説明

電子ビーム描画装置及び電子ビームの電流密度調整方法

【目的】描画中に電子ビームの電流密度調整を行なうことが可能な装置及び方法を提供することを目的とする。
【構成】本発明の一態様の描画装置100は、電子ビーム200を照射する電子銃201と、制御値を入力し、制御値に基づいて電子銃201を制御する電子銃電源230と、試料への描画が行なわれている間に、複数回電子ビーム200の電流密度を測定する電流密度測定部242と、電流密度の測定毎に、電流密度が略一定になるように、測定された電流密度に応じて変化する上述した制御値を演算し、演算の都度、制御値を電子銃電源230に出力するPID制御部244と、を備えたことを特徴とする。本発明によれば、描画中、電子ビームの電流密度を略一定に維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム描画装置及び電子ビームの電流密度調整方法に係り、例えば、所定の照射量のビームを試料に照射することでパターンを描画する電子ビーム描画装置及び電子ビームの電流密度調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、高精度の原画パターン(レチクル或いはマスクともいう。)が必要となる。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、高精度の原画パターンの生産に用いられる。
【0003】
図7は、可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
可変成形型電子線(EB:Electron beam)描画装置は、以下のように動作する。まず、第1のアパーチャ410には、電子線330を成形するための矩形例えば長方形の開口411が形成されている。また、第2のアパーチャ420には、開口411を通過した電子線330を所望の矩形形状に成形するための可変成形開口421が形成されている。荷電粒子ソース430から照射され、開口411を通過した電子線330は、偏向器により偏向される。そして、可変成形開口421の一部を通過して、ステージ上に搭載された試料に照射される。ステージは、描画中、所定の一方向(例えば、X方向とする)に連続的に移動している。このように、開口411と可変成形開口421との両方を通過できる矩形形状が、試料340の描画領域に描画される。開口411と可変成形開口421との両方を通過させ、任意形状を作成する方式を可変成形方式という。
【0004】
電子ビーム描画装置のスループットを向上させるためには、ビームの電流密度の増大が不可欠となっている。そして、その大電流密度を実現させるためには、電子銃のカソード温度を高温に設定する必要が生じる。しかし、カソードを高温に設定するとカソード材料の蒸発速度が大きくなるために、描画中にカソード先端形状が変化してしまう。
【0005】
一方、従来の電子ビーム描画装置では、カソードから放出される電子によって流れるエミッション電流が常に一定になるように電子銃を制御していた。
図8は、従来の電子銃制御方法の一例を示す図である。
従来、まず、エミッション電流Ieの目標値を電子銃電源に設定する(S202)。そして、定期的にエミッション電流Ieを測定する(S204)。そして、測定したエミッション電流Ieが許容範囲内かどうかを判定する(S206)。そして、範囲内ならS204に戻る。範囲外であれば、エミッション電流Ieの目標値になるようにバイアス電圧Vを変更する。このように、常に最初に設定したエミッション電流になるように電子銃を制御していた。このような制御方法のまま大電流密度条件下で描画をおこなってしまうと、いくらエミッション電流を一定に維持してもカソード先端形状の変化によって電流密度が変化してしまうといった問題があった。そのため、大電流密度条件下では、描画中にビーム電流密度が変化し、その結果、描画されているパターンの描画精度が劣化してしまうといった問題があった。
【0006】
ここで、ZrO/Wエミッタについて、電流密度を一定に保つために、例えば週に1回程度、フィラメント電流補正量ΔIだけフィラメント加熱量を制御するといった技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、LaBエミッタについて、フィラメント加熱電流とエミッション電流を3点×3点の計9点の条件で振って、各条件で温度が安定するまで例えば5分間待ってから電流密度を測定する。そして、許容範囲内の電流密度が得られる条件のフィラメント加熱電流とエミッション電流の組み合わせを見つけて、この組み合わせになるように電子銃電源を制御するといった技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−188076号公報
