説明

電池用負極前駆体材料の製造方法、電池用負極前駆体材料、及び電池

【課題】Al集電体とSnめっき皮膜との密着性が良好であるので、薄膜化が可能であり、集電性が良好であるとともに、動作時の変形及びデンドライトの発生が抑制された負極が得られる電池用負極前駆体材料の製造方法、該電池用負極前駆体材料、及び該電池用負極前駆体材料を負極として備える電池を提供する。
【解決手段】溶融塩電池1は、Al製の集電体21に活物質膜22を形成してなる正極2と、電解質としての溶融塩を含浸させたガラスクロスからなるセパレータ3と、Al製の集電体41にZn皮膜42及び活物質膜43を形成してなる負極4とを、略直方体状をなすAl製のケース5に収容してなる。活物質膜43は溶融塩のNaイオンを吸蔵及び放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム(以下、Alという)からなる集電体の表面に、亜鉛(以下、Znという)皮膜と、錫(以下、Snという)めっき皮膜とをこの順に形成する電池用負極前駆体材料の製造方法、該電池用負極前駆体材料、及び該電池用負極前駆体材料を負極として備える電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、風力発電施設において発生された電気エネルギー、及び工場に設置された太陽電池モジュールにおいて発生された電気エネルギー等を受け取って充電し、放電する手段として、NaS(ナトリウム硫黄)電池、及び溶融塩電池等の電力貯蔵型電池の開発が行われている。
例えば特許文献1,特許文献2には、溶融金属ナトリウム(以下、Naという)からなる負極活物質と、溶融Sからなる正極活物質と、Naイオン伝導性を示すβ−アルミナ固体電解質とを備えるNaS電池の発明が開示されている。特許文献1においては、固体電解質内に設けた安全管の内外に流動抵抗部材を充填して安全性を高めた技術が開示されている。また、特許文献2には、複数のNaS電池を断熱容器に着脱容易に収納する技術が開示されている。
【0003】
特許文献3には、溶融金属Naからなる負極活物質と、FeCl2 等からなる正極活物質と、負極活物質及び正極活物質を隔離するβ−アルミナ製の隔離板と、溶融塩としてのアルカリ金属ハロアルミン酸塩を含む電解質とを備える溶融塩電池の発明が開示されている。この溶融塩電池は、完全放電状態で400°Cで16時間均熱した後の最初の充電サイクル時に、容量低下を伴わずに正常に充電することができる。
溶融塩からなる電解質は常温ではイオン伝導性を有しないので、溶融塩電池は不活性状態にある。電解質が所定温度以上に加熱された場合には溶融状態となり、良好なイオン伝導体となって外部から電力を取り込み、又は外部へ電力を供給することができる。
溶融塩電池は、電解質が溶融しない限り、電池反応は進行しないので、前記風力発電施設等において、十数年以上の長期間使用することができる。また、溶融塩電池においては、高温下で電極反応が進行するので、水溶液電解液又は有機電解液を用いる電池と比較して、電極反応速度が速く、優れた大電流放電特性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−040866号公報
【特許文献2】特開平7−022066号公報
【特許文献3】特許第2916023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1及び2のNaS電池の場合、略350℃で使用され、特許文献3の溶融塩電池の場合、290〜400℃の高温で使用されるように構成されている。従って、これらの電池を複数用いて電力貯蔵システムを構成した場合、動作温度まで昇温するのに数日を要し、該電力貯蔵システムを駆動させるのに膨大な時間がかかるという問題があった。そして、高温で使用するため、安全性にも問題があった。
【0006】
上述の問題を解決するために、溶融塩電池の動作温度の低温化が検討されており、カチオンとしてNaイオンを主として含み、90℃以下で溶融する溶融塩を備えた溶融塩電池の開発もなされている。
この溶融塩電池の中には、負極の活物質として金属Na又は炭素材料を用いたものがある。
活物質として金属Naを用いたNa負極の場合、容量密度は大きくなる。しかし、充放電の繰り返しによりNaのデンドライトが成長し、セパレータが破壊されて電極間の短絡等が生じる虞があるという問題がある。この場合、充放電サイクル効率が急激に低下し、電池の安全性が低下する。
Naの融点は98℃であり、Naのデンドライトの成長の抑制を図って電池の動作温度を例えば(Naの融点−10)℃である88℃前後に低く設定することが検討されている。しかし、この場合においても、Naが温度上昇に従い軟化し始めるので、Na負極が変形して充放電サイクル効率(容量維持率)が低下し、充放電サイクル寿命が短くなる、すなわち充放電サイクル特性が悪くなるという問題がある。
そして、負極の活物質として炭素材料を用いたカーボン負極の場合、Naイオンがカーボンの層間に取り込まれるのでNaのデンドライトがセパレータを突き破る虞はなく、安全であるが、容量が小さいという問題がある。
従って、カーボン電極より高容量化することが可能であり、電池の動作時の表面硬度がNa負極の表面硬度より高く、デンドライトの発生が抑制された電池用負極の開発が望まれている。
【0007】
以上のように負極活物質としてNaを使用した場合、Naの融点が98℃と低く、温度上昇に伴って軟化し易いので、Snと合金化して硬度を高くすることが考えられる。この場合、先に集電体上にSn層を形成しておき、充電によりNaを供給することでNa−Sn合金とする。集電体としては軽量であり、集電性が良好であるという観点からAl製のものを用いるのが好ましい。ここで、活物質層としてSn箔をAl集電体に積層することにした場合、Al集電体との密着性が悪く、薄膜化が難しいという問題がある。そして、めっきによりAl集電体上にSn皮膜を形成することにした場合、SnのAlに対する密着力が低いため、Sn皮膜をAl集電体上に成膜しにくく、電池に使用して充放電を繰り返した場合、密着力がより低下するという問題がある。また、Sn粉末とバインダとを混合した合剤を集電体に塗布して成膜することにした場合、充放電に伴い微粉化し、集電体から脱落して集電性が低下するという問題がある。
