電波音波吸収体及びそれを用いた電波音波無響室
【課題】電波吸収特性と音波吸収特性に優れ、形状の小型化、ひいては室内有効スペースを大きくすることが可能な電波音波吸収体及びそれを用いた電波音波無響室を提供する。
【解決手段】 第1の電波吸収体10の前側に、実質的に電波反射の無い音波吸収体30と、音波吸収体10の外面のうち少なくとも側面を囲む実質的に音波反射の無い第2の電波吸収体40とを配置する。音波吸収体30は、例えばガラス繊維マットであり、第2の電波吸収体40は導電性材料を含有した導電性ガラス繊維マットである。
【解決手段】 第1の電波吸収体10の前側に、実質的に電波反射の無い音波吸収体30と、音波吸収体10の外面のうち少なくとも側面を囲む実質的に音波反射の無い第2の電波吸収体40とを配置する。音波吸収体30は、例えばガラス繊維マットであり、第2の電波吸収体40は導電性材料を含有した導電性ガラス繊維マットである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波と音波の両方を吸収可能な電波音波吸収体及びそれを用いた電波音波無響室に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器から放射される電波ノイズの測定や、外来電波に対する電子機器の耐性試験を行う評価施設として電波暗室(電波無響室)が用いられている。一方、音響試験を行う評価施設として音波無響室が用いられている。
【0003】
これら電波暗室及び音波無響室は建設費が高いため、両方の試験室各々を所有するには費用負担がかなり大きくなる。そこで、両方の試験を実施したい場合、これらを兼用とした電波音波無響室を建設すれば費用負担を小さくできる。また、電子機器に電波を照射したときの音の状態を調べる場合、電波、音波ともに反射の無い環境で試験する必要があるため、電波音波無響室が求められる。
【0004】
このような電波音波無響室の壁面に使用する電波音波吸収体として、下記特許文献1の電波音波吸収体が提案されている。
【0005】
【特許文献1】実公平6−35518号公報 特許文献1に開示された電波音波吸収体は、図11に示すように、楔形に成形した突出部2を複数列設した発泡ポリスチロールの電波吸収部1と、前後を楔形に成形したグラスウールの音響吸収部3とから構成され、音響吸収部3の後方の楔形突出部4を電波吸収部1の楔形突出部2の間に嵌めて一体となし、音響吸収部3の前方の楔形突出部5を電波吸収部1の先端より突出させたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の電波音波吸収体において、発泡ポリスチロールの電波吸収部1は音波を反射するため、音波到来側表面に露出した状態では、音響特性に悪影響を与える。このため、前面(音波到来側)に音響吸収部3を配置し、電波吸収部1の先端より突出させることにより、電波吸収部1による音響特性への悪影響を無くすことができる。また、グラスウールの音響吸収部3は電波に対してはほぼ透明で、電波吸収特性に悪影響を与えない。しかしながら、音響吸収部3が突出している分だけ、電波音波吸収体全体の長さが大きくなり、室内の有効スペースが小さくなるという問題点がある。また、有効スペース増大のために単に電波音波吸収体全長を短くしたのでは、電波吸収特性や音波吸収特性が要求性能を満たさなくなる。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、電波吸収特性と音波吸収特性に優れ、形状の小型化、ひいては室内有効スペースを大きくすることが可能な電波音波吸収体及びそれを用いた電波音波無響室を提供することを目的とする。
【0008】
本発明のその他の目的や新規な特徴は後述の実施の形態において明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のある態様の電波音波吸収体は、第1の電波吸収体の前側に、実質的に電波反射の無い第1の音波吸収体と、前記第1の音波吸収体の外面のうち少なくとも側面を囲む実質的に音波反射の無い第2の電波吸収体とを配置したことを特徴としている。
【0010】
前記電波音波吸収体において、実質的に電波反射の無い第2の音波吸収体を、前記第2の電波吸収体の外面のうち少なくとも側面を囲むように配置してもよい。
【0011】
前記電波音波吸収体において、前記第2の電波吸収体は、中空の錐状体の先端に開口を設けた形状であってもよい。
【0012】
前記電波音波吸収体において、前記第1の電波吸収体は、中空の錐状体の先端に開口を設けた筒形状部を有し、前記筒形状部前縁が前記第2の電波吸収体に接するか近接していてもよい。
【0013】
前記電波音波吸収体において、前記第1及び第2の音波吸収体は、ガラス繊維マットであってもよい。
【0014】
前記電波音波吸収体において、前記第2の電波吸収体は導電性材料を含有した導電性ガラス繊維マットであってもよい。
【0015】
前記電波音波吸収体において、前記第1の電波吸収体は、導電性材料を含有した発泡樹脂であってもよい。
【0016】
前記電波音波吸収体において、前記第1の電波吸収体の背面に磁性損失材料からなる第3の電波吸収体を配置してもよい。
【0017】
本発明の別の態様の電波音波無響室は、室内側側壁面、天井面の少なくとも一面に、前記電波音波吸収体を、前記第1の電波吸収体の前側が室内側となるように配置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る電波音波吸収体によれば、電波吸収特性と音波吸収特性の向上、及び形状の小型化を図ることができる。
【0019】
また、本発明に係る電波音波吸収体を用いた電波音波無響室は、前記電波音波吸収体が小型で十分良好な特性が得られるため、室内有効スペースを大きくすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、電波音波吸収体及びそれを用いた電波音波無響室の実施の形態を図面に従って説明する。
