説明

電磁駆動機構、この電磁駆動機構を用いた電磁弁およびこの電磁弁を用いた電磁吸入弁を備えた可変流量式高圧燃料供給ポンプ

【課題】ロッドのストロークを精度良く調整することができ、磁気力の低下が少なく、アンカーがロッドから離脱しない電磁駆動機構およびその電磁駆動機構を用いた電磁弁、その電磁弁で構成された電磁吸入弁を備えた可変容量型高圧燃料供給ポンプを提供する。
【解決手段】一端に配置されたロッド31bにアンカー31dを固定し、アンカー31dとロッド31bの結合位置によって前記ロッド31bのストローク(可動範囲)を決定する場合、アンカー31dをロッド31bに圧入嵌合し、結合子でストローク量を調整しながらアンカー31dとロッド31bの位置を固定し、この結合子の固定位置によってストロークを決定する。このようにすることで、結合子の嵌合作業によってロッド31bのストロークを容易に決定でき、各部位の公差は結合子の嵌合調整によって吸収できるので、各部品の精度が悪くてもロッド31bのストロークを適切に管理する事ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変流量式高圧燃料供給ポンプの電磁吸入弁などに用いる電磁弁および電磁駆動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第3902388号公報に記載されている従来の高圧燃料供給ポンプでは、燃料噴射弁に供給する高圧燃料の量を調整する電磁吸入弁を備えている。電磁吸入弁のコイルが無通電状態では、吸入弁はばねの付勢力により開弁状態にある。コイルに通電すると電磁吸入弁に発生した磁気力によって吸入弁は閉弁可能となる。よって、コイルの通電有無によって吸入弁の開閉運動を制御することができ、これにより吐出燃料の供給量を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3902388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この従来技術による電磁吸入弁に用いる電磁駆動機構の構成では、プランジャとアンカーが一体の切削加工品か若しくは加締めによる一体加工品のため、プランジャロッドのストローク,アンカーと固定コアとの磁気空隙の寸法とを正確に設定することが難しかった。このため、電磁駆動機構のプランジャロッドのストロークあるいは応答性が均一にならないという問題があった。本発明の目的は、プランジャロッドのストローク,アンカーと固定コアとの磁気空隙の寸法とを同時に設定できるようにすることで、この問題を解消する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するために、電磁駆動機構の、アンカーの固定コア側でロッド上に固定され、アンカーとロッドとの位置を固定するアジャスターを設けた。
【発明の効果】
【0006】
このように構成された本発明によれば、電磁駆動機構のプランジャロッドのストロークと磁気空隙を精度良くセットすることができる。したがって、高圧燃料ポンプの電磁吸入弁などに使用した場合、応答性の向上と吐出量の制御精度の向上の両方が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明が実施された第1実施例による高圧燃料供給ポンプの縦断面図である。
【図2】本発明が実施された第1実施例による高圧燃料供給ポンプの電磁吸入弁の拡大縦断面図であり、電磁吸入弁が開弁状態にある状態を示す。
【図3】本発明が実施された第1実施例による高圧燃料供給ポンプの電磁吸入弁の拡大縦断面図であり、電磁吸入弁が閉弁状態にある状態を示す。
【図4】本発明が実施された第1実施例による高圧燃料供給ポンプの別の縦断面図である。
【図5】本発明が実施された第1実施例による高圧燃料供給ポンプを含むシステム図である。
【図6】本発明が実施された第1実施例による高圧燃料供給ポンプの、電磁吸入弁の組み立て方を示した図である。
【図7】本発明が実施された第2実施例による高圧燃料供給ポンプの電磁吸入弁の拡大縦断面図であり、電磁吸入弁が開弁状態にある状態を示す。
【図8】本発明が実施された第2実施例による高圧燃料供給ポンプの電磁吸入弁の拡大縦断面図であり、電磁吸入弁が閉弁状態にある状態を示す。
【図9】本発明が実施された第2実施例による高圧燃料供給ポンプを含むシステム図である。
【図10】本発明が実施された第2実施例による高圧燃料供給ポンプの、電磁吸入弁の組み立て方を示した図である。
【図11】本発明が実施された第3実施例による高圧燃料供給ポンプの電磁吸入弁の拡大縦断面図であり、電磁吸入弁が開弁状態にある状態を示す。
【図12】本発明が実施された第3実施例による高圧燃料供給ポンプの電磁吸入弁の拡大縦断面図であり、電磁吸入弁が閉弁状態にある状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面に示す実施例に基づき本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0009】
図1ないし図6に基づき第1の実施例を説明する。
【0010】
ポンプハウジング1には加圧室11を形成するためのカップ型の凹所11Aが設けられている。凹所11A(加圧室11)の開口部にはシリンダ6が嵌合されている。ホルダ7をねじ部1bにて螺合することによってシリンダ6の端部がホルダ7によってポンプハウジング1の加圧室11の開口部に設けた段付部16Aに押し付けられる。
【0011】
シリンダ6とポンプハウジング1は段付部16Aで圧接され、金属接触による燃料シール部を形成する。シリンダ6には中心にプランジャ2の貫通孔(摺動孔とも呼ぶ)が設けられている。プランジャ2はシリンダ6の貫通孔に往復動可能に遊嵌されている。ホルダ7の外周にはねじ部1bの反加圧室11側の位置にシールリング62が装着されている。シールリング62はホルダ7の外周とポンプハウジング1の凹所11Aの内周壁との間を燃料の漏れないようにシール部を形成する。
【0012】
ホルダ7の反シリンダ6側には内側筒状部71と外側筒状部72の二重の筒状部が形成されている。ホルダ7の内側筒状部71にはプランジャシール装置13が保持されており、プランジャシール装置13はホルダ7の内周とプランジャ2の周面との間に環状低圧室10fを形成している。燃料溜り部67にはプランジャ2とシリンダ6の摺動面から漏れる燃料が捕獲される。
【0013】
