説明

電磁波遮蔽樹脂成形体の製造方法

【課題】樹脂製筐体等の樹脂成形体を成形する際に同時に樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面に電磁波遮蔽層を効率よく、且つ、低コストにて形成することができる電磁波遮蔽樹脂成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】ビヒクル中に導電性金属粒子を分散して含有する塗工材を折り曲げ変形自在のビヒクル含浸性基材面に指触乾燥状態に積層した導電性基材シートの塗工材層を成形される樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面となる位置に配置し、樹脂成形体を成形する際に、導電性基材シートを加熱・加圧して塗工材層を成形される樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面に密着させると共に塗工材層のビヒクルをビヒクル含浸性基材に含浸させて樹脂成形体と導電性基材シートとの間に塗工材層の導電性金属粒子が圧延・変形された電磁波遮蔽層を形成し、電磁波遮蔽層を樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面に残した状態で導電性基材シートを樹脂成形体から剥離・除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を発生するプラズマディスプレイ等の電気製品や電子機器の筐体部等に採用する電磁波遮蔽樹脂成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、電磁波を発生するプラズマディスプレイ等の電気製品や電子機器には樹脂製筐体部に他の電気製品や電子機器に悪影響を及ぼす電磁波を遮蔽する対策が施されており、当業界においては樹脂製筐体部に電磁波シールド対策を効率良く施せ、しかもシールド特性に優れた電磁波遮蔽樹脂成形体が切望されている。
【0003】
前記樹脂製筐体部に電磁波シールド材を装着する対策方法として、合成樹脂ビヒクルが浸み込む熱可塑性不織布よりなる含浸性基材と、その上に塗布された導電性塗料、導電性ペースト又は導電性インクよりなる導電体粒子を含有する導電性付与剤とからなり、且つ、該導電性付与剤を塗布された含浸性基材が加熱及び加圧されている電磁波シールド材及び該電磁波シールド材の製造方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、電磁波シールド材を前記樹脂製筐体部と一体的に成形する対策方法として、外層樹脂成形体、電磁波シールド材及び内層樹脂成形体の層状一体構造を有する電磁波シールド樹脂成形体であって、且つ該電磁波シールド材が導電性付与剤を塗布された含浸性基材シートを加熱加圧して製造した電磁波シールドシートである電磁波シールド樹脂成形品において、その外層樹脂成形体、電磁波シールド材及び内層樹脂成形体の層状一体構造を金型内にインサートして内層樹脂成形体を射出成形することによって形成された層状一体構造の電磁波シールド樹脂成型品が提案され(特許文献2)、成形金型内に軟質性のメッシュ状電磁波シールド繊維を配置し、金型を型締めして樹脂を射出し、これによりメッシュ状電磁波シールド繊維の表面に射出樹脂が入り込んで電磁波シールド繊維と射出樹脂との密着性を向上させた樹脂製成型品及びその製造方法も提案されている(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特許第2606504号公報
【特許文献2】登録実用新案第3028096号公報
【特許文献3】特開平11−292050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている電磁波シールド材では、樹脂製筐体部の電磁波遮蔽処理を施す面に装着する前に該電磁波シールド材を該面の形状に合うように型加工しなければならず、しかも、装着する際には接着剤等を使用しなければならないという問題点があり、また、特許文献2に開示されている電磁波シールド樹脂成型品では、外層樹脂成形体を射出成形した後に該外層樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面に電磁波シールド材を該面の形状に合うように型加工して装着して内層樹脂成形体を射出成形しなければならないという問題点があり、また、特許文献3に開示されている樹脂製成型品では、メッシュ状繊維に銅やニッケルの無電解メッキを施して電磁波シールド性を有するメッシュ状電磁波シールド繊維を得なければならないので、製造工程が増えて作業効率が悪いという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、前記諸問題点を解決することを技術的課題とし、樹脂製筐体等の樹脂成形体を成形する際に同時に樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面に電磁波遮蔽層を効率よく、且つ、低コストにて形成することができる電磁波遮蔽樹脂成形体の製造方法を提供することにより、当該課題を達成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって解決できる。
【0009】
即ち、本発明に係る電磁波遮蔽樹脂成形体の製造方法は、ビヒクル中に導電性金属粒子を分散して含有する塗工材を折り曲げ変形自在のビヒクル含浸性基材面に指触乾燥状態に積層してなる導電性基材シートの該塗工材層を、成形される樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面となる位置に配置し、当該樹脂成形体を成形する際に、当該導電性基材シートを加熱・加圧して塗工材層を成形される樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面に密着させると共に、塗工材層のビヒクルをビヒクル含浸性基材に含浸させて樹脂成形体と導電性基材シートとの間に塗工材層の導電性金属粒子が圧延・変形された電磁波遮蔽層を形成し、この後、当該電磁波遮蔽層を樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面に残した状態で導電性基材シートを樹脂成形体から剥離・除去するようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、折り曲げ変形自在のビヒクル含浸性基材面にビヒクル中に導電性金属粒子を分散して含有する塗工材を指触乾燥状態に積層してなる導電性基材シートを用い、当該塗工材層を成形される樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面となる位置に配置し、樹脂成形に際して加熱・加圧により成形される樹脂成形体と導電性基材シートとの間に塗工材層の導電性金属粒子が圧延・変形されてなる電磁波遮蔽層を形成し、当該電磁波遮蔽層を樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面に残した状態で導電性基材シートを樹脂成形体から剥離・除去するので、電気製品や電子機器の樹脂製筐体等を成形する際、同時に樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面に電磁波遮蔽層を効率よく、且つ、低コストにて形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0012】
実施の形態1.
【0013】
図1は導電性基材シートの縦断面図、図2は電磁波遮蔽樹脂成形体の製造工程を説明する縦断面図であり、これらの図において、1は折り曲げ変形自在のビヒクル含浸性基材2と該ビヒクル含浸性基材2の上面に指触乾燥状態に積層されている塗工材層3とからなる導電性基材シートであり、塗工材層3はビヒクル4中に導電性金属粒子5を分散して含有する塗工材によって形成されている。また、図2において、6は樹脂成形体7の電磁波遮蔽処理を施す面(以下、「処理面」ともいう。)8の位置に密着して残っている電磁波遮蔽層9と当該樹脂成形体7とからなる電磁波遮蔽樹脂成形体であり、電磁波遮蔽層9は、熱プレス法による加熱・加圧によって塗工材層3が処理面8に密着され、成形される樹脂成形体7と導電性基材シート1との間で導電性金属粒子5が圧延・変形されることにより形成される。なお、10は熱プレス押し台、11は加熱プレス台、12は成形によって樹脂成形体7となる成形樹脂である。
【0014】
次に、電磁波遮蔽樹脂成形体6の製造方法について説明する。
【0015】
先ず、図2の(a)に示すように、導電性基材シート1の塗工材層3面を成形樹脂12の片面(成形により樹脂成形体7の処理面8となる面)に位置付けて配置し、次いで、塗工材層3の熱変形温度又は該温度より10〜20℃低い温度(熱可塑性樹脂では180〜300℃)で加熱して導電性基材シート1側から成形樹脂12に向かって加圧して塗工材層3のビヒクル4をビヒクル含浸性基材2に含浸・吸着させると共に、塗工材層3を成形樹脂12の片面に密着させてビヒクル4を含浸・吸着させ、図2の(b)に示すように、成形樹脂12を成形して形成された樹脂成形体7と導電性基材シート1との間に塗工材層3の導電性金属粒子5が圧延・変形して層と成った電磁波遮蔽層9を形成し、この後、成形された樹脂成形体7から導電性基材シート1を剥離・除去して樹脂成形体7の処理面8に電磁波遮蔽層9を残す。
