説明

電子放出素子及び電子放出素子を有する画像表示装置

【課題】 カソードからゲートに対して電子が放出される電子放出素子において、ゲートが熱膨張した場合、カソードとの距離が縮まるため更にカソードからの電子放出量や電子それぞれの運動エネルギーが増加する。増加した電子放出量や電子の運動エネルギーによって、ゲートがさらに熱膨張するという正帰還が発生する場合があった。
【解決手段】 カソードからゲートに対して電子が放出される電子放出素子において、ゲートが熱膨張した際に、ゲートとカソードとの距離が離れる構造を備える電子放出素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出素子及び電子放出素子を用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電界放出型電子放出素子とは、カソードとゲートとの間に電圧を印加することで、カソード側から電子を電界放出する素子である。
【0003】
特許文献1に記載の電界放出型電子放出素子では、熱膨張率の異なる導電層を積層したゲートを設けた構成が開示されている。特許文献1に記載のゲートは、積層された導電層のうち、カソード側の熱膨張率が、アノード側の熱膨張率よりも高いことを特徴としている。電子放出素子を駆動させた時、カソードから放出された電子がゲートに衝突することにより、ゲートの温度が上昇する。ゲートは、カソード側の導電層の熱膨張率がアノード側の導電層に比べて高くなっているため、ゲートの温度が上昇するとカソードから離れる方向に反る。従って、カソードとゲート間の距離が拡大することにより、カソードとゲート間の電界強度が弱まり、その結果、ゲートは次第に温度が低下し、ゲートの反りもゲートの温度低下に伴って減少する。
【0004】
この構成により、電子放出特性が安定な電子放出素子を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−092843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明では、ゲートの温度が上昇した際に、ゲートがカソードから充分に離れない場合があり、ゲートの温度が低下しないことによって、ゲートの熱変形による電子放出特性の低下や、電子放出素子の破損が生じることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために為されたものであって、絶縁部材と、突起部を有するカソードと、前記カソードと離間して設けられたゲートと、を有する電子放出素子であって、前記ゲートは、下面を有する基部と、下面を有すると共に前記カソードの突起部に向かって前記基部から突出する突出部と、を有し、前記ゲートは、前記カソードの前記突起部と最近接する最近接部を前記突出部の前記下面に備え、前記絶縁部材は、前記基部の前記下面と接続する接続面と、前記突出部の前記下面と空隙を挟んで対向する対向面と、を少なくとも有し、前記絶縁部材の前記対向面からの前記最近接部の高さが、前記対向面からの前記カソードの前記突起部の高さよりも高く、前記接続面からの前記最近接部の高さhと、前記最近接部での前記ゲートの厚みt1とが、h/t1>0.3の関係式を満たすことを特徴とする電子放出素子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、駆動時において電子放出特性の劣化や、破損しにくい電子放出素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係る電子放出素子の一部を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電子放出素子の駆動方法の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る電子放出素子の製造工程を順に示す模式図である。
【図4】図1に示す本発明の実施の形態に係る電子放出素子の一部の模式図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る画像表示装置の構成を示す模式図である。
【図6】本発明の実施例2に係る電子放出素子の一部の模式図である。
【図7】本発明の比較例に係る電子放出素子の一部を示す模式図である。
【図8】h/t1とゲートの突出部の反り量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施形態の一例の簡単な説明、他の実施形態、実施形態の詳細を順に説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0011】
まず、図1(a)、図1(b)を参照しながら、本発明の電子放出素子の好ましい実施形態の一例を述べる。図1(a)は平面模式図であり、図1(b)は図1(a)のA−A’断面模式図である。以下、図1(b)を参照しながら実施形態を説明する。
【0012】
図1(b)に示した支持体2は絶縁部材であり、基体1の上面10の上に設けられている。支持体2は、第1の絶縁層2aと第2の絶縁層2bからなる。カソード4は、第1の絶縁層2aの上面から側面にかけて延在して設けられており、カソード4は突起部9(電子放出部)を有している。また、ゲート3は、基部31と突出部32から構成されている。突出部32は基部31からカソード4の突起部9に向かって突出している。第2の絶縁層2bの上面は、ゲート3の基部31の下面と接続する接続面310を有している。
【0013】
ゲート3と第1の絶縁層2aの間には、基部31の側面311、第2の絶縁層2bの側面23、突出部32の下面321、第1の絶縁層2aの上面21とで囲まれた凹部6が形成されている。
【0014】
突出部32の下面321は、第1の絶縁層2aの上面21(対向面)と空隙を挟んで対向している。なお、第1の絶縁層2aの上面21が突出部32の下面321に対して傾斜している場合も「対向」の範疇である。また、突出部32の下面321に対向する面とは、突出部32の上方から基体1の上面10に対して垂直の方向に光を投影した際に第1の絶縁層2aの上面21に形成される影の部分のみに限定されるものではなく、前述した影の部分を含んだ平面(または実質的な平面)全体を指す。なお、平面とは完全に平らな面である場合もあるが、成膜環境や条件などにより、通常、僅かな凹凸を有することが考えられる。このような場合も、平面または実質的な平面の範疇に含まれる。
【0015】
また、図1(b)に示す形態では、突出部32の下面321が第1の絶縁層2aの上面21(対向面)に対し平行(または実質的に平行)に設けられている。突出部32の下面321は第1の絶縁層2aの上面21は基体1の表面と完全に平行である場合もあるが、成膜環境や条件などにより、通常、僅かに傾きを有することが考えられる。このような場合も、平行または実質的に平行の範疇に含まれる。
