説明

静電噴霧型キャピラリ

【課題】キャピラリとホルダーを一体型構造とし、着脱自在で取り扱いが容易なエレクトロスプレー装置の静電噴霧型キャピラリを提供する。
【解決手段】試料溶液を静電噴霧する静電噴霧型キャピラリにおいて、試料溶液を貯留するキャピラリ1と、キャピラリ1内に配置され試料溶液を静電噴霧する電圧を印加するための電極3と、キャピラリ1上部に挿入される試料溶液の注入用の穴を有する穴空きキャップ5と、試料溶液をキャピラリ1に注入後穴あきキャップ5上に配置して加圧する密封キャップ6と、キャピラリ1を保持するホルダー7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電噴霧型キャピラリに関し、より詳細にはキャピラリの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエレクトロスプレーデポジション装置のキャピラリは図8に示すとおりの構造である。エレクトロスプレーデポジション装置とは、たんぱく質等の試料を含む溶液を静電噴霧するエレクトロスプレー手段によって、溶液中の試料を基板上に堆積させることができる装置である。このエレクトロスプレーデポジション装置にはシングルキャピラリシステムと呼ばれるキャピラリが1本だけの装置がある。このシングルキャピラリシステムのキャピラリには内部にたんぱく質等の溶液を収めることができ、内部に電極を持ち溶液に電気を伝達できる構造であり、かつキャピラリ上部より必要に応じて加圧空気を注入できる。また、溶液の吸引時には減圧が可能である。キャピラリはガラス製であり、先端部の大きさは数μmから数10μm(特許文献1)である。
【特許文献1】特開2001−281252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来の構成ではキャピラリの交換時にまずキャピラリの入り口側から電極である導電性ワイヤを挿入しなければならない。それから減圧装置を作動させて、溶液を吸引する必要がある。キャピラリはガラス製で、かつ先端部が非常に細く見えにくいため、キャピラリの先端部を溶液が入った容器の底部に押し当てて破損する場合があった。また、キャピラリに溶液を注入した後キャピラリ部を装置に取り付ける時も、取り付け部の穴の内壁に干渉して破損する事があり、高価な試料を無駄にする場合があった。破損したキャピラリの破片で怪我をする可能性もあり、キャピラリの交換時には使用者は慎重に作業を進める必要があり、作業時間が長くなる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記従来の課題を解決するために、本発明の静電噴霧型キャピラリは、試料溶液を静電噴霧する静電噴霧型キャピラリにおいて、前記試料溶液を貯留するキャピラリと、前記キャピラリ内に配置され前記試料溶液を静電噴霧する電圧を印加するための電極と、前記キャピラリ上部に挿入される前記試料溶液の注入用の穴を有する穴空きキャップと、前記試料溶液を前記キャピラリに注入後穴あきキャップ上に配置して加圧する密封キャップと、前記キャピラリを保持するホルダーとを備えることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の静電噴霧型キャピラリによれば、取り扱いが容易でかつキャピラリの着脱時や、溶液の注入時にキャピラリの破損を防止することが可能なエレクトロスプレー装置の静電噴霧型キャピラリを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に本発明の静電噴霧型キャピラリの実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【実施例1】
【0007】
図1は、実施例1における静電噴霧型キャピラリの全体構成を表す斜視図を示す。
図1において、キャピラリ1は溶液を貯留する部分2、電圧を印加することができる金属製の電極3、導電性ワイヤの電極4、溶液の注入を容易にする穴あきキャップ5、加圧を可能にする密封キャップ6、キャピラリ1を保持するホルダー7から構成される。
【0008】
以上のように構成されたキャピラリ1について、以下その動作、作用を説明する。
キャピラリ1はガラス製であるため、金属製のキャピラリに比べて加工が容易であり製造コストが安く、使い捨てに適している。また、使い捨てとすることで、洗浄して繰り返し使用する場合に比べて試料の混合が無くなる。電極3は、金属製の中空管であり溶液に反応しにくいステンレス製が好ましい。中空管であることからキャピラリ1の入り口側からの溶液の注入を可能とし、高圧電源と接続することにより静電噴霧を可能としている。
【0009】