【0016】
前記塗工材としては、樹脂塗料、樹脂インク及び樹脂ペーストを使用すればよく、ビヒクル4は樹脂成形体7に相溶性のある熱可塑性樹脂又は接着性のある熱硬化性樹脂(アクリル系、ポリエステル系、ウレタン系等)のものを選択的に使用するのが好ましく、塗工材層3が指触乾燥(半硬化)の状態であれば、ビヒクル4が容易に溶解して樹脂成形体7に溶融固着すると同時にビヒクル含浸性基材2に溶融含浸するのでより好ましい。また、導電性金属粒子5とビヒクル4とを30〜80重量部:70〜20重量部の割合で混合したものを塗工材とすれば、印刷や塗布等の方法によってビヒクル含浸性基材2面に容易に塗工(積層)することができ、電磁波遮蔽層9を30〜200μmの範囲の厚さに形成できるのでより好ましい。
【0017】
また、加圧条件は高圧であればよいが、成形樹脂12は加熱されているので、成形加工法によって、5〜300kgf/cm2の範囲で選択すればよい。生産性の面より熱プレス法では50〜300kgf/cm2、圧空成形法では5〜30kgf/cm2とすればよい。
【0018】
また、導電性金属粒子5はAg、Cu、Al、Ni、Fe、又は、これらの合金、及び、Ag被覆Cu、Ag被覆Ni等の処理合金、その他の各種処理した複合粒子の合金等を用いればよい。当該金属粒子5の形状は、フレーク形状又は不規則形状であることが好ましい。球形粒子では加熱と圧着により金属粒子が変形・密着しても金属粒子同士の接触が点接触となって導電性能が悪いので好ましくない。フレーク状金属粒子であれば、粒子が折れ曲がった状態で粒子間隙間へ立体的・三次元的に入り込んで網目構造的に接触するから、粒子同士の非接触部が少なくなって接触密度が高まって電磁波遮蔽層9の導電性能が良くなり、安定した性能と品質が得られる。また、フレーク状金属粒子と不規則形状金属粒子との混合粒子やフレーク状金属粒子と球形状金属粒子との混合粒子やフレーク状金属粒子と不規則形状金属粒子と球形状金属粒子との混合粒子では、フレーク状金属粒子が不規則形状金属粒子間隙間又は球形状金属粒子間隙間へ、不規則形状金属粒子がフレーク状金属粒子間隙間へ食い込む現象が起こるので、フレーク状金属粒子単独の場合と同様の効果が得られる。従って、導電性金属粒子5には、フレーク状金属粒子、不規則形状金属粒子、不規則形状金属粒子とフレーク状金属粒子との混合粒子、不規則形状金属粒子と球形状金属粒子との混合粒子、又は、不規則形状金属粒子とフレーク状金属粒子と球形状金属粒子との三種混合粒子のものを使用すれば良い。これにより、具体的には、Cu金属粒子においては0.6Ωの導電性能が得られ、Ag金属粒子において0.05Ωの導電性能が得られる。
【0019】
具体的には、粒子径1〜90μm,BET比表面積0.1〜1m2/g,充填密度0.7〜4.0g/cm3の不規則形状金属粒子を基本材料とし、当該金属粒子に粒子形5〜50μm,アスペクト比(粒子の厚さと最大粒子径との比)1/50〜1/5,BET比表面積0.1〜3m2/g,充填密度0.7〜3.0g/cm3のフレーク状金属粒子と粒子径1〜30μm,BET比表面積0.1〜5m2/g,充填密度0.7〜5.0g/cm3の球形状金属粒子とを混合した導電性金属粒子5を使用すれば良い。
【0020】
また、前記導電性金属粒子5には酸化・腐食防止処理を施すのが好ましい。具体的には、金属粒子とビヒクルとの間に発生した極微少の密着不足によって金属粒子界面に酸素や水分が侵入して金属粒子が酸化して導電性が低下するので、金属粒子表面に0.5mass%以下のアミン系、2mass%以下の有機系、チタネート系、アルミネート系、ジルコネート系、シラン系等のカップリング剤で被覆した導電性金属粒子5を使用するのが好ましく、当該導電性金属粒子5では、濃度2〜5%の塩水を24時間噴霧するサイクルを3回繰り返す塩水噴霧テストや60℃/500時間の高温・高湿テストや−40℃の低温から60℃の高温へを20〜30サイクル繰り返すヒートサイクルテストの環境テストを実施しても環境テスト前と後とにおける導電性能がいずれも0.6Ω以下という安定した値を示している。
【0021】
