説明

電気回路および電気回路の製造方法

【課題】 電気回路の構成材料に用いる導電性高分子の導電性の長期安定性を向上させる。
【解決手段】 導電性部材13を含む電気回路であって、この導電性部材に含まれる導電性高分子が、導電性に寄与する共役結合群と、アニオンを含有する側鎖とを含み、導電性高分子中で共役結合群を形成している原子の個数が、アニオンの価数1に対して、8個以上12個以下の範囲にある電気回路とする。この電気回路は、例えば、この導電性高分子を含む溶液を基板上に塗布して導電性部材13を形成することにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線や電極などの導電性部材の材料に導電性高分子を用いた電気回路およびこの電気回路の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機物を機能材料に用いて電気回路を構成する技術が提案されている。機能材料に有機物を用いることで、無機半導体系の材料で回路を構成する際に必須となる高温加熱工程を経ることなく電気回路を製造することができるようになる。それゆえ、例えば、熱劣化を受けやすいものの機械的なフレキシビリティに優れるプラスチック板や樹脂フィルムなどを、基板材料として使用することが容易となり、シートライクまたはペーパーライクな、フレキシブルディスプレイ、携帯機器、使い捨てIDタグなどの実現性を高める技術として期待されている。
【0003】
上記有機物としては、これまでに低分子のものや、高分子のもの(例えば、特許文献1参照)が提案されている。特に、導電性高分子を用いる技術は、印刷法による回路パターニングが可能となるため、有機材料を用いた電気回路製造を容易化させる技術として注目されている。例えば、特許文献2において、インクジェット法を用いて回路をパターニングする技術が提案されている。
【0004】
一般に、導電性高分子がカチオン状態をとると、その電気伝導率が高くなることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。ところが、このような導電性高分子の膜内には、当該高分子中のカチオンの対イオンとしてアニオンが取り込まれているため、導電性高分子膜にその導電性を長期的に発揮させると、当該アニオンが徐々に膜外へと移動してしまい、導電性高分子膜の電気伝導率が低下する場合がある。
【0005】
これを防止するため、アニオンを高分子化合物などの分子量の大きなものとしたり(例えば、特許文献3参照)、アニオンを導電性高分子の側鎖に導入した自己ドープ型導電性高分子としたり(例えば、特許文献4、非特許文献2参照)する技術が提案されている。特に、この自己ドープ型導電性高分子は、ドーピング技術を駆使してイオンを外部から導入させなくても、導電性を発揮することができる高分子であり、移動性ドーパントを利用する従来の導電性高分子に比してイオン拡散の度合いが少ないため、イオン拡散に起因する導電性高分子の劣化を防止できる技術として注目されている。
【特許文献1】特表2002−512451号公報
【特許文献2】特開2003−243328号公報
【特許文献3】特開平2−130906号公報
【特許文献4】特開平7−233244号公報
【非特許文献1】吉村進 著、「導電性ポリマー、高分子新素材OnePoint(5)」、共立出版、1987年、p46−53
【非特許文献2】A.O.Patil, Y.Ikenoue, F.Wudl,and A.J.Heeger、「Water−Soluble Conducting Polymers」、J.Am.Chem.Soc.109、1987年、pp1858−1859
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献3のようにアニオンを高分子化した場合には、導電性高分子のカチオン密度とアニオン密度とを合わせることが難しく、過剰なカチオンまたはアニオンの電荷を打ち消すために、低式量の対イオンが導電性高分子内に取り込まれる。この結果、通電によるイオン移動が起こりやすくなって導電性の長期安定性に劣るという問題がある。なお、一般的には、アニオンを高分子化した場合、カチオン密度に比してアニオン密度の方が高くなる傾向にある。
【0007】
また、上記特許文献4や非特許文献2の自己ドープ型導電性高分子では、本発明者が検討したところ、イオン拡散による導電性高分子の劣化は若干抑制されるものの、まだ、主鎖と側鎖のカチオンとアニオンとの比率が適切に制御されておらず、そこにおける過剰なイオン電荷を打ち消すために低式量の対イオンが導電性高分子内に取り込まれる。そのため、連続的な通電に対する導電性の長期安定性については未だ十分なものが得られておらず、さらに向上できる余地がある。
【0008】
そこで本発明は、電気回路の構成材料に用いる導電性高分子の導電性の長期安定性を向上させ、優れた特性を有する電気回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、自己ドープ型導電性高分子中のカチオンおよびアニオンの価数を制御することにより、連続通電に対する導電性の長期安定性が向上することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
本発明は、導電性部材を含む電気回路であって、前記導電性部材が導電性高分子を含み、前記導電性高分子が、導電性に寄与する共役結合群と、アニオンを含有する側鎖とを含み、前記導電性高分子中で前記共役結合群を形成している原子の個数が、前記アニオンの価数1に対して、8個以上12個以下の範囲にある電気回路を提供する。
【0011】
なお、上記『導電性に寄与する共役結合群』とは、共役結合を形成している原子が少なくとも8個以上、好ましくは16個以上連続している構造を意味する。
【0012】
