説明

電子部品の実装構造

【課題】電極表面がSn系金属からなる電子部品を基板上に搭載し、基板の電極と電子部品の電極とを導電性接着剤を介して接続してなる電子部品の実装構造において、良好な導通性を確保する。
【解決手段】電子部品20の電極21の表面と導電性接着剤30との界面にて、導電性接着剤30は、樹脂31から導電フィラー32が露出して電子部品20の電極21と接触しているものであり、この界面にて単位面積当たりに露出する導電フィラー32の面積割合を、フィラー露出率とすると、このフィラー露出率は4%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品を基板上に搭載し、基板の電極と電子部品の電極とを導電性接着剤を介して接続してなる電子部品の実装構造に関し、特に電子部品の電極がSn系金属電極からなるものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対応への意識の高まりからエレクトロニクス分野では、はんだ中の鉛(Pb)に対する規制対応として、鉛フリー実装技術、すなわち、鉛を使用しない材料で電子部品を実装する技術確立が急務となっている。
【0003】
鉛フリー実装技術としては、主に鉛フリーはんだ、または導電性接着剤を用いた実装が検討されているが、樹脂接続であるがゆえの耐応力性や加工温度の低温化等のメリットが期待される導電性接着剤への注目がより高まっている。一般的に導電性接着剤は、樹脂中に導電フィラーとしての金属粒子などを分散させたものである。
【0004】
ここで、はんだ接続される電子部品の電極の表面は、一般にSn系の卑金属よりなる。このようなSn系の卑金属電極は、具体的には、Niメッキなどの下地金属メッキ層の上に、Sn系金属、すなわちSnまたはSnPb、SnCu、SnAg、SnBi等のSnを主成分とする(50%以上含有する)Sn合金からなるメッキを施し、このSn系金属メッキ層を表層メッキ層としたものである。
【0005】
そして、このような従来はんだ接続されていた電子部品を、導電性接着剤を用いて基板に実装することは、基板の電極に導電性接着剤を供給し、電子部品を搭載した後、樹脂を加熱硬化することにより行なわれる。この工程により、樹脂の収縮に伴い、樹脂中の導電フィラー同士の接触、あるいは、導電フィラーと部品電極や基板電極との接触がなされて導通が得られるとともに、接続部は樹脂で接着される。
【0006】
前記工程において、導電性接着剤に使用される樹脂の硬化温度は一般的に150℃程度であり、230〜240℃程度の溶融温度が必要なはんだと比較するとかなり低い。そのため、実装部品や電子回路製品を構成している他の部材は、耐熱性の低い安価なものを使用することができ、製品コストを削減することができる。
【0007】
たとえば、特許文献1では、樹脂収縮により互いに接触しやすいフィラーを並進・回転運動が少なく、複数の反応基を有した樹脂に分散した導電性接着剤を用いることにより、はんだの代替となり得るような良好な接合強度及び接続抵抗、並びに、優れた印刷性を得ることができるとされている。
【特許文献1】特開2000−319622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者の検討によれば、汎用の電子部品、すなわち、電極の表面がSn系金属よりなる電子部品を用いた場合、はんだ代替としての導電性接着剤による良好な導通性の確保が困難であることがわかった。
【0009】
従来の導電性接着剤の接続特性については、上記特許文献1などに記載されているように、材料の組成や物性に言及したものがほとんどであり、特に、電子部品の電極がSn系金属である場合における導電性接着剤の接続特性については、ほとんど言及がなされていなかった。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、電極表面がSn系金属からなる電子部品を基板上に搭載し、基板の電極と電子部品の電極とを導電性接着剤を介して接続してなる電子部品の実装構造において、良好な導通性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明者は鋭意検討を行った。上述したように、導電性接着剤においては、樹脂中の導電フィラー同士の接触、あるいは、導電フィラーと部品電極や基板電極との接触がなされて導通が得られることから、特に、Sn系金属よりなる部品電極と導電フィラーとの接触度合に着目した。
【0012】
