説明

電子部品

【課題】高湿度下や高温度下においても特性が良好な電子部品を提供する。
【解決手段】誘電体膜は、樹脂モノマーを重合反応させることによって形成された膜であり、樹脂モノマーが、ビニル基と六員環とを介して結合した一般式(1)で示される電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体膜を備える電子部品に関し、特にコンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンデンサなどに用いられる誘電体膜には、樹脂膜が用いられている。このような誘電体膜は、基板に蒸着した樹脂モノマーに電子線や紫外線を照射し、これらの樹脂モノマーを硬化させることによって形成されている。
【0003】
上記誘電体膜を形成するための樹脂モノマーとしては、たとえば、以下の化学式(A)で表されるジメチロールトリシクロデカンジアクリレートや、以下の化学式(B)で表される1,9−ノナンジオールジアクリレートや、以下の化学式(C)で示されるビス(ビニルベンジル)スルフィドなどが用いられてきた。
【0004】
【化1】

【0005】
【化2】

【0006】
【化3】

【0007】
なお、この出願に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3が知られている。
【特許文献1】特公昭63−32929号公報
【特許文献2】特開平11−147272号公報
【特許文献3】特開2002−114760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記樹脂モノマーによって形成された誘電体膜を用いた電子部品は、化学式(A)などの樹脂モノマーによって形成された誘電体膜を用いているので、高湿度下での特性が十分でないという問題があった。さらに、化学式(B)などの樹脂モノマーによって形成された誘電体膜を用いると、高温時に酸化分解しやすいという問題があった。また、化学式(C)の樹脂モノマーは、重合性が低いという問題があった。
【0009】
上記問題を解決するため、本発明は、重合反応しやすい化合物を提供し、高湿度下や高温度下においても特性が良好な電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明の電子部品は、誘電体膜が、少なくとも一種以上の樹脂モノマーを含む薄膜を形成したのち薄膜中の樹脂モノマーを重合反応させることによって形成された膜であり、この樹脂モノマーが、ビニル基と六員環を結合していることを特徴とするものである。
【0011】
上記電子部品では、樹脂モノマーが、以下の化学式(1)で示される樹脂モノマーを、少なくとも1種類含むことが好ましい。
【0012】
【化4】

