説明

電子部品の製造方法

【課題】可塑剤を含むグリーンチップの研磨効率を高めることができ、電子部品の欠損(欠け、チッピングなど)を抑制することができると共に、耐電圧不良率などの電気特性の劣化を抑制することができる電子部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】可塑剤を含む未焼成のグリーンチップを準備する工程と、前記グリーンチップを研磨する工程と、を有し、研磨工程直前のグリーンチップのガラス転移温度Tgが40℃以下であり、研磨工程でのグリーンチップの温度Tcが前記ガラス転移温度Tgよりも25℃以上低いことを特徴とする電子部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の製造方法に関し、さらに詳しくは、可塑剤を含むグリーンチップの研磨効率を高めることができ、しかも電気特性に優れる電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に実装される電子部品の一例としては、積層型セラミック電子部品が例示され、コンデンサ、バンドパスフィルタ、インダクタ、積層三端子フィルタ、圧電素子、PTCサーミスタ、NTCサーミスタ、またはバリスタ等が知られている。これら積層型セラミック電子部品を構成するコンデンサ素子本体は、たとえば、グリーンシートと、所定パターンの内部電極パターン層から構成される直方体形状のグリーンチップを準備し、コーナー部や稜線部を研磨し、同時焼成して製造される。
【0003】
また、前記グリーンシートあるいは内部電極パターン層は、フタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などの可塑剤を含むものが多く用いられている。可塑剤を含むことでグリーンシートや内部電極パターン層の伸びおよび可撓性を良好にし、積層性を向上させることができる。
【0004】
このような可塑剤を含むグリーンチップの取り扱いとして、特許文献1には、焼成前後のセラミック素体の収縮率を低くするために、可塑剤を含む未焼成のセラミック素体を研磨する前に固化乾燥工程を取り入れている。
【0005】
しかしながら、従来では、可塑剤を含むグリーンチップの研磨工程において、可塑剤が存在することによるグリーンチップの柔軟性により、研磨効率が低下することは問題とされていなかった。また、固化乾燥によって可塑剤成分が除去されるため、可塑剤が抜けた箇所に空隙が形成され後の工程において吸湿しやすくなり、その結果として構造欠陥の原因となり得る。また、固化乾燥工程や研磨工程と、電子部品の電気特性との関係についてはあまり研究されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−79484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、可塑剤を含むグリーンチップの研磨効率を高めることができ、しかも電気特性に優れる電子部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、可塑剤を含むグリーンチップの研磨について鋭意検討した結果、以下のような課題を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、グリーンチップが可塑剤を含むことで、グリーンチップが柔軟になり、研磨効率が低下するという問題を見出した。
【0009】
また、このような研磨効率の低下は、電子部品の欠損(欠け、チッピングなど)を招く。また、研磨工程の条件、あるいは研磨工程の前に行われる固化乾燥などの条件によっては耐電圧不良を生じさせるおそれがあることを本発明者等は見出した。
【0010】
そこで、上記課題を解決するために、本発明に係る電子部品の製造方法は、
可塑剤を含む未焼成のグリーンチップを準備する工程と、
前記グリーンチップを研磨する工程と、
を有し、
研磨工程直前のグリーンチップのガラス転移温度Tgが40℃以下であり、
研磨工程でのグリーンチップの温度Tcが前記ガラス転移温度Tgよりも25℃以上低いことを特徴とする。
【0011】
好ましくは、グリーンチップの研磨を乾式バレル研磨によって行う。
【0012】
好ましくは、研磨工程でのグリーンチップの温度Tcが前記ガラス転移温度Tgよりも30℃以上低い。
【0013】
好ましくは、研磨工程でのグリーンチップの温度Tcが10℃以下である。
【0014】
好ましくは、研磨工程の後に、さらに前記グリーンチップを焼成する工程を有する。
【0015】
好ましくは、前記可塑剤がDOP(ジオクチルフタレート)、DBP(ジブチルフタレート)およびBBP(フタル酸ブチルベンジル)から選ばれる少なくとも一つである。
