説明

電子部品用樹脂シート及び電子部品包装用成形体

【課題】 電子部品の包装に用いても、部品の金属部分を腐食せず、部品の機能も損なわない樹脂シートを提供する。
【解決手段】 電子部品用樹脂シートを、ナトリウム及び塩素の含有量が合計で10ppm以下である熱可塑性樹脂で構成する。前記熱可塑性樹脂は、塩素含有量が5ppm以下であってもよい。また、前記熱可塑性樹脂は、110℃の水で20時間抽出した硫酸イオンの溶出量が、熱可塑性樹脂に対して5ppm以下であってもよい。さらに、前記熱可塑性樹脂は、塊状重合法で得られたゴム含有スチレン系樹脂であってもよい。本発明のシートは、さらに、高分子型帯電防止剤(ポリチオフェン系重合体及びアニオン系重合体で構成された帯電防止剤など)を含有してもよい。前記樹脂シートは、少なくとも一方の面に、さらに導電性ポリマーで構成された被覆層を有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品用樹脂シート及びこのシートで形成された電子部品包装用成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
トレーやキャリアテープなどの電子部品包装用成形体には、ポリスチレンを始めとする汎用の熱可塑性樹脂シートを真空成形法などの成形方法で成形された成形体が多く使用されている。しかし、ポリスチレンなどの熱可塑性樹脂シートで形成された成形体は、強度や耐衝撃性などの機械的強度が充分でなく、特に、大型の電子部品を包装した場合にはその傾向が顕著となる。
【0003】
そこで、ゴム成分を含有するスチレン系樹脂シートを使用することなどが検討されている。例えば、特開2002−326318号公報(特許文献1)には、電子部品の包装用に適した導電性電子部品包装容器として、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)を主成分とする熱可塑性樹脂の基材層の少なくとも片面に、ポリカーボネート系樹脂に5〜50重量%のカーボンブラックを含有する導電性樹脂組成物を積層した導電シートを用いた耐熱性キャリアテープやトレーが開示されている。
【0004】
しかし、ABS樹脂などのゴム含有スチレン系樹脂を含む樹脂組成物で構成された成形体で、電子部品を包装すると、電子部品の金属部分が腐食したり、使用時にノイズなどの誤作動を生じる場合がある。
【0005】
一方、これらの樹脂で形成された成形体は、機械特性の問題だけでなく、帯電防止性が充分でなく、静電気を帯電し易い。静電気が帯電すると、環境粉塵(環境的に存在する粉塵)が付着したり、電子部品の種類によっては破壊が生じる。これらの問題を解決するために、成形体を帯電防止処理する方法が提案されているが、なかでも、帯電防止剤として界面活性剤を練り込んだり、コーティングする方法が一般的である。
【0006】
例えば、特開昭63−105061号公報(特許文献2)には、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレンと、帯電防止剤とを含む帯電防止特性を有する熱可塑性樹脂組成物及びこの樹脂組成物を用いたフィルムが開示されている。
【0007】
しかし、界面活性剤は低湿度下での帯電防止性能が低く、また界面活性剤は水溶性であるため、耐水性も低い。また、界面活性剤を添加すると、電子部品の金属部分が腐食し易い。さらに、キャリアテープなどの電子部品包装用成形体の場合には、部品収納後、カバーテープを接着し放置すると、カバーテープが剥がれ易い。
【特許文献1】特開2002−326318号公報(請求項1)
【特許文献2】特開昭63−105061号公報(請求項1及び9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、電子部品の包装に用いても、部品の金属部分を腐食せず、部品の機能も損なわない樹脂シート及びこのシートで形成された電子部品包装用成形体を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、強度や耐衝撃性などの機械的特性が高く、かつ金属に対する腐食性も低い電子部品用樹脂シート及びこのシートで形成された電子部品包装用成形体を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、持続力や回復力などの帯電防止性能が高い電子部品用樹脂シート及びこのシートで形成された電子部品包装用成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ナトリウム及び塩素の含有量が低い熱可塑性樹脂で構成されたシートを用いると、電子部品の包装に用いても、部品の金属部分を腐食せず、部品の機能も損なわないことを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の電子部品用樹脂シートは、ナトリウム及び塩素の含有量が合計で10ppm以下である熱可塑性樹脂で構成されている。前記熱可塑性樹脂は、塩素含有量が5ppm以下であってもよい。また、前記熱可塑性樹脂は、110℃の水で20時間抽出した硫酸イオンの溶出量が、熱可塑性樹脂に対して5ppm以下であってもよい。さらに、前記熱可塑性樹脂は、少なくともゴム含有スチレン系樹脂(例えば、少なくともアクリル系単量体を構成単位として含有するゴムグラフトスチレン系樹脂)で構成されていてもよい。このゴム含有スチレン系樹脂は、塊状重合法で得られた樹脂であってもよい。本発明のシートは、さらに、高分子型帯電防止剤(例えば、オレフィン系ブロック及び/又はポリアミド系ブロックと、親水性ブロックとのブロック共重合体で構成された帯電防止剤など)を含有してもよい。この高分子型帯電防止剤は、金属塩類と組み合わせて用いてもよい。前記シートは、少なくとも一方の面に、導電性ポリマーで構成された被覆層を有していてもよい。この導電性ポリマーは、ポリチオフェン系重合体及びアニオン系重合体で構成されていてもよい。このようなシートは、表面固有抵抗値が1×102〜1×1013Ω/□程度であってもよい。
【0013】
本発明には、前記シートで形成された電子部品包装用成形体も含まれる。また、本発明には、ナトリウム及び塩素の含有量が合計で10ppm以下である熱可塑性樹脂、及び高分子型帯電防止剤で構成されている電子部品用樹脂組成物も含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、シートがナトリウム及び塩素含有量の低い熱可塑性樹脂で構成されているため、このシートを電子部品の包装に用いても、部品の金属部分が腐食せず、また、部品の機能が損なわれることもない。また、このシートは、金属に対する腐食性が低いだけでなく、強度や耐衝撃性などの機械的特性も高い。さらに、このシートは、持続力や回復力などの帯電防止性能が非常に優れている。従って、このシートで形成された成形体は、帯電防止性が要求される電子部品包装用成形体に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[樹脂シート]
