説明

電子機器、検出データの補正方法及びセンサ装置

【課題】補正演算プログラムをセンサ装置の種類毎に用意しなくても、ハードウェア構成が同一で、メモリに書き込まれた補正用情報の種類が異なる複数種のセンサ装置を提供することができる、電子機器の提供。
【解決手段】センサ素子61を有し、センサ素子61により得られる検出データを送信するセンサ装置60と、前記検出データを受信して前記検出データの補正値を演算するマイコン70とを備える電子機器であって、前記補正値を演算するための補正用情報を識別情報(ID)と共に格納する不揮発性メモリ63を備え、マイコン70が、メモリ63に格納された補正用情報を使って前記補正値を演算する補正演算方法を、メモリ63に格納された識別情報に応じて切り替えることによって、前記補正値の特性が切り替わる、電子機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子により得られる検出データの補正値を演算するための補正用情報を利用する、電子機器、検出データの補正方法及びセンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図10は、従来の電子機器1のハードウェア構成を示した図である。マイクロコンピュータ(マイコン)70を内蔵する電子機器1は、センサ素子61によって得られる検出データの補正値を演算するための補正用情報を格納する不揮発性メモリ63を備えるセンサ装置60を部品として有している。マイコン70は、不揮発性メモリ63から読み出した補正用情報を使って、センサ素子61によって得られる検出データの補正値を演算する演算装置である。
【0003】
補正用情報は、検出データのばらつきがセンサ素子間で存在するため、センサ素子毎に予め求められるものである。センサ装置60が電子機器1の部品として出荷される前に、補正用情報は、センサ装置60の製造者等のデータ書き込み装置によって、不揮発性メモリ63に書き込まれる。その後、電子機器1の部品として出荷されたセンサ装置60は、電子機器1の製造工程において、電子機器1の部品としてマイコン70と共に組み付けられる。
【0004】
図11は、マイコン70のCPU74が処理する従来の補正演算プログラムのフローチャートである。ステップS11において、マイコン70のCPU74は、センサ装置60と通信し、センサ装置60に内蔵される不揮発性メモリ63に格納されたデータを読み込んで、RAM72上に展開する。そして、マイコン70のCPU74は、センサ装置60の製造者から事前に提供された不揮発性メモリ63のメモリマップに従って、補正用情報を取得する(ステップS13)。マイコン70のCPU74は、規定の補正演算式に基づいて、その取得した補正用情報を使ってセンサ装置60から取得した検出データを補正演算することにより、当該検出データの補正値(センサ補正値)を算出する(ステップS15)。
【0005】
なお、上記同様の補正演算に関する先行技術文献として、例えば特許文献1,2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−160100号公報
【特許文献2】特開昭62−218813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術では、ハードウェア構成が同一で、メモリに書き込まれた補正用情報の種類が異なる複数種のセンサ装置を部品として提供(出荷)しようとしても、補正演算プログラムをセンサ装置の種類毎に用意しなければ、検出データの補正値を演算するマイコン等の演算装置が、メモリに書き込まれた補正用情報がどのような種類であるのかを判別することができない。補正演算プログラムの種類が増加すると、それらの管理がし難くなってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、補正演算プログラムをセンサ装置の種類毎に用意しなくても、ハードウェア構成が同一で、メモリに書き込まれた補正用情報の種類が異なる複数種のセンサ装置を提供することができる、電子機器、検出データの補正方法及びセンサ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る電子機器は、
センサ素子を有し、該センサ素子により得られる検出データを送信するセンサ装置と、
前記検出データを受信して前記検出データの補正値を演算する演算装置とを備える電子機器であって、
前記補正値を演算するための補正用情報を識別情報と共に格納するメモリを備え、
前記演算装置が、前記メモリに格納された前記補正用情報を使って前記補正値を演算する補正演算方法を、前記メモリに格納された前記識別情報に応じて切り替えることによって、前記補正値の特性が切り替わる、ことを特徴とするものである。
【0010】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る検出データの補正方法は、