【特許文献2】特開平8−111195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、大電流密度条件下では、描画中にビーム電流密度が変化してしまうといった問題があった。電流密度が変化してしまうと試料への照射量(Dose)が変化してしまうので、描画されているパターンの描画精度が劣化してしまうといった問題を引き起こす。ここで、照射量D=電流密度J×照射時間ΔTで表わすことができるが、カソード先端形状が変化してしまうと電流密度Jが増大する。そのため、照射量Dを一定に維持するためには、その分だけ照射時間ΔTを短くすることが考えられる。しかし、照射時間ΔTを短くするといっても限界がある。そのため、電流密度Jを一定に維持することが望まれる。
【0008】
従来、電流密度をそれほど大きくする必要がなかったので、電流密度Jが変化するといっても1つの試料を描画している間で問題にするほどではなかった。仮に変化したとしてもその変化量は小さく照射時間ΔTを短くすることで対応が可能であった。しかしながら、昨今のパターンの微細化及び集積化に伴い、増大するパターンを描画することによるスループットの低下を抑制しなければならないという命題がある。そのために大電流密度条件下での描画が必要となるが、その条件下では上述したように1つの試料を描画している間での電流密度Jの変化が問題になってくる。上述した特許文献1では、例えば週に1回程度、特許文献2では、例えば3日乃至10日に1回程度、それぞれ電流密度の調整が行なわれていたようであるが、それでは描画中の変化に対応することができない。さらに、上述した特許文献1,2では、いずれもフィラメント加熱温度を変化させるために、温度が安定するまで時間がかかってしまう。例えば、上述した特許文献2の例では1条件あたり5分間程度必要としていたようである。そして、それを9条件で測定するためさらに時間が必要となる。このように時間がかかっていたのではスループットの観点から描画中に電流密度調整を行なうことは困難である。以上のように、従来の技術では、描画中の電流密度調整を行なうことは困難であった。
【0009】
そこで、本発明は、かかる問題点を克服し、描画中に電子ビームの電流密度調整を行なうことが可能な装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様の電子ビーム描画装置は、
電子ビームを照射する照射源と、
制御値を入力し、制御値に基づいて照射源を制御する第1の制御部と、
電子ビームを用いた試料への描画が行なわれている間に、複数回電子ビームの電流密度を測定する電流密度測定部と、
電子ビームの電流密度の測定毎に、電子ビームの電流密度が略一定になるように、測定された電子ビームの電流密度に応じて変化する上述した制御値を演算し、演算の都度、制御値を第1の制御部に出力する第2の制御部と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
かかる構成により、描画中に電子ビームの電流密度が略一定になるように複数回の制御値を照射源に出力することができる。そのため、照射源では描画中に変化する制御値に応じて照射源のバイアス電圧を変化させる。そのため、上述したカソード先端が変化しても、描画中、電子ビームの電流密度を略一定に維持することができる。
【0012】
第1の制御部は、照射源に流れるエミッション電流が目標値に近づくように照射源のバイアス電圧を可変に制御し、
第2の制御部は、上述した制御値として、かかる目標値を演算して出力すると好適である。
【0013】
或いは、第1の制御部は、照射源のバイアス電圧を可変に制御し、
第2の制御部は、制御値として、かかるバイアス電圧の目標値を演算して出力するようにしても好適である。
【0014】
また、第2の制御部は、PID(Proportional Integral Difference)制御法を用いて目標値を演算すると好適である。
【0015】
本発明の一態様の電子ビームの電流密度調整方法は、
制御値に基づいて制御される照射源から電子ビームを照射する工程と、
電子ビームを用いた試料への描画が行なわれている間に、複数回電子ビームの電流密度を測定する工程と、
電子ビームの電流密度の測定毎に、電子ビームの電流密度が略一定になるように、測定された電子ビームの電流密度に応じて変化する上述した制御値を演算し、演算の都度、制御値を出力する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、描画中、電子ビームの電流密度を略一定に維持することができる。その結果、高精度なパターンを描画することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、電子ビーム描画装置の一例となる。そして、描画装置100は、試料に所望するパターンを描画する。描画部150は、電子鏡筒102、描画室103を有している。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、ブランキング(BLK)偏向器218、ブランキング(BLK)アパーチャ219、第1の成形アパーチャ203、成形レンズ204、成形偏向器205、第2の成形アパーチャ206、縮小レンズ216、対物レンズ207、副偏向器212、及び主偏向器214が配置されている。