説明

電動ポンプ

【課題】ドライブロータの内周面、及び、ドリブンロータの外周面の摩耗を低減することが可能となる電動ポンプを提供する。
【解決手段】ドライブロータR1の永久磁石M1より内側に、周方向に等間隔に8個の貫通孔R1cを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ一体型の容積式電動ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車には、変速機及びエンジンなどに潤滑油を供給するための電動ポンプが搭載されている。近年、自動車は多機能化が進み、その部品点数が増大している。これに伴い、電動ポンプは小型化を要求され、ポンプ部とモータ部が一体化された電動ポンプが種々提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
この種の電動ポンプは、回転軸を中心に回転するドライブロータと、このドライブロータの内周に対し、その外周が摺動接触する状態で配設され、ドライブロータの回転中心から偏心した位置を中心に回転するドリブンロータとで構成されたポンプ部を備えている。
【0004】
また、ドライブロータの外周に永久磁石を備えて回転子を形成し、このドライブロータを取り囲む位置に配設され内径側に向かって延びた複数のティースに巻線を巻回したステータコアを備えたステータを形成し、ハウジングがその内周面に該ステータを固定している。更に、ステータの各巻線に駆動装置によって電力を供給することによりドライブロータが回転し、この回転に連動してドリブンロータが回転する。これにより、ドライブロータとドリブンロータとの間に流体を吸入し、その流体を吐出することで電動ポンプとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−129966号公報
【特許文献2】特開平11−210642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の電動ポンプでは、ステータ及び永久磁石から内周に向かう磁束がドライブロータの内周面にまで作用し、ドライブロータの内周面に鉄粉が吸着してしまう。例えば、図8に示すように、ポンプ部P4がトロコイド式ポンプの場合、ドライブロータ61の内周面61aのうち、ステータ及び永久磁石に近いドライブロータ61の内周面61bほど磁束密度が大きくなっている。
【0007】
これにより、ドライブロータ61とドリブンロータ63が回転する際、ドライブロータ61とドリブンロータ63は摺動接触しているため、ドライブロータ61の内周面61aに吸着している鉄粉により、ドライブロータ61の内周面61aと、ドリブンロータ63の外周面63aとの間の摩耗が促進されてしまう。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ドライブロータの内周面、及び、ドリブンロータの外周面の摩耗を低減することが可能となる電動ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数の磁極を環状に配置したステータの内側に、複数の磁石磁極を周方向に設けたロータを、前記ステータの回転磁界にて回転するように配置し、前記ロータの前記複数の磁石磁極より内側の中央部にポンプ室を形成し、前記ポンプ室に、前記ロータの回転によって流体の吸引・排出を行うポンプ機構を配設した電動ポンプであって、前記ロータは、前記環状に配置された磁石磁極と前記ポンプ室との間に磁気抵抗として作用する磁気抵抗部を備えたことをその要旨とする。
【0010】
同構成によれば、ロータは、複数の磁石磁極とポンプ室との間に磁気抵抗部を備えたことにより、ステータから内側に向かう磁束の磁束密度を磁気抵抗部で低減することができる。従って、ロータの磁気抵抗部より内側では、磁束密度が小さくなって、磁束によりポンプ室に吸着する鉄粉を少なくすることができる。この結果、ロータが回転する際に、ポンプ室及びポンプ機構で生じる摩耗を低減することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記磁気抵抗部は、少なくとも一部において、前記ポンプ室と前記磁石磁極との径方向における最近接位値間、又は、前記ポンプ室に連なりベーンを保持する保持溝と前記磁石磁極との間に備えられ、または/および、前記磁石磁極は、少なくとも一部において、その長手方向の中央位置の内側に、前記ポンプ室と前記磁石磁極との径方向における最近接位置、又は、前記ポンプ室に連なり前記ベーンを保持する前記保持溝を配置するように配設されていることをその要旨とする。