好ましくは、固化乾燥工程を行わず、グリーンチップを準備した直後(切断工程直後)にグリーンチップが可塑剤を有する状態でバレル研磨を行う。ここで、固化乾燥工程を行わないとは、可塑剤が除去される程度(約180℃)の条件での積極的に加熱を行わないことを意味しており、常温に放置することなどは意味していない。従来では可塑剤を含むグリーンチップでは必須であった固化乾燥工程を省略することができることに加え、可塑剤を含んだ状態でバレル研磨するため、チップの強度も確保できる。また、工程の簡略化、次工程以降に素体が吸湿し構造欠陥が発生することを防ぐことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、可塑剤を含むグリーンチップの研磨効率を高めることができ、電子部品の欠損(欠け、チッピングなど)を抑制することができると共に、耐電圧不良率などの電気特性の劣化を抑制することができる電子部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2a】図2aは、図1に示す積層セラミックコンデンサの製造過程を示す工程概略図である。
【図2b】図2bは、図2aの続きの工程を示す工程概略図である。
【図2c】図2cは、図2bの続きの工程を示す工程概略図である。
【図3】図3(A)は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造に用いるバレル研磨工程前のグリーンチップの斜視図、図3(B)は、図3(A)に示すバレル研磨工程前のグリーンチップをIIIB−IIIB線に沿って切断した概略断面図である。
【図4】図4(A)は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造に用いるバレル研磨工程後のグリーンチップの斜視図、図4(B)は、図4(A)に示すバレル研磨工程後のグリーンチップをIVB−IVB線に沿って切断した概略断面図である。
【図5】図5は、図4(B)に示すバレル研磨工程後のグリーンチップのコーナー部分Vを拡大した拡大断面図である。
【図6】図6は、本発明の実施例における、Tgに対する耐電圧不良率の関係を示したものである。
【図7】図7は、本発明の実施例における、Tg−Tcに対する欠け不良率およびコーナーR値の関係を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る製造方法により製造される電子部品は特に限定されず、積層インダクタ、積層バリスタ、レジスターなどの表面実装部品が挙げられる。本実施形態では積層セラミックコンデンサについて例示する。
【0019】
積層セラミックコンデンサの全体構成
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、誘電体層10と内部電極層12とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体4を有する。このコンデンサ素子本体4の両側端部には、コンデンサ素子本体4の内部で交互に配置された内部電極層12と各々導通する一対の外部電極6,8が形成してある。
【0020】
内部電極層12は、各側端面がコンデンサ素子本体4の対向する両端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極6,8は、コンデンサ素子本体4の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層12の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0021】
前記コンデンサ素子本体は、たとえばグリーンシートと所定パターンの内部電極パターン層から構成されるグリーンチップを研磨し、同時焼成して製造される。
【0022】
可塑剤
本実施形態におけるグリーンチップには可塑剤が含まれる。具体的には、グリーンチップを構成するグリーンシートおよび内部電極パターン層に可塑剤が含まれる。可塑剤を含むことでグリーンシートや内部電極パターン層の伸びおよび可撓性を良好にし、積層性を向上させることができる。
【0023】
しかし、上記したように、グリーンチップに対して研磨がされる際、摩擦によりグリーンチップの温度が上昇するため、可塑剤を含むグリーンチップは、柔軟性が高くなり、研磨効率が低下する傾向にある。
【0024】
本実施形態においては、このような実状に鑑み、研磨直前のグリーンチップを所定のガラス転移温度Tgおよび研磨工程のグリーンチップの温度Tcを所定の範囲に制御することで、研磨効率を高めることを特徴とする。具体的には、研磨直前のグリーンチップのガラス転移温度Tgは40℃以下、好ましくは30〜35℃以下である。また、研磨工程におけるグリーンチップの温度TcはTgよりも25℃以上、好ましくは30℃以上低い。さらに、好ましくは、研磨工程におけるグリーンチップの温度Tcは10℃以下であり、より好ましくは−40〜10℃である。
【0025】
また、グリーンチップのガラス転移温度Tgは、グリーンチップに含まれる可塑剤のうち特に誘電体セラミックグリーンシートに含まれる可塑剤量を調整することによって制御することができ、一般的には、誘電体セラミックグリーンシートに含まれる可塑剤量を多くするほど、Tgは低下する傾向にある。