【0021】
図1(A),(B)は本発明の実施の形態1であって電波音波吸収体を示す。この図において、電波音波吸収体10は、導電性材料を含有した発泡樹脂等の誘電性損失材料の電波吸収体20と、ガラス繊維マット等の実質的に電波反射の無い音波吸収体30と、導電性材料を含有した実質的に音波反射の無い導電性ガラス繊維マット等の電波吸収体40と、磁性損失材料からなる平板状電波吸収体50とを備えている。なお、「実質的に電波反射の無い」とは、無響室等の用途において、電波反射が無視できる程度に小さいことであり、「実質的に音波反射の無い」とは音波反射が無視できる程度に小さいことであるといえる。
【0022】
導電性材料を含有した発泡樹脂等の電波吸収体20は、図2(A),(B)のように、平板状底部21と、その前面(電波、音波の到来面)の縁部から立ち上がった中空の四角錐状体の先端に開口を設けた筒形状部22と、筒形状部22の内側にあって平板状底部21の前面に設けられた多数の先細形状部23とを一体的に有している。例えば、平板状底部21、筒形状部22及び先細形状部23は個別に成形されたものを相互に接着剤等で固着一体化したものである。前記導電性材料としてはカーボンやグラファイト等を用いることができ、基材となる発泡ポリスチロール、発泡ポリウレタン等の発泡樹脂に含有させる。
【0023】
ガラス繊維マット等の音波吸収体30としては、例えば短繊維ガラス繊維マット(グラスウール)を使用でき、実質的に電波反射の無い、例えば電波に対して透明な(電波を透過させる)特性を持つものである。短繊維ガラス繊維マットに用いるガラス繊維の平均繊維径は1μm〜20μmが好ましく、5μm〜10μmがより好ましい。このような繊維径からなるガラス短繊維の多孔質構造体(マット)は火炎法、遠心法などの公知の方法により製造可能であり、例えば住宅用や産業用に断熱材や吸音材として一般的に使用されている。この多孔質構造体は何も処理を行わなければ繊維同士がほぐれてしまうことがあるので、バインダで繊維同士を結束することが好ましい。結束用のバインダとしては、例えば、アクリル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂などがある。そして、音波吸収体30は電波吸収体20の前側に、つまり先細形状部23の前側でかつ一部が筒形状部22の内側に収納されるように、配置されている。
【0024】
導電性材料を含有した導電性ガラス繊維マット等の電波吸収体40としては、例えば長繊維(連続繊維)の導電性ガラス繊維マットを使用でき、実質的に音波反射の無い、例えば音波に対して透明な(音波を透過させる)特性を持つものである。長繊維ガラス繊維マットに用いるガラス長繊維の平均繊維径は1μm〜50μmが好ましい。このような繊維径からなる長繊維の多孔質構造体(マット)は公知の方法により製造可能であり、例えばすでに自動車用電池の絶縁体や換気扇のフィルタとして一般的に使用されている。多孔質構造体は何も処理を行わなければ繊維同士がほぐれてしまうことがあるので、バインダで結束することが好ましい。結束用のバインダとしては、例えばアクリル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂などがある。そして、電波吸収体40は、筒形状部22から突出した音波吸収体30の先端側の側面を囲み(覆い)、かつ中空の四角錐状体の先端に開口を設けた形状を成している。この電波吸収体40の後縁は電波吸収体20の筒形状部22の前縁に接するか近接しており、電波吸収体20の筒形状部22と電波吸収体40とによって、より長い筒形状を構成している。
【0025】
磁性損失材料からなる平板状電波吸収体50は、例えば、焼結フェライト・タイルからなっており、電波吸収体20の背面(電波、音波の到来面の反対面)に配置されている。
【0026】
なお、図1(B)の点線のように、電波吸収体20、音波吸収体30及び電波吸収体40周囲を袋状に覆うポリクラール繊維等の布55を設けてもよい。この袋状の布55は三者をより確実に一体化して分離を防止できる。
【0027】
ポリクラール繊維等の布55は袋状であって、その端縁は電波吸収体20の背面側で接着剤等により固定される。布55の具体的製品名として株式会社興人社製のコーデラン(登録商標)が挙げられる。コーデランは、ポリ塩化ビニルとポリビニルアルコールを主成分として一部クラフトポリマーを含んでいる。コーデランの特徴は、繊維自体が難燃性で自己消火性を有し、燃焼により発生する煙とガスの毒性が極めて少ないことである。
【0028】
図3(A),(B)は比較例1であって、実施の形態1における実質的に音波反射の無い電波吸収体40を除去したものであり(実施の形態1と同一部分に同一符号を付した)、実施の形態1と効果の対比のために準備したものである。
【0029】
図4は本発明の実施の形態1と比較例1の電波の反射減衰量(dB)の周波数特性を示す。測定条件は、実施の形態1の場合、電波吸収体20の背面から音波吸収体30の先端までの高さL1=640mm、電波吸収体20の背面から筒形状部22の先端までの高さL2=450mm及び筒形状部22の厚さ45mmとした。また、電波吸収体40(長繊維の導電性ガラス繊維マットを使用)の高さL3=190mm、底面幅W=600mm、厚さ25mmとし、ガラス繊維の繊維径平均20μm、カーボン密度0.5kg/m3とした。比較例1は電波吸収体40が無いことを除き実施の形態1と同一寸法、形状、材質とした。
【0030】
図4によれば、実施の形態1の場合、反射減衰量が太直線で示す目標性能のラインを30MHz以上の所要周波数範囲で十分上回っており、また、実施の形態1の方がとくに30MHzから60MHzの範囲、及び200MHz前後で比較例1よりも良好な特性が得られていることがわかる。
【0031】