【0008】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、Al集電体とSnめっき皮膜との密着性が良好であるので、薄膜化が可能であり、集電性が良好であるとともに、動作時の変形及びデンドライトの発生が抑制された負極が得られる電池用負極前駆体材料の製造方法、該電池用負極前駆体材料、及び該電池用負極前駆体材料を負極として備える電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明に係る電池用負極前駆体材料の製造方法は、アルミニウムからなる集電体の表面に亜鉛置換めっきを行い、亜鉛皮膜を形成する工程と、形成された亜鉛皮膜の表面に錫めっきを行い、錫めっき皮膜を形成する錫めっき工程とを有することを特徴とする。
【0010】
アルミニウム集電体の表面には酸化膜が形成されており、この表面に錫めっき皮膜を形成した場合、剥離し易い。本発明においては、アルミニウム集電体上に亜鉛置換めっきを行う。亜鉛置換めっきは酸化膜を除去しながらめっきが進行するので、酸化膜が突き破られた状態で亜鉛皮膜が形成され、該亜鉛皮膜上に密着性良好に錫めっき皮膜を形成することができる。すなわち、亜鉛置換めっき液は強アルカリ性であるため、酸化膜の溶解が進行し、下地のアルミニウムが露出した時点で亜鉛イオンはアルミニウムから電子を奪って析出し、アルミニウムが溶解して錫めっき皮膜が良好に形成され得る。
従って、密着性が良好であるので、めっきにより成膜されることと相まって、薄膜化することが可能である。
そして、ナトリウムイオンを吸蔵して合金化した場合にナトリウム負極より表面硬度が高くなり、動作時の変形及びデンドライトの発生が抑制され、カーボン負極より高容量である負極(錫負極)が良好に得られる。
【0011】
第2発明に係る電池用負極前駆体材料の製造方法は、第1発明において、前記錫めっき工程の後に、亜鉛を前記集電体側に拡散させる工程を有することを特徴とする。
【0012】
本発明においては、亜鉛を集電体側に拡散させるので、亜鉛が表出することにより亜鉛に基づく充放電が生じること、及び溶出した亜鉛によりデンドライトが生じることが抑制される。従って、電池に良好に使用することが可能である。
【0013】
第3発明に係る電池用負極前駆体材料の製造方法は、第1又は第2発明において、前記錫めっき工程により形成された錫めっき皮膜の膜厚は、0.5μm以上600μm以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、0.5μm以上600μm以下のいずれかの膜厚で錫めっき皮膜が形成されるので、負極として用いた場合に、所望の容量が得られ、体積変化による膨張により破断して短絡すること等が抑制される。
【0015】
第4発明に係る電池用負極前駆体材料の製造方法は、第1乃至第3発明のいずれかにおいて、前記錫めっき工程により形成された錫めっき皮膜の結晶粒子径は、1μm以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明においては、結晶粒子径が1μm以下であるので、錫めっき皮膜が溶融塩のカチオンを吸蔵したときの体積変化が小さい。従って、充放電サイクル寿命が短くなるのが抑制される。
【0017】
第5発明に係る電池用負極前駆体材料の製造方法は、第1乃至第4発明のいずれかにおいて、前記錫めっき工程により形成された錫めっき皮膜は、膜厚の最大値又は最小値の平均値との差の、平均値に対する比率が20%以内であることを特徴とする。
【0018】
前記比率が20%以内である場合、負極の平面面積を大きくした場合に充放電深度のばらつきが大きくなって(負極の平面方向の各部分において取り込み、又は取り出した電気量のばらつきが大きくなって)充放電サイクル寿命が悪くなるのが抑制される。また、局部的に深度が深くなった部分(厚みが厚くなっている部分)にNa等のデンドライトが発生して短絡するのも抑制される。
【0019】
第6発明に係る電池用負極前駆体材料は、アルミニウムからなる集電体の表面に、亜鉛皮膜と、該亜鉛皮膜を被覆する錫めっき皮膜とを有することを特徴とする。
【0020】
本発明においては、集電体と錫めっき皮膜との密着性が良好である。従来、亜鉛はデンドライトが発生するため、電極材料としては使用することができなかったが、亜鉛を集電体側に拡散させることでデンドライトの発生を抑制でき、電極として使用することが可能となった。
【0021】
第7発明に係る電池は、第6発明の電池用負極前駆体材料からなる負極と、正極と、ナトリウムイオンを含むカチオンを含む溶融塩を有する電解質とを備えることを特徴とする。
【0022】
本発明においては、負極のアルミニウム集電体と錫めっき皮膜(活物質膜)との密着性が良好であり、しかも錫粉末を用いて成膜する場合のように充放電に伴い微粉化し、集電体から脱落して集電性が低下することがないので、集電性を確保することができる。そして、負極が軟化して変形することがなく、形状が維持されるので、電池は良好な充放電サイクル特性を有し、ナトリウムのデンドライトによるセパレータの破壊が抑制されているので良好な安全性を有する。また、負極の中間層の亜鉛をアルミニウム集電体側に拡散させることで、亜鉛のデンドライトの発生、及び亜鉛に基づく充放電が抑制され、亜鉛を含む負極前駆体材料を電池に良好に用いることができる。
【0023】
第8発明に係る電池は、第7発明において、前記溶融塩は、下記式(1)で表されるアニオンを含み、前記カチオンは、ナトリウム以外のアルカリ金属のカチオンの少なくとも1種及び/又はアルカリ土類金属のカチオンの少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする。
【0024】
【化1】

【0025】
(前記式(1)中、R1 及びR2 はフッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。R1 及びR2 は同一であっても異なっていてもよい。)
【0026】
