説明

電波透過性装飾部材およびその製造方法

【課題】電波透過性および鏡面のような金属調光沢を有し、該金属調光沢が失われにくく、かつ低コストである電波透過性装飾部材および該電波透過性装飾部材を効率よく、安定的に製造できる方法を提供する。
【解決手段】基体12と、透明有機材料層16と、基体12と透明有機材料層16との間に設けられた、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金からなる光反射層14とを有する電波透過性装飾部材1;光反射層14を、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金からなるターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタリングによって形成する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属調光沢を有する電波透過性装飾部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話の筐体、スイッチボタン;時計の筐体;自動車のフロントグリル、バンパ等には、意匠性の点から、金属調の装飾部材、特に、鏡面のような金属光沢を有する装飾部材が多用されている。
【0003】
そして、該装飾部材としては、下記の理由等から、電波(マイクロ波等)を透過し、かつ電波に影響を及ぼさない装飾部材が要求されている。
(i)携帯電話の筐体内部には、電波を送受信するアンテナが配置されている。
(ii)標準電波を受信して誤差を自動修正する機能を持つ電波時計の筐体内部には、電波を受信するアンテナが配置されている。
(iii)障害物の検知、車間距離の測定等を行うレーダー装置を搭載する自動車では、該レーダー装置のアンテナがフロントグリルまたはバンパの近傍に配置されている。
(iv)通信機器(ブルートゥース、UWB、ZigBee等の無線PAN等)で扱う電波の周波数がミリ波からマイクロ波へと高い周波数帯域にシフトしており、装飾部材によって電波が影響を受けやすく、該機器において機能障害が発生しやすい。
【0004】
電波透過性を有する金属調の装飾部材としては、下記のものが提案されている。
(1)基体上に、インジウム、インジウム合金、スズまたはスズ合金の蒸着膜を有する成形品(特許文献1)。
(2)基材上に、インジウム/酸化インジウム複合蒸着膜を有する転写材(特許文献2)。
(3)基材上に、細片状の光輝材が分散した塗膜を有する装飾製品(特許文献3)。
(4)基材上に、開口部が設けられた反射膜(金属)を有する装飾品(特許文献4)。
【0005】
インジウム、スズ、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン等の金属蒸着膜においては、該金属が微細な独立した島として存在しているため、島と島との間の、金属の存在しない間隙を電波が通過できることが知られている。そのため、(1)、(2)の装飾部材は、電波透過性を有し、かつ金属光沢を有する。
【0006】
しかし、(1)、(2)の装飾部材において、充分な金属光沢を得るために金属蒸着膜を厚くする、または装飾部材の二次成形にて該金属蒸着膜に圧力が加わると、島同士が部分的に連結し、良導体となるネットワークが形成されるため、電波の周波数によっては反射または吸収が起こる。そのため、(1)、(2)の装飾部材を用いた製品は、電波の直進性を阻害していないか、またはその他の障害を起こしていないかについて全数を検品する必要があり、生産性が低い。
また、スズは、酸化、塩化等を起こしやすく、経時的に金属光沢が失われる。一方、インジウムは、入手が困難で、たいへん高価なものであるという不利がある。
【0007】
(3)の装飾部材は、塗膜に光揮材を分散させたものであるため、鏡面のような金属光沢を有するものではない。
(4)の装飾部材は、光反射層の開口部の大きさに対応した特定の周波数の電波しか通過できず、指向性を有してしまい、用途が限定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−249773号公報
【特許文献2】特許第3414717号公報
【特許文献3】特開2006−282886号公報
【特許文献4】特開2006−276008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、電波透過性および鏡面のような金属調光沢を有し、該金属調光沢が失われにくく、かつ低コストである電波透過性装飾部材および該電波透過性装飾部材を効率よく、安定的に製造できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電波透過性装飾部材は、基体と、透明有機材料層と、前記基体と前記透明有機材料層との間に設けられた、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金からなる光反射層とを有することを特徴とする。
前記光反射層は、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金の物理的蒸着によって形成された蒸着膜であることが好ましい。
前記透明有機材料層は、透明有機材料の成形体であることが好ましい。
前記基体は、有機材料の成形体であることが好ましい。
【0011】
本発明の電波透過性装飾部材は、さらに、前記透明有機材料層と前記光反射層との間に設けられた、前記透明有機材料層の屈折率よりも屈折率が低い低屈折率層を有していてもよい。
前記低屈折率層は、気体または真空からなる間隙であってもよい。
【0012】
本発明の電波透過性装飾部材は、さらに、前記透明有機材料層と前記光反射層との間に設けられた着色層を有していてもよい。
前記着色層は、パターン状に形成されたもの(文字、記号、図、模様等)であってもよい。
【0013】
本発明の電波透過性装飾部材は、さらに、前記光反射層と接する接着促進層を有することが好ましい。
前記接着促進層は、金属酸化物を含むことが好ましい。
前記接着促進層は、金属アルコキシル基を有する樹脂を脱アルコール縮合させて形成されたものであることが好ましい。
【0014】
本発明の電波透過性装飾部材の製造方法は、基体と、透明有機材料層と、前記基体と前記透明有機材料層との間に設けられた、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金からなる光反射層とを有する電波透過性装飾部材の製造方法であって、前記光反射層を、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金からなるターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタリングによって形成することを特徴とする。
