説明

静電誘導吸着具及び静電誘導吸着方法

【課題】低い電圧で大きな被吸着力が得られ、被吸着物の表面粗さを吸収できる静電誘導吸着具及び静電誘導吸着方法を提供する。
【解決手段】静電誘導により被吸着物を吸着する静電誘導吸着具において、糸状の誘電材12内に並置された複数本の導電線14a,14bを有する静電誘導糸10と、導電線間に静電場を発生する電源と、を備え、電源により導電線間に静電場を発生し、静電誘導により静電誘導糸の表面付近で被吸着物を吸着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電誘導により被吸着物を吸着する静電誘導吸着具及び静電誘導吸着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、静電誘導で被吸着物を吸着する静電チャックが知られている。静電チャックは、セラミックスなど平坦な面に一対の電極を櫛状に対向して配置し、一対の電極間に電圧を印加し、平坦な面付近に静電場を発生し、静電誘導により平坦な面に半導体ウエーハなど被吸着物を吸着している。この従来の静電チャックは、表面が硬く、完全な平坦性が要求されている。そのため、被吸着物の表面が平坦でないと、吸着が困難であった。また、一対の電極間の間隙が広くなるため、強い吸着力を得るために数KVの印加電圧が必要であった。
【0003】
また、従来、複数の導電線を有する電線があるが、これらの電線は、負荷装置に電力を供給するために電流を流したり、電気信号を送るために電流を流すものである。そのため、これらの電線は、電流を流すものであり、静電界を発生して静電誘導により被吸着物を吸着するものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(1)本発明は、低い電圧で大きな被吸着力が得られる静電誘導吸着具と静電誘導吸着方法を提供することにある。
(2)また、本発明は、被吸着物の表面粗さを吸収できる静電誘導吸着具と静電誘導吸着方法を提供することにある。
(3)また、本発明は、多くの被吸着物に対応可能な用途の広い静電誘導吸着具と静電誘導吸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明は、静電誘導により被吸着物を吸着する静電誘導吸着具において、糸状の誘電材内に並置された複数本の導電線を有する静電誘導糸と、導電線間に静電場を発生する電源と、を備え、電源により導電線間に静電場を発生し、静電誘導により静電誘導糸の表面付近で被吸着物を吸着する、静電誘導吸着具にある。
(2)また、本発明は、静電誘導により被吸着物を吸着する静電誘導吸着方法において、糸状の誘電材内に複数本の導電線を並置して静電誘導糸を作製し、導電線間に電圧を印加し、静電誘導糸の表面付近に静電場を発生させ、静電誘導により静電誘導糸の表面付近で被吸着物を吸着する、静電誘導吸着方法にある。
【発明の効果】
【0006】
(1)本発明は、低い電圧で大きな被吸着力が得られる静電誘導吸着具と静電誘導吸着方法を提供することができる。
(2)また、本発明は、被吸着物の表面粗さを吸収できる静電誘導吸着具と静電誘導吸着方法を提供することができる。
(3)また、本発明は、多くの被吸着物に対応可能な用途の広い静電誘導吸着具と静電誘導吸着方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(静電誘導吸着具)
静電誘導吸着具は、糸状の誘電材内に複数の導電線を並置した静電誘導糸を用いる。静電誘導糸の導電線間に静電場を発生し、静電誘導により静電誘導糸の表面付近に被吸着物を吸着するものである。静電誘導吸着具は、静電誘導糸を用いるために、複数の導電線の間隔を狭められ、低電圧で大きな静電場を発生できるので、低電圧で大きな吸着力を得ることができる。また、静電誘導吸着具は、静電誘導糸を用いるために、任意の形状を得ることができ、広い用途に使用することができる。また、静電誘導吸着具は、大きな静電場を有するために、静電誘導糸で作製された面を有する静電誘導繊維体を備えている。また、静電誘導吸着具は、被吸着物の凹凸面に容易に対応できるように、静電誘導繊維体の面を柔軟にする。そのために、静電誘導繊維体は、静電誘導糸の織編物で面を形成したり、ループ状の静電誘導糸の集合で繊毛形状を作製し、その静電誘導糸先端の集合で面を形成している。これらの構造により、静電誘導繊維体は、被吸着物の複雑な凹凸面に対しても容易に対応でき、被吸着物の吸着力を高めることができる。
【0008】