また、本発明は、別の側面から、上記電気回路を製造するに適した方法として、導電性部材を含む電気回路の製造方法であって、導電性に寄与する共役結合群と、アニオンを含有する側鎖とを含み、前記アニオンの価数1に対して、前記共役結合群を形成している原子の個数が8個より大きく12個以下の範囲にある導電性高分子を合成する導電性高分子合成工程と、前記導電性高分子を含む溶液を基板上に塗布して前記導電性部材を形成する工程とを含み、前記導電性高分子合成工程が、第1の置換基を含む単環式の第1のモノマーと、前記第1の置換基を含まない単環式の第2のモノマーとを重合する工程と、前記第1の置換基のみをアニオンを含む基とする工程とを含む電気回路の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電気回路の構成材料に用いる導電性高分子の連続通電に対する導電性の長期安定性を向上させることができるため、優れた特性を有した電気回路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限り種々の形態をとることができる。
【0015】
本発明の電気回路は、少なくとも一部の配線部分や電極部分に、導電性高分子を含む導電性部材が用いられている。
【0016】
上記導電性高分子は、導電性に寄与する共役結合群と、アニオンを含有する側鎖とを含み、前記導電性高分子中で前記共役結合群を形成している原子の個数が、前記アニオンの価数1に対して、8個以上12個以下の範囲にあるものである。すなわち、前記共役結合群を形成している原子の個数の合計は、アニオンの価数の合計の8倍以上12倍以下の範囲にある。
【0017】
導電性高分子中で電荷を運搬しているカチオン領域は、その領域を構成する共役結合群が長くなるほど、導電性高分子の電気伝導度を高めるのに寄与する。ところが、ひとつのカチオン領域を構成する原子は、すべて同一の平面上になければならず、同一平面から外れた原子が存在する箇所で、カチオン領域が分断されるため、個々のカチオン領域を広げることは、立体構造的に難しく、また、その構造を長期的に維持することも難しい。しかしながら、上記構成であると、導電性高分子における、カチオン領域の広さとその構造維持性とを実用的な範囲でバランスさせることができるとともに、主鎖と側鎖のカチオンとアニオンとの比率を適切に制御することができ、連続通電に対する導電性の長期安定性、すなわち経時安定性に優れた、自己ドープ性導電性高分子を提供することができる。
【0018】
ここで、上記導電性高分子は、導電性高分子中で共役結合群を形成している原子の個数が、アニオンの価数1に対して8個よりも多いことが好ましい。例えば、アニオンの価数1に対して8.3個とすることや、12.0個とすることが好ましい。この構成であると、導電性高分子における、連続通電に対する導電性の長期安定性、すなわち経時安定性を、さらに向上させることができる。
【0019】
また、上記導電性高分子は、共役結合群中で広がった1つの共役結合系カチオンの価数が2となるように側鎖のアニオンの濃度が調整されていることが好ましい。このような範囲にアニオン濃度を制御すると、重合反応時に低分子量のイオンが混入してしまうことを防止できるためである。なお、共役結合群中で広がった1つの共役結合系カチオンの価数は1または2であるため、例えば、共役結合群中で広がった1つの共役結合系カチオンが1価であるとして側鎖のアニオン濃度を合わせると、重合反応時に2価カチオンが生成して低分子量のアニオンが余分に取り込まれてしまう場合があるため好ましくない。
【0020】
また、導電性部材を電極として用いる場合には、当該電極をホール伝導性の有機半導体層に接して設けられていることが好ましい。本発明の導電性高分子はホールを与えやすいので、ホール伝導性の有機半導体と接する部位に配すると、金電極に相当する程度の優れた電気的接触性を発揮させることができるためである。
【0021】
また、導電性高分子の主鎖が上記共役結合群を含むことが好ましい。共役結合群を主鎖中に含む構造である方が、側鎖に含む構造よりも共役結合系を長くできるので、導電性高分子の経時安定性や、酸素や水分に対する化学的安定性が高まるためである。
【0022】
また、上記導電性部材は、当該導電性部材の導電率が少なくとも10mS/cm以上、好ましくは50mS/cm以上、より好ましくは100mS/cm以上、さらに好ましくは1S/cm以上となる含量で、上記導電性高分子を含むことが好ましい。例えば表示パネル上の信号線や電力線などの比較的長距離の配線に導電性部材を用いる場合には、高い導電率の方が好ましい。また、例えば配線をバイパスする際の接続材として導電性部材を用いる場合には、長い配線材として用いる場合よりも低い導電率でも使用できる。さらに、例えば電極として導電性部材を用いる場合には、接続材として用いる場合よりも低い導電率でも使用できる。
【0023】
上記共役結合群を含有する化合物構造としては特に限定されず、鎖状であっても環状であってもよい。アニオンの種類や導電性高分子の骨格構造にかかわらず、アニオンの価数1に対する導電性高分子中で共役結合群を形成している原子の個数と、導電性高分子の電気伝導率との関係は、異なる導電性高分子において、同じ数式で表現されるためである(例えば、M.Hirooka and T.Doi、「Structural Regulation of Conductive Polymers and Effect of Dopants」、Synthetic Metals 17、1987年、pp209−214参照)。
【0024】
上記共役結合群は、上述したように導電性高分子の主鎖中に含むことが好ましいが、主鎖中および側鎖中に含んでもよい。共役結合を形成する原子としては、例えば、炭素、窒素などが挙げられる。環状の骨格構造としては、例えばチオフェン、ピロール、アニリン、フェニレンなどの単一種からなる構造としてもよいし、ポリチエニレンビニレンやポリチエニルピロール、ポリフェニレンビニレンなどの複数種からなる共重合体の構造としてもよい。なお、ポリチオフェンやポリピロールの骨格構造とすると、導電性高分子の経時安定性や化学的安定性を一層高めることができるので特に好ましい。
【0025】
側鎖に導入するアニオンとしては、導電性高分子の長期安定性および重合時の反応液の取り扱いが容易となる側面から、スルホン酸基のアニオンを選択することが好ましいが、カルボキシル基などの他のイオン性基のアニオンとしてもよい。また、側鎖中には、当該アニオン以外にも、アルキル基やエーテル基、エステル基、水酸基などを導入することにより、導線性高分子の油溶性や水溶性を調整してもよい。
