電界電子放出素子及びその製造方法
【課題】素子作成工程が単純であり、機械的、電気的に安定な冷陰極電界電子放出素子を提供する。
【解決手段】本発明は、SiC結晶基板の上に金属膜を堆積させ、加熱処理し、SiCと金属を反応させて形成した金属シリサイドと、この反応プロセスでSiCとの反応にあずからないカーボンをグラファイト状クラスターとして金属シリサイド内或いは最表面層に析出させて作成した表層構造物からなり、この表層構造物を冷陰極電子放出素子として機能させると共に、SiC基板を電極として機能させる。
【解決手段】本発明は、SiC結晶基板の上に金属膜を堆積させ、加熱処理し、SiCと金属を反応させて形成した金属シリサイドと、この反応プロセスでSiCとの反応にあずからないカーボンをグラファイト状クラスターとして金属シリサイド内或いは最表面層に析出させて作成した表層構造物からなり、この表層構造物を冷陰極電子放出素子として機能させると共に、SiC基板を電極として機能させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンカーバイト上に形成されたグラファイト・金属シリサイド複合構造により構成した電界電子放出素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素系材料は、仕事関数が金属に比べて小さいことから電子源材料として利用することが検討されている。中でも、ダイヤモンドは負の電子親和力を持つことから低電圧駆動可能な冷陰極材料として期待されている(特許文献1参照)。しかし、現状ではダイヤモンドの大面積成膜技術が確立しておらず、フィールドエミッションディスプレイ用や大電流用の電子源としての利用は困難である。またダイヤモンドライクカーボンは大面積に成膜することが可能であり、成膜装置も市販されている。しかし、ダイヤモンドライクカーボンは一般的に、200℃以上の熱には弱く、真空封止や半導体プロセス等の400℃以上の加熱を必要とする製造プロセスには適さないという問題点がある。カーボンナノチューブは、プリント法により大面積の成膜が可能であるが、基板との密着性が十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−95478号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】R. C. Smith et al.、 J. Vac. Sci. Technol. B26 (2008) 842-846
【非特許文献2】Y. Tsuchiya et al.、 Jpn. J. Appl. Phys. 47 (2008) 8321-8327
【非特許文献3】F.Tuinstra and J.L. Koenig、J.Chem.Phys.53、1126-1130(1970)
【非特許文献4】R.Fujii et al., Vacuum 80, 832-835(2006)
【非特許文献5】T. Yamada et al. Applied Physics Letters 87,(2005) 234107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、係る問題点を解決して、素子作成工程が単純であり、機械的、電気的に安定な冷陰極電界電子放出素子を提供することを目的としている。
【0006】
本発明者らは、従来の炭素系材料での問題点を克服するために、シリコンカーバイト上に形成されたグラファイト・金属シリサイド複合構造を電子源に用いることを検討した。これまで、シリコンカーバイト上に形成されたグラファイト・金属シリサイド複合構造を電子源に用いた先行例はなく、また電界電子放出特性の評価もこれまでに行われていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電界電子放出素子及びその製造方法は、高温でSiCと金属を固相反応させた場合、金属シリサイドのみが形成されて、金属カーバイドが形成されない金属元素を選択し、SiC基板の上に上記金属元素の膜を堆積させ、加熱処理し、SiCと金属を反応させて金属シリサイドを形成する。またこの反応プロセスで金属膜との反応にあずからないカーボンをグラファイト状クラスターとして、金属シリサイドの少なくとも最表面層に析出させた表層構造物を作成し、この表層構造物を電子放出素子(エミッター)として機能させる。
【0008】
金属膜としてNiなどの金属を用い、かつ高温におけるこの金属とSiCとの反応過程でシリサイドのみを優先的に形成し、カーバイドを形成せずに、遊離カーボンを生成せしめる。表層構造物の表面層にグラファイト微粒子の集合体から形成されるクラスターと金属クラスターが絡み合ってSiC上に分布し、グラファイトと金属シリサイドが密着して存在する。金属シリサイドとグラファイト状クラスターが入り交じり、不均一的な空間分布をしていて、グラファイト状クラスターが表面層に高い濃度で存在する。
【0009】
高温でSiC とNiを反応させる過程でSiCとNiシリサイドのオーミックコンタクトを形成させ、コンタクト抵抗とNiシリサイドの抵抗率を低減することができる。また金属膜堆積の前段階で、イオン注入によって表面層をアモルファス化し、注入後堆積させた金属とSiCの反応を促進させることができる。
【0010】
エミッターの保持台として機能するSiC基板の裏面に成膜した裏面金属膜を電子注入用の電極として用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
シリコンカーバイト上に形成されたグラファイト・金属シリサイド複合構造は製造工程で700℃以上の熱処理を行うために、耐熱性に問題はなく、既存プロセスで大面積も可能である。また、グラファイト・金属シリサイド複合構造は化学的結合が強く、強酸処理にも十分に耐久性がある。
【0012】
本発明者らは、シリコンカーバイト上に形成されたグラファイト・金属シリサイド複合構造からの電界電子放出特性を評価し、炭素系材料では優れた電界電子放出特性を示すダイヤモンドと比較し、ダイヤモンドと遜色ない電界電子放出特性を見いだした。また、ナノ構造を考えた場合、0.6〜1.2V/μmのしきい値電界が見積もられ、活発に研究されているカーボンナノチューブと同程度もしくはそれ以下のしきい値電界が期待される。
【0013】
図1に示すように、グラファイト・シリサイド複合構造エミッターの表面構造は平滑なものではなく、平坦度(RMS)が数百nm〜サブミクロンの凹凸を有している。またグラファイト・シリサイドの複合構造において、金属シリサイドおよびグラファイトは不均一に分布しており、金属シリサイドはグラファイト状クラスターと密接に接触してこれを保持し、機械的に補強して、グラファイトの変形を妨げ、経時変化を防ぐ構成になっている。従ってSiC上の複合構造膜がクラックを起こす、或いはグラファイトが剥離する事は起こらない。
【0014】
