説明

電磁誘導発熱層を有する多層無端管状ベルト

【課題】本発明は、電磁誘導発熱方式により発熱させても、ポリイミド層と発熱層を含む金属層とが高温定着時に優れた密着強度を持ち、かつ、高速回転時の機械的ストレスによる金属発熱層のクラック、酸化劣化等による耐久性の低下を抑制して長期に渡って安定した発熱特性が維持できる無端環状ベルトを提供することを目的とする。
【解決手段】内周側から外周側にかけて、ポリイミド樹脂層A、ニッケル層B、発熱層C、及びニッケル層Dの順で積層され、該ポリイミド樹脂層Aがポリイミド樹脂及びニッケル系微粒子を含むことを特徴とする多層無端管状ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁誘導発熱層を有する多層無端管状ベルトに関する。具体的には、電子写真方式を利用した画像形成装置に使用される電磁誘導加熱用の定着用部材(定着用ベルト)に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド系樹脂は、その優れた耐熱性、電気的特性、機械的特性等を生かし様々な分野に利用されている。その中の一つとして、複写機用の機能性ベルト(転写ベルト、定着用ベルト等)への応用が挙げられる。
【0003】
電子写真方式の画像形成装置において、トナー像を加熱及び加圧することにより記録媒体表面に定着する定着装置には、金属ロールの内部に加熱用のハロゲンヒーターを有する熱定着ロール方式を採用するものが主流である。他には、加熱源として帯状ヒーターを無端ベルトからなる定着ベルト内面に接触させて定着を行う方式などがある。
【0004】
更に、省エネルギー化、複写速度の高速化、起動時間の短縮等の要求により、ポリイミド樹脂フィルムの表面に金属薄膜層を設け、その金属層を電磁誘導作用により発熱させ、トナー像を複写紙に熱定着させる方法が提案されている。
【0005】
ポリイミド樹脂と金属層とを直接積層させる手段としては、スパッタリングや蒸着、めっき等が一般的に挙げられるが、ポリイミド樹脂との密着強度が不足するだけでなく、金属発熱層にクラック、亀裂などの発生、さらには金属発熱層の抵抗の上昇による発熱特性が低下するため、耐久性が十分に得られないという問題があった。
【0006】
例えば、特許文献1〜5には、ポリイミド樹脂と金属層の接着強度を向上させた無端環状ベルトが記載されている。
【0007】
特許文献1には、金属粒子(銅粒子)をポリイミド樹脂ベルト表面に配置し、該樹脂フィルムを電極として電解めっきして該樹脂フィルムに金属薄膜を形成することにより、金属薄膜とポリイミド樹脂フィルムの密着強度が高められることが記載されている。しかしながら、ポリイミド樹脂フィルムの成形過程において、金属粒子(銅粒子)が存在すると、金属錯体を形成しイミド化反応を阻害するという問題が発生している。さらに、金属発熱層の酸化劣化による発熱特性の低下、ポリイミド樹脂ベルトとの密着不足などの問題があった。
【0008】
特許文献2には、外表面にニッケル粉末を有するポリイミド管状物を電解めっき(電気銅めっき)して銅めっき層を形成し、その上に電気ニッケルめっきしてニッケル層を形成し、さらにその上にフッ素樹脂からなる離型層を設けた管状ベルトが記載されている(例えば、実施例1等)。しかしながら、金属発熱層の酸化劣化、クラックや亀裂発生による発熱特性の低下の問題があった。
【0009】
特許文献3には、カーボニルニッケル粉体を含む芳香族ポリアミック酸を回転成形して、カーボニルニッケル粉体の一部が外表面に露出しているポリイミド無端管状フィルムが記載されている(例えば、実施例1等)。該フィルムの外表面に銅電解めっきを行い、さらにその上にニッケル電解めっきして得られるポリイミド無端管状フィルムが記載されている(例えば、実施例3等)。しかしながら、金属発熱層の酸化劣化、クラックや亀裂発生による発熱特性の低下の問題があった。
【0010】
特許文献4には、アルカリ処理したポリイミドベルト表面に銅イオンを吸着し、ついで還元処理することにより、表面層に銅微粒子の分散層を有するポリイミドベルトを形成し、これを無電解銅めっき及び電解銅めっきして得られる定着ベルトが記載されている(例えば、実施例1等)。
【0011】
特許文献5には、ポリイミド無端状ベルトの外周面をアルカリエッチング処理し、これに無電解ニッケルめっきしてニッケル層を形成し、この上に電解めっき処理により銅層を形成し、さらにこの上に電解めっき処理によりニッケル層を形成して得られる定着用ベルトが記載されている(例えば、実施例A等)。
【0012】
しかしながら、これらの定着ベルトは、電磁誘導作用により瞬間的に急激に金属層のみが発熱するために、金属発熱層の耐久性が劣化して発熱特性の低下が生じたり、膨張率の異なるポリイミドフィルム層と金属層の密着力が低下したりする。電磁誘導発熱定着方式に使用できるポリイミド樹脂製ベルトは、常温と定着温度(200℃程度)とのヒートサイクル条件下で数十万枚の複写が可能な複写耐久性が要求され、かつ高速回転に耐え得る十分な機械的強度が要求される。しかし、このような要求を満たすポリイミド樹脂製ベルトは実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−248705号公報
【特許文献2】特開2002−292766号公報
【特許文献3】特開2003−327723号公報
【特許文献4】特開2006−71833号公報
【特許文献5】特開2006−301562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、電磁誘導発熱方式により発熱させた場合にポリイミド層と発熱層を含む金属層とが高温定着時に優れた密着強度を持ち、かつ、高速回転時の機械的ストレスによる金属発熱層のクラック、酸化劣化等による耐久性の低下を抑制して長期に渡って安定した発熱特性が維持できる無端環状ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、内周側から外周側にかけて、ポリイミド樹脂層A、ニッケル層B、発熱層C(ニッケルより固有抵抗が小さい金属を含む層)、及びニッケル層Dの順で積層され、該ポリイミド樹脂層Aがポリイミド樹脂及びニッケル系微粒子を含むことを特徴とする多層無端管状ベルトが、上記の課題を解決できることを見出した。即ち、ポリイミド樹脂層Aとニッケル層Bの密着性が高く、機械的特性及び発熱特性に優れることを見出した。かかる知見に基づきさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は下記の多層無端管状ベルト及びその製造方法を提供する。
【0017】
