説明

電動車両のバッテリパック収納構造

【課題】車体パネルに車体内外方向内方へ窪ませて設けるバッテリパック収納空所の内容積が犠牲になることのない、組み立て結合式のバッテリパック収納構造を提供する。
【解決手段】バッテリ収納空所画成壁のうち、側壁13,14を相互交差箇所17において分離させ、バッテリ収納空所の開口周辺における開口周辺壁16を、上記分離させた側壁13,14の一方(側壁13)に連なる開口周辺壁部分16aと、他方の側壁14に連なる開口周辺壁部分16bとに分離させる。側壁13をバッテリ収納空所の底壁15と一体に構成するが、開口周辺壁部分16aとは別体に構成してパネル部品18となす。側壁14を開口周辺壁部分16bと一体に構成するが、底壁15とは別体に構成してパネル部品19となす。パネル部品18と、パネル部品19と、開口周辺壁部分16a用のパネル部品20とを相互に組み立て結合して、バッテリ収納空所を車体フロアパネルに設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車やハイブリッド車両など、電動モータからの動力で走行可能にした電動車両のバッテリパック収納構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動車両は、電動モータを走行動力源とするため、その電力源として大容量のバッテリパックを必要とする。
このバッテリパックは、多数のバッテリユニットを相互に電気接続して1個のバッテリパック(バッテリモジュールとも称される)に構成することで大容量化を達成するため、重いだけでなく、大型になるのを避けられない。
【0003】
かように重くて大型のバッテリパックを電動車両に搭載するに当たっては、車室内空間が犠牲にならないようにすること、またバッテリパックの大きさが制限されてその容量が低下されないようにすること、更に車両の重心位置が高くなって不安定にならないようにすることなどを考慮することが肝要である。
【0004】
そこで従来、例えば特許文献1に記載のごとく、シート取り付け箇所の直下における車体フロアパネル部分に、車体上下方向上方へ窪ませて下向き開口付きのバッテリ収納空所を設け、ここにバッテリパックを収納するようにしたバッテリパック収納構造が提案されている。
【0005】
この提案技術になるバッテリパック収納構造では、以下のような利点がある。
つまり、車両のフロントシートやリヤシートの下方には多くの場合、未利用のデッドスペースが存在しており、特許文献1に記載のごとく、シート取り付け箇所の直下における車体フロアパネル部分に、車体上下方向上方へ窪ませて下向き開口付きのバッテリ収納空所を設ける場合、未利用だったデッドスペースを有効活用してここにバッテリパックを収納することとなり、車室内空間が犠牲になるのを回避しつつ、バッテリパックの容量を増大させることができる。
【0006】
また上記特許文献1に記載のバッテリパック収納構造では、バッテリ収納空所が車体重心よりも下方位置に設けられることとなり、重いバッテリパックをここに収納するということは、車両の重心位置が下がってその安定性が増すことに通じ、好都合である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−199183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献1は、車体フロアパネルに、車体上下方向上方へ窪ませて下向き開口付きのバッテリ収納空所を設ける場合の要領に関し、何ら言及していない。
ところで普通に考えられる手法を用い、車体フロアパネルを絞り加工して、これに上記の下向き開口付きバッテリ収納空所を成形する場合、以下のような問題を生ずる。
【0009】
車体フロアパネルのようなパネル材を絞り加工する場合、パネル材の伸び限界との関連において、絞りの深さ(バッテリ収納空所の深さ)に限界があり、これを越えた深絞り加工を行うとパネル材が、特にバッテリ収納空所の側壁間交差部において破断する。
【0010】
なお、当該バッテリ収納空所の側壁間交差部における丸みの半径を大きくしたり、バッテリ収納空所の側壁に抜き勾配のような傾斜を持たせれば、或る程度の深絞りが可能になるが、
