説明

電極埋め込みシートとその製造方法、およびそれを用いた積層セラミックコンデンサの製造方法

【課題】本発明は、薄いシートを用いて高容量・高信頼性の積層セラミックコンデンサを製造する方法に関するものであり、誘電体層を薄層化してもショート率の悪化・絶縁耐圧の低下を抑制できる、電極埋め込みシート及びそれを用いた積層セラミックコンデンサの製造方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】オーバーコートすることによって電極となるパターンがセラミックシートの内部に形成されていることを特徴とする電極埋め込みシートを積層して積層セラミックコンデンサを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部電極パターンが埋め込まれた、電極埋め込みシートおよび電極埋め込みシートの製造方法、およびそれを用いる積層セラミックコンデンサの製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層型のセラミック電子部品、例えば積層セラミックコンデンサに対しては、小型大容量化や高耐圧化等の強い市場要求がある。小型大容量化に対しては、セラミック層の誘電率を高めたり、またはセラミック層の1層当たりの有効厚みを薄くし、多層化しなければならない。
【0003】
従来、積層セラミックコンデンサは、一般に、以下のように作製される。まず、水もしくは有機溶剤等の分散媒に、BaTiO3などを主成分とする誘電体組成物と有機バインダ、可塑剤等を加え、混合してスラリー状にし、ドクターブレード法などにより誘電体シートを得る。次に、前記誘電体シートに内部電極のパターンを形成し、内部電極が交互に外部と接続できるように、複数枚積層して積層体を得る。しかしながら、このような方法では内部電極が形成されている部分と形成されていない下地の部分との厚み差の分だけ段差が生じ、この段差が要因となり、焼結時の熱収縮による歪でのクラックやデラミネーション等が発生したり、できあがった積層セラミックコンデンサの電気特性の劣化や信頼性の悪化を招くという問題があった。また、段差が大きい場合には積層体の形状が湾曲し引き続く工程での歩留まり低下を招いたりする。
【0004】
このような問題を解決する手段として、例えば、特許文献1から3は、内部電極の形成されていない部分に電極パターンのネガポジパターンの補助層を設けることにより、前述した段差を解消する積層セラミックコンデンサ等の電子部品を開示している。
【特許文献1】特許第3610891号公報
【特許文献2】特開2001−126951号公報
【特許文献3】特開2005−286029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記の特許文献1、2の製法では、電極パターンとネガポジの関係にあるセラミック補助層をスクリーン印刷などにより形成した上で有効層としてさらにセラミック層を形成するため工程数が増え、かつ準備する薬液が増大するため歩留まりを考慮すれば好ましくなく、さらにはセラミック層と補助層との収縮率を合せたりスラリーやペーストの組成設計がかえって煩雑になってしまい、工程の安定性や信頼性の悪化を招いてしまう。
【0006】
また、特許文献2ではより簡便な方法として、補助層を有効層と同じグラビア印刷法で作製する方法が提案されているが、同じく有効層用と補助層用にそれぞれ誘電体スラリーもしくは誘電体ペーストを準備しなければならないことや、電極パターンの損傷や欠落などの点が全く考慮されていない。かかる電極パターンの段差解消に関しては、セラミックシート上に電極パターンの撥水性により水系スラリーをはじかせることにより、電極パターンの周辺に段差解消用のシートを形成する方法が提案されているがショート率の増大や絶縁耐圧の低下までは解決に至っていない。
【0007】
本発明は、前記課題を解決するものであり、誘電体層を薄層化してもショート率の悪化・絶縁耐圧の低下を抑制できるとともに、電極の段差を軽減することで、内部欠陥を軽減可能な電極埋め込みシート及びそれを用いた積層セラミックコンデンサの製造方法等を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために本発明は以下の構成を有する。
【0009】