【0026】
この他、グリーンシートあるいは内部電極パターン層に含まれる有機ビヒクルおよび可塑剤の種類や含有量によってもガラス転移温度Tgを制御することができる。
【0027】
本実施形態に用いられる可塑剤としては、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチルなどのフタル酸エステル類、フタル酸アジペート(DOA)などのアジピン酸エステル類、燐酸トリクレシルなどの燐酸エステル類、ブチルフタリルブチルグリコレートなどのグリコール類が例示されるが、好ましくはフタル酸ジオクチクルである。
【0028】
また、可塑剤の沸点は、好ましくは100℃以上(760mmHg)である。
【0029】
グリーンシート
図1の誘電体層10は、図2aに示すグリーンシート10aを焼成して得られ、グリーンシートは誘電体層用ペーストを成形することにより得られる。
【0030】
まず、誘電体層用ペーストを準備する。誘電体層用ペーストは、通常、セラミック粉末(誘電体原料)と有機ビヒクルとを混練して得られた有機溶剤系ペースト、または水系ペーストで構成される。本実施形態では、これらのペーストは、有機溶剤系ペーストであることが好ましい。
【0031】
本実施形態における誘電体層用ペーストに含まれるセラミック粉末の原材料は、特に限定されないが、複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。
【0032】
有機ビヒクルとは、バインダ樹脂を有機溶剤中に溶解したものである。本実施形態における有機ビヒクルに用いる有機バインダは特に限定されないが、グリーンチップのガラス転移温度Tgを40℃以下に制御する観点から、アクリル樹脂、エチルセルロース、ビニルブチラール等が好ましい。
【0033】
また、用いる有機溶剤は特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、ターピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0034】
誘電体層用ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、帯電除剤、誘電体、ガラスフリット、絶縁体などから選択される添加物が含有されても良い。
【0035】
有機バインダは、セラミック粉体100質量部に対して、好ましくは4〜6.5質量部、より好ましくは4〜6質量部で含まれる。また、このバインダ樹脂の添加量が少なすぎると、シート成型・加工上、十分な強度や接着性が取れなくなるという傾向にあり、多すぎると、シートの強度が高くなりすぎる傾向にある。
【0036】
可塑剤を配合する場合の誘電体層用ペースト中における可塑剤の重量割合は、グリーンチップのガラス転移温度Tgを40℃以下に制御する観点から、有機バインダ100重量部に対して、好ましくは20〜70重量部である。また、可塑剤が少なすぎると、グリーンシートの伸びおよび可撓性が悪化する傾向にあり、多すぎると、グリーンシート表面に可塑剤が滲み出し、取り扱いが困難である。
【0037】
グリーンシートは、誘電体層用ペーストをシート状に成形して得られる。このペーストは、上記各成分をボールミル、ビーズミルなどで混合、分散処理を行うことで得られる。
【0038】
内部電極パターン層
図1の内部電極層12は、図2bに示す内部電極パターン層12aを焼成して得られ、内部電極パターン層は内部電極層用ペーストを成形することにより得られる。
【0039】
まず、内部電極層用ペーストを準備する。内部電極層用ペーストは、導電体粉末と有機ビヒクルとを混練して得られる有機溶剤系ペーストで構成される。
【0040】
本実施形態における内部電極パターン層12aに含有される導電体粉末は特に限定されないが、誘電体層10の構成材料が耐還元性を有するため、卑金属を用いることができる。導電体粉末として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。
【0041】
有機ビヒクルは、有機バインダと溶剤とを主成分として含有するものであり、可塑剤などが含まれる。
【0042】
本実施形態における有機バインダは特に限定されないが、エチルセルロース、ブチラール、アクリル等が好ましい。
【0043】
溶剤としては、特に限定されないが、セラミックグリーンシートにブチラール樹脂を用いた場合、α−ターピニルアセテート、イソボニルアセテート、イソボニルプロピオネート、イソボニルブチレート、イソボニルイソブチレート、ジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピニルメチルエーテル、ターピニルメチルエーテル、l−ジヒドロカルビルアセテートなどが例示される。
【0044】
有機バインダの合計含有量は、導電体粉末100重量部に対して、好ましくは、2重量部超9重量部未満、より好ましくは3〜8重量部である。
【0045】
