説明

電解水製造装置及び電解水製造方法

【課題】機能水としての電解水の二大欠点を克服する機能水を製造できる電解水製造装置及び電解水製造方法を提供する。
【解決手段】脱気槽2は、純水供給装置1からバルブ7を介して供給された純水を脱気する。真空バルブ8を開け、真空ポンプ3から徐々に真空を引く。真空ポンプ3は、脱気槽2内の純水、保存槽(A)5の機能水、保存槽(B)6の機能水から脱気を行うために、脱気槽2、保存槽(A)5、保存槽(B)6に真空を引く。電解槽4は、脱気槽2からの脱気水と電解質19を導入し、電解を開始する。保存槽(A)5及び保存槽(B)6は、電解槽4からの機能水を保存する。保存槽(A)5及び保存槽(B)6には、キレート剤混合装置(A)10及びキレート剤混合装置(B)11からキレート剤が投入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用洗浄剤として使用できる電解水を製造する電解水製造装置及び電解水製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械部品、電子部品、衣類等の産業用洗浄剤として、環境汚染、可燃性、或いは水との分離性を考慮してアルカリイオン水を洗浄剤として用いることが提案されている。しかし、このアルカリイオン水を洗浄剤として油脂などの洗浄に使用した場合、きわめて短時間にその洗浄能力が劣化してしまうという問題があった。
【0003】
そこで、アルカリイオン水に、リン酸ナトリウム緩衝液等の緩衝液を混合したアルカリ系洗浄剤が下記特許文献1により提案されている。このアルカリ系洗浄剤によれば、洗浄能力を向上させることができるとともに、長期にわたり高い剥離洗浄能力を発揮することができる。
【0004】
ところで、産業用洗浄剤は、脱フロン・エタン以来、多くのものが登場してきた。ここで、洗浄剤に求められる5大要素をまとめてみると以下のとおりである。十分な洗浄能力、環境負荷の低減、人体安全性の確保、非引火性の確保、コストの低減が5大要素である。しかし、従来、これら5大要素の全てを満足するものはなかった。
【0005】
そこで、洗浄能力、環境負荷、人体安全性を必須項目として、非引火性もしくはコストを犠牲にして使用が続けられてきた。
【0006】
しかし、近年機能水、特に電解水が登場し、洗浄能力が高く、その環境負荷の小さいこと、またコストメリットが大きいことから、上記5大要素を満足するもとして注目が集まり産業用洗浄剤として徐々に導入が進められている
【特許文献1】特開平11−217598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記電解水でも、未だに克服されていない以下の欠点がある。まず、劣化の問題である。前記電解水は、大気に触れると劣化が始まり、洗浄能力を落としていく。特に使用開始時からすぐに劣化が始まり、洗浄効果に経時変化が出る。
【0008】
また、金属腐食の問題もある。機能水が酸、アルカリであるがゆえに、アルミニウムや真鍮、銅、鉄などの金属を腐食させるため、その使用が金属種によって限定される。すなわち、洗浄に使用する電解水(ph4以下の強酸化水/ph10以上の強還元水)は双方とも金属を浸漬した場合、水素を発生しながら腐食を起こす。
【0009】
これは、還元水も酸化水もそれぞれアルカリ/酸であるがゆえに、被洗浄物である金属を腐食してしまうからである。このためアルミニウムや真鍮・銅等の金属及びその化合物の洗浄は困難である。
【0010】
この2点が、機能水が汎用的に洗浄に使用されない大きな理由の一つである。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、前記機能水としての電解水の二大欠点を克服する機能水を製造できる電解水製造装置及び電解水製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る電解水製造装置は、前記課題を解決するために、産業用洗浄剤として用いる電解水を製造する電解水製造装置であって、純水を脱気する脱気槽と、前記脱気槽にて脱気された脱気水を電解する電解槽と、前記電解槽にて電解された電解水を保存する保存槽と、前記脱気槽及び保存槽から脱気のため真空を引く真空ポンプとを備える。