また、電極3の先端部にはステンレス製の導電性ワイヤ4が接続してあり、キャピラリ1の先端部まで延長されて配置されており、液量が減少しても静電噴霧可能である。このため高価な試料を無駄にすることなく噴霧させることが可能である。図2に空の状態のキャピラリ1と電極3を示す。この電極3はキャピラリ1に溶液を注入する前にキャピラリ1が空の状態で挿入される。図3はキャピラリ1に電極3が挿入された状態を示す図である。
【0010】
キャップ5は、キャピラリ1に溶液を注入する場合に使用される。キャップ5はゴムまたは樹脂製であり、図4のように2箇所の穴、又はくぼみを備えている。このキャップ5を中空管状の電極3を挿入した状態のキャピラリ1の電極3の内側に挿入する。この時キャップ5の2箇所の穴は塞がれていない。静電噴霧させる溶液を細管8のついた注射器(図示せず)に吸引し、どちらか2箇所のうちの一方の穴に細管8を入れ注射器内の溶液をキャピラリ1内に注入する。
【0011】
ここでキャップ5に細管8を挿入するための穴しか開いてない場合、溶液9がキャピラリ1内部に貯留されるにつれ、キャピラリ1の先端部は溶液9により塞がれているためキャピラリ1内部の空気の圧力が上昇し、キャピラリ1の先端部から溶液9が噴出してしまう。
【0012】
しかしキャップ5には、もう1箇所空気抜きのための穴22があるため、キャピラリ1内の空気がその穴22から排出され、注入された溶液はキャピラリ1から噴出することなく貯留される。また、キャップ5の穴は電極3の内壁に接するように開いているため、注射器の細管8がキャピラリ1の内壁に接したままの状態となり、溶液が電極3の内壁を伝って貯留され、気泡が発生しにくくなる。
【0013】
図10に、従来のキャピラリ19に溶液を注入する場合の図を示す。キャピラリ19の先端部でない側はチューブ20が接続されてあり、その先端には吸引ポンプ(図示せず)が接続されている。図10のように、キャピラリ19の先端部から溶液を注入するために容器18内の溶液にキャピラリ19の先端部を沈めた場合、容器18の底部から液面までの距離を目測し誤ると、キャピラリ19の先端部を容器18の底部に押し付けてしまう場合がある。また、同時に吸引ポンプの操作も行う必要があり、吸引しすぎるとチューブ20内まで溶液が吸引されてしまう可能性もある。このように、キャピラリ19の破損や、吸引の失敗により高価な試料溶液を無駄にしてしまう場合があった。
【0014】
しかし、本発明の方式によると、溶液をキャピラリ1の先端部と反対側の入り口側から注入することにより、キャピラリ1の先端部分から溶液を吸引させる必要が無くなるので、キャピラリ1の先端部を容器の底部に押し付けて破損することが防止できる。
【0015】
更に、キャピラリ1の先端部側でない上部を密封するための密封キャップ6を、キャップ5に重ねるように挿入する。密封キャップ6には穴が開けられていないため、キャピラリ内部を密封することが可能になる。密封キャップ6を用いてキャピラリ1を密封する事により、試料溶液が注入されたキャピラリ1内にエアを用いてキャピラリ1内を加圧することができる。キャピラリ内に圧力を加えることにより、キャピラリ1の先端部まで、試料溶液を移動させることができ、また、粘度の高い試料溶液であっても、確実に先端部まで移動させることができる。
【0016】
加圧することができないキャピラリの場合、溶液がキャピラリ内部に付着したままであったり、一部分しか先端部に移動しない。よって溶液を最後まで噴霧できない場合があり、試料の無駄につながる。
【0017】
図7はモーターを使用した場合の加圧方法の例を図に示すものである。図7においてモーター14とボールネジ16を接続して上下動が可能な機構を準備し、その機構にピンを取り付け、押し出しピン17が上下動できるようにする。その押し出しピン17の先端部でキャピラリのキャップ6を押すことにより加圧が可能となる。モーター14とボールネジ16の接続にはハーモニックギア15を用いると、より微小な速度で加圧制御が可能になる。
【0018】
本実施例では加圧が可能になることにより、粘度の高い溶液をキャピラリ1の先端部に送り込むことが可能になり、噴霧させやすくなる。また、溶液が先端部に移動しないために静電噴霧させることができず、高価な試料を無駄にするようなことが無くなる。
【0019】
図8は、エレクトロスプレー装置本体側のホルダー装着壁面21に、キャピラリを保持したホルダーを装着した場合の断面図を示す。
【0020】