【0026】
導電性高分子の側鎖にアニオンを導入する場合には、当該アニオンと主鎖とを直接結合させるのではなく、アルキル基を介して連結させることが好ましい。この際に用いるアルキル基としては炭素数2〜12程度のものが好ましく、2〜6程度のものがより好ましい。アルキル基が長くなると、導電性高分子膜内で直接的に電気伝導に携わる共役結合を構成する炭素の割合が少なくなり、膜の電気伝導率が低下する場合があるからである。他方、アルキル基の炭素数が1個である構造または主鎖に直接アニオンが結合している構造であると、主鎖中の共役系電子のエネルギー準位の変化が大きくなり、導電性が低下する場合があるためである。なお、主鎖とアニオンを連結するアルキル基の途中には、エーテル基など比較的化学反応に不活性な基を挿入してもよい。
【0027】
好ましい導電性高分子の例としては、例えば、ポリチオフェンやポリピロールを主鎖とし、スルホン酸などのイオン性基のアニオンが炭素数2〜6のアルキル基を介して主鎖に結合した側鎖を有するものが挙げられる。この場合、側鎖は、主鎖を構成する環(チオフェン環やピロール環)のほぼ一つおきに結合していることが好ましい。
【0028】
導電性高分子へのアニオンの導入方法としては、アニオンを側鎖に有したモノマーを出発材料の一部に用いてもよいし、エステル化させたアニオンを側鎖に導入したモノマーを出発材料の一部に用いて高分子を重合させた後に、そのエステルを加水分解してもよい。また、エステル以外の保護基で反応中にアニオンを保護しておいてもよい。さらに、重合後に高分子を反応させて、高分子の一部にアニオンを導入してもよい。
【0029】
本発明の導電性高分子である、導電性に寄与する共役結合群と、アニオンを含有する側鎖とを含み、前記アニオンの価数1に対して、前記共役結合群を形成している原子の個数が8個以上12個以下の範囲にある導電性高分子は、例えば下記(A)または(B)で示す工程を含むことにより作製することができる。
【0030】
(A)第1の置換基を含む単環式の第1のモノマーと、当該第1の置換基を含まない単環式の第2のモノマーとが、1:1または1:2の相対比で構成される2量体または3量体を合成する工程と、当該2量体または3量体を重合させる工程と、前記第1の置換基のみをアニオンを含む基とする工程。
【0031】
(B)第1の置換基を含む単環式の第1のモノマーと、当該第1の置換基を含まない単環式の第2のモノマーとをほぼ同量用意して、これらを重合する工程と、この第1の置換基のみをアニオンを含む基とする工程。
【0032】
なお、第1の置換基をアニオンを含む基とする工程は、上述したように重合後に行ってもよいし、重合前に行ってもよい。第2のモノマーとしては、置換基を有していないものを用いることが好ましい。
【0033】
ここで、上記(A)で示す、2量体または3量体を合成した後に導電性高分子を重合させる方法であると、導電性高分子における、アニオンの価数1に対する共役結合群を形成している原子の個数を8個以上12個以下の範囲で厳密に制御することができる。
【0034】
しかし、多量体を合成する際には、合成に伴って触媒などの不純物が混入してしまう場合がある。そのため、上記導電性高分子は、多量体の合成を経ずに、上記(B)で示すように、出発材料における第1のモノマーと第2のモノマーとをほぼ同量用意し、これらを重合して作製することがより好ましい。また、この方法であると、アニオンの価数1に対する原子の平均の個数が8個よりも多くなるように制御することが容易となる。
【0035】
本発明の導電性部材を含む電気回路は、アニオンを含有する側鎖とを含み、前記アニオンの価数1に対して、前記共役結合群を形成している原子の個数が8個以上12個以下の範囲にある導電性高分子を含む溶液を基板上に塗布して導電性部材を形成する工程を含むことにより作製することができる。
【0036】
また、本発明の導電性部材を含む電気回路は、導電性に寄与する共役結合群と、アニオンを含有する側鎖とを含み、前記アニオンの価数1に対して、前記共役結合群を形成している原子の個数が8個より大きく12個以下の範囲にある導電性高分子を合成する導電性高分子合成工程と、前記導電性高分子を含む溶液を基板上に塗布して前記導電性部材を形成する工程とを含み、前記導電性高分子合成工程が、第1の置換基を含む単環式の第1のモノマーと、前記第1の置換基を含まない単環式の第2のモノマーとを重合する工程と、前記第1の置換基のみをアニオンを含む基とする工程とを含む製造方法により作製することができる。単環式のモノマーを出発材料とすると、高分子の重合に際して不純物の混入を抑制することができるため、劣化しにくい導電性高分子を提供することができる。また、この方法であると、前もって多量体を合成しておく必要がないため、少ない工程数で導電性高分子を作製することができる。
【0037】
上記導電性高分子を含む溶液を基板上に塗布する方法としては、インクジェット印刷、シルクスクリーン印刷、スタンプ印刷、刷毛描線などの公知の印刷方法を用いることができる。
【0038】
なお、上記電気回路の構造は特に限定されず、発振回路や論理回路など任意の構造とすることができる。
【0039】
また、電気回路の保護措置として、例えば保護膜の積層、保護樹脂による埋め込み、ケースへの挿入、乾燥剤などの各種の化学物質吸着剤の添加、紫外線吸収膜などの各種の耐エネルギー膜の付加などの公知の措置を施してもよい。
【0040】
また、導電性部材の適用対象としては、上記配線や電極以外にも、例えば、電界効果トランジスタや発光ダイオードにおける電子やホールなどの電荷注入の改善/阻害作用を発揮する修飾層としてもよい。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳しく説明する。
【0042】
<実施例1>
まず、下記[化1A]で示す、2−ブロモチオフェン〔東京化成工業製〕0.92gと2−ブロモ−3−メチルチオフェン〔東京化成工業製〕1gとを、テトラヒドロフラン10ml中でマグネシウムと反応させ、グリニヤール試薬を調製した。
【0043】
【化1A】

