説明

電源装置

【課題】複数の出力部を有する電源トランスを備え、前記出力部の1つから出力される電圧でブートストラップ回路のコンデンサを充電して該コンデンサをハイサイド側スイッチング素子を駆動する電源として使用する電源装置において、電源トランスの出力を不安定にさせずにブートストラップコンデンサの初期充電を行うことを可能にする。
【解決手段】電源装置は、ハイサイド側スイッチング素子20を駆動するハイサイド駆動回路15に接続されたブートストラップ回路14と、ハイサイド駆動回路15と第1の出力部12aとの間に接続され、ブートストラップ回路14に制御電圧を出力するレギュレータ回路13とを備えている。ブートストラップコンデンサ17を初期充電する際に、制御電圧の変動により電源トランス10の出力電圧が変動するのを抑制する電流制限回路を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の出力部を有する電源トランスを備え、前記電源トランスの第1の出力部からの出力電圧を、直流電源に直列に接続されたハイサイド側スイッチング素子及びロウサイド側スイッチング素子をそれぞれ駆動するハイサイド駆動回路及びロウサイド駆動回路の電源として使用する電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直流電源の両端に直列に接続された2個のスイッチング素子を制御信号により交互にオン・オフさせて、2個のスイッチング素子の中点に接続された負荷に電力を供給するスイッチング回路が知られている。このスイッチング回路は、直流電源のハイサイド側に接続されたスイッチング素子を駆動するために専用の電源が必要になる。この電源を作成するために、ブートストラップ回路を用いた駆動回路を用いることが従来より知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、電源装置として1つのトランスの2次側から少なくとも2つの出力を取り出す1トランス多出力方式の電源装置がある。そして、1つの入力から2つの出力を取り出し、そのうちの1つの出力を前記ハイサイド側に接続されたスイッチング素子を駆動する駆動回路の電源及び前記ロウサイド側に接続されたスイッチング素子を駆動する駆動回路の電源に使用する構成の電源装置がある。この電源装置は、図4に示すように、電源トランス51の2次側に2つの出力部52a,52bを有し、一方の出力部52aはレギュレータ回路53の入力側に接続されている。レギュレータ回路53は、出力側がハイサイド駆動回路55の入力側及びブートストラップ回路54に接続されている。出力部52aとレギュレータ回路53との間には入力用コンデンサ56が接続され、レギュレータ回路53とブートストラップ回路54との間には出力用コンデンサ57が接続されている。
【0004】
直流電源58にはハイサイド側スイッチング素子59とロウサイド側スイッチング素子60とが直列に接続され、ハイサイド側スイッチング素子59はハイサイド駆動回路55により制御され、ロウサイド側スイッチング素子60はロウサイド駆動回路61によって制御される。ブートストラップ回路54は、ダイオード62及びブートストラップコンデンサ63を備えており、ブートストラップコンデンサ63の一方の端子はダイオード62のカソードに接続され、他方の端子はハイサイド側スイッチング素子59とロウサイド側スイッチング素子60との中点に接続されている。そして、ロウサイド駆動回路61は、レギュレータ回路53の出力電圧を電源として動作され、図示しない制御回路からの信号VLINに基づいてロウサイド側スイッチング素子60をオン・オフさせる。ハイサイド駆動回路55は、図示しない制御回路からの信号VHINに基づいてハイサイド側スイッチング素子59をロウサイド側スイッチング素子60とは相補的にオン・オフさせる。
【0005】
前記電源装置では、ブートストラップコンデンサ63をハイサイド側スイッチング素子59の駆動電源として利用する。そのため、ブートストラップコンデンサ63の電圧VBCは、ハイサイド側スイッチング素子59でのエネルギー消費によって、時間と共に低下する。そこで、通常の動作においてはロウサイド側スイッチング素子60がスイッチング動作をすることで、常にブートストラップコンデンサ63の充電動作が行われている。この時の充電は、負荷変動が小さいため、出力用コンデンサ57(制御電圧安定化コンデンサ)が存在することで、制御電圧の変動を抑えることができる。
