説明

電気機械変換膜の製造方法、電気機械変換素子の製造方法、該製造方法により製造した電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置

【課題】所望パターンの電気機械変換膜を形成することができる。
【解決手段】PZT前駆体溶液17の成分の一部を含むバンク形成溶液15を液滴吐出ヘッド14により基板11の第1の電極上の所定部分に選択的に塗布することで、基板11の第1の電極上の所定部分を囲むように形成されたバンク膜16が所定部分の周縁に向って盛り上がる。そして、このバンク膜16を乾燥させてバンクを形成する。このバンクで囲まれた内側の当該所定部分に、電気機械変換膜18を形成するための原料を含むPZT前駆体溶液17の液滴を液滴吐出ヘッド14のノズルから吐出させて塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換膜の製造方法、電気機械変換素子の製造方法、該製造方法により製造した電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気機械変換膜を電極で挟むように構成された電気機械変換素子は、例えばインクの液滴を吐出する液体吐出ヘッドを備え、媒体を搬送しながらインク滴を用紙に付着させて画像形成を行うインクジェット記録装置で用いられている。ここでの媒体は「用紙」ともいうが材質を限定するものではなく、被記録媒体、記録媒体、転写材、記録紙なども同義で使用する。また、画像形成装置は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液体を吐出して画像形成を行う装置を意味する。そして、画像形成とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与する(単に液滴を吐出する)ことをも意味する。また、インクとは、所謂インクに限るものではなく、吐出されるときに液体となるものであれば特に限定されるものではなく、例えばDNA試料、レジスト、パターン材料なども含まれる液体の総称として用いる。
【0003】
そして、上記インクジェット記録装置は、主として、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する吐出室、加圧液室、圧力室、インク流路等を称する液室と、該液室内のインクを吐出するための圧力発生手段とで構成されている。この圧力発生手段として、圧電素子などの電気機械変換素子を用いて吐出室の壁面を形成している振動板を変形変位させることでインク滴を吐出させるピエゾ型の圧力発生手段が知られている。このピエゾ型の圧力発生手段に使用される電気機械変換素子は、下部電極(第1の電極)と、電気機械変換層と、上部電極(第2の電極)とが積層したものからなる。各圧力室にインク吐出の圧力を発生させるのに個別の圧電素子が配置されることになる。電気機械変換層は電気機械変換膜を形成する工程を複数回行って形成される。電気機械変換膜はジルコン酸チタン酸鉛(PZT)セラミックスなどが用いられ、これらは複数の金属酸化物を主成分としているので一般に金属複合酸化物と称される。
【0004】
この電気機械変換膜の製造方法としては、スパッタリング法、ゾルゲル法、CVD法、レーザアブレーション法等があるが、これらのうち、ゾルの塗布、乾燥、脱脂、焼成という工程により成膜するゾルゲル法は、結晶状態の制御性に優れている。このゾルゲル法を用いた電気機械変換膜の製造方法として、特許文献1に記載されているものが知られている。この特許文献1の製造方法では、電気機械変換膜を形成するための原料を含む塗布液の液滴をノズルから吐出させる液滴吐出方式によって白金(Pt)の電極上の所定部分に上記塗布液を滴下してパターン化している。そして、電極上に滴下した上記塗布液の膜を乾燥させ、乾燥させた塗布液の膜を熱分解して結晶化させて電気機械変換膜を形成している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の製造方法では、上記塗布液の粘度が低いので、白金(Pt)の電極上に滴下した上記塗布液は電極上で濡れ広がってしまう。このため、電気機械変換膜の所望のパターンが崩れてしまっていた。
【0006】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、所望のパターンの電気機械変換膜を形成することができる電気機械変換膜の製造方法、電気機械変換素子の製造方法、該製造方法により製造した電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、電気機械変換膜を形成するための原料を含む塗布液を第1の電極上の所定部分に選択的に塗布する塗布工程と、前記第1の電極上に塗布した塗布液の膜を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥させた塗布液の膜を熱分解して結晶化させる結晶化工程とを有する電気機械変換膜の製造方法において、前記塗布工程は、前記塗布溶液の成分の一部を含んでいるバンク膜形成溶液を第1の電極上の所定部分に塗布し、前記バンク膜形成溶液がコーヒーステイン現象により第1の電極上の所定部分の周縁に向かって流れて該周縁で盛り上がり第1の電極上の所定部分を囲むようにバンク膜を形成するバンク膜形成工程と、該バンク膜を乾燥させて前記所定部分の周縁に沿ってバンクを形成するバンク形成工程とを有し、前記溶液塗布工程及び前記バンク形成工程を行い、形成された前記バンクで囲まれた内側に前記塗布液を塗布し、前記乾燥工程及び前記結晶化工程を行って前記電気機械変換膜を製造することを特徴とするものである。