本発明においては、溶融塩の融点が低く、動作温度を低くした電池において、負極のアルミニウム集電体と錫めっき皮膜との密着性が良好であり、充放電サイクル特性及び安全性を良好にすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、アルミニウム集電体と錫めっき皮膜との密着性が良好であるので、薄膜化が可能であり、動作時の変形及びデンドライトの発生が抑制された錫負極が得られる。そして、集電性を確保でき、負極の形状が維持されるので、電池は良好な充放電サイクル特性を有し、デンドライトによるセパレータの破壊が抑制されているので良好な安全性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例8に係る溶融塩電池を示す縦断面図である。
【図2】実施例8及び比較例4のサイクル数と容量維持率との関係を示すグラフである。
【図3】各実施例及び比較例の活物質膜の膜厚と容量維持率との関係を示すグラフである。
【図4】実施例11の溶融塩電池の各サイクル経過時の容量と電圧との関係を示すグラフである。
【図5】元素分析の結果に基づいて得られた、実施例11の溶融塩電池の各サイクル経過時におけるSnめっき皮膜の層構造を示す模式図である。
【図6】実施例9の溶融塩電池の15サイクル経過時の層構造を示す模式図である。
【図7】各実施例の破断頻度との関係を示すグラフである。
【図8】熱処理の前後における負極前駆体材料の層厚と、Al濃度及びZn濃度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明をその実施の形態に基づいて具体的に説明する。
1.電池用負極前駆体材料(以下、負極前駆体材料という)
本発明に係る負極前駆体材料は、Alからなる集電体(基材)の表面に、亜鉛置換めっきにより形成されたZn皮膜と、該Zn皮膜上にSnめっきにより形成されたSnめっき皮膜(活物質膜)とを備える。
集電体は箔、又はエキスパンドメタル及び不織布等の三次元の多孔体の形態で使用することができる。多孔体としては、三角柱状の骨格が、三次元に連なった連続気孔を有するものも挙げられる。
Snが活物質であるので、重量容量密度及び体積容量密度が高く、高容量の負極が得られるとともに、Naと合金化したときに扱いやすい。
【0030】
めっきは、Al製の集電体にSnを電気化学的に析出させる電気めっき、又はSnを化学的に還元析出させる無電解めっきにより行うことができる。
以下に、負極前駆体材料の製造方法について説明する。
まず、前処理として、集電体が有する酸化膜をアルカリ性のエッチング処理液により除去するソフトエッチング処理を行う。
次に、硝酸を用いてデスマット[スマット(溶解残渣)除去]処理を行う。
水洗した後、酸化膜が除去された集電体の表面に対し、ジンケート処理液を用いてジンケート処理(亜鉛置換めっき)を行い、Zn皮膜を形成する。ここで、一度Zn皮膜の剥離処理を行い、ジンケート処理を再度行うことにしてもよい。この場合、より緻密で薄いZn皮膜を形成することができ、集電体との密着性が向上し、Znの溶出を抑制することができる。
【0031】
次に、Zn皮膜が形成された集電体をめっき液が注入されためっき浴に浸漬してSnめっきを行い、Snめっき皮膜を形成する(Snめっき工程)。
以下に、電気めっきによりSnめっき皮膜を形成する場合のめっき条件の一例を示す。
・めっき液の組成
SnSO4 :40g/dm3
2SO4 :100g/dm3
クレゾールスルホン酸:50g/dm3
ホルムアルデヒド(37%):5ml/dm3
光沢剤
・pH:4.8
・温度:20〜30℃
・電流密度:2A/dm2
・アノード:Sn
・処理時間:600秒(Snめっき皮膜の膜厚が略10μmの場合)
【0032】
Snめっき皮膜を形成する前に、Zn皮膜上にNiめっき皮膜を形成することにしてもよい。
以下に、Niめっき皮膜を形成する場合のめっき条件の一例を示す。
・めっき液の組成
硫酸ニッケル:240g/L
塩化ニッケル:45g/L
ホウ酸:30g/L
・pH:4.5
・温度:50℃
・電流密度:3A/dm2
・処理時間:330秒(膜厚略3μmの場合)
このNiめっき皮膜を中間層として形成することにより、Snめっきを行うときに、酸性又はアルカリ性のめっき液を用いることができる。Niめっき皮膜を形成しない場合に酸性又はアルカリ性のめっき液を用いたとき、Znがめっき液に溶出する。
【0033】
上述のSnめっき工程において、0.5μm以上600μm以下のいずれかの膜厚になるようにSnめっき皮膜を形成するのが好ましい。膜厚は、集電体のめっき液への浸漬時間等を制御することにより調製される。
前記膜厚が0.5μm以上600μm以下である場合、負極として用いた場合に所望の電極容量が得られ、体積変化による膨張によりSnめっき皮膜が破断して短絡すること等が抑制される。そして、Naイオンを吸蔵して合金化した場合にNa負極より表面硬度が高くなる。破断がより抑制されるので、膜厚は0.5μm以上400μm以下であるのがより好ましく、より充放電の容量維持率が向上するので膜厚は0.5μm以上100μm以下であるのがさらに好ましい。そして、放電電圧の低下が抑制できるので(図4のデータ参照)、膜厚は1μm以上20μm以下であるのが特に好ましく、さらに容量維持率が向上し、負極の表面硬度上昇効果がより良好であるので、膜厚は5μm以上10μm以下であるのが最も好ましい。
【0034】
また、Snめっき工程において、Snめっき皮膜を結晶粒子径が1μm以下になるように形成するのが好ましい。結晶粒子径は、めっき液の組成、温度等の条件を制御することにより調整する。
前記結晶粒子径が1μm以下である場合、Snめっき皮膜がNaイオンを吸蔵したときの体積変化が大きくなって充放電サイクル寿命が短くなるのが抑制される。
【0035】
さらに、めっき工程において、Snめっき皮膜を膜厚の最大値又は最小値の平均値との差の、平均値に対する比率が20%以内になるように形成するのが好ましい。
前記比率が20%以内である場合、負極の平面面積を大きくした場合に充放電深度のばらつきが大きくなって充放電サイクル寿命が悪くなるのが抑制される。また、局部的に深度が深くなった部分にNaのデンドライトが発生して短絡するのも抑制される。例えばSnめっき皮膜の膜厚の平均値が10μmの場合、膜厚は10μm±2μmであるのが好ましく、膜厚の平均値が600μmの場合、膜厚は600μm±30μmであるのが好ましい。
【0036】
