説明

電子ビーム電流計測方法、電子ビーム描画方法および装置

【課題】露光/非露光部にて電子ビームを高速にON/OFFして描画する電子ビーム描画装置において、ビームON時間に対するビーム照射量の非直線性により、試料上に形成される描画パターンの寸法精度が悪化するという課題がある。
【解決手段】露光/非露光部にて電子ビームを高速にON/OFFして描画する電子ビーム描画装置において、ビームON時間に対するビーム照射量の特性を予め計測し、ビームON時間の補正データを作成しておき、描画時には前記補正データに基づいて、所望のビーム照射量が得られるようにビームON時間を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームを使用してパターン描画を行う電子ビーム描画方法、描画装置およびビーム電流計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路製造に用いられる電子ビーム描画装置においては、近年、半導体集積回路内の素子の微細化、回路パターンの複雑化、パターンデータの大容量化が進み、描画精度の向上と共に、描画スループットの向上が要求されている。このため、従来から採用されている可変成形ビーム方式の電子ビーム描画装置に加え、電子ビームを成形するアパーチャ上に繰返しパターンを形成して一度に露光を行う一括露光方式の電子ビーム描画装置が開発されてきた。
【0003】
しかしながら半導体リソグラフィ装置に対する要求精度の向上は著しく、パターンの微細化、ウェハの大口径化に伴い、更なる高精度、高速化を要求されている。それらの要求に応えるべく、次世代のリソグラフィ装置としてEPL(Electron Projection Lithography)に代表される電子ビーム投影リソグラフィや複数本の電子ビームを一斉に偏向し、ウェハの露光/非露光部にて電子ビームをON/OFFして描画するマルチビーム方式の電子ビーム描画装置の開発が近年盛んに進められている。
【0004】
これらの次世代電子ビーム描画装置は、従来の描画装置に比べ、その描画方式が大きく異なり、新たな技術課題が発生してきている。
【0005】
描画時の電子ビーム照射量を決定する基準となるビーム電流計測は、例えば特許文献1に記載のように、ファラデーカップに電流計を接続し、電子ビームを照射することにより、電流値あるいはそれに基づく電流密度を求める方法をとっている。
【0006】
【特許文献1】特許第3082662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特にマルチビーム方式の電子ビーム描画装置は、微弱な電流の電子ビームを高速にON/OFFさせてビーム照射量を制御する描画方式である。照射量を決定、制御を行うためには、高精度なビーム計測技術が必須である。しかしながら、微弱電流かつ高速なパルス状のビーム電流を通常のファラデーカップおよび電流計で精度良く計測することは、信号/雑音比の観点から困難である。これに対して、電子ビーム検知手段の出力を積分回路によりビーム電流を積分する方法は有効である。ここで、ビーム電流をi、照射時間をtとすると、ビーム照射量Qは数式1と定義される。
【0008】
【数1】

【0009】

このとき、ビーム照射量Qと積分回路の出力電圧Voutとの関係式は下記のように求めることができる。
【0010】
【数2】

【0011】

ここで、Cは積分回路の容量、Nはパルス数である。ビーム電流iは電子ビームがON状態のときは一定とすると、ビーム照射量Qはビーム電流と露光時間tの積で表すことができるので、図2(a)のように直線となる。しかし、実際に計測を行うと例えば図2(b)のように非直線となる。
【0012】
この原因の一つを図3により説明する。図3(a)はビームON状態およびOFF状態での電子ビーム102とブランキングアパーチャ開口部301との位置関係の例を示している。図3(a)の上図は電子ビームOFFの状態を示す。ブランキング電極105bを接地しておき、ブランキング電極105aに電圧を印加することにより、電子ビーム102の軌道が変わり、ブランキングアパーチャ開口部301を通過できない状態を示す。
【0013】
