩形波駆動部14は、制動要求に基づいて、モータMの各相に180度矩形波電圧(第1の波形電圧)を印加する180度矩形波駆動制御処理を実行する。
正弦波駆動部15は、制動要求に基づいて、モータMの各相に正弦波電圧(第2の波形電圧)を印加する、すなわちモータMの相電流が正弦波状となるように電圧を印加する正弦波駆動制御処理を実行する。
【0036】
印加電圧切り替え部16は、制動要求、モータMの出力電圧指令値および回転速度に基づいて、モータMの駆動方式を180度矩形波駆動制御と正弦波駆動制御との間で切り替える。180度矩形波駆動制御が選択された場合、モータMに印加する電圧を制御するインバータ17は、180度矩形波駆動部14により制御され、正弦波駆動制御が選択された場合、インバータ17は、正弦波駆動部15により制御される。
【0037】
図6は、インバータ回路17の構成を示す図である。このインバータ回路17は、6つのFET(電界効果トランジスタ)と、6つの還流用ダイオードから構成され、アクチュエータ制御装置3の出力に応じてバッテリ電圧EdをモータMに供給する。なお、モータMには、モータMの磁極位置を検出する磁極位置検出器18が設けられている。
【0038】
[印加電圧切り替え制御処理]
図7は、実施例1のコントロールユニットECUで実行される印加電圧切り替え制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0039】
ステップS1では、制動要求演算部11において、バッテリ電圧値Bdを読み込み、ステップS2へ移行する。
【0040】
ステップS2では、制動要求演算部11において、モータトルク指令値T*を読み込み、ステップS3へ移行する。
【0041】
ステップS3では、制動要求演算部11において、モータ回転子位置θeを読み込み、ステップS4へ移行する。
【0042】
ステップS4では、回転速度検出部13において、モータMの回転速度として、モータ回転速度の実測値ωeを読み込み、ステップS5へ移行する。
【0043】
ステップS5では、制動要求演算部11において、後述する電流制御電圧指令値演算処理を実行し、ステップS6へ移行する。
【0044】
ステップS6では、印加電圧切り替え部16において、急増圧要求時であるか否かを、急増圧フラグに基づいて判断する。YESの場合にはステップS7へ移行し、NOの場合にはステップS11へ移行する。
【0045】
ここで、急増圧フラグは、制動要求演算部11において、ステップS2で読み込んだモータトルク指令値T*に応じたホイルシリンダW/Cの流量指令が、正弦波電圧制御で出力可能な流量以下である場合、急増圧フラグをリセット(Lowレベル信号出力)し、流量指令が正弦波電圧制御で出力可能な流量を超えた場合、急増圧フラグをセット(Highレベル信号出力)する。
【0046】
ステップS7では、電圧指令値判断部12において、出力電圧指令(出力電圧指令ベクトルの大きさ||Vdq*||)が正弦波出力可能電圧Vsin_maxを超えているか否かを判断する。YESの場合にはステップS8へ移行し、NOの場合にはステップS11へ移行する。出力電圧指令ベクトルの大きさ||Vdq*||の算出方法については後述する。
正弦波出力可能電圧Vsin_maxは、下記の式で表される。
【数1】
ただし、Tsinは正弦波駆動制御一周期、Td_sinは正弦波駆動におけるデッドタイムである。ここで、「デッドタイム」とは、インバータ回路17を構成する上流と下流の半導体スイッチを共にオフする期間をいう。すなわち、電源電圧値から前記インバータ回路17を動作させる場合に回路短絡を防止するために付与される時間であり、その間、電圧降下を発生する。
なお、Vsin_maxは||Vdq*||と比較するために、座標変換による絶対変換係数が含まれている。また、Tsinは正弦波駆動で印加する電圧基本周期に対して十分に短い必要がある。
【0047】
ステップS8では、印加電圧切り替え部16において、電源電圧値Edおよびモータトルク指令値T*から、図12に示すマップを用いて、正弦波駆動から180度矩形波駆動へ切り替える際の移行期間における印加電圧切り替え速度ωchを演算し、ステップS9へ移行する。図12のマップにおいて、印加電圧切り替え速度ωchは、電源電圧値Edが低いほど小さくなるように、また、モータトルク指令値T*が大きいほど小さくなるように設定されている。
【0048】
ステップS9では、印加電圧切り替え部16において、モータ回転速度ωeが印加電圧切り替え速度(所定の回転速度)ωchよりも大きいか否かを判断する。すなわち、誘導起電圧によってトルクに付与する電流を制御するための電圧余裕が十分に確保できなくなる速度か否かを判断する。YESの場合にはステップS10へ移行し、NOの場合にはステップS11へ移行する。なお、モータ回転速度は、実測以外にも種々の方法で求めることができる。
【0049】
ステップS10では、印加電圧切り替え部16において、180度矩形波駆動部14をインバータ17に接続すると共に、180度矩形波駆動部14では、モータMの各相に180度矩形波の電圧を印可する180度矩形波駆動制御処理を実行し、本制御を終了する。180度矩形波駆制御処理の詳細については後述する。
【0050】
ステップS11では、印加電圧切り替え部16において、正弦波駆動部15をインバータ17に接続すると共に、正弦波駆動部15では、モータMの相電流が正弦波状となるように電圧を印加する正弦波駆動制御処理を実行し、本制御を終了する。正弦波駆動制御処理の詳細については後述する。
【0051】
[電流制御電圧指令値演算処理]
図8は、ステップS5の電流制御電圧指令値演算処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0052】
ステップS51では、後述する電流指令演算処理を実行し、ステップS52へ移行する。
【0053】
ステップS52では、3相交流の座標(u,v,w)を2軸直流の座標(q,d)に変換する座標変換処理を実行し、ステップS53へ移行する。なお、座標変換処理の詳細については後述する。
【0054】
ステップS53では、指令電流に対する実電流の偏差量からPI制御によって制御量を決める電流PI制御処理を実行し、本制御を終了する。なお、電流PI制御処理の詳細については後述する。
【0055】
(電流指令演算処理)
図9は、ステップS51の電流指令演算処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0056】
ステップS511では、液圧サーボ処理部8で求められるモータトルク指令値T*から下記の式の演算によって指令トルク電流Iq*を算出し、ステップS512へ移行する。具体的には、ベクトル変換されたトルク電流と出力されるモータトルクは、ステータコアの磁気飽和が発生しない領域で使用される場合には比例関係にあるので、式内のGqはモータ固有の定数となる。
Iq*=T*×Gq
ここで、指令トルク電流Iq*の符号について、正であればCW方向、負であればCCW方向側にトルクを出力する。実施例1では加圧側のトルク指令値T*が正の時に正(CW)方向に回転すると考えるが、ポンプの回転方向の都合上、モータトルク指令値T*とは符号が一致しない例も考えられる。そのような場合には定数Gqにて符号を反転させる。
【0057】
ステップS512では、指令励磁電流Id*を設定し、本制御を終了する。一般的にはゼロとすることが多く、実施例1でもId*=0と設定する。
【0058】
(座標変換処理)
図10は、ステップS52の座標変換処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0059】
ステップS521では、モータMの磁極位置を検出する磁極位置検出器18より信号を受け取り、u相を基準としてCW方向に設定した電気角(モータ回転子位置)θeを演算し、ステップS522へ移行する。すなわち、磁場の位置に合わせて座標変換を行うため、磁極位置を検出する処理が必要となる。なお、実施例1では、位置信号が電気角θeとなる磁極位置検出器18を用いている。
【0060】
ステップS522では、図7に示したモータMの各相に流れている実電流の大きさ(Iu,Iv,Iw)を電流センサより読み取り、ステップS523へ移行する。
【0061】
ステップS523では、ステップS522で読み込んだ電流値に対して座標変換を行い、ステップS524へ移行する。具体的には、下記の式を用いて3相交流電流(Iu,Iv,Iw)を2相交流電流(Iα,Iβ)に変換する。
【数2】
【0062】
ステップS524では、ステップS523で求めた2相交流電流(Iα,Iβ)と、ステップS521で求めた電気角θeより、下記の式を用いて2軸直流電流(実トルク電流Iq,実励磁電流Id)に変換し、本制御を終了する。
【数3】
【0063】
(電流PI制御処理)
図11は、ステップS53の電流PI制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0064】
ステップS531では、S511で演算された指令トルク電流Iq*とステップS524で演算された実トルク電流Iqとの偏差であるトルク電流偏差量Δiqを求め、ステップS532へ移行する。
Δiq=Iq*−Iq
【0065】
ステップS532では、トルク電流偏差量ΔiqからPI制御によって出力する制御量(指令トルク電圧Vq*)を下記の式を用いて演算し、ステップS533へ移行する。
Vq*=Kpq×Δiq+Kiq×Σ(Δiq)
ここで、Kpqは比例制御ゲイン、Kiqは積分制御ゲイン、Σ(Δiq)はトルク電流偏差量Δiqの時間積分値である。ここでの処理により、指令値が電流から電圧に変換される。
【0066】
ステップS533では、ステップS531と同様の処理により、励磁電流偏差量Δidを演算し、ステップS534へ移行する。
Δid=Id*−Id
【0067】
ステップS534では、ステップS532と同様の処理により、下記の式を用いて指令励磁電圧Vd*を算出し、ステップS535へ移行する。
Vd*=Kpd×Δid+Kid×Σ(Δid)
ここで、kpdは比例制御ゲイン、Kidは積分制御ゲイン、Σ(Δid)は励磁電流偏差量Δidの時間積分値である。
【0068】
ステップS535では、Vd*,Vq*から下記の式を用いて電圧指令ベクトルの大きさ||Vdq*||を求め、本制御を終了する。
【数4】
【0069】
[180度矩形波駆動制御処理]
図13は、ステップS10の180度矩形波駆動制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0070】
ステップS1001では、下記の式に従って、モータ電流指令(Id*,Iq*)を満足する電圧指令(Vd*_s,Vq*_s)を求め、その位相角(tan-1(Vd*_s,Vq*_s))とモータ回転子位置θeから電圧指令位相θ_V*を算出し、ステップS1002へ移行する。
Vd*_s=-ωeLqIq*
Vq*_s=ωe(LdId*+Φ)
ただし、ωeは電気角速度[rad/sec]、Ld,Lqは軸インダクタンス値[H]、Φは永久磁石鎖交磁束数[Wb]である。
【数5】
【0071】
ステップS1002では、出力電圧パターンを決定するための電圧切り替え位相を求め、ステップS1002へ移行する。まず、印加電圧切り替えによるトルク変動を抑制するために付与するデッドタイムTd_sqを、モータ回転速度ωeとモータトルク指令値T*から、図14に示すマップにより求める。図14のマップにおいて、デッドタイムTd_sqは、モータ回転速度ωeが高いほど小さくなるように、また、モータトルク指令値T*が大きいほど小さくなるように設定されている。
なお、デッドタイムTd_sqは、電圧指令の大きさとバッテリ電圧の関係から演算によって求めても良い。
【0072】
電圧切り替え位相は、Td_sqと矩形波駆動制御周期Tsqから、下記の式に従って求める。
【数6】
【0073】
ただし、Td_sq≦Tsqが成立する場合は、下記の式に従う。
【数7】
この状態でのデッドタイムTd_sqは、矩形波駆動制御周期Tsqの中で、マイコンの内部タイマを使ってTd_sq期間だけHi/Lo両側スイッチをOFFにすることで与えられる。この切り替え位相とデッドタイムTd_sqとの関係は、図15、図16に示される。図15は矩形波駆動処理において、デッドタイムTd_sqが制御周期よりも長い場合にFETのON/OFF状態を切り替える位相を示す図であり、図16は矩形波駆動処理において、デッドタイムTd_sqが制御周期よりも短い場合に、FETのON/OFFを切り替える位相を示す図である。
【0074】
ステップS1003では、ステップS1002で求めた電圧切り替え位相(θh_s,θh_e,θl_s,θl_e)と電圧指令位相θ_V*から、図17に従って各相FETのON/OFFを選択し、ステップS1004に移行する。
【0075】
ステップS1004では、ステップS1003の選択に従って、FETを駆動するために、アクチュエータ制御装置3に接続されているマイコンポートの状態を変化させる。
【0076】
以上で矩形波駆動制御処理を終了し、インバータ回路17によりモータMに出力を行う。ただし、電圧切り替え位相(θh_s,θh_e,θl_s,θl_e)に応じて出力電圧パターンを変化させる手段は、Tsqが電気角周期に対して十分に速い必要がある。また、上述の手段のように、高速で電圧指令位相θ_V*を確認することで、電圧切り替え位相における出力パターンの切り替えを達成する手段以外に、モータ回転速度から電圧切り替え時期を予測し、予測した時点から電圧切り替え位相までの期間の出力電圧を固定するという手段を用いることも可能である。
【0077】
[正弦波駆動制御処理]
図18は、ステップS11の正弦波駆動制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0078】
ステップS1101では、ステップS105で求めたVd*,Vq*を読み込み、ステップS1102へ移行する。
【0079】
ステップS1102では、2軸直流座標系(q,d)で設定された指令値でモータMを駆動するために、3相交流座標系(u,v,w)に戻すとともに、下記の式を用いて2軸直流電圧指令(Vq*,Vd*)を2相交流電圧指令(Vα*,Vβ*)に変換し、ステップS1103へ移行する。
【数8】
【0080】
ステップS1103では、2相交流電圧指令(Vα*,Vβ*)とモータ回転子位置θeより、下記の式を用いて3相交流電圧指令(Vu*,Vv*,Vw*)に変換し、ステップS1104へ移行する。