本発明の請求項1に記載の電極埋め込みシートは、例えば図1に示すように、支持体10上に接着層11を形成し、その上に電極パターン12を形成した上にセラミック誘電体スラリーをオーバーコートによりセラミックシート13を形成するものであって、電極周辺にも段差軽減用のシートを簡便な方法で具備できることを特徴としている。さらに、この電極埋め込みシートを2枚積層した場合を考えると、第1の電極埋め込みシートの電極パターン上部シートと、第2の電極埋め込みシートの電極パターン下部シートが、第1の電極埋め込みシートの電極パターンと第2の電極埋め込みシートの電極パターンとの間に配されるため、誘電体層が2層構造となり、欠陥の確立が高い薄い誘電体シートでもショートに至る可能性が激減する。前記作用は、積層数を増やした場合でも同様に得られるため、結果として誘電体薄層化時でもショート率・絶縁耐圧の低下を抑制した高信頼性の積層セラミックコンデンサが製造できるという作用効果が得られる。
【0010】
本発明の請求項2に記載の電極埋め込みシートの製造方法は、支持体の上面に接着層を形成する工程と、前記接着層付き支持体の上面に電極パターンを形成する工程と、前記電極パターン形成済みシートの上面にセラミックスラリーをオーバーコートして電極パターンを埋め込む工程とを有するものであり、この方法を用いることにより、内部電極印刷時に起こる電極ペーストによる誘電体シートの侵食が抑制できるため内部電極パターン形成時の印刷による誘電体シートへのダメージを軽減した電極埋め込みシートが製造できるという作用効果が得られると共に、高信頼性を実現する電極埋め込みシートが製造できるという作用効果が得られる。
【0011】
本発明の請求項3に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法は、請求項1記載の電極埋め込みシートを複数回積層・圧着して積層体を形成する工程を有する積層セラミックコンデンサの製造方法であって、これにより、電極間の誘電体層が2層構造となるため、誘電体薄層化時でもショート率・絶縁耐圧の低下を招くことなく、高信頼性の積層セラミックコンデンサが製造できるという作用効果が得られる。
【0012】
本発明の請求項4,5に記載の接着層用ビヒクル、および接着層付き支持体は、可塑剤を含まず、溶融温度が30℃から60℃である結晶性脂肪族ポリエステル樹脂とブチラール樹脂から構成され、かつ前記ポリエステル樹脂が30%以上含まれ、かつ溶剤としてシクロペンタノンを15〜45%含有しているものであり、これにより作製される接着層付き支持体であって、これらにより、接着層形成時の巻き取りによるブロッキングを防ぐことが可能となると共に積層時に十分な粘着性を発揮することができるため安定な転写性を確保できるという作用効果が得られる。ひいては、高信頼性を実現する電極埋め込みシートが製造できるという作用効果が得られる。
【0013】
本発明の請求項6,7に記載の電極用インク、及び電極シートは、導電性金属粒子とセラミック粒子を含み、アルコール基を有する有機溶剤に可溶な分子量20万以上の水溶性樹脂と、アルコール基を有する有機溶剤から構成されるものであり、これらを用いて接着層付き支持体の上面にグラビア印刷法により作製した電極シートであって、これらにより、内部電極印刷時の印刷性を劇的に改善し、かつ引き続きオーバーコートされるセラミックスラリーに侵食されることなく強固な電極パターンが形成できるという作用効果が得られると共に、高信頼性を実現する電極埋め込みシートが製造できるという作用効果が得られる。
【0014】
本発明の請求項8に記載のオーバーコート用セラミックスラリーは、セラミック粒子が、誘電体粒子であって、かつ分子量が60000以下である非水溶性ブチラール樹脂から構成されてあるものであり、これにより、オーバーコート形成時に起こる電極パターンへの侵食や損傷、欠落等のダメージを軽減した電極埋め込みシートが製造できるという作用効果が得られると共に、高信頼性を実現する電極埋め込みシートが製造できるという作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、電極形成済のシートにオーバーコートして電極埋め込みシートを形成することによって電極パターンの有無による段差を軽減するとともに、前記電極埋め込みシートを複数回積層することによって、誘電体薄層化時でもショート率・絶縁耐圧の低下を招くことなく、高信頼性の積層セラミックコンデンサが製造できるという効果が得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(実施の形態1)
