説明

電気めっき装置

【課題】めっき槽内のめっき液を完全にドレーン排出できるようにするとともに、ウエハの全面を有効利用する。又、常に新鮮なめっき液をウエハ表面に供給できるようにする。
【解決手段】めっき液Mを収納するめっき槽11と、該めっき槽の底部11bの貫通穴に装着された、環状の陰極補助電極ホルダ12と、該陰極補助電極ホルダに着脱自在に挿着され、その上面に被めっき物の載置部13cを有する被めっき物ホルダ13と、該被めっき物ホルダの上面側に設けられ、前記載置部上の被めっき物Wの下面に当接する陰極15と、該被めっき物ホルダの位置決め手段12d、13dと、ウエハ上を往復動するパドル23と、陰極と間隔をおいて対向する陽極とを備えている。ウエハの上面と陰極補助電極、陰極補助電極ホルダ、底部の各上面17c、12c、11cは同一平面を形成し、めっき終了後めっき槽底部からめっき液を排出すると、めっき液は完全にドレーン排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子部品用の基板、IC用のウエハ、薄膜磁気ヘッド用のウエハ等の電気めっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ウエハ上に薄膜を成膜させる装置として、電気めっき装置が用いられている。
【0003】
この電気めっき装置では、めっき膜を形成したい部分に導電性の下地膜を設け、この下地膜を陰極としてめっき液中で通電することにより、下地膜上にめっき膜を析出させている。
【0004】
従来の電気めっき装置として、次のものが知られている(例えば、特許文献1、参照)。即ち、
図8に示すように、めっき槽1の底部1bの貫通穴に装着された、環状の陰極ホルダ2と、該陰極ホルダ2に挿入されるウエハホルダ3と、該陰極ホルダ2に設けられ、ウエハホルダ3に載置されたウエハWの上面に当接する環状の陰極(カソード)5と、該陰極5の上に絶縁体6を介して設けられた環状の陰極補助電極7と、めっき槽1内に前記陰極5と対向して設けられている図示しない陽極(アノード)と、パドル摺動アームに設けられ、ウエハWの上面近傍を摺動するパドル9と、を備えている。
【0005】
なお、図8において、10aはウエハホルダ3を上下動させる昇降シリンダ、10bは真空吸着ライン、10cは陰極電源のコード、をそれぞれ示す。
【0006】
この電気めっき装置は、ウエハWのめっき面を上にしてめっきする装置であり、陰極(カソード)5とウエハ(基板)Wの上面の外周をコンタクトすることによりめっきしている。前記両者5、Wをコンタクトさせる場合には、円板状のウエハWをウエハホルダ3上に置き、昇降シリンダ10aにより押し上げ、強制的に陰極5をウエハWの上面外周に押しつける。
【特許文献1】特開平10−330987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来例には、次のような問題がある。
【0008】
(1)ウエハ処理後、自動弁を開き、めっき槽1内のめっき液をドレーン配管内に排出するが、ウエハW上面とめっき槽1の底部1bとの間には、段差D、例えば、4〜5mmの段差、が発生しているため、めっき槽の底部1bには、必ずめっき液が残ってしまう。この残留めっき液の量は、例えば、ウエハの直径150mmの場合には、70cc〜90cc、と多量である。
【0009】
そのため、ドレーン排出後、昇降シリンダ15aを下降させると、前記残留液がこぼれドレーンとして外部に放出されてしまうので、めっき液の損失のみならず、無害化して外部に排出させなければならないので、環境維持のためにコストが嵩んでしまう。
【0010】
(2)ウエハWのめっき面の外周部と円環状の陰極5とがコンタクトしているので、コンタクトしている部分に成膜することができない。従って、ウエハWの全面を有効に利用することができない。ウエハWのコンタクトしている部分は、例えば、約4mm程度であるので、直径150mmのウエハの場合の有効面積は、約90%、直径100mmのウエハの場合のそれは85%、となるので歩留まりが良くない。
【0011】
(3)液溜まりがあるので、パドル9を摺動させてもウエハ外周部のめっき液は、スムーズに流れない。そのため、膜厚を均一に成膜することができない。
【0012】
(4)常に新鮮なめっき液をウエハ表面に供給するため、パドルをできるだけウエハ表面に近づけたいが、段差D以内には近づくことはできない。例えば、パドル9と陰極補助電極7上面との間隔は、約1mm、段差Dは約4mm、であり、ウエハWとパドル9との間隔は5mmとなってしまい、それ以上近づけることは不可能である。