グラファイト状クラスターを含有するNiシリサイドは比抵抗が極めて低く(10-6-10-7Ωcm)、従って本構造の素子を電子放出素子として用いる際に、エミッターと基板の間の直列抵抗が非常に低いため、抵抗部での電圧降下が小さく、電力損失が少なく、従って動作中の素子の発熱が押さえられる。グラファイトの仕事関数は〜4eVと低いため冷陰極電子エミッターとして用いられる事が多い。本発明の電子エミッター素子は、陰極の一部或いは大部分をグラファイトで終端しているため、電界電子放出効率が大きくなっている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】グラファイト・シリサイド複合構造電子放出素子作成プロセスを説明する図
【図2】電界電子放出特性1を示す図
【図3】光学顕微鏡による表面形状の表面観察写真1を示す図
【図4】電界電子放出特性2を示す図
【図5】表面観察写真2を示す図
【図6】電界電子放出特性3を示す図
【図7】表面観察写真3を示す図
【図8】電界電子放出特性4を示す図
【図9】Fowler-Nordheimプロットを示す図
【図10】電界電子放出特性5を示す図
【図11】ラマンスペクトルの測定結果を示す図
【図12】140 cm-1のNiシリサイドバンド、1360 cm-1のDバンドの強度分布を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、例示に基づき本発明を説明する。図1は、グラファイト・シリサイド複合構造電子放出素子の作成プロセスを説明する図である。
(金属蒸着)
(0001)面を持つ4H-SiC基板を鏡面研磨し、犠牲酸化を行った後、酸化膜を除去し、その表面に真空蒸着法、スパッター法等で約100nm厚のニッケル膜(金属膜)を堆積させた。以下、SiC基板として、低抵抗(n型不純物濃度:5x1018cm-3)のn-SiCを例として説明するが、不純物濃度の大小は電子放出素子の放射効率にはほとんど影響を及ぼさない。
(高温熱処理)
高温でSiCと金属を固相反応させた場合、金属シリサイドのみが形成され、金属カーバイドが形成されない金属(遷移金属)元素を選択する。この遷移金属として、例示のニッケルNi以外にも、Co、Pt、Mn、Nb、Cr、Ta、V、Ti、TaC、NbC、Cr3C2、VCが存在することが知られている(非特許文献4参照)。この金属膜をSiC上に堆積させた後、高温(温度領域:700-1100℃)に昇温し、SiCと反応させ、金属シリサイドをSiC上に形成させる。例えば、NiとSiCの反応式は
Ni + (1/2)SiC = (1/2)Ni2Si +(1/2)C (1)
Ni + SiC = NiSi + C (2)
Ni + 2SiC = NiSi2+2C (3)
と表され、いずれの過程においてもNiシリサイドが生成され、カーボンはSiCと反応せず、カーボン単独で存在する。この過程において、SiCとの反応にあずからないカーボンは遊離しグラファイト状構造の析出物として、一部は金属シリサイド膜内に埋め込まれ、また一部はシリサイド膜の表面にグラファイト状クラスターとして露呈する。このグラファイト析出物が素子の電子放出開始電圧の低下と電子放出効率の増強に顕著な役割を果たしている。
【0017】
遷移金属膜の一例としてニッケル膜を堆積させた後、700〜1050℃の温度領域で加熱炉に挿入し、30秒から10分の時間熱処理を行った。SiC基板の面方位は(0001)(Si)面としたが、(000-1)(C)面でも良いし、a-面であっても良い。さらにオフ角基板であっても問題ない。Ni蒸着膜の厚さは表面が比較的平滑な面になる厚さ100 nmを選んだが、もっと厚くても良い。ただし、Ni膜厚が厚くなった場合には、熱処理時間を長くする必要が有る。
【0018】
これによって、シリコンカーバイド(4H-SiC、6H-SiC、 15R-SiC、3C-SiCなど ポリタイプの種類を問わない)上に堆積させたニッケル膜を高温でSiCと反応させ、ニッケルシリサイド、およびこのプロセスでSiCとの反応にあずからないカーボンをグラファイト状クラスターとして、シリサイド内或いは最表面層に析出させた構造物を作成し、低電子放出電圧を有する電子放出素子を得ることができた。
【0019】
遷移金属膜としてのNiは、高温におけるこの金属とSiCとの反応過程でシリサイドのみを優先的に形成し、カーバイドを形成せずに、遊離カーボンを生成せしめることができる。表面層にグラファイト微粒子の集合体から形成されるクラスターと金属クラスターが絡み合ってSiC上に分布し、グラファイトと金属シリサイドが密着して存在する事によって、機械的に補強される構造を有する。ラマンマップから得られた平均クラスターサイズは数ミクロンから10ミクロンの領域にある。
【0020】
Niシリサイドとグラファイト状クラスターが入り交じり、不均一的な空間分布をしており、特にグラファイト状クラスターが表面層に高い濃度で存在する。高温でSiC とNiを反応させる過程でSiCとNiシリサイド(Ni2Si、 NiSi、 NiSi2など)のコンタクトが生じる。(800 ℃)以上の比較的高温で熱処理し、オーミックコンタクトを形成させコンタクト抵抗を低減した。可視のレーザー励起によるラマンスペクトルは〜1360 cm-1および〜1580cm-1にそれぞれグラファイトのDバンド、Gバンドを示し、かつ500 cm-1 以下の波数領域にNiシリサイドに起因するラマンバンドを有し、かつDおよびGバンドの強度がNiシリサイドバンドの強度に比して充分に強い。Ni膜堆積の前段階で、高ドーズのイオン注入によって表面層をアモルファス化させた場合、注入後堆積させたNi金属とSiCの反応が促進され、Niシリサイド・グラファイト複合構造を高速で形成させることができる。
(熱処理温度の上限)
シリサイド・グラファイト複合構造電子エミッターの製造工程でNi/Siの熱処理温度を増加させた場合、グラファイトの結晶性の向上、電子放出開始電圧の低下が、ラマン測定、電子放出特性の測定から確認できた。この熱処理温度はいくら高くても良い訳ではない。(1)高温処理では酸化の影響が表れる、(2)処理温度がさらに高くなるとシリサイドはSiリッチの組成のものが増すため、比抵抗が高くなる。また基板SiC の欠陥が増殖する、等の理由で熱処理温度の上限が決まる。
(イオン注入効果)
エミッター素子の作成過程で、Ni金属堆積の前に、SiC に1020 cm-3程度のPイオンを100nm深さまで注入し、表面をアモルファス化した。その後Niを堆積させ、600-1100 ℃の温度領域における熱処理によってシリサイドと遊離カーボンをSiC上に生成した。ラマンスペクトル測定で、イオン注入した試料と非注入試料を比べた。低い熱処理温度でもグラファイトのGバンドと Dバンドの強度比L=4.4 IG/IDが、注入試料の方が非注入試料に比べて大きく、グラファイトの結晶粒が大きくなっている事を示している。この理由は注入した試料ではS-Cのボンドが損傷によって切れているため、シリサイド生成反応が非注入試料に比べ早く起こるためと考えられる。さらに注入試料では格子欠陥の存在のため、ニッケル原子の拡散が早く、シリサイド生成、遊離カーボンの生成が早くなるためと説明される。
(裏面電極形成)
