説明

電子部品

【課題】簡単にインダクタンス値を微調整できる電子部品を提供すること。
【解決手段】複数枚の基体層1〜6、8〜10を積層して形成された積層体100を有し、積層体100の内部に、基体層6に形成された浮遊電極61と、積層体100の積層方向で隣接する基体層1〜4に配置された導体パターン11、21、31、41を層間で互いに導通させてインダクタンス成分が構成されるコイル導体20と、基体層8、9に形成されてキャパシタンス成分が構成されるコンデンサ導体30とが設けられ、浮遊電極61、コイル導体20及びコンデンサ導体30がこの順で積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器のフィルタ回路などに用いて好適なインダクタンス成分を有する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来この種の電子部品としては、例えば、絶縁性を有する基体層の各々に、導体パターンをそれぞれ形成すると共に、それら導体パターンが互いに層間で導通可能に形成しておき、基体層の各々を互いに積層して積層体が形成されることで、積層体内に導体パターンの各々によってインダクタンス成分が構成されるものが提供されている。
このような電子部品は、インダクタンス成分を構成するコイル導体とともにキャパシタンス成分を構成するコンデンサ導体を設けることにより各種フィルタ素子として利用することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記に示す従来の電子部品は、特性を決定するのに重要なインダクタンス値を変更する場合に、コイル導体の巻数を変えたり、またコイル導体の面積を変えたりすることで行っているが、コイル導体の巻数を変えると、インダクタンス値が大きく変化するため、微調整を必要とするときには、コイル導体の面積を変えることで対処している。
【0004】
しかしながら、コイル導体の面積を変えるため、基体層に設けられるコイル導体のパターン形状をその都度変更しなければならないので、量産化を図ることが困難になると共に、それだけコストアップを招く問題があった。
【0005】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、コイルパターンを変えることなく、簡単にインダクタンス値を微調整することができて、量産化を図ることができると共に、コストアップするのを防止することもできる電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明の電子部品は、複数枚の基体層を積層して形成された積層体を有し、該積層体の内部に、前記基体層に形成された浮遊電極と、該積層体の積層方向で隣接する前記基体層に配置された導体パターンを層間で互いに導通させてインダクタンス成分が構成されるコイル導体と、前記基体層に形成されてキャパシタンス成分が構成されるコンデンサ導体とが設けられ、前記浮遊電極、前記コイル導体及び前記コンデンサ導体がこの順で積層されていることを特徴とする。
【0007】
この発明では、コイル導体の形成された基体層と距離を隔てた位置に浮遊電極が設けられており、浮遊電極の位置に応じてインダクタンスの値が変化する。したがって、浮遊電極の位置を調整することによってインダクタンス値を微調整することができる。また、キャパシタンス成分を有するので、汎用性のある使用が可能となる。
【0008】
また、本発明の電子部品は、前記浮遊電極が、前記積層体の積層方向で前記コイル導体と重なる位置に配置されていることが好ましい。
この発明では、浮遊電極がコイル導体と重なる位置に配置されているので、インダクタンス値の微調整を確実に行うことができる。
【0009】
また、本発明の電子部品は、前記浮遊電極が、前記コイル導体によって発生する磁界の進行方向の領域内に配置されていることが好ましい。
この発明では、浮遊電極がコイル導体によって発生する磁界の進行方向の領域内に配置されているので、インダクタンス値の微調整を確実に行うことができる。
【0010】
また、本発明の電子部品は、前記積層体に、抵抗成分が構成された抵抗導体が配置されていることが好ましい。
この発明では、抵抗成分を有するので、汎用性のある使用が可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電子部品によれば、コイル導体によって発生する磁界を遮る浮遊電極が備えられているので、該浮遊電極によってコイル導体が本来有しているインダクタンス値を小さくして微調整が可能となり、コイル導体をそのまま形成できることで、電子部品としての量産化を図ることができると共に、コストアップするのを防ぐこともできる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照し、この発明の実施形態について説明する。図1はこの発明の第1の実施形態にかかる電子部品の要部を示す分解斜視図である。
図1に示す実施形態の電子部品は、上下二つのカバーシート71、72の間に、絶縁性を有する基体層1〜6が複数枚積層されて積層体100が形成される。
絶縁性の基体層1〜6は、例えば誘電体セラミックス粉と磁性体フェライト粉とを所定の割合で混合した複合材料からなる誘電体磁性体混合層からなっており、カバーシート71、72も基本的には基体層1〜6とほぼ同様に形成される。
【0013】
