説明

電気鋼のための絶縁コーティング組成物

本発明は、電気鋼板を被覆するためのコーティング組成物を提供し、組成物は、
A)少なくとも1つのバインダー樹脂5〜45重量%と、
B)1〜300nmの平均半径を有するナノスケール粒子0.1〜40、好ましくは1〜30重量%と、
C)バインダー樹脂と架橋することができる量の少なくとも1つの架橋剤、好ましくは0.1〜30重量%と、
D)少なくとも1つの添加剤および/または顔料および/または充填剤0.1〜60重量%と、
E)水および/または少なくとも1つの溶剤5〜70重量%と
を含み、重量%は組成物の全重量に基づいている。
本発明の組成物は、本発明の組成物で被覆された電気鋼板およびこれらの被覆された電気鋼板から製造されたコアの溶接、締付け、噛み合わせ、打ち抜き、リベット締め、耐高圧性、耐熱性の高い能力などの異なった技術的要求条件を組み合わせる高特性プロファイル基準を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性質を改良することによってヒステレシスおよび渦電流損失を制限する、電気機器において使用するための鋼板コアを製造するための、電気鋼板を被覆する汎用コアシートワニスに関する。
【背景技術】
【0002】
個々の電気鋼板を被覆するための電気鋼板ワニスは公知である。被覆された電気鋼板を溶接、締付け、噛み合わせ、アルミニウムダイキャスチングまたはリベット締めなどの異なった技術的手段によって一緒に集成して変圧器、発電機およびモーターなどの電気機器において使用するための固体コアを形成することができる。コーティングは、コア中の金属板間の電気絶縁を提供し、高い表面絶縁抵抗、機械的応力に対する耐性および結合強さの要求条件を満たすことができるのがよい。
【0003】
特開平0733696号公報、特開2000345360号公報および欧州特許出願公開第923088A号明細書は電気鋼板を被覆するためのエナメルに関し、エナメルは、シリカまたはアルミナコロイド粒子などの粒子を含有する。組成物は、良い引掻き、ブロッキング、耐薬品性および耐蝕性および表面絶縁能力などの性質を有するコーティングをもたらす。無方向性電気鋼のための無機/有機コーティングに関する特許があり、欧州特許出願公開第926249号明細書には、リン酸アルミニウムおよび無機粒状シリケートおよびアクリル樹脂が開示されている。独国特許出願公開第3720217A号明細書には、絶縁、打ち抜きおよび溶接性質を提供する、ホウ酸ナトリウムおよび火成シリカ(pyrogenous silica)を有する、アルキド樹脂フェノール改質ポリエステル樹脂に基づいた絶縁コーティングが記載されている。特開平10130859号公報には、無方向性ケイ素鋼板の製造のための低温および短時間焼成を提供する、コロイドシリカを含む処理溶液が開示されている。
【0004】
国際公開第2006/049935号パンフレットにおいて、ホットプレスによって一緒に接着されうる、高い再軟化温度を提供する被覆された金属板を提供するための自己接着性ワニス中の反応性粒子の使用が記載されている。この自己接着性ワニスは、それらの異なったコーティング性質のために鋼板を被覆すること、および例えば溶接、締付け、噛み合わせ、またはリベット締めによってそれらを一緒に形成して固体コアを形成することのためには使用できない。
【0005】
固体コアを形成するための例えば溶接または打ち抜き用途のために適した電気鋼板のコーティングとして公知のコーティング系が存在する。このために、単一コーティングが全ての要求条件を満たさない場合があるので、コアシートワニスの選択はしばしば妥協によるものである。このようなコーティングの公知の上位クラス、例えば(AISI−ASTM A 976−03下の標準として登録された)クラスC3、クラスC5、およびクラスC6は、このような性質に関してこの分野においてコーティングの異なった要求条件を示す。コーティングは、有機混合物(C3絶縁タイプ)のみかまたは複合樹脂およびクロメート、ホスフェートおよび酸化物の有機/無機混合物(C5およびC6絶縁タイプ)であってもよい。
【0006】
有機樹脂、例えばフェノール、アルキド樹脂、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂をベースとしたC3コーティングは、打抜き適性を強化し、通常の作業温度に耐性であるが応力除去アニールに耐えない。C5コーティングは一方では、非常に良い打抜き適性および良い溶接応答を有する半有機コーティングでありうるが、他方では、有機樹脂および無機充填剤を有する根本的に無機コーティングであり、良い打抜き適性を有し、すぐれた溶接および耐熱性の性質を有する。しかし、クロメート、ホスフェートまたはチタネートコンパウンドを一般にベースとしたC5コーティングは、従って、特に、残留発癌性レベルのCr(VI)に関して環境に優しくなく、またはそれらは、吸湿性および不十分なアニールおよび耐蝕性を示す傾向があり、不十分な溶接性質を示すことがある。C6コーティングは、約50wt%の充填剤の高含有量を有する有機コーティングである。