【0016】
ゲート3とカソード4は、突出部32とカソード4とが最短距離dとなる狭部5を挟み、離間して設けられている。Wはゲート3とカソード4の突起部9が最近接する最近接部であり、ゲート3の突出部32の下面321に備えられている。dはゲート3とカソード4の最短距離、t1は最近接部Wにおける突出部32の厚み(最近接部Wから突出部32の上面323まで、第1の絶縁層2aの上面21に対して垂直の方向に引いた線の長さ)、t2は基部31の厚み(第2絶縁層2bの上面(接続面310)からの基部31の上面312の高さ)、hは接続面310からの最近接部Wの高さである。つまり図1(b)に模式的に示したゲート3の形態では、hはt2−t1に相当する。
【0017】
尚、本明細書中で述べる「高さ」とは、ある基準面(例えば、第2の絶縁層2bの上面(接続面310)や、第1の絶縁層2aの上面21を含む平面211)からの、基体1の上面10に対して垂直な方向の長さを指している。
【0018】
最近接部Wとカソード4の突起部9の位置関係は、図1(b)に例示したように、支持体2の上面21(対向面)からの最近接部Wの高さt3が、支持体2の上面21(対向面)からのカソード4の突起部9の高さt4よりも大きい関係であれば良い。即ち、カソード4の突起部9は、ゲート3の突出部32の下面321より基体1側に設けられていれば良い。この理由について詳細は後述するが、電子放出素子を駆動させてゲート3が熱膨張した場合に、カソード4の突起部9とゲート3との距離が離れる効果が得にくいことによるものである。
【0019】
また、第1の絶縁層2aの側面22と、第1の絶縁層2aの上面21とが為す角度θが90°以上になるように第1の絶縁層2aの側面22が傾斜している形態であっても良い。
【0020】
以下、図1(c)、図1(d)を参照しながら、図1(b)とは別の実施形態を説明する。図1(c)は図1(a)のA−A’断面模式図であり、図1(d)は図1(e)のA−A’断面模式図である。
【0021】
支持体2は、先に述べた図1(b)に模式的に示した実施形態では第1の絶縁層2aと第2の絶縁層2bとに分かれた構成を有していたが、図1(c)のように、絶縁性の段差形成部材2cが支持体2である構成であっても良い。段差形成部材2cは図1(c)に例示したように、段差部2c1を形成する面23と面21を有する。以後、面23を段差部2c1における側面23、面21を段差部2c1における上面21と表記する。尚、段差形成部材2cの上面とは、ゲート3の基部31との接続面310、段差部2c1の側面23、段差部2c1の上面21を指す。段差部2c1における上面21がゲート3の突起部32の下面321に、空隙を挟んで対向する対向面である。
【0022】
また、図1(d)のように、支持体2を設けず、絶縁性の基体1の上面10の上にゲート3を設ける構成とすることもできる。基体1の上面10においてゲート3の基部31と接続する部位が接続面310である。基体1の上面10において、突出部32の下面321と空隙を挟んで対向する部位が対向面123である。対向面123とは、基体1の上面10において、突出部32の上方から基体1の上面10に対して垂直な方向に光を投影した際に基体1の上面10に形成される影の部分から、基部31から突出部32が突出する方向に延在している部位を指す。図1(d)に模式的に示した構成では、カソード4は対向面123の上に設けられている。
【0023】
つまりゲート3の基部31と接続される絶縁部材は、図1(a)〜(e)に模式的に示したように、絶縁性の基体1、支持体2の少なくとも一方を有する構成であれば良い。
【0024】
凹部6は、図1(c)のように、絶縁性の段差形成部材2cによって支持体2が構成される場合には、凹部6は基部31の側面311、突出部32の下面321、段差形成部材2cの段差部2c1における上面21、段差部2c1における側面23によって形成される。
【0025】
また、図1(d)は基体1の上面10の一部にゲート3が設けられている場合を模式的に示したものである。ゲート3の下面321に空隙を挟んで対向する、基体1の上面10の一部に、突起部9を有するカソード4が設けられている。この形態においては、凹部6は基部31の側面311、突出部32の下面321、基体1の上面10によって形成される。
【0026】
突出部32は、図6(d)のようにカソード4の突起部9の直上を越えて突出している形態や、図1(d)のようにカソード4の突起部9の直上まで達しない範囲で突出した形態を取ることができる。
【0027】
突出部32の側面322から、基部31の側面311を延在させた面に対して引いた垂線の長さを、以下側面311からの突出部32の突出長さL1と表記する。突出部32の突出長さL1は、ゲート3の基部31と突出部32を合わせたX方向の長さL2(即ち、突出部32が基部31から突出する方向に対して平行な、ゲート3の長さ)に対して典型的には90%を越えると、基部31が突出部32を支えられなくなることがある。従って、突出長さL1はゲート3のX方向の長さL2に対して10%以上90%以下であれば良く、好ましくは10%以上50%以下である。
【0028】
図6(c)、図6(d)に示すように、突出部32の下面321が、カソード4の突起部9に近づき、かつ第1の絶縁層2aの上面21から離れる方向に傾斜した傾斜面8である形態であっても良い。つまり、ゲート3の突出部32の厚みがカソード4の突起部9に近づくに従って、漸次減少している形態である。以後、このようなゲートを、「楔形のゲート」と表記する。楔形のゲート3においても、図1(b)に模式的に示したゲート3の形態において定義した、d、t1、t2、t3、t4、h、L1、L2のそれぞれの定義を適用できる。ただし、t1の値については以下の点で図1(b)に模式的に示したゲート3と相違する。つまり、図1(b)に模式的に示したゲート3の形態においては、突出部32におけるカソード4の突起部9に対して最近接する最近接部Wの位置に関わらずt1の値は一定であった。しかし、楔形のゲート3においては突出部の下面が傾斜面8であるため、図6(c)、図6(d)のようにt1の値は突出部32における、カソード4の突起部9に対して最近接する部位である最近接部Wの位置によって変化する点で図1(b)に模式的に示したゲート3と異なる。
【0029】
本発明は図1(b)および図6(c)などに模式的に示したような、基部31の上面312と突出部32の上面323とが平面を為す形態に限定されない。つまり、図6(e)に模式的に示したように、楔形のゲート3および図1(b)に模式的に示したゲート3において、ゲート3の突出部32の上面323が基体1に近づく方向に傾斜した形態であっても良い。また逆に、突出部32の上面323が基体1から離れる方向に傾斜した形態であっても良い。さらに、図6(f)に模式的に示したように、基部31の上面312と突出部32の上面323の少なくとも一方が段差を有している形態であっても良い。
