説明

電極組成物及び方法

コバルト、スズ、及び炭素を含有する活性材料を含む電極組成物を、同組成物の作製及び使用方法と共に提供する。また、提供する電極組成物を含む電極、提供する電極を含む電気化学電池、及び提供する電気化学電池を少なくとも1つ含むバッテリパックをも提供する。実施例によっては、組成物は鉄をも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は2007年10月24日出願の米国特許仮出願第60/982,295号、2008年6月20日出願の同第61/074,190号、及び2008年9月25日出願の米国特許出願第12/237,781号の優先権を主張するものである。
【0002】
(発明の分野)
本発明は電気化学電池ためのアノード組成物、結合剤を含む電極、並びに電極及び電池の作製方法に関する。
【背景技術】
【0003】
粉末状活性成分を高分子結合剤とともに混合することを伴うプロセスにおいてリチウムイオン電池用電極を製造するため、粉末状合金とカーボンブラックなどの導電性粉末とが使用されてきた。混合成分は、高分子結合剤用溶中の分散体として調製され、金属箔基材又は集電体上へと被覆される。得られた複合電極は、金属基材に付着した結合剤中に粉末状活性成分を含有する。
【0004】
金属及びグラファイト系リチウムイオン電池用電極の結合剤としては多種の高分子が利用されてきた。しかし、得られたセル内の第1サイクル不可逆容量損失は受け入れ難いほど大きい場合があり、例えば粉末金属材料系電極については300mAh/g以上である。
【0005】
リチウムイオン電池用の負極の作製にはスズとコバルトと炭素とを含む合金アノード材料が用いられてきた。これらの材料では、サイクルを繰り返した後にも容量を維持するために、合金中に大量(例えば10重量%超)の炭素を使用することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の事情に鑑み、出願者らは、第1サイクル容量損失(不可逆容量損失)の低減、繰り返しサイクル中における容量劣化の減少、及び大容積を実現する電極の必要性を認める。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、スズとコバルトと炭素との合金を含む活性材料を含有し、炭素の量が全活性材料の9.9重量パーセント(wt%)未満で1wt%超の、電極組成物を提供する。
【0008】
別の態様では、スズとコバルトと炭素との合金と、フッ素非含有結合剤若しくは芳香族結合剤又はこれらの組み合わせとを含む活性材料を含有し、活性材料量が約10wt%〜約30wt%の炭素を含み、かつスズと炭素との合計重量に対するコバルトの重量比が約0.3〜約0.7である、電極組成物を提供する。
【0009】
更に別の態様では、スズとコバルトと鉄と炭素との合金を含む活性材料を含有し、鉄の量が活性材料総量の5.9wt%超である、電極組成物を提供する。
【0010】
更に別の態様では、粉末炭素、粉末コバルト、及びコバルトとスズとを含有する粉末合金を含む複数の粉末成分をミリングすることを含む、合金の作製方法を提供する。粉末合金はCoSnを含有し得る。コバルトは合金内のコバルトのモル量と実質的に等しいモル量であってよい。
【0011】
また、これらの活性材料から作製された電極、得られた電極から作製された電気化学電池、及び本開示で提供される電気化学電池を少なくとも1つ含むバッテリパックをも提供する。
【0012】
提供される電極は、小粒子合金、特にスズとコバルトと炭素を含有する合金粉末系の充電式リチウムイオン電池のサイクル寿命を向上させることができる。開示される結合剤はまた、合金内の炭素の量が10重量パーセント(wt%)未満であっても、より大きな容量とより小さな不可逆容量を有する充電式リチウムイオン電池の製造を可能にすることができる。
【0013】
開示される電極組成物の作製方法は、負極の形成に有用な組成物を提供することができる。特に重要なのは、コバルト、スズ、炭素、及び所望により鉄を含有する、本開示で述べる方法によって作製される負極材料である。
【0014】
本明細書では、
「a」、「an」「the」は、「少なくとも1つの」と交換可能に使用されて、記載されている要素の1つ以上を意味する。
【0015】
「活性」は、リチオ化及び脱リチオ化を受けることができる材料についていう。
【0016】
「合金」は、少なくともその1つは金属である2種以上の要素のハイブリッドで、得られた材料が金属特性を備えるものをいう。
【0017】
「充電する」及び「充電」は、電気化学エネルギーを電池に供給するためのプロセスを指す。
【0018】
「脱リチオ化する」及び「脱リチオ化」は、リチウムを電極材料から除去するためのプロセスを指す。
【0019】
「放電」及び「放電している」は、例えば、セルを使用して所望の動作を実行するとき、電気化学エネルギーをセルから除去するためのプロセスを指す。
【0020】
「リチオ化する」及び「リチオ化」は、リチウムを電極材料に加えるためのプロセスを指す。
【0021】
「金属」は、元素又はイオンの状態であるかを問わず、金属及びシリコンなどの半金属の両方、並びに炭素を指す。
【0022】
「正極」は、そこで電気化学還元及びリチオ化が放電プロセス中に発生する電極(しばしばカソードと呼ばれる)を指す。
【0023】
「ナノ結晶相」は、約50ナノメートル(nm)以下のクリスタライトを有する層を指す。
【0024】
「負極」は、放電中に電気化学酸化及び脱リチオ化が発生する電極(しばしばアノードと呼ばれる)を指す。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1a】スパッタリングによって調製したSn36Co4123合金のX線回折(XRD)パターン。
【図1b】炭素粉末、コバルト粉末、及びCoSn合金粉末を出発物質として調製したSn30Co3040試料のXRDパターン。
【図1c】炭素粉末及びCoSn合金粉末から調製したSn30Co3040試料の回折パターン。
【図2a】図1a〜cの試料についての微分容量(dQ/dV)対電位(V)。
【図2b】図1a〜cの試料についての微分容量(dQ/dV)対電位(V)。
【図2c】図1a〜cの試料についての微分容量(dQ/dV)対電位(V)。
【図3】図1a〜c及び図2a〜cに記述した材料についての比容量(mAh/g)対サイクル数。
【図4】提供される電極組成物の実施形態のX線回折パターンを例示。
【図5】2つの実施形態及び1つの比較例のサイクル特性を例示。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、好ましい実施形態について説明する中で、本開示の説明の一部をなす添付の図面群を参照する。本発明の範囲又は趣旨を逸脱せずに、その他の実施形態が考えられ、実施され得ることを理解すべきである。したがって、以下の「発明を実施するための形態」は、限定する意味で理解すべきではない。
【0027】
