説明

電動機

【課題】組立工数の低減が可能な電動機を提供する。
【解決手段】電動機は、ロータとステータとを備えている。ステータは、複数の分割コア31を有するステータコアと、複数のインシュレータ60と、複数の巻線部70とを有する。分割コア31は、ヨーク片41とティース50とを有する。ティース50は、円弧部51と連結部52とを有する。連結部52には、通電線71と通電線71の発熱を吸熱する吸熱線72とが巻かれている。吸熱線72は、アルミニウム線をポリアミドやポリアミドイミドの樹脂で絶縁被覆したものである。通電線71と吸熱線72とを同時に連結部52に巻くことにより、吸熱線72を通電線71の周囲に配す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電線が巻かれた巻線部を備えた電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の回転電機は、素線を巻回したコイルと、このコイルを配設した回転電機コアとを有する。コイルと回転電機のコアとの間、およびコイルの巻線間には、コイルが発する熱を吸熱して放熱する熱伝導性絶縁樹脂が充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−022088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記回転電機の製造工程において、熱伝導性絶縁樹脂を充填するためには、コイルが巻かれたステータを金型にセットする作業、熱伝導性絶縁樹脂を樹脂射出シリンダに充填する作業、金型を介してステータの内部に熱伝導性絶縁樹脂を充填する作業などの多くの作業工程を要する。また、液体状態の熱伝導性絶縁樹脂は、一般的に粘度が高いため、熱伝導性絶縁樹脂の充填作業は容易ではない。以上のことから、回転電機の組み立てに多くの手間がかかる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、組立工数の低減が可能な電動機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)第1の手段は、請求項1に記載の発明すなわち、通電線が巻かれた巻線部を備えた電動機において、前記巻線部には、前記通電線の発熱を吸熱する吸熱線が巻かれていることを要旨としている。
【0007】
上記発明によれば、通電線から発せられる熱は、吸熱線で吸熱されて放熱される。このため、駆動中の電動機の温度上昇を抑制できる。したがって、本発明では、通電線が巻かれた巻線部に対する熱伝導性樹脂の充填作業が不要なため、電動機の組立工数の低減が可能となる。
【0008】
(2)第2の手段は、請求項2に記載の発明すなわち、請求項1に記載の電動機において、隣り合う前記通電線の間には、前記吸熱線が配されていることを要旨としている。
上記発明によれば、通電線に対する吸熱線の接触面積が増える。これにより、通電線の発熱を吸熱線で吸熱する量が増える。このため、通電線の発熱に対する吸熱線の放熱効率が高まる。
【0009】
(3)第3の手段は、請求項3に記載の発明すなわち、請求項1または2に記載の電動機において、前記吸熱線の両端部は、電気的に開放されていることを要旨としている。
上記発明によれば、電気的に接続されているときと比較して、吸熱線に流れる電流量を少なくすることができる。これにより、吸熱線の発熱が抑制される。このため、通電線の発熱を吸熱線によって効率よく吸熱できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、組立工数の低減が可能な電動機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の電動機について、全体の構成を示す断面図。
【図2】同実施形態の電動機について、ステータの構成を示す要部断面図。
【図3】同実施形態の電動機について、分割コアの構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照して、電動機1の構成について説明する。
電動機1は、ロータ10とステータ20とを有する。ロータ10およびステータ20は、ハウジング80に収容されている。ハウジング80は、筒状のハウジング本体81と、蓋部材82と、底部材83とを有する。
【0013】
蓋部材82の中央部には貫通孔が形成されている。この貫通孔の周縁部には、軸受91が設けられている。底部材83の中央部には、凹部が形成されている。この凹部周縁部には、軸受92が設けられている。底部材83の凹部は、ハウジング80の内部に面している。
【0014】
底部材83の凹部には、出力軸93の下端部93Dが収容されている。出力軸93の上端部93Uは、蓋部材82の貫通孔から外部に露出している。出力軸93は、軸受91および軸受92により回動自在に支持されている。