【0030】
以下、図2を参照しながら実施形態の詳細として、まず本発明に係る電子放出素子の動作について概要を説明する。ゲート3とカソード4との間に電圧を印加するための電源71により駆動電圧Vfが与えられる。通常、ゲート3には高電位が、カソード4には低電位が与えられる。ゲート3とカソード4の最短距離dは実用的には1nm以上数10nm以下であり、狭部5における電界強度は典型的には1×10[V/m]以上1×1010[V/m]以下である。駆動電圧Vfがゲート3、カソード4間に印加されると、ゲート3とカソード4の間にはFowler−Nordheim型(FN型)と呼ばれる電界放出電流を主とする素子電流Ifが流れる。また、素子電流Ifや放出電流Ieの大きさは狭部5の電界強度に応じて変化する。カソード4からゲート3の突出部32に向かって狭部5に電子が放出される。この放出された電子の一部は突出部32に衝突して散乱され、高圧電源70によってアノード電圧Vaが印加されたアノード43に入射し、放出電流Ieが流れる。
【0031】
カソード4の電子放出効率を向上させるためには、カソード4のゲート3側の端部が突起部9を有していることが好ましい。カソード4の突起部9が先鋭化されているほど、突起部9に電気力線の集中が生じるため、突起部9先端に高い電界を形成することが可能となる。また、カソード4とゲート3の最短距離dが小さいほど、狭部5に生じる電界強度が増す。従って、電子放出効率の良い電子放出素子を得るには、カソード4の突起部9とゲート3の突出部32との最短距離dを小さくし、さらにカソード4の突起部9を先鋭化することが望ましい。
【0032】
以下、電子放出素子駆動時にゲート3に生じる熱膨張について説明する。
【0033】
まず図7に、基部と突出部とが分かれていないゲート、即ち一様な厚みtを持ったゲート73を有する電子放出素子の模式図を示す。図7(a)は電子放出素子の模式図であり、図7(b)は電子放出素子の凹部6を中心に図7(a)を拡大したものである。図1(b)と同様に、2は支持体であり、支持体2は第1の絶縁層2aと第2の絶縁層2bからなる。カソード4は、第1の絶縁層2aの上面21から側面22に延在して設けられている。ゲート73とカソード4の間には、凹部6が存在し、ゲート73とカソード4とが最短距離dとなる狭部5を挟んで設けられている。
【0034】
電子放出素子の駆動時にゲート73の温度が上昇すると、ゲート73を構成する部材の熱膨張率に応じてゲート73は熱膨張を起こし、熱膨張後のゲート73の輪郭は図7(b)の点線7301のようになり、ゲートの厚みtがt´へ増加する。ゲート73の下面731が熱膨張した分だけゲート73とカソード4との最短距離はd´に縮まる。そのため、ゲート73とカソード4の間に印加された電圧が一定ならば狭部5の電界強度は強くなり電界放出電流が増加する。これにより、ゲート73は更なる熱膨張を起こす。このような正帰還が生じた結果、ゲート73の変形や溶融が生じ、放出電流Ieが減少するなどの電子放出特性の劣化や、電子放出素子が破損することがある。
【0035】
図4(a)に本発明の電子放出素子の好ましい実施形態の一例について、凹部6を中心に電子放出素子の一部を拡大した図を示す。図4(a)に示した電子放出素子のゲート3は、ゲート3の突出部32におけるカソード4の突起部9に対する最近接部Wでのゲート3の厚みがt1であり、基部31の厚み(即ち、接続面310からの基部の上面312の高さ)t2である。
【0036】
また、図6(c)、(d)に模式的に示したような楔形のゲート3に関しては、t1は突出部32におけるカソード4の突起部9に対する最近接部Wでのゲート3の厚み、hは最近接部Wの、接続面310からの高さである。図6(c)は、突出部32の側面322と傾斜面8の接点がカソード4の突起部9と最近接する最近接部Wである形態、図6(d)は傾斜面8の一部にカソード4の突起部9と最近接する最近接部Wがある形態を示している。
【0037】
尚、図4(a)と図6(d)に示したL3は、最近接部Wから、基部31の側面311を延在させた面に対して引いた垂線の長さである。
【0038】
図8は、h/t1に対する、電子放出素子駆動時のゲート3の突出部32の反り量を表した図である。縦軸のゲート3の突出部32の反り量は、h=0である時、すなわち図7(a)、図7(b)に例示したように基部と突出部とに分かれておらず、一様な厚みで形成されたゲート73の側面732の反り量を基準値としたものである。図8において反り量が負である場合は、ゲート3の側面322において基体1へ近づく(即ち、カソード4の突起部9に近づく)方向の変位が支配的であることを表し、正であればゲートの側面322において基体1から遠ざかる(即ち、カソード4の突起部9から離れる)方向への変位が支配的であることを示している。図8に示した結果から、h/t1<0.2の時にはゲート3の突出部32の反り量は0以下の値であり、電子放出素子駆動時にゲート3の突出部32で発生する熱膨張は、カソード4の突起部9へ近づく方向の変位が支配的である。一方で、h/t1>0.3である場合には、電子放出素子駆動時にゲート3の突出部32で発生する熱膨張は、カソード4の突起部9から離れる方向への変位が支配的である。
【0039】
一方、ゲート3の突出部32がカソード4の突起部9から離れる方向に熱膨張する条件として、h/t1の値に上限は無い。つまり、h/t1>0.3の条件を満たすゲート3の構造であれば、突出部32がカソード4の突起部9から離れる効果が得られる。ただし実用的には、ゲート3の突出部32の典型的な厚みt1が10nm以上、接続面310から最近接部Wまでの典型的な高さhが100nm以下であることから、好ましいh/t1の範囲は10>h/t1>0.3である。
【0040】
図4(a)に例示した電子放出素子のゲート3は、hとt1について、h/t1>0.3の条件を満たす構成を有している。この電子放出素子をカソード4に低電位、ゲート3に高電位を印加して駆動させる。過剰な量や過剰な運動エネルギーを持つ電子がゲート3に衝突することによって、ゲート3の突出部32および基部31が熱膨張を起こす。カソード4からの過剰な電子放出は100〜数100ナノ秒程度持続するため、ゲート3の突出部32は過剰な電子放出が続いている間、ゲート3の突出部32および基部31は熱膨張し続ける。過剰な電子放出が持続している間、突出部32単体で見ると、突出部32は熱膨張によりカソード4に近づく方向に変位するが、基部31が熱膨張することにより、突出部32がカソード4から離れる方向への変位が生じる。突出部32において、カソード4の突起部9と最近接する部位である最近接部Wの、基部31の下面からの高さhと、最近接部Wにおけるゲート3の厚みt1とが、h/t1>0.3の関係式を満たす構成のゲート3であれば、突出部32が突起部9に接近する方向の変位よりも、基部31の熱膨張による突起部9から突出部32が離れる方向の変位の方が大きく現れる。この基部31と突出部32で発生する熱膨張によって、ゲート3の輪郭は点線301のようになり、ゲート3とカソード4との最短距離dは増加する。ゲート3とカソード4が離れることにより、電極間における電界強度が弱くなることで電子の放出が抑制される。電子放出が抑制されると、ゲート3の温度が低下し、ゲート3の熱膨張が減少する。これにより、前述した正帰還の発生による電子放出素子の破損が起こりにくくなるので、h/t1>0.3の条件を満たす構成のゲートを有する電子放出素子は長期的に安定な動作をすることができる。