【0008】
本発明においては、電気機械変換膜を形成するための原料を含む塗布液の液滴をノズルから吐出させて第1の電極上の所定部分に選択的に塗布するとき、上記バンク膜形成工程でバンク膜を形成した後上記バック形成工程で形成されたバンクで第1の電極上の所定部分を囲む。そのバンクで囲まれた内側の第1の電極上の所定部分に上記塗布液を塗布することで濡れ広がることがなくなり、上記塗布液は第1の電極上の所定部分のみに塗布される。これにより、所望のパターンの電気機械変換膜を形成できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、所望のパターンの電気機械変換膜を形成することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気機械変換膜の製造工程を示す工程断面図である。
【図2】実施例で作製したPZT膜のP−Eヒステリシス曲線の一例を示す特性図である。
【図3】本実施形態の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出塗布装置の構成を示す斜視図である。
【図4】SAM膜を除去した電極露出面及びSAM膜を配置したままの表面における純水の接触角の各様子を示す説明図である。
【図5】本実施形態の製造方法で製造した電気機械変換素子を用いて構成した液吐出ヘッドの一構成例を示す概略構成図である。
【図6】図5の液吐出ヘッドを複数並べた構成例を示す概略構成図である。
【図7】本実施形態の製造方法で製造した電気機械変換素子を用いることができる液滴吐出装置の一構成例を示す概略構成図である。
【図8】液滴吐出装置の一構成例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本実施形態では、圧電定数d31の変形を利用した横振動(ベンドモード)型の電気機械変換膜を有する電気機械変換素子を例として説明するが、本発明はこの型の電気機械変換膜に限定されることなく適用可能である。
【0012】
電気機械変換膜がPZT膜の場合、酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、ノルマルブトキシドジルコニウムを出発材料として合成したPZT前駆体溶液を用いることができる。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解した後、脱水する。化学量論的組成に対し鉛量を10モル%過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。イソプロポキシドチタン、ノルマルブトキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、上記酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と均一に混合することによりPZT前駆体溶液を合成することができる。このPZT前駆体溶液のPZT濃度は例えば0.1モル/リットルにする。以上の方法で合成したPZT前駆体溶液を用いた。
【0013】
また、電気機械変換膜がPZT膜の場合のPZT前駆体溶液は、非特許文献1に記載されている、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ、均一溶液として得るようにしてもよい。上記PZT前駆体溶液は「ゾルゲル液」とも呼ばれる。
【0014】
PZTとは、ジルコン酸鉛(PbZrO)とチタン酸鉛(PbTiO)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成はPbZrOとPbTiOの比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O、一般にPZT(53/47)と示される。酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物の出発材料は、この化学式に従って秤量される。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加してもよい。
【0015】
PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムなどが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
【0016】