【0007】
公知のシステムは、溶接、締付け、噛み合わせ、打ち抜き、リベット締め、耐圧性および耐熱性などの異なった技術的要求条件を組み合わせて高特性プロファイル基準を提供することができない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電気鋼板を被覆するためのコーティング組成物を提供し、組成物が、
A)少なくとも1つのバインダー樹脂5〜45重量%と、
B)1〜300nmの平均半径を有するナノスケール粒子0.1〜40、好ましくは1〜30重量%と、
C)バインダー樹脂と架橋することができる量の少なくとも1つの架橋剤、好ましくは0.1〜30重量%と、
D)少なくとも1つの添加剤および/または顔料および/または充填剤0.1〜60重量%と、
E)水および/または少なくとも1つの溶剤5〜70重量%と
を含み、重量%は組成物の全重量に基づいている。
【0009】
本発明の組成物は、本発明の組成物で被覆された電気鋼板およびこれらの被覆された電気鋼板から製造されたコアの溶接、締付け、噛み合わせ、打ち抜き、リベット締め、耐高圧性、耐熱性の高い能力などの異なった技術的要求条件を組み合わせる高特性プロファイル基準を提供することを可能にする。1μm未満の範囲の非常に薄いコーティング層に関しても良い耐蝕性、ならびにコーティングのすぐれた上塗り適性のための要求条件が実現される。本発明の組成物は、AISI−ASTM A 976−03標準によるC3、C5およびC6絶縁クラスを満たすワニスの性能を完成する。本発明は、C3、C5およびC6絶縁クラスによるすぐれた縁被覆率およびすぐれた打抜き適性、特に、C6絶縁コーティングによって6〜12μmのフィルム乾燥厚さにおいての非常に良い耐圧性、低い積重ね収縮および高い絶縁能力を提供する。さらにそれは、C5絶縁コーティングによる0.8〜2μmまでのフィルム乾燥厚さにおいて応力アニール後にすぐれた溶接適性および表面絶縁抵抗を提供し、それは、コーティングの高い耐摩耗性を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の組成物は、低いVOC範囲を有する水性コーティング組成物として塗布することが可能である。
【0011】
成分A)としてコーティング技術において公知の1つまたは複数のバインダー樹脂は、本発明の組成物の全重量に基づいて5〜45重量%の範囲、好ましくは10〜40重量%の範囲、特に好ましくは15〜35重量%の範囲において使用されうる。
【0012】
樹脂の例は、ポリウレタン、ポリアミド、ポリアミド−イミド、ポリエステル、不飽和ポリエステル、ポリイミド、ポリビニルホルマール、ポリビニルアルコール、C=C−反応性樹脂、ポリヒダントイン、ポリベンゾイミダゾール、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリチタンエステル樹脂である。
【0013】
ポリウレタンおよびポリ(メタ)アクリレートの使用が好ましい。
【0014】
用語「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および「メタクリル」の意味を表す。
【0015】
例えば、成分A)として、28〜33の範囲の酸価(mg KOH/g 固体樹脂)および140〜170の範囲のヒドロキシル価(mg KOH/g 固体樹脂)を有するポリウレタン樹脂、例えば脂肪族ポリウレタン樹脂を使用することができる。ポリウレタン樹脂の平均モル質量Mnは、例えば2000〜25000でありうる。
【0016】
成分A)の樹脂の製造は専門の文献から公知である。
【0017】
また、成分A)の樹脂は、例えば、エポキシノボラック樹脂、ならびに公知のエポキシハイブリッド樹脂、例えば、ウレタン改質エポキシ樹脂、アクリル改質エポキシ樹脂およびエポキシエステルなどの少なくとも1つの自己架橋性の樹脂でありうる。
【0018】
