説明

電子放出素子の製造方法、電子放出素子、電子放出装置、帯電装置、画像形成装置、電子線硬化装置、自発光デバイス、画像表示装置、送風装置、および冷却装置

【課題】大気中で容易に製造することが可能であり、安定かつ良好に電子放出可能な電子放出素子の製造方法を提供する。
【解決手段】電子放出素子1の電子加速層4を、電極基板2上に、導電微粒子6が分散溶媒に分散された導電微粒子分散液を塗布した後、平均粒径が導電微粒子6のそれより大きい絶縁体微粒子5が分散溶媒に分散された絶縁体微粒子分散液を塗布することで、形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することにより電子を放出する電子放出素子の製造方法および電子放出素子等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電子放出素子として、スピント(Spindt)型電極、カーボンナノチューブ(CNT)型電極などが知られている。このような電子放出素子は、例えば、FED(Field Emision Display)の分野に応用検討されている。このような電子放出素子は、尖鋭形状部に電圧を印加して約1GV/mの強電界を形成し、トンネル効果により電子放出させる。
【0003】
しかしながら、これら2つのタイプの電子放出素子は、電子放出部表面近傍が強電界であるため、放出された電子は電界により大きなエネルギーを得て気体分子を電離しやすくなる。気体分子の電離により生じた陽イオンは強電界により素子の表面方向に加速衝突し、スパッタリングによる素子破壊が生じるという問題がある。また、大気中の酸素は電離エネルギーより解離エネルギーが低いため、イオンの発生より先にオゾンを発生する。オゾンは人体に有害である上、その強い酸化力により様々なものを酸化することから、素子の周囲の部材にダメージを与えるという問題が存在し、これを避けるために周辺部材には耐オゾン性の高い材料を用いなければならないという制限が生じている。
【0004】
他方、上記とは別のタイプの電子放出素子として、MIM(Metal Insulator Metal)型やMIS(Metal Insulator Semiconductor)型の電子放出素子が知られている。これらは素子内部の量子サイズ効果及び強電界を利用して電子を加速し、平面状の素子表面から電子を放出させる面放出型の電子放出素子である。これらは素子内部の電子加速層で加速した電子を放出するため、素子外部に強電界を必要としない。従って、MIM型及びMIS型の電子放出素子においては、上記スピント型やCNT型、BN型の電子放出素子のように気体分子の電離によるスパッタリングで破壊されるという問題やオゾンが発生するという問題を克服できる。
【0005】
例えば、特許文献1には、基板上に、下部電極、導電層、絶縁層、上部電極が形成された電子放出素子であって、上記絶縁層内に絶縁層を構成する元素の一部またはすべてから成る微粒子または欠陥構造を含有する電子放出素子が開示されている。この電子放出素子では、上部電極と下部電極との間に所定電圧を印加すると、電子が下部電極から導電層を通り、絶縁層内の微粒子または欠陥構造を伝わり加速され、上部電極より真空中に電子が放出される。特許文献1の電子放出素子は、上記のような積層構造を取ることにより、電子放出軌道が基板面に対してほぼ垂直になるため、電子の直進性が良く、画像表示装置に適していると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−297190号公報(平成11年11月29日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の電子放出素子では、実施例の記載に従って製造すると、一般的に真空系で製造する必要があり、製造装置も大掛かりなものとなる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、大気中で容易に製造することが可能であり、安定かつ良好に電子放出可能な電子放出素子の製造方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電子放出素子の製造方法は、上記課題を解決するために、電極基板と、薄膜電極と、該電極基板と該薄膜電極との間の電子加速層と、を有し、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧が印加されると、上記電子加速層で電子を加速させて、上記薄膜電極から該電子を放出させる電子放出素子の製造方法であって、上記電極基板上に、導電微粒子が分散溶媒に分散された導電微粒子分散液を塗布した後、平均粒径が上記導電微粒子のそれより大きい絶縁体微粒子が分散溶媒に分散された絶縁体微粒子分散液を塗布して、上記電子加速層を形成する電子加速層形成工程を含むことを特徴としている。
【0010】
上記方法によると、電極基板と薄膜電極との間に、絶縁体微粒子と導電微粒子とが含まれる電子加速層を有する電子放出素子は、両微粒子を電極基板上に塗布するという簡易な製造プロセスにより、大気中で素子を製造することができる。しかしながら、ここで、電子加速層が微粒子から成ることから、電極基板と微粒子との接点が電極と電子加速層の導電経路となるために電流経路が制限される。そこで、電極基板上に導電微粒子分散液を塗布した後に、絶縁体微粒子分散液を塗布して電子加速層を形成することで、電極基板と電子加速層との界面に導電微粒子を多く存在させることができる。これにより、電極基板と電子加速層との導電経路を多く確保できるため、安定かつ良好な電子放出量を得ることが可能な電子放出素子を製造することができる。
【0011】
なお、導電微粒子層の上から絶縁体微粒子分散液を塗布したときに、導電微粒子の大半は電極基板上で層を形成したままであるが、一部の導電微粒子が絶縁体微粒子分散液を滴下した際の衝撃で舞い上がり、絶縁体微粒子分散液中に混ざり込み、絶縁体微粒子分散液中の分散溶媒が揮発した後も絶縁体粒子の層内に残留することで、絶縁体微粒子層に導電微粒子が少し混在した電子加速層ができると考えられる。
【0012】
よって、上記方法によると、大気中で容易に製造することが可能であり、安定かつ良好に電子放出可能な電子放出素子の大気中で容易に製造することが可能であり、安定かつ良好に電子放出可能な電子放出素子を製造することができる。
【0013】
また、本発明の電子放出素子の製造方法では、上記方法に加え、上記絶縁体微粒子分散液と上記導電微粒子分散液とは、それぞれ異なる分散溶媒を含んでもよい。
【0014】
ここで、絶縁体微粒子と導電微粒子とにおいて、それぞれ分散させやすい分散溶媒が異なる場合、次のような問題が発生する。絶縁体微粒子分散液と導電微粒子分散液とが異なる分散溶媒を含む場合には、両微粒子混合時に凝集体の発生が起こり易くなる。そこで、この両微粒子混合時の凝集体の発生を防ぐために、絶縁体微粒子と導電微粒子とでどちらか一方の分散性のよい分散溶媒に揃えると、他方の分散液では微粒子の分散性が低下し凝集体が発生する。よって、結局凝集体の発生の解決にはならない。
【0015】