有機バインダをこの範囲にすることで、内部電極ペーストの粘度をスクリーン印刷に適したものにでき、脱バインダ性を良好にすることができる。
【0046】
可塑剤の含有量は、前記有機バインダの含有量100重量部に対して、好ましくは、10〜150重量部であり、より好ましくは25〜100重量部である。
【0047】
溶剤は、内部電極ペースト中に、導電体粉末100重量部に対して、好ましくは50〜150重量部、より好ましくは80〜100重量部で含まれる。
【0048】
溶剤の量が少なすぎるとペースト粘度が高くなりすぎ、多すぎるとペースト粘度が低くなりすぎる不都合がある。
【0049】
内部電極パターン層は、内部電極層用ペーストをシート状に成形して得られる。このペーストは、上記各成分をボールミル、ビーズミルなどで混合、分散処理を行うことで得られる。
【0050】
グリーンチップ
グリーンチップは、上記した誘電体層用ペーストと内部電極層用ペーストを以下のように形成することにより得られる。
【0051】
(グリーンシート10aの形成)
図2aに示すように、たとえばPETフィルムなどで構成される支持シート20の表面に、たとえばドクターブレード法などで誘電体層用ペーストを塗布して、グリーンシート10aを形成する。グリーンシート10aは、焼成後に図1に示す誘電体層10となる。
【0052】
(内部電極層12aの形成)
次に、図2bに示すように、支持シート20上に形成されたグリーンシート10aの表面に、内部電極層用ペーストを所定のパターンに塗布して、内部電極層12aを形成する。内部電極層12aは、焼成後に図1に示す内部電極層12となる。
【0053】
図2bの内部電極層12aの形成方法は、層を均一に形成できる方法であれば特に限定されず、たとえば電極層用ペーストを用いたスクリーン印刷法あるいはグラビア印刷法などの厚膜形成方法、あるいは蒸着、スパッタリングなどの薄膜法が例示される。
【0054】
図2cに示すように、内部電極層12aが形成されたグリーンシート10aを支持シート20から剥がして順次積層して積層体24を形成する。
【0055】
(積層体24の切断)
積層体24を格子状に切断することによって、グリーンチップ42を複数形成する。
【0056】
(ガラス転移温度Tg)
本実施形態におけるグリーンチップのガラス転移温度は、上記したように、グリーンチップの誘電体セラミックグリーンシートの可塑剤含有量によって制御することができる。
【0057】
なお、本実施形態においては、グリーンチップに対して固化乾燥を行っても、固化乾燥を行わなくてもどちらでもよい。ただし、固化乾燥を行うことで、可塑剤が抜けるため空孔が生じ、特に湿式研磨の場合には、空孔が原因で研磨液が浸入し、樹脂が膨潤し構造欠陥を誘発したり、信頼性が劣化したりする傾向がある。そのため、好ましくは固化乾燥工程を行わずに工程を進めることが望ましい。
【0058】
研磨工程
図3(A)は、グリーンチップ42の斜視図である。図3(A)に示すように、切断後に得られたグリーンチップは直方体形状を有していることが多く、その端部には、切断処理による鋭利な角および稜線が生じている。このため、製造工程において部品同士の衝突に起因する部品の欠損(欠け、チッピングなど)を抑制するために、通常、グリーンチップに対して面取りとして、研磨が行われる。
【0059】
まず、研磨の方法としては、研磨時の温度を制御することができれば特に限定はなく、バレル研磨、ブラスト研磨、切削研磨が例示されるが、中でもバレル研磨が好ましい。また、バレル研磨としては湿式バレル研磨あるいは乾式バレル研磨があるが、乾式バレル研磨がより好ましい。
【0060】
なお、湿式バレル研磨とは、研磨される対象物と、水や有機溶剤などの研磨液と、必要に応じて研磨石などのメディアとを容器に一定の割合で投入し、回転などの運動を与えて研磨を行う方法である。これにより、対象物同士、および/または対象物とメディアが擦れ合うことで、対象物を研磨することができる。
【0061】
これに対して、乾式バレル研磨とは、研磨液を用いないで、対象物を研磨する方法である。乾式バレル研磨とすることで、水などの研磨液を使用しないため、Baイオンの溶出を防ぐことができたり、湿式よりも簡便な機構で行うことができる。また、研磨液の凝固点によってTcの下限が決まってしまう湿式バレル研磨に対し、研磨液を使用しない乾式バレル研磨は、研磨液が存在しないためTcの下限に制限無く設定可能となる。
【0062】
本実施形態においては、研磨工程におけるグリーンチップの温度Tcを所定の範囲に制御することを特徴とする。具体的には、TcはTgよりも25℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは35〜40℃低い。さらに、好ましくは、研磨工程におけるグリーンチップの温度Tcは10℃以下であり、より好ましくは−40〜10℃である。
【0063】