成分A)の樹脂は、水性分散体として本発明のコーティング組成物中に導入されうる。従って、例えば、成分A)の樹脂の水性分散体の8〜40重量%、好ましくは10〜35重量%の固形分が得られるような量において水を添加することができる。例えば、ポリウレタン分散体の製造は、文献、例えば、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、A21、665ページ、VCH Verlagsgesellschaft Weinheim、1992年、および特許出願において、例えば、独国特許出願公開第1495745A号明細書、独国特許出願公開第1495847A号明細書において公知である。
【0019】
成分B)として本発明の組成物の全重量に基づいてナノスケール粒子0.1〜40重量%、好ましくは1〜30重量%、特に好ましくは3〜25重量%が使用される。
【0020】
ナノスケール粒子は、反応性粒子および/または非反応性粒子でありうる。用語「反応性」は、本発明の組成物の成分A)および/またはさらなる成分のバインダー樹脂の官能基との反応性を意味する。
【0021】
反応性ナノスケール粒子は、元素−酸素網目に基づくことができ、元素は、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、スズ、ホウ素、ゲルマニウム、ガリウム、鉛、遷移金属、ランタニドおよびアクチニド、特に、チタン、セリウムおよび/またはジルコニウムを含む系列からなる群から選択される。表面反応性官能基R1および非反応性または部分反応性官能基R2およびR3は酸素網目によって結合され、R1は98重量%まで、好ましくは40重量%まで、特に好ましくは30重量%までの量であり、R2およびR3は、反応性粒子の表面上に存在する0〜97重量%、好ましくは0〜40、特に好ましくは0〜10重量%の量であり、R1は、R4を含有する金属酸エステルの基、例えば、OTi(OR43、OZr(OR43、OSi(OR43、OSi(R43;OHf(OR43;NCO;ウレタン−、エポキシ、炭素酸無水物;C=C二重結合系、例えば、メタクリレート、アクリレート;OH;酸素結合アルコール、例えば、ビス(1−ヒドロキシメチル−プロパン)−1−メチロレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−プロパノール−3−プロパノレート、2−ヒドロキシ−プロパン−1−オール−3−オレート、エステル、エーテル、例えば、2−ヒドロキシエタノレート、C24OH、ジエチレングリコレート、C24OC24OH、トリエチレングリコレート、C24OC24OC24OH;キレートビルダー、例えば、アミノトリエタノレート、アミノジエタノレート、アセチルアセトネート、エチルアセトアセテート、ラクテート;COOH;NH2;NHR4;および/またはエステル、反応性バインダー、例えば、OH−、SH−、COOH−、NCO−、ブロックトNCO−、NH2−、エポキシ−、炭素酸無水物−、C=C−、金属酸エステル−、シラン含有ポリウレタン、ポリエステル、ポリ(THEIC)エステル、ポリ(THEIC)エステルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリシロキサン、ポリスルフィド、ポリビニルホルマール、ポリメリセート、例えば、ポリアクリレートを表す。R2は、芳香族化合物の基、例えば、フェニル、クレジル、ノニルフェニル、脂肪族化合物、例えば、分岐状、直鎖、飽和、不飽和アルキル残基C1〜C30、脂肪酸誘導体;直鎖または分岐状エステルおよび/またはエーテルを表し、R3は、樹脂基、例えば、ポリウレタン−、ポリエステル−、ポリエステルイミド−、THEIC−ポリエステルイミド−、ポリチタンエステル樹脂およびそれらの誘導体;有機誘導体を有するポリシロキサン樹脂;ポリスルフィド−、ポリアミド−、ポリアミドイミド−、ポリビニルホルマール樹脂、および/またはポリマー、例えば、ポリアクリレート、ポリヒダントイン、ポリベンゾイミダゾールを表し、R4は、アクリレート、フェノール、メラミン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリスルフィド、エポキシ、ポリアミド、ポリビニルホルマル樹脂の基;芳香族化合物、例えばフェニル、クレジル、ノニルフェニル;脂肪族、例えば、C1〜C30を有する分岐状、直鎖、飽和、不飽和アルキル残基;エステル;エーテル、例えば、メチルグリコレート、メチルジグリコレート、エチルグリコレート、ブチルジグリコレート、ジエチレングリコレート、トリエチレングリコレート;アルコラート、例えば、1−ヒドロキシメチル−プロパン−1,1−ジメチロレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオレート、2−ヒドロキシ−プロパン−1,3−ジオレート、エチレングリコレート、ネオペンチルグリコレート、ヘキサンジオレート、ブタンジオレート;脂肪、例えば、脱水ひまし油および/またはキレートビルダー、例えば、アミノトリエタノレート、アミノジエタノレート、アセチルアセトネート、エチルアセトアセテート、ラクテートを表す。
