説明

電極塗料並びにこれを用いて形成された電極及び電気化学素子

【課題】バインダーとして水分散高分子や水溶性高分子を用いた改良された電極塗料を提供する。
【解決手段】活物質50と、水分散高分子及び水溶性高分子の少なくとも一方からなるバインダー52と、溶媒54と、マレイン酸共重合体及びその塩の少なくとも一方からなる分散剤56とを含む。水分散高分子や水溶性高分子をバインダーとする電極塗料L1にマレイン酸共重合体又はその塩を添加すると分散性が高まるため、混練工程時に加える剪断力を弱くすることが可能となる。これにより、混練工程中における水分散高分子や水溶性高分子の分子鎖の切断を低減することができることから、結着力の低下を抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタ、リチウムイオン二次電池などの電気化学素子の作製に用いる電極塗料、並びに、これを用いて形成された電極及び電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタ、リチウムイオン二次電池などの電気化学素子は、携帯電話、ノートパソコンやPDA等に広く使用されている。特に、電気二重層キャパシタは、二次電池のように電気化学反応を利用するのではなく、電極の電気二重層に電荷を蓄積するものであることから、極めて高速な充放電が可能であるという特徴を有している。このような特徴を活かして、例えば、携帯機器(小型電子機器)等のバックアップ用電源、電気自動車やハイブリッド車向けの補助電源等としての利用が期待されており、その性能向上のための様々な検討がなされている。
【0003】
電気化学素子の基本構造としては、電極層が形成された一対の集電体間に、セパレータを介して電解液が充填された構造を有している。集電体上に電極層を形成する最も単純な方法としては、これらを貼り合わせる方法が知られているが、この方法では、生産性を高めることが困難であるという問題があった。
【0004】
この問題を解決するためには、集電体と電極層とを貼り合わせるのではなく、集電体上に電極塗料を塗布し、これを乾燥させることによって集電体上に電極層を形成することが好ましい。
【0005】
電極塗料は、主として、活物質、バインダー、溶媒及び必要に応じてカーボンブラックなどの導電助剤によって構成される。溶媒は、バインダーとして溶解性バインダーを用いる場合には、バインダーを溶解させるための溶媒が選択され、バインダーとして不溶性バインダーを用いる場合には、成形を可能にするために可塑性を付与するための溶媒が選択される。
【0006】
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素系バインダーの他、スチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)の混合物(特許文献1参照)、ブタジエン結合含量とゲル含量を規定したカルボキシスチレンブタジエンゴム(特許文献2参照)、一定の転移温度で親水性と疎水性とが可逆的に変化するビニル重合体系熱可逆性増粘剤と水分散性高分子(特許文献3参照)が知られている。などが使われる場合が多い。
【0007】
このうち、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、バインダーとして優れた特性を有するものの、電気陰性度の高い(酸化力が高い)フッ素原子を含有するため、酸化されやすい物質が共存すると変質してしまうという問題があった。また、熱分解などが生じるとフッ化物イオンが生成されるため、高熱に晒される環境下では使用が困難であるという問題があった(特許文献4参照)。
【0008】
これに対し、スチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)の混合物は、スチレンブタジエンゴム(SBR)が水分散高分子であり、カルボキシメチルセルロース(CMC)が水溶性高分子であることから、溶媒として水を使用することができる。このため、製造工程における安全性に優れ、環境に与える負荷が小さいという利点がある。また、作製される電気化学素子の安全性が高いという長所も有している。
【特許文献1】特開2005−11808
【特許文献2】特開2002−256129号公報
【特許文献3】特開平9−320604号公報
【特許文献4】特開平9−92288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、水分散高分子や水溶性高分子は剪断力に対して弱いため、電極塗料作製工程に含まれる混練工程中に水分散高分子や水溶性高分子の分子鎖が切断されて分子量が低下し、その結果、結着力が低下するという問題があった。結着力を高めるためにはより多くのバインダーを添加する必要が生じるが、この場合には、電極中の活物質の割合が減少するため、作製する電気化学素子のエネルギー密度が不十分になるという問題があった。
【0010】
分子鎖の切断を防止するためには、混練工程時に加わる剪断力を弱くすればよいが、この場合には、電極中に活物質や導電助剤の凝集物ができたり、塗膜の組成が不均一になるなど、分散性に問題が生じてしまう。