【0013】
この発明は、上記事情に鑑み、めっき槽内のめっき液を完全にドレーン排出できるようにすることを目的とする。他の目的は、ウエハの全面を有効利用すると共に、均一な膜厚を得ることである。更に他の目的は、常に新鮮なめっき液をウエハ表面に供給できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、めっき液を収納するめっき槽と、該めっき槽の底部の貫通穴に装着された、環状の陰極補助電極ホルダと、該陰極補助電極ホルダに着脱自在に挿着され、その上面に被めっき物の載置部を有する被めっき物ホルダと、該被めっき物ホルダの上面側に設けられ、前記載置部上の被めっき物の下面に当接する陰極と、該被めっき物ホルダの固定位置を規制する位置決め手段と、前記めっき槽内に設けられ、前記陰極と間隔を置いて対向する陽極と、を備えていることを特徴とする。
【0015】
この発明は、めっき液を収納するめっき槽と、該めっき槽の底部の貫通穴に装着された、環状の陰極補助電極ホルダと、陰極補助電極ホルダの上面に設けられた環状の陰極補助電極と、該陰極補助電極ホルダに着脱自在に挿入され、その上面に被めっき物の載置部を有する被めっき物ホルダと、該被めっき物ホルダの上面側に設けられ、前記載置部上の被めっき物の下面に当接する陰極と、被めっき物ホルダに設けられた真空吸着手段と、該被めっき物ホルダの固定位置を規制する位置決め手段と、前記めっき槽内に設けられ、前記陰極と間隔を置いて対向する陽極と、前記めっき槽の底部側に、摺動自在に設けられたパドルと、を備えていることを特徴とする。
【0016】
この発明は、陰極がコンタクトリングを介して被めっき物の下面に当接することを特徴とする。この発明の被めっき物ホルダの載置部には、ウエハが載置され、該ウエハのめっき面と陰極補助電極ホルダの上面とが同一平面上に位置していることを特徴とする。この発明の前記位置決め手段は、陰極ホルダの内周面に設けた係止部と、被めっき物ホルダの外周面に設けられ、前記係止部と係合する係合部と、からなることを特徴とする。この発明は陰極補助電極ホルダが、被めっき物のめっき面を押さえる押え爪を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、被めっき物のホルダの固定位置を規制する位置決め手段を設けているので、被めっき物のめっき面とめっき槽の底面とを同一平面上に位置せしめることができる。そのため、めっき槽底部に従来例の様な段差が発生しないので、所謂液溜まりが発生しない。従って、めっき終了毎に、ドレーン排液を行う場合、めっき槽内のめっき液を全部循環タンクに回収することができる。
【0018】
陰極が被めっき物の下面側に設けられているので、めっき面上には障害物が存在しない。そのため、被めっき物、例えば、ウエハ、をめっきする場合には、ウエハ全面を有効に使用することができる。又、パドルを可能な限りめっき面に近づけることができるので、新鮮なめっき液を常に供給することができる。
【0019】
押え爪を設けたので、例えば、真空吸着ラインの真空ポンプが故障し、真空切れが発生しても、被めっき物を確実に固定しておくことができる。なお、この爪は、周方向に間隔をあけて複数設けているので、めっき面と押え爪との接触面積もごく僅かである。そのため、殆ど歩留まりに影響することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明の第1実施の形態を図1〜図4により説明する。
【0021】
電気めっき装置は、箱状のめっき槽11を備えており、該めっき槽11の底部11bの中央部には、貫通穴が設けられ、該貫通穴には筒状の陰極補助電極ホルダ12が挿着されている。
【0022】
この陰極補助電極ホルダ12の上面12cには、電極収納凹部が設けられ、該凹部には環状の陰極補助電極17が嵌着されている。この陰極補助電極17は、ウエハW外周部hの電流の集中を防ぐものであり、この電極17により膜厚の不均一を防止することができる。
【0023】
更に述べると、陽極19と陰極15は、所定距離をおいて対向しているので、陰極15の中央と端部とでは電流密度が異なってしまい、陰極15表面の電流密度分布が不均一になる。しかし、陰極15を取り囲む様に陰極補助電極17を設けると、陰極15上の電流密度分布が均一になり、均一な膜厚にすることができる。
【0024】
この電極17は、コード17aを介して陰極補助電極電源に連結されている。この電極17の上面17cと、底部11bの上面11c及び前記ホルダ12の上面12cは、それぞれ同一平面上に位置している。前記ホルダ12の内周面の上部には、係止手段となる段部12dが形成されている。
