説明

電子ビーム描画方法および電子ビーム描画システム

【課題】ディスク状磁気記録メディア用の微細パターンを回転ステージを回転させつつ電子ビーム走査により描画する際の周方向描画位置の精度を向上させる。
【解決手段】各半径位置の周方向の所定領域毎に、その所定領域が電子ビーム照射位置に位置する前に生じる所定のエンコーダパルスEnから所定時間Δtnの経過後(tn+Δtn)に、その所定領域の描画データ信号群に基づくパターン描画を開始することを原則とし、回転速度ムラに起因してある所定領域についての描画開始の基準となるエンコーダパルスEnから所定時間Δtnが経過する前に、その所定時間Δtnの経過後に生じるべきエンコーダパルスEn+1が生じた場合には、その発生時刻t'n+1にその領域のパターン描画を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク媒体作製に用いられるインプリントモールド原盤や磁気転写用マスター担体などの原盤を作製する際に、磁気ディスク媒体用の微細パターンを描画するための電子ビーム描画方法および電子ビーム描画システムに関するものである。
【0002】
また、本発明は、電子ビーム描画方法を用いた描画を行う工程を経て製造される、凹凸パターン表面を有するインプリントモールドあるいは磁気転写用マスター担体などを含む凹凸パターン担持体の製造方法、さらには該凹凸パターン担持体を用いてパターンが転写されてなる磁気ディスク媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
現状の磁気ディスク媒体では、一般にサーボパターンなどの情報パターンが予め形成されている。また、記録密度のさらなる高密度化の要請から、隣接するデータトラックを溝(グルーブ)で分離し、隣接トラック間の磁気的干渉を低減するようにしたディスクリートトラックメディア(DTM)が注目されている。さらに高密度化を図るために提案されているビットパターンメディア(BPM)は単磁区を構成する磁性体(単磁区微粒子)が物理的に孤立して規則的に配列されてなり、微粒子1個に1ビットを記録するメディアである。
【0004】
従来、上記サーボパターン等の微細パターンは、磁気ディスク媒体に凹凸パターンまたは磁化パターンなどとして形成されており、高密度の磁気ディスク媒体を製造するためのインプリントモールドあるいは磁気転写用マスター担体の原盤などに、所定の微細パターンをパターニングするための電子ビーム描画方法が提案されている。この電子ビーム描画方法は、原盤を回転ステージ上に載置し、該回転ステージを回転させることにより原盤を回転させながら、原盤上において電子ビームを偏向走査させることによってパターン描画を行うものである(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
上記特許文献1には、例えばサーボパターンを構成するトラックの幅方向に延びる矩形または平行四辺形のエレメントを描画する際に、電子ビームを周方向に高速振動させつつ半径方向に偏向させて、このエレメントを塗りつぶすように走査して描画する方法が提案されている。
【0006】
特許文献2には、オン・オフ描画方法として、レジストが塗布された基板を回転させながら、パターン形状に対応して電子ビームをオン・オフ照射し、基板または電子ビーム照射装置を1回転に1ビーム幅ずつ描画し、1回転毎に半径方向に描画位置を移動させて描画を行う、複数回転で1トラックのパターンを描画する方法、およびパターンのトラック幅方向に電子ビームを往復振動させて1回転で1トラックのパターンを描画する方法が開示されている。さらに、特許文献2には、サーボパターンの描画開始タイミングを制御する方法が提案されている。
【0007】
また、特許文献3にはディスクリートトラックメディア用の微細パターンを描画する方法が開示されており、1トラック毎にサーボパターン、グルーブパターンを連続して描画する方法が提案されている。
【0008】
電子ビーム描画方法においては、回転ステージを駆動する駆動モータの回転角度位置を検出するエンコーダからのエンコーダ信号(エンコーダパルス)とフォーマッタで生成される描画クロックとを同期させてパターンを描画する方法が一般的である。しかしながら、この方法を用いると、回転ステージを駆動する駆動モータの回転速度ムラがある場合には、円周方向のパターン配置に誤差が生じる。
【0009】
引用文献4では、描画領域の直前のエンコーダパルスから所定時間経過後に描画を開始するようにすることで、描画開始位置の位置誤差を抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−158287号公報
【特許文献2】特開2006−1849249号公報
【特許文献3】特開2009−122217号公報
【特許文献4】特開2009−186581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献3に記載のようにグルーブパターンとサーボパターンとを、各領域毎にエンコーダパルスに基づいて描画を開始する場合、回転速度ムラにより次のような問題が生じると考えられる。
【0012】
図10は、グルーブパターンとサーボパターンとの各領域間に生じ得る問題を説明するための図である。
各領域について、所定のエンコーダパルスから所定の描画クロック数後に描画が開始される。ここでは、エンコーダパルスEから3描画クロック目にグルーブパターンGの描画を開始し、次のエンコーダパルスEから3描画クロック目にサーボパターンSの描画を開始するよう描画開始時刻(以下、インデックス(Index)時刻と称する。)が設定されているものとする。描画データ信号群は連続したデータ信号からなり、各領域はそれぞれの領域を描画するためのデータ信号に基づいて描画される。
【0013】
図10に示されるように、回転の線速度が正常であるとき、時刻tにグルーブパターンGの描画データ信号群Data(G)に基づく描画を開始し、1描画クロック当たりLnの長さ周方向に描画し、次のインデックス(時刻t)でサーボパターンSの描画データ信号群Data(S)に基づく描画が開始される。
【0014】
しかし、グルーブパターンGの描画時の回転の線速度が正常時よりも速い場合、1描画クロック当たりLf(>Ln)の長さを描画することとなりグループパターンGについてのデータ信号群Data(G)に基づく描画がグルーブパターンGを書くべき領域(円周方向x〜x)内で終了せず、i)サーボパターンSの先頭領域(円周方向x〜x’)において描画が重なる、あるいはii)サーボパターンSの描画の開始位置本来の開始位置xからずれる(遅れる)ことが起こり得る。
【0015】
また回転の線速度が正常時よりも遅い場合、グルーブパターンGについてのデータ信号群Data(G)に基づく描画ではグルーブパターンGを書くべき領域を満たすのに足らず、サーボパターンSとの間に隙間が生じ得る。
【0016】
このように、回転の速度ムラがあると、描画領域が重なったり、描画開始位置がずれたり、さらには、描画領域にとびが生じたりして、描画精度が低下するという問題がある。
【0017】