前記ビヒクル含浸性基材2としては、樹脂成形時の成型温度・圧力に耐えることができ、前記塗工材を含浸又は吸着することができ、前記導電性金属粒子5が通過しない不織布、布、網目状シート等の折り曲げ変形自在な繊維状樹脂であればよいが、電磁波遮蔽層9を形成後、当該電磁波遮蔽層9から剥がし易い材料を使用するのが好ましい。具体的には、熱可塑性・熱硬化性合成樹脂(ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、アラミド等)や麻、絹、綿等の天然繊維で製造された繊維状、網目状又はマット状の布や不織布、折り曲げ自在でビヒクルが容易に含浸・浸透するものであれば、紙や、ガラスマット、ガラスクロス等のシート状無機材料、その他の材料を使用できる。
【0022】
熱プレス法による加熱・加圧によって、図3(加熱・加圧前における塗工材層の金属粒子構造を示す倍率×230の図面代用電子顕微鏡写真)及び図4(加熱・加圧後における電磁波遮蔽層の金属粒子構造を示す倍率×180の図面代用電子顕微鏡写真)に示すように、加熱・加圧後では塗工材層3とビヒクル含浸性基材2との間にビヒクル層が形成されるので、電磁波遮蔽層9からビヒクル含浸性基材2を容易に剥がすことができる。金属粒子5の周りにあるビヒクル4が加熱と加圧によりビヒクル含浸性基材2に吸着されて金属粒子5が圧着されることにより、導電性が得られる。
【0023】
なお、当該図3及び図4において、加熱・加圧前の電子顕微鏡写真(図3)では、塗工材層3中の導電性金属粒子(Cu)5はビヒクル4によって覆われており、Cu粒子5同士の密着・固着性が不完全であるが、加熱・加圧後の電子顕微鏡写真(図4)では、加熱温度180℃、熱プレス加圧280kgf/cm2によって加熱されたビヒクル4が溶融してビヒクル含浸性基材2に含浸し、Cu粒子5が押し潰されてCu粒子5同士が密着・固着されて電磁波遮蔽層9が形成されている。本例では、加熱・加圧前の塗工材層3の厚さ200μmに対して加熱・加圧によって形成された電磁波遮蔽層9の厚さは75μmとなっていた。
【0024】
また、電磁波遮蔽層9は熱プレス法に替えて真空成形法、圧空成形法等による加熱・加圧によって形成してもよい。
【0025】
実施の形態2.
【0026】
本実施の形態はプラズマディスプレイ(以下、「PDP」ともいう。)の後面筐体(樹脂成形体)に電磁波シールド対策を施した電磁波遮蔽樹脂成形体であり、図5はプラズマディスプレイ筐体の縦断面図、図6はプラズマディスプレイの後面筐体の型成形を説明する一部縦断面図、図7はプラズマディスプレイの後面筐体の縦断面図である。これらの図において、図1,図2と同一符号は同一又は相当部分を示し、13は電磁波遮蔽処理が施されている後面筐体(樹脂成形体)7からなるPDP筐体であり、当該PDP筐体13は前面筐体14と後面筐体7とによって形成されており、電気回路基板15と、フレキシブルケーブルによって電気回路基板15に接続された表示パネル16と、電気回路基板15と表示パネル16との間に設けられた金属シャーシ17と、画面を覆う前面フィルター18とから構成されている。そして、後面筐体7の電磁波遮蔽処理を施す面8には電磁波遮蔽層9が形成されている。従って、本実施の形態においては、後面筐体7と電磁波遮蔽層9とからなるPDP後面筐体成形体が電磁波遮蔽樹脂成形体6である。
【0027】
次に、電磁波遮蔽樹脂成形体の製造方法を図6を参照して説明する。
【0028】
先ず、導電性基材シート1を導電性基材シート供給装置19にセットして金型キャビティ20と金型コア21との間に金型キャビティ20側に塗工材層3が向くように挿入して塗工材層面を成形樹脂(金型成形される後面筐体7)12の処理面8に位置付け、次いで、金型コア21とエジェクターピン22とエジェクタプレート23とを移動させて型締めして加熱筒24のスクリュウ25を駆動させて加熱筒24内部の溶融樹脂26を金型内部に射出注入する。これにより、塗工材層3は成形樹脂12に密着して180〜350℃の樹脂温度によってビヒクル4が溶融して成形樹脂12の内面に固着し、ビヒクル4がビヒクル含浸性基材2に含浸・吸着され、塗工材層3中の導電性金属粒子5が300〜800kgf/cm2の射出成形圧力によって圧延・変形されて導電性金属粒子5同士の密着が起こって電磁波遮蔽層9が形成される。この後、金型を開いて導電性基材シート1を成形された後面筐体7から剥離すれば、ビヒクル4によって後面筐体7の内面に強固に固着した電磁波遮蔽層9が該内面に転写された状態で残り、電磁波シールド対策を施したPDP後面筐体成形体(電磁波遮蔽樹脂成形体)6が得られる。
【0029】
本実施の形態では、折り曲げ変形自在なシート状ビヒクル含浸性基材2を使用して電磁波遮蔽層9を形成することにより、PDP後面筐体成形体6の屈曲部コーナー部においてひび割れやしわのない電磁波遮蔽樹脂成形体を形成することができる。
【0030】
実施の形態3.