なお、静電場(又は静電界)は、実質的に変動しない電荷により作られる電場(又は電界)である。また、本発明の静電誘導糸に発生する力は、静電誘導に起因する力であるが、従来の給電線に発生する力は、電線を流れる電流が誘起する磁界に起因する力であり、静電誘導糸と従来の給電線とは力の発生メカニズムが異なっている。また、糸状の誘電材は、絶縁性を有する誘電材で作製された線状のものであり、いわゆる糸や紐の形状を有するものである。誘電材は、静電誘導糸の外側に大きな静電場を誘導できるものがよく、誘電率εの高いものが好ましい。静電誘導繊維体は、静電誘導糸を織ったり編んだりして編成して得られた織編物などがある。複数本の導電線を並置するとは、複数本の導電線を相互に離間して並べて置くことであり、即ち、複数本の導電線を電気的に接触することなく、平行状態、又はねじれ状態など、並べて配置してある状態にすることである。織編物は、糸を編成して得られた織物や編物である。被吸着物は、静電誘導により静電誘導吸着具に吸着されるものであればよく、半導体ウエーハからゴミ、細菌など種々のものが対象になる。導電線の材料は、電位が全体に均一に分布するものが好ましく、金属や導電性の有機や無機材料などがある。繊毛形状とは、多数の毛の集合であり、毛の先端部の集合により面を形成する形状である。静電誘導糸をループ状の連続した繊毛形状にし、多数の繊毛形状の先端が面を形成する。静電誘導糸の繊毛形状は、静電誘導糸をループ状に形成し、繊毛のように多数、表面から突出させ、ループの突出した多数の先端部で面を形成する。被吸着物を静電誘導により静電誘導糸に吸着するとは、物理的には、被吸着物と静電誘導糸が静電誘導により相互に引っ張り合い、付着することである。
【0009】
(静電誘導糸)
図1は、静電誘導糸10の例を示している。図1(A)は、静電誘導糸10の一部を切断したものであり、一端に静電誘導糸10の断面が示されている。図1(B)は、静電誘導糸10が糸巻16に巻かれた状態を示している。静電誘導糸10は、糸状の誘電材12の内部に複数の導電線14a、14bが並置されている。導電線14a、14bは、電力を供給したり信号を伝達するために電流を流すものではなく、静電誘導糸10の外側に静電場を形成するものである。誘電材12は、導電線14a、14bを絶縁し、静電誘導糸10の外周近傍、外周面付近に静電場を誘起するものである。
【0010】
静電誘導糸10の断面は、円形、楕円、又は、正方形、長方形、多角形など任意の形状を取ることができ、被付着物に応じて選択することができる。導電線14は、2本でも、又はそれ以上の複数本でもよく、また、その断面形状も円形、楕円、又は、正方形、長方形、多角形など任意の形状を取ることができる。静電誘導糸10や導電線14は、被付着物の吸着力を高められる形状にするのが好ましい。静電誘導糸10の断面は、例えば、楕円とし、長径を約30μm、短径を約12μmとする。また、楕円の長径上に一対の導電線14aと14bを離間して並置する。導電線14の直径を約10μmとする。静電誘導糸10の密度を高くして、一対の導電線14aと14bに約6V程度の電圧を印加すると、数kVの電圧を印加する従来の静電チャック程度の単位面積当たりの吸着力を発生することができる。
【0011】
(静電誘導繊維体)
図2は、静電誘導繊維体18の例を示している。静電誘導繊維体18は、静電誘導糸10により形成された平面や曲面などの面を有するものであり、例えば静電誘導糸10を編成して作製された織編物がある。図2(A)の静電誘導繊維体18は、静電誘導糸10で編成された織物である。織物は、平織、綾織など種々の方法で織られるが、静電誘導繊維体18は、表面に静電誘導が発生するものであればどのような織り方でも良い。又は、静電誘導繊維体18は、静電誘導糸10で編成された編物でもよい。静電誘導具20は、このような静電誘導繊維体18と、その導電線14に印加する電源22などを備えている。
【0012】
織編物の静電誘導繊維体18は、突出した静電誘導糸10で面を形成している。そのため、静電誘導繊維体18の表面は、静電誘導糸10で全体に静電場を発生し、トータルとして被吸着物に対して強力な吸着力を発生することができる。しかも、織編物の静電誘導繊維体18の表面は、柔軟性があるので、被吸着物の表面の凹凸に追従でき、被吸着物に効果的に静電誘導を誘起して、強い吸着力を作用することができる。
【0013】
図2(B)の静電誘導繊維体18は、螺旋状、ループ状の静電誘導糸10が静電誘導繊維体18の表面に形成されたものである。この静電誘導繊維体18は、ループの断面形状を、円形、楕円、更に先端が鋭角な形状にして、静電誘導繊維体18の表面に多数のループを配置し、静電誘導繊維体18の表面に静電誘導糸10の繊毛24を形成している。これにより、静電誘導繊維体18は、ループ状の静電誘導糸10を細くすることにより、サブミクロン程度の被吸着物の表面粗さにまで対応でき、表面粗さを吸収して吸着効果を発揮できる。静電誘導吸着具20は、この静電誘導繊維体18を基材26で保持し、電源22を接続して、静電誘導糸10の一対の導電線14に電圧を印加し、被吸着物を吸着する。一対の導電線14の印加電圧を下げるか、零にすると、被吸着物を離すことができる。