項1.内周側から外周側にかけて、ポリイミド樹脂層A、ニッケル層B、発熱層C(ニッケルより固有抵抗が小さい金属を含む層)、及びニッケル層Dの順で積層され、該ポリイミド樹脂層Aがポリイミド樹脂及びニッケル系微粒子を含むことを特徴とする多層無端管状ベルト。
【0018】
項2.前記発熱層Cが電解めっき法により形成された銅又は銀を含む層である項1に記載の多層無端管状ベルト。
【0019】
項3.前記ニッケル層Bの厚みが0.1〜9μmであり、前記発熱層Cの厚みが3〜30μmである項1又は2に記載の多層無端管状ベルト。
【0020】
項4.前記ポリイミド樹脂層A中のニッケル系微粒子が、ポリイミド樹脂層Aのニッケル層B側の表面部分に偏在又は露出している項1、2又は3に記載の多層無端管状ベルト。
【0021】
項5.前記ポリイミド樹脂層Aの厚みが40〜120μmである項1〜4のいずれかに記載の多層無端管状ベルト。
【0022】
項6.前記ポリイミド樹脂層Aがさらに導電性カーボンブラックを含む項1〜5のいずれかに記載の多層無端管状ベルト。
【0023】
項7.外周側にさらにシリコーンゴム層Eを有する項1〜6のいずれかに記載の多層無端管状ベルト。
【0024】
項8.外周側にさらにフッ素系樹脂層Fを有する項1〜7のいずれかに記載の多層無端管状ベルト。
【0025】
項9.前記項1に記載の多層無端管状ベルトからなる定着ベルト。
【0026】
項10.内周側から外周側にかけて、ポリイミド樹脂層A、ニッケル層B、発熱層C、及びニッケル層Dの順で積層された多層無端管状ベルトの製造方法であって、
(1)ニッケル系微粒子を含むポリアミック酸溶液を回転成形して、外周表面部分にニッケル系微粒子が偏在又は露出したポリイミド管状物(ポリイミド樹脂層A)を形成する工程、
(2)該ポリイミド管状物の外周表面上にニッケル層Bを形成する工程、
(3)該ニッケル層Bが形成されたポリイミド管状物の該ニッケル層Bの外周表面上に電解めっき法により発熱層Cを形成する工程、及び
(4)該金属層Cが形成されたポリイミド管状物の該金属層Cの外周表面上にニッケル層Dを形成する工程、
を含むことを特徴とする多層無端管状ベルトの製造方法。
【0027】
項11.前記項10に記載の多層無端管状ベルトの製造方法であって、
(1)ニッケル系微粒子を含むポリアミック酸溶液を回転成形して、外周表面部分にニッケル系微粒子が偏在又は露出したポリイミド管状物(ポリイミド樹脂層A)を形成する工程、
(2)該ポリイミド管状物の外周表面上に電解めっき法又は無電解めっき法によりニッケル層Bを形成する工程、
(3)該ニッケル層Bが形成されたポリイミド管状物の該ニッケル層Bの外周表面上に電解めっき法により発熱層Cを形成する工程、及び
(4)該金属層Cが形成されたポリイミド管状物の該金属層Cの外周表面上に電解めっき法又は無電解めっき法によりニッケル層Dを形成する工程、
を含むことを特徴とする多層無端管状ベルトの製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、内周側から外周側にかけて、ポリイミド樹脂層A、ニッケル層B、発熱層C(ニッケルより固有抵抗が小さい金属を含む層)及びニッケル層Dの順で積層されてなり、該ポリイミド樹脂層Aがポリイミド樹脂及びニッケル系微粒子を含むことを特徴とする多層無端管状ベルトである。このベルトは、電磁誘導発熱方式により発熱させた場合にポリイミド層と発熱層を含む金属層とが高温定着時に優れた密着強度を持ち、かつ、高速回転時の機械的ストレスによる金属発熱層のクラック、酸化劣化等による耐久性の低下を抑制して長期に渡って安定した発熱特性が維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】電磁誘導加熱装置の模式図を示す。
【図2】本発明の多層無端管状ベルトの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の多層無端管状ベルトは、内周側から外周側にかけて、ポリイミド樹脂層A、ニッケル層B、発熱層C(ニッケルより固有抵抗が小さい金属を含む層)、及びニッケル層Dの順で積層されており、該ポリイミド樹脂層Aがポリイミド樹脂及びニッケル系微粒子を含むことを特徴とする。さらに、多層無端管状ベルトは、該ニッケル層Dの外周側にさらにシリコーンゴム層E及び/又はフッ素系樹脂層Fを有していてもよい。ここで、無端ベルトとは、継ぎ目のない(シームレス)チューブ状のフィルムのことを意味する。
【0031】
ポリイミド樹脂層Aの形成
ポリイミド樹脂層Aは、ポリイミド樹脂及びニッケル系微粒子を含んでいる。ポリイミド樹脂層Aでは、ニッケル系微粒子が、ポリイミド樹脂層Aのニッケル層B側の外表面部分に偏在又は露出していることが好ましい。この偏在又は露出されたニッケル系微粒子は、ポリイミド樹脂層Aの外周表面上に形成されるニッケル層Bとのアンカー効果を発揮する。これにより、ポリイミド樹脂層Aとニッケル層Bとの高い密着性が達成される。
【0032】
ポリイミド樹脂層Aに含まれるポリイミド樹脂としては、例えば、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミドが挙げられる。
【0033】
芳香族ポリイミドは、通常、モノマー成分として芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン又は芳香族ジイソシアネートとを、公知の方法により縮重合して製造される。
【0034】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸、2,3,5,6−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2′,3,3′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、アゾベンゼン−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、β,β−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、β,β−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p−ターフェニル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸等の二無水物が挙げられる。このうち、好適には、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物である。
【0035】