他に指示がない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される形状、量、物理特性を表わす数字はすべて、どの場合においても用語「約」によって修飾されるものとして理解されるべきである。それ故に、そうでないことが示されない限り、前述の明細書及び添付の特許請求の範囲で示される数値パラメータは、当業者が本明細書で開示される教示内容を用いて、目標対象とする所望の特性に応じて、変化し得る近似値である。端点による数値範囲の使用には、その範囲内に含まれるすべての数(例えば1〜5には、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、及び5が包含される)及びその範囲内のあらゆる範囲が包含される。
【0028】
提供される電極組成物は、スズとコバルトと炭素との合金を含む活性材料を含有する。これらの組成物中のスズ、コバルト、及び炭素の量は大きく異なり得る。実施形態によっては、炭素の量は活性材料の総重量の9.9wt%未満である。別の実施形態では、活性材料は約10wt%〜約30wt%の炭素を含み、かつスズ及びコバルトの合計に対するコバルトの重量比が約0.3〜約0.7である。本開示の組成物の作製において、コバルト、スズ、及び炭素を別々に添加してもよいし、また、所望の電極組成物のコバルトの量がスズの量の0.5を超える場合には、例えばCoSnのようなスズとコバルトとの合金を炭素及び追加のコバルトと混合してもよい。開示の電極組成物の作製には炭素、例えば黒鉛状炭素粉末を用い得る。活性材料は粉末の形態であることが好ましい。リチウムイオン電池内で充電後は、電極組成物の活性材料はリチウムを含み得る。
【0029】
提供される電極組成物はまた、スズ、コバルト、炭素、及び鉄を含有する、活性材料を含み得る。鉄は組成物内の活性材料総量の5.9wt%超える量で組成物内に存在し得る。
【0030】
提供される組成物の活性材料は粉末を含み得る。代表的な粉末は、60μm以下、40μm以下又は20μm、又は更に小さい寸法での最大の長さを有する。粉末は、例えば、サブミクロンである、少なくとも1μm以下、少なくとも2μm、少なくとも5μm、少なくとも10μm又は更に長い最大の粒子直径を有する。例えば、好適な粉末の多くは最大寸法が約1μm〜約60μm、約10μm〜約60μm、約20μm〜約60μm、約40μm〜約60μm、約1μm〜約40μm、約2μm〜約40μm、約10μm〜約40μm、約5μm〜約20μm、又は約10μm〜約20μmである。
【0031】
代表的な粉末合金材料は、例えば、様々な前駆体構成成分を物理的に混合した後にミリングして材料を形成するなど、任意の既知の方法によって調製することができる。提供される合金材料はまた、合金フィルムのスパッタ蒸着によっても調製され得る。スパッタ蒸着された合金を次いで粉砕することで粉末とすることができる。導電コーティングが用いられる場合、電気メッキ、化学蒸着、真空蒸着又はスパッタリングなどを使用して導電コーティングを形成することができる。
【0032】
好適なミリングは垂直ボールミリング、水平ボールミリング又は当業者に既知の他のミリング技術などの様々な技術を使用することによって行うことができる。アトライターミルもまた、本開示に記載する材料の作製に用いることができる。このミリンプロセスは、アトライターミリングと呼ばれる。特に重要なのは、本開示において後に示す、コバルト、スズ、及び炭素を含む電極組成物の作製方法である。
【0033】
提供される電極組成物は、ナノ結晶性物質を含有することができる。ナノ結晶性物質は、典型的には、約5nm〜約50nmの最大クリスタライト寸法を有する。結晶寸法(crystalline size)は、シェラー方程式を使用してX線回折ピークの幅から決定することができる。狭いX線回折ピークは大きな結晶寸法(crystal sizes)に対応する。ナノ結晶性物質のX線回折ピークは典型的には、銅標的(すなわち銅Kα1線、銅Kα2線、又はこれらの組み合わせ)を用いた場合に、0.5度(2θ)超、1度(2θ)超、2度(2θ)超、3度(2θ)超、又は4度(2θ)超(ここで2θは10度〜80度の範囲)の半値幅を有し得る。提供される電極組成物はまた、アモルファスであってもよい。
【0034】
電極組成物は結合剤を含み得る。電極組成物が、スズとコバルトと炭素との合金でありかつ炭素の量が活性材料の総重量に対して9.9wt%未満でありかつ1%超の合金であり得る活性材料を含む場合には、結合剤は既知のいずれのものであってもよい。提供される電極に使用し得る結合剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリスチレン、カルボキシメチル、セルロース、リチウムポリ塩、又は当業者に周知のその他のものが挙げられる。特に有用な結合剤としては、1つ以上の有機酸基を含むポリマーが挙げられる。代表的なポリマーとしては、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスルホネート、ポリスチレンスルホネート、ポリホスホネート、ポリスルホネートフルオロポリマー、及びこれらに類するものを挙げることができる。酸性ポリマーは、それらの中和リチウム塩と同様、結合剤として有用であり得る。
【0035】
適用される結合剤は、リチウムポリ塩類を含み得る。リチウムポリ塩類としては、リチウムポリ(メタ)アクリレート類、リチウムポリスチレンスルホネート類、及びリチウムポリスルホネートフルオロポリマー類が挙げられる。リチウムポリ塩類は、対応するアクリル酸又はスルホン酸から、酸性基を塩基性リチウムによって中和することによって入手可能である。酸性基類を中和するためには、一般に水酸化リチウムが使用される。ナトリウムなどのその他カチオン類を、イオン交換によってリチウムと置き換えることもまた、本出願の範囲内である。例えば、ジアニオン(DIANION)(三菱化学株式会社(Mitsubishi Chemical)から入手可能)などのイオン交換樹脂を使用して、ナトリウムイオンをリチウムイオンと置換することができる。
【0036】
理論に束縛されるものではないが、リチウムポリ塩類は、粉末状活性材料を被覆し、そしてイオン導電性である層を形成させることができると考えられている。リチウムイオン電気化学電池は、リチウムイオン伝導度に依存するため、このことは、これらの結合剤を用いて作製した電極の寿命延長及び減退低減の能力を向上させる。更に、提供されたリチウムポリ塩類は、電気伝導が幾分維持されるように十分に薄く、粉末状活性材料を被覆すると考えられている。最後に、リチウムポリ塩類は、サイクルを繰り返した際に、リチウムイオン電極の早期故障に繋がることが当業者に知られている絶縁性のSEI(固体電解質界面)(solvent electrolyte interface)層の形成を抑制することができると考えられている。代表的なリチウムポリ塩類は、2008年1月24日出願の国際特許出願第PCT/US2008/051,388号に開示されている。
【0037】