【0012】
同構成によれば、磁気抵抗部は、少なくとも一部において、ポンプ室と磁石磁極との径方向における最近接位値間、又は、ポンプ室に連なりベーンを保持する保持溝と磁石磁極との間に備えられ、または/および、磁石磁極は、少なくとも一部において、その長手方向の中央位置の内側に、ポンプ室と磁石磁極との径方向における最近接位置、又は、ポンプ室に連なりベーンを保持する保持溝を配置するように配設されている。なお、「Aまたは/およびB」は、「AとBの少なくとも一つ」と同じ意味である。従って、ポンプ室の磁石磁極に対する最近接位置、及び、ポンプ機構に連なりベーンを保持する保持溝で、ステータ及び磁石磁極からの磁束による鉄粉の吸着によって摩耗してしまうため、磁気抵抗部をポンプ室と磁石磁極との径方向における最近接位置間、又は、ポンプ室に連なりベーンを保持する保持溝と磁石磁極との間に配設することで、ポンプ室におけるステータ及び磁石磁極からの磁束の磁束密度を効率良く低減し、ポンプ室の摩耗を低減することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記磁気抵抗部が、前記ロータの軸線方向に沿って貫通形成した複数の貫通孔であって、その複数の貫通孔を回転中心を中心軸として周方向に等間隔に形成することをその要旨とする。
【0014】
同構成によれば、ロータの磁気抵抗部は貫通孔で構成されている。従って、部品点数を増やすことなく容易に磁気抵抗部を形成することができる。この結果、部品管理コストや組み付けコストを削減することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記複数の凹部は、当該凹部を周方向に隔てる当該凹部間の中央充実部が前記磁石磁極の周方向中央位置に配置されていることをその要旨とする。
同構成によれば、複数の凹部は、当該凹部を周方向に隔てる当該凹部間の中央充実部が磁石磁極の周方向中央位置に配置されている。従って、磁石磁極の周方向中央位置の内側は磁束密度が小さいため、ポンプ室の磁石磁極との最近接位置の磁束密度が小さくなり、小さな凹部を形成するだけで、ポンプ室の摩耗を低減することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記凹部は、径方向に複数あって、外径側の隣接する前記凹部と内側の前記凹部とは径方向にラップする部分を有することをその要旨とする。
同構成によれば、凹部は、径方向に複数あって、外径側の隣接する凹部と、内側の凹部とは径方向にラップする部分を有する。従って、外側の凹部間を抜けたステータ及び磁石磁極からの磁束の磁束密度を低減することができる。この結果、凹部より内側では、ステータ及び磁石磁極からの磁束に対して凹部が磁気抵抗として作用するため、上記実施の形態と比べてさらに磁束の磁束密度を低減することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、前記凹部は、貫通孔であることをその要旨とする。
同構成によれば、凹部は、貫通孔であり、このようにしても請求項3〜5と同じ効果を得ることができる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、前記ステータ、前記ロータ及び前記ポンプ機構が軸線方向にラップすることをその要旨とする。
同構成によれば、ステータ、ロータ及びポンプ機構が軸方向にラップして配設されている。従って、電動ポンプが軸線方向に短くなって小型化することができる。
【0019】
請求項8に記載の発明は、有底筒状の前記フロントハウジングの底部側外側面の中央部を内側に凹設して底凹部を形成し、前記底凹部の外側と前記フロントハウジングの内側に環状のステータ収容空間を形成し、ポートブロックで閉鎖された前記底凹部にロータ収容空間を形成し、前記ステータ収容空間に前記ステータを配置するとともに、前記ロータ収容空間に前記ロータ及び前記ポンプ機構を配置したことをその要旨とする。
【0020】
同構成によれば、有底筒状のフロントハウジングの底部側外側面の中央部を内側に凹設して底凹部を形成し、底凹部の外側とフロントハウジングの内側に環状のステータ収容空間を形成し、凹部をポートブロックで閉鎖された凹部にロータ収容空間を形成し、ステータ収容空間にステータを配置するとともに、ロータ収容空間にロータ及びポンプ機構が配置されている。従って、フロントハウジングの1物品でステータ及びロータを径方向に保持対向させるようにした。この結果、ステータ及びロータの同軸性を向上させ、ポンプ室の容積効率あるいは静粛性を向上させることができ、電動ポンプのコストを低減することができる。