プランジャシール装置13は後述するカム5側から燃料溜りとしての環状低圧室10fに潤滑オイルが侵入することも防止している。
【0014】
ホルダ7の反シリンダ6側に形成された外側筒状部72はエンジンブロック100に形成された取付け孔100Aに挿入される。ポンプハウジング1の環状突起11Bの外周にはシールリング61が取付けられている。シールリング61は取付け孔100Aから潤滑オイルが大気中に漏れるのを防止し、また大気から水が浸入するのを防止する。
【0015】
ホルダ7の直径はシールリング62の部分よりもシールリング61の部分の方が大きく構成されている。これは、ポンプハウジング1をエンジンブロックに取付ける際の取付け面積を大きくしてポンプ本体の首振り現象を小さくすることに効果がある。
【0016】
ポンプハウジング1の下端面101Aはエンジンブロックの取付け孔100Aの周囲の取付け面に当接している。ポンプハウジング1の下端面101Aの中心部には環状突起11Bが形成されている。
【0017】
環状突起11Bはエンジンブロック100の取付け孔100Aに遊嵌しており、ホルダ7の外側筒状部72の外径とほぼ同じ外径を有するが、ポンプ本体の首振りは環状突起11Bと下端面101Aとで受けるよう配慮される。
【0018】
プランジャ2はシリンダ6に滑合する大径部2aの直径よりもシリンダから反加圧室側に延びる小径部2bの直径の方が小さく形成されている。その結果プランジャシール装置13の外径を小さくでき、この部分でホルダ7に二重の筒状部71,72を形成するスペースが確保できる。直径が細くなっているプランジャ2の小径部2bの先端部にはばね受け15が固定されている。ホルダ7とばね受け15との間にはばね4が設けられている。
【0019】
ばね4の一端はホルダ7の内周側筒状部71の周りで外周筒状部72の内側に装着されている。ばね4の他端は有底筒状の金属で構成されるばね受け15の外側に配置される。
【0020】
タペット3の筒状部31Aは取付け穴100Aの内周部に遊嵌されている。タペット3の底部31Bの内表面にはプランジャ2の下端部21Aが当接している。タペット3の底部31Bの中央部には回転ローラ3Aが取付けられている。ローラ3Aはカム5の表面にばね4の力を受けて押し付けられている。その結果カム5が回転するとカム5のプロフィールに沿ってタペット3とプランジャ2が上下に往復動する。プランジャ2が往復動するとプランジャ2の加圧室側端部2Bは加圧室11に入ったり出たりする。プランジャ2の加圧室側端部2Bが加圧室11に進入するとき加圧室11内の燃料が高圧に加圧されて高圧通路に吐出される。またプランジャ2の加圧室側端部2Bが加圧室11から後退するとき加圧室11内に吸入通路30aから燃料が吸入される。カム5はエンジンのクランクシャフトあるいはオーバヘッドカムシャフトによって回転される。
【0021】
カム5が図1に示す3葉カム(カム山が3つ)の場合、クランクシャフトあるいはオーバヘッドカムシャフトが1回転するとプランジャ2は3往復する。4サイクルエンジンの場合、1燃焼行程でクランクシャフトは2回転する。3葉カムの場合、クランクシャフトでカム5を回転する場合、1燃焼サイクルの間(基本的には燃料噴射弁がシリンダに1回燃料を噴射する)にカムは6往復して燃料を6回加圧し吐出する。
【0022】
ポンプハウジング1の頭部にはダンパカバー14が固定されている。ダンパカバー14にはジョイント101が設けられており、低圧燃料口10aを形成している。ジョイント101の内側にはフィルター102が装着されている。ダンパカバー14とポンプハウジング1との間に区画形成される低圧室10b,10cには、燃料圧力脈動を低減するための圧力脈動低減機構9が収容されている。圧力脈動低減機構9はその上下両面にはそれぞれ低圧室10b,10cが設けられている。
【0023】
吐出口12は、ポンプハウジング1にねじ止若しくは溶接によって固定されたジョイント103で形成されている。
【0024】
燃料は、ジョイント101の低圧燃料口10a−低圧室10b−低圧室10c−吸入通路30a−加圧室11−吐出口12に至る燃料通路と、低圧室10c−低圧燃料通路10e−環状低圧通路10h−ホルダ7に設けられた溝7a−環状低圧室10fも連通されている。この結果、プランジャ2が往復動すると環状低圧室10fの容積が増減して、低圧室10cと環状低圧室10fとの間で燃料が行き来する。これによりプランジャと2とシリンダ6の摺動熱で暖められた環状低圧室10fの燃料の熱は、低圧室10cの燃料と熱交換され、冷却される。
【0025】
加圧室11の入口の吸入通路30aには電磁吸入弁30が設けられている。電磁吸入弁30内には吸入弁組体31が設けられている。ばね33によって吸入口30Aを開く方向に付勢力されている。これにより電磁吸入弁30は無通電状態では吸入通路30aと加圧室11を連通している。
【0026】
加圧室11の出口には吐出弁ユニット8が設けられている。吐出弁ユニット8は吐出弁シート8a,吐出弁シート8aと接離する吐出弁8b,吐出弁8bを吐出弁シート8aに向かって付勢する吐出弁ばね8c,吐出弁8bと吐出弁シート8aとを収容する吐出弁ホルダ8dから構成され、吐出弁シート8aと吐出弁ホルダ8dとは当接部で溶接8eにより接合されて一体のユニットを形成している。
【0027】
なお、吐出弁ホルダ8dの内部には、吐出弁8bのストロークを規制するストッパを形成する段付部8fが設けられている。
【0028】
加圧室11と吐出口12に燃料差圧がない状態では、吐出弁8bは吐出弁ばね8cによる付勢力で吐出弁シート8aに圧着され閉弁状態となっている。加圧室11の燃料圧力が、吐出口12の燃料圧力よりも大きくなった時に始めて、吐出弁8bは吐出弁ばね8cに逆らって開弁し、加圧室11内の燃料は吐出口12を経て高圧燃料容積室23としてのコモンレールへと高圧吐出される。吐出弁8bは開弁した際、吐出弁ストッパ8fと接触し、ストロークが制限される。したがって、吐出弁8bのストロークは吐出弁ストッパ8dによって適切に決定される。これによりストロークが大きすぎて、吐出弁8bの閉じ遅れにより、吐出口12へ高圧吐出された燃料が、再び加圧室11内に逆流してしまうのを防止でき、高圧ポンプの効率低下が抑制できる。また、吐出弁8bが開弁および閉弁運動を繰り返す時に、吐出弁8bがストローク方向にのみ運動するように、吐出弁ホルダ8dの内周面にてガイドしている。以上のようにすることで、吐出弁ユニット8は燃料の流通方向を制限する逆止弁となる。
【0029】