また、描画室103内には、移動可能に配置されたXYステージ105が配置されている。また、XYステージ105には、電子ビーム200の電流を測定するためのビーム吸収電極(ファラデーカップ209)が配置されている。電子銃201は、カソード220及びアノード226を有している。カソード220は、エミッタ222及びウェネルト電極224を有している。また、アノード226は、接地(地絡)されている。また、XYステージ105上には、描画対象となる試料が配置される。試料として、例えば、ウェハにパターンを転写する露光用のマスク基板が含まれる。マスク基板としては、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。
【0018】
制御部160は、電子銃電源230、及び描画制御回路240を有している。電子銃電源230内では、エミッタ222の両極に定電流源231により所定の加熱電流を流している。そして、エミッタ222の両極の中間電圧とウェネルト電極224間には所定のバイアス電圧(ウェネルト電圧)が可変電圧源234によって印加される。また、エミッタ222の両極の中間電圧には、可変電圧源234と並列に所定の直流電源が配置され、直流電源の他方は電流計238を介して地絡されている。また、可変電圧源234と並列に電圧計236が配置される。描画制御回路240には、電流密度測定部242及びPID制御部244が配置される。図1では、本実施の形態1を説明する上で必要な構成部分について記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成が含まれることは言うまでもない。
【0019】
また、電子銃電源230内では、制御部232が電圧計236で検出しながら可変電圧源234から印加されるバイアス電圧(ウェネルト電圧)を可変制御して、目標となるエミッション電流になるように制御している。エミッション電流の値は電流計238で検出することができる。
【0020】
そして、照射部の一例となる電子銃201から電子ビーム200が照射される。電子銃201から出た電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形例えば長方形の穴を持つ第1の成形アパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形例えば長方形に成形する。そして、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、成形レンズ204により第2の成形アパーチャ206上に投影される。かかる第2の成形アパーチャ206上での第1のアパーチャ像の位置は、成形偏向器205によって偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる。その結果、電子ビーム200は成形される。そして、第2の成形アパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、縮小レンズ216で縮小され、対物レンズ207により焦点を合わせ、主偏向器214及び副偏向器212により偏向される。その結果、連続移動するXYステージ105上の試料の所望する位置に照射される。
【0021】
また、試料上の電子ビーム200が、所望する照射量を試料に入射させる照射時間Δtに達した場合、以下のようにブランキングする。すなわち、試料上に必要以上に電子ビーム200が照射されないようにするため、例えば静電型のBLK偏向器218で電子ビーム200を偏向すると共にBLKアパーチャ219で電子ビーム200をカットする。これにより、電子ビーム200が試料面上に到達しないようにする。BLK偏向器218の偏向電圧は、描画制御回路240によって制御される。また、電子鏡筒102内および描画室103内は、図示していない真空ポンプにより真空引きされ、大気圧よりも低い圧力となる真空雰囲気となっている。
【0022】
ここで、発明者等は、以下のように構成することで、描画している間電流密度Jを略一定に維持できることを見出した。まず、試料に所望するパターンを描画している間に、複数回、電流密度Jを測定し、その変化を補正して所望する一定値に収束させるためのミッション電流Ieの目標値を測定の都度、演算する。そして、その目標値を電子銃電源230に出力する。そして、電子銃電源230内で描画中にバイアス電圧を可変制御させ、ミッション電流Ieを目標値に近づけさせる。このように構成することで、描画している間、電流密度Jを略一定に維持することができる。
【0023】
図2は、実施の形態1における電子ビームの電流密度調整方法を説明するための概念図である。
