説明

静脈血栓症に関連する異常リポタンパク血症

本発明は、静脈血栓症の患者が大HDL粒子、HDL−コレステロール及びアポリポタンパク質AIのレベルが著しく低く、並びに小LDL粒子、LDL−コレステロール及びアポリポタンパク質Bのレベルが著しく高いという所見に基づき、ヒトの患者の静脈血栓症のリスクを判定する方法を提供する。遺伝子型解析により、静脈血栓症の患者のCETP遺伝子型は、コントロールのCETP遺伝子型とは明らかに相違し、VTEの被検者に観察されるCETPはCETPの質量と活性の上昇に連関している。静脈血栓症のリスクを判定するための、血漿若しくは血清のサンプルでの脂質又はリポタンパク質のレベルを測定する方法を提供する。静脈血栓症のリスクを減少する方法もまた提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国政府により提供された資金援助によりなされた。米国政府は、本発明に対し一定の権利を保有し、国立衛生研究所認可番号R37HL52246、R01HL21544、及びNIH−GCRCM0100833に従うものである。
【0002】
本発明は、静脈血栓症(venous thrombosis)のリスクのある個人を診断し、治療する方法に関する。本発明は、さらに血漿中の脂質又はリポタンパク質濃度を測定するアッセイに関する。本発明はまた、静脈血栓症のリスクを減少させる脂質低下薬(lipid-lowering drugs)の使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
静脈血栓塞栓症(venous thromboembolic disease)(VTE)は、遺伝的及び環境的な危険因子(risk factor)の両方が病因の一因として関与する多遺伝子病(polygenic disease)であり(例えば、非特許文献1及び2参照)、発病率及び死亡率の一因となっている。ライデン第5因子を含むプロテインC経路における様々な分子機能不全は(例えば、非特許文献3及び4参照)、現在最も一般的に特定できるVTEの遺伝的危険因子を含んでいる(例えば、非特許文献5参照)。異常リポタンパク血症は、動脈血栓症(arterial thrombosis)と関連するものであるが、VTEと血漿リポタンパク質との関係についてはほとんど知られていない。特に、突発性(spontaneous)VTEは、臨床的に無症状性動脈硬化血管障害(silent artherosclerotic vascular disease)と関連し(例えば、非特許文献6参照)、スタチンの使用は、VTEを減少させるので(例えば、非特許文献7〜9参照)、VTEと異常脂質血症(dyslipidemia)との関係を示唆するものである。実際、VTE患者では、血漿レベルにおけるグルコシルセラミドは正常値以下である(例えば、非特許文献10参照)。グリコシルセラミドと高比重リポタンパク質(HDL)は両方とも、活性化したプロテインCの抗凝血性補因子を増強するので(例えば、非特許文献10〜12参照)、本発明者らは、HDLはVTEに対する防御に役立つであろうと推測した(例えば、非特許文献13参照)。
【0004】
多くの遺伝的因子及び後天性因子が、静脈血栓塞栓症(VTE)の危険因子として認定されているが(例えば、非特許文献14、15参照)、男性について根拠が明らかになり、(例えば、非特許文献16、17参照)、男性の異常リポタンパク血症(例えば、非特許文献18参照)が有意な危険因子としてさらに明らかになったのはつい最近のことである。驚くべきことに、無症状性動脈硬化血管障害は、何ら因果関係又は機構的関係は示唆されていないが、静脈血栓症と関連していた(例えば、非特許文献19参照)。反対に、異常リポタンパク血症と動脈血栓症(arterial thrombosis)の関連は長年十分に認定されており、多重機構(multiple mechanisms)や成功した治療法は、この関連性について納得の行く説明を与えている(例えば、非特許文献20〜22参照)。
【非特許文献1】Lancet 1999;353:1167-73
【非特許文献2】Lancet 1999;353:479-85
【非特許文献3】Nature 1994;369:64-7
【非特許文献4】Lancet 1994;343:1361-2
【非特許文献5】Hereditary Thrombophilia. In:6th ed. Williams Hematology. New York: McGraw-Hill, 2001: 1697-1714
【非特許文献6】N Engl J Med 2003;348:1435-41
【非特許文献7】Ann Intern Med 2000;132:689-96
【非特許文献8】Circulation 2002;105:2962-7
【非特許文献9】Arch Intern Med 2001;161:1405-10
【非特許文献10】Blood 2001;97:1907-14
【非特許文献11】J Biol Chem 2002;277:8861-5
【非特許文献12】J Clin Invest 1999;103:219-27
【非特許文献13】Thromb Haemost 2001;86:386 -94
【非特許文献14】Lancet. 2005; 365: 1163-1174
【非特許文献15】Lancet. 1999;353:1167-1173
【非特許文献16】N Engl J Med. 2004; 350:2558-2563
【非特許文献17】J Thromb Haemost. 2004;2:2152-2155
【非特許文献18】Circulation.2005;112:893-899
【非特許文献19】N Engl J Med. 2003;348:1435-1441
【非特許文献20】Circulation. 1998;97:1837-1847
【非特許文献21】Circulation. 1999;100:988-998
【非特許文献22】Circulation. 2000;102:IV94-IV102
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(発明の概要)
本発明は、静脈血栓症に関連する新規の危険因子の発見に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様では、HDL−コレステロール(HDL−C)の欠如、又は大HDL粒子(HDL2)、アポリポタンパク質AI(apoAI)、及び/又はアポリポタンパク質Bと関連していないアポリポタンパク質CIII(apoCIII)(ApoCIII−Lp−nonB)の欠如を判定することにより、個人の静脈血栓症のリスクを判定する方法を提供する。かかる欠如は、静脈血栓症の危険因子の指標となるからである。
【0007】
本発明の別の態様では、低比重リポタンパク質(LDL)−コレステロール(LDL−C)の増加、又は中間比重リポタンパク質(IDL)粒子、及び/又は小HDL粒子を含むLDL粒子の増加を判定することにより、個人の静脈血栓症のリスクを判定する方法を提供する。かかる増加は、静脈血栓症の危険因子の指標となるからである。
【0008】
本発明は、アポリポタンパク質B(apoB)とアポリポタンパク質AIの比率(the ratio of apolipoprotein B(apoB) to apolipoprotein AI)の増加、及び/又はLDL−CとHDL−Cの比率(ratio of LDL-C to HDL-C)の増加を判定することにより、個人の静脈血栓症のリスクを判定する方法を提供する。かかる増加は、静脈血栓症の危険因子の指標となるからである。
【0009】
本発明の別の態様では、コレステロールエステル転送タンパク質(CETP)遺伝子型の判定をすることにより、個人の静脈血栓症のリスクを判定する方法を提供する。かかる遺伝子型は、CETPTaqI多型のB1/B2一塩基多型(single nucleotide polymorphism)を含み、B2アレルの頻度が正常よりも低いこと、又はB1アレルの頻度が正常よりも高いことが、個人の静脈血栓症の危険因子の指標となる。CETP遺伝子にB1アレルが存在することは、CETPの質量と活性のレベルがより高くなることと関連し、静脈血栓症が、CETPの質量と活性のレベルがより高くなることと関連していることを示唆するものであることはよく知られている。さらに、2つのCETPに関連した遺伝子変異(CETP−linked gene variations)であるPro373とGln451が存在することは、HDLと大HDLの血漿レベルの減少が起こり、CETPの質量と活性が正常のレベルより高くなることと関連して、静脈血栓症の危険因子の指標となる。
【0010】
本発明は、生体試料(biological specimen)内の脂質又はリポタンパク質濃度を測定する方法を提供する。
【0011】
本発明は、脂質低下薬又はHDLを上昇させる薬剤を含む、リポタンパク質レベル又は脂質レベルを好ましく変化させる薬剤を投与し、静脈血栓症の危険因子を阻害し、減少させる方法をさらに提供する。
【0012】
本発明のこれらの及びその他の態様は、添付の図面と併せて読むべき以下の詳細な説明において説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、静脈血栓症に関連する新規の危険因子の発見に基づく。特に本発明は、静脈血栓症が、防御的(protective)大HDL粒子のレベルの減少と、男性については有害な小HDL粒子とIDL粒子のレベルの上昇とに関連しているという所見(finding)に基づくものである。遺伝学研究では、静脈血栓症の男性は、男性のVTE患者に観察される異常リポタンパク血症の一因となると思われるCETP質量と活性の上昇をもたらすCETPアレルを過度に(disproportionately)有している。
【0014】
一つの態様では、本発明は、個人から入手した被検生体試料におけるHDL−C、HDL粒子、大HDL粒子(HDL2)、CETP、アポタンパク質AI、及び/又はアポリポタンパク質CIIIのレベルを測定することと、被検生体試料における脂質又はリポタンパク質のレベルを、正常な生体試料における脂質又はリポタンパク質の正常範囲と比較することとを含む、個人の静脈血栓症のリスクを判定する方法を提供するものである。被検生体試料におけるHDL−コレステロール、大HDL粒子(HDL2)、アポリポタンパク質AI、及び/又はアポリポタンパク質CIIIの欠如又はレベルの低下は、個人の静脈血栓症の危険因子の指標となるからである。アポリポタンパク質CIIIの測定のための好ましい態様では、アポリポタンパク質Bが結合していないアポリポタンパク質CIIIの測定が行われる。CETPの好ましい実施態様では、CETP質量と活性の測定は、リスクの増加を示唆するレベルに上昇した場合に行われる。
【0015】
脂質又はリポタンパク質のレベルの定量は、当業者に周知の技術により標準試料と比較して測定される。かかる技術としては、例えば、核磁気共鳴(NMR)スペクトロスコピー、血漿又は血清脂質アッセイ、ELISAアッセイ、免疫比濁法(immunoturbidmetric assays)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、キャピラリー電気泳動法、及び免疫検出法の有無を問わない二次元ゲル電気泳動を挙げることができるがこれらに限定されない。生体液は、血液、血漿、又は血清が好ましいが、肺液、唾液、脳脊髄液(cerebrospinal fluid)、リンパ液、尿、精液、唾液などでもよい。当該技術分野では周知であるが、脂質又はリポタンパク質検体(analytes)は、男女で濃度が異なることがある。
【0016】
