非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物
【課題】本発明の目的は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面への角膜細胞の接着を抑制することができる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を提供することである。
【解決手段】(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と共に、(B)界面活性剤を配合して、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を調製する。
【解決手段】(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と共に、(B)界面活性剤を配合して、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を調製する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面への角膜細胞の接着を抑制することができる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に関する。また、本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面への角膜細胞の接着を抑制する方法に関する。更に本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させる方法、並びに非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させる透過性向上物質をスクリーニングする方法に関する。
【0002】
更に、本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面に対する摩擦増大作用が低減された非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に関する。また、本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面の摩擦を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、コンタクトレンズ(CL)の装用者が増えており、中でもソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用者が増えている。一般的に、ソフトコンタクトレンズを装用した場合には、大気からの酸素供給量が低下し、その結果として角膜上皮細胞の分裂抑制や角膜肥厚につながる場合があることが指摘されている。そのため、より高い酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズの開発が進められてきた。
【0004】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、そのような背景の下、高酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズとして近年開発されてきたものである。シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、ハイドロゲルにシリコーンを配合することにより、従来のハイドロゲルコンタクトレンズの数倍の酸素透過性を実現する。従って、ソフトコンタクトレンズの弱点である酸素供給不足を改善することができ、酸素不足に伴う角膜に対する悪影響を大幅に抑制できるものとして、大きく期待されている。
【0005】
一般に、ソフトコンタクトレンズに適用される眼科用組成物については、安全性等の影響を十分に考慮して設計することが不可欠である。特に、ソフトコンタクトレンズは、素材によってイオン性の有無や含水率の高低等が種々異なるため、適用されるソフトコンタクトレンズの性質に応じて製剤設計を行うことが肝要である。
【0006】
また、SCLは一般にハードコンタクトレンズに比べて大きく、その装用中には、角膜表面はほぼ全面的に覆われ、角膜周辺の結膜の一部までをも被覆する状態となる。そしてSCL装用中には、SCLと眼表面の間から涙液の流入及び流出(即ち、ポンプ作用による涙液交換)は殆ど行われず、SCL下の涙液交換はSCLを介した涙液の透過に依存していることが分かっている(非特許文献1−2参照)。このようにSCL下の涙液交換の殆どはSCLを介した涙液の透過により行われるため、SCL装用者の眼に対して適用される点眼剤の場合、その点眼剤の薬効を十分に発揮させるためには、薬理成分のSCLへの透過性を高めておくことが求められる。
【0007】
更に、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの表面には、通常のハイドロゲルコンタクトレンズの表面には見られない顕著な凹凸が存在することが近年報告されている(非特許文献3)。このような顕著な凹凸は、滑らかな表面を有するものに比べて生体由来物質や汚れ等を付着させ易いだけでなく、摩擦の増大を生じさせることも予想され、とりわけ過敏な眼組織では、装用中に異物感や乾燥感などの不快感を引き起こすことも十分に考えられる。
【0008】
一方、ペミロラスト及びその塩は、抗アレルギー作用の付与を目的として点眼剤などの局所適用組成物や粘膜適用組成物等に使用されている(特許文献1参照)。しかしこれまで、ペミロラスト及び/又はその塩とシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが相互に及ぼす影響等については全く報告されていない。ましてや、従来技術からは、ペミロラスト及び/又はその塩と界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及び/又はグリチルリチン酸類とを組み合わせてシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに適用した場合の影響や、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用者の眼組織に及ぼす影響については、推認すらできないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−55224号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本コンタクトレンズ学会誌、第39巻、111〜115、1997
【非特許文献2】日本コンタクトレンズ学会誌、第44巻、34-37、2002
【非特許文献3】針谷明美等、第51回日本コンタクトレンズ学会総会プログラム講演抄録集、110頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者等は、各種SCLについて種々の検討を行っていたところ、全く予想していなかったことに、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、非イオン性SHCLと略記する)のレンズ表面は、角膜上皮細胞の接着性が著しく高いという全く新しい知見を得た。このような角膜上皮細胞の接着性が高いコンタクトレンズは、コンタクトレンズの装用中にレンズに角膜細胞が接着して角膜上でレンズが動く度に、又はレンズを外す際等に、眼組織から該細胞を剥離させて、角膜表面の損傷やそれに伴う痛みを発生させる恐れがあり、ひいてはコンタクトレンズ使用者のQOL(Quality of Life)を著しく低下させることにもなる。更に、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、他のソフトコンタクトレンズに比して比較的長期に亘って連続装用される場合が多いことを考慮すると、長期間の連続装用によって生じる角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着は、重大な眼疾患又は眼粘膜症状を引き起こす一因にもなりかねない。そこで、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着を抑制できる非イオン性SHCL用眼科組成物の開発が求められている。
【0012】
また、本発明者等は、非イオン性SHCLに、界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及び/又はグリチルリチン酸類を接触させるとレンズ表面の摩擦が増大されてしまうという全く新しい知見を得た。このような大きな摩擦は非イオン性SHCL装用時に不快感(異物感や乾燥感など)や目の疲れ等を引き起こす原因となり得るだけでなく、眼瞼の裏側の粘膜と非イオン性SHCL表面とが擦れあう際に、又は眼球表面上で非イオン性SHCLが動くたびに、角結膜に上皮障害を引き起こす惧れもある。そこで、界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及び/又はグリチルリチン酸類を接触させた際に生じる非イオン性SHCL表面の摩擦の増大を低減できる非イオン性SHCL用眼科組成物の開発も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ペミロラスト及び/又はその塩を単独、或いは界面活性剤類を単独で用いた場合には、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を殆ど抑制できないばかりか、反って細胞接着を誘発する場合もあるものの、ペミロラスト及び/又はその塩と界面活性剤類とを組み合わせて使用した場合には、全く予想外なことに、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を著しく抑制できることを見出した。
【0014】
また、本発明者等は検討を更に進めた結果、ペミロラスト及び/又はその塩と界面活性剤類とを組み合わせて用いると、ペミロラスト及び/又はその塩の非イオン性SHCLに対する透過量を著しく増加できることをも見出した。
【0015】
更に、本発明者等は、界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及び/又はグリチルリチン酸類と接触させた際に生じる非イオン性SHCL表面の摩擦の増大を、これらの成分と共にペミロラスト及び/又はその塩を用いることにより抑制できることを見出した。また、かかる摩擦増大抑制効果は、更にプラノプロフェン類及びクロルフェニラミン類を併用することによって、より一層高めることが可能になることをも見出した。
【0016】
本発明は、かかる知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0017】
即ち、本発明は、下記に掲げる非イオン性SHCL用眼科組成物を提供する。
項1-1.(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-2.更に、(C)プラノプロフェン類及びクロルフェニラミン類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、項1-1に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-3.界面活性剤類として、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1又は1-2に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-4.界面活性剤類として、非イオン性界面活性剤を含む、項1-1〜1-3のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-5.界面活性剤類として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、項1-1〜1-4のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-6.ビタミンB6類として、ピリドキシン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1〜1-5のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-7.テルペノイド類として、メントール及びカンフルからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1〜1-6のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-8.グリチルリチン酸類として、グリチルリチン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1〜1-7のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-9.(B)成分として、非イオン性界面活性剤、塩酸ピリドキシン、メントール、及びグリチルリチン酸二カリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1〜1-8のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-10.(A)成分として、ペミロラストカリウムを含む、項1-1〜1-9のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-11.プラノプロフェン類として、プラノプロフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-2〜1-10のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-12.クロルフェニラミン類として、クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-2〜1-11のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-13.(C)成分として、プラノプロフェン及びマレイン酸クロルフェニラミンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-2〜1-12のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-14.(A)成分の配合割合が、0.005〜1.0w/v%である、項1-1〜1-13
のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-15.(B)成分の配合割合が、0.00001〜10w/v%である、項1-1〜1-14
のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-16.(C)成分の配合割合が、0.0006〜0.5w/v%である、項1-2〜1-15のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-17.(A)成分の総量100重量部当たり、(B)成分を総量で0.001〜200000重量部の比率で含有する、項1-1〜1-16のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-18.(A)成分の総量100重量部当たり、(C)成分を総量0.1〜10000重量部の比率で含有する、項1-2〜1-17のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-19.更に、緩衝剤を含有する、項1-1〜1-18のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-20.緩衝剤として、ホウ酸緩衝剤を含む、項1-19に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-21.更に、等張化剤を含有する、項1-1〜1-20のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-22.等張化剤として、グリセリン又はプロピレングリコールを含む、項1-21に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-23.点眼剤である、項1-1〜1-22のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【0018】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法を提供する。
項2.(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤類とを含有する非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物と、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとを接触させることを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着を抑制する方法。