【0013】
また、前記保存槽にはキレート剤混合装置が備えられ、保存された電解水にキレート剤が混合されるのが好ましい。また、前記電解槽はPh計を備えており、電解水のPhが一定値以上になると、電解水を保存槽に供給するのが好ましい。
【0014】
また、前記保存槽は、溶存酸素濃度計を備え、保存している電解水の溶存酸素濃度を測定するのが好ましい。また、前記保存槽は、前記電解水を大気分離して保存するのが好ましい。
【0015】
また、前記脱気槽及び保存槽は、前記電解水を5000〜10Pa以下となるよう脱気するのが好ましい。また、前記保存槽は、攪拌手段を備えることが好ましい。
【0016】
本発明に係る電解水製造方法は、前記課題を解決するために、産業用洗浄剤として用いる電解水を製造するための電解水製造方法であって、純水を脱気する脱気工程と、前記脱気工程にて脱気された脱気水を電解する電解工程と、前記電解工程にて電解された電解水を保存する保存工程とを備え、前記脱気工程及び保存工程は脱気のため真空ポンプから真空を引く。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、機能水としての電解水の二大欠点である、大気に触れることによる劣化と、劣化による機能水の機能低下を補うための溶存気体のコントロールによる超音波効果の継続的有効性の活用を実現し、また金属腐食という課題を克服する機能水を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。この実施の形態は、機械部品、電子部品、衣類等の産業用洗浄剤として用いることのできる電解水を製造する電解水製造装置である。電解水としては、アルカリ水、酸化水を製造することができる。
【0019】
図1は電解水製造装置の構成図である。図1に示すように、電解水製造装置は、純水供給装置1と、脱気槽2と、真空ポンプ3と、電解槽4と、保存槽(A)5と、保存槽(B)6とを備える。
【0020】
純水供給装置1は、市水をイオン交換膜1aを用いて純水にし、バルブ7に供給する。なお、原水の処理については、イオン交換膜1aを用いて原水に含まれるミネラル分を極力除去することによって行われるが、蒸留、RO膜を使用してもよい。これは一般的に純水・超純水を製造する技術と同等である。
【0021】
脱気槽2は、純水供給装置1からバルブ7を介して供給された純水を脱気する。真空バルブ8を開け、真空ポンプ3から徐々に真空を引く。脱気槽2には、リーク弁14が設けられる。また、溶存酸素計15も装着されている。さらに、ドレイン16も設けられている。脱気槽2は、脱気水をバルブ20を介してポンプ21により電解槽4に供給する。
【0022】
真空ポンプ3は、脱気槽2内の純水、保存槽(A)5の機能水、保存槽(B)6の機能水から脱気を行うために、脱気槽2、保存槽(A)5、保存槽(B)6に真空を引く。
【0023】
電解槽4は、脱気槽2からの脱気水と電解質19を導入し、電解を開始する。Ph計9a及びPh計9bにてそれぞれの機能水のPhを検出し、一定値になったら、保存槽(A)5へバルブ17を介して機能水を、また保存槽(B)6へバルブ18を介して機能水を送る。電解槽4にはドレイン22も設けられている。
【0024】
保存槽(A)5及び保存槽(B)6は、電解槽4からの機能水を保存する。保存槽(A)5及び保存槽(B)6には、キレート剤混合装置(A)10及びキレート剤混合装置(B)11からキレート剤が投入される。キレート剤としては、食品添加物として安全性が保証されている、グリコン酸カリウム、グリコン酸ナトリウムを使用できる。
【0025】