最後の処理として、Znを集電体側に拡散させるZn拡散工程を有するのが好ましい。このZn拡散工程として、温度200℃以上400℃以下で30秒乃至5分程度、熱処理を行うものが挙げられる。なお、Zn皮膜の厚みに応じて、処理温度を400℃以上に上げてもよい。また、負極前駆体材料の集電体側と表面側とに電位差を与えて、Znを集電体側に拡散させることにしてもよい。
このZn拡散工程は省略することにしてもよいが、熱処理を行った場合、Znを基材側へ拡散させることができるので、Znに基づく充放電を抑制して電池の充放電サイクル特性を向上させ、デンドライトの発生を抑制して安全性を向上させることができる。そして、Znを含む負極前駆体材料を電池に良好に用いることができる。
【0037】
さらに、集電体の一部をマスキングして配線パターンを形成する工程を有することにしてもよい。本発明においては、めっきにより成膜するので、板状の集電体にも容易に活物質膜を形成することができ、外部へ電力を取り出し、又は外部から電力を取り込むための配線パターンを電池の形状等に合わせて集電体表面に直接、容易に形成することができ、櫛形電池等を容易に構成することができる。
【0038】
本発明の負極前駆体材料の製造において、集電体が長尺の材料である場合、RtoR(Roll-to-Roll)によりZn皮膜及びSnめっき皮膜を形成することができる。RtoRとは、巻取ロールからロール形状に巻いた長尺の板状の集電体用基材を巻き出して供給し、めっき加工を施した後、巻き取って次の工程に供給する加工形態をいう。本発明においては、めっきにより成膜するので、板状の基材にも容易に活物質膜を形成することができ、RtoRにより成膜する場合、生産性が向上する。
以上の工程により、Al集電体にSnめっき皮膜が形成された負極前駆体材料が得られる。
【0039】
Al集電体の表面には酸化膜が形成されており、上述のソフトエッチング処理を行った場合においても、集電体表面にSnめっき皮膜を形成したときに、Snめっき皮膜が剥離し易い。
本発明においては、ソフトエッチング処理に加えて、Al集電体上に亜鉛置換めっきを行うので、Zn皮膜上に密着性良好にSnめっき皮膜を形成することができ、Snめっき皮膜とAl集電体との密着性が良好である。
そして、活物質膜をめっきにより形成するので、集電体が箔、多孔体のいずれであっても、集電体との密着性が良好であり、薄膜化が可能であり、膜厚を均一にすることができる。集電体として多孔体を用いる場合、高エネルギー密度化、高容量化を図ることができ、Snめっき皮膜が平板状の集電体上に成膜される場合と比較して、面方向のみでなく、全方位に成膜できるので、Snめっき皮膜の集電体に対する密着性が向上する。
また、Sn粉末を活物質として用いた負極のように、充放電に伴い微粉化し、集電体から脱落して集電性が低下するのが抑制されている。
従って、動作時の変形及びデンドライトの発生が抑制され、カーボン負極より高容量であるSn負極が良好に得られる。
【0040】
2.電池
本発明に係る電池は、本発明の負極前駆体材料からなる負極と、正極と、Naイオンを含むカチオンを含む溶融塩を有する電解質とを備えることを特徴とする。
本発明においては、負極の集電体とSnめっき皮膜(活物質膜)との密着性が良好であり、しかもSn粉末を用いて成膜する場合のように充放電に伴い微粉化し、集電体から脱落して集電性が低下することがないので、集電性を確保でき、良好な充放電サイクル特性が得られる。また、動作時に負極のSnがNaイオンを吸蔵して合金化するので、負極の表面硬度が高く、負極が軟化して変形することが抑制されており、充放電サイクル効率が低下して充放電サイクル寿命が短くなることが抑制されている。そして、充放電の繰り返しによりデンドライトが成長するのが抑制されているので、セパレータが破壊されて電極間に短絡が生じるのが抑制され、安全性が良好である。さらに、負極の中間層のZnをAl集電体側に拡散させることで、Znのデンドライトの発生、及びZnに基づく充放電が抑制されており、Znを含む負極前駆体材料を良好に用いることができる。
【0041】
本発明に係る電池は、溶融塩が下記式(1)で表されるアニオンを含み、カチオンが、Na以外のアルカリ金属のカチオンの少なくとも1種及び/又はアルカリ土類金属のカチオンの少なくとも1種をさらに含むのが好ましい。
【0042】
【化2】

【0043】
(前記式(1)中、R1 及びR2 はフッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。R1 及びR2 は同一であっても異なっていてもよい。)
【0044】
アニオンとしては、R1 及びR2 がFであるビスフルオロスルフォニルイミドイオン(以下、FSIイオンという)、及び/又はR1 及びR2 がCF3 であるビストリフルオロメチルスルフォニルイミドイオン(以下、TFSIイオンという)であるのが好ましい。なお、このアニオンは厳密にはイミドイオンとはいえないが、今日この呼称が広く用いられているので、本願明細書においても慣用名として用いる。
この溶融塩を電池の電解質に用いた場合、エネルギー密度が高く、動作温度が低い電池が得られ、この電池において、充放電サイクル特性及び安全性を良好にすることができる。
【0045】
溶融塩としては、FSIイオン又はTFSIイオンをアニオンとして含み、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であるMのイオンをカチオンとして含む溶融塩MFSIの単塩、及びMTFSIの単塩を1種又は2種以上用いることができる。
溶融塩の単塩を2種以上含む場合、単塩の融点に比較して著しく融点が低下し、電池の動作温度を著しく低下させることができるので、単塩を2種以上含むのが好ましい。
【0046】
アルカリ金属としては、Naに加え、K、Li、Rb、及びCsからなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。
アルカリ土類金属としては、Ca、Be、Mg、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0047】
溶融塩MFSIの単塩としては、NaFSIに加え、KFSI、LiFSI、RbFSI、CsFSI、Ca(FSI)2 、Be(FSI)2 、Mg(FSI)2 、Sr(FSI)2 、Ba(FSI)2 からなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0048】
