説明

電子加速器及びそれを用いた放射線治療装置

電子ビーム強度が強く小型軽量な固定磁場型強収束を用いた電子加速器(2,40,60)で、真空容器(10)と、真空容器(10)に配設した電磁石(20)と、真空容器(10)へ電子ビームを入射させる電子ビーム入射部(11)と、電子ビームを加速する加速装置(13)と、真空容器(10)から加速された電子ビームを輸送する電子ビーム輸送部(26)とを備え、電磁石(20)が、集束電磁石(21)とその両側に設けた発散電磁石(22)からなる強収束電磁石、または、集束電磁石(21)とその両側に設けた発散部からなる強収束電磁石であり、電子ビーム輸送部(26)の直前の真空容器(10)内に、X線を発生させる内部標的(25)を配設し、加速された電子ビームとX線とを選択可能に取り出す。加速電圧10MeVで1mAから10mAという従来の10倍以上の電子ビームが得られるので、従来の1/10以下の短時間で癌組織などに電子ビーム照射ができる放射線治療装置(1)を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、数MeV〜10数MeVのエネルギーの電子線を発生させる、固定磁場型強収束による、電子加速器及びそれを用いた放射線治療装置に関するものである。
【背景技術】
従来例1の電子ビーム及びそれから発生させたX線を用いる癌などの放射線治療装置としては、数MeV〜10数MeV程度のエネルギーに加速された線形加速器(リニアック)が、現在、主として用いられている(例えば、下記特許文献1参照)。また、線形加速器としては、マイクロトロン電子加速器が公知である(例えば、下記特許文献2参照)。
図20は、従来例1の医療用線形加速器の構成の一例を示す図である。医療用線形加速器100は、電子銃101と、加速器デバイス102と、加速器デバイス102の外部に配設される磁気屈曲装置103により構成されている。
電子銃101によって加速器デバイス102に入射された電子は、加速器デバイス102のビーム軸に沿って加速される。加速器デバイス102は、マイクロ波加速空洞から構成され、マイクロ波発振器104と、その制御回路が105が接続されている。マイクロ波発振器104は、加速器デバイス102の加速空洞に電磁界を発生させる。電子が加速器デバイス102の加速空洞を通過するときに、マイクロ波の電磁界によって焦点に合わされ加速される。このようにして加速された電子ビーム106は、射出窓107から放射され、出力電子ビーム108となり、放射線治療に利用される。
また、この出力電子ビーム108が、磁気屈曲装置103より軌道を変えられて、金またはタングステンのようなX線を発生させるターゲット(標的)109に照射されることで、X線ビーム110を発生させることができる。このX線ビーム110も、放射線治療に利用される。上記加速器デバイス102の大きさは、電子ビームを10MeVに加速するために、長さが2m程度必要である(例えば、下記特許文献3参照)。
従来例2の別の癌などの放射線治療装置として、重粒子線加速器がある。重粒子線加速器は、エネルギーが大きく、電子線およびX線による従来例1の線形加速器に比較して、癌組織に限定した照射が可能となり、正常組織に与えるダメージが小さいという利点がある(例えば、下記特許文献4参照)。
従来例3の加速器として、1953年に日本の大河により提案された固定磁場型強収束加速器(FFGA加速器:Fixed Field Alternative Gradient加速器)がある(下記非特許文献1参照)。FFGA加速器は、電子ビームなどの粒子の収束に零色収差を有する、所謂、強収束電磁石を用い、従来のシンクロトロン加速器のように加速に連れて磁場を変化させる必要がなく、固定磁場でよいという特徴がある。したがって、粒子の加速を早く行うことができる。
しかしながら、FFGA加速器は、提案当時の技術水準では強収束電磁石を実現するための精密な磁場分布の実現などが困難であり、ようやく、近年、素粒子原子核物理研究用の陽子加速用のFFAG装置の設計と試作が行われるようになった(例えば、下記非特許文献2、3参照)。
また、特許文献5において、ベータトロン加速装置を用いたFFAG電子加速器における騒音低減技術が開示されている。この騒音低減技術は、FFAG電子加速器から発生する騒音に対して打ち消す音をスピーカから発生させるものであり、FFAG電子加速器自体からの騒音を無くすものではない。
特許文献1: 特開平10−64700号公報(第4頁、図1)
特許文献2: 特開平07−169600号公報(第2〜3頁、図1、2)
特許文献3: 特開2001−21699号公報(第2頁)
特許文献4: 特開2002−110400号公報(第1〜2頁)
特許文献5: 特開2003−159342号公報(第1〜2頁)
非特許文献1: 大河千広、日本物理学会年次報告、1953
非特許文献2: Y.Mori他14名,“FFAG(Fixed−field Alternating Gradient)Proton Syncrotron”,1999,The 12th Syposium on Accelerator Science and Technology,pp.81−83
非特許文献3: 中野 譲及びKEKFFAGグループ、「150 MeV Fixed Field Alternative Gradient(FFAG)Accelerator」2002年9月、原子核研究Vol.47,No.4,pp.91〜101
従来例1のリニアックのビーム強度は、数100μAと小さいために、癌などの放射線治療にかかる時間が長く患者に負担となったり、呼吸運動による照射野のズレが生じたり、癌組織などの患部に集中して照射することが困難である等の課題がある。このため、電子線およびX線の治療では、従来例2の重粒子線を使用した癌治療装置に比べて、癌組織に限定した照射が困難であり、正常組織にあたえるダメージが大きい。