本発明の電子部品用樹脂シートは、ナトリウム及び塩素の含有量が合計で10ppm以下である熱可塑性樹脂で構成されている。この樹脂シートは、帯電防止性を向上させるため、さらに高分子型帯電防止剤を含んでいてもよい。
【0016】
(熱可塑性樹脂)
樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系重合体(付加重合系樹脂)、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース誘導体などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの熱可塑性樹脂のうち、成形性、機械的特性などの点から、ビニル系重合体(例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂など)、特に、成形性や透明性などの点から、スチレン系樹脂が好ましい。
【0017】
スチレン系樹脂は、芳香族ビニル単量体を主構成単位として含む単独又は共重合体である。スチレン系樹脂を形成するための芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、ビニルトルエン、ビニルキシレン、p−エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなど)、ハロゲン置換スチレン(例えば、クロロスチレン、ブロモスチレンなど)、α位にアルキル基が置換したα−アルキル置換スチレン(例えば、α−メチルスチレンなど)などが例示できる。これらの芳香族ビニル単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの単量体のうち、通常、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなど、特にスチレンが使用される。
【0018】
前記芳香族ビニル単量体は、共重合可能な単量体(共重合性単量体)と組み合わせて使用してもよい。共重合性単量体としては、例えば、不飽和多価カルボン酸又はその酸無水物(例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸又はその酸無水物など)、イミド系単量体[例えば、マレイミド、N−アルキルマレイミド(例えば、N−C1-4アルキルマレイミド等)、N−シクロアルキルマレイミド(例えば、N−シクロヘキシルマレイミドなど)、N−アリールマレイミド(例えば、N−フェニルマレイミドなど)などのN−置換マレイミド]、アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシルなどの(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、 (メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシC2-4アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系モノマーなど]などが例示できる。これらの共重合可能な単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。全単量体中の共重合可能な単量体の使用量は、通常、1〜50モル%、好ましくは3〜40モル%、さらに好ましくは5〜30モル%程度の範囲から選択できる。
【0019】
スチレン系樹脂は、ゴム含有スチレン系樹脂であってもよい。ゴム含有スチレン系樹脂は、耐衝撃性及び緩衝性を改善するために使用され、共重合(グラフト重合、ブロック重合等)等により、前記スチレン系樹脂で構成されたマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散した重合体であってもよく、通常、ゴム状重合体の存在下、少なくとも芳香族ビニル単量体を、慣用の方法(塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、乳化重合など)で重合することにより得られるグラフト共重合体(ゴムグラフトポリスチレン系重合体)である。
【0020】
ゴム状重合体としては、例えば、ジエン系ゴム[ポリブタジエン(低シス型又は高シス型ポリブタジエン)、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソブチレン−ブタジエン系共重合ゴムなど]、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリルゴム(ポリアクリル酸C2-8アルキルエステルを主成分とする共重合エラストマーなど)、エチレン−α−オレフィン系共重合体[エチレン−プロピレンゴム(EPR)など]、エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体[エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)など]、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、水添ジエン系ゴム(水素化スチレン−ブタジエン共重合体、水素化ブタジエン系重合体など)などが挙げられる。なお、前記共重合体はランダム又はブロック共重合体であってもよく、ブロック共重合体には、AB型、ABA型、テーパー型、ラジアルテレブロック型の構造を有する共重合体等が含まれる。これらのゴム状重合体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0021】
好ましいゴム状重合体は、共役1,3−ジエン又はその誘導体の重合体、特にジエン系ゴム[ポリブタジエン(ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体など]である。
【0022】
ゴム含有スチレン系樹脂において、ゴム状重合体の含有量は、3〜80重量%(例えば、4〜70重量%)、好ましくは5〜60重量%(例えば6〜55重量%)、さらに好ましくは7〜50重量%(特に7〜30重量%)程度である。ゴム状重合体の含有量が少なすぎると、耐衝撃性の改良効果が充分でなく、ゴム状重合体の含有量が多すぎると、剛性が低下する。
【0023】
スチレン系樹脂で構成されたマトリックス中に分散するゴム状重合体の形態は、特に限定されず、サラミ構造、コア/シェル構造、オニオン構造などであってもよい。
【0024】