【0019】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項3.非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤類とを配合することを特徴とする、眼科組成物に非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を付与する方法。
【0020】
また、本発明は、下記に掲げる使用を提供する。
項4-1.(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びに(B)界面活性剤類の、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物の製造のための使用。
項4-2.(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種 並びに(B)界面活性剤類の、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制するための非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物の製造のための使用。
【0021】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するペミロラスト及び/又はその塩の透過性向上方法を提供する。
項5. (A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)界面活性剤類とを併用することを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの該(A)成分の透過性の向上方法。
【0022】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するペミロラスト及び/又はその塩の透過性向上作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項6.(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、 (B)界面活性剤類を配合することを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの該(A)成分の透過性を向上させる作用を該眼科組成物に付与する方法。
【0023】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させるための剤を提供する。
項7.(B)界面活性剤類を有効成分として含有する、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の透過性を向上させるための剤。
【0024】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する方法を提供する。
項8.(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種と、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを併用することを特徴とする、前記(B)成分を接触させることにより増大される非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させる方法。
【0025】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦低減作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項9.(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、前記(B)成分を接触させることにより増大される非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する作用を該眼科組成物に付与する方法。
【0026】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させるための剤を提供する。
項10.(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種を接触させることにより増大される非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させるための剤。
【0027】
そして更に、本発明は、下記に掲げる透過性向上物質のスクリーニング方法を提供する。
項11. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のペミロラスト類の透過性を向上させる透過性向上物質のスクリーニング方法であって、
(a)ペミロラスト類を含むコントロール溶液、並びにペミロラスト類と被験物質とを含む被験溶液を、試験溶液として各々調製する工程、
(b)上記試験溶液を各々、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの片側面のみに所定時間接触させ、該レンズの上記試験溶液を接触させていない他方の片側面から滲出したペミロラスト類の量を測定することにより、各試験溶液のペミロラスト類の透過量を求める工程、並びに
(c)上記工程(b)において測定されたペミロラスト類の透過量が、コントロール溶液よりも多い被験溶液を選び、該被験溶液に含まれる被験物質を上記透過性向上物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、非イオン性SHCLに対して角膜上皮細胞が接着するのを効果的に抑制できるので、非イオン性SHCLの使用による角膜表面の損傷やそれに伴う痛みを改善することできる。また、SCL装用時には角膜は障害が起きても自覚し難いことが知られているため、非イオン性SHCLの長期間の連続装用を繰り返すと、重症になるまで放置してしまうことがある。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、このような悪影響についても改善でき、高い安全性をもって非イオン性SHCLを長期間連続装用することをも可能になる。
【0029】
また、SCLは非常にレンズサイズが大きく、その装用中には角膜はおろか結膜の一部も覆われる状態となるため、SCL装用者の眼に対して適用される眼科組成物(点眼剤)がその薬効を十分に発揮させるためには、その薬理成分のSCLへの透過性を高めておくことが望まれる。これに対して、後記する参考試験例2に示すように、本発明者等の検討によって、非イオン性SHCLでは、他のSCLと比較してペミロラスト及び/又はその塩のレンズ透過量が著しく少ないことが明らかにされている。そのため、非イオン性SHCL装用中の眼に対して、ペミロラスト及び/又はその塩を含有する従来の点眼剤を適用しても、所期の効果が得られない惧れがある。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、非イオン性SHCLへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性を顕著に向上させることができるので、非イオン性SHCL装用中に点眼しても、非イオン性SHCL下の角結膜へのペミロラスト及び/又はその塩の到達量を増加させ、ひいては抗アレルギー作用を有効に発揮させることが可能になる。
【0030】
更に、本発明によれば、界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及び/又はグリチルリチン酸類と共に、ペミロラスト及び/又はその塩を用いることによって、上記界面活性剤類等を含んでいながら、それらにより引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大が顕著に抑制された非イオン性SHCL用眼科組成物を提供することが可能である。従って、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によって、非イオン性SHCLの装用感を向上させることができ、また角結膜における上皮障害発生の惧れを効果的に予防でき、快適且つ安全に非イオン性SHCLを使用することが実現される。
【0031】
更に、本発明のスクリーニング方法は、非イオン性SHCLへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させ得る透過性向上物質の取得を可能にするので、非イオン性SHCLへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性が向上した非イオン性SHCL用の眼科組成物の開発に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】参考試験例1において、各種ソフトコンタクトレンズの角膜上皮細胞の接着性を評価した結果を示す図である。
【図2】試験例1において、試験液(実施例1及び比較例1−2)の非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着抑制効果を評価した結果を示す図である。
【図3】参考試験例2において、ペミロラストカリウムの各種ソフトコンタクトレンズへの透過性を評価した結果を示す図である。
【図4】試験例2において、試験液(実施例2−3及び比較例3)におけるペミロラストカリウムの非イオン性SHCLへの透過性を評価した結果を示す図である。
【図5】参考試験例3において、試験液(実施例2−3及び比較例3)におけるペミロラストカリウムの非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの透過性を評価した結果を示す図である。
【図6】参考試験例4において、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦(剛体振り子物性試験により測定される対数減衰率)を評価した結果を示す図である。
【図7】試験例3において、試験液(実施例4−5、及び比較例4−7)が非イオン性SHCLの摩擦に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【図8】試験例4において、試験液(実施例6、及び比較例8)が非イオン性SHCLの摩擦に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【図9】試験例4において、試験液(実施例7、及び比較例9)が非イオン性SHCLの摩擦に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【図10】試験例5において、試験液(実施例8−9、及び比較例10−11)が非イオン性SHCLの摩擦に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【図11】試験例6において、試験液(実施例10−12)が非イオン性SHCLの摩擦に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
1.非イオン性SHCL用眼科組成物
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に(A)成分と表記することもある)を含有する。ペミロラストは、9−メチル−3−(1H-テトラゾール−5−イル)-4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オンとも称される公知化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0034】
また、ペミロラストの塩は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではないが、具体的には、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは無機塩基との塩、より好ましくはアルカリ金属塩、更に好ましくはカリウム塩及び/又はナトリウム塩、特に好ましくはカリウム塩が挙げられる。これらのペミロラストの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0035】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物には、(A)成分として、これらのペミロラスト及びその塩の中から、一種のものを選択して単独で使用してもよく、二種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着をより一層有効に抑制するという観点から、(A)成分として、好ましくはペミロラストの塩、より好ましくはペミロラストのアルカリ金属塩、更に好ましくはペミロラストのカリウム塩及び/又はナトリウム塩、特に好ましくはペミロラストのカリウム塩(ペミロラストカリウム)が挙げられる。ここで例示する(A)成分は、界面活性剤類による非イオン性SHCL透過性向上効果をより一層有効に獲得できるという観点からも好適であり、また後述の(B)成分により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大をより一層有効に抑制できるという観点からも好適である。
【0036】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、(A)成分の配合割合については、当該(A)成分の種類、該眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、(A)成分が総量で0.005〜1.0w/v%、好ましくは0.01〜0.5w/v%、更に好ましくは0.02〜0.2w/v%が例示される。
【0037】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)成分に加えて、界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に(B)成分と表記することもある)を含有する。(B)成分として界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及び/又はグリチルリチン酸類を使用して、上記(A)成分と組み合わせることにより、当該(B)成分によって引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大を抑制することが可能になる。また、(B)成分として界面活性剤類を使用して、上記(A)成分と組み合わせる場合には、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制することが可能になり、更に非イオン性SHCLへの上記(A)成分の透過性をも向上させることが可能になる。
【0038】
(B)成分の内、界面活性剤類としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0039】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類; POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等が例示される。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、α−オレフィンスルホン酸等が例示される。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、これらの界面活性剤類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
上記界面活性剤類の中でも、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層高めるという観点から、好ましくは、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤;更に好ましくは非イオン性界面活性剤;より好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類、POE・POPブロックコポリマー類;更により好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル、POE硬化ヒマシ油;特に好ましくはポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が例示される。非イオン性SHCLへの上記(A)成分の透過性を一層高めるという観点からも、ここで例示する界面活性剤類は好適である。また、ここで例示する界面活性剤類は、ペミロラスト及び/又はその塩による非イオン性SHCLの摩擦低減効果をより一層有効に奏させるという観点からも好適である。