【特許文献1】特開2007−6207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、初期状態では、ブートストラップコンデンサ63の電圧(電位)が0Vであるため、ハイサイド側スイッチング素子59及びロウサイド側スイッチング素子60を相補的にオン・オフさせる通常の制御に先だってブートストラップコンデンサ63の充電を行う必要がある。図5に初期状態からブートストラップコンデンサ63の充電を開始した場合の、ブートストラップコンデンサ63の電圧VBC、制御電圧、出力部52aの出力電圧(トランス出力A)及び出力部52bの出力電圧(トランス出力B)等の変化を示す。この時は、通常時の動作と異なり、ブートストラップコンデンサ63の初期電位が0Vのため、急激な負荷変動による影響で制御電圧、即ちブートストラップ回路54への入力電圧が大きく変動するという問題がある。そして、この制御電圧の変動によって、電源トランス51の出力用コンデンサとして機能する入力用コンデンサ56の電圧までもが変動を起こし、制御系が不安定になる。その結果、電源トランス51の他の出力部52bの出力電圧までもが変動してしまうという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、複数の出力部を有する電源トランスを備え、前記出力部の1つから出力される電圧でブートストラップ回路のコンデンサを充電して該コンデンサをハイサイド側スイッチング素子を駆動する電源として使用する電源装置において、電源トランスの出力を不安定にさせずにブートストラップコンデンサの初期充電を行うことができる電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、複数の出力部を有する電源トランスを備え、前記電源トランスの第1の出力部からの出力電圧を、直流電源に直列に接続されたハイサイド側スイッチング素子及びロウサイド側スイッチング素子をそれぞれ駆動するハイサイド駆動回路及びロウサイド駆動回路の電源として使用する電源装置である。そして、前記ハイサイド側スイッチング素子を駆動するハイサイド駆動回路に接続されたブートストラップ回路と、前記ハイサイド駆動回路と前記第1の出力部との間に接続され、前記ブートストラップ回路に制御電圧を出力するレギュレータ回路とを備えている。また、前記ブートストラップ回路のブートストラップコンデンサを初期充電する際に、前記制御電圧の変動により前記電源トランスの出力電圧が変動するのを抑制する電流制限回路を備えている。
【0009】
この発明では、ブートストラップコンデンサの電圧が初期状態からロウサイド側スイッチング素子がオン状態に保持されてブートストラップコンデンサの充電が行われる場合、電流制限回路の存在によりブートストラップ回路に流れる突入電流が、電流制限回路が無い場合に比べて小さくなる。そして、制御電圧の変動が小さくなるため電源トランスの出力電圧の変動が抑えられる。したがって、電源トランスの第1の出力部以外の出力部の出力によって駆動される電子機器、例えば、CPUの駆動に支障を来すことが防止される。初期充電完了後に2つのスイッチング素子の通常のスイッチングが開始され、2つのスイッチング素子の中点から負荷に直流電源の電力が供給される。電流制限回路を設けることにより初期充電時間が長くなるが、通常のスイッチングにおけるブートストラップコンデンサの充電に対しては問題ない。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ブートストラップ回路は、ブートストラップ用ダイオード及び該ブートストラップ用ダイオードのカソードに接続されたブートストラップコンデンサで構成されている。前記ブートストラップ用ダイオードは、アノードが前記レギュレータ回路の出力側に抵抗を介して接続され、カソードと前記ブートストラップコンデンサとの接合点が前記ハイサイド駆動回路に接続されている。前記第1の出力部と前記レギュレータ回路の入力側との間には入力用コンデンサが接続され、前記レギュレータ回路の出力側と前記抵抗との間に出力用コンデンサが接続されている。
【0011】
この発明では、入力用コンデンサが存在することにより電源トランスの出力が多少変動してもレギュレータ回路に安定した電圧が供給され、出力用コンデンサが存在するためブートストラップ回路に供給される制御電圧がより安定化する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の出力部を有する電源トランスを備え、前記出力部の1つから出力される電圧でブートストラップ回路のコンデンサを充電して該コンデンサをハイサイド側スイッチング素子を駆動する電源として使用する電源装置において、電源トランスの出力を不安定にさせずにブートストラップコンデンサの初期充電を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を1つのトランスの2次側から2つの出力を取り出す電源トランスを備え、電源トランスの第1の出力部からの出力電圧を、直流電源に直列に接続された2つのスイッチング素子を駆動する駆動回路の電源として使用する電源装置に具体化した一実施形態を図1〜図3にしたがって説明する。