ここで、電子部品の電極の表面と導電性接着剤との界面では、導電性接着剤における樹脂から導電フィラーが露出して、当該フィラーが電子部品の電極と接触している。そこで、この界面にて単位面積当たりに樹脂より露出する導電フィラーの面積割合を、フィラー露出率とし、このフィラー露出率と導通性との関係を調査したところ、フィラー露出率が所定値以上のとき、導通性が劇的に向上することが実験的に確認された。
【0013】
すなわち、本発明は、電子部品の電極(21)の表面と導電性接着剤(30)との界面にて、導電性接着剤(30)は、樹脂(31)から導電フィラー(32)が露出して電子部品の電極(21)と接触しているものであり、この界面にて単位面積当たりに露出する導電フィラー(32)の面積割合を、フィラー露出率とすると、このフィラー露出率は4%以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明は、検討の結果、実験的に見出したものであり、後述の図6に示されるように、フィラー露出率を4%以上とすれば、導電性接着剤(30)を介した電極(11、21)間の導通性を劇的に低下させることができるため、良好な導通性を確保できる。
【0015】
また、電子部品の電極(21)と導電性接着剤(30)との機械的な接続は、実質的に導電性接着剤(30)における樹脂(31)の接着作用によりなされるが、フィラー露出率があまり大きいと、電子部品の電極(21)の表面と導電性接着剤(30)との界面にて当該樹脂(31)の割合が少なくなり、上記機械的な接続強度が低下する。
【0016】
その点、フィラー露出率を30%以下、好ましくは20%以下にすれば、電子部品の電極(21)と導電性接着剤(30)との機械的な接続強度を実用レベルにて確保できる(後述の図6参照)。
【0017】
また、冷熱衝撃に対する導通性の変動を実用レベルの範囲に留めるためには、後述の図9に示されるように、フィラー露出率を10%以上とすることが好ましい。
【0018】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各図相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る電子部品20の基板10への実装構造の概略断面構成を示す図であり、図2は、同実装構造における導電性接着剤30の詳細構成を示す概略断面図である。
【0021】
基板としての回路基板10の上に電子部品20が搭載され、回路基板10の電極11と電子部品20の電極21とが導電性接着剤30を介して電気的に接続されている。なお、以下、回路基板10の電極11を基板電極11、電子部品20の電極21を部品電極21ということにする。
【0022】
回路基板10は、セラミック基板やプリント基板、あるいはリードフレームなどを採用することができ、特に限定されるものではない。基板電極11は、回路基板10の一面に形成されており、たとえば、Ag、AgSnおよびAgPdなどのAgを主成分とするAg系金属や、CuおよびCuNiなどのCuを主成分とするCu系金属や、Ni系金属、あるいはAu等の材料を用いた厚膜やめっきから構成されたものである。
【0023】
電子部品20としては、コンデンサや抵抗、半導体素子などの表面実装部品を採用することができる。図1に示される例では、電子部品20はチップコンデンサとして示してある。
【0024】
部品電極21はSn系の卑金属電極である。つまり、部品電極21の表面はSnを主成分とするSn系金属よりなる。図2に示される例では、部品電極21は、下地金属層21aの上に、Sn系金属層21bが形成されたものである。ここで、下地金属層21aは、CuやAgなどの厚膜導体ペーストを塗布・硬化してなるものである。
【0025】
また、Sn系金属層21bすなわち部品電極21の表層は、Sn系金属をメッキしてなるものである。ここで、Sn系金属とは、Snであるか、またはSnPb、SnCu、SnAg、SnBi等のSnを主成分とする(つまりSnを50%以上含有する)Sn合金からなるものである。
【0026】
また、導電性接着剤30は、主剤、硬化剤、硬化促進剤(硬化触媒)、カップリング剤、希釈剤を含有する樹脂31と導電フィラー32とからなるものである。具体的に樹脂31としては、一般的なエポキシ樹脂などが挙げられ、導電フィラー32としては、AgやCuなどの一般的な材質が挙げられる。
【0027】
また、導電フィラー32について、さらに述べると、導電フィラー32としては、異種の合金であったり、異種金属の混合物であってもよい。さらに、導電フィラー32としては、その表面に、Auなどの貴金属からなる微粒子がコーティングされているものであってもよい。
【0028】