特に、回転の線速度が速い場合に生じるサーボパターンとグルーブとの重なりやサーボパターンの開始位置のずれはサーボ精度に影響を及ぼす恐れがあり問題となる。
【0018】
また、特許文献2等に記載のような1回転中の描画を照射ビームのオン・オフ制御のみで1ビーム幅で描画して複数回転で1トラックのパターンを描画するマルチパス方式の描画方法を用いる場合にも、同様の問題が生じる。マルチパス方式の場合には、電子ビームを振動させつつ1トラックを1回転中に描画する方式と比較して高速で描画するため、回転ムラによるパターン開始位置のずれが大きくなり影響は甚大である。
【0019】
本発明者らの研究によれば、回転ムラによりエンコーダ間隔には最大150ns程度のずれがあり、回転数180rpm、半径位置15mmで計算すると、パターン位置の周方向へのずれは最大40nm程度であった。同様に回転数が1000rpm、半径位置15mmで計算すると、パターン位置の周方向へのずれは最大220nm程度となる。
【0020】
本発明者は、既に回転速度が正常時より速い時に生じるパターンの重なりの発生を防止し、また、線速度が遅い時に生じるパターン間の隙間の発生を防止する方法を提案している(特願2011−047691号:本出願時未公開)。
【0021】
しかしながら、回転速度が正常時より速い時に生じるパターン開始位置については、十分な精度の向上が図られていない。
【0022】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、回転速度が正常時より速いと時に生じるパターンの円周方向における描画開始位置の精度向上を可能とする電子ビーム描画方法および電子ビーム描画システムを提供することを目的とするものである。
【0023】
また、本発明は、上記電子ビーム描画方法を用いた、インプリントモールドや磁気転写用マスター担体などの凹凸パターン担持体の製造方法を提供すること、および、その凹凸パターン担持体を用いて凹凸パターンもしくは磁気パターンが転写されてなる磁気ディスク媒体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の電子ビーム描画方法は、ロータリエンコーダを備えた回転ステージ上に載置された原盤に、前記回転ステージを回転させつつ電子ビームを走査して、磁気ディスク媒体用の微細パターンの描画を行う電子ビーム描画方法であって、
各半径位置の周方向の所定領域毎に、該所定領域が前記電子ビーム照射位置に位置する前に生じる所定のエンコーダパルスから所定時間の経過後に、該所定領域毎の描画データ信号群に基づくパターン描画を開始する電子ビーム描画方法において、
ある所定領域について、前記所定のエンコーダパルスから所定時間が経過する前に、該所定時間の経過後に生じるべきエンコーダパルスが生じた場合には、該所定時間を待つことなく、前記ある所定領域の描画データ信号群のデータに基づくパターン描画を開始することを特徴とする。
【0025】
すなわち、本発明の電子ビーム描画方法は、回転ステージの回転の線速度が正常(予め定められた速度)である場合には、所定領域が前記電子ビーム照射位置に位置する前に生じる所定のエンコーダパルスから所定時間の経過後に、該所定領域毎の描画データ信号群に基づくパターン描画を開始するものであるが、回転の線速度が正常時よりも速くなったために、所定時間の経過する前に、該所定時間の経過後の生じるべきエンコーダパルスが生じた場合には、該所定時間を待つことなく、描画を開始することを特徴とするものである。
【0026】
本発明の電子ビーム描画装置は、ロータリエンコーダを備えた回転ステージおよび電子ビームを出射する電子銃を備え、該回転ステージ上に載置された原盤に、該回転ステージを回転させつつ前記電子ビームを走査してパターンの描画を行う電子ビーム描画装置と、
各半径位置の周方向の所定領域毎に、該所定領域が前記電子ビーム照射位置に位置する前に生じる所定のエンコーダパルスから所定時間の経過後に、該所定領域毎の描画データ信号群に基づくパターン描画を開始するように、前記所定領域毎の描画データ信号群を生成し、該描画データ信号群のデータ信号を前記電子ビーム描画装置に順次送出するデータ信号生成送出装置とを備え、
前記データ信号生成送出装置が、前記電子ビーム描画装置に出力する前記所定領域毎の前記描画データ信号群を順次格納するメモリを有し、該メモリに前記所定領域毎に、そのパターン描画の開始前に該各所定領域に対応する描画データ信号群を格納し、該メモリに格納されている描画データ信号群のデータ信号を送出するものであり、ある所定領域についての前記所定のエンコーダパルスから所定時間が経過する前に、該所定時間の経過後に生じるべきエンコーダパルスが生じた場合には、該所定時間を待つことなく前記メモリから該ある所定領域の前記描画データ信号群のデータ信号の送出を開始するものであることを特徴とするものである。
【0027】
前記データ信号生成送出装置が、前記メモリを複数備え、該複数のメモリに前記電子ビーム描画装置に出力する前記所定領域毎の前記描画データ信号群を、描画順序に従って交互に格納し、前記所定領域毎にデータ信号を送出するメモリを切り替え、該メモリに格納されている描画データ信号群のデータ信号を送出するものであることが好ましい。
【0028】
また、前記データ信号生成送出装置がバッファメモリをさらに備え、前記メモリから該バッファメモリを介して前記データ信号を前記電子ビーム描画装置へ送出するものであることが好ましい。
【0029】
本発明の凹凸パターン担持体の製造方法は、本発明の電子ビーム描画方法により、磁気ディスク媒体用の微細パターンを原盤に描画し、該微細パターンが描画された原盤を用いて、前記微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を含むことを特徴とする。
【0030】
ここで、凹凸パターン担持体とは、表面に所望の凹凸パターン形状を有する担体であり、その凹凸パターンの形状を被転写媒体に転写するためのインプリントモールド、凹凸パターンの形状に応じた磁化パターンを被転写媒体に転写するための磁気転写用マスター担体などである。
【0031】
本発明の磁気ディスク媒体の製造方法、本発明の製造方法により製造された凹凸パターン担持体であるインプリントモールドを用い、該モールドの表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた凹凸パターンを転写する工程を含むことを特徴とする。本製造方法で製造される磁気ディスク媒体としては、具体的には、ディスクリートトラックメディアやビットパターンメディアなどが挙げられる。
【0032】