【0021】
請求項9に記載の発明は、有底筒状の前記フロントハウジングの内周面に環状の前記ステータを収容し、該ステータの内径側に予め設定された隙間を持たせて前記ロータを収容し、前記フロントハウジングの開口部を前記ポートブロックで閉鎖し、前記隙間に流体を介在させたことをその要旨とする。
【0022】
同構成によれば、有底筒状のフロントハウジングの内周面に環状のステータを収容し、該ステータの内径側に予め設定された隙間を持たせてロータを収容し、フロントハウジングの開口部をポートブロックで閉鎖し、前記隙間に流体を介在させている。
【0023】
従って、電動ポンプは、ステータとロータとの間にわずかな隙間だけ空けているため、両者間の磁気抵抗を小さいものとすることができ、小体格で高出力のポンプを得ることができる。
【0024】
請求項10に記載の発明は、前記フロントハウジングは、樹脂形成されたものであり、前記ステータを一体として形成されたものであることをその要旨とする。
同構成によれば、フロントハウジングは、樹脂形成されたものであり、ステータを一体として形成されている。従って、フロントハウジングとステータを容易に結合することができ、ステータが樹脂で固められるためステータの振動を抑制することができる。
【0025】
請求項11に記載の発明は、前記ポンプ機構が、トロコイド式ポンプで構成されることをその要旨とする。
この発明では、ポンプ機構がトロコイド式ポンプで構成され、請求項1〜10と同様な効果を得ることができる。
【0026】
請求項12に記載の発明は、前記ポンプ機構が、ベーン式ポンプで構成されることをその要旨とする。
同構成によれば、内接型ポンプがベーン式ポンプで構成され、請求項1〜10と同様な効果を得ることができる。
【0027】
請求項13に記載の発明は、前記ポンプ機構が、ロタスコ式ポンプで構成されることをその要旨とする。
同構成によれば、ポンプ機構がロタスコ式ポンプで構成され、請求項1〜10と同様な効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
従って、上記記載の発明によれば、ドライブロータの内周面、及び、ドリブンロータの外周面の摩耗を低減することが可能となる電動ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施の形態における電動ポンプの軸方向断面図である。
【図2】本実施の形態における電動ポンプの径方向断面図である。
【図3】別例における電動ポンプの部分拡大断面図である。
【図4】別例における電動ポンプ部の部分拡大断面図である。
【図5】別例の形態における電動ポンプの軸方向断面図である。
【図6】別例における電動ポンプ部の部分拡大断面図である。
【図7】別例における電動ポンプ部の部分拡大断面図である。
【図8】従来における電動ポンプの部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に従って説明する。
図1は電動ポンプ10の軸方向における断面図、図2は電動ポンプ10の径方向における断面図である。
【0031】
電動ポンプ10は、有底筒状のフロントハウジング12と、そのフロントハウジング12の開口部を閉鎖するエンドカバー13を有している。フロントハウジング12とエンドカバー13は、ボルトB1にて連結され、フロントハウジング12とエンドカバー13とで形成される空間に、駆動制御デバイスDを実装した回路基板15が収容されている。この回路基板15は、フロントハウジング12とエンドカバー13にて挟持固定されている。
【0032】
フロントハウジング12は、底部側外側面の中央部が内側に凹設されて底凹部16が形成されている。この底凹部16が凹設されることによって、フロントハウジング12の内側には、環状のステータ収容空間17が形成される。そして、この環状のステータ収容空間17に、モータ部Mを構成するステータSが設けられるようになっている。
【0033】
フロントハウジング12の底凹部16側には、底凹部16の開口部を閉塞するようにポートブロック18が配置され、ボルトB2にてお互いに連結固定されている。ポートブロック18は、底凹部16と嵌合し、底凹部16とでロータ収容空間19を形成する突起部20が形成されている。ロータ収容空間19は、フロントハウジング12とポートブロック18との間に配設したシールリングRにて水密状態が保持されている。
【0034】
そして、ロータ収容空間19には、流体を吸引・吐出するポンプ部P1が配設されている。ポンプ部P1は、回転軸21、ドライブロータR1、ドリブンロータR2を備えている。なお、本実施形態では、ポンプ部P1はモータ部Mのロータを兼ね、ステータSからの回転磁界によりドライブロータR1が回転するようになっている。
