説明

静電塗装装置及び静電塗装方法

【課題】塗布パターン幅を所望の大きさに設定でき、塗装効率を向上できる静電塗装装置を提供すること。
【解決手段】高電圧が印加された状態で回転することで、塗料を帯電させて霧化する回転霧化頭22と、当該回転霧化頭22を囲繞して形成されたエア噴出口411を開口部とするエア噴出孔41と、エア噴出口411の外周を囲繞し、且つエア噴出口411よりも前方に突出して配置された壁部71と、を備えた静電塗装装置1であって、壁部71は、エア噴出口411から噴出されたエア流を偏向させ噴射パターン幅を変化させる。壁部71は可動であってもよく、また、壁部71の代わりに複数の第1の分割壁部72、第2の分割壁部73としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電塗装装置及び静電塗装方法に関する。詳しくは、回転霧化頭の先端から塗料を噴霧して静電塗装を行う静電塗装装置及び静電塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のボディなどを塗装する塗装装置として、回転霧化式の静電塗装装置が知られている。この静電塗装装置は、回転霧化頭に高電圧を印加しつつ回転させ、この状態で、回転霧化頭に導電性の液体塗料を供給する。これにより、液体塗料を帯電させて霧化し、回転霧化頭の先端縁から噴霧して、静電塗装を行う。
【0003】
上記の静電塗装装置では、回転霧化頭から噴霧される塗料の塗布パターン幅は、ほとんど変化しない。このため、被塗装物の形状が複雑化すると、この被塗装物に対して塗料を確実に塗布することができない場合があった。
【0004】
そこで、回転霧化頭を囲繞するように複数のエア孔を設け、これらのエア孔から加圧エアを噴出し、この加圧エアの圧力を増減させることにより回転霧化頭から噴霧された塗料の塗布パターン幅を変化する技術が提案されている(特許文献1参照)。
また、回転霧化頭を囲繞するように設けたエア孔(第1のエア噴出口)の外側周囲に、内向きに配置されたエア孔(第2のエア噴出口)を設け、この第2のエア噴出口からエアを噴出させることにより回転霧化頭から噴霧された塗料の塗布パターン幅を変化する技術が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−291056号公報(特願昭60−131576)
【特許文献2】特開平10−71345号公報(特願平8−230876)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示された技術では、回転霧化頭を囲繞するように設けた複数のエア孔から噴出させる加圧エアの圧力を増減させても、塗布パターン幅の調整を十分に行うことはできない。更に、例えば、エア圧を高くすると塗布パターン幅を小さくできるが塗料が被塗装物に衝突して飛散しやすくなり塗装効率が低下するため、エア圧を大幅に高めエア圧の増減幅を確保することは容易ではない。
また、特許文献2に示された技術では、第2のエア噴出口からエアを噴出させることにより塗布パターン幅を小さくできるが、塗布パターン幅を任意の大きさに制御することはできない。
このため、特許文献1及び2に示された技術では、例えば被塗装物の端部を塗装する場合に、オーバースプレーが生じ、塗装効率の低下を招いていた。
【0007】
本発明の目的は、塗布パターン幅を所望の大きさに設定でき、塗装効率を向上できる静電塗装装置及び静電塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 高電圧が印加された状態で回転することで塗料を帯電させて霧化する回転霧化頭(例えば、後述の回転霧化頭22)と、該回転霧化頭を囲繞して形成されたエア噴出口(例えば、後述のエア噴出口411)を開口部とするエア噴出孔(例えば、後述のエア噴出孔41)と、前記エア噴出口の外周を囲繞し、且つ前記エア噴出口よりも前方に突出して配置された偏向機構(例えば、後述の壁部71、第1の分割壁部72、第2の分割壁部73)と、を備えた静電塗装装置(例えば、後述の静電塗装装置1)であって、前記偏向機構は、前記エア噴出口から噴出されたエア流(例えば、後述のシェーピングエアF)を偏向させることを特徴とする静電塗装装置。
【0009】
(1)の発明によれば、エア噴出口を、回転霧化頭を囲繞して設け、そのエア噴出口の外周を囲繞してエア噴出口よりも前方に突出した偏向機構を設けている。
これにより、回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の距離が短くなり、回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の開口面積が小さくなり、この部分に「絞り」を形成する。従って、この「絞り」によって、「絞り」の内側、すなわち回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部によって囲まれた空間の圧力が高くなり、圧力の低い「絞り」の外側に向かう回転霧化頭の裏側面に沿った方向の圧力差エア流を生じる。
この圧力差エア流は、エア噴出口から噴出されたエア流の方向を、回転霧化頭の回転軸となす角が大きくなる方向に偏向させる。
【0010】
ここで、後述するように、偏向されたエア流の方向と、回転霧化頭により霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力とは相関関係にあり、偏向されたエア流の方向を調整することによって塗布パターン幅の大きさを調整できることが、本発明者らの今回の研究により見出されている。すなわち、偏向されたエア流の方向を回転霧化頭の回転軸となす角が大きい方向にすると、塗料の噴出角度を規制する規制力が弱くなって塗布パターン幅が大きくなり、偏向されたエア流の方向を回転霧化頭の回転軸となす角が小さい方向にすると、塗料の噴出角度を規制する規制力が強くなって塗布パターン幅が小さくなる。
【0011】
従って、この発明によれば、回転霧化頭により霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力を、偏向機構の有無によって異なるものとすることができるため、塗布パターン幅の大小を変化させることができる。このため、例えば被塗装物の端部を塗装する場合等に、小さな塗布パターン幅を用いて塗装することにより、オーバースプレーを抑制でき、塗装効率を向上できる。
【0012】
(2) (1)に記載の静電塗装装置であって、前記偏向機構の前方への突出量を変化させる駆動機構(例えば、後述の駆動機構31、第1の駆動機構32、第2の駆動機構33)を更に備えたことを特徴とする静電塗装装置。
【0013】
(2)の発明によれば、駆動機構を設けて、偏向機構の前方への突出量を変化できるようにした。
これにより、偏向機構の前方への突出量を大きくすることにより回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の距離を短くし、回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の開口面積を小さくして小さな「絞り」を形成し、同様に回転霧化頭の裏側面に沿った強い圧力差エア流を生じさせて、エア流の方向を回転霧化頭の回転軸となす角が大きくなる方向に偏向させることができる。また、逆に、偏向機構の前方への突出量を小さくすることにより回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の距離を長くし、回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の開口面積を大きくして「絞り」を形成せず(または、大きな「絞り」に留め)、これによって圧力差エア流を生じさせず(または、弱い圧力差エア流として)、エア流の方向を回転霧化頭の回転軸となす角が小さい方向に維持することができる。
【0014】
ここで、同様に、偏向されたエア流の方向を回転霧化頭の回転軸となす角が大きい方向にすると、塗料の噴出角度を規制する規制力が弱くなって塗布パターン幅が大きくなり、偏向されたエア流の方向を回転霧化頭の回転軸となす角が小さい方向にすると、塗料の噴出角度を規制する規制力が強くなって塗布パターン幅が小さくなる。