分散相を構成するゴム状重合体の粒子径は、例えば、体積平均粒子径0.5μm以上(例えば、0.5〜30μm)、好ましくは0.5〜10μm、さらに好ましくは0.5〜7μm(特に0.5〜5μm)程度の範囲から選択できる。また、ゴム状重合体のグラフト率は、5〜150%、好ましくは10〜150%程度である。
【0025】
スチレン系樹脂(ゴム含有スチレン系樹脂の場合はマトリックス樹脂)の重量平均分子量は、10,000〜1,000,000、好ましくは50,000〜500,000、さらに好ましくは100,000〜500,000程度である。
【0026】
スチレン系樹脂としては、具体的には、ポリスチレン(GPPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)などの非ゴム含有スチレン系樹脂(ゴム成分を含有しないスチレン系樹脂や非ゴム強化スチレン系樹脂など)や、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ABS樹脂)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、スチレン−メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合体(MBS樹脂)、ゴム成分X(アクリルゴム、塩素化ポリエチレン、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体など)にアクリロニトリルAとスチレンSとがグラフト重合したAXS樹脂などのゴム含有スチレン系樹脂が挙げられる。これらのスチレン系樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0027】
本発明では、特に、強度や耐衝撃性などの機械的特性を向上させる点から、熱可塑性樹脂として、これらのスチレン系樹脂のうち、少なくともゴム含有スチレン系樹脂を含むのが好ましい。さらに、ゴム含有スチレン系樹脂は、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)などのアクリル系単量体を構成単位として含有しないゴム含有スチレン系樹脂であってもよいが、アクリル系単量体を構成単位として含有するゴムグラフトスチレン系樹脂(ゴム成分にアクリル系単量体とスチレン系単量体とがグラフト重合した共重合体)が好ましい。
【0028】
アクリル系単量体としては、芳香族ビニルと共重合可能なアクリル系単量体として例示したアクリル系単量体が使用できる。これらのアクリル系単量体のうち、(メタ)アクリル酸や、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸C1-4アルキルエステル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシC2-4アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系モノマー、特に、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系モノマーが好ましい。これらのアクリル系単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて含まれていてもよい。
【0029】
アクリル系単量体を構成単位として含有するゴムグラフトスチレン系樹脂としては、具体的には、ABS樹脂、メタクリル酸メチル変性ABS樹脂(透明ABS樹脂)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、MBS樹脂、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン樹脂(AAS樹脂)、アクリロニトリル−エチレン・プロピレンゴム−スチレン樹脂(AES樹脂)などが挙げられる。これらのゴム含有スチレン系樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのゴム含有スチレン系樹脂のうち、シアン化ビニル系モノマーを構成単位として含有するゴムグラフトスチレン系樹脂(例えば、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、又はこれらの樹脂の組み合わせなど)が好ましい。
【0030】
これらのゴム含有スチレン系樹脂は、耐衝撃性や強度などの機械的特性を低下しない範囲で、非ゴム含有スチレン系樹脂、特にアクリル系単量体を構成単位として含有する非ゴム含有スチレン系樹脂と組み合わせてもよい。これらの非ゴム含有スチレン系樹脂をゴム含有スチレン系樹脂と組み合わせることにより、例えば、ゴム含有スチレン系樹脂のゴム含有量を容易に調整することができる。アクリル系単量体を構成単位として含有する非ゴム含有スチレン系樹脂としては、例えば、AS樹脂、MS樹脂、アクリロニトリル−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらの非ゴム含有スチレン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの非ゴム含有スチレン系樹脂のうち、シアン化ビニル系モノマーを含有するスチレン系樹脂(例えば、AS樹脂やアクリロニトリル−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体など)が好ましい。
【0031】
ゴム含有スチレン系樹脂と、非ゴム含有スチレン系樹脂との割合(重量比)は、例えば、前者/後者=100/0〜10/90、好ましくは100/0〜30/70、さらに好ましくは100/0〜50/50(特に100/0〜70/30)程度である。
【0032】
本発明では、熱可塑性樹脂に含まれるナトリウム及び塩素の割合は、例えば、合計で10ppm(μg/g)以下、好ましくは8ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下(特に1ppm以下)程度である。特に、塩素は、金属の腐食に与える影響が顕著であり、熱可塑性樹脂に含まれる塩素の割合は、例えば、5ppm以下、好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下程度である。
【0033】
さらに、熱可塑性樹脂中に含まれる硫酸イオンも少ないのが好ましい。硫酸イオンの割合は、例えば、110℃の水で20時間抽出した硫酸イオンの溶出量が、熱可塑性樹脂に対して5ppm(μg/g)以下、好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下程度である。
【0034】
