説明

電極材料用炭素質物

【課題】 リチウム二次電池用負極活物質および電気二重層キャパシタ用活性炭などの電極材料として好適な (002)面の層間距離の分布が少ない炭素質物およびその炭化品を提供すること。
【解決手段】 石油系および/または石炭系重質油を熱処理して得られるコークスからなる炭素質物であって、該炭素質物中の水分含量が0.01%以上0.5%以下、かつ該炭素質
物の空気中で測定された熱重量分析から得られる減量開始温度が500℃以上600℃以下である炭素質物またはその炭化品を蓄電装置用電極材料として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能な電極材料、特に電気二重層キャパシタ用活性炭およびリチウム二次電池用負極活物質などを製造するための原料として好適な炭素質物および低温焼成炭素粉末ならびに蓄電装置用電極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気二重層キャパシタやリチウムイオン二次電池などの新しい蓄電装置が相次いで開発されている。該蓄電装置は、従来の蓄電池やコンデンサに比べて高容量および/ま
たは高出力であり、携帯電話やノートパソコンなどの携帯電子機器から、ハイブリッド電気自動車などの比較的大型な装置まで、幅広く使われている。
【0003】
該蓄電装置には、その電極材料として、活性炭、黒鉛、低温焼成炭素などの炭素材料が使用されている。該炭素材料は、導電性、層間化合物形成能、耐薬品性などの物理特性、あるいは供給安定性や価格などの経済性において、他元素を主体とする材料に比べて優れている。しかしながら、それと同時に該炭素材料の特性が該蓄電装置の性能に大きく影響するので、該炭素材料の製造方法には特段の注意を払う必要がある。
【0004】
電気二重層キャパシタにおいては、その静電容量は、電気二重層キャパシタの電極を構成する活性炭粒子の比表面積、細孔分布、結晶度、純度などに依存する。したがって、適切な活性炭を得るためには、原料である炭素質物に粉砕、炭化、賦活など種々の処理を施す必要がある。
【0005】
上記の炭素質物から活性炭を製造する工程は、原料である炭素質物の種類などによって若干異なるが、概ね以下の通りである。
すなわち、乾燥した炭素質物を粒径数mm以下の粒子状に粉砕する。次いで、粉砕した炭素質物を不活性雰囲気下で、600〜900℃の温度範囲で炭化する。次いで、炭化物を水蒸気流入下あるいは水酸化カリウムなどを添加混合した状態で賦活処理する。さらに、賦活物を希塩酸水などで酸洗あるいは水洗する。最終的に、篩分けにより夾雑物を取り除いて、活性炭とする。
【0006】
リチウム二次電池においては、その容量は、正極および負極を構成する活物質の物性に依存する。すなわち、負極活物質には、主に黒鉛系および/または低温焼成炭素系炭素が
使用されているが、両者ともに、負極活物質粒子の比表面積、細孔分布、結晶度、純度などが該電池の容量に大きく影響する。したがって、適切な負極活物質を得るために、原料である炭素質物に粉砕、炭化、黒鉛化など種々の処理を施す必要がある。
【0007】
上記の炭素質物から低温焼成炭素系負極活物質を製造する工程は、原料である炭素質物の種類などによって若干異なるが、概ね以下の通りである。
すなわち、乾燥した炭素質物を粒径数mm以下の粒子状に粉砕する。次いで、粉砕した炭素質物を不活性雰囲気下で、800〜1,400℃の温度範囲で炭化する。さらに、得られた炭化物を所定の平均粒径に粉砕する。このようにして低温焼成炭素系負極活物質が得られる。
【0008】
また、黒鉛系負極活物質は、通常、上記炭化物に以下の処理を施して得られる。
すなわち、上記で得られる所定の平均粒径に粉砕した炭化物に、必要に応じて酸化ホウ素などの黒鉛化触媒を添加混合する。該混合物に、コールタールピッチなどの粘結材を適量加えて混合する。次いで、該混合物をアルゴン雰囲気下、2,800〜3,000℃で黒鉛化する。さらに、得られた黒鉛化物を解砕して、所定の平均粒径に調整する。このようにして黒
鉛系負極活物質が得られる。
【0009】
上記で説明したように、電気二重層キャパシタ用活性炭およびリチウム二次電池用負極活物質のいずれの製造工程においても、粒子状に粉砕された炭素質物または所定の平均粒径に粉砕された炭素質物を600〜1,400℃で炭化した低温焼成炭素(以下、炭化品というこ
とがある)を得る工程が存在する。すなわち、通常、炭素質物は、複数のベンゼン環から