しかし、本発明に係る上記方法によると、絶縁体微粒子と導電微粒子とで分散させやすい分散溶媒とが異なっても、両者を混合せずに、導電微粒子分散液を塗布した後に絶縁体微粒子分散液を塗布することにより、両微粒子の分散性を保ったまま電子加速層を形成できる。つまり、絶縁体微粒子と導電微粒子とで分散性の高い分散溶媒が異なっても、絶縁体微粒子の凝集体や導電微粒子の凝集体を含まない均一な電子加速層を形成することができる。
【0016】
また、本発明の電子放出素子の製造方法では、上記方法に加え、上記絶縁体微粒子の平均粒径は、3〜10nmであるのが好ましい。
【0017】
導電微粒子の平均粒径を3〜10nmとすることにより、電子加速層内で、導電微粒子による導電パスが形成されず、電子加速層内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、平均粒径が上記範囲内の導電微粒子を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
【0018】
また、上記絶縁体微粒子の平均粒径は、10〜500nmであるのが好ましい。この場合、粒子径の分散状態は平均粒径に対してブロードであってもよく、例えば平均粒径50nmの微粒子が、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。絶縁体微粒子の平均粒径が導電微粒子の平均粒径よりも大きいことで、絶縁体微粒子の平均粒径よりも小さい導電微粒子の内部から外部へと効率よく熱を伝導させて、素子内を電流が流れる際に発生するジュール熱を効率よく逃がすことができ、電子放出素子が熱で破壊されることを防ぐことができる。さらに、電子加速層における抵抗値の調整を行いやすくすることができる。
【0019】
ここで、絶縁体微粒子の平均粒径が10nmより小さいと、導電微粒子層と電子加速層の間において、絶縁体微粒子1個に対して接する導電微粒子の個数が少なく、電極基板から電子加速層への導電経路を多く形成するという導電微粒子層としての効果が発揮できない。他方、絶縁体微粒子の平均粒径が500nmより大きい場合には、導電微粒子層と電子加速層の間において、絶縁体微粒子1個に対して接する導電微粒子の個数は多いものの、絶縁体微粒子の隙間が大きいために素子全体として導電経路は少なく、導電微粒子層としての効果が発揮できないという不都合がある。よって、平均粒径3〜10nmの導電微粒子を用いる場合、絶縁体微粒子の平均粒径は、10〜500nmであるのが好ましい。
【0020】
また、本発明の電子放出素子の製造方法では、上記方法に加え、上記導電微粒子の分散液として、上記導電微粒子のナノコロイド液を液体の状態で用いてもよい。
【0021】
上記方法によると、絶縁体層に導電微粒子のナノコロイド液を塗布する。ここで、ナノコロイド液を液体の状態で使用すると、導電微粒子が分散されていて凝集体となりにくい。よって、粒子間凝集のない分散された導電微粒子を電極基板上に塗布できる。
【0022】
本発明に係る電子放出素子は、上記課題を解決するために、上記いずれか1つの電子放出素子の製造方法によって製造されることを特徴としている。
【0023】
本発明に係る方法で製造された電子放出素子では、電極基板と薄膜電極との間の電子加速層は、絶縁体微粒子と導電微粒子とが分散された薄膜の層であり、半導電性を有する。この半導電性の電子加速層に電圧を印加すると、電子加速層内に電流が流れ、その一部は印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって放出される。ここで、電子放出素子の電子加速層は、電極基板と電子加速層との界面に導電微粒子が多く存在している。これにより、電極基板と電子加速層との導電性が良くなるため(電極基板と電子加速層との導電経路を多く確保できるため)安定かつ良好な電子放出量を得ることが可能である。
【0024】
本発明の電子放出装置は、上記いずれか1つの電子放出素子と、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴としている。
【0025】
上記構成によると、電気的導通を確保して電子放出素子の内部に十分な電流を流し、薄膜電極から弾道電子を安定かつ良好に放出させることができる。
【0026】
また、本発明の電子放出装置を、帯電装置、及びこの帯電装置を備えた画像形成装置に用いることにより、高効率で電子放出できるので、高効率で帯電することができる。さらに、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質を発生させることなく、長期間安定して、被帯電体を帯電させることができる。
【0027】
また、本発明の電子放出装置を、電子線硬化装置に用いることにより、安定かつ良好に電子放出できるので、高安定かつ良好に電子線を照射することができる。また、面積的に電子線硬化でき、マスクレス化が図れ、低価格化・高スループット化を実現することができる。
【0028】
さらに、本発明の電子放出装置を自発光デバイス、及びこの自発光デバイスを備えた画像表示装置に用いることにより、安定かつ良好に電子放出できるので、高効率で発光させることができる。また、安定で良好な面発光を実現する自発光デバイスを提供することができる。
【0029】
また、本発明の電子放出装置を、送風装置あるいは冷却装置に用いることにより、安定かつ良好に電子放出できるので、安定かつ良好に冷却することができる。また、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質の発生がなく、被冷却体表面でのスリップ効果を利用することにより効率よく冷却することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の電子放出素子の製造方法は、上記のように、上記電極基板上に、導電微粒子が分散溶媒に分散された導電微粒子分散液を塗布した後、平均粒径が上記導電微粒子のそれより大きい絶縁体微粒子が分散溶媒に分散された絶縁体微粒子分散液を塗布して、上記電子加速層を形成する電子加速層形成工程を含む。
【0031】
上記方法によると、電極基板と薄膜電極との間に、絶縁体微粒子と導電微粒子とが含まれる電子加速層を有する電子放出素子は、両微粒子を電極基板上に塗布するという簡易な製造プロセスにより、大気中で素子を製造することができる。しかしながら、ここで、電子加速層が微粒子から成ることから、電極基板と微粒子との接点が電極と電子加速層の導電経路となるために電流経路が制限される。そこで、電極基板上に導電微粒子分散液を塗布した後に、絶縁体微粒子分散液を塗布して電子加速層を形成することで、電極基板と電子加速層との界面に導電微粒子を多く存在させることができる。これにより、電極基板と電子加速層との導電経路を多く確保できるため、安定かつ良好な電子放出量を得ることが可能な電子放出素子を製造することができる。
【0032】
なお、導電微粒子層の上から絶縁体粒子分散液を塗布したときに、導電微粒子の大半は電極基板上で層を形成したままであるが、一部の導電微粒子が絶縁体微粒子分散液を滴下した際の衝撃で舞い上がり、絶縁体微粒子分散液中に混ざり込み、絶縁体微粒子分散液中の分散溶媒が揮発した後も絶縁体粒子の層内に残留することで、絶縁体微粒子層に導電微粒子が少し混在した電子加速層ができると考えられる。
【0033】