芳香族ジアミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,4′−ジアミノビフェニル、ベンジジン、3,3′−ジメチルベンジジン、3,3′−ジメトキシベンジジン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′−ジアミノベンゾフェノン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノアゾベンゼン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、β,β−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、4,4′−ジアミノ−p−ターフェニル等が挙げられる。このうち、好適には、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、p−フェニレンジアミン、4,4′−ジアミノ−p−ターフェニルである。
【0036】
芳香族ジイソシアネートとしては、上記芳香族ジアミン成分におけるアミノ基がイソシアネート基に置換した化合物等が挙げられる。
【0037】
芳香族ポリアミドイミドは、トリメリット酸と芳香族ジアミン又は芳香族ジイソシアネートとを、公知の方法により縮重合して製造される。この場合、芳香族ジアミン又は芳香族ジイソシアネートは、上記の芳香族ポリイミドの原料と同じものを用いることができる。
【0038】
ニッケル系微粒子は、例えば、カルボニル法、湿式法、アトマイズ法、粉砕法などの作製法で作製することができ、中でも優れたストラクチャー構造を持ち、高い導電性を発揮しやすいカルボニル法により得られるニッケル粉末が好適である。
【0039】
前述したポリイミド樹脂層Aとニッケル層Bとのアンカー効果及びポリアミック酸溶液中の分散性を考慮すると、ニッケル系微粒子の平均粒子径は、通常0.1〜10μmであり、好ましくは0.2〜8μm、より好ましくは0.5〜6μmである。ここで、平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置 自由落下型乾式法により測定した値である。また、ポリイミド樹脂層Aにおけるニッケル系微粒子の含有量は、通常25〜75重量%、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは35〜60重量%である。
【0040】
ニッケル系微粒子はポリイミド樹脂層Aに内在分散し、しかも表面部分に存在するニッケル系微粒子は地肌を露出した状態にあることが重要である。表面に地肌を露出したニッケル系微粒子があることで、この上に設けられる薄膜のニッケル層Bの形成がより容易になり、且つポリイミド樹脂層Aとニッケル層Bの密着性もより強固になる。従ってニッケル系微粒子の表面露出率は大きい程良化傾向にあるが、露出部分が大きすぎると密着性の点で低下傾向が見られる。
【0041】
そのため、例えば、イオンビームなどによりサンプルの切片を作成し拡大観察するとポリイミド樹脂層Aの表面にニッケル系微粒子の存在を確認できる。また、表面のニッケルの露出の程度は、様々な方法により定量分析できるが、本発明においてはEDX(エネルギー分散型X線解析装置)にて行い、具体的には、EDXにおいて100μm四方の視野において炭素、酸素、窒素、ニッケルの主要4元素を検出し、検出されたニッケルの原子数濃度を全検出量の割合として求められる。本願発明のEDXにおけるニッケルの原子数濃度の好ましい範囲は、10〜60%、より好ましくは15〜50%、更に好ましくは20〜32%である。
【0042】
本発明の多層無端管状ベルトは定着ベルトとして好適であるが、転写兼定着ベルトとして用いてもよい。この場合には、ポリイミド樹脂層Aに所望の半導電性を付与するために、必要に応じカーボンブラック等の導電剤を添加してもよい。カーボンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネンルブラック等が例示され、目標となる半導電性のレベルに合わせ適宜選択することができる。
【0043】
導電剤(特にカーボンブラック)の平均粒子径は、通常0.1〜0.5μm、好ましくは0.2〜0.4μmである。ポリイミド樹脂層Aにおける導電剤の含有量は、通常2〜40重量%、好ましくは5〜30重量%、より好ましくは8〜20重量%である。
【0044】
ポリイミド樹脂層Aは、例えば、次のようにして製膜することができる。上記した芳香族ポリイミドの原料である芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを溶媒中で反応させて一旦ポリアミック酸溶液とし、これにニッケル系微粒子を加えてニッケル系微粒子が分散したポリアミック酸溶液を得る。必要に応じ、ポリアミック酸溶液にカーボンブラック等の導電剤を添加してもよい。
【0045】
ポリアミック酸溶液の溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と呼ぶ。)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の非プロトン系有機極性溶媒が使用される。これらのうちの1種又は2種以上の混合溶媒であってもよい。特に、NMPが好ましい。
【0046】
ポリアミック酸溶液は、上記溶媒及び芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを用いて公知の方法で調製される。これに、上記のニッケル系微粒子、及び必要に応じ導電剤(特に、カーボンブラック)を添加して、必要に応じ、ボールミル等を用いて均一分散させることができる。
【0047】
調製されるポリアミック酸溶液中の固形分濃度は、通常10〜40重量%、好ましくは15〜30重量%である。ニッケル系微粒子の濃度は、固形分中、25〜75重量%、好ましくは35〜60重量%である。必要に応じ導電剤を含む場合には、導電剤の濃度は、固形分中、2〜40重量%、好ましくは8〜20重量%である。
【0048】
得られたポリアミック酸溶液は、必要に応じて溶媒で希釈して粘度が調整される。一般に、溶液の粘度が低いと添加されたニッケル系微粒子が沈降しやすく、時間の経過とともに分散性が悪くなり塊状になりやすくなる。一方、粘度が高過ぎると、充分に攪拌しても添加されたニッケル系微粒子が均一に分散されにくい。そのため、ポリアミック酸溶液の粘度を、通常1.5〜10.0Pa・s、好ましくは2.5〜5.0Pa・sの範囲とすることが好適である。これにより、ポリアミック酸溶液中にニッケル系微粒子の均一分散が達成できる。
【0049】
なお、ニッケル系微粒子、必要に応じカーボンブラックが添加されたポリイミド系樹脂溶液は、高速攪拌器により充分に攪拌・分散される。分散性の向上のために、必要に応じフッ素系界面活性剤等を添加してもよい。
【0050】