シリンダ6は外周がホルダ7で保持され、ホルダ7の外周に螺刻されたねじを、ポンプ本体に螺刻されたねじにねじ込むことによってねじ部1bにおいてポンプハウジング1に固定される。プランジャ2は大径部2aと小径部2bからなる。シリンダ6は加圧部材であるプランジャ2を大径部2aにて上下に摺動可能に保持する。プランジャ2の下端には、カム5の回転運動を上下運動に変換し、プランジャ2に伝達するリテーナ15が嵌合によってプランジャ2に固定されており、プランジャ2はリテーナ15を介してばね4にてタペット3の底部内面に押し付けられている。これによりカム5の回転運動に伴い、プランジャ2を上下に運動させることができる。また、プランジャ2の小径部2bはシリンダ6の図中下側でプランジャシール装置13によりシールされ、ガソリン(燃料)が高圧燃料供給ポンプのから内燃機関の内部に漏れることを防止する。同時に内燃機関の摺動部を潤滑する潤滑油(エンジンオイルでも良い)がポンプハウジング1の内部に流入するのを防止する。
【0030】
これらの構成により、加圧室11は、電磁吸入弁30,吐出弁ユニット8,プランジャ2,シリンダ6,ポンプハウジング1にて構成される。
【0031】
燃料は燃料タンク20から低圧燃料供給ポンプ21にて、吸入配管28を通してポンプの低圧燃料口10aに導かれる。低圧燃料供給ポンプ21は、エンジンコントロールユニット27(以後、ECUと称す)からの信号によって低圧燃料口10aへの吸入燃料を一定の圧力に調圧する。
【0032】
また、高圧燃料供給ポンプの加圧室11で加圧された高圧燃料が吐出口12から高圧燃料容積室23へ供給される。高圧燃料容積室23には、高圧燃料噴射弁24,圧力センサ26が装着されている。高圧燃料噴射弁24は、内燃機関の気筒数に合わせて装着されており、ECU27の信号に基づいて内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する。
【0033】
次に、高圧吐出される燃料の量を調整する電磁吸入弁30について図2,図3を用いて説明する。
【0034】
吸入弁組体31はバルブ31aが一端部に形成されたロッド31b、ロッド31bの軸方向のほぼ中央部に圧入固定されたストローク制限部材31c、ストローク制限部材31cの位置まで圧入されたアンカー31d、アンカー31dとストローク制限部材31cの位置を調整すると共に溶接固定部31fにおいてロッド31bにレーザー溶接されることでアンカー31dの抜け止めとして機能するアジャスター31eを備える。
【0035】
ストローク制限部材31c,アンカー31d,アジャスター31eの3つの部材はそれぞれロッド31bに固定されており、ストローク制限部材31cとアンカー31dの一方の端面、アンカー31dの他方の端面とアジャスター31eは軸方向で相互に接触している。結果的にアンカー31dがストローク制限部材31cとアジャスター31eとの間にサンドイッチ状態に固定されている。
【0036】
吸入弁組体31は吸入弁ハウジング301の内部に形成された筒状空間に配置されている。吸入弁ハウジング301の内部の筒状空間の内周部にはガイド34が固定されている。ロッド31bはこのガイド34の中心部に形成された孔を貫通している。ガイド34はバルブ31aとストローク制限部材31cの間に位置し、ロッド31bの往復動を支承している。
【0037】
ガイド34とバルブ31aとの間には吸入弁ハウジング301に圧入固定されたバルブシート部材32Aが設けられている。
【0038】
バルブシート部材32Aは端部にバルブシート(弁座)32を有し、バルブ31aのシート面とバルブシート(弁座)32のシート面とが対面するように配置されている。
【0039】
バルブシート部材32Aは中心に貫通孔を有し、この孔を貫通してロッド31bが配置されている。
【0040】
アンカー31dが固定コア35に吸引されて、ロッド31bが固定コア35側に最大ストロークするとバルブ31aのシート面とバルブシート(弁座)32のシート面とが接触して燃料通路を遮断する。このとき固定コア35とアンカー31dとの間にはわずかなクリアランスが形成されるよう構成されており、固定コア35とアンカー31dとは非接触状態が保たれる。その結果固定コア35の端面あるいはアンカー31dの端面が磨耗することがなく、また接触時の衝突音が発生しないので長寿命で静粛な電磁弁がえられる。
【0041】
ばね33はアジャスター31eの端面と固定コア35の内部底面との間に配置されており、ばね33の付勢力によってアジャスター31eを介してアンカー31dが反固定コア35側に押されている。ストローク制限部材31cはアンカー31d(ロッド31b)の反固定コア35側へのストロークを規制する規制部材としてのガイド34と接触している。端子37を介してコイル36にECUからの入力電圧が印加されていない無通電状態では、このばね33の付勢力により、吸入弁組体31はロッド31bが図1、または図2に示すように図面右方向にストロークして、バルブ31aが開弁状態となっている。バルブ31aとバルブシート32の間に存在する隙間は、バルブ31aの可動範囲であり、これがストロークとなる。
【0042】
カム5の回転により、プランジャ2が吸入行程(上死点位置から下死点位置に移動する間)にある時は、ECUからの入力電圧は印加されていない。バルブ31aは開弁しているので、加圧室11の容積増加に伴ない、燃料は加圧室11に流入する。吸入弁組体31の開弁方向の変位量はガイド34にて規制されており、これ以上開弁することはない。
【0043】
この状態で、プランジャ2は吸入行程を終了し、圧縮行程(下死点から上死点に移動する間)へと移行する。プランジャ2が圧縮行程に移ると、ばね33の付勢力のため、依然としてバルブ31aは開弁したままである。従ってこの状態では、加圧室11の容積がプランジャ2の圧縮運動に伴って減少しても、加圧室11内の燃料が再び開弁状態のバルブ31aを通して吸入通路30a(低圧室10c)へと戻されるので、加圧室の圧力が上昇することはない。この行程を戻し行程(スピル行程とも称す)と呼ぶ。このとき、バルブ31aには、ばね33の付勢力による開弁方向の力と、燃料が加圧室11から低圧室10cへ逆流する時に発生する流体力による閉弁方向の力が働く。戻し工程中にバルブ31aが開弁状態を維持するために、ばね33の付勢力は流体力よりも大きく設定されている。
【0044】