前記ターゲットは、さらにドーパントを含むことが好ましい。
前記ターゲットは、平均粒子径が100μm以下の合金粉末を成型したものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電波透過性装飾部材は、電波透過性および鏡面のような金属調光沢を有し、該金属調光沢が失われにくく、かつ低コストである。
本発明の電波透過性装飾部材の製造方法によれば、電波透過性および鏡面のような金属調光沢を有し、該金属調光沢が失われにくく、かつ低コストである該電波透過性装飾部材を効率よく、安定的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の電波透過性装飾部材の一例を示す断面図である。
【図2】光反射層の断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。
【図3】本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
【図4】本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
【図5】本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
【図6】本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
【図7】本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
【図8】本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
【図9】ミリ波における入射角度の依存性を測定する装置を示す概略図である。
【図10】実施例1の電波透過性装飾部材の電波の透過減衰量(S21)および反射減衰量(S11)のグラフである。
【図11】実施例1の電波透過性装飾部材の可視光における反射率のグラフである。
【図12】実施例7の電波の入射角度依存性を示す透過減衰量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明における光とは、可視光を意味する。
本発明における電波とは、周波数が10MHz〜1000GHzの電磁波(サブミリ波〜マイクロ波)を意味する。
本発明における透明とは、光透過性を有することを意味する。
【0018】
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の電波透過性装飾部材の一例を示す断面図である。
電波透過性装飾部材1は、凸部を有する基体12と、凸部に対応する凹部を有し、凹部の内面に光反射層14が設けられた透明有機材料層16とが、凸部と凹部とを嵌合させることによって一体に組み合わされたものである。
【0019】
(基体)
基体12は、電波透過性の材料の成形体である。
電波透過性の材料としては、絶縁性の有機材料または無機材料が挙げられる。絶縁性とは、表面抵抗率が10Ω以上であることを意味し、表面抵抗率は10Ω以上が好ましい。表面抵抗率は、JIS K7194に記載の4探針法により測定する。電波透過性の材料としては、成形加工性の点から、絶縁性の有機材料が好ましい。
【0020】
有機材料としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等)、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66等)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート等)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンテレフタレート等)、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、熱可塑性エラストマー(スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリパラキシリレン樹脂、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、ジエン系ゴムの水素添加物、飽和ポリオレフィンゴム(エチレン・プロピレン共重合体等のエチレン・α−オレフィン共重合体等)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、α−オレフィン−ジエン共重合体、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ポリエーテル系ゴム、アクリルゴム等が挙げられる。
【0021】
有機材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて共重合体、ブレンド、ポリマーアロイ、積層体等として用いてもよい。
有機材料は、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、補強材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、防曇剤、防霧剤、可塑剤、顔料、近赤外吸収剤、帯電防止剤、着色剤等が挙げられる。
【0022】
無機材料としては、ガラス(珪酸塩ガラス、石英ガラス等)、金属酸化物(Al、BeO、MgO、ZrO、Cr等)、金属窒化物(AlN、Si、TiN等)、金属炭化物(TiC等)、金属窒化物(MoB、TiB等)、金属ケイ化物(MoSi、WSi等)等のセラミックスが挙げられる。
無機材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
(透明有機材料層)
透明有機材料層16は、電波透過性の透明有機材料の成形体からなり、光反射層14を保護する層である。
電波透過性の透明有機材料としては、絶縁性の透明有機材料が挙げられる。
【0024】
透明有機材料としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等)、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ABS樹脂、AS樹脂、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンテレフタレート等)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフッ化ビニリデン、不飽和ポリエステル、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリパラキシリレン樹脂等が挙げられ、透明性、強度、湿度透過性の点から、ポリカーボネート(屈折率:1.59)、ポリメチルメタクリレート(屈折率:1.49)、AS樹脂(屈折率:1.57)、ポリスチレン(屈折率:1.60)、環状ポリオレフィン類(屈折率:1.51〜1.54)、ポリエチレンテレフタレート(屈折率:1.51)等が好ましい。