以下、実施の形態1を用いて、本発明の特に請求項1〜3に記載の発明について説明する。図1は本発明における電極埋め込みシートの断面図、図2は電極埋め込みシートの製造方法におけるオーバーコートを概念的に示した側面断面図である。
【0017】
まず、可塑剤を含まないで、溶融温度が60℃である結晶性の脂肪族ポリエステル樹脂とブチラール樹脂を1:1の割合で酢酸ブチル60部とシクロペンタノン40部の混合溶剤に溶かし込み接着層用ビヒクルを作製した。作製した前記接着層用ビヒクルを支持体である38μ厚みのPETフィルム上にドクターブレード法により0.2μ厚みで形成した。接着層を塗布後コアに長尺巻き込んだ際のブロッキングを考慮し、結晶性ポリエステル樹脂を使用し、可塑剤による粘着性が期待できないのを低分子量のブチラール樹脂を組み合わせることにより実現するものである。我々は、常温で結晶性ポリエステル樹脂が持つ構造的に高い凝集力により硬い性状を有する点と汎用有機溶剤に難溶性である点に着目し、接着層形成時とシート積層時に前記した効果をそれぞれ発揮することを見出した。ポリエステル樹脂の溶融温度は、塗工時の巻取り性、積層時の粘着性を考慮して30〜60℃とした。30℃より低い場合には常温でも粘着性が発現してしまい、ブロッキングが生じてしまうので好ましくない。また、60℃より高い場合には積層時に十分な粘着性を発揮できずに転写性が悪くなり転写不良が発生してしまうので好ましくない。かかる理由により、本発明では可塑剤を含まなければ、何らこれらに限定するものではない。前記ビヒクルに用いる溶剤は、酢酸ブチルとシクロペンタノンの組合せが好ましいが、シクロペンタノンを15%以上含有していれば他の組合せでも問題はない。
【0018】
次に、前記接着層付き支持体上にグラビア印刷によって内部電極のパターン12を形成した。
【0019】
なお、電極用インクは、引き続きオーバーコートする際の電極パターンの損傷を考慮して水溶性樹脂をベースにしたインク設計により作製した。導電性金属粒子として平均粒径0.2μのNi粉を100部、平均粒子0.05μのチタン酸バリウム粒子を10部、樹脂として水溶性でアルコール基に可溶なPVP樹脂(分子量28万)を6部、溶剤としてブチルセロソルブと2−ブタノールを4:6の割合で固形分を50〜55%に調整混合したものを十分に混練分散し作製した。ここで分子量が20万以上の水溶性のPVP樹脂を用いたのは、引き続きオーバーコートされるセラミックスラリーにより侵食されずにパターン化可能でなければならないため、セラミックスラリー用に汎用的に用いられている有機溶剤に不溶で、アルコール基に可溶なものとして選択したが、これを満たすものであれば何ら限定されるものではない。また、溶剤にはアルコール基を有することが前提であり、本発明では電極パターンの形状を考慮してより沸点の高いブチルセロソルブを含んで使用したがこれらの組合せに限定するものではなく、条件を満足すれば何ら差し支えない。
【0020】
さらに、積層時、焼結時の収縮性を考慮して電極用インクからは可塑剤を省いてあるので力学的にも溶剤侵食性、粒子密度の面についても配慮した設計とした。
【0021】
次に図2に示すように、前記電極パターン形成済みシートの上面に、セラミックスラリーをドクターブレード14法によりオーバーコートし、電極パターン上に約0.95μ厚みのセラミック層13がオーバーコートされるように電極埋め込みシートを作製した。セラミックスラリーは、平均粒径0.2μのチタン酸バリウム粒子を主成分として、添加剤としては希土類金属酸化物とアルカリ土類金属、ガラス成分等を含み、有機溶剤により作製された分子量51000のブチラール樹脂ビヒクルを混合、混練、分散し作製した。次に、内部電極が交互に外部と接続できるように、300枚積層し積層体を作製した。最後に、得られた前記積層体の脱バインダ処理を行った後、還元雰囲気中で焼成し、一対の外部電極を形成して1005型の積層セラミックコンデンサ(実施例1)を得た。
【0022】
本発明では、セラミック層に用いる主成分のチタン酸バリウムの組成、構造には特に限定はなく、アルカリ土類金属と希土類金属種の組合せ、量比、希土類金属種の総量を制御することにより焼成させる際に発生する異常粒成長を抑制できればよい。本発明に係るセラミック層には、Mg等のアルカリ土類金属、希土類金属の他に、例えばV、Mo、Zn、Cd、Sn、Mn、Al等の酸化物から選ばれる少なくとも1種の副成分が、さらに添加してあってもよく、適度な組合せと量を選択することが可能である。このような副成分を添加することにより、主成分の誘電特性を劣化させることなく低温焼成が可能となり、誘電体層1を薄層化した場合の信頼性不良を低減することができ、長寿命化を図ることも可能である。