この状態で、端子37を介してECU27からの入力電圧がコイル36に印加されると、コイル36には電流が流れる。流れる電流の波形はコイル36の抵抗値とインダクタンスの値によって決まる。この電流によって、アンカー31dと、固定コア35の間には互いに引き合う磁気力が発生する。この磁気力がばね33の付勢力よりも大きくなると、吸入弁組体31は図中の左側に閉弁運動を開始する。そして、バルブ31aとバルブシート32が接触するとその運動を停止し、バルブ31aは閉弁状態となるが、アンカー31dと固定コア35の間にはクリアランスが存在し、互いに接触することがないように設定されている。バルブ31aが閉弁してから加圧室11の燃料圧力はプランジャ2の上昇運動と共に上昇する。そして、吐出口12の圧力以上になると、吐出弁ユニット8を介して加圧室11に残っている燃料の高圧吐出が行われ、高圧燃料容積室23へ加圧燃料が供給される。この行程を吐出行程と称す。すなわち、プランジャ2による圧縮行程は、戻し行程と吐出行程からなる。
【0045】
吐出行程において、加圧燃料の供給が開始された後、ECU27からの入力電圧を解除できる。これは、加圧室11内の圧力が吐出口12の圧力以上になると、バルブ31aには加圧室11内の圧力により閉弁方向に力が働き、このばね33の付勢力よりも大きくなるためである。これにより、コイル36での消費電力を抑制することができる。
【0046】
そして、コイル36への入力電圧を印加するタイミング(閉弁タイミング)を制御することで、吐出される高圧燃料の量を制御することができる。入力電圧を印加するタイミング(閉弁タイミング)を早くすれば、圧縮行程中の、戻し行程の割合が小さく、吐出行程の割合が大きい。すなわち、吸入通路30a(低圧室10c)に戻される燃料が少なく、高圧吐出される燃料は多くなる。一方、入力電圧を印加するタイミングを遅くすれば、圧縮行程中の、戻し行程の割合が大きく、吐出行程の割合が小さい。すなわち、吸入通路30a(低圧室10c)に戻される燃料が多く、高圧吐出される燃料は少なくなる。入力電圧を解除するタイミングは、ECUからの指令による。
【0047】
プランジャ2が加圧行程を終了し吸入行程を開始すると加圧室11の体積は再び増加を開始し、加圧室11内の圧力は低下する。バルブ31aはばね33の付勢力によって図中の右側へ開弁運動を開始し、ストローク分だけ移動した後、ストローク制限部材31cがガイド34と接触し開弁運動を停止する。そして加圧室11に低圧室10cから30aを通って燃料が流入する。
【0048】
本構造では、バルブ31aのストロークの管理が非常に重要になる。ストロークが大きすぎると、ECU27からの入力電圧が印加され後、バルブ31aが閉弁運動を開始しバルブシート32と接触し完全に閉弁するまでにより長い時間を必要とする。また、アンカー31dと固定コア35の距離も大きくなるために発生する磁気力が小さくなってしまう。そのため、内燃機関の高速運転時(カム高速回転時)に応答性が不足するし、目標とするタイミングで吸入弁を閉弁することができず、高圧吐出される燃料の量を制御できないと言った問題が生じる。ストロークが小さすぎると、この部分でのオリフィス効果が大きくなるので、圧力損失が発生する。例えば燃料温度が60℃のような高温で、内燃機関の高速運転時(カム高速回転時)の場合、吸入行程では低圧室10cから加圧室11に燃料が流れ込む際に、燃料はこの部分で蒸気化してしまい、高圧に加圧できる燃料が減少してしまう。その結果、高圧燃料供給ポンプの容積効率の低下に繋がる、と言った問題があった。また、戻し工程中は、内燃機関の高速運転時(カム高速回転時)では、バルブ31aに発生する流体力(加圧室11から低圧室10cへ逆流する燃料によって発生する閉弁方向の力)が大きくなる。すると戻し工程中の予期しないタイミングでバルブ31aが閉弁してしまい、高圧吐出される燃料の量を制御できないと言った問題が生じる。
【0049】
前記の問題は、次のように高圧燃料ポンプの高圧加圧容量が大きい場合に特に顕著となる。吸入行程では、燃料が低圧室10cから加圧室11に流れ込む際、バルブ31a部のストローク部での流速が速くなり、戻し工程中は、加圧室11から低圧室10cへ流れる燃料の流れが速くなるためである。
【0050】
(1)プランジャ2の大径部2aの直径が大きい場合:例えばφ10、またはそれ以上
(2)カム5のリフトが大きい場合:例えば5.5mmリフトやそれ以上
(3)カムの葉数が大きい場合:4葉カムやそれ以上
高圧燃料ポンプの高圧加圧容量が大きいと、次のような利点がある。内燃機関が停止し、十分に長い時間が経過後の休止状態においては、高圧燃料容積室23の圧力は大気の圧力となっている。この状態で内燃機関を始動する場合、スタータなどの駆動力によってクランクシャフトやカムシャフトは回転(カムシャフト:〜100r/min)し、高圧燃料ポンプは燃料の高圧加圧を開始し、高圧燃料容積室23の圧力は上昇をする。高圧燃料容積室23の圧力が目標の圧力なると、高圧燃料噴射弁24から内燃機関のシリンダ内へ燃料が噴射される。高圧燃料ポンプの高圧加圧容量を大きくすると、高圧燃料容積室23の圧力を、大気圧から目標圧力まで昇圧させる昇圧時間を短くすることができ、内燃機関の始動に要する時間を短縮することができる。これらのことから、高圧燃料ポンプの高圧加圧容量が大きい方が望ましく、その場合はバルブ31aのストロークの管理は非常に重要となる。そのため、本特許の構造では次に示すように組み立てることとした。
【0051】
電磁吸入弁30の組立方法について図6を用いて説明する。まず、吸入弁ハウジング301にバルブシート32を図中下側から、ガイド34を図中上側から圧入固定する。次に、バルブ31aとロッド31bが一体となっている部材を図中下側から挿入する。ストローク制限部材31cはロッド31bに嵌合固定されるが、このとき嵌合治具351,352を用いる。ガイド34を、図中上側から嵌合治具352によってロッド31bに嵌合すると、バルブ31aは嵌合荷重によって嵌合治具351の受け面351bに衝突する。さらに嵌合を続けると、ストローク制限部材31cは、ガイド34と衝突し、バルブシート32が受け面351aに接触するまで嵌合荷重を加え続ける。受け面351aと受け面351bの段差の高さによって、バルブ31aのストロークは決定される。アンカー31dは嵌合治具351と嵌合治具353によってロッド31bに嵌合される。この時、アンカー31dはストローク制限部材31cと接触するまで嵌合する。その後、アジャスター31eを嵌合治具351と嵌合治具354にて、ロッド31bに嵌合固定される。この時、アジャスター31eはアンカー31dと接触するまで嵌合し、その後レーザー溶接にて完全固定する。このようにすることで、レーザー溶接の前の嵌合作業によってストロークを決定でき、バルブ31aの厚さ:Xを厳しく管理すれば、その他も部位の公差は嵌合の位置によって吸収できる。これにより、各部品の精度が悪くてもストロークを適切に管理することができる。さらに溶接固定部31fをレーザー溶接し、ロッド31bとアジャスター31eを完全に固定する。レーザー溶接による固定は、各部品に外力を加えることなく固定することができるので、嵌合固定によって決定したストロークが変化してしまうと言った問題を回避することができる。
