説明

電気製品や家具等の転倒防止具

【課題】 優れた振動・衝撃吸収機能を有し、振動に弱い対象物や曲面が多い対象物に対しても適用することができ、対象物から離れた位置にある柱等の芯材に対する固定も可能であり、しかも部品点数が少なく、製造効率やコストの面でも優れている電気製品や家具等の転倒防止具を提供すること。
【解決手段】 コイルばねと、該コイルばねの内部に往復移動可能に挿通された線材とから構成され、前記コイルばねの内径は、一端部が他端部よりも小径に形成され、前記線材は撓曲可能な素材から形成されるとともに、その先端部には前記コイルばねの他端部の内径よりも小径で且つ一端部の内径よりも大径の抜け防止部が形成され、基端部には対象物又は壁面に固定される固定部が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震によって電気製品や家具等が転倒することを防ぐ為の転倒防止具に関し、より詳しくは、コイルばねの伸縮及び撓曲による衝撃吸収機能と、線材の往復スライド移動による変位対応機能との相乗効果によって、非常に優れた転倒防止効果を発揮し得る転倒防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国は世界有数の地震大国であり、数多くの尊い人命が地震によって失われている。
地震による被害者の中には、建物自体の倒壊による被害者の数も多いが、室内にある家具の転倒により下敷きとなった被害者の数も無視できないほど多いのが実情である。
また、人体への被害は無くとも、振動や衝撃に弱い物品、例えば液晶テレビやパソコン等のAV機器、或いは全体又は一部がガラス製の物品等は、転倒によって破損してしまう場合がある。
【0003】
このような実情に鑑みて、家庭やオフィス等において、家具等の物品の転倒を防止するための対策が採られていることが多い。
このうち、最も一般的に用いられている対策の一つに、図21に示すようにL字形の金具を用いて家具等と壁面とを連結する方法が挙げられる。
【0004】
しかしながら、このような従来一般的に用いられているL字形金具は、多くの問題点を有していた。
先ず、家具等を壁面に対して固定する場合には、壁材に固定するよりも柱や梁等の芯材(以下、柱等と略)に固定する方が転倒防止に効果的であるが、従来のL字形金具(L)では、家具等(K)と柱等(H)が離れていると、図21に示すように、両者を連結して固定することができなかった。
更に、L字形金具では、家具等と壁面とを直接固定しているため、地震発生時に固定部に加わる大きな衝撃力を吸収することができない。そのため、固定に用いられているビスが抜けたり、壁面や家具等が固定部において破損したりする場合があった。また、AV機器等の振動に弱い物品に対して適用するには好ましくなかった。
また、L字形金具は、テレビの裏面等のような曲面部分に対して固定することができないため、適用対象物がタンスのような角ばった形状のものに限定されていた。
【0005】
上記したようなL字形金具が抱える数多くの問題点に鑑みて、様々な形態からなる家具等の転倒防止具が提案されている。
例えば、下記特許文献1,2には、コイルばねによって家具等と壁面とを連結する家具等の転倒防止具が開示されている。
このようなコイルばねを用いた転倒防止具によれば、地震発生時に加わる衝撃力をばねの弾性によって吸収することができるものの、このような家具等と壁面とを単一のコイルばねによって直接連結しただけの形態では、その効果は小さいものでしかなく、揺れの程度が非常に大きい場合には、固定部に大きな衝撃力が加わることを防止するのは非常に困難である。
また、家具等と柱等の位置関係に関して、L字形金具に比べると若干の融通性はあるものの、家具等と柱等との距離が大きくなると、両者を固定することが困難となってしまう。
【0006】
また、下記特許文献3には、線材を用いて家具等と天井面とを連結するように構成した家具等の転倒防止具が開示されている。
このような線材を用いた転倒防止具によれば、家具等と柱等の位置関係に関して融通性が大きいため、家具等と柱等が大きく離れていた場合でも両者を連結して固定することができるという利点はあるものの、地震発生時に加わる衝撃を吸収する能力が低いという大きな問題がある。
【0007】
上記したように、コイルばねを用いた転倒防止具と線材を用いた転倒防止具には夫々一長一短があり、いずれの形態の転倒防止具も上記したL字形金具の問題点を全て解決するには至らない不十分なものであった。
【0008】
一方、家具等の転倒防止具において、ばねと線材とを組み合わせて用いること自体は、下記特許文献4に開示されているように公知である。
しかしながら、特許文献4に開示されたような形態でばねと線材を組み合わせた転倒防止具は、ばねは、線材(索体)を一方向に引っ張って緊張状態で保持するために設けられているもの、要するに、線材の長さを適当に調整する目的で設けられているものであって、衝撃吸収機能を目的として設けられているものではない。