【0031】
図8は熱プレス法による電磁波遮蔽樹脂成形体の製造工程を説明する縦断面図であり、同図において、図1,図2,図5〜図7と同一符号は同一又は相当部分を示し、本実施の形態では、熱プレス上型27と熱プレス下型28とを開いた状態で樹脂シート29の上面(処理面)に基材シート1の塗工材層3を向けて熱プレス上型・下型27,28間に挿入して設置し、この後、図8の(a)に示すように、熱プレス上型27と熱プレス下型28とを閉じ、続いて、金型内の樹脂シート29と基材シート1とを加熱して油圧によって加圧プレスを実施する。これにより、図8の(b)に示すように、樹脂シート29が型成形されて該樹脂シート29の処理面に溶融したビヒクル4が接着して樹脂シート29とビヒクル4とが固着すると共に、ビヒクル含浸性基材2にビヒクル4が含浸・吸着され、さらに、油圧プレスの圧力により塗工材層3中の導電性金属粒子5が樹脂シート29とビヒクル含浸性基材2との間で加圧・圧延されて電磁波遮蔽層9が形成される。図8の(c)に示すように、プレス機が冷却後、電磁波遮蔽層9が形成されている樹脂シート29を取り出して基材シート1のビヒクル含浸性基材2を剥がせば、樹脂シート29を型成形した樹脂成形体7と電磁波遮蔽層9とからなる電磁波遮蔽樹脂成形体6が得られる。
【0032】
実施の形態4.
【0033】
図9はシート状電磁波遮蔽樹脂成形体の製造工程を説明する縦断面図であり、同図において、図1,図2,図5〜図8と同一符号は同一又は相当部分を示し、本実施の形態では、押出成形機30より押し出された加熱状態のシート状樹脂31の処理面に基材シート1の塗工材層3が当接するように基材シート1を供給装置32にセットし、加圧ローラ33に通してシート状樹脂31に対して基材シート1を圧着することにより、シート状樹脂31とビヒクル4とが固着すると共に、ビヒクル含浸性基材2にビヒクル4が含浸・吸着され、同時に、塗工材層3中の導電性金属粒子5がシート状樹脂31とビヒクル含浸性基材2との間で加圧・圧延されて電磁波遮蔽層9が形成され、シート状樹脂31により成形された樹脂成形体7と電磁波遮蔽層9とからなる電磁波遮蔽樹脂成形体6が得られる。なお、34はガイドローラ、35は巻き取り装置である。
【実施例】
【0034】
実施例1:不規則形状Cu粒子5(商品名:FCC-115A:福田金属箔粉工業株式会社製)とビヒクル4(商品名:PETインキ900-N:十条ケミカル株式会社製)とを80重量部:20重量部の割合で配合して塗工材を得た。当該塗工材をビヒクル含浸性基材2(ナイロン製タフタ織り布)の面に2回重ね塗りのスクリーン印刷を施して指触乾燥状態の塗工材層3を形成し、導電性基材シート1を得た。
【0035】
前記導電性基材シート1を使用して図6に示す実施の形態2に基づき、使用樹脂:ABS(商品名:930N:東レ株式会社製),成形温度:250℃,金型温度:60℃,射出圧力:一次圧650kgf/cm2,二次圧400kgf/cm2,保圧時間:15秒,冷却時間:45秒の射出成形条件によって、成形樹脂12により成形された後面筐体7と電磁波遮蔽層9とからなるPDP後面筐体成形体(電磁波遮蔽樹脂成形体)6を形成した。
【0036】
電磁波遮蔽層9の厚さは120μm、電気抵抗値0.6Ω,電界−62dBのシールド性能であった。なお、電気抵抗値の測定には、株式会社エー・アンド・ディ製AD-5523測定距離100mmを使用し、電界測定はKEC法により、アンリツ株式会社MA8202,0.1-1000Mzを使用した。
【0037】
実施例2:図9に示す実施の形態4に基づき、使用樹脂:ABS(商品名:930N:東レ株式会社製),シリンダー温度:210〜230℃,ダイス温度:230℃,樹脂温度:240℃,ロール温度:80℃の押し出し成形条件にてロール間寸法2mmのシート厚さのシート状樹脂31を得、該シート状樹脂31を使用して図8に示す実施の形態3に基づき、実施例1で得た導電性基材シート1を使用してシート加熱温度:180℃,加熱プレス圧力:280kgf/cm2,加圧・冷却時間:60秒の熱プレス条件によってPDP後面筐体成形体(電磁波遮蔽樹脂成形体)6を形成した。
