説明

電磁調理器用加熱体と電磁調理器用食器

ガスでしか加熱出来なかった石鍋を電磁調理器で加熱出来るようにした。また、陶器の持つ形、色、軽さの特徴を残し、石から発生する遠赤外線の効果を調理に活かせる、電磁調理器で加熱できる食器を提供する。
【課題】
石は硬いが伸びがないため、加熱のとき温度差が生じるとひび割れを発生する。また電磁調理器で加熱すると石の面が膨らんだり、剥離したりするのが問題であった。
【解決手段】
石の加熱される部分と、加熱されない周辺部を切り離し、温度差による障害を排除した。また、電磁調理器で発熱するカーボンの板と、これと密着する石の板との隙間を外部と連通させることで、石の板を下から押し上げる力をなくし、発熱部分のひび割れを防ぐことが出来た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
自然石で作られた石鍋や焼肉用石板など、脆くてひび割れし易い材質の食器にカーボン板を発熱体として取り付け、電磁調理器で調理出来るようにする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開平7−303569には土鍋の内側底面にカーボンの板を取り付ける構造のものが開示されている。そして、カーボンで発生した熱が土鍋に伝わらないように、カーボン板と土鍋との間に断熱空間を設け、断熱空間の空気の逃げ道として土鍋の底に小さな穴を開けた土鍋が示されている。この構造では電磁調理器の表面と発熱体であるカーボンとの距離が大きく、電磁調理器の発熱効率が悪いという欠点があった。
また、特登録第3202186号には土鍋の底の大部分をくり抜いて桶状にし、くり抜いたところに表面を塗装したカーボンの板を嵌め込んだ構造の土鍋が示されている。この土鍋は発熱体となるカーボンの板が電磁調理器の表面に接することとなり発熱効率は向上するが、陶器表面の釉薬面に比べて塗装面の耐久性が劣ることと、石鍋料理のように石にこだわる需要家には石でない塗装面に抵抗があった。
また、前掲の特開平7−303569には土鍋の底を薄く削って内側の釉薬層のみを残し、削られた底面にカーボンを接着固定する案も示されている。
【0003】
そこで、石鍋を電磁調理器で使用出来るようにするため、石鍋の底面を2〜4ミリに薄く削り外側からカーボンの板を接着した。しかし、電磁調理器で加熱すると石鍋周囲の縁の部分から立ち上がり部分の下の方にかけてひびが発生する。このひび割れは石鍋の底の温度が高くなるに従い巾が大きくなり、逆に石鍋の温度が下がるとひび割れの巾は見えなくなる程に細くなる。そして、このひびはカーボンで加熱されている部分までは到達せず、熱せられない部分のみに発生する。更に、ひびの発生状態を調べるため、厚さが7ミリで直径280ミリの石の円板に、厚さが8ミリで直径220ミリのカーボン板を接着して、2キロワットの電磁調理器で加熱したところ、始めはひびは全く見られなかったが、石の温度が中央部分で300℃、周辺部分で80℃ほどになったとき、巾0.7ミリ長さ30ミリ程のひびが周辺部より中心に向かって現れた。加熱を止めると、中心付近の温度は下がり始めるが、周辺部の温度は中心部からの伝熱によって上昇し、中心付近が180℃、周辺部が105℃になった頃にはひびは全く見られなくなった。再度加熱したとき、周辺部が50℃、中心付近220℃で再びひびが現れ、周辺が82℃、中心部300℃のときには、はっきり見える太さにまでなった。またひびの数は1本で長さは再現テストの状態で42ミリで、その後は全くひび割れは発生しなかった。
【0004】
これらのことから、ひびの発生はカーボンによって加熱された部分の石が膨張し、石全体を押し拡げる力が働き、加熱されていない部分は広がる巾だけひびになったと考えられる。また、加熱されている部分にひびが伸びて行かないのは、石が加熱によってすでに膨張していて、それ以上に広がる必要がないためと考えられる。しかし、石鍋の底を薄く削って、カーボンの板をシリコン樹脂で全面密着した電磁調理器用石鍋を、実際の調理に使用すると、加熱されている中央部分が膨らんだり、ひびが発生したり、更に部分的に剥落する不具合が発生することがある。この現象は前述の周辺部に発生するひび割れのメカニズムとは異なるものであった。
【0005】