【0035】
ドライブロータR1は鉄製の円柱体であって、ロータ収容空間19内に中心軸線Aを回転中心に回転可能に配設されている。ドライブロータR1は、その外周面が底凹部16の内周面と摺動接触してすべり軸受けの構成となって、径方向に移動不能に支持されている。
【0036】
また、ドライブロータR1には、軸線方向に沿って複数(8個)の永久磁石M1が埋設されその8個の永久磁石M1が周方向に45度の間隔毎に配設されている。各永久磁石M1は、その磁極が周方向に交互にN極とS極にそれぞれ着磁されている。
【0037】
さらに、ドライブロータR1は、各永久磁石M1より内側には、軸線方向に沿って複数(8個)の貫通孔R1cが貫通形成され、その8個の貫通孔R1cが周方向に45度の間隔毎に配置されている。
【0038】
この貫通孔R1cは、ドライブロータR1がステータSとでモータ部Mを構成し、ドライブロータR1がステータSからの回転磁界により回転する際にステータSから内周に向かう磁束に対して磁気抵抗として働く。従って、ドライブロータR1の貫通孔R1cより内側では、貫通孔R1cを形成することにより、従来の貫通孔R1cを形成しない場合に比べて磁束の磁束密度を小さくすることができる。
【0039】
鉄製の円柱体で形成されたドライブロータR1は、その中央部を軸線方向に貫通形成して内歯歯車W1が形成されている。内歯歯車W1はトコロイド曲線の形状をした複数(実施形態では5個)の内歯R1aが形成されている。そして、本実施形態では、内歯歯車W1、突起部20の先端及び底凹部16の奥面とで、ポンプ室PSが形成される。
【0040】
ドライブロータR1の内側に形成したポンプ室PSには、ドリブンロータR2が配設されている。ドリブンロータR2は鉄製であって、図2に示すように、その外周に内歯歯車W1と噛合する外歯歯車W2が形成されている。外歯歯車W2は、トロコイド曲線の形状した複数(実施形態では4個)の外歯R2bが形成されている。ドリブンロータR2は、中心位置に貫通孔R2aが貫通形成され、その貫通孔R2aに回転軸21が挿通固定されている。
【0041】
ドリブンロータR2に固着された回転軸21は、その両端部がポートブロック18の突起部20先端面及びフロントハウジング12の底凹部16奥面に形成した軸受け孔25に回転自在にかつ軸線方向に移動不能に支持されている。突起部20先端面及び底凹部16の奥面に形成した軸受け孔25は、電動ポンプ10の中心軸線A(突起部20の中心位置と底凹部16の中心位置を結ぶ線)から偏心した位置に形成されている。その結果、回転軸21の中心軸Bは、電動ポンプ10の中心軸線Aと平行で且つ偏倚した位置となる。
【0042】
従って、ステータSの回転磁界によるドライブロータR1(内歯歯車W1)の中心軸Aを回転中心とする回転に伴って、ドリブンロータR2(外歯歯車W2)が連動して中心軸Bを回転中心として回転する。
【0043】
これにより、ドリブンロータR2とドライブロータR1とが連動して回転するとき、ドリブンロータR2の外歯R2bとドライブロータR1の内歯R1aとの噛み合う深さが回転に伴って浅くなると、ドリブンロータR2とドライブロータR1の隙間が低圧になり低圧室PSaが形成される。
【0044】
また、ドリブンロータR2とドライブロータR1とが連動して回転するとき、ドリブンロータR2の外歯R2bとドライブロータR1の内歯R1aとの噛み合う深さが回転に伴って深くなると、ドリブンロータR2とドライブロータR1の隙間が高圧になり高圧室PSbが形成される。
【0045】
ポートブロック18には、低圧室PSaにつながる流体を吸入するための吸入通路と吸入ポート(図示せず)が形成されている。そして、流体が吸入ポートから吸入通路を介して低圧室PSaに吸入されるようになっている。
【0046】
また、ポートブロック18には、高圧室PSbにつながる流体を吐出するための吐出通路と吐出ポート(図示せず)が形成されている。そして、流体が高圧室PSbから吐出通路と吐出ポートを介して吐出されるようになっている。
【0047】
なお、ポートブロック18に形成された吐出通路には、周知なボールばね押式等のチェック弁及びリリーフ弁(図示せず)がそれぞれ設けられている。
吐出通路に設けられたチェック弁は、吐出ポートから流体を吐出するときに開弁することで、流体の逆流を防ぐようになっている。
【0048】
吐出通路に設けられたリリーフ弁は、その通路の流体の流れが予め設定された圧力以上になったときに開弁することで、流体の流れを予め設定された圧力に規制するようになっている。