そして、図2に示されるように、導電性接着剤30は、樹脂31中に導電フィラー32を分散させてなるものである。そして、樹脂31中の導電フィラー32同士の接触、および、導電フィラー32と部品電極21や基板電極11との接触がなされており、これら接触により導電経路が形成され、当該電極11、21間の導通が得られている。また、当該電極11、21間の機械的な接続は樹脂31の接着によりなされている。
【0029】
ここで、導電性接着剤30の硬化条件について述べると、電子部品20の部品電極21がSn系金属であるので、Snの融点(231℃)以上まで上げると、接続抵抗が劣化する。このことを考慮すると、導電性接着剤30の硬化は、たとえば、100℃〜200℃程度で行い、さらに、導電フィラー32の酸化を抑制するために窒素雰囲気で硬化を行うことが望ましい。
【0030】
次に、図1に示される本実施形態の実装構造を実現する実装方法について述べておく。まず、導電性接着剤30を、マスク印刷またはディスペンスにより基板10の基板電極11上に供給する。
【0031】
次に、基板電極11と部品電極21とを位置あわせした状態で基板10の上に電子部品20を搭載する。そして、導電性接着剤30を加熱し、硬化させる。それにより、電子部品20と基板10との接続が完了し、上記図1に示される実装構造ができあがる。
【0032】
このような実装構造においては、図2に示されるように、電子部品20の部品電極21の表面と導電性接着剤30との界面にて、導電性接着剤30は、樹脂31から導電フィラー32が露出して部品電極21と接触している。
【0033】
ここで、電子部品20の部品電極21の表面と導電性接着剤30との界面にて単位面積当たりに樹脂31より露出する導電フィラー32の面積割合を、フィラー露出率とする。そして、本実施形態では、部品電極21と基板電極11との良好な導通性を確保するために、独自の構成として、このフィラー露出率を4%以上としている。
【0034】
このような独自の構成を採用するに至った根拠を述べる。部品電極21と導電フィラー32との接触形態についての推定メカニズムは、次の通りである。ここでは、基板電極11上に印刷された導電性接着剤30に対して、それぞれ低荷重、高荷重にて電子部品20を実装した直後の状態、さらに、これら各荷重の場合について導電性接着剤30を硬化し、冷熱などの耐久試験を行った後の状態について考えた。
【0035】
低荷重の場合は、高荷重の場合に比べて、実装直後の状態では、導電性接着剤30における樹脂31中の導電フィラー32のうち部品電極21に接触しているものの数が少ない。つまり、上記フィラー露出率が小さい。
【0036】
そのため、耐久試験の後の状態では、部品電極21の表面と導電性接着剤30との界面にて部品電極21と接触する導電フィラー32が、樹脂31の伸縮などにより変位して、部品電極21から離れてしまうことが発生する。すると、部品電極21と導電フィラー32との接触面積すなわちフィラー露出率が減少し、部品電極21と導電性接着剤30との接続抵抗の上昇を引き起こす。
【0037】
一方、高荷重の場合は、実装直後の状態では、部品電極21に接触している導通フィラー32の数が比較的多い。つまり、上記フィラー露出率が大きい。そのため、耐久試験後の状態にて、部品電極21の表面と導電性接着剤30との界面にて部品電極21と接触する導電フィラー32の数が減少しても、当該接触する導通フィラー32の数は十分に確保される。
【0038】
そのため、高荷重の場合は耐久試験の後の状態においても、部品電極21と導電フィラー32との接触面積すなわちフィラー露出率は、十分に確保され、部品電極21と導電性接着剤30との接続抵抗は実質的に変化しない。このようなメカニズムに考慮して、実装直後の状態すなわち初期状態で十分な接触面積を確保する必要があると考え、部品電極21と導電フィラー32との接触度合に着目した。
【0039】
そして、電子部品20の部品電極21の表面と導電性接着剤30との界面にて単位面積当たりに露出する導電フィラー32の面積割合であるフィラー露出率を、上記接触度合の指標とし、このフィラー露出率と導通性との関係を調査することとした。
【0040】
ここで、フィラー露出率の測定方法は、次のように行った。図3は、当該測定方法を示す図である。まず、上記図1に示されるように電子部品20と基板10とを導電性接着剤30により接続した後、たとえば230℃で加熱して部品電極21の表面のSnを溶かす。そして、Snが溶けた状態で、電子部品20を引っ張って剥離する。
【0041】