【0014】
図1(a)に示すように、電源トランス10は、1次巻線11a及び2次巻線11bを有し、2次巻線11bは中間タップ11cを有する。2次巻線11bの一端が第1の出力部12aを構成し、中間タップ11cが第2の出力部12bを構成する。即ち、電源装置は、電源トランス10の2次側(2次巻線11b)に2つの出力部12a,12bを有する。
【0015】
1次巻線11aは図示しないスイッチング素子のスイッチング動作により、間欠的に電圧が供給(印加)され、2次巻線11bの第1の出力部12a及び第2の出力部12bに電圧が出力される。2次巻線11bの中間タップ11cを挟んだ両側部分の巻数は、1次巻線11aとの巻数比が、第1の出力部12a及び第2の出力部12bからの出力電圧が各出力部12a,12bに要求される所定出力電圧となるように設定されている。
【0016】
第1の出力部12aはダイオードD1を介してレギュレータ回路13の入力側に接続されている。レギュレータ回路13の出力側は、抵抗Rを介してブートストラップ回路14に接続されている。また、レギュレータ回路13の出力側は、ハイサイド駆動回路15及びロウサイド駆動回路21の入力側に接続されている。
【0017】
ブートストラップ回路14は、ブートストラップ用ダイオード16及び該ブートストラップ用ダイオード16のカソードに接続されたブートストラップコンデンサ17で構成されている。ブートストラップ用ダイオード16は、アノードがレギュレータ回路13の出力側に抵抗Rを介して接続され、カソードとブートストラップコンデンサ17の一方の端子との接合点がハイサイド駆動回路15に接続されている。ブートストラップコンデンサ17の他方の端子は、直流電源Vccに直列に接続されたハイサイド側スイッチング素子20及びロウサイド側スイッチング素子22の接合点と、ハイサイド駆動回路15とに接続されている。
【0018】
第2の出力部12bはダイオードD2を介して出力端子に接続されている。ダイオードD2のカソードと出力端子との間にはコンデンサCの一方の端子が接続され、コンデンサCの他方の端子は接地されている。
【0019】
ハイサイド駆動回路15の出力端子は、直流電源Vccに直列に接続された2つのスイッチング素子20,22のうちのハイサイド側スイッチング素子20の制御用端子に接続され、ロウサイド駆動回路21の出力端子は、ロウサイド側スイッチング素子22の制御用端子に接続されている。両スイッチング素子20,22として絶縁ゲートバイポーラ型トランジスタ(IGBT)が使用されている。ハイサイド側スイッチング素子20のコレクタが直流電源Vccに接続され、ハイサイド側スイッチング素子20のエミッタとロウサイド側スイッチング素子22のコレクタとが接続され、ロウサイド側スイッチング素子22のコレクタが接地されている。
【0020】
ハイサイド駆動回路15及びロウサイド駆動回路21は、レギュレータ回路13の出力電圧を電源として動作される。ロウサイド駆動回路21は、図示しない制御装置からの信号VLINに基づいてロウサイド側スイッチング素子22をオン・オフさせる。ハイサイド駆動回路15は、図示しない制御装置からの信号VHINに基づいてハイサイド側スイッチング素子20をロウサイド側スイッチング素子22とは相補的にオン・オフさせる。
【0021】
図2に示すように、レギュレータ回路13は、バイポーラトランジスタからなるスイッチングトランジスタQを備え、コレクタが入力端子13aに接続され、エミッタが電流制限回路23を介して出力端子13bに接続されている。この実施形態では電流制限回路23として抵抗が使用されている。スイッチングトランジスタQのベースにはシャントレギュレータ24のカソードが接続され、シャントレギュレータ24のアノードは接地されている。スイッチングトランジスタQのコレクタとベースは抵抗R1を介して接続されている。電流制限回路23の出力側には分圧抵抗R2,R3が接続され、分圧抵抗R2,R3による分圧電圧がシャントレギュレータ24のリファレンスに印加されるようになっている。シャントレギュレータ24の動作を安定化させるため、シャントレギュレータ24のカソードとリファレンスとの間にコンデンサ25が接続されている。
【0022】
電流制限回路23を構成する抵抗の抵抗値は、ブートストラップ回路14のブートストラップコンデンサ17を電圧0Vの状態から充電する際に、制御電圧の変動により電源トランス10の出力電圧が変動する状態となるのを抑制する値に設定されている。