【0044】
続いて、このグリニヤール試薬に、二塩化ニッケルビピリジン触媒0.05gを加えて8時間還流し、2−ブロモチオフェンと2−ブロモ−3−メチルチオフェンとのカップリング反応を促進させ、下記[化1B]で示す3−メチル−2,2’−ジチエニルを得た。
【0045】
【化1B】

【0046】
その後、N−ブロモスクシンイミド〔東京化成工業製〕2gを用いて、上記[化1B]中のメチル基をブロモ化し、下記[化1C]で示す3−ブロモメチル−2,2’−ジチエニルを得た。
【0047】
【化1C】

【0048】
次に、マロン酸ジエチル〔東京化成工業製〕2gとナトリウムエチラート0.2gとをジメチルホルムアミドに混合した溶液中に、上記[化1C]を15分かけて滴下した。90℃で8時間反応させた後、室温に冷却するとともに、希塩酸中に投入しエチルエーテルを用いて分液抽出した。さらに、水相にエチルエーテルを注ぎ、分液抽出作業を5回くり返した。全てのエチルエーテルを蒸留水で分液し、無水硫酸ナトリウムで油相の水分を除去し、ロータリーエバポレートでエチルエーテルを除去して、下記[化1D]で示す2−カルボキシエチル−3−〔3−(2,2’−ジチエニル)〕プロピオン酸エチルを得た。
【0049】
【化1D】

【0050】
続いて、水酸化ナトリウム水溶液に上記[化1D]を投入し、3時間還流してエステルを加水分解した。また、室温に冷却し水相を回収するとともに、油相に水酸化ナトリウム水溶液を入れて分液抽出し、すべての水相を希塩酸に投入して酸性化した。エチルエーテルによる分液抽出を3回くり返した後、無水硫酸ナトリウムで油相の水分を除去し、ロータリーエバポレートでエチルエーテルを除去して、下記[化1E]で示す2−カルボキシ−3−〔3−(2,2’−ジチエニル)〕プロピオン酸を得た。
【0051】
【化1E】

【0052】
上記[化1E]を160℃で脱炭酸反応させて、下記[化1F]で示す3−〔3−(2,2’−ジチエニル)〕プロピオン酸を得た。
【0053】
【化1F】

【0054】
次に、テトラヒドロフランに上記[化1F]を溶解させ、0℃で水素化アルミニウムリチウムのテトラヒドロフラン1M溶液〔アルドリッチケミカル製〕0.4gを徐々に加えて4時間還元反応させた。続いて、0℃で水を滴下し還元剤を不活性化した後、水酸化ナトリウム水溶液およびエチルエーテルを加えて油相を分液した。その後、水相にエチルエーテルを注ぎ、分液抽出を3回くり返し、無水硫酸ナトリウムで油相の水分を除去して、下記[化1G]で示す3−〔3−(2,2’−ジチエニル)〕プロパノールの溶液を得た。
【0055】
【化1G】

【0056】
上記[化1B]から[化1G]までの合成スキームを5度くり返し、それぞれで得られた[化1G]の溶液を全部合わせた溶液に、ピリジン20mlに塩化メタンスルホニル〔東京化成工業製〕3.6mlを溶解させた液を5℃で滴下した。なお、滴下は20分かけて行い、温度は10℃以下を維持した。反応を進めるために撹拌しながら一晩放置した後、塩酸を加えて分液抽出した。油相に蒸留水を注ぎ、分液抽出を3回くり返した。その後、無水硫酸ナトリウムで油相の水分を除去し、ロータリーエバポレートで有機溶媒を除去して、下記[化1H]で示す3−〔3−(2,2’−ジチエニル)〕プロピルスルホン酸メチルを得た。
【0057】
【化1H】

【0058】
その後、アセトニトリルに、上記[化1H]を0.15mol/リットル、過塩素酸テトラブチルアンモニウムを0.15mol/リットル溶解させた後、0℃で2.1Vの電圧をかけて、ニッケル電極上に下記[化1I]で示すくり返し構造単位を有する導電性高分子を重合させた。
【0059】
【化1I】

【0060】
続いて、得られたニッケル電極上の導電性高分子を60℃の塩酸で4時間処理し、側鎖のスルホン酸メチルを加水分解して、下記[化1J]で示すくり返し構造単位を有する導電性高分子を得た。
【0061】
【化1J】

【0062】
次に、ニッケル電極上の導電性高分子を、水に5回浸漬して塩酸を除去した後、110℃で乾燥させた。その後、乾燥させた導電性高分子をアセトニトリルに3回浸漬し、さらに蒸留水に3回浸漬して、表面に付着している塩類を除去した。最後に、導電性高分子を再度乾燥させた後、これをエタノール20%水溶液に溶解してインクを完成させた。
【0063】
<実施例2>
実施例2のインクは、チオフェンの2量体を主鎖とする3−〔3−(2,2’−ジチエニル)〕エチルスルホン酸をくり返し構造単位とする。以下に、このインクの合成過程について詳しく説明する。
【0064】
まず、10mlのピリジンに2−(3−チエニル)エタノール〔アルドリッチケミカル製〕5gを溶解させた。続いて、この溶液中に、ピリジン20mlに塩化メタンスルホニル〔東京化成工業製〕を3.6ml溶解させた液を5℃で滴下した。滴下は25分かけて行い、10℃以下の温度を維持した。
【0065】
続いて、反応を進めるために撹拌しながら一晩放置し、水およびエチルエーテルを用いて分液抽出した。続いて、水相に新たなエチルエーテルを入れて分液抽出する作業を3回くり返した。
【0066】
全てのエチルエーテル相を、希塩酸および蒸留水を用いて分液抽出した後、無水硫酸ナトリウムでエチルエーテル相の水分を除去し、ロータリーエバポレートでエチルエーテルを除去して、下記[化2A]で示す2−(3−チエニル)エチルスルホン酸メチルを得た。
【0067】
【化2A】

【0068】
次に、アセトニトリルに、0.16mol/リットルのチオフェンと、0.15mol/リットルの上記[化2A]と、0.15mol/リットルの過塩素酸テトラブチルアンモニウムとを溶解させた後、0℃で2.1Vの電圧をかけて、ニッケル電極上に下記[化2B]で示すくり返し構造単位を有する導電性高分子を重合させた。
【0069】
【化2B】

【0070】
続いて、得られたニッケル電極上の導電性高分子を60℃の塩酸で4時間処理し、側鎖のスルホン酸メチルを加水分解して、下記[化2C]で示すくり返し構造単位を有する導電性高分子を得た。
【0071】
【化2C】