一方、図3(a)の下図は、ブランキング電極105aに電圧を印加しない(零ボルト)場合を示し、このとき電子ビームがON状態となる。また、図3(b)は図3(a)の状態でのブランキング電圧とブランキングアパーチャを通過したビーム電流の関係を示した概略図である。図3(b)のようにブランキング電圧が立ち上る(立ち下る)までには一定の時間を要するため、ビーム電流にも一定の立ち上り(立ち下り)時間が生じる。そのため、図3(b)の実線で示される波形からビームON時間を短くしていくと、図3(b)の破線で示されるように、電子ビームがブランキングアパーチャを完全に通過する前にビームOFFの状態へ移行することになり、ビーム電流の絶対値が減少する。
【0014】
この結果、図2(b)のように実測したビーム照射量が理想値(図2(a)上の値)よりも減少する。この他にもビームON時間に対するビーム照射量の非直線性に影響を与える要因として、ビームのボケ、ビーム形状、ビーム軸のずれ等が挙げられる。
【0015】
このように、様々な原因により引き起こされるビームON時間に対するビーム照射量の非直線性は、試料に与えるビーム照射量の不足や過多を招き、この結果、試料上に形成される描画パターンの寸法精度が悪化するという課題がある。
【0016】
本発明はかかる点に鑑み、寸法精度の高い描画パターンを試料上に形成できる電子ビーム描画方法およびその装置を提供することを目的とする。
【0017】
また、複数の電子ビームを用いて描画を行うマルチ電子ビーム描画装置において、各電子ビームのビーム電流、ブランキング特性等の特性は各電子ビームで異なるため、各電子ビームに対して同じビームON時間を設定しても、電子源の放射角分布の不均一、アパーチャやレンズ、投影光学系の機械的製作誤差等によりビーム照射量がそれぞれの電子ビームで異なってしまい、その結果、試料上に形成される描画パターンの寸法精度が悪化するという課題がある。
【0018】
本発明はかかる点に鑑み、寸法精度の高い描画パターンを試料上に形成できるマルチ電子ビーム描画方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、電子ビームを高速にON/OFFして描画する電子ビーム描画装置において、ビームON時間に対するビーム照射量の特性を予め計測し、前記特性からビームON時間の補正データを作成して、所望のビーム照射量が得られるように、前記補正データに基づきビームON時間の補正を行う、というものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、寸法精度の高いパターンを試料上に形成することが可能な電子ビーム描画方法および電子ビーム描画装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の実施形態に係る実施例を実施例1から順に説明する。
(実施例1)
以下、図1を参照して、本発明の一実施例につき、本発明を電子ビーム描画装置に適用した場合を例にして説明する。
【0022】
電子光学系100は、内部が真空のカラム101と、電子ビーム102を発生させる電子銃103と、試料104に対して照射する電子ビーム102のON/OFFを行うためのブランキング電極105と、ブランキングされた電子ビーム102を試料104に照射されるのを防ぐブランキングアパーチャ106と、電子ビーム102を検知するための電子ビーム検知手段107と、試料104および電子ビーム検知手段107を搭載するステージ108で構成される。
【0023】
また、図中、制御系110は制御系全体を統括する制御用計算機111、種々のデータ処理を行うデータ制御系112、ブランキング制御部115および信号処理部116から成る。
【0024】
本実施例の電子ビーム描画装置は、データ制御系112に新たに補正演算部113を設けたことに特徴がある。この補正演算部113は信号処理部116から送られる各ビームON時間に対するビーム照射量の計測データを元に、ビームON時間の補正データを作成する機能をもち、さらにメモリ114の各アドレスにその補正データを記憶している。
【0025】
また、描画時は描画パターンデータ中のビームON時間を記述したデータに対し、予め作成した補正データをメモリ114から読み出し、ビームON時間を補正する機能を有する。ビーム照射時間を補正演算する補正演算手段を備えているのである。
【0026】
なお、本発明ではデータ制御系112における補正演算部113以外のユニットが行うデータ処理の説明は省略する。
【0027】