【数9】
【0081】
ステップS1104では、3相交流電圧指令(Vu*,Vv*,Vw*)の中心を下記の式を用いてEd/2(V)にオフセットし、ステップS1105へ移行する。これは、3相交流電圧指令(Vu*,Vv*,Vw*)は0(V)中心に±方向に出力する正弦波であるが、実際に出力可能な電圧は0〜Ed(V)であるためである。
【数10】
【0082】
ステップS1105では、ステップS1104で設定された電圧指令値(Vu_buf*,Vv_buf*,Vw_buf*)が出力可能な電圧の範囲となるように、図19の真理値表に基づいて制御処理を行い、ステップS1106へ移行する。
【0083】
ステップS1106では、各相へPWM出力を行うため、下記の式を用いて電圧指令値(Vu*,Vv*,Vw*)相当となるようなDuty(Du,Dv,Dw)を演算し、ステップS1107へ移行する。
【数11】
【0084】
ステップS1107では、ステップS1106で求めたDuty(Du,Dv,Dw)から、下記の式を用いて各FETのON/OFF時間(THon_u,THOff_u,TLon_u,TLoff_u,THon_v,THOff_v,TLon_v,TLoff_v,THon_w,THOff_w,TLon_w,TLoff_w)を演算し、ステップS1108へ移行する。
【数12】
【0085】
すなわち、正弦波駆動制御処理では、PWM信号はマイコンのタイマ機能を利用してアクチュエータ制御装置3へ出力する。インバータ回路17(図6)内のFETは、各相でHi側とLo側に1個ずつあり、それぞれのFETをDutyに応じた時間でON/OFFするために、コントロールユニットECU内にあるマイコンの出力ポートを制御する必要があるためである。
【0086】
ステップS1108では、ステップS1107で求めたON/OFF時間をマイコンタイマに設定する。マイコンはタイマ機能に各FETのON/OFF時間が設定されると、信号の増幅を行うアクチュエータ制御装置3を介してFETのゲートに結線されている出力ポートのレベルを設定タイミング通りに制御する。
以上で正弦波駆動制御処理を終了し、インバータ回路17によりモータMに出力を行う。
【0087】
次に、作用を説明する。
(印加電圧切り替え作用]
図20は、急増圧が要求された場合の印加電圧切り替え過程を示すタイムチャートである。なお、指令値は波線、正弦波駆動のみの切り替えなしの場合を細い実線、実施例1を太い実線で示している。
【0088】
時点t0〜t1の区間では、モータトルク指令値T*の立ち上がりに応じて出力電圧指令が上昇し、モータMは加速する。
時点t1では、ホイルシリンダW/Cの流量指令が正弦波駆動制御で出力可能な流量を超えたため、急増圧フラグがセットされる。このとき、図7のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS11へと進む流れが繰り返され、モータMは正弦波駆動により駆動される。
【0089】
時点t2では、モータ回転速度ωeが印加電圧切り替え速度ωchを超え、かつ、出力電圧指令(出力電圧指令ベクトルの大きさ||Vdq*||)が正弦波出力可能電圧Vsin_maxを超えたため、図7のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS9→ステップS10へと進む流れとなり、正弦波駆動制御から180度矩形波駆動制御へと切り替えるための移行期間となる。
【0090】
ここで、移行期間における印加電圧切り替え速度ωchは、モータトルク指令値T*が大きいほど小さな値に設定されるため、通常、電圧指令||Vdq*||が正弦波出力可能電圧Vsin_maxを超えるよりも前にモータ回転速度ωeは印加電圧切り替え速度ωchを超えるようになっている。これにより、矩形波駆動によってモータトルクを減少させることなく、最大出力まで連続して駆動することが可能となる。
【0091】
時点t3では、180度矩形波駆動制御が開始され、時点t3〜t4の区間では、モータMの各相が180度矩形波駆動により制御される。図21は、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと駆動方式を切り替える際の相電圧波形とその基本波を示す図であり、正弦波駆動から180度矩形波駆動に切り替えた後は、相電圧基本波がバッテリ電圧Edを超えて出力されていることがわかる。つまり、180度矩形波駆動では、モータ駆動に使用できる電圧が増加するため、正弦波駆動に比べてより大きな出力を得ることができる。
【0092】
図20のタイムチャートから明らかなように、「切り替えなし」の場合には、モータ回転速度が正弦波駆動の出力可能上限値で頭打ちとなるため、ホイルシリンダ液圧が指令値に追従できず、制御遅れが生じている。
【0093】
これに対し、実施例1では、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと駆動方式を切り替えることで、時点t3以降もモータMを加速させてホイルシリンダの流量を増大でき、ホイルシリンダ液圧を指令値に追従させることができる。
【0094】
時点t4では、急増圧フラグがリセットされたため、180度矩形波駆動制御から正弦波駆動制御へと切り替える。つまり、高応答性が要求される状況では、180度矩形波駆動とすることでモータ回転数を上昇させることができ、高応答性が要求されない状況では、正弦波駆動とすることで、静粛性を確保できる。
【0095】
[デッドタイム調整作用]
図22には、正弦波駆動から180度矩形波駆動に切り替えた際のFET駆動信号を示す。ここでは、便宜上正弦波駆動時のPWM2周期に対して矩形波駆動制御1周期が対応するように描いている。通常は、静粛性向上のために、正弦波駆動時のPWM周波数はその周波数に同期して発生する騒音を人間の可聴領域から外すこと、および制御性の面から、非常に高周波数に設定されているので、矩形波駆動制御1周期(電気角1周期)と同期間に入る正弦波PWM周期は図22に示されているよりも多くなる。
【0096】
図22から正弦波駆動制御時は電圧波形に含まれるデッドタイムTd_sqが多くなることがわかる。このデッドタイムTd_sqはインバータ回路17を保護するために不可欠であるが、デッドタイム期間はインバータ回路17が電力の供給をすることができないため、含まれるデッドタイムTd_sqの増加によって、インバータ回路17がモータMに供給できる電力は減少する。
【0097】
一方で180度矩形波駆動では、回転速度によらず電気角1周期に対してTd_sqは2回分のみ含まれる。そのため電源電圧を利用できる割合が高くなることがわかる。電圧利用率が高く取れることはモータMの最大出力向上に有効である。また、印加電圧切り替え期間では、180度矩形波駆動におけるデッドタイムTd_sqを可変にする(デッドタイムTd_sqを徐々に大きくする)ことで、正弦波駆動から完全な180度矩形波駆動へ移行する間のトルクを制御し、滑らかな印加電圧の切り替えを可能にしている。ただし、これはデッドタイムTd_sqを可変にする手段の他にも、電圧指令位相θ_V*を可変にすることでモータトルクを制御すること、およびこれらの手段を併用することによっても達成することができる。
【0098】
[自動ブレーキ制御への適用]
以上説明したように、実施例1の電動ブレーキ装置では、急増圧要求時に所定条件が成立した場合、ポンプPを駆動するモータMの制御方式を、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと切り替えるため、ABS,TCS,VDC,前方車追従制御,前方衝突回避ブレーキ制御等の自動ブレーキ制御作動時、制動力の高い応答性が得られる。
以下、TCS作動時とVDC作動時を例に説明する。
【0099】
(TCS作動時)
図23は、TCS作動時の印加電圧切り替え作用を示すタイムチャートであり、実施例1を太い実線、切り替えなしの場合を細い実線で示している。実施例1では、加速スリップの発生時、切り替えなしの場合と比較して、ホイルシリンダ液圧の昇圧応答性が高いため、車輪速の上昇をより早期に抑制でき、加速スリップを小さく抑えることができる。
【0100】
(VDC作動時)
図24は、VDC作動時の印加電圧切り替え作用を示すタイムチャートであり、実施例1を太い実線、切り替えなしの場合を細い実線で示している。実施例1では、車両がオーバーステア傾向となってVDCが作動した場合、切り替えなしの場合と比較して、ホイルシリンダ液圧の昇圧応答性が高いため、オーバーステア傾向をより早期に抑制でき、目標ヨーレイトへの追従性を高めることができる。
【0101】
[実施例1の効果]
以下、実施例1の効果を列挙する。
実施例1の電動ブレーキ装置では、制動要求が所定のポンプ吐出流量を必要とする増圧勾配より大きい急増圧要求時には、モータMの各相に第1の波形電圧である180度矩形波電圧を印加し、急増圧要求がない場合には、第2の波形電圧である正弦波電圧を印加する。
【0102】
これにより、正弦波駆動のみでモータMを駆動する場合と比較して、急増圧要求時におけるモータ出力を向上させることができるため、制動力をより高速に立ち上げることができる。また、実施例1の制御を適用しない場合と比較して、小型のブラシレスモータを用いた場合でも同等の出力特性が得られるため、電動ブレーキ装置のコンパクト化を図ることができる。
【0103】
さらに、矩形波駆動時には、正弦波駆動と比較してFETのON/OFF回数を少なくすることができること、また出力向上のためにモータ出力に寄与しないエネルギーを与えることが無いこと、等の理由から、エネルギー効率の向上を図ることができる。
一方、急増圧要求が無い場合には、正弦波駆動によりモータMを駆動することで、モータトルクの脈動を抑制し、高い静粛性を得ることができる。
【0104】
実施例1の電動ブレーキ装置では、出力電圧指令(出力電圧指令ベクトルの大きさ||Vdq*||)が正弦波出力可能電圧Vsin_maxを超えている場合、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと切り替える。つまり、正弦波駆動ではモータMの出力電圧要求に応じたモータトルクを確保できない場合には、180度矩形波駆動によりモータ出力を高めることで、要求されたモータトルクを確保することができる。一方、モータMの出力電圧要求が低い場合には、正弦波駆動によりモータMを駆動することで、高い制御性および高静粛性を得ることができる。
【0105】
実施例1の電動ブレーキ装置では、モータ回転速度ωeが印加電圧切り替え速度ωchよりも大きい場合、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと切り替える。つまり、モータMの回転数(回転速度ωe)が小さいとき、正弦波駆動から180度矩形波駆動へ切り替えた場合、モータMに過大電流が流れ、モータトルクに過大な脈動が発生してしまう。また、インバータ回路17に過電流が流れることで、インバータ回路17が破損するおそれがある。
【0106】
よって、実施例1では、モータ回転数がある程度高くなった場合にのみ正弦波駆動から180度矩形波駆動へと切り替えることで、過大なトルク脈動の発生を回避しつつ、急増圧が要求される状況での高応答性と、急増圧が要求されない状況での高静粛性との両立を図ることができる。
【0107】
実施例1の電動ブレーキ装置では、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと切り替える時、インバータ回路17を構成する上流と下流の半導体スイッチを共にオフする期間(デッドタイムTd_sq)を調整し、PWM信号のキャリア繰り返し周期であるキャリア周期を長くする。
【0108】
これにより、周期の短い正弦波駆動から周期の長い180度矩形波駆動へと移行する間のトルクを制御できるため、制御切り替え時のトルク変動を抑制できる。さらに、キャリア周期を徐々に長くすることで、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと滑らかに移行することができ、トルク変動がより抑えられて良好な操作感を得ることができる。
【0109】
実施例1の電動ブレーキ装置の制御方法では、モータMの各相に180度矩形波電圧を印加する前に正弦波電圧を印加する。これにより、モータMの駆動初期段階では、正弦波駆動の特性である高静粛性が得られ、その後は180度矩形波駆動の特性である高応答性、電圧利用率の向上およびモータMの高回転が得られる。また、小型のブラシレスモータを用いることができ、電動ブレーキ装置のコンパクト化を図ることができる。
【0110】
実施例1の電動ブレーキ装置の制御方法では、車両の状態に応じた制動要求が所定のポンプ吐出量を超え、かつ、モータMの出力電圧指令(出力電圧指令ベクトルの大きさ||Vdq*||)が正弦波出力可能電圧Vsin_maxを超え、かつ、モータMの回転速度ωeが印加電圧切り替え速度ωchよりも大きくなった後に、180度矩形波電圧を印加する。
【0111】
これにより、モータMの回転速度が小さく、モータMに必要な電圧が正弦波駆動で出力可能な電圧である場合には、正弦波駆動によりモータトルクの脈動を抑えることができる。一方、急増圧要求時であってモータMの回転速度が高く、モータMに必要な電圧が正弦波駆動で出力可能な電圧を超える場合には、180度矩形波駆動により高応答性を確保することができる。よって、静粛性と応答性との両立を図ることができる。
【0112】
実施例1の電動ブレーキ装置の制御方法では、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと切り替える時、インバータ回路17を構成する上流と下流の半導体スイッチを共にオフする期間(デッドタイムTd_sq)を調整し、PWM信号のキャリア繰り返し周期であるキャリア周期を長くする。
【0113】
これにより、周期の短い正弦波駆動から周期の長い180度矩形波駆動へと移行する間のトルクを制御できるため、制御切り替え時のトルク変動を抑制できる。さらに、キャリア周期を徐々に長くすることで、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと滑らかに移行することができ、トルク変動がより抑えられて良好な操作感を得ることができる。
【0114】
[ブレーキ特有の効果について]