【0015】
従って、この発明によれば、駆動機構によって偏向機構の前方への突出量を変化させることによって、回転霧化頭により霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力を変化させ、塗布パターン幅の大きさを自由に変化させることができる。このため、例えば被塗装物の端部を塗装する場合等に、状況に応じた好適な塗布パターン幅を用いて塗装することにより、オーバースプレーを抑制でき、塗装効率を向上できる。
【0016】
(3) (2)に記載の静電塗装装置であって、前記偏向機構は、回転霧化頭の回転軸を中心とする円周方向に区分けされたそれぞれの区域(例えば、後述の第1の先端面区域402、第2の先端面区域403)に対応した複数の部材(例えば、後述の第1の分割壁部72、第2の分割壁部73)により構成されるとともに、前記複数の部材のそれぞれに駆動機構(例えば、後述の第1の駆動機構32、第2の駆動機構33)を備えたことを特徴とする静電塗装装置。
【0017】
(3)の発明によれば、偏向機構を回転霧化頭の回転軸を中心とする円周方向に区分けされたそれぞれの区域に対応した複数の部材により構成し、これらの複数の部材のそれぞれに駆動機構を設けて、前方への突出量を区域ごとに変化させるようにした。
これによって、ある区域の偏向機構の前方への突出量を大きくすることにより回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の距離を短くし、回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の開口面積を小さくして当該区域に対応した小さな「絞り」を形成する。この「絞り」によって、「絞り」の内側、すなわち回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部によって囲まれた空間の圧力が高くなり当該区域に「絞り」の外側に向かう回転霧化頭の裏側面に沿った強い圧力差エア流を生じさせて、当該区域のエア流の方向を回転霧化頭の回転軸となす角が大きくなる方向に偏向させることができる。また、逆に、他の区域の偏向機構の前方への突出量を小さくすることにより回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の距離を長くし、回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の開口面積を大きくして当該区域に対応した「絞り」を形成せず(または、形成しても大きな「絞り」とし)、これによって当該区域に圧力差エア流を生じさせず(または、弱い圧力差エア流に留め)、当該区域のエア流の方向を回転霧化頭の回転軸となす角が小さい方向に維持することができる。
【0018】
同様に、ある区域の偏向されたエア流の方向を回転霧化頭の回転軸となす角が大きい方向にすると、塗料の噴出角度を規制する規制力が弱くなって塗布パターン幅が大きくなり、逆に、他の区域の偏向されたエア流の方向を回転霧化頭の回転軸となす角が小さい方向にすると、塗料の噴出角度を規制する規制力が強くなって塗布パターン幅が小さくなる。
【0019】
従って、この発明によれば、駆動機構によってそれぞれの区域の偏向機構の前方への突出量を変化させることによって、回転霧化頭により霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力をそれぞれの区域で変化させ、塗布パターンの形状を非対称に変形させることができる。このため、例えば被塗装物の端部を塗装する場合等に、状況に応じた好適な形状の塗布パターンを用いて塗装することにより、オーバースプレーを抑制でき、塗装効率を更に向上できる。
【0020】
(4) 高電圧が印加された状態で回転する回転霧化頭(例えば、後述の回転霧化頭22)を用いて、被塗装物(例えば、後述の被塗装物W)を静電塗装する静電塗装方法であって、前記回転霧化頭により帯電した塗料を霧化するとともに、該回転霧化頭を囲繞して形成されたエア噴出口(例えば、後述のエア噴出口411)から噴出されたエア流(例えば、後述のシェーピングエアF)を、前記エア噴出口の外周を囲繞し且つ前記エア噴出口よりも前方に突出して配置された偏向機構(例えば、後述の壁部71、第1の分割壁部72、第2の分割壁部73)の前方への突出量に応じて偏向させ、偏向されたエア流(例えば、後述のシェーピングエアSA1、SA2、SA3、SA4)によって塗料の噴出角度を規制する規制力を変化させ、異なる塗布パターン幅を形成することを特徴とする静電塗装方法。
【0021】
(4)の発明によれば、先ずエア噴出口の外周を囲繞し且つエア噴出口よりも前方に突出して配置された偏向機構の前方への突出量に応じて、回転霧化頭を囲繞して形成されたエア噴出口から噴出されたエア流を偏向させる。
ここで、偏向されたエア流は、偏向機構の前方への突出量が大きいと回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の距離が短くなり、回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の開口面積を小さくして小さな「絞り」を形成し、この「絞り」によって、「絞り」の内側、すなわち回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部によって囲まれた空間の圧力が高くなり「絞り」の外側に向かう回転霧化頭の裏側面に沿った強い圧力差エア流が生成され、回転霧化頭の回転軸となす角が大きい方向になる。また、偏向されたエア流は、逆に偏向機構の前方への突出量が小さいと回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の距離が長くなり、回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の開口面積を大きくして「絞り」を形成せず(または、形成しても大きな「絞り」に留まり)、回転霧化頭の回転軸となす角が小さい方向に維持される。
【0022】
ここで、同様に、偏向されたエア流の方向が回転霧化頭の回転軸となす角が大きいと、塗料の噴出角度を規制する規制力が弱くなって塗布パターン幅が大きくなり、偏向されたエア流の方向が回転霧化頭の回転軸となす角が小さいと、塗料の噴出角度を規制する規制力が強くなって塗布パターン幅が小さくなる。
【0023】
従って、この発明によれば、エア噴出口の外周を囲繞し且つエア噴出口よりも前方に突出して配置された偏向機構の前方への突出量に応じて回転霧化頭を囲繞して形成されたエア噴出口から噴出されたエア流を偏向させることによって、回転霧化頭により霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力を変化させ、塗布パターン幅の大きさを自由に変化させることができる。このため、例えば被塗装物の端部を塗装する場合等に、状況に応じた好適な塗布パターン幅を用いて塗装することにより、オーバースプレーを抑制でき、塗装効率を向上できる。
【0024】
(5) (4)に記載の静電塗装方法であって、前記偏向機構は、複数の部材(例えば、後述の第1の分割壁部72、第2の分割壁部73)により構成され、前記複数の部材のそれぞれの前方への突出量に応じて、前記回転霧化頭の回転軸(例えば、後述の回転軸X)を中心とする円周方向に区分けされたそれぞれの区域(例えば、後述の第1の先端面区域402、第2の先端面区域403)ごとに前記エア流を偏向させ、偏向されたエア流によって前記区域ごとに塗料の噴出角度を規制する規制力を変化させ、非対称な形状の塗布パターンを形成することを特徴とする静電塗装方法。
【0025】
(5)の発明によれば、先ずエア噴出口の外周を囲繞し且つエア噴出口よりも前方に突出して配置された複数の部材により構成された偏向機構の前方への突出量に応じて、回転霧化頭を囲繞して形成されたエア噴出口から噴出されたエア流を、回転霧化頭の回転軸を中心とする円周方向に区分けされた区域ごとに偏向させる。
【0026】