また、保存槽(A)5及び保存槽(B)6には、保存している機能水を混合するための混合装置23及び混合装置24が備えられている。また、保存している機能水の溶存酸素を計測する溶存酸素計25及び溶存酸素計26も設けられている。また、バルブ27及びバルブ28、ドレイン29及びドレイン30、さらにはリーク弁31及びリーク弁32も設けられている。保存槽(A)5及び保存槽(B)6の真空は真空バルブ(A)12及び真空バルブ(B)13を介して真空ポンプ3により引かれる。通常、保存槽(A)5及び保存槽(B)6内は真空にて保管される。
【0026】
次に、電解水製造装置の動作について説明する。図2は電解水製造装置の概略的な処理手順を示すフローチャートである。図3は脱気槽2における純水の脱気処理を示すフローチャートである。図4は電解槽4における電解処理を示すフローチャートである。図5は保存槽(A)5及び保存槽(B)6における保存処理を示すフローチャートである。
【0027】
先ず、電解水製造装置は、図1のステップS1にて脱気槽2を用いて純水の脱気を行う。純水は、純水供給装置1にて市水をイオン交換膜1aを用いて製造されたものであり、バルブ7を介して脱気槽2に供給される。このステップS1における純水の脱気の詳細は以下のとおりである。図3におけるステップS11にて、イオン交換膜2aを有する純水供給装置1からバルブ7を介して脱気槽2へ純水を導入する。ステップS12にて、脱気槽2に導入された純水が定量に達したらバルブ37閉じる。ステップS13にて真空バルブ8を開け、真空ポンプ3を使って脱気槽2の真空を徐々に引く。一定時間真空を引いた後、ステップS14にて真空バルブ8を閉じる。この図3に示した純水の脱気が終了すると、図2に示すステップS2の電解処理に移行する。
【0028】
図2のステップS2では、脱気槽2からバルブ20を介してポンプ21により電解槽4に供給された脱気水を電解する。このステップS2における電解処理の詳細は以下のとおりである。図4におけるステップS21にて脱気槽2のリーク弁14を開ける。ステップS22にてバルブ20を開け、ポンプ21を稼動させ、電解槽4へ脱気水と電解質19を導入する。ステップS23にてPh計9a及びPh計9bを用いてPhの検出を開始し、ステップS24にてポンプ21を停止する。ステップS25では電解槽4における電解を開始する。ステップS26では、Ph計9a及びPh計9bが一定値以上になったか否かをチェックする。このステップS26にてPh値が一定値以上になったと判定すると、ステップS27に進み、バルブ17及びバルブ18を開け、ポンプ21を稼動し、保存槽(A)5及び保存槽(B)6へ機能水を送る。次に、ステップS28にて、保存槽(A)5及び保存槽(B)6が規定値に達したか否かをチェックする。保存槽(A)5及び保存槽(B)6が規定値に達したと判断すると、ステップS28に進み、電解を中止し、ポンプ21を止め、バルブ20、バルブ17及びバルブ18を閉じる。保存槽(A)5及び保存槽(B)6が規定値に達するまで、上記各ステップは繰り返される。この図4に示した電解処理が終了すると、図2に示すステップS3のキレート剤の混合処理に移行する。
【0029】
図2のステップS3では、保存槽(A)5及び保存槽(B)6に蓄えられた電解水にキレート剤混合装置10及びキレート剤混合装置11からキレート剤を混合処理する。このステップS3におけるキレート剤の混合処理の詳細は以下のとおりである。キレート剤としては、前述したように、食品添加物として安全性が保証されている、グリコン酸カリウム、グリコン酸ナトリウムを使用できる。図5に示すように、ステップS31にて、キレート剤混合装置11、12からキレート剤を投入する。ステップS32にて混合装置23及び混合装置24を稼動する。ステップS33にて真空バルブ12及び真空バルブ13を開け真空ポンプ3を用いて、保存槽(A)5及び保存槽(B)6の真空を引く。ステップS34にて一定時間真空を引き、溶存酸素濃度計25及び溶存酸素濃度計26が2ppm以下になったら真空バルブ12及び真空バルブ13を閉じる。そして、ステップS35にて通常は機能水を真空内で保管し、使用する場合は、リーク弁31及びリーク弁32を開け、バルブ27及びバルブ27を開ける。