【0072】
次に、ニッケル電極上の導電性高分子を、水に5回浸漬して塩酸を除去した後、110℃で乾燥させた。その後、乾燥させた導電性高分子をアセトニトリルに3回浸漬し、さらに蒸留水に3回浸漬して、表面に付着している塩類を除去した。最後に、導電性高分子を再度乾燥させた後、これをエタノール20%水溶液に溶解してインクを完成させた。
【0073】
<実施例3>
実施例3のインクは、チオフェンの2量体を主鎖とする2−(3−メチレン−2,2’−ジチエニル)オキシエチルスルホン酸を、くり返し構造単位としている。以下に、このインクの合成過程について詳しく説明する。
【0074】
まず、グリコール酸エチル〔和光純薬工業製〕5gにナトリウムを反応させてアルコラートを生成させた。次に、ウィリアムソンのエーテル合成法に従い、このアルコラート中に、15mlのエチルエーテルに実施例1と同様にして合成した2gの上記[化1C]を溶解させた液を滴下し、4時間撹拌して、下記[化3A]で示す2−酢酸エチル(3−メチレン−2,2’−ジチエニル)エーテルを得た。
【0075】
【化3A】

【0076】
次に、水酸化ナトリウム水溶液に上記[化3A]を投入し、3時間還流してエステルを加水分解した後、室温に冷却し水相を回収した。さらに、油相に水酸化ナトリウム水溶液を入れて分液抽出した後、すべての水相を希塩酸に投入して酸性化した。続いて、エチルエーテルで分液抽出を3回くり返した後、無水硫酸ナトリウムで油相の水分を除去し、ロータリーエバポレートでエチルエーテルを除去して、下記[化3B]で示す2−酢酸(3−メチレン−2,2’−ジチエニル)エーテルを得た。
【0077】
【化3B】

【0078】
その後、テトラヒドロフランに上記[化3B]を溶解させた後、0℃で水素化アルミニウムリチウムのテトラヒドロフラン1M溶液〔アルドリッチケミカル製〕0.4gを徐々に加えて4時間還元反応させた。次に、0℃で水を滴下して還元剤を不活性化させた後、水酸化ナトリウム水溶液とエチルエーテルを加えて油相を分液した。水相にエチルエーテルを注ぎ、分液抽出を3回くり返した後、無水硫酸ナトリウムで油相の水分を除去し、下記[化3C]で示す2−ヒドロキシエチル(3−メチレン−2,2’−ジチエニル)エーテル溶液を得た。
【0079】
【化3C】

【0080】
次に、3.6mlの塩化メタンスルホニル〔東京化成工業製〕を20mlのピリジンに溶解させた液を、上記[化3C]に5℃で滴下した。滴下は20分かけて行い、10℃以下の温度を維持した。続いて、反応を進めるために撹拌しながら一晩放置し、塩酸を加えて分液抽出した。油相に蒸留水を注ぎ、分液抽出を3回くり返した後、無水硫酸ナトリウムで油相の水分を除去し、ロータリーエバポレートで有機溶媒を除去して、下記[化3D]で示す2−(3−メチレン−2,2’−ジチエニル)オキシエチルスルホン酸メチルを得た。
【0081】
【化3D】

【0082】
続いて、0.15mol/リットルの上記[化3D]と、0.15mol/リットルの過塩素酸テトラブチルアンモニウムとをアセトニトリルに溶解させた後、0℃で2.1Vの電圧をかけて、ニッケル電極上に下記[化3E]で示すくり返し構造単位を有する導電性高分子を重合させた。
【0083】
【化3E】

【0084】
その後、得られたニッケル電極上の導電性高分子を60℃の塩酸で4時間処理し、側鎖のスルホン酸メチルを加水分解して、下記[化3F]で示すくり返し構造単位を有する導電性高分子を得た。
【0085】
【化3F】

【0086】
次に、ニッケル電極上の導電性高分子を、水に5回浸漬して塩酸を除去した後、110℃で乾燥させた。その後、乾燥させた導電性高分子をアセトニトリルに3回浸漬し、さらに蒸留水に3回浸漬して、表面に付着している塩類を除去した。最後に、導電性高分子を再度乾燥させた後、これをエタノール20%水溶液に溶解してインクを完成させた。
【0087】
<実施例4>
実施例4のインクは、チオフェンの3量体を主鎖とする3−〔3−(2,2’:5’2’’−テルチエニル)〕プロピルスルホン酸を、くり返し構造単位としている。以下に、このインクの合成過程について詳しく説明する。
【0088】
まず、下記[化4A]で示す、5−ブロモ−2,2’−ビチオフェン〔アルドリッチケミカル製〕1.38gと、2−ブロモ−3−メチルチオフェン〔東京化成工業製〕1gとを、テトラヒドロフラン10ml中でマグネシウムと反応させ、グリニヤール試薬を調製した。
【0089】
【化4A】

【0090】
続いて、このグリニヤール試薬に、二塩化ニッケルビピリジン触媒0.05gを加えて8時間還流し、5−ブロモ−2,2’−ビチオフェンと2−ブロモ−3−メチルチオフェンとのカップリング反応を促進させ、下記[化4B]で示す3−メチル−2,2’:5’2’’−テルチエニルを得た。
【0091】
【化4B】

【0092】
その後、N−ブロモスクシンイミド〔東京化成工業製〕2gを用いて、上記[化4B]中のメチル基をブロモ化し、下記[化4C]で示す3−ブロモメチル−2,2’:5’2’’−テルチエニルを得た。
【0093】
【化4C】