本発明の別の磁気ディスク媒体の製造方法は、本発明の製造方法により製造された凹凸パターン担持体である磁気転写用マスター担体を用い、該マスター担体の表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた磁化パターンを磁気転写す工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明の電子ビーム描画方法によれば、ある所定領域について、所定のエンコーダパルスから所定時間が経過する前に、その所定時間の経過後に生じるべきエンコーダパルスが生じた場合には、所定時間を待つことなく、前記ある所定領域の描画データ信号群のデータに基づくパターン描画を開始するので、回転ムラにより回転の線速度が速くなった場合にパターン開始位置が後方にずれるのを抑制し、パターンの描画精度を向上させることができる。パターンがサーボパターンである場合には、そのパターン描画開始位置の精度を向上させることにより、結果としてサーボの精度向上に繋がる。
【0034】
本発明の電子ビーム描画システムは、電子ビーム描画装置に出力する所定領域毎の描画データ信号群を順次格納するメモリを有し、該メモリに前記所定領域毎に、そのパターン描画の開始前に該各所定領域に対応する描画データ信号群を格納し、該メモリに格納されている描画データ信号群のデータ信号を送出するものであり、ある所定領域についての前記所定のエンコーダパルスから所定時間が経過する前に、該所定時間の経過後に生じるべきエンコーダパルスが生じた場合には、該所定時間を待つことなく前記メモリから該ある所定領域の前記描画データ信号群のデータ信号の送出を開始するデータ信号生成送出装置を備えているので、本発明の電子ビーム描画方法を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の電子ビーム描画方法を実施する一実施形態の電子ビーム描画システムの要部側面図(a)および部分平面図(b)である。
【図2】本発明の電子ビーム描画方法により原盤に描画するディスクリートトラックメディア用の微細パターンを示す平面図
【図3】図2の微細パターンの一部の拡大図
【図4】本発明の電子ビーム描画方法の実施形態におけるパターン描画のタイミングチャートを示す図
【図5】本発明の電子ビーム描画方法によりグルーブパターンに引き続くサーボパターンを描画する際の回転速度と描画パターンを説明するための図
【図6】回転速度が速くなった場合の描画開始のタイミングについて説明するための図
【図7】電子ビーム描画方法の設計変更例のパターン描画のタイミングチャートを示す図
【図8】インプリントモールドを用いて微細パターンを転写形成している過程を示す概略断面図
【図9】磁気転写用マスターを用いて磁化パターンの転写工程を示す断面模式図
【図10】従来の高速振動方式の描画方法において、回転ムラによるパターン境界で生じうる問題点を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。
【0037】
「電子ビーム描画システム」
まず、本発明の電子ビーム描画方法を実施するための本発明の電子ビーム描画システムの一実施形態について説明する。図1は電子ビーム描画システムの構成概略を示すブロック図である。
電子ビーム描画システム100は、電子ビーム描画装置40およびデータ信号生成送出装置50を備え、電子ビーム描画装置40は、原盤に対して電子ビームを照射する電子ビーム照射部20と、原盤を回転および直線移動させる機械駆動部30とを備えている。
【0038】
電子ビーム照射部20は、鏡筒18内に電子ビームEBを出射する電子銃21、電子ビームEBを半径方向Yおよび円周方向Xへ偏向させるとともに円周方向Xに一定の振幅で微小往復振動させる偏向手段22,23、電子ビームEBの照射をオン・オフするためのブランキング手段24としてアパーチャ25およびブランキング26(偏向器)を備えており、電子銃21から出射された電子ビームEBは偏向手段22、23および図示しない電磁レンズ等を経て、原盤(ここでは、レジスト11が塗布された基板10)上に照射される。
【0039】
ブランキング手段24における上記アパーチャ25は、中心部に電子ビームEBが通過する透孔を備え、ブランキング26はEB照射のオン・オフ信号の入力に伴って、オン信号時には電子ビームEBを偏向させることなくアパーチャ25の透孔を通過させて照射させ、一方、オフ信号時には電子ビームEBを偏向させてアパーチャ25の透孔を通過させることなくアパーチャ25で遮断して、電子ビームEBの照射を行わないように作動する。
【0040】
機械駆動部30は、鏡筒18が上面に配置された筐体19内に原盤を支持する回転ステージ31および該ステージ31の中心軸と一致するように設けられたモータ軸を有するスピンドルモータ32と備えた回転ステージユニット33と、回転ステージユニット33を回転ステージ31の一半径方向に直線移動させるための直線移動手段34とを備えている。直線移動手段34は、回転ステージユニット33の一部に螺合された精密なネジきりが施されたロッド35と、このロッド35を正逆回転駆動させるパルスモータ36とを備えている。また、ステージユニット33には、回転ステージ31の回転角に応じたエンコーダ信号を出力するエンコーダ37が設置されている。エンコーダ37は、スピンドルモータ32のモータ軸に取り付けられる、多数の放射状のスリットが形成された回転板38と、そのスリットを光学的に読み取り、エンコーダ信号を出力する光学素子39とを備えている。なお、モータ32の回転速度ムラに基づきエンコーダ信号にはバラツキが生じうる。
【0041】
データ信号生成送出装置50は、ハードディスクパターンの各半径位置の周方向の所定領域毎に、各所定領域が電子ビーム照射位置に位置する前に生じる所定のエンコーダパルスから所定時間の経過後に、所定領域毎の描画データ信号群に基づくパターン描画を開始するように、所定領域毎の描画データ信号群を生成し、描画データ信号群のデータ信号を電子ビーム描画装置40に順次送出するものである。
【0042】
データ信号生成送出装置50は、描画すべきパターンに関する設計データ(描画パターンや描画タイミングを示すデータなど)を蓄積する設計データ蓄積部52と、描画タイミングを計るための描画クロックを生成する描画クロック生成部54と、設計データに基づいて描画データ信号群を生成し、その描画データ信号群を電子ビーム描画装置40に送出するデータ振り分け部60とを備えている。データ信号生成送出装置50は所謂フォーマッタにより構成することができる。
【0043】
描画すべきパターンに関する設計データは、電子ビーム描画を開始する前に、予め図示しないパーソナルコンピュータなどにより構成される外部の設計データ処理装置からデータ信号生成送出装置50に送られ、設計データ蓄積部52に蓄積される。
【0044】
データ信号生成送出装置50のデータ振り分け部60は、設計データ蓄積部52に蓄積されている設計データを用いて、電子ビーム描画装置40に出力する所定領域毎の描画データ信号群を生成するデータ生成部61と、描画データ信号群を描画順序に従って交互に格納する複数のメモリ62、63と、描画データ信号を電子ビーム描画装置40に送出する信号出力部68と、該信号出力部68と複数のメモリ62、63に接続されたバッファメモリ66を備えている。
【0045】
データ信号生成送出装置50は、各所定領域の描画毎にデータ信号を送出する複数のメモリ62、63を切り替え手段65により切り替え、メモリ62、63(以下において、メモリ1、メモリ2と称することがある。)に格納されている描画データ信号群のデータ信号を順次送出する。ここでは、2つのメモリ62、63を備えるが、3つ以上のメモリを備えていてもよい。
