説明

電動機冷却装置

【課題】冷却媒体の流れによる電動機の冷却効果を高める。
【解決手段】内側に主たる発熱源である巻線12を有する固定子1が配設された第1の筒状部材20と、第1の筒状部材20の外周面に嵌合される第2の部材30と、第1の筒状部材20と第2の部材30との嵌合面に形成され、軸方向一端側から軸方向他端側にかけて冷却媒体が通過する冷却通路PA1〜PA3とを備え、冷却通路は、周方向に旋回しつつ軸方向一端部から軸方向他端部にかけて軸方向に進行し、互いに交差することがないように並列に形成された複数の螺旋状通路PA1を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の周囲の冷却媒体の流れにより電動機を冷却する電動機冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータコアの外周部を筒状のケーシングにより包囲し、このケーシングの内周面に冷却液が流れる冷却通路を加工して、電動機を冷却するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の装置では、冷却通路としてケーシング内周面に、軸方向一端部から他端部に進行した後、軸方向他端部から一端部へ戻り、さらに軸方向一端部から他端部へと進行するような螺旋状の溝を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−204496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置では、軸方向一端部と他端部との間を往復して螺旋状の溝が形成されるので、冷却通路の長さが長くなる。その結果、圧力損失が増大して、必要流量を流すことが困難になる。また、冷却液は流れ方向にかけて徐々に昇温するため、冷却通路の長さが長くなると、通路後半部において十分な冷却効果が得られない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、内側に主たる発熱源である巻線を有する固定子が配設された第1の筒状部材と、第1の筒状部材の外周面に嵌合される、円筒状の空洞を有する第2の部材と、第1の筒状部材と第2の部材との嵌合面に形成され、軸方向一端側から軸方向他端側にかけて冷却媒体が通過する冷却通路とを備え、冷却通路は、周方向に旋回しつつ軸方向一端部から軸方向他端部にかけて軸方向に進行し、互いに交差することがないように並列に形成された複数の螺旋状通路を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、固定子の外側に冷却通路として複数の螺旋状通路を並列に設けるので、各冷却通路の長さが短くなり、冷却媒体の流れによる冷却効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施の形態に係る電動機冷却装置の構成を示す断面図である。
【図2】本実施の形態に係る電動機冷却装置を構成する冷却ジャケットと冷却ハウジングの斜視図である。
【図3】図2の冷却ジャケットの外周面の展開図である。
【図4】(a)〜(c)はそれぞれ1条溝、3条溝、8条溝の螺旋状通路の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1〜図4を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る電動機冷却装置が適用される電動機Mの構成を概略的に示す断面図である。この電動機Mは、筒状のステータ1と、ステータ1の内側に回転可能に支持される図示しないロータとを有する。
【0009】
ステータ1は、電磁鋼板などの薄板状の磁性体を積層してなるステータコア11と、ステータコア11に集中巻または分布巻きにて巻回される巻線12とを有し、ステータコア11と巻線12は、熱伝導性のよい材料を混合した樹脂13で覆われている。ステータ1の端部からは動力線14が取り出され、動力線14を介して巻線12へ外部から駆動電流を供給することにより、ロータの周囲に回転磁界を形成し、ロータを回転させる。
【0010】
このような電動機Mは、ステータコア11の鉄損と巻線12の銅損とに起因して発熱するため、電動機Mを冷却して電動機Mの発熱を抑える必要がある。特に、電動機Mを工作機械の主軸駆動用として用いる場合には、工作機械の主軸が伝熱により熱変形すると加工精度に悪影響を与えるため、電動機Mの発熱を抑える必要性が高い。本実施の形態では、以下のように冷却装置2を構成して電動機Mを冷却する。
【0011】