なる芳香族化合物、枝分かれした炭化水素、ヘテロ原子を含む官能基を持つ炭化水素などの混合物である。したがって、上記の炭化により、ヘテロ原子を含む官能基を持つ炭化水素などを除去するとともに、複数のベンゼン環からなる芳香族化合物や枝分かれした炭化水素などを炭素六角網面へと成長させる。
【0010】
該炭素六角網面の一部は、炭化中に黒鉛微結晶を生成する。該黒鉛微結晶の (002)面の層間距離(以下、 d002ということがある)は、電極材料の特性に影響するので、所定の値
に保つことが必要である。さらに、該 d002は炭化条件に応じて変動するので、炭化の温
度、時間などを厳密に制御する必要がある。
【0011】
しかしながら、炭化条件が厳密な制御下にあるにも拘わらず、炭化品の d002が変動す
ることが知られている。このような d002の変動は、炭素質物中の炭化水素の構造、C/H比、バナジウムなどの金属含有量などのロット間格差によると考えられるが、詳細は不明である。したがって、 d002の有効な変動防止法は、未だ知られていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、電極材料として、均一な (002)面の層間距離を有する蓄電装置用炭素質物、低温焼成炭素粉末(炭化品)ならびに蓄電装置用電極材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、炭素質物を構成する炭化水素の構造、炭素質物の水分などを詳細に検討した結果、驚くべきことに、炭化前の炭素質物を乾燥する工程において、乾燥後の炭素質物の水分含量および空気中で測定した熱重量分析から得られる減量開始温度(以下、減量
開始温度という)が、炭化品の d002の変動幅に影響することを見出した。
【0014】
すなわち、通常、工業的に製造される炭素質物は可燃物であるため、反応槽からの切り出しのためにウォーターカッターが使用されることが多い。また、運搬、保管などの過程において大気にさらされるため吸湿する。特に、ウォーターカッターが使用された場合、炭素質物の水分含量が5%以上に達することもあり、製造工程の最初に乾燥を行う必要がある。該乾燥工程は、炭素質物に高温の空気を強制的に吹き込んで水分を蒸発させる工程であり、作業時間短縮のために、回転ドラム内にて炭素質物を攪拌しながら、150℃以上の
空気を送風し、回転ドラムの外面をLPGバーナーで外熱する。このような操作により、1時間当たり約1tonの乾燥処理が可能で、炭素質物の水分含量は1%未満となる。
【0015】
本発明者らによると、乾燥された炭素質物を詳細に検討した結果、200℃の空気を送風
し、かつ温度維持のために回転ドラムに外熱を加えて、1時間当たり約1tonの乾燥を行っ
た場合、水分含量に最大1%から0.1%までの分布があることが判明した。さらに、水分含量0.1%の炭素質物を詳細に検討した結果、減量開始温度に最大500℃から600℃までの分布があることが判明した。このような水分含量および減量開始温度の分布が、炭化品の d002
の変動原因と推定し、鋭意検討した結果、水分含量および減量開始温度の分布を特定の範囲とすることにより、 d002の変動幅を低減させることが可能であることを見出し、本発
明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、石油系および/または石炭系重質油を熱処理して得られるコークスからなる炭素質物であって、該炭素質物中の水分含量が0.01%以上0.5%以下、かつ該炭素質物の空気中で測定した熱重量分析から得られる減量開始温度が500℃以上600℃以下である電極材料用炭素質物が提供される。
【0017】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明における炭素質物が、150℃以下の空
気を用いて乾燥処理を行ったものである電極材料用炭素質物が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明における炭素質物を、平均粒径1μm以上30μm以下に粉砕した後、600℃以上1,400℃以下の温度で焼成するか、または600℃以上1,400℃以下の温度で焼成した後、平均粒径1μm以上30μm以下に粉砕してなる電極材料用低温焼成炭素粉末(炭化品)が提供される。
【0018】