さらに、従来例1のリニアックでは、電子を加速するマイクロ波空洞にX線を発生させるターゲットを設置すると、電子ビームを加速できないために、電子ビームは加速器から取り出すことでしか用いることができない。また、従来例1のリニアックでは、電子ビームを加速器から取り出してX線を発生させたりするので、放射線が放射されることから使用者の健康を損なわないように放射線シールドの設置が必要で、設置に費用が掛かる。また、従来例1のリニアックにおいては必要な加速電圧を得るために出力電力の大きなマイクロ波発振器が必要になり、パルス動作のマイクロ波発振器しか使用できず、連続運転ができない。
一方、従来例2の重粒子線を用いた癌などの放射線治療装置は、加速器の長さが、電子線加速器の2〜数mに対して10m〜数10mもあり、重量も100トンを越す。また、コストが電子線加速器の100倍もかかり、一般の病院に簡単に設置できないという課題がある。
さらに、従来技術による加速装置には、極めて高い周波数(数GHz)のm単位の長さの大きな高周波空洞が必要である。従って、極めて高度で高精度の加工技術が要求され、製造コストが高くなるという課題がある。
従来例3のFFAG加速器においては、従来例1及び2の加速器に対してビーム電流が大きく、速い繰り返しのできる加速器であるが、現状においては、放射線治療装置に必要な10数MeV程度の加速電圧を有し、一般の病院に簡単に設置できるような加速器は未だ実現されていないことと、加速器に使用する加速装置などから可聴周波数の騒音が発生するなどの課題がある。
【発明の開示】
本発明は、以上の点に鑑み、電子ビーム強度が強く小型軽量な固定磁場型強収束を用いた電子加速器と、短時間で癌組織などに電子ビーム照射ができる、固定磁場型強収束電子加速器を用いた放射線治療装置を提供することを目的としている。
上記の目的を達成するため、本発明の電子加速器は、真空容器と、この真空容器内または真空容器外に配設される電磁石と、真空容器へ電子ビームを入射させる電子ビーム入射部と、電子ビームを加速する加速装置と、真空容器から加速された電子ビームを輸送する電子ビーム輸送部と、を備えた固定磁場型強収束電子加速器であって、電磁石が強収束電磁石であり、この強収束電磁石は、集束電磁石及び集束電磁石の両側に設けられた発散電磁石からなるか、または、集束電磁石及び集束電磁石の両側に設けられた発散部からなっており、電子ビーム輸送部の直前の真空容器内にX線を発生させる内部標的を配設し、加速された電子ビームとX線とを選択可能に取り出せることを特徴とする。
上記構成において電子ビーム入射部は、好ましくは、電子銃と、電子銃から発生された電子ビームの軌道を変えて真空容器へ入射させる電磁石を備えている。電子ビーム輸送部は、好ましくは、真空容器外へ電子ビームの軌道を変える電磁石又は収束レンズを備え、電子ビーム輸送部を通過する電子ビーム又はX線が走査される。また、加速装置は、高周波加速方式又は誘導加速方式であり、連続出力又はパルスの発振器を少なくとも備えていれば好適である。
上記構成によれば、電子ビームが、強集束電磁石と、高周波などを用いた加速装置により効率よく加速されることで、従来のリニアックなどの電子加速器に比べて、おおよそ10倍以上の電子ビームとこの電子ビームによるX線とを選択可能に発生する固定磁場型強収束電子加速器が提供される。また、連続出力またはパルス出力で、低出力の高周波発振器を加速装置として用いることができるので、小型、軽量及び低コストで製作できる。
また、本発明の電子加速器は、真空容器と、この真空容器内または真空容器外に配設される電磁石と、真空容器へ電子ビームを入射させる電子ビーム入射部と、電子ビームを加速する加速装置と、真空容器内の加速された電子ビーム取り出し用電磁石と、真空容器から加速された電子ビームを輸送する電子ビーム輸送部と、と備えた固定磁場型強収束電子加速器であって、電磁石は強収束電磁石であり、この強収束電磁石は、集束電磁石及び集束電磁石の両側に設けられた発散電磁石からなるか、または、集束電磁石及び集束電磁石の両側に設けられた発散部からなっており、電子ビーム輸送部から出射した電子ビームが走査されることを特徴とする。
上記構成において、好ましくは、加速された電子ビーム輸送部の直前の真空容器内に、X線を発生させる内部標的を配設し、加速された電子ビームとX線とを選択可能に取り出せる。好ましくは、電子ビーム又はX線は、少なくともピンホールスリットを含む走査部により走査される。
上記構成によれば、従来のリニアックなどの電子加速器に比べて、おおよそ10倍以上の電子ビームとこの電子ビームにより発生したX線が得られ、さらに電子ビーム又はX線が走査できる固定磁場型強収束電子加速器が提供される。また、連続出力又はパルス出力で、低出力の高周波発振器を加速装置として用いることができるので、小型、軽量及び低コストで製作できる。
上記構成において、好ましくは、電子ビーム輸送部は真空容器外へ電子ビームの軌道を変えるセプタム電磁石又は収束レンズからなり、真空容器内の強収束用電磁石の電子ビーム出射部の近傍に第1の電子ビーム軌道補正用電磁石が配設されている。好ましくは、第1の電子ビーム軌道補正用電磁石は、セプタム電磁石または収束レンズに対して、電子ビーム位相空間においてπ/2ラジアン遅れる位置に配設されている。上記構成によれば、第1の電子ビーム軌道補正用電磁石を備えることにより、より強度の強い電子ビームを得ることができる。
上記構成において、好ましくは、強収束用電磁石の電子ビーム入射部の近傍に、第2の電子ビーム軌道補正用電磁石が配置され、第2の電子ビーム軌道補正用電磁石が、第1の電子ビーム軌道補正用電磁石とともに、電子ビームの軌道を調整する。第1及び第2の電子ビーム軌道補正用電磁石は、好ましくは、電子ビーム位相空間においてnπラジアン(ここでnは、整数)の関係となる位置に配設される。この構成によれば、さらに第2の電子ビーム軌道補正用電磁石を備えることにより、より強度の強い電子ビームを得ることができる。