大型のバッテリパックを収納するバッテリ収納空所の深絞り加工が行えるようにするには、側壁間交差部における丸みの半径や側壁の傾斜角を余程大きくしなければならず、バッテリ収納空所の容積が大幅に低下し、バッテリパックの大きさを制限されて、その容量が犠牲になるという重大な問題を生ずる。
【0011】
本発明は、上記の問題が、バッテリ収納空所を絞り加工により設けることに起因するとの事実認識に基づき、これに頼らず、上記の問題を生じない要領でバッテリ収納空所を車体パネルに設け得るようにした、電動車両のバッテリパック収納構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のため本発明による電動車両のバッテリパック収納構造は、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の要旨構成の基礎前提となる電動車両を説明するに、これは、
車体パネルを車体内外方向内方へ窪ませて、側壁と、底壁と、該底壁に正対する外向き開口の周辺に延在する開口周辺壁とにより画成された外向き開口付きのバッテリ収納空所を設け、該バッテリ収納空所内へ前記外向き開口からバッテリパックを挿入して収納したものである。
【0013】
本発明は、かかる電動車両のバッテリ収納空所を、特に以下のごときものとなす。
つまり、相互に交差する前記側壁の一方および前記底壁を一体に有する第1パネル部品と、該相互に交差する前記側壁の他方および該他方の側壁に連なる前記開口周辺壁の部分を一体に有する第2パネル部品と、前記一方の側壁に連なる前記開口周辺壁の部分を有する第3パネル部品とにより電動車両のバッテリ収納空所を構成し、
これら第1、第2、第3パネル部品の相互組み立て結合によりバッテリ収納空所を前記車体パネルに設けた構成に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0014】
かかる本発明のバッテリパック収納構造によれば、以下のような作用効果を奏し得る。
つまり、上記第1、第2、第3パネル部品の相互組み立て結合によりバッテリ収納空所を車体パネルに設けたため、
バッテリ収納空所を絞り加工に頼ることなく車体パネルに設け得ることとなり、バッテリ収納空所の側壁間交差部における丸みの半径を大きくすることなく、またバッテリ収納空所の側壁に傾斜角を設定することなく、深くて大きなバッテリ収納空所を車体パネルに設けることができる。
【0015】
上記した要領でバッテリ収納空所を車体パネルに設ける本発明のバッテリパック収納構造によれば、バッテリ収納空所の側壁間交差部における丸みの半径を極限まで小さくすることができ、またバッテリ収納空所の側壁を傾斜させる必要がなくて底壁に対し直交させることさえ可能である。
このためバッテリ収納空所の内容積がいささかも低下されず、ここに収納するバッテリパックの大きさを制限されて、その容量が犠牲になるという前記の問題を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例になるバッテリパック収納構造を具えた電気自動車の車体フロア部分を、車両の左側上方から見て示す斜視図である。
【図2】図1のII-II線上で断面とし、矢の方向に見て車体フロア部分を前後シートおよびバッテリパックと共に示す、縦断側面図である。
【図3】図1の車体フロア部分をIII−III線上で断面とし、矢の方向に見て示す縦断正面図である。
【図4】図1〜3の実施例になるバッテリパック収納構造の分解斜視図である。
【図5】図1〜4の実施例になるバッテリパック収納構造を成す3個のパネル部品が合流する箇所に生じた隅角隙間を示す斜視図である。
【図6】図1〜4の実施例になるバッテリパック収納構造のうち、図5の隅角隙間を封止する構造部分を示す、図5と同様な斜視図である。
【図7】図6の隅角隙間封止構造部分を成すフランジを示し、 (a)は、当該フランジの要部拡大斜視図、 (b)は、当該フランジを(a)のVII−VII線上で断面とし、矢の方向に見て示す断面図である。