研磨工程をこのような温度に制御する方法としては、例えば、バレル容器を恒温槽に浸すことで容器内の温度を制御する方法や、バレル容器が存在する部屋の空調を制御する方法が挙げられる。また、湿式バレル研磨であれば、例えば、バレル容器と外部の恒温槽とをホースなどで接続し研磨液を循環させ、研磨液の温度を制御する方法や、バレル容器の研磨液を一定時間ごとに入れ替えて、研磨液の温度を制御する方法が挙げられる。
【0064】
さらに、乾式バレル研磨であれば、例えば、バレル容器の外部あるいは内部に所定の温度の二酸化炭素ガスを吹き付ける方法が挙げられる。
【0065】
このようにバレル研磨条件を制御することで、可塑剤を含むグリーンチップの軟化を制御することができ、効率よく、図3(A)および図3(B)に示すバレル研磨前のグリーンチップ42を、バレル研磨後には、図4(A)および図4(B)に示すような、コーナー部や稜線部が丸みを帯びグリーンチップ42aとすることができる。さらにこのようにして研磨されたグリーンチップを用いることで、耐電圧不良率などの電気特性に優れた電子部品を提供することができる。
【0066】
グリーンチップの焼成
バレル研磨工程後のグリーンチップ42は、水または高圧空気の吹きつけで洗浄され、乾燥される。乾燥後のグリーンチップに対して、脱バインダ工程、焼成工程、必要に応じて行われるアニール工程を行うことにより、図1に示すコンデンサ素子本体4を得る。
【0067】
外部電極の形成
このようにして得られたコンデンサ素子4には、サンドブラスト等にて端面研磨を施し、外部電極用ペーストを焼きつけて外部電極6,8が形成される。外部電極6および8に含有される導電材は特に限定されないが、本実施形態では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。また、外部電極6および8の厚みは、用途等に応じて適宜決定されればよいが、通常、10〜50μm程度であることが好ましい。
【0068】
そして、必要に応じ、外部電極6,8上にめっき処理を施す。なお、外部電極用ペーストは、上記した内部電極パターン層用ペーストと同様にして調製すればよい。上述のバレル研磨により、コンデンサ素子4のコーナー部におけるペーストの塗布厚みを十分確保できるために、外部電極焼付け時のクラックも抑制することができる。
【0069】
本実施形態に係る方法により製造された積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0070】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。たとえば、本発明は、積層セラミックコンデンサに限らず、製造工程においてグリーンチップを処理することになる電子部品であれば何でも良い。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0072】
試料1
(誘電体層用ペーストの調製)
主成分原料としてBaTiOを準備し、以下に示す第1〜第4副成分を、添加して、ボールミルにより湿式混合粉砕してスラリー化し、このスラリーを乾燥後、仮焼・粉砕することにより誘電体磁器組成物粉末を得た。なお、各副成分の添加量は、主成分100モルに対する、各酸化物換算での添加量である。
【0073】
MgO (第1副成分):1.2モル、
(Ba,Ca)SiO(第2副成分):0.75モル、
(第3副成分):0.03モル、
MnO (第4副成分):0.1モル、
【0074】
そして、上記にて得られた誘電体磁器組成物粉末100重量部と、バインダ樹脂としてのポリビニルブチラールを6重量部と、可塑剤としてのフタル酸ジオクチル(DOP)を40phrと、メチルエチルケトン60重量部と、エタノール40重量部と、トルエン20重量部とをボールミルで混合してペースト化し、グリーンシート用スラリーを得た。なお、「phr」とは、バインダ樹脂100重量部に対する重量割合である。
【0075】
(内部電極層用ペーストの調製)
次に、Ni粒子44.6重量部と、テルピネオール52重量部と、エチルセルロース3重量部と、ベンゾトリアゾール0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを得た。
【0076】
(積層セラミックコンデンサの作製)
上記にて調製した各ペーストを用い、以下のようにして、図1に示される積層セラミックコンデンサ1を製造した。
【0077】
まず、得られた誘電体層用ペーストを用いてPETフィルム上にグリーンシートを形成した。この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、PETフィルムからシートを剥離した。次いで、これらのグリーンシートと保護用グリーンシート(内部電極層用ペーストを印刷しないもの)とを積層、圧着して、積層体を得た。
【0078】
次に、積層体を、1.6mm×0.8mm×0.8mmのサイズに切断し、グリーンチップを得た。
【0079】
グリーンチップのガラス移転温度Tgは20℃であった。このガラス転移温度は、誘電体層用ペースト中の可塑剤の添加量を40phrとすることで調整した。ガラス転移温度Tgは粘弾性スペクトロメータ(DMS)[EXSTAR 6000 SERIES−DMS 6100(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製)]により測定した。