メモリ62、63からのデータ信号は、バッファメモリ66を介して信号出力部68に入力され、信号出力部68から電子ビーム描画装置40に送出される。このバッファメモリ66を介することにより、メモリ62、63の切り替え時に、データ信号出力の遅れの発生を防止することができる。
【0046】
描画データ信号を読み出すメモリの切り替えタイミングは、円周方向の所定領域毎に予め設定されている所定のエンコーダパルスと描画クロックによって決定される。所定領域が電子ビーム照射位置に位置する前に生じる所定のエンコーダパルスから所定時間の経過後(所定の描画クロック数)にインデックスが付されており、データ信号生成送出装置50はこのインデックスに基づいてメモリの切り替えを行うように構成されている。このメモリの切り替えは、所定領域毎の描画データ信号群に基づくパターン描画が開始されるタイミングに相当する。
【0047】
データ信号生成送出装置50は、パターン描画を開始する際に、その所定領域の直前の所定領域にグルーブパターンを描画するための描画データ信号群のデータ信号の一部がデータ信号送出中のメモリ62に残っている場合であっても、その所定領域の描画データ信号群を格納しているメモリ63に切り替え、メモリ63から描画データ信号群のデータ信号送出を開始するように構成されている。
【0048】
データ信号生成送出装置50は、原則として描画クロックに付与されているインデックスに基づいて、メモリの切り替えを行い、データ信号の送出を行う。
但し、データ信号生成送出装置50は、ある所定領域についての所定のエンコーダパルスから所定時間が経過する前に、すなわち、ある所定領域についてのインデックスが発生する前に、本来このインデックスの発生後に生じるべきエンコーダパルスが生じた(検出された)場合には、所定時間(インデックス)を待つことなく、その所定領域の描画データ信号群のデータ信号の送出を開始するように構成されている。
【0049】
さらに、データ信号生成送出装置50は、データ生成部61において、既述の通り、所定領域毎にその所定領域の描画すべきパターンの描画データ信号群を生成するものであるが、このとき、グルーブパターンを描画するための描画データ信号群としては、所定領域に対応するデータ信号数より多いデータ信号数を含む描画データ信号群を生成し、メモリに格納するよう構成されていることが望ましい。
【0050】
描画クロック生成部54は、不変の基準クロックを発生する基準クロック発生部を内包し、この基準クロックに基づいて描画クロックを生成するものである。
【0051】
本電子ビーム描画システム100においては、データ信号生成送出装置50が、ブランキングのオン・オフ制御、電子ビームEBのX−Y偏向制御、回転ステージ31の回転速度制御等の制御信号からなる描画データ信号群を各所定領域毎に生成し、その描画データ信号を各アンプおよびドライバに振り分けるものであり、それぞれのデータ信号はエンコーダ37から入力されたエンコーダパルスと描画クロックに基づいて所定のタイミングで送出される。
そして、電子ビーム描画装置40において、スピンドルモータ32の駆動すなわち回転ステージ31の回転速度、パルスモータ36の駆動すなわち直線移動手段34による直線移動、電子ビームEBの変調、偏向手段22および23の制御、ブランキング手段24のブランキング26のオン・オフ制御等はデータ信号生成送出装置50から送出された描画データ信号に基づいて行われる。
【0052】
「電子ビーム描画方法」
次に、上述の電子ビーム描画システム100を用いた、本発明の電子ビーム描画方法の実施形態を説明する。
図2は本発明の電子ビーム描画方法により原盤に描画するべき磁気ディスク媒体の微細パターン(ハードディスクパターン)を示す全体平面図、図3はこの微細パターンの一部の拡大図を示す図である。
【0053】
図2および図3には、ディスクリートトラックメディア用の微細パターンを示している。ディスクリートトラックメディア用の微細パターンは、周方向に交互に配置されたサーボ領域12に形成されるサーボパターンSとデータ領域15に形成されるグルーブパターンGとで構成され、円盤状の基板10の外周部10aおよび内周部10bを除く円環状領域に形成される。
【0054】
サーボパターンSは、基板10の同心円状トラックに等間隔で、各セクターに中心部から湾曲放射状の細幅のサーボ領域12に形成されてなる。サーボパターンSは、例えば、プリアンブル、アドレス、バースト信号に対応するパターンを含み、一部を拡大した図3にはプレアンブル部のパターンが示されている。
【0055】
一方、グルーブパターンGは、隣接する各トラックを分離するようトラック方向に延びる同心円状に形成されてなるものである。
【0056】
最終的なディスクリートトラックメディアでは、グルーブパターンGおよびサーボパターンの描画部分が凹部に、その他の部分が磁性層による平坦部(ランド)となる。なお、凹部は非磁性体により埋め込まれていてもよい。
【0057】
上記サーボパターンSおよびグルーブパターンGの描画は、表面にレジスト11が塗布された基板10からなる原盤を回転ステージ31(図1参照)に設置して回転させつつ、例えば、内周側のトラックより外周側トラックへ順に、またはその反対方向へ、1トラックずつ電子ビームEBで走査しレジスト11を照射露光するものである。基板10は、例えばシリコン、ガラスあるいは石英からなる。
【0058】
図4は、本発明の電子ビーム描画方法を実行するためのタイミングチャートを示す図である。本実施形態においては、1トラック分のグルーブパターンGとサーボパターンSを、基板10の1回転で一度に描画するものとしている。
グルーブパターンGは、基板10(回転ステージ31)を回転させつつ、電子ビームを一定の描画位置に照射させた状態で維持して描画する。他方サーボパターンSはそれぞれトラック幅に亘るエレメントS,S,…を、基板10を回転させつつ、その形状を塗りつぶすように微小径の電子ビームEBで走査して、1回転で1トラック内のサーボパターンSを描画する。なお、隣接するトラックにまたがる半トラックずれたサーボエレメント(例えば、バースト信号)は、半分に分割することなく、描画基準を半トラックずらせて一度に描画すればよい。
【0059】
エレメントを塗りつぶす電子ビームEBの走査は、電子ビームEBの照射のオン、オフをブランキング手段24の動作により制御しつつ、サーボエレメントの最小トラック方向長さより小さいビーム径の電子ビームEBを、半径方向Yおよび半径方向と直交する方向(以下周方向X)へX−Y偏向させて、基板10(回転ステージ31)の回転速度に応じて、半径方向Yと直交する周方向Xへ一定の振幅で高速に往復振動させて振らせることにより行う。
【0060】
図4に基づき順により詳細に説明する。
図4(A)は電子ビームEBの半径方向Yおよび周方向Xの電子ビームEBの描画動作を示し、図4(B)に半径方向Yの偏向信号Def(Y)を、(C)に周方向Xの偏向信号Def(X)を、(D)に周方向Xの振動信号Mod(X)を、(E)にEB照射のオン・オフ動作を、(F)にエンコーダパルス、(G)に描画クロックをそれぞれ示している。