一実施態様では、正常範囲は、正常なコントロールの被検者の25パーセンタイルと75パーセンタイルの間の値を示し、正常な男性の血清HDL−C、血漿のHDL粒子及び大HDL粒子(HDL2)、アポリポタンパク質AI、並びに/又はHDLと関連するアポリポタンパク質CIIIは、それぞれ、43〜61.5mg/dL、23.9〜28.9μM、2.55〜6.7μM,0.9〜1.17mg/mL、及び0.077〜0.10mg/mLの範囲である。かかるHDLに関連するパラメーターの値が正常の25パーセンタイル未満であると、正常より低い値であると判断される。別の実施態様では、血清HDL−Cのレベルが50mg/dL未満であり、血漿HDL粒子、大HDL粒子(HDL2)、及びアポリポタンパク質AIのレベルが規定した正常範囲の33パーセンタイル未満又は規定した正常範囲の35パーセンタイル未満であると、脂質のパラメーターが正常より低い値であると判断される。さらに別の実施態様では、アポリポタンパク質Bが関連していないアポリポタンパク質CIIIが、規定した正常範囲の15パーセンタイル未満であると低い値であると判断される。さらにまた別の実施態様では、脂質パラメーターのレベルが、血漿HDL−Cが45mg/dL未満のレベルであり、血漿HDL粒子、大HDL粒子(HDL2)及びアポリポタンパク質AIが規定した正常範囲の25パーセンタイル未満であると、正常より低いレベルであると判断される。さらには、アポリポタンパク質Bが関連していないアポリポタンパク質CIIIが規定した正常範囲の10パーセンタイル未満であると低い値であると考えられている。血漿又は血清のHDL粒子、大HDL粒子(HDL2)及びアポリポタンパク質AIが、規定した正常範囲の35パーセンタイル未満又は規定した正常範囲の33パーセンタイル未満、並びに/或いはアポリポタンパク質Bと関連していない血漿又は血清のアポリポタンパク質CIIIが正常範囲の15パーセンタイル未満であると、欠乏していると判断される。かかる欠乏は、血漿HDL粒子、大HDL粒子(HDL2)、アポリポタンパク質AI、及び/又はアポリポタンパク質Bが関連していないアポリポタンパク質CIIIが、男性ではそれぞれ約25.4μM、3.4μM、0.966mg/mL、及び0.073mg/mLかそれより少ない血漿濃度に相当する。さらなる実施態様では、欠乏は、血漿HDL粒子、大HDL粒子(HDL2)、アポリポタンパク質AIが正常平均範囲の25パーセンパーセンタイル未満であり、及び/又はアポリポタンパク質Bが関連していないアポリポタンパク質CIIIが正常平均範囲の10パーセンパーセンタイル未満であることが好ましい。一実施態様では、血漿HDL粒子、大HDL粒子(HDL2)、アポリポタンパク質AI及びアポリポタンパク質Bが関連していないアポリポタンパク質CIIIは、男性ではそれぞれ約23.9μM、2.55μM、0.90mg/mL、及び0.070mg/mLかそれより少ない血漿濃度に相当する。
【0017】
別の実施態様では、本発明は、個人から入手した被検生体試料におけるLDL−C又はLDL粒子のレベルを測定し、IDL及び/又は小HDL粒子等を含む、しかしこれらに限定されないLDL−C又はLDL粒子のレベルを生体試料におけるLDL−C又はLDL粒子の正常範囲と比較することとを含む、個人の静脈血栓症のリスクを判定する方法を提供するものである。正常な生体試料と比較して生体試料におけるLDL−C又はLDL粒子が正常レベルよりも増加したり高くなったりすることは、個人の静脈血栓症の危険因子の指標となるからである。
【0018】
一実施態様では、正常な範囲が、正常なコントロールの被検者の25パーセンタイルと75パーセンタイルの範囲内の血漿値を示し、男性の血清LDL−C、血漿LDL粒子、IDL粒子、小LDL粒子、及びアポリポタンパク質Bの正常範囲は、それぞれ100〜140mg/dL、750〜1175nM、9〜48nM、440〜927nM、及び0.65〜0.92mg/mLである。かかるLDLに関連するパラメーターの値が正常の75パーセンタイルを超えると、静脈血栓症のリスクの増加に関連する正常より高い値であると判断される。別の実施態様では、血清LDL−Cのレベルが140mg/dLを超えており、血漿LDL粒子、IDL粒子、小HDL粒子及びアポリポタンパク質Bのレベルが正常平均範囲の65パーセンタイルを超えると、脂質のパラメーターが、静脈血栓症のリスクの増加に関連する正常より高い値であると判断される。さらなる態様では、血清LDL−Cのレベルが160mg/dLを超えており、血漿LDL粒子、IDL粒子、小LDL粒子及びアポリポタンパク質Bのレベルが正常範囲の75パーセンタイルを超えると、脂質のパラメーターが、正常より高い値であると判断される。
【0019】
別の実施態様では、血栓症のリスクの増加は、脂質若しくはリポタンパク質の血漿又は血清レベルが上昇した被検者の血栓症と関連し、血漿LDL粒子、IDL粒子、小HDL粒子、及び/又はアポリポタンパク質Bが正常平均範囲の65パーセンタイルを超えたと定義される。一実施態様では、男性における血漿及び又は血清濃度が、それぞれ約1130nM、35nM、810nM及び0.87mg/mLかそれより多いと過度の又は上昇したレベルを意味する。別の実施態様では、LDL粒子、IDL粒子、小HDL粒子及び/又はアポリポタンパク質Bの血漿若しくは血清レベルが正常平均範囲の75パーセンタイルを超えると、静脈血栓症のリスクの増加に関連する脂質又はリポタンパク質レベルの上昇であると定義される。男性ではそれぞれ約1170nM、48nM、925nM、及び0.92mg/mLかそれより高いと血漿及び/又は血清濃度が上昇したレベルを意味する。
【0020】
さらに別の実施態様では、本発明は個人から入手した被検生体試料におけるアポリポタンパク質B及びアポタンパク質AIのレベル、又はLDL−C及びHDL−Cを測定することと、アポリポタンパク質Bとアポタンパク質AIの比率(the ratio of apolipoprotein B to apolipoprotein AI)、又はLDL−CとHDL−Cの比率(the ratio of LDL-C to HDL-C)を決定することと、生体試料の試験被検者の比率を、正常な比率の範囲と比較することとを含む、個人の静脈血栓症のリスクを判定する方法であって、正常な生体試料と比較して被検生体試料におけるアポリポタンパク質Bとアポタンパク質AIの比率、又はLDL−CとHDL−Cの比率が増加し、より高くなることが、個人の静脈血栓症の危険因子の指標となることを特徴とする方法を提供する。一実施例では、生体試料は血漿又は血清である。
【0021】
血漿若しくは血清のHDL−C及びLDL−C、又はアポリポタンパク質AI並びにアポリポタンパク質Bは当業者に周知の方法によって測定され、比率の値を計算する。正常範囲は、正常な被検者について測定した比率の値に基づくものである。正常範囲を超える比の値は、血栓症のリスクの増加の指標となる。一実施態様では、アポリポタンパク質Bとアポリポタンパク質AIの比率の正常範囲、及びLDL−CとHDL−Cの比率の正常範囲は、それぞれ0.59〜0.96及び1.7〜2.9である。別の実施態様では、アポリポタンパク質Bとアポリポタンパク質AIの比率の正常範囲、及びLDL−CとHDL−Cの比率の正常範囲は、それぞれ0.70〜0.85及び2.0〜3.5である。さらに別の実施態様では、アポリポタンパク質Bとアポリポタンパク質AIの比率、又はLDL−CとHDL−Cの比率が、正常範囲の65パーセンタイルを超えると、正常レベルを超えたと考えられ、血栓症のリスクが増えることの指標となる。アポリポタンパク質Bとアポリポタンパク質AIの比率、又はLDL−CとHDL−Cの比率が、正常範囲の65パーセンタイルを超えた値は、それぞれ約0.83及び2.6である。さらに別の実施態様では、アポリポタンパク質Bとアポリポタンパク質AIの比率、又はLDL−CとHDL−Cの比率が、正常範囲の75パーセンタイルを超えると、正常を超えたと考えられ、血栓症のリスクが増える指標となる。アポリポタンパク質Bとアポリポタンパク質AIの比率、又はLDL−CとHDL−Cの比率が、正常範囲の75パーセンタイルを超える値は、それぞれ約0.96及び2.9である。さらにまた別の実施態様では、アポリポタンパク質Bとアポリポタンパク質AIの比率、又はLDL−CとHDL−Cの比率が、正常範囲の85パーセンタイルを超えると、正常を超えたと考えられ、血栓症のリスクが増える指標となる。アポリポタンパク質Bとアポリポタンパク質AIの比率、又はLDL−CとHDL−Cの比率が、正常範囲の75パーセンタイルを超える値は、それぞれ約1.05及び3.25である。
【0022】
ELISA、ラジオイムノアッセイ(RIA)、電気泳動、HPLC、FACS、免疫比濁法、キャピラリー電気泳動、及び免疫検出法の有無を問わないが二次元ゲル電気泳動を含む、当業界に知られた様々なプロトコールを、脂質又はリポタンパク質を測定するNMRスペクトロスコピーの代替として用いることができ、血液サンプルにおける脂質又はリポタンパク質のレベルの変化や異常を検出及び/又は診断するための同様の基準を提供する。脂質若しくはリポタンパク質の正常な値若しくは標準的な値は、正常な哺乳類の被検体、好ましくはヒトから採取した血液、血漿、若しくは血清サンプル又は試料のコレクションと、複合体形成に適した条件下で脂質若しくはリポタンパク質への抗体とを用いて決定したパラメーターの正常な範囲若しくは対照範囲を定義することによって決められる。脂質若しくはリポタンパク質の正常な値若しくは標準的な値は、哺乳類の被検体、好ましくはヒトから採取した血液、血清、血漿サンプルのプールを用いることにより規定することもできる。脂質又はリポタンパク質の量は様々な方法で定量化できるが、好ましくは光度計による(photometric)方法が好ましい。免疫学的検定プロトコール(immunoassay protocols)としては、脂質又はリポタンパク質への抗体は適切な条件下で複合体を形成し、光度計、比色分析(colorimetric)、又は比濁法(turbidometic)等の方法により定量化できる。血液サンプル由来の被検体のサンプル、コントロールのサンプル、及び試験サンプルにおける脂質又はリポタンパク質の量は、標準コントロールの値と比較される。コントロール又は標準値と被検体の値との偏差は脂質、又はリポタンパク質の欠如、又は正常レベルを超えていることを診断するパラメーターを規定し、それにより個人の静脈血栓症のリスクを判定する。この判定は、血栓症治療の開始又は継続に関する決定をするために、及び治療上の措置をモニターするために役立つ。当業者において知られているように、いくつかの脂質又はリポタンパク質レベルは、性別によって相違し、性差に基づいて(gender-specific)正常な又は標準的な基準値が必要となることもある。
【0023】
生体試料において、特に血液において、本明細書に記載されているように脂質、アポリポタンパク質、又はリポタンパク質粒子の正常なレベルよりも高いこと又は低いことは、静脈血栓症の危険因子である。静脈血栓症は、発作(stroke)、外科手術(surgery)、外傷性障害(trauma)、ガン、肢の麻痺(leg paresis)、長期の旅行、炎症性腸疾患、ベーチェット病、骨折、化学療法、糖尿病と関連して発症することがあり、又は第5因子ライデン、プロテインC欠乏、プロテインS欠乏、抗トロンビン欠乏等の存在のような血栓性素因(thrombophilia)の遺伝的危険因子を有する被検者に発症しうるものである。
【0024】
本発明の別の実施態様では、例えば、CETPTaqI多型のB1又はB2アレルを含むCETP遺伝子型を決定することを含む、個人の静脈血栓症のリスクの判定方法を提供する。被検生体試料において、B2アレルが存在しないこと又はB1アレルが存在することが、個人の静脈血栓症の危険因子の指標となる。B1又はB2アレルとの連鎖不均衡と関連した別のCETP遺伝子の多型を使用してもよい。CETPTaqIB多型のB1(野生型若しくは優性)又はB2(変異型(variant)又は頻度が低い)アレルの決定は、CETP遺伝子のイントロン1の277番目のヌクレオチドに存在するヌクレオチドに依存する(Drayna D et al, Nucl Acids Res 1987;15:4698)。かかる位置にグアニジン「G」があるとB1アレルとなり、アデニン「A」があるとB2アレルになる。
【0025】
好ましい実施態様では、本発明は、CETPに関連した遺伝子変異型(CETP-linked gene variants)である、Ala373からPro、及びArg451からGlnの存在を判定することを含む、個人の静脈血栓症のリスクの判定方法をさらに提供する。被検生体試料に変異型が1つ又は両方が存在することは、個人の静脈血栓症の危険因子の指標となる。
【0026】