上記構成において、好ましくは、強収束用電磁石を構成する電磁石の巻線部は分割巻線構造であり、分割巻線部のそれぞれの電流が、所定の磁場分布となるように駆動制御される。この構成によれば、強収束電磁石を分割巻線構造の電磁石として、各巻線部の電流を駆動制御することで磁場分布を調整でき、より強度の強い連続電子ビームが得られる。
また、本発明の電子加速器は、真空容器と、この真空容器内または真空容器外に配設される電磁石と、真空容器へ電子ビームを入射させる電子ビーム入射部と、電子ビームを加速する加速装置と、真空容器内の加速された電子ビーム取り出し用電磁石と、真空容器から加速された電子ビームを輸送する電子ビーム輸送部と、を備えた固定磁場型強収束電子加速器であって、電磁石が強収束電磁石であり、この強収束電磁石が、集束電磁石及び集束電磁石の両側に設けられた発散電磁石からなるか、または、集束電磁石及び集束電磁石の両側に設けられた発散部からなっており、強収束用電磁石を構成する電磁石の巻線部が分割巻線構造であり、分割巻線部のそれぞれの電流が、所定の磁場分布となるように駆動制御されることを特徴とする。
上記構成において、好ましくは、分割巻線部の各部の電流は、各巻線部に並列に接続される抵抗により制御されか、各巻線部に接続される電流源により制御される。
上記構成によれば、強収束電磁石が分割巻線構造であるので、各巻線部の電流を最適な磁場分布とすることができ、より強度の強い電子ビームが得られる。電磁石を直流駆動し、加速装置が可聴周波数以上の高周波発振器を用いることができるので、電子加速器から騒音が発生しない。
また、本発明の電子加速器を用いた放射線治療装置は、電子線又はX線を選択可能に発生させる電子加速器と、照射ヘッドと、支持部と、被治療者を載せる治療台と、から構成され、上記電子加速器が、固定磁場型強収束電子加速器であることを特徴とする。この構成によれば、固定磁場型強収束電子加速器を用いるので、電子ビーム強度がおおよそ10倍以上強く、走査などが容易にできるから、癌などの組織に照射する時間が十分の一以下に短縮できる。また、小型軽量であり、騒音が発生せず低コストなので、一般の病院においても設置することができる。
【図面の簡単な説明】
本発明は、以下の詳細な説明及び本発明の実施の形態を示す添付図面に基づいて、より良く理解されるものとなろう。なお、添付図面に示す実施の形態は本発明を特定又は限定することを意図するものではなく、単に本発明の説明及び理解を容易とするためだけに記載されたものである。
図中、
図1は、本発明による固定磁場型強収束電子加速器を用いた癌などの治療に用いる放射線治療装置の一実施形態の構成を示す外観図である。
図2は、本発明の固定磁場型強収束電子加速器の概略構成を示す図である。
図3は、電子ビーム入射部の構成を示す概略図である。
図4は、電磁石の構成例を示す斜視図である。
図5は、電磁石の構成例を示す図4の変形例の斜視図である。
図6は、電子ビーム輸送部の構成を示す平面図である。
図7は、本発明の固定磁場型強収束電子加速器から発生される電子ビーム軌道の概略を示す図である。
図8は、本発明の固定磁場強収束電子加速器において、電子を10MeVまで加速するビーム軌道計算を示す図である。
図9は、本発明に係る第2の実施の形態による固定磁場型強収束電子加速器の構成を示す側面から見た模式図である。
図10は、第1の電子ビーム軌道補正用電磁石による電子ビーム軌道の補正を模式的に示す図である。
図11は、第1及び第2の電子ビーム軌道補正用電磁石による電子ビーム軌道の補正を模式的に示す図である。
図12は、図11における位相空間での電子ビーム軌道シミュレーションを示す図である。
図13は、図9のビーム走査部の構成であるスポット走査を模式的に示す斜視図である。
図14は、図9のビーム走査部の別の構成である電子走査を模式的に示す斜視図である。
図15は、本発明に係る第3の実施の形態による固定磁場型強収束電子加速器の構成を示す側面から見た模式図である。
図16は、第3の実施の形態に用いる電磁石の構成を示し、(a)は電磁石の平面を示す平面図、(b)は電磁石の巻線部の構成を示す断面図である。
図17は、図16に示す電磁石の励磁方法を示す図である。
図18は、図16に示す電磁石の別の励磁方法を示す図である。
図19は、図16に示す電磁石の磁束密度分布を模式的に示す図である。
図20は、従来の医療用線形加速器の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図面に示した実施形態に基づいて、本発明を詳細に説明する。
図1及び図2は、本発明による固定磁場型強収束電子加速器を用いた癌などの治療に用いる放射線治療装置の一実施形態の構成を示す外観図及び固定磁場型強収束電子加速器の構成を示す側面から見た模式図である。
図1において、固定磁場型強収束電子加速器を用いた放射線治療装置1は、電子を加速する固定磁場型強収束電子加速器2と、固定磁場型強収束電子加速器2を支持する支持部3と、被治療者を載せる治療台4と、から構成されている。
固定磁場型強収束電子加速器2の治療台4側の部分2aは、後述する電子ビーム輸送部26が内部に収容されている電子ビーム輸送部分であり、電子ビーム輸送部26の先端が、電子ビームまたは電子ビームを用いて発生させたX線を被治療者に照射するための照射ヘッド2bとなっている。固定磁場型強収束電子加速器2は、被治療者へ任意の角度で照射できるように支持部3に、回転可動に支持されている(図1の矢印参照)。
次に、固定磁場型強収束電子加速器2について説明する。
図2において、固定磁場型強収束電子加速器2は、真空容器10と、電子ビーム入射部11と、電磁石20(20a〜20f)と、加速装置13と、電子ビーム輸送部26と、から構成されている。真空容器10は、真空にされるリング状の中空容器である。電子ビーム入射部11は、電子銃などから構成されている。電磁石20は、真空容器10を周回するように配設されている固定磁場を発生させる電磁石であり、各電磁石20は、集束電磁石21の両側に発散電磁石22を備えている。なお、図2では、電磁石の下側半分しか示していないが、その上側にも、同じ構造の電磁石が正対するように配設されている。