【0011】
本発明は、このような問題を解決すべくなされたものであって、バインダーとして水分散高分子や水溶性高分子を用いた改良された電極塗料を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明の他の目的は、このような改良された電極塗料を用いて作製された電極及び電気化学素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による電極塗料は、活物質と、水分散高分子及び水溶性高分子の少なくとも一方と、マレイン酸共重合体及びその塩の少なくとも一方とを含むことを特徴とする。このように、水分散高分子や水溶性高分子をバインダーとする電極塗料にマレイン酸共重合体又はその塩を添加すると分散性が高まるため、混練工程時に加える剪断力を弱くすることが可能となる。これにより、混練工程中における水分散高分子や水溶性高分子の分子鎖の切断を低減することができることから、結着力の低下を抑制することが可能となる。
【0014】
本発明において、「マレイン酸共重合体」とは広義のマレイン酸共重合体を指す。つまり、狭義のマレイン酸共重合体を指す(無水でない)マレイン酸共重合体だけではなく、無水マレイン酸共重合体をも含む意である。
【0015】
本発明において、マレイン酸共重合体としてはスチレン・マレイン酸共重合体を選択することができ、スチレン・マレイン酸共重合体としては、アリルアルコール・スチレン・無水マレイン酸共重合体とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化体を選択することが好ましい。また、スチレン・マレイン酸共重合体としては、スチレン−マレイン酸−マレイン酸アルキル共重合体を選択することも好ましく、この場合、スチレン−マレイン酸−マレイン酸ブチル共重合体を選択することがより好ましい。さらに、マレイン酸共重合体としては、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体を選択することもまた好ましい。
【0016】
本発明において、マレイン酸共重合体としては、オレフィン−マレイン酸共重合体を選択することができ、この場合、1−オクタデセン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩を選択することがより好ましい。また、マレイン酸共重合体としては、インデン−マレイン酸共重合体を選択することも好ましい。
【0017】
本発明による電極塗料は、アセチレンジオール又はアセチレンジオールのエトキシ体をさらに含むことが好ましい。これによれば、電極塗料に気泡が発生しにくくなることから、塗膜の品質を高めることが可能となる。この場合、電極塗料は界面活性剤をさらに含むことがより好ましい。これによれば、溶媒として水を用いた場合であっても、アセチレンジオール又はアセチレンジオールのエトキシ体を十分に溶解させることができる。
【0018】
本発明において、水分散高分子はスチレンブタジエンゴム(SBR)であることが好ましく、水溶性高分子はカルボキシメチルセルロース(CMC)であることが好ましい。これによれば、高い結着力を得ることが可能となる。
【0019】
本発明による電極塗料は、アルミニウムなどからなる集電体上に塗布することによって電極を形成することができ、セパレータを介してこのような電極を積層すれば、電気二重層キャパシタなどの電気化学素子を作製することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
このように、本発明によれば、水分散高分子や水溶性高分子をバインダーとする電極塗料にマレイン酸共重合体又はその塩を添加することによって分散性が高められていることから、混練工程時に加える剪断力を弱くすることが可能となる。これにより、混練工程中における水分散高分子や水溶性高分子の分子鎖の切断を低減することができることから、結着力の低下を抑制することが可能となる。
【0021】
したがって、本発明による電極塗料を用いれば、製造工程における安全性に優れ、環境負荷が少なく且つ高性能な電極及びこれを用いた電気化学素子を作製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の好ましい実施形態による電極塗料の調整方法を模式的に示す図である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態による電極塗料L1は、撹拌部36を備える混合装置34中に、活物質50、バインダー52、溶媒54、分散剤56及び必要に応じて導電助剤58を投入し、撹拌することにより調製することができる。電極塗料L1の調製は、混練操作及び/又は希釈混合操作を含むことが好ましい。ここで「混練」とは、液が比較的高粘度の状態で撹拌することにより材料を練り合わせることを意味し、「希釈混合」とは混練された液にさらに溶剤等を添加して比較的低粘度の状態で混ぜ合わせることを意味する。これら操作の時間や操作時の温度としては特に制限されないが、均一な分散状態とする点で、混練時間は5分〜2時間程度、混練時の温度は10〜80℃程度とすることが好ましく、希釈混合時間は5分〜5時間程度、希釈混合時の温度は10〜80℃程度とすることが好ましい。