ポンプモータの制御において、比較的低回転の使用頻度が高いブレーキのアプリケーションとしては、通常ブレーキや前車(先行車)自動追尾システムなど、通常の利便性が求められる機能が多く、静粛性が要求される。
矩形波駆動を上記のような状況で用いると、液圧の脈動によってロータとパッドとの周期的な接触によりいわゆるグー音(AT車におけるクリープ時のブレーキング等で足回りから発生する低周波異音)が発生し、乗員に不快感を与える。
【0115】
一方、ポンプモータの制御において、比較的高回転の使用頻度が高いブレーキのアプリケーションとしては、ABSやVDC、衝突回避ブレーキ等緊急時に使用する機能が多く、静粛性よりも応答性が要求される。また、上記機能においては、車輪速信号の処理などCPUの演算負荷が高い場合が多く、矩形波駆動よりも演算負荷の高い正弦波駆動を上記状況で用いる場合は、演算の制限が生じる可能性がある。
実施例1では、以上のような状況に応じて正弦波駆動と矩形波駆動とを切り替えることにより、ブレーキシステムとして静粛と高機能との両立を実現できる。
【実施例2】
【0116】
実施例2では、油圧制御装置CUの油圧回路構成のみ実施例1と異なる。実施例1では、油圧制御装置CUの油圧回路としてオープン油圧回路を用いたのに対し、実施例2では、クローズ油圧回路を用いている。
【0117】
ここで、オープン油圧回路とは、ホイルシリンダへ供給されたブレーキ液を、マスタシリンダを介すことなく直接リザーバへと戻すことが可能な油圧回路をいう。一方、クローズ(クローズド)油圧回路とは、ホイルシリンダへ供給されたブレーキ液を、マスタシリンダを介してリザーバへと戻す油圧回路をいう。
【0118】
図25、実施例2の油圧制御装置CUの油圧回路図であり、ブレーキ回路は、独立した2つの系統、すなわちP系統とS系統に分かれ、各系統に対応したブレーキ回路10P,20Sを有している。ブレーキ回路10Pは左前輪のホイルシリンダW/C(FL)と右後輪のホイルシリンダW/C(RR)とに接続され、ブレーキ回路20Sは右前輪のホイルシリンダW/C(FR)と左後輪のホイルシリンダW/C(RL)とに接続されており、いわゆるX配管構造となっている。なお、ブレーキ回路はX配管でなくともよい。
ブレーキペダルBPは、運転者の踏み込み操作を図示しない倍力装置およびインプットロッドを介してマスタシリンダM/Cへ伝達する。
【0119】
マスタシリンダM/Cは、実施例1と同様にタンデム型であり、前後に並んだ2つのマスタシリンダピストンによってシリンダの中に2つの液圧室が隔成されている。2つの液圧室は、それぞれリザーバRSVからブレーキ液の供給を受ける。一方の液圧室はブレーキ回路10Pに接続され、他方の液圧室はブレーキ回路20Sに接続されている。
【0120】
マスタシリンダM/Cは、ブレーキペダルBPが踏み込まれると、ブレーキペダルBPの踏み込み量に応じた液圧を上記2つの液圧室に発生する。このマスタシリンダ圧が、それぞれブレーキ回路10P,10Sに供給される。
【0121】
なお、各マスタシリンダピストンの外周には周知のカップ状のシール部材が設けられており、ピストンストローク時には、このシール部材により各液圧室とリザーバRSVとの連通が遮断されることで、各液圧室内の加圧が可能となる。
【0122】
このとき、リザーバRSVからはブレーキ回路10P,10Sへブレーキ液が供給されず、マスタシリンダM/Cの液圧室からのみブレーキ回路10P,10Sへブレーキ液が供給されることになる。
【0123】
一方、ブレーキペダルBPが戻されると、各マスタシリンダピストンが(液圧室内に設けられた)戻しバネの力で戻される。このとき、上記シール部材の構造により、マスタシリンダM/Cの液圧室とリザーバRSVが連通する。これにより、リザーバRSVのブレーキ液をマスタシリンダM/Cの液圧室に供給することが再び可能となる。
【0124】
ブレーキ回路10PのマスタシリンダM/C側(以下、上流という)からホイルシリンダW/C側(以下、下流という)に向かう途中には、常開の比例電磁弁であるゲート減圧弁GV-OUT(P)が設けられている。ブレーキ回路10Pにはゲート減圧弁VG-OUT(P)と並列に油路10jが接続されている。
【0125】
油路10j上には、下流側から上流側へ向かうブレーキ液の流れを防止するチェック弁10pが設けられている。以下、ゲート減圧弁GV-OUT(P)上流側のブレーキ回路10Pをブレーキ回路10nとし、ゲート減圧弁GV-OUT(P)下流側のブレーキ回路10Pをブレーキ回路10kという。
【0126】
ブレーキ回路10kは、ブレーキ回路10a,10bに分岐している。ブレーキ回路10a,10bは、それぞれホイルシリンダW/C(FL,RR)に接続している。ブレーキ回路10a,10b上には、常開の比例電磁弁である増圧弁IN/V(FL,RR)がそれぞれ設けられている。
【0127】
ブレーキ回路10aには、増圧弁IN/V(FL)と並列に油路10lが接続されている。油路10l上には、上流側から下流側へ向かうブレーキ液の流れを防止するチェック弁10qが設けられている。同様に、増圧弁IN/V(RR)と並列に接続された油路10m上には、上流側から下流側へ向かうブレーキ液の流れを防止するチェック弁10rが設けられている。
【0128】
増圧弁IN/V(FL,RR)の下流側のブレーキ回路10a,10bには、リターン回路10c,10dがそれぞれ接続されている。リターン回路10c,10dにはそれぞれ常閉のオン・オフ電磁弁である減圧弁OUT/V(FL)が設けられている。リターン回路10c,10dは合流してリターン回路10eを形成している。リターン回路10eは、リザーバ10tに接続している。
【0129】
一方、ゲート減圧弁GV-OUT(P)の上流側のブレーキ回路10nには、吸入回路10gが接続している。吸入回路10g上には、吸入回路10gの連通・遮断を切り換える常閉のオン・オフ電磁弁であるゲート増圧弁GV-IN(P)が設けられている。吸入回路10gは、リザーバ10tからのリターン回路10fと合流して吸入回路10hを形成している。
【0130】
油圧制御装置CUには、マスタシリンダM/C以外の液圧源として、ブレーキ液の吸入・吐出を行うポンプPが設置されている。ポンプPはモータMにより作動するギヤポンプであり、第1ポンプP1(P系統)および第2ポンプP2(S系統)を備えている。
【0131】
第1ポンプP1の吸入側は、吸入回路10hに接続されている。第1ポンプP1の吐出側は、吐出回路10iに接続されており、吐出回路10iを介してブレーキ回路10kに接続されている。
【0132】
なお、リターン回路10f上には、チェック弁10sが設けられており、吸入回路10g(ゲート増圧弁GV-IN(P))からリザーバ10tへ向かうブレーキ液の流れを防止する。
【0133】
吐出回路10i上には、チェック弁10uが設けられており、ブレーキ回路10k(ゲート減圧弁GV-OUT(P))またはブレーキ回路10a,10b(ホイルシリンダW/C)から第1ポンプP1(吐出側)へ向かうブレーキ液の流れを防止する。
なお、ブレーキ回路20S側の油圧回路も、上記ブレーキ回路10Pと同様に構成されている。
【0134】
実施例2の油圧制御装置CUは、通常ブレーキ時において下記倍力制御を実行可能であるほか、実施例1と同様、TCS,ABS,VDC等の自動ブレーキ制御を実行可能である。
【0135】
自動ブレーキ制御時には、ブレーキ回路10P側を例にとると、ゲート減圧弁GV-OUT(P)を閉弁する一方、ゲート増圧弁GV-IN(P)を開弁する。同時にポンプPを作動させ、マスタシリンダM/Cから吸入回路10g,10hおよび吐出回路10iを介してブレーキ回路10a,10bに向けてブレーキ液を供給する。
【0136】
さらに、車両挙動安定に必要な制動力に応じたホイルシリンダ目標液圧を発生させるように、ゲート減圧弁GV-OUT(P)または増圧弁IN/V(FL,RR)を制御する。ブレーキ回路20S側でも同様である。
【0137】
また、ABS作動時には、車輪FLを例にとると、ホイルシリンダW/Cに接続されている減圧弁OUT/V(FL)を開弁するとともに増圧弁IN/V(FL)を閉弁し、ホイルシリンダW/Cのブレーキ液をリザーバ10tに排出することにより減圧を行う。また、車輪FLがロック傾向から回復したら、減圧弁OUT/V(FL)を閉弁してホイルシリンダ圧を保持する。
【0138】
また、ポンプPを作動させるとともに増圧弁IN/V(FL)を開弁して適宜増圧を行う。ポンプPは、減圧時にリザーバ10tに逃がしたブレーキ液をブレーキ回路10kに戻す役割を果たす。
【0139】
上記構成のクローズ油圧回路を採用した油圧制御装置CUを備えた電動ブレーキ装置においても、実施例1に示した印加電圧切り替え制御を適用することで、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0140】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0141】
例えば、実施例では、正弦波駆動から180度矩形波駆動への切り替え条件として、急増圧要求の有無(ステップS6)と、出力電圧指令と正弦波出力可能電圧との関係(ステップS7)と、モータ回転速度(ステップS9)との3つの条件を設定したが、切り替え条件は、上記3つの条件のいずれか1つまたは2つを組み合わせてもよい。
【0142】
また、実施例1では、モータMの回転速度として、回転速度の実測値ωeを用いた例を示したが、モータMの回転速度要求値から回転速度を演算する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】実施例1の電動ブレーキ装置を適用した4輪ブレーキバイワイヤシステムのシステム構成図である。
【図2】実施例1の油圧制御装置CUの油圧回路図である。
【図3】コントロールユニットECUの内部構成を示す図である。
【図4】コントロールユニットECUにおける制動制御処理の制御ブロック図である。
【図5】コントロールユニットECUにおける印加電圧切り替え制御の制御ブロック図である。
【図6】メインモータMain/Mに印可する電圧を制御するインバータ回路17の構成を示す図である。
【図7】実施例1のコントロールユニットECUで実行される駆動手段切り替え制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】ステップS5の電流制御電圧指令値演算処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】ステップS51の電流指令演算処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】ステップS52の座標変換処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】ステップS53の電流PI制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】駆動手段を切り替える際の切り替え閾値となる速度を求めるマップである。
【図13】ステップS10の180度矩形波駆動制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】デッドタイムを求めるマップである。
【図15】矩形波駆動処理において、デッドタイムTd_sqが制御周期よりも長い場合にFETのON/OFF状態を切り替える位相を示す図である。
【図16】矩形波駆動処理において、デッドタイムTd_sqが制御周期よりも短い場合に、FETのON/OFFを切り替える位相を示す図である。
【図17】図14、15に示した状態切り替え位相を表で表したものである。
【図18】ステップS11の正弦波駆動制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図19】正弦波駆動制御処理で電圧指令のリミット処理を示す真理値表である。
【図20】急増圧が要求された場合の駆動手段切り替え過程を示すタイムチャートである。
【図21】正弦波駆動から180度矩形波駆動へと駆動方式を切り替える際の相電圧波形とその基本波を示す図である。
【図22】正弦波駆動から180度矩形波駆動に切り替えた際のFET駆動信号を示す図である。
【図23】TCS作動時の印加電圧切り替え作用を示すタイムチャートである。
【図24】VDC作動時の印加電圧切り替え作用を示すタイムチャートである。
【図25】実施例2の油圧制御装置CUの油圧回路図である。
【符号の説明】
【0144】
ECU コントロールユニット
M モータ(ブラシレスモータ)
P ポンプ
W/C ホイルシリンダ
11 制動要求演算部
12 電圧指令値判断部
13 回転速度検出部
14 180度矩形波駆動部(第1波形駆動部)
15 正弦波駆動部(第2波形駆動部)
16 印加電圧切り替え部
17 インバータ回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータの駆動により制動力を発生する電動ブレーキ装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動ブレーキ装置では、必要に応じてモータトルクを低下させることなく、モータ回転数を高めるために、モータのダイナミクスに影響を与えるモータの電磁界の部分を弱める制御を行っている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特表2002−537170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術にあっては、モータ回転数を重視した正弦波駆動によりモータトルクに寄与しない電流を流しているため、モータ効率の低下を伴い、また、電流増による発熱が問題であった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、トルクに寄与しない電流を流さずに高応答性が要求される状況でのモータ回転数の向上と、高応答性が要求されない状況での静粛性の確保との両立を図ることができる電動ブレーキ装置および電動ブレーキ装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、演算された制動要求が所定のポンプ吐出流量を必要とする増圧勾配より大きい時にはブラシレスモータの各相に第1の波形電圧を印加し、所定の増圧勾配より小さい時には第2の波形電圧を印加する。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、トルクに寄与しない電流を流さずに高応答性が要求される状況でのモータ回転数の向上と、高応答性が要求されない状況での静粛性の確保との両立を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の電動ブレーキ装置および電動ブレーキ装置の制御方法を実現するための最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