【0041】
(B)成分の内、ビタミンB6類としては、具体的には、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン、及びこれらの塩が挙げられる。
【0042】
ピリドキシン、ピリドキサール、及びピリドキサミンの塩については、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは無機酸塩、より好ましくは塩酸塩及びリン酸塩、特に好ましくは塩酸塩が挙げられる。これらのピリドキシン、ピリドキサール、及びピリドキサミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0043】
本発明では、ビタミンB6類として、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン、及びこれらの塩の中から1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0044】
これらのビタミンB6類の内、ペミロラスト及び/又はその塩による非イオン性SHCLの摩擦低減効果をより一層有効に奏させるという観点から、好ましくはピリドキシン及びその塩、より好ましくはピリドキシン及びその無機酸塩、更に好ましくはピリドキシン塩酸塩及びピリドキシンリン酸塩、特に好ましくはピリドキシン塩酸塩(塩酸ピリドキシン)が挙げられる。
【0045】
(B)成分の内、テルペノイド類とは、イソプレンユニットを構成単位とする構造を有し、清涼化剤として汎用されている公知の化合物である。テルペノイド類として、具体的には、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、シトロネロール、カルボン、アネトール、オイゲノール、リモネン、リナロール、酢酸リナリル、これらの誘導体等が挙げられる。これらの化合物はd体、l体又はdl体のいずれでもよい。また、本発明において、テルペノイド類として、上記化合物を含有する精油を使用してもよい。このような精油としては、例えば、ユーカリ油、ベルガモット油、ペパーミント油、クールミント油、スペアミント油、ハッカ油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ローズ油、樟脳油等が挙げられる。これらのテルペノイド類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0046】
これらのテルペノイド類の中でも、ペミロラスト及び/又はその塩による非イオン性SHCLの摩擦低減効果をより一層有効に奏させるという観点から、好ましくは、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオールが挙げられ、これらを含有する精油としてクールミント油、ペパーミント油、ハッカ油、樟脳油、ローズ油等が例示される。更に好ましくは、メントール及びカンフル、より好ましくはメントール、特に好ましくはl-メントールが挙げられ、これらを含有する精油としてクールミント油、ペパーミント油、ハッカ油、樟脳油等が例示される。
【0047】
また、(B)成分の内、グリチルリチン酸類としては、具体的には、グリチルリチン酸及びその塩が挙げられる。
【0048】
グリチルリチン酸は、20β-カルボキシ-11-オキソ-30-ノルオレアナ-12-エン-3β-イル-2-O-β-D-グルコピラヌロノシル-α-D-グルコピラノシドウロン酸とも称される公知化合物である。グリチルリチン酸及びその塩は、抗炎症剤又は抗アレルギー剤として公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0049】
また、グリチルリチン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではない。このような塩として、具体的には、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは無機塩基との塩、更に好ましくは、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属との塩;アンモニウム塩等が挙げられる。より具体的には、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸三カリウム等のアルカリ金属との塩;グリチルリチン酸モノアンモニウム等のアンモニウム塩等が例示される。これらの中でも、好ましくはグリチルリチン酸のアルカリ金属塩、更に好ましくはグリチルリチン酸二カリウムが挙げられる。これらのグリチルリチン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0050】
本発明では、グリチルリチン酸類として、グリチルリチン酸及びその塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0051】
これらのグリチルリチン酸類の中でも、ペミロラスト及び/又はその塩による非イオン性SHCLの摩擦低減効果をより一層有効に奏させるという観点から、好ましくはグリチルリチン酸の塩、より好ましくはグリチルリチン酸の無機塩基との塩、更に好ましくはグリチルリチン酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはグリチルリチン酸二カリウムが挙げられる。
【0052】
本発明において、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制できる非イオン性SHCL用眼科組成物を提供する場合、(B)成分として、界面活性剤類を単独で使用してもよく、また界面活性剤類と共に、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類の中の少なくとも1種を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
また、本発明において、非イオン性SHCL表面の摩擦増大を抑制できる非イオン性SHCL用眼科組成物を提供する場合、(B)成分として、界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類の中から1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの(B)成分の中でも、前記(A)成分による摩擦増大抑制効果をより一層有効に獲得できるという観点から、好ましくは界面活性剤類、ビタミンB6類、及びテルペノイド類、より好ましくは界面活性剤類、及びビタミンB6類が例示される。
【0054】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、(B)成分の配合割合については、上記(A)成分の種類、当該(B)成分の種類、該眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、(B)成分が総量で0.00001〜10w/v%、好ましくは0.0001〜1w/v%、更に好ましくは0.001〜0.5w/v%が例示される。より具体的には、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対する各(B)成分の配合割合として、以下の範囲が例示される。
(B)成分が界面活性剤類の場合:これらが総量で、通常0.001〜10w/v%、好ましくは0.01〜1w/v%、更に好ましくは0.05〜0.5w/v%;
(B)成分がビタミンB6類の場合:これらが総量で、通常0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.5w/v%、更に好ましくは0.01〜0.2w/v%;
(B)成分がテルペノイド類の場合:これらが総量で、通常0.00001〜0.5w/v%、好ましくは0.0001〜0.15w/v%、更に好ましくは0.001〜0.05w/v%(なお、テルペノイド類として、テルペノイドを含む精油を使用する場合は、配合される精油中のテルペノイドの含有量が上記配合割合を満たすように設定される);
(B)成分がグリチルリチン酸類の場合:これらが総量で、通常0.0005〜1.25w/v%、好ましくは0.005〜1.0w/v%、更に好ましくは0.05〜0.3w/v%。
【0055】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、上記(A)成分に対する上記(B)成分の比率については、特に制限されるものではないが、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制する効果をより一層高めるという観点、或いは上記(B)成分により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大をより一層効果的に抑制するという観点から、上記(A)成分の総量100重量部当たり、上記(B)成分の総量が0.001〜200000重量部、好ましくは0.005〜50000重量部、より好ましくは0.05〜5000重量部、更に好ましくは0.5〜2500重量部となる範囲が例示される。このような比率は、非イオン性SHCLへの上記(A)成分の透過性を一層高めるという観点からも好適である。より具体的には、(A)成分の総量100重量部当たりの(B)成分の比率として、以下の範囲が例示される。
(B)成分が界面活性剤類の場合:これらが総量で、通常0.5〜50000重量部、好ましくは5〜5000重量部、更に好ましくは25〜2500重量部;
(B)成分がビタミンB6類の場合:これらが総量で、通常0.5〜5000重量部、好ましくは2.5〜2500重量部、更に好ましくは5〜1000重量部;
(B)成分がテルペノイド類の場合:これらが総量で、通常0.005〜2500重量部、好ましくは0.05〜750重量部、更に好ましくは0.5〜250重量部;(なお、テルペノイド類として、テルペノイドを含む精油を使用する場合は、配合される精油中のテルペノイドの比率が上記範囲を満たすように設定される);
(B)成分がグリチルリチン酸類の場合:これらが総量で、通常0.25〜6250重量部、好ましくは2.5〜5000重量部、更に好ましくは25〜1500重量部。
【0056】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)及び(B)成分に加えて、プラノプロフェン類及びクロルフェニラミン類からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に(C)成分と表記することもある)を含有してもよい。このように(C)成分を含むことによって、上記(B)成分により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大を、上記(A)成分の作用と相俟ってより一層効果的に抑制することができる。
【0057】
(C)成分の内、プラノプロフェン類としては、具体的には、プラノプロフェン及びその塩が挙げられる。
【0058】
プラノプロフェンは、α−メチル−5H−[1]ベンゾピラノ[2,3-b]ピリジン−7−酢酸とも称される公知化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0059】
プラノプロフェンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、無機塩基との塩[例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等]や、有機塩基との塩[例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等との塩]等が挙げられる。これらのプラノプロフェンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0060】
本発明では、プラノプロフェン類として、プラノプロフェン及びその塩の中から、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0061】
プラノプロフェン類の中でも、上記(B)成分により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大をより一層効果的に抑制するという観点から、好ましくはプラノプロフェンが挙げられる。
【0062】
(C)成分の内、クロルフェニラミン類としては、具体的には、クロルフェニラミン及びその塩が挙げられる。
【0063】
クロルフェニラミンは、3-(4-クロロフェニル)-N,N-ジメチル-3-ピリジン-2-イル-プロピルアミンとも称される公知の化合物である。
【0064】
クロルフェニラミンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、マレイン酸塩、フマル酸塩等の有機酸塩;塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩;金属塩等の各種の塩が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは有機酸塩、更に好ましくはマレイン酸塩(マレイン酸クロルフェニラミン)が挙げられる。これらのクロルフェニラミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0065】
また、クロルフェニラミン及びその塩は、水和物の形態であってもよく、更にd体、l体、dl体のいずれであってもよい。
【0066】
本発明では、クロルフェニラミン類として、クロルフェニラミン及びその塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0067】
クロルフェニラミン類の中でも、上記(B)成分により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大をより一層効果的に抑制するという観点から、好ましくはクロルフェニラミンの塩、更に好ましくはマレイン酸クロルフェニラミンが挙げられる。
【0068】
本発明において、上記(C)成分は、プラノプロフェン類及びクロルフェニラミン類の中から1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。好ましくは、(C)成分としてプラノプロフェン類が用いられる。
【0069】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、(C)成分の配合割合については、上記(A)及び(B)成分の種類、該(C)成分の種類、該眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、(C)成分が総量で0.0006〜0.5w/v%、好ましくは0.001〜0.2w/v%、更に好ましくは0.006〜0.1w/v%が例示される。より具体的には、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対する各(C)成分の配合割合として、以下の範囲が例示される。
(C)成分がプラノプロフェン類の場合:これらが総量で、通常0.005〜0.5w/v%、好ましくは0.01〜0.2w/v%、更に好ましくは0.025〜0.1w/v%;
(C)成分がクロルフェニラミン類の場合:これらが総量で、通常0.0006〜0.15w/v%、好ましくは0.001〜0.1w/v%、更に好ましくは0.006〜0.05w/v%。
【0070】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、上記(A)成分に対する上記(C)成分の比率については、特に制限されるものではないが、上記(B)成分により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大をより一層効果的に抑制するという観点から、上記(A)成分の総量100重量部当たり、上記(C)成分の総量が0.1〜10000重量部、好ましくは0.3〜2500重量部、より好ましくは0.5〜1000重量部、更に好ましくは3〜500重量部となる範囲が例示される。より具体的には、(A)成分の総量100重量部当たりの(C)成分の比率として、以下の範囲が例示される。
(C)成分がプラノプロフェン類の場合:これらが総量で、通常2.5〜2500重量部、好ましくは5〜1000重量部、更に好ましくは12.5〜500重量部;
(C)成分がクロルフェニラミン類の場合:これらが総量で、通常0.3〜750重量部、好ましくは0.5〜500重量部、更に好ましくは3〜250重量部。