【0025】
電極塗料L1に含まれる活物質50としては、作製する電気化学素子の種類によって異なる。例えば、作製する電気化学素子が電気二重層キャパシタであれば、活物質50としては、電荷の蓄電と放電に寄与する電子伝導性を有する多孔体粒子が用いられる。このような多孔体粒子としては、粒状又は繊維状の賦活処理済みの活性炭、例えば、フェノール系活性炭や、椰子ガラ活性炭等を挙げることができる。また、作製する電気化学素子がリチウムイオン二次電池であれば、正極用の活物質50としては、マンガン酸リチウム(LiMn)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)LiNiMnCo1−x−yなどが用いられ、負極用の活物質50としては、人造グラファイト、天然グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス、繊維状炭素などの炭素質材料が用いられる。
【0026】
電極塗料L1に含まれるバインダー52としては、水分散高分子及び水溶性高分子の少なくとも一方が用いられる。水分散高分子としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)を選択することが好ましく、水溶性高分子としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコールを選択することが好ましい。特に、スチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)の両方を用いることがより好ましい。
【0027】
電極塗料L1に含まれる溶媒54としては、水を使用することができる。これは、使用するバインダー52が水分散高分子や水溶性高分子だからである。このため、製造工程における安全性に優れ、環境に与える負荷を低減することが可能となる。
【0028】
電極塗料L1に含まれる分散剤56としては、マレイン酸共重合体及びその塩の少なくとも一方が用いられる。電極塗料L1にマレイン酸共重合体及びその塩の少なくとも一方を添加すると、電極塗料L1に含まれる活物質50、導電助剤58などの分散性を高めることが可能となる。上述のとおり、「マレイン酸共重合体」とは広義のマレイン酸共重合体を指し、無水でない狭義のマレイン酸共重合体だけではなく、無水マレイン酸共重合体をも含む。
【0029】
マレイン酸共重合体としてはスチレン・マレイン酸共重合体を選択することができ、スチレン・マレイン酸共重合体としては、アリルアルコール・スチレン・無水マレイン酸共重合体とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化体を選択することが好ましい。アリルアルコール・スチレン・無水マレイン酸共重合体とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化体とは、下記化学式(1)〜(3)などで表される材料である。化学式(1)〜(3)の重量平均分子量は数千から数万である。
【0030】
【化1】

【0031】
【化2】

【0032】
【化3】

【0033】
また、スチレン・マレイン酸共重合体としては、スチレン−マレイン酸−マレイン酸アルキル共重合体を選択することも好ましく、この場合、スチレン−マレイン酸−マレイン酸ブチル共重合体を選択することがより好ましい。スチレン−マレイン酸−マレイン酸アルキル共重合体とは、下記化学式(4)、(5)などで表される材料である。化学式(5)において、k=2〜7である。また、化学式(4)、(5)の重量平均分子量は数千〜数万である。化学式(5)においてk=4の場合は、スチレン−マレイン酸−マレイン酸ブチル共重合体である。
【0034】
【化4】

【0035】
【化5】

【0036】
さらに、マレイン酸共重合体としては、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体を選択することもまた好ましい。また、マレイン酸共重合体としては、オレフィン−マレイン酸共重合体を選択することができ、この場合、1−オクタデセン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩を選択することがより好ましい。また、マレイン酸共重合体としては、インデン−マレイン酸共重合体を選択することも好ましい。この場合もナトリウム塩を選択することがより好ましい。
【0037】
さらに、電極塗料L1には、必要に応じて導電助剤58を添加することが好ましい。導電助剤58は、集電体と活物質との間、活物質相互間での電荷の移動を十分に進行させることが可能な電子伝導性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、カーボンブラックやグラファイトを用いることが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等が挙げられ、中でも、アセチレンブラックが好ましく用いられる。また、グラファイトとしては、例えば、天然グラファイト、人造グラファイト、膨張グラファイト等が挙げられ、特に人造グラファイトが好ましく用いられる。