このような元素やイオンは、例えば、熱可塑性樹脂(特にゴム含有スチレン系樹脂)の製造過程で混入するが、このような元素やイオンが存在すると、電子部品の金属部分が腐食し、動作不良の原因ともなる。これらの元素やイオンの含有量は、熱可塑性樹脂(特にゴム含有スチレン系樹脂)を精製することにより低減してもよいが、製造方法の調整や選択により低減してもよい。例えば、乳化重合や懸濁重合、溶液重合(特に乳化重合)でゴム含有スチレン系樹脂を製造する場合には、重合に用いる溶媒、界面活性剤、重合開始剤などや、塩析に用いる塩などに由来する元素やイオンが混入するため、塊状重合で製造したゴム含有スチレン系樹脂を用いるのが好ましい。
【0035】
(高分子型帯電防止剤)
本発明では、前記熱可塑性樹脂に加えて、高分子型帯電防止剤を用いることにより、少量であっても優れた帯電防止性を発揮でき、高い帯電防止性を持続できると共に、帯電防止性が低下しても回復させることができる。
【0036】
高分子型帯電防止剤は、高分子量(例えば、数平均分子量1000以上)の帯電防止剤であればよく、特に制限されないが、例えば、オレフィン系ブロック及び/又はポリアミド系ブロックと、親水性ブロックとのブロック共重合体が好ましい。このようなブロック共重合体で構成された高分子型帯電防止剤について、例えば、特開2001−278985号公報を参照できる。これらの高分子型帯電防止剤は、オレフィン系ブロック及び/又はポリアミド系ブロックと、親水性ブロックとが交互に結合した構造を有している。
【0037】
前記オレフィン系ブロックを構成するオレフィン系単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどのC2-6オレフィンが例示できる。これらのオレフィンのうち、エチレン及びプロピレンから選択された少なくとも一種が好ましく、特に、少なくともプロピレンを含むのが好ましい。オレフィン系単量体のうち、プロピレンの割合は80モル%以上(特に90モル%以上)が好ましい。ポリオレフィンブロックにおいて、オレフィン系単量体(C2-6オレフィン、特にエチレン及び/又はプロピレン)の含有量は、80モル%以上(特に90モル%以上)程度である。ポリオレフィンブロックの数平均分子量は、2000〜50000、好ましくは3000〜40000、さらに好ましくは5000〜30000程度である。
【0038】
前記ポリアミド系ブロックは、ジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミンなどのC4-20脂肪族ジアミンなど)とジカルボン酸(例えば、アジピン酸やセバシン酸、ドデカン二酸などのC4-20脂肪族ジカルボン酸など)との縮合によって得られるブロック、アミノカルボン酸(例えば、6−アミノヘキサン酸や12−アミノドデカン酸などのC4-20アミノカルボン酸など)の縮合によって得られるブロック、ラクタム(カプロラクタムなどのC4-20ラクタムなど)の開環重合によって得られるブロック、これらの成分から得られる共重合ブロックのいずれであってもよい。ポリアミド系ブロックは、通常、アルキレン鎖を有しており、アルキレン鎖の炭素数は、例えば、6〜18個、好ましくは6〜16個、さらに好ましくは6〜12個程度である。ポリアミド系ブロックは、例えば、6−アミノヘキサン酸や12−アミノドデカン酸などのC6-12アミノカルボン酸の縮合によって得られたアルキレン骨格を有するポリアミドブロックであってもよい。ポリアミド系ブロックの割合は、全ブロック共重合体中、例えば、20〜70重量%、好ましくは25〜50重量%程度である。
【0039】
親水性ブロックとしては、例えば、ポリエーテル系ポリマー(又はノニオン性ポリマー)、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマーなどが例示できる。親水性ブロックを構成する親水性単量体としては、アルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのC2-6アルキレンオキシド)、特にエチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのC2-4アルキレンオキシドなどが好ましい。好ましい親水性ブロックとしては、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドなどのポリC2-4アルキレンオキシド)が好ましい。アルキレンオキシドの重合度は1〜300(例えば、5〜200)、好ましくは10〜150、さらに好ましくは10〜100(例えば、20〜80)程度である。
【0040】
前記オレフィン系ブロックと、親水性ブロックとは、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、イミド結合などを介して結合されている。これらの結合は、例えば、ポリオレフィンを変性剤で変性した後、親水性ブロックを導入することにより形成できる。例えば、ポリオレフィンを変性剤で変性して活性水素原子を導入した後、アルキレンオキシドなどの親水性単量体を付加重合することによって導入される。このような変性剤としては、例えば、不飽和カルボン酸又はその無水物((無水)マレイン酸など)、ラクタム又はアミノカルボン酸(カプロラクタムなど)、酸素又はオゾン、ヒドロキシルアミン(2−アミノエタノールなど)、ジアミン(エチレンジアミンなど)、あるいはこれらの混合物等が例示できる。このようにして得られる高分子型帯電防止剤は、例えば、三洋化成工業(株)から商品名「ペレスタット300」として入手できる。
【0041】
前記ポリアミドブロックと、親水性ブロックとは、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、イミド結合などを介して結合されている。これらの結合は、例えば、両末端に官能基を有するポリアミドとポリエーテル系ポリマーとをグリシジルエーテル化合物(例えば、ビスフェノールAグリシジルエーテルなど)などで結合することによって形成できる。このようにして得られる高分子型帯電防止剤は、例えば、チバスペシャルティケミカルズ(株)から商品名「イルガスタットP16」「イルガスタットP18」として、三洋化成工業(株)から商品名「ペレスタットNC6321」として入手できる。
【0042】
高分子型帯電防止剤の数平均分子量は、1000以上(例えば、1000〜100000)、好ましくは2000〜60000、さらに好ましくは2000〜50000(特に3000〜20000)程度である。
【0043】
このような高分子型帯電防止剤は、単独でも高い帯電防止性を有しているが、さらに金属塩類と組み合わせて用いてもよい。金属塩類と高分子型帯電防止剤とを組み合わせると、金属塩類から解離した金属イオンが、高分子型帯電防止剤の親水性ブロックに対して作用してイオン伝導性を発現することにより、高分子型帯電防止剤の持続性などをさらに向上できる。なお、このようなイオン伝導性を付与可能な金属塩類は、例えば、特開2003−277622号公報や特開2004−175945号公報などに記載されている金属塩類などを使用できる。
【0044】