【0071】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、(A)及び(B)成分以外に、更に緩衝剤を含有していてもよい。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤であり、より好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、及びリン酸緩衝剤であり、特に好ましい緩衝剤はホウ酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸、又はホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの中でも、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を一層高める、又は非イオン性SHCLへの上記(A)成分の透過性を一層高める、或いは上記(B)成分により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大をより一層有効に抑制するという観点から、ホウ酸緩衝剤、特にホウ酸とホウ砂の組合せが好ましい。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0072】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に緩衝剤を配合する場合、緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%、更に好ましくは0.5〜2w/v%となる割合が例示される。
【0073】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、更に等張化剤を含有していてもよい。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。これらの等張化剤の中でも、グリセリン、プロピレングリコールが好ましい。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0074】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に等張化剤を配合する場合、等張化剤の配合割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜3w/v%となる割合が例示される。
【0075】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物のpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは5.0〜9.0、更に好ましくは5.5〜8.5となる範囲が挙げられる。
【0076】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.5〜5.0、更に好ましくは0.6〜3.0、特に好ましくは0.7〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧)に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0077】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、ジフェンヒドラミン、フマル酸ケトチフェン等。
充血除去剤:例えば、テトラヒドロゾリン、ナファゾリン、エピネフリン、エフェドリン、メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、セチルピリジニウム、ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニド等。
ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、パンテノール、パントテン酸カルシウム、酢酸トコフェロール等。
アミノ酸類:例えば、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。
消炎剤:例えば、アラントイン、アズレン、アズレンスルホン酸、グアイアズレン、ε−アミノカプロン酸、ベルベリン、リゾチーム、甘草等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、クロモグリク酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、及びこれらの塩等。
【0078】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等。
糖類:例えば、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
キレート剤:例えば、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等。
【0079】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、所望量の上記(A)及び(B)成分、及び必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加することにより調製される。
【0080】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、その剤型については、眼科分野で使用可能である限り特に制限されないが、例えば、液状、軟膏状等が挙げられる。これらの中でも、液状が好ましい。また液状の中でも水性液状が好ましい。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物を水性液状にする場合、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される水を水性担体として使用すればよく、このような水として、具体的には、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等が例示される。これらの定義は第一五改正日本薬局方に基づく。ここで、水性液状とは、水を含有する液状の形態を意味し、通常は、非イオン性SHCL用眼科組成物中に水を1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上を含有するものを意味する。
【0081】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCL装用中に点眼可能な点眼剤(非イオン性SHCL用点眼剤)、非イオン性SHCL装用中に洗眼可能な洗眼剤(非イオン性SHCL用洗眼剤)、非イオン性SHCL装着液、非イオン性SHCLケア用剤(非イオン性SHCL消毒剤、非イオン性SHCL用保存剤、非イオン性SHCL用洗浄剤、非イオン性SHCL用洗浄保存剤等が含まれる)等として使用される。なお、非イオン性SHCL用点眼剤である場合、非イオン性SHCLを装着した眼にそのまま直接点してもよく、また非イオン性SHCLを装着する前に眼に点してもよい。
【0082】
これらの中でも、非イオン性SHCL用点眼剤又は非イオン性SHCL装着液、特に非イオン性SHCL用点眼剤は、眼球表面に非イオン性SHCLが接触している際に又は接触する直前(例えば、接触させることとなる装着行為の約10分前までに)に使用されるものであり、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制作用が強く求められる製剤形態である。また点眼剤は、他の眼科組成物に比べて一般に1日当たりの使用頻度が高いため、本発明の角膜上皮細胞接着抑制効果をより効果的に得ることができるという点で好ましい。さらに、点眼剤の場合、その配合成分により生じる非イオン性SHCL表面の摩擦増大とそれに伴う装用感の悪化は、患者のコンプライアンス(投薬遵守)を大きく害することとなりかねない。従って、点眼剤の場合は、適正な投薬指示を遵守させるために、そのような装用感悪化を生じさせる要因を可能な限り排除することが求められる製剤形態といえる。以上のような観点に鑑みれば、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態として点眼剤又は装着液、特に点眼剤は好適である。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)成分の非イオン性SHCLへの透過性が顕著に高められている。かかる本発明の効果に鑑みれば、好適な製剤形態として、非イオン性SHCL用点眼剤が挙げられる。
【0083】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、適用対象となる非イオン性SHCLの種類については特に制限されず、現在市販されている、或いは将来市販される全ての非イオン性SHCLを適用対象にできる。なお、ここで非イオン性とは、当業者が通常理解するように、米国FDA(米国食品医薬品局)基準に則り、コンタクトレンズ素材中のイオン性成分含有率が1mol%未満であることをいう。また、適用対象となる非イオン性SHCLの含水率についても特に制限されず、例えば、90%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下が挙げられる。なお、SHCLはハイドロゲル素材を含むものであるため、少なくとも0%より多い水分を含む。また、角膜上皮細胞の接着に関しては、含水率が35%以下の非イオン性SHCLは特に角膜上皮細胞に対する接着性が強い傾向がある。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、このように角膜上皮細胞に対する接着性が強い非イオン性SHCLに対しても、角膜上皮細胞の接着抑制効果を有効に奏することができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物の好適な適用対象の一例として、含水率が35%以下の非イオン性SHCLが挙げられる。
【0084】
ここでSHCLの含水率とは、SHCL中の水の割合を示し、具体的には以下の計算式により求められる。
【0085】
含水率(%)=(含水した水の重量/含水状態のSHCLの重量)×100
かかる含水率はISO18369-4:2006の記載に従って、重量測定方法により測定され得る。
【0086】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)成分に基づいて抗アレルギー作用をも発揮できるので、アレルギー症状の緩和剤としても有用である。とりわけ、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)成分のレンズ透過量が増大され角結膜への到達量が増加するため、非イオン性SHCLを装用したままでも十分な薬効を得ることが可能となる。
【0087】
また、従来、ポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のハードコンタクトレンズの装着によって、角膜へのレンズの固着等に起因して角膜上皮障害(3時−9時ステイニング)が惹起され易いことが知られている。また、SCLの装用でも、目が乾く症状等を有する者(例えば、ドライアイ患者)ではレンズにより角膜が損傷され易く、角膜ステイニングが生じ易い傾向があることが知られている。一方、非イオン性SHCLは、角膜上皮細胞と著しく接着する特性があり、更にはシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの固有の性質として通常の非シリコーンSCLよりも一般に固いため、角膜上皮に物理的損傷を与え易い傾向がある。このような非イオン性SHCLの特性を鑑みれば、非イオン性SHCLの装用によっても上述のような角膜上皮障害を生じさせ易いことが明らかである。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着を効果的に抑制できるので、非イオン性SHCLの装用によって引き起こされる角膜上皮障害を予防することができる。従って、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLの装用により生じる角膜上皮障害の予防剤として用いられることができ、とりわけ、目が乾く症状を有する者用(例えば、ドライアイ患者用)として好適に用いられる。
【0088】
また、角膜上皮細胞はアレルゲン等に対するバリアー機能も有しているので、上述のような非イオン性SHCL装用により引き起こされる角膜上皮障害は、そのバリアー機能を低下させ、目のアレルギー症状等を発症させ易くする畏れがある。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を抑制することによって、角膜上皮細胞を正常な状態に保持し、角膜上皮細胞のバリアー機能を維持させることが可能である。従って、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLを使用する者が、アレルギー症状を始めとする種々の眼病に対して抵抗力を高めて予防するための眼病予防剤(例えば、アレルギー症状の予防剤)として好適に用いられる。
【0089】
更に、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCL表面の摩擦を軽減させることができるので、非イオン性SHCLの摩擦低減用として用いることができる。また、眼球の上皮細胞はアレルゲンに対するバリアー機能も有しているので、非イオン性SHCL表面の摩擦により生じ得る細胞剥離等により引き起こされる上皮障害は、そのバリアー機能を低下させ、目のアレルギー疾患等を発症あるいは悪化させ易くする畏れがある。従って、かかる観点からも、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLを使用する者が、アレルギー疾患を始めとする種々の眼病に対して抵抗力を高めて予防するための眼病予防剤(例えば、アレルギー疾患の予防剤)として用いることができる。
【0090】
2.非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用の付与方法、及び非イオン性SHCL用眼科組成物の製造のための使用
前述するように、ペミロラスト類及び界面活性剤類を併用することによって、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制することができる。
【0091】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤類とを含有する非イオン性SHCL用眼科組成物と、非イオン性SHCLとを接触させることを特徴とする、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制する方法を提供する。更には、非イオン性SHCL用眼科組成物に、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤類とを配合することを特徴とする、非イオン性SHCL用眼科組成物に非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を付与する方法を提供する。
【0092】
また本発明は、更に別の観点から、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びに(B)界面活性剤類の、非イオン性SHCL用眼科組成物の製造のための使用を提供する。また本発明は、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びに(B)界面活性剤類の、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制するための非イオン性SHCL用眼科組成物の製造のための使用を提供する。
【0093】
これらの方法及び使用において、ペミロラスト類及び界面活性剤類の種類や配合割合、その他の配合成分の種類や配合割合、非イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0094】
3.非イオン性SHCLへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性の向上方法、並びに非イオン性SHCLへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させる作用の付与方法
前述するように、非イオン性SHCLへのペミロラスト類の透過性を界面活性剤類によって向上させることができる。
【0095】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)界面活性剤類とを併用することを特徴とする、非イオン性SHCLへの該(A)成分の透過性を向上させる方法を提供する。また、本発明は、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する非イオン性SHCL用眼科組成物に、(B)界面活性剤類を配合することを特徴とする、非イオン性SHCLへの該(A)成分の透過性を向上させる作用を該眼科組成物に付与する方法をも提供する。
【0096】
当該方法において、ペミロラスト類及び界面活性剤類の種類や配合割合、その他の配合成分の種類や配合割合、非イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0097】
