説明

電縫管の入熱制御システム

【課題】溶接部の全長にわたって安定して良好な機械的特性を有する電縫管を提供する。
【解決手段】溶接直後の溶接部長さ方向にほぼ直交する線状領域14を撮影し、該撮影した領域の輝度分布情報を電気信号として捉える輝度センサ1と、前記捉えられた輝度分布情報を画像処理してスパッタ発生量を算出する画像処理手段11と、前記算出されたスパッタ発生量を所定の閾値域と比較し、この比較結果を基に溶接入熱調整信号13を生成して溶接機20へ送信する溶接入熱調整手段12とを有する電縫管の入熱制御システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫管の入熱制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電縫管は素材が帯鋼であるワークを成形機で円管状に成形しながら、そのV字状ギャップをなす両縁部を高周波電流通電により加熱溶融し、スクイズロールで加圧接合することにより製造される。
溶接状態はほぼ適度な温度と成形具合、適正素材および運転レベルに左右される。ここで、計測可能な要素の変化を捉えて、溶接適否を判別すること、不適原因を判別することおよび投入電力量をフィードフォワード的に抑制し、さらに他の要因による変化を包括的に温度で捉えてフィードバック的に設定しようとするのが溶接監視および入熱制御の基本的な考え方である。
【0003】
上述の電縫管溶接において、溶接状態を監視する従来の方法として以下の方法があった。
・操作員の肉眼により判断する方法。
・溶接部の温度を放射温度計にて計測し、全放射エネルギーを温度に換算あるいは全放射エネルギーのうち特定の2波長のエネルギーレベルの比を用いて温度に換算する方法。
・共振周波数の変化を電気的に検出し、入熱量の過多を判別する方法。
・溶接後のビードの突起の形状を把握する方法。
【0004】
さらには、入熱が適正でも、縁部の成形状態にねじれがあったりあるいはスクイズロールの加圧(アップセット)が変化すると、溶接不良となることがあり、このような条件変化をも含めて把握できる監視方法として、溶接部と溶接入側の発熱金属部を撮像手段によって走査して複数の画像として分割して捉えて、これらの画像の特徴量を画像処理部によって求めて解析信号を得、この解析信号を基に溶接状態の適否を判定することにより、溶接状態の適正な判別と入熱制御を可能にする方法があった(特許文献1:[0002]〜[0013]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−318142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したいずれの技術も溶接状態が最適になるように工夫された方法ではある。
しかしながら、従来技術の範囲内で溶接状態を最良に保ってもなお、溶接部の全長にわたって安定して良好な機械的特性を有する電縫管を得ることは困難であり、この点が課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、従来技術では達成困難であった、溶接部の全長にわたって安定して良好な機械的特性を有する電縫管を得ることを可能にした電縫管の入熱制御システムを提供するものであり、その要旨は次のとおりである。
(1)
帯材を管状に成形して形成したV字状ギャップの縁部同士を連続的に溶接する電縫管製造ラインの操業中に、溶接直後の溶接部長さ方向にほぼ直交する線状領域を撮影し、該撮影した領域の輝度分布情報を電気信号として捉える輝度センサと、
前記輝度センサにより電気信号として捉えられた輝度分布情報を画像処理してスパッタ発生量を算出する画像処理手段と、
前記画像処理手段により算出されたスパッタ発生量を所定の閾値域と比較し、この比較結果を基に溶接入熱調整信号を生成して溶接機へ送信する溶接入熱調整手段と
を有することを特徴とする電縫管の入熱制御システム。
(2)