【0041】
次に、カソード4の突起部9と、ゲート3の突出部32の下面321に位置する最近接部Wとの位置関係について詳細を述べる。先述したように、第1の絶縁層2aの上面21(対向面)からの最近接部Wの高さが、第1の絶縁層2aの上面21(対向面)からのカソード4の突起部9の高さよりも高くなる位置にあれば良い。第1の絶縁層2aの上面21からの高さが、最近接部Wよりもカソード4の突起部9の方が高い場合、ゲート3が熱膨張した際、突出部32と突起部9の最短距離dが広がることは前述した通りである。一方で、第1の絶縁層2aの上面21からの高さが、カソード4の突起部9の方が最近接部Wよりも高い場合では図4(b)に模式的に示したように、突出部32が基部31から突出する方向への熱膨張が生じることによって、突出部32とカソード4の最短距離dが小さくなる。従って、基部31が熱膨張しても、カソード4と突出部32との最短距離dが広がる効果を得にくいため、狭部5における電界強度の増加を抑制することは難しい。よって、カソード4の突起部9と突出部32の下面321との高さの関係については、カソード4の突起部9が、ゲート3の突出部32の下面321よりも基体1側に位置していれば良い。
【0042】
カソード4の突起部9とゲート3の突出部32の位置関係について、図1(a)〜(e)に示したZ軸方向に関して述べたが、次にX軸方向(即ち突出部32が基部31から突出する方向)の位置関係については、カソード4の突起部9は、ゲート3の突出部32に対して電子を放出する位置にあれば良い。
【0043】
次に、図1(b)を参照しながら本発明に係る電子放出素子の各部材の詳細について説明する。
【0044】
基体1は電子放出素子を支持するための基板である。石英ガラス,Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラスなどを用いることができる。基体1に必要な機能としては、機械的強度が高いだけでなく、ドライエッチング、ウェットエッチング、現像液等のアルカリや酸に対して耐性があることが挙げられる。また、画像表示装置に用いる場合は、加熱工程などを経るので、積層する部材との熱膨張率差が小さいものが望ましい。また、画像表示装置を製造する過程で熱処理を行う工程を含む場合には、ガラス内部からのアルカリ元素等が電子放出素子に拡散しづらい材料が望ましい。
【0045】
次に、支持体2について説明する。支持体2は、加工性に優れ、高電界に耐えられる耐圧性の高い材料から構成される。第1の絶縁層2aとしては、例えばSiなどの窒化物絶縁材料、第2の絶縁層2bとしては、例えばSiOなどの酸化物絶縁材料が挙げられる。尚、第2の絶縁層2bは第1の絶縁層2aに対し、エッチャントによって多くエッチングできる材料を適宜選択することが好ましい。例えば、第1の絶縁層2aはSi等の絶縁性材料で構成し、第2の絶縁層2bはSiO等の絶縁性材料で構成した場合には、フッ化アンモニウムとフッ酸の混合溶液であるバッファードフッ酸(BHF)によって選択的にSiOをエッチングすることができる。また、第2の絶縁層2bの厚みは、第1の絶縁層2aよりも薄く、数nmから数百nmの範囲で設定され、好ましくは数nmから数十nmの範囲で選択される。
【0046】
ゲート3の材料としては、導電性を有し、かつ突出部32から基部31への熱伝導が速やかに行われるために熱伝導の良い材料が好ましい。また、カソード4から放出される電子の衝突によって生じる温度上昇に耐えうる融点が高い材料がゲート3の材料として望ましい。このような材料としては、Be,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料が挙げられる。
【0047】
カソード4の材料としては、電子を放出し易い材料、即ち仕事関数の低い材料が好ましい。このような材料としては、Mo,Pt,Ru,Ag,Au,Ti,In,Cu,Cr,Fe,Zn,Sn,Ta,W,Pd等の金属や、カーボン、HfC等が挙げられる。
【0048】
次に、図3(a)〜(h)を参照して、本発明に係る電子放出素子の製造方法の一例を説明する。
【0049】
(工程1)
予め、表面を十分に洗浄した基体1上に、第1の絶縁層となる絶縁層20a、第2の絶縁層となる絶縁層20bを形成する。絶縁層20a、絶縁層20bは、スパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法で形成することができる。(図3(a))
更に、絶縁層20bの上にゲートとなる導電層30を形成する。導電層30は、真空蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術により形成される(図3(b))。
【0050】
(工程2)
次に、導電層30の上にフォトレジストをスピンコーティング等によって塗布する。塗布した後、マスクパターン露光及び現像による、フォトリソグラフィーでレジストパターン201を形成する(図3(c))。レジストパターン201は、後の工程3である、導電層30、支持体20をエッチングする処理のためにパターン形成されるものである。従って、導電層30、支持体20をエッチングする範囲に応じてパターンを形成すれば良い。
【0051】
(工程3)
次にエッチングにより、支持体20、導電層30をエッチングする。このエッチングを以下、第1のエッチングと呼ぶ。
【0052】
第1のエッチングはドライエッチング、ウェットエッチングのいずれでも行うことができるが、エッチングガスをプラズマ化して材料に照射することで材料の精密なエッチング加工が可能な、RIE(Reactive Ion Etching)を用いることが好ましい。
【0053】
RIEに用いるガスとしては、加工する対象部材がフッ化物を作る材料である場合には、CFやCHFやSFなどのフッ素系ガスが選ばれる。また加工する対象部材がSiやAlのような塩化物を形成する材料である場合には、Cl、BClなどの塩素系ガスが選ばれる。またレジストとの選択比を取るため、またエッチング面の平滑性の確保あるいはエッチングスピードを上げるため、水素、酸素、アルゴンガスの少なくともいずれかをエッチングガスに添加する。例えば、絶縁層20aにSi、絶縁層20bにSiO、ゲート3にMoを選択した場合では、エッチングガスにCFガスを用いてドライエッチングすると良い(図3(d))。工程3により、基本的には図1(b)などに示した第1の絶縁層2aが形成される。しかしながら、工程4以降に行われるエッチングで、第1の絶縁層2aが全くエッチングされないことを意味する訳ではない。