これら基体層1〜6のうち、基体層1、2、3、4の上面には帯状で所望の形状をなす導体パターン11、21、31、41がそれぞれ設けられている。この場合、基体層1の導体パターン11及び基体層2の導体パターン21間の所定位置にスルーホール1aが設けられ、また基体層2の導体パターン21及び基体層3の導体パターン31間の所定位置にスルーホール2aが設けられ、さらに導体パターン31及び基体層4の導体パターン41間の所定位置にスルーホール3aが設けられ、これら各スルーホール1a、2a、3aに導電性ペーストが充填されている。
【0014】
そして、各基体層1〜4が互いに上下方向(積層方向)に積層されたとき、導体パターン11、21、31、41が互いに電気的に接続されることで、コイル成分を構成するコイル導体20が積層方向に沿って形成されるようになっている。
【0015】
また、コイル導体20を形成する各基体層1〜4のうち、最も上層の基体層4には導体パターン41と接続される端子パターン4aが形成されると共に、最も下層の基体1には、導体パターン11と接続される端子パターン1bが形成され、これら端子パターン4aと1bとが回路に接続される端子電極を構成するようになっている。
【0016】
さらに、基体層4より上方の基体層6、すなわち、基体層4の上に基体層5を隔てて配置される基体層6の上面には、浮遊電極61が設けられている。この浮遊電極61は、コイル導体20の回路と電気的に絶縁されることで独立して設けられており、コイル導体20によってその積層方向に磁界が発生したとき、その磁界を遮ることで、コイル導体20を形成するコイル成分のインダクタンス値の調整用として機能するようになっている。
【0017】
その際、浮遊電極61は、基体層1〜6の積層方向において、コイル導体20を形成する導体パターン11、21、31、41のいずれかと重なる位置に配置され、しかも、コイル導体20を形成する最も上層の導体パターン41に対し基体層5及び基体層6を介して所定の距離を隔てて設けられている。
【0018】
このような導体パターン11、21、31、41を有する基体層1から4と、その上のパターンを有していない基体層5と、浮遊電極61を有する基体層6とが互いに積層されると共に、これらの上下にカバーシート71、72が積層された後、焼成されることで直方体形状の積層体100をなすベアチップが得られた後、そのベアチップにおいて、露出している端子パターン4aと1bに導電性ペーストが塗布され、かつ焼き付けられて端子電極などが構成されことで、チップインダクタとしての電子部品が形成される。
【0019】
このように構成された電子部品は、コイル導体20の端子パターン4aと1bに端子電極を介して電圧(若しくは電流)が印加されると、コイル導体20に各基体層の積層方向に沿い磁界が生じ、インダクタンス成分として機能する。
その場合、コイル導体20と基体層5、6との距離を隔てた位置に、コイル導体20と電気的に絶縁されている浮遊電極61が設けられ、コイル導体20によって磁界が発生したとき、その磁界を浮遊電極61が遮るので、浮遊電極61によってコイル導体20が本来有しているインダクタンス値を小さくすることができる。
【0020】
その結果、浮遊電極61によってコイル導体20のインダクタンス値を微調整することができるので、コイル導体の形状及び構造を変えることが不要になり、コイル導体20をそのままできることで、電子部品としての量産化を図ることができると共に、コストアップするのを防ぐこともできる。
【0021】
しかも、浮遊電極61は、コイル導体20を形成する導体パターン11、21、31、41と重なる位置に配置されるばかりでなく、コイル導体20を形成する最も上層の導体パターン41に対し基体層5及び基体層6を介して所定の距離を隔てて設けられているので、その距離によってもインダクタンス値を微妙に変えることができる。
【0022】
ちなみに、コイル導体20に対する浮遊電極61の距離及び重なり面積をそれぞれ変え、そのときのインダクタンス値の変化を実験したときの結果を図2に示す。
図2において、実験1では、浮遊電極61とコイル導体20間の距離を60μmとすると共に、両者間の重なり面積割合を100%とし、実験2では両者間の距離を60μmとすると共に、浮遊電極61の面積をコイル導体20との重なり割合を半分の面積(50%)とし、実験3では距離を30μmとすると共に、重なり面積割合を100%とした場合での1MHzにおけるインダクタンス値をそれぞれ示している。また、それらの測定値を比較するため、浮遊電極61を設けていない従来例の測定値も記載した。
【0023】
図2によれば、従来例ではコイル導体20のインダクタンスL(nH)が200であるのに対し、実験1ではその値が174となり、実験2では190となり、実験3では166となった。したがって、図2から、コイル導体20と浮遊電極61間の距離が小さくなるに伴い、インダクタンスの値を小さくできること、また浮遊電極61のコイル導体20に対する重なり面積の増大に伴っても小さくすることができる結果となり、これにより、絶縁距離が小さくかつ重なり面積が大きいと、インダクタンス値を小さくできることが確認された。
【0024】
なお、フェライトとPVB及び分散剤や可塑剤などの添加剤を加えてボールミルにて混合した後、基体層としてのグリーンシートを作製した。このグリーンシートに導体パターンをなす螺旋状の立体構造を作るため、スルーホールを必要とするグリーンシートにスルーホールを形成した後、Agからなる導体パターンを印刷し、それぞれのグリーンシートを所定枚数積層しかつ加圧して焼成することで積層体を形成し、その積層体を所定の大きさのチップ状にカットしてグリーンチップを得る。そして、グリーンチップの脱バインダー・焼成後、端子電極ペーストを塗布・焼き付けして端子電極を形成することで電子部品が得られる。