【発明の効果】
【0013】
本発明の電子部品によれば、高湿度下や高温度下においても特性が良好な電子部品が得られる。特に、本発明をコンデンサに適用することによって、高湿度や高温といった環境の変化に対しても特性変化が少ない高品質なコンデンサが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
(実施の形態1)
本実施の形態1では、本発明の電子部品として、コンデンサの一例を説明する。実施の形態1のコンデンサ10の断面図を、図1(a)に示す。
【0016】
なお、本発明のコンデンサは、図1(b)に示すコンデンサ10aのような形状でもよい。
【0017】
図1(a)を参照して、コンデンサ10は、支持体11と、支持体11上に形成された下部電極膜12と、主に下部電極膜12上に配置された誘電体膜13と、主に誘電体膜13上に配置された上部電極膜14とを備える。ここで、誘電体膜13は、樹脂膜(なお、樹脂膜中にさらに添加剤などを含んでもよい)である。すなわち、コンデンサ10は、誘電体膜13と、誘電体膜13を挟むように対向して配置された一対の電極(下部電極膜12および上部電極膜14)とを備える。
【0018】
支持体11には、さまざまなものを用いることができる。具体的には、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという場合がある)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(PA)、またはポリイミド(PI)などの高分子フィルムを用いることができる。支持体11の厚さに限定はないが、一般的には、1μm〜75μm程度の場合が多い。なお、下部電極膜12が支持体を兼ねる場合には、支持体11は不要である。また、下部電極膜12、誘電体膜13および上部電極膜14を形成したのち、支持体11を除去してもよい。すなわち、本発明のコンデンサは、支持体がないものであってもよい。
【0019】
下部電極膜12および上部電極膜14には、導電性を有する膜を用いることができ、たとえば金属膜を用いることができる。具体的には、アルミ、亜鉛、銅などを主成分とする金属膜を用いることができる。電極膜の膜厚については特に限定はないが、たとえば、膜厚が10nm〜150nmの膜を用いることができ、好ましくは膜厚が20nm〜50nmの膜を用いることができる。コンデンサ10の下部電極膜12と上部電極膜14とは、それぞれ電気回路に接続される。電気回路に接続する方法としては、たとえば、はんだ付け、金属溶射、クランプなどの方法を用いることができる。
【0020】
誘電体膜13は、少なくとも一種以上の樹脂モノマーを含む薄膜を形成したのち、上記薄膜中の樹脂モノマーを重合反応させることによって形成された樹脂膜である。
【0021】
重合反応によって誘電体膜13となる薄膜13a(図2(b)参照)は、樹脂モノマーに加えて、さらに添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、たとえば、重合開始剤、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤、密着性向上剤などが挙げられる。重合開始剤と
しては、たとえば、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフェリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(以上それぞれ、イルガキュア369、819および907、チバスペシャルティケミカルズ製)を用いることができる。また、酸化防止剤としては、たとえば、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7−C9側鎖アルキルエステル、4,6ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール(以上それぞれ、IRGANOX−1076、1135および1520L、チバスペシャルティケミカルズ製)を用いることができる。
【0022】
薄膜13aが重合開始剤を含む場合には、重合開始剤の含有量は、0.5重量%〜10重量%であることが好ましく、1重量%〜3重量%であることが特に好ましい。重合開始剤の含有量を0.5重量%以上とすることによって、薄膜13aの硬化速度を速めることができる。また、重合開始剤の含有量を10重量%以下とすることによって、樹脂モノマー31(図3参照)のポットライフが短くなりすぎるのを防止できる。また、重合開始剤の含有量を1重量%〜3重量%とすることによって、硬化速度を速めるとともに、樹脂モノマー31のポットライフが短くなることを防止し、コンデンサ10の製造を容易にできる。
【0023】
薄膜13aが酸化防止剤を含む場合には、酸化防止剤の含有量は、0.1重量%〜10重量%であることが好ましく、0.5重量%〜5重量%であることが特に好ましい。酸化防止剤の含有量を0.1重量%以上とすることによって、誘電体膜13の酸化を防止できる。また、酸化防止剤の含有量を10重量%以下とすることによって、薄膜13aの硬化速度を実用的な値にすることができる。また、酸化防止剤の含有量を0.5重量%以上とすることによって、誘電体膜13の酸化を顕著に防止できる。また、酸化防止剤の含有量を5重量%以下とすることによって、薄膜13aの硬化速度を好ましい値にすることができる。
【0024】
薄膜13aは、ビニル基と六員環を結合してなる樹脂モノマーを少なくとも含む。なお、薄膜13aは、一種類の樹脂モノマーを含んでも、複数の種類の樹脂モノマーを含んでもよい。
【0025】
また、このように芳香環ではなく六員環とすることによって芳香環の電子の共鳴を受けることなく、ビニル基の結合状態が緩和され、反応しやすくなるものである。
【0026】
さらに、分子中に硫黄原子を導入することで、基材(アルミニウム金属)との密着性が向上するという効果もある。
【0027】
具体的には、膜13aとして、以下の化学式(1)で表される樹脂モノマーを少なくとも1種類以上含む膜を用いることができる。
【0028】
【化5】

【0029】
以下に、上記化学式(1)の樹脂モノマーの製造方法について一例を説明する。本発明の化合物の製造方法は、以下に示す第1〜第5の工程からなる。
【0030】
(第1の工程)
以下の化学式(2)で示される3−クロロシクロヘキセンと、硫化ナトリウム(NaS)とを反応させる。このとき、両者を例えば60℃〜120℃の温度で4〜8時間反応させる。前記反応の溶媒としては、水、アルコール類または水を3重量%〜30重量%含むアルコール類が適している。これにより、化学式(3)で示される化合物を製造する。
【0031】
【化6】

【0032】
【化7】

【0033】
なお、化学式(2)で示される3−クロロシクロヘキセンは市販されており、たとえば、東京化成工業株式会社から販売されている。
【0034】
(第2の工程)
以下の化学式(3)で示される化合物と塩化アセチルとを、ルイス酸を触媒として反応させることによって以下の化学式(4)で示される化合物を製造する。ルイス酸には、たとえば塩化アルミニウムや塩化亜鉛を用いることができる。
【0035】
【化8】

