説明

電子放出素子、電子放出素子の製造方法、及び電子放出素子を有する表示装置

【課題】低真空状態であっても、電子放出部の周りに存在する残留ガス等の物質による電子放出部への影響を低減することを可能とする。
【解決手段】画像表示装置1は、電子放出素子10と、この電子放出素子10から放出される電子により発光する表示部30とを備えている。電子放出素子10は、カソード基板11と、このカソード基板11上に在る導電層12と、この導電層12上に在り、電子放出部21aを有するカーボン層20と、を備えている。電子放出部の外表面は被覆膜22によって覆われている。被覆膜22は電子放出部21aよりも酸化しにくい材料から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置等に用いられる電子放出素子、電子放出素子の製造方法、及び電子放出素子を有する表示装置に関し、特に性能劣化を防止できるものに関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置の一種として、電子放出素子を用いるフィールドエミッションディスプレイ(以下“FED”と称す)が知られている(例えば特許文献1参照 )。この種の表示装置では、一定間隔をもって配置された電子放出素子と表示部とを備えている。電子放出素子は、例えばガラス基板上にカソード電極層が形成され、このカソード電極層上に電子放出部を有する電子放出層が形成されて構成されている。一方、表示部は、電子放出部に対抗して形成されたゲート電極及びアノード電極層を備えている。減圧状態において、これらカソード電極層、ゲート電極層及びアノード電極層に所定の電圧をかけると、電子放出部から電子が放出され、この電子が表示部に衝突することにより表示部が発光する。しかし、減圧状態においても、電子放出部の周りには水素や酸素などの残留ガス等の物質が存在しているため、電子放出部の周りに存在する残留ガス等の物質により、電子放出部が影響を受ける場合がある。すなわち、例えば減圧状態の雰囲気中に存在する残留ガス等の物質が電子放出部に吸着することにより電子放出部の表面が酸化あるいは劣化することがある。この酸化または劣化は、電子放出部の放出電子量の減少や性能低下を生じさせる一因となる。通常、電子放出部の周りの雰囲気を高真空化することで、残留ガスなどの物質を減少させることにより、上述の酸化や劣化に起因する性能低下を防止している。
【特許文献1】特開2004−186015号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上述した電子放出素子には次のような問題があった。すなわち、残留ガスなどの物質を減少させるために雰囲気を高真空化すると生産コストが高くなってしまう場合がある。
【0004】
そこで本発明は、低真空状態であっても電子放出部の周りに存在する残留ガス等の物質による電子放出部への影響を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一態様として、基板と、この基板上に在る導電層と、この導電層上に在り、電子放出部を有する電子放出層と、前記電子放出部の表面を覆うとともにこの電子放出部よりも酸化しにくい材料からなる被覆材と、を備えたことを特徴とする電子放出素子である。
【0006】
本発明は、他の一態様として、 基板上に、導電層を形成する工程と、前記導電層上に、電子放出部を有する電子放出層を形成する工程と、前記電子放出部の表面に、該電子放出部の表面よりも酸化しにくい被覆材を形成する工程と、を備えたことを特徴とする電子放出素子の製造方法である。
【0007】
本発明は、他の一態様として、上記の電子放出素子と、前記電子放出素子から放出される電子により発光する表示部と、を備えたことを特徴とする表示装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、周りに存在する残留ガス等の物質による電子放出部への影響を低減することができる。これにより、電子放出素子を製造する過程等で、生産コストを抑えることが可能となる。また、従来に比較して、電子放出部の長寿命化等を図ることが可能となり、電子放出素子、引いては電子放出素子を有する表示装置の性能を高めることに寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[第1実施形態]