すると、図3(a)、(b)に示されるように、部品電極21に導電性接着剤30が付着しない状態で、電子部品20が剥離する。そのため、図3(c)に示される当該剥離後における導電性接着剤30の表面30aでは、部品電極21の表面と導電性接着剤30との界面における状態が、実質的に変わることなく維持されている。
【0042】
そこで、この剥離後における導電性接着剤30の表面30aを、SEMなどの顕微鏡で観察する。図4は、この導電性接着剤30の表面30aのSEM写真である。小円形状の多数の導電フィラー32が比較的白く現れ、その隙間に位置する樹脂31が比較的黒く現れており、部品電極21の表面と導電性接着剤30との界面にて導電フィラー32が露出していることが確認される。
【0043】
そして、フィラー露出率は、部品電極21のうち最も導通に寄与する部位、具体的には、部品電極21の中央部を含む部位にて、求める。具体的には、当該部位のSEM写真において上記白黒の状態で現れる導電フィラー32と樹脂31とを、画像処理によって二値化する。
【0044】
たとえば、部品電極21の中央部を含む部位に相当する導電性接着剤30の表面のうち数十μm□程度の単位面積において、上記画像処理によって導電フィラー32の面積を求める。そして、当該単位面積に占める導電フィラー32の面積割合をフィラー露出率として百分率で表し、求めるのである。
【0045】
本発明者は、このフィラー露出率を変えたときの、導通性としての接続抵抗および接続強度を調査した。図5は、これら接続抵抗および接続強度の測定要領を示す図である。電子部品20は一般的な3216型コンデンサを用い、基板電極11はAg厚膜よりなるものとし、導電性接着剤30は上記した例に示すものを用いた。
【0046】
接続抵抗は、導電性接着剤30を介して部品電極21と基板電極11との間に10mAの電流を流したときの電気抵抗であり、接続強度は一般的な引っ張り強度である。図6は、これら接続抵抗および接続抵抗とフィラー露出率とについての測定による関係を示すグラフである。
【0047】
図6では、横軸にフィラー露出率(単位:%)、左側の縦軸に接続抵抗(単位:mΩ)、右側の縦軸に接続強度(単位:N)を示している。図6中、接続抵抗のグラフ曲線は実線、接続強度のグラフ曲線は一点鎖線にて示してある。
【0048】
図6に示されるように、フィラー露出率が4%よりも少し小さいところあたりから、接続抵抗が指数的に急激に低下し、フィラー露出率が4%を超えると、接続抵抗の低下度合は飽和していく。
【0049】
このように、フィラー露出率の4%は導通性に関して臨界的な意義を持つことから、本実施形態の実装構造では、フィラー露出率を4%以上としている。それにより、本実施形態では、導電性接着剤30を介した導通性を劇的に低下をさせ、良好な導通性を確保することができる。
【0050】
また、上述したように、部品電極21と導電性接着剤30との機械的な接続は、実質的に導電性接着剤30における樹脂31の接着作用によりなされるが、フィラー露出率があまり大きいと、部品電極21の表面と導電性接着剤30との界面にて樹脂31の割合が少なくなり、機械的な接続強度が低下する。
【0051】
図6に示されるように、フィラー露出率が大きくなっていき、20%〜30%のあたりで、接続強度は急激に小さくなっている。このことから、フィラー露出率を30%以下、好ましくは20%とすれば、部品電極21と導電性接着剤30との機械的な接続強度を実用レベルにて確保できると考えられる。なお、この図6と同様の傾向は、上記の調査例以外のこの種の実装構造における電子部品20や基板電極11においても確認された。
【0052】
したがって、本実施形態の実装構造においては、導電性接着剤30を介した電気的な接続特性および機械的な接続強度を考慮すれば、フィラー露出率は4%以上30%以下、好ましくは4%以上20%以下がよい。
【0053】
次に、フィラー露出率を向上させるための具体的な手法について述べておく。基本的には、フィラー露出率を4%以上にするためには、電子部品20や基板10のサイズや種類に応じて、導電性接着剤30の材質や粘度、あるいは実装時の荷重を調整してやればよい。そして、製品化にあたっては、4%以上のフィラー露出率となる条件を見出し、その条件に基づいて量産化すればよい。
【0054】
たとえば、部品電極21の表面と導電性接着剤30との界面に多くの導電フィラー32を近づけるための指針としては、(1):樹脂31の硬化収縮力の増大、(2):樹脂31の低粘度化、(3):導電フィラー32の最密充填化、といった各種の指針(1)〜(3)が挙げられる。
【0055】