【0054】
また、第1の絶縁層2aの側面22と、第1の絶縁層2aの上面21とが為す角度θが90°以上になるように第1の絶縁層2aの側面22が傾斜している形態であっても良い。
【0055】
(工程4)
続いて、絶縁層20bを選択的にエッチングし、凹部6を形成する。このエッチングを以下、第2のエッチングと呼ぶ。
【0056】
第2のエッチングの方法としては、;例えば、導電層30にMo、絶縁層20aにSi、絶縁層20bにSiOを選択した場合には、エッチャントにバッファードフッ酸(BHF)を用いてエッチングすると良い。BHFを用いることにより、絶縁層20bが選択的にエッチングされ、第1の絶縁層2aの側面22、導電層30の側面302に対し、絶縁層20bの側面202が後退し、開口部を有する凹部6が形成される(図3(e))。工程4により、基本的には図1(b)などに示した第2の絶縁層2bが形成される。しかしながら、第2の絶縁層2bが工程5以降のエッチングで、全くエッチングされないことを意味する訳ではない。
【0057】
(工程5)
次に、導電層30のエッチングを行う。このエッチングを以後、第3のエッチングと呼ぶ。第3のエッチングはドライエッチング、ウェットエッチングのいずれでも構わないが、例えば導電層30がMoの場合には、ウェットエッチングが好ましい。ウェットエッチングに用いるエッチャントは、導電層30の部材に合わせたエッチング液を用いる。例えば導電層30がMoの場合は、市販のMoエッチング溶液(酢酸、燐酸、硝酸の混酸溶液)を用いることができる。第3のエッチングによって、基本的には図1に模式的に示したゲート3の形状が形成される。この第3のエッチングにより、凹部6が拡大し、ゲート3は基部31と突出部32とを有する形態となる(図3(f))。
【0058】
尚、第3のエッチングにより、基部31の側面が、第2の絶縁層2bの側面よりも後退した場合には、第2のエッチングを再び行い、第2の絶縁層2bを選択的にエッチングし、基部31の側面よりも後退させても良い。
【0059】
また、第2のエッチングと第3のエッチングを繰り返すことによって、図6(c)、図6(d)に示したような楔形のゲート3を得ることができる。以下、図6(a)、図6(b)を参照しながら、楔形のゲート3を得る工程について説明する。
【0060】
第2のエッチングにより、第2の絶縁層2bをわずかにエッチングする。その後、第3のエッチングにより、導電層30をわずかにエッチングする。この1回目の第3のエッチングによって導電層30がエッチングされた領域が図6(a)に例示した600である。この第2の絶縁層2bおよび導電層30を1回でエッチングする量はゲート3の大きさや、作製する傾斜面8の傾斜角により適宜調整されるが、実用的には1nm以上50nm以下の範囲である。第3のエッチングを行った後、再び第2のエッチングを行い、第2の絶縁層2bをエッチングして、わずかに後退させる。その後、再び第3のエッチングを行い、導電層30をわずかにエッチングする。2回目の第3のエッチング時、1回目の第3のエッチングによって形成された導電層30の段差部分は再びエッチャントに曝されてエッチングされる。また、2回目の第2のエッチングによって第2の絶縁層2bが後退し、導電層30において新たに凹部6と接することとなった面(図6(b)において30a1および30a2として例示した)もエッチャントに曝されてエッチングされる。図6(b)に601として例示した箇所が、2回目の第3のエッチングでエッチャントに曝されて導電層30が削られた領域である。このように、第2のエッチング、第3のエッチングが繰り返されることで、ゲート3の側面322に近い領域ほどエッチャントに曝される回数が増えて多く削られる。従ってゲート3の突出部32の厚みが、カソード4の突起部9に近づくに従って漸次減少しているゲート、即ち楔形のゲート3が得られる。
【0061】
(工程6)
次に、導電性を有するカソード4を成膜する(図3(g))。成膜方法は、フォトリソグラフィー法、蒸着法、スパッタ法等から適宜選択される。カソード4は支持体2の上面21から側面22に延在して設けても良いし、図1(d)に示したように支持体2とは異なる別の絶縁部材の上に設ける形態であっても構わない。カソード4を支持体2に設ける場合、支持体2とは別の絶縁部材の表面に設ける場合のいずれの場合であっても、カソード4においてゲート3と近接する部分に突起部9を形成することにより、カソード4の突起部9から良好に電子を放出させることができる。
【0062】
突起部9を好適に形成するには、気圧1×10−2Pa以下の真空度下で行う斜方蒸着法や、指向性を有するスパッタ法など、指向性を有する成膜方法によってカソード4を成膜することが好ましい。
【0063】
斜方蒸着法では、気圧1×10−2Pa以下の高真空度下で行うと蒸発源から気化した蒸発物質(成膜材料)が雰囲気中の気体と衝突する可能性が低い。更に、蒸発物質(成膜材料)の平均自由行程は概ね数百mm〜数m程度である為、蒸発源から気化した時の方向性が維持されて基板に届くことになる。このため、高真空度下で行う蒸着法は指向性を有する成膜方法となる。蒸発源を蒸発させる手法は、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱などが有るが、対応可能な物質の種類及び加熱面積の関係から電子ビームを利用する方法が有効である。
【0064】
指向性を有するスパッタ法では、具体的には、基体1とターゲットとの角度を設定した上で、基体1とターゲットの間に遮蔽板を設けることや、基体1とターゲット間の距離をスパッタ粒子の平均自由行程近傍にする等を行う。スパッタ粒子に指向性を与えるコリメータを用いる、いわゆるコリメーションスパッタ法も上記指向性スパッタリング法の範疇である。このようにして、限られた角度のスパッタ粒子(スパッタされた原子またはスパッタされた粒子)のみが被成膜面に入射される様にする。
【0065】
図3(g)に模式的に示したように、第1の絶縁層2aの上面21から側面22に延在してカソード4を設ける場合には、第1の絶縁層2aの上面21から、側面22にかけてカソード4の成膜材料の粒子あるいは原子を照射し、カソード4を成膜する。凹部6内にカソード4が入り込むことによって、以下の三つのメリットが生じる。
(1)電子放出部となるカソード4の突起部9が、第2の絶縁層2bと広い面積を持って接触し、機械的な密着力があがる(密着強度の上昇)。
(2)電子放出部となるカソード4の突起部9と、第2の絶縁層2bとの熱的な接触面積が広がり、電子放出部で発生する熱を効率よく第2の絶縁層2bに逃がすことが可能となる(熱抵抗の低減)。