【0038】
特に限定されるものではないが、電極塗料L1には、アセチレンジオール又はアセチレンジオールのエトキシ体を添加することが好ましい。アセチレンジオールとは、下記化学式(6)で表される材料であり、アセチレンジオールのエトキシ体とは、下記化学式(7)で表される材料である。
【0039】
【化6】

【0040】
【化7】

【0041】
アセチレンジオール又はアセチレンジオールのエトキシ体を添加すると、電極塗料L1に気泡が発生しにくくなるため、塗膜の品質を高めることが可能となる。この場合、電極塗料L1には界面活性剤をさらに添加することがより好ましい。これによれば、溶媒54として水を用いた場合であっても、アセチレンジオール又はアセチレンジオールのエトキシ体を十分に溶解させることができる。
【0042】
このような電極塗料L1は、上述のとおり、撹拌部36を備える混合装置34中にて撹拌され、混練操作及び/又は希釈混合操作を経て調整される。このとき、特に混練時においてバインダー52である水分散高分子や水溶性高分子に剪断力が加わり、場合によっては水分散高分子や水溶性高分子の分子鎖が切断されてしまう。
【0043】
しかしながら、本実施形態による電極塗料L1には、分散剤56としてマレイン酸共重合体及びその塩の少なくとも一方が添加されており、これにより電極塗料L1に含まれる活物質50、導電助剤58などの分散性が高められていることから、小さな剪断力で混練操作などを行うことができる。つまり、バインダー52である水分散高分子や水溶性高分子の分子鎖を切断しない程度の力で混練操作などを行うだけで、活物質50、導電助剤58などを十分に分散させることができる。
【0044】
図2は、電気化学素子用電極の製造装置の構造を模式的に示す図である。
【0045】
図2に示すように、電気化学素子用電極の製造装置100は、帯状の集電体16が巻回された供給ロール101と、所定の速度で回転することによって集電体16と電極層18の積層体20を巻回する巻き取りロール102と、供給ロール101と巻き取りロール102との間にこの順に設けられた塗布部110、乾燥部120及びロールプレス部130とを備えている。
【0046】
塗布部110は、電極層18の材料である電極塗料L1を集電体16の面上に塗布するための部分である。塗布部110は、バックアップロール111と、バックアップロール111によって湾曲した集電体16の表面に電極塗料L1を塗布するナイフコータ(電極塗布手段)112とを備えている。図2に示すように、供給ロール101より供給された集電体16は、ガイドロール103及びテンションロール104を経由して塗布部110へと搬送され、これにより、集電体16の一方の面上には電極層18の元となる塗膜L2が形成される。
【0047】
尚、電極塗料L1を塗布する電極塗布手段112としては、ナイフコート法に限定されず、公知である種々の塗布方法を特に制限なく使用することができる。例えば、エクストルージョンノズル法、エクストルージョンラミネーション法、ドクターブレード法、グラビアロール法、リバースロール法、アプリケーターコート法、キスコート法、バーコート法、スクリーン印刷法等の方法を採用することができる。
【0048】
集電体16は、公知の電気化学素子用電極に用いられる集電体材料、例えばアルミニウム(Al)を用いることができる。集電体16の厚さについても特に限定されないが、集電体16の材料としてアルミニウム(Al)を用いた場合、その厚さを10μm以上、100μm以下に設定することが好ましく、15μm以上、50μm以下に設定することがより好ましい。
【0049】
また、特に限定されるものではないが、集電体16の表面は粗面化されていることが好ましく、これによれば、集電体16と電極層18との密着性を高めることが可能となる。集電体16の表面を粗面化する方法としては、特に限定されないが、酸などの薬品による化学的なエッチングによって粗面化することができる。
【0050】
乾燥部120は、塗膜L2に含まれる溶媒54などを除去するための部分である。本実施形態による電気化学素子用電極の製造装置100では、集電体16を挟むように配置された2つの乾燥機121、122によって構成されており、これら乾燥機121、122による加熱によって塗膜L2に含まれる溶媒54が除去され、電極層18となる。具体的には、70〜130℃、0.1〜10分間の条件で乾燥を行うことが好ましい。これにより、集電体16の面上に電極層18が形成された状態となる。
【0051】
但し、この状態では電極層18の密度は低く、このままの状態では高い体積容量を得ることはできない。乾燥後における電極層18の密度は、活物質50の種類や粒径などにもよるが、活物質50として活性炭を用いた場合、0.5〜0.6g/cm程度である。
【0052】
ロールプレス部130は、電極層18の体積容量を高めるべくこれを圧縮するための部分である。本実施形態による電気化学素子用電極の製造装置100では、電極層18側に配置された第1のローラ131と集電体16側に配置された第2のローラ132を備え、これらローラ131,132によって積層体20をロールプレスし、積層体20に含まれる電極層18を圧縮する。