溶融塩MTFSIの単塩としては、NaTFSIに加え、KTFSI、LiTFSI、RbTFSI、CsTFSI、Ca(TFSI)2 、Be(TFSI)2 、Mg(TFSI)2 、Sr(TFSI)2 、Ba(TFSI)2 からなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0049】
電池の動作温度を低下させるという観点から、溶融塩は、NaFSIとKFSIとの混合物からなる二元系の溶融塩(以下、NaFSI−KFSI溶融塩という)であるのが好ましい。
NaFSI−KFSI溶融塩のKカチオンとNaカチオンとのモル比[(Kカチオンのモル数)/(Kカチオンのモル数+Naカチオンのモル数)]は0.4以上0.7以下であるのが好ましく、0.5以上0.6以下であるのがより好ましい。前記モル比が0.4以上0.7以下である場合、特に0.5以上0.6以下である場合、電池の動作温度を90℃以下の低温にすることができる。
そして、電池の動作温度をより低下させるという観点から、溶融塩の組成は、2種以上の溶融塩が共晶を示す組成(共晶組成)の近傍であるのが好ましく、共晶組成であるのがより好ましい。
【0050】
電解質には上述の溶融塩に加えて、有機カチオンが含まれていてもよい。この場合、電解質の導電率を高くすることができ、動作温度を低下することができる。
有機カチオンとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン等のアルキルイミダゾール系カチオン、N−エチル−N−メチルピロリジニウムカチオン等のアルキルピロリジニウム系カチオン、1−メチル−ピリジニウムカチオン等のアルキルピリジニウム系カチオン、トリメチルヘキシルアンモニウムカチオン等の4級アンモニウム系カチオン等が挙げられる。
【0051】
正極としては、例えば金属又は金属化合物と、導電助剤とがバインダによって固着された構成の電極が挙げられる。
金属又は金属化合物としては、例えば溶融塩のMをインターカレートすることができるものであればよく、中でも下記式(2)で表される金属又は金属化合物が好ましい。この場合、充放電のサイクル特性に優れ、高エネルギー密度の電池が得られる。
【0052】
Nax M1y M2z M3w ・・・(2)
(M1はFe、Ti、Cr又はMnのうちのいずれか1種を表し、M2はPO4 又はS、M3はF又はOを表す。0≦x≦2、0≦y≦1、0≦z≦2、0≦w≦3であってx+y>0、かつz+w>0。)
【0053】
前記式(2)で表される金属化合物としては、NaCrO2、TiS2 、NaMnF3 、Na2 FePO4 F、NaVPO4 F及びNa0.44MnO2 からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
中でも、NaCrO2 を用いるのが好ましい。この場合、充放電のサイクル特性に優れ、高エネルギー密度の電池を得ることができる。
導電助剤は、導電性を有する材質であればよく、中でもアセチレンブラックが好ましい。この場合、充放電サイクル特性に優れ、高エネルギー密度の電池を得ることができる。
【0054】
正極における導電助剤の含有率は正極の40質量%以下であるのが好ましく、5質量%以上20質量%以下であるのがより好ましい。前記含有率が40質量%以下、特に5質量%以上20質量%以下である場合、より充放電サイクル特性に優れ、高エネルギー密度の電池を得ることができる。正極が導電性を有する場合は、正極に導電助剤が含まれなくてもよい。
【0055】
バインダとしては、金属又は金属化合物と導電助剤とを集電体に固着することができるものであればよく、中でもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。金属化合物がNaCrO2 であり、導電助剤がアセチレンブラックである場合、PTFEはこれらをより強固に固着することができる。
【0056】
正極におけるバインダの含有率は40質量%以下であるのが好ましく、1質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。前記含有率が40質量%以下、特に1質量%以上10質量%以下である場合、正極の導電性が良好であり、かつ金属又は金属化合物と導電助剤とをより強固に固着することができる。バインダは必ずしも正極に含まれる必要はない。
【0057】
以上の構成を有する電池は、下記の式(3)及び(4)の電極反応により充放電される。電池を充電させた場合、Naイオンが正極から引き抜かれ、セパレータ内を移動して負極に吸蔵されて合金化され、電池を放電させた場合、Naイオンが負極から引き抜かれ、セパレータ内を移動して正極に吸蔵される。
負極:Na⇔Na+ +e- ・・・(3)
正極:NaCrO2 ⇔xNa+ +xe- +Na1-x CrO2 ・・・(4)
(0<x≦0.4)
ここで、xが0.4を超えた場合、Naの吸蔵及び放出が可逆的でなくなる。
【0058】
従来の溶融塩電池においては、正極容量1に対し負極容量を1.2程度に設計し、負極のサイズを大きくしたり、厚みを厚くしたりすることが多いが、本発明の電池においては、Snめっき皮膜の膜厚を上述したように0.5μmと小さくしても電池は良好に動作する。従って、設計の自由度が高く、負極容量に対する正極容量の比率を高くすることができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を好適な実施例を用いて説明するが、本発明は、本実施例により、何ら限定されるものではなく、その主旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施することができる。
【0060】
1.負極前駆体材料
本発明の実施例に係る負極前駆体材料は、以下のようにして作製した。
まず、集電体用のAl板(Al箔)の表面に対し、アルカリ性のエッチング液(商品名:「トップアルソフト108」、奥野製薬株式会社製)を用いてエッチング処理を行い、酸化膜を除去した。この処理は、「トップアルソフト108」を濃度が50g/Lになるように水で希釈し、この水溶液に温度50℃、時間30秒の条件でAl板を浸漬することにより行われる。
【0061】