屈折率は、ナトリウムのD線(波長:589.3nm)の光に対する、23℃における屈折率である。
【0025】
有機材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて共重合体、ブレンド、ポリマーアロイ、積層体等として用いてもよい。
有機材料は、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、補強材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、防曇剤、防霧剤、可塑剤、顔料、近赤外吸収剤、帯電防止剤、着色剤等が挙げられる。
【0026】
(光反射層)
光反射層14は、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金からなる層である。
シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金は、シリコンまたはゲルマニウム単独に比べ、光反射層14の反射率および明度が向上し、明るい光反射層14が得られる。また、該合金は、シリコンに比べ軟質であるため、光反射層14の内部応力が低下し、基体12との密着性が向上し、クラックの発生が抑制される。
【0027】
シリコンおよびゲルマニウムは、後述の金属とは異なり、半導体物質である。
シリコンおよびゲルマニウムは、光反射層14の表面抵抗率を高く維持できる限りは、ドーパントとならない不純物を含んでいてもよい。
シリコン(融点:1414℃)およびゲルマニウム(融点:959℃)は、ドーパント(ボロン(融点:2300℃)、リン(融点:590℃)、砒素(融点:817℃)、アンチモン(融点:631℃)等)を含むことが好ましい。ドーパントの量は10ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。
【0028】
半導体物質のうち、下記の点から、シリコンが特に好ましい。
(i)反射率が高く明るい。
(ii)導電率が小さいことから、合金中の金属の割合を多くでき、電波透過性を維持したままより明るく、また内部応力を低減できる。
(iii)入手しやすい、等。
【0029】
金属としては、反射率が50%以上の金属が好ましい。該金属としては、金(融点:1064℃)、銀(融点:962℃)、銅(融点:1085℃)、アルミニウム(融点:660℃)、白金(融点:1772℃)、鉄(融点:1535℃)、ニッケル(融点:1455℃)、クロム(融点:1890℃)等が挙げられ、反射率およびコストの点から、アルミニウム、銀が好ましく、アルミニウムがより好ましい。
反射率は、JIS Z8722の条件d(n−D)による、正反射率を含めた拡散反射率であり、短波長側が360nm〜400nm、長波長側が760nm〜830nmである可視光線領域の平均値であって、積分球を用い光沢成分の正反射光を含めて測定する。
【0030】
金属の割合は、合金(100体積%)のうち、0.1〜70体積%が好ましく、40〜70体積%がより好ましい。金属の割合が0.1体積%以上であれば、光反射層14の明度が向上し、また、光反射層14の内部応力が低下する。金属の割合が70体積%以下であれば、電波透過性がさらに向上する。
合金は、光反射層14の表面抵抗率および金属調光沢を高く維持できる限りは、シリコン、ゲルマニウムおよび金属を除く不純物を含んでいてもよい。
【0031】
光反射層14の厚さは、10〜500nmが好ましく、50〜200nmがより好ましい。光反射層の厚さが10nm以上であれば、光が透過しにくくなり、金属調光沢が充分に得られる。光反射層の厚さが500nm以下であれば、不純物による導電性の上昇が抑えられ、充分な電波透過性を維持できる。また、内部応力の上昇が抑えられ、装飾部材の反り、変形、クラック、剥離等が抑えられる。
光反射層14が薄い場合は、光が透過してしまい、反射率が低下するため、暗い金属調光沢を得ることができる。よって、金属調光沢の明度調整を、光反射層14の厚さを変えることにより調整できる。
光反射層14の厚さは、光反射層の断面の高分解能顕微鏡像から測定できる。
【0032】
光反射層14の表面抵抗率は、10Ω以上が好ましく、10Ω以上がより好ましい。光反射層14の表面抵抗率が10Ω以上であれば、充分な電波透過性を維持できる。
光反射層14の表面抵抗率は、JIS K7194に記載の4探針法により測定する。
【0033】
光反射層14の平均表面粗さは、0.05μm以下が好ましい。光反射層14の平均表面粗さが0.05μm以下であれば、乱反射が抑えられ、充分な金属調光沢が得られる。光反射層14の平均表面粗さの下限は、研磨加工で実現可能な0.1nmとする。
光反射層14の平均表面粗さは、JIS B0601−2001の算術平均粗さRaである。具体的には、原子間力顕微鏡により表面形状を測定し、平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、抜き取り部分の平均線から粗さ曲線までの偏差の絶対値を合計し平均した値(算術平均粗さRa)を求める。
【0034】
光反射層14の平均表面粗さは、下地(基体12、透明有機材料層16、低屈折率層、接着促進層、着色層等)の平均表面粗さに影響される。よって、下地の平均表面粗さは、0.5μm以下が好ましく、0.1μm以下がより好ましい。下地の平均表面粗さが0.5μm以下であれば、光反射層14を薄くしても、光反射層14が下地の表面に追従するため、鏡面のような金属調光沢が充分に得られる。
下地の平均表面粗さは、JIS B0601−2001に規定される算術平均粗さRaである。
【0035】
光反射層14は、例えば、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金の物理的蒸着によって形成される。
物理的蒸着法は、真空にした容器の中で蒸発材料(合金)を何らかの方法で気化させ、気化した蒸発材料を近傍に置いた下地上に堆積させて薄膜を形成する方法であり、蒸発材料の気化方法の違いで、蒸発系とスパッタリング系とに分けられる。蒸発系としては、EB蒸着、イオンプレーティング、パルスレーザー蒸着等が挙げられ、スパッタリング系としては、RF(高周波)スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング、ECRスパッタリング等が挙げられる。
【0036】