よって、上記方法によると、大気中で容易に製造することが可能であり、安定かつ良好に電子放出可能な電子放出素子の大気中で容易に製造することが可能であり、安定かつ良好に電子放出可能な電子放出素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の電子放出素子の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の電子放出装置の構成を示す模式図である。
【図3】電子放出実験の測定系を示す図である。
【図4】本発明の電子放出装置を用いた帯電装置の一例を示す図である。
【図5】本発明の電子放出装置を用いた電子線硬化装置の一例を示す図である。
【図6】本発明の電子放出装置を用いた自発光デバイスの一例を示す図である。
【図7】本発明の電子放出装置を用いた自発光デバイスの他の一例を示す図である。
【図8】本発明の電子放出装置を用いた自発光デバイスの更に別の一例を示す図である。
【図9】本発明の電子放出装置を用いた自発光デバイスを具備する画像表示装置の他の一例を示す図である。
【図10】本発明の電子放出装置を用いた送風装置及びそれを具備した冷却装置の一例を示す図である。
【図11】本発明の電子放出装置を用いた送風装置及びそれを具備した冷却装置の別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の電子放出素子の実施形態および実施例について、図1〜11を参照しながら具体的に説明する。なお、以下に記述する実施の形態および実施例は本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらよって限定されるものではない。
【0036】
〔実施の形態1〕
(電子放出素子の構成)
図1は、本発明の一実施形態の電子放出素子の構成の一部を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態の電子放出素子1は、下部電極となる電極基板2と、上部電極となる薄膜電極3と、その間に存在する電子加速層4と、電極基板2と電子加速層4との間の導電微粒子層16からなる。また、図2は、電子放出素子1を有する本発明の一実施形態の電子放出装置を示す図である。図2に示すように、電極基板2と薄膜電極3とは電源7に繋がっており、互いに対向して配置された電極基板2と薄膜電極3との間に電圧を印加できるようになっている。電子放出素子1は、電極基板2と薄膜電極3との間に電圧を印加することで、電極基板2と薄膜電極3との間、つまり、電子加速層4に電流を流し、その一部を印加電圧の形成する強電界により弾道電子として、薄膜電極3を透過および/あるいは薄膜電極3の隙間から放出させる。なお、電子放出素子1と電源7とから電子放出装置10が成る。
【0037】
下部電極となる電極基板2は、電子放出素子の支持体の役割を担う。そのため、ある程度の強度を有し、直に接する物質との接着性が良好で、適度な導電性を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。例えばSUSやTi、Cu等の金属基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板、ガラス基板のような絶縁体基板、プラスティック基板等が挙げられる。例えばガラス基板のような絶縁体基板を用いるのであれば、その電子加速層4との界面に金属などの導電性物質を電極として付着させることによって、下部電極となる電極基板2として用いることができる。上記導電性物質としては、導電性に優れた材料を、マグネトロンスパッタ等を用いて薄膜形成できれば、その構成材料は特に問わない。ただし、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電体を用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。また、酸化物導電材料として、透明電極に広く利用されているITO薄膜も有用である。また、強靭な薄膜を形成できるという点で、例えば、ガラス基板表面にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した金属薄膜を用いてもよいが、これら材料および数値に限定されることはない。
【0038】
薄膜電極3は、電子加速層4内に電圧を印加させるものである。そのため、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子加速層4内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロス無く透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどが挙げられる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物および硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。また薄膜電極3の膜厚は、電子放出素子1から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、10〜55nmの範囲とすることが好ましい。薄膜電極3を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。一方、電子放出素子1から外部へ電子を放出させるための最大膜厚は55nmであり、これを超える膜厚では弾道電子の透過が起こらず、薄膜電極3で弾道電子の吸収あるいは反射による電子加速層4への再捕獲が生じてしまう。
【0039】
電子加速層4は、図1に示すように、絶縁体微粒子5と導電微粒子6とが分散されており、導電微粒子6は電極基板2側に偏在している。つまり、導電微粒子層16を構成する導電微粒子6の一部が電子加速層4に存在する。もしくは、電子加速層4は、導電微粒子6を含まず絶縁体微粒子5を含む微粒子層と導電微粒子層16とに分れて成る。
【0040】
絶縁体微粒子5は、その材料は絶縁性を持つものであれば特に制限なく用いることができる。絶縁体微粒子5の材料は、例えば、SiO、Al、TiOといったものが実用的となる。ただし、表面処理が施された小粒径シリカ粒子を用いると、それよりも粒子径の大きな球状シリカ粒子を用いるときと比べて、溶媒中に占めるシリカ粒子の表面積が増加し、溶液粘度が上昇するため、電子加速層4の膜厚が若干増加する傾向にある。また、絶縁体微粒子5の材料には、有機ポリマーから成る微粒子を用いてもよく、例えば、JSR株式会社の製造販売するスチレン/ジビニルベンゼンから成る高架橋微粒子(SX8743)、または日本ペイント株式会社の製造販売するスチレン・アクリル微粒子のファインスフェアシリーズが利用可能である。ここで、絶縁体微粒子5は、2種類以上の異なる粒子を用いてもよく、また、粒径のピークが異なる粒子を用いてもよく、あるいは、単一粒子で粒径がブロードな分布のものを用いてもよい。
【0041】