当業者に知られているCETP多型を検出する様々なプロトコールを用いることができる。かかるプロトコールは、例えば血液、口腔細胞(buccal cells)、精液、唾液、細胞生検などを含むがこれらに限定されない、被検者の試料由来のヒト被検者の遺伝物質(DNA又はRNA)の使用と関連する。多型検出は、当業者には周知の技術であり、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、すなわち制限断片長多型(restriction fragment length polymorphisms)(部位特異的突然変異誘発を含む)、アレル特異的PCR、又は増幅不応突然変異系(amplification refractory mutation system)(ARMS)、直接配列決定、リアルタイムPCR、一本鎖高次構造多型(single-stranded conformational polymorphisms)(SSCP)、又はヘテロデュプレックス分析、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(denaturing gradient gel electrophoresis)(DGGE)、ペプチド核酸(PNA)クランプ、オリゴヌクレオチド連結、ハイブリダイゼーション若しくは伸長アッセイ、TaqMan若しくは分子指標、高速液体クロマトグラフなどを挙げることができるがこれらに制限されない。
【0027】
本明細書に記載されている異常リポタンパク血症パターンに基づき静脈血栓症の個人のリスクを評価できるようになれば、医師が、リスクが増加している個人における静脈血栓症の発症及び/又はリスクを減少するための特別な治療法を見い出し、モニターすることができるようになる。
【0028】
したがって、本発明の別の実施態様では、個人の静脈血栓症のリスクを減少させるために十分な量の脂質低下剤又は脂質変化剤を投与することを含む、個人の静脈血栓症のリスクを減少させる方法を提供する。HDL−C及び/又は大HDL粒子(HDL2)を増加させる薬剤を静脈血栓症のリスクを減少させるために用いてもよい。かかるHDLを好ましく増加させる薬剤は、CETP阻害剤を含む。LDL−C及び/又は小LDL粒子のレベルを減少させる薬剤を、被検者の静脈血栓症のリスクを減少させるために用いてもよい。かかる脂質低下剤としては、例えば、スタチンとCETP阻害剤を挙げることができるがこれらに制限されない。静脈血栓症のリスクを減少させるためにも用いることのできる脂質変化剤としては、ニコチン酸、フィブラート、胆汁酸抑制薬や、HDL―C若しくは大HDL粒子を増加、及び/又はLDL−Cを減少、及び/又は小LDL粒子を減少させることのいずれかができる新しく発見された薬を挙げることができる。
【0029】
サンプルの脂質又はリポタンパク質レベルを測定するために、静脈血栓症のリスクを阻害するために、或いは危険因子をスクリーニングするために必要とされる、必須物質及び試薬はキットの中に一緒に詰め合わせてもよい。キットの構成要素は1又は2以上の溶液である場合、液体は好ましくは水溶液であり、殺菌した水溶液が特に好ましい。
【0030】
脂質又はリポタンパク質の検出のために、キットはカラム、ビーズ、樹脂、ゲルマトリックス、フィルター、TLCプレート、バッファー及び適当な溶媒などのクロマトグラフ分離のための物質を含んでもよい。あるいは検出が免疫学的手段によるときは、キットは、脂質又はアポリポタンパク質に対する抗体、一次抗体に結合する二次抗体、標識(labels)又はシグナルを形成する化合物(結合型若しくは非結合型(conjugated or unconjugated))、及びシグナルを形成し検出するための様々な試薬を含んでいてもよい。
【0031】
かかるキットの構成要素は、乾燥又は凍結乾燥された形態で提供されてもよい。試薬又は構成要素が乾燥した形態で提供されるときは、再構成は通常適当な溶媒を添加して行われる。溶媒が別の容器に提供されることも予想される。本発明のキットは、サンプルの脂質又はリポタンパク質レベルを測定するためのアッセイを説明する説明書を含んでいてもよい。
【0032】
本発明のキットは、バイアルを厳重に密封(in close confinement)するための市販の手段を一般に包含する。たとえば、注射、又は望ましいバイアルが入った中空成形プラスティック容器などである。器具には、例えば、インビボで反応を読みとることができ、又はモニターすることができる装置を含んでもよい。
【0033】
本明細書で引用されている全ての発行された刊行物、書籍、参考資料及び抜粋は、本発明の内容を説明するために、全体として参照により本明細書に援用される。
【0034】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を説明するものである。当然のことながら、いかなる面でも本発明の範囲を限定しない。本発明者らによって発見された代表的な技術に従った実施例に開示された技術は、本発明の実施において、良好に機能し、したがって、本発明の実施における好ましい形態を行使するとみなすことができることが、当業者によって理解されるものとする。当業者は、本発明の開示に照らして、特定の実施態様に加えることの様々の変更を考慮し、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、同様の結果を得ることができることを理解すべきである。
【実施例1】
【0035】
各リポタンパク質サブクラスの濃度とアポリポタンパク質(apo)AIとBの(血漿と抗原の)レベルを、プロトン核磁気共鳴スペクトル(NMR)を用いて測定した。リポタンパク質代謝と部分母集団(subpopulation)のレベル、肝性リパーゼ、内皮リパーゼ(endothelial lipase)、並びにコレステロールエステル転送タンパク質(CETP)に影響を与える3つの鍵遺伝子の一塩基多型(SNPs)を分析した(文献番号16〜20参照)。
【0036】
(方法)
[研究グループ(study group)]
スクリップス静脈血栓症レジストリ(The Scripps Venous Thrombosis Registry)はVTEの危険因子の進行中の症例コントロール研究(case-control study)である。VTEであると客観的に確認された患者を、スクリップス抗凝血サービス(Scripps Anticoagulation Service)と地域社会から募集した。VTEの新規の遺伝的危険因子の同定がレジストリの主要な目的であり、遺伝的因子は、55歳未満の若年被検者のVTEの一因となる可能性が高い。本研究の試験対象患者基準(inclusion criteria)は、55歳未満の血栓症患者であること、急性血栓症の診断から3ケ月を超えて経過していること、推定余命が少なくとも3年あること、脂質低下剤(lipid lowering medications)を使用していないこと、また転移性ガンではないことが含まれた。年齢と性別が一致する健常コントロール(healthy controls)を、スクリップス一般臨床リサーチセンター(Scripps General Clinical Research Center)(GCRC)採血プログラムを通じて募集した。収集された臨床データには、病歴の詳細及び静脈血栓症の危険因子の存在の有無が含まれた。プロトコールは、スクリップスクリニック(Scripps clinic)の施設内治験審査委員会(Institutional Review Board)により承認され、患者は書面によるインフォームドコンセントに同意した。
【0037】
臨床的特徴と、特定された危険因子の頻度と血漿脂質データとを表1に示す。115人のVTE患者中57人(49.6%)は、外科手術、外傷性障害、長期の固定(major immobilizaion)後90日以内に発症していず、かつ、ライデン第5因子、プロトロンビン20210A、妊娠、又はエストロゲンの使用に関連しない発症として定義される特発性(idiopathic)VTEを呈していた。VTEは、女性(24.6%)よりも、男性(82%)でより多く特発性であった(P<0.001)。女性VTE患者65人中、VTEの発症は、7人(11%)は妊娠、25人(39%)は経口避妊薬の使用、及び7人(11%)はエストロゲン補充療法と関連していた。コントロールにおける経口避妊薬の使用(30%)は同程度であったが、コントロールにおけるエストロゲン補充療法(22%)は、VTE患者よりも多かった。VTEの女性は、VTEの発症時(episode)にエストロゲンを使用していた。患者の84%は、血液を提供した時ワルファリンを服用していた。
【0038】
【表1】

【0039】
[血液採取、脂質及びアポリポタンパク質]
VTEの診断後少なくとも3ケ月経過後に、12時間の絶食後に、GCRCで血液を採取した。血清とEDTA血漿を調製し、血漿を−70℃で保存した。ApoAI及びApoBの血漿レベルを免疫比濁法(immunoturbidometric assay)キット(DiaSorin社製、Stillwater, MN)を用いて測定した。標準的な方法を用いた日常の臨床検査から、血清脂質プロファイルデータを得た。
【0040】
[NMRリポタンパク質サブクラス分析]
EDTA血漿における10個のリポタンパク質サブクラスのリポタンパク質粒子の濃度を、LipoScience(Raleigh,NC)にて、プロトン核磁気共鳴スペクトルによって測定した(文献番号21参照)。粒子の粒径範囲に基づくサブクラスのカテゴリーは、3つのVLDL部分母集団(subpopulations)[キロミクロン/大VLDL(large VLDL);中間VLDL(intermediate VLDL);及び小VLDL(smallVLDL)]と、3つのLDL部分母集団[IDL;大LDL(large LDL);中小LDL(medium small LDL)及び極小LDL(very small LDL)とも報告されている小LDL(small LDL) ]と、3つのHDL部分母集団[(大HDL(large HDL);中間HDL(medium HDL);及び小HDL(small HDL)とを含む。VLDL、LDL、及びHDLの平均の粒子サイズの値もまた計算した。文献に強調されているように(文献番号21、22参照)、NMR由来のリポタンパク質粒子レベルは、典型的なリポタンパク質粒子に特徴的なNMRシグナルに基づくものであり、実際の脂質測定によるものではない。NMRデータは粒子数に正比例し、個々人によって異なる場合もある粒子ごとの脂質又はアポリポタンパク質とは非依存的である。
【0041】
[DNA分析]
ゲノムDNAは、Puregene(登録商標)DNA精製キット(Gentra Systems社製、Minneapolis, MN)を用いてEDTA血液から抽出した。第5因子ライデン及びプロトロンビン20210AのSNPs、並びに肝性リパーゼ(LIPC―514C/T)、内皮リパーゼ(LIPGT111I)、及びCETP(TaqIBとI405V)のSNPsを、文献に記載の通りにアッセイした(文献番号17、20、及び23〜25参照)。
【0042】
[統計的分析]
グループ間のカテゴリーデータを、分割表解析(contingency-table analysis)(カイ二乗検定(chi-squared test))を用いて比較し、連続データを、対応のないスチューデントのt−検定(unpaired student t-test)又はマン−ホイットニーの検定(Mann-Whitney data)を必要に応じて用いて比較した(Prism(登録商標)3.0ソフトウェア、Graph Pad Software社製、San Diego, CA)。p値はすべて両側検定(two-tailed)であった。プロトロンビン危険因子の多因子性の役割を、多変量ロジスティック回帰解析(multivariate logistic regression analysis)を用いて評価し、調整したp値又は調整したオッズ比を、ミニタブ14ソフトウェア(Minitab社製、State College, PA)を用いて計算した。
【0043】
(結果)