【0049】
一方、フロントハウジング12の内側に形成した環状のステータ収容空間17には、回転磁界を発生させるステータSが配設されている。ステータSは、環状のステータ収容空間17に複数(実施形態では12個)のステータコア31が30度毎に配設されて形成されている。各ステータコア31は、フロントハウジング12の外側内周面12aからフロントハウジング12の内側内周面12bに延びたティース32とこのティース32に巻回された巻線33とから構成されている。
【0050】
回路基板15に実装された各駆動制御デバイスDは、所定の動作をするようにポンプ部P1及びステータSを制御し、半導体装置(LSI)、コンデンサ、抵抗などの電子部品で構成されている。
【0051】
駆動制御デバイスDは、ドライブロータR1の回転姿勢を検出し、そのドライブロータR1の回転姿勢に応じて、ステータSのコイルに電力を適宜供給することにより、ドライブロータR1を回転させる回転磁界を発生させる。これにより、駆動制御デバイスDは、ステータSに回転磁界を発生させることで、ドライブロータR1の永久磁石M1に回転磁界を作用させてドライブロータR1を回転させる。
【0052】
次に、上記実施の形態の特徴的な作用効果を以下に記載する。
(1)ドライブロータR1の永久磁石M1より内側に、周方向に等間隔に8個の貫通孔R1cを設けた。従って、ステータコア31から内側に向かう磁束の磁束密度を貫通孔R1cで低減することができる。これにより、ドライブロータR1の貫通孔R1cより内側では、磁束密度が小さくなって、磁束によりドライブロータR1の内周面に吸着する鉄粉を少なくすることができる。この結果、ドリブンロータR2とドライブロータR1が連動して摺動回転する際に、ドリブンロータR2の外周面とドライブロータR1の内周面で生じる摩耗を低減することができる。
【0053】
(2)さらに、貫通孔R1cはドライブロータR1を貫通形成するだけで、部品点数を増やすことなく容易に磁気抵抗を形成することができる。この結果、部品管理コストや組み付けコストを削減することができる。
【0054】
(3)フロントハウジング12の底凹部16とポートブロック18とでロータ収容空間19を形成し、シールリングRにて内部の流体を隔離するように形成した。従って、ポンプ部P1が吸引・吐出する流体をポンプ室PSの内部に隔離し、例えば回転体との間に用いられるオイルシール等の動的シール部材なしでポンプ室PSからの流体の漏れを防止することができる。
【0055】
(4)ステータS、ドリブンロータR2と、ドライブロータR1を、回転軸21の径方向にラップして配設した。従って、電動ポンプ10は、回転軸21の軸線方向に短くなって小型化することができる。
【0056】
(5)フロントハウジング12の1物品でステータS、ドライブロータR1、ドリブンロータR2を径方向に保持対向させるようにした。従って、ステータS、ドライブロータR1、ドリブンロータR2の同軸性を向上させ、ポンプ室PSの容積効率あるいは静粛性を向上させることができ、電動ポンプ10のコストを低減することができる。
【0057】
上記実施の形態は、以下のように変更してもよい。
・上記の実施形態では、ドライブロータR1は、各永久磁石M1より内側に、軸線方向に沿って複数の貫通孔R1cが貫通形成され、その貫通孔R1cが周方向に45度の間隔毎に配置されている。これに限らず、ドライブロータR1に、貫通孔R1cを周方向に、ポンプ室PSと永久磁石M1との径方向における最近接位置(内歯)R1a間に位置するように配設してもよい。
【0058】
従って、ポンプ室PSの永久磁石M1との最近接位置(内歯)R1aが最も磁束密度が大きいため、貫通孔R1cをポンプ室PSと永久磁石M1との径方向における最近接位置(内歯)R1a間に配設することで、ポンプ室PSにおけるステータS及び永久磁石M1からの磁束の磁束密度を効率良く低減することができ、ポンプ室の摩耗を低減することができる。
【0059】
・また、ドライブロータR1には、軸線方向に沿って複数(8個)の永久磁石M1が埋設されその8個の永久磁石M1が周方向に45度の間隔毎に配設されている。これに限らず、ドライブロータR1に、永久磁石M1を、周方向に、その長手方向の中央位置の内側にポンプ室PSの永久磁石M1との最近接位置(内歯)R1aが位置するように配設さしてもよい。
【0060】
従って、永久磁石M1の長手方向の中央位置の内側は磁束密度が小さいため、ポンプ室PSの永久磁石M1との最近接位置(内歯)R1aの磁束密度が小さくなり、小さな貫通孔R1cを貫通形成するだけで、ドライブロータR1の内周面、及び、ドリブンロータR2の外周面の摩耗を低減することができる。