【0036】
【化9】

【0037】
ここで、反応溶媒としてはジクロロメタンやジクロロエタンなどの塩素系溶媒が好まし
い。また、反応条件としては40〜90℃で1〜4時間反応させることが好ましい。
【0038】
(第3の工程)
上記第2の工程ののち、化学式(4)で示される化合物と金属水素化物とを反応させることによって以下の化学式(5)で示される化合物を製造する。金属水素化物には、たとえばリチウムアルミニウムハイドライドを用いることができる。
【0039】
【化10】

【0040】
ここで、反応溶媒としてはジクロロメタンやジクロロエタンなどの塩素系溶媒と、ジエ
チルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒との混合溶媒が好ましい。また
、反応条件としては0℃〜40℃で3〜6時間反応させることが好ましい。
【0041】
(第4の工程)
上記第3の工程ののち、化学式(5)で示される化合物と臭素化剤とを反応させることによって以下の化学式(6)で示される化合物を製造する。臭素化剤には、たとえば三臭化リンを用いることができる。
【0042】
【化11】

【0043】
ここで、反応溶媒としてはジクロロメタンやジクロロエタンなどの塩素系溶媒が好ましい。また、反応条件としては0℃〜40℃で1〜3時間反応させることが好ましい。
【0044】
(第5の工程)
上記第4の工程ののち、化学式(6)で示される化合物に対し、アルコラートなどの強塩基による脱臭化水素反応を行うことによって、上述した化学式(1)で示される化合物を製造する。
【0045】
ここで、反応溶媒としてはジブチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒が好ましい。また、反応条件としては60〜100℃で6〜12時間反応させることが好ましい。この方法によれば、化学式(1)で示される樹脂モノマーを容易に製造できる。
【0046】
次に、コンデンサ10の製造方法について説明する。
【0047】
図2に、製造工程の一例を示す。
【0048】
図2(a)を参照して、まず、支持体11上に、下部電極膜12を形成する。下部電極膜12は、電子ビーム蒸着、抵抗加熱蒸着、誘導加熱蒸着などの真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法またはメッキ法などで形成できる。なお、下部電極膜12を所定の形状に形成するには、メタルマスクを用いたり、フォトリソグラフィーやエッチングなどの技術を用いることができる。
【0049】
次に、図2(b)に示すように、下部電極膜12上に、樹脂モノマーを含む薄膜13aを形成する。薄膜13aは、重合反応によって誘電体膜13となる膜であり、上述した化学式(1)、(2)で表される樹脂モノマーや添加剤を含む。薄膜13aは、図3に示すように、真空下で薄膜13aを形成する樹脂モノマー31を入れた容器32を下部電極膜12に向けて配置し、容器32を加熱して樹脂モノマーを蒸発させることによって形成できる。薄膜13aを所定の形状に形成するには、メタルマスク(図示せず)を用いればよい。
【0050】
次に、薄膜13a中で樹脂モノマーを重合反応させることによって、図2(c)に示すように、誘電体膜13を形成する。重合反応(硬化)は、たとえば、薄膜13aに紫外線や電子線を照射することによって起こさせることができる。
【0051】
次に、図2(d)に示すように、下部電極膜12と同様の方法によって、上部電極膜14を形成する。このようにして、コンデンサ10を製造できる。なお、コンデンサ10aについても同様の製造方法で製造できる。
【0052】
上記実施の形態1のコンデンサでは、誘電体膜13が、高湿度下や高温度下でも変質しにくいため、高湿度下や高温度下においても特性が良好なコンデンサが得られる。
【0053】
(実施の形態2)
本実施の形態2では、本発明の電子部品について、コンデンサの他の一例を説明する。実施の形態2のコンデンサ40の断面図を図4に示す。なお、実施の形態1で説明した部分と同様の部分については重複する説明を省略する。
【0054】