男性のVTE患者は、男性のコントロールよりも平均HDL粒子濃度が有意に低かった(p<0.001)(図1A参照)。HDLリポタンパク質サブクラスでは、大HDL粒子濃度が、男性のVTE患者では男性のコントロールよりも低かった(p=0.01)一方、中間と小HDL粒子は有意な相違はなかった(それぞれp=0.13及び0.13)(図1B〜D参照)。HDL粒子サイズもまた、男性のVTE患者では男性のコントロールよりも小さかった(p=0.02)(データは示されていない)。
【0044】
男性のVTE患者のLDLリポタンパク質粒子濃度は、男性のコントロールよりも有意に高かった(図2A参照、p=0.01)。LDLリポタンパク質サブクラスでは、IDL及び小LDL粒子の濃度が、男性のVTE患者でより高かった(それぞれp=0.01及び0.02)一方、大LDL粒子は相違がなかった(p=0.33)(図2B−D参照)。小HDL粒子の2つのサブグループ、即ち中小粒子と極小粒子は、男性のVTE患者では上昇した(それぞれp=0.01及び0.02、データは示されていない)。LDL粒子サイズは、男性のコントロールと比較して男性のVTE患者ではより小さかった(p=0.04)(データは示されていない)。静脈血栓症のよく知られた3つの危険因子である第5因子ライデン、プロトロンビン20210A、及び肥満度指数(BMI)の調整後も、男性のHDL粒子、大HDL粒子、LDL粒子、及び小HDL粒子の濃度は依然として著しく相違しており、調整したp値はそれぞれ0.004、0.04、0.01、及び0.02であった。IDL粒子の調整したp値の相違はやや減少し、0.07であった。
【0045】
男性の被検者のデータとは対照的に、女性のVTE患者と女性のコントロールとを比較したときには、HDL粒子又はLDL粒子の濃度には有意な相違はみられなかった(図1及び図2参照)。男性においても女性においても、VLDL粒子の合計濃度、VLDLサブクラス(大、中間、及び小VLDL粒子)について、又はVLDL粒子サイズについて、統計的に有意な相違は観察されなかった(データは示されていない)。
【0046】
男性のVTE患者では、男性のコントロールと比較して、ApoAIレベルがより低く(p=0.04)(図1E参照)、apoBレベルはより高かった(p=0.04)(図2E参照)。アポリポタンパク質Bが関連していないアポリポタンパク質CIII(apoCIII−Lp−nonB)のレベルもまた、VTEではより低かった(p=0.03)(データは示されていない)。男性のVTE患者のapoB対apoAI比(apoB to apoAI ratio)の平均値は、男性のコントロールよりも有意に高かった(p=0.001)(図2G参照)。VTE患者とコントロールとを比較したときに、apoB/apoAI比の平均値のかかる相違は、apoAI単独又はapoB単独の平均値の相違よりも統計的により大きかった(図2Gと、図1E及び2E参照)。第5因子ライデン、プロトロンビン20210A、及びBMIの調整後も調整したp値は0.008であった。apoAI又はapoBの平均値の相違は、女性のVTE患者と女性のコントロールとの比較ではみられなかった。
【0047】
総血清コレステロール及びトリグリセリドのレベルは、どちらの性別でもVTEとコントロールググループの平均値に相違はみられなかった(表1参照)。男性のコントロールと比較して、男性のVTE患者ではHDL−Cの平均値がより低い(p=0.03)一方、LDL−Cの平均値はより高かった(p=0.05)。しかしながら特に、男性のコントロールと比較して、男性のVTE患者ではLDL−C対HDL−Cの平均比(LDL-C to HDL-C mean ratio)がより顕著に高かった(p=0.002)。第5因子ライデン、プロトロンビン20210A、及びBMIの調整後、比平均値の相違について調整したp値は、0.002であった。
【0048】
男性のVTE患者における減少したHDLパラメーター(<25%)、増加したLDLパラメーター(>75%)の四分位数(quartile)に基づいたオッズ比(OR)を表2に示す。総HDL粒子と大HDL粒子のレベルの減少は、VTEのリスクが増加したことと関連し、それぞれOR=7.2(95%CI:3.0−18)、及び3.3(95%CI:1.4〜7.9)であった。より小さいHDLの平均粒子サイズは、有意なオッズ比3.1を有していた(95%CI:1.3−7.3)。総LDL粒子と、2つのサブフラクションであるIDLと小HDL粒子が、高レベル(>75パーセンタイル)であることは、VTEのリスクを増加させる[それぞれOR=2.9(95%CI:1.2−6.7)、2.6(95%CI:1.1−6.2)、及び3.6(95%CI:1.5−8.5)]。男性のVTEについては、小HDL粒子サブクラス、即ち中程度に小さい及び非常に小さいLDL粒子の2つの部分母集団のそれぞれが、ORが3.3(それぞれ95%CI:1.4−7.9及び1.5−8.5、データは示されていない)であり、小HDL粒子のOR=3.6と同様の値であった(表2参照)。第5因子ライデン、プロトロンビン20210A、及びBMIを調整した後、統計学的に有意な四分位数を基にしたOR値は全て、強い統計的な有意性を維持した(データは示されていない)。
【0049】
【表2】

【0050】
男性では、低いレベルのapoAIと高いレベルのapoBは、それぞれOR=5.5(95%CI:2.3−13)と2.4(95%CI:1.0−5.7)という、VTEのリスクの増加に対して有意なOR値を与えるものであり、ApoB/ApoAIの比[OR=3.9(95%CI:1.7−9.3)]も同様であった。低いレベルのapoCIII−Lp−nonB(コントロールの10パーセンタイル未満)は、VTEのリスクの増加[OR=3.1(95%CI:1.0−9.5)、p=0.04]と関連していた(データは示されていない)。男性の臨床検査の血清コレステロールデータに基づく、低いHDL−CのORは、統計学的に有意であるが[OR=3.3(95%CI:1.4−7.9)]、LDL−Cの上昇は、上昇してはいるが、統計的な有意性を得ることはなかった[OR=2.2(95%CI:0.94−5.3)]。男性のVTEについては、LDL−C/HDL−Cの高い比は、VTEのリスクの増加に対して統計的に有意であった[OR=3.3(95%CI:1.4−7.9)]。LDL−Cレベルが160mg/dlより高い男性では、VTEのORが4.8(95%CI:1.5−16)であったが、HDL−Cが40mg/dlより低い場合は、VTEのORは3.1(95%CI:1.2−8.1)であった(データは示されていない)。
【0051】
異常リポタンパク血症(dyslipoproteinemia)の一因となる遺伝的影響を特定するために、リポタンパク質部分母集団、及びHDL−C、肝性リパーゼ(LIPC−514C/T)、内皮リパーゼ(LIPGT111I)、並びにCETP(TaqI及びI405V)に影響を与える3つの鍵遺伝子の周知のSNPを決定した(表3参照)。カイ二乗検定を用いた、SNPsのアレル(allele)頻度は、全てのVTE患者とコントロールグループの間で相違はなかった。しかしながら、CETP B2アレルは、コントロールよりも男性のVTE患者では、非常にまれなものであって(p=0.04)、CETP B2アレルの相違は、ORが1.9(95%CI:1.1−3.4)であった。
【0052】
【表3】

【0053】
(考察)
動脈血栓症と循環器疾患は、明らかに異常リポタンパク血症と関連するものであるが(文献番号26〜31参照)、VTEでの異常リポタンパク血症は当業者に知られていない。本実施例では、男性のVTE患者は男性のコントロールよりも、総HDL粒子濃度が顕著に低くLDL粒子レベルが顕著に高い。リポタンパク質サブクラス分析は、これらの相違がより低いレベルの大HDL粒子、並びにより高いレベルのIDL及び小HDL粒子を反映することを示す。NMRに基づくデモンストレーションで男性のVTE患者の異常リポタンパク血症を確認したところ、HDLとLDLの主要タンパク質の抗原アッセイデータは、より低いApoAIとより上昇したApoBレベルを示した。男性のVTE患者とコントロールとの間の、ApoB/ApoAI比(ApoB/ApoAI ratios)の相違は、いずれのアポタンパク質単独の相違よりも統計的により大きいものであった。本実施例では、VTE患者とコントロールの間の、より低いHDLパラメーターと上昇したLDLパラメーターの統計的な有意差は、女性と比較した男性にのみに限定されていた。この結果は、特発性VTEであった女性患者(25%)の比率が男性(82%)と比較して非常に少ないことに関連している。特発性VTEである女性のVTE患者についての本発明者らの研究は、女性の突発性VTEのリスクが、本研究における男性のVTE患者が明らかに呈している異常リポタンパク血症のパターンの1又は複数の要素と関連している可能性を排除できるほど強力ではない。実施例3及び4で示すように、低いレベルのHDLは、原因不明の(unprovoked)VTEを経験する女性のVTEのリスクの増加と関連している。
【0054】
本実施例では、四分位数分析に基づいて、低いレベルのHDL粒子と関連したVTEのORはかなり高く、7.2(95%CI:3.0〜18)であり、低いレベルの大HDL粒子と特に関連していたが、中間及び小HDL粒子の相違とは関連していなかった。統計的に有意なOR値は、大LDL粒子ではなく、小HDL粒子とIDL粒子の上昇によるLDL粒子の上昇と関連することが見い出された。
【0055】
血清コレステロールデータに基づくと、HDL−Cは、男性ではコントロールよりもVTE患者で有意に低く、LDL−C/HDL−C比は、コントロールよりもVTE患者で有意に高かった。LDL−Cのデータは特に目を見張るものではなかったが、LDL−Cレベルが160mg/dLよりも高い被検者でのVTEのORは、4.8(95%CI:1.5〜16)であり、LDL−Cの上昇はVTEに関連することを示唆していた。LDL−Cの上昇に関連したVTEの四分位数分析に基づいたORを計算したが、ORは、統計的な有意性を得ることはなかった。
【0056】
異常リポタンパク血症の所見の一因となる遺伝因子を同定するために、HDL代謝を制御する3つの遺伝子で、遺伝的変異(genetic variation)を評価した(文献番号17、18、20、32、及び33参照)。CETPのTaqI多型であるB2アレルは、コントロールと比較して男性のVTE患者では頻度がより低かった(p=0.04)。CETPの欠如、又はCETP阻害剤は、HDLレベルを増加させるため、CETPは、HDLからApoBを含むリポタンパク質への、コレステリルエステル転送に重要な役割を果たしている (文献番号33、34参照)。TaqIB2アレルは、CETP活性の減少と連関している。それによりHDL粒子サイズとLDL粒子のサイズが大きくなり(文献番号16参照)、VTEでのB2の頻度の低さは、低いHDLとより高いLDLレベルを予測するものである。注目すべき点は、CETPのTaqI遺伝子座(locus)が、CETP遺伝子の他の多型の不均衡と強く連関し、CETPの活性と濃度に直接に影響を及ぼしうることである(文献番号35参照)。それゆえ、TaqIB多型は、男性の静脈血栓症のリスクの増加に連関しているCETP遺伝子型のいくつかのSNPマーカー中、一つのみを提供する。VTEに関連している各々のCETPのSNPは、より高いレベルのCETPの質量及び活性に連関しており、遺伝的研究が、高レベルのCETPの質量及び活性VTEのリスクに連関していることを示唆することを示すものである。
【0057】
VTEの再発は、女性よりも男性に多く起こるが、明確な要因について何ら説明はなかった(文献番号36参照)。VTEの再発リスクが増加することと、女性よりも男性のVTEのリスクが本質的により高いことは、男性に特有の危険因子がある、及び/又は女性に特有の保護因子(protective factor)があることを示唆している。一般的に、閉経前の女性は男性よりも、好ましい脂質/リポタンパク質プロファイルを有する。この発見は、なぜ男性はVTEのリスクがより大きいのかということを説明する手助けになる。他所で概説されていることであるが(文献番号13参照)、LDLの上昇又はLDLの酸化は、トロンビンの形成を促進できる一方、HDLは、プロテインCの経路を増強し、トロンビンの生成を減少させることができる。それゆえ、apoB/apoAI若しくはLDL−C/HDL−C値に反映される、LDLとHDLの比率(ratio of LDL to HDL)の増加は、プロトロンビンに起因し(prothrombotic)、異常リポタンパク血症がVTEに対してプロトロンビンに起因するものであるメカニズムの実質的な生物学的妥当性が存在する。