ブランキング制御部115は、データ制御系112から送られるパルス幅、パルス数、波高値等のデータに応じて、ブランキング電極105に印加するパルス状のブランキング電圧を発生している。信号処理部116は、電子ビーム検知手段107の出力信号を積分する積分回路117と、前記積分回路の出力電圧をサンプリングするサンプル/ホールド回路(S/H)121と、サンプリングされたアナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換器122(ADC:Analog to Digital Converter)を有する。
【0028】
ここで、本実施例におけるビーム照射量の計測方法は、ON/OFFを繰り返す電子ビームの照射量を直接計測するのは困難なため、一般的な方法であるパルス状のビーム電流をNパルスだけ積分し、そのNパルスの積分値から1パルス当りの電子ビームの照射量を求める方式である。積分にはオペアンプ118に帰還容量(積分コンデンサ119)を接続した積分回路117を用いている。
【0029】
以下、ビーム照射量を計測する手順、ビームON時間を計測する手順、描画時の補正演算部113の動作、の順に説明する
ビーム照射量を計測する手順を図4により詳細に説明する。ただし、手順以外の名称は図1を用いる。計測を開始するまでは積分コンデンサ119と並列に接続されているスイッチ120はON状態(積分コンデンサ119をリセット)である。
【0030】
ステップ401は、制御計算機111から起動が掛かり、ビーム照射量計測用の描画パターンデータをデータ制御系に転送する動作を示す。
【0031】
ステップ402は、データ制御系で描画パターンデータがビームON時間、パルス数に変換されたデータがブランキング制御部115に転送され、前記ブランキング制御部は、そのデータに対応したパルス電圧を出力し、それをブランキング電極105に印加することでパルスビームが生成される動作を示す。
【0032】
ステップ403は、生成されたパルスビームは電子ビーム検知手段107に照射され、前記電子ビーム検知手段107は入射するビーム電流量に比例した電流を出力する動作を示す。
【0033】
ステップ404は、パルスビームの発生と同時に、スイッチ120がOFF状態になり、積分回路117がビーム電流の積分を開始する動作を示す。
【0034】
ステップ405は、ブランキング制御部115が一定数のパルスだけパルス電圧を出力した後、積分回路117の後段のサンプル/ホールド回路121が積分出力電圧をサンプリングする動作を示す。
【0035】
ステップ406は、サンプル/ホールド回路121の後段のA/D変換器122でサンプリングした積分出力電圧をアナログ量からディジタル量に変換する動作を示す。
【0036】
ステップ407は、ディジタル量に変換された計測値をメモリ114に記憶する動作を示す。
【0037】
ステップ408は、ステップ402からステップ406を必要回数だけ繰り返したかを判断する動作を示す。必要回数はあらかじめ決定しておいた、必要な計測精度を満たす回数を設定する。
【0038】
ステップ409は、補正演算部113が繰返し計測した値の平均値を計算する動作を示す。
【0039】
ステップ410は、ステップ409で計算した平均値をメモリ114に記憶する動作を示す。
【0040】
図4では雑音等による計測値のバラツキを低減するために計測動作を複数回繰り返しているが、所望の計測精度を満足すれば1回の計測でも良い。
【0041】
次に、実際に補正データを作成する手順を図5により詳細に説明する。ただし、手順以外の名称は図1を用いる。
【0042】
ステップ501は、制御計算機111から、ビーム照射量計測用の計測パラメータをデータ制御系112に設定する動作を示す。パラメータには、パルス数、複数のパルス幅(ビームON時間)などである。
【0043】
ステップ502は、ビームOFFの状態で、図4に示す手順で計測動作を行うことを示す。これは、ビームOFFの状態で計測を行った場合でも、計測値は零でなく、ある値(オフセット)を持つためである。
【0044】
ステップ503は、ステップ501で設定した計測パラメータに従い、1つのビームON時間を設定する動作を示す。
【0045】
ステップ504は、ステップ503で設定したビームON時間に対応したパルス電圧をブランキング制御部が出力し、それをブランキング電極105に印加することでパルスビームが生成される動作を示す。
