説明

電圧制御発振回路

【課題】注入信号の半整数倍の周波数で同期した信号を取り出せ、かつ広帯域動作に有利な電圧制御発振回路を提供する。
【解決手段】電圧制御発振回路は、互いに逆相の差動信号が入力される複数のユニットセル(UC1〜UC4)を具備し、外部電圧(Vtune)によって前記複数のユニットセル内の負荷抵抗値を制御することで、前記差動信号の遅延量を制御するリングオシレータ型の電圧制御発振回路であって、前記ユニットセルは、制御端子に前記外部電圧が与えられる可変負荷回路(Bu1,Bu2)をそれぞれ備え、前記複数のユニットセルの少なくとも一つ(UC1)は、入力端子から注入される入力信号により出力端子間が短絡されるスイッチ(SW1)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電圧制御発振回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信回路の発振回路では、インダクタ(L)と容量(C)の共振特性を利用した回路が多く用いられている。LC回路のQ値を高く設定することで周波数精度が高く、位相雑音の低い優れた性能を実現できる。近年では、集積回路上にLC共振回路を用いた構成が多く用いられている。
【0003】
一方、集積回路技術が微細化されるに従い、トランジスタ回路部は小面積化されるのに対し、LC共振回路部では、定数が決まっているため小面積化できず、チップコストを制限してしまう状況になっている。また、LC共振型回路でも、例えば、0.1μm未満のプロセスを適用した場合には、システムの位相雑音仕様を満たすことが難しくなってきている。このため、これまでのLC共振回路を用いた発振回路に代わる回路技術として、リング型発振回路が注目されており、このリング型発振回路の高性能化の研究開発が現在精力的に進められている。例えば、同期信号を注入し位相雑音特性を改善する以下に示す研究成果が近年報告されている状況にある。
【0004】
しかしながら、現在報告されている構成では、注入信号の整数倍の周波数帯でしか同期が取れず、さらに、広帯域動作に不利であるという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kyoya Takano, et al. “4.8GHz CMOS Frequency Multiplier with Subharmonic Pulse-Injection Locking’’, Proceeding of IEEE Asian Solid-State Circuits Conference, pp.336-339, 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、注入信号の半整数倍の周波数で同期した信号を取り出せ、かつ広帯域動作に有利な電圧制御発振回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一態様に係る電圧制御発振回路は、互いに逆相の差動信号が入力される複数のユニットセルを具備し、外部電圧によって前記複数のユニットセル内の負荷抵抗値を制御することで、前記差動信号の遅延量を制御するリングオシレータ型の電圧制御発振回路であって、前記ユニットセルは、制御端子に前記外部電圧が与えられる可変負荷回路をそれぞれ備え、前記複数のユニットセルの少なくとも一つは、入力端子から注入される入力信号により出力端子間が短絡されるスイッチを備える。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、注入信号の半整数倍の周波数で同期した信号を取り出せ、かつ広帯域動作に有利な電圧制御発振回路が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の概要に係る電圧制御発振回路の全体構成例を示すブロック図。
【図2】この発明の概要に係る電圧制御発振回路の発振動作を示すタイミングチャート図。
【図3】この発明の第1の実施形態に係る電圧制御発振回路の構成例を示すブロック図。
【図4】第1の実施形態に係る電圧制御発振回路が有するユニットセルを示す等価回路図。
【図5】第1の実施形態に係る電圧制御発振回路が有するバイアス生成回路を示す等価回路図。
【図6】第1の実施形態に係る電圧制御発振回路の発振周波数制御の例を示す図。
【図7】第1の実施形態に係る電圧制御発振回路の試作回路のチップの例を示すレイアウト図。
【図8】第1の実施形態に係る電圧制御発振回路の発振動作(注入信号80MHzの場合)を示す図。