【図8】図7におけるフランジの一次成形後における形状を示す、図7(a)と同様な斜視図である。
【図9】図7におけるフランジを、傾斜フランジ部が存在せず、直立フランジ部のみで構成した場合の形状を示す、図7(b)と同様な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<構成>
図1は、本発明の一実施例になる電動車両のバッテリパック収納構造を具えた電気自動車の車体フロア部分を、車両の左側上方から見て示す斜視図で、
1はフロアトンネル、2L,2Rはそれぞれ左右サイドシル、3L,3Rはそれぞれ、これらフロアトンネル1および左右サイドシル2L,2R間を塞ぐ左右フロアパネル(車体パネル)を示す。
【0018】
左右フロアパネル(車体パネル)3L,3R上には、車幅方向へ延在するクロスメンバ4,5,6,7を設け、クロスメンバ4,5上には図2に示すようにフロントシート8を取り付け、クロスメンバ6,7上には同じく図2に示すようにリヤシート9を取り付ける。
【0019】
本実施例においては、これらフロントシート8およびリヤシート9の下方における左右フロアパネル(車体パネル)3L,3Rの部分を、図2,3のごとく車体上下方向上方(車体内外方向内方)へ窪ませて下向き(外向き)開口付きのバッテリ収納空所11を設け、ここにバッテリパック12(内部のバッテリユニットは図示せず)を収納する。
【0020】
ところで、フロントシート8およびリヤシート9は、要求される着座レベルの関係で、図2に示すごとく比較的高い位置に取り付けられており、これらフロントシート8およびリヤシート9の下方には未利用のデッドスペースが存在している。
【0021】
そこで本実施例においては、図2,3に示すごとく、フロントシート8およびリヤシート9の取り付け箇所の直下におけるバッテリ収納空所11が残部よりも深くなるよう左右フロアパネル3L,3Rの対応部分をフロントシート8およびリヤシート9の直下まで上昇させる。
そして、かように左右フロアパネル3L,3Rのシート直下部分を上昇させた分だけ、フロントシート8およびリヤシート9の直下におけるバッテリパック12の上下方向厚さを、図2に示すように厚くし、フロントシート8およびリヤシート9の直下におけるデッドスペースの有効利用によって、車室内空間を犠牲にすることなくバッテリパック12の容量を増大させる。
【0022】
しかし下向き開口付きバッテリ収納空所11は、かように深くしたことも加わって、これを絞り加工により左右フロアパネル(車体パネル)3L,3Rに設けるようとすると、パネル材の伸び限界を越えて、このパネル材が、特にバッテリ収納空所の側壁間交差部において破断する。
【0023】
かかる破断防止のためには、バッテリ収納空所の側壁間交差部における丸みの半径を大きくしたり、バッテリ収納空所の側壁に抜き勾配のような傾斜を持たせるのが常套であるが、
深くて大型のバッテリパックを収納するバッテリ収納空所の深絞り加工を可能にするには、上記した側壁間交差部における丸みの半径や側壁の傾斜角を余程大きくしなければならい。
【0024】
この場合、バッテリ収納空所の内容積が大幅に低下し、バッテリパックの大きさを制限されて、その容量が犠牲になるという、電気自動車のような電動車両にとって重大な問題を生ずる。
【0025】
そこで本実施例においては、下向き開口付きバッテリ収納空所11を絞り加工に頼ることなく、以下の要領で左右フロアパネル3L,3Rに設ける。
下向き開口付きバッテリ収納空所11を設ける要領は、左側フロアパネル3Lに対して下向き開口付きバッテリ収納空所11を設ける要領も、右側フロアパネル3Rに対して下向き開口付きバッテリ収納空所11を設ける要領も同じであるため、
左側フロアパネル3Lに対して下向き開口付きバッテリ収納空所11を設ける場合につき、その要領を以下に代表的に説明する。
【0026】
先ず、下向き開口付きバッテリ収納空所11を画成する壁について考察するに、このバッテリ収納空所11は、その下向き開口に沿って延在する側壁13,14と、これら側壁13,14によって区画された、上記下向き開口から遠い側における開口部を塞ぐ底壁15と、側壁13,14から上記下向き開口の周辺方向へ延在する開口周辺壁16とにより画成されている。