なお、音波の反射減衰量は実施の形態1と比較例1とにおいて実質的な差異はなく、いずれも周波数125〜1000Hzにおける垂直入射音圧反射率はほぼ0.3以下で、音波吸収体の体積を増やすことが容易な構造であるため、特許文献1の従来例よりも優れた音波の反射減衰量を得ることができる。
【0032】
この実施の形態1によれば、次の通りの効果を得ることができる。
【0033】
(1) 電波音波吸収体10の到来電波に対する特性を考察した場合、導電性材料を含有した発泡樹脂等の誘電性損失材料の電波吸収体20の前側に、導電性材料を含有した実質的に音波反射の無い長繊維導電性ガラス繊維マット等の電波吸収体40を配置したことにより、電波吸収体20の筒形状部22と電波吸収体40とによって、中空の四角錐の先端に開口を設けてなる十分長い筒形状を構成でき、電波吸収特性(とくに低い周波数領域における電波吸収特性)の向上が可能である。また、短繊維ガラス繊維マット(グラスウール)等の音波吸収体30は実質的に電波を反射しないものであり、電波吸収特性を劣化させることがない。
【0034】
(2) 焼結フェライト・タイル等の磁性損失材料からなる平板状電波吸収体50を電波吸収体20の背面に配置することで、低周波領域の電波吸収特性のいっそうの向上が可能であり、電波吸収体20の小型化が可能である。
【0035】
(3) 電波音波吸収体10の到来音波に対する特性を考察した場合、電波吸収体20の中空部分に音波吸収体30を配置でき、音波吸収体30の体積を十分大きくすることができ、音波吸収特性を良好にすることができる。また、長繊維導電性ガラス繊維マット等の電波吸収体40は実質的に音波を反射しないものであり、音波到来側表面に露出した状態でも音波吸収特性を劣化させることがない。
【0036】
(4) 導電性ガラス繊維マットの電波吸収体とガラス繊維マットの音波吸収体のみで電波音波吸収体を構成した場合、材料が柔らかいため壁面への取り付けが困難だが、導電性材料を含有した発泡樹脂製の電波吸収体20を底部に用いることにより、壁面への取り付けが容易となる。
【0037】
図5(A),(B)は本発明の実施の形態2であって電波音波吸収体を示す。この図において、電波音波吸収体10Aは、導電性材料を含有した発泡樹脂等の誘電性損失材料の電波吸収体20Aと、ガラス繊維マット等の実質的に電波反射の無い音波吸収体30Aと、導電性材料を含有した実質的に音波反射の無い導電性ガラス繊維マット等の電波吸収体40Aと、ガラス繊維マット等の実質的に電波反射の無い音波吸収体60と、磁性損失材料からなる平板状電波吸収体50とを備えている。
【0038】
導電性材料を含有した発泡樹脂等の電波吸収体20Aは、図6(A),(B)のように、平板状底部21Aと、その前面(電波、音波の到来面)の縁部から立ち上がった中空の四角錐状体の先端に開口を設けた筒形状部22Aと、筒形状部22Aの内側にあって平板状底部21の前面に設けられた多数の先細形状部23Aとを一体的に有している。この電波吸収体20Aは、実施の形態1の電波吸収体20の筒形状部22の長さを短くしたものに相当する。
【0039】
ガラス繊維マット等の音波吸収体30Aは、実施の形態1の音波吸収体30と同様の材質であり、電波吸収体20Aの前側に、つまり先細形状部23の前側に配置され、かつ、電波吸収体40Aによって側面が囲まれている。電波吸収体40Aは、実施の形態1の電波吸収体40と同様の材質であり、中空の四角錐状体の先端に開口を設けた形状を成している。この電波吸収体40Aの後縁は電波吸収体20Aの筒形状部22Aの前縁に接するか近接しており、電波吸収体20Aの筒形状部22Aと電波吸収体40Aとによって、より長い筒形状を構成している。
【0040】
実質的に電波反射の無い音波吸収体60は電波吸収体40Aの内側の音波吸収体30Aと同材質であり、電波吸収体40Aの外面のうち少なくとも側面を囲むように配置されている(電波吸収体40Aの外面すべてを覆う構成でも差し支えない)。
【0041】
なお、その他の構成は前述した実施の形態1と同様であり、同一又は相当部分に同一符号を付して説明を省略する。
【0042】
図7(A),(B)は比較例2であって、実施の形態2における実質的に音波反射の無い電波吸収体40Aを除去し、電波吸収体20Aの前側に音波吸収体30B(音波吸収体60と同じ外周形状)としたものであり(実施の形態2と同一部分に同一符号を付した)、実施の形態2と効果の対比のために準備したものである。
【0043】
図8は本発明の実施の形態2と比較例2の反射減衰量(dB)の周波数特性を示す。測定条件は、実施の形態2の場合、電波吸収体20Aの背面から音波吸収体30Aの先端までの高さL1=640mm、電波吸収体20Aの背面から筒形状部22Aの先端までの高さL2=230mm及び筒形状部22Aの厚さ45mmとした。また、電波吸収体40A(長繊維の導電性ガラス繊維マットを使用)の高さL3=410mm、底面幅W=600mm及び厚さ25mmとし、ガラス繊維の繊維径平均20μm、カーボン密度0.5kg/m3とした。比較例2は電波吸収体40Aが無いことを除き実施の形態2と同一寸法、形状、材質とした。
【0044】
図8によれば、実施の形態2の場合、反射減衰量が太直線で示す目標性能のラインを30MHz以上の所要周波数範囲で十分上回っており、また、実施の形態2の方がとくに30MHzから50MHzの範囲、及び約150MHzから約450MHzの範囲で比較例1よりも良好な特性が得られていることがわかる。
【0045】
なお、音波の反射減衰量は実施の形態2と比較例2とにおいて実質的な差異はなく、いずれも周波数125〜1000Hzにおける垂直入射音圧反射率はほぼ0.3以下で、音波吸収体の体積を増やすことが容易な構造であるため、特許文献1の従来例よりも優れた音波の反射減衰量を得ることができる。
【0046】
図9は本発明の実施の形態3であって電波音波吸収体を示す。この図において、電波音波吸収体10Bは、導電性材料を含有した発泡樹脂等の誘電性損失材料の電波吸収体70と、ガラス繊維マット等の実質的に電波反射の無い音波吸収体80と、導電性材料を含有した導電性ガラス繊維マット等の実質的に音波反射の無い電波吸収体90と、磁性損失材料からなる平板状電波吸収体50とを備えている。
