説明

電子部品の実装方法及び実装装置

【課題】 弾性体を用いた熱圧着の利点を活かしながら、ボイドの発生を最小限に抑え、接続不良の発生を大幅に低減することが可能な電子部品の実装方法及び実装装置を提供する。
【解決手段】 配線基板11上に接着剤(例えば異方導電性接着フィルム13)を介して電子部品(ICチップ12)を配置し、弾性体からなる圧着部4を備えた熱圧着ヘッド2により電子部品であるICチップ12を加圧するとともに、異方導電性接着フィルム13を加熱し、ICチップ12を配線基板11に熱圧着する。この時、異方導電性接着フィルム13の温度が異方導電性接着フィルム13に含まれる結着樹脂13aの硬化開始温度Kに到達する前に、熱圧着ヘッド2による加圧力が所定の圧力(ボイドを追い出すのに必要な圧力)に到達するように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体素子等の電子部品を異方導電性接着フィルム等を介して配線基板上に実装する電子部品の実装方法及び実装装置に関するものであり、特に、弾性体を用いて電子部品を加圧し熱圧着する電子部品の実装方法及び実装装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体素子の配線基板への実装においては、いわゆるフェースダウン状態で配線基板上に実装するフリップチップ実装法が提案されており、電極間の電気的接続及び半導体素子の物理的固定のために、異方導電性接着フィルム(ACF)が用いられている。異方導電性接着フィルムは、接着剤として機能する結着樹脂中に導電性粒子が分散されたものであり、配線基板上の電極と対向する半導体素子の電極間にこれを挟み込み、加熱加圧することにより前記導電性粒子が電極間で押し潰され、電極間の電気的な接続が図られる。電極の無い部分では、導電性粒子は結着樹脂中に分散した状態が維持され、電気的に絶縁された状態が保たれるので、電極のある部分でのみ電気的導通が図られることになる。
【0003】
異方導電性接着フィルムを用いた半導体素子の実装方法では、異方導電性接着フィルムを貼り付けた配線基板上に半導体素子を配置した後、異方導電性接着フィルムを加熱しながら半導体素子を熱圧着ヘッドで加圧し、電極間の導電性粒子を押し潰すとともに異方導電性接着フィルムを硬化させ、半導体素子の熱圧着を行う。この場合、熱圧着ヘッドとしては、例えばセラミック製のヘッドや金属製のヘッド等の硬質の熱圧着ヘッドが用いられているが、均一な加圧が難しく、半導体素子の周囲に対する加圧不足等により接続信頼性が低下したり、複数の半導体素子を一括して実装することが難しい等の問題がある。さらには、硬質の熱圧着ヘッドを用いた場合には、半導体素子に過剰な衝撃が加わるおそれもあり、それによる半導体素子の損傷等も懸念される。
【0004】
このような状況から、近年、シリコーンゴム等の弾性体からなる熱圧着ヘッドを用いて半導体素子等の電子部品を加圧し、前述の熱圧着を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1や特許文献2等を参照)。
【0005】
例えば、特許文献1には、接着剤を用いて電気部品を配線基板上に熱圧着する工程を有し、当該熱圧着の際に、所定のゴム硬度を有するエラストマーからなる圧着部を用い、電気部品の頂部領域を所定の圧力で押圧する一方、電気部品の側部領域を頂部領域に対する圧力より小さい圧力で押圧する電気部品の実装方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、チップ高さの異なる場合や基板の両面に実装する場合に有効な実装法が開示されており、基板上の電極形成面とチップ電極面間に接着剤を介在させ、基板の電極とこれに相対峙するチップ電極を位置合わせした状態で、チップ背面に緩衝層を介在させて加熱加圧することが開示されている。
【特許文献1】特許第3921459号公報
【特許文献2】特開平10−256311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のような弾性体からなる熱圧着ヘッドを用いた実装方法を採用すれば、衝撃による電子部品の破損を回避することができ、複数の電子部品を一括して実装することが可能である。また、均一な加圧が可能となり、接続信頼性を確保することが可能である。