EB蒸着法は、膜がポーラスになりやすく膜強度が不足する傾向があるが、下地のダメージが少ないという特徴がある。イオンプレーティグによれば、付着力の強い膜を得ることができるので好ましい。RFスパッタリングでは抵抗の高いターゲット(蒸発材料)を用いることができるので好ましい。特にDCマグネトロンスパッタリングは、膜の成長速度が速く、対向ターゲット型DCマグネトロンスパッタリングは、下地にプラズマダメージを与えることなく薄膜を生成することができるため好ましい。
【0037】
DCマグネトロンスパッタリング系で用いるターゲットとしては、シリコン等とアルミニウム等とが原子レベルで均一に混合された合金であることが望ましい。しかし、所望の合金組成が共晶組成でなく、各元素の融点も異なり、また原子レベルまでの拡散は起こりえないため、溶融混合された合金を急激に冷却する必要がある。この際、シリコンまたはゲルマニウムの偏析が起こると、合金が良導体でなはなくなるため、DCマグネトロンスパッタリング中にターゲットに流れる電流にムラが生じ、融点が低く良導体である金属が蒸着されやすくなり、組成比が安定しない。
そのため、シリコンまたはゲルマニウムをドープして、少しでも電流が流れるようにすることが好ましい。また、溶融合金を急冷するためには小径の合金粉末とすることが、熱容量が小さくなることから好ましい。粉末の平均粒子径は、100μm以下が好ましくは50μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
合金粉末の作製方法としては、単純に金属を溶かして噴霧するアトマイズ法;ボールミル装置を用いた低温で行えるメカニカルアロイング法等が挙げられる。得られた粉末は、粉末冶金法に基づき、加圧、加熱してターゲットに成型できる。加熱は、偏析が起きないように最小限にとどめることが肝要である。ターゲットの空隙率は、20%以下が好ましい。
【0038】
図2は、シリコン―アルミニウム合金を用いたDCマグネトロンスパッタリングによって形成された光反射層の断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。従来のインジウム、スズ等を用いた場合に見られる独立した島(微小クラスター)の集合体とは異なり、合金が存在しない間隙が形成されておらず、均質な非晶質構造を有した連続した層となっている。
【0039】
〔第2の実施形態〕
図3は、本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
電波透過性装飾部材2は、凸部を有する基体12と、凸部に対応する凹部を有し、凹部の内面に低屈折率層18が設けられ、さらに低屈折率層18の表面に光反射層14が設けられた透明有機材料層16とが、凸部と凹部とを嵌合させることによって一体に組み合わされたものである。
第2の実施形態において、第1の実施形態と同じ構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0040】
(低屈折率層)
低屈折率層18は、透明有機材料層16の屈折率よりも屈折率が低い層である。
低屈折率層18を、透明有機材料層16と光反射層14の間に設けることによって、下記の理由により、より明るい金属調光沢を得ることができる。
光反射層14で反射された光の乱反射成分のうち、透明有機材料層16と外側の空気との界面に大きい入射角で入射する光は、透明有機材料層16にて全反射してしまい、透明有機材料層16から表に現れなくなる。そこで、透明有機材料層16と光反射層14の間に低屈折率層18を設けることによって、該入射角を小さくし、光反射層14で反射した光の多くを外部に取り出す。すなわち、低屈折率層18を設けることにより、電波透過性装飾部材2は大きな反射率を有するようになり、金属調光沢がより明るくなる。
【0041】
低屈折率層18の材料としては、電波透過性の透明材料が挙げられる。電波透過性の透明材料としては、絶縁性の透明有機材料または透明無機材料が挙げられる。
透明有機材料としては、透明有機材料層16の材料として挙げられた材料のうち、屈折率が低い材料を選択する。
透明無機材料としては、低屈折ガラス、シリカ(屈折率:1.46)等が挙げられる。
低屈折率層18は、気体(空気等)または真空からなる間隙であってもよい。
低屈折率層18の厚さは、可視光の波長より大きいことが好ましく、1μm〜1mmがより好ましい。
【0042】
〔第3の実施形態〕
図4は、本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
電波透過性装飾部材3は、凸部を有する基体12と、凸部に対応する凹部を有し、凹部の底面に透明着色層20が設けられ、さらに凹部の側面および透明着色層20の表面に接着促進層22が設けられ、さらに接着促進層22の表面に光反射層14が設けられた透明有機材料層16とが、凸部と凹部とを嵌合させることによって一体に組み合わされたものである。
第3の実施形態において、第1の実施形態と同じ構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0043】
(着色層)
透明着色層20は、透明有機材料層16と光反射層14との間に設けられ、金属調光沢の明度、彩度を調整し、所望の意匠性を付与する層である。通常は、透明着色層20によって金属調光沢の明るさを暗い方向に調整し、所望の色彩を持たせることができる。
透明着色層20の材料としては、電波透過性の透明着色有機材料が挙げられる。電波透過性の透明着色材料としては、絶縁性の透明着色有機材料が挙げられる。透明着色有機材料としては、低屈折率層18の材料に染料あるいは顔料を配合した材料が好ましい。
【0044】
(接着促進層)
接着促進層22は、光反射層14と下地(基体12、透明有機材料層16、低屈折率層18、着色層等)との密着性を向上させる層である。接着促進層22は、光反射層14を形成する前に、あらかじめ下地の表面に形成する。
接着促進層22の材料としては、電波透過性および光透過性を有し、下地に対して接着力があり、かつ光反射層と共有結合、配位結合または水素結合できる材料が好ましい。該材料としては、(a)接着促進剤、(b)金属酸化物、(c)接着促進剤と金属酸化物との複合材等が挙げられる。
【0045】
(a)接着促進剤としては、主鎖または側鎖に、極性を有する結合(エステル結合、ウレタン結合、アロファネート結合、ウレア結合、ビューレット結合、アミド結合等)または極性を有する基(水酸基、カルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基、オキサゾリン基、メルカプト基、エポキシ基等)を有する樹脂(以下、極性樹脂と記す。)が挙げられる。