金属塩類としては、通常、アルカリ金属塩類、アルカリ土類金属塩類が使用され、例えば、過塩素酸アルカリ金属塩(過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウムなど)、過塩素酸アルカリ土類金属塩(過塩素酸マグネシウムなど)、トリフルオロメタンスルホン酸アルカリ金属塩(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウムなど)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのアルカリ金属塩[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウムなど]、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドのアルカリ金属塩[トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドナトリウム]などが挙げられる。これらの金属塩類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属塩類の中でも、リチウム塩類、特に、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムなどのフッ素原子及びスルホニル基又はスルホン酸基を有するリチウム金属塩が好ましい。
【0045】
金属塩類の割合は、高分子型帯電防止剤100重量部に対して、例えば、0.01〜30重量部、好ましくは0.05〜20重量部、さらに好ましくは0.01〜10重量部程度である。
【0046】
高分子型帯電防止剤と金属塩類とを組み合わせたイオン伝導性高分子型帯電防止剤は、例えば、三光化学工業(株)から商品名「サンコノール(登録商標)TBX−65」「サンコノールTBX−35」として入手できる。
【0047】
高分子型帯電防止剤の割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば、1〜50重量部、好ましくは3〜40重量部、さらに好ましくは5〜30重量部(特に10〜30重量部)程度である。イオン伝導性高分子型帯電防止剤の場合は、高分子型帯電防止剤及び金属塩類の合計量が、熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば、1〜30重量部、好ましくは5〜20重量部程度であってもよい。
【0048】
さらに、高分子型帯電防止剤は、樹脂シートの表面に偏在させてもよい。その方法としては、例えば、高分子型帯電防止剤を含有する層を表層とする積層体を形成する方法などが挙げられる。この方法において、高分子型帯電防止剤を含有する層は、両面に形成するのが好ましい。高分子型帯電防止剤を含有する層と含有しない層との厚み比は、例えば、前者/後者=300/1〜1/1、好ましくは200/1〜5/1、さらに好ましくは100/1〜10/1程度である。
【0049】
本発明の樹脂シートには、さらに、慣用の添加剤、例えば、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など)、難燃助剤、架橋剤、補強材(ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状充填材など)、核剤、カップリング剤、滑剤、ワックス、可塑剤、離型剤、耐衝撃改良剤、色相改良剤、流動性改良剤、着色剤(染料など)、分散剤、消泡剤、帯電防止剤、抗菌剤、防腐剤、粘度調整剤、増粘剤などを添加してもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0050】
樹脂シートの厚みは、用途に応じて適当に選択でき、例えば、10μm〜5mm、好ましくは30μm〜3mm、さらに好ましくは50μm〜1mm程度である。容器成形に利用する場合、樹脂シートの厚みは、例えば、50μm〜5mm、好ましくは100μm〜3mm、さらに好ましくは150μm〜2mm(特に200μm〜1.5mm)程度であってもよい。
【0051】
樹脂シートの製造方法は、特に制限されず、慣用の方法を用いることができる。例えば、熱可塑性樹脂及び必要に応じて高分子型帯電防止剤などの添加剤をタンブラー、スーパーミキサーなどを用いて混合した後、そのままシート押出機に供給して形成してもよいし、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸もしくは二軸押出し機などによって溶融混練してペレット化した後、シート押出し機に供給して形成してもよい。シートの成形方法としては、例えば、エキストルージョン法[ダイ(フラット状、T状(Tダイ)、円筒状(サーキュラダイ)など)法、インフレーション法など]などの押出成形法、テンター方式、チューブ方式、インフレーション方式等による延伸法などが挙げられる。樹脂シートは、未延伸であってもよく、延伸(一軸延伸、二軸延伸など)してもよい。なお、積層体の場合は、慣用の方法である共押出法やラミネート法などにより製造してもよい。
【0052】
樹脂シートは、他の樹脂層などと積層する場合には、接着性を向上させるため、その表面に対して慣用の表面処理(例えば、コロナ放電処理、高周波処理など)を施してもよい。
【0053】
[導電性ポリマー被覆シート]
本発明の樹脂シートは、少なくとも一方の面(片面又は両面)に、導電性ポリマーで構成された被覆層(導電性被覆層)を有していてもよい。このような被覆層は、高分子型帯電防止剤を含んでいない樹脂シートに対して有効である。
【0054】
(導電性ポリマー被覆層)
導電性被覆層を構成する導電性ポリマーとしては、水性溶媒に可溶な慣用の導電性ポリマー、例えば、ポリチオフェン系重合体、ポリピロール系重合体(例えば、ポリピロールなど)、ポリアニリン系重合体(例えば、ポリアニリンなど)などが挙げられる。これらの導電性ポリマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの導電性ポリマーのうち、導電性(特に、低湿度下での帯電防止性)、化学的安定性、及び透明性の点から、ポリチオフェン系重合体が好ましい。
【0055】