実施形態によっては、提供される結合剤は、そこからポリ塩が誘導される酸の酸性基(末端又はペンダント基にある)のモル当量を基準にして、少なくとも約50モル%、少なくとも約60モル%、少なくとも約70モル%、少なくとも約80モル%、少なくとも約90モル%、又はそれ以上のリチウムを含む。中和可能な酸性基としては、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸及び任意のその他の酸性基(ポリマー上に一般的に見出される、置換のための1個のプロトンを有する)が挙げられる。本発明にて有用な市販材料の例としては、ペルフルオロスルホン酸ポリマー類、例えば、ナフィオン(NAPHION)(デュポン社(Dupont)(デラウェア州ウィルミントン(Wilmington))から入手可能)及び熱可塑性アイオノマーポリマー類、例えば、サーリン(SURLYN)(これもまたデュポン(Dupont)から入手可能)が挙げられる。その他関連する材料としては、米国特許第6,287,722号(バートンら)に記述されているようなポリイミドリチウムが挙げられる。
【0038】
リチウムポリアクリレートは、水酸化リチウムによって中和したポリ(アクリル酸)から生成することができる。本明細書では、ポリ(アクリル酸)はアクリル酸若しくはメタクリル酸若しくはこれらの誘導体の任意のポリマー又はコポリマーを包含し、少なくとも約50モル%、少なくとも約60モル%、少なくとも約70モル%、少なくとも約80モル%、又は少なくとも約90モル%のコポリマーがアクリル酸又はメタクリル酸を使用して製造される。これらのコポリマー類を形成させるために使用可能な有用なモノマー類としては、例えば、1〜12個の炭素原子を持つアルキル基(分枝又は非分枝)、アクリロニトリル類、アクリルアミド類、N−アルキルアクリルアミド類、N,N−ジアルキルアクリルアミド類、ヒドロキシルアルキルアクリレート類、マレイン酸、プロパンスルホネート類、などを有するアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル類が挙げられる。特に興味深いのは、特に、中和又は部分的中和後において水溶性であるアクリル酸又はメタクリル酸のポリマー類又はコポリマー類である。水溶性は典型的には、ポリマー若しくはコポリマー及び/又は組成物の分子量の関数である。ポリ(アクリル酸)は非常に水溶性が高く、有意なモル分率のアクリル酸を含有するコポリマーと一緒であるのが好ましい。ポリ(メタクリル)酸は、特に分子量が大きい場合、水溶性が低い。
【0039】
本発明において有用なアクリル酸及びメタクリル酸のホモポリマー類及びコポリマー類は、約10,000グラム/モル超、約75,000グラム/モル超、あるいは約450,000グラム/モル超、更にはより大きい分子量(M)を有することができる。本発明にて有用なホモポリマー類及びコポリマーは、約3,000,000グラム/モル未満、約500,000グラム/モル未満、約450,000グラム/モル未満、あるいはより小さい分子量(M)を有する。ポリマー類又はコポリマー類上のカルボン酸酸性基(Carboxylic acidic groups)は、ポリマー類又はコポリマー類を水又は別の好適な溶媒、例えば、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド又は水と混和性の、その他の双極性非プロトン性溶媒の1種以上中に溶解させることによって中和することができる。ポリマー類又はコポリマー類上のカルボン酸基(アクリル酸又はメタクリル酸)水酸化リチウム水溶液にて滴定することができる。例えば、ポリ(アクリル酸)34重量%水溶液は、水酸化リチウム20重量%水溶液による滴定によって中和することができる。通常は、モル基準で、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、107%以上のカルボン酸基が、リチオ化される(水酸化リチウムで中和される)。100%超のカルボン酸基が中和される場合、これは、十分な水酸化リチウムがポリマー又はコポリマーへ添加されて、存在する過剰水酸化リチウムによって、すべての基が中和されることを意味する。リチウムポリアクリレート結合剤は、例えば2007年2月6日出願の米国特許出願第11/671,601号(ル(Le))に開示されている。
【0040】
リチウムポリスルホネートフルオロポリマー類は、対応するポリスルホン酸フルオロポリマー類から、ポリスルホン酸フルオロポリマー類を水酸化リチウムなどの塩基で中和することによって作製することができる。ポリマー上のスルホン酸基は、水酸化リチウム水溶液にて滴定することができる。例えば、ポリスルホン酸フルオロポリマー8.8%の水溶液は、水酸化リチウム20重量%の水溶液による滴定によって中和することができる。通常は、モル基準で、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上又はすべてのスルホン酸基が、リチオ化される(水酸化リチウムで中和される)。
【0041】
本願において、ポリスルホネートフルオロポリマー類としては、スルホン酸基で終端処理されたペンダント基を有するフルオロポリマー類が挙げられる。ポリスルホネートフルオロポリマーは、高度にフッ素化された主鎖及びペンダント基で、ペンダント基がを含むポリスルホン酸フルオロポリマー類より誘導され得る。ここで、ペンダント基は、
HOS−(CFR(CFR−Z−(CFR(CFR−Z
式中、a、b、c及びdのそれぞれは、独立して0〜3の範囲であり、c+dは少なくとも1であり、Z及びZは酸素原子又は単結合であり、かつ各Rは独立して、Fであるか又は実質的にフッ素化されているかのいずれかの、分枝又は非分枝の、1〜15個の炭素原子及び0〜4個の酸素原子をフルオロアルキル、フルオロアルコキシ又はフルオロエーテル鎖内に含有する、フルオロアルキル、フルオロアルコキシ又はフルオロエーテル基である。好適なペンダント基の例には、−OCFCF(CF)OCFCFSOH、−O(CFSOH、及びこれらの組合わせが挙げられる。
【0042】
フルオロポリマーの主鎖若しくはペンダント基又はその両方は、実質的に又は完全にフッ素化(ペルフルオロ化)することができる。実質的にフッ素化された主鎖又はペンダント基は、鎖の全体重量を基準にして、約40重量%以上のフッ素を含む。フルオロポリマーはまた、式−SOHを有するスルホニル末端基など、1つ以上の酸性末端基を含むことができる。一実施態様では、フルオロポリマーの主鎖は、ペルフルオロ化されている。その他、提供される組成物の実施形態に有用であり得る好適なポリスルホネートフルオロポリマーは、米国特許第6,287,722号(バートン(Burton)ら)、同第6,624,328号(グエッラ(Guerra))、及び米国特許出願第2004/0116742号(グエッラ(Guerra))並びに出願人の同時継続中の米国特許出願第10/530,090号(ハムロック(Hamrock)ら)を参照されたい。提供される組成物のいくつかの実施形態において有用な他の材料としては、テトラフルオロエチレン(TFE)のコポリマー類及び式FSO−CF−CF−O−CF(CF)−CF−O−CF=CFに従うコモノマーから誘導されるリチウムポリスルホネートフルオロポリマー類が挙げられる。これらは既知であり、かつスルホン酸の形で、すなわち、加水分解されてHSO−となるFSO−末端基を有するものとして販売されている。このような代表的材料の一例はデラウエア州ウィルミントンのデュポン化学社(DuPont Chemical Company)から入手可能なナフィオン(NAPHION)である。