【0061】
さらに、ドライブロータR1に、周方向に貫通形成された複数の貫通孔R1c間の中央充実部の外側に、永久磁石M1をその周方向の中央位置が位置するように埋設してもよい。従って、磁束密度が最も小さい永久磁石M1の長手方向の中央位置の内側に、周方向に貫通形成された複数の貫通孔R1c間の中央充実部が配置されるため、ステータS及び永久磁石M1から中央充実部を通ってポンプ室PSに漏洩する磁束の磁束密度を低減することができる。
【0062】
・上記の実施形態では、磁気抵抗部としてドライブロータR1に貫通孔R1cを軸線方向に貫通形成した。これに限らず、磁気抵抗部としてドライブロータR1に凹部を軸線方向に凹設してもよい。
【0063】
このようにしても、上記実施の形態の効果と同様の効果を得ることができる。
・上記実施の形態では、ステータSからの磁束に対する磁気抵抗として貫通孔R1cを形成したが、これに限らず、磁束に対して磁気抵抗となる材料(例えば、樹脂など)を貫通孔R1cに配設してもよい。
【0064】
このようにしても、上記実施の形態の効果と同様の効果を得ることができる。
・上記実施の形態では、ドライブロータR1の内部であって、永久磁石M1が配設されている位置より内側に、等間隔に周方向に8個の貫通孔R1cが形成した。これに限らず、ドライブロータR1の内側であって、永久磁石M1が配設されている位置より内周に、等間隔に周方向に形成される貫通孔R1cの数は特に制限されない。
【0065】
このようにしても、上記実施の形態の効果と同様の効果を得ることができる。
・さらに、ドライブロータR1の内部であって、永久磁石M1が配設されている位置より内側に、複数段に分けて貫通孔R1cを形成してもよい。例えば、図3に示すように、ドライブロータR1において、永久磁石M1の内側に、径方向に2段に分けて貫通孔35a,35bを周方向に貫通形成してもよい。
【0066】
さらに、外側の貫通孔35a間の中央位置の内側に、内側の貫通孔35bの長手方向の中央位置が位置するように配置し、外側の貫通孔35aと内側の貫通孔35bをその長手方向の端部がドライブロータR1の径方向にラップするように形成してもよい。
【0067】
従って、外側の貫通孔35a間を抜けたステータS及び永久磁石M1からの磁束の磁束密度を低減することができる。この結果、貫通孔35a,35bより内側では、ステータS及び永久磁石M1からの磁束に対して貫通孔35a,35bが磁気抵抗として作用するため、上記実施の形態と比べてさらに磁束密度を低減することができる。
【0068】
・上記実施の形態では、ドライブロータR1の貫通孔R1bに、片側が湾曲した永久磁石M1を配設されていた。これに限らず、図4に示すように、ドライブロータR1の貫通孔R1bに、平板状の永久磁石M2を配設してもよい。これに伴い、ドライブロータR1の貫通孔R1bは、平板状の永久磁石M2を配設できるように、平板状に形成される。
【0069】
このようにしても、上記実施の形態の効果と同様の効果を得ることができる。
・上記実施の形態では、ドライブロータR1は、その外周面が底凹部16の内周面と摺動接触してすべり軸受けの構成になっていた。これに限らず、図5に示すように、図1に示すフロントハウジング12の底凹部16を削除することで、ステータSの内周面とドライブロータR1の外周面を摺動接触させてすべり軸受けの構成にしてもよい。
【0070】
図5に示すように、有底円筒形状のフロントハウジング36は、その底部(図5において右側)に第1空間37と、第2空間38を仕切る仕切り板36aが形成されている。
仕切り板36aは、有底円筒形状のエンドカバー13の開口部を閉鎖するようにボルトB3にて連結され、エンドカバー13の内側に第2空間38が形成されている。第2空間38には、回路基板15が収容されている。また、仕切り板36aは、その全周から垂直方向、且つ、反第2空間38方向に環状ハウジング36bが延出形成される。これにより、仕切り板36aと環状ハウジング36bとで凹部36cが構成されている。凹部36cは、その開口部(図5において左側)を閉鎖するポートブロック18とボルトB4にて連結固定され、凹部36cの内側に第1空間37が形成される。
【0071】
第1空間37は、フロントハウジング36とポートブロック18との間に配設したシールリングRにて水密状態が保持されている。第1空間37は、環状のステータSが配設され、このステータSの内側にポンプ部P1がわずかな隙間を空けて配設されている。そして、第1空間37に液体が充填され、ポンプ部P1のドライブロータR1の外周面とステータSの内周面が液体を介して摺動接触してすべり軸受けの構成となっている。