実際、特許文献4の開示技術において、ばねは、筒体(索体係止部材)の内部に収容された状態で設けられているから、軸方向以外の方向に撓曲することはできず、軸方向への伸縮可能な範囲も限られるから、ばねが発揮し得る衝撃吸収機能は非常に小さいものである。
また、特許文献4に開示されたような転倒防止具は、部品点数が多い上に緻密な組み立てを必要とするため、不具合が発生し易い、製造効率が低い、製造コストが高くなる等の製造面での問題もある。
【0009】
【特許文献1】特開平8−214971号公報
【特許文献2】実用新案登録第3082691号公報
【特許文献3】特開平10−323250号公報
【特許文献4】特開平8−228867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、コイルばねの伸縮及び撓曲による衝撃吸収機能と、線材の往復スライド移動による変位対応機能との相乗効果によって、非常に優れた転倒防止効果を発揮することができるとともに、振動に弱い対象物や曲面が多い対象物に対しても適用することができ、また対象物から離れた位置にある柱等の芯材に対する固定も可能であり、しかも部品点数が少なくて済み、製造効率やコストの面でも優れている電気製品や家具等の転倒防止具を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、家具や家電製品等の転倒防止対象物と壁面とを連結することによって該対象物の転倒を防止する転倒防止具であって、コイルばねと、該コイルばねの内部に往復移動可能に挿通された線材とから構成され、前記コイルばねの内径は、一端部が他端部よりも小径に形成され、前記線材は撓曲可能な素材から形成されるとともに、その先端部には前記コイルばねの他端部の内径よりも小径で且つ一端部の内径よりも大径の抜け防止部が形成され、基端部には前記対象物又は壁面に固定される固定部が形成されていることを特徴とする転倒防止具に関する。
請求項2に係る発明は、前記コイルばねが、1本のワイヤにより同一軸線上に連続して形成された2つのコイルばねからなり、これら2つのコイルばね同士の連結部分のワイヤは、該コイルばねよりも広いピッチで巻回されているか若しくは巻回されていないことを特徴とする請求項1記載の転倒防止具に関する。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記線材が同一軸線上に配置された2本の線材からなり、一方の線材の先端部が一方のコイルばねの内部に挿通され、他方の線材の先端部が他方のコイルばねの内部に挿通されていることを特徴とする請求項2記載の転倒防止具に関する。
請求項4に係る発明は、前記コイルばねの他端部から前記線材と略同一軸線上反対方向に延びる延出部が形成され、該延出部はコイルばねを形成するワイヤにより形成されるとともに、その先端部に前記固定部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の転倒防止具に関する。
【0013】
請求項5に係る発明は、前記線材が1本の線材からなるとともに、該線材の中途部が弛んだ状態にて前記コイルばねの内部に収容されており、前記コイルばねに引張り力が加わった際に、該コイルばねが塑性変形する前に前記線材の弛みが無くなるように構成されていることを特徴とする請求項2記載の転倒防止具に関する。
請求項6に係る発明は、前記コイルばねの一端部が、円錐状に縮径されていることを特徴とする請求項5記載の転倒防止具に関する。
【0014】
請求項7に係る発明は、前記固定部が環状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の転倒防止具に関する。
請求項8に係る発明は、壁面に固定される固定金具を有し、該固定金具には、前記固定部を係止可能なフック状の係止部が形成され、該係止部は、略上方に向けて折り返された折り返し部と、該折り返し部の先端に形成された抜け止め部とからなり、該抜け止め部は、前記折り返し部よりも幅広に形成されるとともに、その側辺と折り返し部の側辺とのなす角が直角もしくは鋭角であることを特徴とする請求項7記載の転倒防止具に関する。
【0015】
請求項9に係る発明は、前記コイルばねの表面全体を被覆する筒状体を備えていることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の転倒防止具に関する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、コイルばねの伸縮及び撓曲によって地震発生時の衝撃や振動を吸収することができるとともに、コイルばねの内部に挿通された線材の往復移動によってコイルばねだけでは吸収しきれない大きな揺れ(変位)にも対応することが可能となるため、両者の相乗効果によって、非常に優れた転倒防止効果を発揮することができる。