【0027】
本実施例においては、下向き開口付きバッテリ収納空所11を画成するこれらバッテリ収納空所画成壁13〜16を、図4につき以下に説明するごとくに構成する。
【0028】
先ず側壁13,14を、これら両者が相互に交差する側壁間交差部17(図1も参照)において分離させる。
次に開口周辺壁16は図1,4に示すごとく、上記相互に分離させた交差側壁13,14のうち一方の側壁13に連なる一方の開口周辺壁部分16aと、他方の側壁14に連なる他方の開口周辺壁部分16bとに分離させる。
【0029】
また、上記一方の側壁13を底壁15と一体に構成するが、上記一方の開口周辺壁部分16aとは別体に構成して、図4に明示するごとき全体形状をなす第1パネル部品18となす。
更に、上記他方の側壁14を上記他方の開口周辺壁部分16bと一体に構成するが、上記底壁15とは別体に構成して、図4に明示するごとき全体形状をなす第2パネル部品19となす。
【0030】
バッテリ収納空所画成壁を13〜16を以上のように分離させて、下向き開口付きバッテリ収納空所11を図4に示す、側壁13および底壁15用の第1パネル部品18と、側壁14および開口周辺壁部分16b用の第2パネル部品19と、開口周辺壁部分16a用の第3パネル部品20とから成るものとし、
これら3個のパネル部品18〜20を相互に組み立て結合することにより下向き開口付きバッテリ収納空所11を左側フロアパネル3Lに設ける。
【0031】
パネル部品18〜20の相互組み立て結合箇所における封止を可能にするため、第1パネル部品18には、側壁13が開口周辺壁部分16a(第3パネル部品20)上に重なるようにするフランジ18aを設ける。
また第2パネル部品19には、開口周辺壁部分16bが開口周辺壁部分16a(第3パネル部品20)上に重なるようにするフランジ19aと、側壁13,14の交差部17において側壁14が側壁13上に重なるようにするフランジ19bと、側壁14が底壁15と重なるようにするフランジ19cとを設ける。
【0032】
しかし、これらフランジ18a,19a,19b,19cは隣り合う2部品間の組み立て結合を封止下に行い得るが、
図5に示すように、側壁13および底壁15用のパネル部品18と、側壁14および開口周辺壁部分16b用のパネル部品19と、開口周辺壁部分16a用のパネル部品20との三者が合流する隅角部を封止することができず、ここに隅角隙間21が生ずるのを禁じ得ない。
【0033】
従って、かかる隅角隙間21を別の工程で封止する必要が発生し、一般的にはこの隅角隙間21に熱発泡樹脂材を詰めておき、後の工程で行う塗装時の熱でこの樹脂材を発泡させることにより隅角隙間21を封止するのが普通である。
しかし当該一般的な封止手法では、隅角隙間21に熱発泡樹脂材を詰める別工程が必要である上に、熱発泡樹脂材自身が高価であることから、コスト高になってしまうという問題を生ずる。
【0034】
そこで本実施例においては図4,6に示すごとく、側壁13,14が相互に交差する側壁間交差部17における開口周辺壁16の内周部位を構成する、パネル部品20(開口周辺壁部分16a)の内周部位20aに、相互に交差する側壁13および14と、開口周辺壁16(開口周辺壁部分16a,16b)との三者が合流する箇所(図5の隅角隙間21)を封止するためのフランジ22を折り曲げ成形により立設する。
【0035】
このフランジ22は図6および図7(a),(b)に明示するごとく、パネル部品20(開口周辺壁部分16a)の内周部位20aから所定の勾配θをもって側壁13,14の交差部17まで延在する傾斜フランジ部22aと、
該傾斜フランジ部22aの先端から側壁13,14の交差部17に沿って延在する直立フランジ部22bとで構成する。
【0036】
かかるフランジ22の成形に当たっては、先ず、パネル部品20(開口周辺壁部分16a)の内周部位20aから内方へ張り出すよう設けられている、フランジ22を形作るための突片を図8に示すごとく、
前記の傾斜角θを持つ傾斜フランジ部22aと、該傾斜フランジ部22aの先端から水平方向(パネル部品20と平行な方向)へ延在する水平フランジ部22cとからなる形状となすよう、プレス加工などにより一次成形する。