極性樹脂としては、ニトロセルロース、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリホスファゼン、ポリアミド、エポキシ樹脂等が挙げられる。
接着促進剤は、さらに、シランカップリング剤を含んでいてもよい。シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、シアノエチルトリメトキシシラン、シアノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0046】
(b)金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタンが好ましい。金属酸化物は、粒子であることが好ましく、その平均粒子径は5〜1000nmが好ましい。
【0047】
(c)接着促進剤と金属酸化物との複合材としては、(c1)接着促進剤に金属酸化物を配合したもの、(c2)接着促進剤に金属アルコキシドを配合した後、脱アルコール縮合させて金属酸化物を接着促進剤中に凝集、析出させたもの、(c3)側鎖に金属アルコキシ基を有する極性樹脂(エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド等)を脱アルコール縮合させて金属酸化物を極性樹脂中に凝集、析出させたもの等が挙げられ、金属酸化物と接着促進剤としての極性樹脂とが共有結合している点から、(c3)が好ましい。脱アルコール縮合は、光反射層14とも共有結合を形成できる点から、光反射層14を形成した後に行うことが好ましい。また、あらかじめ下地の表面を親水化処理(薬品による化成処理、コロナ放電処理、UV照射、酸素プラズマ処理、イトロ処理等)した後、脱アルコール縮合によって金属酸化物を凝集、析出さると、下地の全面に渡って金属酸化物を配置でき、密着力および反射率を向上できる。
複合材中の金属酸化物の割合は、固形分換算で15〜70体積%が好ましい。
【0048】
接着促進層22が金属酸化物を含む場合、下記の効果がある。
下地の表面に物理的蒸着法により光反射層14を形成した場合、光反射層14を構成している元素(シリコン、アルミニウム等)のイオンが界面から下地中に侵入、埋没するため、下地と光反射層14との界面が不揃いになり、界面の面積が非常に大きくなる。その結果、下地側の面から光反射層14に入射した光の反射率は、下地とは反対側の光反射層14の面に入射した光の反射率よりも低下する。そこで、下地と光反射層14との界面に、透明で硬い金属酸化物を配置することによって、下地へのイオンの侵入や埋没を抑制できる。
【0049】
〔第4の実施形態〕
図5は、本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
電波透過性装飾部材4は、凸部を有する基体12と、凸部に対応する凹部を有し、凹部の底面に着色パターン層24が設けられ、さらに凹部の側面および着色パターン層24の表面に光反射層14が設けられた透明有機材料層16とが、凸部と凹部とを嵌合させることによって一体に組み合わされたものである。
第4の実施形態において、第1の実施形態と同じ構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0050】
(着色層)
着色パターン層24は、隠蔽性(光非透過性または光低透過性)の材料を所望のパターン状に配置して形成されたもの(文字、記号、図、模様等)である。電波透過性装飾部材4を上方から見ると、金属調光沢を背景として、着色パターン層24で書かれた文字(かな、アルファベット、数字等)、記号等が描かれている。
着色パターン層24は、公知の印刷インキ、塗料を用いた印刷等により形成できる。
【0051】
〔第5の実施形態〕
図6は、本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
電波透過性装飾部材5は、凹部を有する基体12と、凹部を有し、かつ外周の形状が基体12の凹部の内周の形状と同じとされた透明有機材料層16とが、凹部同士が向かい合うように、かつ内部に空隙26が形成されるように嵌合し、一体に組み合わされたものである。透明有機材料層16の凹部の内面には接着促進層22が設けられ、さらに接着促進層22の表面には光反射層14が設けられている。
空隙26を設けることによって、電波透過性装飾部材5の軽量化を図ることができる。
第5の実施形態において、第1の実施形態および第3の実施形態と同じ構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0052】
〔第6の実施形態〕
図7は、本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
電波透過性装飾部材6は、凹部および該凹部に囲まれた凸部を有する基体12と、凹部を有し、かつ外周の形状が基体12の凹部の外側内周の形状と同じとされた透明有機材料層16とが、凹部同士が向かい合うように嵌合し、一体に組み合わされたものである。基体12の凸部の表面には接着促進層22が設けられ、さらに接着促進層22の表面には光反射層14が設けられている。また、光反射層14と透明有機材料層16との間には空隙26が形成されている。
空隙26は、低屈折率層としての機能を発揮する。
第6の実施形態において、第1の実施形態および第3の実施形態と同じ構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0053】
〔第7の実施形態〕
図8は、本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
電波透過性装飾部材7は、凹凸を有する金型内に加飾フィルム40を配置した後、金型内に溶融状態の有機材料を射出し、固化させることによって、有機材料からなり、凹凸を有する基体12と、基体12の凹凸の形状に追随した加飾フィルム40とが一体にされたインサート成形品である。
第7の実施形態において、第1の実施形態および第3の実施形態と同じ構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0054】
加飾フィルム40は、透明有機材料層16となるフィルムの表面にパターン状の透明着色層20を設け、さらに透明着色層20を覆うように接着促進層22を設け、さらに接着促進層22の表面に光反射層14を設けたものである。
電波透過性装飾部材7は、入射する電波に対して傾斜している光反射層14を有しているため、減衰なく電波を透過できる。一方、従来の金属蒸着膜においては、島同士が部分的に連結し、良導体となっているため、電波透過性が劣る。
【0055】
〔他の実施形態〕