次いで、ポリアミック酸溶液を円筒状金型(金属ドラム)に流延し、回転成形(遠心成形)してポリイミド管状物(ベルト)を成形する。
【0051】
回転成形方法としては、例えば、ヒーター内蔵の2本の可変回転ローラー上に、両端開口の金属ドラム(内面はRz=0.5μm程度のクロムめっきによる鏡面仕上)が着脱自在に載置され、ローラーの回転によって金属ドラムが回転する間接回転方式が挙げられる。金属ドラムの加熱は、回転ローラーに内蔵されたヒーターと、遠赤外線ヒーターによる外部加熱方式が用いられる。また、加熱によって蒸発する有機溶媒は、排気ファンを用いて積極的に排気することが好ましい。
【0052】
金属ドラムの内面に、ポリアミック酸溶液を供給し、金属ドラムの回転による遠心力をもって均一な流延塗布を行ない、加熱乾燥してポリイミド管状物(ベルト)を得る。ここで、ポリアミック酸溶液のニッケル系微粒子は、ポリアミック酸よりも比重が大きいため、回転成形時の遠心力によりポリイミド管状物(ベルト)の外周表面上に偏在又は露出される。この偏在又は露出されたニッケル系微粒子は、ポリイミド樹脂層Aの外周表面上に積層されるニッケル層Bとのアンカー効果を発揮する。必要に応じカーボンブラックを添加した場合は、カーボンブラックはニッケル粒子より比重がはるかに小さいため、一般的にポリイミド管状物(ベルト)の外周表面上に偏在する傾向は小さく、全体に均一に分散することができる。
【0053】
回転ドラムの回転速度は、十分な遠心力を生じさせるために、通常、重力加速度(9.8m/s)の10〜100倍、好ましくは20〜50倍の遠心力が付加される速度である。これにより、ニッケル系微粒子がポリイミド管状物(ベルト)の外周表面上に偏在又は露出される。
【0054】
金属ドラムの回転を維持し、金型内面を徐々に加熱し120℃程度まで到達せしめる。昇温速度は、例えば、1〜2℃/min程度であればよい。上記の温度で20分〜3時間維持し、溶媒を揮発させて自己支持性のあるベルトを成形する(第1次加熱)。この際、ベルト中の溶媒は完全に除去するのではなく、ある程度残存(ベルト中10〜40重量%程度)させておくことが好ましい。
【0055】
次に、第1次加熱して得られた無端ベルトを円筒状金型の内面に付着したまま、或いは、第1次加熱して得られた無端ベルトを円筒状金型から剥離して取り出し、別途円筒状金型(金属ドラム)に外嵌し、熱風乾燥炉内に投入する。次いで、第2次加熱として、温度280〜450℃程度で処理してイミド化を完結させる。この場合も、徐々に昇温して、その温度に達するようにするのが良い。このイミド化の所要時間は、通常約1〜3時間程度である。
【0056】
得られたポリイミド管状物(ベルト)の表面抵抗率は、後述するニッケル電解めっきを施すのに十分な表面抵抗率を有している必要があるため、通常1.0×10−4〜1.0×10(Ω/□)、好ましくは1.0×10−3〜1.0×10(Ω/□)に設定されることが好ましい。
【0057】
ポリイミド管状物(ベルト)は、続いてニッケル層Bの形成を行う前に、その外表面にエッチング、プラズマ処理、コロナ処理、表面研磨等の前処理を行ってもよい。
【0058】
表面抵抗率が1.0×10(Ω/□)以下であれば、そのまま次のニッケル又はニッケル合金の電解めっき処理に供することができる。ニッケル系微粒子がポリイミド樹脂内に埋もれている場合、即ち、ポリイミド樹脂により被覆されていて表面(地肌)へ露出していない場合には、積極的にニッケル系微粒子を表面(地肌)に露出させる処理を行う。この露出処理としては、物理的研磨(例えばダイヤモンド等の研磨材による研磨)が簡便かつ確実な方法として推奨される。
【0059】
ポリイミド樹脂層Aの厚みは、耐久性の観点から、通常40〜120μm、好ましくは50〜100μm、更に好ましくは60〜90μmである。厚みが40μm以上であれば、定着部材として用いた場合、管状物の外周から中心に向けての物理的な力を受け部分的に塑性変形を起こす畏れが低い。120μm以下であると素材の剛性が大きく屈曲させて用いる本用途に適する。
【0060】
ニッケル層Bの形成
続いて、上記で製造されたポリイミド管状物(ポリイミド樹脂層A)の外周表面にニッケル層Bを形成する。この方法としては、スパッタリング法などの堆積法や、電解めっき法、無電解めっき法などの電気化学的方法などが挙げられる。コスト及び生産性、そして密着強度の大きい金属層を得るという点では、電解めっき、無電解めっきなどのめっき法、特に電解めっき法によりニッケル又はニッケル合金をめっきして、ニッケル層Bを形成する方法が好適である。
【0061】
ニッケル層Bはニッケル金属を含む層であればよく、ニッケルからなる層、ニッケル合金からなる層等を含む意味である。ニッケル層Bには、ニッケル金属が10〜100重量%、好ましくは50〜100重量%含まれる。
【0062】
例えば、電解めっき法は、ポリイミド管状物(ポリイミド樹脂層A)の外周表面に偏在又は露出したニッケル系微粒子を電極(陰極)として用い実施することができ、ポリイミド管状物の外周表面にニッケル層Bを形成することができる。電解めっきの手法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0063】
ニッケル層Bの厚みは、耐酸化性の付与及び機能性ベルトに要求される柔軟性の観点から、通常0.1〜9μm、好ましくは0.5〜8μmである。厚みが0.1μm以上であれば、発熱層の耐酸化性及び密着性の効果が好適に発揮され、9μm以下であると機械的ストレスによるクラックや亀裂が生じにくい。
【0064】
発熱層Cの形成
続いて、上記で製造されたニッケル層Bが形成されたポリイミド管状物の外周表面に、電解めっき法により電磁誘導発熱性金属で被覆して、発熱層Cを形成する。
【0065】
発熱層Cは、電磁誘導発熱性を有しニッケルより固有抵抗が小さい金属から構成され、好ましくは銅、銀、金等であり、より好ましくは銅である。
【0066】
電磁誘導発熱について説明する。高周波電源により高周波の交流電流をコイルに流すと、コイルには電流の向きに応じ、コイルが巻回された面に直行する向きに磁束が発生する。この磁束は、コイルに近接して設置された多層無端管状ベルトの発熱層Cを横切ることで、渦電流が発生する。発熱層Cで発生した渦電量が熱エネルギーに変換されて発熱することになる。渦電流は、材料の固有抵抗と厚さとで決まる抵抗値によって決まり、固有抵抗率が小さく厚みが厚いほど抵抗値は小さく、大きな渦電流が発生し熱エネルギーに変換される。
【0067】
電解めっき法を用いて発熱層Cを形成する理由は、スパッタリング等などの堆積法や無電解めっき法と比較して、材料自体の固有抵抗を小さくできるためである。これは、電解めっき法で形成される発熱層Cは、堆積法や無電解めっき法で形成される発熱層よりも、結晶サイズ及び結晶配向が大きくなる(結晶構造が大きく異なる)ためであると考えられる。