ここで、電磁石20は、真空容器内に配設することができる。また、真空容器が非磁性材料である場合には、電磁石20を真空容器外に配設して、真空容器内に磁場分布を形成する構造にしてもよい。非磁性材料としては、Al(アルミニウム)などを使用することができる。また、真空容器10のおおよその幅をLで示しているが、10MeVの加速電圧を得るためのLは、約1mである。
次に、電子ビーム入射部11について説明する。図3は電子ビーム入射部11の構成を示す概略図である。図3において、電子ビーム入射部11は電子銃14とキッカー磁石15とを備えている。電子銃14から発生された電子は、キッカー磁石15により軌道が真空容器10内へ曲げられて、入射電子ビーム16となる。
次に、電磁石20について説明する。ここで使用する電磁石20は、本発明者の平成13年10月31日出願の特願2001−334461号に開示した電磁石などが使用できる。図4は上記電磁石の構成例を示す斜視図である。図示するように、電磁石20は、集束電磁石21の両側に発散電磁石22を有する強収束電磁石を備えている。図4において上方が電磁石20の真空容器10の外周側で、下方が電磁石20の真空容器10の内周側である。集束電磁石21と発散電磁石22には、それぞれコイル23aとコイル23bが巻回されている。
そして、集束電磁石21と発散電磁石22のコイル23aと23bには、直流で一定の磁場、即ち、固定磁場を発生するように電圧と電流が印加され、磁場の方向は互いに反対向きとなっている。図中の矢印21a,22aは、それぞれ集束電磁石21と発散電磁石22の磁場の方向を示している。
ここで、集束電磁石21及び発散電磁石22で発生させた磁束は、それぞれ、発散電磁石22及び集束電磁石21に直接戻す、所謂、正と逆磁場の閉じた磁気回路を形成する。従って、従来、磁気回路を構成するために不可欠とされたリターンヨークを使用する必要がなくなり、電子ビームの入射と取り出しが容易になる。この電磁石20は、磁場強度の一例として、0.5T(テスラ)程度の磁束密度が得られる。また、電磁石20として、超伝導磁石を使用してもよい。さらに、電磁石20は、集束電磁石21の両側に設けられる発散端部を備えることにより、強収束電磁石としてもよい。
図5は、電磁石の別の構成例を示す斜視図である。図示するように、電磁石20’は、図4の電磁石20にさらに、磁気回路を形成するシャントヨーク24が、電磁石20’の上部と下部に配設されている。他の構成は、図4と同じであるので説明は省略する。
これにより、発散電磁石22のリターンフラックスの一部は、磁気回路となるシャントヨーク24に流れるので、発散電磁石22から生じる発散磁場強度の大きさを自在に調整することが可能になり、発散軌道の調整が容易となる。
なお、上記電磁石はあくまでも構成例の一例であり、他の構成とすることもできる。例えば、シャントヨーク24は、発散磁場強度に応じて、上下の何れか1つとしてもよい。また、発散電磁石22のコイル23bを省略して、集束電磁石21からの磁場により誘起される磁場、または、端部形状により誘起される発散磁場を使用してもよい。
次に、電磁石の作用について説明する。
図2でも説明したように、図4において電磁石の一個しか示していないが、同じ構造の電磁石が正対するように図右側(図示せず)に配設されている。従って、図5において電磁石20の固定磁場に垂直に入射する点線で示す入射電子ビーム16は、点線のように、発散、収束、発散という軌道になる。ここで、図2では電磁石20(20a〜20f)が真空容器10内に6個配置される例を示しているが、後述するように電子ビームが電磁石20による固定磁場分布の中を順次通過させられて、真空容器10内を周回する。これにより、電磁石20により形成される固定磁場分布により、電子ビームが真空容器10内において収束性よく周回させることができる。この作用を固定磁場型強収束と呼ぶ。
次に、加速装置13について説明する。電子ビームを加速するための加速装置13は、図2において電磁石20bと電磁石20cの間に設けられている。加速装置13は、高周波発振器とその制御装置などから構成されている。この加速装置13は、電子ビームを加速する高周波エネルギーを加えるアンテナやコイルなどのエネルギー供給手段だけが真空容器内に配設されていればよく、他の高周波発振器とその制御装置あるいは電源などは真空容器外に設置してもよい。この際、電子ビームが、高周波加速方式あるいは誘導加速方式を用いた加速装置13で加速される。高周波発振器を用いた加速装置13の場合、周波数が5MHz〜数100MHzで電力として500kWの場合に、加速電圧は数10kVが得られる。ここで、高周波発振器として、連続動作またはパルス動作の発振器が使用できる。また、加速装置13の周波数を可聴周波数以上とすれば、騒音が発生しないようにすることができる。
次に、電子ビーム輸送部26について説明する。図6は、電子ビーム輸送部26の構成を示す平面図である。図示するように、10MeV〜15MeVに加速された電子ビーム27が、電子ビーム輸送部26に入射される。この電子ビーム27の加速器外部への取り出しは、セプタム電極、セプタム磁石、キッカー磁石28のいずれかと、収束レンズ29と、を用いて行われる。
次に、本発明の、固定磁場型強収束電子加速器の電子ビーム軌道について説明する。
図7は、本発明の固定磁場型強収束電子加速器から発生される電子ビーム軌道の概略を示す図である。図示するように、電子ビーム入射部11からの入射電子ビーム16が真空容器10内に入射する。入射電子ビーム16は、電磁石20によって真空容器10内を加速装置13により加速されながら、所定の加速電圧になるまで周回する。図中の点線は電子ビーム16の模式的な軌道を示している。入射電子ビーム16が真空容器10を一周し、二周目の電子ビーム17となる。図示するように、電子ビーム16,17の軌道はほぼ同心円状となり、電子ビームエネルギーの増加とともに、直径は僅かずつに大きくなり、所定の加速電圧まで加速される。電子ビーム18は、所定の加速電圧となった電子ビームである。従って、加速電子ビーム軌道と、最高エネルギーでの電子ビーム軌道が空間的に分離しているので、真空容器10内に、X線31の発生のために用いる内部標的25を設置することが容易となる。
