説明

電熱被膜融着体とその融着方法

【課題】
Bを0.2%以上含有するSi合金の被膜を窒化アルミニウムに融着させた時、被膜が剥離する、あるいは剥がれ易い、あるいは被膜そのものの強度が弱い問題がある。
本発明は、Bを0.2%以上含有するSi合金の被膜を窒化アルミニウムに融着させる時、窒化アルミニウム基材に対して密着性に優れ、剥がれのない、強度の強い電熱被膜融着体を提供する。そしてその電熱被膜融着方法を提供する。
【解決方法】
希土類元素化合物の焼結助剤を酸化物換算で1重量%以上含む窒化アルミニウムセラミックス基材の表面に、0.2重量%以上のBを含むSi合金からなる電熱被膜が融着した構造の電熱被膜の融着体であって、該被膜中に、該セラミックス基材の焼結助剤の希土類元素化合物を供給源とする希土類元素が0.1重量%以上含まれてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電熱被膜融着体とその融着方法に係り、更に詳しくは、Bを含有するSi合金からなる電熱被膜が窒化アルミニウム基材に融着した電熱被膜融着体とその融着方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
AlN等のセラミックス基材にSi合金の電熱被膜を融着させたセラミックスヒーターには、高温加熱を繰り返すと、電熱被膜の抵抗値が変化(増加)する欠点がある。この欠点を改良する方法として特許文献1には、Si合金にBを0.03〜5%の範囲添加すると被膜の抵抗変化を抑制する効果があると記載されているが、特許文献1の明細書には被膜を融着する際のペーストの組成は記載されているが融着後の被膜の組成については何ら記載されていない。明細書の実施例には本来融着被膜の中に含有されるB量を記載すべきところであるが記載されていない。なお特許文献1の発明は、本願発明者の発明である。
【0003】
B成分は本来高温に加熱されると揮散することが多く、高温溶融後の被膜中の歩留まりが悪いことは当業者には周知のことであり、特許文献1の明細書の実施例に記載されたペースト中のB量が、融着皮膜の中にそのまま、つまり歩留まり100%で、含有されることは考えられない。
【0004】
Bが含有されると抵抗変化を抑制する効果があること、そしてBが高いほど、より高い温度で抵抗変化を抑制する効果があるので、Bはより高いほうが良いことは特許文献1の記載からうかがい知ることができるが、その数量的なデータには信憑性は無いのが現状である。
【0005】
窒化アルミニウムセラミックスの大気中で加熱できる温度は、概ね800〜850℃程度であり、大気中で使用する窒化アルミニウムを基材とするセラミックスヒーターの最高加熱も概ね800〜850℃程度が限界であることに鑑み、800〜850℃程度までセラミックスヒーターとして加熱しても、電熱皮膜の抵抗値が変化(上昇)しないことが最も好ましい窒化アルミニウムヒーターである。
【0006】
そこで本発明者は、セラミックスヒーターの皮膜のB含量と、皮膜の抵抗変化が始まる最高加熱温度の関係について改めて定量的な探索実験を行った。
その結果、B含量は高いほど抵抗変化の始まる温度は高くなり、そしてB含量0.2重量%以上では、最初の通電加熱で抵抗変化が始まる温度が800℃以上になることを実験的に確認できた。
しかしながら、その確認実験の過程で、B添加に伴う新たな問題を発見した。
【0007】
その新しい問題とは、Bを0.2%以上含有するSi合金の被膜を窒化アルミニウムに融着させた時、被膜が剥離する、あるいは剥がれ易い、あるいは被膜そのものの強度が弱いトラブルが発生することを発見した。
この問題は、被膜を電熱ヒーターとして利用する時、致命的な問題になる。
【0008】