ここで、ある区域の偏向されたエア流は、偏向機構の前方への突出量が大きいと回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の距離が短くなり、回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の開口面積を小さくして当該区域に対応した小さな「絞り」を形成し、この「絞り」によって、「絞り」の内側、すなわち回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部によって囲まれた空間の圧力が高くなり「絞り」の外側に向かう回転霧化頭の裏側面に沿った強い圧力差エア流を生じさせて、回転霧化頭の回転軸となす角が大きい方向になる。また、他の区域の偏向されたエア流は、逆に偏向機構の前方への突出量が小さいと回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の距離が長くなり、回転霧化頭の裏側面と偏向機構の先端部との間の開口面積を大きくして「絞り」を形成せず(または、形成しても大きな「絞り」に留まり)、回転霧化頭の回転軸となす角が小さい方向に維持される。
【0027】
同様に、ある区域の偏向されたエア流の方向を回転霧化頭の回転軸となす角が大きい方向にすると、塗料の噴出角度を規制する規制力が弱くなって塗布パターン幅が大きくなり、逆に、他の区域の偏向されたエア流の方向を回転霧化頭の回転軸となす角が小さい方向にすると、塗料の噴出角度を規制する規制力が強くなって塗布パターン幅が小さくなる。
【0028】
従って、この発明によれば、エア噴出口の外周を囲繞し且つエア噴出口よりも前方に突出して配置された複数の部材により構成された偏向機構の前方への突出量に応じて、回転霧化頭を囲繞して形成されたエア噴出口から噴出されたエア流を、それぞれの区域ごとに偏向させることによって、回転霧化頭により霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力をそれぞれの区域で変化させ、塗布パターンの形状を非対称に変形させることができる。このため、例えば被塗装物の端部を塗装する場合等に、状況に応じた好適な形状の塗布パターンを用いて塗装することにより、オーバースプレーを抑制でき、塗装効率を更に向上できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、塗布パターンを所望の大きさに設定でき、塗装効率を向上できる静電塗装装置及び静電塗装方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電塗装装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】前記実施形態に係る静電塗装装置の側面図である。
【図3】(a)は前記実施形態に係る静電塗装装置の先端部分の断面図およびエア供給部の概略構成図である。(b)は(a)のA−A断面に対応する部分断面図である。
【図4】前記実施形態に係る静電塗装装置の先端部分におけるエア流の方向を示す模式図であり、(a)は壁部前進時、(b)は壁部後退時をそれぞれ示す。
【図5】前記実施形態に係る静電塗装装置の先端部分におけるエア流の流速を示すコンター図であり、(a)は壁部前進時、(b)は壁部後退時をそれぞれ示す。
【図6】壁部の前方への突出量と被塗装物の中心からの距離に応じた塗膜厚との関係を示す図である。
【図7】塗布パターン幅と壁部の前方への突出量との関係を示す図である。
【図8】(a)は前記実施形態の変形例に係る静電塗装装置の先端部分の断面図およびエア供給部の概略構成図である。(b)は(a)のB−B断面に対応する部分断面図である。
【図9】前記実施形態の変形例に係る静電塗装装置の先端部分におけるエア流の方向を示す模式図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る静電塗装方法を用いて静電塗装を行ったときに形成される塗布パターンを示す図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る静電塗装方法を用いて静電塗装を行ったときの概要を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
【0032】
図1は、本発明の一実施形態に係る静電塗装装置1の概略構成を示す斜視図である。図2は、静電塗装装置1の側面図である。
静電塗装装置1は、例えば自動車のボディを被塗装物Wとして静電塗装するものであり、ロボットアーム3の先端に取り付けられた円柱状のボディ部10と、先端部分が屈曲した略くの字形状でかつこのボディ部10の先端に着脱可能に設けられたヘッド部20と、を備える。
【0033】
図3(a)は、静電塗装装置1を構成するヘッド部20の先端部分の断面図およびエア供給系50の概略構成図である。(b)は(a)のA−A断面に対応する部分断面図である。
ヘッド部20は、図示しないエアモータと、このエアモータにより回転駆動される回転霧化頭22と、回転霧化頭22に塗料を供給する図示しない塗料供給部と、回転霧化頭22を囲繞するエアキャップ40と、エアキャップ40を囲繞する略円筒状の壁部71と、壁部71を軸線方向に駆動する駆動機構31と、これらを保持するハウジング25と、を備える。図3において、「前方」はヘッド部20の先端側であるFW方向を示し、「後方」は反対側のSB方向を示す。
【0034】
回転霧化頭22は、前方に向かうに従って内径が大きくなる略円錐形状の内面、及び前方に向かうに従って外径が大きくなる略円錐形状の裏側面22bを有し、ヘッド部20の先端に設けられる。回転霧化頭22は、回転軸Xを回転軸として回転可能に設けられている。
【0035】
エアキャップ40は、前方に向かうに従って内径が大きくなる略円錐形状の内面406、及び前方に向かうに従って外径が小さくなる略円錐形状の外面405を有し、ハウジング25に取り付けられる。エアキャップ40は、回転霧化頭22を囲繞して形成されており、このエアキャップ40の先端面401は、塗料の噴霧方向(FW方向)に対して回転霧化頭22の先端縁22cよりも後方(SB方向)で、回転霧化頭22の途中の位置に、裏側面22bに対向するように設けられている。エアキャップ40の内面406と回転霧化頭22の裏側面22bとは、お互いに相補的な形状となっている。
【0036】
エアキャップ40の先端面401は環状であり、この環状の先端面401には、回転霧化頭22の回転軸を中心とする複数の噴出孔41が穿設されている。エア噴出孔41は、それぞれ先端面401上にエア噴出口411として開口している。エア噴出口411の径は、いずれも同一であってよい。また、複数の噴出孔41は同一円周上に円周方向に等間隔に配置されていてよい。
【0037】
エア噴出孔41は、いずれも円周方向に傾斜して設けられていてよい。エア噴出孔41の円周方向の傾斜角度は、いずれも同一であってよく、回転霧化頭22の回転方向に対向する方向への傾斜から回転方向への傾斜まで、形成しようとする塗布パターン幅に応じて好適な傾斜角度を適宜選択することができる。
【0038】
エア噴出孔41は、いずれも後方から前方に向かうに従い、回転霧化頭22の回転軸を中心とする径方向内側に傾斜して設けられている。エア噴出孔41の径方向の傾斜角度は、いずれも同一であってよく、エア噴出口411の位置やエア噴出孔41の円周方向の傾斜角度に応じて、回転霧化頭22の裏側面22bの先端縁22c近傍に向かってエアが噴出されるように、適宜設定される。
【0039】
エア噴出孔41は、前述の通り、そのエア噴出口411の径が同一であり、回転霧化頭22の回転軸を中心とする同一円周上に円周方向に等間隔に配置され、径方向の傾き、半径方向の傾きとも同一であるものを一例として示したが、これに限られず、噴出孔41は、例えば、そのエア噴出口411に径の異なるものを混在させる、環状の先端面401上で径の僅かに異なる2つの円周上に交互に配置する、円周方向に所定の範囲内で不等間隔に配置する、噴出孔41の円周方向の傾き、及び/または径方向の傾きを僅かに異なるように交互に配置する、等の変更が可能である。
【0040】