[システム構成]
図1は実施例1の電動ブレーキ装置を適用した4輪ブレーキバイワイヤシステムのシステム構成図、図2は油圧制御装置CUの油圧回路図である。
【0009】
実施例1の4輪ブレーキバイワイヤシステムでは、4輪全輪のホイルシリンダW/C(FL〜RR)が1つのポンプMain/Pによって増圧される。マスタシリンダM/Cはいわゆるタンデム型であり、マニュアル回路A(FL),A(FR)によってFL,FR輪ホイルシリンダW/C(FL,FR)に接続されている。
【0010】
マスタシリンダM/CはリザーバRSVと接続し、各電磁弁はコントロールユニットECUにより駆動される。液圧源であるポンプは常用のメインポンプMain/Pと非常用のサブポンプSub/Pが並列に設けられている。
【0011】
メインポンプMain/Pは双方向ポンプ、サブポンプSub/Pは一方向ポンプであり、それぞれコントロールユニットECUからの指令に基づきメインモータMain/MおよびサブモータSub/Mによって駆動される。実施例1では、メインポンプMain/Pとしてギヤポンプを用い、メインモータMain/Mとして3相ブラシレスモータを用いている。
【0012】
マニュアル回路A(FL),A(FR)上には常開電磁弁(ON/OFF弁)であるシャットオフバルブS.OFF/V(FL,FR)が設けられ、それぞれ第1、第2マスタシリンダM/C,M/C2とFL,FR輪ホイルシリンダW/C(FL,FR)を連通/遮断する。
【0013】
マニュアル回路A(FL)上であって第1マスタシリンダM/CとシャットオフバルブS.OFF/V(FL)の間にはストロークシミュレータS/Simが設けられている。このストロークシミュレータS/Simは常閉電磁弁(ON/OFF弁)であるキャンセルバルブCan/Vを介してマニュアル回路A(FL)に接続する。
【0014】
FLシャットオフバルブS.OFF/V(FL)が閉弁され、キャンセルバルブCan/Vが開弁されている際、ブレーキペダルBPの踏み込みに伴って第1マスタシリンダM/C内の作動油がストロークシミュレータS/Simに導入され、ペダルストロークを確保する。
【0015】
メインおよびサブポンプMain/P,Sub/Pの吐出側は増圧回路Cに接続し、接続点I(FL〜RR)において各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)に接続する。一方、各ポンプMain/P,Sub/Pの吸入側は減圧回路Bと接続される。
【0016】
この増圧回路C上には常閉電磁弁(比例弁)であるインバルブIN/V(FL〜RR)が設けられ、各ポンプMain/P,Sub/Pと各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)の連通/遮断を切り替える。
【0017】
また、各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)は接続点I(FL〜RR)において減圧回路Bと接続する。この減圧回路B上には常閉電磁弁(比例弁)であるアウトバルブOUT/V(FL〜RR)が設けられ、各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)とリザーバRSVとの連通/遮断を切り替える。
【0018】
各ポンプMain/P,Sub/Pの吐出側にはそれぞれチェック弁C/Vが設けられ、ポンプPを介して増圧回路Cから減圧回路Bへ作動油が逆流することを回避する。さらに、増圧回路Cと減圧回路Bとはリリーフ弁Ref/Vを介して接続され、増圧回路Cの圧力が規定値以上となった場合に作動油を減圧回路Bに逃がす。
【0019】
マニュアル回路A(FL),A(FR)上であってシャットオフバルブS.OFF/V(FL,FR)とマスタシリンダM/Cとの間、にはそれぞれ第1,第2マスタシリンダ圧センサMC/Sen1,2が設けられ、各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)には液圧センサWC/Sen(FL〜RR)が設けられている。
【0020】
コントロールユニットECUには検出された第1,第2マスタシリンダ圧Pm1,Pm2および各液圧P(FL〜RR)、およびブレーキペダルBPのストロークを検出するストロークセンサS/Senの検出値が入力される。
【0021】
これらの検出値に基づき、コントロールユニットECUは各輪FL〜RRの目標液圧P*(FL〜RR)を演算し、油圧制御装置CUを駆動し、ホイルシリンダW/C(FL〜RR)の液圧を制御する。
【0022】
また、コントロールユニットECUは各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)の目標液圧P*(FL〜RR)と実液圧P(FL〜RR)の比較を行い、目標液圧に対して実液圧が異常な応答を示した場合は異常信号をワーニングランプWLへ出力する。加えて、コントロールユニットECUには車輪速VSPが入力され、車両の走行/停止を判断する。
【0023】
次に、コントロールユニットECUの構成について説明する。
図3は、コントロールユニットECUの内部構成を示す図であって、コントロールユニットECUは、例えば、エンジンルーム内に配置されている。このコントロールユニットECUは、データ信号線を介して4輪ブレーキバイワイヤシステムの状態、例えばブレーキ液圧の現在値や動作モード現在値の情報等をCAN通信1により受信する。
【0024】
このように4輪ブレーキバイワイヤシステムの状態を監視しながら、ペダル操作量または車両挙動制御処理の結果として得られる制動力目標値に応じた適切な制御信号をCPU2によって演算し、データ信号線を介して制御信号をアクチュエータ制御装置3に送信し、ブレーキバイワイヤシステムを適切に動作させる。また、システム失陥時には、フェールセーフ等の制御も行う。
【0025】
次に、実施例1の4輪ブレーキバイワイヤシステムの各動作モードについて説明する。
(増圧モード)
通常の増圧モードでは、キャンセルバルブCan/Vを開弁、シャットオフバルブS.OFF/V(FL,FR)を遮断して運転者によるブレーキペダルBPの踏み込みをストロークセンサS/Senにより検出し、この検出値に基づきコントロールユニットCUにおいて各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)の目標液圧P*(FL〜RR)を演算する。
【0026】
また、コントロールユニットECUはモータMによりメインモータMain/MまたはサブモータSub/Mを駆動して吐出圧を増圧回路Cに作用させる。さらに演算された目標液圧P*(FL〜RR)に応じて各インバルブIN/V(FL〜RR)を駆動し、各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)に作動油を供給して制動力を得る。
【0027】
(減圧モード)
減圧モードでは、コントロールユニットECUにより各アウトバルブOUT/V(FL〜RR)を駆動し、減圧回路Bを介して各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)からリザーバRSVへ作動油を排出する。
【0028】
(保持モード)
保持モードでは、各インバルブIN/V(FL〜RR)、各アウトバルブOUT/V(FL〜RR)を閉弁し、各ホイルシリンダW/C(FL〜RR)と増圧、減圧回路C,Bとを遮断する。
【0029】
(マニュアルブレーキ)
システム失陥時には、常開のシャットオフバルブS.OFF/V(FL,FR)が開弁され、常閉の各インバルブIN/V(FL〜RR)およびアウトバルブOUT/V(FL〜RR)が閉弁される。これによりマスタシリンダM/CとFL,FR輪ホイルシリンダ(FL,FR)が連通し、マニュアルブレーキが確保される。
【0030】
図4は、コントロールユニットECUにおける制動制御処理の制御ブロック図である。
摩擦/回生制動力配分ブロック6では、運転者4によるブレーキペダルBPのペダル操作量、およびABS(Antilock Brake System),TCS(Traction Control System),VDC(Vehicle Dynamics Control),前方車追従制御,前方衝突回避ブレーキ制御等の自動ブレーキ制御作動時(車両制御ブロック5)による液圧指令を、4輪ブレーキバイワイヤシステムへの液圧指令と回生ブレーキRB(図1参照)への制動力指令とに分配する。
【0031】
液圧サーボブロック7は、油圧制御装置CUに対し、実制動力を制動力要求(液圧指令)に一致させる各バルブ、メインモータMain/M(以下、単にモータMと称す。)の駆動信号を出力する。油圧制御CUでは、駆動信号に従って動作することで、ホイルシリンダW/C(FL〜RR)にブレーキ液圧が発生する。このブレーキ液圧によってブレーキパッドで各ディスクロータを挟むように押圧することで車両9に制動力を発生させる。
【0032】
ここで、摩擦/回生制動力配分ブロック6では、4輪ブレーキバイワイヤシステムへの液圧指令が、急増圧要求であるか否かを判断し、急増圧要求である場合には、急増圧フラグをセット、急増圧要求でない場合には急増圧フラグをリセットする。液圧サーボブロック7では、急増圧フラグその他の条件に基づいて、モータMの各相に印加する電圧波形を異ならせる印加電圧切り替え制御を実施する。
【0033】
図5は、コントロールユニットECUにおける印加電圧切り替え制御の制御ブロック図であり、コントロールユニットECUは、制動要求演算部11と、電圧指令値判断部12と、回転速度検出部13と、180度矩形波駆動部(第1波形駆動部)14と、正弦波駆動部(第2波形駆動部)15と、印加電圧切り替え部16と、を有している。
【0034】
制動要求演算部11は、車両の状態に応じて4輪ブレーキバイワイヤシステムへの制動要求を演算する。
電圧指令値判断部12は、モータMの出力電圧指令値が正弦波電圧の出力可能電圧か否かを判断する。
回転速度検出部13は、モータMの回転速度を検出する。
【0035】
180度矩形波駆動部14は、制動要求に基づいて、モータMの各相に180度矩形波電圧(第1の波形電圧)を印加する180度矩形波駆動制御処理を実行する。
正弦波駆動部15は、制動要求に基づいて、モータMの各相に正弦波電圧(第2の波形電圧)を印加する、すなわちモータMの相電流が正弦波状となるように電圧を印加する正弦波駆動制御処理を実行する。
【0036】
印加電圧切り替え部16は、制動要求、モータMの出力電圧指令値および回転速度に基づいて、モータMの駆動方式を180度矩形波駆動制御と正弦波駆動制御との間で切り替える。180度矩形波駆動制御が選択された場合、モータMに印加する電圧を制御するインバータ17は、180度矩形波駆動部14により制御され、正弦波駆動制御が選択された場合、インバータ17は、正弦波駆動部15により制御される。
【0037】
図6は、インバータ回路17の構成を示す図である。このインバータ回路17は、6つのFET(電界効果トランジスタ)と、6つの還流用ダイオードから構成され、アクチュエータ制御装置3の出力に応じてバッテリ電圧EdをモータMに供給する。なお、モータMには、モータMの磁極位置を検出する磁極位置検出器18が設けられている。
【0038】
[印加電圧切り替え制御処理]
図7は、実施例1のコントロールユニットECUで実行される印加電圧切り替え制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0039】
ステップS1では、制動要求演算部11において、バッテリ電圧値Bdを読み込み、ステップS2へ移行する。
【0040】
ステップS2では、制動要求演算部11において、モータトルク指令値T*を読み込み、ステップS3へ移行する。
【0041】
ステップS3では、制動要求演算部11において、モータ回転子位置θeを読み込み、ステップS4へ移行する。
【0042】
ステップS4では、回転速度検出部13において、モータMの回転速度として、モータ回転速度の実測値ωeを読み込み、ステップS5へ移行する。
【0043】
ステップS5では、制動要求演算部11において、後述する電流制御電圧指令値演算処理を実行し、ステップS6へ移行する。
【0044】
ステップS6では、印加電圧切り替え部16において、急増圧要求時であるか否かを、急増圧フラグに基づいて判断する。YESの場合にはステップS7へ移行し、NOの場合にはステップS11へ移行する。
【0045】
ここで、急増圧フラグは、制動要求演算部11において、ステップS2で読み込んだモータトルク指令値T*に応じたホイルシリンダW/Cの流量指令が、正弦波電圧制御で出力可能な流量以下である場合、急増圧フラグをリセット(Lowレベル信号出力)し、流量指令が正弦波電圧制御で出力可能な流量を超えた場合、急増圧フラグをセット(Highレベル信号出力)する。
【0046】
ステップS7では、電圧指令値判断部12において、出力電圧指令(出力電圧指令ベクトルの大きさ||Vdq*||)が正弦波出力可能電圧Vsin_maxを超えているか否かを判断する。YESの場合にはステップS8へ移行し、NOの場合にはステップS11へ移行する。出力電圧指令ベクトルの大きさ||Vdq*||の算出方法については後述する。
正弦波出力可能電圧Vsin_maxは、下記の式で表される。
【数1】
ただし、Tsinは正弦波駆動制御一周期、Td_sinは正弦波駆動におけるデッドタイムである。ここで、「デッドタイム」とは、インバータ回路17を構成する上流と下流の半導体スイッチを共にオフする期間をいう。すなわち、電源電圧値から前記インバータ回路17を動作させる場合に回路短絡を防止するために付与される時間であり、その間、電圧降下を発生する。