【0043】
米国特許第4,358,545号及び同第4,417,969号(ともにエゼル(Ezell)ら)は、約22,000未満で、当量800〜1500の水和物を有するポリマー及びそのイオン交換膜を開示し、これは、実質的にフッ素化された主鎖及び式YSO−(CFRc(CFR−O−主鎖に従うペンダント基を有し、式中、Yは水素又はアルカリ金属であり、R及びRは実質的にフッ素化されたアルキル基であり、cは0〜3であり、dは0〜3であり、c+dは少なくとも1である。これら材料を使用して、(中和によって)提供される組成物及び方法のいくつかの実施形態にて有用なリチウムポリスルホネートフルオロポリマー類を誘導することができる。
【0044】
リチウムポリスチレンスルホネート類は、対応するポリスチレンスルホン酸類から、ポリスチレンスルホン酸類を水酸化リチウムなどの塩基で中和することによって作製することができる。ポリマー上のスルホン酸基は、水酸化リチウム水溶液にて滴定することができる。例えば、ポリスチレンスルホン酸5%の水溶液は、水酸化リチウム20重量%の水溶液による滴定によって中和することができる。通常は、モル基準で、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上又はすべてのスルホン酸基が、水酸化リチウムによって中和される。あるいは、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムは、ポリサイエンス社(Polysciences, Inc.)(ペンシルベニア州ウォリントン(Warrington))から、分子量70,000及び500,000の溶液として入手可能であり、そしてナトリウムは、リチウムを充填したカチオン交換樹脂を通過させることで、リチウムと交換することが可能である。分子量が約10,000〜約2,000,000のポリスチレンスルホネート類が提供される結合剤に有用であり得る。提供されたポリスチレンスルホネート類としては、スチレンスルホン酸のポリマー類又はコポリマー類が挙げられる。ほとんどの場合、スチレン部分のベンゼン環上には、1個のスルホン酸基が存在し得る。通常、それは環のパラ位又は3−位であり得る。スチレンのベンゼン環は更に、約1個〜約6個の炭素原子を含有する分枝又は非分枝の、アルキル又はアルコキシ基を含むその他の基で置換され得るが、これらに限定するものではない。加えて、置換基が実質的にスルホン酸基の酸性度を阻害しない限り、その他の置換が可能である。
【0045】
結合剤として有用であり得るスルホン化ポリマー類としては、ポリ(スルホン酸アリール類)例えば、ポリスチレンスルホネート、スチレンスルホネートのコポリマー類、例えばスチレンスルホネートと無水マレイン酸とのコポリマー、アクリルアミドと2−メチル−1−プロパンスルホネートとのコポリマー類、ビニルスルホネート類のホモポリマー類及びコポリマー類、アリルスルホネート類のホモポリマー類及びコポリマー類、並びにアルキルビニルベンゼンスルホネート類のホモポリマー類及びコポリマー類が挙げられる。提供される結合剤に有用な可能性のある他のポリマーは、米国特許第5,508,135号(レレンタル(Lelental)ら)を参照されたい。
【0046】
別の実施形態では、合金負極組成物のためのポリアクリロニトリル系結合剤を提供する。ポリアクリロニトリル(PAN)は200℃〜300℃の温度の空気中で反応して、「ブラックオーロン」として知られるリボン状のポリマー炭素を形成することが知られている。スキーム(I)はポリアクリロニトリル(PAN)の熱化学を示す。
【0047】
【化1】

【0048】
ブラックオーロンは、非常に良好な熱的及び機械的安定性を有するラダーポリマーである。ブラックオーロンを結合剤として使用して組み立てた電極は、ポリイミド(PI)を用いて作製したものと同様の電気化学的性能を有した。
【0049】
別の実施形態では、不活性雰囲気中、200℃超の温度で硬化する有機ポリマー類及び単純有機物質を含む、結合剤を提供する。これには米国特許第7,150,770号及び同第7,170,771号(ともにキーパー(Keipert)ら)に記載のもののようなフェノール樹脂及びグルコースなどの分子が挙げられる。
【0050】
電極組成物がスズとコバルトと炭素との合金を含む活性材料を含有する場合、結合剤はフッ素非含有結合剤であってもよい。フッ素非含有結合剤とは、主鎖構成成分として又は置換基としてフッ素を含まない、結合剤として用いられる任意の材料である。フッ素非含有結合剤の代表例には、ポリイミド、カルボキシメチル、セルロース、リチウムポリスルホネート、フェノール樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、リチウムポリアクリレート、及びこれらに類するものが挙げられる。あるいは、電極組成物は芳香族結合剤を含み得る。芳香族結合剤とは、芳香族部分を含む結合剤を意味する。芳香族結合剤はフッ素を含んでも含まなくてもよい。代表的な芳香族結合剤には、ポリフルオロスルホネート及びそのリチウム塩、ポリイミド、フェノール樹脂、並びにこれらに類するものが挙げられる。
【0051】
提供された結合剤は、その他の高分子材料と混合して、材料のブレンドを作製することができる。これは、例えば、結合剤の、接着性を向上させるために、伝導性を向上させるために、熱的特性を変化させるために、あるいは、他の物理的性質に影響を与えるために実施してよい。
【0052】
電極を製造するために、活性組成物と、添加剤(例えば、結合剤、導電性希釈剤、充填剤、付着促進剤、カルボキシメチルセルロースのようなコーティング粘度を変化させるための増粘剤など)、及び当業者に既知である他の添加剤とを、水又はN−メチルピロリドン(NMP)のような、好適なコーティング溶媒中で混合して、コーティング分散液又はコーティング混合物を形成する。分散液を十分に混合し、次いでナイフコーティング、切欠き棒コーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、電気スプレーコーティング、又はグラビアコーティングのような任意の適切なコーティング技術により、箔集電体に塗布する。集電体は典型的に、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス鋼又はニッケル箔などの導電金属の薄箔である。スラリーを集電体の箔上にコーティングして、次に空気中で乾燥させ、続いて、通常典型的には、約80℃〜約300℃の加熱オーブン内で約1時間乾燥させることにより、溶媒をすべて取り除く。
【0053】