次に、Al板の表面に対し、濃度40%の硝酸を用いてデスマット処理を行った。この処理は、温度25℃、時間50秒の条件で行った。なお、デスマットは、デスマット液(商品名:「トップデスマットN−20」、奥野製薬株式会社製)を濃度が70〜150ml/Lになるように水で希釈し、温度10〜30℃、時間10〜60秒の条件でAl板を浸漬することにより行うことにしてもよい。
【0062】
水洗した後、Al板の表面につき、ジンケート処理液(商品名:「サブスターZn−1」、奥野製薬株式会社製)を用いてジンケート処理(亜鉛置換めっき)を行い、Zn皮膜を形成した。この処理は、「サブスターZn−1」を濃度が180ml/Lになるように水で希釈し、温度20℃、時間30秒の条件でAl板を浸漬することにより行なわれ得る。これにより膜厚50〜100nmのZn皮膜が得られた。
【0063】
2回ジンケート処理を行う場合、「62%硝酸」を用いてZn皮膜の剥離処理を行う。Zn皮膜の剥離処理は、「62%硝酸」を濃度が500〜600ml/Lになるように水で希釈し、温度15〜30℃、時間20〜60秒の条件でAl板を浸漬することにより行なう。そして、再度ジンケート処理を行う。
【0064】
さらに、Zn皮膜が形成されたAl板を以下の組成のめっき液が注入されためっき浴に浸漬してSnめっきを行った。めっきは電気めっきにより行った。
めっきの条件は以下の通りである。
・めっき液
「UTB NV-Tin15」(石原薬品株式会社製):100g/L
「UTB NB−CD」(石原薬品株式会社製):150g/L
「UTB NB−RZ」(石原薬品株式会社製):30ml/L
「UTB NB−TR」(石原薬品株式会社製):200g/L
アンモニアを用いてpH4.8に調製した。
・温度:25℃
・電流密度:2A/dm2
・アノード:Sn
・処理時間:600秒(Snめっき皮膜の膜厚が10μmである実施例1の場合)
【0065】
最後に、温度350℃で2分間、熱処理を行った。
以上の工程により、Al集電体にSnめっき皮膜が形成された負極前駆体材料が得られた。
【0066】
[実施例1]
上述の負極前駆体材料の作製方法により、厚みが20μmであるAl箔製の集電体上に厚み50nmのZn皮膜を形成し、さらにSnめっきにより厚み10μmのSnめっき皮膜を形成して実施例1の負極前駆体材料を作製した。Snめっき皮膜の膜厚は10μm±2μmである。
[実施例2]
Snめっき皮膜の厚みが1μmであること以外は、実施例1と同様にして実施例2の負極前駆体材料を作製した。
[実施例3]
Snめっき皮膜の厚みが4μmであること以外は、実施例1と同様にして実施例3の負極前駆体材料を作製した。
【0067】
[実施例4]
Snめっき皮膜の厚みが100μmであること以外は、実施例1と同様にして実施例4の負極前駆体材料を作製した。
[実施例5]
Snめっき皮膜の厚みが400μmであること以外は、実施例1と同様にして実施例5の負極前駆体材料を作製した。
【0068】
[実施例6]
Snめっき皮膜の厚みが600μmであること以外は、実施例1と同様にして実施例6の負極前駆体材料を作製した。
[実施例7]
Snめっき皮膜の厚みが800μmであること以外は、実施例1と同様にして実施例7の負極前駆体材料を作製した。
【0069】
[比較例1〜3]
従来品であり、厚みが20μmであるAl板からなる集電体上に、厚みが10μm、1μm、5μmであるNa皮膜を形成してある比較例1〜3の負極前駆体材料を用意した。
【0070】
2.溶融塩電池
次に、本発明の実施例に係る電池としての溶融塩電池について説明する。
[実施例8]
図1は、本発明の実施例8に係る溶融塩電池1を示す縦断面図である。
溶融塩電池1は、Al製の集電体21に活物質膜22を形成してなる正極2と、溶融塩からなる電解質を含浸させたガラスクロスからなるセパレータ3と、実施例1の負極前駆体材料を用い、Al製の集電体41にZn皮膜42及び活物質膜43を形成してある負極4とを、略直方体状をなすAl製のケース5に収容してなる。活物質膜43は、負極前駆体材料のSnめっき皮膜がNaと合金化されてなる。正極2、セパレータ3、及び負極4により発電要素が構成される。
ケース5の上面53と負極4との間には、波板状の金属からなる押圧部材6のバネ6aが配されている。バネ6aが、アルミ合金からなり非可撓性を有する平板状の押え板6bを付勢して負極4を下方に押圧し、その反作用で正極2がケース5の底面52から上方に押圧されるように構成されている。
【0071】
集電体21及び集電体41夫々の一端部は、ケース5の一側面の外側に突設された正極端子11,負極端子12に、リード線7,8で接続されている。前記リード線7,8は、前記一側面を貫通するように設けられた中空の絶縁部材9,10に挿通されている。
【0072】
この溶融塩電池1においては、負極4側に設けたバネによる押圧力、及びケース5の底面52からの反発力により発電要素を上下から押圧するため、正極2及び負極4が充放電によって上下方向に伸縮した場合に、セパレータ3に対する正極2及び負極4からの押圧力が略一定に保持される。従って、正極2及び負極4によるNaイオンの吸蔵及び放出が安定して充放電が安定し、使用時の発電要素の膨れも抑制される。
溶融塩電池1に押圧部材6を必ずしも備える必要はないが、上述の理由から備えるのが好ましい。そして、押圧部材6はバネ6aを備えるものには限定されない。
【0073】
上述の溶融塩電池1を構成する負極4以外の発電要素は、以下のようにして作製した。
(1)電解質
セパレータ3に含浸させる電解質としての溶融塩は以下のようにして調製した。
KFSI(第一工業製薬(株)製)は市販のものを真空乾燥した後使用した。
NaFSIは以下のようにして作製した。
まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス中でKFSI(第一工業製薬(株)製)とNaClO4 (Aldrich社製:純度98%)とをそれぞれ同モルになるように秤量した後、KFSIとNaClO4 とをアセトニトリルに溶解し、30分攪拌して混合し、下記式(5)により反応させた。
KFSI+NaClO4 →NaFSI+KCl4 ・・・(5)
【0074】
次に、沈殿したKClO4 を減圧濾過により除去した。その後、残った溶液をパイレックス(登録商標)製の真空容器に入れ、真空ポンプによって333Kで2日間真空引きし、アセトニトリルを除去した。
