説明

電源回路

【課題】不要電磁波を低減する。
【解決手段】インバータは、ブリッジダイオードD1及びコンデンサC5からなる整流平滑回路と、インダクタンス素子L5、トランジスタQ1、ダイオードD2、コンデンサC6及び制御回路CTLからなるレギュレータと、制御回路CTL及びトランジスタQ2,Q3からなるスイッチング回路とを有する。2個のラインバイパスコンデンサC3,C4の各々に対して直列にインダクタンス素子L3,L4を接続することにより、インバータから放射される不要電磁波を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商用周波数の入力交流電圧を所望の周波数の交流電圧に変換するインバータ等の電源回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、蛍光灯や冷蔵庫では、50Hz乃至60Hzの商用周波数の入力交流電圧を別の周波数の交流電圧に変換するインバータが使用されている。図7は非特許文献1に開示された従来のインバータの回路図である。図7において、C11,C12はアクロスザラインコンデンサ(以下、Xコンとする)、C13,C14はラインバイパスコンデンサ(以下、Yコンとする)、L11はコモンモードチョークコイル、SWはスイッチング回路、FLは蛍光灯などの負荷である。
【0003】
スイッチング回路SWは、商用周波数の入力交流電圧Vinをいったん直流に変換した後にスイッチングすることにより、高周波の交流電圧に変換し、変換後の交流電圧を負荷FLに供給する。図7のようなインバータにおいては、変換後の高周波が元となってノイズ電流が発生し、このノイズ電流が流れる経路をアンテナとして空間に不要電磁波が放射される。
【0004】
そこで、このような不要電磁波を低減するノイズ対策として、コンデンサ又はインダクタンス素子を用いてノイズ電流をグラウンドにバイパスするか、ノイズ電流の経路に高インピーダンスを付加する方法が採られている。図7に示した非特許文献1の例では、XコンC11,C12を設けることにより、信号ラインとグラウンドラインを逆向きに流れるノーマルモードノイズを減らし、またYコンC13,C14及びコモンモードチョークコイルL11を設けることにより、信号ラインやグラウンドラインなどのラインの種類に関係なく全てのラインを同じ向きに流れるコモンモードノイズを減らしている。
【0005】
【非特許文献1】「エミフィル(登録商標)によるノイズ対策」,村田製作所,1997年9月,p.30
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、従来のインバータでは、XコンC11,C12、YコンC13,C14及びコモンモードチョークコイルL11を用いたノイズ対策が実施されてきた。しかしながら、実際にはインバータの回路導体とシャーシ及び大地との間の寄生容量を介した意図しない経路をノイズ電流が流れるため、ノイズを低減できず、不要電磁波の低減効果が十分に得られない場合があった。なお、以上のような不要電磁波の問題は、インバータに限らず、高周波のノイズ源を負荷とする電源回路であれば同様に発生する。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、不要電磁波を従来よりも低減することができる電源回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、入力交流電圧の周波数と電圧のうち少なくとも一方を変換する電源回路において、入力交流電圧の2本の供給ラインの各々とグラウンドとの間に設けられた2個のラインバイパスコンデンサと、この2個のラインバイパスコンデンサの各々に対して直列に接続された2個のインダクタンス素子とを有するものである。
また、本発明の電源回路は、入力交流電圧の2本の供給ラインの各々とグラウンドとの間に設けられた2個のラインバイパスコンデンサと、この2個のラインバイパスコンデンサの接続点とグラウンドとの間に直列に接続されたインダクタンス素子とを有するものである。
また、本発明の電源回路の1構成例は、さらに、前記入力交流電圧を直流電圧に変換する整流平滑回路と、前記直流電圧を所望の周波数の交流電圧に変換するスイッチング回路とを有し、前記入力交流電圧を所望の周波数の交流電圧に変換するインバータであることを特徴とするものである。
前記インダクタンス素子としては、フェライトビーズを用いてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、2個のラインバイパスコンデンサの各々に対して直列に接続された2個のインダクタンス素子、又は2個のラインバイパスコンデンサの接続点とグラウンドとの間に直列に接続されたインダクタンス素子を設けることにより、電源回路から放射される不要電磁波を従来に比べて低減することができ、周囲の他の電子機器への干渉を防止することができる。また、本発明では、小型の部品追加のみで不要電磁波の低減を安価に実現することができる。
【0010】
また、本発明では、追加するインダクタンス素子としてフェライトビーズを用いることにより、電源回路のプリント配線板を変更することなく、インダクタンス素子を実装することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係るインバータの回路図である。図1において、C1〜C8はコンデンサ、L1はコモンモードチョークコイル、L2〜L6はインダクタンス素子(フェライトビーズ)、D1,D2はダイオード、Q1〜Q3はトランジスタ、CTLは制御回路、FLは蛍光灯などの負荷である。