また、下地となる基板上の第1の電極の表面に電気機械変換膜としてのパターン化したPZT膜を得る場合、上記溶液を塗布液として液滴吐出方式で塗布することにより塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことでパターン化したPZT膜が得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100[nm]以下の膜厚が得られるようにするのが好ましい。そして、前駆体濃度は、電気機械変換膜の成膜面積とPZT前駆体溶液の塗布量との関係から適正化するように調整するのが好ましい。また、液滴吐出装置の電気機械変換素子として用いる場合、このPZT膜の膜厚は1[μm]〜2[μm]が要求される。この膜厚を得るには十数回、工程を繰り返すことになる。
【0017】
更に、ゾルゲル法によるパターン化した電気機械変換層の形成の場合には、下地となる基板の濡れ性を制御したPZT前駆体溶液の塗り分けをする。これは、非特許文献2に示されているアルカンチオールが特定金属上に自己配列する現象を利用したものであり、まず、基板の白金族金属の表面に、チオールのSAM(Self assembled monolayer)膜を形成する。SAM膜上はアルキル基が配置しているので、疎水性になる。このSAM膜は、例えば周知のフォトリソグラフィ・エッチングにより、フォトレジストを用いてパターニングすることができる。レジスト剥離後も、パターン化SAM膜は残っているので、この部位は疎水性になっている。一方、SAM膜が除去された部位は白金表面が露出しているため、親水性になっている。この表面エネルギーのコントラストを利用してPZT前駆体溶液の塗り分けをすることができる。本実施形態では、上記SAM膜を、PZT前駆体溶液を塗布しない領域に選択的に形成した後、以下に示すように、PZT前駆体溶液の消費量を低減することができる液滴吐出方式による塗工(インクジェット塗工)でPZT前駆体溶液を選択的に塗布している。
【0018】
図1は本発明の一実施形態に係る電気機械変換膜の形成を伴う電気機械変換素子の製造工程を示す工程断面図である。同図の(a)に示す基板11の表面(上面)には、チオールとの反応性に優れた第1の電極としての図示しない白金族金属からなる白金電極が、例えばスパッタ法により形成されている。この基板11の白金電極の表面に、同図の(b)に示すようにSAM膜12が形成される。SAM膜12は、アルカンチオール液に基板11をディップして自己配列させることで得られる。本例では、CH(CH)−SHのアルカンチオールの分子を一般的な有機溶媒(アルコール、アセトン、トルエンなど)に所定濃度(例えば、数mol/l)で溶解させたアルカンチオール液を用いた。このアルカンチオール液に基板11を浸漬させ、所定時間後に取り出した後、余剰な分子を溶媒で置換洗浄し乾燥することにより、白金電極の表面にSAM膜12を形成することができる。次に、同図の(c)に示すように、フォトリソグラフィーによりフォトレジスト13をパターン形成し、同図の(d)に示すようにドライエッチング(例えば、酸素プラズマの照射又はUV光の照射)によりSAM膜12を除去し、加工に用いたフォトレジスト13を除去してSAM膜12のパターニングを終了する。このように形成されたSAM膜12は、純水に対する接触角が例えば92度であり、疎水性を示す。一方、SAM膜12が除去されて露出した基板11の白金電極の表面は、純水に対する接触角が例えば54度であり、親水性を示す。基板11に先に電気機械変換膜のパターン位置にフォトレジストパターンを形成し、SAM処理を行い、フォトレジストパターンを除去することで、図1の(d)のパターニングされたSAM膜を得てもよい。また、図1の(b)に示すようにSAM膜12が形成された後、マスクを介して紫外線を照射することで未露光部にはSAM膜12が残り、露光部にはSAM膜12が消失することで、図1の(d)のパターニングされたSAM膜を得てもよい。
【0019】
次に、図1の(d)の工程を行った後、バック形成溶液15をパターニングされたSAM膜12が除去されて露出している基板11の白金電極の表面に、液滴吐出方式、具体的には液滴吐出ヘッド14により塗布した(図1の(e)参照)。液滴吐出方式以外の方式ではディスペンサ方式を用いて定量を塗布する。このバンク形成溶液15はPZT前駆体溶液の組成と同じであり、溶媒が異なる溶液である。このバンク形成溶液15にはバンク形成に必要な高さを形成する表面張力と粘度を持つ溶媒が加えられている。この溶媒の組成は求めるバンクの高さに応じて異なる。そして、塗布されたバンク形成溶液15の塗膜では、撥液と親液との表面エネルギー差によってコーヒーステイン現象が生じ、バンク膜16が形成される。このコーヒーステイン現象とは、溶質を溶媒に溶解させた液滴を乾燥させる際に発生する現象である。すなわち、基板に広がった液膜の外縁部、つまり周縁部の蒸発量が他の部分よりも多いため、それを補うように液が周縁部に向かって流れ、その結果乾燥後周縁部が盛り上がった膜が形成される現象である。そして、このバンク膜16を乾燥、有機物分解、結晶化処理を行う(図1の(f)参照)。このときのバンク膜16の高さ(厚さ)は約250[nm]であった。そして、バンク内に液滴吐出ヘッド14によってPZT前駆体溶液17を塗布する(図1の(g)参照)。その後、図1の(g)に示す塗布工程を3回繰り返して250[nm]の電気機械変換膜15を得た後、結晶化熱処理(温度700℃)をRTA(急速熱処理)にて行った(図1の(h)参照)。得られた電気機械変換膜18にはクラックなどの不良は生じなかった。