(3)第2の絶縁層2bの上面21に対して傾斜を備えることで、絶縁層―真空−金属界面で生じる三重点での電界強度を弱め、異常な電界発生による放電現象を防止することが可能となる。
【0066】
また、図1(c)に示したように、支持体2とは別の絶縁部材の上に成膜する場合には、指向性を有する成膜方法であっても、非指向性の成膜方法であっても良い。突起部9を形成する場合には、例えばフォトリソグラフィー法を利用したエッチングによって形成することができる。例えば、基体1上に成膜したカソード4の上にフォトレジストを塗布した後、マスクパターン露光および現像を行って、突起部9を形成する位置をマスクする。その後、エッチングを行うことにより、マスクされていない部分のカソード4が、マスクされた部分のカソード4よりも多くエッチングされるため、マスクされた部分のカソード4が突起部を形成する。その後、マスクであるフォトレジストを剥離することで、突起部9を有するカソード4が得られる。
【0067】
(工程7)
次に、カソード4に電子を供給するためのカソード電極7を設ける。この工程は、他の工程の前や後に変更することができる。尚、カソード電極7を用いずに、カソード電極7の機能をカソード4が兼ねることもできる。その場合には、カソード電極7を設ける工程を省略することができる。カソード電極7は、前記ゲート3と同様に導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術、フォトリソグラフィー法により形成することができる。カソード電極7の材料は、ゲート3と同じ材料であってもよく、異なる材料であってもよい。
【0068】
カソード電極7の厚みとしては、数十nmから数μmの範囲で設定され、好ましくは数百nmから数μmの範囲で選択される。
【0069】
(工程8)
次に、レジスト剥離液を用いてレジストパターン201を剥離する(図3(h))。
【0070】
以上の工程1〜工程7により、図1に示されるような電子放出素子を作製することができる。
【0071】
以下、上記電子放出素子を複数配して得られる電子源を備えた画像表示装置の実施形態について図5を参照しながら説明する。
【0072】
画像表示装置を模式的に示した図5において、11は基体1を固定したリアプレートである。44はX方向配線、45はY方向配線であり、また、16は上記した電子放出素子である。尚、X方向配線44は、上述のカソード4を共通に接続する配線であり、Y方向配線45は上述のゲート3を共通に接続する配線である。図5では電子放出素子16と配線44、45との位置関係は模式的に示されている。実際には、配線44と配線45との交差部の脇の基板上に電子放出素子16が配置されている。尚、リアプレート11に基体1を設ける形態でなくても良い。つまり、リアプレート11の表面に電子放出素子16を形成する形態であっても良い。
【0073】
また、12は、ガラス基板41の内面に、アノードであるメタルバック43と、発光体の膜42としての蛍光体膜等が形成されたフェースプレートである。
【0074】
13は支持枠であり、この支持枠13には、リアプレート11、フェースプレート12がフリットガラス等の接続材を用いて封着(接続)されている。14は画像表示装置であり、例えば大気中あるいは、窒素中で、400〜500度の温度範囲で10分以上焼成することで、封着して構成される。大気圧よりも低い圧力に減圧した雰囲気下で封着することにより、画像表示装置14の内部空間15は大気圧より低い圧力に維持される。
【0075】
m本のX方向配線44は、Dx1,Dx2,…Dxmからなり、真空蒸着法,印刷法,スパッタ法等を用いて形成された金属等の導電性材料で構成することができる。配線の材料、膜厚、巾は、適宜設計される。
【0076】
Y方向配線45は、Dy1,Dy2,…Dynのn本の配線よりなり、X方向配線44と同様に形成される。これらm本のX方向配線44とn本のY方向配線45との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者を電気的に分離している(m,nは、共に正の整数)。
【0077】
不図示の層間絶縁層は、真空蒸着法,印刷法,スパッタ法等を用いて形成される。例えば、X方向配線44を形成した基体1の全面或は一部に所望の形状で形成され、特に、X方向配線44とY方向配線45の交差部の電位差に耐え得るように、膜厚、材料、製法が、適宜設定される。X方向配線44とY方向配線45は、それぞれ外部端子として引き出されている。
【0078】
配線44と配線45を構成する材料及びカソード、ゲートを構成する材料は、その構成元素の一部あるいは全部が同一であっても、またそれぞれ異なってもよい。
【0079】
X方向配線44には、X方向に配列した電子放出素子16の行を選択するための走査信号を印加するための不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線45には、Y方向に配列した電子放出素子16の各列を入力信号に応じて変調するための不図示の変調信号発生手段が接続される。
【0080】
各電子放出素子に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
【0081】
上記構成においては、単純なマトリクス配線を用いて、個別の素子を選択して、独立に駆動可能とすることができる。
【0082】
画像表示装置14は、上述の如く、フェースプレート12、支持枠13、リアプレート11で構成される。ここで、リアプレート11は主に基体1の強度を補強する目的で設けられるため、基体1自体で十分な強度を持つ場合には、別体のリアプレート11は不要とすることができる。
【0083】
即ち、基体1に直接支持枠13を封着するとともに、支持枠とフェースプレート12とを封着して画像表示装置14を構成しても良い。一方、フェースプレート12とリアプレート11との間に、スペーサ46を設置することにより、大気圧に対して十分な強度をもつ画像表示装置14を構成することもできる。図5には、X方向配線44の上に板状のスペーサ46が設けられている。スペーサ46は画像表示装置14が大気圧に押されて内側に変形しようとする力に対抗し、画像表示装置14に十分な耐圧強度を与える。スペーサ46は、大気圧による外力に対抗できるように、その形状(大きさ)や配置箇所(配置間隔)が設定される。また、スペーサ46の材料は耐圧強度に耐え得るように、適宜選択される。スペーサ46は全てのX方向配線44の上に設ける必要はなく、耐圧上必要な範囲で、一部のX方向配線44の上のみに、例えば一定のピッチで設けることができる。
【実施例1】
【0084】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。
【0085】
本実施例では、図1(b)に示される電子放出素子を、図3(a)〜(h)の工程に沿って作製した。
【0086】