図2において、電子銃電源230は、バイアス電圧Vの値をフィードバック制御することでミッション電流Ieの目標値に合わせる。そして、電子銃201からは、ミッション電流Ieの電子ビーム200が照射される。そして、開口サイズが定まっている第1の成形アパーチャ203を通過した全ビームをファラデーカップ209で受ける。そして、ファラデーカップ209で受けた電流強度から得られる第1の成形アパーチャ電流値を電流密度測定部242に出力する。ここでは、第1の成形アパーチャ203を通過した全ビームのビーム電流を第1の成形アパーチャ電流とする。そして、電流密度測定部242で第1の成形アパーチャ電流値を第1の成形アパーチャ203の開口面積で割ることで電流密度Jを測定する。そして、電流密度JはPID制御部244に出力され、PID制御部244で設定された電流密度Jに収束するようにするためのミッション電流Ieの目標値を演算する。そして、目標ミッション電流Ieは電子銃電源230に出力され、電子銃電源230は、バイアス電圧Vの値をフィードバック制御することで新たなミッション電流Ieの目標値に合わせる。このループ動作を試料の描画中に複数回行なう。
【0024】
図3は、実施の形態1における電子ビームの電流密度調整方法の要部工程を示すフローチャート図である。
まず、電子銃電源230の制御部232にミッション電流Ieの初期値を設定する。そして、制御部232は、バイアス電圧Vの値をフィードバック制御しながら可変制御を行なうことで最初の目標値となるミッション電流Ieの初期値に合わせる。そして、試料に所定のパターンの描画を開始する。そして、描画中に以下に示すような電子ビームの電流密度調整を複数回行なう。例えば、10〜30分おきに電子ビームの電流密度調整を行なう。このタイミングは、例えば、描画中に定期的に行なわれるビーム位置補正シーケンスの中で一緒に行なえばよい。このようにすることで、電子ビームの電流密度調整のための新たな時間が不要となりスループットの低下を抑制することができる。以下、電子ビームの電流密度調整方法の要部工程を説明する。
【0025】
S(ステップ)102において、ビーム照射工程として、電子銃201は、ミッション電流Ieが目標値に合わせ込まれた電子ビーム200を照射する。電子銃201は、照射源の一例となる。
【0026】
S104において、電流密度測定工程として、電流密度測定部242は、図3のステップが繰り返される毎に電子ビーム200の電流密度Jを測定する。すなわち、電子ビーム200を用いた試料への描画が行なわれている間に、複数回電子ビーム200の電流密度Jを測定する。その手法は、上述したように、開口サイズが定まっている第1の成形アパーチャ203を通過した全ビームをファラデーカップ209で受ける。具体的には、電子銃201から照射された電子ビーム200は、照明レンズ202によって、第1の成形アパーチャ203上に照明される。そして、第1の成形アパーチャ203を通過した第1の成形アパーチャ203像が第2の成形アパーチャ206に遮へいされないように成形偏向器205で電子ビーム200を偏向する。そして、第2の成形アパーチャ206を通過した全ビームのビーム電流をファラデーカップ209で測定する。そして、ファラデーカップ209の出力が電流密度測定部242に送信される。そして、電流密度測定部242で第1の成形アパーチャ電流値を第1の成形アパーチャ203の開口面積で割ることで電流密度Jを算出する。第1の成形アパーチャ電流を測定することで、成形レンズ204や成形偏向器205の変動(雑音)が電流密度算出精度に悪影響を及ぼすことを回避することができる。
【0027】
ここで、上述した例では、第1の成形アパーチャ203を通過した全ビームから電流密度Jを算出しているが、これに限るものではない。例えば、第1の成形アパーチャ203と第2の成形アパーチャ206とにより例えば1μm角のビームを成形する。そして、その成形されたビームをファラデーカップ209で測定するようにしてもよい。そして、成形された面積でビーム電流値を割れば電流密度Jを求めることができる。このように、成形される面積を予め決めておけば電流密度Jを測定することができる。
【0028】
S106において、目標エミッション電流演算工程として、PID制御部244は、電子ビームの電流密度の測定毎に、電子ビーム200の電流密度Jが略一定になるように、測定された電子ビーム200の電流密度Jに応じて変化するエミッション電流Ieの目標値(制御値の一例)を演算する。そして、演算の都度、エミッション電流Ieの目標値を制御部232に出力する。PID制御部244は、第2の制御部の一例である。また、PID制御部244は、PID法を用いて、電流密度Jが一定値に収束するようにエミッション電流Ieの目標値を演算する。
【0029】
図4は、実施の形態1における電流密度とエミッション電流Ieの目標値との一例を示す図である。
図4(a)では、電流密度Jが時間の経過と共に収束して様子を示している。図4(a)に示すような収束方向に導くために、PID制御部244は、PID法を用いて、図4(b)に示すようなエミッション電流Ieの目標値を演算する。
【0030】
S108において、目標エミッション電流設定工程として、制御部232は、エミッション電流Ieの目標値を入力し、それまで設定されていた値に代えて設定し直す。制御部232は、第1の制御部の一例である。
【0031】