冷却装置2は、ステータ1の外周面に嵌合される略円筒形状の冷却ジャケット20と、冷却ジャケット20の外周面に嵌合される冷却ハウジング30とを有する。図2は、冷却ハウジング30を冷却ジャケット20から分解した状態を示す斜視図である。冷却ハウジング30は、冷却ジャケット20を内包するための円筒状の空洞を内部に備えている以外は、外側の形状は円筒形状である必要はなく、したがって外形は角型であったり、例えば工作機械の主軸の場合は、主軸を支える構造材の一部であったりするなど、その外形形状は限定されない。
【0012】
図2に示すように冷却ジャケット20の外周面には、周方向に旋回しつつ軸方向一端側から他端側へと進行する螺旋状の溝21(螺旋溝)が形成され、その螺旋溝21の軸方向両外側には、それぞれ全周にわたって環状の溝22,23(環溝)が形成されている。さらに、環溝22,23の軸方向両外側には、それぞれOリング取付用の溝25,26が形成されている。これらの溝21〜26は、例えばミリング軸を有する複合旋盤などによって加工される。なお、図1では、螺旋溝21よりも環溝22,23の深さが深い場合を示し、図2では、螺旋溝21と環溝22,23を同一深さとして示している。
【0013】
冷却ハウジング30の軸方向一端側および他端側には、冷却ジャケット20に冷却ハウジング30を嵌合した際の環溝22,23の位置に合致するように、それぞれ周方向に複数(図では3個)の貫通孔31,32が開口されている。貫通孔31,32は、それぞれ後述する冷却通路の入口部PA4および出口部PA5を構成する。
【0014】
冷却ジャケット20は、例えば締まりばめによりステータ1の外周面に嵌合固定され、冷却ハウジング30も、例えば締まりばめにより冷却ジャケット20の外周面に嵌合固定される。なお、組立性を考慮して、冷却ハウジング30を隙間ばめ、あるいは中間ばめとして冷却ジャケット20の外周面に嵌合してもよい。
【0015】
図1に示すように冷却ハウジング30を冷却ジャケット20に嵌合すると、その嵌合面には、冷却ハウジング30の内周面と冷却ジャケット20の溝21〜23とにより軸方向一端側から他端側にかけて冷却通路が形成される。すなわち、冷却ジャケット20の螺旋溝21により螺旋状通路PA1が、環溝22,23により環状通路PA2,PA3がそれぞれ形成される。
【0016】
図示は省略するが、冷却通路の各入口部PA4(貫通孔31)には、配管を介してポンプ等の冷却液の供給源が接続され、冷却通路の各出口部PA5(貫通孔32)には、配管を介してタンク等の冷却液の回収部が接続される。したがって、入口部PA4を介して冷却通路内に外部から冷却液を供給すると、冷却液は環状通路PA2、螺旋状通路PA1、環状通路PA3を順次流れ、出口部PA5を通過して外部に流出する。この冷却液の流れにより冷却ジャケット20の表面から奪熱され、電動機Mが冷却される。なお、複数の入口部PA4および出口部PA5は、例えば分岐配管を介して冷却液の供給源および回収部にそれぞれ接続され、各入口部PAおよび各出口部PA5には互いに均等に冷却液が流出入する。
【0017】
このような冷却装置の構成では、冷却液の流量が多いほど、かつ、フィン部としての冷却通路の表面積が大きいほど、冷却効果が高まる。この点につき、単に冷却通路の表面積を大きくするだけであれば、例えば1条溝により螺旋状通路PA1を形成してその通路ピッチp(軸方向に隣り合う通路間の距離)を小さくしたり、螺旋溝21を深く形成することで可能である。
【0018】
しかし、通路ピッチpを小さくすると、圧力損失が増大し、必要流量を流すことが困難となる。また、螺旋溝21を深く形成するためには、冷却ジャケット20の十分な厚さが必要であり、電動機全体の小型化が阻害されるだけでなく、溝加工の切削量が増大し、加工コストの上昇を招く。そこで、本実施の形態では、以下のように冷却ジャケット20の表面に互いに交差することがないように並列に複数の螺旋溝21(多条螺旋溝)を加工し、螺旋状通路PA1を並列通路に構成する。
【0019】
図3は、冷却液の流れを模式的に示す冷却ジャケット20の外周面の展開図であり、冷却ジャケット20の外周表面に3条溝の螺旋状通路PA11〜PA13を加工した例を示している。これら螺旋状通路PA11〜PA13は互いに略平行に形成され、各通路PA11〜PA13の通路幅w1、通路深さ(図4のd2)、通路の曲率(螺旋カーブ)、および隣り合う通路間の距離(通路ピッチp)は一定である。換言すると、各通路PA11〜PA13は、その開始位置の位相が例えば120°づつずれているだけで、互いに同一形状であり、冷却ジャケットの表面全体に螺旋状通路PA11〜PA13が密に形成されている。なお、図では通路幅w1と各通路間のランド部の幅w2をほぼ等しくしているが、w1をw2よりも大きく、または小さくしてもよい。