冷陰極電子放出素子(エミッター)として機能する部分は、シリサイドとグラファイトの複合物(シート)であって、SiC基板は最終的には支持台と電極として利用することができる。エミッターとSiC基板により、カソード(電界電子放出素子)が構成される。低抵抗のSiCを用いた場合は、このSiCの裏面をAlやTiなどで成膜(蒸着)して電子注入電極として用いても良い。しかしSiC 基板の抵抗が高い場合、裏面電極を電子注入電極として用いないで、抵抗の低い金属シリサイド・グラファイト上に部分的に金属導体膜を形成し、これを電極として用いる事もできる。
【実施例】
【0021】
[電界電子放出特性−基板SiCとの比較]
電界電子放出特性の測定は、高真空装置内に、試料(Niシリサイド)をカソードとして設置し、アノード電圧を増加した際に観測されるエミッション電流を測定した。アノードには、直径20μmの半球状に加工したタングステンカーバイト(WC)を用いて、局所的な電界電子放出特性を評価した。アノードとエミッター素子表面の距離を5μmとした。測定時の真空装置の真空度は1×10-9Torr程度である。比較として、同一面内のNiを成膜していないSiC表面からの電界電子放出特性も同一条件下で測定した。
【0022】
電界電子放出特性1を図2に示す。アノード電圧が3000V程度から、エミッション電流が観測された。一方、SiC表面では、5000Vのアノード電圧を印加した際にも、エミッション電流が観測されず、測定器のノイズレベルであった。電界電子放出のしきい値電界は、アノード-試料間距離を考慮すると、600V/μmと見積もられる。この電界は、近年盛んに研究が行われているカーボンナノチューブの場合のしきい値電界である1V/μm程度以下に比べて2桁大きな値となった。一般的に電界電子放出特性は、表面の形状に依存するため、実デバイスでは、針状やコーン形状を形成することで、実際の印加電界を小さくしている。このため、表面形状により表面近傍の電界強度を増強させる電界集中係数は、カーボンナノチューブの場合およそ500〜1000となる(非特許文献1参照)。本実施例では、針状やコーン形状を形成していないため、実際にカーボンナノチューブと同様の構造を有するグラファイト・金属シリサイド複合構造電子源を考えた場合、実施例のしきい値電界である600V/μmの1/500〜1/1000程度の電界で電界電子放出が開始される計算となる。つまり、0.6〜1.2V/μmのしきい値電界が期待できることになる。
【0023】
[電界電子放出特性−熱処理温度依存性1−]
試料作製時の熱処理温度の効果を調べるために、熱処理後の電界電子放出特性を評価した。熱処理条件は、アルゴンガス雰囲気中で、30秒から10分間とした。熱処理温度は、700、800、900、1000℃とした。電界電子放出の測定前に、光学顕微鏡により表面形状を観察した。図3の表面観察写真1に示すように、表面形状には大きな違いが見られなかった。つまり1000C 以下の熱処理温度に対しては、電界電子放出の支配要因である形状因子には違いがないものと考えられる。
【0024】
電界電子放出特性2を図4に示す。熱処理温度が高くなるにつれて、しきい値電圧が低電圧化することが分かる。1000℃の熱処理後には、しきい値電圧が1800V程度にまで低減できた。電極間距離を考慮すると、360V/μmの電界になる。
【0025】
[電界電子放出特性−熱処理温度依存性2−]
次に、さらに高い温度での熱処理により熱処理の効果を調べた。熱処理条件は、窒素ガス雰囲気中で、30秒から10分間、熱処理温度は、1000、1100、1200℃とした。電界電子放出の測定前に、光学顕微鏡により表面形状を観察した。図5の表面観察写真2に示すように、表面形状は熱処理温度に大きく依存することがわかり、熱処理温度が高くなるにつれて、凹凸が多くなっている。この結果は、表面形状因子が全て異なることを意味しており、1200℃の熱処理後には電界集中係数が最も大きい事が、図6の電界電子放出特性3から分かる。つまり熱処理温度が高くなるにつれて、しきい値電圧が低電圧化することがわかった。この変化の理由の一つに、電界集中係数の増大が考えられる。
【0026】
また、この結果は熱処理温度の増大とともにグラファイトの結晶性が良くなり、仕事関数も小さくなる事を示唆している。カーボン膜からの電子放出測定で、アモルファス状態から結晶性が増大するにつれ、電子放出効率が増大することはよく知られている。さらに熱処理温度の増大はSiCとNiとの界面で発生する遊離カーボンの拡散を促進し、カーボンが最表面に露呈する役割を果たす。
【0027】
[電界電子放出特性−グラファイト除去の影響]
グラファイト・金属シリサイド複合構造のグラファイト状クラスターの影響を調べるために、水素シンター(ここでは熱処理炉で400℃程度の水素熱処理をした後、フッ酸に浸漬する処理を意味する。以下同様)処理前後の試料の電界電子放出特性の評価を行った。水素シンター後では、グラファイト状クラスターの被覆率が減少していることがラマン分光法により確認されている。図7の表面観察写真3に、走査型電子顕微鏡で観察した表面形状を示す。水素シンター前後で、表面形態に大きな違いが見られない。このことから、形状因子は水素シンター前後では変化していないことがわかる。
【0028】
電界電子放出特性4を示す図8に見られるように、水素シンター処理を行なうことで、しきい値電圧が高電圧側にシフトした。この結果は、グラファイト状クラスターの被覆率が下がったことによる高電圧化であると考えられる。図9に、Fowler-Nordheimプロットを示す。いずれも、負の傾きを示す直線で近似され、得られた特性は量子力学的トンネル効果で説明される。Fowler-Nordheimプロットの傾き(Δ)と、実効的電位障壁(Φ)の間には、次の関係式がある。
【0029】
Δ∝Φ3/2
つまり、傾きを比較することで、実効的な電位障壁比を見積もることができる。水素シンター処理後に実効的な電位障壁が1.2倍になった。ダイヤモンドライクカーボンの仕事関数が3.5〜4eVであるので、この値を水素シンター前の実効的障壁高さと考える。水素シンター後には、実効的電位障壁が4.2〜4.8eVにまで大きくなったことを示している。水素シンター後の実効的電位障壁は、非特許文献2で報告されているニッケルシリサイドの実効的仕事関数とほぼ同程度である。つまり、水素シンター処理により、炭素クラスター成分が減少したために、しきい値電圧が高電圧側にシフトしたことがわかった。
【0030】
[電界電子放出特性−ダイヤモンドとの比較−]
グラファイト・金属シリサイド複合構造の優位性を調べるために、n型リン添加ダイヤモンドからの電界電子放出特性と比較した。n型リン添加ダイヤモンドは、マイクロ波プラズマCVD装置で合成された。合成時の反応槽内の炭素に対するリンの濃度1%で合成した、高濃度リン添加ホモエピタキシャルダイヤモンド薄膜(111)を用いた。電子放出前に、表面を酸素終端構造にし、正の電子親和力表面を形成した。この場合の、実効的な電位障壁は1.5〜1.7eVである(非特許文献5参照)。表面凹凸は、グラファイト・金属シリサイド複合構造とほぼ同等である。電界電子放出特性5は、図10に示すように、しきい値電圧がダイヤモンドとグラファイト・金属シリサイド複合構造に対して、ほぼ同じであることが確認された。
【0031】