【0052】
リング302を吸入弁ハウジング301に図示しない嵌合治具によって嵌合後、固定コア35をリング302に嵌合する。固定コア35の302に嵌合への嵌合位置によってアンカー31dと固定コア35のクリアランスを決定する。嵌合後、溶接固定部302a,302bをレーザー溶接し完全に固定する。ばね33は固定コア35の内側円筒部に収納されて、適切なセット長となるように内側円筒部の深さが加工されている。
【0053】
クリアランスは、バルブ31aのストロークよりも大きく設定しなくてはならない。クリアランスがバルブ31aのストロークよりも小さいと、ECU27からの入力電圧が印加されてバルブ31aが閉弁運動を開始後、アンカー31dが固定コア35と衝突をしてしまう、バルブ31aとシート35が接触せず、吸入弁を完全な閉弁状態にすることができない。また、クリアランスが大き過ぎると、ECU27からの入力電圧がコイル36に印加されても、十分な磁気力が得られない。そのため、吸入弁組体31が閉弁することができない、または応答性が悪くなってしまい内燃機関の高速運転時(カムの高速回転時)に、高圧吐出される燃料の量を制御することができない、と言った問題が発生してしまう。
【0054】
吸入行程、および戻し行程時は、ECU27からの入力電圧がコイル36に印加されておらず、吸入弁ばねによってバルブ31aは開弁状態となっている。この時、ストローク制限部材31cはガイド34と接触し、バルブ31aの開弁方向の位置を規制している。ガイド34とロッド31bと摺動運動を繰り返すので、耐久上の観点から高い硬度が要求され、これらの部品の材料は硬度の高いマルテンサイト系ステンレスとしている。ECU27からの入力電圧がコイル36に印加されると、コイル36の周りには磁場が発生する。そして、磁場を取り巻く磁気回路中で磁束が発生し、アンカー31dと固定コア35の間で互いに引き合う磁気力が発生する。ガイド34の材料であるマルテンサイト系ステンレスは、磁場の中に置かれると内部に磁束を発生する磁性材であることが知られている。そのため、ストローク制限部材31cは非磁性材にする必要がある。ストローク制限部材31cが磁性材であれば、ストローク制限部材31cとガイド34の間にも磁束の流れが発生し、互いに引き合う磁気力を発生する。この磁気力はバルブ31aを開弁方向へ付勢するので、バルブ31aは閉弁することができなくなってしまうためである。加圧行程が終わり、吸入行程になると吸入弁組体31が図中左側へ、ばね33の付勢力によって開弁運動を開始する。そして、ストローク制限部材31cがガイド34と衝突して運動を停止する。この衝突はばね33の付勢力によって発生するものであり、衝突エネルギーは非常に小さい。そのためこの衝突部では高い硬度は要求されない。そのため、本実施例ではストローク制限部材31cの材質に非磁性材であるオーステナイ系ステンレスを採用した。
【0055】
発生する磁気力は、アンカー31dと固定コア35の磁気吸引面Sを流れる磁束が大きい程強くなる。よって、コイル36の回りに発生した磁場による磁束が、アンカー31dと固定コア35の磁気吸引面Sのみを通過し、その他の部分を通過しない磁気回路にすれば、大きな磁気力を得ることができる。図2に示すように、磁束の流れが通過する磁気回路は、アンカー31d,吸入弁ハウジング301,ヨーク38,コネクタホルダ303、および固定コア35の5部材であり、これら5部材の材料は磁性材とした。その他、磁気回路の近傍の部材である、リング302,アジャスター31eは非磁性体とした。もし、リング302やアジャスター31eが磁性体であれば、コイル36の回りに発生した磁場による磁束がこれらの部材を通過してしまい、その結果磁気回路を通過する磁束が低下してしまう。すると、アンカー31dと固定コア35に発生する磁気力が不足し、バルブ31aが閉弁できないと言う問題が発生する。
【0056】
吸入弁組体31は閉弁運動と開弁運動を繰り返す。
【0057】
開弁運動はばね33によって運動し、ストローク制限部材31cとガイド34が衝突し終了する。ストローク制限部材31cとガイド34が衝突するとストローク制限部材31cは運動を停止し、アンカー31d,アジャスター31eも運動を停止する。この時、バルブ31a,ロッド31bは慣性により開弁運動を続けようとするので、ロッド31bがストローク制限部材31c,アンカー31d,アジャスター31eとロッド31bの嵌合部には、ロッド31bが図中右側へ抜ける方向へせん断力が働く。嵌合による固定力のみでは、このせん断力によりロッド31bが抜けてしまうので、アジャスター31eは溶接固定部31fによってロッド31bにレーザー溶接にて溶接固定している。
【0058】
閉弁運動は、ECU27からの入力電圧により発生する磁気力によって吸入弁組体31が閉弁運動を開始し、バルブ31aがバルブシート32に衝突して終了する。バルブ31aがバルブシート32に衝突すると、バルブ31aとロッド31bは運動を停止する。この時、ストローク制限部材31c,アンカー31d,アジャスター31eは慣性により閉弁運動を続けようとするので、ストローク制限部材31c,アンカー31d,アジャスター31eとロッド31bの嵌合部には、図中左側へ抜ける方向へせん断力が働く。アンカー31dにはECU27からの入力電圧により発生する磁気力も発生しているので、これによるせん断力も発生する。嵌合による固定力のみでは、このせん断力によりロッド31bが抜けてしまうので、アジャスター31eは溶接固定部31fによってロッド31bにレーザー溶接にて溶接固定している。
【0059】