【0030】
以上に、図2〜図5を用いて電解水製造装置の動作について説明した。さらに、以下では、電解水製造装置の周辺技術、あるいは変形例について説明する。
【0031】
図2のステップS1における純水の脱気処理前には、原水を処理し純水を製造する必要があった。これは、前述したように、純水の製造と同じである。蒸留、RO膜、イオン交換膜を使用し、原水に含まれるミネラル分を極力除去する。また、図3に示した脱気槽2における脱気処理の開始には、真空ポンプ3を使うほか、超音波を使う方法、スプレー噴射、イオン交換膜を使う方法や、攪拌による方法もある。さらに、上記の内容に加え、加温、冷却によりこの脱気を効率的に行うようにしてもよい。もしくは共用されたもので構成され、原水から金属イオン・ミネラル分を除去した水の溶存酸素を2ppm以下,好ましくは0.5ppm以下に保つのが望ましい。
【0032】
さらに、図3に示した脱気槽2の脱気処理方法や、保存槽(A)5及び保存槽(B)6の脱気処理方法には、以下の技術を用いてもよい。例えば、真空ポンプ3で脱気槽2を5000〜10Pa以下となるよう脱気する。好ましくはこれを加温する。温度は80℃±20℃が好ましい。加温しながら脱気槽2、保存槽(A)5及び保存槽(B)6にて脱気を行う。脱気プロセスは1時間以上、好ましくは3時間以上、加温後、室温になるまで行う。室温に戻した後、好ましくは4℃±5℃、さらに好ましくは4℃±2℃となるように温度制御をかける。これを1時間以上、好ましくは12時間以上をかけ攪拌しながら脱気する。
【0033】
次に、保存槽の溶存酸素濃度の管理について、図6を参照しながら説明する。図6は、保存槽(A)5及び保存槽(B)6の詳細な断面図である。ここでは、保存槽(A)5を例に説明する。内部には、電解水を大気隔離したまま保管するために、水面の上下に応じて可動な内蓋である大気隔離用フロート蓋41を、二本の蓋ガイド42a及び蓋ガイド42bによって上下に導かれるようにフロートさせておく。この大気隔離用フロート蓋41により、保存槽5への溶存酸素を最小に抑え、電解後の安定化と溶存酸素濃度を一定以下に保つ。また大気隔離されることにより、機能水の劣化を防止する。蓋ガイドは一本でも構わない。また、内部には、前記混合装置23として用いられる攪拌用ノズル43が底部に設けられる。さらに、保存槽5には図1に示した溶存酸素濃度計26を入れ、これがある一定値を超えないよう前段の溶存酸素除去装置へ常時フィードバックをかけ、これを制御する。
【0034】
電解中は脱気槽2、保存槽5及び6、電解槽4とも大気となる。機能水の性能は大気隔離に大きく影響されるため、特に保存槽5及び6の構造は、上述したように内蓋を入れることが重要である。また、内部には循環攪拌構造を持ち、脱気を促進する。さらに、キレート剤の混合を促進するための攪拌構造を持つ。
【0035】
基本的な動作について、図6を参照して説明する。キレート剤混合装置10からキレート剤を混入しながら、真空を引き排出用バルブ27を閉め、循環用バルブ45を開け、ポンプ44を稼動させる。吸い出された電解水は、攪拌ノズル43から壁面46に当てて上部へ向かい、大気隔離用フロート蓋41に当たってポンプ吸い込み口47へと循環する。これを1時間以上,好ましくは12時間以上循環させる。
【0036】
また、保存槽5での脱気と安定化のため、以下の処理を行うのが好ましい。電解水の性能を保持するため、前述した脱気槽2にて行った方法で再度脱気を行う。このとき、強制攪拌も同時に併用するのが好ましい。また、大気隔離用フロート蓋41により大気隔離したまま機能水を保管する。
【0037】