【図9】第1の実施形態に係る電圧制御発振回路の発振動作(注入信号200MHzの場合)を示す図。
【図10】第1の実施形態に係る電圧制御発振回路の発振動作(注入信号800MHzの場合)を示す図。
【図11】第1の実施形態に係る電圧制御発振回路の位相雑音特性の改善効果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。尚、この説明においては、全図にわたり共通の部分には共通の参照符号を付す。
【0011】
[概要]
図1および図2を用いて、この発明の電圧制御発振回路の概要について説明する。
<全体構成例>
まず、図1を用いて、概要に係る電圧制御発振回路の全体構成例について説明する。
図示するように、この例に係る電圧制御発振回路は、リングオシレータ型(以下、リング型と称する)発振回路(Ring VCO)であって、注入信号パルス入力端子(Injection),出力端子(Output),および発振周波数のチューニング端子(Frequency Tuning)を有する。
【0012】
注入信号パルス入力端子(Injection)には、例えば、パルス発生回路等(図示せず)から、パルス周波数frefを有する低位相雑音の注入信号が注入される。
【0013】
出力端子(Output)からは、注入パルス信号の繰り返し周波数frefに対し、一般の整数倍に加え半整数倍の周波数(例えば、fo=fref×1.5)にも同期した低位相雑音の信号を取り出すことができる。
【0014】
チューニング端子(Frequency Tuning)には、外部電圧としてのチューニング電圧Vtuneが与えられる。このチューニング電圧Vtuneを制御することにより、リング型電圧制御発振回路(Ring VCO)内のユニットセルが有するインバータ回路の負荷抵抗を制御でき、この負荷抵抗値と負荷容量の時定数により遅延時間を変化させ、発振周波数を、広帯域にわたって可変できるように構成される。
【0015】
<発振動作>
次に、図2を用いて、概要に係る電圧制御発振回路の発振動作例について説明する。
(a)の実線で示すように、出力端子(Output)からは、周波数foを有し、フリー発振信号(Free running)に対して、注入パルス信号が注入されると位相がシフトし、注入パルス信号に同期した出力信号foが発振される。
【0016】
(b)は、注入パルスの位相がシフトした際の、出力信号の位相シフト(Phase shift)量の変化の例を示す。
(c)は、フリー発振信号(Free running)の動作波形例を示す。
(d)では、出力周波数foが、注入パルス信号(injected pulse)の周波数frefの整数倍(×1倍、fo=fref)になっている場合の、注入パルス信号の波形例を示している。
【0017】
(e)では、出力周波数foが、注入パルス信号(injected pulse)の周波数frefの半整数倍(×1.5倍、fo=1.5×fref)になっている場合の、注入パルス信号の波形例を示している。
【0018】
<作用効果>
上記構成および発振動作によれば、少なくとも以下(I)、(II)のような作用効果が得られる。
(I)注入パルス信号の繰り返し周波数に対し、整数倍および半整数倍の周波数に同期した低位相雑音の信号を取り出せる。そのため、整数倍回路よりも2倍の周波数分解能を得ることができる。例えば、図2(d)の注入パルス信号(injected pulse)の繰り返し周波数frefに対しては、整数倍(×1倍)の周波数(fo= fref)に同期した低位相雑音の信号を取り出すことができ、また、図2(e)の注入パルス信号(injected pulse)の繰り返し周波数frefに対しては、半整数倍(×1.5倍)の周波数(fo=1.5 x fref)に同期した低位相雑音の信号を取り出せることが示されている。
【0019】
また、このように整数倍だけでなく半整数倍動作ができることにより、より高い注入同期信号を用いることができ、同じ周波数分解能をもつ整数倍動作回路と比較して、位相雑音をより低く抑えることができるというメリットもある。
【0020】
(II)周波数チューニング端子電圧Vtuneを制御することにより、広い周波数範囲内での整数倍、半整数倍周波数帯での信号出力を得られる。詳細については、後述する。
【0021】
このため、注入信号の半整数倍の周波数で同期した信号を取り出せ、かつ広帯域動作に有利な電圧制御発振回路が得られる。
【0022】
[第1の実施形態(リング型電圧制御発振回路の一例)]
次に、図3から図11を用い、第1の実施形態に係る電圧制御発振回路について説明する。この実施形態は、注入同期型広帯域低位相雑音リング電圧制御発振回路に関するものである。この説明において、上記の説明と重複する部分の詳細な説明を省略する。