さらに、本発明の第4の発明によれば、第3の発明における低温焼成炭素粉末(炭化品)からなる蓄電装置用電極材料が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第3の発明における低温焼成炭素粉末(炭化品)を、さらに賦活または黒鉛化して得られる炭素粉末からなる蓄電装置用電極材料が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水分含量および減量開始温度が厳密に制御された炭素質物を用いることによって、炭化品の(002)面の層間距離の分布を低減することが可能となる。
本発明の均一な (002)面の層間距離を有する炭素質物および炭化品は、蓄電装置用材料として用いるのに最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の炭素質物は、石油系重質油および/または石炭系重質油を熱処理して得られる
コークスである。通常、コークスは、石油系重質油および/または石炭系重質油を400℃から600℃で熱処理することによって得られる。工業的には、該熱処理にディレードコーカ
ーを用い、1バッチ数千トン程度の量を製造する。ディレードコーカーからウォーターカ
ッターで切り出したコークスは、大きさが不特定であるので、ロールクラッシャーなどで破砕し、数十cmの塊にする。
【0021】
さらに、得られた炭素質物を乾燥する。乾燥方法としては、天日乾燥、送風乾燥、減圧乾燥などが考えられるが、処理速度、水分含量、不純物混入防止などの観点から、高温の空気を用いた送風乾燥が好ましい。また、乾燥機としては、回転ドラムの中で炭素質物を攪拌しながら高温の空気を炭素質物に強制送風し排気する形式の装置が好ましい。
【0022】
なお、乾燥後の炭素質物の水分含量は(水分含量の測定方法は、後述する)ロット中の、どの画分においても0.01%以上0.5%以下である。該乾燥工程中に、一定の頻度で炭素質
物の水分含量を測定したとき、全ての水分含量が0.1%から0.2%の範囲になることが好ましい。ロット中に0.5%を超える画分があると、炭化工程において、水分の蒸発のために炭化温度の厳密な制御が困難となるので好ましくない。また、水分含量を0.01%未満とするた
めには、乾燥に使用する高温の空気の温度を200℃以上に設定する必要がある。この場合
、炭素質物の減量開始温度が600℃を超える可能性があるため、したがって水分含量0.01%未満の炭素質物は好ましくない。
【0023】
また、乾燥に使用する高温の空気の温度は、150℃以下であることが好ましい。高温の
空気の温度を120℃以下に設定し、炭素質物中に送風することがさらに好ましい。高温の
空気の温度が150℃を超えると、炭素質物の減量開始温度が600℃を超える可能性があるた
め好ましくない。さらに、乾燥時間を短縮するための回転ドラムの外熱は、炭素質物の減量開始温度が600℃を超えるため好ましくない。
【0024】
また、乾燥速度は、上記の乾燥方法と乾燥温度との範囲内で、水分含量が0.1%以上0.2%未満となる速度に設定することが好ましい。より具体的には、回転ドラムの中を流れる炭素質物の断面積あたりの乾燥速度が、0.1ton/hr・m2から0.5ton/hr・m2であることが好ましい。0.05ton/hr・m2以下では、適切な乾燥品が得られるものの、生産量が低下するので好ましくない。また、1ton/hr・m2以上では、水分含量の分布が大きくなり、部分的に0.5%を超える画分ができる可能性が高くなるため好ましくない。
【0025】
さらに、乾燥後の炭素質物の減量開始温度は、ロット中のどの画分においても500℃以
上600℃以下である。乾燥工程中に一定の頻度で炭素質物の減量開始温度を測定したとき
、全ての減量開始温度が530℃から570℃の範囲になることが好ましい。減量開始温度が600℃を超えると、炭素質物中の低分子量の炭化水素濃度が減少し、炭化工程において炭素
六角網面の成長が不均一となり、したがって d002の変動の原因となるので好ましくない
。また、減量開始温度が500℃未満の炭素質物(コークス)は、コーキング不良と考えら
れ、良好な炭化品が得られない可能性が高いため好ましくない。
【0026】
次いで、上記のようにして乾燥された炭素質物を、最大粒径が2mm以下となるように粗
粉砕する。粗粉砕機としては、衝撃またはせん断型で中程度の粒度が得られる粉砕機であればいずれも好適に用いることができ、ハンマーミル、アトリションミル、カッターミル、ピンミルなどが例示し得る。
【0027】