【0058】
本実施例において及び他の実施例において、異常リポタンパク血症が、VTEに関連するという所見に基づく、明確な治療及び診断に関する暗示がある。以下に新規の療法を挙げることができるがこれらに限定されない。本明細書で記述されている異常リポタンパク血症のパターンを有する被検者はVTEのリスクがより高いので、かかる被検者は、異常リポタンパク血症を好都合に変化させる治療法の恩恵を受けることができる。特発性VTEとしても知られる、原因不明のVTEを経験した患者にとって、脂質変化剤(lipid altering drugs)による血栓予防(thromboprophylaxis)は、再発性VTEを防ぐものとなろう。VTEの危険因子としてかかる異常リポタンパク血症パターンを示す、VTEを発症したことのない被検者にとって、スタチン療法又はCETP療法は、リスクが増加している状況において、VTE発症のリスクを減らすことに効果的であるといえる。臨床試験では、CETPの阻害剤が、大LDL粒子レベルを増加させ、LDL粒子レベルの減少させること、すなわち、VTE患者にみられる異常リポタンパク血症パターンの好ましい逆転(文献番号34参照)を示すものであり、CETP阻害療法が、異常リポタンパク血症の患者の再発性VTEのリスクを減少させるのに役立つことを示唆するものである。CETP阻害剤は、被検者の以前のVTEの有無にかかわらず、HDLが欠乏している被検者が、予防法から恩恵を受けてVTEを防止するために役立つであろう。
【0059】
診断への応用としては、以下を挙げることができるが、これに限定されない。例えばLDLC/HDL−C比が、VTEのリスクを評価するために臨床的に有用であるかもしれない。血清脂質アッセイよりも簡便ではないが、apoB/apoAIを測定するためのELISAアッセイ若しくは当業者に知られている別の免疫アッセイ法が有用な場合もある。さらに、VTE患者のリポタンパク質サブクラスレベルを定量するためのNMRスペクトロスコピー(NMRspectroscopy)を用いた臨床研究は、HDL及びLDL代謝を制御する遺伝子のSNPsの研究と同様に確証されている。目的のSNPsは、CETPのTaq1B1/B2多型又は当業者に知られた別の遺伝的に連関した多型を含む。
【0060】
本発明者らのデータは、多くの別個に測定されたパラメーター、即ちNMRデータ、抗原データ、臨床血清コレステロールデータが、大HDL粒子の低レベル及び小HDLとIDL粒子のレベルの上昇により特徴づけられる異常リポタンパク血症の特定パターンの定義と完全に合致しているため、強力である。
【0061】
要約すると、実施例1では、男性のVTEは、保護的な大HDL粒子のレベルの減少、及び有害な小HDLとIDL粒子のレベルの上昇と関連していた。遺伝学研究では、VTEの男性は、CETP活性を上昇させ、男性VTE患者で観察される異常リポタンパク血症一因となるCETP遺伝子型を過度に有していることを示している。
【実施例2】
【0062】
2つの比較的まれなCETP変異型(variant)である、Ala373ProとArg451Glnを、VTE男性患者のコホートと対応コントロールとで決定した。データによれば、まれであって通常は連関しているCETP変異型であるPro373とGln451は、静脈血栓症及び血漿濃度が低いHDLと関連していた。CETP変異型であるAla373ProとArg451Glnは、CETPの質量及び活性のレベルの上昇に関連することが知られており、CETPの質量及び活性の上昇がVTEに連関していることを示している。
【0063】
(方法)
[研究グループ]
VTEであると客観的に確認された男性のVTE患者(n=49)を、スクリップス静脈血栓症レジストリで募集した(文献42参照)。様々な基準の中で、試験対象患者基準は、55歳未満の血栓症患者であること、急性血栓症の診断から3ケ月を超えて経過していること、脂質低下剤を使用していないこと、また、ガンではないことが含まれた。健常男性コントロール(n=49)は、年齢(±2歳)と民族グループ(92%が非ヒスパニックの白人)とで適合させた。VTEは、患者の82%(40/49)で特発性と分類された。プロトコールは、スクリップスクリニックの施設内治験審査委員会により承認され、患者は書面によるインフォームドコンセントに同意した。
【0064】
[血液採取、脂質及びアポリポタンパク質サブクラス分析]
血清とEDTA血漿を、VTEの診断後少なくとも3ケ月経過後に、12時間の絶食後に患者から採取した血液から調製し、−70℃で保存した。標準的な方法を用いた日常の臨床検査から、血清脂質プロファイルデータを得た。
【0065】
EDTA血漿における10個のリポタンパク質サブクラスのリポタンパク質粒子の濃度を、LipoScience(Raleigh,NC)にて、プロトン核磁気共鳴スペクトル(文献番号58及び59参照)によって、文献に記述されているように測定した(文献42参照)。サブクラスのカテゴリーは、粒子の粒径範囲に基づいており、3つのVLDL部分母集団[キロミクロン/大VLDL;中間VLDL;及び小VLDL]と、3つのLDL部分母集団[IDL;大LDL;及び小HDL]と、3つのHDL部分母集団[大HDL;中間HDL;及び小HDL]である。VLDL、LDL、及びHDLの平均の粒子サイズも計算した。文献に強調されているように(文献番号58及び59参照)、NMR由来のリポタンパク質粒子のレベルは、典型的なリポタンパク質粒子に特徴的なNMRシグナルに基づくものであり、実際の脂質測定によるものではない。NMRデータは粒子数に正比例し、個々人によって異なる場合もある粒子ごとの脂質又はアポリポタンパク質とは非依存的である
【0066】
[DNA分析]
ゲノムDNAは、Puregene(登録商標)DNA精製キット(Gentra Systems社製、Minneapolis, MN)を用いてEDTA血液から抽出した。CETP遺伝子の4つのSNPs(TaqIB1/B2、Ala373Pro、Ile405Val、及びArg451Gln)を文献に記載されているように測定した(文献番号42及び52参照)。VTEの遺伝子多型との関連を評価するためにカイ二乗検定を用いた。
【0067】
(結果と考察)
CETPは、リポタンパク質代謝において重要な役割を果たし、異なるリポタンパク質間の様々な脂質を運搬することによりHDLを潜在的に再構築し(remodel)、CETP欠如、又はCETP阻害剤は、HDLレベルを増加させる(文献番号53〜55及び60〜62参照)。4つのCETP遺伝子の変異(variation)、すなわち比較的一般的なTaqIB1とIle405の変異型、及び比較的まれなPro373とGln451の変異型は、HDLコレステロールレベルをより低くし、より小さい(smaller)HDL粒子を生じさせるより高いレベルの血漿CETPと関連していた(文献番号52〜57参照)。男性静脈血栓症患者でのHDL欠乏に関する知見を得るために(文献番号42参照)、CETP遺伝子でのAla373ProとArg451Gln変異(variation)を、男性のVTE患者49人と対応コントロール49人において分析した。Pro373のヘテロ接合性(heterozygosity)は、VTE患者では20%(49人中10人)、コントロールでは2%(49人中1人)が特定された(p=0.0040)。一方、Gln451のヘテロ接合性は、VTE患者では16%(49人中8人)、コントロールでは0%が特定された(p=0.0032)。かかる2つのCETP変異型のいずれにおいてもホモ接合体は、研究中の98人の被検者で観察されなかった。Gln451を有する被検者は、全員Pro373を有していた。比較として、第5因子ライデン及びプロトロンビン20210Aは、VTE患者の26%(49人中13人)及び14%(49人中7人)にそれぞれみいだされた一方、かかる2つの遺伝的変異は、報告のあるとおり(文献番号42参照)、それぞれコントロールの4%(それぞれの変異型につき49人中2人)に別個に観察された。
【0068】
本発明者らのスクリップスのコントロール(表4参照)で調査された4つのCETP変異型のアレル頻度の値は、発表されている集団(population)の数値と類似していた(esembled)。例えば、コーカサス人の集団では、発表されているPro373とGln451のアレル頻度の値は、それぞれ約0.02と0.01であり、TaqIB1とIle405アレル頻度の値は、それぞれ0.57と0.62である。対照的に、スクリップスのVTE患者のすべてのアレル頻度の値は、Pro373、Gln451、TaqIB1、及びIle405の本発明者らのスクリップスのコントロールの数値を超えていた。計算されたアレル頻度の差を表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
7つの異なるCETP SNPsの分析に基づく従前の研究は、それぞれの推定有病率が0.5%を超えている(>0.5%)、少なくとも14の異なるCETPハプロタイプの存在を推測させるものであった(文献番号56参照)。かかる14個のハプロタイプのうち1個のみがGln451を有しており、14個中2個のハプロタイプがPro373を有している。TaqIB1、Pro373、Ile405、及びGln451を有しているこれらの2つのハプロタイプがより多くみられ、本発明者らの研究で決定された4つのCETPのSNPsがVTE患者では、コントロールと比較して過度に観察された。VTE患者とコントロールとの間のアレル頻度の相違は、Pro373では0.09であり、Gln451では0.08であった(表4)。本発明者らの研究ではより一般的なTaqIB1とIle405Iの変異型についてのVTE患者とコントロールの間のアレル頻度の相違は、それぞれ0.14と0.11であった。それゆえ、アレル頻度のそれぞれの相違はかなり類似しており、0.08〜0.14の範囲であり、本発明者らは、Pro373とGln451の両方を呈する本発明者らのVTE患者の16%が、一般的なCETP変異型であるTaqIB1とIle405及び比較的まれな変異型であるPro373とGln451を含むハプロタイプ(文献番号56参照)を有すると推定する。
【0071】
8人のVTE患者において、血漿リポタンパク質濃度とPro373とGln451の存在との関係について分析した。かかる8人のVTE患者のHDLパラメーターを、コントロール及び正常型のArg451CETP遺伝子型を有する別のVTE患者のHDLパラメーターと比較した。HDLコレステロールとHDL粒子の血漿レベルは、Pro373とGln451を有する8人のVTE患者では、正常型のArg451CETP遺伝子型の者よりも低かった(図3参照)。Pro373とGln451遺伝子型の両方を有するVTE被検者の、NMRスペクトロスコピーを用いて測定したリポタンパク質の濃度、即ちVLDL粒子とLDL粒子の濃度は、他の被検者と有意な相違はなかった(データは示されていない)。それゆえ、VTE患者のCETPでPro373とGln451が存在することは、静脈血栓症に関連するHDL欠乏の所見を説明するための重要な手助けとなることを示唆する(文献42参照)。
【0072】
以下のことは興味を持って注目すべきである。Pro373とGln451の両方を有する8人すべてのVTE患者は、コントロールの25パーセンタイル以下(≦the 25thpercentile)のHDLコレステロールレベルを有する一方、これら8人のVTEの患者のうち8人中6人は、コントロールの25パーセンタイル以下のHDL粒子濃度を有する(図3参照)。比較として、正常なCETP遺伝子型の54%のVTE患者は、コントロールの25パーセンタイル未満のHDLコレステロールレベルを有する一方、VTE患者の68%は、コントロールの25パーセンタイル以下のHDL粒子濃度を有する(図3参照)ことに注目すべきである。これらのデータは、野生型であるAla373とArg451のCETP遺伝子型のVTE患者の相当数が、HDLコレステロールが低く、HDL粒子濃度が低いことを示す(図3参照)。結果として、Pro373とGln451の存在が、多少のVTE患者のHDL欠乏の所見を説明することの有効な手助けになるが、静脈血栓症でのHDL欠乏に有意に一因となる遺伝的及び/又は環境的な別の因子がある。