【0023】
<1.構成例>
1−1.リング型電圧制御発振回路の構成例
まず、図3を用い、第1の実施形態に係る電圧制御発振回路の構成例について説明する。
図示するように、本例に係る電圧制御発振回路は、バイアス発生回路11,および互いに逆相の差動信号が入力される4段のユニットセルUC1〜UC4(差動回路)を備え、外部電圧(Vtune)によって4段のユニットセルUC1〜UC4に与える電圧を制御することで、上記差動信号の遅延量を制御するリングオシレータ型の電圧制御発振回路である。
【0024】
尚、パルス発生回路12は、入力電圧Vinjの注入パルス信号を発生させ、発生された注入パルス信号は、注入信号パルス入力端子(Injection)に与えられる。
【0025】
バイアス発生回路11は、外部より与えられる外部電圧(以下、チューニング電圧と称する)Vtuneから、4段のユニットセルUC1〜UC4に与えられるバイアス制御電圧Vcを発生させる。
【0026】
ユニットセル(unit cell)UC1〜UC4のそれぞれは、制御端子にチューニング電圧Vtuneおよび制御電圧Vcが与えられ、互いに逆相の差動信号が入力され、4段がリング状に接続される遅延バッファ回路構成である。また、4つのユニットセルUC1〜UC4のうち、1つのユニットセルUC1はスイッチSW1を有し、このスイッチSW1を介して注入信号(Vinj)が注入される構成である。そのため、注入同期動作を安定化することができる。
【0027】
注入信号(Vinj)は、注入信号パルス入力端子(Injection)より入力する。注入された際に、パルス信号が”H(High)”レベルのときにユニットセル(差動回路)UC1の出力端子(I1,/I1)間をスイッチSW1によってショートし、効率的に信号を入力する。このように、出力端子(I1,/I1)間を、スイッチSW1によってショートする注入回路構成により、半整数倍(l/2(l=2, 3, 4,…))の注入同期での同期を可能にしている。
【0028】
1−2.ユニットセル(UC1)の構成例
次に、図4を用い、第1の実施形態に係るユニットセルの構成例について説明する。ここでは、ユニットセルUC1を一例に挙げる。
図示するように、ユニットセルUC1は、可変負荷回路Bu1,Bu2を構成するインバータ回路IN1,IN2および三極管動作するトランジスタTr1,Tr2、トランジスタP31,P32、スイッチSW1、トランジスタN51,N52,N60を備える。
【0029】
インバータ回路IN1,IN2は、トランジスタP11〜N12により構成される。p型トランジスタP11,P12の電流経路の一端は内部電源電圧Vddに接続される。n型トランジスタN11,N12の電流経路の一端はトランジスタP11,P12の電流経路の他端に接続され、電流経路の他端は接地電源電圧に接続され、制御端子(ゲート端子)はトランジスタP11,P12の制御端子と共通に接続されチューニング電圧Vtuneが与えられる。
【0030】
三極管動作するトランジスタTr1,Tr2は、p型トランジスタP21,P22として構成される。トランジスタP21,P22の電流経路の一端は内部電源電圧Vddに接続され、他端はインバータ回路IN1,IN2の出力に接続され、制御端子(ゲート端子)を接地電源電圧に接続することにより三極管動作を実現している。
【0031】
トランジスタP31,P32の電流経路の一端は内部電源電圧Vddに接続され、他端はインバータ回路IN1,IN2の出力に接続され、制御端子は他方の電流経路の他端に交差するように接続される。
【0032】
スイッチSW1は、n型トランジスタN41,N42により構成される。トランジスタN41,N42の電流経路の一端および他端は出力端子(I1,/I1)に接続され、制御端子(ゲート端子)には入力端子(Injection)から入力電圧Vinjが与えられる。
【0033】
差動増幅器を構成するトランジスタ対N51,N52の電流経路の一端はスイッチSW1の一端および他端に接続され、制御端子(ゲート端子)は出力端子(I1,/I1)に接続される。
【0034】
トランジスタN60の電流経路の一端はトランジスタN51,N52の電流経路の他端に接続され、電流経路の他端は接地電源電圧に接続され、制御端子(ゲート端子)には制御電圧Vcが与えられる。
その他のユニットセルUC2〜UC4の構成は、スイッチSW1を除き、ユニットセルUC1と同様である。
【0035】
1−3.バイアス発生回路11の構成例