【特許文献1】特開2005−71781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、Bを0.2%以上含有するSi合金の被膜を窒化アルミニウムに融着させる時、窒化アルミニウム基材に対して密着性に優れ、剥がれることがない、皮膜強度の強い電熱被膜融着体を提供することである。そしてその電熱被膜融着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記問題に関して鋭意研究を行った結果、下記の知見を得た。
すなわち、
焼結助剤として希土類元素化合物を使用する窒化アルミニウム基材に対してBを0.2%以上含有するSi合金の被膜を窒化アルミニウムに融着させる時、焼結助剤化合物の含有量が希土類酸化物換算で1重量%以上では、被膜が融着することを発見した。
そしてその時、融着被膜中に、セラミックス基材の焼結助剤の希土類元素化合物を供給源として希土類元素が溶け出してくることを発見した。
そして希土類元素の溶け出し量は、焼結助剤の量が同じでも、融着時の温度等の条件で変化し、希土類元素の溶け出し量が0.1重量%以上になると、被膜の密着性が高くなり、焼結密度上昇、抵抗値も低下し、電熱被膜として好適な被膜が得られることを発見した。
そして焼結助剤化合物の含有量が希土類酸化物換算で1重量%未満あるいは焼結助剤化合物が含まれていないセラミックス基材では、被膜が融着しない、あるいは皮膜が剥離する融着不良の問題が起こり、電熱被膜として好適な被膜が得られないことを発見した。
【0011】
また更に焼結助剤化合物含有量が酸化物換算で1重量%未満の窒化アルミニウムセラミックス基材あるいは焼結助剤を含まない窒化アルミニウムセラミックス基材でも、基材表面に、先ず、第一段階として、0.2重量%未満のBを含むSi合金からなる電熱被膜の第一の層を融着させると、密着性に優れた皮膜が得られ、この第一の融着層に、B含量が0.2重量%以上になるようにBの濃化処理を行うことで、0.2重量%以上のBを含み、かつ被膜の密着性、焼結密度が高く、電熱被膜として好適な被膜が得られることを発見した。
【0012】
そして上記濃化処理には、上記第一の層の上に少なくとも一層あるいは複数層、Si合金の被膜を重ねて融着、融合させて、該第一の層と該重ねた層の融合層のB含有量が0.2重量%以上になるように、該重ねた層のB含有量を調整して融着させる方法が実用的で好適であることを発見した。
【0013】
本発明は以上の知見を基になされたものであり、本発明課題は、下記の発明で解決できるものである。
【0014】
(第1の発明)
希土類元素化合物の焼結助剤を酸化物換算で1重量%以上含む窒化アルミニウムセラミックス基材の表面に、0.2重量%以上のBを含むSi合金からなる電熱被膜が融着した構造の電熱被膜の融着体であって、該被膜中に、該セラミックス基材の焼結助剤の希土類元素化合物を供給源とする希土類元素が0.1重量%以上含まれてなる電熱被膜融着体。
【0015】
(第2の発明)
0.2重量%以上のBを含むSi合金からなる電熱被膜を窒化アルミニウムセラミックス基材の表面に融着させるに際して、該基材として希土類元素化合物の焼結助剤を酸化物換算で1重量%以上含む窒化アルミニウムセラミックスを使用し、かつ該電熱被膜の中に、該基材の希土類元素化合物を供給源する希土類元素成分を該被膜の0.1重量%以上溶出させることを特徴とする電熱被膜融着方法。
【0016】
(第3の発明)
上記電熱皮膜を窒化アルミニウムセラミックス基材の表面に融着させるに際して、
該基材に0.2重量%未満のBを含むSi合金からなる電熱被膜の第一の層を融着させた後、該融着層のBが0.2重量%以上になるように濃化処理を行うことを特徴とする上記第2の発明に記載の電熱被膜融着方法。
【0017】
(第4の発明)