なお、Vsin_maxは||Vdq*||と比較するために、座標変換による絶対変換係数が含まれている。また、Tsinは正弦波駆動で印加する電圧基本周期に対して十分に短い必要がある。
【0047】
ステップS8では、印加電圧切り替え部16において、電源電圧値Edおよびモータトルク指令値T*から、図12に示すマップを用いて、正弦波駆動から180度矩形波駆動へ切り替える際の移行期間における印加電圧切り替え速度ωchを演算し、ステップS9へ移行する。図12のマップにおいて、印加電圧切り替え速度ωchは、電源電圧値Edが低いほど小さくなるように、また、モータトルク指令値T*が大きいほど小さくなるように設定されている。
【0048】
ステップS9では、印加電圧切り替え部16において、モータ回転速度ωeが印加電圧切り替え速度(所定の回転速度)ωchよりも大きいか否かを判断する。すなわち、誘導起電圧によってトルクに付与する電流を制御するための電圧余裕が十分に確保できなくなる速度か否かを判断する。YESの場合にはステップS10へ移行し、NOの場合にはステップS11へ移行する。なお、モータ回転速度は、実測以外にも種々の方法で求めることができる。
【0049】
ステップS10では、印加電圧切り替え部16において、180度矩形波駆動部14をインバータ17に接続すると共に、180度矩形波駆動部14では、モータMの各相に180度矩形波の電圧を印可する180度矩形波駆動制御処理を実行し、本制御を終了する。180度矩形波駆制御処理の詳細については後述する。
【0050】
ステップS11では、印加電圧切り替え部16において、正弦波駆動部15をインバータ17に接続すると共に、正弦波駆動部15では、モータMの相電流が正弦波状となるように電圧を印加する正弦波駆動制御処理を実行し、本制御を終了する。正弦波駆動制御処理の詳細については後述する。
【0051】
[電流制御電圧指令値演算処理]
図8は、ステップS5の電流制御電圧指令値演算処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0052】
ステップS51では、後述する電流指令演算処理を実行し、ステップS52へ移行する。
【0053】
ステップS52では、3相交流の座標(u,v,w)を2軸直流の座標(q,d)に変換する座標変換処理を実行し、ステップS53へ移行する。なお、座標変換処理の詳細については後述する。
【0054】
ステップS53では、指令電流に対する実電流の偏差量からPI制御によって制御量を決める電流PI制御処理を実行し、本制御を終了する。なお、電流PI制御処理の詳細については後述する。
【0055】
(電流指令演算処理)
図9は、ステップS51の電流指令演算処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0056】
ステップS511では、液圧サーボ処理部8で求められるモータトルク指令値T*から下記の式の演算によって指令トルク電流Iq*を算出し、ステップS512へ移行する。具体的には、ベクトル変換されたトルク電流と出力されるモータトルクは、ステータコアの磁気飽和が発生しない領域で使用される場合には比例関係にあるので、式内のGqはモータ固有の定数となる。
Iq*=T*×Gq
ここで、指令トルク電流Iq*の符号について、正であればCW方向、負であればCCW方向側にトルクを出力する。実施例1では加圧側のトルク指令値T*が正の時に正(CW)方向に回転すると考えるが、ポンプの回転方向の都合上、モータトルク指令値T*とは符号が一致しない例も考えられる。そのような場合には定数Gqにて符号を反転させる。
【0057】
ステップS512では、指令励磁電流Id*を設定し、本制御を終了する。一般的にはゼロとすることが多く、実施例1でもId*=0と設定する。
【0058】
(座標変換処理)
図10は、ステップS52の座標変換処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0059】
ステップS521では、モータMの磁極位置を検出する磁極位置検出器18より信号を受け取り、u相を基準としてCW方向に設定した電気角(モータ回転子位置)θeを演算し、ステップS522へ移行する。すなわち、磁場の位置に合わせて座標変換を行うため、磁極位置を検出する処理が必要となる。なお、実施例1では、位置信号が電気角θeとなる磁極位置検出器18を用いている。
【0060】
ステップS522では、図7に示したモータMの各相に流れている実電流の大きさ(Iu,Iv,Iw)を電流センサより読み取り、ステップS523へ移行する。
【0061】
ステップS523では、ステップS522で読み込んだ電流値に対して座標変換を行い、ステップS524へ移行する。具体的には、下記の式を用いて3相交流電流(Iu,Iv,Iw)を2相交流電流(Iα,Iβ)に変換する。
【数2】
【0062】
ステップS524では、ステップS523で求めた2相交流電流(Iα,Iβ)と、ステップS521で求めた電気角θeより、下記の式を用いて2軸直流電流(実トルク電流Iq,実励磁電流Id)に変換し、本制御を終了する。
【数3】
【0063】
(電流PI制御処理)
図11は、ステップS53の電流PI制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0064】
ステップS531では、S511で演算された指令トルク電流Iq*とステップS524で演算された実トルク電流Iqとの偏差であるトルク電流偏差量Δiqを求め、ステップS532へ移行する。
Δiq=Iq*−Iq
【0065】
ステップS532では、トルク電流偏差量ΔiqからPI制御によって出力する制御量(指令トルク電圧Vq*)を下記の式を用いて演算し、ステップS533へ移行する。
Vq*=Kpq×Δiq+Kiq×Σ(Δiq)
ここで、Kpqは比例制御ゲイン、Kiqは積分制御ゲイン、Σ(Δiq)はトルク電流偏差量Δiqの時間積分値である。ここでの処理により、指令値が電流から電圧に変換される。
【0066】
ステップS533では、ステップS531と同様の処理により、励磁電流偏差量Δidを演算し、ステップS534へ移行する。
Δid=Id*−Id
【0067】
ステップS534では、ステップS532と同様の処理により、下記の式を用いて指令励磁電圧Vd*を算出し、ステップS535へ移行する。
Vd*=Kpd×Δid+Kid×Σ(Δid)
ここで、kpdは比例制御ゲイン、Kidは積分制御ゲイン、Σ(Δid)は励磁電流偏差量Δidの時間積分値である。
【0068】
ステップS535では、Vd*,Vq*から下記の式を用いて電圧指令ベクトルの大きさ||Vdq*||を求め、本制御を終了する。
【数4】
【0069】
[180度矩形波駆動制御処理]
図13は、ステップS10の180度矩形波駆動制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0070】
ステップS1001では、下記の式に従って、モータ電流指令(Id*,Iq*)を満足する電圧指令(Vd*_s,Vq*_s)を求め、その位相角(tan-1(Vd*_s,Vq*_s))とモータ回転子位置θeから電圧指令位相θ_V*を算出し、ステップS1002へ移行する。
Vd*_s=-ωeLqIq*
Vq*_s=ωe(LdId*+Φ)
ただし、ωeは電気角速度[rad/sec]、Ld,Lqは軸インダクタンス値[H]、Φは永久磁石鎖交磁束数[Wb]である。
【数5】
【0071】
ステップS1002では、出力電圧パターンを決定するための電圧切り替え位相を求め、ステップS1002へ移行する。まず、印加電圧切り替えによるトルク変動を抑制するために付与するデッドタイムTd_sqを、モータ回転速度ωeとモータトルク指令値T*から、図14に示すマップにより求める。図14のマップにおいて、デッドタイムTd_sqは、モータ回転速度ωeが高いほど小さくなるように、また、モータトルク指令値T*が大きいほど小さくなるように設定されている。
なお、デッドタイムTd_sqは、電圧指令の大きさとバッテリ電圧の関係から演算によって求めても良い。
【0072】
電圧切り替え位相は、Td_sqと矩形波駆動制御周期Tsqから、下記の式に従って求める。
【数6】
【0073】
ただし、Td_sq≦Tsqが成立する場合は、下記の式に従う。
【数7】
この状態でのデッドタイムTd_sqは、矩形波駆動制御周期Tsqの中で、マイコンの内部タイマを使ってTd_sq期間だけHi/Lo両側スイッチをOFFにすることで与えられる。この切り替え位相とデッドタイムTd_sqとの関係は、図15、図16に示される。図15は矩形波駆動処理において、デッドタイムTd_sqが制御周期よりも長い場合にFETのON/OFF状態を切り替える位相を示す図であり、図16は矩形波駆動処理において、デッドタイムTd_sqが制御周期よりも短い場合に、FETのON/OFFを切り替える位相を示す図である。
【0074】
ステップS1003では、ステップS1002で求めた電圧切り替え位相(θh_s,θh_e,θl_s,θl_e)と電圧指令位相θ_V*から、図17に従って各相FETのON/OFFを選択し、ステップS1004に移行する。
【0075】
ステップS1004では、ステップS1003の選択に従って、FETを駆動するために、アクチュエータ制御装置3に接続されているマイコンポートの状態を変化させる。
【0076】
以上で矩形波駆動制御処理を終了し、インバータ回路17によりモータMに出力を行う。ただし、電圧切り替え位相(θh_s,θh_e,θl_s,θl_e)に応じて出力電圧パターンを変化させる手段は、Tsqが電気角周期に対して十分に速い必要がある。また、上述の手段のように、高速で電圧指令位相θ_V*を確認することで、電圧切り替え位相における出力パターンの切り替えを達成する手段以外に、モータ回転速度から電圧切り替え時期を予測し、予測した時点から電圧切り替え位相までの期間の出力電圧を固定するという手段を用いることも可能である。
【0077】
[正弦波駆動制御処理]
図18は、ステップS11の正弦波駆動制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0078】
ステップS1101では、ステップS105で求めたVd*,Vq*を読み込み、ステップS1102へ移行する。
【0079】
ステップS1102では、2軸直流座標系(q,d)で設定された指令値でモータMを駆動するために、3相交流座標系(u,v,w)に戻すとともに、下記の式を用いて2軸直流電圧指令(Vq*,Vd*)を2相交流電圧指令(Vα*,Vβ*)に変換し、ステップS1103へ移行する。
【数8】
【0080】
ステップS1103では、2相交流電圧指令(Vα*,Vβ*)とモータ回転子位置θeより、下記の式を用いて3相交流電圧指令(Vu*,Vv*,Vw*)に変換し、ステップS1104へ移行する。
【数9】
【0081】
ステップS1104では、3相交流電圧指令(Vu*,Vv*,Vw*)の中心を下記の式を用いてEd/2(V)にオフセットし、ステップS1105へ移行する。これは、3相交流電圧指令(Vu*,Vv*,Vw*)は0(V)中心に±方向に出力する正弦波であるが、実際に出力可能な電圧は0〜Ed(V)であるためである。
【数10】
【0082】
ステップS1105では、ステップS1104で設定された電圧指令値(Vu_buf*,Vv_buf*,Vw_buf*)が出力可能な電圧の範囲となるように、図19の真理値表に基づいて制御処理を行い、ステップS1106へ移行する。
【0083】
ステップS1106では、各相へPWM出力を行うため、下記の式を用いて電圧指令値(Vu*,Vv*,Vw*)相当となるようなDuty(Du,Dv,Dw)を演算し、ステップS1107へ移行する。
【数11】
【0084】
ステップS1107では、ステップS1106で求めたDuty(Du,Dv,Dw)から、下記の式を用いて各FETのON/OFF時間(THon_u,THOff_u,TLon_u,TLoff_u,THon_v,THOff_v,TLon_v,TLoff_v,THon_w,THOff_w,TLon_w,TLoff_w)を演算し、ステップS1108へ移行する。
【数12】
【0085】
すなわち、正弦波駆動制御処理では、PWM信号はマイコンのタイマ機能を利用してアクチュエータ制御装置3へ出力する。インバータ回路17(図6)内のFETは、各相でHi側とLo側に1個ずつあり、それぞれのFETをDutyに応じた時間でON/OFFするために、コントロールユニットECU内にあるマイコンの出力ポートを制御する必要があるためである。
【0086】
ステップS1108では、ステップS1107で求めたON/OFF時間をマイコンタイマに設定する。マイコンはタイマ機能に各FETのON/OFF時間が設定されると、信号の増幅を行うアクチュエータ制御装置3を介してFETのゲートに結線されている出力ポートのレベルを設定タイミング通りに制御する。
以上で正弦波駆動制御処理を終了し、インバータ回路17によりモータMに出力を行う。
【0087】
次に、作用を説明する。
(印加電圧切り替え作用]
図20は、急増圧が要求された場合の印加電圧切り替え過程を示すタイムチャートである。なお、指令値は波線、正弦波駆動のみの切り替えなしの場合を細い実線、実施例1を太い実線で示している。
【0088】
時点t0〜t1の区間では、モータトルク指令値T*の立ち上がりに応じて出力電圧指令が上昇し、モータMは加速する。
時点t1では、ホイルシリンダW/Cの流量指令が正弦波駆動制御で出力可能な流量を超えたため、急増圧フラグがセットされる。このとき、図7のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS11へと進む流れが繰り返され、モータMは正弦波駆動により駆動される。
【0089】
時点t2では、モータ回転速度ωeが印加電圧切り替え速度ωchを超え、かつ、出力電圧指令(出力電圧指令ベクトルの大きさ||Vdq*||)が正弦波出力可能電圧Vsin_maxを超えたため、図7のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS9→ステップS10へと進む流れとなり、正弦波駆動制御から180度矩形波駆動制御へと切り替えるための移行期間となる。
【0090】