S110において、バイアス電圧可変制御工程として、制御部232は、新たなエミッション電流Ieの目標値に基づいて電子銃201を制御する。
図5は、エミッション電流とバイアス電圧との関係の一例を示す図である。
エミッション電流Ieとバイアス電圧Vとの関係は、図5に示すように、カソード220、特に、エミッタ222の先端形状の変化に伴って実線で示すグラフから点線で示すグラフへと変化していく。従来、図5に示すような関係の変化に関わらず、一定のエミッション電流を維持しようと制御していたため、電流密度を一定にすることができなかった。これに対し、実施の形態1では、電流密度を略一定にすることが前提となるため、図5に示すような関係の変化によって、エミッション電流Ieの目標値を変えていく。そして、制御部232は、電子銃201のカソード220とアノード226との間に流れるエミッション電流が常に新たなエミッション電流Ieの目標値に近づくように可変電圧源234の出力を変えてバイアス電圧Vを可変に制御する。新たなエミッション電流Ieの目標値に近づいているかどうかは、電流計238の測定結果を制御部232が入力することで判断することができる。また、バイアス電圧Vの測定結果を制御部232が入力することでその値を判断することができる。
【0032】
S112において、判定工程として、描画が終了しているかどうかを判定する。そして、まだ、描画中である場合には、S102に戻る。そして、上述した例えば10〜30分毎にまたS102からS112までを繰り返す。このようにして、電子ビーム200を用いた試料への描画が行なわれている間に、複数回電子ビーム200の電流密度Jを測定して、その都度、エミッション電流Ieの目標値を変えていく。そして、描画が終了したら終了する。或いは、次の試料の描画のために、描画をしていないときにも、上述した電流密度調整を定期的に行なっても好適である。これにより、常に電流密度を略一定に保つことができる。
【0033】
ここで、上述した例では、PID制御部244が電子ビーム200の電流密度Jが略一定になるように、エミッション電流Ieの目標値を演算するように構成したがこれに限るものではない。例えば、バイアス電圧Vの目標値を演算して出力するようにしても好適である。そして、その場合には、制御部232が入力したバイアス電圧Vの目標値に可変電圧源234の出力を変えるように構成すればよい。
【0034】
図6は、実施の形態1における電流密度Jとドーズ量D(レジストの照射される単位面積当たりの電荷量)の時間的変化の一例を示す図である。
図6では、例えば、20分に1回の割合で電流密度調整を行なう場合を示している。エミッション電流Ieを常に一定にした場合、図6(a)における点線で示したように電流密度Jは多次元的に上昇してしまう。このため照射時間ΔTを例えば20分毎に調整したとしても、図6(b)に点線で示すようにドーズ量Dの変化量は、エミッション電流Ieを変えながら調整する実施の形態1の場合(実線)よりも大きくなってしまう。言い換えれば、実施の形態1によれば、ドーズ量Dの変化量を小さくすることができる。これは、調整時にエミッション電流Ieを変えているので、調整時刻における電流密度Jの変化率を小さくすることができるためである。以上、述べたように本発明の実施の形態1では、描画中のドーズ量Dの変化を小さくすることができ、その結果、描画精度を向上させることができる。
【0035】
また、従来は、ビーム変動量が例えば3%以上になるとカソードを交換していたが、実施の形態1によればビーム変動量を小さく抑えることができるのでカソードの寿命も延ばすことができる。
【0036】
さらに、実施の形態1では、従来技術と異なりフィラメント加熱電流は変えないので、光学系の特性に影響を与えずに済ますことができる。その点からも描画精度を劣化させずに済ますことができる。そして、実施の形態1では、従来技術と異なりフィラメント加熱電流は変えないので、温度が安定するまで待機する必要がない。そのため、従来の手法と異なり描画中でも電流密度の調整を行なうことができる。
【0037】
以上の説明において、電流密度測定部242及びPID制御部244は、その機能の処理を、コンピュータを搭載した制御計算機によりソフトウェアにより実効してもよい。或いは、電気的な回路によるハードウェアにより実施させても構わない。或いは、電気的な回路によるハードウェアとソフトウェアとの組合せにより実施させても構わない。或いは、かかるハードウェアとファームウェアとの組合せでも構わない。また、ソフトウェアにより構成される場合、プログラムは、図示しない磁気ディスク装置、磁気テープ装置、FD、或いはROM(リードオンリメモリ)等の記録媒体に記録される。その際、制御計算機がバスを介して、記憶装置の一例となるRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM、磁気ディスク(HD)装置、入力手段の一例となるキーボード(K/B)、マウス、出力手段の一例となるモニタ、プリンタ、或いは、入力出力手段の一例となる外部インターフェース(I/F)、FD、DVD、CD等に接続されていても構わない。