センサ素子により得られる検出データを受信して前記検出データの補正値を演算する、検出データの補正方法であって、
前記補正値を演算するための補正用情報を使って前記補正値を演算する補正演算方法を、前記補正用情報を格納するメモリから読み出された識別情報に応じて切り替えることによって、前記補正値の特性を切り替える、ことを特徴とするものである。
【0011】
また、上記目的を達成するため、本発明に係るセンサ装置は、
センサ素子と、
該センサ素子により得られる検出データを受信する演算装置が前記検出データの補正値を演算するための補正用情報を識別情報と共に格納するメモリと、
前記演算装置が、前記メモリに格納された前記補正用情報を使って前記補正値を演算する補正演算方法を、前記メモリに格納された前記識別情報に応じて切り替えることによって、前記補正値の特性が切り替わるように、前記検出データ並びに前記メモリに格納された前記補正用情報及び前記識別情報を送信する送信部とを備える、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、補正演算プログラムをセンサ装置の種類毎に用意しなくても、ハードウェア構成が同一で、メモリに書き込まれた補正用情報の種類が異なる複数種のセンサ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来のピエゾ抵抗式圧力センサの構造を示す図であり、図1Aは全体構成を示す平面図、図1Bはピエゾ抵抗部におけるピエゾ抵抗素子の配置を示す平面図
【図2】ピエゾ抵抗部から構成されるブリッジ回路を示す接続図
【図3】実施の形態のピエゾ抵抗式圧力センサの構造を示す図であり、図3Aは全体構成を示す平面図、図3Bはピエゾ抵抗部におけるピエゾ抵抗素子の配置を示す平面図
【図4】異方性ドライエッチングにより形成した、実施の形態のピエゾ抵抗式圧力センサの断面図
【図5】異方性ウエットエッチングにより形成した、ピエゾ抵抗式圧力センサの断面図
【図6】温度分布シミュレーション結果を示す図であり、図6Aは従来のピエゾ抵抗式圧力センサ10の温度分布を示す図、図6Bは実施の形態のピエゾ抵抗式圧力センサの温度分布を示す図
【図7】オフセット電圧変動の測定結果を示す図であり、図7Aは従来のピエゾ抵抗式圧力センサのオフセット電圧変動を示す図、図7Bは実施の形態のピエゾ抵抗式圧力センサのオフセット電圧変動を示す図
【図8】他の実施の形態のピエゾ抵抗式圧力センサの構造を示す図であり、図8Aは全体構成を示す平面図、図8Bはピエゾ抵抗部におけるピエゾ抵抗素子の配置を示す平面図
【図9】他の実施の形態のピエゾ抵抗式圧力センサの構造を示す図であり、図9Aは全体構成を示す平面図、図9Bはピエゾ抵抗部におけるピエゾ抵抗素子の配置を示す平面図
【図10】従来の電子機器1のハードウェア構成を示した図である。
【図11】従来の補正演算プログラムのフローチャートである。
【図12】本発明の一実施形態である電子機器2のハードウェア構成を示した図である。
【図13】IDが補正用情報と補正演算式の両方に紐付けされた場合の補正演算プログラムのフローチャートである。
【図14】不揮発性メモリ63のメモリマップの第1例を示した図である。
【図15】C言語で記述した補正演算プログラムの一例である。
【図16】IDが補正用情報のみに紐付けされた場合の補正演算プログラムのフローチャートである。
【図17】不揮発性メモリ63のメモリマップの第2例を示した図である。
【図18】IDが補正演算式のみに紐付けされた場合の補正演算プログラムのフローチャートである。
【図19】不揮発性メモリ63のメモリマップの第3例を示した図である。
【図20】本発明の一実施形態である電子機器3のハードウェア構成を示した図である。
【図21】本発明の一実施形態である電子機器4のハードウェア構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。図12は、本発明の一実施形態である電子機器2のハードウェア構成を示した図である。図10と同様、マイコン70を内蔵する電子機器2は、センサ素子61によって得られる検出データの補正値を演算するための補正用情報を格納する不揮発性メモリ63を備えるセンサ装置60を部品として有している。マイコン70は、不揮発性メモリ63から読み出した補正用情報を使って、センサ素子61によって得られる検出データの補正値を演算する演算装置である。マイコン70は、通信線80を介して、センサ装置60と通信可能に接続される。
【0015】
センサ装置60は、検出対象の物理量又は化学量をアナログの電気信号に変換するセンサ素子61と、センサ素子61が出力するアナログの電気信号をデジタル信号に変換するAD変換器62と、センサ素子61によって得られる検出データの補正値を演算するための補正用情報を格納する不揮発性メモリ63と、不揮発性メモリ63に格納されたデータとAD変換器62から出力されるデジタル信号を外部に送信するインターフェイス回路を含むロジック回路64とを備えたモジュール品である。