【0008】
しかしながら、本発明者が更なる検討を重ねたところ、弾性体からなる熱圧着ヘッドを用いた実装においては、接続信頼性の点で課題を残していることがわかってきた。具体的には、弾性体からなる熱圧着ヘッドを用いた場合、ボイドが抜けきらない現象が発生することがあり、これが接続不良等の原因となっている。特に、厚さの薄いリジッド配線基板やフレキシブル配線基板への熱圧着においては、基台からの熱の伝わりが早く、前記傾向が顕著である。同様に、常時加熱方式等を採用した場合にも、パルスヒート方式を採用した場合等に比べて異方導電性接着フィルムの温度上昇速度が著しく早くなり、接続不良の発生が著しい。
【0009】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、弾性体を用いた熱圧着の利点を活かしながら、ボイドの発生を最小限に抑え、接続不良の発生を大幅に低減することが可能な電子部品の実装方法及び実装装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的を達成するために、本発明の実装方法は、配線基板上に接着剤を介して電子部品を配置し、弾性体により電子部品を加圧するとともに接着剤を加熱し、電子部品を熱圧着する電子部品の実装方法であって、前記接着剤の温度が当該接着剤の硬化開始温度に到達する前に、前記弾性体による加圧力が所定の圧力に到達するように設定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の実装装置は、加熱手段を有し配線基板を支持する基台と、弾性体からなり配線基板上に接着剤を介して配置される電子部品を加圧する熱圧着ヘッドとを備え、熱圧着ヘッドにより電子部品を加圧するとともに接着剤を加熱し、電子部品を熱圧着する電子部品の実装装置であって、前記接着剤の温度が当該接着剤の硬化開始温度に到達する前に、前記弾性体による加圧力が所定の圧力に到達するように設定されていることを特徴とする。
【0012】
本発明者が種々検討を重ねたところ、例えば接着剤の温度上昇速度が速い場合、弾性体を用いた熱圧着では所定の圧力が加わる前に接着剤の硬化が始まり、このことが接続不良の発生の原因となっていることがわかってきた。所定の圧力が加わる前に接着剤の硬化が始まると、ボイドが抜けきらないうちに硬化が進行し、導通不良が多発する。弾性体による加圧では、硬質の熱圧着ヘッドを用いた場合と比較して加わる圧力の立ち上がりカーブが緩やかであり、このことが加熱先行となる原因の一つと考えられる。
【0013】
これらの知見から、本発明者は、所定の圧力(接着剤中のボイドを排除し得る必要圧力)に到達するタイミングと加熱のタイミングとを適正なものとすることで、ボイドの発生を回避することができるものと考え、本願発明を案出するに至った。本発明では、接着剤の温度が当該接着剤の硬化開始温度に到達する前に、弾性体による加圧力が所定の圧力に到達するように設定しているので、ボイドが抜けきらないうちに硬化が進行することがない。したがって、ボイドレス実装が実現され、接続信頼性が保たれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実装方法及び実装装置によれば、ボイドの発生を最小限に抑えることができ、接続信頼性に優れた電子部品の実装状態を実現することが可能である。また、本発明の実装方法及び実装装置においては、熱圧着ヘッドに弾性体を用いたことによる利点はそのまま享受することができ、電子部品に過剰な衝撃が加わることがなく、均一な加圧を実現し、複数の電子部品を一括して実装することが可能である。さらに、本発明の実装方法及び実装装置においては、実装装置の装置構成をほとんど変更する必要がなく、設備投資の点でも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を適用した電子部品の実装方法及び実装装置について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