【0061】
まず、既述の通り、グルーブパターンGは、半径方向、周方向に偏向させることなく、また周方向に振動をさせることなく、EB照射信号のオンとして電子ビームEBを照射させた状態で、基板の回転により描画する。グルーブパターンGの描画は、複数の所定領域に分割し、それぞれの所定領域毎にエンコーダパルスを基準とするインデックス時刻に描画開始するようにしている。ひとつのデータ領域15に形成される連続したグルーブパターンは、ひとつのデータ領域に亘って、途中でエンコーダパルスとの同期をとることなく連続的に描画してもよいが、複数の所定領域に分割して、該所定領域毎に予め定められたエンコーダパルスによる同期を取ることにより、グルーブパターンGとサーボパターンSとの境界でのずれを抑制することができる。
【0062】
サーボパターンSのサーボエレメントSの描画は、所定のエンコーダパルスE発生時刻から所定時間Δt経過後に設定されたインデックス時刻に描画を開始する。EB照射信号をオンにすると共に、基準位置にある電子ビームEBを(D)の振動信号Mod(X)により周方向Xに往復振動させつつ、(B)の偏向信号Def(Y)により半径方向(−Y)に偏向させて送るとともに、基板10の回転に伴う電子ビームEBの照射位置のずれを補償するために、(C)の偏向信号Def(X)により回転の向きと同一の向き(−X)に偏向させて送ることにより、矩形状のサーボエレメントSを塗りつぶすように走査し、EB照射信号のオフによりブランキングさせて電子ビームEBの照射を停止し、サーボエレメントSの描画を終了する。その後に、半径方向Yおよび周方向Xの偏向を基準位置に戻す。
【0063】
次に、基板10が回転してサーボエレメントS、S・・・の描画位置で、サーボエレメントSの描画と同様に電子ビームEBを周方向Xに往復振動させつつ、半径方向および回転の向きに偏向させて描画を行う。
【0064】
サーボパターンSの先頭に配置されているエレメントSの周方向の描画開始位置は、サーボ領域が描画位置に位置する直前に生じるエンコーダパルスEから所定時間Δt経過後に描画開始することにより、精度よく位置決めがなされるので、1周中のサーボパターンSの形成位置の精度を高めることができる。なお、インデックス時刻の基準とするエンコーダパルスは、サーボ領域が描画位置に位置する前に生じるパルスであれば、直前のものに限るものではない。しかしながら、描画位置に位置する直前に生じるエンコーダパルスを基準とすることにより、より精度を向上させることができる。
【0065】
1つのトラックを1周描画した後、次のトラックに移動し同様に描画して、基板10の全領域に所望の微細パターンを描画する。描画位置のトラック移動(径方向への移動)は、電子ビームEBを半径方向Yに偏向させて行うか、あるいは回転ステージ31を半径方向Yに直線移動させて行う。回転ステージを直線移動させるのは、前述のように、電子ビームEBの半径方向Yの偏向可能範囲に応じて複数トラックの描画毎に行うか、1トラックの描画毎に行ってもよい。しかしながら、偏向手段により径方向へ移動させる方が効率的であることから、偏向手段による径方向への移動が可能な範囲では偏向させることによりトラック移動を行って複数トラック描画させた後に、ビームの偏向手段による径方向への偏向を一旦解除すると共に、直線移動手段34を用いて回転ステージを複数トラック分程度半径方向に移動させるのが好ましい。
【0066】
また、基板10の描画領域における、描画部位の半径方向位置の移動つまりトラック移動に対し、基板10の外周側部位でも内周側部位でも全描画域で同一の線速度となるように、回転ステージ31の回転速度を外周側描画時には遅く、内周側描画時には速くなるように調整して、電子ビームEBによる描画を行うのが均一照射線量を得るためおよび描画位置精度を確保する点で好ましい。
【0067】
電子ビームEBのビーム強度は、上記サーボエレメントS、S・・・の高速振動描画でレジスト11の露光が十分に行える程度に設定されている。つまり、電子ビームEBによる描画幅(実質露光幅)は、照射時間、振幅に応じて照射ビーム径および振幅より広くなる特性があり、最終的なエレメント幅の描画を行うためには、その描画幅となる所定の照射線量で走査するために、振幅、偏向速度を調整することによって照射線量を規定するものである。なお、描画途中でのビーム強度を変更することは、ビーム安定性の面で困難である。
【0068】
本実施形態の電子ビーム描画方法における各領域のパターン描画開始タイミングの制御について図5および図6に基づいて説明する。
【0069】
図5はグルーブパターンGおよびそれに続くサーボパターンSの描画および描画開始タイミングを説明するための図であり、エンコーダパルスと描画クロックによる描画タイミング、および回転ムラによる線速度の速度毎の描画パターンについて示す図である。なお、図5には理解を容易にするために、各領域にパターンを描画するための、メモリ1およびメモリ2に格納されている描画データ信号群を模式的に示している。
【0070】
図5に示すように、所定領域(円周方向位置x〜x)へのグルーブパターンGの描画は、位置xがEB照射位置に位置する前に生じる所定のエンコーダパルスEを基準とし、パルスE発生時刻tら所定時間(Δt)経過後のインデックス時刻に開始される。ここでは、所定時間Δtを3描画クロックとしている。同様にサーボパターンSの描画は、位置xがEB照射位置に位置する直前に生じる所定のエンコーダパルスEを基準とし、パルスE発生時刻tから所定時間(Δt)経過後のインデックス時刻t+Δtに開始される。
【0071】
グルーブパターンGを描画しているとき、データ信号生成送出装置50のメモリ1に格納されたグルーブパターンデータ信号群Data(G)のデータ信号がバッファメモリ66および信号出力部68を介して電子ビーム描画装置40に送出されているとする。メモリ1には、回転が正常(線速度が正常)であるときに所定領域を描画するために必要とされるデータ信号数よりも多いデータ数を含むグループパターンデータ信号群Data(G)が格納されている。
【0072】
線速度が正常である場合、1描画クロック当たりLnの長さ描画し、サーボパターン描画の開始のインデックス時刻t+Δtにおいて、余分なデータは未だ送出されずメモリ1に残っているが、切り替え手段65によりメモリ2に切り替えられて、メモリ2に格納されているサーボパターンのデータ信号群Data(S)のデータ信号のバッファメモリ66への送出が開始され、次の所定領域へのサーボパターン描画が開始される。
【0073】
グルーブパターン描画時において線速度が正常時よりも速い場合、1描画クロック当たりLf(>Ln)の長さを描画するので、正常時よりも少ないデータ数で所定領域の描画が終了してしまこととなるが、正常時と同様に、サーボパターン描画の開始インデックス時刻t+Δtになった時、未だ送出されていないデータ信号がメモリ1に残っていても、切り替え手段65によりメモリ2に切り替えられて、メモリ2に格納されているサーボパターンのデータ信号群Data(S)のデータ信号のバッファメモリ66への送出が開始され、サーボパターン描画が開始される。