提供される電気化学電池には電解質が必要である。種々の電解質が使用可能である。代表的な電解質は、1種類以上のリチウム塩類及び固体、液体又はゲルの形態の電荷担持媒体を含有し得る。代表的リチウム塩は、セル電極が稼動する電気化学的帯域及び温度範囲(例えば、約−30℃〜約70℃)内において安定しており、選択した電荷担持媒体に可溶で、選択したリチウムイオン電池内で良好に機能することができる。代表的なリチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、リチウムビス(オキサラト)ボレート、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiAsF、LiC(CFSO、及びこれらの組み合わせが挙げられる。代表的な電解質は、セル電極が稼動できる電気化学的窓及び温度範囲内において、凍結又は沸騰することなく安定であり、好適な量の電荷を正極から負極へ運搬することができるように十分な量のリチウム塩を可溶化することができ、選択されたリチウムイオンセル内で良好に機能する。代表的な固体電解質としては、ポリエチレンオキシド、フッ素含有コポリマー、ポリアクリロニトリル、これらの組み合わせ、及び当業者によく知られる他の固体媒体のような高分子媒体を挙げることができる。代表的な液体電解質には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルーメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピレンカーボネート、γ−ブチルロラクトン、ジフルオロ酢酸メチル、ジフルオロ酢酸エチル、ジメトキシエタン、ジグリム(ビス(2−メトキシエチル)エーテル)、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、これらの組み合わせ、及び当業者に周知である他の媒質が挙げられる。代表的な電解質ゲルとしては、米国特許第6,387,570号(ナカムラ(Nakamura)ら)及び同第6,780,544号(ノー(Noh))に記載されているものが挙げられる。電解質の可溶化力は、好適な共溶媒を添加することを通して改善し得る。例示的な共溶媒には、選択された電解質を含有するLiイオンセルと適合性のある芳香族物質が挙げられる。代表的な共溶媒としては、スルホラン、ジメトキシエタン、これらの組み合わせ、及び当業者に周知のその他の共溶媒が挙げられる。電解質は、当業者に周知の他の添加剤を含むことができる。例えば電解質は、米国特許第5,709,968号(シミズ(Shimizu))、同第5,763,119号(アダチ(Adachi))、同第5,536,599号(アラムガー(Alamgir)ら)、同第5,858,573号((エイブラハム(Abraham)ら)、同第5,882,812号(ヴィスコ(Visco)ら)、同第6,004,698号(リチャードソン(Richardson)ら)、同第6,045,952号(カー(Kerr)ら)、及び同第6,387,571(B1)号(レイン(Lain)ら)、並びに米国特許公開第2005/0221168(A1)号、同第2005/0221196(A1)号、同第2006/0263696(A1)号及び同第2006/0263697号(A1)号(すべてダーン(Dahn)ら)に記載されているもののようなレドックス化学シャトル(redox chemical shuttle)を含有することができる。
【0054】
電極組成物は、当業者に周知であるものなどの添加剤を含有することができる。電極組成物は、組成物から集電体への電子移動を促進するための導電性希釈剤を含むことができる。スズ、コバルト、及び炭素を含む電極組成物に導電性希釈剤を添加することで、組成物の集電体との接触を増強することができる。導電性希釈剤としては、炭素(例えば、負極用カーボンブラック、並びに正極用のカーボンブラック及び一次黒鉛等)、金属、金属窒化物、金属炭化物、金属ケイ化物及び金属ホウ化物が挙げられるが、これらに限定されない。代表的導電性炭素希釈剤としては、スーパーP及びスーパーSカーボンブラック(ともにMMMカーボン社(MMM Carbon)、ベルギー)のようなカーボンブラック、シャワニガンブラック(SHAWANIGAN BLACK)(シェヴロン・ケミカル社(Chevron Chemical Co.)、テキサス州ヒューストン(Houston))、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、グラファイト、炭素繊維及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0055】
電極組成物は、組成物及び/又は導電性希釈剤の結合剤への接着性を促進する接着促進剤を含むことができる。接着促進剤と結合剤とを組み合わせることで、リチウム化/脱リチウム化のサイクルの繰返し中に、組成物内に発生することがある体積変化に、電極組成物が適応しやすくすることができる。結合剤は金属及び合金に十分に良好な接着性をもたらし、したがって接着促進剤の添加を必要としないこともあり得る。接着促進剤は、使用する場合、結合剤の一部とすることもでき(例えば追加的な官能基の形態で)、組成物上の被覆とすることもでき、導電性希釈剤に加えることもでき、又はこのような手段の組み合わせとすることもできる。接着促進剤の例としては、米国特許出願公開第2004/0058240号(クリステンセン(Christensen))に記載されているようなシラン、チタン酸塩、及びホスホネートが挙げられる。
【0056】
提供される電気化学電池は、正極及び負極をそれぞれ少なくとも1つずつ前述したように作製し、かつそれらを電解質内に配置することによって作製される。典型的には、微多孔性セパレータ、例えば、セルガード(CELGARD)2400微多孔性材料(セルガード社(Celgard Corp.)、ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte)から入手可能)を使用して、負極が正極に直接接触するのを防止することができる。
【0057】
提供される電気化学電池において有用な正極には、例えば、LiV、LiV、LiCo0.2Ni0.8、LiNiO、LiFePO、LiMnPO、LiCoPO、LiMn、及びLiCoOのようなリチウム遷移金属酸化物、米国特許第6,964,828号及び同第7,078,128号(ルー(Lu)ら)に記載されているもののようなコバルト、マンガン、及びニッケルの混合金属酸化物カソード組成物、並びに米国特許第6,680,145号(オブロヴァツ(Obrovac)ら)に記載されているもののようなナノコンポジットカソード組成物を含有し得る。
【0058】
本開示によって提供される組成物を含む負極を備えた電気化学電池は、100サイクルの充電/放電後に250mAh/g超、350mAh/g超、又は更に450mAh/g超の比容量を有し得る。提供される電池はまた、周知の電池より低い不可逆容量損失及び少ない容量低減を呈し得る。本開示によって提供される負極を備えて作製された電気化学電池は、携帯型コンピュータ、タブレット型表示器、携帯情報端末、携帯電話、モータ駆動装置(例えば、個人用又は家庭用機器及び乗り物)、機器、照明装置(例えば、懐中電灯)、及び加熱装置をはじめとする種々のデバイスに使用することができる。提供される組成物を含有する負極を備えて作製された電気化学電池の1つ以上を組み合わせて、バッテリパックを提供することができる。充電式リチウムイオン電池及び電池パックの構成及び用途に関する更なる詳細は、当業者に周知である。