SiC上に堆積する際にNi膜の厚さをnmオーダーに止め、この膜を高温熱処理するとNiシリサイドがアイランド状に成長する。この過程の後、再びNi膜を数百nm堆積させ、再度熱処理を行うと、より不均一で凹凸の激しいNiシリサイドおよびグラファイト膜を形成でき、これによって、電界集中を引き起こし、電界放出効率を増大することができる。
【0032】
[ラマン測定によるグラファイトの構造評価]
1050℃の熱処理で作成した複合構造電子放出素子のラマンスペクトルの測定結果を図11に示す。ラマン測定は532nmの固体レーザーを励起光源として測定を行った。500 cm-1 以下の波数領域に、Niシリサイド(Ni2Si、NiSi、 NiSi2など)のラマンスペクトルが観測される。(図11で横軸は波数表示でのラマン振動数、縦軸はラマン線強度でスケールは任意)また778 cm-1と945 cm-1近傍に4H-SiC基板のTO、LOバンドが観測される。さらに〜1360 cm-1、と 1580 cm-1近くに、強く比較的シャープなグラファイト構造のDおよびGバンドが観測される。D バンドの存在はこのグラファイトがグラファイトの微結晶粒(grain)の集合体(クラスター)である事を示唆している。グラファイト微結晶に対して、微粒子の径をLとし、Dバンド、 Gバンドのラマン強度をそれぞれID、IGとしたとき、微粒子径LはL= 4.4(IG/ID) nmで与えられる [非特許文献3]。この式を用いて推定したグラファイトの微粒子の平均粒径は4〜8nmであった。この粒径は熱処理温度に依存していて、温度を上げていくと強度比IG/IDから求めた粒径は増大する。D、Gバンドの半値幅は熱処置温度の増加に伴い若干小さくなるので、グラファイトの結晶性も良くなってくる事が分かる。
【0033】
一方熱処理温度が低い場合には、未反応のNi金属が残存するようになる。また、600℃以下の低い熱処理温度では、Ni金属とSiCとはショットキー障壁が形成され、コンタクト抵抗が高くなってしまう。600℃以上の高温処理の場合にはオーミックコンタクトが形成され、1000℃のコンタクト抵抗は5x10-6〜1x 10-7 cm2 まで低下する。
【0034】
ラマンスペクトルにはグラファイトから生じるバンド、基板4H-SiCからの信号に加えてNiシリサイドのラマンバンドが観測される。100および140 cm-1のバンドはNi2Si相に由来するもので、〜195、〜217 cm-1に観測されるバンドはNiSiからの信号である。このシリサイドのラマンバンドはグラファイトのバンドと異なって、あまり熱処理温度に敏感でない。それに対してグラファイトのD、Gバンドの強度や半値幅に熱処理温度依存性が見られる。
【0035】
このラマンスペクトル測定で、グラファイト、シリサイドのラマンスペクトルに加えて基板SiCからのラマン信号が観測される。このことはラマン散乱励起レーザー光がSiC基板まで到達しており、基板の上層部に存在するグラファイト、シリサイド層の信号が充分に検知されているためと説明される。
【0036】
熱処理温度を変えた素子表面のラマンスペクトルを測定した。処理温度によってDバンドとGバンドの強度比が変化する事は既に記述したが、D、Gバンドの強度もやはり変化し、熱処理温度の増加と共にこれらのバンドの強度が増加した。この結果は遊離したグラファイト状クラスターが、処理温度が高くなるにつれ拡散によって表面層に集まってくる事を示している。
【0037】
[ラマンマップ測定とグラファイト、シリサイドの空間分布]
顕微鏡下で試料のラマン測定を行った際に、試料をx-yステージ上に保持し、ステージをx、y方向に掃引しながらラマン測定をする事によってラマンマップが得られる。電界電子放出素子をx−yステージに保持し、1ミクロンステップでx、y方向に移動させながら、素子表面のラマンスペクトルのマッピングを行った。
【0038】
図12に140 cm-1のNiシリサイドバンド、1360 cm-1のDバンドの強度分布が示されている。両者とも強度は空間的に一様ではなく、強度の強弱は平均数ミクロンから十ミクロンのスケールで分布している。さらにこの二者の強度分布には正、または負の強い相関が見られなかった。この結果はグラファイト及びシリサイド微粒子から形成されるクラスターが横方向のみならず深さ方向にも不均一な分布をしている。グラファイトおよびNiシリサイドはクラスター状になっており、乱雑な空間分布をしている事を示している。
【0039】
断面TEM測定、EDX測定ではラマン測定と同様にグラファイト及びシリサイドが空間的に不均一に分布していることが分かった。このTEM、EDX測定の結果はグラファイト、シリサイドクラスターの形状が球形ではなく、膜に沿って扁平な層状形状で分布していることを示した。Niシリサイド・グラファイト複合構造のラマン測定、TEM測定、EDX 測定から推定されるシリサイドとグラファイト状クラスターの空間分布に対する模式図を上述の図1に示した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンカーバイト上に形成されたグラファイト・金属シリサイド複合構造により構成した電界電子放出素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素系材料は、仕事関数が金属に比べて小さいことから電子源材料として利用することが検討されている。中でも、ダイヤモンドは負の電子親和力を持つことから低電圧駆動可能な冷陰極材料として期待されている(特許文献1参照)。しかし、現状ではダイヤモンドの大面積成膜技術が確立しておらず、フィールドエミッションディスプレイ用や大電流用の電子源としての利用は困難である。またダイヤモンドライクカーボンは大面積に成膜することが可能であり、成膜装置も市販されている。しかし、ダイヤモンドライクカーボンは一般的に、200℃以上の熱には弱く、真空封止や半導体プロセス等の400℃以上の加熱を必要とする製造プロセスには適さないという問題点がある。カーボンナノチューブは、プリント法により大面積の成膜が可能であるが、基板との密着性が十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−95478号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】R. C. Smith et al.、 J. Vac. Sci. Technol. B26 (2008) 842-846
【非特許文献2】Y. Tsuchiya et al.、 Jpn. J. Appl. Phys. 47 (2008) 8321-8327
【非特許文献3】F.Tuinstra and J.L. Koenig、J.Chem.Phys.53、1126-1130(1970)
【非特許文献4】R.Fujii et al., Vacuum 80, 832-835(2006)
【非特許文献5】T. Yamada et al. Applied Physics Letters 87,(2005) 234107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、係る問題点を解決して、素子作成工程が単純であり、機械的、電気的に安定な冷陰極電界電子放出素子を提供することを目的としている。
【0006】