電子ビーム27とX線とを選択可能に外部に取り出す方法として、電子ビーム27を外部に取り出す場合には、内部標的25を電子ビーム27により照射されない位置に移動し、電子ビーム27を電子ビーム輸送部26に入射させればよい。これに対して、X線を外部に取り出す場合には、X線を発生させるときだけ内部標的25を真空容器10内で移動し、電子ビーム27を内部標的25に照射してX線を発生させればよい。
このようにして、10MeV〜15MeVに加速された電子ビーム27は、真空容器10から取り出されて利用される場合と、内部標的25によりX線31に変換されて利用される場合の双方が可能である。
図8は、本発明の固定磁場強収束電子加速器において、電子を10MeVまで加速するビーム軌道計算を示す図である。図の水平及び垂直のベータトロンチューンは、電子ビームが真空容器10中を収束、発散を繰り返して振動運動を行う際の、閉軌道のまわりを1周する時の振動数である。この振動数は、電子ビームが真空容器10を1周するときの電子ビームの水平方向と垂直方向の振動数である。
この結果から、ビーム入射と加速されたビーム出射で、水平と垂直両方向のベータートロンチューンが加速エネルギーで大きく変化せず、電子ビームがよく収束していることが分かる。これにより、電磁石20による固定磁場分布により、電子ビームが加速されてもビームの収束性が加速エネルギーと共にあまり変化しない、所謂、零色収差形状を有していることが分かる。また、ビームの収束性がエネルギーに依存する非零色収差形状の場合も、ビームの加速速度が極めて速い場合にはビーム加速が可能である。
また、本発明発明の固定磁場型強収束電子加速器2では、時間的に変化しない固定磁場を用いるので、磁場強度が時間的に変化する通常の加速器に比較して、極めて高繰り返し加速が可能である。
次に、本発明の固定磁場型強収束電子加速器の動作について説明する。
本発明の固定磁場型強収束電子加速器2は、最初に、電子銃14により生成された電子ビーム16が、電子ビーム入射部11により真空容器10内に入射される。入射した電子ビーム16は、電磁石20の固定磁場分布による強収束作用によって電子ビームの発散を防がれ、さらに、真空容器10内の電子ビームの軌道上に配置した加速装置13により電子ビームが加速される。加速装置13により加速された電子ビームは、さらに電磁石20の固定磁場によって、真空容器10内を概略リング状に、おおよそ100〜1000回周回しながら周回毎に加速装置13により加速される。
このようにして、入射した電子ビーム16は、所望の加速電圧に達するまで徐々に加速電圧が高められる。所定の加速電圧まで加速された電子ビーム27は、電子ビーム輸送部26において、軌道が外部に曲げられる。これにより、電子ビーム30を外部に取り出すことができる。
また、本発明の固定磁場型強収束電子加速器2においては、電子ビーム軌道位置が、電子ビームエネルギーの増加と共に、真空容器10の外周側に僅かに大きくなるので、入射電子ビーム16の軌道と、最高エネルギーでの電子ビーム軌道18が空間的に分離している。これにより、電子ビームを真空容器10外に取り出すことと、真空容器10内にX線31の発生のために用いる内部標的25を設置することの何れも容易となる。即ち、電子ビーム27は、真空容器10から取り出されて利用される場合と内部標的25によりX線31に変換され利用される場合の双方が可能である。
次に、本発明の固定磁場型強収束電子加速器の特徴について説明する。
固定磁場型強収束電子加速器に用いる電磁石20は固定磁場型であり、高繰り返し加速が可能であるので、従来の直線型加速器のように非常に高い加速電場を必要としない。
また、本発明の固定磁場型強収束電子加速器の電子ビーム加速効率(デューティファクター)は、数10%以上の高効率が得られる。これに対して、従来の直線加速器では、電子ビーム強度が弱いので、一般に数%の効率である。
ここで、電子ビーム加速効率は、電子ビームパワー(=電子ビームエネルギー×電子ビーム電流)を電子ビーム加速に要する電力(=高周波加速もしくは誘導加速での電力)で割った値である。これにより、従来の電子加速器に比し、10倍以上の1mAから10mAの電子ビーム強度及びこの電子ビームによるX線が得られる。
また、本発明の固定磁場型強収束電子加速器2は、従来の加速装置で使用されている極めて高い数GHzというマイクロ波帯の周波数を用いた発振器を使用しないので、高度な技術が要求され、かつコストの高い高周波空洞が不要である。本発明の固定磁場型強収束電子加速器2に用いる加速装置13は、電子ビームを電磁石20により収束させながら多数回周回させながら加速するので、1回当りの加速電圧を低くしても、所定の加速電圧に加速できる。また、極めて低周波数で(数kHz〜数十MHz)連続動作の低出力の高周波発振器の使用ができるので、低コストである。従って、電子ビーム強度が10倍以上の1mA〜10mAでありながら、装置の大きさは従来と同程度であるので、従来の電子ビーム加速器と同程度のコストで製造できる。
次に、本発明の固定磁場型強収束電子加速器に係る第2の実施の形態を説明する。
図9は、本発明に係る第2の実施の形態による固定磁場型強収束電子加速器の構成を示す側面から見た模式図である。第2の実施の形態による固定磁場型強収束電子加速器40では、第1の電子ビーム軌道補正用電磁石41と、第2の電子ビーム軌道補正用電磁石42と、ビーム走査部43と、を備え、かつ、電磁石20aから20eを直流で駆動するよう構成している点が、図7に示す固定磁場型強収束電子加速器2と異なる。27’は最高エネルギーである10MeV〜15MeVに加速された電子ビームを示している。他の構成は、図7と同じ構成であるので説明は省略する。