【0046】
ステップ505は、図4に示す手順でビーム電流の積分値(ビーム照射量)を計測する動作を示す。
【0047】
ステップ506は、ステップ501で設定した計測パラメータに従って、複数のビームON時間について全てのビーム照射量の計測が完了したかを判断する動作を示す。
【0048】
ステップ507は、補正演算部113がメモリ114から計測値を読み出し、各ビームON時間での計測値からオフセット値をソフトウェア的に差引く動作を示す。
【0049】
ステップ508は、補正演算部で計測値からビーム照射量への換算を行い、図2に示すようなビームON時間−ビーム照射量特性を求める動作を示す。積分回路の出力電圧とビーム照射量の関係は数式2に示す通りである。
【0050】
ステップ509は、さらに、この特性から所望のビーム照射量に対するビームON時間の補正量を求める。例えば、図2(b)のような特性が得られたとすると、ビーム照射量Q1の場合、図2(a)のビームON時間の理想値t1と図2(b)の計測値t2の差分Δt、若しくは補正定数α(t2/t1)を演算する工程である。この演算は図1の補正演算部113で実行され、補正演算部内のメモリ114に記憶する。
【0051】
次に図1を用いて、描画動作時の補正演算部113の動作について説明する。
【0052】
先ず、描画パターンデータが補正演算部113に送られると、描画パターンデータ中のビームON時間データに対して、前記補正演算部内のメモリ114に記憶されている補正量Δtを加えるか、若しくは補正定数αを乗じて補正を行う。その後、ブランキング制御部115に補正したデータを転送し、そのデータに応じたビームON時間のパルスを発生させることで、高精度な描画パターンが形成可能となった。
(実施例2)
図9に本発明の他の実施例を示す。この図は、信号処理系116a、ファラデーカップ900、フォトダイオード901、以外は図1と同一であり、説明を省略する。
【0053】
ビーム電流が微弱である場合、計測値の計測精度を向上させるには信号処理系116aに入力する信号の信号/雑音比を向上させる必要がある。検知回路をカラム101内に設置して、雑音を低減する方法が考えられるが、電子回路部品を真空内で扱うのは困難である。そこで、電子ビーム検知手段に増幅機能を備えたものを使用し、信号を増幅して信号処理系116aに入力する信号の信号/雑音比を改善するのが有効な手段である。
【0054】
電子ビーム検知手段にはフォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、シンチレータと光電子増倍管の組合せ、電子増倍管、マイクロチャンネルプレート等があるが、本実施例ではフォトダイオード901を使用した。
【0055】
フォトダイオード901は一般的に光の検知手段として用いられており、電子ビームに対する利得(入射するビーム電流に対する出力電流の割合)は素子の特性や電子ビームのエネルギーによって変化すると考えられる。電子ビームに対する利得を求めるには、フォトダイオード901に入射する電子ビーム102のビーム電流を計測する必要がある。そのため、フォトダイオード901によりビーム電流を計測する回路に加えて、ファラデーカップ900によりビーム電流を計測する回路を設けた。
【0056】
まず、ファラデーカップ900に任意の時間だけ電子ビーム102を照射し、図4に示す動作フローチャートに従い計測を行い、ビーム電流を求める。なお、図4の動作フローチャートの詳細は前述した通りである。
【0057】
次に、ステージ108により電子ビーム102を照射可能な位置にフォトダイオード901を移動させて、同様に計測する。ファラデーカップ900での計測値は、フォトダイオード901に入射するビーム電流に相当すると考えられるので、フォトダイオード901の利得は、フォトダイオード901により計測した値を、ファラデーカップ900により計測した値で割ることで算出できる。
【0058】
このようにすれば、フォトダイオード等の電子ビームに対する利得を求めることができ、ビーム電流計測が可能となった。本実施例では積分回路を使った場合を示したが、その代わりに電流/電圧変換回路を用いて、定常的に電子ビームを照射してビーム電流を計測し、利得を求めても良い。
(実施例3)
本発明の他の実施例を図8に示す。本図は電子ビーム検知手段107aおよび107b以外は図9と同一であり、説明を省略する。