なお、本発明の電波透過性装飾部材は、図示例のものに限定はされず、基体と、透明有機材料層と、基体と透明有機材料層との間に設けられた、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金からなる光反射層とを有するものであればよい。
例えば、基体の形態は、図示例のような凹凸を有する成形体に限定はされず、フィルム、シート、板、他の形状の成形体等であってもよい。
また、透明有機材料層は、基体の凹部および/または凸部と嵌合できる形状であればよく、また、図示例のような凹凸を有する成形体に限定はされず、塗膜であってもよい。
【0056】
以上説明した本発明の電波透過性装飾部材にあっては、基体と透明有機材料層との間に、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金からなる高い反射率を有する明るい光反射層を有するため、電波透過性があり、クロムメッキと同様のような金属調光沢を有する。また、スズ等の卑金属単体で島状で大きな表面積を有している従来のものに比べて、化学的に安定で、均質膜であり表面積が小さいことから酸化、塩化等を起こり難く、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金を用いているため、経時的に金属調光沢が失われにくい。また、光反射層が透明有機材料層に保護されているため、金属調光沢が失われにくい。また、インジウム等のレアメタル単体に比べて安価な、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金を用いているため、低コストである。
【0057】
シリコンまたはゲルマニウムのような半導体物質を含む合金が電波を透過させ、金属調光沢を示す理由は、以下のように考えられる。
金属の特徴である自由電子は電気伝導性をもたらす。また、電磁波(光、電波)が金属の中に入ろうとすると、自由電子が動いて強い電子分極が起き、入ってきた電磁波の電界とは逆の電束が誘起されるため、電磁波が金属の中に入りにくく、電磁波は反射し透過できない。また、可視光領域にて高い反射率を有するため、金属光沢と認識される。
一方、半導体物質の場合、わずかな数の自由電子しかなく、金属とは異なり電波は反射されず透過できる。金属調光沢は、自由電子によるものではなく、バンド間の直接遷移による強い吸収が可視光領域に存在することによって、強い電子分極が起き、高い屈折率を持ち、それゆえ高い反射率を持つためと考えられている。
【0058】
また、本発明において、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金を用いる理由は、以下の通りである。
シリコンまたはゲルマニウムは、可視光領域に高い反射率をもつといえども、金属の反射率(例えば、銀98%、アルミニウム90%、於620nm、文献値、Handbook of Optical Constants of Solids,E.L.Palik,Academic Press.,(1985))よりは低く、36%(於620nm、文献値)である。そのため、反射率が50%以上の金属と合金化することにより、反射率を向上させ、明度を上げ、明るいクロムメッキと同等以上の金属調光沢を有する光反射層を得ることができる。また、該金属は、シリコン等より軟質であることから、光反射層の内部応力は低下し、密着性が向上し、クラックの発生が抑えられる。
【実施例】
【0059】
(電波透過性)
同軸管タイプシールド効果測定システム(キーコム社製、S−39D、ASTM D4935準拠)を用い、外部胴体(内径39mm)の同軸管内に円盤上の平坦な試料を置き、同軸管両端に接続されたベクトルネットワークアナライザー(アンリツ社製、37247C)により透過減衰量(S21)および反射減衰量(S11)を求めた。透過減衰量が0dBに近いほど、電波透過性が優れている。
【0060】
(電波透過の入射角度依存性)
図9に示すミリ波レンズアンテナ方式斜入射電波吸収測定装置(キーコム社製)を用い、電波透過の入射角度依存性を評価した。出力アンテナ33および入力アンテナ34としてホーンアンテナ(キーコム社製、WR12)を取り付け、レンズ32によって平行にされた76.5GHzの平面波を平坦な試料30に対し−60〜60℃の入射角度αで入射させ、入力アンテナ34で受信し、スカラーネットワークアナライザ36(Wiltron54147A)にて透過減衰量を測定した。透過減衰量が0dBに近いほど電波透過性が優れ、各入射角度においての減衰量に差がないほど角度依存性が低い。
【0061】
(反射率)
反射率は、JIS Z8722の条件d(n−D)による、正反射率を含めた拡散反射率であり、積分球を用い光沢成分の正反射光を含めて測定した。
具体的には、装飾部材の反射率を、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製、V−570)を用い、積分球を用いて光沢成分の正反射光を含めて測定した。波長380nmから780nmまでの測定点401箇所の平均を求めた。
【0062】
(透過率)
装飾部材の透過率を、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製、V−570)を用い、積分球を用いて測定した。
【0063】
(光反射層の厚さ)
透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEM―4000EX)を用い、光反射層の断面を観察し、5箇所の光反射層の厚さを測定し、平均した。
【0064】
(平均表面粗さ)
走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、SPA300)を用い、原子間力顕微鏡DFMモードで、試料の表面1μm□を走査し、表面形状の像を作成し、平均表面粗さ(算術平均粗さRa)を求めた。
【0065】
(表面抵抗率)
試料の表面抵抗率は、抵抗率計(ダイアインスツルメント社製、ロレスタGP MCP−T600型、JIS K7194準拠)を用い、直列4探針プローブ(ASP)を試料上に置き測定した。測定電圧は10Vとした。
【0066】
〔実施例1〕
透明ポリカーボネートを成形し、図1に示すような凹部を有する透明有機材料層16となる成形体(厚さ:0.3mm)を得た。
ターゲットとして、メカニカルアロイング法によって得られた、ボロンドープされたシリコンとアルミニウムとの合金粉末(アルミニウムの割合:70体積%、ボロンドープ量:約10−7モル%(約40ppb)、平均粒子径:45μm)を、温度:610℃、圧力:400Kgf/cmの条件下で、一軸プレス機を用いて成型したものを用意した。ターゲットの空隙率は11%であった。アルミニウム単体の反射率は87.6%である。
DCスパッタ装置(芝浦メカトロニクス社製、CFS−12P)のカソードとして前記ターゲットを装着し、DCスパッタリングにて成形体の凹部の内面に、ターゲットの合金を物理的に蒸着させ光反射層14を形成した。