【0037】
次に上記の水平フランジ部22cを、図8の状態に対応した図7(b)の二点鎖線位置から矢印方向へ実線位置まで起こして(フランジアップして)、図7(a)に示すごとく傾斜フランジ部22aの先端から直立する直立フランジ部22bとなす。
【0038】
前記した通り3個のパネル部品18〜20を相互に組み立て結合して下向き開口付きバッテリ収納空所11を左側フロアパネル3Lに設けるとき、直立フランジ部22bは、側壁13,14の交差部17に沿い延在してこれに結合される。
これにより直立フランジ部22bは、傾斜フランジ部22aとの共働により、3個のパネル部品18〜20の合流箇所における図5に示した隅角隙間21を封止することができる。
【0039】
ところで直立フランジ部22bが、図9のごとく第3パネル部品20(開口周辺壁部分16a)から直立するのではなく、図7のごとく第3パネル部品20(開口周辺壁部分16a)上に所定勾配θをもって延在させた傾斜フランジ部22aの先端から直立するものであるため、
直立フランジ部22bの成形時におけるフランジアップ高さを図7にH1で示すごとく、図5の隅角隙間21を封止するのに必要なフランジ22の要求高さH2に関係なく小さなものとなし得る。
【0040】
このため、フランジ22の要求高さH2に関わりなく、直立フランジ部22bのフランジアップ成形時における先端伸張量を少なくし得て、直立フランジ部22bの先端がフランジアップ成形時に破断して、フランジ22による封止機能が損なわれるのを防止することができる。
この意味合いにおいて直立フランジ部22bの高さは、そのフランジアップ成形時に先端がパネル材の伸張限界を超えて破断されることのない高さにする必要があり、この要求が満足されるよう傾斜フランジ部22aの傾斜角θを定める。
【0041】
ちなみに図9のごとく、図7におけるような傾斜フランジ部22aを設定せず、直立フランジ部22bがパネル部品20(開口周辺壁部分16a)の面から直立するものである場合、
直立フランジ部22bの高さが少なくとも、二点鎖線で示すごとくフランジ要求高さH2と同じ高さである必要がある。
【0042】
しかし直立フランジ部22bが高いと、直立フランジ部22bのフランジアップ成形時における先端伸張量が大きくなり、直立フランジ部22bの先端がフランジアップ成形時に破断して、所定の封止機能を果たし得なくなる。
【0043】
かといって、かかる直立フランジ部22bの破断が生じないようにしようとすると、特に本実施例のように側壁間交差部17(図6参照)における丸みの半径が小さくて、図7(a)にRで示す直立フランジ部22bの曲率半径が小さく、当該直立フランジ部22bの破断を生じやすいものにあっては、
直立フランジ部22bの高さが最大でも、図9にH3(≒H1)で示す程度の低いものとなり、フランジ要求高さH2に対して直立フランジ部22bの高さが不足して、3個のパネル部品18〜20の合流箇所における図5に示した隅角隙間21を封止することができない。
【0044】
<作用効果>
上記した本実施例のバッテリパック収納構造によれば、下向き開口付きバッテリ収納空所11を画成するバッテリ収納空所画成壁13〜16を以下のように分離させる。
つまり、側壁13,14を図4に示すごとく、これら両者の相互交差部17において分離させ、
開口周辺壁16を図1,4に示すごとく、上記相互に分離させた交差側壁13,14のうち一方の側壁13に連なる一方の開口周辺壁部分16aと、他方の側壁14に連なる他方の開口周辺壁部分16bとに分離させる。
また、上記一方の側壁13を底壁15と一体に構成するが、上記一方の開口周辺壁部分16aとは別体に構成して、図4に明示するごとき全体形状をなす第1パネル部品18となす。
更に、上記他方の側壁14を上記他方の開口周辺壁部分16bと一体に構成するが、上記底壁15とは別体に構成して、図4に明示するごとき全体形状をなす第2パネル部品19となす。
【0045】