第1の電子ビーム軌道補正用電磁石41は、真空容器10内の内部標的25と電磁石20eの間の領域に挿入され、電子ビーム軌道16,17,18の補正に用いられる。同様に、第2の電子ビーム軌道補正用電磁石42は真空容器10内に配設され、電子ビーム入射部11に対向する位置に設けられる。ここで、第1及び第2の電子ビーム軌道補正用電磁石41,42は、窓無し電磁石を用いることができる。また、第1の電子ビーム軌道補正用電磁石41だけでも、電子ビーム軌道を補正し電子ビームを出射することができる。
先ず、第1の電子ビーム軌道補正用電磁石による電子ビーム軌道の補正について説明する。
図10は、第1の電子ビーム軌道補正用電磁石41による電子ビーム軌道の補正を模式的に示す図である。第1の電子ビーム軌道補正用電磁石41は、電子ビーム輸送部26に配設されているセプタム電極またはセプタム電磁石28に対して、電子ビーム位相空間でπ/2ラジアン遅れる位置に配設されている。図中の線は所定の加速電圧となった電子ビーム18と、所定の加速電圧になる最近接の電子ビーム17’と、を示している。電子ビーム18の点線部18’は、セプタム電極または電磁石28のない場合の電子ビームの軌道を示している。図から明らかなように、セプタム電極または電磁石28は第1の電子ビーム軌道補正用電磁石41に対して電子ビーム位相空間でπ/2ラジアン進む位置に配設されているので、所定の加速電圧となった電子ビーム18が、セプタム電極または電磁石28に入射されて最も効率よく軌道修正されて電子ビーム46となり、ビーム走査部43に出射される。第1の電子ビーム軌道補正用電磁石41を設けることで、電子ビーム軌道の補正及びビーム出射を効率良く行うことができる。
図11は、第1及び第2の第1の電子ビーム軌道補正用電磁石41,42による電子ビーム軌道の補正を模式的に示す図である。第1及び第2の電子ビーム軌道補正用電磁石41,42は、電子ビーム位相空間で180度の整数倍(nπラジアン、ここでnは整数)となるように配置されている。図から明らかなように、セプタム電極またはセプタム電磁石28に対して、第1及び第2の電子ビーム軌道補正用電磁石41,42が、電子ビーム位相空間で180度の整数倍に配設されているので、所定の加速電圧となった電子ビーム18が、セプタム電極またはセプタム電磁石28に入射されて最も効率よく軌道修正されて電子ビーム47となり、ビーム走査部43に出射される。
図12は、図11における位相空間での電子ビーム軌道シミュレーションを示す図である。図において、横軸は半径方向の距離R(mm)を示し、縦軸は位相角度(mrad)を示している。図から明らかなように、R=1000mm、即ち、1mよりも大きくなると急激に位相角度が増大し、電子ビームが取り出されることが分かる。これにより、第1の電子ビーム軌道補正用電磁石41、または、第1及び第2の電子ビーム軌道補正用電磁石41,42を設けることで、電子ビーム軌道の補正及びビーム出射が精度よく行われることが分かる。
次に、ビーム走査部について説明する。ビーム走査部43は電子ビーム又はX線27’を、これらのビーム27’の直進方向の垂直平面(XY平面とする)で任意の方向の移動、即ち走査を行う領域である。図13は、図9のビーム走査部の構成であるスポット走査を模式的に示す斜視図である。図示するように、電子ビームまたはX線27’は、レンズ50,51によりそのビーム径が拡大されて、ピンホールスリット52が図示するX,Y方向に走査されることにより、走査された電子ビームまたはX線44が得られる。
図14は図9のビーム走査部の別の構成である電子走査を模式的に示す斜視図である。図14において、電子ビーム27’は、静電レンズまたは電磁レンズあるいはこれらの組合わせからなるレンズ53,54の図示しない駆動回路により、電子ビームが、図示するX,Y方向に走査される。これにより、本発明の固定磁場型強収束電子加速器40によれば、電子ビームまたはX線27’はスポット走査により走査でき、また、電子ビーム単体は電子走査により、高速かつ効率的に走査することができる。
以上のことから、本発明の固定磁場型強収束電子加速器40によれば、電子ビームの軌道補正ができ、電子ビーム又はX線の取り出しが、連続的に、かつ、効率良く行われる。また、ビーム走査部により、電子ビームまたはX線の走査ができる。
次に、本発明の固定磁場型強収束電子加速器に係る第3の実施の形態を説明する。
図15は、本発明に係る第3の実施の形態による固定磁場型強収束電子加速器の構成を示す側面から見た模式図である。図示する固定磁場型強収束電子加速器60が電磁石62を備えている点が、図9に示す固定磁場型強収束電子加速器40と異なる。他の構成は、図9と同じ構成であるので説明は省略する。電磁石62は、真空容器10内に6個(62a〜62f)配設されている。
図16は、第3の実施の形態に用いる電磁石60の構成を示し、(a)は電磁石の平面図、(b)は電磁石の巻線部の構成を示す断面図である。図16(a)に示すように、電磁石62aは、電気磁石20aと同様に、収束電磁石63の両側に発散電磁石64を有している強収束電磁石である。図16(b)に示すように、収束電磁石63及び発散電磁石64は、巻線部を複数のブロックに分割した構造を有している。図示の場合、収束電磁石63及び発散電磁石64は、ともに5分割の場合を示しているが、巻線部の分割数は5分割に限らず、目的とする磁場分布の形状に応じて適宜設定すればよい。
図17は図16に示す電磁石の励磁方法を示す図である。図示するように、5分割された発散電磁石コイルの巻線部64a〜64eには、電流調整用のシャント抵抗66a〜66eがそれぞれ並列に接続している。シャント抵抗の値は、シャント抵抗66aがr0、シャント抵抗66bがr0の抵抗を2本並列接続するというように並列数を増加させている。巻線の両端部64g,64hが電流源68により定電流駆動される。収束電磁石63も同様の構成である。したがって、巻線部64a〜64eのそれぞれに流れる電流I〜Iが変化するので、それに伴い、各巻線部64a〜64eから生じる磁束密度が変化し、発散電磁石64の磁束密度分布を制御することができる。収束電磁石63も同様に制御することにより、発散電磁石と収束電磁石からなる電磁石62aの磁束密度分布を最適となるように制御することができる。