また絶縁体微粒子5の平均粒径は、導電微粒子6に対して優位な放熱効果を得るため、導電微粒子6の平均粒径よりも大きいことが好ましい。この場合、粒子径の分散状態は平均粒径に対してブロードであってもよく、例えば平均粒径50nmの微粒子が、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。絶縁体微粒子5が導電微粒子6の平均粒径よりも大きいと、絶縁体微粒子5の平均粒径よりも小さい導電微粒子6の内部から外部へと効率よく熱伝導させて、素子内を電流が流れる際に発生するジュール熱を効率よく逃がすことができ、電子放出素子が熱で破壊されることを防ぐことができる。さらに、電子加速層4における抵抗値の調整を行いやすくすることができる。
【0042】
さらに、電子加速層4を、後述のように絶縁体微粒子5を含む微粒子層上に導電微粒子6を塗布して作成する場合、導電微粒子6の微粒子層への浸透度合いは、絶縁体微粒子5の種類および/または平均粒径、導電微粒子6の種類および/または平均粒径、絶縁体微粒子5および導電微粒子6の組合せなどに依存する。すなわち、絶縁体微粒子5の平均粒径が小さいと、塗布した導電微粒子6の大部分が、微粒子層内部に浸透せず、上部に堆積する。他方、絶縁体微粒子5の平均粒径が大きいと、微粒子層の粒子間の隙間が大きくなりすぎ、微粒子層内に留まる導電微粒子6が少なくなる。よって、平均粒径3〜10nmの導電微粒子6を用いる場合に導電微粒子の微粒子層中への浸透度合いを制御するためには、絶縁体微粒子5の平均粒径は、10〜500nmであるのが好ましい。
【0043】
導電微粒子6は、その材料としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような導電体でも用いることができる。ただし、抗酸化力が高い導電体であると、大気圧動作させたときの酸化劣化を避けることができる。ここで言う抗酸化力が高いとは、酸化物形成反応の低いことを指す。一般的に熱力学計算より求めた、酸化物生成自由エネルギーの変化量ΔG[kJ/mol]値が負で大きい程、酸化物の生成反応が起こり易いことを表す。本発明ではΔG>−450[kJ/mol]以上に該当する金属元素が、抗酸化力の高い導電微粒子として該当する。また、該当する導電微粒子の周囲に、その導電微粒子の大きさよりも小さい絶縁体物質を付着、または被覆することで、酸化物の生成反応をより起こし難くした状態の導電微粒子も、抗酸化力が高い導電微粒子に含まれる。抗酸化力が高い導電微粒子であることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化を図ることができる。
【0044】
抗酸化力が高い導電微粒子としては、貴金属、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルといった材料が挙げられる。このような導電微粒子6は、公知の微粒子製造技術であるスパッタ法や噴霧加熱法を用いて作成可能であり、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子等の市販の金属微粒子粉体も利用可能である。弾道電子の生成の原理については後段で記載する。
【0045】
ここで、導電微粒子6の平均粒径は、3〜10nmであるのがより好ましい。このように、導電微粒子6の平均粒径を、好ましくは3〜10nmとすることにより、電子加速層4内で、導電微粒子6による導電パスが形成されず、電子加速層4内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、平均粒径が上記範囲内の導電微粒子6を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
【0046】
また、電子加速層4全体における導電微粒子6の割合は、0.5〜30重量%が好ましい。0.5重量%より少ない場合は導電微粒子として素子内電流を増加させる効果を発揮せず、30重量%より多い場合は導電微粒子の凝集が発生する。中でも、1〜10重量%であることがより好ましい。
【0047】
なお、導電微粒子6の周囲には、導電微粒子6の大きさより小さい絶縁体物質である小絶縁体物質が存在していてもよく、この小絶縁体物質は、導電微粒子6の表面に付着する付着物質であってもよく、付着物質は、導電微粒子6の平均粒径より小さい形状の集合体として、導電微粒子6の表面を被膜する絶縁被膜であってもよい。小絶縁体物質としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような絶縁体物質でも用いることができる。ただし、導電微粒子6の大きさより小さい絶縁体物質が導電微粒子6を被膜する絶縁被膜であり、絶縁被膜を導電微粒子6の酸化被膜によって賄った場合、大気中での酸化劣化により酸化皮膜の厚さが所望の膜厚以上に厚くなってしまう恐れがあるため、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、有機材料による絶縁被膜が好ましく、例えば、アルコラート、脂肪酸、アルカンチオールといった材料が挙げられる。この絶縁被膜の厚さは薄い方が有利であることが言える。
【0048】
また、導電微粒子6は、後述の製造方法において導電微粒子の分散液を作成する際の分散性の向上のために、表面処理を施されているのが好ましく、その表面処理が上記の絶縁被膜物質を被膜することであってもよい。
【0049】
また、導電微粒子6は、電子加速層4に含まれる導電微粒子6の一部あるいは全部は、導電微粒子層16になって存在している。導電微粒子層16が形成されていることにより、電極基板2から電子加速層4へ流れる電流経路を多く確保することができる。
【0050】
また、電子加速層4は薄いほど強電界がかかるため低電圧印加で電子を加速させることができるが、層厚を均一化できること、また層厚方向における電子加速層の抵抗調整が可能となることなどから、電子加速層4の層厚は、12〜6000nmが好ましく、300〜6000nmがより好ましい。
【0051】
(電子放出原理)
次に、導電微粒子6の一部が電子加速層4に存在する場合の電子放出素子1の電子放出の原理は、次のように考えられる。図1に示すように、電子加速層4は、その大部分を絶縁体微粒子5で構成され、その隙間に導電微粒子6が点在している。絶縁体微粒子5および導電微粒子6の比率は、絶縁体微粒子5および導電微粒子6の総重量に対する絶縁体微粒子5の重量比率は、例えば80%に相当する状態である。このように、電子加速層4は絶縁体微粒子5と少数の導電微粒子6とで構成されるため、半導電性を有する。よって電子加速層4へ電圧を印加すると、極弱い電流が流れる。このとき、導電微粒子6の一部が、導電微粒子層16になっていることで、電極基板2から電子加速層4へ流れる電流経路が多く確保できている。電子加速層4の電圧電流特性は所謂バリスタ特性を示し、印加電圧の上昇に伴い急激に電流値を増加させる。この電流の一部は、印加電圧が形成する電子加速層4内の強電界により弾道電子となり、薄膜電極3を透過あるいはその隙間を通過して電子放出素子1の外部へ放出される。弾道電子の形成過程は、電子が電界方向に加速されつつトンネルすることによるものと考えられるが、断定できていない。
【0052】