以下に、本発明の第1実施形態に係る電子放出素子10、電子放出素子の製造方法、及び電子放出素子を有する画像表示装置1について説明する。
先ず、本発明の第1実施形態にかかる画像表示装置1、電子放出素子10等について、図1乃至図3を参照して説明する。図1は画像表示装置1の1画素に対応する部分を示す斜視図である。図2は図1の画像表示装置1のA部分を拡大して示す断面図である。図3は図2の電子放出部を一部切欠して示す側面図である。図1、図2及び図3中の矢印X、Y、Zは互いに直交する三方向を示している。なお、各図において説明のため、適宜、構成を拡大、縮小または省略して示している。
【0010】
図1に示されるように、表示装置の一例としての画像表示装置1は、電子放出素子10と、この電子放出素子10から放出される電子により発光する表示部30とを備えている。これら電子放出素子10と表示部30とは所定の間隙を確保した状態で、対向して接合される。
【0011】
図1及び図2に示される電子放出素子10は、カソード基板11と、該カソード基板11上に形成された複数の導電層12と、これらカソード基板11及び導電層12上に形成された絶縁層13と、絶縁層13上に形成された複数のゲート電極14とを備えている。絶縁層13及びゲート電極14にはエミッタ孔15が形成され、このエミッタ孔15において導電層12上に電子放出層の一例としてのカーボン層20が形成されている。
【0012】
カソード基板11はガラスやシリコン等により構成され、画像を表示するために必要な所定の面積を有している。
【0013】
ここでは、1画素に対応するカソード基板11上に、例えば、3個の導電層12が並列して形成されている。例えば、導電層12は、ニッケル等の触媒金属からなり、前述のY方向に延びる矩形に形成されている。
【0014】
図1および図2に示すように、絶縁層13は、酸化シリコン(SiO)等で構成され、カソード基板11及び導電層12の上面に形成されている。また、3つのゲート電極14は、アルミニウム等の金属から、前述のX方向に延びる矩形状に形成され、それぞれ後述する三色の蛍光体33〜35と対応する位置に配置されている。これらゲート電極14は駆動回路に接続され、マトリクス制御される。
【0015】
図1に示すように、ゲート電極14と絶縁層13と導電層12とが交差して重なっている部分には、円形のエミッタ孔15が複数個形成されている。ここでは、図2に示すように、エミッタ孔15は、エッチング加工等によりゲート電極14及び絶縁層13のみが除去されて形成される。
【0016】
図2及び図3に示すように、エミッタ孔15に露出した導電層12上には電子放出層としてのカーボン層20が形成されている。カーボン層20は、表示部30に向かって、前述のZ方向に起立してブラシ状に成長した多数のCNT21と、このCNT21の外面を覆う被覆材としての被覆膜22とから構成されている。このCNT21の先端部21aが電子放出部の一例に該当する。
【0017】
CNT21は、グラフェンシートを円筒状に丸めた構造である。CNT21は直径50nm、長さ1μm程度に構成され、許容電流密度が大きく、減圧下で低い電圧が加えられることにより電子を放出する。CNT21の先端部21aは、ゲート電極14より低い高さに位置している。このCNT21の外表面は被覆膜22によって覆われている。
【0018】
被覆膜22は、例えば酸化シリコン(SiO)など、CNT21よりも酸化しにくい酸化物で構成されている。被覆膜22は、例えば材質等に応じて決定されるトンネル効果を生じるのに必要な所定の厚さに設定され、本実施形態では数nm程度に構成されている。この被覆膜22は、CNT21の外表面をコーティングすることにより減圧雰囲気中の残留ガス等の物質からCNT21を保護する機能を有する。
【0019】
一方、図1及び図2において、表示部30は、アノード基板31と、アノード基板31上に形成されたアノード電極32と、このアノード電極32の表面に塗布されたR、G、Bの三色の蛍光体33〜35とを備える。ここでは、アノード基板31は、カソード基板11との封止を良好にするため、カソード基板11と同素材のガラス等の透明材料で構成されている。また、アノード電極32は、カソード基板11と対向する面上に形成され、例えばアルミ等の金属から構成されている。アノード電極32は駆動回路に接続されている。一方、3色の蛍光体33〜35は、前述のX方向に延びる矩形状を成し、それぞれゲート電極14に対応して配置されている