希土類元素化合物の焼結助剤を酸化物換算で1重量%未満含む窒化アルミニウムセラミックス基材あるいは焼結助剤を含まない窒化アルミニウムセラミックス基材の表面に、0.2重量%以上のBを含むSi合金からなる電熱被膜を融着させるに際して、該基材に0.2重量%未満のBを含むSi合金からなる電熱被膜の第一の層を融着させた後、該融着層のBが0.2重量%以上になるように濃化処理を行うことを特徴とする電熱被膜融着方法。
【0018】
(第5の発明)
上記濃化処理の方法が、上記第一の層の上に少なくとも一層あるいは複数層、Si合金の被膜を重ねて融着、融合させて、該第一の層と該重ねた層の融合層のB含有量が0.2重量%以上になるように、該重ねた層のB含有量を調整して融着させる方法である上記第3の発明あるいは第4の発明のいずれか1つに記載の電熱被膜融着方法。
【0019】
(第6の発明)
上記Si合金が、Siを主成分とし、A群の中から選択された一種あるいは二種以上の元素と、B群の中から選択された一種あるいは二種以上の元素と、C群の元素と、残余不純物成分からなる合金であることを特徴とする上記第1の発明に記載の電熱被膜融着体。
A群の元素:Fe,Ni,Co,Zr ,Ti,Cr,Mo,W
B群の元素:Hf,Nb,Ta,V, Mn,Cu,Al,Ge
C群の元素:B,希土類元素
A群元素の成分範囲 :6〜65重量%
B群元素の成分範囲 :0〜10重量%
C群元素の成分範囲 :B≧0.2重量%,希土類元素≧0.1重量%
【発明の効果】
【0020】
本発明の電熱皮膜融着体は、融着した電熱被膜の密着性が高く、ボイド、欠陥がが少なく、800℃以上の加熱に使用しても抵抗変化が小さく、耐久性に極めて優れたものである。また本発明電熱皮膜融着体は、窒化アルミニウムセラミックス基材の希土類元素化合物の焼結助剤が酸化物換算で1重量%未満でも、あるいは以上でも、高温加熱時の耐久性に極めて優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
窒化アルミニウム基材にSi合金電熱被膜を融着したヒーターを通電加熱した時、Bの含まれていない電熱被膜では、加熱後、常温まで下げて抵抗値を測定すると、最初の加熱で最高加熱温度が400℃を越えたところから常温の抵抗値が元の値に戻らず高くなる特徴がある。
【0022】
最初の加熱で、常温抵抗値が元に戻らなくなる加熱温度を本願明細書では「抵抗変化の限界加熱温度」と表現することにすると、Bの含まれていない電熱被膜では、抵抗変化の限界加熱温度は、400℃であるが、電熱被膜にBを添加すると、400℃を越える温度に上昇する。そしてB含量が高い程、この限界加熱温度はより高くなる。つまりB含量が高くなる程、より高い温度に加熱しても抵抗変化が起きにくくなる。
【0023】
繰り返し加熱したとき、程度の差は有るが、その抵抗値は上昇する傾向にあり、B含量が高くなる程、その上昇率は小さくなる。つまり繰り返し加熱に従って常温抵抗値は上昇するが、B含量が高くなる程、その上昇率はより軽微になり、ヒーターとしての耐久性はより向上するので、B含量はより高い程好ましい。
【0024】
B含量0.2重量%以上で、最初の加熱で抵抗変化の始まる温度が800℃以上になる。従って、800℃の高温まで使用する電熱ヒーターでは、少なくともB含量は0.2重量%以上がよい。
B含量0.2重量%未満では、最初の加熱で、800℃未満の温度で抵抗変化が始まり、繰り返し加熱したとき、抵抗変化の上昇率がより大きくなるので、800℃以上に加熱する高温用途のヒーターでは耐久性が劣る。
【0025】