図4を参照して、コンデンサ40は、誘電体膜41と、誘電体膜41中に配置された複数の電極42aと電極42aに対向するように配置された電極42bと、電極42aおよび42bがそれぞれ接続された外部電極43aおよび43bとを備える。すなわち、コンデンサ40は、誘電体膜41の少なくとも一部を挟むように対向して配置された少なくとも一対の電極を備える。さらにコンデンサ40は、誘電体膜41中であって、電極42aおよび42bの外側に配置された金属薄膜44を備える。コンデンサ40のうち、複数の電極42aと電極42aに対向するように配置された電極42bが存在する部分が素子層40aとなる。また、コンデンサ40のうち、金属薄膜44が形成されている部分が補強層40bとなる。また、コンデンサ40のうち、誘電体膜41のみの部分が保護層40cとなる。補強層40bおよび保護層40cは、素子層40aが熱負荷や外力によって損傷を受けるのを防止する層である。なお、補強層40bや保護層40cがないコンデンサであってもよいことはいうまでもない。
【0055】
誘電体膜41は、実施の形態1で説明した誘電体膜13と同様のものであり、同様の製造方法によって製造できる。
【0056】
コンデンサ40は、実施の形態1で説明した方法を用いて製造することができる。ただし、コンデンサ40を製造する場合には、誘電体膜と電極42aまたは42bとを交互に積層する必要がある点、および外部電極43aおよび43bを形成する必要がある点で、実施の形態1の製造方法と異なる。なお、外部電極43aおよび43bは、たとえば、金属溶射法、バンプ電極形成法または導電性ペースト塗布法などによって形成できる。
【0057】
上記実施の形態2のコンデンサ40では、誘電体膜41が、高湿度下や高温度下でも変質しにくいため、高湿度下や高温度下においても特性が良好なコンデンサが得られる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0059】
(実施例1)
実施例1では、化学式(1)で示される化合物を作製した一例について説明する。
【0060】
硫化ナトリウム九水和物180.5g(0.75モル)と蒸留水300mlとを容量が2リットルのフラスコに採取し、硫化ナトリウムを溶解させた後、室温下で1時間をかけて上述した式(2)で示される3−クロロシクロヘキセン116.59g(1モル)を滴下した。次に、溶液を90℃まで昇温し、3時間撹拌を続けることによって反応させた。反応終了後、油状の上層液と下層の水溶液とに分離した溶液から油状液を分液し、これにトルエン1000mlを加えた。こうして得られた溶液を5%苛性ソーダ水で洗浄した後、さらに蒸留水を用いてpHが7になるまで繰り返し洗浄した。次に、洗浄後の溶液を、無水硫酸ナトリウムで乾燥させたのち、重合禁止剤であるp−メトキシフェノール0.752g(3−クロロシクロヘキセンに対して10000分の5重量部)を加え、溶媒を留去して上記化学式(3)で示される化合物を83.5gを得た。
【0061】
次に、塩化アセチル80.9g(1.03mol)と、塩化アルミニウム137.3g(1.03mol)と、無水ジクロロメタン420mlとを2リットルのフラスコに採取し、これに無水ジクロロメタン100mlに溶解させた上記化学式(3)で示される化合物83.5g(0.43mol)を滴下した。その後、還流下で1時間攪拌を続けることによって反応を完結させた。反応終了後、上記フラスコを氷冷し、その後、氷水500mlを加え洗浄した後、水層を除去した。次に、得られた溶液を5%炭酸水素ナトリウム水溶液300mlで洗浄した後、この溶液を、pHが7になるまで蒸留水を用いて繰り返し洗浄した。次に、洗浄後の溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去することによって、上記化学式(4)で示される化合物121.45g(0.43mol)を得た。
【0062】
次に、水素化リチウムアルミニウム24.7g(0.65mol)と、無水ジクロロメタン500mlと、無水ジエチルエーテル500mlとを2リットルのフラスコに加え、氷冷した後、これに無水ジクロロメタン200mlに溶解させた化学式(4)で示される化合物121.45g(0.43mol)を滴下した。その後、還流下で1時間攪拌を続けることによって反応を完結させた。反応終了後、得られた溶液を再び氷冷し、この溶液を攪拌しながら、20%塩酸水600ml徐々に加えて溶液を洗浄した後、水層を除去した。次に、得られた溶液を5%炭酸水素ナトリウム水溶液300mlで洗浄したのち、溶液を、pHが7になるまで蒸留水で洗浄した。次に、洗浄後の溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去することによって、上記化学式(5)で示される化合物123.18gを得た。
【0063】