電子放出素子10と表示部30とは、図示しないスペーサにより所定の間隙を確保して接合されている。その間隙は例えば約10−8トール程度の減圧状態とされ、図示しないゲッターによりこの減圧状態が維持されている。
【0020】
以降、前述した本実施形態の電子放出素子10の製造方法について図1または図2を参照して説明する。
まず、カソード基板11上にニッケル板を取り付け、導電層12を形成する。ついで、導電層12上、及び導電層12が形成されていないカソード基板11の上面全体に絶縁層13を形成する。ついで、スパッタ法等により、絶縁層13の表面に、導電層12で使用した触媒金属とは異なるアルミ等の金属を成膜し、ゲート電極14を形成する。
【0021】
さらに、ゲート電極14及び絶縁層13を貫通して触媒金属が露出するよう所定の位置にエミッタ孔15を形成する。具体的には、まず、円形の開口部を有するマスクをゲート電極14上に設置する。その後、マスクを用い、所定のエッチングガスで、ゲート電極14にドライエッチングを施して開口する。次いで、所定のエッチングガスで絶縁層13を導電層12に達するまでドライエッチングを施すことで、所定の形状のエミッタ孔15が形成される。
【0022】
エミッタ孔15の形成後、カソード基板11を図示しない真空容器内に導入し、メタンと水素の混合ガスをプラズマで分解することで、露出した導電層12上にCNT21を形成する。ここで、例えば、導電層12はニッケル等の触媒金属から構成されている。この場合、導電層12は触媒層として作用するので、前述の方法を用い、その上に直接CNT21を形成することができる。また、プラズマはマイクロ波プラズマとし、成長するCNT21の向きを揃えるため導電層12の表面に垂直に電界を形成しておく。こうして、導電層12が露出しているエミッタ孔15内において、導電層12上に多数のCNT21がZ方向にブラシ状に起立した状態で形成され、カーボン層20が構成される。
【0023】
ついで、スパッタ法あるいは蒸着法によりCNT21の外表面に酸化シリコンを成膜することにより、被覆膜22を形成する。このとき、スパッタリングまたは蒸着を表示部30側から施すことにより、被覆膜22が必ずしもCNT21の外表面全体に形成されず部分的に形成される場合であっても、少なくとも電子放出部となるCNT21の先端部21aが被覆膜22に覆われることとなる。なお、図3では被覆膜22がCNT21の外表面全体を被覆した様子を示している。
【0024】
一方、ガラス等の透明材からなるアノード基板31にアノード電極32を形成し、アノード電極32に蛍光体33〜35を塗布して表示部30を製造する。また、スペーサを介して所定の間隙を確保した状態でカソード基板11の周囲とアノード基板31の周囲とを封止材で接合する。こうして電子放出素子10と表示部30とが接合され、画像表示装置1が完成する。
【0025】
次に、図1及び図2を参照しながら、本実施形態にかかる画像表示装置1の動作について説明する。
アノード電極32、カソード電極としての導電層12及びゲート電極14にそれぞれ所定の電圧Va(例えば1〜15KV)、Vd(例えば0〜100V)が印加される(以上、図2を参照する)と、電界が生じる。ここで、導電層12に成長したCNT21の先端部21aは細いためここに電気力線が集中する。これにより強い電界が得られ、この電界に引き出されて、CNT21の先端部21aなどの電子放出部から、被覆膜22を通り越して電子が放出される。この電子はゲート電極14に導かれて蛍光体33〜35が塗布されたアノード電極32に入射する。こうして蛍光体33〜35が励起され、発光する。この発光により透明なアノード基板31を通して所望の画像が表示される。ここで、ゲート電極14に印加する電圧をマトリクス制御することで発光を制御することができ、画素毎の階調表示が可能となっている。
【0026】
本実施形態にかかる電子放出素子10、画像表示装置1などは以下に掲げる効果を奏する。
CNT21の外表面が酸化シリコンからなる被覆膜22で覆われているため、減圧雰囲気中の残留ガス等の物質による影響を防ぐことが出来る。したがって、例えば残留ガスに含まれる水素や酸素などがCNT21の表面に吸着して酸化するのを防止できるため電子放出量が安定する。また、被覆膜22により雰囲気中の物質によりCNTの表面が劣化するのを防止することができるためCNT21の電子放出部としての性能を長く維持することが可能となる。
【0027】