【0053】
このようにして集電体16上には圧縮された電極層18が形成され、完成した積層体20は、巻き取りロール102に巻回される。
【0054】
そして、図3(a)に示すように、巻き取りロール102に巻回された積層体20を所定の大きさに切断し、図3(b)に示すように、作製する電気化学素子のスケールに合わせて積層体20を打ち抜けば、図3(c)に示すように電気化学素子用電極10が完成する。このとき、図3(c)に示すように電極層18に覆われていない集電体16の一部を同時に取り出せば、これを引き出し電極12として利用することが可能となる。
【0055】
そして、図4に示すように作製した電気化学素子用電極10を少なくとも2枚用意し、電極層18が向き合うよう、これら2枚の電気化学素子用電極10によってセパレータ40を挟んだ後、図示しないケースに収容し、ケース内に電解質溶液を充填すれば、電気化学素子が完成する。
【0056】
セパレータ40は、電極層18,18間における電解質溶液中のイオンの移動を可能としつつ、これら電極層18,18とを物理的に分離するための膜である。セパレータ40は絶縁性の多孔体から形成されていることが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリオレフィンからなるフィルムの積層体や、上記樹脂の混合物の延伸膜、或いは、セルロース、ポリエステル及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布等を用いることができる。セパレータ40の厚さは、特に限定されるものではないが、5μm以上、200μm以下とすることが好ましく、10μm以上、100μm以下とすることがより好ましい。
【0057】
また、電解質溶液としては、公知の電気化学素子に用いられている電解質溶液(電解質水溶液、有機溶媒を使用する電解質溶液)を使用することができる。具体的な電解質溶液の種類は特に限定されないが、電気二重層キャパシタの場合には、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレイトのような4級アンモニウム塩を、プロピレンカーボネート、ジエチレンカーボネート、アセトニトリル等の有機溶媒に溶解したものを好ましく使用することができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態では、電極塗料L1に含まれるバインダー52として、水分散高分子及び水溶性高分子の少なくとも一方が用いられていることから、溶媒として水を使用することができる。このため、製造工程における安全性に優れ、環境に与える負荷が小さいという利点がある。また、作製された電気化学素子の安全性が高いという長所も有している。
【0059】
しかも、電極塗料L1には、分散剤56としてマレイン酸共重合体及びその塩の少なくとも一方が添加されていることから、電極塗料L1に含まれる活物質50、導電助剤58などの分散性を高めることが可能となる。マレイン酸共重合体やその塩は、バインダー52として水分散高分子や水溶性高分子を用いた場合に有効な材料であり、特に、バインダー52としてスチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)の両方を用いた場合には最適な材料となる。
【0060】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【実施例1】
【0061】
(電極塗料の作製)
【0062】
プラスチック製の容器に、活物質として活性炭(RP−20、クラレケミカル(株)製)を29.69gと、導電助剤としてカーボンブラック(CB)(電気化学工業(株)製、DAB50)を0.31g入れ、そこに溶媒として水を10gと、分散剤として、上記化学式(1)に示したアリルアルコール・スチレン・無水マレイン酸共重合体とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化体(日本油脂(株)製、マリアリムAKM−0531)を0.3g混合したものを添加した。
【0063】
これをハイブリッドミキサー(キーエンス(株)製)で1分間混合した。ハイブリッドミキサーとは、容器を自転・公転させることにより容器内の物質を攪拌・混合する器械である。次に容器に2wt%CMC水溶液(日本製紙ケミカル(株)製、サンローズF1400MC)を13.92g入れ、ハイブリッドミキサーで3分間分散した。次に水適当量とSBR(日本合成ゴム(株)製、TRD2001)を1.34g加え、ハイブリッドミキサーで3分間分散した。次に塗布に適する粘度になるまで水を添加し、ハイブリッドミキサーで3分間分散させ電極塗料を作製した。この電極塗料中の次の物質の組成は下記のとおりである。
【0064】
活性炭:CB:SBR:CMC=96.0:1.0:2.1:0.9質量%
(分散度の測定)
【0065】
分散度合いを判定するために、調整した電極塗料を粒度ゲージ(テスター産業(株)製、0〜200μm)で測定した。これは、所定の深さの窪みに電極塗料を刃で塗布し、粒があるかどうか目視で判断するものである。