チオフェン骨格を有するポリチオフェン系重合体は、通常、ポリ(チオフェン−2,5−ジイル)である。チオフェンは置換体(通常、3位及び/又は4位の置換体)であってもよい。置換チオフェンとしては、例えば、モノアルキルチオフェン(例えば、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ヘキシルチオフェンなどのC1-10アルキル−チオフェンなど)、3,4−ジヒドロキシチオフェン、ジアルコキシチオフェン(例えば、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジプロポキシチオフェンなどのジC1-6アルコキシ−チオフェンなど)、アルキレンジオキシチオフェン(例えば、3,4−メチレンジオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェンなどのC1-4アルキレンジオキシチオフェンなど)、シクロアルキレンジオキシチオフェン[例えば、3,4−(1,2−シクロヘキシレン)ジオキシチオフェンなどのC5-12シクロアルキレン−ジオキシチオフェンなど]などが挙げられる。なお、アルキレンジオキシチオフェン及びシクロアルキレンジオキシチオフェンは、アルキレン基及びシクロアルキレン基が、さらに、メチル基やエチル基などのC1-12アルキル基やフェニル基などのC5-12アリール基などで置換されていてもよい。これらのチオフェン又は置換チオフェンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのチオフェン及び置換チオフェンのうち、通常、チオフェン、3−ヘキシルチオフェンなどのモノアルキルチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェンなどのアルキレンジオキシチオフェン、3,4−(1,2−シクロヘキシレン)ジオキシチオフェンなどのシクロアルキレンジオキシチオフェンなどが使用され、成形性や導電性などの点から、3,4−エチレンジオキシチオフェンなどの3,4−アルキレンジオキシチオフェンや3,4−ジエトキシチオフェンなどの3,4−ジアルコキシ−チオフェン、特に、3,4−C1-4アルキレンジオキシチオフェンが好ましい。また、ポリチオフェン系重合体は、このようなチオフェン単位とビニレン単位とを有する共重合体であってもよい。
【0056】
ポリチオフェン系重合体としては、具体的には、ポリチオフェン、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ[3,4−(1,2−シクロヘキシレン)ジオキシチオフェン]、ポリチエニレンビニレンなどが挙げられる。
【0057】
本発明では、導電性被覆層が水系のコーティング剤として前記樹脂シートの表面に塗布されるため、これらの導電性ポリマーは、後述する水性溶媒と組み合わせて用いられる。さらに、導電性ポリマーが水系であるため、樹脂シートも水系ポリマーに対して親和性の高い樹脂で構成されているのが好ましい。例えば、ゴム含有スチレン系樹脂の中でも、(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体を構成単位として含有するスチレン系樹脂などが好ましい。
【0058】
導電性被覆層には、さらにアニオン性重合体が含まれていてもよい。特に、導電性ポリマーは、重合工程でアニオン性重合体の存在下、重合される。例えば、ポリチオフェン系重合体は、通常、アニオン性重合体の存在下で酸化重合されるため、アニオン性重合体と組み合わせて用いることができる。
【0059】
アニオン性重合体としては、例えば、カルボキシル基又はその塩を有する重合体[例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸−無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体などの(メタ)アクリル酸系重合体又はその塩など]、スルホン酸基又はその塩を有する重合体(例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸など)、カルボキシル基及びスルホン酸基又はそれらの塩を有する重合体[例えば、(メタ)アクリル酸−スチレンスルホン酸共重合体など]などが挙げられる。アニオン性重合体の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミンなどのアルキルアミン、アルカノールアミンなどの有機アミン塩などが挙げられる。これらのアニオン性重合体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのアニオン性重合体のうち、スルホン酸基を有する重合体、例えば、ポリスチレンスルホン酸などが好ましい。
【0060】
アニオン性重合体の数平均分子量は、例えば、1000〜2,000,000、好ましくは2000〜1,000,000、さらに好ましくは2000〜500,000程度である。
【0061】
アニオン性重合体の割合は、導電性ポリマー100重量部に対して、例えば、10〜2000重量部、好ましくは30〜1000重量部、さらに好ましくは50〜500重量部(特に100〜300重量部)程度である。
【0062】
導電性被覆層には、種々の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、界面活性剤、水溶性高分子、充填剤、架橋剤、カップリング剤、着色剤、難燃剤、滑剤、ワックス、防腐剤、粘度調整剤、増粘剤、レベリング剤、消泡剤などが含まれていてもよい。
【0063】
導電性被覆層の厚みは、例えば、0.03〜300μm、好ましくは0.05〜100μm、さらに好ましくは0.1〜30μm(特に0.1〜10μm)程度である。
【0064】
(導電性ポリマー被覆シートの製造方法)
導電性被覆層を有するシートは、前記樹脂シートの少なくとも一方の面に、前記被覆層の塗布液(導電性ポリマーを含有する水性液状組成物)を塗布することにより製造できる。前記被覆層の塗布液の塗布には、慣用の塗布手段、例えば、スプレー、ロールコーター、グラビアロールコーター、ナイフコーター、ディップコーターなどが利用できる。なお、必要であれば、前記被覆層の塗布液は複数回に亘り塗布してもよい。前記被覆層の塗布液を樹脂シートに塗布した後、通常、塗布層を乾燥することにより被覆層を形成できる。
【0065】
水性液状組成物における溶媒は水単独であってもよく、親水性溶媒(特に水混和性溶媒)、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、ニトリル類(アセトニトリルなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなど)、カルビトール類などと水との混合溶媒であってもよい。親水性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。本発明では、通常、水単独で、又は水とアルコール類との混合溶媒として使用される。
【0066】
水性液状組成物中における導電性ポリマーの濃度は、例えば、0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜2重量%(特に0.3〜1重量%)程度である。水性液状組成物における固形分濃度は、0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜8重量%、さらに好ましくは0.5〜6重量%(特に1〜5重量%)程度である。