先ず、電子部品の実装に用いられる実装装置の構成例について説明する。図1は、実装装置の一例を示すものであり、当該実装装置は、配線基板11を載置する基台1と、電子部品であるICチップ12を加圧する熱圧着ヘッド2とを備えて構成されている。
【0017】
配線基板11には配線パターン11aが形成されており、一方、ICチップ12には接続用のバンプ12aが形成されている。そして、これら配線基板11とICチップ12間に結着樹脂13a中に導電性粒子13bが分散された異方導電性接着フィルム13を接着剤として挟み込み、熱圧着することにより、ICチップ12の配線基板11への実装が行われる。
【0018】
ここで、前記基台1は、例えば金属等により形成され、内部に加熱ヒータ3等の加熱手段が内蔵されている。基台1に内蔵された加熱ヒータ3によって基台1上に載置された配線基板11の加熱を行うことにより、異方導電性接着フィルム13に熱が伝達され、硬化開始温度以上に加熱される。加熱方式としては、常時加熱方式やパルスヒート方式等が知られているが、いずれを採用してもよい。
【0019】
熱圧着ヘッド2は、弾性体からなる圧着部4と、当該圧着部4を保持する金属製のヘッド本体5とから構成され、ヘッド本体5の凹部内に圧着部4が収容された形で取り付けられている。ICチップ12には、弾性体からなる圧着部4が当接し、加圧が行われる。したがって、圧着部4のICチップ12と当接する圧着面4aの面積は、ICチップ12の頂部の面積よりも大とされている。また、弾性体からなる圧着部4の厚さは、ICチップ12の厚さと同等以上とされている。
【0020】
前述の通り、熱圧着ヘッド2の圧着部4は弾性体により形成されている。弾性体としては、例えば各種エラストマー等が用いられるが、用いるエラストマーの種類は任意である。ただし、接続信頼性を向上させる観点からは、日本工業規格(JIS S 6050)に規定されるゴム硬度が40以上、80以下のエラストマーを用いることが好ましい。具体的には、天然ゴムや合成ゴム等を挙げることができるが、耐熱性や耐油性に優れることからシリコーンゴム等が好適である。
【0021】
以上の構成を有する実装装置を用いてICチップ12を配線基板11に実装するには、図1に示すように、配線基板11を基台1上に設置し、さらに配線基板11上に異方導電性接着フィルム13を配置する。さらに、その上にICチップ12をバンプ12aが所定の配線パターン11aと対向するように載置する。
【0022】
この状態で熱圧着を行うが、熱圧着に際しては、図2に示すように、熱圧着ヘッド2の圧着部4をICチップ12に押し当て、所定の設定圧力で加圧するとともに、基台1に設けられた加熱ヒータ3により異方導電性接着フィルム13を加熱する。熱圧着時には、熱圧着ヘッド2の圧着部4が弾性変形し、ICチップ12の頂部のみならず、周辺部も圧着部4による加圧力が加わる。
【0023】
異方導電性接着フィルム13においては、前記熱圧着ヘッド2による加圧により、配線パターン11aとバンプ12aとが対向する部分において導電性粒子13bが圧潰し、配線パターン11aとバンプ12aの間の電気的導通が図られる。また、接着剤である結着樹脂13aは、硬化開始温度以上に加熱されると硬化が始まり、ICチップ12が配線基板11に対して機械的に固定される。
【0024】
以上のような熱圧着においては、熱圧着ヘッド2の圧着部4に弾性体を用いているので、設定圧力に到達するまでの圧力カーブが曲線的になり、例えば金属ヘッドを用いた場合に比べて設定圧力に到達するまでに時間を要することになる。図3は、弾性体ヘッドを用いた熱圧着の際の圧力カーブと、金属ヘッドを用いた熱圧着の際の圧力カーブとを比較して示す図である。
【0025】