4.非イオン性SHCLへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させるための剤
前述するように、非イオン性SHCLへのペミロラスト類の透過性を界面活性剤類によって向上させることができる。
【0098】
従って、本発明は、更に別の観点から、(B)界面活性剤類を有効成分として含有する、非イオン性SHCLへの(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の透過性を向上させるための剤を提供する。
【0099】
該剤において、有効成分である(B)成分の種類、適用対象となる非イオン性SHCL、非イオン性SHCLへの透過性の対象となる(A)成分の種類、これらの配合割合等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0100】
5.非イオン性SHCLの摩擦低減方法;及び非イオン性SHCLの摩擦を低減する作用を眼科組成物に付与する方法
前述するように、上記(A)成分と上記(B)成分とを併用することによって、該(B)成分との接触により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大を低減することができる。
【0101】
従って、本発明は、更に別の観点から、(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種と、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを併用することを特徴とする、前記(B)成分を接触させることにより増大される非イオン性SHCLの摩擦を低減させる方法を提供する。
【0102】
また本発明は、(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する非イオン性SHCL用眼科組成物に、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、前記(B)成分を接触させることにより増大される非イオン性SHCLの摩擦を低減する作用を該眼科組成物に付与する方法をも提供する。
【0103】
当該方法において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、その他の配合成分の種類や配合割合、非イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0104】
6.非イオン性SHCLの摩擦を低減させるための剤
前述するように、上記(B)成分を接触させることにより引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大を、上記(A)成分により抑制することができる。
【0105】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種を接触させることにより増大される非イオン性SHCLの摩擦を低減させるための剤を提供する。
【0106】
該剤において、有効成分である(A)成分の種類、適用対象となる非イオン性SHCL、非イオン性SHCLの摩擦増大を引き起こす(B)成分の種類、これらの配合割合等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0107】
7.非イオン性SHCLに対するペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させる物質のスクリーニング方法
また、前述するように、本発明者等によって、上記(A)成分が非イオン性SHCLへの透過性が著しく低いという新たな知見が得られている。そこで、更に、本発明は、非イオン性SHCLに対するペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のペミロラスト類の透過性を向上させる透過性向上物質をスクリーニングする方法をも提供する。具体的には、本スクリーニング方法は、下記(a)〜(c)工程を包含する方法である。
(a)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のペミロラスト類を含むコントロール溶液、並びにペミロラスト類と被験物質とを含む被験溶液を、試験溶液として各々調製する工程、
(b)上記試験溶液を各々、非イオン性SHCLの片側面のみに所定時間接触させ、該非イオン性SHCLの上記試験溶液を接触させていない他方の片側面から滲出したペミロラスト類の量を測定することにより、各試験溶液のペミロラスト類の透過量を求める工程、並びに
(c)上記工程(b)において測定されたペミロラスト類の透過量が、コントロール溶液よりも多い被験溶液を選び、該被験溶液に含まれる被験物質を上記透過性向上物質として選択する工程。
【0108】
本スクリーニング方法において、被験物質とは、スクリーニングに供される上記透過性向上物質の候補物質である。また、候補物質は、非イオン性SHCL用眼科組成物に配合できるように、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであることが望ましい。
【0109】
上記(a)工程において、被験溶液は、水や緩衝液等の水性担体にペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のペミロラスト類を例えば0.05〜0.5w/v%となるように添加し、更に被験物質を適当量添加することにより調製される。ここで、被験物質は段階的に希釈しておき、複数の濃度の被験物質を含む被験溶液を調製しておくことが望ましい。また、ペミロラスト類を含有するコントロール溶液は、被験物質を添加しないこと以外は、被験溶液と同組成とすることが望ましい。斯くして調製した被験溶液及びコントロール溶液を試験溶液として用いて、次の(b)工程に供する。
【0110】
上記(b)工程は、溶液を収容可能な2つの区画(セル)を有し且つこれらの2つの区画は非イオン性SHCLを介して隔てられている装置等を用いて実施することができる。このような装置としては、例えばビードレックス社製の膜透過実験装置が使用できる。具体的には、上記装置の一方の区画に上記試験溶液(コントロール溶液又は被験溶液)を充填し、更に他方の区画には何も充填しないか、或いは好ましくはペミロラスト類を含まない溶液(以下、ブランク溶液と表記する)等を充填して、所定時間(例えば4〜48時間程度)経過後に、非イオン性SHCLを介して上記他方の区画(ブランク溶液を充填した場合には、該ブランク溶液)側に移行したペミロラスト類の量を定量する。斯くして定量されるペミロラスト類の量が、上記(b)工程で求められるペミロラスト類の透過量である。なお、上記ブランク溶液は、充填される試験溶液(コントロール溶液又は被験溶液)と浸透圧が同等であることが望ましい。
【0111】
また、上記透過性向上物質の選択に関する工程(c)において、非イオン性SHCLへのペミロラスト類の透過性を向上させる作用が強い透過性向上物質を選択するには、(b)工程において求められたペミロラスト類の透過量がコントロール溶液よりも多い被験溶液を選べばよい。
【0112】
本スクリーニング方法により得られる透過性向上物質は、非イオン性SHCLへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させることを目的として、ペミロラスト及び/又はその塩を含む非イオン性SHCL用眼科組成物に配合することができる。
【実施例】
【0113】
以下に、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0114】
参考試験例1:各種SCLの角膜上皮細胞の接着性評価
表1に示す5種類のソフトコンタクトレンズを用いて以下の実験を実施し、ソフトコンタクトレンズ表面の角膜上皮細胞接着性を評価した。なお、本試験に使用したソフトコンタクトレンズは、いずれも市販品である。
【0115】
【表1】
【0116】
具体的に以下の方法により評価した。増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)を900μLづつ入れた24ウェルマイクロプレートに、各ソフトコンタクトレンズをそれぞれ凸面が上になるように一枚づつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cells/ml)を100μLづつ播種し、37℃、5%CO2条件下で48時間培養後、ソフトコンタクトレンズに接着した生存細胞数を計測した。なお、コントロールとして、いずれのレンズも浸漬させず、マイクロプレートの底面で細胞を培養し、ウェル中の生細胞数を計測した(コントロール群)。なお、生存細胞数の測定にはCell Counting Kit((株)同仁化学研究所)を用いた。コントロール群のウェル中に含まれる生存細胞の総数に対して、各ソフトコンタクトレンズ表面に接着している生存細胞数の割合(コントロール群に対する生存細胞数の割合;%)をそれぞれ算出した。
【0117】
得られた結果を図1に示す。図1から明らかなように、非イオン性SHCLであるレンズA及びBは、イオン性のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズCや非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズD又はEと比較して、顕著な角膜上皮細胞接着性があることが確認された。また、細胞のソフトコンタクトレンズへの接着状況を顕微鏡で観察したところ、レンズC、D及びEには細胞接着が殆ど確認できなかったものの、レンズA及びBの表面には一面に角膜上皮細胞が接着していることが確認された。以上の結果より、非イオン性SHCLは、角膜上皮細胞の接着性が他の種類のレンズと比較して顕著に高いことが確認され、非イオン性SHCLの装用は角膜表面に損傷等の悪影響を与え得ることが明らかとなった。
【0118】
試験例1:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験:
表2に示す試験液を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を評価した。
【0119】
【表2】
【0120】
表1に示すレンズA(非イオン性SHCL)を、表2に示す各試験液(実施例1及び比較例1−2)3mlに一枚づつ浸漬し、34℃条件下で24時間静置した。各試験液から取り出したレンズAを生理食塩水で軽く洗浄後、水分を拭い去り、増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)が900μL入った24ウェルプレートに凸面が上になるように一枚づつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cells/ml)を100μLづつ播種し、37℃、5%CO2条件下で48時間培養した後、レンズに接着した生存細胞数を計測した(サンプル群)。また、コントロールとして、表2に示すコントロール試験液で同様の操作を行ったレンズAを用いて、上記と同条件でウサギ角膜上皮細胞株の細胞懸濁液を播種して培養を行い、レンズAに接着した生存細胞数を計測した(コントロール群)。更に、ブランクとして、ウサギ角膜上皮細胞を播種せずに増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)1000μLのみを添加したウェルを作製し、37℃、5%CO2条件下で48時間静置した(ブランク群)。なお、生存細胞数の計測には、Cell Counting Kit((株)同仁化学研究所)を用い、下式に従って細胞接着抑制率(%)を算出した。
【0121】
【数1】
【0122】
得られた結果を図2に示す。図2から明らかなように、ペミロラストカリウムを単独で用いた場合には、細胞接着を抑制しないばかりか、反って細胞を接着させ易くなる傾向があることが確認された(比較例1)。また、界面活性剤のポリソルベート80自体にも細胞接着抑制効果が殆ど無いことが明らかとなった(比較例2)。一方、全く予想外なことに、ペミロラストカリウムとポリソルベート80を組み合わせて用いた場合には、非イオン性SHCLに対する細胞接着抑制率が相乗的に著しく高められることが明らかとなった(実施例1)。
【0123】
参考試験例2:ペミロラストのSCL透過性の比較評価:
表3に示す3種類のソフトコンタクトレンズを用いて、ペミロラストのレンズ透過性について評価を行った。なお、本試験に使用したソフトコンタクトレンズも全て市販品である。
【0124】
【表3】
【0125】
ペミロラストのSCL透過性評価の測定は、膜透過実験装置(ビードレックス社製)を用いて以下の方法に従い実施した。表3に示す各ソフトコンタクトレンズを膜透過実験装置にセットし、一方のセルIには生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を5ml、他方のセルIIには0.1w/v%ペミロラストカリウム含有溶液(ホウ酸0.5w/v%、ホウ砂 適量、グリセリン2.0w/v%;pH8.0)を5ml充填した。試験開始から24時間後に、生理食塩水側の液を1ml採取し、常法に従いHPLC法にてペミロラストの濃度を測定し、セルIに移行したペミロラストの量を算出した。
【0126】
結果を図3に示す。図3から明らかなように、非イオン性SHCLであるレンズ3では、ハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズ1や2と比較して、著しくペミロラストのレンズ透過性が悪いことが判明した。
【0127】
試験例2:ペミロラストのレンズ透過試験1:
表4に示す試験液(比較例3及び実施例2−3)を用いて、ペミロラストのSHCL透過性について評価した。
【0128】
【表4】
【0129】
ペミロラストの非イオン性SHCL透過性評価の測定は、膜透過実験装置(ビードレックス社製)を用いて以下の方法に従い実施した。表3に示すレンズ3(非イオン性SHCL)を膜透過実験装置にセットし、一方のセルIには生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を5mL、他方のセルIIには表4に示す各試験液(比較例3及び実施例2−3)を5mL正確に充填した。尚、各試験液の浸透圧はほぼ同じとなるように揃えた。次いで、24時間後に生理食塩水側の液を1mL採取し、常法に従いHPLC法によりペミロラストの濃度を定量した。定量した結果から、ペミロラストのレンズ透過量を求め、比較例3の透過量を100%とした場合の各実施例の透過量をペミロラスト透過率(%)として算出した。
【0130】
結果を図4に示す。図4から明らかなように、実施例2及び3の試験液ではペミロラストのレンズ透過率が比較例3の試験液と比較して著しく増加することが判明した。即ち、ペミロラストと界面活性剤(ポリソルベート80又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)を併用することによって、非イオン性SHCLへのペミロラストの透過性が著しく向上し、非イオン性SHCL装用中に点眼しても本来のペミロラスト配合量から想定される程度により近い薬効が得られる非イオン性SHCL用眼科組成物を提供可能になることができることが明らかとなった。
【0131】
参考試験例3:ペミロラストのレンズ透過試験2:
表3に示すレンズ1(非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)を用いて、上記試験例2と同様の実験を行い、ペミロラストのレンズ透過性について評価を行った。試験液としては、上記表4に示す試験液(比較例3及び実施例2−3)を用いて実験を行った。
【0132】
この結果を図5に示す。図5より明らかなように、従来のハイドロゲルレンズの場合には、界面活性剤を併用することにより透過性向上効果が全く認められないか、反って透過性が悪化する場合もあることが明らかとなった。
【0133】
以上の結果より、ペミロラストと界面活性剤との併用により認められるペミロラストのレンズ透過性の向上効果は、対象レンズを非イオン性SHCLとした場合に特異的に認められる効果であることが明らかとなった。
【0134】
参考試験例4:非イオン性SHCL表面の摩擦の評価:
非イオン性SHCL表面の物性を測定するために、粘着性、粘弾性、乾燥性等の様々な表面物性変化を摩擦の増減の面から評価することが知られている剛体振り子物性試験器RPT−3000W((株)エー・アンド・デイ製)を用いて、各非イオン性SHCL表面の摩擦力の評価を行った。試験に使用した非イオン性SHCLは表5に示す2種の非イオン性SHCLであり、いずれも市販品である。
【0135】
【表5】
【0136】
これらの非イオン性SHCLを生理食塩水中に一晩浸漬させたものを試験サンプルとして用いた。測定条件は、温度25℃、相対湿度60%条件の下、振り子重量200g、センサー径4mmの条件で測定を実施し、測定開始から5分後の対数減衰率を以って、各非イオン性SHCL表面の摩擦の評価を行った。
【0137】
この結果を図6に示す。ここで測定される対数減衰率はレンズ表面の摩擦の大小を示し、対数減衰率が高いほど摩擦が大きいことを示す。図6に示されるように、非イオン性SHCLは対数減衰率が高く、摩擦が非常に大きいことが認められた。