本発明の、「0.2重量%以上のBを含むSi合金からなる電熱被膜」とは、「最初の加熱で抵抗変化の始まる温度が800℃以上になるような性質を持つ電熱被膜」ということであり、この「0.2重量%以上のB含量」で、希土類元素化合物の焼結助剤が酸化物換算で1%未満の窒化アルミ基材あるいは焼結助剤を含まない窒化アルミニウムセラミックス基材では、電熱被膜が剥離する、あるいは剥がれ易い等の融着不良の問題が発生するということである。
【0026】
B含量0.2重量%未満では、希土類元素化合物の焼結助剤が酸化物換算で1%未満の窒化アルミ基材、あるいは焼結助剤を含まない窒化アルミニウムセラミックス基材でも、融着不良の問題は、起こり難くなる、あるいは全く発生しなくなるが、B含量が低いために、最初の加熱で、800℃未満の温度で抵抗変化が始まり、繰り返し加熱したとき、抵抗変化の上昇率がより大きくなるので、800℃以上に加熱する高温用途のヒーターでは、耐久性が劣る。
【0027】
なお、本発明の電熱被膜が融着したセラミックスヒーターが、その用途を800℃以上で使用するヒーターに限定されるものではないことは勿論である。当然800℃未満の温度でも好適に使用できるわけであり、その用途に特別な制約があるわけではない。
【0028】
窒化アルミニウムセラミックス基材には、焼結助剤に希土類元素化合物を用いるもの、あるいは焼結助剤を使用しないものが存在するが、本発明の「0.2重量%以上のBを含むSi合金からなる被膜」を、窒化アルミニウム基材の表面に塗布、あるいは印刷して加熱溶融した時、セラミックス基材中の焼結助剤の量に応じて、被膜の融着性が変化し、希土類元素化合物の焼結助剤量が酸化物換算で1%未満のセラミックス基材および焼結助剤を使用しない通称「助剤レス窒化アルミニウム」には、被膜が融着しない、あるいは融着したものが剥離する、あるいは融着した被膜がこすると剥落する等の融着不良が起こる。
【0029】
希土類元素化合物の焼結助剤量が酸化物換算で1%以上で融着するようになる。そしてその時、融着被膜中に、セラミックス基材の焼結助剤の希土類元素化合物を供給源として希土類元素が溶け出してくる。つまり融着被膜の成分として希土類元素は全く添加していないにもかかわらず、被膜の中に希土類元素が存在し、焼結助剤が酸化物であっても、膜中に存在する希土類元素は、酸化物の形では存在していない。
【0030】
被膜に含まれる希土類元素は、明らかに焼結助剤の希土類元素化合物を供給源とするものである。そして希土類元素の溶け出し量は、焼結助剤の量が同じでも、融着時の温度等の条件で変化する。
【0031】
融着被膜への希土類元素の溶け出し量が0.1重量%以上になると、融着した被膜の密着性が高くなると共に被膜の焼結密度も上がり、被膜の強度も強くなり、そして被膜の電気抵抗値も低下して、電熱被膜として好適な被膜が得られる。
【0032】
被膜の融着にあたって、焼結助剤含有量が酸化物換算で1重量%以上の窒化アルミニウムセラミックス基材の表面に、融着後のB含有量が0.2重量%以上の所定の目標値になるように、予め目標値よりもBを高めに配合したSi合金の原料粉末に樹脂バインダーを混ぜて作ったペーストを塗布あるいは印刷、乾燥して、ペーストの揮発成分を揮散させた後、真空中、あるいは不活性雰囲気中で、Si合金の原料粉末ペーストの固相線温度以上に加熱して溶融すると、溶融した被膜はセラミックス基材に融着する。
【0033】
被膜の融着は、固相線付近の温度から始まるが、固相線温度付近では融着はするが、被膜の接着強度、焼結密度も低く、ピンホール多く、機械的強度が弱く、希土類元素の溶け込み量も極めて僅かである。
温度上昇(固相線温度よりも)に伴って、被膜への希土類元素の溶け出し量は増加する。被膜の焼結密度も上昇、ピンホール減少、機械的強度アップする。
【0034】
希土類元素の溶け込み量0.1重量%以上で、実用的な電熱被膜が得られる。
溶け込み量0.1重量%以上を得るためには、合金の成分組成と温度と焼結密度と溶け込み量の関係について定量的な関係を把握しておくと、温度の制御で溶け込み量0.1重量%以上が確保できる。