また、コイルばねの内径は、一端部が他端部よりも小径に形成され、前記線材の先端部にはコイルばねの一端部の内径よりも大径の抜け防止部が形成されているため、線材がコイルばねの内部から完全に抜けてしまうことが防がれ、線材の過剰な移動によって家具等が転倒することがない。
また、線材が撓曲可能な素材からなるとともに往復移動可能であるために、取り付けの際に家具等と柱等の芯材の位置関係に対する融通性が非常に大きく、家具等と柱等が大きく離れていたり、ねじれた位置関係にある場合でも家具等と柱等とを容易且つ確実に連結して固定することができる。
更には、部品点数が少ないため、故障等の不具合が生じにくく、製造効率に優れ、製造コストを低く抑えることもできる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、コイルばねが1本のワイヤにより同一軸線上に連続して形成された2つのコイルばねからなるため、コイルばねの伸縮及び撓曲の許容範囲が大きく拡大し、地震発生時の衝撃や振動の吸収能力が著しく高められる。
しかも、2つのコイルばね同士の連結部分のワイヤは、該コイルばねよりも広いピッチで巻回されているか若しくは巻回されていないため、連結部分において大きな撓曲を許容するようになり、地震発生時の衝撃や振動の吸収能力が更に高められる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、一方の線材とコイルばねの対と、他方の線材とコイルばねの対の両方において、コイルばねの伸縮及び撓曲による衝撃吸収機能と、線材の往復スライド移動による変位対応機能の相乗効果を発揮することができるようになり、家具等の転倒防止機能が飛躍的に高められる。
【0019】
請求項4に係る発明によれば、コイルばねの他端部から延びるワイヤの延出部の先端に固定部が形成されることによって、転倒防止具に対して適当な剛性をもたせることが可能となり、大きな変位が許容されない対象物に対して好適に適用することができる。
【0020】
請求項5に係る発明によれば、線材を介してコイルばねに引張り力が加わった際に、コイルばねが塑性変形を起こす前に線材の弛みが無くなって一直線状となるので、コイルばねの弾性限度以上の引張り荷重を線材で受けることが可能となる。そのため、コイルばねが塑性変形をして伸びきることがなく、変位の許容量が適度のストロークに維持され、家具等の転倒を効果的に防止することができる。
【0021】
請求項6に係る発明によれば、コイルばねの一端部が、円錐状に縮径されていることにより、コイルばねの内部に線材を弛ませて収容する作業を容易に行うことが可能となり、製造効率を高めることができる。
【0022】
請求項7に係る発明によれば、固定部が環状に形成されているため、対象物の突出部分に引っ掛けるだけで簡単に固定することが可能であり、テレビ等の曲面が多い対象物に対しても簡単に適用することができる。
【0023】
請求項8に係る発明によれば、環状の固定部を金具の係止部に引っ掛けることにより、固定部を壁面へと容易に固定することができる。また、係止部に折り返し部よりも幅広でその側辺と折り返し部の側辺とのなす角が直角もしくは鋭角である抜け止め部が形成されていることで、固定部が係止部から抜けることが確実に防がれる。
【0024】
請求項9に係る発明によれば、コイルばねの表面全体が筒状体により被覆されていることにより、コイルばねに指等が挟まれることを防ぐことができ、安全性に優れた転倒防止具が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る電気製品や家具等の転倒防止具(以下、単に転倒防止具と称す)の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明に係る転倒防止具の第一実施形態を示す外観図であり、図2及び図3はその要部拡大断面図である。
第一実施形態の転倒防止具は、コイルばね(1)と、該コイルばね(1)の内部に往復移動可能に挿通された線材(2)とから構成されている。
【0026】
コイルばね(1)は、所定ピッチでコイル状に巻回された金属製のワイヤからなり、軸方向に引っ張り力を受けると伸長し、引っ張り力が無くなると元の長さに縮むという伸縮性と、軸直角方向に曲げ力を受けると撓んで屈曲するという撓曲性を併せ持っている。
尚、この点は、後述する他の実施形態のコイルばねにも共通している。
【0027】
第一実施形態では、コイルばね(1)は、1本のワイヤにより同一軸線上に連続して形成された2つのコイルばね(1a)(1b)から形成されている。