次に、化学式(5)で示される化合物123.18g(0.43mol)を無水ジクロロメタン550mlに溶解させ、これに250mlの無水ジクロロメタンに溶解させた三臭化リン140.8g(0.52mol)を加え、還流下で30分間攪拌することにより反応させた。反応終了後、得られた溶液を蒸留水500mlで洗浄した後、水層を除去した。次に、得られた溶液を5%炭酸水素ナトリウム水溶液300mlで洗浄した後、溶液を、pHが7になるまで蒸留水を用いて洗浄した。次に、洗浄後の溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去することによって、上記化学式(6)で示される化合物173.15gを得た。
【0064】
次に、化学式(6)で示される化合物173.15g(0.42mol)にt−ブトキシカリウム94.3g(0.84mol)とテトラヒドロフラン1000mlを加え、還流下で12時間攪拌することで反応させた。反応終了後、テトラヒドロフランを留去した後、ジクロロメタン1000mlを加え、水槽が無色透明になるまで5%塩酸水で洗浄し、水層を除去した。次に、5%炭酸水素ナトリウム水溶液300mlで洗浄した後、pHが7になるまで蒸留水を用いて繰り返し洗浄した。
【0065】
次に、洗浄後の溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去することによって、液体72.6gを得た。
【0066】
この液体について、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC−MS)および赤外分光分析(FT−IR)を行った。GC−MSの結果では、式(1)で示される化合物の質量数M/e=250を示す生成物が検出された。このとき、原料、中間生成物および1%以上の副生成物は検出されなかった。
【0067】
また、FT−IRの測定は島津製作所製のFTIR−8100M装置を用いて行い、その測定結果を図5に示す。図5によると、前述した液体はビニル基に基づく1630cm-1の吸収ピークと六員環に基づく1452cm-1、2841cm-1および2927cm-1の吸収ピークを示した。
【0068】
(実施例2)
実施例2では、本発明の電子部品として、図1(a)に示したコンデンサを作製した一例について、図2を参照しながら説明する。
【0069】
まず、厚さ25μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)基板(支持体11に相当)を用意し、このPET基板上に、アルミからなる下部電極膜12(厚さ30nm)を、100nm/秒の堆積速度で蒸着した。
【0070】
その後、下部電極膜12上に、樹脂モノマーを蒸着することによって、樹脂モノマーからなる薄膜13a(厚さ200nm)を形成した(図2(b)参照)。具体的には、図3に示すような樹脂モノマー31を入れた容器32を、蒸着速度が500nm/秒となるように加熱し、下部電極膜12の一部が露出する位置に薄膜13aを形成した。
【0071】
その後、−15kVの加速電子を50μA/cm2の密度で2秒間、薄膜13aに照射することによって、薄膜13a中の樹脂モノマーを重合させ、誘電体膜13を形成した(図2(c)参照)。
【0072】
その後、誘電体膜13の上方であって下部電極膜12と接触しない位置に、アルミからなる上部電極膜14を、100nm/秒の堆積速度で蒸着した(図2(d)参照)。このようにしてコンデンサを作製した。
【0073】
実施例2では、化学式(1)および酸化防止剤としてIRGANOX1520Lを3重量%添加した化学式(1)で示される樹脂モノマーを用い2種類の異なるサンプルを作製し、実施サンプル1および実施サンプル2とした。
【0074】
また、比較例として、化学式(A)、化学式(B)および化学式(C)で表される樹脂モノマーを用いたコンデンサを作製し、比較サンプル1、比較サンプル2および比較サンプル3とした。
【0075】
以上の4種類のコンデンサについて、特性の評価を行った。具体的には、(1)吸湿容量変化率と、(2)高温負荷容量変化率と、(3)膜となる樹脂の重合度を調べた(測定方法の詳細については後述する)。上記評価の結果を(表1)に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
(表1)から明らかなように、実施サンプル1および実施サンプル2のコンデンサは、(1)、(2)、(3)のいずれの評価においても、比較サンプルのコンデンサよりも優れた特性を示した。すなわち、本発明の樹脂モノマーを用いてコンデンサの誘電体膜を形成することによって、電気的に優れた特性を示し、樹脂の硬化が容易なコンデンサが得られる。
【0078】
なお、誘電正接(tanδ)についても、実施サンプル1および実施サンプル2のコンデンサは比較サンプル1、比較サンプル2および比較サンプル3のコンデンサと同等またはそれ以上の特性を示した。
【0079】