【0073】
HDLは、コレステロール逆転送系(reverse cholesterol transport process)の一因となり、抗炎症性活性、抗酸化活性、及び抗アポトーシス活性に影響を及ぼす(文献番号44〜46、54、55、及び62〜66参照)。HDLはまた、少なくともインビトロにおいて活性化したプロテインCの抗凝固作用を増強する(文献番号50参照)。それゆえ、発病のメカニズムについては実質的な生物学的妥当性があり、CETP変異型であるPro373とGln451により引き起こされるHDL欠乏はプロトロンビンに起因し、VTEのリスクの増加の一因となるのかもしれない。
【0074】
本研究における所見は、非常に強力な統計学的重要性を有する。研究は男性に限定されているが、同様の所見は女性のVTE患者でも適用されるものであろう。
【0075】
異常脂質血症(dyslipidemia)及び異常リポタンパク血症は、薬物治療を受け入れることができるものであるから、VTEのリスクを減少させるための治療と関連するものである。例えば、CETP阻害剤(文献番号60〜62参照)を用いてHDLを上昇させる治療は、VTEのリスクを減少させるものとなろう。
【0076】
本実施例の概要として、高比重リポタンパク質欠乏を含む異常リポタンパク血症を呈している55歳未満の男性での静脈血栓塞栓症は、高比重リポタンパク質の減少とCETPの質量と活性の上昇を引き起こすことが知られている2つの比較的まれなコレステリルエステル転送タンパク質遺伝子の変異型であるAla373からProとArg451からGlnと関連している。
【実施例3】
【0077】
以下の研究グループのApoAI(HDLの主要なアポリポタンパク質)の抗原レベルを測定した。
【0078】
[研究グループ]
57人のVTE患者と54人の対応コントロールからなる白人女性の研究集団。患者が最初に血栓症を発症したのが45歳未満であり、以前に報告のある研究(文献77参照)のサブセットであった。すべての被検者に、協会のガイドラインに沿ってインフォームドコンセントを行った。
【0079】
経口抗凝固薬を服用している患者、抗トロンビン、プロテインC、プロテインS、プラスミノーゲン、又はヘパリン補因子IIの欠陥などの公知のトロンビン因子の(thrombophilic)欠如の患者、及びAPC抵抗性(resistance)第5因子ライデン、及びプロトロンビン20210A、又は抗リン脂質抗体、或いはループス性抗凝固因子(lupus anticoagulant)を有する患者は、悪性腫瘍(malignancy)、ネフローゼ症候群、腎臓及び肝臓不全、炎症性疾患若しくは感染症、又は心臓疾患の患者と同様除外された。すべての患者のVTEの診断は、入院して行った客観的方法(下肢のVTEのための静脈造影法(venography)若しくは超音波検査法(ultrasonography))、又は肺塞栓症(pulmonary embolism)のための肺血管造影(pulmonary angiography)若しくは肺潅流喚起スキャン(perfusion-ventlation lung scan))によって確定された。
【0080】
グループ間のカテゴリーデータを、分割表解析(カイ二乗検定)を用いて比較し、連続データは、対応のないスチューデントのt−検定、又はマン−ホイットニーの検定を必要に応じて用いて比較した(Prism(登録商標)3.0ソフトウェア、Graph Pad Software社製、San Diego, CA)。p値はすべて両側検定であった。プロトロンビンの危険因子の多因子性の役割を、多変量ロジスティック回帰解析を用いて評価し、調整したp値又は調整したオッズ比を、ミニタブ14ソフトウェア(Minitab社製、State College, PA)を用いて評価した。
【0081】
図4に示すように、女性のコントロールと比較して、女性のVTE患者ではApoAIレベルがより低かった(p=0.026)。
【実施例4】
【0082】
この実施例では、静脈血栓症の発症を経験したことのある患者の大規模コホートについて追跡調査し、高比重リポタンパク質パラメーターと再発性静脈血栓塞栓症との関係を調査した。
【0083】
(方法)
[研究グループ]
患者は、静脈血栓塞栓症の患者に対する、進行中のプロスペクティブ多施設コホート研究であるオーストリア再発性静脈血栓塞栓症研究(Austrian Study on Recurrent Venous Thromboembolism)(AUREC)の参加者であった。研究の特徴は詳細に報告されている(文献番号36参照)。1992年の7月から2004年の11月の間で、静脈血栓塞栓症後少なくとも3ケ月間ビタミンK拮抗薬(vitamin K-antagonists)で治療していた18歳を超える2764人の患者が選ばれた。深部静脈血栓症(deep vein thrombosis)は、静脈造影法(venography)又はカラー二重超音波造影術(近位深部静脈血栓症の場合)により診断した。肺塞栓症(Pulmorary embolism)は、肺塞栓症診断の予測試験(Prospective Investigation)の基準による肺換気血流スキャン(ventilation perfusion scan)又は多層コンピュータ断層撮影法(multi-slice computed tomography)により診断した(文献36参照)。過去の血栓症(329人)、外科手術、外傷性障害、若しくは妊娠において二次的に起こる静脈血栓塞栓症(423人)、抗トロンビン、プロテインC、若しくはプロテインSの欠如(66人)、ループス性抗凝固因子(67人)、ガン(434人)、静脈血栓塞栓症以外の理由による長期間の抗血栓剤治療の必要性(428人)、或いは臨床試験用の機材が用意できない(122人)ことを理由に、1992人の患者が除外された。再発リスクに対する長期間の抗凝固剤の効果を調査する介入試験に参加した第8因子レベルの高い26人の患者も分析から除外した。スタチンを用いた97人の患者も除外した。
【0084】
研究は、協会の倫理委員会により承認され、患者は書面によるインフォームドコンセントに同意した。患者はビタミンK拮抗薬を中断しているときに研究に参加し、最初の1年は3ケ月の間隔をおいて、その後は6ケ月毎に調査を行った。患者らは、静脈血栓塞栓症の症状について書面で情報を受け取り、症状が出たときには報告する旨指導を受けた。
【0085】
[研究の終了]
研究は、客観的方法により別々の臨床医及び放射線科医によって、再発性深部静脈血栓症の兆候が確認されたときに終了した。
【0086】
[血液採取と実験室分析]
静脈血を、プロトロンビン時間の正常化(normalization)後(ビタミンK拮抗薬の中断後約3週間)、絶食状態で、1/10容量の0.11mモル/Lクエン酸三ナトリウム内に採取した。2000gで20分間遠心分離して血漿を調製し、−80℃で保存した。ゲノムDNAは、標準的な方法で、血液白血球(blood leukocytes)から単離した。抗トロンビン、プロテインC、プロテインS、第5因子ライデン、プロトロンビンG20210A変異体(mutation)、第8因子、及びループス性抗凝固因子を、従前記述されている通り(文献番号36参照)決定した。アポリポタンパク質AIとアポリポタンパク質Bの血漿レベルは、免疫比濁アッセイキット(DiaSorin社製、Stillwater, MN, USA)を用いて測定した(文献番号42参照)。プロトン核磁気共鳴(NMR)スペクトロスコピーを用いて、396人の患者のEDTA血漿での、10のリポタンパク質サブクラスのレベルとEDTA血漿の脂質のレベルを、文献(文献番号21、22、及び42参照)に記述されている通り決定した。NMR由来のリポタンパク質粒子のレベルは、典型的なリポタンパク質粒子に特徴的なNMRシグナルに基づくものであり、実際の脂質測定によるものではない。NMRデータは粒子数に正比例し、個々人によって異なる場合もある粒子ごとの脂質又はアポリポタンパク質とは非依存的である。HDLコレステロールとLDLコレステロールのレベルをNMRスペクトロスコピーを用いて計算し、かかる方法は、従来の化学的方法により決定された脂質濃度と強い相関を示した(文献番号22参照)。NMRスペクトロスコピーを用いて、計算されたHDLコレステロールとLDLコレステロールレベルは、脂質濃度を決定するための従来の化学的方法と強い相関を示した(文献番号22参照)。NMRスペクトロスコピー分析のための患者のサンプルは、再発の状況によって選択した。年齢と性別に照らして、再発した患者一人につき、再発していない3人の患者を対応させた。
【0087】
[統計的分析]
算術演算に、SPSS12.0ソフトウェアの(SPSSInc. Headquarters, Chicago、Illinois, USA)を用いた。階層(strata)間の均一性(homogeneity)を試験するために、ログランク検定(log-rank)、及び一般化ウィルコクソン検定(generalized Wilcoxon test)を適用した。カテゴリーデータの均一性を、分割表解析(カイ二乗検定により)を用いてチェックし、連続データ(平均±SDとして表す)をマン−ホイットニーのU検定によって比較した。再発までの時間(非打切り観察(uncensored observations))又は再発のない患者では追跡調査(follow up)の時間(打切り観察(censored observations))をサバイバルメソッドを用いて分析した。再発の確率は、KaplanとMeier(文献番号78参照)により推定した。単変量と多変量のコックス比例ハザードモデル(Cox proportional hazards models)をアポリポタンパク質AIとアポリポタンパク質Bのレベルと再発リスクとの間の関連を分析するために用いた。分析は、年齢、性別、肥満度指数、及び第8因子の高さについて調整した(90パーセンタイル(225IU/dl)で二分化)。
【0088】
本発明の実施例では、突発性静脈血栓塞栓症を初めて発症した患者772人を研究した。患者の平均年齢は、47±16歳であり、772人中440人の患者が女性であった(57パーセント)。患者の経過観察は平均48ケ月であった。192人の患者が、ガン(患者15人)若しくは妊娠(患者33人)の診断のため、又は、静脈血栓塞栓症以外の理由による抗血栓剤の治療が必要(患者112人)のため研究から退き、患者15人は経過観察ができなくなり、患者17人が死亡したが、そのうち2人は再発性VTEが死亡原因であった。患者は、データを打ち切って研究を退くまで経過観察された。
【0089】
772人中100人の患者(13%)が静脈血栓塞栓症を再発した。再発箇所は、61人が深部静脈血栓症、39人が肺塞栓症であった。多変量解析によると、男性で第8因子が高いことが、再発リスクの主要な決定要因であった(表5参照)。再発リスクは、肥満度指数の増加に伴い増加する。第5因子ライデン又は第2因子G20210Aのいずれかのヘテロ接合性のキャリアシップ(heterozygous carriership)は、野生型のキャリアと比較して有意に再発リスクをより高くするものではなかった。
【0090】

【表5】

【0091】
再発性静脈血栓塞栓症の患者は、再発していない患者よりも、アポリポタンパク質AIが有意により低いレベルであった(1.12±0.22mg/mL対1.23±0.27mg/mL、P<0.001)。アポリポタンパク質AIを、Cox比例ハザードモデル(Cox proportional hazard model)に連続変数として入力したとき、再発の相対リスクは、アポリポタンパク質AIのレベルが0.1mg/mL増加するごとに0.87(95パーセント信頼区間0.80〜0.94)であって、年齢、性別、第8因子の高さ、及び肥満度指数による調整後も変化がなかった[相対リスク0.88(95パーセント信頼区間0.80〜0.97)]。
【0092】