このように2つのコイルばねを連続して形成することで、コイルばねが1つのみの場合と比べて、伸縮及び撓曲の許容範囲が大きく拡大し、地震発生時の衝撃や振動の吸収能力が著しく高められる。
2つのコイルばね(1a)(1b)の連結部分(3)のワイヤは、両コイルばねよりも広いピッチで巻回されており、これによって、連結部分(3)はコイルばね(1a)(1b)の部分よりも大きく撓曲することが可能となっている。
【0028】
コイルばね(1a)(1b)の内径は、一端部が他端部よりも小径に形成されており、2つのコイルばねは、他端部同士が近傍位置にあり、一端部同士が離れた位置にあるように配置されている。
【0029】
線材(2)は、細い金属線を多数本撚り合わせて形成されており、優れた引張り強度(例えば100kgf以上、好ましくは200kgf以上)を有する一方で、全体として撓曲可能となっている。尚、この点は、後述する他の実施形態の線材にも共通している。
第一実施形態において、線材(2)は、同一軸線上に配置された2本の線材からなり、一方の線材の先端部が一方のコイルばね(1a)の内部に挿通され、他方の線材の先端部が他方のコイルばね(1b)の内部に挿通されている。
【0030】
線材(2)の先端部には、コイルばね(1a)(1b)の他端部の内径よりも小径で且つ一端部の内径よりも大径とされた抜け防止部(4)が形成されており、2本の線材はこれら抜け防止部(4)同士が対向するように配置されている。
抜け防止部(4)は、例えば金属製の円筒を線材に外嵌して外側からかしめることにより形成することができ、図2に示すようにコイルばねの他端側を越えて移動することはできるが、図3に示すようにコイルばねの一端側を越えて移動することはできず、線材(2)がコイルばね(1)から完全に外れることが防止されている。
本発明において、抜け防止部(4)の形状は特に限定されるものではないが、図示例では六角柱状に形成されている。
【0031】
線材(2)の基端部には、家具や電気製品等の転倒防止の対象物(以下、単に対象物と称す)又は壁面に固定される固定部(5)が形成されている。
第一実施形態においては、2本の線材のうち、一方の線材の固定部(5)が対象物への固定部、他方の線材の固定部(5)が壁面への固定部となっている。
固定部(5)は環状に形成されており、これによって対象物の突出部分に対して固定部(5)を引っ掛けることで簡単に固定することが可能となっている。
【0032】
図4は本発明に係る転倒防止具の第二実施形態を示す外観図である。
第二実施形態に係る転倒防止具も、コイルばね(1)と、該コイルばね(1)の内部に往復移動可能に挿通された線材(2)とから構成されており、コイルばね及び線材が共に2つずつあるという点においても第一実施形態と同じである。
【0033】
第二実施形態に係る転倒防止具が第一実施形態のものと異なる点は、2つのコイルばね(1a)(1b)の連結部分(3)のワイヤが、巻回されずにコの字状とされている点である。尚、その他の構成については、全て第一実施形態と同じであるため、説明の重複を防ぐために同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。
【0034】
第二実施形態に係る転倒防止具においても、2つのコイルばね(1a)(1b)の連結部分(3)は、コイルばね(1a)(1b)の部分よりも大きく撓曲することが可能であるが、巻回されずにコの字状とされていることによって、一方向(図中矢印方向)には撓曲し易いが、他の方向にはやや撓曲し難くなっている。
第二実施形態に係る転倒防止具では、このように、連結部分(3)の撓曲性に方向性があるために、壁面と対象物との位置関係に応じて連結部分の向きを変えて配置することによって、地震発生時の衝撃や振動の吸収能力を最も効率よく発揮することができる。
【0035】
図5は本発明に係る転倒防止具の第三実施形態を示す外観図であり、図6及び図7はその要部拡大断面図である。
第三実施形態の転倒防止具も、コイルばね(1)と、該コイルばね(1)の内部に往復移動可能に挿通された線材(2)とから構成されている。
【0036】
第三実施形態において、コイルばね(1)は、第一実施形態と同様に、1本のワイヤにより同一軸線上に連続して形成された2つのコイルばね(1a)(1b)から形成されており、2つのコイルばね(1a)(1b)の連結部分(3)のワイヤは、両コイルばねよりも広いピッチで巻回されている。
【0037】
一方のコイルばね(1a)の内径は、一端部が他端部よりも小径に形成されているが、他方のコイルばね(1b)の内径は、一端部から他端部にかけて同一径となっており、その径は一方のコイルばね(1a)の他端部と同径である。
【0038】
線材(2)の先端部には、コイルばね(1a)の他端部の内径よりも小径で且つ一端部の内径よりも大径とされた抜け防止部(4)が形成されている。