エアキャップ40の周囲には、エアキャップ40を囲繞する略円筒状の一体の壁部71が設けられている。壁部71は、回転霧化頭22の回転軸Xの軸方向に移動可能に、すなわちFW−SB方向に移動可能にハウジング25に取り付けられている。
壁部71は、前方に向かうに従って内径が小さくなる略円錐形状の内面71bを有し、壁部71の内面71bとエアキャップ40の外面405とは、お互いに相補的な形状となっている。
壁部71が前方に前進すると、壁部71の先端部71sは回転霧化頭22の裏側面22bに接近し、回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71の先端部71sとの間の開口面積が小さくなり「絞り」を形成する。また、壁部71が後方側に最も後退した場合に、突出量ゼロ、すなわち壁部71の先端部71sがエアキャップ40の先端面401と略同一面上に位置するように設定されてよい。
【0041】
駆動機構31は、壁部71をFW−SB方向に駆動する。駆動機構31は、制御装置(図示しない)によって制御されるステッピングモーター311と、ボールネジ312とを含む。ボールネジ312は、ステッピングモーター311により回転されるネジ軸312bと、ネジ軸312bに係合しネジ軸312bの回転に応じてネジ軸312bの軸方向に移動するナット312nと、ナット312nと壁部71とを接続する接続部材312cとを含む。
【0042】
駆動機構31は、この構成によって、制御装置(図示しない)の制御信号に基づき、ネジ軸312bをステッピングモーター311により回転させ、接続部材312cによってナット312nに接続された壁部71の前方への突出量を正確に制御することができる。
壁部71の突出量変化範囲(移動ストローク長)は、本実施形態では8mmに設定されている。
【0043】
壁部71はその移動可能方向に伸びるガイド71gを有し、ガイド71gはハウジング25の対応する位置に設けられたガイド溝25g内に摺動可能に取り付けられている。これによって、壁部71のFW−SB方向の移動を滑らかにすると共に壁部71のエアキャップ40に対する姿勢を保持している。
【0044】
エアキャップ40の内部には、エア噴出孔41に連通する複数のエア通路412が設けられている。エア通路412は、後述するエア供給部51と接続され、このエア供給部51からエアが供給される。
【0045】
エア供給系50は、エア供給部51と、エア供給源としてのエアコンプレッサ53と、を含んで構成される。
エア供給部51は、エアコンプレッサ53で圧縮された所定流量のエアを、エア噴出孔41に連通するエア通路412に供給する。
【0046】
エア供給部51は、エアバルブ511と、エア流量計512と、エアコントロールユニット(CU)513と、を備える。
エアバルブ511は、空気圧により駆動するエアバルブであり、図示しない電空変換機を介してエアコントロールユニット513に電気的に接続されている。
エア流量計512は、エアコントロールユニット513に電気的に接続されている。このエア流量計512は、エア通路412に供給するエアの流量を検出し、その検出信号をエアコントロールユニット513に出力する。
エアコントロールユニット513は、エア流量計512により検出されたエアの流量に基づいて、エアバルブ511の開度を制御する。
【0047】
エアコントロールユニット513は、図示しない電空変換機に電気信号を出力する。この電気信号は、電空変換機で空気圧信号に変換されてエアバルブ511に出力される。これにより、エアバルブ511の開度が正確に制御され、エア通路412に供給するエアの流量が正確に制御される。
【0048】
エア供給部51からエア通路412にエアを供給すると、供給されたエアは、エア噴出孔41から回転霧化頭22の裏側面22bの先端縁22c近傍に向かって噴出され、いわゆるシェーピングエアFとなる。このシェーピングエアFは、後述の通り、回転霧化頭22の裏側面22bとエアキャップ40の先端面401との間における壁部71の先端部71sの位置によってその方向を変化させられ、回転霧化頭22の先端縁22cから噴霧される塗料の飛行パターン、即ち塗料の塗布パターン幅を変化させる。
【0049】
次に、本実施形態に係る静電塗装装置1の動作について説明する。
まず、エアコンプレッサ53から図示しないエアモータにエアを供給して、回転霧化頭22を高速で回転させる。さらに、図示しない電源からの電流を昇圧して、回転霧化頭22に高電圧の電流を印加する。
【0050】
次いで、図示しない塗料供給部から回転霧化頭22に塗料を供給する。すると、回転霧化頭22の内周面に塗料が吐出され、吐出された塗料は高電圧が印加されて帯電し、回転霧化頭22の遠心力によって霧化状態となり、回転霧化頭22の先端縁22cから被塗装物Wに向かって噴霧される。
【0051】
また、塗料の噴霧と同時に、エア供給部51からエア通路412を介してエア噴出孔41にエアを供給すると、エア噴出口411から、シェーピングエアFが回転霧化頭22の裏側面22bの先端縁22c近傍に向かって噴出される。
【0052】
次に、壁部71の先端部71sの位置とシェーピングエアFの方向との関係について、図4及び5を参照して説明する。
【0053】
図4は、シェーピングエアFの方向を示す模式図であり、(a)は壁部前進時、(b)は壁部後退時をそれぞれ示す。
(a)の壁部前進時において壁部71の先端部71sは、エアキャップ40の先端面401から突出量t=t1と大きく突出し、壁部71の先端部71sは回転霧化頭22の裏側面22bに接近し、回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71の先端部71sとの間の距離L1が小さくなっている。従って、回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71の先端部71sとの間の開口面積が小さくなり「絞り」を形成する。このため、エア噴出口411から噴出されたシェーピングエアFはこの「絞り」をそのまま通過できない。
【0054】
エア噴出口411から噴出されたシェーピングエアFは、この「絞り」によって形成された回転霧化頭22の裏側面22bとエアキャップ40の内面406の間の空間C1に供給され、その内部の圧力を高める。このため、高圧となった空間C1は、回転霧化頭22の裏側面22bに沿った方向の圧力差エア流F1を形成する。従って、エア噴出口411から噴出されたシェーピングエアFは、この圧力差エア流F1によって大きく方向を変えられ、回転霧化頭22の裏側面22bに沿った方向の、すなわち回転霧化頭22の回転軸Xの軸方向となす角θ1の大きな偏向されたシェーピングエアSA1を形成する。この偏向されたシェーピングエアSA1は、後述の通り塗料の塗布パターン幅を大きくする。
【0055】
尚、ここで壁部71の先端部71sの突出量を減少させると、回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71の先端部71sとの間に形成される「絞り」が大きくなり、この「絞り」によって形成される圧力差エア流F1は弱まり、偏向されたシェーピングエアSA1の方向を変える力が減少し、シェーピングエアSA1の回転霧化頭22の回転軸Xの軸方向となす角θ1は減少し、塗布パターン幅を小さくする方向に変化させる。
【0056】
一方、(b)の壁部後退時において壁部71の先端部71sは、エアキャップ40の先端面401から突出量t=t2と突出量が小さく、回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71の先端部71sとの間の距離L2は大きい。従って、回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71の先端部71sとの間の開口面積が大きく、「絞り」は形成されない。
【0057】
このため、エア噴出口411から噴出されたシェーピングエアFは、回転霧化頭22の裏側面22bとエアキャップ40の内面406の間の空間C2の影響を受けることなく、一旦回転霧化頭22の裏側面22bの先端縁22c近傍に当てられることにより生じる回転霧化頭22の裏側面22bに沿った方向のエア流F2の影響のみを受ける。このエア流F2は小さく、シェーピングエアFに与える影響も小さい。従って、エア噴出口411から噴出されたシェーピングエアFは、わずかにその方向を偏向され、回転霧化頭22の先端縁22cの近傍を通過する方向の、すなわち回転霧化頭22の回転軸Xの軸方向となす角θ2の小さな偏向されたシェーピングエアSA2を形成する。この偏向されたシェーピングエアSA2は塗料の塗布パターン幅を小さくする。