次に、図5を用い、第1の実施形態に係るバイアス発生回路の構成例について説明する。図示するように、バイアス発生回路は、インバータ回路IN21,およびトランジスタP72,P73,P81,N81を備える。
インバータ回路IN21は、トランジスタP71,N71により構成される。p型トランジスタP71の電流経路の一端は内部電源電圧Vddに接続される。n型トランジスタN71の電流経路の一端はトランジスタP71の電流経路の他端に接続され、電流経路の他端は接地電源電圧に接続され、制御端子(ゲート端子)はトランジスタP71,N72の制御端子(ゲート端子)と共通に接続されチューニング電圧Vtuneが与えられる。
【0036】
p型トランジスタP72の電流経路の一端には内部電源電圧Vddに接続され、制御端子(ゲート端子)には内部電源電圧の半分の電圧Vdd/2が与えられる。p型トランジスタP73の電流経路の一端はトランジスタP72の他端に接続され、制御端子(ゲート端子)には電圧Vdd/2が与えられる。
【0037】
トランジスタP81の電流経路の一端には内部電源電圧Vddに接続され、他端はインバータIN21の出力に接続され、制御端子(ゲート端子)には接地電源電圧が与えられる。トランジスタN81の電流経路の一端はトランジスタP73の電流経路の他端に接続され、他端は接地電源電圧に接続され、制御端子(ゲート端子)はインバータIN21の出力が接続されユニットセルUC1〜UC4へ制御電圧Vcを出力する。
【0038】
<2.動作>
2−1.チューニング電圧Vtuneによる発振周波数制御の例
次に、図6を用い、第1の実施形態に係るチューニング電圧Vtuneによる発振周波数制御について説明する。図6は、出力端子(ここでは、Q2,/Q2)における出力周波数(Oscillation Freq.)とチューニング電圧Vtuneとの関係を示したものである。
【0039】
図中の実線FVはバイアス制御電圧Vcを0.85Vに固定した場合(With fixed voltage of 0.85V)の特性線であり、実線RVはチューニング電圧Vtuneにより図5で示した回路を介してバイアス制御電圧Vcを変化させた場合(With replica bias)の特性線である。
【0040】
図示するように、チューニング電圧Vtuneを0Vから1.8Vへと変化させることにより、発振周波数を大きく変化できていることが分かる。実線FVによる特性は、図4の回路図におけるBu1とBu2の負荷抵抗値をVtune制御端子電圧により制御することにより得られている。Vtune電圧が低いときは、負荷抵抗値が小さくなり高周波での発振を可能とし、Vtune電圧が大きくなるにつれて、負荷抵抗値は増大し発振周波数が低下していくことになる。
実線RVの特性は、さらに広帯域な動作を実現するため図5で示したバイアス生成回路を介してバイアス電圧Vcも同時に変化させることにより、より低い周波数領域までの発振を可能としている。図5の回路では、Vtune制御端子電圧が低くなるとバイアス端子電圧Vcも小さくなるよう構成しているため、低周波発振動作領域において、図4におけるトランジスタN51、N52の差動対回路の電流をより低く抑えることにより、より高い負荷抵抗値の設定を可能としている。このため、本構成では、Vtuneによる負荷抵抗値の制御とバイアス電圧Vcを同時に制御することにより広帯域な発振動作を可能にしている。
【0041】
2−2.発振動作
次に、図7から図10を用い、第1の実施形態に係る電圧制御発振回路の発振動作について説明する。本願発明者は、180nm CMOSプロセスで図7に示すようなチップを試作評価し、下記に示すような結果を得た。図中のコア(Core)と表記される部分に本例に係る電圧制御発振回路が配置される。尚、図中の(BF1,BF2)と表記される部分には、下記測定のためのバッファ回路(Buffers)が配置される。
【0042】
注入信号:80MHzの場合
図8中の破線で示す基準信号を入力していないときのリング型電圧発振回路の発振周波数(Free running)は1.0GHz〜2.2GHz程度であり、このリング型電圧発振回路に80MHzの信号を注入した場合の発振周波数は実線で示すものである。図示するように、半整数倍(例えば、80M×24, 80M×23.5, 80M×23, 80M×22, …)の周波数に同期した出力信号が得られていることが分かる。
【0043】
注入信号:200MHzの場合