【0015】
ハウジング本体81と蓋部材82、および、ハウジング本体81と底部材83は、不図示のボルトにより互いに固定されている。ハウジング80の内部には、制御基板94が収容されている。制御基板94は、電動機1の動作を制御する。制御基板94は、底部材83に固定されている。
【0016】
ここで、電動機1について次の用語を定義する。
(A)出力軸93の軸方向を「軸方向S」とし、出力軸93の周方向を「周方向T」とし、出力軸93の径方向を「径方向R」とする。
(B)径方向Rにおいて、出力軸93に近づく方向を「内方」とし、出力軸93から遠ざかる方向を「外方」とする。
(C)ハウジング80、ロータ10、およびステータ20の各方向において、出力軸93の各方向と一致する方向については、(A)および(B)の定義を用いる。
【0017】
ロータ10は、出力軸93と一体的に回転する。ロータ10は、ロータ本体11と、ロータマグネット12と、スペーサ13と、保護部材14とを有する。
ロータ本体11は、鉄などの強磁性材料を含む円筒状の焼結体である。ロータ本体11は、ロータマグネット12を保持している。ロータマグネット12は、円筒状の永久磁石である。ロータマグネット12の外周面には、N極とS極の磁極が周方向Tに交互に並んでいる。ロータ10では、ロータ本体11と、ロータマグネット12と、スペーサ13と、保護部材14とが、1つの回転体として出力軸93の軸心まわりで回転する。ステータ20は、ハウジング本体81の内部に固定されている。ロータ10とステータ20とは、径方向Rに所定間隔を開けて対向している。
【0018】
図2を参照して、ステータ20の構成について説明する。
ステータ20は、ステータコア30と、複数のインシュレータ60と、複数の巻線部70とを有する。ステータコア30は、複数の分割コア31を周方向Tに並べて一体的に構成した円筒部材である。分割コア31は、複数の電磁鋼板を積層して一体的に形成した金属部材である。分割コア31は、ヨーク片41とティース50とを有する。
【0019】
ヨーク片41は、分割コア31を周方向に並べてステータコア30の状態にすることで、環状のヨーク40として構成される。ティース50は、径方向Rの断面が略T字状の柱状部材である。ティース50は、ヨーク片41の内周面41Qに一体的に設けられている。ティース50は、内周面41Qから径方向Rの内方へ突出している。
【0020】
ステータコア30をハウジング80の内部に収容するときは、複数の分割コア31を周方向Tに並べて円筒状に組み合わせる。円筒状に組み合わされたステータコア30は、ハウジング本体81の内周面に沿って収容される。ハウジング80の内部に収容されたステータコア30は、接着剤により内周面に固着される。これにより、複数の分割コア31は互いに連結される。
【0021】
図3を参照して、分割コア31の構成について説明する。
図3(a)に示されるように、分割コア31において、ティース50は、円弧部51と連結部52とを有する。連結部52は、一対の側面52Sを有する。分割コア31は、連結部52を挟んで2つの溝部32Aを有する。
【0022】
溝部32Aは、ヨーク片41の内周面41Qと、連結部52の側面52Sと、円弧部51の外周面51Pとを有する。溝部32Aには、インシュレータ60が設けられている。インシュレータ60は、ティース50と巻線部70との間の絶縁性を確保するための絶縁部材である。
【0023】
図3(b)に示されるように、連結部52には、インシュレータ60を介して巻線部70が設けられている。軸方向Sに延びる巻線部70は、溝部32Aに収容されている。巻線部70は、通電線71と吸熱線72とを有する。通電線71は、銅線をポリエステルなどの樹脂で絶縁被覆したものである。通電線71の両端部は、図1の制御基板94に接続されている。
【0024】
吸熱線72は、アルミニウム線をポリアミドイミドなどの樹脂で絶縁被覆したものである。吸熱線72は、通電線71よりも細い線材である。吸熱線72の両端部は、電気的に開放されている。吸熱線72の両端部は、一方の端部と他方の端部とが離れた状態で、この吸熱線72が巻かれた分割コア31内のインシュレータ60に固定されている。
【0025】
通電線71および吸熱線72を連結部52に巻きつけるときは、1本の通電線71と2本の吸熱線72を束ねる。束ねられた通電線71と吸熱線72とは、連結部52に1周程度巻きつけられる。分割コア31は、不図示の巻線機に固定されて回転する。太さの異なる通電線71と吸熱線72とが同時に連結部52に巻かれる過程において、吸熱線72は通電線71の周囲に配される。
【0026】
(本実施形態の効果)
本実施形態の電動機1によれば、以下の効果が得られる。