本発明者らは、従来の炭素系材料での問題点を克服するために、シリコンカーバイト上に形成されたグラファイト・金属シリサイド複合構造を電子源に用いることを検討した。これまで、シリコンカーバイト上に形成されたグラファイト・金属シリサイド複合構造を電子源に用いた先行例はなく、また電界電子放出特性の評価もこれまでに行われていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電界電子放出素子及びその製造方法は、高温でSiCと金属を固相反応させた場合、金属シリサイドのみが形成されて、金属カーバイドが形成されない金属元素を選択し、SiC基板の上に上記金属元素の膜を堆積させ、加熱処理し、SiCと金属を反応させて金属シリサイドを形成する。またこの反応プロセスで金属膜との反応にあずからないカーボンをグラファイト状クラスターとして、金属シリサイドの少なくとも最表面層に析出させた表層構造物を作成し、この表層構造物を電子放出素子(エミッター)として機能させる。
【0008】
金属膜としてNiなどの金属を用い、かつ高温におけるこの金属とSiCとの反応過程でシリサイドのみを優先的に形成し、カーバイドを形成せずに、遊離カーボンを生成せしめる。表層構造物の表面層にグラファイト微粒子の集合体から形成されるクラスターと金属クラスターが絡み合ってSiC上に分布し、グラファイトと金属シリサイドが密着して存在する。金属シリサイドとグラファイト状クラスターが入り交じり、不均一的な空間分布をしていて、グラファイト状クラスターが表面層に高い濃度で存在する。
【0009】
高温でSiC とNiを反応させる過程でSiCとNiシリサイドのオーミックコンタクトを形成させ、コンタクト抵抗とNiシリサイドの抵抗率を低減することができる。また金属膜堆積の前段階で、イオン注入によって表面層をアモルファス化し、注入後堆積させた金属とSiCの反応を促進させることができる。
【0010】
エミッターの保持台として機能するSiC基板の裏面に成膜した裏面金属膜を電子注入用の電極として用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
シリコンカーバイト上に形成されたグラファイト・金属シリサイド複合構造は製造工程で700℃以上の熱処理を行うために、耐熱性に問題はなく、既存プロセスで大面積も可能である。また、グラファイト・金属シリサイド複合構造は化学的結合が強く、強酸処理にも十分に耐久性がある。
【0012】
本発明者らは、シリコンカーバイト上に形成されたグラファイト・金属シリサイド複合構造からの電界電子放出特性を評価し、炭素系材料では優れた電界電子放出特性を示すダイヤモンドと比較し、ダイヤモンドと遜色ない電界電子放出特性を見いだした。また、ナノ構造を考えた場合、0.6〜1.2V/μmのしきい値電界が見積もられ、活発に研究されているカーボンナノチューブと同程度もしくはそれ以下のしきい値電界が期待される。
【0013】
図1に示すように、グラファイト・シリサイド複合構造エミッターの表面構造は平滑なものではなく、平坦度(RMS)が数百nm〜サブミクロンの凹凸を有している。またグラファイト・シリサイドの複合構造において、金属シリサイドおよびグラファイトは不均一に分布しており、金属シリサイドはグラファイト状クラスターと密接に接触してこれを保持し、機械的に補強して、グラファイトの変形を妨げ、経時変化を防ぐ構成になっている。従ってSiC上の複合構造膜がクラックを起こす、或いはグラファイトが剥離する事は起こらない。
【0014】
グラファイト状クラスターを含有するNiシリサイドは比抵抗が極めて低く(10-6-10-7Ωcm)、従って本構造の素子を電子放出素子として用いる際に、エミッターと基板の間の直列抵抗が非常に低いため、抵抗部での電圧降下が小さく、電力損失が少なく、従って動作中の素子の発熱が押さえられる。グラファイトの仕事関数は〜4eVと低いため冷陰極電子エミッターとして用いられる事が多い。本発明の電子エミッター素子は、陰極の一部或いは大部分をグラファイトで終端しているため、電界電子放出効率が大きくなっている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】グラファイト・シリサイド複合構造電子放出素子作成プロセスを説明する図
【図2】電界電子放出特性1を示す図
【図3】光学顕微鏡による表面形状の表面観察写真1を示す図
【図4】電界電子放出特性2を示す図
【図5】表面観察写真2を示す図
【図6】電界電子放出特性3を示す図
【図7】表面観察写真3を示す図
【図8】電界電子放出特性4を示す図
【図9】Fowler-Nordheimプロットを示す図
【図10】電界電子放出特性5を示す図
【図11】ラマンスペクトルの測定結果を示す図
【図12】140 cm-1のNiシリサイドバンド、1360 cm-1のDバンドの強度分布を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、例示に基づき本発明を説明する。図1は、グラファイト・シリサイド複合構造電子放出素子の作成プロセスを説明する図である。
(金属蒸着)
(0001)面を持つ4H-SiC基板を鏡面研磨し、犠牲酸化を行った後、酸化膜を除去し、その表面に真空蒸着法、スパッター法等で約100nm厚のニッケル膜(金属膜)を堆積させた。以下、SiC基板として、低抵抗(n型不純物濃度:5x1018cm-3)のn-SiCを例として説明するが、不純物濃度の大小は電子放出素子の放射効率にはほとんど影響を及ぼさない。
(高温熱処理)
高温でSiCと金属を固相反応させた場合、金属シリサイドのみが形成され、金属カーバイドが形成されない金属(遷移金属)元素を選択する。この遷移金属として、例示のニッケルNi以外にも、Co、Pt、Mn、Nb、Cr、Ta、V、Ti、TaC、NbC、Cr3C2、VCが存在することが知られている(非特許文献4参照)。この金属膜をSiC上に堆積させた後、高温(温度領域:700-1100℃)に昇温し、SiCと反応させ、金属シリサイドをSiC上に形成させる。例えば、NiとSiCの反応式は
Ni + (1/2)SiC = (1/2)Ni2Si +(1/2)C (1)
Ni + SiC = NiSi + C (2)
Ni + 2SiC = NiSi2+2C (3)
と表され、いずれの過程においてもNiシリサイドが生成され、カーボンはSiCと反応せず、カーボン単独で存在する。この過程において、SiCとの反応にあずからないカーボンは遊離しグラファイト状構造の析出物として、一部は金属シリサイド膜内に埋め込まれ、また一部はシリサイド膜の表面にグラファイト状クラスターとして露呈する。このグラファイト析出物が素子の電子放出開始電圧の低下と電子放出効率の増強に顕著な役割を果たしている。
【0017】
遷移金属膜の一例としてニッケル膜を堆積させた後、700〜1050℃の温度領域で加熱炉に挿入し、30秒から10分の時間熱処理を行った。SiC基板の面方位は(0001)(Si)面としたが、(000-1)(C)面でも良いし、a-面であっても良い。さらにオフ角基板であっても問題ない。Ni蒸着膜の厚さは表面が比較的平滑な面になる厚さ100 nmを選んだが、もっと厚くても良い。ただし、Ni膜厚が厚くなった場合には、熱処理時間を長くする必要が有る。