【0012】
図7の場合と同様に、入力交流電圧Vinの2本の供給ラインPSL1とPSL2の間に設けられたXコンとなるコンデンサC1,C2、及び供給ラインPSL1に直列に接続されたインダクタンス素子L2は、ノーマルモードノイズを減らす機能を有している。
また、2本の供給ラインPSL1,PSL2の各々とグラウンドとの間に設けられたYコンとなるコンデンサC3,C4、及びコモンモードチョークコイルL1は、コモンモードノイズを減らす機能を有している。
【0013】
ブリッジダイオードD1及びコンデンサC5は、整流平滑回路を構成している。この整流平滑回路は、商用周波数の入力交流電圧Vinを直流電圧に変換する。
インダクタンス素子L5、トランジスタQ1、ダイオードD2、コンデンサC6及び制御回路CTLは、チョッパ方式のレギュレータを構成している。制御回路CTLの制御によってトランジスタQ1をスイッチングさせることにより、レギュレータは整流平滑後の直流電圧を昇圧する。
【0014】
制御回路CTL及びトランジスタQ2,Q3は、スイッチング回路を構成している。トランジスタQ2,Q3は、制御回路CTLによって制御され、交互にスイッチングすることにより、昇圧後の直流電圧を高周波の交流電圧に変換する。スイッチング周波数は本実施の形態の場合、約48kHzである。こうして、高周波の交流電圧が負荷FLに供給されるので、負荷FLが蛍光灯の場合には蛍光灯が点灯する。
【0015】
本実施の形態は、以上のようなインバータにおいてYコンC3,C4の各々に対して直列にインダクタンス素子(フェライトビーズ)L3,L4を接続することを特徴としている。このようなインダクタンス素子L3,L4を設けることにより、インバータから放射される不要電磁波を従来よりも低減することができる。
【0016】
図2は本実施の形態による不要電磁波の低減原理を説明するための図である。図2において、SGはシャーシグラウンド、EGは基準グラウンド(大地)、Cs1,Cs2は交流電圧Vinの入力ラインと基準グラウンドEGとの間の寄生容量、Cs3,Cs4はシャーシグラウンドSGと基準グラウンドEGとの間の寄生容量、Cs5はインバータの出力と基準グラウンドEGとの間の寄生容量である。図2では、インダクタンス素子L3,L4を短絡した構成、すなわち図7に示した従来のインバータに相当する構成の場合のコモンモードノイズ電流を白矢印で示し、本実施の形態の場合のコモンモードノイズ電流を黒矢印で示している。
【0017】
従来のインバータでは、YコンC3,C4が、負荷側回路を発生源とするコモンモードノイズ電流をシャーシグラウンドSGに流し、シャーシグラウンドSGから寄生容量Cs5を介してノイズ源のスイッチング回路に戻すようにしている。しかし、YコンC3,C4のリード線やYコンC3,C4からシャーシグラウンドSGに至る配線がインピーダンスを有するために、コモンモードノイズ電流をシャーシグラウンドSGに十分に流すことができず、実際にはコモンモードノイズ電流の一部が図2の白矢印で示すように交流電圧Vinの供給ライン→基準グラウンドEG→寄生容量Cs4→シャーシグラウンドSG→寄生容量Cs5→ノイズ源のスイッチング回路という大きなループで流れる。この結果、高強度の不要電磁波が放射される。
【0018】
これに対して、本実施の形態では、YコンC3,C4の各々に対して直列にインダクタンス素子L3,L4を挿入することにより、YコンC3とインダクタンス素子L3が直列共振回路を構成すると共に、YコンC4とインダクタンス素子L4が直列共振回路を構成し、共振周波数において当該直列共振回路のインピーダンスが極小となるので、当該共振周波数及びその近傍の周波数においてコモンモードノイズ電流のほとんどをYコンC3,C4→インダクタンス素子L3,L4→シャーシグラウンドSG→寄生容量Cs5→ノイズ源のスイッチング回路という経路で流すことができる。この結果、コモンモードノイズ電流が流れるループの面積を従来よりも大幅に縮小することができるので、不要電磁波の強度を従来よりも低減することができる。
【0019】
図3、図4は本実施の形態の効果を説明するための図であり、インバータから放射される不要電磁波の強度を示す図である。図3は不要電磁波のうちの垂直偏波の強度を示す図であり、図4は水平偏波の強度を示す図である。この不要電磁波の強度は、電波暗室(電波半無響室)においてインバータから3m離れた受信アンテナで測定したものである。検波方式としては尖頭値検波方式を用いている。図3、図4において、CISPR15は国際無線障害特別委員会で定められた不要電磁波の国際規格であり、V0はインダクタンス素子L3,L4を短絡した構成、すなわち図7に示した従来のインバータに相当する構成から放射される垂直偏波の強度、V1は本実施の形態のインバータから放射される垂直偏波の強度、H0は従来のインバータに相当する構成から放射される水平偏波の強度、H1は本実施の形態のインバータから放射される水平偏波の強度である。
【0020】
図3、図4から明らかなように、本実施の形態によれば、従来に比べて不要電磁波を低減できることが分かる。特に、従来のインバータでは垂直偏波の30MHz近傍における不要電磁波の強度を準尖頭値に換算した値が40.4dBとなっており、準尖頭値で規定されたCISPR15の許容値40dBを超過しているが、本実施の形態のインバータでは不要電磁波の強度が許容値を十分に下回る結果となっている。また、本実施の形態のインバータでは、水平偏波の80MHz近傍においても不要電磁波の強度が低下していることが分かる。