【0072】
従って、電動ポンプ39は、上記の実施形態と比較して、ステータSとドライブロータR1との間に配置されていた図1に示す底凹部16を削除してわずかな隙間だけ空けているため、両者間の磁気抵抗を小さいものとすることができ、小体格で高出力のポンプを得ることができる。
・上記実施の形態では、フロントハウジング12を樹脂形成し、その樹脂形成する際にステータSと一体として成形してもよい。従って、フロントハウジング12とステータSを容易に結合することができ、ステータSが樹脂で固められるためステータSの振動を抑制することができる。
【0073】
・上記実施の形態では、ドライブロータR1に、軸線方向に沿って複数(8個)の永久磁石M1が埋設されその8個の永久磁石M1が周方向に45度の間隔毎に配設されていた。各永久磁石M1は、その磁極が周方向に交互にN極とS極にそれぞれ着磁されている。
【0074】
これに限らず、ドライブロータR1に、軸線方向に沿ってN極とS極の磁石磁極が周方向に交互に配置された環状の永久磁石を配設してもよい。
このようにしても、上記実施の形態の効果と同様の効果を得ることができる。
【0075】
・上記実施の形態では、ドリブンロータR2は、その外周がトロコイド曲線の形状を歯の形状に利用した複数の外歯R2bが形成されて外歯歯車となり、ドライブロータR1は、その内周がトロコイド曲線を歯の形状に利用した複数の内歯R1aが形成されて内歯歯車となっていた。これにより、トロコイド式ポンプを構成していた。
【0076】
これに限らず、ドライブロータR1と、ドライブロータR1の内周に摺動接触した状態で配置されたドリブンロータR2を有するポンプであれば特に制限されない。例えば、図6に示す、円柱形状のドリブンロータ41と、円筒形状であって複数のベーン42を含むドライブロータ43を有するベーン式ポンプP2に変更してもよい。図6に示すように、ドライブロータR1は、その内周面が等間隔に凹設されて保持溝D1が形成されている。ドライブロータR1の内周面に凹設された保持溝D1に、ベーン42が挿通されて周方向に移動不能に保持されている。ベーン42は、ドライブロータR1が回転する際に径方向に動いて保持溝D1の内周面と摺動接触する。従って、上記実施の形態の効果に加えて、ステータS及び永久磁石M1からの磁束による保持溝D1の内周面に吸着する鉄粉を少なくすることができ、保持溝D1の内周面とベーン42で生じる摩耗を低減することができる。
【0077】
また、図7に示す、円柱形状であってベーン52を含むドリブンロータ51と、円筒形状のドライブロータ53を有するロタスコ式ポンプP3に変更してもよい。
・上記実施形態では、ステータ収容空間17に流体が収容されていなかった。これに限らず、ステータ収容空間17にも流体を収容するようにしてもよい。
【0078】
このようにしても、上記実施の形態の効果と同様の効果を得ることができる。
・上記実施の形態では、ステータS、ドリブンロータR2、ドライブロータR1が、図2の断面図において同一面に配置されていた。
【0079】
これに限らず、ドリブンロータR2とドライブロータR1は、ステータSに対して、回転軸21の軸線方向に長くするように延出形成してもよい。これに伴い、ポートブロック18は、ドリブンロータR2とドライブロータR1が長くなる分、対応する箇所を凹むように形成してもよい。
【0080】
また、ドリブンロータR2とドライブロータR1は、ステータSに対して、回転軸21の軸線方向に短くするように形成してもよい。ポートブロック18は、ドリブンロータR2とドライブロータR1が短くなる分、対応する突起部20を突出形成してもよい。
【0081】
さらに、ドリブンロータR2は、ドライブロータR1に対して、回転軸21の軸線方向に短くするように形成してもよい。これに伴い、ドライブロータR1は、ドリブンロータR2が短くなった部分にも形成されて円筒形状に形成してもよい。
【0082】
本願発明では、磁気抵抗部を主題としたものであるが、磁気抵抗部を除いた請求項8、9、10の発明であっても、解決手段に記載したように独自の効力を有するものである。
【符号の説明】
【0083】
10…電動ポンプ、12…フロントハウジング、13…エンドカバー、17…ステータ収容空間、18…ポートブロック、19…ロータ収容空間、R2…ポンプ機構(ドリブンロータ)、R1…ロータ(ドライブロータ)、R1c…磁気抵抗部(貫通孔)、P2…ベーン式ポンプ、P3…ロタスコ式ポンプ、M1,M2…永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁極を環状に配置したステータの内側に、複数の磁石磁極を周方向に設けたロータを、前記ステータの回転磁界にて回転するように配置し、前記ロータの前記複数の磁石磁極より内側の中央部にポンプ室を形成し、前記ポンプ室に、前記ロータの回転によって流体の吸引・排出を行うポンプ機構を配設した電動ポンプであって、