従来、表面部材となる石の板とカーボン板とは全面隙間なくシリコン樹脂で埋め尽くすように、両者に圧力をかけて樹脂の層を薄くしながら硬化接着していた。したがって、接着面には隙間はないものと考えていた。しかし、石の板が膨れる現象は石の板の下から石板を押し上げる力が働くのではないかと考えられる。石の下から石の板を押し上げる力があるとすれば、その原因は接着の際にシリコン樹脂の層に空洞が出来たまま硬化し、密閉された空洞が形成されたのではないか。そして、電磁調理器による急激な加熱によって空洞内の空気が膨張して石の板を僅かに押し上げたのではないかと考えられる。
【0006】
石の板は硬いが伸びがなく、脆いため下からの力で押し上げられると簡単にひびが入ることは容易に想像される。始めは小さなひびであるが、使用をくり返すうちに水洗いなどで、この小さなひびに水分がしみ込んだ場合、電磁調理器で急激に加熱されると、水は一気に水蒸気になって体積が膨張し、ひび割れを拡げて蒸発すると考えられる。ひびから水が染み込んだとすると同じ箇所から抜けて行く筈であるが、水蒸気の圧力は大きいため石を押し上げ、ひびは次第に長くなり、染み込む水の量も増えることになる。
また、染み込んだ水の量が多い場合は水蒸気の量も増え、石を押し上げる力も大きくなり、石を部分的に剥離させ吹き飛ばす結果になったのではないかと思われる。
【特許文献1】特登録第3202186号
【特許文献2】特開平7−303569
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、石鍋の底を削って薄くした面にカーボンの板を固着させた電磁調理器用石鍋において、石鍋の内側底面に時により発生する膨れやひび割れ、および部分的な剥落などの不具合を防ぐにはどのようにすれば良いか、また石鍋周囲の立ち上がり部分に発生するひび割れを防ぐにはどのようにすれば良いか、を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
石鍋内側底面の膨れやひび割れの原因は、薄く削られた石をカーボン面から押し上げる力が働くためと思われる。また、内側底面の一部が剥がれたり、一部が吹き飛ぶ不具合もカーボン面から押し上げる力が極端に強く働いたとき発生すると思われる。これらに共通する原因は、石とカーボンとの隙間に密閉または密閉に近い空洞があり、そこに空気や水が存在したとき電磁調理器で加熱されると、空洞内の空気や水が一気に膨張したために起こったものと考えられる。
したがって、対策は密閉または密閉に近い状態をなくする事である。密閉は外部に通じる通路がない状態であるから、外部に通じる通路を確保すればよいことになる。容易に実施出来る方法は、石とカーボンとを全面で貼り合わせないことである。石とカーボンとの間に隙間を設けて対向させ、機械的に動かないようにしたり、石とカーボンが外れないように部分的に接着することである。また、対向している隙間に外部に通じる通路を設けることである。ここで述べる対向とは、石の板とカーボンの板とが密着した状態だけでなく、僅かな隙間を作って固定されている状態を含んでいる。僅かな隙間とは2ミリ以下程度を指している。
【0009】
もうひとつの方法は、密閉状態の空間を全く作らないで石とカーボンとを接着剤で固着することである。例えば、真空中で接着を完了させるのもひとつの方法であるし、また、接着剤を石またはカーボン板の接着面中央付近に分厚く垂らしておき、上から石またはカーボン板を乗せ、空気が入らないように接着剤が全面に広がって行くように上から圧力を加える。この場合は空気の泡や接着面の小さな窪みなどに空気が残る事のないように留意する必要がある。また、接着剤の粘度にも影響されるので、その点も考慮して作業すべきである。
【0010】
次に、石鍋周囲の立ち上がり部分の端面より下方および中心方向にひびが入るのを防止する方法である。ひびの入る原因が直径280ミリの石の円板の場合、100℃以上の温度差が出来るとひびが入る可能性があり、220℃の温度差があるとひびがはっきり確認され、温度差が無くなるとひびは見えなくなる。したがって対策は、石鍋の場合はカーボンで加熱される部分を石鍋本体より切り離し、0.2ミリ以上の隙間を設けて弾性を有するシール材や接着剤で水が漏れないように再び一体化する。この方法を取ることにより、カーボンの発熱で石が加熱され膨張したとしても、弾性のある全周のシール材で膨張を吸収させて加熱された石が周囲にひびを発生させる力をなくしてしまうのである。
【発明の効果】
【0011】