金属ヘッドを用いてICチップ12を加圧する場合、加わる圧力が直線的に上昇し、短時間のうちに設定圧力(ここではP1)に到達する。設定圧力に到達するまでの時間T1は、概ね0.3秒である。これに対して、弾性体ヘッドを用いてICチップ12を加圧する場合には、熱圧着ヘッド2の加圧力が弾性体からなる圧着部4で緩和され、曲線状に圧力が上昇する。設定圧力に到達するまでの時間T2(図3において、設定圧力P1に到達した後の圧力カーブ(直線)を延長し、この直線に対する曲線の接点を前記到達時点T2とする。)は、概ね2.5秒である。同様に、異方導電性接着フィルム13に加わる加圧力が所定の圧力(ボイドを十分に排除し得る圧力。以下、必要圧力と称する。)(ここではP2)に到達する前に硬化開始温度に到達すると、ボイド抜けが不十分となるおそれがあるが、前記必要圧力に到達するまでの時間T3にも遅れが生ずる。
【0026】
一方、配線基板11として用いられるリジッド基板の薄型化に伴い、基台1からの熱の伝達が速くなる傾向にあり、特に、常時加熱方式を採用した場合には、パルスヒート方式を採用した場合に比べて温度上昇速度が著しく速くなる。配線基板11としてフレキシブルプリント基板等を用いた場合にも同様である。
【0027】
このような状況においては、接着剤である異方導電性接着フィルム13に加わる圧力プロファイルと温度プロファイルの関係は、図4に示すようなものとなる。すなわち、弾性体を用いた熱圧着ヘッドによる緩慢な圧力上昇と、急激な温度上昇の結果、圧力プロファイルにおける必要圧力到達時よりも前に、温度プロファイルにおいて硬化開始温度Kに到達する。具体的には、圧力プロファイルにおいて必要圧力に到達する時点をT、温度プロファイルにおいて硬化開始温度Kに到達する時点をtとすると、硬化開始温度Kに到達する時点tが必要圧力に到達する時点Tよりも早くなる。
【0028】
なお、接着剤である異方導電性接着フィルム13における硬化開始温度Kは、結着樹脂13aが熱硬化性の接着剤である場合には、溶融粘度変化から求めることが可能である。前記溶融粘度変化においては、温度上昇とともに結着樹脂13aの粘度が次第に低下し、最低溶融粘度を示した後に急激に粘度が上昇する。この最低溶融粘度を示す温度が硬化開始温度Kである。
【0029】
前述のように硬化開始温度Kに到達する時点tが必要圧力に到達する時点Tよりも早くなると、すなわち硬化開始温度K到達時に必要圧力に未到達であると、異方導電性接着フィルム13に対して所定の圧力がかかりきる前に硬化が開始されることになり、ボイドが抜けきらずに信頼性の低下を引き起こすことになる。
【0030】
そこで、本発明においては、加圧のタイミングや加熱のタイミング等を調整することにより、図5に示すように、温度プロファイルにおいて硬化開始温度Kに到達する時点tよりも前に、圧力プロファイルにおいて必要圧力に到達するようにする。すなわち、必要圧力に到達する時点Tを硬化開始温度Kに到達する時点tよりも早くする。なお、必要圧力に到達する時点Tと硬化開始温度Kに到達する時点tとが同時である場合は、本発明の範囲には含まれない。
【0031】
図5に示すように、異方導電性接着フィルム13の温度が硬化開始温度Kに到達する前に必要圧力への到達が完了していれば、異方導電性接着フィルム13中のボイドを十分に追い出すことができ、硬化後にはボイドが抜けきり接続信頼性が大幅に向上する。
【0032】
ここで、前記必要圧力は、例えば実装するICチップ12のサイズ(厚さ)や熱圧着ヘッド2の圧着部4のゴム硬度等によって決まる。図6は、前記圧着部4のゴム硬度を40(線a)、60(線b),80(線c)とした場合について、それぞれICチップ12の厚さと単位面積(1cm)当たりの必要圧力の関係を示すものである。ICチップ12の厚さが厚いほど、またゴム硬度が高いほど、必要圧力が大きくなる傾向にある。この図6に基づき必要圧力を求め、前述のように、必要圧力に到達する時点Tを硬化開始温度Kに到達する時点tよりも早くする。例えば、圧着部4のゴム硬度が40でありICチップ12の厚さが0.6mmである場合、必要圧力は約22.4kgf/cmである。この場合には、必要圧力である22.4kgf/cmに到達する時点Tを硬化開始温度Kに到達する時点tよりも早くする。
【0033】
前記必要圧力は、図6に基づいて式(1)に示すように一般式化することができる。
P=aD+b ・・・(1)
前記(1)式において、Pは必要圧力(kgf/cm)、DはICチップの厚さ(cm)、aは図6の各直線の傾き(kgf/cm・cm)、bは図6の各直線の切片(kgf/cm)である。図6において、ゴム硬度40の場合はP=73.4D+18.0、ゴム硬度60の場合はP=122.4D+19.7、ゴム硬度80の場合はP=224.6D+21.1である。