【0058】
図5は、回転霧化頭22の裏側面22bの先端縁22c近傍のエア流の流速を示す実験に基づくコンター図(等流速線図)である。図5において、塗りつぶしが濃い部分は、その位置の流速が高いことを示す。(a)は壁部前進時、(b)は壁部後退時をそれぞれ示す。
【0059】
(a)の壁部前進時において壁部71の先端部71sは、エアキャップ40から突出量t=t1と大きく突出している。ここでは、回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71の先端部71sとの間の「絞り」によって形成された空間C1の内部の回転霧化頭22の裏側面22bの近傍に裏側面22bに沿った高速部分が見られる。これは、前述の通り、一旦高圧となった空間C1が回転霧化頭22の裏側面22bに沿った方向に形成された圧力差エア流F1であり、回転霧化頭22の裏側面22bに沿った方向の偏向されたシェーピングエアSA1を形成している。
【0060】
(b)の壁部後退時において壁部71の先端部71sは、エアキャップ40から突出量t=t2とその突出量が小さい。ここでは、回転霧化頭22の先端縁22c近傍に高速部分が見られるが、この高速部分は、(a)における「絞り」によって形成された空間C1の内部の回転霧化頭22の裏側面22bの近傍に裏側面22bに沿った高速部分に比べてその速度が小さい。これは、前述の通り、シェーピングエアFが一旦回転霧化頭22の裏側面22bの先端縁22c近傍に当てられることにより生じる回転霧化頭22の裏側面22bに沿った方向の小さなエア流F2である。
【0061】
次に、壁部の突出量と塗布パターン幅との関係について、図6を参照して説明する。
図6は、壁部の前方への突出量と被塗装物の中心からの距離に応じた塗膜厚との関係を示す図である。図6のデータは、壁部71の前方への突出量を0mm、3mm、8mmとしたときの実験データである。図6において、距離0mmの領域は、回転霧化頭の回転軸の延長線上の領域を意味する。
【0062】
図6に示すように、塗膜厚は、被塗装物の中心からの距離が近い領域で厚く、被塗装物の中心からの距離が遠い領域において薄いことが判る。また、塗布パターンは正対称である。
ここで、塗膜厚が、極大値から当該極大値の1/2となるまでの領域を塗布パターンとし、このときの幅寸法を塗布パターン幅と定義する。
【0063】
図7は、上記のように定義した塗布パターン幅と壁部の前方への突出量との関係を示す図である。
【0064】
図7に示すように、壁部が前方に突出してないときに(すなわち、突出量0mmのときに)塗布パターン幅が最も狭く、壁部の前方への突出量が大きくなるに従って塗布パターン幅が広くなることが判る。従って、この結果に基づいて壁部の前方への突出量を調整することにより、塗布パターン幅を調整できることが判る。
【0065】
本実施形態に係る静電塗装装置1によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、駆動機構31によって壁部71の前方への突出量を変化できるようにした。これにより、壁部71の前方への突出量を大きくすることにより回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71の先端部71sとの間の距離を短くし、回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71の先端部71sとの間の開口面積を小さくして小さな「絞り」を形成し、これによって回転霧化頭22の裏側面22bに沿った強い圧力差エア流F1を生成して、シェーピングエアFの方向を大きく変えて回転霧化頭22の回転軸Xとなす角θ1の大きい偏向されたシェーピングエアSA1とすることができる。
【0066】
また、逆に、壁部71の前方への突出量を小さくすることにより回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71の先端部71sとの間の距離を長くし、回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71の先端部71sとの間の開口面積を大きくして「絞り」を形成せず(または、大きな「絞り」とし)、圧力差エア流F1を生成せず(または、生成しても弱い圧力差エア流F1に留め)、シェーピングエアFの方向を小さく偏向させた回転霧化頭22の回転軸Xとなす角θ2の小さな偏向されたシェーピングエアSA2とすることができる。
【0067】
ここで、シェーピングエアの方向を回転霧化頭22の回転軸Xとなす角が大きいと、塗料の噴出角度を規制する規制力が弱くなって塗布パターン幅が大きくなり、シェーピングエアの方向を回転霧化頭22の回転軸Xとなす角が小さいと、塗料の噴出角度を規制する規制力が強くなって塗布パターン幅が小さくなる。
【0068】
従って、本実施形態によれば、駆動機構31によって壁部71の前方への突出量を変化させることによって、回転霧化頭22により霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力を変化させ、塗布パターン幅の大きさを自由に変化させることができる。このため、例えば被塗装物の端部を塗装する場合に、状況に応じた好適な塗布パターン幅を用いて塗装することにより、オーバースプレーを抑制でき塗装効率を向上できる。
【0069】
以上、本発明の実施形態に係る静電塗装装置1につき説明したが、これに限定されるものではなく、静電塗装装置1には様々な変形例が可能である。
図8(a)及び(b)は、前述の実施形態の図3(a)及び(b)に対応し、ヘッド部20の変形例であるヘッド部60の先端部分の断面図およびエア供給系50の概略構成図を示す。(b)は(a)のB−B断面に対応する部分断面図である。
【0070】
変形例であるヘッド部60は、本実施形態のヘッド部20の壁部71及び駆動機構31とは異なる第1の分割壁部72、第2の分割壁部73、第1の駆動機構32、第2の駆動機構33を備えているが、それら以外は全く同様に構成され、作用するので、異なる構成要素について説明し、他は省略する。
【0071】
前述の実施形態(ヘッド部20)の壁部71がエアキャップ40を囲繞する略円筒状の一体の壁であるのに対して、変形例(ヘッド部60)の第1の分割壁部72、第2の分割壁部73は、それぞれ略半円筒状の部材である。第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73は、その両方でエアキャップ40を囲繞するように構成され、それぞれ個別にFW−SB方向に移動可能に構成されている。
また、エアキャップ40は、その円環状先端面を円周方向に均等に2分割した第1の先端面区域402及び第2の先端面区域403に区分けされ、第1の分割壁部72は、第1の先端面区域402に対応し、第2の分割壁部73は、第2の先端面区域403に対応している。
【0072】
ここで、第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73は、前方に向かうに従って内径が小さくなる逆向きの略円錐形状の内面72b、73bを有し、内面72b、73bとエアキャップ40の外面405とは、お互いに相補的な形状となっている点は、壁部71と全く同様である。
【0073】
変形例(ヘッド部60)の第1の分割壁部72、第2の分割壁部73は、前述の実施形態(ヘッド部20)の壁部71が前方に前進すると回転霧化頭22の裏側面22bに接近し、回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71の先端部71sとの間に「リング状」の「絞り」を形成するのに対して、例えば、一方の第1の分割壁部72が前方に前進すると、回転霧化頭22の裏側面22bに接近し回転霧化頭22の裏側面22bと第1の分割壁部72の先端部72sとの間に第1の先端面区域402に対応した「リングを2分割した形状」の「絞り」を形成できる。