【0022】
このような粒子の調製は、通常の加水分解および適切な元素−有機化合物または元素−ハロゲン化合物の縮合反応および火炎熱分解によって行なわれてもよい。同様に、有機樹脂を相当する元素−酸化物化合物と反応させて相当する反応性粒子にしてもよい。粒子の形成中または粒子の形成後に表面処理を行なうことができる。調製のこのような方法は、文献に記載されている(例えばR.K.Iler,John Wiley and Sons、“The Chemistry of Silica”、New York、312ページ、1979年を参照のこと)。
【0023】
適した反応性ナノスケール粒子の例は、Degussa AG製のAerosil製品、例えば、Aerosil(登録商標)R 100−8000、Eka Chemie(Bindzi(登録商標)CCNano−Silicasole)である。
【0024】
また、成分B)として非反応性ナノスケール粒子を使用することができ、前記粒子は、元素−酸素網目に基づいており、元素は、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、スズ、ホウ素、ゲルマニウム、ガリウム、鉛、遷移金属、ランタニドおよびアクチニド、特に、チタン、セリウムおよび/またはジルコニウムを含む系列からなる群から選択され、粒子を反応性にする一切の官能基を含まない。有用な粒子は、例えば、シリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン、好ましくは、コロイドシリカ、例えば、Nyacol(登録商標)Corp.、Grace Davison(Ludox(登録商標)コロイドシリカ水溶液)、Nissan Chemicalからの市販品など、かかる粒子のコロイド溶液または分散体である。
【0025】
成分B)のナノスケール粒子は、1〜300nm、好ましくは2〜100nm、特に好ましくは5〜60nmの範囲の平均半径を有する。
【0026】
ナノ粒子を本発明のコーティング組成物中に水性分散体として導入することができる。従って、例えば、ナノスケール粒子の水性分散体の固形分20〜40重量%、好ましい35〜40重量%が得られるような量において水を添加することができる。
【0027】
成分A)に応じて架橋剤は、例えば、本発明の組成物の全重量に基づいて0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜20重量%、特に好ましい1〜15重量%の量において、成分A)と架橋することができる量において成分C)として使用可能である。例は水可溶性または水溶性アミノ樹脂、例えば、メラミンホルムアルデヒド樹脂、例えば完全または部分的メチル化、ブロックトポリイソシアネート、エポキシ樹脂、ポリカルボジイミド、多官能性アジリジン、カルボン酸および/または無水物、ルイス酸、有機金属触媒である。
【0028】
メラミンホルムアルデヒド樹脂、好ましくは、中程度から高度のアルキル化、低いメチロール含有量および中〜高イミノ官能価を有するメチル化メラミンホルムアルデヒドが成分C)として有用である。メラミン樹脂の粒度は、例えば、好ましくは10μm以下、特に2μm以下でありうる。
【0029】
メラミンホルムアルデヒド樹脂は、例えばRoempp Lexikon Lacke und Druckfarben、Georg Thieme Verlag 1998年、29ページ、“Amino Resins”およびStoye/Freitag“Lackharze”Carl Hanser Verlag Muenchen Wien、1996年、113〜122ページにおいて記載されている。市販製品の例は、Luwipal(登録商標)(BASFAG)およびCymel(登録商標)(Cytec)である。
【0030】
また、ブロックトイソシアネートは、本発明の組成物において成分C)として使用可能である。ポリウレタン化学において通常に使用されるジイソシアネート、例えば、ポリオール、アミンおよび/またはCH−酸化合物とジイソシアネートとの付加物がイソシアネートとして使用されうる。これらには、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,4−(2,6)−トルイレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などがある。また、MDIの誘導体、例えば、異性体、同族体またはプレポリマー、例えば、Desmodur PF(登録商標)を使用することもできる。4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートが優先的に使用される。