この第三実施形態では、線材がコイルばねの一方側からのみ挿入されているため、抜け防止部(4)は、図6に示すように2つのコイルばねの内部に亘って移動することができる。そのため、上述の第一及び第二実施形態に比べて、線材のスライド移動による変位への対応能力が高い。
但し、一方向側への移動は、一方のコイルばね(1a)の一端部によって遮られ(図7参照)、他方向側への移動は、他方のコイルばね(1b)の他端部から延出されたワイヤ(後述する延出部(9))によって遮られるため、その移動範囲は2つのコイルばねの内部に限られ、線材が過剰な距離に亘って移動することは防がれる。
【0039】
第三実施形態の転倒防止具では、他方のコイルばね(1b)の他端部から、線材(2)と略同一軸線上で反対方向に延びる延出部(9)が形成されており、この延出部(9)は、コイルばね(1)の他端部の内径の内側に位置している。
延出部(9)は、コイルばね(1b)を形成するワイヤによって形成されており、その先端部には、対象物又は壁面に固定される環状の固定部(5)が形成されている。
すなわち、第三実施形態においては、固定部(5)は、線材(2)とコイルばねの延出部(9)に夫々形成されており、いずれか一方の固定部が壁面への固定部、もう一方の固定部が対象物への固定部となっている。
【0040】
第三実施形態においては、第一及び第二実施形態とは異なり、コイルばねの他端部から延びるワイヤの延出部の先端に一方の固定部が形成されることによって、転倒防止具に対して適当な剛性をもたせることが可能となり、大きな変位が許容されない対象物に対して好適に適用することができる。
【0041】
図8及び図9は本発明に係る転倒防止具の第四実施形態を示す外観図であり、図10はその要部拡大断面図である。
第四実施形態の転倒防止具も、第一乃至第三実施形態と同様に、コイルばね(1)と、該コイルばね(1)の内部に往復移動可能に挿通された線材(2)とから構成されている。
【0042】
この第四実施形態の転倒防止具が、上述した第三実施形態のものと異なる点は、コイルばね(1)が1つのコイルばねからなる点である。その他の構成については、全て第三実施形態と同じであるため、説明の重複を防ぐために同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。
【0043】
第四実施形態において、コイルばね(1)の内径は、一端部が他端部よりも小径に形成されている。
コイルばね(1)の一端部の内径は、線材(2)の先端部に形成された抜け防止部(4)よりも小径とされており、他端部の内径は該抜け防止部(4)よりも大径とされている。
【0044】
第四実施形態の転倒防止具では、第三実施形態と同様に、コイルばね(1)の他端部から、線材(2)と同一軸線上反対方向に延びる延出部(9)が形成されている。
延出部(9)は、コイルばね(1)を形成するワイヤによって形成されており、その先端部には、対象物又は壁面に固定される環状の固定部(5)が形成されている。
すなわち、第四実施形態においても第三実施形態と同様に、固定部(5)は、線材(2)とコイルばねの延出部(9)に夫々形成されており、いずれか一方の固定部が壁面への固定部、もう一方の固定部が対象物への固定部となっている。
【0045】
コイルばね(1)の他端部から延出されたワイヤ(延出部(9))は、コイルばね(1)の他端部の内径の外側に位置している。
これによって、線材(2)の抜け防止部(4)は、一方向側への移動は、一方のコイルばね(1a)の一端部によって遮られるが(図10参照)、他方向側への移動は、遮られるものがない(図9参照)。
従って、この第四実施形態は、本発明の全ての実施形態の中で、線材のスライド移動による変位への対応能力が最も高い。
【0046】
図11は本発明に係る転倒防止具の第五実施形態を示す外観図であり、図12はその要部拡大断面図である。
第五実施形態の転倒防止具も、第一乃至第四実施形態と同様に、コイルばね(1)と、該コイルばね(1)の内部に往復移動可能に挿通された線材(2)とから構成されている。
【0047】
この第五実施形態の転倒防止具が、上述した第一実施形態のものと異なる点は、線材(2)が1本の線材からなる点である。尚、図11及び図12において、第一実施形態と同じ構成については、同じ符号を付して説明を省略している。
すなわち、この第五実施形態の転倒防止具は、第一実施形態にて用いられていた左右2本の線材(2)の先端部同士をコイルばね(1a)(1b)の内部において接続して1本の線材としたような構成である。
【0048】
第五実施形態において、コイルばね(1a)(1b)の内部に収容された部分(即ち、1本の線材の中途部)は、図12に示すように弛んだ状態となっている
より具体的には、線材(2)の中途部(2つの抜け防止部(4)間の部分)は、複数回折り返された状態でコイルばねの内部に収容されている。
【0049】