なお、脱気槽2/保存槽5及び6の構成の変形例を以下に示す。保存槽5及び6内蓋の種類としては、例えば五右衛門風呂のように水面全体に蓋が浮かぶ構造のものとしてもよい。また、蓋の替わりとして図7に示すように細かいプラスチックボール48(丸、四角形、六角形等)を浮かべた構造でもよい。さらに、揮発性のない比重が軽い液体(例えば油)などを一定以上浮かべた構造でも可能である。
【0038】
また、攪拌構造としては、排出ポンプを同時に循環ポンプとして使用してもよい。特に循環側は溶存期待の排出を促進するために、ノズルを細くして圧力を高めて内部を攪拌しやすくする構造とするのが好ましい。また、内部にフィンを取り付け、回転により攪拌する構造としてもよい。
【0039】
以上に説明したように、本発明の電解水製造装置は、脱気及び大気隔離を十分考えた構造の脱気槽2、保存槽5及び6を構成要件としているので、原水を脱気、製造後の電解水もこれを脱気して大気隔離できる。このため、産業用洗浄剤としての機能(Ph)が大気開放してもより長い時間保たれるようになった。通常のアルカリ溶剤に比して、約0.7倍の劣化速度を得ることができた。
【0040】
ここで、脱気の効果を立証するための脱気試験と再吸収について説明する。真空脱気における脱気時間と再吸収についての検証を行った。約20リットルの純水(溶存酸素濃度7.6ppm前後)を入れて脱気槽2にて排気する。排気は手動弁により排気スピードを変えられるようにする。早く真空を引くか、ゆっくり引くかの違いを見る。
【0041】
方法としては、排気時間を、30分、1時間、3時間、6時間、24時間とし、各々排気後すぐに大気開放する。予備実験としてどのくらいの排気スピードで最終溶存酸素濃度が0.5ppmとなるかを表1に示すように手動弁の位置を確認して測定していある。
【表1】

【0042】
脱気時間を30分にした場合、溶存酸素濃度は0.57ppmであった。1時間では0.52ppm、3時間では0.48ppm、6時間では0.51ppm、24時間では0.47ppmであった。
【0043】
各々脱気後すぐに大気開放した結果、脱気時間と再吸収の相関があった。室温22.7℃で、0.5h〜24h脱気後、すぐに大気開放した。脱気は、表1のように脱気能力を調整し、0.5ppm近傍となるように調整した。大気解放後の時間経過に対する酸素再吸収濃度は、表2のようになった。
【表2】

【0044】
表2をグラフ化したものが図8である。図8にあった横軸は経過時間、縦軸は溶存酸素量[ppm]である。
【0045】
脱気時間が0.5hの場合、10分後には2.42ppm、60分後には5.66ppm、3時間後には7.1ppm、6時間後には7.43ppm、12時間後には7.62ppm、24時間後には7.58ppmになった。脱気時間が1h、3h、6hの場合は、0.5hの場合よりも各経過時間にあって酸素の再吸収量は少ないが、6時間を経過するとほぼ元の溶存酸素量と同じになっている。
【0046】
つまり、以上に説明したことから、排気時間が短いほど再吸収時間も短くなるのが分かる。6時間排気までは6時間後にほぼ元の溶存酸素量に戻っている。24時間引いたものは12間以上かかって元にもどってくるのが分かった。つまり、ゆっくりと24時間以上排気すれば、溶存酸素の再吸収はかなりの時間防ぐことができる。さらに、水温を下げて4℃近傍にすれば、更に良い結果となることも分かっている。
【0047】
次に、脱気試験と再吸収の特性についてさらに考察する。脱気方法として、脱気槽2による時間差方式を採用した場合である。0.5ppmになる時間を排気能力により調整した。この理由は、実験の結果、排気スピードとOの再吸収には相関が見られるためであり、排気と同時に再吸収時間を確認した。
【0048】
使用した水は、純水を1日放置したものであり、初期溶存酸素は23℃でほぼ7.7ppm程度である。脱気条件は、DO水(1)については、脱気30分で0.5ppm、その後24時間保管した。DO水(2)については、脱気60分で0.5ppm、その後24時間保管した。DO水(3)については、脱気360分で0.5ppm、その後24時間保管した。電解水については、脱気360分で0.5ppm、その後24時間保管した。