【0047】
この場合、電波吸収体70は、平板状底部71と、その前面(電波、音波の到来面)に楔形に成形されて複数配列された楔形突出部72とからなっており、材質は実施の形態1の電波吸収体20と同様である。
【0048】
実質的に電波反射の無い音波吸収体80は、前後に楔形に成形したものであり、材質は実施の形態1の音波吸収体30と同様である。そして、音波吸収体80の後方の楔形突出部81が電波吸収体70の楔形突出部72の間に嵌合一体化される。
【0049】
実質的に音波反射の無い電波吸収体90は、電波吸収体70から突出した各音波吸収体80の前方の楔形突出部82の側面を囲む(覆う)配置であり、材質は実施の形態1の電波吸収体40と同様である。
【0050】
この実施の形態3の場合も、電波吸収体70の楔形突出部72と実質的に音波反射の無い電波吸収体90とによって、より長い突出部を形成でき、楔形突出部72を長くしたのと同様の効果が得られる。一般に、電波吸収体は長さが長いほど電波吸収特性が向上するため、電波吸収体90の付加により、電波吸収特性、とくに低い周波数領域の特性を向上させることができる。また、実質的に楔形突出部72を長くしたのと同様の効果を得ながら、実際には音波を反射する電波吸収体70の楔形突出部72を短くできるので、全体形状の小型化を図り、かつ、音波吸収特性も良好となる。
【0051】
なお、実施の形態1において点線で示した布55で袋状に電波吸収体や音波吸収体を覆う構造は、実施の形態2及び3に適用することも可能である。
【0052】
図10は本発明の実施の形態4であって、実施の形態1に示した電波音波吸収体10を用いた電波音波無響室を示す。図10において、電波音波無響室の内壁面を構成するシールドパネル(導体板が片面又は両面に設けられたパネル)100の室内側の面に電波音波吸収体10が相互に隣接して多数配置固定されている。この場合、電波吸収体20の前側が室内側となる。通常、電波音波無響室の側壁面及び天井面を図10の構成とする。
【0053】
この電波音波無響室の構成によれば、実施の形態1に示した電波吸収体10を用いており、全長が小さくても電波及び音波の吸収特性が良好であるため、室内有効スペースを大きくすることが可能である。
【0054】
なお、シールドパネル100の室内側に配置する電波音波吸収体として、実施の形態2や実施の形態3に示した構造のものを使用することも可能である。
【0055】
以上本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されることなく請求項の記載の範囲内において各種の変形、変更が可能なことは当業者には自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る電波音波吸収体の実施の形態1であって、(A)は正面図、(B)は側断面図である。
【図2】実施の形態1で用いる誘電性損失材料の電波吸収体であって、(A)は正面図、(B)は側断面図である。
【図3】性能比較のための比較例1であって、(A)は正面図、(B)は側断面図である。
【図4】実施の形態1及び比較例1の反射減衰量の周波数特性を示すグラフである。
【図5】本発明に係る電波音波吸収体の実施の形態2であって、(A)は正面図、(B)は側断面図である。
【図6】実施の形態2で用いる誘電性損失材料の電波吸収体であって、(A)は正面図、(B)は側断面図である。
【図7】性能比較のための比較例2であって、(A)は正面図、(B)は側断面図である。
【図8】実施の形態2及び比較例2の反射減衰量の周波数特性を示すグラフである。
【図9】本発明に係る電波音波吸収体の実施の形態3を示す側断面図である。
【図10】本発明に係る電波音波吸収体を用いた電波音波無響室の側断面図である。
【図11】従来例の電波音波吸収体の側断面図である。
【符号の説明】
【0057】
10,10A,10B 電波音波吸収体
20,20A,40A,50,70,90 電波吸収体
21,21A,71 平板状底部
22,22A 筒形状部
23,23A 先細形状部
30,30A,30B,60,80 音波吸収体
55 布
72,81,82 楔形突出部
100 シールドパネル
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波と音波の両方を吸収可能な電波音波吸収体及びそれを用いた電波音波無響室に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器から放射される電波ノイズの測定や、外来電波に対する電子機器の耐性試験を行う評価施設として電波暗室(電波無響室)が用いられている。一方、音響試験を行う評価施設として音波無響室が用いられている。
【0003】
これら電波暗室及び音波無響室は建設費が高いため、両方の試験室各々を所有するには費用負担がかなり大きくなる。そこで、両方の試験を実施したい場合、これらを兼用とした電波音波無響室を建設すれば費用負担を小さくできる。また、電子機器に電波を照射したときの音の状態を調べる場合、電波、音波ともに反射の無い環境で試験する必要があるため、電波音波無響室が求められる。
【0004】
このような電波音波無響室の壁面に使用する電波音波吸収体として、下記特許文献1の電波音波吸収体が提案されている。
【0005】