【0023】
内部電極層に含有される導電性金属粒子は、特に限定されないが、セラミック層の構成材料が耐還元性を有するため、卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn、Cr、CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P、Fe、Mg等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよく、今後の薄層化を考慮すれば、特に0.3〜1.3μm程度であることが好ましい。なお、セラミック層と電極層の焼結緻密化のずれを調整するために内部電極層にセラミック層に近似のセラミック成分を混入することが推奨され、最終製品の容量値を考慮してその添加量を調整可能である。本発明では、電極用の卑金属としては湿式法に合成されるニッケル粉末を用いたが他の乾式法であっても何ら差し支えない。積層型セラミックコンデンサは、その形状寸法により誘電体層と電極双方の厚み設計が変動するため、より好ましくは誘電体層の設計に連動させて調整することが肝要である。なお、電極パターンは、本発明の電極インクを用いてあればよく、その形成手段は印刷法、転写法等いずれの方法であっても何ら差し支えないが、好ましくはグラビア印刷法である。本発明における積層セラミックコンデンサは、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストやスラリーを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。グリーンチップの脱バインダ処理は、通常の条件で行えばよいが、特に内部電極層の導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合には、空気雰囲気において、昇温速度を5〜300℃/時間、より好ましくは10〜100℃/時間、保持温度を180〜400℃、より好ましくは200〜350℃、温度保持時間を0.5〜24時間、より好ましくは1〜20時間とする。
【0024】
グリーンチップの焼成雰囲気は、内部電極層用インク中の導電性金属粒子の種類に応じて適宜決定すればよいが、導電性金属粒子としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合には、焼成雰囲気の酸素分圧を好ましくは10-10〜10-3Paとし、より好ましくは10-10〜6×10-5Paとする。焼成時の酸素分圧が低すぎると内部電極の導電材が異常焼結を起こして途切れてしまい、酸素分圧が高すぎると内部電極が酸化するおそれがある。焼成の保持温度は、1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1250℃である。保持温度が低すぎると緻密化が不充分となり、保持温度が高すぎると内部電極の異常焼結による電極の途切れまたは内部電極材質の拡散により容量温度特性が悪化するからである。これ以外の焼成条件としては、昇温速度を50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間、温度保持時間を0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間、冷却速度を50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間とし、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが望ましく、雰囲気ガスとしては例えば、窒素ガスと水素ガスとの混合ガスを加湿して用いることが望ましい。還元性雰囲気で焼成した場合は、コンデンサチップの焼結体にアニール(熱処理)を施すことが望ましい。アニールは誘電体層を再酸化するための処理であり、これにより絶縁抵抗を増加させることができる。アニール雰囲気の酸素分圧は、好ましくは10-4PA以上、より好ましくは10-1〜10Paである。酸素分圧が低すぎるとセラミック層の再酸化が困難となり、酸素分圧が高すぎると内部電極層3が酸化されるおそれがある。アニールの際の保持温度は、1150℃以下、より好ましくは800〜1100℃である。