前記ロータは、前記環状に配置された磁石磁極と前記ポンプ室との間に磁気抵抗として作用する磁気抵抗部を備えたことを特徴とする電動ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ポンプにおいて、
前記磁気抵抗部は、
少なくとも一部において、前記ポンプ室と前記磁石磁極との径方向における最近接位値間、又は、前記ポンプ室に連なりベーンを保持する保持溝と前記磁石磁極との間に備えられ、
または/および、
前記磁石磁極は、
少なくとも一部において、その長手方向の中央位置の内側に、前記ポンプ室と前記磁石磁極との径方向における最近接位置、又は、前記ポンプ室に連なり前記ベーンを保持する前記保持溝を配置するように配設されていることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動ポンプにおいて、
前記磁気抵抗部は、
前記ロータの軸線方向に沿って貫通形成した複数の凹部であって、その複数の凹部を回転中心を中心軸として周方向に等間隔に形成することを特徴とする電動ポンプ。
【請求項4】
請求項3に記載の電動ポンプにおいて、
前記複数の凹部は、
当該凹部を周方向に隔てる当該凹部間の中央充実部が前記磁石磁極の周方向中央位置に配置されていることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の電動ポンプにおいて、
前記凹部は、
径方向に複数あって、外径側の隣接する前記凹部と内側の前記凹部とは径方向にラップする部分を有する電動ポンプ。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の電動ポンプにおいて、
前記凹部は、
貫通孔であることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電動ポンプであって、
前記ステータ、前記ロータ及び前記ポンプ機構が軸線方向にラップすることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電動ポンプであって、
有底筒状のフロントハウジングの底部側外側面の中央部を内側に凹設して底凹部を形成し、前記底凹部の外側と前記フロントハウジングの内側に環状のステータ収容空間を形成し、ポートブロックで閉鎖された前記底凹部にロータ収容空間を形成し、前記ステータ収容空間に前記ステータを配置するとともに、前記ロータ収容空間に前記ロータ及び前記ポンプ機構を配置したことを特徴とする電動ポンプ。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電動ポンプであって、
有底筒状のフロントハウジングの内周面に環状の前記ステータを収容し、該ステータの内径側に予め設定された隙間を持たせて前記ロータを収容し、前記フロントハウジングの開口部をポートブロックで閉鎖し、前記隙間に流体を介在させたことを特徴とする電動ポンプ。
【請求項10】
請求項9に記載の電動ポンプにおいて、
前記フロントハウジングは、樹脂形成されたものであり、前記ステータを一体として形成されたものであることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1つに記載の電動ポンプであって、
前記ポンプ機構は、
トロコイド式ポンプで構成されることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1つに記載の電動ポンプであって、
前記ポンプ機構は、
ベーン式ポンプで構成されることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1つに記載の電動ポンプであって、
前記ポンプ機構は、
ロタスコ式ポンプで構成されることを特徴とする電動ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−74843(P2011−74843A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227508(P2009−227508)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】