【特許文献1】実公平6−35518号公報 特許文献1に開示された電波音波吸収体は、図11に示すように、楔形に成形した突出部2を複数列設した発泡ポリスチロールの電波吸収部1と、前後を楔形に成形したグラスウールの音響吸収部3とから構成され、音響吸収部3の後方の楔形突出部4を電波吸収部1の楔形突出部2の間に嵌めて一体となし、音響吸収部3の前方の楔形突出部5を電波吸収部1の先端より突出させたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の電波音波吸収体において、発泡ポリスチロールの電波吸収部1は音波を反射するため、音波到来側表面に露出した状態では、音響特性に悪影響を与える。このため、前面(音波到来側)に音響吸収部3を配置し、電波吸収部1の先端より突出させることにより、電波吸収部1による音響特性への悪影響を無くすことができる。また、グラスウールの音響吸収部3は電波に対してはほぼ透明で、電波吸収特性に悪影響を与えない。しかしながら、音響吸収部3が突出している分だけ、電波音波吸収体全体の長さが大きくなり、室内の有効スペースが小さくなるという問題点がある。また、有効スペース増大のために単に電波音波吸収体全長を短くしたのでは、電波吸収特性や音波吸収特性が要求性能を満たさなくなる。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、電波吸収特性と音波吸収特性に優れ、形状の小型化、ひいては室内有効スペースを大きくすることが可能な電波音波吸収体及びそれを用いた電波音波無響室を提供することを目的とする。
【0008】
本発明のその他の目的や新規な特徴は後述の実施の形態において明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のある態様の電波音波吸収体は、第1の電波吸収体の前側に、実質的に電波反射の無い第1の音波吸収体と、前記第1の音波吸収体の外面のうち少なくとも側面を囲む実質的に音波反射の無い第2の電波吸収体とを配置したことを特徴としている。
【0010】
前記電波音波吸収体において、実質的に電波反射の無い第2の音波吸収体を、前記第2の電波吸収体の外面のうち少なくとも側面を囲むように配置してもよい。
【0011】
前記電波音波吸収体において、前記第2の電波吸収体は、中空の錐状体の先端に開口を設けた形状であってもよい。
【0012】
前記電波音波吸収体において、前記第1の電波吸収体は、中空の錐状体の先端に開口を設けた筒形状部を有し、前記筒形状部前縁が前記第2の電波吸収体に接するか近接していてもよい。
【0013】
前記電波音波吸収体において、前記第1及び第2の音波吸収体は、ガラス繊維マットであってもよい。
【0014】
前記電波音波吸収体において、前記第2の電波吸収体は導電性材料を含有した導電性ガラス繊維マットであってもよい。
【0015】
前記電波音波吸収体において、前記第1の電波吸収体は、導電性材料を含有した発泡樹脂であってもよい。
【0016】
前記電波音波吸収体において、前記第1の電波吸収体の背面に磁性損失材料からなる第3の電波吸収体を配置してもよい。
【0017】
本発明の別の態様の電波音波無響室は、室内側側壁面、天井面の少なくとも一面に、前記電波音波吸収体を、前記第1の電波吸収体の前側が室内側となるように配置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る電波音波吸収体によれば、電波吸収特性と音波吸収特性の向上、及び形状の小型化を図ることができる。
【0019】
また、本発明に係る電波音波吸収体を用いた電波音波無響室は、前記電波音波吸収体が小型で十分良好な特性が得られるため、室内有効スペースを大きくすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、電波音波吸収体及びそれを用いた電波音波無響室の実施の形態を図面に従って説明する。
【0021】
図1(A),(B)は本発明の実施の形態1であって電波音波吸収体を示す。この図において、電波音波吸収体10は、導電性材料を含有した発泡樹脂等の誘電性損失材料の電波吸収体20と、ガラス繊維マット等の実質的に電波反射の無い音波吸収体30と、導電性材料を含有した実質的に音波反射の無い導電性ガラス繊維マット等の電波吸収体40と、磁性損失材料からなる平板状電波吸収体50とを備えている。なお、「実質的に電波反射の無い」とは、無響室等の用途において、電波反射が無視できる程度に小さいことであり、「実質的に音波反射の無い」とは音波反射が無視できる程度に小さいことであるといえる。
【0022】
導電性材料を含有した発泡樹脂等の電波吸収体20は、図2(A),(B)のように、平板状底部21と、その前面(電波、音波の到来面)の縁部から立ち上がった中空の四角錐状体の先端に開口を設けた筒形状部22と、筒形状部22の内側にあって平板状底部21の前面に設けられた多数の先細形状部23とを一体的に有している。例えば、平板状底部21、筒形状部22及び先細形状部23は個別に成形されたものを相互に接着剤等で固着一体化したものである。前記導電性材料としてはカーボンやグラファイト等を用いることができ、基材となる発泡ポリスチロール、発泡ポリウレタン等の発泡樹脂に含有させる。
【0023】
ガラス繊維マット等の音波吸収体30としては、例えば短繊維ガラス繊維マット(グラスウール)を使用でき、実質的に電波反射の無い、例えば電波に対して透明な(電波を透過させる)特性を持つものである。短繊維ガラス繊維マットに用いるガラス繊維の平均繊維径は1μm〜20μmが好ましく、5μm〜10μmがより好ましい。このような繊維径からなるガラス短繊維の多孔質構造体(マット)は火炎法、遠心法などの公知の方法により製造可能であり、例えば住宅用や産業用に断熱材や吸音材として一般的に使用されている。この多孔質構造体は何も処理を行わなければ繊維同士がほぐれてしまうことがあるので、バインダで繊維同士を結束することが好ましい。結束用のバインダとしては、例えば、アクリル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂などがある。そして、音波吸収体30は電波吸収体20の前側に、つまり先細形状部23の前側でかつ一部が筒形状部22の内側に収納されるように、配置されている。
【0024】