コイルばね(1a)(1b)の内部に収容された部分の線材(2)の長さは、コイルばねに対して引張り力が加わった際に、該コイルばねが塑性変形に移行する前に線材の弛みが無くなる(線材が一直線状となる)ように設定される。
詳しくは、コイルばねが弾性限度の約半分程度の引張り力を受けた時点で、線材の弛みが無くなるように設定することができる。この場合、例えば、コイルばねの引張り弾性限度が60kgfであった場合、約30kgf程度の引張り力を受けた時点で、線材が一直線上に伸びきった状態となる。
【0050】
コイルばね(1a)(1b)の一端部は、第一実施形態と同様に、円錐状に縮径された形状となっている。
このように、コイルばねの一端部を円錐状に形成すると、コイルばねの内部に線材を弛ませて収容する作業を容易に行うことが可能となり、製造効率を高めることができる。
【0051】
次に、図12乃至図14に基づいて、上記構成からなる第五実施形態の転倒防止具の作用について説明する。
先ず、通常の状態(引張り力が加わっていない状態)では、図12に示すように、コイルばね(1a)(1b)は自然長であり、コイルばね内部に収容された線材(2)は弛んだ状態にある。
地震の発生等によって家具等の転倒防止対象物が転倒しそうになると、線材(2)の抜け止め部(4)を介してコイルばね(1a)(1b)に引張り力が加わり、コイルばねは伸長し、同時にコイルばね内部に収容された線材の弛んだ部分が若干ほぐれて弛みの程度が小さくなる(図13参照)。
続いて、更にコイルばね(1a)(1b)に引張り力が加わると、コイルばねは更に伸長するが、コイルばねが塑性変形する前(弾性限度に達する前)に、コイルばね内部に収容された線材の弛んだ部分が伸びきって線材は一直線状となる(図14参照)。
【0052】
このようにコイルばねが塑性変形を起こす前に線材の弛みが無くなって一直線状となることによって、コイルばねの弾性限度以上の引張り荷重を線材で受けることが可能となる。そのため、コイルばねが塑性変形をして伸びきってしまうことがなく、変位の許容量が適度に制限され、家具等の転倒を効果的に防止することができる。
【0053】
コイルばねの弾性限度に対して線材の引張り強度(破断強度)を充分に大きくすることは容易である。そのため、第五実施形態のようにコイルばねが塑性変形を起こす前に線材で引張り力を受けることができる構造とすれば、線材が引張り力を受けている間(受けている引張り力が線材の引張り強度以下のとき)は変位が起こらないため、線材の引張り強度を高く設定することによって、家具等の転倒防止効果が大きく高められる。
また、万が一、線材が破断したとしても、コイルばねが破断しない限りは家具等が壁面等に連結された状態は維持されるため、転倒を防止できる可能性が高い。
【0054】
この第五実施形態の転倒防止具は、転倒防止対象物の重量が大きい場合に非常に効果的である。
例えば、転倒防止対象物の重量が100kg、コイルばねの弾性限度が60kgf、線材の引張り強度が200kgfの場合を考える。
この場合、第一実施形態のような構造では、転倒防止対象物の重量がコイルばねに加わると、引張り力が60kgfを超えた時点でコイルばねが塑性変形を開始して最終的には伸びきってしまう。つまり、コイルばねが伸びきってしまうほどの大きな変位量が許容されることとなるから、転倒を防止することができない。
これに対して、第五実施形態の構造では、引張り力が60kgfに達する前に、つまりコイルばねが塑性変形を開始する前に、線材によって引張り力を受けることができるため、大きな変位量が許容されることはなく、転倒を防止することができる。
【0055】
尚、第五実施形態において、コイルばねを太くする等してばね定数を大きくし、コイルばねの弾性限度を線材の引張り強度よりも大きくすることも不可能ではないが、そうすると、コイルばねによる振動緩衝機能が殆ど発揮できなくなるという不都合が生じる。
【0056】
本発明においては、上記第一乃至第五実施形態の転倒防止具において、筒状体によってコイルばねの表面全体を被覆するように構成することができる。
図15及び図16は、第一実施形態の転倒防止具においてこの構成を採用した場合を示しており、図15は被覆する前の状態、図16は被覆した後の状態を示している。
【0057】
図示例において、筒状体(15)は、ゴムや軟質合成樹脂などの軟質材料から形成された左右一対の筒状体(15a)(15b)から構成されている。
筒状体(15a)(15b)は両端部が共に開放されているが、一端部は大きく絞られて固定部(5)が通過し得ない内径となっており、他端部はコイルばね(1a)(1b)が通過し得る内径となっている。
【0058】
左右いずれか一方の筒状体(図示例では右側の筒状体(15b))の他端部は僅かに絞られて、もう一方の筒状体(図示例では左側の筒状体(15a))の他端部に嵌入できるようになっている。