【0049】
表3に時間経過に対する溶存酸素量の変化を示す。また、図9は表3をグラフ化した図である。
【表3】

【0050】
DO水(1)、DO水(2)は、60分経過後には2ppmを超え、6時間経過後には7ppmを超え、12時間経過時には元の溶存酸素量に近い値となる。DO水(3)は、DO水(1)、DO水(2)に比較して各時間経過時に酸素吸収量は少ないものの、やはり12時間経過時には元の溶存酸素量に近い値となる。本発明の電解水製造装置によって製造した電解水は、6時間経過時で2.01ppmになる。他の水が7ppmであることから考えると、溶存酸素量の再吸収がいかに少ないかがわかる。さらに、24時間経過、2日、3日、4日、5日経過しても、溶存酸素量は2ppm前後を維持している。
【0051】
以上まとめると、脱気時間と再吸収には相関があることが判明した。早く真空を引いたものは、早く再吸収が始まることが分かる。これは前述したように保管せずすぐに大気開放したものとは同様ではないが、同じような傾向にあることが分かった。また、本発明の電解水製造装置により電解した機能水は約60分で1.15ppm、6時間で2ppm近傍に達するが、これ以降は2ppm前後を行ったり来たりして安定している。これにより本発明の電解水製造装置は、溶存酸素量を低いまま保つことができる電解水を製造することができる。産業用洗浄剤としては、電解水の製造時に従来問題となっていた劣化の問題を解決することができた。このように、本発明の電解水製造装置によって製造した電解水では、溶存酸素量が低いまま保たれ、超音波の効果が持続できるようになった。脱気保管による効果で、溶剤気体(特に溶存酸素)が少なくなり、超音波洗浄の効果を大きく高めることができる。通常の脱気では、すぐに溶存気体濃度は元に戻るが、この方法で製造された機能水は10日間以上大気開放しても溶存酸素濃度はほとんど変化しない。2ppm→3ppm程度である。通常は、表3及び図9に示したように数時間で8〜10ppmに戻る。
【0052】
次に、溶存酸素と超音波強度の関係を以下に示す。超音波洗浄において、本発明の電解水製造装置によって製造された電解水(脱気水)は洗浄効率を向上する。通常の水道水には、酸素ガスが8mg/l(リットル)、窒素ガスが約13mg/l水に溶けた状態で含まれている。超音波洗浄において、水中に含まれているこれらの溶存気体が超音波を減衰、散乱させ、洗浄効率を低下させる。
【0053】
本発明にかかる電解水製造装置にて製造した電解水であれば、水中の溶存酸素濃度を0.5mg/lに脱気することができるので、通常の水道水(酸素ガスが7mg/l)に比較し、高い音圧測定結果を得ることができる。
【0054】
図10と図11は、その結果を示す特性図である。図10は、本発明の電解水製造装置にて製造した電解水(脱気水)が、通常の水道水に比較して、超音波洗浄時に高い洗浄能力を発揮することを示す。発振周波数28kHzの場合には、約5倍の音圧測定結果を示しており、約5倍の洗浄能力を備えると考えてよい。また、発振周波数45KHzの場合でも、約2.5倍の洗浄能力を備えると考えることができる。図11は横軸に溶存酸素濃度を縦軸に水中の音圧をとった特性図である。溶存酸素濃度が0.5mg/lであれば発振周波数28KHzの場合、約99(dB)の音圧を得られるが、溶存酸素濃度が7mg/lでは約20(dB)の音圧しか得られない。また、発振周波数45KHzの場合、溶存酸素濃度が0.5mg/lであれば約104(dB)の音圧を得られるが、溶存酸素濃度が7mg/lでは約95(dB)の音圧しか得られない。
【0055】
以上に説明したように、本発明による電解水製造装置により製造した電解水は、溶存酸素量の変化が小さく、超音波の効果が持続できる。つまり、脱気持続力が洗浄性能(洗浄能力の時間的均一性)に大きな効果がある。すなわちPhが劣化しても、超音波の性能が大きく寄与できるため、使用開始直後と時間を経た洗浄性能に大きな差が出ないことが分かる。