【0080】
(バレル研磨)
次に得られたグリーンチップを10000個ずつ6つのグループに分け、それぞれ、研磨工程におけるグリーンチップの温度Tcを40℃、20℃、5℃、0℃、−10℃、−20℃に制御して360分間研磨を行った。なお、Tcが40℃、20℃、5℃の場合については、湿式バレル研磨を行い、Tcが−20℃の場合については乾式バレル研磨を行った。
【0081】
まず、湿式バレル研磨は、2L(リットル)のバレル容器内に、グリーンチップ500g、メディア56を1000gおよびイオン交換水1.6Lを投入した。また、メディアの形状は、略球形であり、材質は、アルミナとシリカを主成分とするセラミックスボールであり、大きさは約2mmであった。
なお、温度の制御は、バレル槽を恒温槽に浸すことにより行った。
【0082】
乾式バレル研磨は、2Lのバレル容器内に、グリーンチップ500g、メディア56を1000gを投入した。また、メディアの形状は、略球形であり、材質は、アルミナとシリカを主成分とするセラミックスボール、大きさは、約2mmであった。
なお、研磨工程におけるグリーンチップの温度の制御は、−40℃のCOガスを吹き付けることにより行った。
【0083】
固化乾燥したグリーンチップのノンラミネーション(非接着欠陥)不良率およびコーナーR値を以下に示す方法で測定した。
【0084】
(ノンラミネーション不良率)
まず、50個のグリーンチップを、誘電体層および内部電極層の側面が露出するように、2液硬化性エポキシ樹脂中に埋め込み、その後、2液硬化性エポキシ樹脂を硬化させた。次いで、エポキシ樹脂中に埋め込んだグリーンチップを、サンドペーパーを使用して、深さ0.4mmまで研磨した。なお、サンドペーパーによる研磨は、#400のサンドペーパー、#800のサンドペーパー、#1000のサンドペーパーおよび#2000のサンドペーパーを、この順に使用することにより行った。次いで、サンドペーパーによる研磨面を、ダイヤモンドペーストを使用して、鏡面研磨処理を施した。そして、光学顕微鏡を使用し、この研磨面を、拡大倍率400倍にて、観察し、ノンラミネーションの有無を調べた。光学顕微鏡による観察の結果、全測定サンプルに対する、ノンラミネーションが発生していたグリーンチップの比率を、ノンラミネーション不良率とした。
【0085】
(コーナーR値)
研磨後のコーナー部の形状は、グリーンチップ30個について、図4(A)に示す研磨後のグリーンチップ42aを、図4(A)中のIVB−IVB線に沿って切断した。そして、その断面(図4(B))をグリーンチップの中央部まで研磨し、そのコーナー部V(図4、5)の形状をマイクロスコープにて観察し、以下に定義するR値を求め、平均値を算出した。
【0086】
すなわち、図5において、研磨前のグリーンチップ42の頂点から積層方向に垂直な線を引いた時に、その線と研磨後のグリーンチップ42aの稜線との交点から、該頂点までの長さをXとした。同様に、頂点から積層方向に平行な線を引いた時に、その線と研磨後のグリーンチップ42aの稜線との交点から、該頂点までの長さをYとした。Rは、XとYとの平均値、すなわち、R=(X+Y)/2である。
【0087】
以下、グリーンチップの焼成工程および外部電極の形成工程について説明するが、いずれのTcのグリーンチップにおいても、同様の方法により焼成および外部電極の形成を行った。結果を表2および3に示す。
【0088】
(グリーンチップの焼成工程)
バレル研磨後のグリーンチップ42を、水で洗浄し、乾燥した。乾燥後のグリーンチップに対して、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、コンデンサ素子本体4を得た。
脱バインダ処理条件
昇温速度:32.5℃/時間、
保持温度:260℃、
温度保持時間:8時間、
雰囲気:空気中。
焼成条件
昇温速度:200℃/時間、
保持温度:1260〜1280℃、
温度保持時間:2時間、
冷却速度:200℃/時間、
雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガス(酸素分圧:10−7Pa)。
アニール条件
昇温速度:200℃/時間、
保持温度:1050℃、
温度保持時間:2時間、
冷却速度:200℃/時間、
雰囲気ガス:加湿したNガス(酸素分圧:1.01Pa)。
【0089】
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、水温を20℃としたウエッターを用いた。
【0090】
(外部電極の形成)
このようにして得たコンデンサ素子本体4に、サンドブラスト等にて端面研磨を施し、外部電極としてCuを塗布し、外部電極6,8を形成した。
【0091】