導電性材料を含有した導電性ガラス繊維マット等の電波吸収体40としては、例えば長繊維(連続繊維)の導電性ガラス繊維マットを使用でき、実質的に音波反射の無い、例えば音波に対して透明な(音波を透過させる)特性を持つものである。長繊維ガラス繊維マットに用いるガラス長繊維の平均繊維径は1μm〜50μmが好ましい。このような繊維径からなる長繊維の多孔質構造体(マット)は公知の方法により製造可能であり、例えばすでに自動車用電池の絶縁体や換気扇のフィルタとして一般的に使用されている。多孔質構造体は何も処理を行わなければ繊維同士がほぐれてしまうことがあるので、バインダで結束することが好ましい。結束用のバインダとしては、例えばアクリル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂などがある。そして、電波吸収体40は、筒形状部22から突出した音波吸収体30の先端側の側面を囲み(覆い)、かつ中空の四角錐状体の先端に開口を設けた形状を成している。この電波吸収体40の後縁は電波吸収体20の筒形状部22の前縁に接するか近接しており、電波吸収体20の筒形状部22と電波吸収体40とによって、より長い筒形状を構成している。
【0025】
磁性損失材料からなる平板状電波吸収体50は、例えば、焼結フェライト・タイルからなっており、電波吸収体20の背面(電波、音波の到来面の反対面)に配置されている。
【0026】
なお、図1(B)の点線のように、電波吸収体20、音波吸収体30及び電波吸収体40周囲を袋状に覆うポリクラール繊維等の布55を設けてもよい。この袋状の布55は三者をより確実に一体化して分離を防止できる。
【0027】
ポリクラール繊維等の布55は袋状であって、その端縁は電波吸収体20の背面側で接着剤等により固定される。布55の具体的製品名として株式会社興人社製のコーデラン(登録商標)が挙げられる。コーデランは、ポリ塩化ビニルとポリビニルアルコールを主成分として一部クラフトポリマーを含んでいる。コーデランの特徴は、繊維自体が難燃性で自己消火性を有し、燃焼により発生する煙とガスの毒性が極めて少ないことである。
【0028】
図3(A),(B)は比較例1であって、実施の形態1における実質的に音波反射の無い電波吸収体40を除去したものであり(実施の形態1と同一部分に同一符号を付した)、実施の形態1と効果の対比のために準備したものである。
【0029】
図4は本発明の実施の形態1と比較例1の電波の反射減衰量(dB)の周波数特性を示す。測定条件は、実施の形態1の場合、電波吸収体20の背面から音波吸収体30の先端までの高さL1=640mm、電波吸収体20の背面から筒形状部22の先端までの高さL2=450mm及び筒形状部22の厚さ45mmとした。また、電波吸収体40(長繊維の導電性ガラス繊維マットを使用)の高さL3=190mm、底面幅W=600mm、厚さ25mmとし、ガラス繊維の繊維径平均20μm、カーボン密度0.5kg/m3とした。比較例1は電波吸収体40が無いことを除き実施の形態1と同一寸法、形状、材質とした。
【0030】
図4によれば、実施の形態1の場合、反射減衰量が太直線で示す目標性能のラインを30MHz以上の所要周波数範囲で十分上回っており、また、実施の形態1の方がとくに30MHzから60MHzの範囲、及び200MHz前後で比較例1よりも良好な特性が得られていることがわかる。
【0031】
なお、音波の反射減衰量は実施の形態1と比較例1とにおいて実質的な差異はなく、いずれも周波数125〜1000Hzにおける垂直入射音圧反射率はほぼ0.3以下で、音波吸収体の体積を増やすことが容易な構造であるため、特許文献1の従来例よりも優れた音波の反射減衰量を得ることができる。
【0032】
この実施の形態1によれば、次の通りの効果を得ることができる。
【0033】
(1) 電波音波吸収体10の到来電波に対する特性を考察した場合、導電性材料を含有した発泡樹脂等の誘電性損失材料の電波吸収体20の前側に、導電性材料を含有した実質的に音波反射の無い長繊維導電性ガラス繊維マット等の電波吸収体40を配置したことにより、電波吸収体20の筒形状部22と電波吸収体40とによって、中空の四角錐の先端に開口を設けてなる十分長い筒形状を構成でき、電波吸収特性(とくに低い周波数領域における電波吸収特性)の向上が可能である。また、短繊維ガラス繊維マット(グラスウール)等の音波吸収体30は実質的に電波を反射しないものであり、電波吸収特性を劣化させることがない。
【0034】
(2) 焼結フェライト・タイル等の磁性損失材料からなる平板状電波吸収体50を電波吸収体20の背面に配置することで、低周波領域の電波吸収特性のいっそうの向上が可能であり、電波吸収体20の小型化が可能である。
【0035】
(3) 電波音波吸収体10の到来音波に対する特性を考察した場合、電波吸収体20の中空部分に音波吸収体30を配置でき、音波吸収体30の体積を十分大きくすることができ、音波吸収特性を良好にすることができる。また、長繊維導電性ガラス繊維マット等の電波吸収体40は実質的に音波を反射しないものであり、音波到来側表面に露出した状態でも音波吸収特性を劣化させることがない。
【0036】
(4) 導電性ガラス繊維マットの電波吸収体とガラス繊維マットの音波吸収体のみで電波音波吸収体を構成した場合、材料が柔らかいため壁面への取り付けが困難だが、導電性材料を含有した発泡樹脂製の電波吸収体20を底部に用いることにより、壁面への取り付けが容易となる。
【0037】
図5(A),(B)は本発明の実施の形態2であって電波音波吸収体を示す。この図において、電波音波吸収体10Aは、導電性材料を含有した発泡樹脂等の誘電性損失材料の電波吸収体20Aと、ガラス繊維マット等の実質的に電波反射の無い音波吸収体30Aと、導電性材料を含有した実質的に音波反射の無い導電性ガラス繊維マット等の電波吸収体40Aと、ガラス繊維マット等の実質的に電波反射の無い音波吸収体60と、磁性損失材料からなる平板状電波吸収体50とを備えている。
【0038】