【0016】
不揮発性メモリ63の具体例として、EEPROMが挙げられる。不揮発性メモリ63に格納された補正用情報は、センサ素子61により得られる検出データに含まれる誤差を所定範囲内に収めるためのセンサ補正値を演算するための情報である。当該誤差は、少なくとも、センサ素子61のセンサ特性のばらつきによって生ずるものである。センサ素子61のセンサ特性として、センサ素子61の感度特性、オフセット特性、ドリフト特性、温度特性、周波数特性、直線性などが挙げられる。
【0017】
センサ素子61により得られる検出データには、センサ素子61のセンサ特性のばらつきによる誤差とAD変換器62のAD変換特性のばらつきによる誤差が含まれる。両ばらつきはセンサ装置間で異なるため、補正用情報は、センサ装置毎に予め求められ、不揮発性メモリ63に書き込まれる。
【0018】
つまり、補正用情報により、センサ素子(又は、センサ装置)毎の固有のセンサ特性を補正することができる。
【0019】
また、不揮発性メモリ63には、識別情報として、IDが補正用情報と共に格納されている。IDは、補正用情報の種類及び/又は後述の補正演算式の種類に直接的又は間接的に紐付けされた(対応付けられた)データである。IDの具体例として、通し番号、記号、文字、製造時期、製造番号などが挙げられる。
【0020】
補正用情報及びIDは、センサ装置60が電子機器2の部品として出荷される前に、センサ装置60の製造者等のデータ書き込み装置によって、不揮発性メモリ63に書き込まれる。その後、電子機器2の部品として出荷されたセンサ装置60は、電子機器2の製造工程において、電子機器2の部品としてマイコン70と共に電子機器2に内蔵の基板に組み付けられる。
【0021】
したがって、マイコン70は、補正用情報の種類毎に異なるIDが付与されていれば、補正演算を行う前に当該IDを読み取ることにより、不揮発性メモリ63にどのような種類の補正用情報が格納されているのかを認識することができる。また、マイコン70は、補正演算式の種類毎に異なるIDが付与されていれば、補正演算を行う前に当該IDを読み取ることにより、どの種類の補正演算式に基づいて補正値を演算すればよいのかを認識することができる。
【0022】
不揮発性メモリ63に格納されたデータ(すなわち、補正用情報及びID)とAD変換器62から出力されるデジタル信号(すなわち、センサ素子61により検出される検出データ)は、ロジック回路64の送信部によって、通信線80を介して、マイコン70に送信される。送信部から送信されるデータは、直接、マイコン70に送信されてもよいし、所定の回路を経由して、マイコン70に送信されてもよい。通信線80は、例えば、基板の配線パターンである。ロジック回路64の送信部は、例えば、I2C,SPIなどの通信方式で、補正用情報等のデータを送信する。送信部から送信されたデータは、マイコン70のI/O部73に含まれる受信部を介して、CPU74に伝送される。
【0023】
図13は、IDが補正用情報と補正演算式の両方に紐付けされた場合の補正演算プログラムのフローチャートである。この補正演算プログラムは、図12に示したROM71に予め記憶されていて、マイコン70のCPU74によって読み出されて処理される。
【0024】
図13のステップS21において、マイコン70のCPU74は、センサ装置60と通信することによって、センサ素子61により得られる検出データを受信し、センサ装置60に内蔵される不揮発性メモリ63に格納されたデータを読み込んで、RAM72上に展開する。そして、マイコン70のCPU74は、センサ装置60の製造者から事前に提供された不揮発性メモリ63のメモリマップに従って、補正用情報及びIDを取得する。
【0025】
図13のフローチャートに表されているように、センサ素子61により得られる検出データの補正値を演算する補正演算方法は、IDの値に応じて切り替えられる。IDの値がAであれば、補正演算方法として、図13の左側のシーケンスである補正演算ロジックLAが選択され、IDの値がBであれば、補正演算方法として、図13の右側のシーケンスである補正演算ロジックLBが選択される。つまり、補正演算プログラムの中には、補正演算ロジックLAと補正演算ロジックLBが予め含まれている。
【0026】
したがって、マイコン70のCPU74は、IDの値がAの場合には、Aに紐付けされた補正用情報IAをRAM72から取得し(ステップS25)、Aに紐付けされた補正演算式EAに基づいて補正用情報IAを使って補正演算を行うことにより、センサ素子61により得られる検出データの補正値(センサ補正値)DAを算出できる(ステップS27)。一方、マイコン70のCPU74は、IDの値がBの場合には、Bに紐付けされた補正用情報IBをRAM72から取得し(ステップS29)、Bに紐付けされた補正演算式EBに基づいて補正用情報IBを使って補正演算を行うことにより、センサ補正値DBを算出できる(ステップS31)。