(工程1)
予め充分に洗浄したガラス基板(PD200:旭硝子製)上に、スパッタ法により絶縁層20aとして、厚み500nmのSi膜を、絶縁層20bとして厚み20nmのSiOをこの順で堆積して支持体2を形成した。さらにゲート3となる導電層30を、Moを支持体2の上に50nmの厚みで堆積した(図3(a)、図3(b))。
【0087】
(工程2)
次に、フォトリソグラフィー工程でポジ型フォトレジスト(TFR:東京応化工業製)をスピンコーティングした後、フォトマスクパターンを用いて露光、現像し、レジストパターン201を形成した(図3(c))。
【0088】
(工程3)
その後、パターニングしたレジストパターン201をマスクとして、第1のエッチングを行った。本実施例においては、絶縁層20a、絶縁層20b及び導電層30を、CFガスを用いたドライエッチングにてエッチングした(図3(d))。
【0089】
(工程4)
次に、第2のエッチングとしてバッファードフッ酸(LAL100:ステラケミファ社製)をエッチャントとして用い、2分間エッチングを施し、絶縁層20bを選択的にエッチングした。これにより、第1の絶縁層2aの側面22および導電層30の側面302から20nm、絶縁層20bの側面202を後退させて凹部6を形成した(図3(e))。
【0090】
(工程5)
次に、Moエッチング溶液(99%酢酸、85%燐酸、70%硝酸、純水を77:15:6:2で混合)を用いて、10分間ゲート3のMoのエッチングを行った。その結果、導電層30の側面302と凹部6に接した面303がエッチングされ、突出部32と基部31を有するゲート3が形成された(図3(f))。
【0091】
(工程6)
次に、カソード4を第1の絶縁層2aの上面21から側面22にかけて成膜した。10−3Paの雰囲気下でMoを蒸着源として用い、基体1の上面10に対して45°の角度から斜方蒸着法を行った。これにより、第1の絶縁層2aの上面21から側面22に延在して20nm堆積したカソード4を得た(図3(g))。なお、カソード4の突起部9は第1の絶縁層2aの上面21を基準面として30nmの高さを有していた。
【0092】
(工程7)
次に、剥離液(104:東京応化工業製)を用いてレジストパターン201を剥離した。
【0093】
以上の工程により作製された電子放出素子の断面形状を断面TEMにて確認した。最近接部Wは、ゲート3の突出部32の下面321と突出部32の側面322の接点であった。突出部32の突出長さL1は20nmであった(即ちL3も20nmであった)。接続面310からの基部31の上面312の高さは50nmであった。接続面310からの最近接部Wの高さhは20nmであり、最近接部Wにおけるゲート3の厚みt1は30nmであった。従って、h/t1>0.3を満たしていることが確認できた。
【0094】
続いて、本実施例の工程1〜工程7によって得られる電子放出素子を20素子作製し、図2に示した装置によって電子放出特性を評価した。図2においてVfは高電位側となるゲート3と低電位側となるカソード4の間に印加される駆動電圧、Ifはこの時流れる素子電流、Vaは低電位側であるカソード4とアノード43の間に印加される電圧、Ieは放出電流である。
【0095】
本実施例の電子放出素子の電子放出特性を評価した結果、駆動電圧Vfを25Vに設定して印加した時、放出電流Ieの平均が1.0μAの素子特性が得られた。また、同じ素子を1000時間動作させつづけた結果、電子放出特性の大きな劣化は見られなかった。更に、電子放出素子の破損に伴うリーク電流増加の有無を調べるため、同じ評価素子にFN型の電界放出電流が現れない程度の電圧Vfを印加して、カソードとゲート間に流れるリーク電流を測定したところ、電子放出特性評価前からの増加は見られなかった。従って、本実施例で作製した電子放出素子は、長期的に安定な電子放出特性を有し、また破損しにくい電子放出素子であることが確認された。
【0096】
(比較例)
本例では図7(a)に模式的に示した電子放出素子を作製した。本例におけるゲート73は、突出部と基部とに分かれた構成を有しておらず、略一様な厚みを持ったゲートである。従って、h≒0であり、h/t>0.3を満たしていない。本例は、ゲート73の作製工程を除き、実施例1と同様の手順で電子放出素子を作製した。以下、実施例1と異なる工程1について述べる。
【0097】
(工程1)
予め充分に洗浄したガラス基板(PD200:旭硝子製)上に、スパッタ法により絶縁層720aとして、厚み500nmのSi膜を、絶縁層720bとして厚み40nmのSiOをこの順で堆積して支持体720を形成した。ゲート73となる導電層730は、膜厚30nmのMoを支持体720の上に堆積した。
【0098】
その後、実施例1の工程2〜4、工程6〜工程7を同様に行った。
【0099】
以上のようにして作製された電子放出素子の断面形状を断面TEMにて確認した。その結果、ゲート73の厚みtは約30nmであり、ゲート73において、支持体72に支持されている部位から、カソード74に最近接する最近接部Wにかけて、ほぼ一様な厚みであった。よって、h/t>0.3を満たしていない形態であることを確認した。
【0100】
続いて、本比較例の電子放出素子を20素子作製し、実施例1と同様に図2に示されるような電源配置で電子放出特性を評価した結果、駆動電圧Vfを25Vに設定して印加したところ、放出電流Ieの平均が1.0μAの素子が得られた。また、同じ素子を1000時間動作させつづけた結果、20素子中1素子で放出電流Ieが40%劣化し、また別の1素子において放出電流Ieが30%劣化した。更に、同じ評価素子にFN型の電界放出電流が現れない程度の電圧Vfを用いて、カソードとゲート間に流れるリーク電流を測定したところ、電子放出特性評価前と比較して約10倍から約50倍に増加しており、電子放出素子の破損に伴うリーク電流増加が見られた。よって、実施例1と比較して、電子放出特性の低下と、多くの電子放出素子の破損が確認された。
【実施例2】
【0101】
本実施例では図6(c)に示すように、楔形のゲート3を有する電子放出素子を作製した。
【0102】
(工程1)〜(工程3)
実施例1の工程1から工程3と同じ手法を用いて作製した後、以下の工程4である第2のエッチング、工程5である第3のエッチングをそれぞれ1回ずつ行うことを1セットとして、5セット繰り返した。
【0103】
(工程4)
バッファードフッ酸(LAL100/ステラケミファ社製)をエッチング液として、1分間エッチングを施し、第2の絶縁層2bを選択的にエッチングし、第2の絶縁層2bを第1の絶縁層2aの側面22から20nm後退させ、凹部6を形成した。
【0104】
(工程5)
次に、市販のMoエッチング溶液(99%酢酸、85%燐酸、70%硝酸、純水を77:15:6:2で混合)を用いて、2分間ゲート3のMoのエッチングを行った。その結果、導電層30の側面302と凹部6に接した面303がそれぞれ4nmエッチングされた。