【0018】
これによって、シリコンカーバイド(4H-SiC、6H-SiC、 15R-SiC、3C-SiCなど ポリタイプの種類を問わない)上に堆積させたニッケル膜を高温でSiCと反応させ、ニッケルシリサイド、およびこのプロセスでSiCとの反応にあずからないカーボンをグラファイト状クラスターとして、シリサイド内或いは最表面層に析出させた構造物を作成し、低電子放出電圧を有する電子放出素子を得ることができた。
【0019】
遷移金属膜としてのNiは、高温におけるこの金属とSiCとの反応過程でシリサイドのみを優先的に形成し、カーバイドを形成せずに、遊離カーボンを生成せしめることができる。表面層にグラファイト微粒子の集合体から形成されるクラスターと金属クラスターが絡み合ってSiC上に分布し、グラファイトと金属シリサイドが密着して存在する事によって、機械的に補強される構造を有する。ラマンマップから得られた平均クラスターサイズは数ミクロンから10ミクロンの領域にある。
【0020】
Niシリサイドとグラファイト状クラスターが入り交じり、不均一的な空間分布をしており、特にグラファイト状クラスターが表面層に高い濃度で存在する。高温でSiC とNiを反応させる過程でSiCとNiシリサイド(Ni2Si、 NiSi、 NiSi2など)のコンタクトが生じる。(800 ℃)以上の比較的高温で熱処理し、オーミックコンタクトを形成させコンタクト抵抗を低減した。可視のレーザー励起によるラマンスペクトルは〜1360 cm-1および〜1580cm-1にそれぞれグラファイトのDバンド、Gバンドを示し、かつ500 cm-1 以下の波数領域にNiシリサイドに起因するラマンバンドを有し、かつDおよびGバンドの強度がNiシリサイドバンドの強度に比して充分に強い。Ni膜堆積の前段階で、高ドーズのイオン注入によって表面層をアモルファス化させた場合、注入後堆積させたNi金属とSiCの反応が促進され、Niシリサイド・グラファイト複合構造を高速で形成させることができる。
(熱処理温度の上限)
シリサイド・グラファイト複合構造電子エミッターの製造工程でNi/Siの熱処理温度を増加させた場合、グラファイトの結晶性の向上、電子放出開始電圧の低下が、ラマン測定、電子放出特性の測定から確認できた。この熱処理温度はいくら高くても良い訳ではない。(1)高温処理では酸化の影響が表れる、(2)処理温度がさらに高くなるとシリサイドはSiリッチの組成のものが増すため、比抵抗が高くなる。また基板SiC の欠陥が増殖する、等の理由で熱処理温度の上限が決まる。
(イオン注入効果)
エミッター素子の作成過程で、Ni金属堆積の前に、SiC に1020 cm-3程度のPイオンを100nm深さまで注入し、表面をアモルファス化した。その後Niを堆積させ、600-1100 ℃の温度領域における熱処理によってシリサイドと遊離カーボンをSiC上に生成した。ラマンスペクトル測定で、イオン注入した試料と非注入試料を比べた。低い熱処理温度でもグラファイトのGバンドと Dバンドの強度比L=4.4 IG/IDが、注入試料の方が非注入試料に比べて大きく、グラファイトの結晶粒が大きくなっている事を示している。この理由は注入した試料ではS-Cのボンドが損傷によって切れているため、シリサイド生成反応が非注入試料に比べ早く起こるためと考えられる。さらに注入試料では格子欠陥の存在のため、ニッケル原子の拡散が早く、シリサイド生成、遊離カーボンの生成が早くなるためと説明される。
(裏面電極形成)
冷陰極電子放出素子(エミッター)として機能する部分は、シリサイドとグラファイトの複合物(シート)であって、SiC基板は最終的には支持台と電極として利用することができる。エミッターとSiC基板により、カソード(電界電子放出素子)が構成される。低抵抗のSiCを用いた場合は、このSiCの裏面をAlやTiなどで成膜(蒸着)して電子注入電極として用いても良い。しかしSiC 基板の抵抗が高い場合、裏面電極を電子注入電極として用いないで、抵抗の低い金属シリサイド・グラファイト上に部分的に金属導体膜を形成し、これを電極として用いる事もできる。
【実施例】
【0021】
[電界電子放出特性−基板SiCとの比較]
電界電子放出特性の測定は、高真空装置内に、試料(Niシリサイド)をカソードとして設置し、アノード電圧を増加した際に観測されるエミッション電流を測定した。アノードには、直径20μmの半球状に加工したタングステンカーバイト(WC)を用いて、局所的な電界電子放出特性を評価した。アノードとエミッター素子表面の距離を5μmとした。測定時の真空装置の真空度は1×10-9Torr程度である。比較として、同一面内のNiを成膜していないSiC表面からの電界電子放出特性も同一条件下で測定した。
【0022】
電界電子放出特性1を図2に示す。アノード電圧が3000V程度から、エミッション電流が観測された。一方、SiC表面では、5000Vのアノード電圧を印加した際にも、エミッション電流が観測されず、測定器のノイズレベルであった。電界電子放出のしきい値電界は、アノード-試料間距離を考慮すると、600V/μmと見積もられる。この電界は、近年盛んに研究が行われているカーボンナノチューブの場合のしきい値電界である1V/μm程度以下に比べて2桁大きな値となった。一般的に電界電子放出特性は、表面の形状に依存するため、実デバイスでは、針状やコーン形状を形成することで、実際の印加電界を小さくしている。このため、表面形状により表面近傍の電界強度を増強させる電界集中係数は、カーボンナノチューブの場合およそ500〜1000となる(非特許文献1参照)。本実施例では、針状やコーン形状を形成していないため、実際にカーボンナノチューブと同様の構造を有するグラファイト・金属シリサイド複合構造電子源を考えた場合、実施例のしきい値電界である600V/μmの1/500〜1/1000程度の電界で電界電子放出が開始される計算となる。つまり、0.6〜1.2V/μmのしきい値電界が期待できることになる。
【0023】
[電界電子放出特性−熱処理温度依存性1−]
試料作製時の熱処理温度の効果を調べるために、熱処理後の電界電子放出特性を評価した。熱処理条件は、アルゴンガス雰囲気中で、30秒から10分間とした。熱処理温度は、700、800、900、1000℃とした。電界電子放出の測定前に、光学顕微鏡により表面形状を観察した。図3の表面観察写真1に示すように、表面形状には大きな違いが見られなかった。つまり1000C 以下の熱処理温度に対しては、電界電子放出の支配要因である形状因子には違いがないものと考えられる。
【0024】
電界電子放出特性2を図4に示す。熱処理温度が高くなるにつれて、しきい値電圧が低電圧化することが分かる。1000℃の熱処理後には、しきい値電圧が1800V程度にまで低減できた。電極間距離を考慮すると、360V/μmの電界になる。
【0025】
[電界電子放出特性−熱処理温度依存性2−]