以上から、アジャスター31eは閉弁運動と開弁運動の終了時に発生するせん断力によって、ロッド31bがストローク制限部材31c,アンカー31dから抜けてしまうことを防ぐ役目がある。本発明では、前述の通りアジャスター31eをアンカー31dとは別部材とし非磁性体としている。もし、アジャスター31eがアンカー31dと一体でありこの部分が磁性材であれば、磁束がこの部分を通過してしまい磁気吸引面Sを通過する磁束が減少し磁気力が低下してしまう。その結果バルブ31aが閉弁できないと言う問題があった。
【0060】
以上のようにして、吸入弁組体31は図中の左右に開弁運動と閉弁運動を繰り返す。吸入弁組体31のロッド31bとガイド34、およびバルブシート32とのガイド部32aの間には微小なクリアランスが存在するので、吸入弁組体31はこの運動を開弁運動・閉弁運動の方向のみに制限され、摺動可能に保持されている。二箇所のクリアランスは次のように設定されている。クリアランスが大き過ぎると、吸入弁組体31は開弁運動・閉弁運動の方向以外にも運動をしてしまいアンカー31dとリング39が接触をしてしまう。すると、開弁運動・閉弁運動の応答性が悪くなり、内燃機関の高速運転時(カムの高速回転時)にバルブ31aの開弁・閉弁が追従せず、吐出される高圧燃料の量を制御することができなくなってしまう。そこで、アンカー31dとリング39は接触することがないようにクリアランスを設定しなくてはならない。クリアランスが小さ過ぎると、次のような問題が発生する。バルブ31aとロッド31bは一体で成形されているが、互いの直角度は公差の範囲内で必ずバラツキが発生する。二箇所のクリアランスが小さ過ぎると、このクリアランスを吸収できずにバルブ31aがバルブシート32に傾いて接触してしまう。すると加圧室11内の燃料をプランジャ2によって加圧できなくなる。または、バルブ31aとロッド31bの破損と言った問題が生じる。したがって、二箇所のクリアランスは、バルブ31aとロッド31bの直角度を吸収できる大きさでなくてはならない。
【0061】
また、吸入弁組体31が開弁運動・閉弁運動をすれば、固定コア35の内側円筒部内をロッド31bは出入りし、容積が増減する。固定コア35の内側円筒部は燃料で満たされているので燃料も出入りし、そのために2箇所のガイド部(ガイド34,バルブシート32とのガイド部32a)では、図中の左右方向に燃料が往復しなくてはならない。しかし、ガイド34,バルブシート32とのガイド部32aとロッド31bのクリアランスは微小であり、十分な燃料が通過することができず、吸入弁組体31の開弁運動・閉弁運動の応答性を阻害してしまう。そのため、ガイド34、およびバルブシート32にそれぞれ連通孔34a,32bを設けた。このような構造とすることで、燃料の通過を容易にし吸入弁組体31の開弁運動・閉弁運動の応答性を確保することができる。
【0062】
上記の吸入行程,戻し行程、および吐出行程の3つの行程中、吸入通路30a(低圧室10c)には常に燃料が出入りするため、燃料圧力に周期的な脈動が生じる。この圧力脈動は圧力脈動低減機構9にて吸収低減され、低圧燃料供給ポンプ21からポンプハウジング1へ至る吸入配管28への圧力脈動の伝播を遮断し、吸入配管28の破損等を防止すると同時に、安定した燃料圧力で加圧室11に燃料を供給することを可能としている。低圧室10bは低圧室10cと接続しているので、圧力脈動低減機構9の両面に燃料は行き渡り効果的に燃料の圧力脈動を抑える。
【0063】
シリンダ6の下端とプランジャシール装置13の間には環状低圧室10fが存在し、低圧室10c−低圧燃料通路10e−環状低圧通路10h−ホルダ7に設けられた溝7a、と低圧室10cと接続されている。プランジャ2がシリンダ6内で摺動運動を繰り返すと、大径部2aと小径部2bとのアジャスターは環状低圧室10f内で上下運動を繰り返し、環状低圧室10fは容積変化する。吸入行程では環状低圧室10fの容積は減少し、環状低圧室10f内の燃料は低圧通路11eを通って低圧室10cへと流れる。戻し行程、および吐出行程では環状低圧室10fの容積は増加し、低圧室10d内の燃料は低圧通路11eを通って環状低圧室10cへと流れる。
【0064】
低圧室10cに着目すると、吸入行程では低圧室10cから加圧室11に燃料は流入する一方、環状低圧室10fから低圧室10cに燃料が流入する。戻し行程では、加圧室11から低圧室10cに燃料は流入する一方、低圧室10cから環状低圧室10fに燃料が流入する。吐出行程では、低圧室10cから環状低圧室10fに燃料は流入する。このように、環状低圧室10fは低圧室10cへの燃料の出入りを助ける作用があるので、低圧室10cで発生する燃料の圧力脈動を低減する効果がある。
【実施例2】
【0065】
図7ないし図10に基づき第2の実施例を説明する。
【0066】
実施例1との違いは、吸入弁313がロッド31bとは別部材となって分離しており、ロッド31bに閉弁方向への動きを制限する閉弁運動制限部材31gが一体成形されている点である。駆動部31はロッド31b,ストローク制限部材31c,アンカー31d,アジャスター31e,溶接固定部31f,閉弁運動制限部材31gからなる。閉弁ばね33aは一方の端を吸入弁313に接し他端を吸入弁ホルダ39に接触しており、吸入弁313を閉弁方向に付勢している。ばね33の付勢力は閉弁ばね33aの付勢力よりも大きく設定されている。ECU27からの入力電圧が印加されていない状態では、吸入弁313は開弁状態にある。それ以外は、実施例1と同じである。
【0067】
吸入行程において、燃料が低圧室10cから加圧室11に流れ込むとき、吸入弁313には流れる燃料によって開弁方向(図中の右方向)に流体力が働く。流体力が閉弁ばね33aの付勢力より大きくなると、吸入弁313はロッド31bから離れて図中右方向へ移動する。駆動部31はストローク制限部材31cがガイド34と接触し可動範囲を制限されているので、これ以上移動することはない。このようにして、吸入行程において吸入弁313とバルブシート32の隙間はストロークよりも大きくなり、吸入行程時の圧力損失を小さくすることができる。
【0068】
戻し行程では、燃料は加圧室11から低圧室10cへと流れる燃料によって吸入弁313に閉弁方向へ力(流体力)が働く。閉弁ばね33aも吸入弁313を閉弁方向へ付勢しているので吸入弁313はロッド31bと接触した状態で運動を停止している。このとき、吸入弁313とバルブシート32の間の隙間がストロークとなる。
【0069】