また、電子加速層4が、導電微粒子6を含まず絶縁体微粒子5を含む微粒子層と導電微粒子層16とに分れて成る場合の電子放出素子1の電子放出の原理は、次のように考えられる。電子放出素子1の電子放出機構は、二つの導電体膜の間に絶縁体層が挿入された、所謂MIM型の電子放出素子における動作機構と類似すると考えられる。MIM型の電子放出素子において、絶縁体層へ電界が印加された時に、電流路が形成されるメカニズムは、一般説として、a)電極材料の絶縁体層中への拡散、b)絶縁体物質の結晶化、c)フィラメントと呼ばれる導電経路の形成、d)絶縁体物質の化学量論的なズレ、e)絶縁体物質の欠陥に起因する電子のトラップと、そのトラップ電子の形成する局所的な強電界領域等、様々な説が考えられているが、明確にはなっていない。いずれの理由にせよ、本発明の電子放出素子1の構成によると、絶縁体層に相当する絶縁体微粒子5を含む微粒子層よりなる電子加速層4へ電界が印加された時にこの様な電流路の形成と、その電流の一部が電界により加速された結果、弾道電子となり、二つの導電体膜に相当する電極基板2と薄膜電極3のうちの一方である薄膜電極3を通過して、電子が素子外へ放出されると考えられる。なお、この場合も、導電微粒子層16により、電極基板2から導電微粒子6を含まない電子加速層4へ流れる電流経路が多く確保できる。
【0053】
ここで、例えば上記e)の解釈を用いると、次のように説明できる。電極基板2と薄膜電極3との間に電圧が印加されると、電極基板2から絶縁体微粒子5の表面に電子が移る。絶縁体微粒子5の内部は高抵抗であることから電子は絶縁体微粒子5の表面を伝導していく。このとき、絶縁体微粒子5の表面の不純物や絶縁体微粒子5が酸化物の場合に発生することのある酸素欠陥、あるいは絶縁体微粒子5間の接点において、電子がトラップされる。このトラップされた電子は固定化された電荷として働く。その結果、電子加速層4の薄膜電極3近傍では印加電圧とトラップされた電子の作る電界が合わさって局所的に高電界領域が形成され、その高電界によって電子が加速され、薄膜電極3から該電子が放出される。
【0054】
(製造方法)
次に、本発明の電子放出素子1の製造方法の一実施形態について説明する。
【0055】
まず、絶縁体微粒子5を分散溶媒に分散させた絶縁体微粒子分散液を得る。例えば、絶縁体微粒子5を分散溶媒に分散させることで得ることができる。分散方法は特に限定されるものではなく、例えば、常温で超音波分散器にかけて分散すればよい。ここで用いられる分散溶媒としては、絶縁体微粒子5を分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができる。例えば、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、メタノール、エタノール等が挙げられる。ここで、絶縁体微粒子5の種類によっても分散に適している分散溶媒が異なり、例えば、絶縁体微粒子5がSiOである場合、メタノールやエタノールが好ましい。また、分散溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0056】
他方、導電微粒子6を分散溶媒に分散させた導電微粒子分散液を得る。例えば、導電微粒子6を分散溶媒に分散させてもよいし、市販品を使用してもよい。分散方法は特に限定されるものではなく、例えば、常温で超音波分散器を用いて分散すればよい。この分散溶媒としては、導電微粒子6を分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができる。ここで、分散性の向上のために、導電微粒子6が表面処理を施されている場合、その表面処理方法によって、分散に適した分散溶媒を用いるのがよい。例えば、表面をアルコラート処理された導電微粒子6には、トルエンもしくヘキサンが好ましい。
【0057】
また、導電微粒子分散液は、導電微粒子6のナノコロイド液を液体の状態で用いてもよい。導電微粒子6のナノコロイド液を液体の状態で使用すると、導電微粒子6が均一分散した電子加速層4を形成することができる。なお、導電微粒子6はコロイド状態での平均粒径が0.35μm以下となっているのが好ましい。コロイド状態での平均粒径が0.35μm以下の導電微粒子を用いることで、後述の実施例に記載のように電子加速層4での分散性を高めることができる。導電微粒子6のナノコロイド液の例としては、ハリマ化成株式会社が製造販売する金ナノ粒子コロイド液、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子、株式会社徳力化学研究所が製造販売する白金ナノ粒子コロイド液及びパラジウムナノ粒子コロイド液、株式会社イオックスの製造販売するニッケルナノ粒子ペーストなどが挙げられる。また、導電微粒子6のナノコロイド液の溶媒には、絶縁体微粒子5をコロイド分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができ、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラデカン等を用いることができる。
【0058】
そして、電極基板2上に、上記導電微粒子分散液を、スピンコート法を用いて塗布することで導電微粒子層を形成する。塗布方法としては、スピンコート法以外に、例えば滴下法を用いてもよい。分散溶媒が揮発・乾燥した後に、導電微粒子層上に、上記絶縁体微粒子分散液または上記絶縁体微粒子含有バインダー成分分散液を塗布し、絶縁体微粒子5を含む微粒子層を得る。塗布方法としては、スピンコート法以外に、例えば滴下法を用いてもよい。上記方法により形成される電子加速層4は、導電微粒子6の一部あるいは全部が電極基板側に存在していることから、電子加速層4に導電性が得られないことが想定される。しかしながら、導電微粒子層の上から絶縁体微粒子分散液を塗布したときに、導電微粒子の大半は基板上で層16を形成したままである。しかし、一部の導電微粒子6が絶縁体微粒子分散液を滴下した際の衝撃で舞い上がり、絶縁体微粒子分散液中に混ざり込み、絶縁体微粒子分散液中の分散溶媒が揮発した後も絶縁体微粒子層内に残留することで、絶縁体微粒子層に導電微粒子が少し混在した電子加速層4ができる。そのため、電子加速層に導電性が付与されるのではないかと考えられる。
【0059】
以上により、電子加速層4が形成される。電子加速層4の形成後、電子加速層4上に薄膜電極3を成膜する。薄膜電極3の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いればよい。また、薄膜電極3は、例えば、インクジェット法、スピンコート法、蒸着法等を用いて成膜してもよい。
【0060】
上記製造方法によると、簡易な製造プロセスにより、大気中で素子を製造することができる。さらに、電極基板2上に導電微粒子分散液を塗布した後に、絶縁体微粒子分散液を塗布して電子加速層4を形成することで、電極基板2と電子加速層4との界面に導電微粒子6を多く存在させることができる。これにより、電極基板2と電子加速層4との導電経路を多く確保できるため、安定かつ良好な電子放出量を得ることが可能な電子放出素子を製造することができる。
【0061】
よって、上記方法によると、大気中で容易に製造することが可能であり、安定かつ良好に電子放出可能な電子放出素子の大気中で容易に製造することが可能であり、安定かつ良好に電子放出可能な電子放出素子を製造することができる。
【0062】