次に、さらに高い温度での熱処理により熱処理の効果を調べた。熱処理条件は、窒素ガス雰囲気中で、30秒から10分間、熱処理温度は、1000、1100、1200℃とした。電界電子放出の測定前に、光学顕微鏡により表面形状を観察した。図5の表面観察写真2に示すように、表面形状は熱処理温度に大きく依存することがわかり、熱処理温度が高くなるにつれて、凹凸が多くなっている。この結果は、表面形状因子が全て異なることを意味しており、1200℃の熱処理後には電界集中係数が最も大きい事が、図6の電界電子放出特性3から分かる。つまり熱処理温度が高くなるにつれて、しきい値電圧が低電圧化することがわかった。この変化の理由の一つに、電界集中係数の増大が考えられる。
【0026】
また、この結果は熱処理温度の増大とともにグラファイトの結晶性が良くなり、仕事関数も小さくなる事を示唆している。カーボン膜からの電子放出測定で、アモルファス状態から結晶性が増大するにつれ、電子放出効率が増大することはよく知られている。さらに熱処理温度の増大はSiCとNiとの界面で発生する遊離カーボンの拡散を促進し、カーボンが最表面に露呈する役割を果たす。
【0027】
[電界電子放出特性−グラファイト除去の影響]
グラファイト・金属シリサイド複合構造のグラファイト状クラスターの影響を調べるために、水素シンター(ここでは熱処理炉で400℃程度の水素熱処理をした後、フッ酸に浸漬する処理を意味する。以下同様)処理前後の試料の電界電子放出特性の評価を行った。水素シンター後では、グラファイト状クラスターの被覆率が減少していることがラマン分光法により確認されている。図7の表面観察写真3に、走査型電子顕微鏡で観察した表面形状を示す。水素シンター前後で、表面形態に大きな違いが見られない。このことから、形状因子は水素シンター前後では変化していないことがわかる。
【0028】
電界電子放出特性4を示す図8に見られるように、水素シンター処理を行なうことで、しきい値電圧が高電圧側にシフトした。この結果は、グラファイト状クラスターの被覆率が下がったことによる高電圧化であると考えられる。図9に、Fowler-Nordheimプロットを示す。いずれも、負の傾きを示す直線で近似され、得られた特性は量子力学的トンネル効果で説明される。Fowler-Nordheimプロットの傾き(Δ)と、実効的電位障壁(Φ)の間には、次の関係式がある。
【0029】
Δ∝Φ3/2
つまり、傾きを比較することで、実効的な電位障壁比を見積もることができる。水素シンター処理後に実効的な電位障壁が1.2倍になった。ダイヤモンドライクカーボンの仕事関数が3.5〜4eVであるので、この値を水素シンター前の実効的障壁高さと考える。水素シンター後には、実効的電位障壁が4.2〜4.8eVにまで大きくなったことを示している。水素シンター後の実効的電位障壁は、非特許文献2で報告されているニッケルシリサイドの実効的仕事関数とほぼ同程度である。つまり、水素シンター処理により、炭素クラスター成分が減少したために、しきい値電圧が高電圧側にシフトしたことがわかった。
【0030】
[電界電子放出特性−ダイヤモンドとの比較−]
グラファイト・金属シリサイド複合構造の優位性を調べるために、n型リン添加ダイヤモンドからの電界電子放出特性と比較した。n型リン添加ダイヤモンドは、マイクロ波プラズマCVD装置で合成された。合成時の反応槽内の炭素に対するリンの濃度1%で合成した、高濃度リン添加ホモエピタキシャルダイヤモンド薄膜(111)を用いた。電子放出前に、表面を酸素終端構造にし、正の電子親和力表面を形成した。この場合の、実効的な電位障壁は1.5〜1.7eVである(非特許文献5参照)。表面凹凸は、グラファイト・金属シリサイド複合構造とほぼ同等である。電界電子放出特性5は、図10に示すように、しきい値電圧がダイヤモンドとグラファイト・金属シリサイド複合構造に対して、ほぼ同じであることが確認された。
【0031】
SiC上に堆積する際にNi膜の厚さをnmオーダーに止め、この膜を高温熱処理するとNiシリサイドがアイランド状に成長する。この過程の後、再びNi膜を数百nm堆積させ、再度熱処理を行うと、より不均一で凹凸の激しいNiシリサイドおよびグラファイト膜を形成でき、これによって、電界集中を引き起こし、電界放出効率を増大することができる。
【0032】
[ラマン測定によるグラファイトの構造評価]
1050℃の熱処理で作成した複合構造電子放出素子のラマンスペクトルの測定結果を図11に示す。ラマン測定は532nmの固体レーザーを励起光源として測定を行った。500 cm-1 以下の波数領域に、Niシリサイド(Ni2Si、NiSi、 NiSi2など)のラマンスペクトルが観測される。(図11で横軸は波数表示でのラマン振動数、縦軸はラマン線強度でスケールは任意)また778 cm-1と945 cm-1近傍に4H-SiC基板のTO、LOバンドが観測される。さらに〜1360 cm-1、と 1580 cm-1近くに、強く比較的シャープなグラファイト構造のDおよびGバンドが観測される。D バンドの存在はこのグラファイトがグラファイトの微結晶粒(grain)の集合体(クラスター)である事を示唆している。グラファイト微結晶に対して、微粒子の径をLとし、Dバンド、 Gバンドのラマン強度をそれぞれID、IGとしたとき、微粒子径LはL= 4.4(IG/ID) nmで与えられる [非特許文献3]。この式を用いて推定したグラファイトの微粒子の平均粒径は4〜8nmであった。この粒径は熱処理温度に依存していて、温度を上げていくと強度比IG/IDから求めた粒径は増大する。D、Gバンドの半値幅は熱処置温度の増加に伴い若干小さくなるので、グラファイトの結晶性も良くなってくる事が分かる。
【0033】
一方熱処理温度が低い場合には、未反応のNi金属が残存するようになる。また、600℃以下の低い熱処理温度では、Ni金属とSiCとはショットキー障壁が形成され、コンタクト抵抗が高くなってしまう。600℃以上の高温処理の場合にはオーミックコンタクトが形成され、1000℃のコンタクト抵抗は5x10-6〜1x 10-7 cm2 まで低下する。
【0034】
ラマンスペクトルにはグラファイトから生じるバンド、基板4H-SiCからの信号に加えてNiシリサイドのラマンバンドが観測される。100および140 cm-1のバンドはNi2Si相に由来するもので、〜195、〜217 cm-1に観測されるバンドはNiSiからの信号である。このシリサイドのラマンバンドはグラファイトのバンドと異なって、あまり熱処理温度に敏感でない。それに対してグラファイトのD、Gバンドの強度や半値幅に熱処理温度依存性が見られる。
【0035】
このラマンスペクトル測定で、グラファイト、シリサイドのラマンスペクトルに加えて基板SiCからのラマン信号が観測される。このことはラマン散乱励起レーザー光がSiC基板まで到達しており、基板の上層部に存在するグラファイト、シリサイド層の信号が充分に検知されているためと説明される。
【0036】
熱処理温度を変えた素子表面のラマンスペクトルを測定した。処理温度によってDバンドとGバンドの強度比が変化する事は既に記述したが、D、Gバンドの強度もやはり変化し、熱処理温度の増加と共にこれらのバンドの強度が増加した。この結果は遊離したグラファイト状クラスターが、処理温度が高くなるにつれ拡散によって表面層に集まってくる事を示している。
【0037】
[ラマンマップ測定とグラファイト、シリサイドの空間分布]