【0059】
先の(実施例1)では、図5のステップ502で、オフセットを予め計測して、ステップ507でパルスビーム電流を計測した結果から後でソフトウェア的に差引く方式を用いた。図8に示す実施例ではハードウェアでオフセットを差引く点が異なる。
【0060】
ここでは、電子ビーム検知手段107a、電子ビーム検知手段107b,積分回路117、サンプル/ホールド回路121およびA/D変換器122を2組設けた。一方の電子ビーム検知手段107bは金属製の囲いを設けるか、もしくは電子ビームが入射しない位置に設置しておき、他方の電子ビーム検知手段107aに電子ビームを入射させてビーム電流計測を行う。2組の計測系で計測した値を減算回路等によりハードウェア的に差引き、その値を補正演算部内のメモリ114に格納する。このとき、予め2つの計測系の校正を行い、計測系自体の特性を合せる必要がある。
(実施例4)
本発明をマルチ電子ビーム描画装置に適用した例を図6を用いて説明する。電子銃601から発した電子ビーム602は、コンデンサーレンズ603、アパーチャアレイ604、レンズアレイ605により複数の電子ビーム606が形成される。この複数の電子ビーム606は、ブランキング電極アレイ607、ブランキング絞り608によりそれぞれが独立にON/OFFされ、第1投影レンズ609および第2投影レンズ611により、試料613上に投影される。このとき、複数の電子ビーム606の試料613上での位置は、主偏向器610、副偏向器612を用いて一斉に走査される。走査と複数の電子ビーム606のON/OFFを同期させ、かつ、試料ステージ615により試料613を移動させることで試料全面を描画する。
【0061】
フォーカス制御回路620はレンズアレイ605を、照射量制御回路621はブランキング電極アレイ607を、レンズ制御回路622は第1投影レンズ609と第2投影レンズ611を、偏向制御回路623は主偏向器610と副偏向器612を、ステージ制御回路625は試料ステージ615をそれぞれ制御している。
信号処理回路624は電子ビーム検知手段614からの信号を検知し、信号処理を行っている。全てのユニットを統括しているのがCPU626である。
【0062】
ここで、照射量制御回路621には、ビームON時間の補正データ作成および補正演算を行う補正演算部が含まれ、これは図1の補正演算部113と同一の構成である。また、信号処理回路624には、積分回路、サンプル/ホールド回路、A/D変換器が含まれ、これは図1の積分回路117、サンプル/ホールド回路121、A/D変換器122と同一の構成である。
【0063】
マルチ電子ビーム描画装置では、電子銃601からの放射電流密度分布、電子光学系を構成する要素の機械的な誤差などで、各電子ビームの特性が異なることがある。そのため、同一のビームON時間を設定しても、それぞれの電子ビームでビーム照射量が異なるため、描画パターンの寸法が均一にならない。このため、描画に先立ち全ての複数の電子ビーム606に対して、図4および図5に示す動作フローチャートに従い、任意のビームON時間でのビーム照射量を計測し、その結果からビームON時間の補正データを求めた。実際の描画時にはビームON時間の補正データに基づいて補正演算することにより、それぞれの電子ビームで最適なビーム照射量が得られ、寸法精度の高い描画パターンが形成できた。
(実施例5)
次に、図6に示したマルチ電子ビーム描画装置の電子ビーム検知手段614の例を図7を用いて説明する。図7(a)は電子ビーム検知手段として単一の受光面701を持つフォトダイオード700を用いた例である。この場合、複数の電子ビームのうち単一の電子ビーム702だけを選択して照射し、計測を行う。その後、他の電子ビームについても順次選択、照射して、同様の動作を繰り返す。
【0064】
図7(b)は複数の受光面704をもつフォトダイオード703を用いた例を示している。複数の受光面704を持つアレイ化されたフォトダイオード703と、後段の複数の検知回路を用いれば、一度に複数の電子ビーム705についてビーム電流計測が可能となり、計測時間の短縮を図ることができる。
(実施例6)
図6に示すマルチ電子ビーム描画装置において、各電子ビームの特性が大きく異なる場合がある。このため、計測、補正後のビームON時間にある閾値を設定し、その値を超えた場合はCPU626に異常を知らせ、表示画面に警告メッセージを表示して、装置を停止させる。または、閾値を超えたビームが少数であれば、そのビームは使用せずに描画を行い、その電子ビームが担当する領域を後から他の電子ビームで描画することもできる。