これによって、図16に示すように、左右一対の筒状体を組み合わせてコイルばねの表面全体を被覆することが可能となり、コイルばねに指を挟んで怪我をすること等が防がれる。
【0059】
図17は本発明の転倒防止具において壁面に固定して用いられる固定金具(6)を示す図であって、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は斜視図である。
固定金具(6)は、壁面に沿って固定される平板部(7)と、上述したコイルばね(1)の延出部(9)又は線材(2)の端部に設けられる環状の固定部(5)を係止固定するためのフック状の係止部(8)とを備えている。
【0060】
係止部(8)は、平板部(7)の下端部から上方に向けて略J字状に折り返された折り返し部(8a)と、該折り返し部(8a)の先端に形成された抜け止め部(8b)とから構成されている。
抜け止め部(8b)は、折り返し部(8a)に比べて幅広に形成されており、その側辺と折り返し部の側辺とのなす角(α)が、直角もしくは鋭角に形成されている。
【0061】
固定金具(6)は、平板部(7)をビス止め等によって壁面(柱等を含む)に固定した状態で、コイルばね(1)の延出部(9)又は線材(2)の端部に設けられる環状の固定部(5)を係止部(8)に引っ掛けることにより使用される。
このとき、係止部(8)の先端に、折り返し部(8a)よりも幅広であって且つその側辺と折り返し部の側辺とのなす角が直角もしくは鋭角である抜け止め部(8b)が形成されていることによって、固定部(5)が係止部(8)から抜けることが防止される。
【0062】
図18乃至図20は本発明に係る転倒防止具の使用状態の好適な例を示す図である。
尚、これらの図では第一実施形態の転倒防止具が示されているが、他の実施形態の転倒防止具についても同様の形態で使用することができる。
【0063】
図18は、液晶テレビ(10)に対して本発明に係る転倒防止具を取り付けた状態を示す図である。
図示例では、転倒防止具の一方の固定部を液晶テレビ(10)の裏面に設けられたねじ等の突出部分に引っ掛けて固定し、他方の固定部を壁面(13)にビス止め固定した固定金具(6)の係止部に引っ掛けて固定することによって、液晶テレビ(10)と壁面(13)とを転倒防止具により連結している。
【0064】
図19は、ブラウン管テレビ(11)に対して本発明に係る転倒防止具を取り付けた状態を示す図である。
図示例では、転倒防止具の一方の固定部をブラウン管テレビ(11)の曲面状の側面に設けられた突出部分に引っ掛けて固定し、他方の固定部を壁面(13)にビス止め固定した固定金具(6)の係止部に引っ掛けて固定することによって、ブラウン管テレビ(11)と壁面(13)とを転倒防止具により連結している。
また、この例では、2つの転倒防止具を用いている。
【0065】
図20は、家具(12)に対して本発明に係る転倒防止具を取り付けた状態を示す図である。
図示例では、転倒防止具の一方の固定部を家具(12)の上面に設けられた突出部分に引っ掛けて固定し、他方の固定部を壁面(13)に、具体的には壁面内にある柱(14)にビス止め固定した固定金具(6)の係止部に引っ掛けて固定することによって、家具(12)と柱(14)とを転倒防止具により連結している。
【0066】
図18乃至図20に示すように、本発明に係る転倒防止具は、対象物が壁面から離れていても固定可能であり(図18参照)、対象物が曲面状であっても固定可能であり(図19参照)、対象物が柱と離れていても固定可能である(図20参照)。
尚、対象物における転倒防止具の固定部を係止するための突出部としては、元々存在しているねじや出っ張りを利用してもよいし、新たに接着剤、粘着剤、ねじ等を用いて突出部を付加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、地震発生時等に生じる振動によって、家具や電気製品等が転倒するのを防止するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る転倒防止具の第一実施形態を示す外観図である。
【図2】第一実施形態の転倒防止具の要部拡大断面図である。
【図3】第一実施形態の転倒防止具の要部拡大断面図である。
【図4】本発明に係る転倒防止具の第二実施形態を示す外観図である。
【図5】本発明に係る転倒防止具の第三実施形態を示す外観図である。
【図6】第三実施形態の転倒防止具の要部拡大断面図である。
【図7】第三実施形態の転倒防止具の要部拡大断面図である。
【図8】本発明に係る転倒防止具の第四実施形態を示す外観図である。
【図9】本発明に係る転倒防止具の第四実施形態を示す外観図である。
【図10】第四実施形態の転倒防止具の要部拡大断面図である。
【図11】本発明に係る転倒防止具の第五実施形態を示す外観図である。