アポリポタンパク質AIレベルの増加に伴う再発リスクが減少する潜在的直線性(potential linearity)を検出するため、アポリポタンパク質AIレベルの三分位数(tertiles)に対応する患者のグループにおける再発の相対リスクを計算した(表6参照)。アポリポタンパク質AIレベルが1.07mg/mLより低い患者と比較して、アポリポタンパク質AIレベルが1.07〜1.3mg/mLである患者では再発の相対リスクはより低く[0.78(95パーセント信頼区間0.50〜1.22)]、アポリポタンパク質AIレベルが一番高い患者(1.3mg/mL以上)では、一番低かった[0.46(95パーセント信頼区間0.27〜0.77)]。潜在的な交絡変数(confounding variables)の調整は、これらの所見に実質的に影響を与えることはなかった。
【0093】
【表6】

【0094】
患者は、アポリポタンパク質AIのレベルが1.3mg/mL(血栓患者の67パーセンタイルに対応する)以上のレベルの者と、1.3mg/mLよりも低い者の2つに分けられた。表7にこれらの患者の特性を示す。アポリポタンパク質AIのレベルが低い患者はより若く、より高い肥満度指数を有していた。カプラン−マイヤー分析によると、かかる二つのグループでは再発率に明確な相違(divergence)はみられなかった(図5参照)。4年後、アポリポタンパク質AIのレベルが1.3mg/mL以上である患者の再発の累積確率は8.8パーセントであった(95パーセント信頼区間4.6〜12.9パーセント)が、比較として、アポリポタンパク質AIのレベルが1.3mg/mLよりも低い患者(P=0.006)は、15.9パーセントであった。多変量解析では、アポリポタンパク質AIの高レベルであると、再発の相対リスクが0.51になった(95パーセント信頼区間0.32〜0.83)。年齢、性別、第8因子の高さ、及び肥満度指数により調整後の再発リスクは0.58であり(95パーセント信頼区間0.35〜0.97)、より低いアポリポタンパク質AIのレベルの者と比較すると再発の相対リスクは、43パーセント低くなるものと言い換えることができる。
【0095】
【表7】

【0096】
アポリポタンパク質AIのレベルは、女性と比較すると男性では有意に低かった(1.15±0.23対1.26±0.28mg/mL、P<0.001)。より低い三分位数でのアポリポタンパク質AIのレベル(1.07mg/mL未満)の男性の比率は、女性の比率と比較するとより高かった[332人中126人、(38パーセント)対440人中117人、(27パーセント、P<0.001]。反対に、上位三分位数でのアポリポタンパク質AIのレベル(1.3mg/mL以上)が、女性ではより多く見られた[440人中180人、(41パーセント)対332人中82人、(25パーセント)、P<0.001)。再発した男性は、アポリポタンパク質AIのレベルが一番低く、再発しなかった女性はレベルが一番高かった(図6、パネルA)。当業者には周知であるが、それぞれのHDLパラメーターを基礎とするHDLのレベルは、女性の方が本来男性より高い。
【0097】
261人の男性と132人の女性の血漿の高比重リポタンパクコレステロールのレベルを、NMRスペクトロスコピー分析を用いて測定した。アポリポタンパク質AIと高比重リポタンパクコレステロールのレベルとの正相関がみられた(r=0.87、P<0.001)。高比重リポタンパクコレステロールのレベルは、再発した男性が最も低く、再発しなかった女性が最も高かった(図6、パネルB参照)。
【0098】
被検者の血漿サンプルの大HDL粒子濃度を、NMRスペクトロスコピー分析を用いて測定した。図6Cに示すように、再発性静脈血栓症の男性は、再発しない男性よりもかかる粒子のレベルが低く、再発しない女性と比較して、再発した女性についても同じことがいえる。
【実施例5】
【0099】
本実施例では、HDLとリポタンパク質パラメーターの特性の差異を決定するために、男性のVTE被検者と男性の対応コントロールとを比較した。この目的の研究グループは、実施例1に記述したコホートから採用された若い成人男性のサブセットであった。被検者らは、脂質低下剤を服用していなかった。
【0100】
研究グループ:本実施例では、男性のVTE患者(n=49)と年齢が一致するコントロール(n=49)の、脂質とリポタンパク質の特性について分析した。臨床的特徴と、特定された危険因子の頻度と、血漿脂質データとを表8に示す。49人のVTE患者中40人(82%)は、外科手術、外傷性障害、長期の固定後90日以内に発症していないと定義される特発性VTEを呈した。VTE患者とコントロールについて、脂質代謝の変化に関連する臨床症状を記録した。VTE患者の一人は糖尿病の症状を呈していた。3人のVTE患者は高血圧を呈し、コントロールは症状を呈さなかった。コントロールと比較して、男性のVTE患者の従前の喫煙歴は同程度であった(8対6、p=0.79)。コントロールと比較して男性のVTE患者の現在の喫煙率(current smoking)は同程度であった(5対4、p=1.0)。男性のVTE患者中、18人(37%)が一回以上の血栓症の発症しており、17人(35%)が肺塞栓症を確認されていた。患者の84%は、血液を採取したときワルファリンを服用していた。VTE患者とコントロールではガンについては確認がとれなかった。
【0101】
【表8】

【0102】
血液採取、脂質分析、アポリポタンパク質アッセイ、NMR分析、及びDNA分析の方法は、実施例1に記載されている。
【0103】
統計的分析:患者(cases)は、年齢(±2歳)、性別、及び民族性の各要素を1:1の比で、コントロールと適合させた。対応のあるt−検定又はウィルコクソン検定(Prizm(登録商標)3.0、Software, GraphPad Software, SanDiego, CA)で、相違0(相違なし)の帰無仮説(null hypothsis)に対して、計算し、検定した。p値はすべて両側検定であった。マクネマーの検定(McNemar's test)は、カテゴリー変数(例えばVTE陽性家族暦、喫煙状況等)の対応対(matched pair)間の比率の相違を評価するために用いた。
【0104】
脂質レベルは、対照分類(reference category)として用いられる最も低い又は最も高い四分位数で、四分位数に分割した後にカテゴリー変数として分析した。条件付ロジスティック回帰(年齢及び性別の適合に相当する)が、オッズ比(ORs)を評価するために用いられた。周知の危険因子であるBMI、ライデン第5因子、及びプロトロンビン20210Aが、条件付ロジスティック回帰(STATA8.0、Stata Corporation, College Station, TX)を用いて行われた。患者と対応コントロールのリポタンパク質のパラメーターの相違を計算した。個人のモデルは各脂質パラメーターについて、修正したORを計算するために用いられた。各バイオマーカーの四分位数を横断した線形トレンドのP値を多重比較の調整なしに計算した。遺伝子多型とVTEとの関連を評価するために、条件付ロジスティック回帰とカイ二乗分析の両方を、2つのグループの間の遺伝子型と対立遺伝子頻度の比較のために用いた。
【0105】
男性のVTE患者は、コントロールよりも有意に低い平均HDL粒子濃度を有していた(p=0.001)(図7A参照)。HDLリポタンパク質サブクラスでは、大HDLリポタンパク質粒子濃度は、患者ではコントロールよりも低かった一方(p=0.047)、中間と小HDL粒子は、有意な相違はなかった(図7B〜D参照)。HDL平均粒子サイズもまた、コントロールよりもVTE患者では低かった。
【0106】
VTE患者のLDLリポタンパク質粒子濃度は、コントロールよりも有意に高かった(図8A、p=0.02)。LDLリポタンパク質サブクラスでは、小HDL粒子濃度は、患者でより高かった一方、IDLと大LDL粒子レベルは、何ら統計学的相違を示さなかった(図8B−D参照)。小HDL粒子の2つのサブグループ、すなわち中小LDL粒子と極小LDL粒子は、VTE患者では上昇した(それぞれp=0.02と0.03、データは示されていない)。LDL平均粒子サイズは、コントロールと比較して患者では小さかった(p=0.04)。VLDL粒子の合計濃度又はVLDLのサブクラス(大、中間及び小VLDL粒子)又は、VLDL粒子サイズについては、患者とコントロールの間には何ら統計学的に有意な相違は観察されなかった。
【0107】
アポリポタンパク質AIとBの免疫学的検定データは、NMRに基づいたリポタンパク質サブクラスデータと一致した。コントロールと比較して、VTE患者ではapoBレベルに何ら相違はなかったけれども(図8E参照)、ApoAIレベルは、VTE患者ではより低かった(p=0.01)(図7E参照)。VTE患者のapoB対apoAIの比は、コントロールに比べて有意により高く(p=0.002)(図8G参照)、apoB/apoAIの平均比の相違は、ApoAI又はApoBいずれか単独の平均値の相違よりも統計学的に大きかった。
【0108】
コントロールと比較してVTE患者では、HDLコレステロール(HDL−C)がより低かった一方、LDLコレステロール(LDL−C)(p=0.11)(図7F及び図8F参照)。際立って、しかしながら、LDL−CとHDL−Cの比率平均(LDL-C to HDL-C mean ratio)は、コントロールと比較した場合VTE患者では有意により高かった。
【0109】
リポタンパク質変数とVTEが関連する四分位数に基づいたオッズ比(OR)を、四分位数1(lowest HDL)と、四分位数2〜4又は四分位数4(一番高いLDL)とHDLパラメーターの減少又はLDLパラメーターの上昇について四分位数1〜3とを比較することで、計算した。総HDL粒子濃度と大HDL粒子濃度の低いレベルは、それぞれOR=6.5(95%CI:2.3−19)、及び2.8(95%CI:1.2−6.2)であり、VTEのリスクの増加に有意に関連した。より小さいHDL平均粒子サイズは、有意なORが3.2(95%CI:1.3−7.9)であった。総LDL粒子濃度と2つの亜分画(subfraction)の高いレベル(コントロールの75%を超えた)は、IDLと小LDL粒子濃度が、それぞれOR=2.2(95%CI:1.0−4.9)、2.7(95%CI:1.0−6.8)、及び3.1(95%CI:1.3−7.4)であり、VTEのリスクが有意に関連した。小LDL粒子サブクラスの2つの部分母集団、すなわち中小LDL粒子及び極小LDL粒子が、それぞれ3.0と3.1(95%CI:1.3−7.0と1.3−7.4)のORを与えたが(データは示されていない)、小LDL粒子濃度の3.1のORに類似する値であった(表9)。公知のVTE危険因子、第5因子ライデン、プロトロンビン20210A、及びBMIの調整後、大HDL粒子(p=0.056)の濃度を除いては、すべての統計学的に有意な四分位数分析に基づいたOR値は、統計学的に有意であった(表9参照)。LDL平均粒子サイズが減少すると、第5因子ライデン、プロトロンビン20210A、及びBMIの調整後、有意なOR、7.6(95%CI:1.5−39)となった。
【0110】
apoAIとapoBの血漿レベルを標準的な免疫学的検定で測定した。VTEについては四分位数分析に基づくapoAIのレベルが低いと、有意なORであるOR=6.0(95%CI:2.1−17)であって、ApoB/ApoAIの比は、OR=6.3(95%CI:1.9−21)であった。ライデン第5因子、プロトロンビン20210A、及びBMIを調整後、これらのORについて有意性が残存した。臨床上の血漿コレステロールデータに基づくと、低いHDL−CのORは統計学的有意性があった[OR=3.0(95%CI:1.3−7.1)]一方、上昇したLDL−Cは、統計学的有意性を獲得できなかった[OR=1.9(95%CI:0.84−4.2)]。ライデン第5因子、プロトロンビン20210A、及びBMIを調整後、上昇したLDL−CではORは、統計学的有意性を獲得したが[OR=3.9(95%CI:1.1−14)]、低いHDL−Cでは、統計学的に有意性がなかった[OR=3.9(95%CI:0.78−8.9)]。VTEのORでの上位四分位数のLDL−C/HDL−Cの比は、調整がなくてもVTEのリスクに統計学的に有意であったが[OR=2.7(95%CI:1.1−6.5)]、調整後のORは、5.0であった(95%CI:1.3−20)(表10)。160mg/dLより高いLDL−CレベルでのVTEのORは、3.5(95%CI:1.2−11)であり、40mg/dL未満のHDL−CでのVTEのORは、2.8(95%CI:1.1−7.2)である(データは示されていない。)。