【0023】
次に前記のように構成された電源装置の作用について説明する。
この電源装置は、例えば、車両に搭載され、第1の出力部12aは電動機の駆動を制御するインバータ装置の制御回路の電源として使用され、第2の出力部12bはその制御回路を制御する制御装置(CPU)の電源として使用される。したがって、電動機に3相交流モータが使用される場合は、図1(b)に示すように、直流電源Vccに対して3組のハイサイド側スイッチング素子20及びロウサイド側スイッチング素子22の直列回路が並列に接続される。そして、各組のハイサイド側スイッチング素子20及びロウサイド側スイッチング素子22の中点が、3相交流モータ26のU相、V相、W相の各端子にそれぞれ接続される。また、3つのハイサイド側スイッチング素子20はそれぞれ別のハイサイド駆動回路15によって制御され、3つのロウサイド側スイッチング素子22は1つのロウサイド駆動回路21によって制御される。なお、図1(b)では、1つのハイサイド側スイッチング素子20に対応するハイサイド駆動回路15のみ図示されている。
【0024】
各ハイサイド駆動回路15はレギュレータ回路13の出力電圧に基づく制御電圧を電源として動作し、ハイサイド側スイッチング素子20をオン・オフ制御する。ロウサイド駆動回路21はレギュレータ回路13の出力電圧に基づく制御電圧を電源として動作し、ロウサイド側スイッチング素子22をオン・オフ制御する。そして、3相交流モータ26の運転時には、各組のハイサイド側スイッチング素子20及びロウサイド側スイッチング素子22がそれぞれ所定周期で相補的にオン・オフ制御されることにより、3相交流モータ26のU相,V相,W相に電流が供給されて3相交流モータ26が駆動される。
【0025】
レギュレータ回路13は、入力端子13aに第1の出力部12aから電圧が印加されている状態で、シャントレギュレータ24のカソードとアノード間が導通されていない状態においてスイッチングトランジスタQがオンになって出力端子13bから電圧が出力される。シャントレギュレータ24は、出力端子13bからの出力電圧が過大になると、分圧抵抗R2,R3による分圧電圧が内部基準電圧より高くなり、カソードとアノード間が導通されてスイッチングトランジスタQがオフになる。したがって、レギュレータ回路13は、通常はスイッチングトランジスタQがオン状態に保持される。そして、スイッチングトランジスタQのエミッタと出力端子13bとの間に存在する電流制限回路23により、電流制限回路23が無い場合に比べて制限された状態で入力端子13aから電圧が入力される。
【0026】
ブートストラップコンデンサ17はハイサイド側スイッチング素子20の駆動時にエネルギーが消費されて電圧VBCが低下する。一方、ロウサイド側スイッチング素子22がオンの状態ではブートストラップコンデンサ17の充電が行われる。3相交流モータ26の運転時におけるロウサイド側スイッチング素子22のオン・オフ周期は短いため、充電はブートストラップコンデンサ17の電圧VBCが低くない状態で行われ、負荷変動が小さいため、出力用コンデンサ19(制御電圧安定化コンデンサ)が存在することで、制御電圧の変動は抑えられる。
【0027】
一方、初期状態では、ブートストラップコンデンサ17の電圧VBCが0Vもしくは0Vに近い状態であるため、ハイサイド側スイッチング素子20及びロウサイド側スイッチング素子22を相補的にオン・オフさせる通常の制御に先だってブートストラップコンデンサ17の充電が行われる。図3に初期状態からブートストラップコンデンサ17の充電を開始した場合の、ブートストラップコンデンサ17の電圧VBC、充電電流、制御電圧、第1の出力部12aの出力電圧(トランス出力A)及び第2の出力部12bの出力電圧(トランス出力B)等の変化を示す。なお、電流制限回路23が存在しない場合の対応する電圧変化等を2点鎖線で示している。
【0028】
初期状態では、ブートストラップコンデンサ17の初期電位が0Vもしくは0Vに近い状態のため、充電の際に通常時の動作と異なり、レギュレータ回路13に電流制限回路23が存在しない場合は、急激な負荷変動による影響で制御電圧、即ちブートストラップ回路14への入力電圧が大きく変動する。そして、この制御電圧の変動によって、電源トランス10の出力用コンデンサ19の電圧までもが変動を起こし、制御系が不安定になる。その結果、図3に2点鎖線で示すように、電源トランス10の第2の出力部12bの出力電圧までもが変動してしまう。
【0029】