【0020】
更に、SAM処理を行い、電気機械変換膜18以外の基板11の白金電極の表面にSAM膜12を形成する(図1の(i)参照)。そして、バック形成溶液15を電気機械変換膜18に液滴吐出ヘッド14によって塗布し、電気機械変換膜18上にバンク膜16形成する(図1の(j)参照)。このバンク膜16を乾燥、有機物分解、結晶化処理を行う(図1の(k)参照)。そして、バンク内に液滴吐出ヘッド14によるPZT前駆体溶液17の塗布、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで電気機械変換膜18が得られる(図1の(l)、(m)参照)。電気機械変換膜18が所望の膜厚となるまで図1の(j)〜(m)の工程を繰り返す(図1の(n)参照)。
【0021】
また、表面改質工程、塗布工程、乾燥工程及び熱分解工程を4回繰り返した後、結晶化処理を行った。その結果、クラックなどの不良が生じることなく、PZT膜の膜厚は1000[nm]に達した。1回のPZT前駆体溶液の塗布量を定量にして塗布し、一連の工程を繰り返すことで所望の膜厚の電気機械変換膜を簡単に形成することができる。このパターン化したPZT膜に白金からなる上部電極(第2に電極)をスパッタリング成膜して電気機械変換素子を形成し、電気特性、電気−機械変換能(圧電定数)の評価を行った。その結果、図2のP(分極)−E(電界強度)のヒステリシス曲線が得られ、PZT膜の比誘電率は1220、誘電損失は0.02、残留分極は19.3[μC/cm]、抗電界は36.5[kV/cm]であり、通常のセラミック焼結体と同等の特性を持っていることがわかった。また、電気−機械変換能は電界印加による変形量をレーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。その圧電定数d31は120[pm/V]となり、こちらもセラミック焼結体と同等の値であった。この値は液体吐出ヘッドに用いる圧電素子として十分設計できうる特性値である。更に、バンクを除くバンク膜の膜厚はバンクの膜厚より薄いことが望ましい。第1の電極に接触するバック形成溶液の影響、例えば接続不良を低減できる。また、バンクの膜厚が結晶化工程後の電気機械変換膜の膜厚と略同一であることが望ましい。バンク内に塗布するPZT前駆体溶液の漏れを回避できる。
【0022】
更に、バンク形成溶液としてPZTではなく、PT(チタン酸鉛)やPZ(ジルコン酸鉛)によることで、有機物分解や結晶化などの高温プロセスで起こる分解速度の違いによる組成変動を抑制でき、電気機械変換膜の端部における組成ズレによる耐圧低下を抑制できる。また、レーザで結晶化処理を行うことで、パターン外への熱によるダメージ、例えば熱応力の蓄積や基板の各層の拡散が低減できる。
【0023】
図3は本実施形態の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出塗布装置の構成を示す斜視図である。本実施形態の液滴吐出ヘッド200を搭載した図3に示す液滴吐出塗布装置60によれば、架台61の上に、Y軸駆動手段62が設置してあり、その上に基板63(図1の基板11に相当する)を搭載するステージ64がY軸方向に駆動できるように設置されている。ステージ64には図示されていない真空、静電気などの吸着手段が付随して設けられており、基板63が固定されている。また、X軸支持部材65にはX軸駆動手段66が取り付けられており、これにZ軸駆動手段67上に搭載されたヘッドベース68が取り付けられており、X軸方向に移動できるようになっている。ヘッドベース68の上には液体を吐出させる液滴吐出ヘッド69が搭載されている。この液滴吐出ヘッド69には図示されていない液体タンクから供給用パイプ70を介して液体(PZT前駆体溶液)が供給される。
【0024】
ここで、溶液は出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、ノルマルブトキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を10モル%過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。イソプロポキシドチタン、ノルマルブトキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、先記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。このPZT濃度は0.1[mol/l]にした。
【0025】
更に、イリジウム金属、または白金膜を配置した試料で下部電極(第1の電極)を形成したところ、SAM膜12を除去した電極露出面における純水の接触角は、すべての試料において5°以下(完全濡れ)であった(図4の(a)参照)。一方、SAM膜12を配置したままの表面における純水の接触角は、すべての試料において90°程度であった(図4の(b)参照)。
【0026】