【0068】
電解めっき法は、電磁誘導発熱性金属板(特に銅板)を電極(陽極)として用いて、ニッケル層Bが形成されたポリイミド管状物の該ニッケル層Bの外周表面に発熱層Cを形成することができる。電解めっきの手法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0069】
例えば、まずニッケル層Bが形成されたポリイミド管状物が陰極リード線に、銅板が陽極リード線にそれぞれ繋がれて、両者一定の間隔で対峙し、該めっき浴中に浸積される。浴温は約20〜55℃、好ましくは25〜50℃である。陰極電流密度は、約0.5A/dm以上、好ましくは、1〜3A/dmである。めっきムラ(銅層の厚みムラ)が発生しない様に、銅板の形状、個数、設置位置、めっき浴の撹拌状態、ポリイミド管状物の状態(固定又は回転)等について最適条件を検討した上で実施することが好ましい。
【0070】
前記陽極として使用される銅板は純銅を用いることが好ましく、可能な限り高純度であることが好ましい。
【0071】
発熱層Cの厚みは、適切な電気抵抗値の付与及び機能性ベルトに要求される柔軟性の観点から、通常3〜30μm、好ましくは5〜20μmである。厚みが3μm以上であると渦電流が発生し十分な発熱が可能となり、30μm以下であると熱容量を低く抑えることができ蓄熱現象を回避することができる。
【0072】
ニッケル層Dの形成
更に、上記で製造された多層無端管状ベルト(発熱層Cが形成されたポリイミド管状物)の外周表面に、ニッケル層Dを形成する。この方法としては、スパッタリング法などの堆積法や、電解めっき法、無電解めっき法などの電気化学的方法などが挙げられる。密着強度の大きい金属層を得るという点では、電解めっき、無電解めっきなどのめっき法、特に電解めっき法によりニッケル層Dを形成する方法が好適である。発熱層Cに酸化しやすい銅を用いた場合には、ニッケル層Dを設けることにより、酸化を抑制することができるため好適である。
【0073】
ニッケル層Dはニッケル金属を含む層であればよく、ニッケルからなる層、ニッケル合金からなる層等を含む意味である。ニッケル層Dには、ニッケル金属が10〜100重量%、好ましくは50〜100重量%含まれる。
【0074】
例えば、電解めっき法は、多層無端管状ベルト(発熱層Cが形成されたポリイミド管状物)を電極(陰極)として用いて実施することができ、発熱層Cの外周表面にニッケル層Dを形成することができる。電解めっきの手法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0075】
ニッケル層Dの厚みは、適切な電気抵抗値の付与及び機能性ベルトに要求される柔軟性の観点から、通常0.1〜20μm、好ましくは1〜10μmである。
【0076】
このようにして、本発明の多層無端管状ベルトが製造できる。該ベルトの層構成は、内周側から外周側にかけて、ポリイミド樹脂層A/ニッケル層B/発熱層C/ニッケル層Dの順で積層された構造となる。
【0077】
その他の層
上記の本発明の多層無端管状ベルトの記録媒体と当接する側の面が、定着時に溶融状態の未定着トナー像と固着するのを防ぐために、該面側(即ち、ベルト外周表面であるニッケル層Dの表面)に、低表面エネルギー材料を主成分として構成される離型層を形成して用いることができる。該離型層としては、例えばシリコーンゴム層E、フッ素系樹脂層F等が例示される。
【0078】
離型層の厚さは、離型層が摩滅やベルトの柔軟性の観点から、通常10〜100μmの範囲内であり、好ましくは20〜50μmの範囲内である。
【0079】
シリコーンゴム層Eに用いられるシリコーンゴムとしては、例えば、ビニルメチルシリコーンゴム、メチルシリコーンゴム、フェニルメチルシリコーンゴム、フルオロシリコーンゴムが例示される。
【0080】
ニッケル層Dの表面にシリコーンゴムを塗布して、シリコーンゴム層Eを形成することができる。塗布方法としては、例えば、ドクターブレード法、スプレーコート法、ディップコート法等が挙げられる。乾燥後のシリコーンゴム層Eの厚みは、通常50〜500μm、好ましくは100〜300μmである。
【0081】
フッ素系樹脂層Fに用いられるフッ素樹脂としては、例えば、フッ素ゴムや、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という)、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、「PFA」という)、四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体(以下、「FEP」という)等が例示される。そのうち、PFAが好ましい。
【0082】
ニッケル層Dの表面に、或いは、上記で得られたシリコーンゴム層Eの表面に、フッ素系樹脂層Fを形成することができる。例えば、フッ素系樹のチューブをベルト外表面に被覆して、必要に応じ200〜300℃で焼成することにより、フッ素系樹脂層Fを形成することができる。通常、フッ素系樹脂の収縮チューブが用いられ、押出成形により製造することができる。フッ素系樹脂層Fの厚みは、通常10〜100μm、好ましくは15〜50μmである。
【0083】
具体的なベルトの層構成としては、内周側から外周側にかけて、例えば、次のような積層構造が挙げられる。
【0084】
ポリイミド樹脂層A/ニッケル層B/発熱層C/ニッケル層D/シリコーンゴム層E、
ポリイミド樹脂層A/ニッケル層B/発熱層C/ニッケル層D/フッ素系樹脂層F、又は
ポリイミド樹脂層A/ニッケル層B/発熱層C/ニッケル層D/シリコーンゴム層E/フッ素系樹脂層F。
【0085】
定着ベルト
本発明の多層無端管状ベルトは、公知の電磁誘導加熱方式の定着装置(電磁誘導加熱定着装置)の定着ベルト又は定着兼転写ベルトに用いることができる。本発明のベルトは、長期に渡って使用しても機械的強度に優れ、発熱特性が低下しないため、安定して高画質を得ることができる。しかも、ポリイミド樹脂層Aと金属層(ニッケル層B)との密着性が強固であるため耐久性にも優れている。
【実施例】
【0086】
次に、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0087】
ポリアミック酸溶液の固形分濃度、表面抵抗率、密着性、電磁誘導発熱性、原子数濃度は、次の様にして測定した。
【0088】
[ポリアミック酸溶液の固形分濃度]