保持温度が低すぎるとセラミック層の再酸化が不充分となって絶縁抵抗が悪化する。また、保持温度が高すぎると内部電極が酸化されて容量が低下するだけでなく、セラミック素地と反応してしまい、容量温度特性、絶縁抵抗が悪化する。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。なお、比較のために図3に示した、従来例である、支持体30上にセラミック層31を形成したシートに直接電極パターン32を印刷形成し、さらに電極パターンの存在しない部分、すなわち電極パターンと相補的な位置に補助セラミック層33を形成することにより作製した(比較例1)。さらに、比較のために支持体上に本発明の接着層を形成しないで、以降の工程を実施例1と同様にすることにより作製した(比較例2)。しかしながら、本発明では接着層、及び電極層に接着性を付与する効果のある可塑剤成分を含んでいないので電極用インクが支持体上にパターン形成できなかった。
【0026】
次に、比較例3は、接着層付き支持体上に、実施例1で作製した電極用インクにおいて使用する樹脂を水溶性樹脂から非水溶性のブチラール樹脂(分子量約10万)にした以外は実施例1と同様に作製した。電極形成時の印刷性は確保できたものの、セラミックスラリーによりオーバーコートした際に電極パターン内部に侵食溶解されてしまい電極パターンをもはや維持できなくなってしまった。
【0027】
比較例4においては、実施例1における電極用インクの成分のうち、アルコール基を有する水溶性樹脂を溶剤を純水100%にして印刷を試みたが、接着層付き支持体上には形状の整ったパターン形成ができなかった。そのため、取得容量値が小さかったり、ショート率が高くなってしまった。
【0028】
比較例5は、接着層に用いるポリエステル樹脂の配合量を10%にした以外は、実施例1に従い以降の工程を実施した。
【0029】
比較例6は、接着層、電極層いずれにも可塑剤としてフタル酸ベンジルブチルを0.5部、1.2部をそれぞれ添加した以外は実施例1と同様に各工程を行なった。
【0030】
比較例7は、接着層に水溶性樹脂を用いた以外は実施例1と同様にし各工程を行なった。
【0031】
比較例8は、セラミックスラリーの作製に使用する樹脂を電極層作製に用いたアルコール基に可溶な水溶性樹脂とした以外は実施例1と同様に各工程を行なった。
【0032】
次に、比較のために作製した電極埋め込みシートを300枚積層することによって得られる、1005型の積層セラミックコンデンサ(比較品1〜8)を実施例1と同様にして作製した。
【0033】
一方、接着層に用いたポリエステル樹脂の溶融温度を40℃とした以外は、実施例1と同様にして実施例2を作製した。実施例1において、接着層用ビヒクルを作製するために用いる溶剤のうち、シクロペンタノンの比率を20%にした以外は実施例1と同様にして実施例3を作製した。
【0034】
実施例1において、電極層用インクを作製するために用いる水溶性PVP樹脂の分子量を33万にした以外は実施例1と同様にして実施例4を作製した。
【0035】
実施例1において、セラミック層用スラリーを作製するために用いるブチラール樹脂の分子量を28000とした以外は実施例1と同様にして実施例5を作製した。
【0036】
(表1)は、本発明の実施例1〜5によって作製された積層セラミックコンデンサおよび、比較品1〜7のそれぞれのロットについて、シート外観評価、電極の段差解消率と、焼成後の積層セラミックコンデンサ10000個中から無作為に1000個を抽出してデラミネーション発生率、またはクラック発生率を評価し、信頼性の代用試験として絶縁破壊電圧をそれぞれ比較して示した表である。
【0037】
段差解消率は、電極パターン埋め込みシートを作製した後に表面粗さ計により凹凸を調べたもので解消率100%が段差なしに相等する。デラミネーションとクラックは見分けにくいモードも散見されたのでどちらかが発生した場合をカウントし累計したもので表した。
【0038】
また、絶縁破壊電圧(BDV)は直流電源電圧(Kikusui社製 PADIK−0.2L)を積層セラミックコンデンサの両極に印加し、絶縁破壊したときの電圧をオシロスコープ(Tektronix社製 TDS210)によって測定したもので数値が高いほど絶縁耐性に優れていることを意味する。
【0039】
【表1】

【0040】
表より明らかなように、本発明の実施例においてはいずれの場合にも段差解消率が高くデラミネーションやクラックなどの不良発生率も低く、それにより絶縁破壊電圧も高くなった。