得られたコンデンサ試料のサイズは、1.6mm×0.8mm×0.8mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は380であり、1層あたりの誘電体層の厚み(層間厚み)は1.3μm、内部電極層の厚みは0.9μmであった。
【0092】
次いで、以下に示す方法により、コンデンサ試料の欠け不良率および耐電圧不良率の評価を行った。結果を表3に示す。
【0093】
(欠け不良率)
各Tcのコンデンサ試料のうち10000個について、実体顕微鏡により、対向電極が露出していない4面を観察し、構造欠陥(欠け、チッピングなど)の有無を検査した。欠け不良率は小さいほど好ましく、0.4%を目標値とした。
【0094】
(耐電圧不良率)
各Tcのコンデンサ試料のうち10000個について、電圧を150Vかけた際の抵抗率を求め、抵抗率が10Ω以下となったコンデンサ試料の個数の割合を耐電圧(耐圧)不良率とした。また、目標値は0.2%とした。
【0095】
試料2〜6
誘電体セラミックグリーンシートに含まれる可塑剤含有量を変えることでガラス転移温度を表1に示すように変えた以外は、試料1と同様にして、グリーンチップおよびコンデンサ試料を作製し、ノンラミネーション不良率を測定した。結果を表1、表2、図6に示す。
(ガラス転移温度Tg)
表2および図6より、Tgが40℃より大きい場合、ノンラミネーション不良率が悪化する傾向にあることがわかった。ノンラミネーション不良率の悪化はコンデンサの電気特性の悪化を引き起こすと考えられるため、コンデンサ試料の電気特性を良好なものとするためには、Tgが40℃以下であることが必要であると考えられる。
次に、Tgが40℃以下となる試料1、試料2、試料3、試料4についてTcを調整し、コーナーR値、欠け不良率および耐電圧不良率を測定した。結果を表3〜6に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
【表3】

【0099】
【表4】

【0100】
【表5】

【0101】
【表6】

【0102】
【表7】

【0103】
(Tg−Tc)
表7は、表3〜6に示す各試料のうち耐電圧不良率が0.2%以下となる各試料について、Tg−Tcに対する欠け不良率あるいはコーナーR値を、Tg−Tcの大きさに沿って並べ替えたものである。この結果より、図7にも示すように、Tg−Tcが25℃以上の場合は、25℃未満の場合に比べ、コーナーR値および欠け不良率が良好であり、研磨効率が高くなることがわかった。
【0104】
(Tc)
表3〜6の結果より、Tg−Tcが25℃以上であって、かつ、Tcを10℃以下とすることによって、コーナーR値および欠け不良率がさらに良好となることがわかった。
【符号の説明】
【0105】
2… 積層セラミックコンデンサ
4… コンデンサ素子本体
6、8… 外部電極
10… 誘電体層
10a… 内側グリーンシート
11a… 外側グリーンシート
12… 内部電極層
12a… 内部電極パターン層
20… 支持シート
24… 積層体
42… グリーンチップ
42a… グリーンチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑剤を含む未焼成のグリーンチップを準備する工程と、
前記グリーンチップを研磨する工程と、
を有し、
研磨工程直前のグリーンチップのガラス転移温度Tgが40℃以下であり、
研磨工程でのグリーンチップの温度Tcが前記ガラス転移温度Tgよりも25℃以上低いことを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項2】
グリーンチップの研磨を乾式バレル研磨によって行うことを特徴とする請求項1に記載の電子部品の製造方法。
【請求項3】
研磨工程でのグリーンチップの温度Tcが前記ガラス転移温度Tgよりも30℃以上低いことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
【請求項4】
研磨工程でのグリーンチップの温度Tcが10℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
【請求項5】
研磨工程の後に、さらに前記グリーンチップを焼成する工程を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記可塑剤がジオクチルフタレート、ジブチルフタレートおよびフタル酸ブチルベンジルから選ばれる少なくとも一つである請求項1〜5のいずれかに記載の電子部品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図2c】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−18848(P2011−18848A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163918(P2009−163918)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】