導電性材料を含有した発泡樹脂等の電波吸収体20Aは、図6(A),(B)のように、平板状底部21Aと、その前面(電波、音波の到来面)の縁部から立ち上がった中空の四角錐状体の先端に開口を設けた筒形状部22Aと、筒形状部22Aの内側にあって平板状底部21の前面に設けられた多数の先細形状部23Aとを一体的に有している。この電波吸収体20Aは、実施の形態1の電波吸収体20の筒形状部22の長さを短くしたものに相当する。
【0039】
ガラス繊維マット等の音波吸収体30Aは、実施の形態1の音波吸収体30と同様の材質であり、電波吸収体20Aの前側に、つまり先細形状部23の前側に配置され、かつ、電波吸収体40Aによって側面が囲まれている。電波吸収体40Aは、実施の形態1の電波吸収体40と同様の材質であり、中空の四角錐状体の先端に開口を設けた形状を成している。この電波吸収体40Aの後縁は電波吸収体20Aの筒形状部22Aの前縁に接するか近接しており、電波吸収体20Aの筒形状部22Aと電波吸収体40Aとによって、より長い筒形状を構成している。
【0040】
実質的に電波反射の無い音波吸収体60は電波吸収体40Aの内側の音波吸収体30Aと同材質であり、電波吸収体40Aの外面のうち少なくとも側面を囲むように配置されている(電波吸収体40Aの外面すべてを覆う構成でも差し支えない)。
【0041】
なお、その他の構成は前述した実施の形態1と同様であり、同一又は相当部分に同一符号を付して説明を省略する。
【0042】
図7(A),(B)は比較例2であって、実施の形態2における実質的に音波反射の無い電波吸収体40Aを除去し、電波吸収体20Aの前側に音波吸収体30B(音波吸収体60と同じ外周形状)としたものであり(実施の形態2と同一部分に同一符号を付した)、実施の形態2と効果の対比のために準備したものである。
【0043】
図8は本発明の実施の形態2と比較例2の反射減衰量(dB)の周波数特性を示す。測定条件は、実施の形態2の場合、電波吸収体20Aの背面から音波吸収体30Aの先端までの高さL1=640mm、電波吸収体20Aの背面から筒形状部22Aの先端までの高さL2=230mm及び筒形状部22Aの厚さ45mmとした。また、電波吸収体40A(長繊維の導電性ガラス繊維マットを使用)の高さL3=410mm、底面幅W=600mm及び厚さ25mmとし、ガラス繊維の繊維径平均20μm、カーボン密度0.5kg/m3とした。比較例2は電波吸収体40Aが無いことを除き実施の形態2と同一寸法、形状、材質とした。
【0044】
図8によれば、実施の形態2の場合、反射減衰量が太直線で示す目標性能のラインを30MHz以上の所要周波数範囲で十分上回っており、また、実施の形態2の方がとくに30MHzから50MHzの範囲、及び約150MHzから約450MHzの範囲で比較例1よりも良好な特性が得られていることがわかる。
【0045】
なお、音波の反射減衰量は実施の形態2と比較例2とにおいて実質的な差異はなく、いずれも周波数125〜1000Hzにおける垂直入射音圧反射率はほぼ0.3以下で、音波吸収体の体積を増やすことが容易な構造であるため、特許文献1の従来例よりも優れた音波の反射減衰量を得ることができる。
【0046】
図9は本発明の実施の形態3であって電波音波吸収体を示す。この図において、電波音波吸収体10Bは、導電性材料を含有した発泡樹脂等の誘電性損失材料の電波吸収体70と、ガラス繊維マット等の実質的に電波反射の無い音波吸収体80と、導電性材料を含有した導電性ガラス繊維マット等の実質的に音波反射の無い電波吸収体90と、磁性損失材料からなる平板状電波吸収体50とを備えている。
【0047】
この場合、電波吸収体70は、平板状底部71と、その前面(電波、音波の到来面)に楔形に成形されて複数配列された楔形突出部72とからなっており、材質は実施の形態1の電波吸収体20と同様である。
【0048】
実質的に電波反射の無い音波吸収体80は、前後に楔形に成形したものであり、材質は実施の形態1の音波吸収体30と同様である。そして、音波吸収体80の後方の楔形突出部81が電波吸収体70の楔形突出部72の間に嵌合一体化される。
【0049】
実質的に音波反射の無い電波吸収体90は、電波吸収体70から突出した各音波吸収体80の前方の楔形突出部82の側面を囲む(覆う)配置であり、材質は実施の形態1の電波吸収体40と同様である。
【0050】
この実施の形態3の場合も、電波吸収体70の楔形突出部72と実質的に音波反射の無い電波吸収体90とによって、より長い突出部を形成でき、楔形突出部72を長くしたのと同様の効果が得られる。一般に、電波吸収体は長さが長いほど電波吸収特性が向上するため、電波吸収体90の付加により、電波吸収特性、とくに低い周波数領域の特性を向上させることができる。また、実質的に楔形突出部72を長くしたのと同様の効果を得ながら、実際には音波を反射する電波吸収体70の楔形突出部72を短くできるので、全体形状の小型化を図り、かつ、音波吸収特性も良好となる。
【0051】
なお、実施の形態1において点線で示した布55で袋状に電波吸収体や音波吸収体を覆う構造は、実施の形態2及び3に適用することも可能である。
【0052】
図10は本発明の実施の形態4であって、実施の形態1に示した電波音波吸収体10を用いた電波音波無響室を示す。図10において、電波音波無響室の内壁面を構成するシールドパネル(導体板が片面又は両面に設けられたパネル)100の室内側の面に電波音波吸収体10が相互に隣接して多数配置固定されている。この場合、電波吸収体20の前側が室内側となる。通常、電波音波無響室の側壁面及び天井面を図10の構成とする。
【0053】
この電波音波無響室の構成によれば、実施の形態1に示した電波吸収体10を用いており、全長が小さくても電波及び音波の吸収特性が良好であるため、室内有効スペースを大きくすることが可能である。
【0054】
なお、シールドパネル100の室内側に配置する電波音波吸収体として、実施の形態2や実施の形態3に示した構造のものを使用することも可能である。
【0055】