【0041】
比較例1は、2種類のセラミック層と電極パターンの熱収縮率が異なることから段差解消率の割りにデラミやクラック発生率が高くなった。
【0042】
(表1)中で各評価項目が×になった比較例2、3、7は、各層を構成する途中段階でシート形成不良となり、積層セラミックコンデンサまで作製することができなかった。
【0043】
比較例4、6、8では、各工程でのシート化には支障がなかったが、脱バイ、焼成後においてのデラミやクラック発生率が高くなってしまった。
【0044】
以上のように、本発明によれば、誘電体等のセラミック層薄層化時でもデラミネーションやクラック等の不良発生率を抑え、絶縁耐圧の低下を招くことなく、高信頼性の積層セラミックコンデンサがより簡便に製造できるという効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明にかかる電極埋め込みシートは、セラミック層薄層化時においても、ショート率の増加・絶縁耐圧の低下を抑制できるという効果を有し、積層型の電子部品の小型化、薄層化等の要求に十分に対応することが可能となり、薄いシートを用いた高容量・高信頼性の積層セラミックコンデンサの実現等に大いに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の電極埋め込みシートの断面図
【図2】本発明の電極埋め込みシートの製造方法の側面断面図
【図3】従来例1の基本構成の断面図
【符号の説明】
【0047】
10、30 支持体
11 接着層
12 電極パターン
13 セラミック層
14 ドクターブレード
31 下部セラミック層
32 電極パターン
33 補助セラミック層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と接着層、電極層、セラミック層よりなるシートであって、前記接着層が可塑剤を含まず溶融温度が30〜60℃である結晶性脂肪族ポリエステル樹脂とブチラール樹脂からなり、かつ前記内部電極層が可塑剤を含まずアルコール系有機溶剤に可溶な水溶性樹脂と導電性金属粒子、及びセラミック粒子よりなり、かつ前記セラミック層が分子量60000以下であるブチラール樹脂と誘電体粒子からなり、かつ前記支持体上面に接着層、電極層の順に形成されると共に前記電極層の上面にセラミックスラリーによりオーバーコートされることを特徴とする電極埋め込みシート。
【請求項2】
支持体上面に接着層を形成する工程と、前記接着層形成済みシートの上面に電極パターンをグラビア印刷法により形成する工程と、前記電極パターン形成済みシートの上面にセラミック誘電体スラリーをオーバーコートして前記電極パターンを埋め込む工程とを有する電極埋め込みシートの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の電極埋め込みシートを複数回積層・圧着して積層体を形成する工程を有する積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項4】
可塑剤を含まず、溶融温度が30℃から60℃である結晶性脂肪族ポリエステル樹脂とブチラール樹脂から構成され、かつ前記ポリエステル樹脂が30%以上含まれ、かつ溶剤としてシクロペンタノンを15〜45%含有していることを特徴とする接着層用ビヒクル。
【請求項5】
請求項4記載の接着層用ビヒクルにより作製される接着層付き支持体。
【請求項6】
導電性金属粒子とセラミック粒子を含み、アルコール基を有する有機溶剤に可溶な分子量20万以上の水溶性樹脂と、アルコール基を有する有機溶剤から構成される電極用インク。
【請求項7】
請求項4記載の接着層付き支持体の上面に請求項6記載の電極用インクをグラビア印刷法により作製した電極シート。
【請求項8】
セラミック粒子が、誘電体粒子であって、かつ分子量が60000以下である非水溶性ブチラール樹脂から構成されていることを特徴とするオーバーコート用セラミックスラリー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−250729(P2007−250729A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70600(P2006−70600)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】