図5は上記製造方法で製造した電気機械変換素子(PZT素子)を用いて構成した液滴吐出ヘッドの一構成例を示す概略構成図である。図示の例では、液室基板となるシリコン基板20上に、振動板30、密着層41及び下部電極(第1の電極)42を積層し、その下部電極(第1の電極)42上の所定部分に、上記簡便な製造方法により、バルクセラミックスと同等の性能を持つ電気機械変換素子(PZT素子)43及び上部電極44をパターン化して形成することができる。その後、シリコン基板20の裏面(図中の下面)からエッチング除去工程により液室21を形成し、ノズル孔21を有するノズル板22を接合することにより、液体吐出ヘッド50を作製することができる。なお、図中には液体供給手段、流路、流体抵抗についての記述は省略した。また、図5の液滴吐出ヘッド50は、図6に示すように複数個並べるように構成することもできる。
【0027】
図7は上記製造方法で製造した電気機械変換素子を用いることができる液滴吐出装置の一構成例を示す概略構成図である。また、図8は、同液滴吐出装置の概略透視斜視図である。両図に示す本発明の液滴吐出装置は、上述した本発明の電気機械変換素子の製造方法によって製造された電気機械変換素子を具備する液滴吐出ヘッドを搭載している。両図に示す本発明の液滴吐出装置の一例であるインクジェット記録装置100は、主に、記録装置本体の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ101と、キャリッジ101に搭載した本発明を実施して製造した液滴吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッドからなる記録ヘッド102と、記録ヘッド102へインクを供給するインクカートリッジ103とを含んで構成される印字機構部104を有している。また、装置本体の下方部には前方側から多数枚の用紙105を積載可能な給紙カセット106を抜き差し自在に装着することができ、また用紙105を手差しで給紙するための手差しトレイ107を開倒することができ、給紙カセット106或いは手差しトレイ107から給送される用紙105を取り込み、印字機構部104によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ108に排紙する。
【0028】
印字機構部104は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド109と従ガイドロッド110とでキャリッジ101を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ101にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係る液滴吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッドからなる記録ヘッド102を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ101には記録ヘッド102に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ103を交換可能に装着している。インクカートリッジ103は上方に大気と連通する大気口、下方には記録ヘッド102へインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により記録ヘッド102へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。
【0029】
また、記録ヘッド102としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。ここで、キャリッジ101は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド109に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド110に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ101を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ111で回転駆動される駆動プーリ112と従動プーリ113との間にタイミングベルト114を張装し、このタイミングベルト104をキャリッジ101に固定しており、主走査モータ111の正逆回転によりキャリッジ101が往復駆動される。
【0030】
一方、給紙カセット106にセットした用紙105を記録ヘッド102の下方側に搬送するために、給紙カセット106から用紙105を分離給装する給紙ローラ115及びフリクションパッド116と、用紙105を案内するガイド部材117と、給紙された用紙105を反転させて搬送する搬送ローラ118と、この搬送ローラ118の周面に押し付けられる搬送コロ119及び搬送ローラ118からの用紙105の送り出し角度を規定する先端コロ120とを設けている。搬送ローラ118は副走査モータ121によってギヤ列を介して回転駆動される。そして、キャリッジ101の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ118から送り出された用紙105を記録ヘッド102の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材122を設けている。この印写受け部材122の用紙搬送方向下流側には、用紙105を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ123、拍車124を設け、さらに用紙105を排紙トレイ108に送り出す排紙ローラ125及び拍車126と、排紙経路を形成するガイド部材127,128とを配設している。