【0074】
また、本実施形態においては、線速度が正常時よりも遅い場合、1描画クロック当たりLs(<Ln)の長さしか描画できないので、所定領域の描画を行うためには、正常時よりも多いデータ数が必要となる。本実施形態では、グルーブパターンの描画データ信号群Data(G)として、メモリ1に回転が正常(線速度が正常)であるときに、所定領域を描画するために必要とされるデータ信号数よりも多いデータ数を含むグループパターンデータ信号群Data(G)が格納されているので、線速度が遅い場合であっても、所定領域内に描画抜け(トビ)が生じない。この場合にも、サーボパターン描画の開始時刻t+Δtにおいて、切り替え手段65によりメモリ2に切り替えられて、メモリ2に格納されているサーボパターンのデータ信号群Data(S)のデータ信号のバッファメモリ66への送出が開始され、サーボパターン描画が開始される。
【0075】
なお、いずれの場合もメモリ2へのサーボパターンのデータ信号群Data(S)の格納は、サーボパターン描画の開始前までに完了されている。そして、メモリ2からの信号送出の間に、先のグルーブパターンの描画データ信号群Data(G)はメモリ1から消去(破棄)され、メモリ1には新たにサーボパターンの次に描画するグルーブパターンの描画データ信号群が格納される。
【0076】
既述の通り各所定領域は、原則として、それぞれに予め定められている描画の開始の基準となる所定のエンコーダパルスEの発生時刻tから所定時間Δtの経過後のインデックス時刻t+Δtに描画を開始するように設定されている。しかしながら、部分的に回転速度が大幅にずれた場合、原則通りの描画を行うと描画開始位置が所望の位置(設計位置)からのずれも大きくなってしまう。
【0077】
そこで、本発明の電子ビーム描画方法では、回転速度が一定以上に速くなった場合は以下のように制御する。図6は、回転が一定以上速くなった場合の描画開始タイミングの制御について説明するための図である。
【0078】
図6に示すように、回転ムラ無しの場合に、エンコーダパルスEの発生時刻tから所定時間Δt経過後のインデックス時刻t+Δtの後にエンコーダパルスEn+1が生じるように設定されているとする。ここで、回転ムラが有ると、所定のエンコーダパルスEの発生時刻tから所定時間Δtの後に本来生じるべきエンコーダパルスEn+1が該所定時間Δtが経過する前(すなわち、インデックス時刻t+Δtになる前)に生じるほどに部分的に回転速度が速くなってしまうことがある。このような場合には、インデックス時刻t+Δtに描画を開始すると描画位置が周方向に大幅にズレてしまうこととなる。そこで、エンコーダパルスEn+1がインデックス時刻t+Δtが来る前に生じた場合、インデックス時刻t+Δtを待つことなく、エンコーダパルスEn+1が生じた時刻t'n+1に描画を開始する。なお、このときは、その直前の所定領域についての描画データ信号群のデータ信号が未だ残っていても、残っているデータ信号は破棄するものとして強制的にメモリを切り替えて、次の所定領域のパターン描画を開始するものとする。
このような制御を行うことにより、回転ムラにより回転速度が大きくなったときに生じるパターン描画の開始位置の大幅なずれを防止することが可能となる。
【0079】
なお、回転の線速度が正常時よりも速くても、正常時と同様にエンコーダパルスEn+1の発生時刻がインデックス時刻t+Δtよりも後である場合には、原則通りインデックス時刻にパターン描画を開始する。図6に示すようなインデックス時刻よりも次のエンコーダパルスの検出時刻が早くなるのは、回転線速度がある値以上に大きく変化してしまった場合であり、このような場合に上述のような制御を行うことにより大幅な位置変動を効果的に抑制することができる。
【0080】
以上のように、本実施形態の電子ビーム描画方法では、サーボパターンが描画されるべき所定領域にグルーブパターンが延びて描画されることがなく、グルーブパターンの終了位置精度も向上させることができると共に、回転が速くなった場合の各パターン領域の開始位置の精度を向上させることができる。
さらに、グルーブパターンの描画データ信号群として、過剰なデータ信号を予め用意しておくことにより、回転が遅くなった場合であっても、グルーブパターンが描画されるべき領域の全域にグルーブパターンの描画をすることができ、描画抜けが生じないので、やはり、グルーブパターンの終了位置の精度を向上させることができる。
【0081】
上記実施形態では、グルーブパターンに引き続きサーボパターンを描画する際について説明したが、1つのデータ領域に形成されるべきグルーブパターンGを周方向に複数の所定領域に分割したグルーブエレメントG、G…Gn…間でのグルーブエレメント終了位置および開始位置の精度向上も同様に実現することができる。
【0082】
グルーブパターンを複数の所定領域に分割して描画する場合、各グルーブエレメントは、電子ビームの偏向走査をすることなく描画を行ってもよいし、グルーブエレメント単位で電子ビームを半径方向と直交する方向(周方向X)に偏向走査し、基板の回転に伴ってグルーブエレメントGn(n=1,2,…)を順に時間的間隔を持って描画するようにしてもよい(特開2009−122217号公報参照)。
この場合も、グルーブエレメントGの描画のための電子ビーム周方向Xへの偏向走査中に次のインデックス(次のグループエレメントGn+1の描画開始時刻)が生じた場合には、このインデックスで、次のグループエレメントGn+1の描画を開始するようにすれば、回転ムラにより線速度が速くなった場合に、グルーブエレメント間、あるいは、グルーブパターンとサーボパターンとの境界において描画が重なったり、パターンの開始位置が後方にずれたりするのを防止し、パターンの描画精度を向上することができる。また、次のグループエレメントGn+1の描画開始のインデックスが生じる前にそのインデックスよりも後に生じるべきエンコーダパルスが検出された場合には、そのエンコーダパルス検出により次のグループエレメントの描画を開始するようにすることにより、各グループエレメントの描画開始位置の大幅なずれを効果的に抑制することができる。
【0083】
上記実施形態においては、エンコーダパルスの立ち上がり時刻を基準としてカウントするものとしたが、エンコーダパルスの立ち下り時刻、あるいは立ち上がりおよび立ち下り時刻の両者をカウントとすることとしてもよい。
【0084】
なお、上記実施形態においては、描画方法として、サーボパターン中のエレメントの描画は電子ビームを周方向に高速振動させると共に、半径方向に偏向させることによりエレメント形状を塗りつぶすようにする方法について説明したが、電子ビームを半径方向に高速振動させるようにしてもよい。また、マルチパス方式(ON,OFF描画方法)を用いて、複数回転で1トラックを描画するようにしてもよい。
【0085】
「設計変更例」