前記輝度センサは、前記線状領域を撮影速度1ms以下、撮影回数1000回/s以上で撮影するものであることを特徴とする(1)に記載の電縫管の入熱制御システム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶接部の全長にわたって安定して良好な機械的特性を有する電縫管が得られるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る溶接入熱制御システムの実施形態の1例を示す概略図
【図2】輝度分布状態の画像処理出力画面の1例を示す模式図
【図3】スパッタなしの場合(a)とスパッタありの場合(b)の管周方向の輝度分布曲線を示す概略図
【図4】偏平値とスパッタ発生量の関係を示す概略図
【図5】スパッタ発生量と溶接入熱の関係を示す概略図
【図6】欠陥面積率の定義説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明に係る溶接入熱制御システムの実施形態の1例を示す概略図である。電縫管製造ラインの操業では、帯材の管状成形体90のV字状ギャップの縁部同士が高周波誘導コイル4で誘導される高周波電流により加熱(あるいは高周波電流の直接通電により加熱)され、V字形ギャップのV収束部がスクイズロール5で圧接されて溶接点7となる。溶接点7から電縫管100の送り方向を溶接部長さ方向とする溶接部8に形成されていた溶接ビードはバイト6で切削されて溶接ビード切削屑9となる。なお、15は高周波電流による加熱の効率を高めるために帯材の円管状成形体90の内面側に装入設置されたインピーダである(インピーダは設置されない場合もある)。
【0011】
本発明では、上述のような電縫管製造ラインの操業中に、溶接直後の溶接部長さ方向にほぼ直交する線状領域14を撮影し、該撮影した領域の輝度分布情報を電気信号として捉える輝度センサ1と、輝度センサ1により電気信号として捉えられた輝度分布情報を画像処理してスパッタ発生量を算出する画像処理手段11と、画像処理手段11により算出されたスパッタ発生量を所定の閾値域と比較し、この比較結果を基に溶接入熱調整信号13を生成して溶接機20へ送信する溶接入熱調整手段12とを有する。溶接機20には溶接入熱設定器21が備わっており、これが溶接入熱調整信号13に応じて溶接入熱を設定変更する。
【0012】
輝度センサ1は輝度カメラとも呼ばれ、撮影した画面内の輝度分布を導出する機能を有している。このような輝度センサとしては例えば市販のラインスキャンカメラなどが挙げられる。画像処理手段11は、通常パソコン10に搭載されている画像処理演算機能を用いて構成できる。溶接入熱調整手段12は、これも通常パソコン10に搭載されている論理演算機能を用いて構成できる。
【0013】
以下、本発明の基礎となった知見について述べる。
(a) 溶接点7の近傍からはスパッタが発生するが、数μm〜数mmの大きさで、微量であり、高速で飛び去ることなどから、これまで、スパッタの発生挙動については明らかにされていなかったのであるが、本発明者らは、前記課題の解決手段を考究していった中で、高速撮影できる輝度センサにより、スパッタの発生部は、輝度の変化として捉えることができることを発見した。
【0014】
すなわち、溶接直後の融点直下の高温状態にある溶接部について、輝度センサでの高速撮影により管周方向の距離に対する輝度分布を測定すると、スパッタの発生がないときは図3(a)に示すように溶接部に対応した単一のピークを有する輝度分布曲線が得られ、スパッタの発生があるときは図3(b)に示すように前記単一のピークの片脇にもう1つ(あるいは両脇に1つずつ)、溶接部を外れたスパッタに対応した比較的低いピークを有する輝度分布曲線が得られる。
【0015】
ただし、輝度センサ1で撮影する線状領域14は、溶接部長さ方向にほぼ直交(より具体的には交差角度が90°±10°の範囲内)でないと、輝度分布曲線からスパッタ発生有無を判別するのが困難となるため、本発明では、線状領域14は溶接部長さ方向にほぼ直交させる必要がある。また、線状領域14の溶接線長さ方向の位置が、溶接点7から下流側に20mm未満の距離の位置では溶接部の輝度が強すぎてスパッタの輝度ピークが判別し難く、一方、溶接点7から下流側に500mm超の位置ではスパッタが暗くなりすぎてスパッタの輝度ピークが判別し難くなるため、線状領域14の溶接部長さ方向の位置は、溶接点7から下流側に20〜500mmの距離の位置とするのが好ましい。