【0031】
イソシアネートのブロック化は、例えば、フェノールまたはクレゾールを用いて、例えば、ブタノンオキシム、フェノール、4−ヒドロキシ安息香酸メチルエステル、エタン酸エステル、マロン酸エステル、ジメチルピラゾールおよび/またはカプロラクタムを用いて、当業者に公知の通常の手段によって達成されうる。カプロラクタムが優先的に用いられるが、言及されたいくつかの化合物の組合せもまた可能である。ポリウレタンおよび/またはアクリレート分散体とブロックトイソシアネートとの反応の機構は、H.Kittel Lehrbuch der Lacke und Beschichtungen、vol.3、S.Hirzel Verlag Stuttgart、Leipzig 2001年、第2版、230〜234ページに記載されている。水系のための市販のブロックトイソシアネート製品の例は、Rhodocoat WT(登録商標)(Rhodia Coatis)およびTrixene(登録商標)(Baxenden,Chemicals Limited)である。
【0032】
成分C)としてのエポキシ樹脂は好ましくは、エピクロルヒドリン誘導体から生じた脂肪族多官能性エポキシ樹脂として用いられる。多官能性アルコールのトリグリシジルエーテル、例えばグリセリン、ソルビトールおよびフェノールを使用することができる。さらに、イソシアネート構造を含有するエポキシ樹脂、例えばトリグリシジルイソシアヌレートを使用することができる。架橋の機構は、H.Kittel、Lehrbuch der Lacke und Beschichtungen、vol.3、S.Hirzel Verlag Stuttgart、Leipzig 2001年、第2版、235〜236ページに記載されている。
【0033】
また、ポリカルボジイミドは、成分C)として有効な架橋剤である。機構は、G.DoleschallおよびK.Lempert、On the Mechanism of Carboxyl Condensation by Carbodiimides、Tetrahedron Letters No.18,1195〜1199ページ、1963年 pergamon press ltd.、およびさらにW.Posthumus、A.J.Derksen、J.A.M van den Goorberg、L.C.J.Hesselmans、Crosslinking by polycarbodiimides、Progress in Organic Coatings 58(2007年)231〜236ページに記載されている。
【0034】
また、多官能性アジリジン、例えば、多官能性アジリジンプロピオネートもまた、成分C)として使用することができる。アジリジンプロピオネートの概要は、R.R.Roesler、K.Danielmeier、Progress in Organic Coatings 50(2004年)、1〜27ページに見出すことができる。架橋の機構は、H.Kittel、Lehrbuch der Lacke und Beschichtungen、vol.3、S.Hirzel Verlag Stuttgart、Leipzig 2001年、第2版、242〜243ページに記載されている。市販製品の例は、Avecia Resin製のCX−100、Bayer製のXama(登録商標)である。
【0035】
また、カルボン酸および/または無水物を成分C)として使用することができる。これらは、脂肪族、芳香族分岐状および非分岐状カルボン酸および/またはエステルおよび/または無水物、例えば、ギ酸、酢酸、吉草酸、カプロン酸、イソ酪酸、ピバリン酸、イソ吉草酸、トリメリト酸、ピロメリト酸、ナフタル酸、エステルおよび無水物であってもよい。
【0036】
有機金属触媒、例えば、チタンキレートまたはジルコニウムキレートに基づいた、チタネートまたはジルコネートを成分C)として使用することができる。有機金属触媒は、ポリマー上の官能基の交換下で架橋する。市販製品は、DuPont製のチタネートTyzor(登録商標)およびジルコネートTyzor(登録商標)である。
【0037】