不透明ABS樹脂を成形し、図1に示すような凸部を有する基体12を得た。
基体12の凸部と、内面に光反射層14が形成された成形体(透明有機材料層16)の凹部とを嵌合させ、図1に示す電波透過性装飾部材1を得た。
【0067】
電波透過性装飾部材1について、光反射層の厚さ、平均表面粗さ、1GHzおよび3GHzにおける電波の透過減衰量(S21)および反射減衰量(S11)、透明有機材料層16から入射した可視光における反射率、表面抵抗率を測定した。また、電波透過性装飾部材1の外観を観察した。なお、光反射層のアルミニウムの割合は、ターゲットにおけるアルミニウムの割合と同じであった。結果を表1に示す。
また、電波透過性装飾部材1の電波の透過減衰量(S21)および反射減衰量(S11)のグラフを図10に示す。
また、電波透過性装飾部材1の反射率のグラフを図11に示す。
【0068】
〔比較例1〕
ターゲットとして、アルミニウム単体を用いた以外は、実施例1と同様にして装飾部材を得た。
該装飾部材について、光反射層の厚さ、平均表面粗さ、1GHzおよび3GHzにおける透過減衰量(S21)、反射率、表面抵抗率を測定した。また、該装飾部材の外観を観察した。結果を表2に示す。
【0069】
〔実施例2〕
透明ポリカーボネート(屈折率:1.59)を成形し、図3に示すような凹部を有する透明有機材料層16となる成形体(厚さ:0.3mm)を得た。
成形体の凹部の内面に、UV硬化性アクリル樹脂(硬化後の屈折率:1.49)を塗布し、硬化させて低屈折率層18(厚さ:30μm)を形成した。
アルミニウムの割合を10体積%に変更した以外は、実施例1と同様にしてターゲットを作製した。該ターゲットを用いた以外は、実施例1と同様にして低屈折率層18の表面に光反射層14を形成した。
不透明ABS樹脂を成形し、図3に示すような凸部を有する基体12を得た。
基体12の凸部と、内面に低屈折率層18および光反射層14が形成された成形体(透明有機材料層16)の凹部とを嵌合させ、図3に示す電波透過性装飾部材2を得た。
【0070】
電波透過性装飾部材2について、光反射層の厚さ、平均表面粗さ、1GHzおよび3GHzにおける透過減衰量(S21)、反射率、表面抵抗率を測定した。また、電波透過性装飾部材2の外観を観察した。なお、光反射層のアルミニウムの割合は、ターゲットにおけるアルミニウムの割合と同じであった。結果を表1に示す。
【0071】
〔実施例3〕
不透明ABS樹脂を成形し、図7に示すような凹部および該凹部に囲まれた凸部を有する基体12を得た。
基体12凸部の表面に、UV硬化性アクリル樹脂(平均粒子径:0.45μmの酸化ケイ素粒子の15体積%および3−メルカプトプロピルトリメトキシシランの0.2質量%を含む。)を塗布し、硬化させて接着促進層22(厚さ:10μm)を形成した。
実施例2と同様にして接着促進層22の表面に光反射層14を形成した。
透明スチレン樹脂(屈折率:1.60)を成形し、図7に示すような凹部を有する透明有機材料層16となる成形体(厚さ:2mm)を得た。
凸部に接着促進層22および光反射層14が形成された基体12と、成形体(透明有機材料層16)とを、凹部同士が向かい合うように、かつ光反射層14と透明有機材料層16との間に空隙26が形成されるように嵌合させ、図7に示す電波透過性装飾部材6を得た。
【0072】
電波透過性装飾部材6について、光反射層の厚さ、平均表面粗さ、1GHzおよび3GHzにおける透過減衰量(S21)、反射率、表面抵抗率を測定した。また、電波透過性装飾部材6の外観を観察した。なお、光反射層のアルミニウムの割合は、ターゲットにおけるアルミニウムの割合と同じであった。結果を表1に示す。
【0073】
〔実施例4〕
透明ポリカーボネート(屈折率:1.59)を成形し、図5に示すような凹部を有する透明有機材料層16となる成形体(厚さ:0.5mm)を得た。
成形体の底面に、黒色のウレタン塗料を用いた印刷によって着色パターン層24を形成した。
合金粉末として、アトマイズ法によって得られた、ゲルマニウム(純度4ナイン)とアルミニウムとの合金粉末(アルミニウムの割合:40体積%、平均粒子径:3.8μm)を用いた以外は、実施例1と同様にしてターゲットを作製した。該ターゲットを用いた以外は、実施例1と同様にして成形体の側面および着色パターン層24の表面に光反射層14を形成した。
不透明ABS樹脂を成形し、図5に示すような凸部を有する基体12を得た。
基体12の凸部と、内面に着色パターン層24および光反射層14が形成された成形体(透明有機材料層16)の凹部とを嵌合させ、図5に示す電波透過性装飾部材4を得た。
【0074】
電波透過性装飾部材4について、光反射層の厚さ、平均表面粗さ、1GHzおよび3GHzにおける透過減衰量(S21)、反射率、表面抵抗率を測定した。また、電波透過性装飾部材4の外観を観察した。なお、光反射層のアルミニウムの割合は、ターゲットにおけるアルミニウムの割合と同じであった。結果を表1に示す。
【0075】
〔実施例5〕
透明ポリカーボネートを成形し、図6に示すような凹部を有する透明有機材料層16となる成形体(厚さ:0.3mm)を得た。
成形体の凹部の表面をコロナ放電処理した後、UV硬化性のエトキシシラン変性アクリル樹脂を塗布し、硬化させて接着促進層22(厚さ:10μm)を形成した。
ターゲットとして、アトマイズ法によって得られた、シリコン(純度4ナイン)と銀とシリコン初晶の成長防止のためリンとの合金粉末(銀の割合:20体積%、リンの割合:0.2体積%(0.13%)、平均粒子径:3μm)を、温度:860℃、圧力:400Kgf/cmの条件下で、一軸プレス機を用いて成型したものを用意した。ターゲットの空隙率は7%であった。銀単体の反射率は93.3%である。
該ターゲットを用いた以外は、実施例1と同様にして接着促進層22の表面に光反射層14を形成した。
該成形体を110℃で2時間加熱し、酸化ケイ素の凝集体を接着促進層22中に析出させた。
不透明ABS樹脂を成形し、図6に示すような凹部を有する基体12を得た。
基体12と、内面に接着促進層22および光反射層14が形成された成形体(透明有機材料層16)とを、凹部同士が向かい合うように、かつ内部に空隙26が形成されるように嵌合させ、図6に示す電波透過性装飾部材5を得た。
【0076】
電波透過性装飾部材5について、光反射層の厚さ、平均表面粗さ、1GHzおよび3GHzにおける透過減衰量(S21)、反射率、表面抵抗率を測定した。また、電波透過性装飾部材5の外観を観察した。なお、光反射層の銀の割合は、ターゲットにおける銀の割合と同じであった。結果を表2に示す。
【0077】
〔実施例6〕
透明ポリカーボネートを成形し、図6に示すような凹部を有する透明有機材料層16となる成形体(厚さ:0.3mm)を得た。