かくして、下向き開口付きバッテリ収納空所11は図4に示す、側壁13および底壁15用の第1パネル部品18と、側壁14および開口周辺壁部分16b用の第2パネル部品19と、開口周辺壁部分16a用の第3パネル部品20とから成り、
これら3個のパネル部品18〜20を相互に組み立て結合することにより下向き開口付きのバッテリ収納空所11をフロアパネル3Lに設けることができる。
【0046】
このため、下向き開口付きバッテリ収納空所11を絞り加工に頼ることなくフロアパネル3Lに設け得ることとなり、下向き開口付きバッテリ収納空所11の側壁間交差部17における丸みの半径を大きくすることなく、また下向き開口付きバッテリ収納空所11の側壁13,14に傾斜角を設定することなく、深くて大きなバッテリ収納空所11をフロアパネル3Lに設けることができる。
【0047】
従って、バッテリ収納空所11の側壁間交差部17における丸みの半径を極限まで小さくすることができ、またバッテリ収納空所11の側壁13,14を傾斜させる必要がなくて底壁15に対し直交させることさえ可能である。
このためバッテリ収納空所11の内容積がいささかも低下されず、ここに収納するバッテリパック12の大きさを制限されて、その容量が犠牲になるという問題を回避することができる。
【0048】
また本実施例にあっては、バッテリ収納空所11を、フロアパネル3Lに車体上下方向上方へ窪ませて設けた下向き開口付きバッテリ収納空所としたから、
シート8,9の直下における未利用のデッドスペースを有効活用して、車室内空間を犠牲にすることなく、バッテリ収納空所11の拡大を行い得て、バッテリパック12の容量拡大を実現することができる。
【0049】
なお本実施例のように、バッテリ収納空所画成壁13〜16を上記のように分離させて、側壁13および底壁15用の第1パネル部品18と、側壁14および開口周辺壁部分16b用の第2パネル部品19と、開口周辺壁部分16a用の第3パネル部品20との三者の相互組み立て結合によりバッテリ収納空所11をフロアパネル3Lに設ける場合、上記の三者が合流する隅角部に図5のごとく隙間21が生ずる。
【0050】
しかし本実施例においては、側壁13,14の交差部17における開口周辺壁16の内周部位を構成する、第3パネル部品20(開口周辺壁部分16a)の内周部位20aに、上記の三者が合流する箇所(図5の隅角隙間21)を封止するためのフランジ22を折り曲げ成形により立設したため、この隅角隙間21からバッテリ収納空所11内に水などが進入する弊害をなくすことができる。
【0051】
なお、かかる隅角隙間21の封止に当たっては通常、この隅角隙間21に熱発泡樹脂材を詰めておき、後の工程で行う塗装時の熱でこの樹脂材を発泡させるのが普通であり、隅角隙間21に熱発泡樹脂材を詰める別工程が必要である上に、熱発泡樹脂材自身が高価であることから、コスト高になってしまうという問題を生ずるが、
本実施例では、上記フランジ22を設置しているため、上記三者の組み立て結合によりバッテリ収納空所11を設けたとき、隅角隙間21の封止が同時に行われることとなって、当該コスト高の問題を生ずることがない。
【0052】
しかもフランジ22を図6および図7(a),(b)に明示するごとく、パネル部品20(開口周辺壁部分16a)の内周部位20aから所定の勾配θをもって側壁13,14の交差部17まで延在する傾斜フランジ部22aと、
該傾斜フランジ部22aの先端から側壁13,14の交差部17に沿って延在する直立フランジ部22bとで構成したため、
直立フランジ部22bの成形時におけるフランジアップ高さを図7にH1で示すごとく、図5の隅角隙間21を封止するのに必要なフランジ22の要求高さH2に関係なく小さなものとなし得る。
【0053】
従って、フランジ22の要求高さH2に関わりなく、直立フランジ部22bのフランジアップ成形時における先端伸張量を少なくし得て、直立フランジ部22bの先端がフランジアップ成形時に破断して、フランジ22による封止機能が損なわれるのを防止することができる。
そして直立フランジ部22bの高さを、そのフランジアップ成形時に先端がパネル材の伸張限界を超えて破断されることのない高さにすべく、傾斜フランジ部22aの傾斜角θを定めたため、上記の作用効果を更に確実なものにすることができる。