【0027】
図14は、1アドレス当たりのデータ格納領域が8ビットの不揮発性メモリ63のメモリマップの第1例を示した図である。マイコン70のCPU74は、センサ装置60の製造者によって図示のように予め割り振られたこのメモリマップに従って、補正用情報とIDを取得する。複数種のメモリマップにおいて、不揮発性メモリ63に保存されているIDのアドレスが共通であれば、メモリマップの種類をCPU74側で認識することができる。不揮発性メモリ63のアドレス5の値、すなわちIDがAの場合、不揮発性メモリ63には、アドレス0,1にセンサ感度補正用情報が格納され、アドレス2,3にセンサ感度の温度特性補正用情報が格納されていることが、CPU74側で認識することができる。同様に、不揮発性メモリ63のアドレス5の値、すなわちIDがBの場合、不揮発性メモリ63には、アドレス0,1にセンサオフセット補正用情報が格納され、アドレス2,3にセンサオフセットの温度特性補正用情報が格納されていることが、CPU74側で認識することができる。
【0028】
したがって、マイコン70は、取得したIDがAであれば、感度ばらつきが周囲温度によらずに極めて小さいセンサ補正値を算出することができ、取得したIDがBであれば、オフセットばらつきが周囲温度によらずに極めて小さいセンサ補正値を算出することができる。
【0029】
つまり、IDによる補正演算方法の切り替えロジックを有する図13のような補正演算プログラムに従ってセンサ補正値の特性が切り替わるように構成することによって、補正演算プログラムをセンサ装置の種類毎に用意しなくても、ハードウェア構成が同一で、メモリに書き込まれた補正用情報の種類が異なる複数種のセンサ装置を提供することができる。つまり、複数種のセンサ装置間で共通の図13に示されるような補正演算プログラムを利用することによって、ハードウェア構成が同一で、メモリに書き込まれた補正用情報の種類が異なる複数種のセンサ装置を提供しても、センサ補正値の特性をセンサ補正値の使用用途に合わせて適切に切り替えることができる。
【0030】
また、各センサ装置間で共通の補正演算プログラムの内容を変更して、センサ装置の出荷後も、演算速度や演算精度等の補正後のセンサ特性を変更・改善することができる。
【0031】
これに対し、上記のようなIDが無ければ、補正用情報と補正演算プログラムは一対一で用意される必要があり、共通の補正演算プログラムを使用することができない。また、ハードウェア上は全く同じであるため、補正用情報の種類が異なるセンサ装置が混ざると、その違いを後で識別することができない。
【0032】
図15は、C言語で記述した補正演算プログラムの一例である。図15の場合、if else文によって補正演算方法の切り替えが行われている。図15に示されているように、不揮発性メモリ63から読み出したデータをレジスタに格納すべき変数をIDに従って切り替えるようにしているので、レジスタに格納すべき変数の種類が複数あっても、共通の補正演算プログラムを用いることが可能である。
【0033】
ところで、IDは、補正演算式に紐付けされずに、補正用情報のみに紐付けされてもよい。図16は、IDが補正用情報のみに紐付けされた場合の補正演算プログラムのフローチャートである。図13と同様の部分についてはその説明を省略する。
【0034】
図16の場合、マイコン70のCPU74は、IDの値がAの場合には、Aに紐付けされた補正用情報IAを取得し(ステップS45)、IDの値によっては変更されない予め決められた補正演算式に基づいて、補正用情報IAを使って補正演算を行うことにより、センサ補正値を算出する(ステップS49)。一方、マイコン70のCPU74は、IDの値がBの場合には、Bに紐付けされた補正用情報IBを取得し(ステップS47)、IDの値がAの場合と同じ補正演算式に基づいて、補正用情報IBを使って補正演算を行うことにより、センサ補正値を算出する(ステップS49)。
【0035】
図17は、1アドレス当たりのデータ格納領域が8ビットの不揮発性メモリ63のメモリマップの第2例を示した図である。マイコン70のCPU74は、センサ装置60の製造者によって図示のように予め割り振られたメモリマップに従って、補正用情報とIDを取得する。図17のメモリマップの場合、センサ感度の温度特性補正用情報のデータ容量は、IDがAの場合、16ビットであり、IDがBの場合、8ビットである。センサ感度の温度特性補正用情報のデータが格納されるアドレスは、IDがAの場合、アドレス2,3であり、IDがBの場合、アドレス2である。また、センサオフセット補正用情報のデータ容量は、IDがAの場合、8ビットであり、IDがBの場合、16ビットである。センサオフセット補正用情報のデータが格納されるアドレスは、IDがAの場合、アドレス4であり、IDがBの場合、アドレス3,4である。