また、これまで残留ガスの影響を防ぐために雰囲気中の圧力を下げて高真空化し、残留ガス自体を減らしていたが、この圧力条件を緩和することができ、例えばこれまで10−10トール程度に減圧する必要があったところ、10−4トール程度にすることが可能となる。したがって、減圧に要するコストを押さえることが出来る。
【0028】
また、被覆膜22の厚さを例えば数nmとし、トンネル効果が可能な厚さに構成することで、電子放出性能を低下することなく、酸化シリコンなどの絶縁材料を用いることができる。
【0029】
さらに、電子放出部は表示部30側に位置するため、表示部30の方向からスパッタリングまたは蒸着を施すことにより、表示部30側に突出したCNT21の先端部21aなどの電子放出部を含む部分に容易に被覆膜22を形成することが可能となる。
【0030】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態に係る電子放出素子10及び画像表示装置2について図4及び図5を参照して説明する。図4は画像表示装置の一部を拡大して示す断面図である。図5は図4の電子放出部を一部切欠して示す側面図である。また、各図において説明のため、適宜、構成を拡大、縮小または省略して示している。なお、本実施形態の画像表示装置2において、カーボン層40以外の部分の構成等については上記第1実施形態の画像表示装置1と同様であるため、同符号を付して説明を省略する。
【0031】
本実施形態の電子放出層としてのカーボン層40は、互いに絡み合った複数のCNT41を備えている。CNT41は先端部41aや折曲部41bを有する。このうち表示部30側に突出した先端部41aや折曲部41b等が電子放出部の一例となる。CNT41の外周面は被覆膜42で覆われている。
【0032】
被覆膜42は、上記第1実施形態と同様に、例えば酸化シリコンなど、CNT21よりも酸化しにくい酸化物で構成されている。被覆膜42は、例えば材質等に応じて決定されるトンネル効果を生じるのに必要な所定の厚さに設定され、本実施形態では数nm程度に構成されている。
【0033】
以降、前述した本発明の実施形態の電子放出素子10および画像表示装置2の製造方法について図4または図5を参照して説明する。ここでは、CNT41の形成工程以外の製造方法は上記第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
まず、上記第1実施形態と同様に、ガラスからなるカソード基板11上に、触媒金属で構成された導電層12、絶縁層13、及びゲート電極14を形成する。ゲート電極14及び絶縁層13を貫通して導電層12が露出するよう所定の位置にエミッタ孔15を形成する。エミッタ孔15の形成後、カソード基板11を図示しない減圧容器内に導入し、メタンと水素の混合ガスをプラズマで分解することで、露出した導電層12上にCNT41を形成する。
【0034】
ここで、上記第1実施形態においては、成長するCNT21の向きを揃えるため導電層12の表面に垂直に電界を形成したが、本実施形態においてはこの工程を省略し、垂直に電界を形成せずCNT41を成長させる。こうして、12が露出しているエミッタ孔15内において、導電層12上に、折曲されて互いに絡み合う多数のCNT41が形成され、カーボン層40が構成される。
【0035】
ついで、スパッタ法あるいは蒸着法によりCNT41の外表面に酸化シリコンを成膜することにより、被覆膜42が形成される。このとき第1実施形態と同様に、表示部30側から蒸着またはスパッタリングを施す。これにより、被覆膜42が必ずしも全面に形成されず、部分的に形成される場合であっても、少なくとも表示部30側に突出するCNT41の先端部41aや折曲部41bなど電子放出部となる部位が被覆膜42に覆われることとなる。なお、図5では被覆膜42がCNT41の全面を被覆した様子を示している。
【0036】
一方、第1実施形態と同様に、アノード基板31にアノード電極32を形成し、アノード電極32に蛍光体33〜35を塗布して表示部30を製造する。また、スペーサを介して所定の間隙を確保した状態でカソード基板11の周囲とアノード基板31の周囲とを封止材で接合する。こうして電子放出素子10と表示部30とが接合され、図4にその一部が示される画像表示装置2が完成する。
【0037】