【0094】
次に、マロン酸ジエチル〔東京化成工業製〕2gとナトリウムエチラート0.2gとをジメチルホルムアミドに混合した溶液中に、上記[化4C]を15分かけて滴下した。90℃で8時間反応させた後、室温に冷却するとともに、希塩酸中に投入しエチルエーテルを用いて分液抽出した。さらに、水相にエチルエーテルを注ぎ、分液抽出作業を5回くり返した。全てのエチルエーテルを蒸留水で分液し、無水硫酸ナトリウムで油相の水分を除去し、ロータリーエバポレートでエチルエーテルを除去して、下記[化4D]で示す2−カルボキシエチル−3−〔3−(2,2’:5’2’’−テルチエニル)〕プロピオン酸エチルを得た。
【0095】
【化4D】

【0096】
続いて、水酸化ナトリウム水溶液に上記[化4D]を投入し、3時間還流してエステルを加水分解した。また、室温に冷却し水相を回収するとともに、油相に水酸化ナトリウム水溶液を入れて分液抽出し、すべての水相を希塩酸に投入して酸性化した。エチルエーテルによる分液抽出を3回くり返した後、無水硫酸ナトリウムで油相の水分を除去し、ロータリーエバポレートでエチルエーテルを除去して、下記[化4E]で示す2−カルボキシ−3−〔3−(2,2’:5’2’’−テルチエニル)〕プロピオン酸を得た。
【0097】
【化4E】

【0098】
上記[化4E]を160℃で脱炭酸反応させて、下記[化4F]で示す3−〔3−(2,2’:5’2’’−テルチエニル)〕プロピオン酸を得た。
【0099】
【化4F】

【0100】
次に、テトラヒドロフランに上記[化4F]を溶解させ、0℃で水素化アルミニウムリチウムのテトラヒドロフラン1M溶液〔アルドリッチケミカル製〕0.4gを徐々に加えて4時間還元反応させた。続いて、0℃で水を滴下し還元剤を不活性化した後、水酸化ナトリウム水溶液およびエチルエーテルを加えて油相を分液した。その後、水相にエチルエーテルを注ぎ、分液抽出を3回くり返し、無水硫酸ナトリウムで油相の水分を除去して、下記[化4G]で示す3−〔3−(2,2’:5’2’’−テルチエニル)〕プロパノールの溶液を得た。
【0101】
【化4G】

【0102】
上記[化4B]から[化4G]までの合成スキームを5度くり返し、それぞれで得られた[化4G]の溶液を全部合わせた溶液に、ピリジン20mlに塩化メタンスルホニル〔東京化成工業製〕3.6mlを溶解させた液を5℃で滴下した。なお、滴下は20分かけて行い、温度は10℃以下を維持した。反応を進めるために撹拌しながら一晩放置した後、塩酸を加えて分液抽出した。油相に蒸留水を注ぎ、分液抽出を3回くり返した。その後、無水硫酸ナトリウムで油相の水分を除去し、ロータリーエバポレートで有機溶媒を除去して、下記[化4H]で示す3−〔3−(2,2’:5’2’’−テルチエニル)〕プロピルスルホン酸メチルを得た。
【0103】
【化4H】

【0104】
その後、アセトニトリルに、上記[化4H]を0.15mol/リットル、過塩素酸テトラブチルアンモニウムを0.15mol/リットル溶解させた後、0℃で2.1Vの電圧をかけて、ニッケル電極上に下記[化4I]で示すくり返し構造単位を有する導電性高分子を重合させた。
【0105】
【化4I】

【0106】
続いて、得られたニッケル電極上の導電性高分子を60℃の塩酸で4時間処理し、側鎖のスルホン酸メチルを加水分解して、下記[化4J]で示すくり返し構造単位を有する導電性高分子を得た。
【0107】
【化4J】

【0108】
次に、ニッケル電極上の導電性高分子を、水に5回浸漬して塩酸を除去した後、110℃で乾燥させた。その後、乾燥させた導電性高分子をアセトニトリルに3回浸漬し、さらに蒸留水に3回浸漬して、表面に付着している塩類を除去した。最後に、導電性高分子を再度乾燥させた後、これをエタノール20%水溶液に溶解してインクを完成させた。
【0109】
<比較例1>
アセトニトリルに、0.3mol/リットルの2−(3−チエニル)エチルスルホン酸メチルと、0.15mol/リットルの過塩素酸テトラブチルアンモニウムとを溶解させた後、0℃で2.1Vの電圧をかけてニッケル電極上に導電性高分子を重合した。なお、2−(3−チエニル)エチルスルホン酸メチルは、実施例2と同様にして準備した。
【0110】
続いて、得られたニッケル電極上の導電性高分子を60℃の塩酸で4時間処理し、側鎖のスルホン酸メチルを加水分解した。その後、ニッケル電極上の導電性高分子を、水に5回浸漬して塩酸を除去した後、110℃で乾燥させた。その後、乾燥させた導電性高分子をアセトニトリルに3回浸漬し、さらに蒸留水に3回浸漬して、表面に付着している塩類を除去した。最後に、導電性高分子を再度乾燥させた後、これをエタノール20%水溶液に溶解してインクを完成させた。
【0111】
上記実施例1〜4および比較例1の導電性高分子について、元素分析機(パーキンエルマー社製2400CHNS)を用いて、導電性高分子中の炭素原子に対する水素原子の数の比、および硫黄原子の数の比を測定した。
【0112】
また、上記導電性高分子が、側鎖を持たないチオフェン環と側鎖のあるチオフェン環のみで構成されるとして、側鎖にアニオンを持つチオフェン環の割合をpとし、下記[数1]により、導電性高分子中のアニオンの価数1に対する、共役結合群を形成している原子の個数(r)を算出した。なお、[数1]中のx、yは、それぞれ導電性高分子中の炭素原子の数に対する、水素原子の数の比、硫黄原子の数の比を反映する。また、[数1]中のnの値は、各実施例や各比較例で用いた側鎖の水素数であって、実施例1、3および4では6に、実施例2および比較例1では4に設定した。
【0113】
【数1】

【0114】
測定により得られたx値、y値、および[数1]により算出したr値を表1に示す。なお、表1中のr値としては、[数1]の計算値の小数点2桁以下を四捨五入した値を示す。
【0115】
【表1】