【0056】
また、本発明の電解水製造装置によって製造された電解水によれば、被洗浄金属を選ばない。従来、洗浄に使用した機能水は、その性質上、強酸・強アルカリに偏っており、これが洗浄における金属種を限定させる要因であった。この理由は、装置内にキレート剤を混合できる機能は付加されていない。これは機能水への添加物、特にキレート剤は場合によっては機能水の持つ機能をおとしてしまうこととなり、これを混合し、安定化させる技術がなかった。
【0057】
本発明によれば、キレート剤の混合と安定化により、酸化/還元双方の機能水に金属を最低1時間、最長では12時間以上浸漬しても金属が腐食することはないため、被洗浄金属種を選ばない。この結果、機能水の弱点を補強し、ハイドロカーボン系やフッ素系、中性界面活性剤と同様に、ほとんどの金属種を洗浄できるようになった。
【0058】
本発明による電解水製造装置にて製造した機能水としての電解水に関する腐食試験について説明する。この電解水は、Phが12.3あるにもかかわらず、金属腐食はいたって小さい。通常、洗浄剤として使用するアルカリ性洗浄剤はNaCLやKCOを電解して作る電解水(NaOHやKOHに近いもの)も当然ながら金属腐食を起こす。この性能差を比較試験してみた。
【0059】
方法は、NaOH,電解(1)(他社製)、電解水(2)(他社製)、機能水(1)、本発明の電解水製造装置にて製造した電解水である機能水(2)という5種類の液体に金属(アルミニウム、真鍮、銅、アルミフォイル)を浸漬させ、その変化を見た。特に、アルミニウムについては、その溶解量を測定した。溶液は、それぞれ150ccをビーカーに入れ、金属の変化を見た。また、アルミフォイルは2cm(約6.5mg)を浸漬し、その経時変化量をマイクロ天秤で測定した。
【0060】
なお、5種類の液体の性質は以下のとおりである。NaOHはPhが12.1(約0.09規定),電解水(1)はPhが12.3であり、他社製で、NaCLを電解したものである。NaOHとNaCLとの混合物のようなものである。電解水(2)は、Phが12.3であり、他社製で、K2CO3(炭酸カリウム)を電解したものである。ほぼKOHとなっている。機能水(1)はPhが12.3であり、機能水A、キレート剤を含んでいない。また、本発明の電解水製造装置にて製造した機能水(2)はPhが12.3であり、機能水B、キレート剤を含んでいる。
【0061】
腐食試験の結果、アルミニウムに関して表4、真鍮に関して表5、銅に関して表6及びアルミフォイルに関して表7が得られた。
【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【0062】
いずれの金属にあっても、本発明の電解水製造装置にて製造した電解水としての機能水(2)に浸したものは、ほとんど金属腐食を起こさないことが分かる。
【0063】
また、図12には、アルミニウムの溶解試験の特性を示す。横軸は時間経過を縦軸はPhを示す。以上から、NaOH(0.09規定)と単なる電解水の金属腐食には大差がないことがわかる。また、機能水Aは金属腐食はあるものの、通常の洗浄(せいぜい10分間程度)には特に問題がないが、金属腐食に敏感なもの、例えばレーザプリンタのポリゴンミラーなどの洗浄には、本発明の電解水製造装置によって製造された電解水である機能水Bが適していることがわかる。Phは単に水素イオン濃度を示す指標である。
【0064】
以上に説明した実験結果などをまとめると、本発明は以下の点で特徴があることがわかる。電解の前後に、原水及び酸化・還元水を脱気する構造を持つ。また、電解水の製造中に大気から極力隔離できる構造を持つ。また、電解水の製造後に真空を引ける構造を持つ。また、電解水を製造する装置にキレート剤を混合する構造を持つ。
【0065】