本実施形態においても上述した第1実施形態にかかる電子放出素子10及び画像表示装置1などと同様の効果が得られる。すなわち、CNT41の外表面が被覆膜42で覆われているため、減圧雰囲気中の残留ガス等の物質によるCNT41への影響を防ぐことが出来る。したがって、圧力条件を緩和することができるため、減圧に要するコストを抑えられる。また、被覆膜42の厚さを例えば数nmとし、トンネル効果が可能な厚さに構成することで、電子放出効果を妨げることなく、酸化シリコンなどの絶縁材料を用いることができる。表示部30の方向から蒸着またはスパッタリングを施すことにより、表示部30側に突出した電子放出部としてのCNT41の先端部41aや折曲部41bを含む必要部分に容易に被覆膜22を形成することが可能となる。
さらに、CNT41を形成する際に、垂直に電界をかける工程が不要であるため、製造工程を単純化することができるとともに、先端部41aのほかに折曲部41bも電子放出部となるため電子放出部を多数形成することができる。
【0038】
[第3実施形態]
次に本発明の第3実施形態に係る電子放出素子10及び画像表示装置3について図6及び図7を参照して説明する。図6は画像表示装置3の一部を拡大示す断面図である。図7は図6の電子放出部を一部切欠して示す側面図である。また各図において説明のため、適宜、構成を拡大、縮小または省略して示している。なお、本実施形態の画像表示装置3において、カーボン層50以外の部分の構成等については上記第1実施形態の画像表示装置1と同様であるため、同符号を付して説明を省略する。
【0039】
本実施形態の電子放出層としてのカーボン層50は、印刷法により形成される。上記第1実施形態ではCNT51を導電層12上に直接成長させるため、導電層12を触媒金属で構成していたが、本実施形態では触媒金属以外でも適用可能である。カーボン層50は、例えば銀などの金属材料にCNT51が混合されたペースト52で構成されている。このペースト52の表面にCNT51が露出している。CNT51は上記第2実施形態のCNT41と同様に先端部51aや折曲部51bを有している。このうち、表示部30方向に突出した先端部51aや折曲部51bが電子放出部の一例となる。CNT51の外表面は上記各実施形態と同様に、被覆膜53で覆われている。
【0040】
被覆膜53は、上記第1実施形態及び第2実施形態と同様に、例えば酸化シリコン(SiO)など、CNT51よりも酸化しにくい絶縁材料で構成されている。被覆膜53は、例えば材質等に応じて決定されるトンネル効果を生じるのに必要な所定の厚さに設定され、本実施形態では数nm程度に構成されている。
【0041】
以降、前述した本発明の実施形態の電子放出素子10及び画像表示装置3について図6および図7を参照して説明する。ここでカーボン層50の形成工程以外の製造方法は上記第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0042】
まず、上記第1実施形態と同様に、カソード基板11上に、導電層12、絶縁層13、及びゲート電極14を形成する。ゲート電極14及び絶縁層13を貫通して導電層12が露出するよう所定の位置にエミッタ孔15を形成する。このエミッタ孔15における導電層12上に、銀粒子やフリット成分などが配合され、かつCNT51を含むペースト52を印刷する。ついで、乾燥、焼成を行った後、ペースト52の表面にレーザを照射することによりCNT51を表面に露出させる。ここで、ペースト52は銀に限らず他の導電材からなるペーストを用いてもよい。
【0043】
ついで、第1実施形態と同様に、スパッタ法あるいは蒸着法によりカーボン層50の表面に酸化シリコンを成膜することにより、被覆膜53を形成する。被覆膜53は露出したCNT51及びペースト52の表面を覆う。このとき第1実施形態と同様に、表示部30側から蒸着またはスパッタリングを施す。これにより、被覆膜53が必ずしもCNT51及びペースト52の全面に形成されず、部分的に形成される場合であっても、少なくとも表示部30側に突出するCNT51の先端部51aや折曲部51bを含む電子放出部が被覆膜53に覆われることとなる。なお、図7では全面に被覆した様子を示している。以上により、エミッタ孔15内において、多数のCNT51が被覆膜53に覆われた状態で露出し、カーボン層50が形成される。
【0044】
一方、第1実施形態と同様に、アノード基板31にアノード電極32を形成し、アノード電極32に蛍光体33〜35を塗布して表示部30を製造する。また、スペーサを介して所定の間隙を確保した状態でカソード基板11の周囲とアノード基板31の周囲とを封止材で接合する。こうして電子放出素子10と表示部30とが接合され、図6にその一部が示される画像表示装置3が完成する。