図9中の破線で示す基準信号を入力していないときのリング型電圧発振回路の発振周波数(Free running)は1.0GHz〜2.2GHz程度であり、このリング型電圧発振回路に200MHzの信号を注入した場合の発振周波数は実線で示すものである。図示するように、半整数倍(例えば、200M×10, 200M×9.5, 200M×9, 200M×8.5, …)の周波数に同期した出力信号が得られていることが分かる。
【0044】
注入信号:800MHzの場合
図10中の破線で示す基準信号を入力していないときのリング型電圧発振回路の発振周波数(Free running)は1.0GHz〜2.2GHz程度であり、このリング型電圧発振回路に800MHzの信号を注入した場合の発振周波数は実線で示すものである。図示するように、半整数倍(例えば、800M×2.5, 800M×2, 800M×1.5 …)の周波数に同期した出力信号が得られていることが分かる。
このように、本例に係るリング型電圧発振回路によれば、半整数倍の周波数に同期した信号を取り出すことができる。
【0045】
2−3.位相雑音特性の改善効果について
次に、図11を用い、第1の実施形態に係る電圧制御発振回路の位相雑音特性の改善効果について説明する。図11は、40MHzと80MHzのパルス信号を注入したときの位相雑音特性を評価した結果である。
【0046】
図示するように、1MHz離調時の位相雑音は、注入信号なしの時で、−100dBc/Hzである。しかしながら、スイッチSW1に位相雑音特性の良いパルス信号(fref)を注入することにより、パルス幅:250psの40MHz信号を入力した時で、−121dBc/Hz、パルス幅:250psの80MHzの信号を注入した時で、それぞれ−127dBc/Hzと20dB以上の大幅な位相雑音特性の改善できていることが分かる。このように、スイッチSW1にパルス信号を注入する回路構成により、本質的に位相雑音特性が大きいと言われるリングオシレータ型の電圧制御発振回路の位相雑音を低減化することに成功した。
<3.作用効果>
この実施形態に係る電圧制御発振回路によれば、少なくとも下記(1)から(4)の作用効果が得られる。
(1)注入信号の半整数倍の周波数で同期した信号を取り出せ、かつ広帯域動作に有利である。
【0047】
本例に係る電圧制御発振回路は、互いに逆相の差動信号が入力される複数のユニットセル(UC1〜UC4)を具備し、外部電圧(Vtune)によって複数のユニットセル内の負荷抵抗値を制御することで、差動信号の遅延量を制御するリングオシレータ型の電圧制御発振回路である。さらに、
ユニットセルUC1〜UC4は、制御端子に外部電圧Vtuneが与えられる可変負荷回路Bu1,Bu2をそれぞれ備え、複数のユニットセルの少なくとも一つ(UC1)は、入力端子から注入される入力信号Vinjにより出力端子(I1,/I1)間が短絡されるスイッチSW1を備える。
上記のように、複数のユニットセルの少なくとも一つ(UC1)は、入力端子から注入される入力信号Vinjにより出力端子(I1,/I1)間が短絡されるスイッチSW1を備える。そのため、注入された入力信号(Vinj)が、例えば、”H(High)”レベルのときにユニットセルUC1の出力端子(I1,/I1)間をスイッチSW1によってショートされ、効率的に信号を入力でき、半整数倍(l/2(l=2, 3, 4,…))の注入同期での出力信号を得ることができる(例えば、図8から図10)。
加えて、ユニットセルUC1〜UC4は、制御端子に外部電圧Vtuneが与えられる可変負荷回路Bu1,Bu2をそれぞれ備える。そのため、外部電圧(Vtune)によって複数のユニットセル(UC1〜UC4)内の負荷抵抗値を制御することができ、差動信号の遅延量を制御することができる。例えば、図6に示したように、チューニング電圧Vtuneを固定値から所定の値だけ制御することにより、電圧制御発振回路(VCO)内のユニットセルUC1〜UC4がそれぞれ有する可変抵抗を制御できる。このため、電圧制御発振回路の出力端子(Q2,/Q2)における遅延時間を変化させ、発振周波数を広帯域に可変できる。
以上のように、本例に係る電圧制御発振回路の構成および動作によれば、注入信号の半整数倍の周波数で同期した信号を取り出せ、かつ広帯域動作に有利である。
【0048】
(2)微細化および製造コストの低減化に対して有利である。
上記のように、本例に係る電圧制御発振回路はリングオシレータ型であって、インダクタ(L)と容量(C)の共振特性を利用したLC共振型の電圧制御発振回路ではない。ここで、LC共振型の電圧制御発振回路では、LC共振回路部の定数が決まっているため小面積化できず、チップコストを制限してしまう状況になっている。