今まで自然石だからひび割れが発生するのは当然のこととされてきた石鍋も、本発明によってひび割れを防ぎ、かつ、遠赤外線を出す石の持ち味を生かしつつ、電磁調理器で効率的に石鍋料理を楽しむことが出来るようになった。従来の石鍋の底部の厚さは平均15ミリと厚いものであるが、本発明による場合、石の厚みは5ミリ前後となり熱が通りやすく、早く沸騰するため省エネ効果も大きい。石鍋料理に拘る需要家は、石鍋の内面もシール部分以外は全部石であるため、従来の石鍋と同様に料理を楽しむことが出来る。
【0012】
また、発熱体の表面部材は石鍋の石と同じ物が使用出来、石鍋と表面部材との組み合わせは自由に行えるので、陶器の鍋に石の表面部材を付けた発熱体を取り付け、電磁調理器用の鍋を作ることも出来る。この場合の鍋は土鍋ほどの強い耐熱性がない素材でも、熱は100℃の水から伝わるだけなので安全に使用することが出来る。また、発熱体のカーボンと表面部材との熱膨張の差が大きい場合はカーボンと表面部材とを対向させるだけで、全面を接着剤で固着させてはならない。両者の熱膨張による面積の差を弾力のある接着剤で吸収させたり、接着剤を使用せず機械的に係止させることで、それぞれの面の伸びを自由にさせ、表面部材がカーボン板の熱膨張の影響を受けて起こる歪みを防止することが出来る。この場合も対向する面の間の隙間と外部とをカーボン板に開けた穴により連通させておく。連通する穴によって隙間内の圧力が高くならないから、表面部材が膨れたり剥がれたりすることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
石鍋に電磁調理器で発熱する部分を嵌め込むための貫通した穴を開ける。この穴に穴より少し小さい発熱体を嵌め込み、弾性のあるシリコン樹脂などで接着シールして一体化する。発熱体は貫通する直径5ミリほどの穴を複数開けたカーボンの板を表面部材となる石の板とを同じ形に切り揃え、表面部材の石の板と合わせて、周辺の端面のところに接着剤を塗り外れないように固着させる。この発熱体を石鍋の底に開けた穴に嵌め込む。石鍋と発熱体との隙間にシリコン樹脂など弾性のある接着剤で水漏れしないようにシール接着する。こうして、発熱体に対向して固定された石の板は全面に発熱体からほぼ均一な熱を受けるため石の表面の温度むらは100℃以上にはならない。
【0014】
発熱体はカーボンの板と表面部材となる石の板の対向する面に、接着剤を点状に部分的に置き、両者を合わせ押さえて固着させてもよい。ただ、対向する面の隙間が全て外部と連通していることが重要である。この場合はカーボンに穴を開けなくてもカーボンと石との合わせ目の端面の隙間を空気の出入り口として用いる事が出来る。ただ、石鍋の穴に嵌め込んで接着するとき、端面の隙間が全部塞がらないようにする必要がある。
また、発熱体と表面部材とを対向させた全面で空洞が全くない状態に接着剤で埋め尽くして一体化して、石鍋に開けた穴に弾性のある接着剤でシール固着してもよい。また、このシール材は食品に触れることになるので食品衛生上有害な成分を含まないシリコン樹脂を選んで用いる必要がある。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の1実施例で、石鍋(1)に開けた穴の中に石の板(2)とカーボン板(3)とを僅かな隙間を空けて周辺部で接着剤(6)により密着させた発熱体を置き、発熱体の周辺部分で石鍋(1)と密着シールして一体化したものである。接着シール(5)には東芝シリコン株式会社製のTSEー322(商品名)を用いた。カーボンの表面は無機塗料で黒色に塗装してカーボンの汚れがテーブルに付かないようにした。また、石の板は厚さ4ミリのものを用いたが、2ミリにしてカーボンの熱が、より早く食材に伝わるようにしても良い。石の板には上から押さえる力は加わるが、カーボンの板で支えられ凹む心配はない。また、対向面の隙間は外部と空気通路(4)により通じているので石の板(2)は下から押し上げられることはなく、ひび割れせずに使用出来るようになった。
【実施例2】
【0016】