【0105】
工程4、工程5を5セット行った後、実施例1の工程6および工程7と同様に工程を行い、電子放出素子を作製した。
【0106】
以上のようにして作製された電子放出素子の断面形状を断面TEMにて確認した。その結果、最近接部Wは、ゲート3の突出部32の下面321と突出部32の側面322の接続点であった。また、基部31の上面312の、接続面310からの高さt2が50nm、最近接部Wにおけるゲート3の厚みt1が35nmであった。従って、最近接部Wの接続面310からの高さhは15nmであり、h/t1≒0.43であり、h/t1>0.3を満たしていることが確認できた。
【0107】
続いて、本実施例の工程1〜工程6によって得られる電子放出素子を20素子作製し、実施例1と同様に図2に示されるような電源配置で特性を評価した。駆動電圧Vfを25Vに設定して駆動させたところ、放出電流Ieの平均が1.0μAの素子が得られた。また、同じ素子を1000時間動作させ続けた結果、電子放出特性の劣化は見られなかった。更に、同じ評価素子にFN型の電界放出電流が現れない程度の電圧Vfを用いて、リーク電流を測定したところ、電子放出特性評価前からの増加は見られなかった。
従って、本実施例で作製した電子放出素子は実施例1と同様に、長期的に安定な電子放出特性を有し、また破損しにくい電子放出素子であることが確認された。
【実施例3】
【0108】
本実施例は、実施例1で作製された電子放出素子を用いて、図5に模式的に示した画像表示装置を作製した例である。
【0109】
X方向配線44の幅を320μm、Y方向配線45の幅を25μm、絵素の大きさを200μm×630μmとして、充分洗浄したガラス基板(PD200:旭硝子製)上に、実施例1の手法を用いて電子放出素子16を320素子×240素子のマトリクス状に配置し、リアプレート11を作製した。
【0110】
次に、リアプレート11の2mm上方にフェースプレート12を、支持枠13を介して1×10−6Pa以下に減圧した雰囲気下で封着し、画像表示装置14を形成した。リアプレート11とフェースプレート12との間には、X方向長さ64mm、Y方向長さ200μmのスペーサ46を配置し、大気圧に耐えられる構造とした。使用したスペーサ46の本数は5本である。画像表示装置14内には容器内の真空度を保つためのゲッター(不図示)を配置した。リアプレート11と支持枠13、及び支持枠13とフェースプレート12の接続にはインジウムを用いた。
【0111】
次に、X方向配線44に情報信号を印加し、Y方向配線45に走査信号を印加しながら電子放出素子16を駆動した。情報信号として+10Vのパルス電圧を用い、走査信号として−15Vのパルス電圧を用いた。メタルバック43に6kVの電圧を印加して、電子放出素子16から放出された電子を蛍光体膜42に衝突させ、励起、発光させて画像を表示することができた。
【0112】
本実施例の画像表示装置を1000時間動作させ続けたところ、画質の劣化や暗点の発生は見られなかった。従って、本実施例で用いた電子放出素子は、長期的に安定な電子放出特性を有し、また破損しにくい電子放出素子であることが確認された。
【符号の説明】
【0113】
1 基体
2 支持体
2a 第1の絶縁層
2b 第2の絶縁層
3 ゲート
4 カソード
5 狭部
9 突起部
31 基部
310 支持体2が有するゲート3の基部31の下面との接続面
32 突出部
321 突出部32の下面
d ゲート3とカソード4の最短距離
W ゲート3においてカソード4と最近接する最近接部
h 最近接部Wの、接続面310からの高さ
L1 基部31の側面から突出部32の側面322までの長さ
L2 ゲート3のX軸方向の長さ
L3 最近接位置Wから基部31の側面311までの長さ
102 最近接位置Wにおけるゲート3の厚みt1
103 基部31の厚みt2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁部材と、
突起部を有するカソードと、
前記カソードと離間して設けられたゲートと、
を有する電子放出素子であって、
前記ゲートは、下面を有する基部と、下面を有すると共に前記カソードの突起部に向かって前記基部から突出する突出部と、を有し、
前記ゲートは、前記カソードの前記突起部と最近接する最近接部を前記突出部の前記下面に備え、
前記絶縁部材は、前記基部の前記下面と接続する接続面と、前記突出部の前記下面と空隙を挟んで対向する対向面と、を少なくとも有し、
前記絶縁部材の前記対向面からの前記最近接部の高さが、前記対向面からの前記カソードの前記突起部の高さよりも高く、
前記接続面からの前記最近接部の高さhと、前記最近接部での前記ゲートの厚みt1とが、以下の関係式を満たすことを特徴とする電子放出素子。
h/t1>0.3
【請求項2】
前記接続面からの前記最近接部の高さhと、前記最近接部での前記ゲートの厚みt1とが、以下の関係式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
10>h/t1>0.3
【請求項3】
前記突出部の前記下面が、前記対向面と平行に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記突出部の厚みが、前記カソードの前記突起部に近づくに従って漸次減少していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項5】
前記絶縁部材は、少なくとも上面と側面とを有する第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層の前記上面の一部の上に設けられた、少なくとも上面を有する第2の絶縁層とを含み、
前記接続面が、前記第2の絶縁層の前記上面の少なくとも一部であり、
前記対向面が、前記第1の絶縁層の前記上面の他の一部であって、
前記カソードが、前記第1の絶縁層の前記上面の前記他の一部から前記側面にかけて延在して設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項6】
複数の電子放出素子と、該複数の電子放出素子から放出された電子が照射されることで発光する発光体と、を有する画像表示装置であって、前記複数の電子放出素子の各々が、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電子放出素子であることを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−113999(P2012−113999A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262878(P2010−262878)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】