ここで、移行期間における印加電圧切り替え速度ωchは、モータトルク指令値T*が大きいほど小さな値に設定されるため、通常、電圧指令||Vdq*||が正弦波出力可能電圧Vsin_maxを超えるよりも前にモータ回転速度ωeは印加電圧切り替え速度ωchを超えるようになっている。これにより、矩形波駆動によってモータトルクを減少させることなく、最大出力まで連続して駆動することが可能となる。
【0091】
時点t3では、180度矩形波駆動制御が開始され、時点t3〜t4の区間では、モータMの各相が180度矩形波駆動により制御される。図21は、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと駆動方式を切り替える際の相電圧波形とその基本波を示す図であり、正弦波駆動から180度矩形波駆動に切り替えた後は、相電圧基本波がバッテリ電圧Edを超えて出力されていることがわかる。つまり、180度矩形波駆動では、モータ駆動に使用できる電圧が増加するため、正弦波駆動に比べてより大きな出力を得ることができる。
【0092】
図20のタイムチャートから明らかなように、「切り替えなし」の場合には、モータ回転速度が正弦波駆動の出力可能上限値で頭打ちとなるため、ホイルシリンダ液圧が指令値に追従できず、制御遅れが生じている。
【0093】
これに対し、実施例1では、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと駆動方式を切り替えることで、時点t3以降もモータMを加速させてホイルシリンダの流量を増大でき、ホイルシリンダ液圧を指令値に追従させることができる。
【0094】
時点t4では、急増圧フラグがリセットされたため、180度矩形波駆動制御から正弦波駆動制御へと切り替える。つまり、高応答性が要求される状況では、180度矩形波駆動とすることでモータ回転数を上昇させることができ、高応答性が要求されない状況では、正弦波駆動とすることで、静粛性を確保できる。
【0095】
[デッドタイム調整作用]
図22には、正弦波駆動から180度矩形波駆動に切り替えた際のFET駆動信号を示す。ここでは、便宜上正弦波駆動時のPWM2周期に対して矩形波駆動制御1周期が対応するように描いている。通常は、静粛性向上のために、正弦波駆動時のPWM周波数はその周波数に同期して発生する騒音を人間の可聴領域から外すこと、および制御性の面から、非常に高周波数に設定されているので、矩形波駆動制御1周期(電気角1周期)と同期間に入る正弦波PWM周期は図22に示されているよりも多くなる。
【0096】
図22から正弦波駆動制御時は電圧波形に含まれるデッドタイムTd_sqが多くなることがわかる。このデッドタイムTd_sqはインバータ回路17を保護するために不可欠であるが、デッドタイム期間はインバータ回路17が電力の供給をすることができないため、含まれるデッドタイムTd_sqの増加によって、インバータ回路17がモータMに供給できる電力は減少する。
【0097】
一方で180度矩形波駆動では、回転速度によらず電気角1周期に対してTd_sqは2回分のみ含まれる。そのため電源電圧を利用できる割合が高くなることがわかる。電圧利用率が高く取れることはモータMの最大出力向上に有効である。また、印加電圧切り替え期間では、180度矩形波駆動におけるデッドタイムTd_sqを可変にする(デッドタイムTd_sqを徐々に大きくする)ことで、正弦波駆動から完全な180度矩形波駆動へ移行する間のトルクを制御し、滑らかな印加電圧の切り替えを可能にしている。ただし、これはデッドタイムTd_sqを可変にする手段の他にも、電圧指令位相θ_V*を可変にすることでモータトルクを制御すること、およびこれらの手段を併用することによっても達成することができる。
【0098】
[自動ブレーキ制御への適用]
以上説明したように、実施例1の電動ブレーキ装置では、急増圧要求時に所定条件が成立した場合、ポンプPを駆動するモータMの制御方式を、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと切り替えるため、ABS,TCS,VDC,前方車追従制御,前方衝突回避ブレーキ制御等の自動ブレーキ制御作動時、制動力の高い応答性が得られる。
以下、TCS作動時とVDC作動時を例に説明する。
【0099】
(TCS作動時)
図23は、TCS作動時の印加電圧切り替え作用を示すタイムチャートであり、実施例1を太い実線、切り替えなしの場合を細い実線で示している。実施例1では、加速スリップの発生時、切り替えなしの場合と比較して、ホイルシリンダ液圧の昇圧応答性が高いため、車輪速の上昇をより早期に抑制でき、加速スリップを小さく抑えることができる。
【0100】
(VDC作動時)
図24は、VDC作動時の印加電圧切り替え作用を示すタイムチャートであり、実施例1を太い実線、切り替えなしの場合を細い実線で示している。実施例1では、車両がオーバーステア傾向となってVDCが作動した場合、切り替えなしの場合と比較して、ホイルシリンダ液圧の昇圧応答性が高いため、オーバーステア傾向をより早期に抑制でき、目標ヨーレイトへの追従性を高めることができる。
【0101】
[実施例1の効果]
以下、実施例1の効果を列挙する。
実施例1の電動ブレーキ装置では、制動要求が所定のポンプ吐出流量を必要とする増圧勾配より大きい急増圧要求時には、モータMの各相に第1の波形電圧である180度矩形波電圧を印加し、急増圧要求がない場合には、第2の波形電圧である正弦波電圧を印加する。
【0102】
これにより、正弦波駆動のみでモータMを駆動する場合と比較して、急増圧要求時におけるモータ出力を向上させることができるため、制動力をより高速に立ち上げることができる。また、実施例1の制御を適用しない場合と比較して、小型のブラシレスモータを用いた場合でも同等の出力特性が得られるため、電動ブレーキ装置のコンパクト化を図ることができる。
【0103】
さらに、矩形波駆動時には、正弦波駆動と比較してFETのON/OFF回数を少なくすることができること、また出力向上のためにモータ出力に寄与しないエネルギーを与えることが無いこと、等の理由から、エネルギー効率の向上を図ることができる。
一方、急増圧要求が無い場合には、正弦波駆動によりモータMを駆動することで、モータトルクの脈動を抑制し、高い静粛性を得ることができる。
【0104】
実施例1の電動ブレーキ装置では、出力電圧指令(出力電圧指令ベクトルの大きさ||Vdq*||)が正弦波出力可能電圧Vsin_maxを超えている場合、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと切り替える。つまり、正弦波駆動ではモータMの出力電圧要求に応じたモータトルクを確保できない場合には、180度矩形波駆動によりモータ出力を高めることで、要求されたモータトルクを確保することができる。一方、モータMの出力電圧要求が低い場合には、正弦波駆動によりモータMを駆動することで、高い制御性および高静粛性を得ることができる。
【0105】
実施例1の電動ブレーキ装置では、モータ回転速度ωeが印加電圧切り替え速度ωchよりも大きい場合、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと切り替える。つまり、モータMの回転数(回転速度ωe)が小さいとき、正弦波駆動から180度矩形波駆動へ切り替えた場合、モータMに過大電流が流れ、モータトルクに過大な脈動が発生してしまう。また、インバータ回路17に過電流が流れることで、インバータ回路17が破損するおそれがある。
【0106】
よって、実施例1では、モータ回転数がある程度高くなった場合にのみ正弦波駆動から180度矩形波駆動へと切り替えることで、過大なトルク脈動の発生を回避しつつ、急増圧が要求される状況での高応答性と、急増圧が要求されない状況での高静粛性との両立を図ることができる。
【0107】
実施例1の電動ブレーキ装置では、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと切り替える時、インバータ回路17を構成する上流と下流の半導体スイッチを共にオフする期間(デッドタイムTd_sq)を調整し、PWM信号のキャリア繰り返し周期であるキャリア周期を長くする。
【0108】
これにより、周期の短い正弦波駆動から周期の長い180度矩形波駆動へと移行する間のトルクを制御できるため、制御切り替え時のトルク変動を抑制できる。さらに、キャリア周期を徐々に長くすることで、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと滑らかに移行することができ、トルク変動がより抑えられて良好な操作感を得ることができる。
【0109】
実施例1の電動ブレーキ装置の制御方法では、モータMの各相に180度矩形波電圧を印加する前に正弦波電圧を印加する。これにより、モータMの駆動初期段階では、正弦波駆動の特性である高静粛性が得られ、その後は180度矩形波駆動の特性である高応答性、電圧利用率の向上およびモータMの高回転が得られる。また、小型のブラシレスモータを用いることができ、電動ブレーキ装置のコンパクト化を図ることができる。
【0110】
実施例1の電動ブレーキ装置の制御方法では、車両の状態に応じた制動要求が所定のポンプ吐出量を超え、かつ、モータMの出力電圧指令(出力電圧指令ベクトルの大きさ||Vdq*||)が正弦波出力可能電圧Vsin_maxを超え、かつ、モータMの回転速度ωeが印加電圧切り替え速度ωchよりも大きくなった後に、180度矩形波電圧を印加する。
【0111】
これにより、モータMの回転速度が小さく、モータMに必要な電圧が正弦波駆動で出力可能な電圧である場合には、正弦波駆動によりモータトルクの脈動を抑えることができる。一方、急増圧要求時であってモータMの回転速度が高く、モータMに必要な電圧が正弦波駆動で出力可能な電圧を超える場合には、180度矩形波駆動により高応答性を確保することができる。よって、静粛性と応答性との両立を図ることができる。
【0112】
実施例1の電動ブレーキ装置の制御方法では、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと切り替える時、インバータ回路17を構成する上流と下流の半導体スイッチを共にオフする期間(デッドタイムTd_sq)を調整し、PWM信号のキャリア繰り返し周期であるキャリア周期を長くする。
【0113】
これにより、周期の短い正弦波駆動から周期の長い180度矩形波駆動へと移行する間のトルクを制御できるため、制御切り替え時のトルク変動を抑制できる。さらに、キャリア周期を徐々に長くすることで、正弦波駆動から180度矩形波駆動へと滑らかに移行することができ、トルク変動がより抑えられて良好な操作感を得ることができる。
【0114】
[ブレーキ特有の効果について]
ポンプモータの制御において、比較的低回転の使用頻度が高いブレーキのアプリケーションとしては、通常ブレーキや前車(先行車)自動追尾システムなど、通常の利便性が求められる機能が多く、静粛性が要求される。
矩形波駆動を上記のような状況で用いると、液圧の脈動によってロータとパッドとの周期的な接触によりいわゆるグー音(AT車におけるクリープ時のブレーキング等で足回りから発生する低周波異音)が発生し、乗員に不快感を与える。
【0115】
一方、ポンプモータの制御において、比較的高回転の使用頻度が高いブレーキのアプリケーションとしては、ABSやVDC、衝突回避ブレーキ等緊急時に使用する機能が多く、静粛性よりも応答性が要求される。また、上記機能においては、車輪速信号の処理などCPUの演算負荷が高い場合が多く、矩形波駆動よりも演算負荷の高い正弦波駆動を上記状況で用いる場合は、演算の制限が生じる可能性がある。
実施例1では、以上のような状況に応じて正弦波駆動と矩形波駆動とを切り替えることにより、ブレーキシステムとして静粛と高機能との両立を実現できる。
【実施例2】
【0116】
実施例2では、油圧制御装置CUの油圧回路構成のみ実施例1と異なる。実施例1では、油圧制御装置CUの油圧回路としてオープン油圧回路を用いたのに対し、実施例2では、クローズ油圧回路を用いている。
【0117】
ここで、オープン油圧回路とは、ホイルシリンダへ供給されたブレーキ液を、マスタシリンダを介すことなく直接リザーバへと戻すことが可能な油圧回路をいう。一方、クローズ(クローズド)油圧回路とは、ホイルシリンダへ供給されたブレーキ液を、マスタシリンダを介してリザーバへと戻す油圧回路をいう。
【0118】
図25、実施例2の油圧制御装置CUの油圧回路図であり、ブレーキ回路は、独立した2つの系統、すなわちP系統とS系統に分かれ、各系統に対応したブレーキ回路10P,20Sを有している。ブレーキ回路10Pは左前輪のホイルシリンダW/C(FL)と右後輪のホイルシリンダW/C(RR)とに接続され、ブレーキ回路20Sは右前輪のホイルシリンダW/C(FR)と左後輪のホイルシリンダW/C(RL)とに接続されており、いわゆるX配管構造となっている。なお、ブレーキ回路はX配管でなくともよい。
ブレーキペダルBPは、運転者の踏み込み操作を図示しない倍力装置およびインプットロッドを介してマスタシリンダM/Cへ伝達する。
【0119】
マスタシリンダM/Cは、実施例1と同様にタンデム型であり、前後に並んだ2つのマスタシリンダピストンによってシリンダの中に2つの液圧室が隔成されている。2つの液圧室は、それぞれリザーバRSVからブレーキ液の供給を受ける。一方の液圧室はブレーキ回路10Pに接続され、他方の液圧室はブレーキ回路20Sに接続されている。
【0120】
マスタシリンダM/Cは、ブレーキペダルBPが踏み込まれると、ブレーキペダルBPの踏み込み量に応じた液圧を上記2つの液圧室に発生する。このマスタシリンダ圧が、それぞれブレーキ回路10P,10Sに供給される。
【0121】
なお、各マスタシリンダピストンの外周には周知のカップ状のシール部材が設けられており、ピストンストローク時には、このシール部材により各液圧室とリザーバRSVとの連通が遮断されることで、各液圧室内の加圧が可能となる。
【0122】
このとき、リザーバRSVからはブレーキ回路10P,10Sへブレーキ液が供給されず、マスタシリンダM/Cの液圧室からのみブレーキ回路10P,10Sへブレーキ液が供給されることになる。
【0123】
一方、ブレーキペダルBPが戻されると、各マスタシリンダピストンが(液圧室内に設けられた)戻しバネの力で戻される。このとき、上記シール部材の構造により、マスタシリンダM/Cの液圧室とリザーバRSVが連通する。これにより、リザーバRSVのブレーキ液をマスタシリンダM/Cの液圧室に供給することが再び可能となる。