成形体の凹部の表面をプラズマ処理した後、酸化チタン微粒子(平均粒子径:約10nm、粒子表面は水酸基またはヒドロペルオキシド基により修飾されている。)が分散された水溶液を塗布し、加熱乾燥させ、酸化チタンからなる接着促進層22(厚さ:100nm)を形成した。
実施例5と同様にして接着促進層22の表面に光反射層14を形成した。
不透明ABS樹脂を成形し、図6に示すような凹部を有する基体12を得た。
基体12と、内面に接着促進層22および光反射層14が形成された成形体(透明有機材料層16)とを、凹部同士が向かい合うように、かつ内部に空隙26が形成されるように嵌合させ、図6に示す電波透過性装飾部材5を得た。
【0078】
電波透過性装飾部材5について、光反射層の厚さ、平均表面粗さ、1GHzおよび3GHzにおける透過減衰量(S21)、反射率、表面抵抗率を測定した。また、電波透過性装飾部材5の外観を観察した。なお、光反射層の銀の割合は、ターゲットにおける銀の割合と同じであった。結果を表2に示す。
【0079】
〔実施例7〕
図8に示すような車両のエンブレム意匠のついたレーダードームを以下のように作製した。
透明性があり、成形性のよい二軸延伸共重合ポリエステルフィルム(厚さ:50μm)の表面をプラズマ処理した後、ポリエステルフィルムの表面の要部にウレタン塗料を用いた印刷により透明着色層20を形成した。
ついで、ポリエステルフィルムの全面にUV硬化性のエトキシシラン変性アクリル樹脂を塗布し、硬化させて接着促進層22(厚さ:10μm)を形成した。
ターゲットとして、シリコン(純度4ナイン)とアルミニウムとの合金(アルミニウムの割合:40体積%)を用意し、DCスパッタ装置にて厚さ75nmの光反射層14を形成し、さらにその上に熱硬化性ウレタン系接着剤(図示せず)にてABSシート(厚さ:0.1mm)からなる接着保護層42をラミネートして加飾フィルム40を得た。
【0080】
加飾フィルム40の光反射層14の厚さ、平均表面粗さ、反射率、表面抵抗率を測定した。また、加飾フィルム40の外観を観察した。なお、光反射層のアルミニウムの割合は、ターゲットにおけるアルミニウムの割合と同じであった。結果を表2に示す。
ついで、図8に示す形状に附形する30度のテーパーを有する金型(図示せず)内に、加温した加飾フィルム40を挿入し、ABS樹脂を注入して基体12を形成するとともに、加飾フィルム40を附形し、図8に示す電波透過性装飾部材7を得た。
電波透過性装飾部材7の全面に渡っての電波透過の入射角度依存性を測定した。結果を図12に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の電波透過性装飾部材は、携帯電話の筐体、ボタン;電波時計の筐体;通信機器の筐体;レーダー搭載の自動車のフロントグリル、バンパ等として有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 電波透過性装飾部材
2 電波透過性装飾部材
3 電波透過性装飾部材
4 電波透過性装飾部材
5 電波透過性装飾部材
6 電波透過性装飾部材
7 電波透過性装飾部材
12 基体
14 光反射層
16 透明有機材料層
18 低屈折率層
20 透明着色層(着色層)
22 接着促進層
24 着色パターン層(着色層)
26 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
透明有機材料層と、
前記基体と前記透明有機材料層との間に設けられた、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金からなる光反射層と
を有する電波透過性装飾部材。
【請求項2】
前記光反射層が、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金の物理的蒸着によって形成された蒸着膜である、請求項1に記載の電波透過性装飾部材。
【請求項3】
前記透明有機材料層が、透明有機材料の成形体である、請求項1または2に記載の電波透過性装飾部材。
【請求項4】
前記基体が、有機材料の成形体である、請求項1〜3のいずれかに記載の電波透過性装飾部材。
【請求項5】
さらに、前記透明有機材料層と前記光反射層との間に設けられた、前記透明有機材料層の屈折率よりも屈折率が低い低屈折率層を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の電波透過性装飾部材。
【請求項6】
前記低屈折率層が、気体または真空からなる間隙である、請求項5に記載の電波透過性装飾部材。
【請求項7】
さらに、前記透明有機材料層と前記光反射層との間に設けられた着色層を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の電波透過性装飾部材。
【請求項8】
前記着色層が、パターン状に形成されたものである、請求項7記載の電波透過性装飾部材。
【請求項9】
さらに、前記光反射層と接する接着促進層を有する、請求項1〜8のいずれかに記載の電波透過性装飾部材。
【請求項10】
前記接着促進層が、金属酸化物を含む、請求項9に記載の電波透過性装飾部材。
【請求項11】
前記接着促進層が、金属アルコキシル基を有する樹脂を脱アルコール縮合させて形成されたものである、請求項10に記載の電波透過性装飾部材。
【請求項12】
基体と、透明有機材料層と、前記基体と前記透明有機材料層との間に設けられた、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金からなる光反射層とを有する電波透過性装飾部材の製造方法であって、
前記光反射層を、シリコンまたはゲルマニウムと金属との合金からなるターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタリングによって形成する、電波透過性装飾部材の製造方法。
【請求項13】
前記ターゲットが、さらにドーパントを含む、請求項12記載の電波透過性装飾部材の製造方法。
【請求項14】
前記ターゲットが、平均粒子径が100μm以下の合金粉末を成型したものである、請求項12または13に記載の電波透過性装飾部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−188713(P2010−188713A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61136(P2009−61136)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ZIGBEE
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】