以上本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されることなく請求項の記載の範囲内において各種の変形、変更が可能なことは当業者には自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る電波音波吸収体の実施の形態1であって、(A)は正面図、(B)は側断面図である。
【図2】実施の形態1で用いる誘電性損失材料の電波吸収体であって、(A)は正面図、(B)は側断面図である。
【図3】性能比較のための比較例1であって、(A)は正面図、(B)は側断面図である。
【図4】実施の形態1及び比較例1の反射減衰量の周波数特性を示すグラフである。
【図5】本発明に係る電波音波吸収体の実施の形態2であって、(A)は正面図、(B)は側断面図である。
【図6】実施の形態2で用いる誘電性損失材料の電波吸収体であって、(A)は正面図、(B)は側断面図である。
【図7】性能比較のための比較例2であって、(A)は正面図、(B)は側断面図である。
【図8】実施の形態2及び比較例2の反射減衰量の周波数特性を示すグラフである。
【図9】本発明に係る電波音波吸収体の実施の形態3を示す側断面図である。
【図10】本発明に係る電波音波吸収体を用いた電波音波無響室の側断面図である。
【図11】従来例の電波音波吸収体の側断面図である。
【符号の説明】
【0057】
10,10A,10B 電波音波吸収体
20,20A,40A,50,70,90 電波吸収体
21,21A,71 平板状底部
22,22A 筒形状部
23,23A 先細形状部
30,30A,30B,60,80 音波吸収体
55 布
72,81,82 楔形突出部
100 シールドパネル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電波吸収体の前側に、実質的に電波反射の無い第1の音波吸収体と、前記第1の音波吸収体の外面のうち少なくとも側面を囲む実質的に音波反射の無い第2の電波吸収体とを配置したことを特徴とする電波音波吸収体。
【請求項2】
実質的に電波反射の無い第2の音波吸収体を、前記第2の電波吸収体の外面のうち少なくとも側面を囲むように配置した請求項1記載の電波音波吸収体。
【請求項3】
前記第2の電波吸収体は、中空の錐状体の先端に開口を設けた形状である請求項1又は2記載の電波音波吸収体。
【請求項4】
前記第1の電波吸収体は、中空の錐状体の先端に開口を設けた筒形状部を有し、前記筒形状部前縁が前記第2の電波吸収体に接するか近接している請求項3記載の電波音波吸収体。
【請求項5】
前記音波吸収体は、ガラス繊維マットである請求項1,2,3又は4記載の電波音波吸収体。
【請求項6】
前記第2の電波吸収体は導電性材料を含有した導電性ガラス繊維マットである請求項1,2,3,4又は5記載の電波音波吸収体。
【請求項7】
前記第1の電波吸収体は、導電性材料を含有した発泡樹脂である請求項1,2,3,4,5又は6記載の電波音波吸収体。
【請求項8】
前記第1の電波吸収体の背面に磁性損失材料からなる第3の電波吸収体を配置した請求項1,2,3,4,5,6又は7記載の電波音波吸収体。
【請求項9】
室内側側壁面、天井面の少なくとも一面に、請求項1乃至8のいずれか一つに記載の電波音波吸収体を、前記第1の電波吸収体の前側が室内側となるように配置したことを特徴とする電波音波無響室。
【請求項1】
第1の電波吸収体の前側に、実質的に電波反射の無い第1の音波吸収体と、前記第1の音波吸収体の外面のうち少なくとも側面を囲む実質的に音波反射の無い第2の電波吸収体とを配置したことを特徴とする電波音波吸収体。
【請求項2】
実質的に電波反射の無い第2の音波吸収体を、前記第2の電波吸収体の外面のうち少なくとも側面を囲むように配置した請求項1記載の電波音波吸収体。
【請求項3】
前記第2の電波吸収体は、中空の錐状体の先端に開口を設けた形状である請求項1又は2記載の電波音波吸収体。
【請求項4】
前記第1の電波吸収体は、中空の錐状体の先端に開口を設けた筒形状部を有し、前記筒形状部前縁が前記第2の電波吸収体に接するか近接している請求項3記載の電波音波吸収体。
【請求項5】
前記音波吸収体は、ガラス繊維マットである請求項1,2,3又は4記載の電波音波吸収体。
【請求項6】
前記第2の電波吸収体は導電性材料を含有した導電性ガラス繊維マットである請求項1,2,3,4又は5記載の電波音波吸収体。
【請求項7】
前記第1の電波吸収体は、導電性材料を含有した発泡樹脂である請求項1,2,3,4,5又は6記載の電波音波吸収体。
【請求項8】
前記第1の電波吸収体の背面に磁性損失材料からなる第3の電波吸収体を配置した請求項1,2,3,4,5,6又は7記載の電波音波吸収体。
【請求項9】
室内側側壁面、天井面の少なくとも一面に、請求項1乃至8のいずれか一つに記載の電波音波吸収体を、前記第1の電波吸収体の前側が室内側となるように配置したことを特徴とする電波音波無響室。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−26837(P2009−26837A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186466(P2007−186466)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(390029023)日東紡音響エンジニアリング株式会社 (19)
【出願人】(000232760)日本無機株式会社 (104)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(390029023)日東紡音響エンジニアリング株式会社 (19)
【出願人】(000232760)日本無機株式会社 (104)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]