さらに、上記方法では、導電微粒子分散溶液と絶縁体微粒子分散溶液とをそれぞれ用意し、別々に電極基板2上に塗布するため、絶縁体微粒子分散溶液と導電微粒子分散溶液の混合時の凝集体の発生や、絶縁体微粒子分散液に導電微粒子を加えた際に凝集体が発生するといった不具合を防ぐことができる。よって、電極基板2上に導電微粒子分散液を塗布した後に、絶縁体微粒子分散液を塗布することで、微粒子の凝集体が少なく、微粒子が均一に分散された電子加速層4を形成できる。
【0063】
(実施例)
以下の実施例では、本発明に係る製造方法を用いて作製した電子放出素子を用いて電流測定した実験について説明する。なお、この実験は実施の一例であって、本発明の内容を制限するものではない。
【0064】
まず実施例1の電子放出素子と比較例1の電子放出素子とを以下のように作製した。そして、作製した電子放出素子について、図3に示す実験系を用いて単位面積あたりの電子放出電流の測定実験を行った。図3の実験系では、電子放出素子1の薄膜電極3側に、絶縁体スペーサ9を挟んで対向電極8を配置させる。そして、電子放出素子1および対向電極8は、それぞれ、電源7に接続されており、電子放出素子1にはV1の電圧、対向電極8にはV2の電圧が印加されるようになっている。このような実験系を真空中に配置して、V1を段階的に上げていき、電子放出実験を行った。また、各実験では、絶縁体スペーサ9を挟んで、電子放出素子と対向電極との距離は5mmとした。また、対抗電極への印加電圧V2=50Vにて測定した。
【0065】
(実施例1)
試薬瓶に分散溶媒としてエタノール溶媒を3mL入れ、その中に絶縁体微粒子5として球状シリカ粒子(平均粒径110nm)を0.5g投入し、この試薬瓶を超音波分散器にかけ、シリカ粒子分散液を作製した。
【0066】
また、分散溶媒に導電微粒子6を分散させた導電微粒子分散液として、応用ナノ粒子研究所製の銀ナノ粒子コロイド液(銀微粒子の平均粒径4.5nm、微粒子固形分濃度10%のヘキサン分散溶液)を用意した。
【0067】
次に、電極基板2となる30mm角のSUS基板上に、スピンコート法を用いて、上記導電微粒子分散液を、500rpm、10secで回転させて塗布することを1回繰り返すことで導電微粒子層を堆積させた。これを、自然乾燥させた。
【0068】
次いで導電微粒子層の上に上記シリカ粒子分散液を、3000rpm、10secで回転させて塗布することを2回繰り返すことで電子加速層4を形成した。その後、常温で溶媒が完全に揮発するまで乾燥させた。
【0069】
このように形成した電子加速層4の表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極3を成膜することにより、実施例1の電子放出素子を得た。薄膜電極3の成膜材料として金を使用し、薄膜電極3の層厚は40nm、同面積は0.014cmとした。
【0070】
本実施例の電子放出素子について電子放出電流を測定したところ、1×10−8ATMの真空中において、薄膜電極3への印加電圧V1=15Vにて、電子放出電流は0.2mA/cmであった。
【0071】
また、本実施例の電子放出素子の電子加速層を、エポキシ樹脂中に包埋処理し、薄膜電極および電子加速層を電極基板であるSUS基板より剥がした。そして、薄膜電極および電子加速層が包埋された樹脂を、ミクロトームにより薄切片にし、TEMにより電子加速層の断面を観察したところ、導電微粒子が電極基板側に偏在していることが確認された。
【0072】
(比較例1)
試薬瓶に分散溶媒としてヘキサンを3mL入れ、その中に絶縁体微粒子として球状シリカ粒子(平均粒径110nm)を0.5g投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、シリカ粒子分散液を作製した。次に、この試薬瓶に、応用ナノ粒子研究所製の銀ナノ粒子コロイド液(銀微粒子の平均粒径4.5nm、微粒子固形分濃度7%のヘキサン分散溶液)を0.125g(固形分重量)追加投入し、同様に超音波分散処理を行って、微粒子混合分散液を得た。
【0073】
電極基板となる30mm角のSUSの基板上に、スピンコート法を用いて、500rpmで5secの後、3000rpmで10secの条件で2回塗布し、上記微粒子混合分散液を塗布することにより比較例の電子加速層を形成した。
【0074】
この比較例の電子加速層の表面には、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極を成膜することにより、比較例1の電子放出素子を得た。薄膜電極の成膜材料として金を使用し、上部電極の層厚は40nm、同面積は0.014cmとした。
【0075】
この比較例の電子放出素子について電子放出電流を測定したところ、1×10−8ATMの真空中において、薄膜電極への印加電圧15Vにて、電子放出電流が0.02mA/cmであった。
【0076】
また、本比較例の電子放出素子の電子加速層を、エポキシ樹脂中に包埋処理し、薄膜電極および電子加速層を基板より剥がした。そして、薄膜電極および電子加速層が包埋された樹脂を、ミクロトームにより薄切片にし、TEMにより電子加速層の断面を観察したところ、導電微粒子が電子加速層中に分散していることが確認された。
【0077】
以上から、導電微粒子分散液を塗布した後、絶縁体微粒子分散液を塗布して、電子加速層を形成することで、導電微粒子を電極基板側に偏在させ、より多くの電子放出量を得ることができることがわかる。
【0078】
〔実施の形態2〕
図4に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を利用した本発明に係る帯電装置90の一例を示す。帯電装置90は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置10から成り、感光体11を帯電させるものである。本発明に係る画像形成装置は、この帯電装置90を具備している。本発明に係る画像形成装置において、帯電装置90を成す電子放出素子1は、被帯電体である感光体11に対向して設置され、電圧を印加することにより、電子を放出させ、感光体11を帯電させる。なお、本発明に係る画像形成装置では、帯電装置90以外の構成部材は、従来公知のものを用いればよい。ここで、帯電装置90として用いる電子放出素子1は、感光体11から、例えば3〜5mm隔てて配置するのが好ましい。また、電子放出素子1への印加電圧は25V程度が好ましく、電子放出素子1の電子加速層の構成は、例えば、25Vの電圧印加で、単位時間当たり1μA/cmの電子が放出されるようになっていればよい。
【0079】
帯電装置90として用いられる電子放出装置10は、放電を伴わず、従って帯電装置90からのオゾンの発生は無い。オゾンは人体に有害であり環境に対する各種規格で規制されているほか、機外に放出されなくとも機内の有機材料、例えば感光体11やベルトなどを酸化し劣化させてしまう。このような問題を、本発明に係る電子放出装置10を帯電装置90に用い、また、このような帯電装置90を画像形成装置が有することで、解決することができる。また、電子放出素子1は安定かつ良好に電子放出できるため、帯電装置90は、効率よく帯電できる。
【0080】