電子ビーム描画方法および電子ビーム描画システムの設計変更例を説明する。ここでは、磁気ディスク媒体用の微細パターンをマルチパス方式で描画する場合について図7に示すタイミングチャートに基づいて説明する。ここでは、磁気転写用のマスター担体の描画パターンを描画するものとする。磁気転写用のマスター担体に担持される磁気ディスク媒体用の微細パターンは、周方向に交互に配置されるデータ領域とサーボ領域を有する点ではディスクリートトラックメディア用のパターンと同様であるが、データ領域にグルーブパターンを有さず、サーボ領域のサーボパターンのみを有するものである。データ領域に予めデータを書き込む場合も考えられるが、ここでは、データ領域へのパターン描画はないものとする。
【0086】
図7(A)は電子ビームEBの描画動作を示し、図7(B)にEB照射のオン・オフ動作を、(C)にエンコーダパルス、(D)に描画クロック、(E)に時間軸をそれぞれ示している。
電子ビームEBは、1トラック走査中は偏向制御はせず、照射のオン・オフのみである。図7(A)に示すように、1トラックを、ここでは6回転で描画するものとしている。サーボパターンSのエレメントSは、S1−1、S1−2…S1−6のブロックに分割され、1回転目でS1−1、2回転目でS1−2・・・と1回転毎に1つのブロックが描画される。
サーボパターンSの描画は、所定のエンコーダパルスEの発生時刻tから所定時間(Δt)経過後のインデックス時刻t+Δtに開始される。各エレメントに相当するクロック数に応じてEB照射のオン/オフ制御がなされ、サーボパターンSの各エレメントの1ブロックが1回転中に描画される。なお、データ領域においては、EB照射はオフとされる。
1回転の後に、電子ビームは半径方向に1ブロック分偏向され、次の回転で先に描画されたブロックに隣接するブロックの描画がなされる。これを複数回(ここでは6回)繰り返すことにより1トラックのパターン描画がなされる。
【0087】
本設計変更例の描画方法の場合も、回転速度が変化した場合、特に図6に示したように回転速度が大幅に速くなり、サーボ領域の描画開始のインデックス時刻t+Δtより先に、そのインデックス時刻t+Δtよりも後に生じるべきエンコーダパルスEn+1が発生した場合には、そのエンコーダパルスの発生時刻t'n+1にパターン描画を開始する。
【0088】
既述の通り、マルチパス方式で描画を行う場合には、1トラックの描画に複数回転する必要がある一方、1回転中におけるビームの偏向走査等の複雑な制御が必要ないことから、1回転で1トラックを描画する描画方式の場合と比較して回転数は非常に大きく設定される。回転数が大きくなると、回転ムラによる描画パターンのずれ量は大きくなる。したがって、マルチパス方式において、パターンの描画開始位置ずれを抑制することによる効果は、上述の実施形態の場合以上に顕著である。
【0089】
なお、データ領域に描画すべきパターンがない場合には、描画領域と描画領域との間にパターン描画をしない時間がある。このとき、データ信号生成送出装置50は、ある所定のサーボ領域へパターン描画後、次のサーボ領域のパターン開始前に、次のサーボ領域のパターンに対応する描画データ信号群をメモリに格納できればよいため、メモリは単数であっても構わない。また、バッファメモリが備えられていなくても構わない。メモリが単数の場合、メモリの切り替え手段は必要なく、データ信号生成送出装置50は、描画開始時刻にメモリから描画データ信号群のデータ信号を送出を行うよう構成されていればよい。
【0090】
<インプリントモールドの製造方法および磁気ディスク媒体の製造方法>
次に、上記のような電子ビーム描画システム100により、前述の電子ビーム描画方法によって微細パターンを描画する工程を含むインプリントモールド(凹凸パターン担持体の一形態)の製造方法およびそのインプリントモールドを用いた磁気ディスク媒体の製造方法を説明する。図8は、インプリントモールドを用いて微細凹凸パターンを転写形成している過程を示す概略断面図である。
【0091】
インプリントモールド70は、透光性材料による基板71の表面に、図8では不図示の前述のレジスト11が塗布され、上述の実施形態の描画方法によりディスクリートトラックメディア用のサーボパターンSおよびグルーブパターンGが描画される。その後、現像処理して、レジストによる凹凸パターンを基板71に形成する。このパターン状のレジストをマスクとして基板71をエッチングし、その後レジストを除去し、表面に形成された微細凹凸パターン72を備えるインプリントモールド70を得る。一例としては、上記微細凹凸パターン72は、ディスクリートトラックメディア用のサーボパターンとグルーブパターンとを備えたものである。
【0092】
このインプリントモールド70を用いて、インプリント法によって磁気ディスク媒体80を製造する。磁気ディスク媒体80は、基板81上に磁性層82を備え、その上にマスク層を形成するためのレジスト樹脂層83が被覆されている。そして、このレジスト樹脂層83に、前記インプリントモールド70の微細凹凸パターン72が押し当てられて、紫外線照射によって上記レジスト樹脂層83を硬化させ、微細パターン72の凹凸形状を転写形成してなる。その後、レジスト樹脂層83の凹凸形状に基づき磁性層82をエッチングし、磁性層82による微細凹凸パターンが形成されたディスクリートトラックメディア用の磁気ディスク媒体80を製造する。
【0093】
また、上記ではディスクリートトラックメディアの製造について説明したが、ビットパターンメディアも同様の工程で製造することができる。
【0094】
<磁気転写用マスター担体の製造方法および磁気ディスク媒体の製造方法>
次に、上記のような電子ビーム描画装置100により、前述の電子ビーム描画方法によって微細パターンを描画する工程を含む磁気転写用マスター担体(凹凸パターン担持体の一形態)の製造方法およびその磁気転写用マスター担体を用いた磁気ディスク媒体の製造方法を説明する。図9は、磁気転写用マスター担体90を用いて磁気ディスク媒体85に磁化パターンを磁気転写している過程を示す断面模式図である。
【0095】
磁気転写用マスター担体90の製造工程はインプリントモールド70の製造方法とほぼ同様である。回転ステージ31に設置する基板10は、例えばシリコン、ガラスあるいは石英からなる円板の表面に電子ビーム描画用レジスト11が塗設され、このレジスト11上に、電子ビームを走査させて所望のパターンを描画する。その後、レジスト11を現像処理して、レジストによる微細凹凸パターンを有する基板10を得る。これが磁気転写用マスター担体90の原盤となる。
【0096】
次に、この原盤の表面の凹凸パターン表面に薄い導電層を成膜し、その上に、電鋳を施し、金属の型をとった凹凸パターンを有する基板91を得る。その後、原盤から所定厚みとなった基板91を剥離する。基板91の表面の凹凸パターンは、原盤の凹凸形状が反転されたものである。
【0097】
基板91の裏面を研磨した後、その凹凸パターン上に磁性層92(軟磁性層)を被覆して磁気転写用マスター担体90を得る。基板91の凹凸パターンの凸部あるいは凹部形状は、原盤のレジストの凹凸パターンに依存した形状となる。
【0098】
上記のようにして製造された磁気転写用マスター担体90を用いた磁気ディスク媒体の製造方法を説明する。情報が転写される被転写媒体である磁気ディスク媒体85は、例えば、基板86の両面または片面に磁気記録層87が形成されたハードディスク、フレキシブルディスク等であり、ここでは、磁気記録層87の磁化容易方向が記録面に対して垂直な方向に形成されている垂直磁気記録媒体とする。