【0067】
水性液状組成物の塗布量(乾燥後の塗布量)は、例えば、10〜5000mg/m2(例えば、50〜4500mg/m2)程度の広い範囲から選択でき、通常、100〜4000mg/m2、好ましくは150〜3000mg/m2(例えば、200〜2000mg/m2)、さらに好ましくは200〜500mg/m2程度であってもよい。
【0068】
導電性被覆シートは、後処理工程(二次成形工程など)に連続的に供してもよいが、通常、ロール状に巻き取り、後処理工程に供する場合が多い。このような巻き取りによりベタツキや白化を抑制でき、被覆シートの透明性、光沢などを損うことがない。
【0069】
高分子型帯電防止剤を含む樹脂シート又は前記被覆シートは、帯電防止効果及び帯電防止能の回復力に優れる。これらのシートは、例えば、JIS K7194に準拠して測定した表面固有抵抗値が、成形後温度20℃、湿度50%RHで12時間経過したとき、例えば、1×102〜1×1013Ω/□、好ましくは1×103〜8×1012Ω/□、さらに好ましくは1×104〜7×1012Ω/□(特に1×105〜5×1012Ω/□)程度である。
【0070】
[二次成形方法及び二次成形品]
このようにして得られた樹脂シート(積層体や導電性被覆シートを含む)は、成形性に優れるため、圧空成形(押出圧空成形、熱板圧空成形、真空圧空成形など)、自由吹込成形、真空成形、折り曲げ加工、マッチド・モールド成形、熱板成形などの慣用の熱成形などで、簡便に二次成形することができる。
【0071】
熱成形工程においては、加熱したシートを加圧や減圧により成形し、例えば、圧空成形の場合は、加熱したシートを圧空により金型に押し当てて容器を成形する。真空成形の場合は、金型と加熱したシートとの間を真空にすることにより、加熱シートを金型側に引き込んで容器を成形する。前記金型には、空気を引き込むための小孔やスリットが設けられている。
【0072】
本発明の樹脂シートは、帯電防止性や成形性、種々の機械的特性に優れ、二次成形品としては、例えば、トレー、キャリアテープ、エンボステープ、マガジン、食品用容器、薬品用容器などの包装用成形体又は容器などが挙げられる。特に、本発明の樹脂シートは、金属に対する腐食性が低いため、電子又は電気部品、電子又は電気製品、機械部品などの金属製部材(特に電子部品)に対して用いるのが有用であり、中でも、これらの金属部材に対する包装用成形体又は容器として有用である。
【0073】
さらに、高分子型帯電防止剤を含有する樹脂シートや導電性ポリマーで構成された被覆層が形成された樹脂シートは、帯電防止性に優れ、金属に対する腐食性も低いため、半導体[例えば、IC(高密度集積回路)やICを用いた電子部品]や液晶などの電子部品の包装用成形体に有用である。例えば、このような樹脂シートは、耐衝撃性などの機械的強度に加えて、耐熱性や耐水性などにも優れる点から、これらの電子部品の中でも、大型電子部品包装用成形品(例えば、液晶板収納用トレイなど)や、小型電子部品(コネクターなど)を収容するための収容凹部を有する搬送用成形品[例えば、電子部品搬送用トレー(インジェクショントレー、真空成形トレーなど)、マガジン、キャリアテープ(エンボスキャリアテープなど)など]にも有用である。
【0074】
本発明の樹脂シートを大型電子部品包装用成形品に用いると、成形品のトリミング加工及びその後の過程で断面から発生する粉や、振動などによって発生する磨耗粉に対しても有効に帯電防止性を発揮することができる。また本発明の樹脂シートを小型電子部品包装用成形品、例えば、コネクターを収納するキャリアテープに用いると、スリットやパンチングにおいて発生する粉やヒゲが低減される。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、半導体や液晶などの電子部品の包装用成形体、例えば、小型電子部品を収容するための収容凹部を有する搬送用成形品[例えば、電子部品搬送用トレー(インジェクショントレー、真空成形トレーなど)、マガジン、キャリアテープ(エンボスキャリアテープなど)など]、大型電子部品包装用成形品(例えば、液晶板収納トレイなど)に有用である。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いたシートにおける各成分の略号の内容、及び各評価項目の評価方法は以下の通りである。
【0077】
[シートの各成分]
ABS1:ABS樹脂(日本エイ アンド エル(株)製、ET−70)
ABS2:ABS樹脂(日本エイ アンド エル(株)製、AT−08)
ABS3:ABS樹脂(テクノポリマー(株)製、O−T654)
ABS4:ABS樹脂(テクノポリマー(株)製、DP617)
AS:AS樹脂(ダイセルポリマー(株)製、050SF)
透明HIPS:透明耐衝撃性ポリスチレン(大日本インキ化学工業(株)製、クリアパクトTI−300S)
HIPS:耐衝撃性ポリスチレン(東洋スチレン(株)製、E640)
導電性ポリマー含有液:ポリチオフェン系重合体を含有する水性液状組成物(AGFA社製、Orgacon S−2500)
高分子型帯電防止剤1:三洋化成工業(株)製、ペレスタットNC6321
高分子型帯電防止剤2:ポリエーテルエステルアミドブロックコポリマー及びリチウム塩化合物(三光化学工業(株)製、サンコノールTBX65)
高分子型帯電防止剤3:ポリエーテルポリオレフィンブロックコポリマー及びリチウム塩化合物(三光化学工業(株)製、サンコノールTBX35)
界面活性剤:帯電防止剤(花王(株)製、エレストマスターS−520)。
【0078】
[ナトリウム濃度]
試料2gを白金るつぼ中に精秤し、電熱器及びバーナーで炭化した後、電気炉(400℃、1.5時間及び500℃、2時間)にて灰化を完了した。この灰化物に、少量の超純水及び硝酸0.5mlを加えて、砂浴上で加熱し灰分を溶解した。蒸発乾固後、0.1N硝酸水溶液を加えながら、20mlにメスアップし、原子吸光分析用検液とした。原子吸光分析器(島津製作所(株)製、AA−680)を用いて、この検液中の全ナトリウム量を測定した(単位:ppm(μg/g))。
【0079】
なお、試料を充填しないるつぼを用いたブランク試験を行い、このブランク値を差し引いて試料中の全ナトリウム量とした。また、検量線標準液は、市販の原子吸光分析用標準液を0.1N硝酸水溶液で適宜稀釈し、ナトリウム濃度0、0.02、0.05、0.1、0.5、1.0μg/mlに調整したものを使用した。
【0080】
[塩素濃度]
試料20〜30mgを精秤し、塩素分析装置(三菱化学(株)製、TOX−100)を用いて、電量滴定法によって試料中の全塩素量を測定した(単位:ppm(μg/g))。
【0081】
[硫酸イオン濃度]