図2は、発熱体のひとつの実施例であって、石の板(2)とカーボン板(3)が対向する面の間に接着剤(6)を点在させて接着し一体化している。対向面の隙間は接着剤の間を縫うように繋がっていて、隙間の端面から外部に通じている。発熱体は石鍋に限らず、土鍋や焼肉皿、また、耐熱性が土鍋ほど良くない陶器や磁器にも嵌め込んで用いることが出来る。また、大きな面積の石の板の一部に穴を開けて、そこに発熱体を嵌め込み、電磁調理器で加熱できる焼肉用石板とすることも出来る。また、表面部材(2)は石に限らず、ガラスやセラミックスの板など、水が染み込まない素材を用いることが出来る。水が染み込む材質の場合は対向する面の隙間から水が漏れてしまうので、この方式は用いることが出来ない。水が染み込む素材の場合は対向する面を接着剤で埋め尽くし、密閉された空洞が存在しないようにした発熱体を用いる。
【実施例3】
【0017】
図3は、陶器の皿(7)に石の板(2)をを付けた発熱体を取り付け、電磁調理器で利用出来る陶板皿としたもので、発熱体の表面部材に石の板を用いているので、石の板特有の料理に有効な遠赤外線を出すので、より美味しい料理を楽しむことが出来る。このように、石の持つ特徴を陶器の食器に活かすことが出来るようになった。また、石鍋は重くて扱い難かったが、陶器と合体させることで、扱いやすい石鍋料理を楽しむことが出来るようになった。
【産業上の利用可能性】
【0018】
厨房の電化が進む社会となって来たため、石鍋も電気で加熱したいという要望が強くなってきた。この要望に応え得るものとして、本発明の電磁調理器で加熱出来る石鍋は、将来に亘って利用されるものと思われる。また、電磁調理器で加熱出来るため、ガス加熱に比べて省エネルギーとなる。また、石の食器の長所を陶器の容器に取り込んだ新しい食器として利用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の1実施例の断面を示す説明図である。石鍋(1)の底に穴を開け、石の板(2)とカーボン板(3)とを僅かな隙間を空けて対向させ、周辺部で接着剤(6)により固着し、この発熱体を石鍋(1)の穴に嵌め込み、弾性のある接着剤(5)で石鍋(1)と発熱体とを固着し一体化させたものである。カーボン板(3)には空気抜き用の5ミリほどの小さな穴(4)を複数個開けておく。
【図2】本発明の発熱体単体の断面を示す説明図である。表面部材(2)とカーボン板(3)とを僅かな隙間を設けて対向させ、その間に接着剤(6)を点在させて固着し一体化したものである。隙間は外部と通じており、密閉された空洞部が存在しないように接着する。
【図3】本発明の発熱体を陶器の皿に取り付けた実施例を示す断面図である。陶器の皿(7)の底に穴を開け、本発明の発熱体を嵌め込み、周辺を弾性のある接着剤(5)で固着し一体化させた。表面部材(2)は石の板で、石の板の裏面に貼り付けたカーボン板(3)には空気通路の穴(4)が斜めに開けてある。また、カーボン板が電磁調理器と密着しないように、カーボン板を少し浮かせる足を設けている。
【符号の説明】
【0020】
1 石鍋
2 石の板
3 カーボン板
4 空気通路
5 弾性のあるシール部材
6 接着剤
7 陶器の皿

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食器の底面を貫通する穴に嵌め込んで用いる電磁調理器用加熱体であって、加熱体が板状の表面部材と板状のカーボンとからなり、表面部材とカーボンとが対向した状態で固着しており、対向面の隙間が外部と繋がっていることを特徴とする電磁調理器用加熱体。
【請求項2】
表面部材とカーボンとの密着面の隙間に耐熱接着剤を充填したことを特徴とする請求項1記載の電磁調理器用加熱体。
【請求項3】
食器の底面に貫通する穴を開け、この穴より少し小さい大きさの請求項1,2記載の加熱体を嵌め込み、食器と加熱体との隙間をシール接着して一体化させたことを特徴とする電磁調理器用食器。
【請求項4】
表面部材が自然石から成ることを特徴とする請求項1,2,3記載の電磁調理器用加熱体。
【請求項5】
表面部材が陶器、ガラス、セラミックスなどで作られていることを特徴とする請求項1,2,3記載の電磁調理器用加熱体

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−330353(P2007−330353A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162960(P2006−162960)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000198514)
【Fターム(参考)】