【0035】
なおセラミックス基材から溶け出す成分ではなく、印刷皮膜に予め希土類元素の別の原料成分を配合して、融着皮膜の中に含まれる希土類元素量を高くすることは可能であるが、セラミックス基材から溶け出す希土類元素成分量が0.1重量未満の時は、皮膜の焼結密度、強度、共に低く、そして被膜の電気抵抗値も高く、電熱被膜として好適な被膜が得られない。つまり外から希土類元素の別の原料成分を添加して、みかけの希土類元素成分量だけを高くして好適な電熱皮膜は得られない。
【0036】
希土類元素化合物の焼結助剤を酸化物換算で1重量%未満含む窒化アルミニウムセラミックス基材あるいは焼結助剤を含まない窒化アルミニウムセラミックス基材の表面に、0.2重量%以上のBを含み、焼結密度、強度に優れ電熱被膜として好適なSi合金電熱被膜を融着させるためには、下記の方法が有効である。すなわち、
融着に際して、まずセラミックス基材に0.2重量%未満のBを含むSi合金からなる電熱被膜の第一の層を融着させた後、次に、この融着層のBが0.2重量%以上になるように濃化処理を行うことで、焼結密度、強度に優れ、0.2重量%以上のBを含む電熱被膜が得られる。
この融着皮膜は、希土類元素化合物の焼結助剤が1重量%以上の窒化アルミニウムセラミックス基材を使用した場合と同等の優れた耐久性を示す。
【0037】
予め0.2重量%未満のBを含むSi合金からなる電熱被膜の第一の層を融着させた後、次に、この融着層のBが0.2重量%以上になるように濃化処理を行う方法は、焼結助剤を酸化物換算で1重量%以上含む窒化アルミニウムセラミックス基材の場合にも当然有効である。
焼結助剤を酸化物換算で1重量%以上含む窒化アルミニウムセラミックス基材の場合に適用すると、融着皮膜の健全性(ピンホール等)の改善に著効がある。
【0038】
Bの濃化処理の方法には、上記第一の層の上に少なくとも一層あるいは複数層、Si合金の被膜を重ねて融着、融合させて、該第一の層と該重ねた層の融合層のB含有量が0.2重量%以上になるように、該重ねた層のB含有量を調整して融着させる方法が有効である。
複数層重ねて融合させる方法は、Bの濃化のみならず、融着皮膜の健全性(ピンホール等)の改善に著効がある。
なおB濃化の方法として、その他浸硼処理等、通常使用されている方法は有効に使用できる。
【0039】
本発明電熱皮膜の融着合金の成分組成は下記範囲が好適である。
すなわち、希土類元素化合物の焼結助剤を酸化物換算で1重量%以上含む窒化アルミニウムセラミックス基材を使用し、希土類元素成分は、セラミックス基材の焼結助剤の希土類元素化合物から溶出した量とする前提条件の基において、Siを主成分とし、A群の中から選択された一種あるいは二種以上の元素と、B群の中から選択された一種あるいは二種以上の元素と、C群の中の元素と、残余不純物成分からなる合金が好適である。
A群の元素:Fe,Ni,Co,Zr,Ti,Cr,Mo,W
B群の元素:Hf,Nb,Ta,V, Mn,Cu,Al,Ge
C群の元素:B,希土類元素
A群元素の成分範囲 :6〜65重量%
B群元素の成分範囲 :0〜10重量%
C群元素の成分範囲 :B≧0.2重量%,溶出希土類元素≧0.1重量%
【0040】
本発明電熱被膜の融着合金の組成は、耐久性の観点から、電熱被膜と窒化アルミニウム基材の線膨張係数の差の絶対値が、2.0×10−6以下になるように、最も好ましくは、1.5×10−6以下になるように、その成分組成を調整することが好ましい。下限未満、上限を越える範囲では、高温加熱後の抵抗変化が大きくなり、耐久性が短くなる。
【0041】
A群元素は、A群の中から一種あるいは二種以上の元素を選択する。