顕微鏡下で試料のラマン測定を行った際に、試料をx-yステージ上に保持し、ステージをx、y方向に掃引しながらラマン測定をする事によってラマンマップが得られる。電界電子放出素子をx−yステージに保持し、1ミクロンステップでx、y方向に移動させながら、素子表面のラマンスペクトルのマッピングを行った。
【0038】
図12に140 cm-1のNiシリサイドバンド、1360 cm-1のDバンドの強度分布が示されている。両者とも強度は空間的に一様ではなく、強度の強弱は平均数ミクロンから十ミクロンのスケールで分布している。さらにこの二者の強度分布には正、または負の強い相関が見られなかった。この結果はグラファイト及びシリサイド微粒子から形成されるクラスターが横方向のみならず深さ方向にも不均一な分布をしている。グラファイトおよびNiシリサイドはクラスター状になっており、乱雑な空間分布をしている事を示している。
【0039】
断面TEM測定、EDX測定ではラマン測定と同様にグラファイト及びシリサイドが空間的に不均一に分布していることが分かった。このTEM、EDX測定の結果はグラファイト、シリサイドクラスターの形状が球形ではなく、膜に沿って扁平な層状形状で分布していることを示した。Niシリサイド・グラファイト複合構造のラマン測定、TEM測定、EDX 測定から推定されるシリサイドとグラファイト状クラスターの空間分布に対する模式図を上述の図1に示した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板の上に金属膜を堆積させ、加熱処理し、SiCと金属を反応させて形成した金属シリサイドと、この反応プロセスで金属との反応にあずからないカーボンをグラファイト状クラスターとして前記金属シリサイドの少なくとも最表面層に析出させて作成した表層構造物からなり、
該表層構造物を電子放出素子として機能させる電界電子放出素子。
【請求項2】
電極として機能する前記SiC基板の裏面に成膜した裏面金属導体を電子注入用電極として用いる請求項1に記載の電界電子放出素子。
【請求項3】
前記金属膜としてNiを含み、かつ高温におけるこの金属とSiCとの反応過程でシリサイドのみを優先的に形成し、カーバイドを形成せずに、遊離カーボンを生成せしめた請求項1に記載の電界電子放出素子。
【請求項4】
前記表層構造物の表面層にグラファイト微粒子の集合体から形成されるクラスターと金属クラスターが絡み合ってSiC上に分布し、グラファイト状クラスターと金属シリサイドが密着して存在する請求項1に記載の電界電子放出素子。
【請求項5】
金属シリサイドとグラファイト状クラスターが入り交じり、不均一的な空間分布をしていて、グラファイト状クラスターが表面層に高い濃度で存在する請求項1に記載の電界電子放出素子。
【請求項6】
高温でSiCと金属を固相反応させた場合、金属シリサイドのみが形成されて、金属カーバイドが形成されない金属元素を選択し、
SiC基板の上に前記金属元素の膜を堆積させ、加熱処理し、SiCと金属を反応させて金属シリサイドを形成し、
この反応プロセスでSiCとの反応にあずからないカーボンをグラファイト状クラスターとして前記金属シリサイド内或いは最表面層に析出させた表層構造物を作成し、
この表層構造物を冷陰極電子放出素子として機能させる電界電子放出素子の製造方法。
【請求項7】
エミッター保持台として機能する前記SiC基板上のシリサイド・グラファイト膜層上に部分的に金属膜を形成し、これを電子注入用電極として用いる請求項6に記載の電界電子放出素子の製造方法。
【請求項8】
前記金属膜はニッケル膜であり、前記金属シリサイドは、ニッケルシリサイドである請求項6に記載の電界電子放出素子の製造方法。
【請求項9】
高温でSiC とNiを反応させる過程でSiCとNiシリサイドのオーミックコンタクトを形成させ、コンタクト抵抗を低減した請求項8に記載の電界電子放出素子の製造方法。
【請求項10】
金属膜堆積の前段階で、イオン注入によって表面層をアモルファス化し、注入後堆積させた金属とSiCの反応を促進させた請求項7に記載の電界電子放出素子の製造方法。
【請求項1】
SiC基板の上に金属膜を堆積させ、加熱処理し、SiCと金属を反応させて形成した金属シリサイドと、この反応プロセスで金属との反応にあずからないカーボンをグラファイト状クラスターとして前記金属シリサイドの少なくとも最表面層に析出させて作成した表層構造物からなり、
該表層構造物を電子放出素子として機能させる電界電子放出素子。
【請求項2】
電極として機能する前記SiC基板の裏面に成膜した裏面金属導体を電子注入用電極として用いる請求項1に記載の電界電子放出素子。
【請求項3】
前記金属膜としてNiを含み、かつ高温におけるこの金属とSiCとの反応過程でシリサイドのみを優先的に形成し、カーバイドを形成せずに、遊離カーボンを生成せしめた請求項1に記載の電界電子放出素子。
【請求項4】
前記表層構造物の表面層にグラファイト微粒子の集合体から形成されるクラスターと金属クラスターが絡み合ってSiC上に分布し、グラファイト状クラスターと金属シリサイドが密着して存在する請求項1に記載の電界電子放出素子。
【請求項5】
金属シリサイドとグラファイト状クラスターが入り交じり、不均一的な空間分布をしていて、グラファイト状クラスターが表面層に高い濃度で存在する請求項1に記載の電界電子放出素子。
【請求項6】
高温でSiCと金属を固相反応させた場合、金属シリサイドのみが形成されて、金属カーバイドが形成されない金属元素を選択し、
SiC基板の上に前記金属元素の膜を堆積させ、加熱処理し、SiCと金属を反応させて金属シリサイドを形成し、
この反応プロセスでSiCとの反応にあずからないカーボンをグラファイト状クラスターとして前記金属シリサイド内或いは最表面層に析出させた表層構造物を作成し、
この表層構造物を冷陰極電子放出素子として機能させる電界電子放出素子の製造方法。
【請求項7】
エミッター保持台として機能する前記SiC基板上のシリサイド・グラファイト膜層上に部分的に金属膜を形成し、これを電子注入用電極として用いる請求項6に記載の電界電子放出素子の製造方法。
【請求項8】
前記金属膜はニッケル膜であり、前記金属シリサイドは、ニッケルシリサイドである請求項6に記載の電界電子放出素子の製造方法。
【請求項9】
高温でSiC とNiを反応させる過程でSiCとNiシリサイドのオーミックコンタクトを形成させ、コンタクト抵抗を低減した請求項8に記載の電界電子放出素子の製造方法。
【請求項10】
金属膜堆積の前段階で、イオン注入によって表面層をアモルファス化し、注入後堆積させた金属とSiCの反応を促進させた請求項7に記載の電界電子放出素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−159405(P2011−159405A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18070(P2010−18070)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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