【0124】
ブレーキ回路10PのマスタシリンダM/C側(以下、上流という)からホイルシリンダW/C側(以下、下流という)に向かう途中には、常開の比例電磁弁であるゲート減圧弁GV-OUT(P)が設けられている。ブレーキ回路10Pにはゲート減圧弁VG-OUT(P)と並列に油路10jが接続されている。
【0125】
油路10j上には、下流側から上流側へ向かうブレーキ液の流れを防止するチェック弁10pが設けられている。以下、ゲート減圧弁GV-OUT(P)上流側のブレーキ回路10Pをブレーキ回路10nとし、ゲート減圧弁GV-OUT(P)下流側のブレーキ回路10Pをブレーキ回路10kという。
【0126】
ブレーキ回路10kは、ブレーキ回路10a,10bに分岐している。ブレーキ回路10a,10bは、それぞれホイルシリンダW/C(FL,RR)に接続している。ブレーキ回路10a,10b上には、常開の比例電磁弁である増圧弁IN/V(FL,RR)がそれぞれ設けられている。
【0127】
ブレーキ回路10aには、増圧弁IN/V(FL)と並列に油路10lが接続されている。油路10l上には、上流側から下流側へ向かうブレーキ液の流れを防止するチェック弁10qが設けられている。同様に、増圧弁IN/V(RR)と並列に接続された油路10m上には、上流側から下流側へ向かうブレーキ液の流れを防止するチェック弁10rが設けられている。
【0128】
増圧弁IN/V(FL,RR)の下流側のブレーキ回路10a,10bには、リターン回路10c,10dがそれぞれ接続されている。リターン回路10c,10dにはそれぞれ常閉のオン・オフ電磁弁である減圧弁OUT/V(FL)が設けられている。リターン回路10c,10dは合流してリターン回路10eを形成している。リターン回路10eは、リザーバ10tに接続している。
【0129】
一方、ゲート減圧弁GV-OUT(P)の上流側のブレーキ回路10nには、吸入回路10gが接続している。吸入回路10g上には、吸入回路10gの連通・遮断を切り換える常閉のオン・オフ電磁弁であるゲート増圧弁GV-IN(P)が設けられている。吸入回路10gは、リザーバ10tからのリターン回路10fと合流して吸入回路10hを形成している。
【0130】
油圧制御装置CUには、マスタシリンダM/C以外の液圧源として、ブレーキ液の吸入・吐出を行うポンプPが設置されている。ポンプPはモータMにより作動するギヤポンプであり、第1ポンプP1(P系統)および第2ポンプP2(S系統)を備えている。
【0131】
第1ポンプP1の吸入側は、吸入回路10hに接続されている。第1ポンプP1の吐出側は、吐出回路10iに接続されており、吐出回路10iを介してブレーキ回路10kに接続されている。
【0132】
なお、リターン回路10f上には、チェック弁10sが設けられており、吸入回路10g(ゲート増圧弁GV-IN(P))からリザーバ10tへ向かうブレーキ液の流れを防止する。
【0133】
吐出回路10i上には、チェック弁10uが設けられており、ブレーキ回路10k(ゲート減圧弁GV-OUT(P))またはブレーキ回路10a,10b(ホイルシリンダW/C)から第1ポンプP1(吐出側)へ向かうブレーキ液の流れを防止する。
なお、ブレーキ回路20S側の油圧回路も、上記ブレーキ回路10Pと同様に構成されている。
【0134】
実施例2の油圧制御装置CUは、通常ブレーキ時において下記倍力制御を実行可能であるほか、実施例1と同様、TCS,ABS,VDC等の自動ブレーキ制御を実行可能である。
【0135】
自動ブレーキ制御時には、ブレーキ回路10P側を例にとると、ゲート減圧弁GV-OUT(P)を閉弁する一方、ゲート増圧弁GV-IN(P)を開弁する。同時にポンプPを作動させ、マスタシリンダM/Cから吸入回路10g,10hおよび吐出回路10iを介してブレーキ回路10a,10bに向けてブレーキ液を供給する。
【0136】
さらに、車両挙動安定に必要な制動力に応じたホイルシリンダ目標液圧を発生させるように、ゲート減圧弁GV-OUT(P)または増圧弁IN/V(FL,RR)を制御する。ブレーキ回路20S側でも同様である。
【0137】
また、ABS作動時には、車輪FLを例にとると、ホイルシリンダW/Cに接続されている減圧弁OUT/V(FL)を開弁するとともに増圧弁IN/V(FL)を閉弁し、ホイルシリンダW/Cのブレーキ液をリザーバ10tに排出することにより減圧を行う。また、車輪FLがロック傾向から回復したら、減圧弁OUT/V(FL)を閉弁してホイルシリンダ圧を保持する。
【0138】
また、ポンプPを作動させるとともに増圧弁IN/V(FL)を開弁して適宜増圧を行う。ポンプPは、減圧時にリザーバ10tに逃がしたブレーキ液をブレーキ回路10kに戻す役割を果たす。
【0139】
上記構成のクローズ油圧回路を採用した油圧制御装置CUを備えた電動ブレーキ装置においても、実施例1に示した印加電圧切り替え制御を適用することで、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0140】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0141】
例えば、実施例では、正弦波駆動から180度矩形波駆動への切り替え条件として、急増圧要求の有無(ステップS6)と、出力電圧指令と正弦波出力可能電圧との関係(ステップS7)と、モータ回転速度(ステップS9)との3つの条件を設定したが、切り替え条件は、上記3つの条件のいずれか1つまたは2つを組み合わせてもよい。
【0142】
また、実施例1では、モータMの回転速度として、回転速度の実測値ωeを用いた例を示したが、モータMの回転速度要求値から回転速度を演算する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】実施例1の電動ブレーキ装置を適用した4輪ブレーキバイワイヤシステムのシステム構成図である。
【図2】実施例1の油圧制御装置CUの油圧回路図である。
【図3】コントロールユニットECUの内部構成を示す図である。
【図4】コントロールユニットECUにおける制動制御処理の制御ブロック図である。
【図5】コントロールユニットECUにおける印加電圧切り替え制御の制御ブロック図である。
【図6】メインモータMain/Mに印可する電圧を制御するインバータ回路17の構成を示す図である。
【図7】実施例1のコントロールユニットECUで実行される駆動手段切り替え制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】ステップS5の電流制御電圧指令値演算処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】ステップS51の電流指令演算処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】ステップS52の座標変換処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】ステップS53の電流PI制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】駆動手段を切り替える際の切り替え閾値となる速度を求めるマップである。
【図13】ステップS10の180度矩形波駆動制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】デッドタイムを求めるマップである。
【図15】矩形波駆動処理において、デッドタイムTd_sqが制御周期よりも長い場合にFETのON/OFF状態を切り替える位相を示す図である。
【図16】矩形波駆動処理において、デッドタイムTd_sqが制御周期よりも短い場合に、FETのON/OFFを切り替える位相を示す図である。
【図17】図14、15に示した状態切り替え位相を表で表したものである。
【図18】ステップS11の正弦波駆動制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図19】正弦波駆動制御処理で電圧指令のリミット処理を示す真理値表である。
【図20】急増圧が要求された場合の駆動手段切り替え過程を示すタイムチャートである。
【図21】正弦波駆動から180度矩形波駆動へと駆動方式を切り替える際の相電圧波形とその基本波を示す図である。
【図22】正弦波駆動から180度矩形波駆動に切り替えた際のFET駆動信号を示す図である。
【図23】TCS作動時の印加電圧切り替え作用を示すタイムチャートである。
【図24】VDC作動時の印加電圧切り替え作用を示すタイムチャートである。
【図25】実施例2の油圧制御装置CUの油圧回路図である。
【符号の説明】
【0144】
ECU コントロールユニット
M モータ(ブラシレスモータ)
P ポンプ
W/C ホイルシリンダ
11 制動要求演算部
12 電圧指令値判断部
13 回転速度検出部
14 180度矩形波駆動部(第1波形駆動部)
15 正弦波駆動部(第2波形駆動部)
16 印加電圧切り替え部
17 インバータ回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に設けられたホイルシリンダの圧力を増圧して制動力を発生させるポンプを駆動するブラシレスモータと、
前記ブラシレスモータを駆動するためのインバータ回路と、
前記インバータ回路に駆動信号を送るコントロールユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、
車両の状態に応じて制動要求を演算する制動要求演算部と、
前記ブラシレスモータの各相に第1の波形電圧を印加する第1波形駆動部と、
前記ブラシレスモータの各相に第2の波形電圧を印加する第2波形駆動部と、
前記演算された制動要求に応じて印加する電圧を切り替える印加電圧切り替え部と、
を有し、
前記印加電圧切り替え部は、前記演算された制動要求が所定のポンプ吐出流量を必要とする増圧勾配より大きい時には前記ブラシレスモータの各相に第1の波形電圧を印加し、前記所定の増圧勾配より小さい時には第2の波形電圧を印加することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、
前記第1の波形は180度矩形波であり、前記第2の波形は正弦波であることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、
前記印加電圧切り替え部は、印加電圧を切り替える時、前記インバータ回路を駆動するPWMキャリア周期を長くすることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電動ブレーキ装置において、
前記印加電圧切り替え部は、印加電圧を切り替える時、前記PWMキャリア周期を徐々に長くすることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動ブレーキ装置において、
前記コントロールユニットは、前記ブラシレスモータの出力電圧指令値が正弦波電圧で出力可能か否かを判断する電圧指令値判断部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、出力電圧指令値が正弦波電圧の出力可能電圧を超えた時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電動ブレーキ装置において、
前記コントロールユニットは、前記ブラシレスモータの回転速度を検出する回転速度検出部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、検出された回転速度が所定の回転速度より速くなった時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項4に記載の電動ブレーキ装置において、
前記コントロールユニットは、前記ブラシレスモータの回転速度を検出する回転速度検出部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、検出された回転速度が所定の回転速度より速くなった時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項8】
車両に制動力を発生させるアクチュエータとしてのブラシレスモータと、
前記ブラシレスモータを駆動するためのインバータ回路と、
前記インバータ回路に駆動信号を送るコントロールユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、
前記ブラシレスモータの各相に180度矩形波電圧を印加する180度矩形波駆動部と、
第2の波形電圧を印加する第2波形駆動部と、
前記ブラシレスモータの各相に180度矩形波電圧を印加する前に第2の波形電圧を印加する印加電圧切り替え部と、
を有することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電動ブレーキ装置において、
前記第2の波形電圧は正弦波であることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項10】
請求項9に記載の電動ブレーキ装置において、
前記アクチュエータは、車輪に設けられたホイルシリンダの圧力を増圧して制動力を発生させるポンプを有し、
前記コントロールユニットは、車両の状態に応じて制動要求を演算する制動要求演算部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、演算された制動要求が所定のポンプ吐出流量より多く必要な場合に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電動ブレーキ装置において、
前記コントロールユニットは、前記ブラシレスモータの出力電圧指令値が正弦波電圧で出力可能か否かを判断する電圧指令値判断部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、出力電圧指令値が正弦波電圧の出力可能電圧を超えた時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項12】
請求項11に記載の電動ブレーキ装置において、