図18は図16に示す電磁石の別の励磁方法を示す図である。図示のように、5分割された発散電磁石コイルの巻線部64a〜64eは、それぞれ独立に電流源70〜74より定電流駆動される。各コイル巻線部64a〜64eには、それぞれI〜Iの電流を流すことができる。したがって、各巻線部から生じる磁束密度が変化し、発散電磁石64の磁束密度分布を制御することができる。収束電磁石63も同様に制御することにより、発散電磁石と収束電磁石からなる電磁石62aの磁束密度分布を最適となるように制御できる。
図19は図16に示す電磁石の磁束密度分布を模式的に示す図である。図において、横軸は真空容器10の水平面の径方向距離を、縦軸は磁束密度を示している。図19から明らかなように、電磁石62aのコイル巻線部64a〜64eを独立に調整することにより、径方向の磁場分布をB=B(r/rとなるように調整することができる。ここで、Bは入射軌道上の磁場強度、rは入射軌道半径であり(図15参照)、kは磁場係数(field index)である。電磁石の62aのコイルの巻線部64a〜64eを調整することで、磁場係数kを任意に変えることができる。したがって、径方向の磁場分布を電子の軌道の収束が最適になるようにすることで、電子ビームの零色収差形状を容易に実現できるようになり、電子ビーム強度を増大させることができるとともに、電子ビームエネルギーの変更を容易に行うことができるようになる。
これにより、本発明の固定磁場型強収束電子加速器60において、電子ビームの収束状態の最適化が図れるので、電子ビーム強度を増大させることができる。また、電子ビームエネルギーの変更を容易に行うことができる。
次に、本発明の固定磁場型強収束電子加速器を用いた放射線治療装置の特徴について説明する。
本発明の固定磁場型強収束電子加速器を用いた放射線治療装置1では、加速電圧が10MeV〜15MeVで、電流1mA〜10mAが得られ、従来の10倍以上であるので照射時間が極めて短縮される。例えば、従来例1の電子ビーム加速器は、被治療者の癌などの患部に5Gy(グレイ:吸収線量の単位で、1Gy=100rad)程度の線量を照射するのに数分程度かかっていたが、本装置では10秒程度で済む。さらに、電子ビームの短時間照射や電子ビームの走査が可能であることから、被治療者の呼吸運動による電子ビームやX線の照射野のズレの問題が生じないので、従来の電子ビーム加速器では困難であった呼吸を短時間止めた状態で電子ビーム照射を行う、所謂息止め照射が可能となる。
また、本発明の固定磁場型強収束電子加速器を用いた放射線治療装置1は、重量が約1トンと軽いので、固定磁場型強収束電子加速器2,40,60を回転させることで、被治療者へ多方向からの照射を短時間で行える。従って、正常組織への放射線損傷を軽減することができる。
また、本発明の固定磁場型強収束電子加速器の放射線治療装置1に用いる固定磁場型強収束電子加速器2,40,60は、ビーム加速において原理的に極めて安定なビーム収束及び加速方式であるので、操作が容易でかつ調整作業も特に必要とせず、専門家でなくとも十分使用できる。
また、固定磁場型強収束電子加速器2,40,60の電子ビーム軌道は電磁石20で大部分覆われているので、放射線シールドとしての効果がある。これにより、本発明の固定磁場型強収束電子加速器を用いた放射線治療装置1においては、設置場所での放射線防護に要するコストを軽減できる。
以上のように、本発明の固定磁場型強収束電子加速器を用いた放射線治療装置により癌などの治療を行えば、被治療者の患部への照射時間の大幅な短縮と、被治療者へ息止め照射を用いた照射野のズレの防止が可能となり、さらに、多方向照射による照射部位の限定と正常組織への放射線損傷の減少等が実現できる。また、本発明の固定磁場型強収束電子加速器を用いた放射線治療装置は小型軽量であり、騒音の発生もなく、低コストで製造できるので、一般の病院に容易に設置することができる。
本発明は、上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。例えば、上記実施の形態において、電子ビームの入射部と電子ビーム輸送部、電磁石の構成や数などは、加速電圧や電子ビーム電流に合わせて適宜変更できる。
【産業上の利用可能性】
本発明の固定磁場型強収束電子加速器によれば、加速電圧が10MeV〜15MeVにおいて、1〜10mAという、従来の電子ビーム加速器の10倍以上の高強度の電子ビーム電流を得ることができるとともに、この電子ビームによるX線を選択可能に発生させることができる。また、本装置は小型軽量であり、低コストで製造することができる。
また、本発明の固定磁場型強収束電子加速器を用いた放射線治療装置は、従来の電子ビーム加速器の10倍以上の高強度の電子ビーム電流が得られ、癌などの治療時間の大幅な短縮等が可能となり、被治療者への負担を軽減できる。
また、従来の電子ビームを用いた癌などの放射線治療装置では不可能であった被治療者の癌患部などへ限定した大線量率で短時間の照射と、息止め照射による照射位置のズレの除去と、多方向照射による正常組織への放射線損傷の低減ができるので、重粒子線による癌治療装置などと同等の先端的癌治療が実現できる。さらに、本発明の固定磁場型強収束電子加速器は、直径1m程度で小型に構成でき、重粒子線を用いた癌治療装置の1/100程度のコストで製造できるので、一般の病院でも容易に設置できるという有利な効果が奏される。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、
この真空容器内または真空容器外に配設される電磁石と、
上記真空容器へ電子ビームを入射させる電子ビーム入射部と、
上記電子ビームを加速する加速装置と、
上記真空容器から加速された電子ビームを輸送する電子ビーム輸送部と、
を備えた固定磁場型強収束電子加速器であって、