【0036】
補正演算については、例えば8ビットの情報は8ビットのシフト演算をして、16ビット相当のデータに変換すれば、異なるID間であっても、同じ補正演算プログラムの利用ができる。
【0037】
したがって、マイコン70は、取得したIDがAであれば、オフセット特性の補正精度が低くセンサ感度の温度特性の補正精度が高いセンサ補正値を算出でき、取得したIDがBであれば、オフセット特性の補正精度が高くセンサ感度の温度特性の補正精度が低いセンサ補正値を算出できる。
【0038】
また、IDは、補正用情報に紐付けされずに、補正演算式のみに紐付けされてもよい。図18は、IDが補正演算式のみに紐付けされた場合の補正演算プログラムのフローチャートである。図13と同様の部分についてはその説明を省略する。
【0039】
図18の場合、マイコン70のCPU74は、センサ装置60の製造者から事前に提供された不揮発性メモリ63のメモリマップに従って、補正用情報を取得する(ステップS53)。このメモリマップは、IDの値によっては変更されない予め決められたマップである。マイコン70のCPU74は、IDの値がAの場合には、Aに紐付けされた補正演算式EAに基づいて、ステップS53で取得した補正用情報を使って補正演算を行うことにより、センサ補正値DAを算出する(ステップS57)。一方、マイコン70のCPU74は、IDの値がBの場合には、Bに紐付けされた補正演算式EBに基づいて、ステップS53で取得した補正用情報を使って補正演算を行うことにより、センサ補正値DBを算出する(ステップS59)。
【0040】
図19は、1アドレス当たりのデータ格納領域が8ビットの不揮発性メモリ63のメモリマップの第3例を示した図である。マイコン70のCPU74は、センサ装置60の製造者によって図示のように予め割り振られたメモリマップに従って、補正用情報とIDを取得する。図19のメモリマップの場合、IDの値がAの場合もBの場合も、補正用情報の種類は同じである。この場合、マイコン70は、取得したIDがAであれば、Aに紐付けされた補正演算式EAで補正演算を行い、取得したIDがBであれば、Bに紐付けされた補正演算式EBで補正演算を行う。この場合の補正演算式EAの補正精度は、補正演算式EBに比べて高い。また、補正精度が高いと演算が複雑になるため、補正演算式EAの演算速度は、補正演算式EBに比べて短い。
【0041】
これにより、センサ製造者は、マイコン70の性能や要求精度に合わせて、最適な補正方法を提供することができる。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0043】
図20は、本発明の一実施形態である電子機器3のハードウェア構成を示した図である。電子機器3は、センサ装置90と、センサ装置90に通信線80及び信号線81を介して接続されたマイコン100とを備えている。AD変換器62は、センサ装置に設けずに、図20に示されるように外部のマイコン100などの演算装置に内蔵されてもよいし、そのような演算装置の外部にあってもよい。また、センサ素子61により得られるアナログ検出データを増幅して信号線81を介してAD変換器62に向けて出力するアンプ65は、無くてもよい。
【0044】
図21は、本発明の一実施形態である電子機器4のハードウェア構成を示した図である。電子機器4は、センサ装置110と、メモリ装置120と、マイコン130とを備えている。不揮発性メモリ63は、必ずしも物理的にセンサ素子と一体化している必要はない。ただし、論理的には、センサ素子と不揮発性メモリのデータは紐付けされている必要がある(例えば、センサ装置110と不揮発性メモリ63を内蔵するメモリ装置120が、常にセットで、マイコン130に接続される場合など)。また、図20と同様に、アンプ65は無くてもよい。
【0045】
また、上述の実施例では2つの補正演算方法を予め用意してその2つの補正演算方法を2つのIDに従って切り替えるものであったが、3つ以上の補正演算方法を予め用意してそれらの3つ以上の補正演算方法を3つ以上のIDに従って切り替えてもよい。
【0046】
また、センサ素子61によって検出される物理量又は化学量は、特に限定しなくてもよく、例えば、圧力、加速度、温度、ヨーレートなどが挙げられる。また、センサ素子61が、気体等の流体の圧力を被測定圧として検出するダイヤフラムが形成された半導体素子の場合、ダイヤフラムの歪みを抵抗値の変化として検出する半導体歪みゲージ方式の素子でもよいし、ダイヤフラムの変位を静電容量の変化として検出する静電容量方式の素子でもよいし、他の検出方式で被測定圧を検出する素子でもよい。センサ素子61が圧力を検出する素子の場合、上述の本発明の実施形態である電子機器は、例えば、圧力計に相当する。
【0047】