【0116】
[安定性試験]
上記導電性高分子のインクを用いて作製した導電性部材における、導電性能の安定性を調べるため、以下の安定性試験を行った。
【0117】
まず、ガラス板上に、電極間隔が0.5mmとなるように金電極を蒸着した。次に、当該金電極間に、上記実施例1〜4および比較例1の導電性高分子のインクを0.1mmの幅でパターニングして、導電性部材を形成した。なお、当該導電性部材の厚さは約25μmとした。導電性部材上にアクリル樹脂を塗布し、これを光硬化させて保護膜を形成し、試験用セルを作製した。
【0118】
上記試験用セルを80℃の恒温槽に入れ、金電極間に0.05mAの電流を170時間流し続ける安定性試験を行い、試験用セルにおける導電性の維持比を調べた。なお、導電性とは、電流値を電圧値で除した値(電気抵抗の逆数)である。結果を表2に示す。
【0119】
【表2】

【0120】
また、連続通電による負荷を与えずに、それぞれの試験用セルを80℃の恒温槽中に170時間保存する、無負荷高温保存試験に対する結果を表3に示す。
【0121】
【表3】

【0122】
表2および表3で示すように、実施例1〜4の導電性高分子のインクを用いて作製した導電性部材では、無負荷高温保存試験および安定性試験のいずれに対しても、優れた導電性維持比が得られた。他方、比較例1の導電性高分子を用いて作製した導電性部材では、無負荷高温保存試験に対しては高い導電性維持比が得られるものの、安定性試験に対しては低い導電性維持比を示したことから、負荷高温保存特性に劣ることが判った。
【0123】
[電気回路の作製]
実施例1〜4の導電性高分子のインクを用いて、導電性部材を含む電気回路素子を以下のようにして作製した。まず、ITO(スズドープ酸化インジウム)の膜が形成されたガラス基板であるITOガラス基板99を、光硬化樹脂でマスキングした後、1個の素回路に図4で示すパターン形状を形成するようにエッチングした。なお、1個の素回路は縦横とも0.6mmの大きさとし、1枚のガラス基板上に、縦横それぞれ5列の素回路(合計25個の素回路)を形成するようにエッチングした。これにより、素回路中のパターン形状に合わせて、図1の平面図で示すように、ITOガラス基板99上の所定位置に、データライン93の前駆体と、グランドライン91と、選択ライン92とを形成した。また発光部の電極42を形成した。
【0124】
その後、図1のA−B線断面図である図2で示すように、ITOガラス基板99上の所定位置にアルミニウムを700nm蒸着し、選択トランジスタ(その詳細は後述する)のゲート電極25を形成した。なお、ガラス基板99から入光する外光や発光部の光によって、選択トランジスタが誤動作すること、例えばOFF電流が大きくなることがなければ、ITOガラス基板の所定部位をゲート電極として用いてもよい。
【0125】
続いて、ゲート電極25の上に200nmの厚さのSiO膜を堆積させて、選択トランジスタのゲート絶縁体24を形成した。これと同時に、選択ライン92と後述するデータライン93との交点となる箇所、およびグランドライン91とデータライン93の交点となる箇所に、スパッタリング法を用いて、SiOの絶縁体をそれぞれ200nmの厚さで堆積させた。
【0126】
次に、ITOガラス基板99上の所定位置に金を700nm蒸着させて、駆動トランジスタ(その詳細は後述する)のゲート電極15を形成した。また、これと同時に、選択ラインまたはグランドラインとデータラインとの交点となる箇所に形成した絶縁体の上にも金を蒸着して、データライン前駆体の断線箇所を電気的に結合し、データライン93を完成させた。
【0127】
その後、駆動トランジスタのゲート電極15上の所定位置に、スパッタリング法を用いてSiO層を200nm堆積させ、駆動トランジスタのゲート絶縁体14を形成した。なお、このゲート電極15は、後述する駆動トランジスタの電極13と対向する部位において電圧記憶キャパシタ31を形成するとともに、当該電圧記憶キャパシタの電極32(図5参照)としても機能する。また、駆動トランジスタのゲート絶縁体14は、電圧記憶キャパシタの電極間絶縁体34(図5参照)としても機能する。さらに、ゲート電極15の作製と同時に、選択トランジスタの電極22を形成した。
【0128】
続いて、発光部の電極42および駆動トランジスタのゲート絶縁体14の上に金を300nm蒸着させて、駆動トランジスタの電極12を形成した。
【0129】
次に、上記導電性高分子が溶解したインクを、データライン93と選択トランジスタのゲート絶縁体24の上にインクジェット印刷して、選択トランジスタの電極23を作製した。また、同様にして、グランドライン91と駆動トランジスタのゲート絶縁体14の上に駆動トランジスタの電極13を作製した。なお、この電極13は、電圧記憶キャパシタの電極33(図5参照)としても機能する。
【0130】
基板温度を90℃とした後、選択トランジスタの電極22、23およびゲート絶縁体24上の所定位置に、ペンタセンを0.1nm/sの速さで100nm真空蒸着させ、図3で示すように、選択トランジスタの有機半導体層26を形成して選択トランジスタ21を完成させた。また、同様にして、駆動トランジスタの電極12、13およびゲート絶縁体14上の所定位置に、駆動トランジスタの有機半導体層16を形成して駆動トランジスタ11を完成させた。
【0131】
次に、基板温度を35℃以下とした後、発光部の電極42上の所定位置に、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンを0.3nm/sの速さで25nm真空蒸着した後、さらにアルミニウムトリス(8−ヒドロキシキノリン)を0.3nm/sの速さで25nm真空蒸着して、発光部の有機層44を形成した。
【0132】
続いて、この有機層44上にアルミニウムを700nm蒸着して、発光部の金属電極43を形成した。なお、選択トランジスタの有機半導体層26および駆動トランジスタの有機半導体層16を形成する工程から、発光部の金属電極43を形成する工程までは、一貫して真空中で取り扱った。
【0133】
その後、スパッタリング法により、SiO膜を400nm堆積させて保護層を形成し、さらにアルミニウムを500nm蒸着して電源ラインを形成した。最後に、アルミニウムキャップでそれぞれの素回路上を覆い、電気回路素子を完成させた。各素回路の回路図を図5に示す。