(1)電動機1は、ロータ10とステータ20とを備えている。ステータ20には、通電線71と通電線71の発熱を吸熱する吸熱線72とが巻かれている。
【0027】
この構成によれば、通電中の通電線71から発せられる熱は、吸熱線72で吸熱されて、連結部52およびヨーク片41(ヨーク40)を介して、電動機1の外部に放熱される。このため、通電線71が巻かれた部分のステータ20に熱伝導性絶縁樹脂を充填しない場合でも、駆動中の電動機1の温度上昇を抑制できる。したがって、本発明では、熱伝導性樹脂の充填作業が不要なため、電動機1の組立工数の低減が可能となる。
【0028】
(2)電動機1では、隣り合う通電線71の間には、吸熱線72が配されている。
この構成によれば、通電線71に対する吸熱線72の接触面積が増える。これにより、通電線71の発熱を吸熱線72で吸熱する量が増える。このため、通電線71の発熱に対する吸熱線72の放熱効率が高まる。したがって、本発明では、駆動中の電動機1の温度上昇をより抑制できる。
【0029】
(3)電動機1では、吸熱線72は、アルミニウム線をポリアミドやポリアミドイミドの樹脂で絶縁被覆したものである。吸熱線72の両端部は、一方の端部と他方の端部とが離れた状態で、吸熱線72が巻かれた分割コア31内のインシュレータ60に固定されている。
この構成によれば、吸熱線72の両端部が電気的に開放されているため、通電線71の通電の有無に関係なく、吸熱線72は通電しない。したがって、本発明では、吸熱線72に磁界が生じて電動機1に誤作動が生じることを抑制できる。
【0030】
また、熱伝導性樹脂よりも熱伝導率の高いアルミニウム線を用いることで、通電線71の発熱を吸熱線72で吸熱する量が増える。このため、通電線71の発熱に対する吸熱線72の放熱効率がより高まる。したがって、本発明では、駆動中の電動機1の温度上昇をより効果的に抑制できる。
【0031】
ここで、発熱量が大きい電動機では、電動機内の磁石の温度特性を上げることで、磁石の磁気特性の低下を抑止している。例えば、加熱すると熱減磁を生じやすいが、磁束密度が高く、非常に強い磁力を持つネオジウム磁石に、ジスプロシウム(Dysprosium)を添加して、保磁力の向上を図っている。しかしながら、ジスプロシウム等の希土類金属は高価格であるため、希土類金属を含む磁石を用いると、電動機の製造コストが高くなる。
【0032】
電動機1では、駆動中の温度上昇を抑制することができるため、ロータマグネット12の磁気特性の低下を抑えることができる。これにより、ジスプロシウム等の希土類金属の含有量を減らした磁石や希土類金属が含まれていない磁石をロータマグネット12として使用することができるため、電動機1の製造コストを抑えることができる。
【0033】
(その他の実施形態)
本発明の実施態様は、上記実施形態の内容に限られるものではなく、例えば以下のように変更することもできる。また、以下の変形例は上記実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0034】
・上記実施形態(図3)では、通電線71と吸熱線72とが巻かれたステータ20を有する電動機1に本発明を適用したが、次の電動機に本発明を適用することもできる。例えば、3つのステータコアから成るステータと、ロータとを有する3相クローポール型電動機に本発明を適用することもできる。つまり、通電線が巻かれた巻線部に対する熱伝導性樹脂の充填作業が必要な電動機に本発明を適用することもできる。
【0035】
・上記実施形態(図3)では、吸熱線72を通電線71の周囲に配したが、以下のように変更することもできる。例えば、連結部52に対して先に吸熱線72のみを巻いた後に、その上から通電線71を巻くこともできる。これにより、巻線部70は、連結部52側からみて、吸熱線72が巻かれた層と、通電線71が巻かれた層の2層構造を有する。
【0036】
また、連結部52に対して先に通電線71のみを巻いた後に、その上から吸熱線72を巻くこともできる。これにより、巻線部70は、連結部52側からみて、通電線71が巻かれた層と、吸熱線72が巻かれた層の2層構造を有する。
【0037】
また、吸熱線72のみが巻かれた層で通電線71のみが巻かれた層を挟み込む巻き方も可能である。これにより、巻線部70は、連結部52側からみて、吸熱線72が巻かれた層と、通電線71が巻かれた層と、吸熱線72が巻かれた層の3層構造を有する。
【0038】
・上記実施形態では、吸熱線72にアルミニウム線をポリアミドやポリアミドイミドの樹脂で絶縁被覆したものを用いたが、アルミニウム以外の金属、例えば、銅線を用いることもできる。
【0039】
・上記実施形態では、吸熱線72の両端部は、一方の端部と他方の端部とが離れた状態で、吸熱線72が巻かれた分割コア31内のインシュレータ60に固定されたが、吸熱線72の各端部は、隣り合う分割コア31に設けられたインシュレータ60に固定することもできる。
【0040】
・上記実施形態では、ステータコア30を、複数の分割コア31を周方向Tに並べて一体的に構成した円筒部材とした。また、分割コア31を、複数の電磁鋼板を積層して一体的に形成した金属部材とした。しかしながら、ステータコア30および分割コア31は、上記構成には限定されない。例えば、分割コア31を、鉄などの強磁性材料を含む焼結体とすることもできる。そして、ステータコア30を焼結体である分割コア31を周方向Tに並べて一体的に構成した円筒部材とすることもできる。
【0041】
・上記実施形態では、ロータマグネット12を円筒状の永久磁石としたが、この永久磁石の材質は特に限定されない。例えば、永久磁石における希土類金属の含有の有無は限定されない。
【0042】
(実施形態の記載に基づく付記事項)
上記実施形態に記載の事項を上位概念化した事項を以下に記載する。
(付記事項1)請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動機において、前記吸熱線は、紐状の熱伝導性絶縁樹脂であることを特徴とする電動機。
【0043】
この電動機によれば、通電線が巻かれた巻線部に液体状態の熱伝導性絶縁樹脂を充填する作業に比べて、固体状態の紐状の熱伝導性絶縁樹脂を巻きつける作業の方が容易となる。このため、電動機の組立に係る作業効率が上がる。したがって、電動機の組立工数の低減が可能となる。
【0044】
(付記事項2)付記事項1に記載の電動機において、前記巻線部に巻かれる吸熱線の本数は、前記巻線部に巻かれる通電線の本数よりも多いことを特徴とする電動機。
この電動機によれば、通電線の巻き数よりも吸熱線の巻き数の方が多くなるため、通電線の発熱を吸熱線で吸熱する量が増える。
【0045】
(付記事項3)付記事項1または2に記載の電動機において、前記吸熱線は、前記通電線よりも細いことを特徴とする電動機。
この電動機によれば、吸熱線の占積率が増える。これにより、通電線の発熱を吸熱線で吸熱する量が増える。また、巻線部に巻かれた通電線の占積率の低下を抑制できる。これにより、電動機の性能を保持できる。
【0046】
(付記事項4)付記事項1〜3のいずれか一項に記載の電動機において、前記通電線と前記吸熱線とが互いに結束された状態で前記巻線部に巻かれることを特徴とする電動機。
この電動機によれば、通電線の周囲に吸熱線を配しやすくなる。これにより、通電線に対する吸熱線の接触面積が増える。このため、通電線の発熱を吸熱線で吸熱する量が増える。
【0047】
(付記事項5)請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動機において、前記吸熱線は金属線であり、前記金属線の熱伝導率は前記通電線の熱伝導率よりも高いことを特徴とする電動機。
【0048】
この電動機によれば、通電線の発熱が金属線に伝わりやすくなる。これにより、通電線の発熱を吸熱線で吸熱する量が増える。このため、金属線による放熱効率を高めることが可能となる。
【0049】
(付記事項6)付記事項5に記載の電動機において、前記金属線は、アルミニウム線であることを特徴とする電動機。
この電動機によれば、重量が軽い金属線を巻線部に巻くため、通電線および吸熱線を巻く作業が容易となる。これより、電動機の組立に係る作業効率が上がる。したがって、電動機の組立工数の低減が可能となる。また、電動機の重量増加も抑制できる。
【符号の説明】
【0050】
1…電動機、10…ロータ、20…ステータ、30…ステータコア、31…分割コア、41…ヨーク片、50…ティース、60…インシュレータ、70…巻線部、71…通電線、72…吸熱線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電線が巻かれた巻線部を備えた電動機において、
前記巻線部には、前記通電線の発熱を吸熱する吸熱線が巻かれている
ことを特徴とする電動機。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機において、
隣り合う前記通電線の間には、前記吸熱線が配されている
ことを特徴とする電動機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動機において、
前記吸熱線の両端部は、電気的に開放されている
ことを特徴とする電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−81288(P2013−81288A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219385(P2011−219385)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】