【0045】
本実施形態においても上述した第1実施形態にかかる電子放出素子10及び画像表示装置1などと同様の効果が得られる。すなわち、CNT51の外表面が被覆膜53で覆われているため、減圧雰囲気中の残留ガス等の物質による電子放出部への影響を防ぐことが出来る。したがって、圧力条件を緩和することができるため、減圧に要するコストを押さえることが出来る。また、被覆膜53の厚さを例えば数nmとし、トンネル効果が可能な厚さに構成することで、電子放出効果を妨げることなく、酸化シリコンなどの絶縁材料を用いることができる。表示部30の方向から蒸着またはスパッタリングを施すことにより、表示部30側に突出した先端部51aや折曲部51bなどを含む電子放出部に容易に被覆膜53を形成することが可能となる。
さらに印刷法を用いたことによりカーボン層50を容易に形成することができる。
【0046】
[第4実施形態]
次に本発明の第4実施形態に係る電子放出素子10及び画像表示装置4について図8及び図9を参照して説明する。図8は画像表示装置の一部を拡大示す断面図である。図9は図8の電子放出部を一部切欠して示す側面図である。また、各図において説明のため、適宜、構成を拡大、縮小または省略して示している。なお、本実施形態の画像表示装置4において、カーボン層60以外の部分の構成等については上記第1実施形態の画像表示装置1と同様であるため、同符号を付して説明を省略する。
【0047】
本実施形態のカーボン層60は、エミッタ孔15内の導電層12上においてブラシ状に多数形成されたCNT61と、このCNT61の外表面を覆う被覆膜62とから構成されている。被覆膜62は、例えば白金、金などのCNT61よりも酸化しにくい導電材料で構成されている。被覆膜62は、例えば数nm程度に構成されている。
【0048】
以降、前述した本発明の実施形態の電子放出素子10および画像表示装置4の製造方法について説明する。ここでカーボン層60の形成工程以外の製造方法は上記第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0049】
まず、上記第1実施形態と同様に、カソード基板11上に、導電層12、絶縁層13、及びゲート電極14を形成する。ゲート電極14及び絶縁層13を貫通して触媒金属が露出するよう所定の位置にエミッタ孔15を形成する。エミッタ孔15の形成後、カソード基板11を図示しない減圧容器内に導入し、メタンと水素の混合ガスをプラズマで分解することで、露出した導電層12上に多数のCNT61を形成する。
【0050】
ついで、スパッタ法あるいは蒸着法によりCNT61の外表面に金あるいは白金を成膜することにより、被覆膜62を形成する。以上によりカーボン層60が完成する。このとき第1実施形態と同様に、表示部30側から蒸着またはスパッタリングを施す。これにより、被覆膜62が必ずしも全面に形成されず、部分的に形成される場合であっても、少なくとも表示部30側に突出するCNT61の先端部61aを含む電子放出部が被覆膜22に覆われることとなる。なお、図9では被覆膜62がCNT61の全面を被覆する様子を示している。
【0051】
一方、第1実施形態と同様に表示部30を製造する。スペーサを介して所定の間隙を確保した状態で電子放出素子10と表示部30とが接合され、図8にその一部が示される画像表示装置4が完成する。
【0052】
本実施形態においても上述した第1実施形態にかかる電子放出素子10及び画像表示装置1と同様の効果が得られる。すなわち、CNT61の外表面が酸化しにくい被覆膜62で覆われているため、減圧雰囲気中の残留ガス等の物質による電子放出部への影響を防ぐことが出来る。したがって、圧力条件を緩和することができるため、減圧に要するコストを押さえることが出来る。表示部30の方向から蒸着またはスパッタリングを施すことにより、表示部30側に突出した電子放出部を含む部分に容易に被覆膜62を形成することが可能となる。
【0053】
さらに、本実施形態では被覆膜62は金、白金などの導電材料で構成されているため、厚く形成しても電子放出特性を低下させることなくCNT61の酸化及び劣化を防ぐことができる。
【0054】
なお、ここでは本実施形態の特徴である被覆膜62の構成を第1実施形態の電子放出素子10の構造に適用した場合について説明したが、他の第2実施形態及び第3実施形態の構造にも適用可能である。
【0055】
[第5実施形態]