この状態で、端子37を介してECU27からの入力電圧がコイル36に印加されると、コイル36には電流が流れる。流れる電流の波形はコイル36の抵抗値とインダクタンスの値によって決まる。この電流によって、アンカー31dと、固定コア35の間には互いに引き合う磁気力が発生する。この磁気力がばね33の付勢力よりも大きくなると、駆動部31は図中の左側に運動を開始する。そして、閉弁運動制限部材31gとガイド部32aの端部が接触するとその運動を停止する。このとき、吸入弁313は閉弁ばね33aの付勢力、および閉弁方向の流体力によって図中の左方向へ閉弁運動し、バルブシート32と接触し閉弁状態となる。この状態で、吸入弁313とロッド31bの先端との間には微小なクリアランスが存在し、アンカー31dと固定コア35の間にもクリアランスが存在し、互いに接触することがないように設定されている。吸入弁313が閉弁してから加圧室11の燃料圧力はプランジャ2の上昇運動と共に上昇する。そして、吐出口12の圧力以上になると、吐出弁ユニット8を介して加圧室11に残っている燃料の高圧吐出が行われ、高圧燃料容積室23へ加圧燃料が供給される。
【0070】
加圧室11内の圧力が吐出口12の圧力以上になり、加圧燃料の供給が開始されればECU27からの入力電圧を解除できる。このとき、ロッド31bはクリアランス分だけ右側へ移動し吸入弁313と接触し、ばね33の付勢力を吸入弁313の開弁方向へ伝達するが、加圧室11内の圧力により閉弁方向に力が働き、ばね33の付勢力よりも大きくなるため、加圧行程中は吸入弁が開弁することはないからである。これにより、コイル36での消費電力を抑制することができる。
【0071】
電磁吸入弁30の組立方法について図10を用いて説明する。まず、吸入弁ハウジング301にバルブシート32を図中下側から、ガイド34を図中上側から圧入固定する。次に、ロッド31bと、閉弁運動制限部材31gが一体となっている部材を図中下側から挿入する。ストローク制限部材31cはロッド31bに嵌合固定されるが、このとき嵌合治具351,352を用いる。ガイド34を、図中上側から嵌合治具352によってロッド31bに嵌合すると、ロッド31bは嵌合荷重によって嵌合治具351の受け面351bに衝突する。さらに嵌合を続けると、ストローク制限部材31cは、ガイド34と衝突し、バルブシート32が受け面351aに接触するまで嵌合荷重を加え続ける。受け面351aと受け面351bの段差の高さによって、吸入弁313のストロークは決定される。本実施例では、ロッド31bのバルブシート32からの出張り長さがストロークとなる。アンカー31dは嵌合治具351と嵌合治具353によってロッド31bに嵌合される。この時、アンカー31dはストローク制限部材31cと接触するまで嵌合する。その後、アジャスター31eを嵌合治具351と嵌合治具354にて、ロッド31bに嵌合固定される。この時、アジャスター31eはアンカー31dと接触するまで嵌合し、その後レーザー溶接にて完全固定する。このようにすることで、レーザー溶接の前の嵌合作業によってストロークを決定できる。本実施例では、ロッド31bのバルブシート32からの出張り長さがストロークなので、各部品の公差はストロークには影響しない利点がある。これにより、各部品の精度が悪くてもストロークを適切に管理することができる。さらに溶接固定部31fをレーザー溶接し、ロッド31bとアジャスター31eを完全に固定する。レーザー溶接による固定は、各部品に外力を加えることなく固定することができるので、嵌合固定によって決定したストロークが変化してしまうと言った問題を回避することができる。
【0072】
本実施例の特徴を列挙すると以下の通りである。
【0073】
電磁吸入弁の駆動部を、電磁吸入弁の閉弁方向へ磁気力を発生するアンカーと、アンカーと吸入弁部との間にロッドを有し、アンカーとロッドが別部材として構成され、アンカーとロッドの結合位置によって前記駆動部のストローク(可動範囲)を決定することとした。アンカーとロッドの結合は、まずアンカーをロッドに嵌合にて固定し、この嵌合固定の位置によってストークを決定する。このようにすることで、嵌合作業によってストロークを容易に決定でき、各部位の公差は嵌合の位置によって吸収できるので、各部品の精度が悪くてもストロークを適切に管理することができる。
【0074】
その後、レーザー溶接によってアンカーとロッドを完全に固定する。さらにレーザー溶接による固定は、各部品に外力を加えることなく固定することができるので、嵌合固定によって決定したストロークが変化してしまうと言った問題を回避することができる。これによって、駆動部が発生した磁気力によって閉弁方向へ運動をし、この運動が停止した時のエネルギーによる駆動部が破損を防ぐことができる。
【0075】
さらに、アンカーのロッドのアジャスターを、アジャスターとして別部材とし、レーザー溶接による完全固定はこのアジャスターによって行うこととした。そして、アジャスターを非磁性体とすることにより、磁気力が磁気吸引面以外を通過し磁気吸引力が低下してしまい、吸入弁が閉弁できないと言った問題を解決することができる。
【0076】
また、コイルに通電した時に発生する磁気力の低下がなく、アンカーがロッドから離脱しない構造にすることができる。
【0077】
リング302、および固定コア35については、実施例1と同じである。
【実施例3】
【0078】
図11ないし図12に基づき第2の実施例を説明する。
【0079】
実施例2との違いは、吸入弁313がロッド部303aを有し、吸入弁ホルダ39のガイド39aにてロッド部303aを吸入弁313の開閉弁運動の方向のみに運動を制限していることである。このようにするにより、吸入弁313がバルブシート32に着座する際に暴れることがなく瞬時に密着することができ、吸入弁313の応答性を改善できる。
【0080】
以上の第1ないし第3実施例によれば従来技術の以下に示す課題の少なくとも一つが解消できる。
【0081】
従来の電磁吸入弁の構成では、コイルに無通電時、駆動部がばね力によってプランジャロッドを固定コアから離れる方向に維持している。コイルに通電すると駆動部に発生する磁気力によって駆動部はばね力に逆らって移動し、プランジャロッドは固定コア側に引き付けられる。このような電磁駆動機構が例えば高圧燃料供給ポンプに用いられて、コイルの通電有無によって高圧燃料の量を制御する場合には、吸入弁や駆動部が内燃機関の高回転時にも動きが追従しなくてはならない。そのため、駆動部・または吸入弁のストロークを正確に制限する必要があり、開弁方向・閉弁方向それぞれに動きを制限するストッパを設けている。駆動部・または吸入弁のストロークは大き過ぎると高速応答性が低下し、内燃機関の高速運転時に高圧燃料の量が制御できなくなってしまう。小さ過ぎると、吸入弁部での流路面積が小さくこの部分がオリフィスの様になってしまい、高圧燃料供給ポンプの内部で圧力損失が発生してしまう。この圧力損失によって、吸入弁に働く流体力が大きくなり吸入弁が予期しないタイミングで閉弁してしまい、吐出される燃料の量を調節することができないと言うさまざまな問題があった。また、燃料を加圧室に吸入する際に燃料が蒸気化してしまい、高圧燃料供給ポンプの容積効率の低下につながると言う問題があった。そのため、ストロークは適切な値に精度良くセットしなくてはならない。このため、ソレノイド各部品の要求精度が高くなってしまい、さらに組み立て性も悪化し、量産時にストロークの管理ができない、または難しいと言う問題があった。