【0138】
試験例3:非イオン性SHCL表面の摩擦に対する低減効果の評価(1):
非イオン性SHCLとして上記参考試験例4で使用したレンズIを用い、レンズ表面の摩擦低減効果について以下の方法により評価を行った。
【0139】
先ず、表6に示される各試験液(比較例4−7及び実施例4−5)を調製した。非イオン性SHCL(レンズI)の表面を生理食塩水で十分にすすいだ後、10mlの各試験液中に1枚づつ浸漬させ、7日間静置した。その後、レンズ表面の水分を軽くふき取り、温度25℃、相対湿度60%条件の下、振り子重量200g、センサー径4mmの条件で、対数減衰率を10秒毎に計3分間測定した。
【0140】
【表6】
【0141】
この結果を図7に示す。図7に示されるように、コントロール(比較例4)と比較して、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)の配合により対数減衰率は上昇し、摩擦の増大が認められた(比較例6,7)。一方、非イオン性界面活性剤と共にペミロラストカリウムを配合した実施例4及び5の試験液では、対数減衰率が減少し、コントロールと同程度まで摩擦を低減することができた。これは、ペミロラストカリウムを単独で用いた場合には、非イオン性SHCLに対する摩擦低減効果が殆ど認められなかったことを考慮すると(比較例5)、全く予想外の結果であった。
【0142】
試験例4:非イオン性SHCL表面の摩擦に対する低減効果の評価(2):
下記表7に示す各試験液(比較例8−9及び実施例6−7)について、試験液での浸漬時間を7日間から18時間に変更した以外は上記試験例3と同様の方法で、非イオン性SHCLに対する摩擦低減効果を評価した。
【0143】
【表7】
【0144】
この結果を、図8及び9に示す。図8(比較例8と実施例6の比較)に示されるように、ペミロラストカリウム及びポリソルベート80の配合割合や比率を変動させた場合にも、上記試験例3と同様の結果が認められた。また、図9(比較例9と実施例7の比較)に示されるように、ビタミンB6類(塩酸ピリドキシン)も界面活性剤類と同様に非イオン性SHCL表面の摩擦を増大させるものの、ペミロラストカリウムとの併用によりその増大を効果的に抑制できることが認められた。
【0145】
試験例5:非イオン性SHCL表面の摩擦に対する低減効果の評価(3):
下記表8に示す各試験液(比較例10−11及び実施例8−9)について、試験液量を10mlから6mlに変更した以外は上記試験例4と同様の方法で、非イオン性SHCLに対する摩擦低減効果を評価した。
【0146】
【表8】
【0147】
この結果を図10に示す。図10に示されるように、グリチルリチン酸二カリウム及びメントールも、界面活性剤類やビタミンB6類と同様に非イオン性SHCL表面の摩擦を増大させたが、これらとペミロラストカリウムを併用することによりそれらの摩擦増大を抑制できることが明らかとなった。中でも、メントールを用いた場合により高い摩擦増大が認められたが、ペミロラストカリウムとの併用によって、メントールにより生じる非イオン性SHCLの摩擦増大を効果的に抑制できていた。
【0148】
試験例6:非イオン性SHCL表面の摩擦に対する低減効果の評価(4):
下記表9に示す各試験液(実施例10−12)について、上記試験例4と同様の方法で、非イオン性SHCLに対する摩擦低減効果を評価した。
【0149】
【表9】
【0150】
結果を図11に示す。図11に示されるように、ポリソルベート80及びペミロラストカリウムに、マレイン酸クロルフェニラミン又はプラノプロフェンを組み合わせることにより、非イオン性SHCL表面に対する摩擦低減効果がより一層高まることが認められた。
製剤例
表10に記載の処方で、非イオン性SHCL用点眼剤(実施例13−20)が調製される。
【0151】
【表10】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面への角膜細胞の接着を抑制することができる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に関する。また、本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面への角膜細胞の接着を抑制する方法に関する。更に本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させる方法、並びに非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させる透過性向上物質をスクリーニングする方法に関する。
【0002】
更に、本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面に対する摩擦増大作用が低減された非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に関する。また、本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面の摩擦を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、コンタクトレンズ(CL)の装用者が増えており、中でもソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用者が増えている。一般的に、ソフトコンタクトレンズを装用した場合には、大気からの酸素供給量が低下し、その結果として角膜上皮細胞の分裂抑制や角膜肥厚につながる場合があることが指摘されている。そのため、より高い酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズの開発が進められてきた。
【0004】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、そのような背景の下、高酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズとして近年開発されてきたものである。シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、ハイドロゲルにシリコーンを配合することにより、従来のハイドロゲルコンタクトレンズの数倍の酸素透過性を実現する。従って、ソフトコンタクトレンズの弱点である酸素供給不足を改善することができ、酸素不足に伴う角膜に対する悪影響を大幅に抑制できるものとして、大きく期待されている。
【0005】
一般に、ソフトコンタクトレンズに適用される眼科用組成物については、安全性等の影響を十分に考慮して設計することが不可欠である。特に、ソフトコンタクトレンズは、素材によってイオン性の有無や含水率の高低等が種々異なるため、適用されるソフトコンタクトレンズの性質に応じて製剤設計を行うことが肝要である。
【0006】
また、SCLは一般にハードコンタクトレンズに比べて大きく、その装用中には、角膜表面はほぼ全面的に覆われ、角膜周辺の結膜の一部までをも被覆する状態となる。そしてSCL装用中には、SCLと眼表面の間から涙液の流入及び流出(即ち、ポンプ作用による涙液交換)は殆ど行われず、SCL下の涙液交換はSCLを介した涙液の透過に依存していることが分かっている(非特許文献1−2参照)。このようにSCL下の涙液交換の殆どはSCLを介した涙液の透過により行われるため、SCL装用者の眼に対して適用される点眼剤の場合、その点眼剤の薬効を十分に発揮させるためには、薬理成分のSCLへの透過性を高めておくことが求められる。
【0007】
更に、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの表面には、通常のハイドロゲルコンタクトレンズの表面には見られない顕著な凹凸が存在することが近年報告されている(非特許文献3)。このような顕著な凹凸は、滑らかな表面を有するものに比べて生体由来物質や汚れ等を付着させ易いだけでなく、摩擦の増大を生じさせることも予想され、とりわけ過敏な眼組織では、装用中に異物感や乾燥感などの不快感を引き起こすことも十分に考えられる。
【0008】
一方、ペミロラスト及びその塩は、抗アレルギー作用の付与を目的として点眼剤などの局所適用組成物や粘膜適用組成物等に使用されている(特許文献1参照)。しかしこれまで、ペミロラスト及び/又はその塩とシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが相互に及ぼす影響等については全く報告されていない。ましてや、従来技術からは、ペミロラスト及び/又はその塩と界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及び/又はグリチルリチン酸類とを組み合わせてシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに適用した場合の影響や、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用者の眼組織に及ぼす影響については、推認すらできないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−55224号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本コンタクトレンズ学会誌、第39巻、111〜115、1997
【非特許文献2】日本コンタクトレンズ学会誌、第44巻、34-37、2002
【非特許文献3】針谷明美等、第51回日本コンタクトレンズ学会総会プログラム講演抄録集、110頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者等は、各種SCLについて種々の検討を行っていたところ、全く予想していなかったことに、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、非イオン性SHCLと略記する)のレンズ表面は、角膜上皮細胞の接着性が著しく高いという全く新しい知見を得た。このような角膜上皮細胞の接着性が高いコンタクトレンズは、コンタクトレンズの装用中にレンズに角膜細胞が接着して角膜上でレンズが動く度に、又はレンズを外す際等に、眼組織から該細胞を剥離させて、角膜表面の損傷やそれに伴う痛みを発生させる恐れがあり、ひいてはコンタクトレンズ使用者のQOL(Quality of Life)を著しく低下させることにもなる。更に、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、他のソフトコンタクトレンズに比して比較的長期に亘って連続装用される場合が多いことを考慮すると、長期間の連続装用によって生じる角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着は、重大な眼疾患又は眼粘膜症状を引き起こす一因にもなりかねない。そこで、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着を抑制できる非イオン性SHCL用眼科組成物の開発が求められている。
【0012】
また、本発明者等は、非イオン性SHCLに、界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及び/又はグリチルリチン酸類を接触させるとレンズ表面の摩擦が増大されてしまうという全く新しい知見を得た。このような大きな摩擦は非イオン性SHCL装用時に不快感(異物感や乾燥感など)や目の疲れ等を引き起こす原因となり得るだけでなく、眼瞼の裏側の粘膜と非イオン性SHCL表面とが擦れあう際に、又は眼球表面上で非イオン性SHCLが動くたびに、角結膜に上皮障害を引き起こす惧れもある。そこで、界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及び/又はグリチルリチン酸類を接触させた際に生じる非イオン性SHCL表面の摩擦の増大を低減できる非イオン性SHCL用眼科組成物の開発も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ペミロラスト及び/又はその塩を単独、或いは界面活性剤類を単独で用いた場合には、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を殆ど抑制できないばかりか、反って細胞接着を誘発する場合もあるものの、ペミロラスト及び/又はその塩と界面活性剤類とを組み合わせて使用した場合には、全く予想外なことに、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を著しく抑制できることを見出した。
【0014】
また、本発明者等は検討を更に進めた結果、ペミロラスト及び/又はその塩と界面活性剤類とを組み合わせて用いると、ペミロラスト及び/又はその塩の非イオン性SHCLに対する透過量を著しく増加できることをも見出した。
【0015】
更に、本発明者等は、界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及び/又はグリチルリチン酸類と接触させた際に生じる非イオン性SHCL表面の摩擦の増大を、これらの成分と共にペミロラスト及び/又はその塩を用いることにより抑制できることを見出した。また、かかる摩擦増大抑制効果は、更にプラノプロフェン類及びクロルフェニラミン類を併用することによって、より一層高めることが可能になることをも見出した。
【0016】
本発明は、かかる知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0017】
即ち、本発明は、下記に掲げる非イオン性SHCL用眼科組成物を提供する。
項1-1.(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-2.更に、(C)プラノプロフェン類及びクロルフェニラミン類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、項1-1に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-3.界面活性剤類として、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1又は1-2に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-4.界面活性剤類として、非イオン性界面活性剤を含む、項1-1〜1-3のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-5.界面活性剤類として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、項1-1〜1-4のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-6.ビタミンB6類として、ピリドキシン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1〜1-5のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-7.テルペノイド類として、メントール及びカンフルからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1〜1-6のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-8.グリチルリチン酸類として、グリチルリチン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1〜1-7のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-9.(B)成分として、非イオン性界面活性剤、塩酸ピリドキシン、メントール、及びグリチルリチン酸二カリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1〜1-8のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-10.(A)成分として、ペミロラストカリウムを含む、項1-1〜1-9のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-11.プラノプロフェン類として、プラノプロフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-2〜1-10のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-12.クロルフェニラミン類として、クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-2〜1-11のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-13.(C)成分として、プラノプロフェン及びマレイン酸クロルフェニラミンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-2〜1-12のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-14.(A)成分の配合割合が、0.005〜1.0w/v%である、項1-1〜1-13
のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-15.(B)成分の配合割合が、0.00001〜10w/v%である、項1-1〜1-14
のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-16.(C)成分の配合割合が、0.0006〜0.5w/v%である、項1-2〜1-15のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-17.(A)成分の総量100重量部当たり、(B)成分を総量で0.001〜200000重量部の比率で含有する、項1-1〜1-16のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-18.(A)成分の総量100重量部当たり、(C)成分を総量0.1〜10000重量部の比率で含有する、項1-2〜1-17のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-19.更に、緩衝剤を含有する、項1-1〜1-18のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-20.緩衝剤として、ホウ酸緩衝剤を含む、項1-19に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-21.更に、等張化剤を含有する、項1-1〜1-20のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-22.等張化剤として、グリセリン又はプロピレングリコールを含む、項1-21に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-23.点眼剤である、項1-1〜1-22のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【0018】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法を提供する。
項2.(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤類とを含有する非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物と、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとを接触させることを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着を抑制する方法。
【0019】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項3.非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤類とを配合することを特徴とする、眼科組成物に非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を付与する方法。
【0020】
また、本発明は、下記に掲げる使用を提供する。
項4-1.(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びに(B)界面活性剤類の、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物の製造のための使用。
項4-2.(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種 並びに(B)界面活性剤類の、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制するための非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物の製造のための使用。
【0021】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するペミロラスト及び/又はその塩の透過性向上方法を提供する。
項5. (A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)界面活性剤類とを併用することを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの該(A)成分の透過性の向上方法。
【0022】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するペミロラスト及び/又はその塩の透過性向上作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項6.(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、 (B)界面活性剤類を配合することを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの該(A)成分の透過性を向上させる作用を該眼科組成物に付与する方法。
【0023】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させるための剤を提供する。
項7.(B)界面活性剤類を有効成分として含有する、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の透過性を向上させるための剤。
【0024】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する方法を提供する。
項8.(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種と、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを併用することを特徴とする、前記(B)成分を接触させることにより増大される非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させる方法。
【0025】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦低減作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項9.(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、前記(B)成分を接触させることにより増大される非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する作用を該眼科組成物に付与する方法。
【0026】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させるための剤を提供する。
項10.(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種を接触させることにより増大される非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させるための剤。
【0027】
そして更に、本発明は、下記に掲げる透過性向上物質のスクリーニング方法を提供する。
項11. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のペミロラスト類の透過性を向上させる透過性向上物質のスクリーニング方法であって、
(a)ペミロラスト類を含むコントロール溶液、並びにペミロラスト類と被験物質とを含む被験溶液を、試験溶液として各々調製する工程、
(b)上記試験溶液を各々、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの片側面のみに所定時間接触させ、該レンズの上記試験溶液を接触させていない他方の片側面から滲出したペミロラスト類の量を測定することにより、各試験溶液のペミロラスト類の透過量を求める工程、並びに
(c)上記工程(b)において測定されたペミロラスト類の透過量が、コントロール溶液よりも多い被験溶液を選び、該被験溶液に含まれる被験物質を上記透過性向上物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、非イオン性SHCLに対して角膜上皮細胞が接着するのを効果的に抑制できるので、非イオン性SHCLの使用による角膜表面の損傷やそれに伴う痛みを改善することできる。また、SCL装用時には角膜は障害が起きても自覚し難いことが知られているため、非イオン性SHCLの長期間の連続装用を繰り返すと、重症になるまで放置してしまうことがある。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、このような悪影響についても改善でき、高い安全性をもって非イオン性SHCLを長期間連続装用することをも可能になる。
【0029】
また、SCLは非常にレンズサイズが大きく、その装用中には角膜はおろか結膜の一部も覆われる状態となるため、SCL装用者の眼に対して適用される眼科組成物(点眼剤)がその薬効を十分に発揮させるためには、その薬理成分のSCLへの透過性を高めておくことが望まれる。これに対して、後記する参考試験例2に示すように、本発明者等の検討によって、非イオン性SHCLでは、他のSCLと比較してペミロラスト及び/又はその塩のレンズ透過量が著しく少ないことが明らかにされている。そのため、非イオン性SHCL装用中の眼に対して、ペミロラスト及び/又はその塩を含有する従来の点眼剤を適用しても、所期の効果が得られない惧れがある。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、非イオン性SHCLへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性を顕著に向上させることができるので、非イオン性SHCL装用中に点眼しても、非イオン性SHCL下の角結膜へのペミロラスト及び/又はその塩の到達量を増加させ、ひいては抗アレルギー作用を有効に発揮させることが可能になる。
【0030】
更に、本発明によれば、界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及び/又はグリチルリチン酸類と共に、ペミロラスト及び/又はその塩を用いることによって、上記界面活性剤類等を含んでいながら、それらにより引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大が顕著に抑制された非イオン性SHCL用眼科組成物を提供することが可能である。従って、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によって、非イオン性SHCLの装用感を向上させることができ、また角結膜における上皮障害発生の惧れを効果的に予防でき、快適且つ安全に非イオン性SHCLを使用することが実現される。
【0031】
更に、本発明のスクリーニング方法は、非イオン性SHCLへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させ得る透過性向上物質の取得を可能にするので、非イオン性SHCLへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性が向上した非イオン性SHCL用の眼科組成物の開発に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】参考試験例1において、各種ソフトコンタクトレンズの角膜上皮細胞の接着性を評価した結果を示す図である。
【図2】試験例1において、試験液(実施例1及び比較例1−2)の非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着抑制効果を評価した結果を示す図である。
【図3】参考試験例2において、ペミロラストカリウムの各種ソフトコンタクトレンズへの透過性を評価した結果を示す図である。
【図4】試験例2において、試験液(実施例2−3及び比較例3)におけるペミロラストカリウムの非イオン性SHCLへの透過性を評価した結果を示す図である。
【図5】参考試験例3において、試験液(実施例2−3及び比較例3)におけるペミロラストカリウムの非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの透過性を評価した結果を示す図である。
【図6】参考試験例4において、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦(剛体振り子物性試験により測定される対数減衰率)を評価した結果を示す図である。
【図7】試験例3において、試験液(実施例4−5、及び比較例4−7)が非イオン性SHCLの摩擦に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【図8】試験例4において、試験液(実施例6、及び比較例8)が非イオン性SHCLの摩擦に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【図9】試験例4において、試験液(実施例7、及び比較例9)が非イオン性SHCLの摩擦に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【図10】試験例5において、試験液(実施例8−9、及び比較例10−11)が非イオン性SHCLの摩擦に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【図11】試験例6において、試験液(実施例10−12)が非イオン性SHCLの摩擦に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
1.非イオン性SHCL用眼科組成物
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に(A)成分と表記することもある)を含有する。ペミロラストは、9−メチル−3−(1H-テトラゾール−5−イル)-4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オンとも称される公知化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0034】
また、ペミロラストの塩は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではないが、具体的には、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは無機塩基との塩、より好ましくはアルカリ金属塩、更に好ましくはカリウム塩及び/又はナトリウム塩、特に好ましくはカリウム塩が挙げられる。これらのペミロラストの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0035】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物には、(A)成分として、これらのペミロラスト及びその塩の中から、一種のものを選択して単独で使用してもよく、二種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着をより一層有効に抑制するという観点から、(A)成分として、好ましくはペミロラストの塩、より好ましくはペミロラストのアルカリ金属塩、更に好ましくはペミロラストのカリウム塩及び/又はナトリウム塩、特に好ましくはペミロラストのカリウム塩(ペミロラストカリウム)が挙げられる。ここで例示する(A)成分は、界面活性剤類による非イオン性SHCL透過性向上効果をより一層有効に獲得できるという観点からも好適であり、また後述の(B)成分により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大をより一層有効に抑制できるという観点からも好適である。
【0036】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、(A)成分の配合割合については、当該(A)成分の種類、該眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、(A)成分が総量で0.005〜1.0w/v%、好ましくは0.01〜0.5w/v%、更に好ましくは0.02〜0.2w/v%が例示される。