【0059】
更に別の態様では、炭素粉末、コバルト粉末、及びコバルトとスズとを含有する粉末合金を含む複数の粉末成分をミリングすることを含む、スズとコバルトと炭素とを含有する合金の作製方法を提供する。コバルトとスズとを含有する合金は、例えば元素スズ及び元素コバルトのアーク溶解により作製し得る。コバルトとスズとを含有する合金には更にアニーリングが施される。アニーリングは、例えば、コバルトとスズとを含有する合金をアルゴン気流中、500℃で24時間加熱後、アルゴン気流中、900℃で12時間加熱することにより達成し得る。コバルトとスズとを含有する合金は更にミリングにより粉砕して粉末とすることができる。コバルトとスズとを含有する合金で高い有用性を有し得るものとしては、例えばCoSn及びCoSnを挙げ得る。
【0060】
コバルト及び炭素をコバルトとスズとの合金に添加し、高エネルギーボールミル又は好ましくはアトライターミルによってミリングした場合、単にコバルト、スズ、及び炭素を混合しミリングすることによって得られる材料に比較して、低い不可逆容量及び安定なサイクル特性といった優れた特性を備えた電極材料が作製できることが見出されている。
【0061】
一実施形態では、実施例の項で詳述するように、2つの異なる出発物質CoSn及びCoSnを用いて、式Sn30Co3040の材料が作製された。加えて、式Sn36Co4123を有するコバルトとスズと炭素との合金のスパッタ試料を作製した。別の実施形態では、表1に示すように、鉄、コバルト、スズ、及び炭素を含有する処方を作製した。
【0062】
本発明の目的及び利点は、下記の実施例によって更に例示されるが、これらの実施例において列挙された特定の材料及びその量は、他の諸条件及び詳細と同様に本発明を過度に制限するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0063】
ポリ(アクリル酸)(LiOHで中和されたPAA)溶液の調製
出発物質A:LiOHO(シグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)社)15.258gを、電磁攪拌器を使用して蒸留水137.610gと混合した。形成されたLiOHO溶液は、9.98重量%LiOHであった。
【0064】
出発物質B:25重量%PAA溶液(アルファ・エイサー(Alfa Aesar)、M240,000)。材料A128.457gを材料B88.045g中へ添加した。混合物を一晩撹拌した。形成された溶液は11重量%PAA(100%Li塩−酸はすべて中和済み)結合剤溶液であった。この溶液に水を加えて希釈し8重量%PAAとした。
【0065】
Co−Sn−C試料の調製
Sn30Co3040試料を垂直軸アトライターミリング(オハイオ州アクロン(Akron)のユニオンプロセス(Union Process)から入手可能な01−HDアトライター使用)により機械的に合金化した。代表的な試料はCoSn、Co(シグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)社、<150μm、99.9+%)、CoSn合金、及びグラファイト(フルカ(Fluka)社より入手可能なグラファイト純粉末)出発物質より調製したが、比較例1つは、CoSn及びグラファイトから垂直軸アトライターミルにより調整した。CoSn及びCoSnの両方を元素Sn(シグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)社、<150μm、99.5%)及びCoからアーク溶解し、次いでそれぞれ、アルゴン気流中、500℃で24時間、及びアルゴン気流中、900℃で12時間のアニーリングを行った。アニーリングした材料を乳鉢と乳棒を使用した手作業により粉砕して粉末にした。
【0066】
垂直アトライターミル内で8.0グラムの反応物質装薬を用いた。直径0.67cmのステンレス鋼球約1400個を、反応物質とともに700mLステンレス鋼のアトライターミル缶に装填した。アトライターミル缶は水冷ジャケット内に取り付け、ミリングの間中、約20℃に維持した。缶には密閉カバーを備えられたが、同カバーを通して回転軸が突出する。軸は封止し、ベアリングは気密を長期にわたって保つ封止を提供するために社内で修正した。回転軸は8つのミキシングアームを有し、このアームがボールと反応物質装薬を勢いよく撹拌した。これらの例について、軸の角速度は毎分700回転(RPM)に設定した。アトライターミリングのミリング時間は4、8、12、及び16時間とした。アトライターミル缶の粉末の取り扱い及び充填はアルゴン気流を満たしたグローブボックス内で行った。
【0067】
V3−Tスパッタ蒸着装置(カナダ国ブリティッシュコロンビア州バンクーバー(Vancouver)のコロナバキュームシステムズ(Corona Vacuum Systems)社より入手可能)を使用して、スパッタSn36Co4123(電子マイクロプローブ解析により決定された組成)を作製した。スパッタリング前の基準圧力は約1.33×10−5Pa(1×10−7トール)に達した。蒸着はグラファイト及びCoSn(モル比50:50)標的を用いて、アルゴンガス中、約0.266Pa(2.0mミリトール)で行った。グラファイト標的(直径〜50mm、厚さ〜6mm、純度99.999%)はペンシルベニア州ピッツバーグ(Pittsburgh)のカート・J・レスカー(Kurt J. Lesker)から取得した。Co50Sn50標的はコバルトとスズ粉末の化学量論的混合物をアーク溶解し、次いでアルゴン中で標的型に注入することによって調製した。得られた標的ディスクを次いで直径50mm、厚さ6mmまで研削した。
【0068】
スパッタリングのための基材は直径40cmの回転テープル上に取り付けた。テーブルはグラファイト及びCoSn標的を順次、約15rpmで通過し、確実に炭素とCoSnの準単分子層コーティングが順次基材に施されるようにした。このようにしたのは、ナノ構造化又はアモルファス材料の調製を目的とし、要素の可能な限り緊密な混合を確実にするためである。使用した手順は、組み合わせライブラリに代えてここではスパッタリングテーブル全体にわたって一定の組成物を作製したことを除けば、A.D.W.Todd,et.al.,J.Electrochem.Soc.,154,A597(2007)でSn−Co−Cスパッタ試料を作成するために用いられたものと同様である。これはスパッタリング標的についてのJ.R.Dahn,et al.,Chemistry of Materials,14,3519(2002)に記述されたような一定マスクを使用することで達成された。スパッタリングは7時間持続し、フィルムの全厚さ約1.5μmを得た。材料は、1)コイン電池電極用及び単位面積当たり質量データ用として、あらかじめ秤量したCuディスク上、2)電子マイクロプローブ分析及びX線回折測定用のSiウェハ片(100個)上、並びに3)25μm厚さのポリスチレンフィルムの大面積上にスパッタした。ポリスチレン上のスパッタ材料はポリスチレンをトルエンに溶解させ、トルエン中に得られた粉末を6回すすぐことによって粉末に加工した。回収されたスパッタ粉末は機械的ミリング又はアトライターミリングから得られた粉末と全く同様にコイン電池用に用いた。