【0134】
この図5で示すように、素子の発光部の点灯中に恒常的に電流が流れる配線部分および電極部分には、上記導電性高分子を含む導電性部材が用いられている。
【0135】
ここで、素子の電源ライン94に−40Vの電圧を、グランドラインに0Vの電圧を印加し、以下の走査A〜Dのようにして素子を駆動させ、発光部の点灯・消灯動作を確認した。動作確認に先んじて、まず、すべてのデータライン93に0Vの電圧を、すべての選択ライン92に−40Vの電圧を印加して、発光部の表示状態を初期化した。その後、すべての選択ライン92に0Vの電圧を印加して素子を初期状態とした。
【0136】
[走査A]すべてのデータライン93に−40Vの電圧を印加し、選択ライン92の印加電圧を0Vから−40Vにし、再度0Vに調節する走査を60Hzですべての走査線に対して順次行ったところ、すべての素回路において発光部が点灯し続けていた。
【0137】
[走査B]すべてのデータライン93に0Vの電圧を印加し、選択ライン92の印加電圧を0Vから−40Vにし、再度0Vに調節する走査を60Hzですべての走査線に対して順次行ったところ、すべての素回路において発光部が消灯し続けていた。
【0138】
[走査C]奇数番目の走査線に対しては、奇数番目のデータライン93に−40Vを印加し、また偶数番目のデータライン93に0Vを印加し、選択ライン92の印加電圧を0Vから−40Vにし、再度0Vに調節、また、偶数番目の走査線に対しては、奇数番目のデータライン93に0Vを印加し、また偶数番目のデータライン93に−40Vを印加し、選択ライン92の印加電圧を0Vから−40Vにし、再度0Vに調節する走査、を60Hzですべての走査線に対して順次行ったところ、選択ラインとデータラインともに奇数またはともに偶数の素回路が点灯するとともにそれ以外の素回路が消灯し、市松模様状の点灯パターンが形成された。
【0139】
[走査D]上記走査Aと走査Bとを60Hzで交互に行ったところ、発光部が30Hzで点滅発光していた。なお、点滅発光の確認には光電変換器を用いた。
【0140】
以上説明したように、実施例1〜4の導電性高分子のインクを用いて作製した電気回路は、良好に駆動することが確認された。
【0141】
なお、本発明はこれら実施例で示した態様に限られず、上記実施の形態で述べたような種々の態様をとることができる。また、導電性高分子を材料とした導電部材の形成手段を特に限定するものではない。
【0142】
また、電気回路中の当該導電部材以外の部材についても特に限定するものではない。例えば、上記実施例では、基板と逆面からの入光を遮光する保護手段を配してはいないが、公知の遮光膜などの保護手段を設けてもよいのは勿論である。また、電子やホールなどの電荷の注入や移動を促進または阻害する公知の修飾層を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は、電気回路を使用する種々の電子機器に適用することができる。このような電子機器としては、例えば、スイッチング素子や駆動回路や制御回路などを使用したディスプレイ、半導体回路装置を使用した携帯機器、無線ICタグなどの機器、論理回路、記録回路、発振回路、フィルター回路などのデジタル回路やアナログ回路、記録機器などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】作製途中にある実施例および比較例の電気回路の平面概念図である。
【図2】図1で示す作製途中の電気回路のA−B線断面概念図である。
【図3】図2で示す作製段階よりもさらに工程が進んだ電気回路の断面概念図である。
【図4】ITO基板のエッチングパターンを示す平面概念図である。
【図5】実施例および比較例で作製した電気回路の回路図である。
【符号の説明】
【0145】
11 駆動トランジスタ
12 電極
13 電極
14 ゲート絶縁体
15 ゲート電極
16 有機半導体層
21 選択トランジスタ
22 電極
23 電極
24 ゲート絶縁体
25 ゲート電極
26 有機半導体層
31 電圧記憶キャパシタ
32 電極
33 電極
34 電極間絶縁体
41 発光部
42 電極
43 電極
44 有機層
91 グランドライン
92 選択ライン
93 データライン
94 電源ライン
99 ITOガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性部材を含む電気回路であって、
前記導電性部材が導電性高分子を含み、
前記導電性高分子が、導電性に寄与する共役結合群と、アニオンを含有する側鎖とを含み、
前記導電性高分子中で前記共役結合群を形成している原子の個数が、前記アニオンの価数1に対して、8個以上12個以下の範囲にある電気回路。
【請求項2】
前記原子の個数が、前記アニオンの価数1に対して8個よりも多い請求項1に記載の電気回路。
【請求項3】
前記導電性部材が電極を含み、前記電極がホール伝導性の有機半導体層に接して設けられている請求項1に記載の電気回路。
【請求項4】
前記導電性高分子の主鎖が前記共役結合群を含む請求項1に記載の電気回路。
【請求項5】
導電性部材を含む電気回路の製造方法であって、
導電性に寄与する共役結合群と、アニオンを含有する側鎖とを含み、前記アニオンの価数1に対して、前記共役結合群を形成している原子の個数が8個より大きく12個以下の範囲にある導電性高分子を合成する導電性高分子合成工程と、
前記導電性高分子を含む溶液を基板上に塗布して前記導電性部材を形成する工程と
を含み、
前記導電性高分子合成工程が、第1の置換基を含む単環式の第1のモノマーと、前記第1の置換基を含まない単環式の第2のモノマーとを重合する工程と、前記第1の置換基のみをアニオンを含む基とする工程とを含む電気回路の製造方法。
【請求項6】
前記第2のモノマーが置換基を有していない請求項5に記載の電気回路の製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−310023(P2006−310023A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129628(P2005−129628)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】