しかしながら、本例では、リングオシレータ型であるため、インダクタ(L)と容量(C)は不要であるため、微細化および製造コストの低減に対して有利である。例えば、0.1μm未満の微細CMOS技術領域では、LC共振型の電圧制御発振回路にとって代わる可能性が大きいと考えられている。
【0049】
(3)位相雑音特性を低減することができる。
本例では、スイッチSW1にパルス信号を注入する回路構成により、本質的に位相雑音特性が大きいと言われるリングオシレータ型の電圧制御発振回路の位相雑音を低減化することができる。
例えば、図11に示したように、スイッチSW1にパルス信号を注入することにより、パルス幅:250psの40MHz信号を入力した時で、−121dBc/Hz、パルス幅:250psの80MHzの信号を注入した時で、それぞれ−127dBc/Hzと20dB以上の大幅な位相雑音特性の改善できていることが分かる。
【0050】
(4)周波数逓倍回路等のその他の変換回路への応用が容易である。
本例に係る電圧制御発振回路を搭載することにより、周波数逓倍回路、周波数変換回路、や周波数シンセサイザ回路等への応用が容易である点でも有利である。
【0051】
以上、概要および第1の実施形態を用いて本発明の説明を行ったが、この発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上記各実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば各実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題の少なくとも1つが解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果の少なくとも1つが得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0052】
11…バイアス発生回路、12…パルス発生回路、ユニットセル(差動回路)…UC1〜UC4、SW1…スイッチ、外部電圧…Vtune、制御電圧…Vc、Bu1,Bu2…可変負荷回路、In1、In2…インバータ回路、Tr1,Tr2…三極管動作トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに逆相の差動信号が入力される複数のユニットセルを具備し、外部電圧によって前記複数のユニットセル内の負荷抵抗値を制御することで、前記差動信号の遅延量を制御するリングオシレータ型の電圧制御発振回路であって、
前記ユニットセルは、制御端子に前記外部電圧が与えられる可変負荷回路をそれぞれ備え、
前記複数のユニットセルの少なくとも一つは、入力端子から注入される入力信号により出力端子間が短絡されるスイッチを備えること
を特徴とする電圧制御発振回路。
【請求項2】
前記外部電圧から、前記複数のユニットセルに与えられるバイアス電圧を発生させるバイアス発生回路を更に具備すること
を特徴とする請求項1に記載の電圧制御発振回路。
【請求項3】
前記可変負荷回路は、制御端子に前記外部電圧が与えられるインバータ回路と、電流経路の一端が第1電源電圧に接続され他端が前記インバータ回路の出力に接続される三極管動作をするトランジスタとを備えること
を特徴とする請求項1または2に記載の電圧制御発振回路。
【請求項4】
前記複数のユニットセルは、電流経路の一端が第2電源電圧に接続され、他端が差動増幅器を構成するトランジスタ対に接続され、制御端子に前記バイアス電圧が与えられる第1トランジスタを更に備えること
を特徴とする請求項2または3に記載の電圧制御発振回路。
【請求項5】
前記スイッチが前記入力信号が”第1”レベルのときに前記出力端子間を短絡する回路構成により、半整数倍の注入同期での出力信号を発振すること
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の電圧制御発振回路。
【請求項6】
前記スイッチは、電流経路の一端および他端が前記出力端子に接続され、制御端子に入力端子からの入力電圧が与えられる第2、第3トランジスタを備えること
を特徴とする請求項5に記載の電圧制御発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−61325(P2011−61325A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206349(P2009−206349)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(396023993)株式会社半導体理工学研究センター (150)
【Fターム(参考)】