【0069】
Co−Sn−Fe−C試料の調製
鉄粉末及びスズ粉末をモル比1:2(Fe:Sn)でアークオーブンにて溶解させ、FeSn試料を調製した。FeSn試料をチューブ炉内にて490℃で70時間、アルゴン雰囲気中で加熱した。アニーリング後のFeSn試料を粉砕して粉末にした。粉砕したFeSn試料を300μmのふるいにかけて大きな粒子を取り除いた。様々な量のCoSn、FeSn、Fe、Co、及びグラファイト粉末をミリングしてCo−Sn−Fe−C合金を調製した。これらの合金は、ユニオンプロセス(Union Process)01−HDアトライター処理装置(オハイオ州アクロン(Akron)のユニオンプロセス社(Union Process Inc.))を用いて調製した。各試料について、総量25gの粉末を好適な比率でステンレススチールのアトライター容器に、1400個のステンレス鋼球(直径6.35mm)とともに配置した。この操作はアルゴン雰囲気中で行った。ミルは700RPMの設定で16時間実施した。表1に実施例3〜11及び比較例Aのモル比を列挙する。
【0070】
【表1】

【0071】
電極の調製
電極としては、重量対重量比で、ミリング又はスパッタした粉末80%、スーパーエス(Super-S)カーボンブラック(MMMカーボン(MMM Carbon)社、ベルギー)12%、及びLi−PAA結合剤8%をCu箔上に塗布した。電極は90℃で一晩乾燥させてから使用した。Cu箔上に直接残されたスパッタフィルムの場合はこのステップは明らかに不要であり、そのまま使用に供された。電解液(エチレンカーボネート(EC)及びジエチレンカーボネート(DEC)(重量比1:2)(ルイジアナ州ザカリー(Zachary)のフェロケミカルズ(Ferro Chemicals)社より入手可能)90重量%、並びにフルオロエチレンカーボネート(FEC)(中国福建省(Fujian)の福建Chuangxin科学技術開発(Fujian Chuangxin Science and Technology Development, Ltd.)より入手可能)10重量%中に1モルのLiPF)100μLを混合し電解質として用いた。2325−コインセル用途に、電極被覆からディスク(16mm直径)を切り出した。各2325セルは、スペーサーとしての直径18mmの銅ディスク(900μm(36ミル)厚)、直径18mmの合金電極ディスク、1個の直径20mm微多孔性セパレータ(セルガード(CELGARD)2400、セパレーション・プロダクツ(Separation Products)、ヘキスト・セラニーズ社(Hoechst Celanese Corp.)、ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte))、直径18mmリチウム(0.38mm厚リチウムリボン、アルドリッチ・ケミカルズ(Aldrich Chemicals)、ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee))、及び直径18mm銅スペーサー(600μm厚)を収容した。コインセルの組み立てはアルゴンを満たしたグローブボックス中で行った。
【0072】
実施例1〜11及び比較例Aの材料を用いたコインセルを、アノード及びリチウム箔ディスクの直径が12.7mmであることを除けば上述したと同様に作製した。
【0073】
電気化学試験プロトコル
全セルについて同じ電気化学試験プロトコルを用いた。各Sn原子につき4.4Li、また各C原子につき0.5LiとしてSn及びCのみが活性であると推定し、ミリングした材料の理論的容量(707mAh/g)又はスパッタ材料の理論的容量(661mAh/g)を算出した。組み立て後、コインセルを開回路(2.7V近く)から0.005Vに放電した。その後、電位を2.5Vまで上昇させてから、再び0.005Vへと下降させた。これを、予想される理論的容量から前もって算出したように、C/10レートで全2サイクル行った。2サイクル終了後のセルについて、C/5レートで0.005V〜1.2Vの放電−充電を多数サイクル行った。
【0074】
上述した3つの合成法による粉末を、Cu標的X線管及び回折ビームモノクロメータを備えたシーメンス(Siemens)D−5000回折計を用いて観察した。0.05度刻みで10度から90度まで、5秒/ポイントで各X線走査を行った。
【0075】
図1a〜cは最も著しくナノ構造化した材料(アトライター−16時間)をX線の観点からスパッタ粉末と対比して示す。図1aはSスパッタSn36Co4123試料(実施例1)の回折パターンを示し、図1bはアトライターミルで調製したSn30Co3040試料(実施例2)のパターンを示す。各試料の化学量論が幾分異なっているにもかかわらず、図1a及び1bの回折パターンは極めて類似していることは明らかで、両者とも32度及び43度付近になだらかな山を有する。図1cは、CnSnの代わりに結晶相CoSnを出発物質として用いた他は、図1bに示す試料と同様の条件においてアトライターミルで調製された試料の回折パターンを示す。CoSn及びグラファイトを出発物質として用いた場合、16時間のミリングの後でもなお、CoSnによるブラッグピークがを観察することができる。しかしながら、32度及び43度にある2つのなだらかな山もなお、図1cにおいて観察される。これらの結果は、出発物質の選択は、垂直軸アトライターミルによって高度にナノ構造化された生成物を得るために要する時間に関与するということを示している。
【0076】
図2a〜cは、図1a〜cで述べた3試料についてサイクル3及びサイクル40で測定した微分容量(dQ/dV)対電位(V)を示す。データはC/5レートで0.005〜1.2Vの範囲で収集した。図2aで述べたスパッタ粉末は滑らかで特徴に乏しいdQ/dVパターンを示しているが、これはJ.R.Dahn et al.,J.Electrochem.Soc.,153,A361(2006)のデータとよく一致している。アトライターミルにより作製された試料はdQ/dV対Vにおいてより顕著な構造を示し、このことは、(無秩序な炭素から分離された)より大きなナノ構造化されたCoSn領域から、より大きなスズ領域が形成されていることを示唆している。微分容量対電位は、3試料のすべてについて、40サイクルにわたり不変であり、このことは容量保持が極めて優れていることを示唆している。
【0077】