ポリアミック酸溶液の固形分濃度は、次のように算出された値である。試料を金属カップ等の耐熱性容器で精秤しこの時の試料の重量をA(g)とする。試料を入れた耐熱性容器を電気オーブンに入れて、120℃×15分、180℃×15分、260℃×30分、及び280℃×30分で順次昇温しながら加熱、乾燥し、得られる固形分の重量(固形分重量)をB(g)とする。同一試料について5個のサンプルのA及びBの値を測定し(n=5)、次式にあてはめて固形分濃度を求めた。その5個のサンプルの平均値を、固形分濃度として採用した。
固形分濃度=B/A×100(%)
【0089】
[表面抵抗率(ρs;Ω/□)]
表面抵抗率は、23℃、55%RH環境下で、四探針電極(例えば、三菱化学(株)製ロレスタ)を用い、荷重2.0kg、電圧10V、チャージ時間10秒の条件で測定した。ベルトの外表面を周方向に等間隔に4点、軸方向に等間隔に4点、計16点を測定し、その平均値として表した。
【0090】
[密着性]
実施例及び比較例で得られたベルトサンプルを加熱乾燥機に入れて、200℃まで昇温し、その温度で20分間加熱して、その後常温まで放冷した。各サンプルを、幅10mm×長さ50mmでIPC−FC−241Bに準じるT剥離法にて、ピール強度を測定した。該ピール強度は、実機による耐久評価結果の点から、通常0.6kg/cm以上であることが必要である。
【0091】
[電磁誘導発熱性]
ベルトを断熱ローラーに嵌着し、該ベルトサンプルに対して電磁誘導加熱装置を隙間0.2mmで対峙して配置した。断熱ローラーを15(min−1)で回転させ、そして電磁誘導加熱装置のコイルに120Wの交流電力を流して、黒色のフッ素表面を温度計(PT−2LD、オプテックス(株)製)で測定し、表面温度が200℃になるようにコイルの出力を自動調整できる装置を用いて、連続3時間測定した。
【0092】
[ポリイミド樹脂層Aの原子数濃度]
表面露出ニッケル量は、EDX(エネルギー分散型X線解析装置)(7593−H型、(株)堀場製作所製)を使い、以下の条件で測定した。
【0093】
マッピングモードにて、プロセスタイム6で測定した。試料の調製は、金蒸着5nmで行った。EDXでの加速電圧は15kV、照射時間は5分であり、レンズと試料間の距離は15mmで行った。
【0094】
実施例1 スパッタリング使用
ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp-フェニレンジアミン(PPD)をN-メチルピロリドン溶媒中で縮重合反応して固形分濃度14.5重量%のポリアミック酸溶液(溶液粘度 1.8 Pa・s)を得た。このポリアミック酸溶液1kgに、カーボニルニッケル粉体(カルボニル法で得られるニッケル粉末、粒径2.0〜3.0μm)65gを添加し高速攪拌器にて十分に分散した。得られたポリアミック酸溶液中の固形分濃度は19.7重量%であり、固形分中のカーボニルニッケル粉体濃度は31.0重量%であった。
【0095】
このポリアミック酸溶液56gを金属ドラム内に(内径62mm、幅500mm)に均一に塗布した。次にドラムの加熱と共に回転を徐々に加速し、80rad/s(重力加速度の20倍の遠心力)に到達したらこれを維持しつつ、温度(ドラム内温)150℃まで昇温した。この回転と温度下で120分間遠心成型した。そして該ドラム内から固形管状フィルムを取り出した。得られた該フィルムはN−メチルピロリドン(溶媒)を約30wt%含有するポリアミック酸フィルムであった。
【0096】
次に前記ポリアミック酸フィルムをイミド化と共に残存する溶媒を除去するために、これをR=3.0μm、外径60mm、長さ420mmの円筒金型に嵌挿し熱風乾燥機内に投入した。120分間で450℃に到達させ、その温度で30分間加熱した。最後に常温に冷却し金型から抜き取った。得られたフィルムは完全にイミド化された金属粉充填ポリイミド無端管状フィルムであり、該フィルムの厚さは60±3μm、内径60mm、長さ420mmであった。表面抵抗率は0.25〜0.45Ω/□の範囲で安定していた。
【0097】
その表面を、EDX(エネルギー分散型X線解析装置)を使って表面露出ニッケル量を測定した。その結果、原子数濃度は20〜22%であった。
【0098】
次にこの無端管状フィルムの表面を前処理(脱脂洗浄後、グロー放電)した後、該処理面に次の条件でニッケルをスパッタリングして、薄膜ニッケル層を成膜した。ターゲットは幅100mm、長さ400mmの純ニッケル板を縦に無端管状フィルムと対峙して壁面に固定し、真空度はアルゴン置換で10−3 Torr、真空室内温度100℃、該ターゲットと無端管状フィルム面との距離は15mm、該ターンテーブルを1m/分の速度で回転しつつ、出力電圧6.5W/cmにて15分間スパッタした。この薄膜ニッケル層は0.15μmであった。
【0099】
次に、前記薄膜ニッケル層付無端フィルムを陰極とし、純銅板を陽極として次の条件にて銅電解めっきを行い、銅厚膜層を形成した。まず、該ベルトをめっき浴槽内に速度可変である円回転を与えるように配置し、攪拌用プロペラを配置した。この浴槽内に、一切の光沢剤を含有しない硫酸銅(200g/L)と硫酸(50g/L)とを主成分とする電解液をほぼ充満状態に入れた。そして、攪拌と回転を開始しながら、加熱して浴温を40℃まで昇温させた。薄膜ニッケル層付無端フィルムを6(min− 1 )に回転調整した後、両極に電流を通した。の陰極に負荷される電流密度は、1.0A/dmとし、15分間の過電解めっきを行った。そして、浴槽から取り出して十分に水洗して乾燥した。銅層の厚さを測定したところ、5.6±0.3μmであった。
【0100】
さらに、ニッケル電解めっきを行い、銅層の表面に厚み0.5μmのニッケル層を形成し、銅層及び銅層の両面に設けられた薄膜のニッケル層を成形した。
【0101】
次に、導電フッ素(PFA)収縮チューブ(黒色)を被覆し、380℃で焼成することにより、表面に黒色のフッ素樹脂層Fを有する定着ベルトを作製した。フッ素樹脂層Fの厚みは29.8μmであった。
【0102】
実施例2 化学めっき(無電解めっき)
実施例1で得た金属粉充填ポリイミド無端管状フィルムの表面を、超精密旋盤装置を使って次の条件でダイヤモンドにて切削した。切り込み量10μm、回転数4000(min−1)、送り0.07(mm/rev)で行い、切削表面の粗度はRz=0.47に仕上がった。この表面切削フィルムの両端を20mmずつカットし、その表面を、EDX(エネルギー分散型X線解析装置)を使って表面露出ニッケル量も測定した。その結果、原子数濃度は22〜24%であった。表面抵抗率は0.25〜0.45Ω/□の範囲で安定していた。
【0103】
この無端管状フィルムを次の条件でニッケルの化学めっきを行い、薄膜のニッケル層を設けた。まず、一般に知られている(キャタリスト)アクセレータ法により、パラジウムを付与し、次に硫酸ニッケル(25g/L)とクエン酸(20g/L)及び次亜リン酸ナトリウム(20g/L)とを主成分とする、38℃に温調された無電解めっき浴(光沢剤ありで、pH9に調整)に浸漬した。浸漬時間は3分間で、その間は十分に攪拌を行った。該めっき後は、十分に水洗し乾燥した。ここで形成された膜厚は、0.6μmであった。