しかし、電流制限回路23が存在する場合は、ブートストラップ回路14に流れる突入電流が、電流制限回路23が無い場合に比べて小さくなる。そして、制御電圧の変動が小さくなるため、電源トランス10の出力電圧の変動が抑えられる。したがって、電源トランス10の第1の出力部12a以外の出力部(第2の出力部12b)の出力によって駆動される電子機器、例えば、CPUの駆動に支障を来すことが防止される。初期充電完了後にハイサイド側スイッチング素子20及びロウサイド側スイッチング素子22の通常のスイッチングが開始され、両スイッチング素子20,22の中点から3相交流モータ26に直流電源Vccの電力が供給される。電流制限回路23を設けることにより初期充電時間が長くなるが、通常のスイッチングにおけるブートストラップコンデンサ17の充電に対しては問題ない。
【0030】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)ハイサイド側スイッチング素子20を駆動するハイサイド駆動回路15に接続されたブートストラップ回路14と、ブートストラップ回路14と第1の出力部12aとの間に接続され、ブートストラップ回路14に制御電圧を出力するレギュレータ回路13とを備えている。そして、ブートストラップ回路14のブートストラップコンデンサ17を電圧0Vもしくは0Vに近い状態から充電する際に、制御電圧の変動により電源トランス10の出力電圧が変動するのを抑制する電流制限回路23を備えている。したがって、ブートストラップコンデンサ17の初期充電時に、電源トランス10の第1の出力部12a以外の出力部、即ち第2の出力部12bの出力によって駆動される電子機器、例えば、CPUの駆動に支障を来すことが防止される。また、充電電流を制限できるため、レギュレータ回路13とブートストラップ回路14との間に接続される抵抗Rに定格の小さい抵抗を使用することが可能となる。
【0031】
(2)ブートストラップ回路14は、ブートストラップ用ダイオード16及びブートストラップ用ダイオード16のカソードに接続されたブートストラップコンデンサ17で構成されている。そして、ブートストラップ用ダイオード16は、アノードがレギュレータ回路13の出力側に抵抗Rを介して接続され、カソードとブートストラップコンデンサ17との接合点がハイサイド駆動回路15に接続されている。また、第1の出力部12aとレギュレータ回路13の入力側との間には入力用コンデンサ18が接続され、レギュレータ回路13の出力側と抵抗Rとの間に出力用コンデンサ19が接続されている。したがって、入力用コンデンサ18が存在することにより電源トランス10の出力が多少変動してもレギュレータ回路13に安定した電圧が供給され、出力用コンデンサ19が存在するためブートストラップ回路14に供給される制御電圧がより安定化する。
【0032】
(3)レギュレータ回路13の出力端子13bに接続された抵抗で電流制限回路23が構成されている。即ち、電流制限回路23はレギュレータ回路13に組み込まれている。したがって、電流制限回路23を設けてもその構成が簡単になる。
【0033】
(4)電源装置は、車両に搭載される電源装置として使用される。近年、車両においては種々の電気機器が搭載され、その電源電圧も複数種ある。例えば、走行輪を走行モータで駆動する車両においては、走行モータ用の電源電圧は、例えば、数百V程度であり、補機(ヘッドライトやワイパ)の電源電圧は12Vであり、制御装置のCPUの電源電圧は数Vである。そのため、各電源電圧に対応した数のバッテリを搭載するのでは、搭載スペースの確保が難しいため、複数の出力部を有する電源トランス10を備えた電源装置が好ましい。この実施形態はそのような要求に対応することができる。
【0034】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 電源装置は、第1の出力部12aの出力が3組のスイッチング素子20,22を有する3相インバータのハイサイド駆動回路15及びロウサイド駆動回路21の電源として使用される物に限らない。例えば、2組のスイッチング素子20,22を有するインバータのハイサイド駆動回路15及びロウサイド駆動回路21の電源や、インバータに限らず1組のスイッチング素子20,22のハイサイド駆動回路15及びロウサイド駆動回路21の電源として使用してもよい。
【0035】
○ 電源トランス10は、複数の出力部を有する構成であればよく、2つの出力部を有する構成に限らず、3つ以上の出力部を有する構成、即ち、2次巻線11bが出力部の数より1つ少ない数の中間タップ11cを有する構成であってもよい。例えば、異なる駆動電圧のCPUの電源として複数の出力部を設けてもよい。
【0036】
○ ハイサイド側スイッチング素子20及びロウサイド側スイッチング素子22はIGBTに限らず、例えばMOSEFTやバイポーラトランジスタを使用してもよい。