次に、残った物質に塩化チオニルを加えて3時間攪拌し、下記式(6)の反応によって水分を除去した。
2 O+SOCl2 +SO2 →2HCl+SO2 ・・・(6)
【0075】
その後、ジクロロメタンによる洗浄を3回行って塩化チオニルを除去した後、残った物質をPFAチューブに入れ、真空ポンプによって323Kで2日間真空引きし、ジクロロメタンを除去した。その結果、それぞれ白色の粉末のNaFSIを得た。
【0076】
そして、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、上述のようにして得たNaFSIの粉末と、前記KFSIの粉末とをモル比0.45:0.55となるように秤量し、混合して混合粉末を作製した後、混合粉末の融点57℃以上に加熱して、NaFSI−KFSIの溶融塩を作製した。
溶融塩の量は負極の厚み及びケース5のスペース等によって決定されるが、0.1ml/cm2 以上1ml/cm2 以下であるのが好ましい。
【0077】
(2)正極
正極2の活物質として、Na2 CO3 (和光純薬工業(株)製)とCr2 3 (和光純薬工業(株)製)とをモル比1:1で混合した後にペレット状に成形し、アルゴン気流中で1223Kの温度で5時間焼成することによって、NaCrO2 を得た。
以上のようにして得られたNaCrO2 、アセチレンブラック及びPTFEを質量比80:15:5で混練した後、集電体21にロールプレスで圧縮成形することにより正極2を得た。
正極2の集電体21の厚みは20μm、プレス後の活物質膜22の厚みは50μm、NaCrO2 の付着量は略0.1g/cm2 である。
【0078】
(3)セパレータ
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、上述のようにして作製したNaFSI−KFSIの溶融塩中にガラスクロスを浸漬することにより、NaFSI−KFSIの溶融塩が含浸されたセパレータ3を得た。
【0079】
[実施例9〜14]
実施例2〜7の負極前駆体材料を用い、実施例8の溶融塩電池1と同様にして実施例9〜14の溶融塩電池をそれぞれ作製した。
[比較例4〜6]
実施例8の溶融塩電池1と同様に、比較例1〜3の負極前駆体材料を用いて、比較例4〜6の溶融塩電池を作製した。
【0080】
3.性能評価
以下に、本実施例の溶融塩電池の性能評価について説明する。
[充放電サイクル試験(1)]
実施例1の負極前駆体材料を用いた実施例8の溶融塩電池1、及び比較例4の溶融塩電池につき、充放電サイクル試験(1)を行った。試験は、温度90℃、充放電レート0.5Cの条件で、溶融塩電池の充放電を繰り返し、サイクル数と容量維持率との関係を求めた。容量維持率(%)は、[(各サイクルの放電容量)/(初期容量)×100]により算出される。
図2は、実施例8及び比較例4のサイクル数と容量維持率との関係を示すグラフである。横軸はサイクル数、縦軸は容量維持率(%)である。
図2より、負極4がZn皮膜42及び活物質膜43を有する実施例8の溶融塩電池1は、100サイクル目においても高い容量維持率を有するのに対し、従来の低温型溶融塩電池としての比較例4の溶融塩電池は容量維持率の低下の度合が大きく、50サイクル目で容量維持率がゼロになり、使用できなくなることが分かる。
【0081】
[充放電サイクル試験(2)]
活物質膜の厚みを変えた実施例8〜13,比較例4〜6の溶融塩電池につき、充放電を50回繰り返したときの容量維持率を求める充放電サイクル試験(2)を行った。試験は、温度90℃、充放電レート0.5Cの条件で行った。
図3は、各実施例及び比較例の活物質膜の膜厚と容量維持率との関係を示すグラフである。横軸は膜厚(μm)、縦軸は50サイクル後の容量維持率(%)である。
図3より、Zn皮膜及び活物質膜を有する実施例の溶融塩電池は、活物質膜の厚みを600μmにした場合においても十分に高い容量維持率を有するのに対し、Na皮膜を有する比較例の溶融塩電池は、Na皮膜は厚みを大きくするのに従い、容量維持率が大きく低下し、10μmにした場合、容量維持率がゼロになって使用できなくなることが分かる。従って、本実施例の電池は、厚みを厚くした場合においても良好な充放電サイクル特性を有し、大容量の電極を実現できることが確認された。
【0082】
[充放電サイクル試験(3)]
活物質膜の厚みが100μmである実施例4の負極前駆体材料を用いた実施例11の溶融塩電池につき、充放電サイクル試験(3)を行った。試験は、温度90℃、充放電レート0.5Cの条件で、溶融塩電池の充放電を20回繰り返し、容量と電圧とを測定した。
図4は、実施例11の溶融塩電池の1サイクル、2サイクル、5サイクル、10サイクル、15サイクル、及び20サイクル経過時の容量と電圧との関係を示すグラフ(充放電曲線)である。図4において、横軸は容量(mAh/g)、縦軸は電圧(V)である。上向きのグラフは充電曲線、下向きのグラフは放電曲線である。
図4に示すように、15サイクル以降の放電時に放電電圧が低下している。
【0083】
[Snめっき皮膜のNa及びSnの分布]
実施例11の溶融塩電池につき、1サイクル目、14サイクル目、及び15サイクル目の活物質膜43の表面、内側、及び最内層の元素分析を、エネルギー分散型X線分光器を用いたエネルギー分散型X線分光法(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectrometry)により行った。
図5は、元素分析の結果に基づいて得られた、実施例11の溶融塩電池の1サイクル、14サイクル、15サイクル経過時におけるSnめっき皮膜の層構造を示す模式図である。図5中、(a)は1サイクル経過時、(b)は14サイクル経過時、及び(c)は15サイクル経過時の活物質膜43の層構造を示す。図中、図1と同一部分は同一符号を付している。
図5に示すように、1サイクル目においては、Snを多く含むSnリッチ層44が集電体41側に、Naを多く含むNaリッチ層45が表面(セパレータ側)に形成されている。14サイクル目においては、Naが活物質膜43に拡散している。15サイクル目においては、表面側はSnリッチであり、内側はNaが拡散している状態、集電体41側はNaリッチである。
【0084】