【0099】
図9(A)に示すように、予め磁気ディスク媒体85に初期直流磁界Hinをトラック面に垂直な一方向に印加して磁気記録層87の磁化を初期直流磁化させておく。その後、図9(B)に示すように、この磁気ディスク媒体85の記録層87側の面とマスター担体90の磁性層92の面とを密着させ、磁気ディスク媒体85のトラック面に垂直な方向に初期直流磁界Hinとは逆方向の転写用磁界Hduを印加して磁気転写を行う。その結果、図9(C)に示すように、転写用磁界がマスター担体90の磁性層92に吸い込まれ、凸部に対応する部分の磁気ディスク媒体85の磁性層87の磁化が反転し、その他の部分の磁化は反転しない結果、磁気ディスク媒体85の磁気記録層87にはマスター担体90の凹凸パターンに応じた情報(例えばサーボ信号)が磁気的に転写記録される。なお、磁気ディスク媒体85の上側記録層についても磁気転写を行う場合には、上側記録層に上側用のマスター担体を密着させて下側記録層と同時に磁気転写を行う。
【0100】
なお、面内磁気記録媒体への磁気転写の場合にも、上記垂直磁気記録媒体用とほぼ同様のマスター担体90が使用される。この面内記録の場合には、磁気ディスク媒体の磁化を、予めトラック方向に沿った一方向に初期直流磁化しておき、マスター担体と密着させてその初期直流磁化方向と略逆向きの転写用磁界を印加して磁気転写を行うものであり、この転写用磁界がマスター担体90の凸部磁性層に吸い込まれ、凸部に対応する部分の磁気ディスク媒体の磁性層の磁化は反転せず、その他の部分の磁化が反転する結果、凹凸パターンに対応した磁化パターンを磁気ディスク媒体に記録することができる。
【0101】
以上説明した、本発明の電子ビーム描画方法を用いた、インプリントモールド、磁気転写用マスター担体の上述の製造方法は一例であり、本発明の電子ビーム描画方法を用いてパターン描画を行い、凹凸パターンを形成する工程を経るものであれば上述の製造方法に限るものではない。
【符号の説明】
【0102】
10 基板
11 レジスト
12 サーボ領域
15 データ領域
20 電子ビーム照射部
30 機械駆動部
37 エンコーダ
40 電子ビーム描画装置
50 データ信号生成送出装置
60 データ振り分け部
61 データ生成部
62,63 メモリ
66 バッファメモリ
70 インプリントモールド
71 基板
72 微細凹凸パターン
80 磁気ディスク媒体
81 基板
82 磁性層
83 レジスト樹脂層
G グルーブパターン
S サーボパターン
EB 電子ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリエンコーダを備えた回転ステージ上に載置された原盤に、前記回転ステージを回転させつつ電子ビームを走査して、磁気ディスク媒体用の微細パターンの描画を行う電子ビーム描画方法であって、
各半径位置の周方向の所定領域毎に、該所定領域が前記電子ビーム照射位置に位置する前に生じる所定のエンコーダパルスから所定時間の経過後に、該所定領域毎の描画データ信号群に基づくパターン描画を開始する電子ビーム描画方法において、
ある所定領域について、前記所定のエンコーダパルスから所定時間が経過する前に、該所定時間の経過後に生じるべきエンコーダパルスが生じた場合には、該所定時間を待つことなく、前記ある所定領域の描画データ信号群のデータに基づくパターン描画を開始することを特徴とする電子ビーム描画方法。
【請求項2】
ロータリエンコーダを備えた回転ステージおよび電子ビームを出射する電子銃を備え、該回転ステージ上に載置された原盤に、該回転ステージを回転させつつ前記電子ビームを走査してパターンの描画を行う電子ビーム描画装置と、
各半径位置の周方向の所定領域毎に、該所定領域が前記電子ビーム照射位置に位置する前に生じる所定のエンコーダパルスから所定時間の経過後に、該所定領域毎の描画データ信号群に基づくパターン描画を開始するように、前記所定領域毎の描画データ信号群を生成し、該描画データ信号群のデータ信号を前記電子ビーム描画装置に順次送出するデータ信号生成送出装置とを備え、
前記データ信号生成送出装置が、前記電子ビーム描画装置に出力する前記所定領域毎の前記描画データ信号群を順次格納するメモリを有し、該メモリに前記所定領域毎に、そのパターン描画の開始前に該各所定領域に対応する描画データ信号群を格納し、該メモリに格納されている描画データ信号群のデータ信号を送出するものであり、ある所定領域についての前記所定のエンコーダパルスから所定時間が経過する前に、該所定時間の経過後に生じるべきエンコーダパルスが生じた場合には、該所定時間を待つことなく前記メモリから該ある所定領域の前記描画データ信号群のデータ信号の送出を開始するものであることを特徴とする電子ビーム描画システム。
【請求項3】
前記データ信号生成送出装置が、前記メモリを複数備え、該複数のメモリに前記電子ビーム描画装置に出力する前記所定領域毎の前記描画データ信号群を、描画順序に従って交互に格納し、前記所定領域毎にデータ信号を送出するメモリを切り替え、該メモリに格納されている描画データ信号群のデータ信号を送出するものであることを特徴とする請求項2記載の電子ビーム描画システム。
【請求項4】
前記データ信号生成送出装置がバッファメモリをさらに備え、前記メモリから該バッファメモリを介して前記データ信号を前記電子ビーム描画装置へ送出するものであることを特徴とする請求項2または3記載の電子ビーム描画システム。
【請求項5】
請求項1記載の電子ビーム描画方法により、原盤に対して所望の微細パターンを描画し、該微細パターンが描画された原盤を用いて、該微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を含むことを特徴とする凹凸パターン担持体の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法により製造された凹凸パターン担持体であるインプリントモールドを用い、該モールドの表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた凹凸パターンを転写する工程を含むことを特徴とする磁気ディスク媒体の製造方法。
【請求項7】
請求項5記載の製造方法より製造された凹凸パターン担持体である磁気転写用マスター担体を用い、該マスター担体の表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた磁化パターンを磁気転写する工程を含むことを特徴とする磁気ディスク媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−58291(P2013−58291A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197319(P2011−197319)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】