【0014】
(静電吸着方法)
静電誘導繊維体18の静電吸着方法は、糸状の誘電材12内に複数本の導電線14を並置して静電誘導糸10を作製し、導電線14、14間に電圧を印加し、静電誘導糸10の表面付近に静電場を発生させ、静電誘導により静電誘導糸10の表面付近で被吸着物を吸着する方法である。導電線14、14間に印加する電圧を高めたり低下させたり、逆電圧にしたりするなど変化することにより、被吸着物に作用する吸着力を変化させ、被吸着物を吸着したり離間したり、吸着状態を変化させることができる。
【0015】
(静電誘導吸着具の応用例)
図3は、静電誘導吸着具20の応用例を示している。図3(A)は、高性能フィルタ機能を有するマスクを示している。静電誘導吸着具20のマスクは、静電誘導繊維体18の布地と耳に取り付ける固定紐28と静電誘導糸10に電圧を印加する電源22の電池を備えている。このマスクは、半導体製造装置のクリーンルームや病院などで使用することができる。このマスクの布地は、埃を吸着し、クリーンルーム内や病室内に埃を撒き散らすことを防止する。
【0016】
図3(B)は、埃を取るダスタを示している。ダスタは、ループ状の静電誘導糸10が多数、基材26に取り付けたものである。基材26には柄30を備え、柄30の部分には、電源22の電池と切替スイッチ32を有している。切替スイッチ32は、静電誘導糸10に印加する電圧を可変にしたり、オンオフを切り替える手段である。切替スイッチ32により、埃を吸着したり、吸着していた埃を離し、放出したり、又は、印加電圧を上げて、吸着し難い埃を吸着することができる。
【0017】
また、静電誘導吸着具20は、一本のループ状の繊毛が「単双極子静電チャック」として機能するので,装置自体を小型化することできる。これにより、ヤモリのように壁を重力に抗して移動することが可能なマイクロロボットなどを実現することができる。
【0018】
以上のように、本発明は、静電誘導糸10の導電線14に電圧を印加することにより、静電場を発生でき、被吸着物を容易に吸着、離間できるものであり、上記実施の形態以外にも、様々な分野に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】静電誘導糸の説明図
【図2】静電誘導糸で形成された静電誘導繊維体の説明図
【図3】静電誘導吸着具の応用例の説明図
【符号の説明】
【0020】
10・・・静電誘導糸
12・・・誘電材
14・・・導電線
16・・・糸巻
18・・・静電誘導繊維体
20・・・静電誘導吸着具
22・・・電源
24・・・繊毛
26・・・基材
28・・・固定紐
30・・・柄
32・・・切替スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電誘導により被吸着物を吸着する静電誘導吸着具において、
糸状の誘電材内に並置された複数本の導電線を有する静電誘導糸と、
導電線間に静電場を発生する電源と、を備え、
電源により導電線間に静電場を発生し、静電誘導により静電誘導糸の表面付近で被吸着物を吸着する、静電誘導吸着具。
【請求項2】
請求項1に記載の静電誘導吸着具において、
静電誘導糸により面が形成された静電誘導繊維体を備える、静電誘導吸着具。
【請求項3】
請求項2に記載の静電誘導吸着具において、
静電誘導繊維体は、静電誘導糸の織編物である、静電誘導吸着具。
【請求項4】
請求項2に記載の静電誘導吸着具において、
静電誘導繊維体は、静電誘導糸をループ状の連続した繊毛形状にし、多数の繊毛形状の先端が面を形成する、静電誘導吸着具。
【請求項5】
請求項1に記載の静電誘導吸着具において、
導電線間に印加する電圧を変化させて、被吸着物の吸着力を変化させる、静電誘導吸着具。
【請求項6】
静電誘導により被吸着物を吸着する静電誘導吸着方法において、
糸状の誘電材内に複数本の導電線を並置して静電誘導糸を作製し、導電線間に電圧を印加し、静電誘導糸の表面付近に静電場を発生させ、静電誘導により静電誘導糸の表面付近で被吸着物を吸着する、静電誘導吸着方法。
【請求項7】
請求項7に記載の静電誘導吸着方法において、
導電線間に印加する電圧を変化させて、被吸着物の吸着力を変化させる、静電誘導吸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−154301(P2008−154301A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336511(P2006−336511)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】