【0031】
記録時には、キャリッジ101を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド102を駆動することにより、停止している用紙105にインクを吐出して1行分を記録し、用紙105を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙105の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙105を排紙する。
【0032】
また、キャリッジ101の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド102の吐出不良を回復するための回復装置129を配置している。回復装置129はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ101は印字待機中にはこの回復装置129側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド102をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0033】
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
塗布溶液の組成と同じであって溶媒が異なるバンク膜形成溶液を第1の電極上の所定部分に塗布し、バンク膜形成溶液がコーヒーステイン現象により第1の電極上の所定部分の周縁に向かって流れて該周縁で盛り上がり第1の電極上の所定部分を囲むようにバンク膜を形成するバンク膜形成工程と、該バンク膜を乾燥させて所定部分の周縁にバンクを形成するバンク形成工程とを有し、溶液塗布工程及びバンク形成工程を行い、形成されたバンクで囲まれた内側に塗布液を塗布し、乾燥工程及び結晶化工程を行って電気機械変換膜を製造する。これによれば、上記実施形態について説明したように、PZT前駆体溶液の成分の一部を含有するバンク形成溶液15を液滴吐出ヘッド14により基板11の第1の電極上の所定部分に選択的に塗布することで、当該所定部分の周縁にバンク膜16を形成し、そして乾燥させてバンクを形成する。そして、このバンクで囲まれた当該所定部分に、電気機械変換膜を形成するための原料を含むPZT前駆体溶液17の液滴を液滴吐出ヘッド14のノズルから吐出させて塗布する。これにより、PZT前駆体溶液17はバンクで濡れ広がりを押さえられ基板11の第1の電極上の所定部部分のみに塗布されることになる。よって、所望パターンの電気機械変換膜を形成することができる。
(態様B)
(態様A)において、塗布工程を繰り返し、所望の膜厚の電気機械変換膜を形成する。これによれば、上記実施形態について説明したように、基板11の第1の電極上に塗布されたPZT前駆体溶液17はバンク膜16で囲まれた所定部分以外に濡れ広がらないため所定の膜厚が得られる。その後数回塗布工程を繰り返すことで所望の膜厚となる。これにより、塗布工程における塗布量を定量化することで、塗布工程の繰返し回数によって簡単に所望の膜圧の電気機械膜を形成することができる。
(態様C)
(態様A)において、バンクを除くバンク膜の膜厚はバンクの膜厚より薄い。これによれば、上記実施形態について説明したように、第1の電極に接触するバック形成溶液15の影響、例えば接続不良を低減できる。
(態様D)
(態様A)〜(態様C)のいずれかにおいて、バンクの膜厚が結晶化工程後の電気機械変換膜の膜厚と略同一である。これによれば、上記実施形態について説明したように、バンク内に塗布するPZT前駆体溶液17の漏れを回避できる。
(態様E)
(態様A)〜(態様D)のいずれかにおいて、塗布液及びバンク膜形成溶液は液滴吐出方式又はディスペンサ方式により塗布される。これによれば、上記実施形態について説明したように、液滴吐出ヘッド14を用いてバンク形成溶液15及びPZT前駆体溶液17の塗布量を定量化する。これにより、簡単に所望の膜圧の電気機械膜を形成することができる。
(態様F)
(態様A)〜(態様E)のいずれかの電気機械変換膜の製造方法により、第1の電極上に所定膜厚の電気機械変換膜を形成した後、その第1の電極上に形成した電気機械変換膜を挟むように第2の電極を配置する第2電極配置工程を有する。これによれば、上記実施形態について説明したように、第1の電極上に所定膜厚のパターン化した電気機械変換膜を形成した後、その第1の電極上に形成した電気機械変換膜を挟むように第2の電極を配置することにより、高品質の電気機械変換素子を製造できる。
(態様G)