【0065】
以上説明したように、本発明に係る実施の形態によれば、ビームON時間の補正データを予め作成しておき、その後、作成した補正データに基づき補正演算することで、ブランキング電圧の立ち上りの遅れ、ビームのぼけ、ビーム形状、ビームの軸ずれ等によって引き起こされるビーム照射量の不足や過多を防止できる。これを、例えば、半導体集積回路の製造工程に使用する場合には、寸法精度の高い半導体集積回路を製造することができる。
【0066】
これにより、寸法精度の高いパターンを試料上に形成することが可能な電子ビーム描画方法および電子ビーム描画装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施例を示す図。
【図2】電子ビームON時間に対するビーム照射量の特性の例。
【図3】電子ビームON/OFF状態での電子ビームとブランキングアパーチャ開口部の位置関係、およびブランキング電圧とビーム電流波形の概略図。
【図4】ビーム照射量の計測手順を示すフローチャート。
【図5】ビームON時間の補正データ作成手順を示すフローチャート。
【図6】本発明の他の実施例に係わるもので、マルチ式の電子ビーム描画装置の概略図。
【図7】単一およびマルチ化した電子ビーム検知手段の概略図。
【図8】本発明の他の実施例に係わるもので、オフセット計測用の計測系を設けた電子ビーム描画装置の概略図。
【図9】本発明の他の実施例に係わるもので、増幅機能を持つ電子ビーム検知手段の利得計測時に基準となる計測系を設けた電子ビーム描画装置の概略図。
【符号の説明】
【0068】
100…電子光学系、101…カラム、102…電子ビーム、
103…電子銃、104…試料、105…ブランキング電極、106…ブランキングアパーチャ、107…電子ビーム検知手段、108…ステージ、110…制御系、111…制御用計算機、112…データ制御系、113…補正演算部、114…メモリ、115…ブランキング制御部、116…信号処理部、117…積分回路、118…オペアンプ、119…積分コンデンサ、120…スイッチ、121…サンプル/ホールド回路、122…A/D変換器、301…ブランキングアパーチャ開口部、601…電子銃、603…コンデンサーレンズ、604…アパーチャアレイ、605…レンズアレイ、606…複数の電子ビーム、607…ブランキング電極アレイ、608…ブランキング絞り、609…第1投影レンズ、610…主偏向器、611…第2投影レンズ、612…副偏向器、613…試料、614…電子ビーム検知手段、615…試料ステージ、620…フォーカス制御回路、621…照射量制御回路、622…レンズ制御回路、623…偏向制御回路、624…信号処理回路、625…ステージ制御回路、626…CPU、700…フォトダイオード、701…単一の受光面、702…単一の電子ビーム、703…アレイ化されたフォトダイオード、704…複数の受光面、705…複数の電子ビーム、900…ファラデーカップ、901…フォトダイオード、116a…信号処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生する電子ビーム発生手段と、前記電子ビームを検知する電子ビーム検知手段と、前記電子ビームを任意の時間でON/OFFするブランキング手段とを有し、前記電子ビームを試料に照射して電子ビーム描画を行う電子ビーム描画方法において、
前記電子ビーム検知手段が検知する検知出力を積分し、積分された積分値に基づいて、ビーム照射量データを作成し、電子ビームの照射量または電子ビームのON時間を決めることを特徴とする電子ビーム描画方法。
【請求項2】
電子ビームを発生する電子ビーム発生手段と、前記電子ビームを検知する電子ビーム検知手段と、前記電子ビームをON/OFFするブランキング手段と、前記電子ビームを試料上に収束させるレンズと、前記電子ビームの試料上での位置を決める偏向器と、前記試料を搭載して移動するステージと、それらの機器等を制御する制御用計算機とを有する電子ビーム描画装置において、