成分D)として添加剤、例えば、均染剤、流動剤、触媒、例えばルイス酸、非イオン性およびイオン性界面活性剤およびスリップ剤、ならびに当業者に公知の顔料および/または充填剤を、本発明の組成物の全重量に基づいて0.1〜60重量%の量において、添加剤の場合は好ましくは0.1〜10重量%の範囲において添加することによって、コーティングの品質、例えば、表面塗布、焼付け速度の増加または色彩の付与に対してコーティング系を最適にすることを可能にする。
【0038】
成分E)として水および/または有機溶剤を本発明の組成物中で本発明の組成物の全重量に基づいて5〜70重量%の範囲、好ましくは20〜60重量%の範囲において用いてもよい。水のみの使用が好ましい。
【0039】
水を例えば、本発明の完成コーティング組成物の20〜50重量%、好ましくは30〜70重量%の固形分が得られるような量において添加する。
【0040】
有機溶剤を本発明の組成物の全重量に基づいて1〜10重量%の範囲、好ましくは2〜5重量%の範囲において添加することができる。
【0041】
適した有機溶剤の例は、芳香族炭化水素、n−メチルピロリドン、クレゾール、フェノール、アルコール、スチレン、アセテート、ビニルトルエン、メチルアクリレート、例えば1−メトキシプロピルアセテート−2、n−ブタノール、n−プロパノール、ブチルグリコールアセテートである。
【0042】
1つまたは複数のモノマー有機金属化合物、例えば、オルト−チタン酸または−ジルコニウム酸エステルならびにシラン、エチルシリケート、チタネートが本発明のコーティング組成物中に含有される場合がある。好ましくは、このようなモノマー有機金属化合物は本発明のコーティング組成物中で用いられない。
【0043】
単に個々の成分を一緒に混合することによって本発明の組成物を製造してもよい。例えば、バインダー樹脂と水とを混合することによって成分A)の少なくともバインダー樹脂の分散体を製造することが可能である。次に、さらなる成分を例えば攪拌しながら添加して、場合により、熱および分散剤を加えて安定な分散体を製造する。バインダー樹脂と組成物のさらなる成分との混合物を製造することおよびナノスケール粒子の水性分散体を添加することも可能である。
【0044】
本発明の組成物の塗布は、電気鋼板の少なくとも1つ、例えば、1つの面または全ての面上に1層当たり0.5〜10μm、好ましくは0.8〜8μm、特に好ましくは0.8〜6μmの乾燥層厚さを有する少なくとも1つの層として、例えば、1つまたは複数の層として、例えば、噴霧、圧延または浸漬コーティングによって公知の方法によって行なうことができる。
【0045】
電気鋼板の面の表面は、予備被覆されるかまたは被覆されないか、予備処理されるかまたは予備処理されなくてもよい。鋼板は、例えば、汚れ、グリースおよび他の付着物を除去するために洗浄することによって予備処理されてもよい。好ましい予備洗浄され被覆されない電気鋼板が本発明の組成物と共に使用され、好ましくは単層コーティングによって被覆される。
【0046】
次いで、鋼板上の本発明のコーティングの架橋(硬化)が、硬化条件下で好ましくは180〜270℃の範囲のPMT(ピーク金属温度)を提供する温度において熱硬化によって行なわれる。必要な熱は、例えば炉内で誘導加熱、赤外線(IR)放射線、近赤外線(NIR)放射線および/または熱気によって供給されうる。
【0047】
従って、本発明はまた、
a)本発明のコーティング組成物を電気鋼板の少なくとも1つの面上に少なくとも1つの層として塗布する工程と、
b)塗布されたコーティングを硬化させる工程と
を含む、電気鋼板を被覆する方法を提供する。
【0048】
硬化した後、被覆鋼板から部品を打ち抜くことができ、次に、溶接、締付け、噛み合わせ、アルミニウムダイキャスチングまたはリベット締めなどの異なった技術的手段によって、もし必要ならば、熱および圧力を加えることによって積層および集成して板コアを形成することができる。
【0049】
従って、本発明はまた、本発明のコーティング方法によって被覆された電気鋼板を積層および集成することによって電気鋼板コアを作製する方法を提供する。
【0050】
本発明の組成物は、モーター、変圧器、発電機などの電気機器の長い耐用寿命を確実にすることができる。
【0051】
本発明は以下の実施例においてさらに規定される。これらの実施例は、例示として示されるにすぎないことは理解されるはずである。結果として、本発明は、以下に示される具体的な実施例に限定されず、以下の請求項によって規定される。
【実施例】
【0052】
実施例1〜6
C5電気絶縁ワニスベースの本発明によるコーティングの製造