上記電磁石が強収束電磁石であり、この強収束電磁石は、集束電磁石及び該集束電磁石の両側に設けられた発散電磁石からなるか、または、集束電磁石及び該集束電磁石の両側に設けられた発散部からなり、
上記電子ビーム輸送部の直前の真空容器内に、X線を発生させる内部標的を配設し、上記加速された電子ビームと上記X線とを選択可能に取り出せることを特徴とする、電子加速器。
【請求項2】
前記電子ビーム入射部が、電子銃と、電子銃から発生された電子ビームの軌道を変えて前記真空容器へ入射させる電磁石を備えたことを特徴とする、請求項1に記載の電子加速器。
【請求項3】
前記電子ビーム輸送部が、前記真空容器外へ電子ビームの軌道を変える電磁石又は収束レンズを備え、前記電子ビーム輸送部を通過する電子ビーム又は前記X線が走査されることを特徴とする、請求項1に記載の電子加速器。
【請求項4】
前記加速装置が、高周波加速方式又は誘導加速方式であり、連続出力又はパルスの発振器を少なくとも備えていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の電子加速器。
【請求項5】
真空容器と、
この真空容器内または真空容器外に配設される電磁石と、
上記真空容器へ電子ビームを入射させる電子ビーム入射部と、
上記電子ビームを加速する加速装置と、
上記真空容器内の加速された電子ビーム取り出し用電磁石と、
上記真空容器から加速された電子ビームを輸送する電子ビーム輸送部と、
を備えた固定磁場型強収束電子加速器であって、
上記電磁石が強収束電磁石であり、この強収束電磁石は、集束電磁石及び該集束電磁石の両側に設けられた発散電磁石からなるか、または、集束電磁石及び該集束電磁石の両側に設けられた発散部からなり、
上記電子ビーム輸送部から出射した電子ビームが走査されることを特徴とする、電子加速器。
【請求項6】
前記加速された電子ビーム輸送部の直前の真空容器内に、X線を発生させる内部標的を配設し、前記加速された電子ビームと上記X線とを選択可能に取り出せることを特徴とする、請求項5に記載の電子加速器。
【請求項7】
前記電子ビーム又はX線が、少なくともピンホールスリットを含む走査部により走査されることを特徴とする、請求項5又は6に記載の電子加速器。
【請求項8】
前記電子ビーム輸送部が、前記真空容器外へ電子ビームの軌道を変えるセプタム電磁石又は収束レンズからなり、前記強収束用電磁石の電子ビーム出射部の近傍に第1の電子ビーム軌道補正用電磁石が配設されていることを特徴とする、請求項5〜7のいずれかに記載の電子加速器。
【請求項9】
前記第1の電子ビーム軌道補正用電磁石が、前記セプタム電磁石又は収束レンズに対して、電子ビーム位相空間においてπ/2ラジアン遅れる位置に配設されていることを特徴とする、請求項8に記載の電子加速器。
【請求項10】
前記強収束用電磁石の電子ビーム入射部の近傍に、第2の電子ビーム軌道補正用電磁石が配置され、第2の電子ビーム軌道補正用電磁石が、前記第1の電子ビーム軌道補正用電磁石とともに、電子ビームの軌道を調整することを特徴とする、請求項5〜8のいずれかに記載の電子加速器。
【請求項11】
前記第1及び第2の電子ビーム軌道補正用電磁石が、電子ビーム位相空間においてnπラジアン(ここでnは、整数)の関係となる位置に配設されることを特徴とする、請求項10に記載の電子加速器。
【請求項12】
前記強収束用電磁石を構成する電磁石の巻線部が分割巻線構造であり、該分割巻線部のそれぞれの電流が、所定の磁場分布となるように駆動制御されることを特徴とする、請求項5に記載の電子加速器。
【請求項13】
真空容器と、
この真空容器内または真空容器外に配設される電磁石と、
上記真空容器へ電子ビームを入射させる電子ビーム入射部と、
上記電子ビームを加速する加速装置と、
上記真空容器内の加速された電子ビーム取り出し用電磁石と、
上記真空容器から加速された電子ビームを輸送する電子ビーム輸送部と、
を備えた固定磁場型強収束電子加速器であって、
上記電磁石が強収束電磁石であり、この強収束電磁石が、集束電磁石及び該集束電磁石の両側に設けられた発散電磁石からなる強収束電磁石でなるか、または、集束電磁石及び該集束電磁石の両側に設けられた発散部からなり、
上記強収束用電磁石を構成する電磁石の巻線部が分割巻線構造であり、該分割巻線部のそれぞれの電流が、所定の磁場分布となるように駆動制御されることを特徴とする、電子加速器。
【請求項14】
前記分割巻線部の各部の電流が、各巻線部に並列に接続される抵抗により制御されることを特徴とする、請求項13に記載の電子加速器。
【請求項15】
前記分割巻線部の各部の電流が、各巻線部に接続される電流源により制御されることを特徴とする、請求項13に記載の電子加速器。
【請求項16】
電子線又はX線を選択可能に発生させる電子加速器と、照射ヘッドと、支持部と、被治療者を載せる治療台と、から構成されている放射線治療装置であって、
上記加速器が固定磁場型強収束電子加速器であることを特徴とする、電子加速器を用いた放射線治療装置。
【請求項17】
電子線又はX線を選択可能に発生させる加速器と、照射ヘッドと、支持部と、被治療者を載せる治療台と、から構成されている放射線治療装置であって、
上記電子加速器が、請求項1〜15のいずれかに記載の電子加速器からなることを特徴とする、電子加速器を用いた放射線治療装置。

【国際公開番号】WO2004/039133
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【発行日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546477(P2004−546477)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013656
【国際出願日】平成15年10月24日(2003.10.24)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】