【0020】
図3において、入口部PA4を介して環状通路PA2に流入した冷却液は、各螺旋状通路PA11〜PA13に分流し、各螺旋状通路PA11〜PA13に沿ってそれぞれ実線、点線、および一点鎖線の矢印で示すように流れる。その後、これら冷却液は環状通路PA3で合流し、出口部PA5を介して流出する。
【0021】
このような冷却液の流れにより電動機Mが冷却されるが、本実施の形態では、螺旋状通路PA11〜PA13が並列に設けられているため、図3に示すように冷却ジャケット20の表面に通路PA11〜PA13を密に形成した場合でも、各通路PA11〜PA13の通路長さを抑えることができ、通路全体にわたり十分な冷却効果を得ることができる。
【0022】
ここで、各通路PA11〜PA13の流路面積をそれぞれS1〜S3とすると、全体の流路面積Sは、S=S1+S2+S3となる。このため、十分な流路面積Sを確保することができ、冷却液の流量を減少させることなく、通路ピッチpを小さくすることができる。通路ピッチpが小さくなると、冷却通路全体の表面積が増大するため、冷却効果を高めることができる。
【0023】
図4は、螺旋状通路PA1の拡大断面図であり、図4(a)〜(c)は、それぞれ螺旋状通路PA1を1条溝、3条溝、8条溝とした図である。これら各図の通路面積をそれぞれSa,Sb,Scとすると、通路全体の流路面積SはそれぞれSa,3×Sb,8×Scとなる。図4(a)〜(c)は、これら全体の流路面積Sを互いにほぼ等しく設定している。このとき、3条溝の通路ピッチp2は、1条溝の通路ピッチp1の約1/2倍であり、8条溝の通路ピッチp3は、1条溝の通路ピッチp1の約1/3倍である。また、各図の溝深さd1〜d3はd1>d2>d3となり、8条溝の溝深さd3は1条溝の溝深さd1の約半分である。
【0024】
ここで、1条溝の通路全体の表面積および切削量を基準にすると、3条溝の通路全体の表面積および切削量はそれぞれ約1.2倍および約0.7倍となり、8条溝の通路全体の表面積および切削量はそれぞれ約1.2倍および約0.4倍となる。したがって、多条螺旋溝により冷却通路PA1を構成することで、全体の流路面積Sを変えずに表面積を増大できるだけでなく、切削量を減少できる。その結果、加工時間を短縮できるとともに、切削工具の磨耗を抑えることができ、加工コストを低減できる。なお、螺旋溝21の条数は複数であれば3条や8条以外でもよく、必要な冷却性能と加工コストを考慮して決定される。
【0025】
本実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)冷却ジャケット20の外周面に互いに交差することがないように複数の螺旋溝21を加工し、螺旋状通路PA11〜PA13を並列に形成した。これにより、各螺旋状通路PA11〜PA13の通路長さを長くすることなく、冷却通路の表面積を増大することができ、冷却効果を高めることができる。すなわち、仮に単一(直列)の螺旋溝21により通路ピッチpの小さい螺旋状通路PA1を形成する場合、冷却通路の全長が長くなり、圧力損失が大きくなる。その結果、必要量の冷却液を流すことが困難となり、電動機Mの十分な冷却効果が得られない。これに対し、本実施の形態では、螺旋状通路PA11〜PA13を並列に複数設けるので、全体の流路面積を確保しつつ、通路の圧力損失の増加を抑えることができ、電動機Mの十分な冷却効果を得ることができる。
【0026】
(2)各螺旋状通路PA11〜PA13を互いに略平行となるように形成したので、螺旋状通路PA1が冷却ジャケット20の外周面全体に均一に設けられ、電動機全体を効率よく冷却できる。
(3)螺旋状通路PA1の軸方向両側にそれぞれ環状通路PA2,PA3を設け、環状通路PA2,PA3を介して冷却液の入口部PA4および出口部PA5と螺旋状通路PA1の軸方向一端部および軸方向他端部とをそれぞれ連通させるようにしたので、各螺旋状通路PA1に冷却液を均等に流すことができ、十分な冷却効果が得られる。
(4)冷却液の入口部PA4および出口部PA5を、冷却ハウジング30に周方向複数配設するようにしたので、冷却ジャケット20の表面に大流量の冷却液を供給できる。
【0027】
なお、図1では、環状通路PA2,PA3における圧力損失の増大を抑えるために、環状通路PA2,PA3を螺旋状通路PA1よりも深く形成し、環状通路PA2,PA3の流路面積を増大している。しかし、圧力損失が問題とならないのであれば、図2に示すように各通路PA1〜PA3の深さを等しくすることが、加工コストの点からは好ましい。