上記指針(1)については、樹脂31の硬化収縮力を増大させることで、導電フィラー32の接触圧の増大につながる。そのためには、樹脂31として、硬化収縮力の大きい高架橋多官能エポキシなどを用いれば、導電性接着剤30の硬化時の収縮力が大きくなり、その分、導電フィラー32が露出しやすくなる。
【0056】
上記指針(2)については、樹脂31を溶剤で希釈することにより、樹脂31の粘度を低下させることが可能である。そのような溶剤としては、たとえばブチルカルビトールなどが挙げられる。
【0057】
上記指針(3)については、一般的なフレーク形状の導電フィラー32に代えて、キュービック形状、球形状などの導電フィラー32とすることにより、充填密度を大きくして縦方向の接続性すなわち部品電極21から基板電極11へ向かう方向の接続性を、大きくすることが可能である。そして、これら指針(1)〜(3)は、いずれか1つを採用してもよいし、すべてを同時に採用してもよい。
【0058】
なお、フィラー露出率の向上とは直接関係ないが、導電性接着剤30には、アミノフェネチルアルコールなどの還元剤が含有されていることが好ましい。それによれば、導電性接着剤30の塗布・硬化工程中において、当該還元剤が作用して、部品電極21の表面に形成されている酸化膜を除去することが可能となる。このことは、導通性の向上にとって有意義な効果である。
【0059】
上記指針(1)〜(3)は主として導電性接着剤30の材料面からの対策であるが、それ以外にも、実装条件からも対策が可能である。すなわち、部品電極21の表面と導電性接着剤30との界面に多くの導電フィラー32を近づけ、フィラー露出率を大きくするためには、実装時において電子部品20を基板10へ押しつける荷重、すなわち実装荷重を増加させることが挙げられる。
【0060】
図7は、1つの電子部品当たりの実装荷重(単位:N)とフィラー露出率(単位:%)とについて本発明者が実験的に調査した結果を示すグラフである。ここで、電子部品20および基板電極11は上記図5と同様であり、導電性接着剤30は導電フィラー32の含有量が88重量%、導電性接着剤30の粘度が1000Pa・sとした。
【0061】
図7に示されるように、実装荷重が大きくなるにつれてフィラー露出率が大きくなっていくことが確認された。このことは、実装荷重が大きくなれば、導電性接着剤30の潰れも大きくなるため、上記界面に導電フィラー32が露出しやすくなるという上記推定メカニズムに準じている。
【0062】
実際に、図7にて調査したサンプルのいくつかについて、部品電極21の表面と導電性接着剤30との界面に相当する導電性接着剤30の表面を、SEM観察した。このSEM観察は、上記図3にと同様に、電子部品20と基板10とを導電性接着剤30によりいったん接続した後、剥離させ、剥離後の導電性接着剤30の表面を観察した。
【0063】
図8は、その結果を示すSEM写真であり、(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ実装荷重が0N、0.3N、0.5N、3.0Nの場合である。図8に示されるように、実装荷重が大きくなるにつれて、部品電極21の表面と導電性接着剤30との界面において、導電フィラー32が多く露出している。
【0064】
実際には、上記図7に示されるような実装荷重とフィラー露出率との関係を求めておき、所望のフィラー露出率となる実装荷重にて、電子部品20を基板10へ搭載することにより、フィラー露出率4%以上となった実装構造を作製することができる。なお、上記図7に示される関係は、あくまで一具体例を示すものである。
【0065】
また、本発明者は、導電性接着剤30による導通性が、温度サイクルなどの冷熱衝撃によって変化することも考慮して、冷熱サイクル試験を行った。図9は、この冷熱サイクル試験の評価結果を示す図である。
【0066】
ここでは、フィラー露出率を変えたときの冷熱サイクル前後の接続抵抗の変化量を測定した。冷熱サイクルは、−40℃と125℃との温度サイクルを250サイクル行った。接続抵抗としては、導電性接着剤30を介した部品電極21と基板電極11との間の電気抵抗を、上記図5と同様の要領で測定した。
【0067】
図9に示されるように、フィラー露出率が大きくなるにつれて、冷熱サイクル前後の接続抵抗の変化量は小さくなっていく。この変化量は小さい方が好ましいのはもちろんであるが、実用レベルでは10mΩ以下が望ましい。10mΩ以下ならば、実質的に電気特性への影響がない。
【0068】
ここで、図9では、フィラー露出率が10%以上のときに、冷熱サイクル前後の接続抵抗の変化量が10mΩ以下のレベルを実現している。このことから、本実施形態においては、耐熱衝撃性に優れた導通性能を実現するためには、フィラー露出率は10%以上であることが望ましい。