【0066】
上記の電極塗料をこの粒度ゲージで試験したところ、粒(凝集塊)は全く見られなかった。
(電極の作製)
【0067】
ハイブリッドミキサーで分散すると中に入っている物質の摩擦熱で塗料温度が上昇する。塗料温度が室温に下がってから、ドクターブレード法で集電体のエッチングアルミニウム箔(日本蓄電器工業製、商品名:40C054)に塗布・乾燥し電極を作製した。さらにこの電極を圧延ロール(線圧600kgf/cm)で圧延して電極とした。
(電気二重層キャパシタの作製)
【0068】
上記の電極を所定の大きさ(約17mm×32mm)に打ち抜き、外部引き出しリード用のアルミニウム箔(幅4mm×長さ40mm×厚み0.1mm)を超音波溶接した。
【0069】
この電極を150℃で3時間乾燥させた。上記の電極2枚でセパレータ(ニッポン高度紙工業製、型番:TF4030、厚み30μm)をはさむように積層した。この外部引き出し端子に、無水マレイン酸をグラフト化したポリプロピレン(PP)フィルムを巻き付け熱接着させた。これは外部端子と外装体とのシール性を向上させるためである。これを電池用外装体に挿入し、電解液を注入後、開口部を真空ヒートシールし、電気二重層キャパシタを作製した。ここで外装体はアルミニウムラミネート材料からなり、その構成は、PET(12)/Al(40)/PP(50)となる。PETはポリエチレンテレフタレート、PPはポリプロピレンである。かっこ内は各層の厚み(単位はμm)を表す。なおこの時PPが内側となるように製袋した。電解液は四フッ化ホウ酸トリエチルメチルアンモニウムを1.2Mに溶解させたPC(プロピレンカーボネート)を適量添加した。
【0070】
この電気二重層キャパシタを2.0〜2.5V間で充放電させた(作製後の電圧は0Vであるから初回の充電だけは0Vから始まる)。電極の体積(集電体を除く)当たりの初回〜15サイクルの放電時の静電容量の平均値は18.8F/cmであった。
【実施例2】
【0071】
(電極塗料の作製)
【0072】
アリルアルコール・スチレン・無水マレイン酸共重合体とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化体(日本油脂(株)製、マリアリムAKM−0531)単独の替わりに、この物質とアセチレンジオール(日信化学工業製、商品名:サーフィノール104E、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールとエチレングリコールの混合物)とポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(商品名:トリトンX−100)の混合物を0.3g添加した以外は、実施例1と同様にして電極塗料を作製した。トリトンX−100は、アセチレンジオールを水に溶解させるために用いた。組成比は、下に示すように実施例1と同様である。
【0073】
活性炭:CB:SBR:CMC=96.0:1.0:2.1:0.9質量%
(分散度の測定)
【0074】
上記の電極塗料をこの粒度ゲージで試験したところ、粒(凝集塊)は全く見られなかった。
(電極及び電気二重層キャパシタの作製)
【0075】
実施例1と同様に、電極、電気二重層キャパシタを作製した。初回〜15サイクルの放電時の、電極の体積(集電体を除く)当たりの静電容量の平均値は18.8F/cmであった。
【実施例3】
【0076】
(電極塗料の作製)
【0077】
アリルアルコール・スチレン・無水マレイン酸共重合体とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化体(日本油脂(株)製、マリアリムAKM−0531)の替わりに、分散剤として販売されているPD−301(日信化学工業製、アセチレンジオール(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール)、スチレン−マレイン酸−マレイン酸ブチル共重合体(上記化学式(9)に示すもの)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、2−ブトキシエタノール及び水の混合物)を0.3g添加した以外は、実施例1と同様に電極塗料を作製した。ここで、アセチレンジオールは濡れ剤としての役割を果たし、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルは界面活性剤としての役割を果たし、2−ブトキシエタノールは分散剤中の溶媒としての役割を果たす。組成比は、下に示すように実施例1と同様である。
【0078】
活性炭:CB:SBR:CMC=96.0:1.0:2.1:0.9質量%
【0079】
尚、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールとは、上記化学式(10)に示すRを下記の化学式(12)とし、Rを下記の化学式(13)とした材料である。
【0080】
【化8】

【0081】
【化9】

(分散度の測定)
【0082】
上記の電極塗料をこの粒度ゲージで試験したところ、粒(凝集塊)は全く見られなかった。