【0025】
前記ホルダ12には、被めっき物ホルダ13が挿着されている。このホルダ13の上面13cは、平面状の載置部をなしており、その外周面の上部には、係合手段となる段部13dが形成されている。この段部13dは、前記段部12dと係合する。
【0026】
前記上面13cには、電極収納凹部16と複数のシール溝13eと吸引孔13fとが形成されている。前記陰極収納凹部16は、内側溝16aと外側切り欠き部16bとを備えており、該外側切り欠き部16bは外周縁側に形成されている。内側溝16aには、陰極15に嵌着されているが、この陰極15の頂部は上面13の下方に位置している。前記陰極15はコード15aを介して陰極電源に接続されている。
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前記陰極15には、コンタクトリング36の水平固定部36aが押さえボルト37により固定されているが、このボルト37の頭部は前記上面13cより下方に位置している。コンタクトリング36の水平固定部36aは傾斜連結部36Bを介して水平当接部36cに連結されている。
【0027】
外側切欠き部16bには、弾性部材、例えば、ゴム38が嵌着されている。このゴム38は断面長方形状に形成され、その上面38aには前記コンタクトリング36の当接部36cが圧接されている。該当接部36cはウエハWの外周部下面により押圧される。
【0028】
前記シール溝13eには、シール材、例えば、ゴム製Oリング40、が嵌着されている。前記吸引孔13fは、真空吸着ライン32に連続している。このホルダ13は、昇降シリンダ25に固定されている。
【0029】
めっき槽11内には、パドル23が摺動自在に設けられている。このパドル23は、パドル摺動アーム21に設けられているが、常に新鮮なめっき液を流すため、できるだけウエハWに近づけて往復運させる。
【0030】
なお、図4において、27はめっき槽11内のめっき液Mを図示しない循環タンクへ戻すためのドレーン配管、28はドレーン配管27に設けられた自動弁、29はオーバーフローした、めっき液を前記循環タンクに戻すオーバーフロー部、30は前記循環タンクからめっき液が供給されるめっき液循環供給部、をそれぞれ示す。
【0031】
次に、本実施の形態の作動について説明する。
【0032】
被めっき物、例えば、ウエハW、を載置部13cに載置し、コンタクトリング36の当接部36cをウエハWの下面の外周部にコンタクトさせた後、真空吸着ライン32を駆動させると、ウエハWは載置部13cに吸着固定される。このとき、当接部36cの上面と前記ホルダ13の上面13cは同一平面状に位置し、ウエハWは水平状態になる。
【0033】
昇降シリンダ25を駆動させ、被めっき物ホルダ13を陰極補助電極ホルダ12に挿入すると、前記ホルダ13の段部13dが前記ホルダ12の段部12dに係合し、それ以上摺動できなくなる。この時のウエハWの上面と、前記陰極補助電極17、前記陰極補助電極ホルダ12,底部11bの各上面17c、12c、11cは、同一平面上に位置している。
【0034】
この状態において、めっき液槽11にめっき液Mを供給すると共に、陰極15、陽極19、陰極補助電極17に給電するとともに、パドル23を摺動させて新鮮なめっき液MをウエハWのめっき面に供給し、めっきする。この時、ウエハWの上面には、障害物が存在しないので、パドル23は、該ウエハWの上面近傍、例えば、ウエハWから上方に約1mm以上離れた位置で摺動し、常に新鮮なめっき液をウエハWのめっき面に供給することができる。
【0035】
なお、コンタクトリング36がウエハWの外周側に位置しているので、ウエハ表面のめっき面への通電性が良好となる。また、ゴム37が設けられているので、コンタクトリング36の当接部36cが上面13cより少し高くなっても弾性変形によりその高さを調整することができる。
【0036】
ウエハめっき終了後、自動弁28を開き、めっき槽11内のめっき液Mをドレーン配管27を介して図示しない循環タンク内に流し込む。この時、前記ホルダ13、12、底部11bの各上面12c、13c、11cが同一平面上に位置しているので、めっき槽11内のめっき液Mは、全て完全にドレーン排出され、循環タンクに回収される。
【0037】
そのため、昇降シリンダ25を作動させ、前記被めっき物ホルダ13を下降させても、めっき槽11の底部11bには、液だまりが存在していないので、めっき液Mが外部に放出されることはない。又、従来例と異なり、ウエハのめっき面は、陰極等により押さえられていないので、全面を有効に利用することができる。
【0038】