A群元素がFe,Ni,Co,Zr,Ti,Crの場合、成分範囲は6〜28重量%が好適である。A群元素がMo,Wの場合、成分範囲は40〜65重量%が好適である。
上限を超えると、そして下限未満では、上記線膨張係数の差の絶対値の範囲を逸脱し、ヒーターの耐久性が短くなる。
【0042】
B群の元素は、必要に応じて任意に添加できる元素である。上限10%まで添加しても良い。C群は必須元素である。
【0043】
焼結助剤としての希土類元素化合物とは、Y23、Yb23、Er23、Ce23、Ho23等の希土類酸化物や、その他Sc、Y、Er、Yb、Ce、Dy、Ho、Gd、Laなどを含む希土類元素化合物である。
また本発明に適用できるAlNセラミックスは、上記希土類化合物以外の成分としてCaO、SrOなどのアルカリ土類金属化合物、焼成温度低減化のために、必要に応じて、Li2Oなどのアルカリ金属やSiO2、Si34、SiCなどの珪素化合物、黒色化をはかるためにMo、W、V、Nb、Ta、Tiなどを含む金属及び金属化合物やカーボンを含んだものも用いることができる。
【実施例】
【0044】
実施例によって本発明を説明する。
実施例1(抵抗変化の限界加熱温度とB含量の関係の確認テスト)
セラミックス基材:焼結助剤としてY2O3を5wt%含む窒化アルミニウム板(製造元:(株)トクヤマ)を使用した。
セラミックス基材の寸法:2インチ角×厚さ1mm
電熱回路被膜の印刷と融着
Si合金の原料粉末に、PVPのアルコール溶液を混ぜて印刷用のペーストを作製し、上記セラミックス基材の表面に、図1に示した電熱回路(回路幅:5mm)をスクリーン印刷し、乾燥後、真空中で加熱して、被膜をセラミックス基材に融着させた。融着した電熱被膜の厚さは50〜70μmであった。
【0045】
通電加熱テスト
融着後、電熱回路両端の孔に耐熱鋼製ボルトを差し込んで耐熱鋼製リード線とつなぎ、回路に交流を通電して加熱した。
各成分組成の電熱回路被膜に対して、400〜850℃まで50℃刻みの各温度に加熱して、1時間保持後、常温まで放冷し、常温の電気抵抗値を測定して、B含量と抵抗変化が開始する加熱温度(50℃刻みの温度)の関係について調べた。昇温速度は、200℃/時間。
【0046】
電熱被膜の融着後の分析値と各温度に加熱後、常温抵抗値が変化し始める温度を表1に示す。なお電熱被膜の分析は湿式分析である。
【0047】
【表1】

【0048】
結果
テストの結果、電熱被膜の中のB含量が0.2wt%以上で抵抗変化の開始温度が800℃以上であった。
【0049】
実施例2(焼結助剤量と融着性の関係のテスト)
セラミックス基材:セラミックス基材として、表2に示す焼結助剤の種類と量が異なる窒化アルミニウム板を使用した。
セラミックス基材の寸法:φ60mm×厚さ3mm
焼結助剤量の異なるセラミックス基材は、窒化アルミニウム粉末と希土類酸化物の粉末を所定量混合し、金型で成形した後、窒素雰囲気中、ホットプレスで焼成した。
【0050】
被膜の印刷と融着
表2(セラミックス基材の焼結助剤の種類と量)に示す組成のSi合金の原料粉末のペーストに、PVPのアルコール溶液を混ぜて印刷用のペーストを作製し、上記セラミックス基材の表面に、全面ベタ塗りでスクリーン印刷し、乾燥後、10-5トールの真空中で加熱して、被膜をセラミックス基材に融着させた。
融着した電熱被膜の厚さは60〜80μmであった。
【0051】
融着温度は、番号1〜8までは共に1300℃、9、10は1280℃、11、12は、1320℃である。
被膜のB量は、原料粉末のペーストに配合するB原料粉末の量を加減することにより調整した。なおBとY元素の分析は、湿式分析である。
【0052】
被膜の密着性テスト
被膜にガムテープを貼り付けて引き剥がしテストを行った。
密着性テストの結果を表3に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