脂肪族ポリウレタン分散体(水中の固形分34〜40重量%)をナノスケールシリカの分散体(アルカリ性水中の固形分35〜40重量%)と混合する。架橋剤(固形分35〜100重量%)、顔料、充填剤および添加剤をこの混合物に添加し、そこで溶接添加剤として0.5〜1.5ppwの被覆されたシリカゲル、腐蝕抑制剤添加剤として0〜3ppwのアミノカルボキシ化合物および0〜2ppwの脱泡剤添加剤を使用する。混合物を均一に攪拌して、異なった架橋剤を有するC5ワニスとして本発明の6つの異なったコーティング組成物を提供する。
【0053】
コーティング組成物を表1に記載する。量はppwである。
【0054】
表1

【0055】
表1に記載された各コーティング組成物を異なった銘柄の無方向性鋼上に被覆して、1μm(+/−0.5)の乾燥フィルム厚さを有する絶縁層を形成する。0.5μm以下の鋼板の粗さRaが使用された。ローラーコーターを使用して鋼板上にワニスを塗布した。塗布されたフィルムを200℃〜260℃のPMT(ピーク金属温度)において硬化させ、室温において冷却した。
【0056】
硬化した後、被覆鋼板を溶接によって積層および集成して板コアを形成する。
【0057】
先行技術と比べた技術的性質を表2に記載する。
【0058】
表2

【0059】
ライン3において溶剤の安定性は、30回の往復摩擦が終了するまで往復摩擦による1kgの圧力を加える拭取り溶剤試験によって試験される。また、アセトン溶剤試験は、乾燥したフィルムの硬化特性を示した。ライン9において耐摩耗性は、30回以内の往復摩擦の5kgの圧力下で被覆鋼板の粉塵量を定量することによって、DuPontによって設計された磨耗試験機で測定された。ライン11において溶接の品質は、鋼および鉄試験板SEP1210によって気泡のない、すすの出ない継ぎ目によって示される。
【0060】
実施例7〜10
C6電気絶縁ワニスをベースとした本発明によるコーティングの製造
製造方法は実施例1〜6に記載された製造方法と同じである。混合物を攪拌し、均一に粉砕する。
【0061】
異なった架橋剤を有するC6ワニスの組成物を表3に記載する。量はppwである。
【0062】
表3

【0063】
実施例1〜6で記載された同じ方法および条件によって表3に示されたコーティング組成物を電気鋼板上に塗布および硬化して、6μm(+/−0.7)の乾燥フィルム厚さを有する絶縁層を形成する。硬化した後、被覆鋼板を溶接によって積層および集成して板コアを形成する。
【0064】
先行技術と比べた技術的性質を表4に記載する。
【0065】
表4

【0066】
実施例11〜14
C3電気絶縁ワニスをベースとした本発明によるコーティングの製造
製造方法は実施例1〜6に記載された製造方法と同じである。
【0067】
異なった架橋剤を有するC3ワニスの組成物を表5に記載する。量はppwである。
【0068】
表5

【0069】
実施例1〜6で記載された同じ方法および条件によって表5に示されたコーティング組成物を電気鋼板上に塗布および硬化して、4μm(+/−0.4)の乾燥フィルム厚さを有する絶縁層を形成する。硬化した後、被覆鋼板を溶接によって積層および集成して板コアを形成する。
【0070】
先行技術と比べた技術的性質を表6に記載する。
【0071】
表6

【0072】
実施例15
C3電気絶縁ワニスをベースとした先行技術によるコーティングの製造
48ppwのアクリル酸樹脂分散体(水と有機溶剤との混合物中の固形分41重量%)および7ppwのアルキド樹脂分散体(水と有機溶剤との混合物中の固形分68重量%)を、架橋剤として12ppwのメラミン樹脂(固形分99重量%)と一緒に混合する。1〜6ppwの添加剤(脱泡剤、湿潤剤、腐蝕抑制剤)および有機溶剤として26ppwのブチルプロピレングリコールおよび/または水を添加する。ジメチルエタノールアミンを用いて混合物のpH値を調節する。混合物を攪拌し、均一に粉砕した。
【0073】
得られたコーティング組成物を実施例11〜14に記載された同じ方法および条件によって電気鋼板上に塗布し、硬化させる。
【0074】
硬化した後、被覆鋼板を溶接によって積層および集成して板コアを形成する、表6を参照のこと。
【0075】
実施例16
C5電気絶縁ワニスをベースとした先行技術によるコーティングの製造
21ppwのチタネート樹脂(水と有機溶剤との混合物中の固形分75重量%)および16ppwのアクリル酸樹脂(水と有機溶剤との混合物中の固形分75重量%)を無機充填剤として10ppwのケイ酸アルミニウム(固形分100重量%)および架橋剤として4ppwの金属触媒(固形分100重量%)と混合する。4ppwの添加剤(脱泡剤、湿潤剤、溶接添加剤および腐蝕抑制剤)および有機溶剤として45ppwのブチルジグリコールおよび/または水を添加する。
【0076】
ジメチルエタノールアミンを用いてpH値を調節する。混合物を攪拌し、均一に粉砕した。