【0016】
また、電縫溶接の速度(造管速度)は各種溶接法の中でも高速溶接法に分類され、100m/分を超える速度が採用される場合もある。かかる場合において、数mm以下のスパッタによる高輝度部を判別するためには、撮影速度(1撮影コマの露光時間)は1ms(=1/1000秒)以下にしなければならない。かつ、高速で飛び去る微小なスパッタを見逃さないためには、撮影回数(撮影コマ数)は毎秒1000回(毎秒1000コマ)以上にしなければならない。撮影回数が毎秒1000回未満の場合、スパッタが撮影コマから外れて見逃しが発生することがある。したがって、本発明においては、電縫溶接の速度が100m/分を超えてもスパッタの判別が確実にでき、かつ見逃しがないようにするために、輝度センサとしては、撮影速度1ms以下、撮影回数毎秒1000回以上での撮影が可能なものを用いることが好ましい。
【0017】
さらに、これらの知見を基に、スパッタの発生挙動と溶接条件および溶接部の機械的特性について、輝度センサを用いて詳細に調査した結果、以下の知見を得た。
(b) スパッタ発生量と溶接部の機械的特性の間には相関があり、機械的特性が最良となるスパッタ発生量の範囲が存在する。例えば図4に概略図を示すように、スパッタ発生量がある範囲内にあるとき偏平値が最小(最良)となる。
【0018】
ここで、偏平値は、電縫管から適当な長さ(50mm程度以上)に切り出したサンプルを2枚の平行平板で挟んで押し潰し、その際、サンプル管の配置は溶接部と交わる管直径が押し潰し方向と直交するようにとる試験(これを90°偏平試験と称する)を行い、溶接部に割れが生じたときの前記2枚の平行平板間の距離H1と、押し潰し開始時(初期)の前記2枚の平行平板間の距離H0とから、次式で算出される。
【0019】
偏平値=H1/H0
また、スパッタ発生量は、画像処理手段11により、次のようにして算出される。
撮影速度、撮影回数をそれぞれ設定された輝度センサ1の線状領域14撮影による輝度分布情報が画像処理手段11に入力されると、画像処理手段11は、入力された輝度分布情報に基づいて図2に示すような、横方向を時間、縦方向を管周方向の距離とした測定エリア30内の2次元画像を作成する。この2次元画像のうち溶接部相当域31をマスク33し、残りの部分の画素数M1を求める。この残りの部分について2値化処理を行い、スパッタ発生部相当域32と判定された高輝度部分の画素数の総和M2を求める。スパッタ発生量は、前記M1とM2とから次式で算出される。
【0020】
スパッタ発生量(%)=M2/M1×100
また、偏平値が最小(最良)となるのは、欠陥面積率が10%以下であることとよく対応することが判明した。ここで、欠陥面積率とは、図6に示すような、衝撃破壊試験による破面22中の劈開もしくは擬劈開領域24以外のディンプル領域25のうち、ディンプルの内側に酸化物等の異物23を含む部分(斜線部分)の面積率を意味する。この欠陥面積率は、次の方法で求めた。すなわち、電縫溶接部(被溶接部が溶接結合したその結合界面であり管周方向にほぼ直交している)が破面となるようにノッチを設けたシャルピー試験により脆性破面率(肉眼判定)が100%になる試験温度域の上限付近の温度で破断させてなる破面を、走査電子顕微鏡(SEM)で、倍率500倍以上で少なくとも10視野観察し、破面内にディンプル領域から酸化物等の異物を含んだディンプルを選別してその総面積を測定し、これの、視野総面積に対する百分率を欠陥面積率とする方法である。
【0021】
(c) 溶接入熱とスパッタ発生量の関係を調査した結果によると、例えば図5に概略図を示すように、スパッタ発生量は溶接入熱の低下に伴い減少する。また、通常電縫管の製造工程では、溶接部の機械的特性が最良となる溶接条件に設定して溶接を開始するから、溶接開始時にはスパッタ発生量は最適となっているが、それにも拘わらず、溶接中には、溶接入熱以外の原因、例えば成形条件の微妙な変化(ロール摩耗、偏心等)や溶接条件の変化、帯材(素材)の板厚や成分の変化などにより、スパッタ発生量は変化する。これらのことから、スパッタ発生量が溶接入熱以外の原因で変化して、最適範囲を外れかけ、あるいは外れてしまった場合、溶接入熱を調整することで、スパッタ発生量を最適範囲に留め、あるいは復帰させることが可能である。