○ レギュレータ回路13とブートストラップ回路14との間に存在する抵抗R、即ち、ブートストラップ用ダイオード16のアノードに接続される抵抗Rを省略してもよい。
【0037】
○ 電流制限回路23は抵抗のみで構成される構成に限らず、例えば、抵抗とトランジスタとを組み合わせた構成としてもよい。
○ 電流制限回路23はレギュレータ回路13に内蔵されず、レギュレータ回路13の出力側に外付けされた構成としてもよい。
【0038】
○ 3相インバータのハイサイド駆動回路として各ハイサイド側スイッチング素子20に対応してそれぞれハイサイド駆動回路15を設ける代わりに、3つのハイサイド側スイッチング素子20の制御用端子にそれぞれ接続される3個の出力端子を備え、3つのブートストラップ回路14に接続された構成のハイサイド駆動回路15としてもよい。
【0039】
○ 電源装置は、車両に搭載される物に限らず、家庭用電気機器の電源装置に適用したり、工場で使用される電気機器の電源装置に適用したりしてもよい。
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
【0040】
(1)請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記電流制限回路はレギュレータ回路に組み込まれている。
(2)請求項1、請求項2及び前記技術的思想(1)のいずれか一項に記載の発明の電源装置は車載用の電源装置である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(a)は一実施形態の電源装置の回路図、(b)はインバータ装置の制御回路の電源とした場合の部分回路図。
【図2】レギュレータ回路の回路図。
【図3】ブートストラップコンデンサ初期充電時のブートストラップコンデンサ電圧、充電電流、制御電圧等の経時変化を示すグラフ。
【図4】従来技術の電源装置の回路図。
【図5】従来技術のブートストラップコンデンサ初期充電時のブートストラップコンデンサ電圧、充電電流、制御電圧等の経時変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0042】
R…抵抗、Vcc…直流電源、10…電源トランス、12a,12b…出力部、12a…第1の出力部、13…レギュレータ回路、14…ブートストラップ回路、15…ハイサイド駆動回路、16…ブートストラップ用ダイオード、17…ブートストラップコンデンサ、18…入力用コンデンサ、19…出力用コンデンサ、20…ハイサイド側スイッチング素子、21…ロウサイド駆動回路、22…ロウサイド側スイッチング素子、23…電流制限回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の出力部を有する電源トランスを備え、前記電源トランスの第1の出力部からの出力電圧を、直流電源に直列に接続されたハイサイド側スイッチング素子及びロウサイド側スイッチング素子をそれぞれ駆動するハイサイド駆動回路及びロウサイド駆動回路の電源として使用する電源装置であって、
前記ハイサイド側スイッチング素子を駆動するハイサイド駆動回路に接続されたブートストラップ回路と、
前記ハイサイド駆動回路と前記第1の出力部との間に接続され、前記ブートストラップ回路に制御電圧を出力するレギュレータ回路と、
前記ブートストラップ回路のブートストラップコンデンサを初期充電する際に、前記制御電圧の変動により前記電源トランスの出力電圧が変動するのを抑制する電流制限回路と
を備えていることを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記ブートストラップ回路は、ブートストラップ用ダイオード及び該ブートストラップ用ダイオードのカソードに接続されたブートストラップコンデンサで構成され、前記ブートストラップ用ダイオードは、アノードが前記レギュレータ回路の出力側に抵抗を介して接続され、カソードと前記ブートストラップコンデンサとの接合点が前記ハイサイド駆動回路に接続され、前記第1の出力部と前記レギュレータ回路の入力側との間には入力用コンデンサが接続され、前記レギュレータ回路の出力側と前記抵抗との間に出力用コンデンサが接続されている請求項1に記載の電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−57333(P2010−57333A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222331(P2008−222331)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】