図3はSn30Co3040試料(実施例2)から作製されたコイン電池について比容量(mAh/g)保持対サイクル数を示す。CoSn2、Co、及びCをミリングすることによって1つの試料を作成した。その他の試料はCoSnをCとともにミリングすることにより作製した。試料の作製に用いた方法により異なる比容量を有する材料が生成されたが、図3に示すように、両試料とも100サイクルに至るまで極めて優れた容量保持を有している。
【0078】
図3はまた、CoSn、Co、及びグラファイトを16時間アトライターミリングすることにより調製したSn30Co3040試料(実施例2)について、初期段階のサイクルで470mAh/g(0.005V〜1.2V、C/5)であった比容量がサイクル100までにはわずかに低下し450mAh/gとなったことをも示している。この材料の理論的容量は707mAh/gである。対照的に、同様のミリング条件でCoSn及びグラファイトから調製されたSn30Co3040試料は300mAh/g近くであった初期比容量が100サイクルの後では約270まで低下した。
【0079】
図4は実施例2(Sn−Co−C)、実施例3〜11(Sn−Co−Fe−C)、及び比較例12(Sn−Fe−C)の室温におけるX線回折パターンを例示している。実施例2の回折パターンにおける2つのなだらかな山は、FeSn及び/又はCoSnのブラッグピークに関連した特徴とともに、実施例3〜11及び比較例Aの全回折パターンを通じて観察される。比較例Aの回折パターンはFeSnのブラッグピークを示している。Feカーバイド、結晶性鉄、その他のFe−Snブラッグピークは実施例2〜11及び比較例Aの回折パターンのいずれにおいても観察されなかった。
【0080】
得られたコイン電池バッテリについてサイクル特性を測定した。図5は、3つの調製試料、すなわち実施例2、7及び比較例Aのコイン電池について比容量対サイクル数を示す。コイン電池は、すべてのスズ原子及びすべての炭素原子が1原子当たりそれぞれ4.4及び0.5リチウムと反応するとの仮定の下、予想される理論的容量からあらかじめ算定したように、C/10レートの一定電流で開回路から0.005Vまで放電した。実施例2、7及び比較例Aの予想される理論的容量はそれぞれ701、707、及び713mAh/gである。その後、電位を2.5Vまで上昇させてから、再び0.005Vへと下降させた。これをC/10レートの一定電流を用いて全2サイクル行った。この最初の2サイクルの後、C/5レートの一定電流を用い、0.005V〜1.2Vの範囲でコイン電池の放電−充電を98サイクルまで行った。
【0081】
本発明の多数の実施形態を記載してきた。それでもなお、様々な修正が、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなくなされ得ることは理解されよう。したがって、その他の実施形態も、以下の特許請求の範囲の範疇にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズとコバルトと炭素との合金を含む活性材料を含み、
炭素量が全活性材料の9.9重量パーセント(wt%)未満かつ1wt%超である、電極組成物。
【請求項2】
リチウムポリアクリレートを含む結合剤を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
リチウムを更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
活性材料がインジウム、ニオビウム、シリコン、鉛、銀、亜鉛、鉄、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウム、ビスマス、及びこれらの組み合わせから選択された物質を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
活性材料が粉末を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
粉末が50nm未満の最大クルスタライト寸法を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
スズとコバルトと炭素との合金を含む活性材料と、
フッ素非含有結合剤若しくは芳香族の結合剤、又はこれらの組み合わせと、を含み、
活性材料量が、約10wt%〜約30wt%の炭素を含み、かつスズ及び炭素の合計重量に対するコバルトの重量比が約0.3〜約0.7である、電極組成物。
【請求項8】
結合剤がリチウムポリアクリレートを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
リチウムポリアクリレートが10,000グラム/モル〜3,000,000グラム/モルの分子量を有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
リチウムポリアクリレートが75,000グラム/モル〜500,000グラム/モルの分子量を有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
スズとコバルトと鉄と炭素との合金を含み、鉄の量が活性材料総量の5.9wt%超である活性材料を含む、電極組成物。
【請求項12】
集電体と、
請求項1〜11のいずれか1項に記載の電極組成物と、を含む電極。
【請求項13】
導電性希釈剤を更に含む、請求項12に記載の電極。
【請求項14】
正極と、
請求項12又は13に記載の負極と、
電解質と、を含む電気化学電池。
【請求項15】
請求項14に記載の電池を少なくとも1つ含む、バッテリパック。
【請求項16】
粉末炭素、粉末コバルト、及びコバルトとスズとを含有する粉末合金を含む、複数の成分を共にミリングすることを含み、
粉末合金がCoSnを含む、合金の作製方法。
【請求項17】
コバルトを、合金中のコバルトのモル量と実質的に等しいモル量で提供する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ミリングがアトライターミルを用いることを含む、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
ミリングを少なくとも12時間行う、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ミリングした合金を少なくとも500℃の温度でアニーリングすることを更に含む、請求項16に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−502335(P2011−502335A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531159(P2010−531159)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【国際出願番号】PCT/US2008/080573
【国際公開番号】WO2009/055352
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【出願人】(309038971)
【Fターム(参考)】