【0074】
また、変形例(ヘッド部60)の第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73が後方側に最も後退すると、突出量ゼロ、すなわち第1の分割壁部72の先端部72s及び第2の分割壁部73の先端部73sがエアキャップ40の先端面である第1の先端面区域402及び第2の先端面区域403と略同一面上に位置するように設定されてよいことは、前述の実施形態(ヘッド部20)の壁部71が後方側に最も後退すると、突出量ゼロ、すなわち壁部71の先端部71sがエアキャップ40の先端面401と略同一面上に位置するように設定されてよいことと全く同様である。
【0075】
駆動機構32、33は、第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73を個別にFW−SB方向に駆動される。
駆動機構32は、制御装置(図示しない)によって制御されるステッピングモーター321と、ボールネジ322とを含む。ボールネジ322は、ステッピングモーター321により回転されるネジ軸322bと、ネジ軸322bに係合しネジ軸322bの回転に応じてネジ軸322bの軸方向に移動するナット322nと、ナット322nと第1の分割壁部72とを接続する接続部材322cとを含む。
駆動機構33は、制御装置(図示しない)によって制御されるステッピングモーター331と、ボールネジ332とを含む。ボールネジ332は、ステッピングモーター331により回転されるネジ軸332bと、ネジ軸332bに係合しネジ軸332bの回転に応じてネジ軸332bの軸方向に移動するナット332nと、ナット332nと第2の分割壁部73とを接続する接続部材332cとを含む。
【0076】
駆動機構32は、この構成によって、制御装置(図示しない)の制御信号に基づき、ネジ軸322bをステッピングモーター321により回転させ、接続部材322cによってナット322nに接続された第1の分割壁部72の前方への突出量を正確に制御することができる。
同様に、駆動機構33は、この構成によって、制御装置(図示しない)の制御信号に基づき、ネジ軸332bをステッピングモーター331により回転させ、接続部材332cによってナット332nに接続された第2の分割壁部73の前方への突出量を正確に制御することができる。
第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73の突出量変化範囲(移動ストローク長)は、同様に8mmに設定されている。
【0077】
第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73は、同様に、その移動可能方向に伸びるガイド72g、73gを有し、ガイド72g、73gはそれぞれハウジング25の対応する位置に設けられたガイド溝25e、25f内に摺動可能に取り付けられていて、これによって第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73の移動を滑らかにすると共に第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73のエアキャップ40に対する姿勢を保持している。
【0078】
エアキャップ40の先端面、外面405、内面406、内部のエア噴出孔41、エア噴出孔41に連通する複数のエア通路412、エア通路412にエアを供給するエア供給部51は、変形例(ヘッド部60)においても前述の実施形態(ヘッド部20)と同様である。
【0079】
次に、本実施形態に係る静電塗装装置1の変形例(ヘッド部60)の動作について説明する。
第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73は、それぞれ個別にFW−SB方向に移動可能に構成されているため、それぞれ異なる前方への突出量とすることができる。言うまでもなく、第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73の突出量を同じにして用いることもできるがこの場合は前述の実施形態(ヘッド部20)と全く同様の動作になる。
【0080】
以下、第1の分割壁部72の突出量を大きく、第2の分割壁部73の突出量を小さくした場合につき、第1の分割壁部72の先端部72sの位置及び第2の分割壁部73の先端部73sの位置とシェーピングエアFの方向との関係について、図9を参照して説明する。図9は、シェーピングエアFの方向を示す模式図である。
【0081】
第1の分割壁部72の先端部72sは、エアキャップ40の第1の先端面区域402から突出量t=t1と大きく突出し、第1の分割壁部72の先端部72sは回転霧化頭22の裏側面22bに接近し、回転霧化頭22の裏側面22bと第1の分割壁部72の先端部72sとの間の距離L1が小さくなっている。従って、回転霧化頭22の裏側面22bと第1の分割壁部72の先端部72sとの間の開口面積が小さくなり第1の先端面区域402に対応する「絞り」を形成する。このため、第1の先端面区域402のエア噴出口411から噴出されたシェーピングエアFはこの「絞り」をそのまま通過できない。
【0082】
第1の先端面区域402のエア噴出口411から噴出されたシェーピングエアFは、この「絞り」によって形成された回転霧化頭22の裏側面22bとエアキャップ40の内面406の間の第1の先端面区域402に対応する空間C3に供給され、その内部の圧力を高める。このため、高圧となった空間C3は、回転霧化頭22の裏側面22bに沿った方向の圧力差エア流F3を形成する。従って、第1の先端面区域402のエア噴出口411から噴出されたシェーピングエアFは、この圧力差エア流F3によって大きく方向を変えられ、回転霧化頭22の裏側面22bに沿った方向の、すなわち回転霧化頭22の回転軸Xの軸方向となす角θ3の大きな偏向されたシェーピングエアSA3を形成する。この偏向されたシェーピングエアSA3は、前述の通り第1の先端面区域402に対応する塗料の塗布パターン幅を大きくする。
【0083】
尚、ここで第1の分割壁部72の先端部72sの突出量を減少させると、回転霧化頭22の裏側面22bと第1の分割壁部72の先端部72sとの間に形成される「絞り」が大きくなり、この「絞り」によって形成される圧力差エア流F3は弱まり、偏向されたシェーピングエアSA3の方向を変える力が減少し、偏向されたシェーピングエアSA3の回転霧化頭22の回転軸Xの軸方向となす角θ3は減少し、第1の先端面区域402に対応する塗布パターン幅を小さくする方向に変化する。
【0084】
一方、第2の分割壁部73の先端部73sは、エアキャップ40の第2の先端面区域403から突出量t=t2と突出量が小さく、回転霧化頭22の裏側面22bと第2の分割壁部73の先端部73sとの間の距離L2は大きい。従って、回転霧化頭22の裏側面22bと第2の分割壁部73の先端部73sとの間の開口面積が大きく、第2の先端面区域403に対応する「絞り」は形成されない。
【0085】
このため、第2の先端面区域のエア噴出口411から噴出されたシェーピングエアFは、回転霧化頭22の裏側面22bとエアキャップ40の内面406の間の第2の先端面区域に対応する空間C4の影響を受けることなく、一旦回転霧化頭22の裏側面22bの先端縁22c近傍に当てられることにより生じる回転霧化頭22の裏側面22bに沿った方向のエア流F4の影響のみを受ける。このエア流F4は小さく、シェーピングエアFに与える影響も小さい。従って、第2の先端面区域のエア噴出口411から噴出されたシェーピングエアFは、わずかにその方向を偏向され、回転霧化頭22の先端縁22cの近傍を通過する方向の、すなわち回転霧化頭22の回転軸Xの軸方向となす角θ4の小さな偏向されたシェーピングエアSA4を形成する。この偏向されたシェーピングエアSA4は第2の先端面区域に対応する塗料の塗布パターン幅を小さくする。
【0086】
図7に戻って、前述の通り、壁部が前方に突出してないときに(すなわち、突出量0mmのときに)塗布パターン幅が最も狭く、壁部の前方への突出量が大きくなるに従って塗布パターン幅が広くなる。従って、この結果に基づいて壁部の前方への突出量を調整することにより、塗布パターン幅を調整できるとともに、壁部の前方への突出量を円周方向の区域ごとに異なるものとすることによって塗布パターン幅を非対称に変形できることが判る。