次に本発明の第5実施形態に係る電子放出素子10及び画像表示装置5について図10及び図11を参照して説明する。図10は画像表示装置5の一部を拡大示す断面図である。図11は図10の電子放出部を一部切欠して示す側面図である。また、各図において説明のため、適宜、構成を拡大、縮小または省略して示している。なお、本実施形態の画像表示装置5において、カーボン層70以外の部分の構成等については上記第1実施形態の画像表示装置1と同様であるため、同符号を付して説明を省略する。
【0056】
本実施形態のカーボン層70はCNT71と、その外表面を覆う被覆膜72と、さらに被覆膜72の外表面を覆う導電被覆材の一例としての導電膜73と、を備えている。
【0057】
CNT71は第1実施形態と同様に導電層12上にブラシ状に多数形成されている。このCNT71の外側に形成された被覆膜72は、第1実施形態と同様に酸化シリコンなどの絶縁材で構成されている。被覆膜72の外表面には、白金や金など、CNT21よりも酸化しにくい導電材料で構成された導電膜73が形成されている。被覆膜72及び導電膜73は、例えば材質等に応じて決定されるトンネル効果を生じるのに必要な所定の厚さに設定され、本実施形態ではいずれも数nm程度に構成されている。
【0058】
以降、前述した本発明の実施形態の電子放出素子10および画像表示装置5の製造方法について説明する。ここで導電膜73の形成工程以外の製造方法は上記第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0059】
まず、上記第1実施形態と同様に、カソード基板11上に、導電層12、絶縁層13、及びゲート電極14を形成する。この絶縁層13及びゲート電極14を貫通して導電層12を露出させるエミッタ孔15を形成する。このエミッタ孔15において導電層12上に多数のCNT71を形成し、その外表面にスパッタ法あるいは蒸着法により酸化シリコンを成膜することにより、被覆膜72を形成する。
【0060】
さらに、本実施形態では、スパッタ法あるいは蒸着法により被覆膜72の外表面に金あるいは白金からなる導電膜73を形成する。このとき、表示部30側から蒸着またはスパッタリングを施す。これにより、導電膜73が必ずしも全面に形成されず、部分的に形成される場合であっても、少なくとも表示部30側に突出するCNT71の先端部71aや折曲部71bなどの電子放出部が被覆膜72及び導電膜73に覆われることとなる。なお、図11ではCNT71の全面が被覆された様子を示している。
【0061】
一方、第1実施形態と同様に表示部30を製造する。また、スペーサを介して所定の間隙を確保した状態でカソード基板11の周囲とアノード基板31の周囲とを封止材で接合する。こうして電子放出素子10と表示部30とが接合され、図10にその一部が示される画像表示装置5が完成する。
【0062】
本実施形態においても上述した第1実施形態にかかる電子放出素子10及び画像表示装置1と同様の効果が得られる。すなわち、CNT71の外表面が酸化しにくい被覆膜72及び導電膜73で覆われているため、減圧雰囲気中の残留ガス等の物質による電子放出部への影響を防ぐことが出来る。したがって、圧力条件を緩和することができるため、減圧に要するコストを押さえることが出来る。
【0063】
また、被覆膜72の外表面にさらに導電材料からなる導電膜73を形成したことにより、被覆膜72に絶縁材料が含まれる場合にも、チャージアップ等を防ぎ、電子放出部の性能を維持することが出来る。
【0064】
なお、ここでは本実施形態の特徴である被覆膜72及び導電膜73の構成を第1実施形態の電子放出素子10の構造に適用した場合について説明したが、他の第2実施形態及び第3実施形態の構造にも適用可能である。
【0065】
なお、上記各実施形態においては、電子放出層としてのカーボン層20、40、50、60、70はCNT21、41、51、61、71で構成される場合について例示したが、この他に、グラファイト、グラファイトナノファイバ、ダイアモンド、ダイアモンドライクカーボン、及びシリコンナノワイヤ等も適用可能である。また、導電層12はニッケルで構成されている場合について例示したが、この他、鉄、コバルトなどの触媒金属から構成されていてもよく、さらに第3実施形態においては触媒金属以外も適用可能である。
【0066】
上記各実施形態において被覆膜22、42、53等は、酸化シリコンで構成されている場合について説明したが酸化マグネシウムMgOやダイヤモンド等も適用可能である。また、被覆膜62及び導電膜73は金、白金に限らずこの他の酸化しにくい金属等も適用可能である。