なお、キレート剤の混合について説明する。機能水の保存槽でキレート剤を混合するが、このとき、槽内をゆっくりと攪拌し、徐々に混合して溶解均一性を保つのが好ましい。この混合方法として真空を引きながら、ポンプによる循環、スクリューによる回転循環、ノズルによる壁面への吹き付け循環など強制攪拌を行うことが望ましい。
【0066】
また、図4に示した電解処理についてさらに詳細に説明する。脱気水を電解槽に挿入する間に、電解質を混合しPhが10±0.5となるようにPh計で制御する。電解槽で電解を開始し、Phが12.3±0.5となるよう送流ポンプに制御をかける。電解した酸化/還元水をそれぞれの酸化/還元水保存槽へ導入する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】電解水製造装置の構成図である。
【図2】電解水製造装置の概略的な処理手順を示すフローチャートである。
【図3】純水の脱気処理を示すフローチャートである。
【図4】電解処理を示すフローチャートである。
【図5】保存槽における保存処理を示すフローチャートである。
【図6】保存槽の詳細な断面図である。
【図7】保存槽の他の例の断面図である。
【図8】大気解放後の時間経過に対する酸素再吸収濃度の特性図である。
【図9】時間経過に対する溶存酸素量の変化を示す特製図である。
【図10】溶存酸素と超音波強度の関係を示す特性図である。
【図11】溶存酸素と超音波強度の関係を示す特性図である。
【図12】アルミニウムの溶解試験の特性図である。
【符号の説明】
【0068】
1 純水供給装置
2 脱気槽
3 真空ポンプ
4 電解槽
5 保存槽(A)
6 保存槽(B)
10 キレート剤混合装置
11 キレート剤混合装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業用洗浄剤として用いる電解水を製造する電解水製造装置であって、
純水を脱気する脱気槽と、
前記脱気槽にて脱気された脱気水を電解する電解槽と、
前記電解槽にて電解された電解水を保存する保存槽と、
前記脱気槽及び保存槽から脱気のため真空を引く真空ポンプと
を備えることを特徴とする電解水製造装置。
【請求項2】
前記保存槽にはキレート剤混合装置が備えられ、保存された電解水にキレート剤が混合されることを特徴とする請求項1記載の電解水製造装置。
【請求項3】
前記電解槽はPh計を備えており、電解水のPhが一定値以上になると、電解水を保存槽に供給することを特徴とする請求項1記載の電解水製造装置。
【請求項4】
前記保存槽は、溶存酸素濃度計を備え、保存している電解水の溶存酸素濃度を測定することを特徴とする請求項1記載の電解水製造装置。
【請求項5】
前記保存槽は、前記電解水を大気分離して保存することを特徴とする請求項1記載の電解水製造装置。
【請求項6】
前記脱気槽及び保存槽は、前記電解水を5000〜10Pa以下となるよう脱気することを特徴とする請求項1記載の電解水製造装置。
【請求項7】
前記保存槽は、攪拌手段を備えることを特徴とする請求項1記載の電解水製造装置。
【請求項8】
産業用洗浄剤として用いる電解水を製造するための電解水製造方法であって、
純水を脱気する脱気工程と、
前記脱気工程にて脱気された脱気水を電解する電解工程と、
前記電解工程にて電解された電解水を保存する保存工程とを備え、
前記脱気工程及び保存工程は脱気のため真空ポンプから真空を引くことを特徴とする電解水製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−86977(P2008−86977A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274172(P2006−274172)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【出願人】(506336821)エー・アイ・システムプロダクト株式会社 (1)
【出願人】(506336898)有限会社ルミックス (1)
【Fターム(参考)】