前記電子ビーム検知手段の出力電流を積分する積分手段と、積分した値を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶した積分値に基づいてビーム照射量データを作成するデータ作成手段と、前記ビーム照射量データに基づいてビーム照射量またはビーム照射時間を補正演算する補正演算手段とを具備したことを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項3】
複数の電子ビームを生成する電子ビーム生成手段と、前記複数の電子ビームを検知する電子ビーム検知手段と、前記複数の電子ビームを任意の時間で個別にON/OFFするブランキング手段とを有し、前記複数の電子ビームを試料に照射して電子ビーム描画を行う電子ビーム描画方法において、
前記電子ビーム検知手段が検知する検知出力を積分し、積分された積分値に基づいて、ビーム照射量データを作成し、電子ビームの照射量または電子ビームのON時間を個々の電子ビーム毎に決めることを特徴とする電子ビーム描画方法。
【請求項4】
複数の電子ビームを生成する電子ビーム生成手段と、前記複数の電子ビームを検知する電子ビーム検知手段と、前記複数の電子ビームを任意の時間で個別にON/OFFするブランキング手段と、前記複数の電子ビームを試料上に収束させるレンズと、前記複数の電子ビームの試料上での位置を決める偏向器と、試料を搭載して移動するステージと、それらの機器等を制御する制御用計算機とを有する電子ビーム描画装置において、
前記電子ビーム検知手段の出力電流を積分する積分手段と、積分した積分値を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶した積分値に基づいてビーム照射量データを作成するデータ作成手段と、前記ビーム照射量データに基づいてビーム照射量またはビーム照射時間を補正演算する補正演算手段とを有することを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項5】
電子ビームを検知する手段を用いて行うビーム電流計測方法において、
少なくとも二つ以上の異なる電子ビーム検知手段を備え、
少なくとも一つの電子ビーム検知手段が検知した計測値を基準値として、他の電子ビーム検知手段が検知した計測値の校正を行うことを特徴とする電子ビーム電流計測方法。
【請求項6】
請求項5記載の電子ビーム電流計測方法において、
少なくとも一つの前記電子ビームを検知手段は、増幅機能を有することを特徴とする電子ビーム電流計測方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6記載の電子ビーム電流計測方法において、
前記基準値の電子ビーム検知手段がファラデーカップの検知方式であることを特徴とする電子ビーム電流計測方法。
【請求項8】
請求項5のビーム電流計測方法において、
少なくとも一つの電子ビーム検知手段は、検知出力を積分して積分値を求める検知方式であることを特徴とするビーム電流計測方法。
【請求項9】
電子ビームを発生する電子ビーム発生手段と、前記電子ビームを検知する電子ビーム検知手段と、前記電子ビームをON/OFFするブランキング手段とを有し、前記電子ビームを試料に照射して電子ビーム描画を行う電子ビーム描画装置において、
少なくとも二つ以上の異なる電子ビーム検知手段を備え、
少なくとも一つの電子ビーム検知手段が検知した計測値を基準値として、他の電子ビーム検知手段が検知した計測値の校正を行う校正手段を有することを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項10】
請求項9記載の電子ビーム描画装置において、
少なくとも1つの電子ビーム検知手段が増幅機能を備えた電子ビーム検知手段であることを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項11】
請求項9の電子ビーム描画装置において、
少なくとも1つの電子ビーム検知手段は、検知出力を積分して積分値を求める機能を具備することを特徴とする電子ビーム描画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−32613(P2006−32613A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208671(P2004−208671)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】