(態様F)の電気機械変換素子の製造方法によって電気機械変換素子が製造される。これによれば、上記実施形態について説明したように、高品質の電気機械変換素子を製造できる。
(態様H)
(態様G)の電気機械変換素子を備えている。これによれば、上記実施形態について説明したように、高品質の液滴吐出ヘッドを製造できる。
(態様I)
(態様H)の液滴吐出ヘッドを備えている。これによれば、上記実施形態について説明したように、吐出不良を防止し、安定した吐出性能を維持できる液滴吐出装置を提供できる。
【符号の説明】
【0034】
11 基板
12 SAM膜
13 フォトレジスト
14 液滴吐出ヘッド
15 バンク形成溶液
16 バンク膜
17 PZT前駆体溶液
18 電気機械変換膜
100 インクジェット記録装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】特開2008−187302号公報
【非特許文献】
【0036】
【非特許文献1】K.D.Budd, S.K.Dey and D.A.Payne,Proc.Brit.Ceram.Soc.36,107(1985)
【非特許文献2】A.Kumar and G.M.Whitesides, Appl.Phys.Lett.,63,2002(1993)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(届出書の請求項1、5)
電気機械変換膜を形成するための原料を含む塗布液を第1の電極上の所定部分に選択的に塗布する塗布工程と、前記第1の電極上に塗布した塗布液の膜を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥させた塗布液の膜を熱分解して結晶化させる結晶化工程とを有する電気機械変換膜の製造方法において、
前記塗布工程は、前記塗布溶液の成分の一部を含んでいるバンク膜形成溶液を第1の電極上の所定部分に塗布し、前記バンク膜形成溶液がコーヒーステイン現象により第1の電極上の所定部分の周縁に向かって流れて該周縁で盛り上がり第1の電極上の所定部分を囲むようにバンク膜を形成するバンク膜形成工程と、該バンク膜を乾燥させて前記所定部分の周縁に沿ってバンクを形成するバンク形成工程とを有し、
前記溶液塗布工程及び前記バンク形成工程を行い、形成された前記バンクで囲まれた内側に前記塗布液を塗布し、前記乾燥工程及び前記結晶化工程を行って前記電気機械変換膜を製造することを特徴とする電気機械変換膜の製造方法。
【請求項2】
(届出書の請求項1)
請求項1記載の電気機械変換膜の製造方法において、
前記塗布工程を繰り返し、所望の膜厚の前記電気機械変換膜を製造することを特徴とする電気機械変換膜の製造方法。
【請求項3】
(届出書の請求項2)
請求項1記載の電気機械変換膜の製造方法において、
前記バンクを除く前記バンク膜の膜厚は、前記バンクの膜厚より薄いことを特徴とする電気機械変換膜の製造方法。
【請求項4】
(届出書の請求項3)
請求項1〜3のいずれかに記載の電気機械変換膜の製造方法において、
前記バンクの膜厚が前記結晶化工程後の前記電気機械変換膜の膜厚と略同一であることを特徴とする電気機械変換膜の製造方法。
【請求項5】
(届出書の請求項6)
請求項1〜4のいずれかに記載の電気機械変換膜の製造方法において、
前記塗布液及び前記バンク膜形成溶液は、液滴吐出方式又はディスペンサ方式により塗布されることを特徴とする電気機械変換膜の製造方法。
【請求項6】
電気機械変換素子の製造方法であって、
請求項1〜5のいずれかに記載の電気機械変換膜の製造方法により、前記第1の電極上に所定膜厚の電気機械変換膜を形成した後、その第1の電極上に形成した電気機械変換膜を挟むように第2の電極を配置する第2電極配置工程を有することを特徴とする電気機械変換素子の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の電気機械変換素子の製造方法によって製造されたことを特徴とする電気機械変換素子。
【請求項8】
(届出書の請求項8)
請求項7の電気機械変換素子を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
(届出書の請求項9)
請求項8の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする液滴吐出装置。

(発明者の方へコメント:第1、第2の電極を有する上記請求項6、7の電気機械変換素子が液滴吐出ヘッドに備わっておりますので、電気機械変換素子をクレーム化しました。そして、発明届出書の請求項4、請求項7は、クレーム化した他の請求項に比較し技術的意義を見出せないため、また貴社明細書ガイドラインの総請求項数を10項以内とする原則に伴い、クレーム化しておりませんが、クレーム化するならばご指示願います。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−65633(P2013−65633A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202331(P2011−202331)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】