【0067】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる画像表示装置の一部を模式的に示す斜視図。
【図2】同画像表示装置の要部を拡大して模式的に示す断面図。
【図3】図2の要部を一部切欠して模式的に示す側面図。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる画像表示装置の一部を模式的に示す断面図。
【図5】同画像表示装置の要部を一部切欠して模式的に示す側面図。
【図6】本発明の第3実施形態にかかる画像表示装置の一部を模式的に示す断面図。
【図7】同画像表示装置の要部を一部切欠して模式的に示す側面図。
【図8】本発明の第4実施形態にかかる画像表示装置の一部を模式的に示す断面図。
【図9】同画像表示装置の要部を一部切欠して模式的に示す側面図。
【図10】本発明の第5実施形態にかかる画像表示装置の一部を模式的に示す断面図。
【図11】同画像表示装置の要部を一部切欠して模式的に示す側面図。
【符号の説明】
【0069】
1、2,3,4,5…画像表示装置、10…電子放出素子、11…カソード基板、12…導電層、20.40、50、60、70…カーボン層、
21、41、51、61、71…CNT、22、42、53、62、72…被覆膜、
30…表示部、41a、51a、61a、71a…先端部、51b、71b…折曲部、
73…導電膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
この基板上に在る導電層と、
この導電層上に在り、電子放出部を有する電子放出層と、
前記電子放出部の表面を覆うとともに、この電子放出部よりも酸化しにくい材料からなる被覆材とを備えたことを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記電子放出層は、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラファイトナノファイバ、からなる群より選択された少なくとも一つの物質を含むことを特徴とする請求項1記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記導電層は、鉄、ニッケル、コバルト、又はこれらのうち少なくとも一つを有する合金を含むことを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記被覆材は酸化物を含む材料からなることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項5】
前記被覆材は導電材を含む材料からなることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項6】
前記被覆材は絶縁材料を含み、
さらに、前記被覆材の表面に、前記電子放出部の表面よりも酸化しにくい導電材からなる導電被覆材が形成されていることを特徴とする請求項1記載の電子放出素子。
【請求項7】
基板上に、導電層を形成する工程と、
前記導電層上に、電子放出部を有する電子放出層を形成する工程と、
前記電子放出部の表面に、該電子放出部の表面よりも酸化しにくい被覆材を形成する工程とを備えたことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項8】
前記被覆材は絶縁材料を含み、
前記電子放出部における前記被覆材の表面に、前記電子放出部よりも酸化しにくい導電材からなる導電被覆材を形成する工程を備えたことを特徴とする請求項7に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項9】
上記請求項1乃至6のいずれかに記載の電子放出素子と、前記電子放出素子から放出される電子により発光する表示部と、を備えたことを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−53057(P2008−53057A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228144(P2006−228144)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】