【0104】
次に前記薄膜ニッケル層付無端ベルトを陰極とし、純銅板を陽極として次の条件にて銅電解めっきを行い、銅厚膜層を形成した。まず、該ベルトをめっき浴槽内に速度可変である円回転を与えるように配置し、攪拌用プロペラを配置した。この浴槽内に、一切の光沢剤を含有しない硫酸銅(200g/L)と硫酸(50g/L)とを主成分とする電解液をほぼ充満状態に入れた。そして、攪拌と回転を開始しながら、加熱して浴温を40℃まで昇温させた。薄膜ニッケル層付無端ベルトを6(min−1)に回転調整したら、両極に電流を通した。ここでの陰極に負荷される電流密度は、1.0A/dmとし、30分間の過電解めっきを行った。そして、浴槽から取り出して十分に水洗して乾燥した。ここで銅層の厚さを測定したところ、10.6±0.8μmであった。
【0105】
さらに、ニッケルの化学めっきを行い、銅層の表面に厚み1μmのニッケル層を形成し、銅層及び銅層の両面に設けられた薄膜のニッケル層を成形した。
【0106】
次に、信越化学工業(株)製の液状シリコーンゴム(KE3491)をドクターブレード法にて厚みが200μmとなるよう塗布し、表面に黒色のシリコーンゴム層Eを有する定着ベルトを作製した。
【0107】
実施例3 電解めっき
実施例1で得た金属粉充填ポリイミド無端管状ベルトの表面を実施例2と同じように超精密旋盤装置を使って表面を切削した。表面抵抗率は0.20〜0.35Ω/□の範囲で安定していた。その表面を、EDX(エネルギー分散型X線解析装置)を使って表面露出ニッケル量を測定した。その結果、表面分散ニッケル原子数濃度は、22〜24%であった。
【0108】
次にこの無端管状ベルトを陰極としニッケル電解めっきを行い、膜厚6μmのニッケル層を形成した。その後、純銅板を陽極として次の条件にて銅電解めっきを行った。無端管状ベルトをめっき浴槽内に円回転出来る状態に配置し、攪拌要プロペラを配置した。そして、無端管状ベルトを回転させながら、両極に電気を流して厚み10±1.0μmの銅層を形成した。
【0109】
さらに、ニッケル電解めっきを行い、銅層の表面に厚み1μmのニッケル層を形成し、銅層及び銅層の両面に設けられた薄膜のニッケル層を成形した。
【0110】
次に、信越化学工業(株)製の液状シリコーンゴム(KE3491)をドクターブレード法にて厚み200μmとなるよう塗布し、表面にシリコーンゴム層Eを形成した。この後、次に、導電フッ素(PFA)収縮チューブ(黒色)を被覆し、380℃で焼成することにより、表面に黒色のフッ素樹脂層Fを有する定着ベルトを作製した。フッ素樹脂層Fの厚みは29.9μmであった。
【0111】
実施例4 電解めっき
全カルボン酸二無水物成分に対してパラ−ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物(TPDA)100モル%と、全芳香族ジアミン成分に対して4,4’−ジアミノ−p−ターフェニル70モル%、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DADE)30モル%とを、カルボン酸二無水物成分と芳香族ジアミン成分との略等モル量でN−メチル−2−ピロリドン中で重合して固形分濃度16重量%のポリアミック酸溶液 1kg(溶液粘度5Pa・s)を得た。
【0112】
このポリアミック酸溶液に、オイルファーネス系カーボンブラック22gとN−メチル−2−ピロリドン100gを加えて、ボールミルにてカーボンブラックの均一分散を行い、カーボンブラック分散ポリアミック酸溶液を調製した。この溶液の固形分濃度は16.2重量%であり、この固形分重量のうち、カーボンブラックの含有量は、12.1重量%であった。また、溶液中でのカーボンブラックの平均粒子径は0.28μm、最大粒径は0.51μmであった。
【0113】
次に、カーボニルニッケル粉体(粒径5.0〜8.0μm)90gを添加し高速攪拌器にて十分に分散した。得られたポリアミック酸溶液中の固形分濃度は22.4重量%であり、固形分中のカーボニルニッケル粉体の濃度は33.1重量%であり、カーボンブラックの濃度は8.1重量%であった。
【0114】
このポリアミック酸溶液40gを金属ドラム内に(内径40mm、幅500mm)に均一に塗布した。次にドラムの加熱と共に回転を徐々に加速し、100rad/s(重力加速度の31.6倍の遠心力)に到達したらこれを維持しつつ、温度(ドラム内温)150℃まで昇温した。この回転と温度下で90分間遠心成型した。次に、この管状物を円筒金型の内周面に付着したまま高温加熱炉に投入し、150分間かけて320℃に昇温し(昇温速度:約1.33℃/分)、320℃で60分間高温加熱することでポリイミド転化を完了した。その後、室温まで冷却し、金型内面より剥離した。得られたベルトは完全にイミド化された金属粉充填ポリイミド無端管状ベルトであり、該ベルトの厚さは70±3μm、内径40mm、長さ480mmであった。表面抵抗率は0.20〜0.25Ω/□の範囲で安定していた。その表面を、EDX(エネルギー分散型X線解析装置)を使って表面露出ニッケル量を測定した。その結果、原子数濃度は30〜32%であった。
【0115】
その後は実施例3と同様に表面切削後、電解めっきにより、ポリイミド無端管状ベルト上に、ニッケル層(6μm)、銅層(10μm)及びニッケル層(1μm)の順で層を成形した。
【0116】
次に、信越化学工業(株)製の液状シリコーンゴム(KE3491)をドクターブレード法にて厚み200μmとなるよう塗布し、表面にシリコーンゴム層Eを形成した。この後、次に、導電フッ素(PFA)収縮チューブ(黒色)を被覆し、380℃で焼成することにより、表面に黒色のフッ素樹脂層Fを有する定着ベルトを作製した。フッ素樹脂層Fの厚みは29.9μmであった。
【0117】
比較例1 下地にニッケル層が無い場合
実施例1と同様に無端管状ベルトを陰極とし、純銅板を陽極として次の条件にて銅電解めっきを行った。まず、無端管状ベルトをめっき浴槽内に、円回転出来る状態に配置し、攪拌用プロペラを配置した。そして無端管状ベルトを回転させながら、両極に電気を流して、厚み10±1.0μmの銅層を形成した。さらに、ニッケル電解めっきを行い、銅層の表面に厚み0.5μmのニッケル層を形成した。
【0118】
次に、導電フッ素(PFA)収縮チューブ(黒色)を被覆し、380℃で焼成することにより、表面に黒色のフッ素樹脂層Fを有する定着ベルトを作製した。フッ素樹脂層Fの厚みは29.9μmであった。
【0119】
比較例2 ポリイミド樹脂層にニッケル系微粒子が無い場合
ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp-フェニレンジアミン(PPD)をN−メチルピロリドン溶媒中で縮重合反応して固形分濃度14.5重量%のポリアミック酸溶液(溶液粘度 1.8 Pa・s)を得た。このポリアミック酸溶液1kgに、粒径0.1〜2.0μmのケッチェンブラック25gを添加し、高速攪拌器にて十分に分散した。得られたポリアミック酸溶液の固形分濃度は20重量%であり、ケッチェンブラック粉体はポリアミック酸溶液の固形分中12.2重量%であった。このポリアミック酸溶液55gを用いて、実施例1と同様に無端環状ベルトを形成した。
【0120】
得られたベルトは完全にイミド化されたポリイミド無端管状ベルトであり、該ベルトの厚さは60±3μm、内径60mm、長さ420mmであった。しかしながら表面抵抗率は1.0Ω/□を下回ることは無く、ニッケル電解めっきを施すのに十分な表面抵抗率を発現させることは出来なかった。
【0121】
一方、実施例1と同様の条件でニッケルをスパッタリングして薄膜ニッケル層(0.15μm)を形成した。薄膜ニッケル層を形成した無端管状ベルトを陰極とし、純銅板を陽極として、次の条件で銅電解めっきを行った。無端管状ベルトをめっき浴槽内に、円回転できる状態に配置し、撹拌用プロペラを配置した。そして、無端管状ベルトを回転させながら、両極に電気を流して、厚み10±1.0μmの銅層を形成した。さらに、ニッケル電解めっきを行い、銅層の表面に厚み0.5μmのニッケル層を形成した。
【0122】
次に、導電フッ素(PFA)収縮チューブ(黒色)を被覆し、380℃で焼成することにより、表面に黒色のフッ素樹脂層Fを有する定着ベルトを作製した。フッ素樹脂層Fの厚みは29.9μmであった。
【0123】
比較例3 ポリイミド樹脂層にニッケル系微粒子が無い場合
比較例2で得た無端管状ベルトの外周面をアルカリエッチング処理した。その後、実施例2に示すような無電解めっきを用いて、該ベルト表面にニッケル層を形成した。得られたニッケル層の厚みは6μmであった。このニッケル層が形成された無端管状ベルトを陰極とし、純銅板を陽極として、次の条件で銅電解めっきを行った。無端管状ベルトをめっき浴槽内に、円回転できる状態に配置し、撹拌用プロペラを配置した。そして、無端管状ベルトを回転させながら、両極に電気を流して、厚み10±1.0μmの銅層を形成した。さらに、ニッケル電解めっきを行い、銅層の表面に厚み0.5μmのニッケル層を形成した。
【0124】
次に、導電フッ素(PFA)収縮チューブ(黒色)を被覆し、380℃で焼成することにより、表面に黒色のフッ素樹脂層Fを有する定着ベルトを作製した。フッ素樹脂層Fの厚みは29.9μmであった。
【0125】
比較例4 銅層が無い場合
実施例1と同様に無端管状ベルトを陰極とし、ニッケル電解めっきを行い10±1.0μmのニッケル層を形成した。
【0126】
次に、導電フッ素(PFA)収縮チューブ(黒色)を被覆し、380℃で焼成することにより、表面に黒色のフッ素樹脂層Fを有する定着ベルトを作製した。フッ素樹脂層Fの厚みは29.9μmであった。
【0127】
【表1】

【符号の説明】
【0128】
1:無端環状ベルト
2:断熱ローラー
3:電磁誘導加熱装置
4:放射温度計
A:Ni含有ポリイミド樹脂層
B:Ni層
C:発熱層
D:Ni層
E:シリコーンゴム層
F:フッ素系樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周側から外周側にかけて、ポリイミド樹脂層A、ニッケル層B、発熱層C(ニッケルより固有抵抗が小さい金属を含む層)及びニッケル層Dの順で積層され、該ポリイミド樹脂層Aがポリイミド樹脂及びニッケル系微粒子を含むことを特徴とする多層無端管状ベルト。
【請求項2】
前記発熱層Cが電解めっき法により形成された銅又は銀を含む層である請求項1に記載の多層無端管状ベルト。
【請求項3】
前記ニッケル層Bの厚みが0.1〜9μmであり、前記発熱層Cの厚みが3〜30μmである請求項1又は2に記載の多層無端管状ベルト。
【請求項4】
前記ポリイミド樹脂層A中のニッケル系微粒子が、ポリイミド樹脂層Aのニッケル層B側の表面部分に偏在又は露出している請求項1、2又は3に記載の多層無端管状ベルト。
【請求項5】
前記ポリイミド樹脂層Aの厚みが40〜120μmである請求項1〜4のいずれかに記載の多層無端管状ベルト。
【請求項6】
前記ポリイミド樹脂層Aがさらに導電性カーボンブラックを含む請求項1〜5のいずれかに記載の多層無端管状ベルト。
【請求項7】
外周側にさらにシリコーンゴム層Eを有する請求項1〜6のいずれかに記載の多層無端管状ベルト。
【請求項8】
外周側にさらにフッ素系樹脂層Fを有する請求項1〜7のいずれかに記載の多層無端管状ベルト。
【請求項9】
前記請求項1に記載の多層無端管状ベルトからなる定着ベルト。
【請求項10】
内周側から外周側にかけて、ポリイミド樹脂層A、ニッケル層B、発熱層C及びニッケル層Dの順で積層された多層無端管状ベルトの製造方法であって、
(1)ニッケル系微粒子を含むポリアミック酸溶液を回転成形して、外周表面部分にニッケル系微粒子が偏在又は露出したポリイミド管状物(ポリイミド樹脂層A)を形成する工程、
(2)該ポリイミド管状物の外周表面上にニッケル層Bを形成する工程、
(3)該ニッケル層Bが形成されたポリイミド管状物の該ニッケル層Bの外周表面上に電解めっき法により発熱層Cを形成する工程、及び
(4)該金属層Cが形成されたポリイミド管状物の該金属層Cの外周表面上にニッケル層Dを形成する工程、
を含むことを特徴とする多層無端管状ベルトの製造方法。
【請求項11】
前記請求項10に記載の多層無端管状ベルトの製造方法であって、
(1)ニッケル系微粒子を含むポリアミック酸溶液を回転成形して、外周表面部分にニッケル系微粒子が偏在又は露出したポリイミド管状物(ポリイミド樹脂層A)を形成する工程、
(2)該ポリイミド管状物の外周表面上に電解めっき法又は無電解めっき法によりニッケル層Bを形成する工程、
(3)該ニッケル層Bが形成されたポリイミド管状物の該ニッケル層Bの外周表面上に電解めっき法により発熱層Cを形成する工程、及び
(4)該金属層Cが形成されたポリイミド管状物の該金属層Cの外周表面上に電解めっき法又は無電解めっき法によりニッケル層Dを形成する工程、
を含むことを特徴とする多層無端管状ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−115976(P2011−115976A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273495(P2009−273495)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】