【0028】
上記実施の形態では、冷却ジャケット20の外周面に冷却通路PA1〜PA3としての溝21〜23を加工したが、その代わりに冷却ハウジング30の内周面に、同様にして冷却通路としての溝を加工してもよく、あるいは冷却ジャケット20の外周面と冷却ハウジング30の内周面の両方に溝を加工してもよい。すなわち、第1の筒状部材としての冷却ジャケット20と第2の部材としての冷却ハウジング30の嵌合面に複数の螺旋状通路PA1が並列に形成されるのであれば、冷却ジャケット20の内周面と冷却ハウジング30の外周面の形状はいかなるものでもよい。ステータ1を第1の筒状部材として、ステータ1の外周嵌合面に螺旋状通路PA1を形成してもよい。
【0029】
冷却ジャケット20の内周面と冷却ハウジング30の外周面の双方に溝を加工せずに、その嵌合面にコイル状に形成した複数の通路部材を位相をずらして挿入し、冷却ジャケット20の内周面と冷却ハウジング30の外周面と通路部材とにより螺旋状の複数の冷却通路PA1を形成してもよい。但し、通路部材を別に設けると、通路部材と冷却ジャケット20との接触面における熱抵抗が大きく、熱伝導性が悪化するため、冷却通路は冷却ジャケット20の溝加工により設けることが好ましい。
【0030】
螺旋溝21は、切削や研削、ホブ加工、レーザ加工や放電加工等により形成することができ、鋳造により形成することもできる。但し、螺旋溝21を有する冷却ジャケット20を鋳造によって製造した場合、クラックや巣が発生しやすいため、円筒形の管状部材から除去加工によって溝を形成することが、製品の信頼性の点では好ましい。
【0031】
螺旋状通路PA1の軸方向両外側に環状通路PA2,PA3を設け、環状通路PA2,PA3を介して螺旋状通路PA1に冷却液を給排するようにしたが、環状通路PA2,PA3を省略して螺旋状通路PA1に冷却液を直接給排するようにしてもよい。冷却ハウジング30に冷却液の出入口部PA4,PA5を設けたが、出入口部PA4,PA5の個数、形状、配置等、出入口部PA4,PA5の構成はいかなるものでもよい。冷却通路を流れる冷却媒体は水やオイル等の液体に限らず、気体でもよい。
【0032】
以上の冷却装置は、工作機械の主軸駆動用の電動機Mだけでなく、工作機械以外の電動機Mにも同様に適用できる。すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の電動機用冷却装置に限定されない。
【符号の説明】
【0033】
20 冷却ジャケット
21 螺旋溝
22,23 環溝
30 冷却ハウジング
31,32 貫通孔
PA1 螺旋状通路
PA2,PA3 環状通路
PA4 入口部
PA5 出口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に巻線を有する固定子が配設された第1の筒状部材と、
前記第1の筒状部材の外周面に嵌合されるための円筒状の空洞を有する第2の部材と、
前記第1の筒状部材と前記第2の部材との嵌合面に形成され、軸方向一端側から軸方向他端側にかけて冷却媒体が通過する冷却通路とを備え、
前記冷却通路は、周方向に旋回しつつ軸方向一端部から軸方向他端部にかけて軸方向に進行し、互いに交差することがないように並列に形成された複数の螺旋状通路を有することを特徴とする電動機冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機冷却装置において、
前記複数の螺旋状通路は、互いに略平行となるように設けられることを特徴とする電動機冷却装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動機冷却装置において、
さらに前記冷却通路は、前記第1の筒状部材と前記第2の部材との嵌合面の軸方向一端部および軸方向他端部にそれぞれ全周にわたって形成され、前記冷却媒体の入口部および出口部と前記螺旋状通路の軸方向一端部および軸方向他端部とをそれぞれ連通させる環状通路を有することを特徴とする電動機冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−15578(P2011−15578A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159076(P2009−159076)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】