【0038】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0039】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0040】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての電子ビーム描画装置及び電子ビームの電流密度調整方法は、本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
【図2】実施の形態1における電子ビームの電流密度調整方法を説明するための概念図である。
【図3】実施の形態1における電子ビームの電流密度調整方法の要部工程を示すフローチャート図である。
【図4】実施の形態1における電流密度とエミッション電流Ieの目標値との一例を示す図である。
【図5】エミッション電流とバイアス電圧との関係の一例を示す図である。
【図6】実施の形態1における電流密度と照射量の時間的変化の一例を示す図である。
【図7】従来の可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
【図8】従来の電子銃制御方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
100 描画装置
101,340 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
150 描画部
160,232 制御部
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203 第1の成形アパーチャ
204 成形レンズ
205 成形偏向器
206 第2の成形アパーチャ
207 対物レンズ
209 ファラデーカップ
212 副偏向器
214 主偏向器
216 縮小レンズ
218 BLK偏向器
219 BLKアパーチャ
220 カソード
222 エミッタ
224 ウェネルト電極
226 アノード
230 電子銃電源
231 定電流源
234 可変電圧源
236 電圧計
238 電流計
240 描画制御回路
242 電流密度測定部
244 PID制御部
300 リサイズ装置
330 電子線
410 第1のアパーチャ
411 開口
420 第2のアパーチャ
421 可変成形開口
430 荷電粒子ソース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを照射する照射源と、
制御値を入力し、前記制御値に基づいて前記照射源を制御する第1の制御部と、
前記電子ビームを用いた試料への描画が行なわれている間に、複数回前記電子ビームの電流密度を測定する電流密度測定部と、
前記電子ビームの電流密度の測定毎に、前記電子ビームの電流密度が略一定になるように、測定された前記電子ビームの電流密度に応じて変化する前記制御値を演算し、演算の都度、前記制御値を前記第1の制御部に出力する第2の制御部と、
を備えたことを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記第1の制御部は、前記照射源に流れるエミッション電流が目標値に近づくように前記照射源のバイアス電圧を可変に制御し、
前記第2の制御部は、前記制御値として、前記目標値を演算して出力することを特徴とする請求項1記載の電子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記第1の制御部は、前記照射源のバイアス電圧を可変に制御し、
前記第2の制御部は、前記制御値として、前記バイアス電圧の目標値を演算して出力することを特徴とする請求項1記載の電子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記第2の制御部は、PID(Proportional Integral Difference)制御法を用いて前記目標値を演算することを特徴とする請求項2又は3記載の電子ビーム描画装置。
【請求項5】
制御値に基づいて制御される照射源から電子ビームを照射する工程と、
前記電子ビームを用いた試料への描画が行なわれている間に、複数回前記電子ビームの電流密度を測定する工程と、
前記電子ビームの電流密度の測定毎に、前記電子ビームの電流密度が略一定になるように、測定された前記電子ビームの電流密度に応じて変化する前記制御値を演算し、演算の都度、前記制御値を出力する工程と、
を備えたことを特徴とする電子ビームの電流密度調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−10078(P2009−10078A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168520(P2007−168520)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】