次に、センサ素子61の具体例として、ピエゾ抵抗式圧力センサについて説明する。
【0048】
図3に、本発明の実施の形態に係るピエゾ抵抗式圧力センサの構造を示す。図3Aに示すように、ピエゾ抵抗式圧力センサ30は、ダイヤフラム31と、支持部32とを有する。ダイヤフラム31は、支持部32によって周辺から支持される。これにより、ダイヤフラム31は、支持部32によって周辺が固定された状態で、加えられた圧力に応じて変位するようになっている。
【0049】
ダイヤフラム31の周縁部(ダイヤフラム31の4辺近傍のダイヤフラム31上、或いは、ダイヤフラム31と支持部32との境界に近いダイヤフラム31上と言い換えてもよい)には、ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4が配置されている。各ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4は、複数のピエゾ抵抗素子を有する。
【0050】
図3Bに、ピエゾ抵抗部R1におけるピエゾ抵抗素子の配置を示す。図の例では、ピエゾ抵抗部R1は、X軸に平行な4つのピエゾ抵抗素子R1−1,R1−2,R1−3,R1−4を有する。
【0051】
複数のピエゾ抵抗素子R1−1,R1−2,R1−3,R1−4は、所定の間隔を隔てて互いに平行に配置されている。加えて、ピエゾ抵抗素子R1−1,R1−2,R1−3,R1−4からなるピエゾ抵抗素子群が配置される領域の外形形状は、略正方形状とされている。つまり、図3Bにおいて、a=bとされている。換言すれば、ピエゾ抵抗素子R1−1,R1−2,R1−3,R1−4とピエゾ抵抗素子の無い部分とで構成される領域が、概略正方形になるようにピエゾ抵抗素子R1−1,R1−2,R1−3,R1−4が配置されている。
【0052】
ピエゾ抵抗素子R1−1,R1−2,R1−3,R1−4は、導電線(例えば拡散配線)33−1,33−2,33−3によって直列に接続されている。なお、ピエゾ抵抗素子R1−1の右端部及びR1−4の右端部は、ブリッジ回路の端子(例えばアルミニウム配線)に接続される。ピエゾ抵抗部R2,R3,R4におけるピエゾ抵抗素子の配置も、図3Bと同様であり、ピエゾ抵抗素子R1−1,R1−2,R1−3,R1−4とピエゾ抵抗素子の無い部分とで構成される領域の面積もすべて同じでる。
【0053】
また、ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4は、ダイヤフラム31と支持部32との境界までの距離が同一となるよう配置されている。
【0054】
ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4によって構成されるブリッジ回路の様子は、図2に示した通りである。ブリッジ回路の隣り合うピエゾ抵抗部(R1,R3とR2,R4)の抵抗変化が逆になるように(つまりピエゾ抵抗部R1とR3は抵抗変化が同じであり、ピエゾ抵抗部R2とR4はピエゾ抵抗部R1とR3とは抵抗変化が逆となるように)、ピエゾ抵抗素子が配置される。
【0055】
図4に、ピエゾ抵抗式圧力センサ30の断面を示す。図4は、ピエゾ抵抗部R1,R3を通る面で切った概略的断面図である。
【0056】
図4に示すピエゾ抵抗式圧力センサ30は、上側からSi、SiO、Siの順で積層された基板を用意し、この基板の下側からSiOをエッチストッパとした異方性ドライエッチングを行ってSiを除去し、その後にSiOを除去することにより、ダイヤフラム31と支持部32とが形成される。また、ダイヤフラム31と支持部32との境界近傍のダイヤフラム31上には、拡散やイオン注入などの半導体プロセスによって、ボロンなどのP型不純物よりなるピエゾ抵抗部R1,R3が形成される。
【0057】
図4からも分かるように、本実施の形態のピエゾ抵抗式圧力センサ30は、異方性ドライエッチングを適用したことにより、ダイヤフラム31の面に対して、支持部32を略直角に配置することができる。これにより、ダイヤフラム31の面積を大きくすることができるようになる。
【0058】
これに対して、異方性ウエットエッチングを適用した場合には、図5に示すように、支持部にテーパ部が形成されてしまうので、図4と比較して、ダイヤフラム31の面積が小さくなり、その結果、測定感度が低下する。また、測定感度を上げるためにダイヤフラムの面積を大きくしようとすると、装置全体が大型化してしまう。
【0059】
つまり、本実施の形態では、異方性ドライエッチングによってダイヤフラム31及び支持部32を形成することで、小型で感度の良いピエゾ抵抗式圧力センサ30を得るようになっている。但し、本発明はこれに限らず、異方性ウエットエッチングを適用してもよい。
【0060】
次に、ピエゾ抵抗式圧力センサ30の動作について説明する。
【0061】
ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4に電源が投入されると、各ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4のピエゾ抵抗素子が発熱することにより、各ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4は発熱する。
【0062】
各ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4の熱は、ダイヤフラム31よりも厚い支持部32へと放熱される。この際、本実施の形態のピエゾ抵抗式圧力センサ30においては、各ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4のピエゾ抵抗素子群の外形形状が略正方形状とされているので、X軸方向への放熱とY軸方向への放熱が均一になる。この結果、4つのピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4の温度分布が均一になる。
【0063】
ここで、X軸方向への放熱とY軸方向への放熱が均一になるのは、全てのピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4の間で支持部32に向かい合う部分の大きさが同じであるからである。因みに、図1に示したピエゾ抵抗式圧力センサ10では、ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4の外形形状が、X軸方向に長く,Y軸方向に短いため、Y軸方向への放熱がX軸方向への放熱よりも大きくなる。この結果、図1に示したピエゾ抵抗式圧力センサ10では、ピエゾ抵抗部R1,R3の温度分布とピエゾ抵抗部R2,R4の温度分布とが異なるものとなってしまう。
【0064】
本実施の形態のピエゾ抵抗式圧力センサ30は、4つのピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4の温度分布が均一になるので、温度上昇によるピエゾ抵抗の抵抗値変化が均一となる。この結果、電源投入時の抵抗値変化に起因するオフセット電圧の変動が抑制される。また、温度上昇に伴うダイヤフラム31上での応力変化が均一になる。この結果、電源投入時に応力変化に起因するオフセット電圧の変動が抑制される。
【0065】
ピエゾ抵抗式圧力センサ30は、上述したようにオフセット電圧の変動が小さくなることにより、圧力を測定する際の出力電圧の変動が小さくなり、高精度の測定結果を得ることができる。
【0066】
図6に、ダイヤフラム中心から支持部までのX軸及びY軸上の温度分布をシミュレーションした結果を示す。図6Aは、図1に示した従来のピエゾ抵抗式圧力センサ10の温度分布を示す。図6Bは、図3に示した本実施の形態のピエゾ抵抗式圧力センサ30の温度分布を示す。従来のピエゾ抵抗式圧力センサ10の温度分布はX軸とY軸との間でずれている(図6A)のに対して、本実施の形態のピエゾ抵抗式圧力センサ30の温度分布はX軸とY軸との間で一致している(図6B)ことが分かる。
【0067】
図7に、ブリッジ回路への電源投入時からのオフセット電圧変動の測定結果を示す。図7Aは、図1に示した従来のピエゾ抵抗式圧力センサ10のオフセット電圧変動を示す。図7Bは、図3に示した本実施の形態のピエゾ抵抗式圧力センサ30のオフセット電圧変動を示す。従来のピエゾ抵抗式圧力センサ10と比較して、本実施の形態のピエゾ抵抗式圧力センサ30は、オフセット電圧変動が小さくなっているのが分かる。なお、一般に、オフセット電圧変動の許容値は、0.3%FS程度である。
【0068】
以上説明したように、本実施の形態によれば、ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4はダイヤフラム31と支持部32との境界近傍のダイヤフラム31上に配置され、かつ、各ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4はピエゾ抵抗素子群の外形形状が略正方形状とされているので、測定感度を低下させることなく、ピエゾ抵抗素子の熱変動に起因する通電変動を抑制できる。
【0069】
つまり、ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4は、圧力変化によってダイヤフラムの変動が最も大きくなる、ダイヤフラム31と支持部32との境界近傍のダイヤフラム31上に配置されているので、測定感度が高くなる。但し、ダイヤフラム31と支持部32との境界近傍は、温度分布が急峻な位置、つまりダイヤフラム31上で温度変化が最も大きい位置なので、ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4間での温度の不均一が最も現れやすい位置である。本実施の形態では、これを考慮して、各ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4のピエゾ抵抗素子群配置領域の外形形状を同形状の略正方形状とし、各ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4と支持部32との境界までの距離を等しくすることで、温度分布が急峻な位置であるダイヤフラム31と支持部32との境界近傍にピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4が配置された場合でも、温度を均一化できるので、測定感度を低下させることなく、ピエゾ抵抗素子の熱変動に起因する通電変動を抑制する。