【0077】
得られたコーティング組成物を実施例1〜6に記載された同じ方法および条件によって電気鋼板上に塗布し、硬化させる。硬化した後、被覆鋼板を溶接によって積層および集成して板コアを形成する、表2を参照のこと。
【0078】
実施例17
C6電気絶縁ワニスをベースとした先行技術によるコーティングの製造
20ppwのアルキド樹脂(水と有機溶剤との混合物中の固形分68重量%)を無機充填剤として55ppwの硫酸バリウムおよび架橋剤として5ppwのメラミン樹脂(固形分99重量%)と混合する。6ppwの添加剤(脱泡剤、触媒、湿潤剤、腐蝕抑制剤)および2ppwの顔料ならびに有機溶剤としての7ppwのブチルプロピレングリコールおよび/または水を添加する。ジメチルエタノールアミンを用いてpH値を調節する。混合物を攪拌し、均一に粉砕した。
【0079】
得られたコーティング組成物を実施例7〜10に記載された同じ方法および条件によって電気鋼板上に塗布し、硬化させる。硬化した後、被覆鋼板を溶接によって積層および集成して板コアを形成する、表4を参照のこと。
【0080】
試験結果は、先行技術に比べて本発明の組成物で被覆された板および板コアのより良い結果、特に、より高い耐引掻き性、表面絶縁抵抗、耐摩耗性および溶接に関するより高い能力を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気鋼板を被覆するためのコーティング組成物であって、
A)少なくとも1つのバインダー樹脂5〜45重量%と、
B)1〜300nmの平均半径を有するナノスケール粒子0.1〜40と、
C)前記バインダー樹脂と架橋することができる量の少なくとも1つの架橋剤と、
D)少なくとも1つの添加剤および/または顔料および/または充填剤0.1〜60重量%と、
E)水および/または少なくとも1つの溶剤5〜70重量%と
を含み、重量%が組成物の全重量に基づいている、コーティング組成物。
【請求項2】
前記ナノスケール粒子1〜30重量%を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの架橋剤0.1〜30重量%を含む、請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
ポリウレタンおよび/またはポリ(メタ)アクリレートが成分A)の前記バインダー樹脂として用いられる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記ナノスケール粒子が5〜60nmの範囲の平均半径を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記ナノスケール粒子がシリカ、酸化アルミニウム、酸化チタンからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
溶剤が組成物の全重量に基づいて1〜10重量%の範囲において用いられる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
a)請求項1に記載のコーティング組成物を電気鋼板の少なくとも1つの面上に少なくとも1つの層として塗布する工程と、
b)塗布されたコーティングを硬化させる工程と
を含む、電気鋼板を被覆する方法。
【請求項9】
塗布されたコーティングが、180〜270℃の範囲のPMT(ピーク金属温度)を提供する温度において硬化される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項8の方法によって被覆された電気鋼板を積層および集成することによって電気鋼板コアを作製する方法。
【請求項11】
積層および集成が溶接による、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載のコーティング組成物で被覆し、かつコーティングを硬化させた電気鋼板。
【請求項13】
請求項1に記載のコーティング組成物で被覆し、かつコーティングを硬化させた電気鋼板から作製された電気鋼板コア。

【公表番号】特表2010−529282(P2010−529282A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512237(P2010−512237)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/064050
【国際公開番号】WO2008/154122
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】