【0054】
<その他の実施例>
なお、バッテリ収納空所画成壁13〜16の分離に際しては、図示例につき上述したような要領で当該分離を行うものに限られない。
例えば、図示しなかったが、側壁13,14の全てを一体化して枠型に構成し、底壁15を側壁13,14とは別体に構成し、開口周辺壁16を開口周辺壁部分16a,16bに分離させず一体物として、側壁13,14とは別体に構成するような分離要領でもよい。
【0055】
かようにバッテリ収納空所画成壁13〜16を分離させたバッテリパック収納構造にあっても、本発明の前記した着想はそのまま適用可能であり、この適用によって前記した作用効果の全てを同様に奏し得るのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
1 フロアトンネル
2L,2R 左右サイドシル
3L,3R 左右フロアパネル(車体パネル)
4,5,6,7 クロスメンバ
8 フロントシート
9 リヤシート
11 下向き開口付きバッテリ収納空所(外向き開口付きバッテリ収納空所)
12 バッテリパック
13 一方の側壁
14 他方の側壁
15 底壁
16 開口周辺壁
16a 一方の開口周辺壁部分
16b 他方の開口周辺壁部分
17 側壁間交差部
18,19,20 パネル部品
20a 開口周辺壁内周部位
21 隅角隙間
22 フランジ
22a 傾斜フランジ部
22b 直立フランジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体パネルを車体内外方向内方へ窪ませて、側壁と、底壁と、該底壁に正対する外向き開口の周辺に延在する開口周辺壁とにより画成された外向き開口付きのバッテリ収納空所を設け、該バッテリ収納空所内へ前記外向き開口からバッテリパックを挿入して収納した電動車両において、
相互に交差する前記側壁の一方および前記底壁を一体に有する第1パネル部品と、該相互に交差する前記側壁の他方および該他方の側壁に連なる前記開口周辺壁の部分を一体に有する第2パネル部品と、前記一方の側壁に連なる前記開口周辺壁の部分を有する第3パネル部品とにより前記バッテリ収納空所を構成し、
これら第1、第2、第3パネル部品の相互組み立て結合により前記バッテリ収納空所を前記車体パネルに設けたことを特徴とする電動車両のバッテリパック収納構造。
【請求項2】
請求項1に記載された電動車両のバッテリパック収納構造において、
前記側壁が相互に交差する側壁交差箇所における前記開口周辺壁の内周部位に、前記相互に交差する側壁と、前記開口周辺壁との三者が合流する箇所を封止するためのフランジを折り曲げ成形により立設し、
該フランジを、前記開口周辺壁の内周部位から所定の勾配で前記側壁の相互交差部まで延在する傾斜フランジ部と、該傾斜フランジ部の先端から前記側壁の相互交差部に沿って延在する直立フランジ部とで構成したことをことを特徴とする電動車両のバッテリパック収納構造。
【請求項3】
請求項2に記載された電動車両のバッテリパック収納構造において、
前記フランジの折り曲げ成形時に前記直立フランジ部の先端が材料の伸張限界を超えて破断されることのない前記直立フランジ部の高さとなるよう、前記傾斜フランジ部の傾斜角を定めたことを特徴とする電動車両のバッテリパック収納構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された電動車両のバッテリパック収納構造において、
前記車体パネルが車体フロアパネルであり、
前記バッテリ収納空所が、該車体フロアパネルに車体上下方向上方へ窪ませて設けた、下向き開口付きのバッテリ収納空所であることを特徴とする電動車両のバッテリパック収納構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−255747(P2011−255747A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130769(P2010−130769)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】