【0111】
【表9】

【0112】
脂質パラメーターレベルとVTEのリスクとの線形連関(linear association)を評価するために、四分位数の対応対間の分析を行い、傾きのp値を計算した(表10参照)。総HDL粒子濃度、大HDL粒子濃度、及びより高いレベルの総LDL、IDL、若しくは小HDL粒子濃度がより低いレベルであると、VTEのリスクの増加(それぞれp=0.004、0.009、0.03、0.03、及び0.03)に関連していた。より小さいHDLサイズとより大きいLDLサイズもまた、VTEのリスクの増加と関連していた(それぞれp=0.02と0.01)。
【表10】

【0113】
VTE患者の異常リポタンパク血症の一因となる遺伝的影響を特定するために、リポタンパク質部分母集団のスペクトラムと及びHDL−Cレベルに影響を与える3つの鍵遺伝子のSNPs、(LIPC−514C/T)、内皮リパーゼ(LIPGT111I)及びCETP(TaqIB及びI405V)を決定した。VTE患者とコントロールの間のアレル頻度の相違を、カイ二乗検定を用いて調べたところ、CETPのTaqIB2アレルはコントロールよりもVTE患者においては有意にまれなものであった(p=0.04)(表11)。研究に用いた肝性リパーゼと内皮リパーゼのSNPsでは、アレル頻度の相違はみられなかった。VTEの遺伝子型の関連を評価するために、条件付ロジスティック回帰もまた行った。CETP TaqIB遺伝子型は、有意にVTEに関連していたが(p=0.017)、この実施例の研究グループでは、CETP I405V、LIPC又はLIPG多型では関連は見られなかった(それぞれp=0.15、0.60及び0.48)。
【0114】
【表11】

【0115】
[引用文献]
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【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】性別ごとのVTEとコントロールのHDL関連脂質パラメーターを示す。太い実線は、平均値を示し、点線はコントロール値の25パーセンタイルの値を示す。(F)における低いほうの点線は、40mg/dLを示す。(A)HDL粒子;(B)大HDL粒子;(C)中間HDL粒子;(D)小HDL粒子;(E)ApoAI;(F)HDL−C。
【図2】性別ごとのVTEとコントロールのLDL関連脂質パラメーターを示す。太い実線は、平均値を示し、点線はコントロール値の75パーセンタイルの値を示す。(F)における高いほうの点線は、160mg/dLを示す。(A)LDL粒子;(B)IDL粒子;(C)大LDL粒子;(D)小LDL粒子;(E)ApoB;(F)LDL−C;(G)ApoB/ApoAI;(H)LDL−C/HDL−C。
【図3】男性被験者の3つのグループの高比重リポタンパク質コレステロール(HDL−C)レベルとHDL粒子濃度を示す。コントロール(n=49)、正常なCETPArg451遺伝子型を有するVTE患者(n=41)、及び2つの比較的まれなCETPが連関する変異型であるPro373及びGln451を有するVTE患者(n=8)。患者の最初の2つのグループでは、正常なCETPであるAla373/Arg451遺伝子型を有する患者は白丸で示しており、まれなPro373変異型を有しているが正常なArg451を有している3人の患者(1人のコントロールと2人のVTE患者)は「X」で示している。実線は平均レベルを示し、点線はコントロールグループの25パーセンタイルを示す。
【図4】女性のVTEとコントロールのアポリポタンパク質AIを示す。太い実線は、平均値を示す。
【図5】アポリポタンパク質AIのレベルが1.3mg/mL以上(血栓症患者の67パーセンタイル)である、より低いレベルの患者の再発性静脈血栓塞栓症の確率のカプラン−マイヤー分析による推定を示す。アポリポタンパク質AIの67パーセンタイルは、男性では1.22(mg/mL)であり、女性では1.35(mg/mL)である。
【図6】再発性静脈血栓塞栓症の有無と、男性と女性での、アポリポタンパク質AIレベル(パネルA)、高比重脂質コレステロールレベル(パネルB)、及び大高比重リポタンパク質レベル(パネルC)を示す。ボックスは25〜75パーセンタイルの値を示し、実線は中央値を示し、細線(whiskers)は、5〜95パーセンタイルを示す。A.アポリポタンパク質AI(n=772、総コホート);B.高比重リポタンパク質コレステロール(n=396、ネスト化されたコホートデータ);C.大高比重リポタンパク質粒子(n=396、ネスト化されたコホートデータ)。
【図7】男性のVTE患者とコントロールのHDL部分母集団とHDLパラメーターを示す。太い実線は平均値を示し、点線はコントロール値の25パーセンタイルの値を示す。(F)における低いほうの点線は、40mg/dLを示す。(A)HDL粒子;(B)大HDL;(C)中間HDL;(D)小HDL;(E)ApoAI;(F)HDL−C。
【図8】男性のVTE患者とコントロールのLDL部分母集団とLDLパラメーターの図を示す。太い実線は平均値を示し点線はコントロール値の75パーセンタイルの値を示す。(F)における高いほうの点線は、160mg/dLを示す。(A)LDL粒子;(B)IDL;(C)大LDL;(D)小LDL;(E)ApoB;(F)LDL−C;(G)ApoB/ApoAI比;(H)LDL−C/HDL−C比。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)個人から入手した被検生体試料における脂質又はリポタンパク質のレベルを測定すること、
B)前記被検生体試料における前記脂質又はリポタンパク質のレベルと正常な生体試料における脂質又はリポタンパク質の正常範囲とを比較すること
を含む、個人の静脈血栓症のリスクを判定する方法であって、
被検生体試料における脂質又はリポタンパク質のレベルがより低いことが、個人の静脈血栓症の危険因子の指標となることを特徴とする方法。
【請求項2】
生体試料が、血液、血漿、血清、脳脊髄液、精液、肺液、リンパ液、唾液、又は尿であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
脂質又はリポタンパク質が、HDL−コレステロール、HDL粒子、大HDL粒子(HDL2)、アポリポタンパク質AI、アポリポタンパク質CIII、及びアポリポタンパク質Bと関連していないアポリポタンパク質CIIIからなる群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
A)個人から入手した被検生体試料における脂質又はリポタンパク質のレベルを測定すること、
B)前記脂質又はリポタンパク質のレベルと正常の生体試料における脂質又はリポタンパク質の正常範囲とを比較すること、
を含む、個人の静脈血栓症のリスクを判定する方法であって、
正常な生体試料と比較して、被検生体試料における脂質又はリポタンパク質のレベルが正常よりも高いことが、個人の静脈血栓症の危険因子の指標となることを特徴とする方法。
【請求項5】
生体試料が、血液、血漿、血清、脳脊髄液、精液、肺液、唾液、リンパ液、又は尿であることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
脂質又はリポタンパク質が、LDLコレステロール、アポリポタンパク質B、及びLDL粒子からなる群から選択されることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項7】
LDL粒子が、IDL粒子及び小LDL粒子からなる群から選択されることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
A)個人から入手した被検生体試料における少なくとも2つの脂質又はリポタンパク質のレベルを測定すること、
B)一方の脂質又はリポタンパク質と、他方の脂質又はリポタンパク質との比率を測定すること、及び
C)前記脂質又はリポタンパク質の比と生体試料における脂質又はリポタンパク質の比率の正常範囲とを比較すること、
を含む、個人の静脈血栓症のリスクを判定する方法であって、
正常な生体試料における脂質又はリポタンパク質の比率と比較して、被検生体試料での脂質又はリポタンパク質の比率が正常よりも高いことが、個人の静脈血栓症の危険因子の指標となることを特徴とする方法。
【請求項9】
生体試料が、血液、血漿、血清、脳脊髄液、精液、肺液、唾液、リンパ液、又は尿であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
脂質又はリポタンパク質の比率が、アポリポタンパク質B/アポリポタンパク質AI比、及びLDLコレステロール/HDLコレステロール比からなる群から選択されることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項11】
個人のコレステリルエステル転送タンパク質(CETP)遺伝子型を判定することを含む個人の静脈血栓症のリスクを判定する方法であって、コントロールと比較してCETP遺伝子型の変異が、静脈血栓症の危険因子の指標となることを特徴とする方法。
【請求項12】
脂質、リポタンパク質、又はリポタンパク質粒子の濃度の測定がNMRスペクトロスコピーを用いて行われることを特徴とする請求項1〜10いずれかに記載の方法。
【請求項13】
脂質又はリポタンパク質が、LDL、LDLコレステロール、LDL小粒子、IDL粒子、HDLコレステロール、HDL粒子、及び大HDL粒子からなる群から選択されることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
個人の静脈血栓症のリスクを減少させるために十分な量の脂質変化剤を投与することを含む、個人の静脈血栓症のリスクを減少させる方法。
【請求項15】
脂質変化剤が、スタチン、CETP阻害剤、ニコチン酸、フィブラート、胆汁酸抑制薬、並びにHDLコレステロール若しくは大HDL粒子を上昇、及び/又はLDLコレステロール若しくは小LDL粒子を低下させる薬剤からなる群から選択されることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
CETPTaqI多型のB1アレルの存在を判定することを含む請求項11記載の方法であって、被検生体試料における前記遺伝子型の存在が、個人の静脈血栓症の危険因子を示すことを特徴とする方法。
【請求項17】
Pro373及び/又はGln451をコードするCETP遺伝子変異型の存在を判定することを含む請求項11記載の方法であって、被検生体試料における一又は両方の遺伝子変異型の存在が、個人の静脈血栓症の危険因子の指標となることを特徴とする方法。
【請求項18】
A)個人から入手した被検生体試料におけるCETP質量又は活性のレベルを測定すること、
B)前記被検生体試料における前記CETP質量又は活性を正常な生体試料におけるCETP質量又は活性の正常範囲と比較すること、
を含む、個人の静脈血栓症のリスクを判定する方法であって、
被検生体試料におけるCETPのレベルがより高いことが、個人の静脈血栓症の危険因子の指標となることを特徴とする方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−530530(P2008−530530A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554245(P2007−554245)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【国際出願番号】PCT/US2006/003862
【国際公開番号】WO2006/084142
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(593052785)ザ スクリップス リサーチ インスティテュート (91)
【Fターム(参考)】