【0082】
また、駆動部は発生した磁気力によって閉弁方向へ運動をするが、この運動が停止した時のエネルギーによって固定コアとアンカーが衝突して磨耗したり破損してしまう問題があった。
【0083】
また、コイルに通電した時に発生する磁束が、駆動部の磁気吸引面以外を通過してしまい、開弁方向・または閉弁方向に動きを制限するストッパ部を通過してしまい磁気力が低下してしまい、吸入弁を閉弁することができない、という問題があった。
【符号の説明】
【0084】
1 ポンプハウジング
2 プランジャ
2a 大径部
2b 小径部
3 タペット
5 カム
6 シリンダ
7 ホルダ
8 吐出弁ユニット
9 圧力脈動低減機構
10a 低圧燃料口
10b,10c 低圧室
10e 低圧燃料通路
10f 環状低圧室
11 加圧室
12 吐出口
13 プランジャシール装置
20 燃料タンク
21 低圧燃料供給ポンプ
23 高圧燃料容積室
24 高圧燃料噴射弁
26 圧力センサ
27 エンジンコントロールユニット(ECU)
30 電磁吸入弁
31a バルブ
31b ロッド
31c ストローク制限部材
31d アンカー
31e アジャスター
31f 溶接固定部
31g 閉弁運動制限部材
32 バルブシート
33 ばね
33a 閉弁ばね
34 ガイド
35 固定コア
36 コイル
313 吸入弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁路の一部を形成するヨーク、
前記ヨークの中央部を貫通し、往復運動するロッド、
前記ヨークの内部に固定され、前記ロッドの往復運動を支承するガイド、
前記ロッドの一端から圧入されて当該ロッドに固定されたアンカー、
当該アンカーとクリアランスを挟んで対面する固定コア、
前記ヨーク,前記固定コアおよび前記アンカーで形成される閉磁路を通り、前記磁気クリアランスを横切る磁束を供給する電磁コイル、
前記クリアランスが最大となる位置に向かって前記ロッドを付勢するばね、
前記ロッドのストロークを前記クリアランスの最大となる位置で規制する規制部材
を備えたものにおいて、
前記アンカーの前記固定コア側で前記ロッド上に固定され、前記アンカーと前記ロッドとの位置を固定するアジャスターを有する
電磁駆動機構。
【請求項2】
請求項1に記載のものにおいて、
前記ばねは前記固定コアの内側で、前記アジャスターと前記固定コアとの間に配置されている
電磁駆動機構。
【請求項3】
請求項1に記載のものにおいて、
前記アジャスターは前記クリアランスの内側にあって非磁性材で形成されている
電磁駆動機構。
【請求項4】
請求項1に記載のものにおいて、
前記ロッドのストローク量よりも前記クリアランスのほうが大きい
電磁駆動機構。
【請求項5】
請求項1に記載のものにおいて、
前記ヨークは中心部に筒状部を有し、
筒状部の内周部に軸受が固定されており、
前記ロッドは前記軸受に支承されており、
前記軸受が前記規制部材として機能する
電磁駆動機構。
【請求項6】
請求項5に記載のものにおいて、
前記アンカーと前記規制部材の間に位置し、前記ロッドに固定されたストローク制限部材を有する
電磁駆動機構。
【請求項7】
請求項6に記載のものにおいて、
前記ストローク制限部材,前記軸受の少なくとも一方が非磁性材製である
電磁駆動機構。
【請求項8】
前記請求項1乃至7に記載の電磁駆動機構を用いる電磁弁であって、
前記ヨークの反前記固定コア側端に固定されたシート部材と、
前記ロッドの反前記固定コア側端に取付けられた弁を有し
前記ばねによって前記シート部材に形成された弁シートと前記弁とが開弁状態に付勢され、
前記コイルに通電したとき前記固定コアと前記アンカーとの間の磁気的吸引力で前記ばねの力に抗して前記アンカーが前記固定コア側にストロークし、前記弁シートと前記弁とが接触する全閉状態に制御される
電磁弁。
【請求項9】
請求項8に記載の電磁弁において、
前記弁シートと前記弁とが接触状態のとき、前記固定コアと前記アンカーとの間にクリアランスが残っている
電磁弁。
【請求項10】
ポンプボディに形成された、加圧室と、当該加圧室に燃料を吸入する吸入通路と、前記加圧室から前記燃料を吐出する吐出通路とを有し、
前記加圧室内を往復動するプランジャによって燃料の吸入・吐出を行うものであって、前記吸入通路に電磁吸入弁,前記吐出通路に吐出弁を備え、
かつ前記電磁吸入弁を開閉して前記吸入通路と前記加圧室との間の連通路を連通遮断するタイミングを制御して、吐出される燃料の量を制御する可変流量式高圧燃料供給ポンプにおいて、
前記電磁吸入弁が、前記吸入通路と前記加圧室との間に前記弁シートと前記弁とが位置するようにして前記ポンプボディに装着された請求項9に記載の電磁弁によって構成されている
可変流量式高圧燃料供給ポンプ。
【請求項11】
請求項10に記載の高圧燃料供給ポンプにおいて、
前記固定コアと前記ヨークとによってアンカーを収容する密閉空間が形成されており、
当該密閉空間が、前記弁シート部材および前記軸受に設けられた連通孔によって前記吸入通路に連通されている
可変流量式高圧燃料供給ポンプ。
【請求項12】
請求項11の高圧燃料供給ポンプにおいて、
前記ストローク制限部材,前記アンカー,前記アジャスターは前記軸受よりも反弁側において前記ロッドに固定される
可変流量式高圧燃料供給ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−82849(P2012−82849A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227135(P2010−227135)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】