【0069】
(他の実施形態)
また、部品電極21の表面と導電性接着剤30との界面に多くの導電フィラー32を近づけるための方法としては、導電性接着剤30の硬化前に基板10を超音波をかけるようにしてもよい。
【0070】
具体的には、超音波振動子により振動する台の上に、基板10を搭載して実装工程を行うようにする。また、導電性接着剤30の硬化前であるならば、電子部品20に超音波をかけながら実装してもよいし、基板10に超音波をかけながら電子部品20の実装を行ってもよい。
【0071】
また、実装構造としては、電極表面がSn系金属よりなる電子部品を基板上に搭載し、基板電極と部品電極とを、樹脂中に導電フィラーを分散させてなる導電性接着剤を介して接続してなり、部品電極の表面と導電性接着剤との界面にて、導電性接着剤における樹脂から導電フィラーが露出して部品電極と接触して導通しているものであればよく、上記図1に示される実装構造に限定されるものではない。
【0072】
たとえば、上記実施形態では、電子部品としてチップコンデンサを用いた例を図示してあるが、電子部品としてはコンデンサや抵抗、半導体素子等の表面実装部品等を採用することができる。
【0073】
また、上記実施形態では、回路基板10上に電子部品20を搭載し、回路基板10の電極11と電子部品20の電極21とを導電性接着剤30を介して接続しているが、このように実装を行った後、さらにヒートシンクの取り付け、アンダーフィル充填などのパッケージ工程を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施形態に係る電子部品の実装構造の概略断面図である。
【図2】図1に示される電子部品の実装構造における導電性接着剤の詳細構成を示す概略断面図である。
【図3】フィラー露出率の測定方法を示す図である。
【図4】導電性接着剤の表面のSEMによる顕微鏡写真である。
【図5】接続抵抗および接続強度の測定要領を示す図である。
【図6】接続抵抗および接続抵抗とフィラー露出率との関係を示すグラフである。
【図7】実装荷重とフィラー露出率との関係を示すグラフである。
【図8】導電性接着剤の表面のSEMによる顕微鏡写真であり、(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ実装荷重が0N、0.3N、0.5N、3.0Nの場合である。
【図9】冷熱サイクル試験の評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
10…基板、11…基板電極、20…電子部品、21…部品電極、
30…導電性接着剤、31…樹脂、32…導電フィラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(10)上に電子部品(20)を搭載し、前記基板の電極(11)と前記電子部品の電極(21)とを導電性接着剤(30)を介して接続してなり、
前記電子部品の電極(21)の表面は、Sn系金属よりなり、
前記導電性接着剤(30)は、樹脂(31)中に導電フィラー(32)を分散させてなるものである電子部品の実装構造において、
前記電子部品の電極(21)の表面と前記導電性接着剤(30)との界面にて、前記導電性接着剤(30)は、前記樹脂(31)から前記導電フィラー(32)が露出して前記電子部品の電極(21)と接触しているものであり、
前記界面にて単位面積当たりに露出する前記導電フィラー(32)の面積割合を、フィラー露出率とすると、前記フィラー露出率は4%以上であることを特徴とする電子部品の実装構造。
【請求項2】
前記フィラー露出率は、30%以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子部品の実装構造。
【請求項3】
前記フィラー露出率は、20%以下であることを特徴とする請求項2に記載の電子部品の実装構造。
【請求項4】
前記フィラー露出率は、10%以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の電子部品の実装構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−49308(P2009−49308A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216147(P2007−216147)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】