前記コントロールユニットは、前記ブラシレスモータの回転速度を検出する回転速度検出部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、検出された回転速度が所定の回転速度より速くなった時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項13】
請求項12に記載の電動ブレーキ装置において、
前記印加電圧切り替え部は、印加電圧を切り替える時、前記インバータ回路を駆動するPWMキャリア周期を長くすることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項14】
請求項13に記載の電動ブレーキ装置において、
前記印加電圧切り替え部は、印加電圧を切り替える時、前記PWMキャリア周期を徐々に長くすることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項15】
請求項9に記載の電動ブレーキ装置において、
前記コントロールユニットは、
車両の状態に応じて制動要求を演算する制動要求演算部と、
前記ブラシレスモータの出力電圧指令値が正弦波電圧で出力可能な否かを判断する電圧指令値判断部と、
を有し、
前記印加電圧切り替え部は、演算された要求制動が要求ポンプ吐出流量より多く、かつ、出力電圧指令値が正弦波電圧の出力可能電圧を超えた時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項16】
請求項15に記載の電動ブレーキ装置において、
前記ブラシレスモータの回転速度を検出する回転速度検出部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、検出された回転速度が所定の回転速度より速くなった時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項17】
請求項9に記載の電動ブレーキ装置において、
前記ブラシレスモータの回転速度を検出する回転速度検出部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、検出された回転速度が所定の回転速度より速くなった時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項18】
請求項9に記載の電動ブレーキ装置において、
前記印加電圧切り替え部は、印加電圧を切り替える時、前記インバータ回路を駆動するPWMキャリア周期を長くすることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項19】
請求項18に記載の電動ブレーキ装置において、
前記印加電圧切り替え部は、印加電圧を切り替える時、前記PWMキャリア周期を徐々に長くすることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項20】
車輪に設けられたホイルシリンダの圧力を増圧して制動力を発生させるポンプを駆動するブラシレスモータの印加電圧を、必要制動力に応じて制御する電動ブレーキ装置の制御方法において、
前記ブラシレスモータの各相に矩形波電圧を印加する前に正弦波電圧を印加することを特徴とする電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項21】
請求項20に記載の電動ブレーキ装置の制御方法において、
前記矩形波電圧は、180度矩形波電圧であることを特徴とする電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項22】
請求項21に記載の電動ブレーキ装置の制御方法において、
車両の状態に応じた制動要求が所定のポンプ吐出流量を超え、かつ、前記ブラシレスモータの出力電圧指令値が正弦波電圧の出力可能電圧を超え、かつ、前記ブラシレスモータの回転速度が所定の回転速度より速くなった後に、180度矩形波電圧を印加することを特徴とする電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項23】
請求項22に記載の電動ブレーキ装置の制御方法において、
正弦波電圧を矩形波電圧に切り替える時、前記ブラシレスモータを駆動するためのインバータ回路を駆動するPWMキャリア周期を徐々に長くすることを特徴とする電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項1】
車輪に設けられたホイルシリンダの圧力を増圧して制動力を発生させるポンプを駆動するブラシレスモータと、
前記ブラシレスモータを駆動するためのインバータ回路と、
前記インバータ回路に駆動信号を送るコントロールユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、
車両の状態に応じて制動要求を演算する制動要求演算部と、
前記ブラシレスモータの各相に第1の波形電圧を印加する第1波形駆動部と、
前記ブラシレスモータの各相に第2の波形電圧を印加する第2波形駆動部と、
前記演算された制動要求に応じて印加する電圧を切り替える印加電圧切り替え部と、
を有し、
前記印加電圧切り替え部は、前記演算された制動要求が所定のポンプ吐出流量を必要とする増圧勾配より大きい時には前記ブラシレスモータの各相に第1の波形電圧を印加し、前記所定の増圧勾配より小さい時には第2の波形電圧を印加することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、
前記第1の波形は180度矩形波であり、前記第2の波形は正弦波であることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、
前記印加電圧切り替え部は、印加電圧を切り替える時、前記インバータ回路を駆動するPWMキャリア周期を長くすることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電動ブレーキ装置において、
前記印加電圧切り替え部は、印加電圧を切り替える時、前記PWMキャリア周期を徐々に長くすることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動ブレーキ装置において、
前記コントロールユニットは、前記ブラシレスモータの出力電圧指令値が正弦波電圧で出力可能か否かを判断する電圧指令値判断部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、出力電圧指令値が正弦波電圧の出力可能電圧を超えた時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電動ブレーキ装置において、
前記コントロールユニットは、前記ブラシレスモータの回転速度を検出する回転速度検出部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、検出された回転速度が所定の回転速度より速くなった時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項4に記載の電動ブレーキ装置において、
前記コントロールユニットは、前記ブラシレスモータの回転速度を検出する回転速度検出部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、検出された回転速度が所定の回転速度より速くなった時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項8】
車両に制動力を発生させるアクチュエータとしてのブラシレスモータと、
前記ブラシレスモータを駆動するためのインバータ回路と、
前記インバータ回路に駆動信号を送るコントロールユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、
前記ブラシレスモータの各相に180度矩形波電圧を印加する180度矩形波駆動部と、
第2の波形電圧を印加する第2波形駆動部と、
前記ブラシレスモータの各相に180度矩形波電圧を印加する前に第2の波形電圧を印加する印加電圧切り替え部と、
を有することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電動ブレーキ装置において、
前記第2の波形電圧は正弦波であることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項10】
請求項9に記載の電動ブレーキ装置において、
前記アクチュエータは、車輪に設けられたホイルシリンダの圧力を増圧して制動力を発生させるポンプを有し、
前記コントロールユニットは、車両の状態に応じて制動要求を演算する制動要求演算部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、演算された制動要求が所定のポンプ吐出流量より多く必要な場合に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電動ブレーキ装置において、
前記コントロールユニットは、前記ブラシレスモータの出力電圧指令値が正弦波電圧で出力可能か否かを判断する電圧指令値判断部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、出力電圧指令値が正弦波電圧の出力可能電圧を超えた時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項12】
請求項11に記載の電動ブレーキ装置において、
前記コントロールユニットは、前記ブラシレスモータの回転速度を検出する回転速度検出部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、検出された回転速度が所定の回転速度より速くなった時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項13】
請求項12に記載の電動ブレーキ装置において、
前記印加電圧切り替え部は、印加電圧を切り替える時、前記インバータ回路を駆動するPWMキャリア周期を長くすることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項14】
請求項13に記載の電動ブレーキ装置において、
前記印加電圧切り替え部は、印加電圧を切り替える時、前記PWMキャリア周期を徐々に長くすることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項15】
請求項9に記載の電動ブレーキ装置において、
前記コントロールユニットは、
車両の状態に応じて制動要求を演算する制動要求演算部と、
前記ブラシレスモータの出力電圧指令値が正弦波電圧で出力可能な否かを判断する電圧指令値判断部と、
を有し、
前記印加電圧切り替え部は、演算された要求制動が要求ポンプ吐出流量より多く、かつ、出力電圧指令値が正弦波電圧の出力可能電圧を超えた時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項16】
請求項15に記載の電動ブレーキ装置において、
前記ブラシレスモータの回転速度を検出する回転速度検出部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、検出された回転速度が所定の回転速度より速くなった時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項17】
請求項9に記載の電動ブレーキ装置において、
前記ブラシレスモータの回転速度を検出する回転速度検出部を有し、
前記印加電圧切り替え部は、検出された回転速度が所定の回転速度より速くなった時に印加電圧を切り替えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項18】
請求項9に記載の電動ブレーキ装置において、
前記印加電圧切り替え部は、印加電圧を切り替える時、前記インバータ回路を駆動するPWMキャリア周期を長くすることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項19】
請求項18に記載の電動ブレーキ装置において、
前記印加電圧切り替え部は、印加電圧を切り替える時、前記PWMキャリア周期を徐々に長くすることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項20】
車輪に設けられたホイルシリンダの圧力を増圧して制動力を発生させるポンプを駆動するブラシレスモータの印加電圧を、必要制動力に応じて制御する電動ブレーキ装置の制御方法において、
前記ブラシレスモータの各相に矩形波電圧を印加する前に正弦波電圧を印加することを特徴とする電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項21】
請求項20に記載の電動ブレーキ装置の制御方法において、
前記矩形波電圧は、180度矩形波電圧であることを特徴とする電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項22】
請求項21に記載の電動ブレーキ装置の制御方法において、
車両の状態に応じた制動要求が所定のポンプ吐出流量を超え、かつ、前記ブラシレスモータの出力電圧指令値が正弦波電圧の出力可能電圧を超え、かつ、前記ブラシレスモータの回転速度が所定の回転速度より速くなった後に、180度矩形波電圧を印加することを特徴とする電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項23】
請求項22に記載の電動ブレーキ装置の制御方法において、
正弦波電圧を矩形波電圧に切り替える時、前記ブラシレスモータを駆動するためのインバータ回路を駆動するPWMキャリア周期を徐々に長くすることを特徴とする電動ブレーキ装置の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2008−265730(P2008−265730A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46975(P2008−46975)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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