【0087】
本実施形態に係る静電塗装装置1の変形例(ヘッド部60)によれば、以下の効果が奏される。
変形例(ヘッド部60)では、円周方向に区分けされた第1の先端面区域402及び第2の先端面区域403に対応した第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73を設け、これらのそれぞれに駆動機構32、33により、前方への突出量を区域ごとに変化させるようにした。
これによって、前述の通り、駆動機構32、33によって第1の先端面区域402及び第2の先端面区域403に対応した第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73の前方への突出量を変化させることによって、回転霧化頭22により霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力を変化させ、塗布パターンの形状を非対称に変形させることができる。このため、例えば被塗装物の端部を塗装する場合に、状況に応じた好適な形状の塗布パターンを用いて塗装することにより、オーバースプレーを抑制でき、塗装効率を更に向上できる。
【0088】
尚、上記変形例(ヘッド部60)では、第1の先端面区域402及び第2の先端面区域403の2つの区域及びそれらに対応する第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73は、円周方向に均等に2分割されているとしたが、一方が180°以上であり、他方が180°以下となるように不均等に2分割されていてもよい。
【0089】
また、先端面区域402のエア噴出孔41及び第2の先端面区域403のエア噴出孔41へのエア供給はいずれも同じエア供給部51を用いているが、第1の先端面区域402のエア噴出孔41へのエア供給と第2の先端面区域403のエア噴出孔41へのエア供給を、個別のエア供給部を用いて行ってもよい。
【0090】
また、第1の先端面区域402及び第2の先端面区域403の2つの区域でなく、3つの区域及び対応する3つの分割壁部、または4つの区域及び4つの分割壁部として、各分割壁部の突出量をそれぞれ異なるよう制御できるように更に変形して構成されていてもよい。
【0091】
以下、本発明の実施形態に係る静電塗装方法につき説明する。
【0092】
(1) 静電塗装装置1のエアキャップ40の先端面401の全周にわたり、換言すれば第1の先端面区域402及び第2の先端面区域403の両方において、エア噴出口411の外周を囲繞し且つエア噴出口411よりも前方に突出して配置された偏向機構(壁部71、第1の分割壁部72、第2の分割壁部73)の前方への同一の突出量に応じて、回転霧化頭22を囲繞して形成されたエア噴出口411から噴出されたシェーピングエアFを偏向させる。
ここで、偏向されたシェーピングエアSA1、SA3は、偏向機構である壁部71、第1の分割壁部72の前方への突出量が大きいと回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71、第1の分割壁部72の先端部71s、72sとの間の距離が短くなり、回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71、第1の分割壁部72の先端部71s、72sとの間の開口面積を小さくして小さな「絞り」を形成し、この「絞り」によって、「絞り」の内側すなわち回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71、第1の分割壁部72の先端部71s、72sによって囲まれた空間C1、C3の圧力が高くなり「絞り」の外側に向かう回転霧化頭22の裏側面22bに沿った強い圧力差エア流F1、F3が生成され、回転霧化頭22の回転軸Xとなす角が大きい方向になる。
【0093】
また、偏向されたシェーピングエアSA2、SA4は、逆に偏向機構である壁部71、第2の分割壁部73の前方への突出量が小さいと回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71、第2の分割壁部73の先端部71s、73sとの間の距離が長くなり、回転霧化頭22の裏側面22bと壁部71、第2の分割壁部73の先端部71s、73sとの間の開口面積を大きくして「絞り」を形成せず(または、形成しても大きな「絞り」に留まり)、回転霧化頭22の回転軸Xとなす角が小さい方向に維持される。
【0094】
ここで、同様に、偏向されたシェーピングエアSA1、SA3のようにその方向と回転霧化頭22の回転軸Xとなす角が大きいと、塗料の噴出角度を規制する規制力が弱くなって塗布パターン幅が大きくなり、偏向されたシェーピングエアSA2、SA4のようにその方向と回転霧化頭22の回転軸Xとなす角が小さいと、塗料の噴出角度を規制する規制力が強くなって塗布パターン幅が小さくなる。
【0095】
従って、この実施形態によれば、エアキャップ40の先端面401の全周にわたり、換言すれば第1の先端面区域402及び第2の先端面区域403の両方において、エア噴出口411の外周を囲繞し且つエア噴出口411よりも前方に突出して配置された偏向機構(壁部71、第1の分割壁部72、第2の分割壁部73)の前方への同一の突出量に応じて、回転霧化頭22を囲繞して形成されたエア噴出口411から噴出されたシェーピングエアFを偏向させることによって、回転霧化頭22により霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力を変化させ、塗布パターン幅の大きさを自由に変化させることができる。このため、例えば被塗装物Wの端部を塗装する場合に、状況に応じた好適な塗布パターン幅を用いて塗装することにより、オーバースプレーを抑制でき、塗装効率を向上できる。
【0096】
(2) 静電塗装装置1のエアキャップ40の先端面401の全周を回転霧化頭22の回転軸Xを中心とする円周方向に第1の先端面区域402及び第2の先端面区域403に区分けし、エア噴出口411の外周を囲繞し且つエア噴出口よりも前方に突出して配置された偏向機構(第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73)の前方へのそれぞれ異なる突出量に応じて、回転霧化頭22を囲繞して形成されたエア噴出口411から噴出されたシェーピングエアFを、第1の先端面区域402及び第2の先端面区域403ごとに個別に偏向させる(偏向度合いを相違させる)。
【0097】
ここで、一方の区域、例えば第1の先端面区域402の偏向されたシェーピングエアSA3は、第1の分割壁部72の前方への突出量が大きいと回転霧化頭22の裏側面22bと第1の分割壁部72の先端部72sとの間の距離が短くなり、回転霧化頭22の裏側面22bと第1の分割壁部72の先端部72sとの間の開口面積を小さくして第1の先端面区域402に対応した小さな「絞り」を形成し、この「絞り」によって、「絞り」の内側、すなわち回転霧化頭22の裏側面22bと第1の分割壁部72の先端部72sによって囲まれた空間C3の圧力が高くなり「絞り」の外側に向かう回転霧化頭22の裏側面22bに沿った強い圧力差エア流F3が生成されて、回転霧化頭22の回転軸Xとなす角が大きい方向になる。
【0098】
また、他方の区域、例えば第2の先端面区域403の偏向されたシェーピングエアSA4は、逆に第2の分割壁部73の前方への突出量が小さいと回転霧化頭22の裏側面22bと第2の分割壁部73の先端部73sとの間の距離が長くなり、回転霧化頭22の裏側面22bと第2の分割壁部73の先端部73sとの間の開口面積を大きくして「絞り」を形成せず(または、形成しても大きな「絞り」に留まり)、これによって圧力差エア流F3を生じさせず(または、弱い圧力差エア流F3として)、回転霧化頭22の回転軸Xとなす角が小さい方向に維持される。
【0099】