結果
以上の結果より、Bを0.2重量%以上含有するSi合金被膜を、希土類元素化合物(酸化物)を焼結助剤とする窒化アルミニウムセラミックス基材に融着させた時、焼結助剤量1%未満のセラミックス基材では、被膜が剥離、あるいは一部剥離した。
焼結助剤量1%以上のセラミックス基材では、被膜の剥離が無く、焼結助剤の希土類成分が0.1%以上、被膜に溶けこんでいた。
【0056】
実施例3(融着温度と溶け出し量の関係のテスト)
セラミックス基材:実施例2の焼結助剤としてY2O3を5wt%含む窒化アルミニウム板を使用してSi合金の融着温度とYの溶け出し量について調べた。
【0057】
被膜の印刷と融着
表2に示す融着組成のSi合金の原料粉末のペーストに、PVPのアルコール溶液を混ぜて印刷用のペーストを作製し、上記セラミックス基材の表面に、全面ベタ塗りでスクリーン印刷し、乾燥後、10-5トールの真空中で加熱して、被膜をセラミックス基材に融着させた。融着した電熱被膜の厚さは60〜80μm。
結果を表4(希土類元素の溶け出し量と融着温度の関係)に示す。
なお皮膜のボイドは超音波顕微鏡で検査した。
【0058】
【表4】

結果
Si−Ni系合金は、1200℃、1330℃、Si−Fe系合金は、1210℃、1310℃、上下いずれの温度でも被膜は融着したが、融着温度が低い時は、Yの溶け出し量が少なく、焼結不足で、ボイドが極めて多い被膜であった。
【0059】
実施例4
工程数と融着皮膜の密着性、健全性の関係のテスト
セラミックス基材:
焼結助剤を含まない窒化アルミニウム板(製造元:古河電子(株))および実施例1の焼結助剤としてY2O3を5wt%含む窒化アルミニウム板(製造元:(株)トクヤマ)を使用して、Si合金の融着工程を2回に分けて行った時の融着電熱被膜の密着性、健全性について調べた。
【0060】
すなわち焼結助剤を含まない窒化アルミニウム板および焼結助剤としてY2O3を5wt%含む窒化アルミニウム板に対して、
最初の工程では、0.2重量%未満のBを含むSi合金からなる被膜の第一の層を融着させた後、二回目の工程で、0.2量%を越えるBを含むSi合金の被膜を第一の層の上に重ねて融着、融合させて、第一層、第二層融合後のB含有量が0.2重量%以上になるように調整した。
焼結助剤としてY2O3を5wt%含む窒化アルミニウム板に対しては融合後の電熱被膜の中に基材のYを0.1重量%以上に溶出させた。
なお第一層と第二層の被膜の重量割合は1:1である。
【0061】
被膜の印刷と融着
第一層被膜成分のSi合金の原料粉末のペーストに、PVPのアルコール溶液を混ぜて印刷用のペーストを作製し、上記セラミックス基材の表面に、全面ベタ塗りでスクリーン印刷し、乾燥後、10-5トールの真空中で加熱して、第一層被膜をセラミックス基材に融着させた後、再び第二層被膜成分のSi合金の原料粉末ペーストを上記第一層の被膜表面に、全面ベタ塗りでスクリーン印刷し、乾燥後、10-5トールの真空中で加熱して、第二層被膜を溶かして、第一、第二層を融合させてセラミックス基材に融着させた。
皮膜の密着性は、被膜にガムテープを貼り付けて引き剥がしテストで調べた。
皮膜の健全性(ボイド)は超音波顕微鏡で調べた。
融着した電熱被膜の厚さは100〜120μm。
結果(工程数と融着皮膜の密着性、健全性の関係)を表5、表6に示す。
表5は、焼結助剤を含まない窒化アルミニウム板についての結果、表6は焼結助剤としてY2O3を5wt%含む窒化アルミニウム板についての結果である。
【0062】
【表5】

結果
焼結助剤を含まない窒化アルミニウム板でも、密着強度が大で、ボイドの少ない健全皮膜が融着できることを確認できた。
【0063】
【表6】

結果