【図12】第五実施形態の転倒防止具の要部拡大断面図である。
【図13】第五実施形態の転倒防止具の作用について説明する図である。
【図14】第五実施形態の転倒防止具の作用について説明する図である。
【図15】第一実施形態の転倒防止具においてコイルばねを筒状体で被覆する構成を採用した場合において、被覆する前の状態を示す図である。
【図16】第一実施形態の転倒防止具においてコイルばねを筒状体で被覆する構成を採用した場合において、被覆した後の状態を示す図である。
【図17】本発明の転倒防止具において壁面に固定して用いられる固定金具を示す図であって、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は斜視図である。
【図18】本発明に係る転倒防止具の使用状態の一例を示す図である。
【図19】本発明に係る転倒防止具の使用状態の一例を示す図である。
【図20】本発明に係る転倒防止具の使用状態の一例を示す図である。
【図21】従来の転倒防止具の問題点を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 コイルばね
2 線材
3 連結部分
4 抜け防止部
5 固定部
6 固定金具
7 平板部
8 係止部
8a 折り返し部
8b 抜け止め部
9 延出部
10 液晶テレビ(対象物)
11 ブラウン管テレビ(対象物)
12 家具(対象物)
13 壁面
14 柱
15 筒状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家具や家電製品等の転倒防止対象物と壁面とを連結することによって該対象物の転倒を防止する転倒防止具であって、
コイルばねと、該コイルばねの内部に往復移動可能に挿通された線材とから構成され、
前記コイルばねの内径は、一端部が他端部よりも小径に形成され、
前記線材は撓曲可能な素材から形成されるとともに、その先端部には前記コイルばねの他端部の内径よりも小径で且つ一端部の内径よりも大径の抜け防止部が形成され、基端部には前記対象物又は壁面に固定される固定部が形成されている
ことを特徴とする転倒防止具。
【請求項2】
前記コイルばねが、1本のワイヤにより同一軸線上に連続して形成された2つのコイルばねからなり、これら2つのコイルばね同士の連結部分のワイヤは、該コイルばねよりも広いピッチで巻回されているか若しくは巻回されていないことを特徴とする請求項1記載の転倒防止具。
【請求項3】
前記線材が同一軸線上に配置された2本の線材からなり、一方の線材の先端部が一方のコイルばねの内部に挿通され、他方の線材の先端部が他方のコイルばねの内部に挿通されていることを特徴とする請求項2記載の転倒防止具。
【請求項4】
前記コイルばねの他端部から前記線材と略同一軸線上反対方向に延びる延出部が形成され、該延出部はコイルばねを形成するワイヤにより形成されるとともに、その先端部に前記固定部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の転倒防止具。
【請求項5】
前記線材が1本の線材からなるとともに、該線材の中途部が弛んだ状態にて前記コイルばねの内部に収容されており、前記コイルばねに引張り力が加わった際に、該コイルばねが塑性変形する前に前記線材の弛みが無くなるように構成されていることを特徴とする請求項2記載の転倒防止具。
【請求項6】
前記コイルばねの一端部が、円錐状に縮径されていることを特徴とする請求項5記載の転倒防止具。
【請求項7】
前記固定部が環状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の転倒防止具。
【請求項8】
壁面に固定される固定金具を有し、
該固定金具には、前記固定部を係止可能なフック状の係止部が形成され、
該係止部は、略上方に向けて折り返された折り返し部と、該折り返し部の先端に形成された抜け止め部とからなり、
該抜け止め部は、前記折り返し部よりも幅広に形成されるとともに、その側辺と折り返し部の側辺とのなす角が直角もしくは鋭角である
ことを特徴とする請求項7記載の転倒防止具。
【請求項9】
前記コイルばねの表面全体を被覆する筒状体を備えていることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の転倒防止具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2007−29699(P2007−29699A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264235(P2005−264235)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000226943)日晴金属株式会社 (19)
【Fターム(参考)】