(電極及び電気二重層キャパシタの作製)
【0083】
実施例1と同様に、電極、電気二重層キャパシタを作製した。初回〜15サイクルの放電時の、電極の体積(集電体を除く)当たりの静電容量の平均値は18.8F/cmであった。
【実施例4】
【0084】
(塗料の作製)
【0085】
実施例1で用いたアリルアルコール・スチレン・無水マレイン酸共重合体とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化体(日本油脂(株)製、マリアリムAKM−0531)の替わりに、1−オクタデセン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩(オレフィン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩)を0.3g添加した以外は、実施例1と同様に塗料を作製した。組成比は、下に示すように実施例1と同様である。
【0086】
活性炭:CB:SBR:CMC=96.0:1.0:2.1:0.9質量%
(分散度の測定)
【0087】
上記の塗料をこの粒度ゲージで試験したところ、粒(凝集塊)は全く見られなかった。
(電極及び電気二重層キャパシタの作製)
【0088】
実施例1と同様に、電極、電気二重層キャパシタを作製した。電極の体積(集電体を除く)当たりの初回〜15サイクルの放電時の静電容量の平均値は18.7F/cmであった。
【実施例5】
【0089】
(塗料の作製)
【0090】
実施例1で用いたアリルアルコール・スチレン・無水マレイン酸共重合体とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化体(日本油脂(株)製、マリアリムAKM−0531)の替わりに、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体を0.3g添加した以外は、実施例1と同様に塗料を作製した。組成比は、下に示すように実施例1と同様である。
【0091】
活性炭:CB:SBR:CMC=96.0:1.0:2.1:0.9質量%
(分散度の測定)
【0092】
上記の塗料をこの粒度ゲージで試験したところ、粒(凝集塊)は全く見られなかった。
(電極及び電気二重層キャパシタの作製)
【0093】
実施例1と同様に、電極、電気二重層キャパシタを作製した。電極の体積(集電体を除く)当たりの初回〜15サイクルの放電時の静電容量の平均値は18.7F/cmであった。
【実施例6】
【0094】
(塗料の作製)
【0095】
実施例1で用いたアリルアルコール・スチレン・無水マレイン酸共重合体とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化体(日本油脂(株)製、マリアリムAKM−0531)の替わりに、インデン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩を0.3g添加した以外は、実施例1と同様に塗料を作製した。組成比は、下に示すように実施例1と同様である。
【0096】
活性炭:CB:SBR:CMC=96.0:1.0:2.1:0.9質量%
(分散度の測定)
【0097】
上記の塗料をこの粒度ゲージで試験したところ、粒(凝集塊)は全く見られなかった。
(電極及び電気二重層キャパシタの作製)
【0098】
実施例1と同様に、電極、電気二重層キャパシタを作製した。電極の体積(集電体を除く)当たりの初回〜15サイクルの放電時の静電容量の平均値は18.7F/cmであった。
[比較例1]
【0099】
実施例1で、アリルアルコール・スチレン・無水マレイン酸共重合体とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化体(日本油脂(株)製、マリアリムAKM−0531)を添加せずに、電極塗料を作製した。
(分散度の測定)
【0100】
上記の電極塗料をこの粒度ゲージで試験したところ、30〜200μmの粒(凝集塊)が多数見られ、分散されていないことがわかった。
(電極の作製)
【0101】
この電極塗料をドクターブレード法で塗布しようとしたが、ドクターブレード(刃)に凝集塊が引っ掛かり、集電体のアルミニウム箔が破れ塗布できなかった。
[比較例1]
(電極塗料の作製)
【0102】
実施例1で使ったものと同品種の活性炭、カーボンブラック、SBR分散液およびCMC溶液とを混練機(ブラベンダー社、PLASTI−CORDER)で60rpmで5分間混練した。この混練時には混練開始には7Nmのトルクが掛かっていたが、5分後には2Nmまでトルクが低下しCMCの分子鎖が切断されたことが示唆された。この混練物を所定量、樹脂製の容器に入れ塗布に適する粘性になるように水を加え、分散機(ハイブリッドミキサー、キーエンス(株)製)で分散し電極塗料を作製した。
(分散度の測定)
【0103】
上記の電極塗料をこの粒度ゲージで試験したところ、粒(凝集塊)は全く見られなかった。
(電極の作製)
【0104】
電極の作製は実施例1と同様に行った。
(電気二重層キャパシタの作製)
【0105】