同様に、ある区域、例えば第1の先端面区域402の偏向されたシェーピングエアSA3のようにその方向と回転霧化頭22の回転軸となす角Xが大きい方向にすると、塗料の噴出角度を規制する規制力が弱くなって塗布パターン幅が大きくなり、逆に、他の区域、例えば第2の先端面区域403の偏向されたシェーピングエアSA4のようにその方向と回転霧化頭22の回転軸Xとなす角が小さい方向にすると、塗料の噴出角度を規制する規制力が強くなって塗布パターン幅が小さくなる。
【0100】
従って、この実施形態によれば、エアキャップ40の先端面401の全周を回転霧化頭22の回転軸Xを中心とする円周方向に第1の先端面区域402及び第2の先端面区域403に区分けし、エア噴出口411の外周を囲繞し且つエア噴出口よりも前方に突出して配置された偏向機構(第1の分割壁部72及び第2の分割壁部73)の前方へのそれぞれ異なる突出量に応じて、回転霧化頭22を囲繞して形成されたエア噴出口411から噴出されたシェーピングエアFを、第1の先端面区域402及び第2の先端面区域403ごとに個別に偏向させることによって、回転霧化頭22により霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力を変化させ、塗布パターンの形状を非対称に変形させることができる。このため、例えば被塗装物Xの端部を塗装する場合に、状況に応じた好適な形状の塗布パターンを用いて塗装することにより、オーバースプレーを抑制でき、塗装効率を更に向上できる。
【0101】
次に、以上説明した本実施形態に係る静電塗装方法について具体例を挙げて説明する。
図10は、本実施形態に係る静電塗装方法を用いて静電塗装を行ったときに形成される
塗布パターンを示す図である。
【0102】
図10(a)は、エアキャップ40の先端面401の全周にわたり、換言すれば第1の先端面区域402及び第2の先端面区域403の両方に対応したシェーピングエアFの偏向度合いを大きくした場合の塗布パターンPLを示す図である。偏向されたシェーピングエアSA1、SA3のように、シェーピングエアFの偏向度合いを大きくすると偏向されたシェーピングエアの方向と回転霧化頭22の回転軸となす角Xが大きい方向になり、塗料の噴出角度を規制する規制力が弱くなって塗布パターン幅が大きくなる。
【0103】
図10(b)は、エアキャップ40の先端面401の全周にわたり、換言すれば第1の先端面区域402及び第2の先端面区域403の両方に対応したシェーピングエアFの偏向度合いを小さくした場合の塗布パターンPSを示す図である。偏向されたシェーピングエアSA2、SA4のように、シェーピングエアFの偏向度合いを小さくすると偏向されたシェーピングエアの方向と回転霧化頭22の回転軸となす角Xが小さい方向になり、塗料の噴出角度を規制する規制力が強くなって塗布パターン幅が小さくなる。
【0104】
図10(c)は、エアキャップ40の第1の先端面区域402に対応したシェーピングエアFの偏向度合いを大きくし、第2の先端面区域403に対応したシェーピングエアFの偏向度合いを小さくした場合の塗布パターンPAを示す図である。偏向されたシェーピングエアSA3のように、一方の半円のシェーピングエアFの偏向度合いを大きくすると偏向されたシェーピングエアの方向と回転霧化頭22の回転軸となす角Xが大きい方向になり、塗料の噴出角度を規制する規制力が弱くなって塗布パターン幅が大きくなり、逆に偏向されたシェーピングエアSA4のように、他方の半円のシェーピングエアFの偏向度合いを小さくすると偏向されたシェーピングエアの方向と回転霧化頭22の回転軸となす角Xが小さい方向になり、塗料の噴出角度を規制する規制力が強くなって塗布パターン幅が小さくなり、非対称の塗布パターンが得られる。
【0105】
図11は、本実施形態に係る静電塗装方法を用いて静電塗装を行ったときの概要を示す平面図である。
先ず、被塗装物W(例えば、車両ドア)を中央部W1、端部W2、狭幅部W3に区分する。
【0106】
次に、静電塗装装置1の移動経路、及びアクセス方向(ロボットアームの向き)を決定するが、中央部W1については図10(a)に示す塗布パターン幅の大きい塗布パターンPLを、端部W2については図10(c)に示す非対称の塗布パターンの塗布パターンPAを、狭幅部W3については図10(b)に示す塗布パターン幅の小さい塗布パターンPSを用いることが好ましい。
ここで、端部W2の場合は、塗布パターンPAを用いて塗布パターン幅の小さい側を被塗装物Wの外側に、塗布パターン幅の大きい側を被塗装物Wの中央側になるようにアクセス方向を決めることが好ましい。また、端部W2の場合、塗布パターンPSを用いてもよい。
このように塗装を行うことにより、被塗装物Wの形状に対する追従性が向上し、オーバースプレーが抑制された効率のよい塗装が行われる。また、中央部W1では塗布パターン幅の大きい塗布パターンPLを用いることができるため、静電塗装装置1の移動経路のピッチ幅を広くすることができ、塗装時間を短縮することが可能である。
【0107】
以上、本発明の実施形態、変形例を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態、及び変形例に記載の範囲には限定されない。上記実施形態、及び変形例に、多様な変更または改良を加えることができ、そのような変更、または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得る。
【符号の説明】
【0108】
1…静電塗装装置
22…回転霧化頭
31…駆動機構
32…第1の駆動機構
33…第2の駆動機構
41…エア噴出孔
71…壁部(偏向機構)
72…第1の分割壁部(偏向機構)
73…第2の分割壁部(偏向機構)
401…第1の先端面区域(区域)
402…第2の先端面区域(区域)
411…エア噴出口
F…シェーピングエア
SA1、SA2、SA3、SA4…偏向されたシェーピングエア
W…被塗装物
X…回転軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧が印加された状態で回転することで塗料を帯電させて霧化する回転霧化頭と、
該回転霧化頭を囲繞して形成されたエア噴出口を開口部とするエア噴出孔と、
前記エア噴出口の外周を囲繞し、且つ前記エア噴出口よりも前方に突出して配置された偏向機構と、を備えた静電塗装装置であって、
前記偏向機構は、前記エア噴出口から噴出されたエア流を偏向させることを特徴とする静電塗装装置。
【請求項2】
請求項1に記載の静電塗装装置であって、
前記偏向機構の前方への突出量を変化させる駆動機構を更に備えたことを特徴とする静電塗装装置。
【請求項3】
請求項2に記載の静電塗装装置であって、
前記偏向機構は、前記回転霧化頭の回転軸を中心とする円周方向に区分けされたそれぞれの区域に対応した複数の部材により構成されるとともに、前記複数の部材のそれぞれに駆動機構を備えたことを特徴とする静電塗装装置。
【請求項4】
高電圧が印加回された状態で回転する回転霧化頭を用いて、被塗装物を静電塗装する静電塗装方法であって、
前記回転霧化頭によって帯電した塗料を霧化するとともに、該回転霧化頭を囲繞して形成されたエア噴出口から噴出されたエア流を、前記エア噴出口の外周を囲繞し且つ前記エア噴出口よりも前方に突出して配置された偏向機構の前方への突出量に応じて偏向させ、偏向されたエア流によって塗料の噴出角度を規制する規制力を変化させ、異なる塗布パターン幅を形成することを特徴とする静電塗装方法。
【請求項5】
請求項4に記載の静電塗装方法であって、前記偏向機構は複数の部材により構成され
、前記複数の部材のそれぞれの前方への突出量に応じて、前記回転霧化頭の回転軸を中心とする円周方向に区分けされた区域ごとに前記エア流を偏向させ、偏向されたエア流によって前記区域ごとに塗料の噴出角度を規制する規制力を変化させ、非対称な形状の塗布パターンを形成することを特徴とする静電塗装方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−212630(P2011−212630A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85411(P2010−85411)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】