【0034】
これら直線から前記a,bを算出することができる。図7は、ゴム硬度とa,bの値の関係を示す図である。ゴム硬度をxとすると、a=23.6e0.0279x、b=0.0775x+15.0なる関係を有する。したがって、前記圧着部4のゴム硬度を代入することで前記a,bの値を求めることができ、さらにこれらa,bの値とICチップの厚さを代入することで、(1)式から必要圧力を算出することができる。算出される必要圧力の75%以上の圧力であればボイドはある程度抑えることが可能であること等を考慮すると、(1)式で算出された圧力P×0.75を前記必要圧力の下限とすればよい。
【0035】
なお、通常は前記設定圧力が前記必要圧力となるように設定するので、前記必要圧力に到達する時点Tは、設定圧力に到達する時点と同じになる。ただし、前記設定圧力が必要圧力よりも高くなるように設定することも可能であり、この場合には、先に必要圧力に到達することになるが、このような場合にも、必要圧力に到達する時点Tが硬化開始温度Kに到達する時点tよりも早くなるように設定すればよい。例えば、前記の通り、圧着部4のゴム硬度が40でありICチップ12の厚さが0.6mmである場合、必要圧力は約22.4kgf/cmであるが、この場合に装置側の設定圧力を22.4kgf/cm以上、例えば25kgf/cmとすることも可能である。このような場合にも、必要圧力である22.4kgf/cmに到達する時点Tを硬化開始温度Kに到達する時点tよりも早くすればよい。
【0036】
前述のように、異方導電性接着フィルム13の温度が硬化開始温度Kに到達する前に必要圧力への到達を完了するためには、昇温速度を緩やかにしたり、熱圧着ヘッド2による加圧を早めに開始すればよい。例えば、加熱方式としてパルスヒート方式を採用した場合には、加熱のタイミングを比較的自由に設定することができ、加圧が十分された後に昇温を開始すればよい。
【0037】
加熱方式として常時加熱方式を採用した場合には、温度上昇速度を遅くするために、基台1と配線基板11の間に金属板や樹脂板等の熱伝導を抑制する部材を介在させ、温度上昇をコントロールするようにすることも有効である。
【0038】
また、例えば熱圧着ヘッド2による加圧を加熱前に開始し、必要圧力に到達してから加熱を開始する等、加圧と加熱のタイミングを調整することで前記設定とすることも可能であるが、この場合には、1回の操作に要する時間が長くなることになる。1回当たりの実装に要する時間は極力短くすることが要求されており、この点を考慮すると、加圧と加熱は同時に開始し、温度上昇の傾きを調整する等により前記設定とすることが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の具体的な実施例について、実験結果を基に説明する。
【0040】
使用した実装装置、配線基板、ICチップ及び異方導電性接着フィルムの構成
実装装置としては、熱圧着ヘッドの圧着部に弾性体(シリコーンゴム)を組み込んだ実装装置を用いた。前記シリコーンゴムのゴム硬度は60度(JIS S 6050に準拠)である。
【0041】
配線基板としては、厚さ0.6mmのガラスエポキシ基板を用いた。配線パターンの仕様は、Cu+Ni−Auである。すなわち、幅90μm、ピッチ150μmの銅(Cu)パターンを形成し、その上にニッケル−金めっきを施した。ICチップとしては、サイズが6.3mm×6.3mm、厚さが0.4μmのICチップを使用した。ICチップのバンプ電極はAuスタッドバンプであり、150μmピッチで形成されている。バンプ高さは30μm〜35μmである。
【0042】
異方導電性接着フィルム(ACF)としては、ソニーケミカル&インフォメーションデバイス社製、商品名FP5530(厚さ50μm)を用いた。用いた異方導電性接着フィルムの溶融粘度カーブを図8に示す。図8から、用いた異方導電性接着フィルムの硬化開始温度Kは、100℃と算出された。なお、溶融粘度カーブの測定条件は下記の通りである。
[測定条件]