さらに帯電装置90として用いられる電子放出装置10は、面電子源として構成されるので、感光体11の回転方向へも幅を持って帯電を行え、感光体11のある箇所への帯電機会を多く稼ぐことができる。よって、帯電装置90は、線状で帯電するワイヤ帯電器などと比べ、均一な帯電が可能である。また、帯電装置90は、数kVの電圧印加が必要なコロナ放電器と比べて、10V程度と印加電圧が格段に低くてすむというメリットもある。
【0081】
〔実施の形態3〕
図5に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を用いた本発明に係る電子線硬化装置100の一例を示す。電子線硬化装置100は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置10と、電子を加速させる加速電極21とを備えている。電子線硬化装置100では、電子放出素子1を電子源とし、放出された電子を加速電極21で加速してレジスト(被硬化物)22へと衝突させる。一般的なレジスト22を硬化させるために必要なエネルギーは10eV以下であるため、エネルギーだけに注目すれば加速電極は必要ない。しかし、電子線の浸透深さは電子のエネルギーの関数となるため、例えば厚さ1μmのレジスト22を全て硬化させるには約5kVの加速電圧が必要となる。
【0082】
従来からある一般的な電子線硬化装置は、電子源を真空封止し、高電圧印加(50〜100kV)により電子を放出させ、電子窓を通して電子を取り出し、照射する。この電子放出の方法であれば、電子窓を透過させる際に大きなエネルギーロスが生じる。また、レジストに到達した電子も高エネルギーであるため、レジストの厚さを透過してしまい、エネルギー利用効率が低くなる。さらに、一度に照射できる範囲が狭く、点状で描画することになるため、スループットも低い。
【0083】
これに対し、電子放出素子1は安定かつ良好に電子放出できるため、本発明に係る電子線硬化装置は、効率よく電子線を照射できる。また、電子透過窓を通さないのでエネルギーのロスも無く、印加電圧を下げることができる。さらに面電子源であるためスループットが格段に高くなる。また、パターンに従って電子を放出させれば、マスクレス露光も可能となる。
【0084】
〔実施の形態4〕
図6〜8に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を用いた本発明に係る自発光デバイスの例をそれぞれ示す。
【0085】
図6に示す自発光デバイス31は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置と、さらに、電子放出素子1と離れ、対向した位置に、基材となるガラス基板34、ITO膜33、および蛍光体32が積層構造を有する発光部36と、から成る。
【0086】
蛍光体32としては赤、緑、青色発光に対応した電子励起タイプの材料が適しており、例えば、赤色ではY:Eu、(Y,Gd)BO:Eu、緑色ではZnSiO:Mn、BaAl1219:Mn、青色ではBaMgAl1017:Eu2+等が使用可能である。ITO膜33が成膜されたガラス基板34表面に、蛍光体32を成膜する。蛍光体32の厚さ1μm程度が好ましい。また、ITO膜33の膜厚は、導電性を確保できる膜厚であれば問題なく、本実施形態では150nmとした。
【0087】
蛍光体32を成膜するに当たっては、バインダーとなるエポキシ系樹脂と微粒子化した蛍光体粒子との混練物として準備し、バーコーター法或いは滴下法等の公知な方法で成膜するとよい。
【0088】
ここで、蛍光体32の発光輝度を上げるには、電子放出素子1から放出された電子を蛍光体へ向けて加速する必要があり、その場合は電子放出素子1の電極基板2と発光部36のITO膜33の間に、電子を加速する電界を形成するための電圧印加するために、電源35を設けるとよい。このとき、蛍光体32と電子放出素子1との距離は、0.3〜1mmで、電源7からの印加電圧は18V、電源35からの印加電圧は500〜2000Vにするのが好ましい。
【0089】
図7に示す自発光デバイス31’は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7、さらに、蛍光体32を備えている。自発光デバイス31’では、蛍光体32は平面状であり、電子放出素子1の表面に蛍光体32が配置されている。ここで、電子放出素子1表面に成膜された蛍光体32の層は、前述のように微粒子化した蛍光体粒子との混練物から成る塗布液として準備し、電子放出素子1表面に成膜する。但し、電子放出素子1そのものは外力に対して弱い構造であるため、バーコーター法による成膜手段は利用すると素子が壊れる恐れがある。このため滴下法或いはスピンコート法等の方法を用いるとよい。
【0090】
図8に示す自発光デバイス31”は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7を有する電子放出装置10を備え、さらに、電子放出素子1の電子加速層4に蛍光体32’として蛍光の微粒子が混入されている。この場合、蛍光体32’の微粒子を絶縁体微粒子5と兼用させてもよい。但し前述した蛍光体の微粒子は一般的に電気抵抗が低く、絶縁体微粒子5に比べると明らかに電気抵抗は低い。よって蛍光体の微粒子を絶縁体微粒子5に変えて混合する場合、その蛍光体の微粒子の混合量は少量に抑えなければ成らない。例えば、絶縁体微粒子5として球状シリカ粒子(平均粒径110nm)、蛍光体微粒子としてZnS:Mg(平均粒径500nm)を用いた場合、その重量混合比は3:1程度が適切となる。
【0091】
上記自発光デバイス31,31’,31”では、電子放出素子1より放出させた電子を蛍光体32,32に衝突させて発光させる。電子放出素子1は安定かつ良好に電子放出できるため、自発光デバイス31,31’,31”は、効率よく発光を行える。なお、自発光デバイス31,31’,31”は、真空封止すれば電子放出電流が上がり、より効率よく発光することができる。
【0092】
さらに、図9に、本発明に係る自発光デバイスを備えた本発明に係る画像表示装置の一例を示す。図9に示す画像表示装置140は、図8で示した自発光デバイス31”と、液晶パネル330とを供えている。画像表示装置140では、自発光デバイス31”を液晶パネル330の後方に設置し、バックライトとして用いている。画像表示装置140に用いる場合、自発光デバイス31”への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cmの電子が放出されるようになっていればよい。また、自発光デバイス31”と液晶パネル330との距離は、0.1mm程度が好ましい。
【0093】
また、本発明に係る画像表示装置として、図6に示す自発光デバイス31を用いる場合、自発光デバイス31をマトリックス状に配置して、自発光デバイス31そのものによるFEDとして画像を形成させて表示する形状とすることもできる。この場合、自発光デバイス31への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cmの電子が放出されるようになっていればよい。
【0094】
〔実施の形態5〕