次いで、粗粉砕した炭素質物を600℃以上1,400℃以下の温度範囲にて炭化する。炭化における雰囲気は、不活性ガスであればいずれも好適に使用し得るが、製造コストの観点から窒素が好ましい。炭化に用いる焼成炉は、バッチ式焼成炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルンなど気密性があり、かつ温度制御可能なものであればいずれも好適に使用し得る。
【0028】
さらに、上記の炭化物を所定の平均粒径となるように微粉砕する。通常、電極材料として好ましく使用される炭化品の平均粒径は、1μm以上30μm以下であるので微粉砕機とし
てはジェットミルの使用が好ましい。微粉砕時に副成する粒径1μm未満の微粉を気流分級機などで除去することがさらに好ましい。
【0029】
また、上記の炭化工程および微粉砕・分級工程の順序を変えて炭化品の製造を行ってもよい。
なお、炭素質物の水分含量および減量開始温度を測定するための一定頻度での試料採取は、以下の通りとした。すなわち、1ロット10tonの場合、1ロットの乾燥作業中に、2ton(1ロットの20重量%)処理毎に約500gの炭素質物を採取した。該採取物をよく混合した後、
水分含量および減量開始温度の測定に必要な量を採取し試料とした。1試料当たり、2回の測定を行った。
【0030】
また、炭素質物の d002を測定するための一定頻度での試料採取は、以下の通りとした
。すなわち、1ロット8tonの場合、1.6ton処理毎に約500gの炭素質物を採取した。該採取
物をよく混合した後、 d002の測定に必要な量を採取し試料とした。1試料当たり、1回の
測定を行った。
【0031】
なお、炭素質物の水分含量は、JIS M8812:2004「石炭類及びコークス類−工業分析方
法」にしたがって測定した。
また、炭素質物の減量開始温度は、以下の手順にて測定した。すなわち、先ずセイコー
Ins製TG/DTA6300Rに、試料約5mgを入れたPt製開放パンを装着した。空気気流(100mL/分)
下、30℃から1,250℃まで、昇温速度10℃/分にて昇温した。試料の重量変化を測定し、温度と試料重量とのグラフを作成した。200℃以上の低温側のベースラインと、試料重量の
減少開始から終了までに観察される曲線の変曲点を通る直線との交点の温度を減量開始温度とした。
【0032】
また、炭素質物の d002は、以下の手順にて測定を行った。すなわち、試料約50mgを粉
末X線回折用アモルファスガラスホルダーに詰め込み、ハンドプレスにて圧縮成形した。次いで、理学電機株式会社製RAD-1Cに該ホルダーを装着し、X線源:Cukα1(λ=0.15407nm)、測定範囲:10°〜90°、スキャン速度:4deg/minの条件にて回折X線強度を測定した。X線強度と回折角とのグラフを作成し、2θ=25.8°付近のピークの半価幅とλ値から計算式: d002=λ/SIN(RADIANS((2θ)/2))/2を用いて 、d002を算出した。
【実施例1】
【0033】
常圧蒸留残渣油と流動接触分解残渣油とを重量比50:50にて混合した混合油13m3を内容積20m3のベンチリアクターに仕込み、圧力約0.5Mpa、温度約500℃にて40時間保持するこ
とによりコークス12tonを得た。ウォーターカッター(最大吐出圧力:400Mpa、オリフィス径:0.3mm)を使用して、リアクター内部からコークスを切り出した。切り出されたコークスをロールクラッシャーで直径10cm以下に破砕した。破砕物中の水分含量は6.3%であった。
【0034】
該炭素質物(コークス破砕物)約11tonを乾燥機のドラム(長さ:20m、直径:1.8m)に連続的に送り込み、ドラムを回転させながら、高温の空気を送風した。空気温度は、送風機の出口において120℃および炭素質物の乾燥処理速度は、0.32ton/hr・m2とした。乾燥し
た炭素質物を2ton毎に試料採取し、水分含量および減量開始温度の測定を行った。結果を表1に示す。全ての測定点において、水分含量は0.2%以下、かつ減量開始温度は570℃以
下であった。
【0035】
次いで、乾燥した炭素質物10tonを、SUS304製のハンマーミル(ハンマー直径500mm)を用い、粒径2mm以上の粒子が0.1重量%以下となるように粗粉砕した。さらに、粗粉砕した炭
素質物10tonを、ロータリーキルン(加熱方式LPG炎、胴体内径40cm、加熱帯240cm)を用い
、胴体出口温度720℃、窒素流量20L/min、搬送速度30kg/hrの条件にて炭化を行った。
【0036】
得られた炭化物約8tonにつき、ジェットミル(ノズル径2mm)を用い、処理速度200kg/hr