【0070】
なお、上述の実施の形態では、図3に示したように、各ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4が4つのピエゾ抵抗素子を有する場合について述べたが、ピエゾ抵抗素子の個数はこれに限らない。例えば、図8のピエゾ抵抗式圧力センサ40のように、各ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4が2つのピエゾ抵抗素子を有するようにしてもよく、図9のピエゾ抵抗式圧力センサ50のように、各ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4が3つのピエゾ抵抗素子を有するようにしてもよい。また、各ピエゾ抵抗部R1,R2,R3,R4を構成しているピエゾ抵抗素子群が配置される領域の外形形状が略正方形状(つまりa=b)である場合について述べたが、ピエゾ抵抗素子群が配置される領域の外形は同一でかつ面積が同じであれば上述の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0071】
本発明に係るピエゾ抵抗式圧力センサは、気体や液体の圧力、さらには人間による押圧操作等の圧力を検出する場合に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1,2,3,4 電子機器
10,30,40,50 ピエゾ抵抗式圧力センサ
11,31 ダイヤフラム
12,32 支持部
21,33−1,33−2,33−3 導電線
60,90 センサ装置
70,100,110 マイコン
80 通信線
81 信号線
120 メモリ装置
R1,R2,R3,R4 ピエゾ抵抗部
R1−1,R1−2,R1−3,R1−4 ピエゾ抵抗素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ素子を有し、該センサ素子により得られる検出データを送信するセンサ装置と、
前記検出データを受信して前記検出データの補正値を演算する演算装置とを備える電子機器であって、
前記補正値を演算するための補正用情報を識別情報と共に格納するメモリを備え、
前記演算装置が、前記メモリに格納された前記補正用情報を使って前記補正値を演算する補正演算方法を、前記メモリに格納された前記識別情報に応じて切り替えることによって、前記補正値の特性が切り替わる、電子機器。
【請求項2】
前記補正値の特性として、前記補正値の補正精度が切り替わる、請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記センサ装置が、前記メモリを内蔵する、請求項1又は2に記載の電子機器。
【請求項4】
センサ素子により得られる検出データを受信して前記検出データの補正値を演算する、検出データの補正方法であって、
前記補正値を演算するための補正用情報を使って前記補正値を演算する補正演算方法を、前記補正用情報を格納するメモリから読み出された識別情報に応じて切り替えることによって、前記補正値の特性を切り替える、検出データの補正方法。
【請求項5】
センサ素子と、
該センサ素子により得られる検出データを受信する演算装置が前記検出データの補正値を演算するための補正用情報を識別情報と共に格納するメモリと、
前記演算装置が、前記メモリに格納された前記補正用情報を使って前記補正値を演算する補正演算方法を、前記メモリに格納された前記識別情報に応じて切り替えることによって、前記補正値の特性が切り替わるように、前記検出データ並びに前記メモリに格納された前記補正用情報及び前記識別情報を送信する送信部とを備える、センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−58192(P2012−58192A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204409(P2010−204409)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000006220)ミツミ電機株式会社 (1,651)
【Fターム(参考)】