上記の電極を所定の大きさ(約17mm×32mm)に打ち抜いたが、電極の端部が欠け(CMCの分子鎖が切断され電極強度が低下したためと考えられる)、電気二重層キャパシタを作製することができなかった。
【0106】
実施例1〜6及び比較例1,2にて使用した分散剤及び混合機と、得られた分散状態及び静電容量を図5にまとめる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】電極塗料L1の調製方法を説明するための模式図である。
【図2】電気化学素子用電極の製造装置100の構造を示す概略図である。
【図3】積層体20から電気化学素子用電極10を切り出す方法を説明するための図であり、(a)は所定の大きさに切断された積層体20の略平面図であり、(b)は、電気化学素子用電極10が切り出された積層体20の略平面図であり、(c)は、切り出した電気化学素子用電極10の略平面図である。
【図4】電気化学素子用電極10を用いて電気二重層キャパシタを作成する方法を説明するための模式図である。
【図5】実施例1〜6及び比較例1,2にて使用した分散剤及び混合機と、得られた分散状態及び静電容量をまとめた表である。
【符号の説明】
【0108】
10 電気化学素子用電極
12 引き出し電極
16 集電体
18 電極層
20 積層体
34 混合装置
36 撹拌部
40 セパレータ
50 活物質
52 バインダー
54 溶媒
56 分散剤
58 導電助剤
100 電気化学素子用電極の製造装置
101 供給ロール
102 巻き取りロール
103 ガイドロール
104 テンションロール
110 塗布部
111 バックアップロール
112 電極塗布手段
120 乾燥部
121,122 乾燥機
130 ロールプレス部
131,132 ローラ
L1 電極塗料
L2 塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と、水分散高分子及び水溶性高分子の少なくとも一方と、マレイン酸共重合体及びその塩の少なくとも一方とを含むことを特徴とする電極塗料。
【請求項2】
前記マレイン酸共重合体がスチレン・マレイン酸共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の電極塗料。
【請求項3】
前記スチレン・マレイン酸共重合体がアリルアルコール・スチレン・無水マレイン酸共重合体とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化体であることを特徴とする請求項2に記載の電極塗料。
【請求項4】
前記スチレン・マレイン酸共重合体がスチレン−マレイン酸−マレイン酸アルキル共重合体であることを特徴とする請求項2に記載の電極塗料。
【請求項5】
前記スチレン・マレイン酸共重合体がスチレン−マレイン酸−マレイン酸ブチル共重合体であることを特徴とする請求項4に記載の電極塗料。
【請求項6】
前記マレイン酸共重合体がオレフィン−マレイン酸共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の電極塗料。
【請求項7】
前記マレイン酸共重合体が1−オクタデセン−無水マレイン酸共重合体であることを特徴とする請求項6に記載の電極塗料。
【請求項8】
前記マレイン酸共重合体が酢酸ビニル−マレイン酸共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の電極塗料。
【請求項9】
前記マレイン酸共重合体がインデン−マレイン酸共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の電極塗料。
【請求項10】
アセチレンジオール又はアセチレンジオールのエトキシ体をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の電極塗料。
【請求項11】
界面活性剤をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の電極塗料。
【請求項12】
前記水分散高分子がスチレンブタジエンゴムであることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の電極塗料。
【請求項13】
前記水溶性高分子がカルボキシメチルセルロースであることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の電極塗料。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の電極塗料を集電体上に塗布することによって形成された電極。
【請求項15】
請求項14に記載の電極を用いた電気化学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−180250(P2007−180250A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−376642(P2005−376642)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】