【0038】
実施例3:実施例2のシート状樹脂31を使用して実施例1で得た導電性基材シート1を用いてシート加熱温度:180℃,圧空圧力(エアー圧力):10〜15kgf/cm2,加圧・冷却時間:60秒の圧空成形条件によってPDP後面筐体成形体(電磁波遮蔽樹脂成形体)6を形成した。
【0039】
実施例2及び3のPDP後面筐体成形体は、いずれも電磁波遮蔽層9の厚さ120μm、電気抵抗値0.6Ω,電界−62dBのシールド性能であった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、電磁波を発生するプラズマディスプレイ等の電気製品や電子機器の筐体部は勿論のこと、建築物資材や自動車部品等、電磁波遮蔽を必要とする電磁波遮蔽樹脂成形体に利用できる。
【0041】
従って、本発明の産業上利用性は非常に高いといえる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】導電性基材シートの縦断面図である。
【図2】電磁波遮蔽樹脂成形体の製造工程を説明する縦断面図である。
【図3】加熱・加圧前における塗工材層の金属粒子構造を示す倍率×230の図面代用電子顕微鏡写真である。
【図4】加熱・加圧後における電磁波遮蔽層の金属粒子構造を示す倍率×180の図面代用電子顕微鏡写真である。
【図5】プラズマディスプレイ筐体の縦断面図である。
【図6】プラズマディスプレイの後面筐体の型成形を説明する一部縦断面図である。
【図7】プラズマディスプレイの後面筐体の縦断面図である。
【図8】熱プレス法による電磁波遮蔽樹脂成形体の製造工程を説明する縦断面図である。
【図9】シート状電磁波遮蔽樹脂成形体の製造工程を説明する縦断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 導電性基材シート
2 ビヒクル含浸性基材
3 塗工材層
4 ビヒクル
5 導電性金属粒子
6 電磁波遮蔽樹脂成形体
7 樹脂成形体
8 処理面(電磁波遮蔽処理を施す面)
9 電磁波遮蔽層
12 成形樹脂
13 PDP筐体(電磁波遮蔽樹脂成形体)
29 樹脂シート(樹脂成形体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビヒクル中に導電性金属粒子を分散して含有する塗工材を折り曲げ変形自在のビヒクル含浸性基材面に指触乾燥状態に積層してなる導電性基材シートの該塗工材層を成形される樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面となる位置に配置し、当該樹脂成形体を成形する際に、当該導電性基材シートを加熱・加圧して塗工材層を成形される樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面に密着させると共に塗工材層のビヒクルをビヒクル含浸性基材に含浸させて樹脂成形体と導電性基材シートとの間に塗工材層の導電性金属粒子が圧延・変形された電磁波遮蔽層を形成し、この後、当該電磁波遮蔽層を樹脂成形体の電磁波遮蔽処理を施す面に残した状態で導電性基材シートを樹脂成形体から剥離・除去することを特徴とする電磁波遮蔽樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−16564(P2009−16564A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176484(P2007−176484)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(390010238)株式会社アドユニオン研究所 (6)
【出願人】(000239426)福田金属箔粉工業株式会社 (83)
【Fターム(参考)】