この発明の第2実施の形態を図5により説明するが、図1〜図4と同一図面符号はその名称も機能も同一である。
【0039】
この実施の形態と前記実施の形態との相違点は、コンタクトリングを省略し、陰極15とウエハWとを直接当接させたことである。
【0040】
この発明の第3実施の形態を図6,図7により説明するが、図1〜図4と同一図面符号はその名称も機能も同一である。
【0041】
この実施の形態と前記実施の形態との相違点は、陰極補助電極ホルダ12に、ウエハのめっき面(上面)を押さえる押え爪35を設けたことである。この押え爪35は、図7に示す様に、周方向に等間隔を空けて4個設けられており、ウエハWの外周端近傍に当接している。この押え爪35の数、大きさ、配置等は必要に応じて適宜選択することができる。
【0042】
この押え爪35は、数が少なく、且つ、ウエハとの接触面積も少ないので、殆ど歩留まりに影響を与えることはない。この押え爪35を備えることにより、真空吸着ライン32が故障しても、確実にウエハの固定状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施の形態を示す断面図で、図2のI―I線の要部拡大断面図である
【図2】電気めっき装置の平面図である。
【図3】図1の要部拡大断面図である。
【図4】電気めっき装置の、一部を断面にした正面図である。
【図5】本発明の第2実施の形態を示す要部拡大断面図である。
【図6】本発明の第3実施の形態を示す縦断面図であり、図1に対応する図である。
【図7】電気めっき装置の平面図である。
【図8】従来例を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0044】
11 めっき槽
11b 底部
11c 上面
12 陰極補助電極ホルダ
12c 上面
12d 段部
13 被めっき物ホルダ
13c 上面
13d 段部
15 陰極
17 陰極補助電極
19 陽極
23 パドル
35 押え爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき液を収納するめっき槽と、
該めっき槽の底部の貫通穴に嵌着された、環状の陰極補助電極ホルダと、
該陰極補助電極ホルダに摺動自在に挿着され、その上面に被めっき物の載置部を有する被めっき物ホルダと、
該被めっき物ホルダの上面側に設けられ、前記載置部上の被めっき物の下面に当接する陰極と、
該被めっき物ホルダの固定位置を規制する位置決め手段と、
前記めっき槽内に設けられ、前記陰極と間隔を置いて対向する陽極と、
を備えている電気めっき装置。
【請求項2】
めっき液を収納するめっき槽と、
該めっき槽の底部の貫通穴に嵌着された、環状の陰極補助電極ホルダと、
陰極補助電極ホルダの上面に設けられた環状の陰極補助電極と、
該陰極補助電極ホルダに着脱自在に挿着され、その上面に被めっき物の載置部を有する被めっき物ホルダと、
該被めっき物ホルダの上面側に設けられ、前記載置部上の被めっき物の下面に当接する陰極と、
被めっき物ホルダに設けられた真空吸着手段と、
該被めっき物ホルダの固定位置を規制する位置決め手段と、
前記めっき槽内に設けられ、前記陰極と間隔を置いて対向する陽極と、
前記めっき槽の底部側に、摺動自在に設けられたパドルと、
を備えている電気めっき装置。
【請求項3】
陰極が、コンタクトリングを介して被めっき物の下面に当接することを特徴とする請求項1、又は、2記載の電気めっき装置。
【請求項4】
被めっき物ホルダの載置部にウエハが載置され、該ウエハのめっき面と陰極補助電極ホルダの上面とが同一平面上に位置していることを特徴とする請求項1、2、又は、3記載の電気めっき装置。
【請求項5】
前記位置決め手段は、陰極ホルダの内周面に設けた係止部と、被めっき物ホルダの外周面に設けられ、前記係止部と係合する係合部と、からなることを特徴とする請求項1、2、3、又は、4記載の電気めっき装置。
【請求項6】
陰極補助電極ホルダが、被めっき物のめっき面を押さえる押さえ爪を備えていることを特徴とする請求項1、2、3、4、又は、5記載の電気めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−328470(P2006−328470A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152750(P2005−152750)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(593129423)株式会社東設 (13)
【Fターム(参考)】