測定装置:HAAKE RS150
周波数 :1.0Hz
測定温度:30℃〜180℃
昇温条件:10℃/min
使用プローブ:直径20mm(20φ)
圧力 :一定
【0043】
実施例
前述の実装装置、配線基板、ICチップ及び異方導電性接着フィルムを用い、ICチップを配線基板に対して熱圧着した。熱圧着に際しては、図5に示すようなプロファイル[異方導電性接着フィルムの温度が硬化開始温度K(100℃)に到達する前に必要圧力(=設定圧力)への到達が完了]で加熱及び加圧を行った。実装条件は、到達温度180℃、必要圧力(=設定圧力)25.2kgf/cm、熱圧着時間20秒とした。実施例における実際の圧力カーブ及び温度カーブを図9に示す。なお、異方導電性接着フィルムの温度は、異方導電性接着フィルム中に直接温度計を差し込んで実測した。圧力値は、熱圧着ヘッドに加わる圧力を実装装置側で計測した値を用いた。なお、計測される圧力には0.1kgf/cm程度の誤差がある。
【0044】
比較例
熱圧着時の加熱及び加わる圧力のプロファイルを図4に示すようなプロファイル[異方導電性接着フィルムが硬化開始温度K(100℃)に到達した時に必要圧力(=設定圧力)に未到達]とし、他は実施例と同様にICチップを配線基板に対して熱圧着した。
【0045】
評価
実施例及び比較例においてICチップを熱圧着した配線基板に対し、吸湿処理及びリフロー処理を行った後、導通チェーン抵抗を測定し、超音波顕微鏡により内部気泡(ボイド)の発生状態を観察した。吸湿処理は、85℃、相対湿度60%、168時間(JEDEC Level2)とした。リフロー条件としては、ピーク温度265℃、3回とした。
【0046】
導通チェーン抵抗は、初期(吸湿処理及びリフローを行う前)と、処理後(吸湿処理及びリフローを行った後)について、それぞれ最大値を測定するとともに、オープン不良の発生数を計測した。導通チェーン抵抗の判定においては、導通チェーン抵抗の最大値が初期値の1.5倍以下である場合を○、導通チェーン抵抗の最大値が初期値の1.5倍を越えた場合を×とした。内部気泡(ボイド)の発生状態については、超音波顕微鏡によって観察し、ボイドの発生が認められなかった場合を○、ボイドの発生が認められた場合を×とした。評価数は、それぞれ20サンプルである。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から明らかなように、図5に示すプロファイルで熱圧着した実施例においては、導通チェーン抵抗の値が小さく、オープン不良も発生していない。また、ボイドの発生も見られなかった。これに対して、図4に示すプロファイルで熱圧着した比較例では、導通チェーン抵抗値が高く、オープン不良が発生した。また、ボイドの発生も見られた。
【0049】
必要圧力に関する検討
本実験では、式(1)から算出される必要圧力を基準とし、どの程度の圧力を加えることでボイドを抑え且つ信頼性を確保することが可能であるか、確認した。すなわち、本実験では、下記の条件で導通試験を行い、信頼性を確保するために必要な圧力を調べた。結果を表2に示す。
【0050】
<評価部材>
熱圧着ヘッド(弾性体)のゴム硬度:60(度)(JIS S 6050に準拠)
実装部品(ICチップ):実施例と同様
基板:実施例と同様
ACF:実施例と同様
<実装条件>
180℃、20秒(ICチップ1個当たり5kgf、7.5kgf、10kgfの3水準)
<導通評価数>
1基板40ポイント、評価基板数N=3
<環境試験>
吸湿→リフロー→プレッシャークッカー試験(PCT)
吸湿条件:JEDEC Level2
リフロー:ピーク温度265℃、3回
プレッシャークッカー試験:121℃飽和200時間
<測定時期>
初期及びPCT試験後(信頼性試験後)
<導通判定>
1Ω以下:○
1Ωを越える場合(オープン不良を含む):×
【0051】
【表2】

【0052】