ホルダー7は、キャピラリ1を保持すると同時に、ホルダー装着壁面21に装着するとキャピラリの電極3とホルダー端子10を通して高圧電源13と接続側状態となる。即ち、このホルダー端子10は、キャピラリ1を保持したホルダー7を、エレクトロスプレー装置(図示せず)のホルダー装着壁面21に装着したときに、ホルダー装着壁面21に取り付けられているコンタクトプローブ11とホルダー端子10が接触することにより、静電噴霧用高電圧電源と接続される。ホルダー装着壁面21には、ホルダー7に係合するための窪みがあるためホルダー7とホルダー装着壁面21の取り付け部とがかみ合い、ホルダー装着壁面21にホルダー7が固定される。ホルダー7は、ホルダー端子10以外は、噴霧以外の放電を防ぐために樹脂製であることが好ましい。
【0021】
またホルダー7は、キャピラリ1を保持して一体として扱うため、キャピラリに直接触れることなくエレクトロスプレー装置からキャピラリ1を着脱自在にできる。万一キャピラリが破損しても着脱時にキャピラリ1を直接手で触れること無くホルダー7を?んで処理できるので、破損部分で怪我をすることも防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のキャピラリの構造は、取り扱いが容易で破損防止を可能とし、エレクトロスプレー装置のスプレー部等の静電噴霧型キャピラリとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1における静電噴霧型キャピラリの全体構成を示す斜視図
【図2】本発明の実施例1における静電噴霧型キャピラリのキャピラリと電極部の斜視図
【図3】本発明の実施例1における静電噴霧型キャピラリの電極をキャピラリに挿入した状態の斜視図
【図4】本発明の実施例1における静電噴霧型キャピラリのキャピラリと穴あきキャップの構成を示す斜視図
【図5】本発明の実施例1における静電噴霧型キャピラリのキャピラリに溶液を注入する場合を説明するための斜視図
【図6】本発明の実施例1における静電噴霧型キャピラリのキャピラリに加圧用キャップを挿入した場合の断面図
【図7】本発明の実施例1における静電噴霧型キャピラリのキャピラリ内の加圧方法を説明するための図
【図8】本発明の実施例1における静電噴霧型キャピラリのホルダーをホルダー装着壁面の取り付けを説明するための断面図
【図9】従来のエレクトロスプレー装置のキャピラリの構造を示す斜視図
【図10】従来のキャピラリに溶液の注入を説明するための図
【符号の説明】
【0024】
1 キャピラリ
2 溶液を貯留する部分
3 電極(中空金属)
4 電極(導電性ワイヤ)
5 穴あきキャップ
6 密封キャップ
7 ホルダー
8 溶液注入用細管
9 溶液
10 ホルダー側端子
11 装置側コンタクトプローブ
12 基板
13 高圧電源
14 モーター
15 ハーモニックギア
16 ボールネジ
17 押し出しピン
18 容器
19 従来のESD装置のキャピラリ
20 チューブ
21 エレクトロスプレー装置のホルダー装着壁面
22 キャップの空気抜き用の穴


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液を静電噴霧する静電噴霧型キャピラリにおいて、
前記試料溶液を貯留するキャピラリと、前記キャピラリ内に配置され前記試料溶液を静電噴霧する電圧を印加するための電極と、前記キャピラリ上部に挿入される前記試料溶液の注入用の穴を有する穴空きキャップと、前記試料溶液を前記キャピラリに注入後穴あきキャップ上に配置して加圧する密封キャップと、前記キャピラリを保持するホルダーと、
を備えることを特徴とする静電噴霧型キャピラリ。
【請求項2】
前記電極は、中空管部とその一端部に設置する導電性ワイヤとから成り、該導電性ワイヤが前記キャピラリの先端部まで伸びていることを特徴とする請求項1に記載の静電噴霧型キャピラリ。
【請求項3】
前記ホルダーは、静電噴霧用電源に接続されるホルダー端子を有し、前記キャピラリを保持するとともに当該ホルダー端子を介して前記キャピラリの電極を前記静電噴霧用電源用の高圧電源に接続することを特徴とする請求項1に記載の静電噴霧型キャピラリ。
【請求項4】
前記穴空きキャップの穴に中空細管を挿入して、該中空細管を通じて前記試料溶液を前記キャピラリに注入することを特徴とする請求項1に記載の静電噴霧型キャピラリ。
【請求項5】
前記密封キャップを押し出しピンを用いてキャピラリ内部へ挿入して加圧して、前記試料溶液を前記キャピラリ先端部へ注入することを特徴とする請求項1に記載の静電噴霧型キャピラリ。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−119072(P2006−119072A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309398(P2004−309398)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】