試料6gを精秤し、予め超純水で洗浄したポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))製容器に充填し、超純水15gを加えた後、110℃に設定した乾燥機に20時間静置して蒸気で抽出した。この液を適宜稀釈し、0.2μmメンブレンフィルターでろ過したろ過液を測定液として、以下の陰イオン分析装置で測定した(単位:ppm(μg/g))。
【0082】
使用機器:DIONEX DX−320
プレカラム:AG−15
カラム:AS−15
溶離液:5〜70mMのKOHグラジエント
流速:0.5ml/分
検出器:電気伝導検出器
カラム温度:30℃
注入量:200μl。
【0083】
[表面抵抗値]
表面抵抗値が106Ω/□未満であるシートに関しては、表面抵抗計[三菱化学(株)製、ロレスターGP(MCP−T600)]を用いて、JIS K7194に準じて表面抵抗値を測定した。一方、表面抵抗値が106Ω/□以上であるシートに関しては、表面抵抗計[三菱化学(株)製、ハイレスターUP(MCP−HT450)]を用いて、JIS K7194に準じて表面抵抗値を測定した。
【0084】
測定条件は2種類の環境下(23℃、50%RHの条件下及び23℃、20%RHの低湿度条件下)で12時間放置後、シートの表面抵抗値を測定した。さらに、縦15cm、横15cm、深さ2cmの電子部品包装用成形体を真空成形で成形し、その成形体における底部の表面抵抗値を測定した。
【0085】
[腐食性]
シートの腐食性は、成形体に電子部品の金属部分が接触するように配置し、50℃で相対湿度95%の環境下で1週間放置した後に、金属部分の腐食状態による変色の有無を観察した。
【0086】
○:変色なし
×:金属腐食による変色あり。
【0087】
[磨耗性]
シートの磨耗性は、テーバー磨耗試験機(東洋精機(株)製)を使用し、荷重1kg(9.8N)下で磨耗輪(CS−17)を使用し、1000回磨耗を行った。磨耗前後の重量を測定し、下記の基準で判定した。
【0088】
○:磨耗重量が10mg未満
△:磨耗重量が10〜20mg
×:磨耗重量が20mg以上、または磨耗粉発生。
【0089】
実施例1〜2及び比較例1〜2
表1に示す配合でTダイから熱可塑性樹脂をシート状に押出し、冷却ロールにて冷却後、ロール状に巻き取ったシートを樹脂シート(厚み1000μm)として使用した。樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0090】
実施例3
実施例1で得られた樹脂シートに、グラビアロールコーターを用いて、導電性ポリマー含有液を乾燥厚み0.15μmとなるように塗布した。得られた被覆シートの評価結果を表1に示す。
【0091】
実施例4
多層シート押出機を用いて、100重量部のABS1と20重量部の高分子型帯電防止剤1とで構成されたペレットをφ30mm押出機に、ABS1のペレットをφ65mm押出機に投入し、これらのペレットを共押出し、冷却ロールにて冷却後、ロール状に巻き取ったシートを被覆シートとして使用した。高分子型帯電防止剤1を含む表層部は、樹脂シートの両面に形成され、いずれも20μmであった。表層部と樹脂シートとの厚み比は、表層部/樹脂シート/表層部=1/48/1である。得られた被覆シートの評価結果を表1に示す。
【0092】
実施例5
20重量部の高分子型帯電防止剤1の代わりに、15重量部の高分子型帯電防止剤2を用いる以外は実施例4と同様にして被覆シートを製造した。得られた被覆シートの評価結果を表1に示す。
【0093】
実施例6
20重量部の高分子型帯電防止剤1の代わりに、7重量部の高分子帯電防止剤3を用いる以外は実施例4と同様にして被覆シートを製造した。得られた被覆シートの評価結果を表1に示す。
【0094】
実施例7
100重量部のABS1と20重量部の高分子型帯電防止剤1の代わりに、100重量部の透明HIPSと15重量部の高分子帯電防止剤1を用いる以外は実施例4と同様にして被覆シートを製造した。得られた被覆シートの評価結果を表1に示す。
【0095】
比較例3
Tダイから、HIPS100重量部及び界面活性剤15重量部をシート状に押出し、冷却ロールにて冷却後、ロール状に巻き取ったシートを樹脂シート(厚み1000μm)として使用した。樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1から明らかなように、実施例1〜7のシートは、金属に対する腐食性が低く、摩耗性も低い。さらに、実施例3〜7のシートは、帯電防止性も優れている。これに対して、比較例1〜3のシートは、金属に対する腐食性が高い。また、比較例3のシートは、帯電防止性も充分でなく、摩耗性も高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム及び塩素の含有量が合計で10ppm以下である熱可塑性樹脂で構成された電子部品用樹脂シート。
【請求項2】
塩素含有量が5ppm以下である熱可塑性樹脂で構成された請求項1記載のシート。
【請求項3】
110℃の水で20時間抽出した硫酸イオンの溶出量が、熱可塑性樹脂に対して5ppm以下である熱可塑性樹脂で構成された請求項1記載のシート。
【請求項4】
熱可塑性樹脂が少なくともゴム含有スチレン系樹脂で構成されている請求項1記載のシート。
【請求項5】
ゴム含有スチレン系樹脂が、少なくともアクリル系単量体を構成単位として含有するゴムグラフトスチレン系樹脂である請求項4記載のシート。
【請求項6】
ゴム含有スチレン系樹脂が、塊状重合法で得られた樹脂である請求項4記載のシート。
【請求項7】
さらに、高分子型帯電防止剤を含有する請求項1記載のシート。
【請求項8】
高分子型帯電防止剤が、オレフィン系ブロック及びポリアミド系ブロックから選択された少なくとも一種のブロックと、親水性ブロックとのブロック共重合体で構成されている請求項7記載のシート。
【請求項9】
さらに、金属塩類を含有する請求項8記載のシート。
【請求項10】
少なくとも一方の面に、導電性ポリマーで構成された被覆層を有する請求項1記載のシート。
【請求項11】
導電性ポリマーが、ポリチオフェン系重合体及びアニオン系重合体で構成されている請求項10記載のシート。
【請求項12】
表面固有抵抗値が、1×102〜1×1013Ω/□である請求項1又は10記載のシート。
【請求項13】
請求項1記載のシートで形成された電子部品包装用成形体。
【請求項14】
ナトリウム及び塩素の含有量が合計で10ppm以下である熱可塑性樹脂、及び高分子型帯電防止剤で構成されている電子部品用樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−182439(P2006−182439A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380942(P2004−380942)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】