本実験において、理想圧力[(1)式から算出される必要圧力]は、ICチップ1個当たり10kgfである。表2から明らかなように、信頼性試験後の導通判定において差が生じていた。具体的には、圧力をICチップ1個当たり5kgfとした場合には、信頼性試験後の導通判定が×であったのに対して、圧力をICチップ1個当たり7.5kgf、あるいは10kgfとした場合には、信頼性試験後の導通判定がいずれも○であり同等の結果であった。したがって、理想圧力の75%以上の圧力を必要圧力に設定すれば、ボイドの発生が抑えられ、導通信頼性も確保できることがわかった。
【0053】
また、熱圧着ヘッド(弾性体)のゴム硬度を40度〜80度の範囲で変え、さらには実装するICチップの厚さを変えて同様の実験を行ったところ、いずれの場合にも、理想圧力の75%以上の圧力を必要圧力に設定すれば、ボイドの発生が抑えられ、導通信頼性も確保できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】弾性体からなる熱圧着ヘッドを備えた実装装置の一例を模式的に示す図である。
【図2】弾性体からなる熱圧着ヘッドによる押圧状態を模式的に示す図である。
【図3】弾性体ヘッドを用いた場合の圧力カーブを金属ヘッドを用いた場合の圧力カーブと比較して示す特性図である。
【図4】温度プロファイルと加わる圧力プロファイルの一例(従来例に相当)を示す図である。
【図5】温度プロファイルと加わる圧力プロファイルの他の例(本発明の実施形態に相当)を示す図である。
【図6】ICチップの厚さ及び圧着部のゴム硬度と単位面積当たりの必要圧力の関係を示す特性図である。
【図7】ゴム硬度xと傾きa,切片bの関係を示す特性図である。
【図8】異方導電性接着フィルムの溶融粘度カーブの一例を示す特性図である。
【図9】実施例における温度プロファイル及び圧力プロファイルを示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 基台、2 熱圧着ヘッド、3 加熱ヒータ、4 圧着部(弾性体)、11 配線基板、11a 配線パターン、12 ICチップ(電子部品)、12a バンプ、13 異方導電性接着フィルム、13a 結着樹脂、13b 導電性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線基板上に接着剤を介して電子部品を配置し、弾性体により電子部品を加圧するとともに接着剤を加熱し、電子部品を熱圧着する電子部品の実装方法であって、
前記接着剤の温度が当該接着剤の硬化開始温度に到達する前に、前記弾性体による加圧力が所定の圧力に到達するように設定することを特徴とする電子部品の実装方法。
【請求項2】
前記所定の圧力は、接着剤中のボイドを排除し得る必要圧力であることを特徴とする請求項1記載の電子部品の実装方法。
【請求項3】
前記接着剤は、結着樹脂中に導電性粒子が分散された異方導電性接着フィルムであることを特徴とする請求項1または2記載の電子部品の実装方法。
【請求項4】
加熱手段を有し配線基板を支持する基台と、弾性体からなり配線基板上に接着剤を介して配置される電子部品を加圧する熱圧着ヘッドとを備え、熱圧着ヘッドにより電子部品を加圧するとともに接着剤を加熱し、電子部品を熱圧着する電子部品の実装装置であって、
前記接着剤の温度が当該接着剤の硬化開始温度に到達する前に、前記弾性体による加圧力が所定の圧力に到達するように設定されていることを特徴とする電子部品の実装装置。
【請求項5】
前記所定の圧力は、接着剤中のボイドを排除し得る必要圧力であることを特徴とする請求項4記載の電子部品の実装装置。
【請求項6】
前記必要圧力が前記熱圧着ヘッドの設定圧力であることを特徴とする請求項5記載の電子部品の実装装置。
【請求項7】
前記基台と配線基板の間に熱伝導を抑制する部材が介在するように設置されていることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項記載の電子部品の実装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−81337(P2009−81337A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250641(P2007−250641)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】