【0021】
本実施の形態では、YコンC3,C4として容量3300pFのコンデンサを用いている。インダクタンス素子L3,L4のインダクタンスは、各々約0.03μHである。したがって、直列共振回路の共振周波数は約16MHzとなる。インダクタンス素子L3,L4での損失があることから、共振の鋭さは比較的鈍く、このため30MHzから80MHz近傍に至る周波数帯域で不要電磁波の低減効果が発揮されていると考えられる。
【0022】
以上のように、本実施の形態では、小型の部品追加のみで不要電磁波の低減を実現することができる。特に、インダクタンス素子L3,L4としてフェライトビーズを使用すれば、図5に示すようにプリント配線板PWBに搭載されるコンデンサC3のグラウンド側のリードをフェライトビーズの貫通孔に通すだけで、フェライトビーズ(インダクタンス素子L3)を実装できるので、プリント配線板自体を変更する必要がなくなる。インダクタンス素子L4についても同様にして実装することができる。
【0023】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、インダクタンス素子を2個追加したが、1個の追加で不要電磁波を低減することもできる。図6は本発明の第2の実施の形態に係るインバータの要部構成を示す回路図である。図6では、図1と同一構成の要素を省略し、異なる要素についてのみ記載している。
【0024】
本実施の形態では、インダクタンス素子(フェライトビーズ)L7をYコンC3,C4の中点(接続点)とシャーシグラウンドSGとの間に直列に接続している。これにより、本実施の形態では、1個のインダクタンス素子の追加で第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0025】
なお、第1、第2の実施の形態では、電源回路の1例としてインバータ(スイッチング電源)を例に挙げて説明しているが、これに限るものではなく、入力交流電圧の周波数と電圧のうち少なくとも一方を変換する他の電源回路に本発明を適用することもできる。特に、高周波のノイズ源を負荷とする電源回路に本発明を適用することは有効である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、インバータ等の電源回路に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るインバータの回路図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態による不要電磁波の低減原理を説明するための図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態の効果を説明するための図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態の効果を説明するための図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態のインバータにおけるインダクタンス素子の実装方法を示す側面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るインバータの要部構成を示す回路図である。
【図7】従来のインバータの回路図である。
【符号の説明】
【0028】
C1〜C8…コンデンサ、L1…コモンモードチョークコイル、L2〜L7…インダクタンス素子、D1,D2…ダイオード、Q1〜Q3…トランジスタ、CTL…制御回路、FL…負荷。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力交流電圧の周波数と電圧のうち少なくとも一方を変換する電源回路において、
入力交流電圧の2本の供給ラインの各々とグラウンドとの間に設けられた2個のラインバイパスコンデンサと、
この2個のラインバイパスコンデンサの各々に対して直列に接続された2個のインダクタンス素子とを有することを特徴とする電源回路。
【請求項2】
入力交流電圧の周波数と電圧のうち少なくとも一方を変換する電源回路において、
入力交流電圧の2本の供給ラインの各々とグラウンドとの間に設けられた2個のラインバイパスコンデンサと、
この2個のラインバイパスコンデンサの接続点とグラウンドとの間に直列に接続されたインダクタンス素子とを有することを特徴とする電源回路。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電源回路において、
さらに、前記入力交流電圧を直流電圧に変換する整流平滑回路と、
前記直流電圧を所望の周波数の交流電圧に変換するスイッチング回路とを有し、
前記入力交流電圧を所望の周波数の交流電圧に変換するインバータであることを特徴とする電源回路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電源回路において、
前記インダクタンス素子は、フェライトビーズであることを特徴とする電源回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−182784(P2008−182784A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12463(P2007−12463)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【出願人】(590004648)株式会社共進電機製作所 (7)
【Fターム(参考)】