【0025】
図3は、この発明の第2の実施形態にかかる電子部品をLC複合部品に適用した要部を示す分解斜視図である。
この実施形態において、前述した実施形態と異なるのは、コイル導体の他、キャパシタンス成分が構成されるコンデンサ導体81、91を有する基体層8と9が設けられた点にある。
【0026】
すなわち、この積層体においては、コイル導体20を構成する基体層1〜4のうち、最も下層に配置される基体層1の下方に、基体層10を介しコンデンサ導体81、91が設けられた基体層8と9とを積層することで積層体100が形成されると、コンデンサ導体81、91によってコンデンサ成分を構成するコンデンサ導体30が形成され、したがって、コンデンサ導体30とコイル導体20との双方を有するLC複合部品が形成される。なお、8a、9aは、回路と接続される端子パターンである。
【0027】
この実施形態においても、基体層4より上方の基体層6の上に基体層5を隔てて配置される基体層6の上面に、上述と同様にして浮遊電極61が設けられている。
【0028】
この実施形態によれば、コイル導体20と独立する浮遊電極61が形成されるので、基本的には前述した実施形態と同様の作用効果を得ることができる他、コンデンサ成分を有するコンデンサ導体30が形成されるので、コイル導体20とコンデンサ導体30とを有する、いわゆるLC複合部品を構成することができる。
【0029】
なお、図示実施形態は、コイル導体20及びコンデンサ導体30を有して形成された例を示したが、これに限らず、抵抗成分を構成する抵抗導体を有するものにも同様に適用することができる。
また、図示実施形態では、コイル導体20に発生する磁界の領域内において、コイル導体20と浮遊電極61間の距離が大きくなるに伴ってインダクタンス値が小さくできるようにするため、基体層4と基体層6との間に導体パターンを有しない基体層5が設けられた例を示したが、各基体層の厚みによっては基体層5を必ずしも必要とするものではない。
さらに、絶縁性を有する基体層として、誘電体セラミックス粉と磁性体フェライト粉とを所定の割合で混合した複合材料からなる誘電体磁性体混合を用いたが、誘電体セラミックス粉に代わる他の誘電体、あるいは磁性体フェライト粉に代わる他の磁性体を用いてもよく、さらには樹脂などを用いることも可能である。なお、さらに複合材料からなる基体層ではなく、誘電体のみ、あるいは磁性体のみで基体層を形成してもよいし、さらにはガラスのみで基体層を形成してもよいのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる電子部品の要部を示す分解斜視図である。
【図2】図1の電子部品における浮遊とコイル導体間の距離及び重なり面積をそれぞれ変え、そのときのインダクタンス値の変化を実験したときの測定結果を、従来例と比較して示す説明図である。
【図3】この発明の第2の実施形態にかかる電子部品の要部を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1〜6、8〜10 基体層
1a,2a,3a スルーホール
1b,4a端子パターン
11,21,31,41 導体パターン
20 コイル導体
30 コンデンサ導体
61 浮遊電極
71,72 カバーシート
81,91 コンデンサ導体
100 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の基体層を積層して形成された積層体を有し、
該積層体の内部に、前記基体層に形成された浮遊電極と、該積層体の積層方向で隣接する前記基体層に配置された導体パターンを層間で互いに導通させてインダクタンス成分が構成されるコイル導体と、前記基体層に形成されてキャパシタンス成分が構成されるコンデンサ導体とが設けられ、
前記浮遊電極、前記コイル導体及び前記コンデンサ導体がこの順で積層されていることを特徴とする電子部品。
【請求項2】
前記浮遊電極が、前記積層体の積層方向で前記コイル導体と重なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
前記浮遊電極が、前記コイル導体によって発生する磁界の進行方向の領域内に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子部品。
【請求項4】
前記積層体に、抵抗成分が構成された抵抗導体が配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電子部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−287260(P2006−287260A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175437(P2006−175437)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【分割の表示】特願2002−74707(P2002−74707)の分割
【原出願日】平成14年3月18日(2002.3.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】