【0022】
ここで、溶接入熱は、溶接機の出力にほぼ比例し、造管速度にほぼ反比例する量である。
本発明において、画像処理手段11は、リアルタイムで送られてくる輝度分布情報から上述のようにしてスパッタ発生量(記号Snとする)を算出し、溶接入熱調整手段12に送る。溶接入熱調整手段12は、予め記憶していた最良の機械的特性に対応する最適スパッタ発生量S1に付随する許容範囲(下限Smin、上限Smaxの閾値域)と、送られてきたSnとを比較し、Snが閾値域から外れないように、あるいは外れていたら閾値域内に戻すように、図5のような関係に基づいて溶接入熱を加減調整する旨の溶接入熱調整信号13を生成して、溶接機20の溶接入熱設定器21に送信する。
【実施例】
【0023】
本発明例として、外径150mm、肉厚3mmの低炭素低合金鋼管(0.1%C-0.2%Si-0.6%Mn-残部Fe及び不可避的不純物)を電縫管製造ラインにて製造する際に、上述した実施形態を有する本発明の入熱制御システムを使用して、スパッタ発生量の測定(算出)値が所定の閾値域(0.2〜10%)内に収まるように溶接入熱を制御した。ここでは、輝度センサ1は、撮影速度0.1ms、撮影回数10000回/sとし、撮影する線状領域14は溶接点7から50mm下流側に溶接部長さ方向と直交させて配置した。画像処理手段11で作成する図2の2次元画像の測定エリア30は横(時間)5秒×縦(管周方向の距離)50mmのサイズとした。
【0024】
また、比較例として、スパッタ発生量の測定は行ったがこれを溶接入熱の制御には用いずに、同上の電縫管製造ラインにて、同上の組成およびサイズの管を製造した。
得られた製品パイプについて、電縫溶接開始端から約100m毎の溶接長さの箇所からサンプルパイプを切り出し、溶接部を対象に、90°偏平試験を行って偏平値を測定した。
その結果を表1に示す。
【0025】
比較例では、偏平値のばらつきが大きく、0.1を超える箇所が多数存在した。これに対し、本発明例では、偏平値は全て0.1で、溶接部の機械的特性が全長にわたって安定して良好であった。
【0026】
【表1】

【符号の説明】
【0027】
1 輝度センサ
4 高周波誘導コイル
5 スクイズロール
6 バイト
7 溶接点
8 溶接部
9 溶接ビード切削屑
10 パソコン
11 画像処理手段
12 溶接入熱調整手段
13 溶接入熱調整信号
15 インピーダ
14 溶接直後の溶接部長さ方向にほぼ直交する線状領域
20 溶接機
21 溶接入熱設定器
22 衝撃破壊試験による破面
23 酸化物等の異物
24 劈開あるいは擬劈開領域
25 ディンプル領域
30 測定エリア
31 溶接部相当域(高輝度部)
32 スパッタ発生部相当域(高輝度部)
33 マスク
90 帯材の円管状成形体
100 電縫管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯材を管状に成形して形成したV字状ギャップの縁部同士を連続的に溶接する電縫管製造ラインの操業中に、溶接直後の溶接部長さ方向にほぼ直交する線状領域を撮影し、該撮影した領域の輝度分布情報を電気信号として捉える輝度センサと、
前記輝度センサにより電気信号として捉えられた輝度分布情報を画像処理してスパッタ発生量を算出する画像処理手段と、
前記画像処理手段により算出されたスパッタ発生量を所定の閾値域と比較し、この比較結果を基に溶接入熱調整信号を生成して溶接機へ送信する溶接入熱調整手段と
を有することを特徴とする電縫管の入熱制御システム。
【請求項2】
前記輝度センサは、前記線状領域を撮影速度1ms以下、撮影回数1000回/s以上で撮影するものであることを特徴とする請求項1に記載の電縫管の入熱制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−230175(P2011−230175A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104820(P2010−104820)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】