図10及び図11に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を用いた本発明に係る送風装置の例をそれぞれ示す。以下では、本願発明に係る送風装置を、冷却装置として用いた場合について説明する。しかし、送風装置の利用は冷却装置に限定されることはない。
【0095】
図10に示す送風装置150は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置10からなる。送風装置150において、電子放出素子1は、電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出することにより、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。冷却させる場合、電子放出素子1に印加する電圧は、18V程度が好ましく、この電圧で、雰囲気下に、例えば、単位時間当たり1μA/cmの電子を放出することが好ましい。
【0096】
図11に示す送風装置160は、図10に示す送風装置150に、さらに、送風ファン42が組み合わされている。図11に示す送風装置160は、電子放出素子1が電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出し、さらに、送風ファン42が被冷却体41に向かって送風することで電子放出素子から放出された電子を被冷却体41に向かって送り、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。この場合、送風ファン42による風量は、0.9〜2L/分/cmとするのが好ましい。
【0097】
ここで、送風によって被冷却体41を冷却させようとするとき、従来の送風装置あるいは冷却装置のようにファン等による送風だけでは、被冷却体41の表面の流速が0となり、最も熱を逃がしたい部分の空気は置換されず、冷却効率が悪い。しかし、送風される空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含まれていると、被冷却体41近傍に近づいたときに電気的な力によって被冷却体41表面に引き寄せられるため、表面近傍の雰囲気を入れ替えることができる。ここで、本発明に係る送風装置150,160では、送風する空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含んでいるので、冷却効率が格段に上がる。さらに、電子放出素子1は安定かつ良好に電子放出できるため、送風装置150,160は、より効率よく冷却することができる。
【0098】
本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係る電子放出素子の製造方法では、大気中で容易に製造することが可能であり、安定かつ良好に電子放出可能な電子放出素子を製造できる。よって、例えば、電子写真方式の複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置の帯電装置、電子線硬化装置、或いは発光体と組み合わせることにより自発光デバイスや画像表示装置、または放出された電子が発生させるイオン風を利用することにより冷却装置等に、好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 電子放出素子
2 電極基板
3 薄膜電極
4 電子加速層
5 絶縁体微粒子
6 導電微粒子
7 電源(電源部)
8 対向電極
9 絶縁体スペーサ
10 電子放出装置
11 感光体
21 加速電極
22 レジスト(被硬化物)
31,31’,31” 自発光デバイス
32,32’ 蛍光体(発光体)
33 ITO膜
34 ガラス基板
35 電源
36 発光部
41 被冷却体
42 送風ファン
90 帯電装置
100 電子線硬化装置
140 画像表示装置
150 送風装置
160 送風装置
330 液晶パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基板と、薄膜電極と、該電極基板と該薄膜電極との間の電子加速層と、を有し、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧が印加されると、上記電子加速層で電子を加速させて、上記薄膜電極から該電子を放出させる電子放出素子の製造方法であって、
上記電極基板上に、導電微粒子が分散溶媒に分散された導電微粒子分散液を塗布した後、平均粒径が上記導電微粒子のそれより大きい絶縁体微粒子が分散溶媒に分散された絶縁体微粒子分散液を塗布して、上記電子加速層を形成する電子加速層形成工程を含むことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項2】
上記絶縁体微粒子分散液と上記導電微粒子分散液とは、それぞれ異なる分散溶媒を含むことを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項3】
上記導電微粒子の平均粒径は、3〜10nmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項4】
上記絶縁体微粒子の平均粒径は、10〜500nmであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
上記導電微粒子分散液は、上記導電微粒子のナノコロイド液であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法によって製造されることを特徴とする電子放出素子。
【請求項7】
請求項6に記載の電子放出素子と、該電子放出素子が有する上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴とする電子放出装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電子放出装置を備え、該電子放出装置から電子を放出して感光体を帯電することを特徴とする帯電装置。
【請求項9】
請求項8に記載の帯電装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
請求項7に記載の電子放出装置を備え、該電子放出装置から電子を放出して被硬化物を硬化させることを特徴とする電子線硬化装置。
【請求項11】
請求項7に記載の電子放出装置と発光体とを備え、該電子放出装置から電子を放出して該発光体を発光させることを特徴とする自発光デバイス。
【請求項12】
請求項11に記載の自発光デバイスを備えたことを特徴とする画像表示装置。
【請求項13】
請求項7に記載の電子放出装置を備え、該電子放出装置から電子を放出して送風する
ことを特徴とする送風装置。
【請求項14】
請求項7に記載の電子放出装置を備え、該電子放出装置から電子を放出して被冷却体を冷却することを特徴とする冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−272259(P2010−272259A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121461(P2009−121461)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】