の条件にて、平均粒径12μmに微粉砕した。さらに、粒径1μm未満の微粉が0.1重量%未満
となるように、微粉砕物を気流分級機(缶体外径1m、缶体高さ2m)で分級した。このようにして得られた炭化品を1.6ton毎に試料採取し、 d002を測定した。結果を表2に示す。
炭化品の d002の平均は、0.3466[nm]、最大値と最小値の差は、0.0005[nm]であった。
【実施例2】
【0037】
実施例1の粗粉砕された炭素質物10tonを用いて、炭化と微粉砕・分級との順序を変え
たこと以外は、実施例1と同様にして微粉砕・分級、次いで炭化を行った。炭化品を1.6ton毎に試料採取し、 d002を測定した。結果を表2に示す。炭化品の d002の平均は、0.3465[nm]、最大値と最小値との差は、0.0005[nm]であった。
【実施例3】
【0038】
実施例1の炭化工程における胴体出口温度を600℃に設定したこと以外は、実施例1と
同様にして炭化品を得た。炭化品を1.6ton毎に試料採取し、 d002を測定した。結果を表
2に示す。炭化品の d002の平均は、0.3442[nm]、最大値と最小値との差は、0.0005[nm]
であった。
【実施例4】
【0039】
実施例1の粗粉砕された炭素質物10tonを、アルミナ製の矩形るつぼ(縦20cm、横30cm
、深さ10cm)約5,000個(1個当たり2kg)に充填した。充填した矩形るつぼ500個を1ロットとして、バッチ式焼成炉(加熱方式LPG炎、内寸400cm、300cm、200cm)に収納した。炉内中心部に設置した熱電対の指示値が1,000℃、窒素流量10L/minの条件にて、10ロットの炭化を行った。
【0040】
得られた炭化物約8tonを、実施例1と同様にして粉砕・分級した。炭化品を1.6ton毎に試料採取し、 d002を測定した。結果を表2に示す。炭化品の d002の平均は、0.3493[nm]、最大値と最小値との差は、0.0005[nm]であった。
【実施例5】
【0041】
実施例4と同様の粗粉砕された炭素質物10tonを用いて、炭化と微粉砕・分級との順序
を変えたこと以外は、実施例4と同様にして微粉砕・分級、次いで炭化を行った。炭化品を1.6ton毎に試料採取し、 d002を測定した。結果を表2に示す。炭化品の d002の平均は、0.3494 [nm]、最大値と最小値との差は、0.0005[nm]であった。
【実施例6】
【0042】
実施例4の熱電対の指示値を1,400℃としたこと以外は、実施例4と同様にして炭化品
を得た。炭化品を1.6ton毎に試料採取し、 d002を測定した。結果を表2に示す。炭化品
の d002の平均は、0.3464[nm]、最大値と最小値との差は、0.0005[nm]であった。
【実施例7】
【0043】
キノリン可溶分100重量%のコールタールピッチ約12m3を、内容積20m3のベンチリアクターに仕込み、圧力約0.5Mpa、温度約500℃にて40時間保持することによりコークス12tonを得た。ウォーターカッター(最大吐出圧力:400Mpa、オリフィス径:0.3mm)を使用して、
リアクター内部からコークスを切り出した。切り出されたコークスをロールクラッシャーで直径10cm以下に破砕した。破砕物の水分量は5.1%であった。
【0044】
該破砕物11tonを、実施例1と同様にして乾燥処理し炭素質物10tonを得た。乾燥した炭素質物を2ton毎に試料採取し、水分含量および減量開始温度を測定した。結果を表1に示す。全ての測定点において、水分含量は0.2%以下、かつ減量開始温度は570℃以下であっ
た。
【0045】
次いで、乾燥した炭素質物約10tonを実施例1と同様に処理して、炭化品約8tonを得た
。炭化品を1.6ton毎に試料採取し、 d002を測定した。結果を表2に示す。炭化品の d002の平均は、0.3467[nm]、最大値と最小値との差は、0.0005[nm]であった。
【実施例8】
【0046】
実施例7の粗粉砕された炭素質物10tonを用いて、炭化と微粉砕・分級との順序を変え
たこと以外は、実施例7と同様にして微粉砕・分級、次いで炭化を行った。炭化品を1.6ton毎に試料採取し、 d002を測定した。結果を表2に示す。炭化品の d002の平均は、0.3468[nm]、最大値と最小値との差は、0.0005[nm]であった。
[比較例1]
実施例1と同様の炭素質物約11tonを乾燥機のドラム(長さ:20m、直径:1.8m)に連続的に送り込み、ドラムを回転させながら、高温の空気を送風した。ドラムの外表面をLPGバ