Y2O3を5wt%含む窒化アルミニウム板では、融着工程を2回に分け、併せてYが十分に溶け出した被膜は、密着性良好で、ボイドは極めて少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
半導体を高温(800℃以上)で加熱する窒化アルミニウム面状発熱体に好適に
使用でき、半導体加熱用途に多くの需要が見込める。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は実施例の電熱回路被膜の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素化合物の焼結助剤を酸化物換算で1重量%以上含む窒化アルミニウムセラミックス基材の表面に、0.2重量%以上のBを含むSi合金からなる電熱被膜が融着した構造の電熱被膜の融着体であって、該被膜中に、該セラミックス基材の焼結助剤の希土類元素化合物を供給源とする希土類元素が0.1重量%以上含まれてなることを特徴とする電熱被膜融着体。
【請求項2】
0.2重量%以上のBを含むSi合金からなる電熱被膜を窒化アルミニウムセラミックス基材の表面に融着させるに際して、該基材として希土類元素化合物の焼結助剤を酸化物換算で1重量%以上含む窒化アルミニウムセラミックスを使用し、かつ該電熱被膜の中に、該基材の希土類元素化合物を供給源する希土類元素成分を該被膜の0.1重量%以上溶出させることを特徴とする電熱被膜融着方法。
【請求項3】
上記電熱皮膜を窒化アルミニウムセラミックス基材の表面に融着させるに際して、
該基材に0.2重量%未満のBを含むSi合金からなる電熱被膜の第一の層を融着させた後、該融着層のBが0.2重量%以上になるように濃化処理を行うことを特徴とする請求項2に記載の電熱被膜融着方法。
【請求項4】
希土類元素化合物の焼結助剤を酸化物換算で1重量%未満含む窒化アルミニウムセラミックス基材あるいは焼結助剤を含まない窒化アルミニウムセラミックス基材の表面に、0.2重量%以上のBを含むSi合金からなる電熱被膜を融着させるに際して、該基材に0.2重量%未満のBを含むSi合金からなる電熱被膜の第一の層を融着させた後、該融着層のBが0.2重量%以上になるように濃化処理を行うことを特徴とする電熱被膜融着方法。
【請求項5】
上記濃化処理の方法が、上記第一の層の上に少なくとも一層あるいは複数層、Si合金の被膜を重ねて融着、融合させて、該第一の層と該重ねた層の融合層のB含有量が0.2重量%以上になるように、該重ねた層のB含有量を調整して融着させる方法である請求項3〜4のいずれか1項に記載の電熱被膜融着方法。
【請求項6】
上記Si合金が、Siを主成分とし、A群の中から選択された一種あるいは二種以上の元素と、B群の中から選択された一種あるいは二種以上の元素と、C群の元素と、残余不純物成分からなる合金であることを特徴とする請求項1に記載の電熱被膜融着体。
A群の元素:Fe,Ni,Co,Zr,Ti,Cr,Mo,W
B群の元素:Hf,Nb,Ta,V, Mn,Cu,Al,Ge
C群の元素:B,希土類元素
A群元素の成分範囲 :6〜65重量%
B群元素の成分範囲 :0〜10重量%
C群元素の成分範囲 :B≧0.2重量%,希土類元素≧0.1重量%


【図1】
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【公開番号】特開2008−277285(P2008−277285A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89063(P2008−89063)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(398074038)株式会社材研 (8)
【Fターム(参考)】