以下、(表1)に示した評価の方法について詳吸湿容量変化率については、以下の様に評価した。まず、コンデンサを105℃の環境下で10時間乾燥させ、初期容量C11を測定した。容量は、下の条件で測定した。高温負荷容量変化率は、(C22−C21)/C21×100(%)で表される値である。高温負荷容量変化率の絶対値が小さいほど、高温時に酸化しにくいことを示しており、製品として好ましい。特に、近年はCPUの高速化などに伴う電子部品の耐高温性が重要になってきており、高温負荷容量変化率の絶対値が小さいことが、コンデンサの評価の重要な指標となる。
【0080】
樹脂の重合度は、以下の様にFT−IR法を用いて評価した。まず、初期のモノマー樹脂のビニル基、アクリレート基のC=Cの2重結合を測定した。次に、コンデンサから樹脂層を分離し、樹脂のビニル基のC=Cの2重結合を測定し、初期のモノマーに対する減少率で、重合度を評価する。
【0081】
2重結合の存在率が低いほど、重合度が高いことを示している。したがって重合度の高いほど緻密な膜が形成されて、製品として好ましい。
【0082】
なお、誘電正接(tanδ)については、周波数1kHz、電圧1Vrmsの正弦波をコンデンサに加えて測定した。誘電正接が小さいほど、コンデンサ自体で消費する電力がより小さく、製品として好ましい。
【0083】
以上、本発明の実施の形態について例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず本発明の技術的思想に基づき他の実施の形態に適用することができる。
【0084】
たとえば、上記実施の形態では、本発明の電子部品がコンデンサである場合について説明したが、本発明の電子部品はこれに限定されず、上記実施の形態で説明した誘電体膜を備えるものであれば、いかなるものであってもよい。具体的には、たとえば、コイル、抵抗、容量性電池、他の電子部品の支持部材などに用いることができる。
【0085】
これらの電子部品であっても、誘電体膜における樹脂の重合度が高いので、電気特性が従来のものに比べて良好になるものである。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明にかかる電子部品は誘電体膜における樹脂の重合度が高いので、良好な電気特性を示すので電子機器に用いられる電子部品全般においてその効果を発揮し、特に内部電極を有したコンデンサとした場合、顕著にその効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明のコンデンサについて(a)一例の断面を示す図(b)他の一例の断面を示す図
【図2】本発明のコンデンサについて製造方法の一例を示す工程図
【図3】図2に示した製造工程の一過程を示す図
【図4】本発明のコンデンサについてその他の一例を示す(a)断面図(b)斜視図
【図5】本発明の電子部品の製造に用いられる樹脂モノマーの一例のビス(ビニルアルキルフェニル)化合物についてのIRスペクトルを示す図
【符号の説明】
【0088】
10、10a、40 コンデンサ(電子部品)
11 支持体
12 下部電極膜
13 誘電体膜
13a 薄膜
14 上部電極膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体膜を備える電子部品であって、前記誘電体膜は、樹脂モノマーを重合反応させることによって形成された膜であり、前記樹脂モノマーが、ビニル基と六員環を結合した一般式(1)で示される化合物であることを特徴とする電子部品。
【化1】

【請求項2】
導電性を有する膜状で1対の電極と、前記電極によって上下から挟まれた誘電体膜を備える電子部品であって、前記誘電体膜は、樹脂モノマーを重合反応させることによって形成された膜であり、前記樹脂モノマーが、ビニル基と六員環を結合した一般式(1)で示される化合物であることを特徴とする電子部品。
【化2】

【請求項3】
前記1対の電極と前記誘電体膜を複数回積層した請求項2に記載の電子部品。
【請求項4】
前記誘電体膜に添加剤を加えた請求項1〜2のいずれか1項に記載の電子部品。
【請求項5】
前記添加剤が酸化防止剤である請求項4に記載の電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−28076(P2008−28076A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197927(P2006−197927)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】