ーナーで加熱し、ドラム内表面の温度を約300℃に調節した。空気温度は送風機の出口に
おいて200℃、炭素質物の乾燥処理速度は1.3ton/hr・m2であった。乾燥した炭素質物を2ton毎に試料採取し、水分含量および減量開始温度を測定した。結果を表1に示す。水分含
量は、測定点10点中3点が0.5%を超える値を示した。また、減量開始温度は測定点10点中2点で600℃を超える値を示した。
【0047】
乾燥した炭素質物を実施例1と同様に処理して、炭化品約8tonを得た。炭化品を1.6ton毎に試料採取し、 d002を測定した。結果を表2に示す。炭化品の d002の平均は、0.3462[nm]、最大値と最小値との差は、0.0053[nm]であった。
[比較例2]
比較例1の粗粉砕された炭素質物10tonを用いて、炭化と微粉砕・分級との順序を変え
たこと以外は、比較例1と同様にして微粉砕・分級、次いで炭化を行った。炭化品を1.6ton毎に試料採取し、 d002を測定した。結果を表2に示す。炭化品の d002の平均は、0.3468[nm]、最大値と最小値との差は、0.0057[nm]であった。
[比較例3]
比較例1の炭化工程における胴体出口温度を600℃に設定したこと以外は、比較例1と
同様にして炭化品を得た。炭化品を1.6ton毎に試料採取し、 d002を測定した。結果を表
2に示す。炭化品の d002の平均は、0.3438[nm]、最大値と最小値との差は、0.0048[nm]
であった。
[比較例4]
比較例1の粗粉砕された炭素質物10tonを用いて、実施例4と同様にして炭化および微
粉砕・分級を行った。炭化品を1.6ton毎に試料採取し、 d002を測定した。結果を表2に
示す。炭化品の d002の平均は、0.3489[nm]、最大値と最小値との差は、0.0074[nm]であ
った。
[比較例5]
比較例1の粗粉砕された炭素質物10tonを用いて、実施例6と同様にして炭化および微
粉砕・分級を行った。炭化品を1.6ton毎に試料採取し、 d002を測定した。結果を表2に
示す。炭化品の d002の平均は、0.3460[nm]、最大値と最小値との差は、0.0077[nm]であ
った。
[比較例6]
実施例7の炭素質物に比較例1の乾燥処理を行い、実施例1と同様に処理して、炭化品8tonを得た。炭化品を1.6ton毎に試料採取し、 d002を測定した。結果を表2に示す。炭
化品の d002の平均は、0.3464[nm]、最大値と最小値との差は、0.0053[nm]であった。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の水分含量および減量開始温度が厳密に制御された炭素質物を用いて製造される炭化品は、(002)面の層間距離の分布が少ないため、リチウム二次電池用負極活物質およ
び電気二重層キャパシタ用活性炭などの原料として好適に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油系および/または石炭系重質油を熱処理して得られるコークスからなる炭素質物であって、該炭素質物中の水分含量が0.01%以上0.5%以下、かつ該炭素質物の空気中で測定
した熱重量分析から得られる減量開始温度が500℃以上600℃以下であることを特徴とする電極材料用炭素質物。
【請求項2】
150℃以下の空気を用いて乾燥処理を行ったものであることを特徴とする請求項1に記
載の電極材料用炭素質物。
【請求項3】
請求項1に記載の炭素質物を、平均粒径1μm以上30μm以下に粉砕した後、600℃以上1,400℃以下の温度で焼成するか、または600℃以上1,400℃以下の温度で焼成した後、平均
粒径1μm以上30μm以下に粉砕したことを特徴とする電極材料用低温焼成炭素粉末。
【請求項4】
請求項3に記載の低温焼成炭素粉末からなることを特徴とする蓄電装置用電極材料。
【請求項5】
請求項3に記載の低温焼成炭素粉末を、さらに賦活または黒鉛化して得られた炭素粉末からなることを特徴とする蓄電装置用電極材料。


【公開番号】特開2006−306666(P2006−306666A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132127(P2005−132127)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】