図4及び図5より、充放電を繰り返すうちにNaが集電体41側へ拡散し、15サイクル以降は放電時にNaイオンが表面から抜けるとともに集電体41側へも拡散し、表面がSnリッチになるので、Snの影響により放電電圧が低下することが分かる。
【0085】
図6は、活物質膜43の厚みが1μmである実施例2の負極前駆体材料を用いた実施例9の溶融塩電池の15サイクル経過時の層構造を示す模式図である。
実施例9の溶融塩電池の場合、実施例11の溶融塩電池と比較して厚みが薄いので、Snは活物質膜43に均一に拡散し、表面がSnリッチにはならないので、放電電圧の低下が抑制される。
図2乃至図6の結果より、電池の使用条件(所望する容量、充放電レート、負極の表面積)等に対応させて負極前駆体材料のSnめっき皮膜の厚みを決定し、負極容量に対応して正極の容量を決定すればよいことが分かる。
【0086】
[破断頻度の測定]
Snめっき皮膜の厚みが400μm,600μm,800μmである実施例5,6,7の負極前駆体材料を用いた実施例12,13,14の溶融塩電池につき、破断頻度を求めた。破断頻度は、各実施例に対し各20個の溶融塩電池につき、充放電を50回繰り返し、目視で活物質膜の割れを確認し、1箇所でも割れが発生した溶融塩電池の個数で表した。
図7は、各実施例の破断頻度を求めた結果を示すグラフである。
図7より、活物質膜の厚みが400μmである実施例5の電極は破断頻度が小さく、600μm、800μmと大きくなるのに従い、破断頻度が大きくなることが分かる。
【0087】
[熱処理の効果の確認]
実施例3の負極前駆体材料につき、熱処理の前後で、厚み方向のAl濃度、及びZn濃度をグロー放電発光分光分析(GD−OES)により測定した。
図8は、熱処理の前後における負極前駆体材料の層厚と、Al濃度及びZn濃度との関係を示したグラフであり、(a)は層厚とAl濃度との関係を示すグラフ、(b)は層厚とZn濃度との関係を示すグラフである。層厚は、負極前駆体材料のSnめっき皮膜の表面をゼロにしたときの厚み方向の深さで表している。
図8より、加熱処理によりZnが集電体側へ拡散することが分かる。従って、Znに基づく充放電を抑制し、デンドライトの発生を抑制することができることが確認された。
【0088】
以上より、本発明に係る負極前駆体材料を負極として用いた場合、Al集電体とSnめっき皮膜(活物質膜)との密着性が良好であり、薄膜化が可能であり、集電性を確保することができるとともに、90℃等の動作温度において、負極の表面硬度が高く、負極の形状が維持されるので、本発明に係る電池は良好な充放電サイクル特性を有し、安全性が良好であることが確認された。
【0089】
なお、本実施例においては、1組の正極2、セパレータ3及び負極4からなる発電要素をケース5に収容して溶融塩電池1を構成しているが、セパレータ3を介して正極2及び負極4を積層し、これをケース5に収容することにしてもよい。
【0090】
また、正極2を下方に配しているが、正極2を上方に配し、天地を逆にしてケース5に収容することにしてもよい。さらに、発電要素は横置きではなく、縦置きにすることにしてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 溶融塩電池
2 正極
21、41 集電体
22 活物質膜
3 セパレータ
4 負極
41 集電体
42 Zn皮膜
43 活物質膜
44 Snリッチ層
45 Naリッチ層
5 ケース
52 底面
53 上面
6 押圧部材
6a バネ
6b 押え板
7、8 リード
9、10 絶縁部材
11 正極端子
12 負極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムからなる集電体の表面に亜鉛置換めっきを行い、亜鉛皮膜を形成する工程と、
形成された亜鉛皮膜の表面に錫めっきを行い、錫めっき皮膜を形成する錫めっき工程と
を有することを特徴とする電池用負極前駆体材料の製造方法。
【請求項2】
前記錫めっき工程の後に、亜鉛を前記集電体側に拡散させる工程を有することを特徴とする請求項1に記載の電池用負極前駆体材料の製造方法。
【請求項3】
前記錫めっき工程により形成された錫めっき皮膜の膜厚は、0.5μm以上600μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電池用負極前駆体材料の製造方法。
【請求項4】
前記錫めっき工程により形成された錫めっき皮膜の結晶粒子径は、1μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電池用負極前駆体材料の製造方法。
【請求項5】
前記錫めっき工程により形成された錫めっき皮膜は、膜厚の最大値又は最小値の平均値との差の、平均値に対する比率が20%以内であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電池用負極前駆体材料の製造方法。
【請求項6】
アルミニウムからなる集電体の表面に、亜鉛皮膜と、該亜鉛皮膜を被覆する錫めっき皮膜とを有することを特徴とする電池用負極前駆体材料。
【請求項7】
請求項6に記載の電池用負極前駆体材料からなる負極と、
正極と、
ナトリウムイオンを含むカチオンを含む溶融塩を有する電解質と
を備えることを特徴とする電池。
【請求項8】
前記溶融塩は、下記式(1)で表されるアニオンを含み、
前記カチオンは、ナトリウム以外のアルカリ金属のカチオンの少なくとも1種及び/又はアルカリ土類金属のカチオンの少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の電池。
【化1】

(前記式(1)中、R1 及びR2 はフッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。R1 及びR2 は同一であっても異なっていてもよい。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−187226(P2011−187226A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49394(P2010−49394)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】