【0037】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)成分に加えて、界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に(B)成分と表記することもある)を含有する。(B)成分として界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及び/又はグリチルリチン酸類を使用して、上記(A)成分と組み合わせることにより、当該(B)成分によって引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大を抑制することが可能になる。また、(B)成分として界面活性剤類を使用して、上記(A)成分と組み合わせる場合には、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制することが可能になり、更に非イオン性SHCLへの上記(A)成分の透過性をも向上させることが可能になる。
【0038】
(B)成分の内、界面活性剤類としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0039】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類; POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等が例示される。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、α−オレフィンスルホン酸等が例示される。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、これらの界面活性剤類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
上記界面活性剤類の中でも、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層高めるという観点から、好ましくは、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤;更に好ましくは非イオン性界面活性剤;より好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類、POE・POPブロックコポリマー類;更により好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル、POE硬化ヒマシ油;特に好ましくはポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が例示される。非イオン性SHCLへの上記(A)成分の透過性を一層高めるという観点からも、ここで例示する界面活性剤類は好適である。また、ここで例示する界面活性剤類は、ペミロラスト及び/又はその塩による非イオン性SHCLの摩擦低減効果をより一層有効に奏させるという観点からも好適である。
【0041】
(B)成分の内、ビタミンB6類としては、具体的には、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン、及びこれらの塩が挙げられる。
【0042】
ピリドキシン、ピリドキサール、及びピリドキサミンの塩については、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは無機酸塩、より好ましくは塩酸塩及びリン酸塩、特に好ましくは塩酸塩が挙げられる。これらのピリドキシン、ピリドキサール、及びピリドキサミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0043】
本発明では、ビタミンB6類として、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン、及びこれらの塩の中から1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0044】
これらのビタミンB6類の内、ペミロラスト及び/又はその塩による非イオン性SHCLの摩擦低減効果をより一層有効に奏させるという観点から、好ましくはピリドキシン及びその塩、より好ましくはピリドキシン及びその無機酸塩、更に好ましくはピリドキシン塩酸塩及びピリドキシンリン酸塩、特に好ましくはピリドキシン塩酸塩(塩酸ピリドキシン)が挙げられる。
【0045】
(B)成分の内、テルペノイド類とは、イソプレンユニットを構成単位とする構造を有し、清涼化剤として汎用されている公知の化合物である。テルペノイド類として、具体的には、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、シトロネロール、カルボン、アネトール、オイゲノール、リモネン、リナロール、酢酸リナリル、これらの誘導体等が挙げられる。これらの化合物はd体、l体又はdl体のいずれでもよい。また、本発明において、テルペノイド類として、上記化合物を含有する精油を使用してもよい。このような精油としては、例えば、ユーカリ油、ベルガモット油、ペパーミント油、クールミント油、スペアミント油、ハッカ油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ローズ油、樟脳油等が挙げられる。これらのテルペノイド類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0046】
これらのテルペノイド類の中でも、ペミロラスト及び/又はその塩による非イオン性SHCLの摩擦低減効果をより一層有効に奏させるという観点から、好ましくは、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオールが挙げられ、これらを含有する精油としてクールミント油、ペパーミント油、ハッカ油、樟脳油、ローズ油等が例示される。更に好ましくは、メントール及びカンフル、より好ましくはメントール、特に好ましくはl-メントールが挙げられ、これらを含有する精油としてクールミント油、ペパーミント油、ハッカ油、樟脳油等が例示される。
【0047】
また、(B)成分の内、グリチルリチン酸類としては、具体的には、グリチルリチン酸及びその塩が挙げられる。
【0048】
グリチルリチン酸は、20β-カルボキシ-11-オキソ-30-ノルオレアナ-12-エン-3β-イル-2-O-β-D-グルコピラヌロノシル-α-D-グルコピラノシドウロン酸とも称される公知化合物である。グリチルリチン酸及びその塩は、抗炎症剤又は抗アレルギー剤として公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0049】
また、グリチルリチン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではない。このような塩として、具体的には、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは無機塩基との塩、更に好ましくは、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属との塩;アンモニウム塩等が挙げられる。より具体的には、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸三カリウム等のアルカリ金属との塩;グリチルリチン酸モノアンモニウム等のアンモニウム塩等が例示される。これらの中でも、好ましくはグリチルリチン酸のアルカリ金属塩、更に好ましくはグリチルリチン酸二カリウムが挙げられる。これらのグリチルリチン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0050】
本発明では、グリチルリチン酸類として、グリチルリチン酸及びその塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0051】
これらのグリチルリチン酸類の中でも、ペミロラスト及び/又はその塩による非イオン性SHCLの摩擦低減効果をより一層有効に奏させるという観点から、好ましくはグリチルリチン酸の塩、より好ましくはグリチルリチン酸の無機塩基との塩、更に好ましくはグリチルリチン酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはグリチルリチン酸二カリウムが挙げられる。
【0052】
本発明において、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制できる非イオン性SHCL用眼科組成物を提供する場合、(B)成分として、界面活性剤類を単独で使用してもよく、また界面活性剤類と共に、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類の中の少なくとも1種を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
また、本発明において、非イオン性SHCL表面の摩擦増大を抑制できる非イオン性SHCL用眼科組成物を提供する場合、(B)成分として、界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類の中から1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの(B)成分の中でも、前記(A)成分による摩擦増大抑制効果をより一層有効に獲得できるという観点から、好ましくは界面活性剤類、ビタミンB6類、及びテルペノイド類、より好ましくは界面活性剤類、及びビタミンB6類が例示される。
【0054】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、(B)成分の配合割合については、上記(A)成分の種類、当該(B)成分の種類、該眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、(B)成分が総量で0.00001〜10w/v%、好ましくは0.0001〜1w/v%、更に好ましくは0.001〜0.5w/v%が例示される。より具体的には、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対する各(B)成分の配合割合として、以下の範囲が例示される。
(B)成分が界面活性剤類の場合:これらが総量で、通常0.001〜10w/v%、好ましくは0.01〜1w/v%、更に好ましくは0.05〜0.5w/v%;
(B)成分がビタミンB6類の場合:これらが総量で、通常0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.5w/v%、更に好ましくは0.01〜0.2w/v%;
(B)成分がテルペノイド類の場合:これらが総量で、通常0.00001〜0.5w/v%、好ましくは0.0001〜0.15w/v%、更に好ましくは0.001〜0.05w/v%(なお、テルペノイド類として、テルペノイドを含む精油を使用する場合は、配合される精油中のテルペノイドの含有量が上記配合割合を満たすように設定される);
(B)成分がグリチルリチン酸類の場合:これらが総量で、通常0.0005〜1.25w/v%、好ましくは0.005〜1.0w/v%、更に好ましくは0.05〜0.3w/v%。
【0055】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、上記(A)成分に対する上記(B)成分の比率については、特に制限されるものではないが、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制する効果をより一層高めるという観点、或いは上記(B)成分により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大をより一層効果的に抑制するという観点から、上記(A)成分の総量100重量部当たり、上記(B)成分の総量が0.001〜200000重量部、好ましくは0.005〜50000重量部、より好ましくは0.05〜5000重量部、更に好ましくは0.5〜2500重量部となる範囲が例示される。このような比率は、非イオン性SHCLへの上記(A)成分の透過性を一層高めるという観点からも好適である。より具体的には、(A)成分の総量100重量部当たりの(B)成分の比率として、以下の範囲が例示される。
(B)成分が界面活性剤類の場合:これらが総量で、通常0.5〜50000重量部、好ましくは5〜5000重量部、更に好ましくは25〜2500重量部;
(B)成分がビタミンB6類の場合:これらが総量で、通常0.5〜5000重量部、好ましくは2.5〜2500重量部、更に好ましくは5〜1000重量部;
(B)成分がテルペノイド類の場合:これらが総量で、通常0.005〜2500重量部、好ましくは0.05〜750重量部、更に好ましくは0.5〜250重量部;(なお、テルペノイド類として、テルペノイドを含む精油を使用する場合は、配合される精油中のテルペノイドの比率が上記範囲を満たすように設定される);
(B)成分がグリチルリチン酸類の場合:これらが総量で、通常0.25〜6250重量部、好ましくは2.5〜5000重量部、更に好ましくは25〜1500重量部。
【0056】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)及び(B)成分に加えて、プラノプロフェン類及びクロルフェニラミン類からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に(C)成分と表記することもある)を含有してもよい。このように(C)成分を含むことによって、上記(B)成分により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大を、上記(A)成分の作用と相俟ってより一層効果的に抑制することができる。
【0057】
(C)成分の内、プラノプロフェン類としては、具体的には、プラノプロフェン及びその塩が挙げられる。
【0058】
プラノプロフェンは、α−メチル−5H−[1]ベンゾピラノ[2,3-b]ピリジン−7−酢酸とも称される公知化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0059】
プラノプロフェンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、無機塩基との塩[例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等]や、有機塩基との塩[例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等との塩]等が挙げられる。これらのプラノプロフェンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0060】
本発明では、プラノプロフェン類として、プラノプロフェン及びその塩の中から、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0061】
プラノプロフェン類の中でも、上記(B)成分により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大をより一層効果的に抑制するという観点から、好ましくはプラノプロフェンが挙げられる。
【0062】
(C)成分の内、クロルフェニラミン類としては、具体的には、クロルフェニラミン及びその塩が挙げられる。
【0063】
クロルフェニラミンは、3-(4-クロロフェニル)-N,N-ジメチル-3-ピリジン-2-イル-プロピルアミンとも称される公知の化合物である。
【0064】
クロルフェニラミンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、マレイン酸塩、フマル酸塩等の有機酸塩;塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩;金属塩等の各種の塩が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは有機酸塩、更に好ましくはマレイン酸塩(マレイン酸クロルフェニラミン)が挙げられる。これらのクロルフェニラミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0065】
また、クロルフェニラミン及びその塩は、水和物の形態であってもよく、更にd体、l体、dl体のいずれであってもよい。
【0066】
本発明では、クロルフェニラミン類として、クロルフェニラミン及びその塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0067】
クロルフェニラミン類の中でも、上記(B)成分により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大をより一層効果的に抑制するという観点から、好ましくはクロルフェニラミンの塩、更に好ましくはマレイン酸クロルフェニラミンが挙げられる。
【0068】
本発明において、上記(C)成分は、プラノプロフェン類及びクロルフェニラミン類の中から1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。好ましくは、(C)成分としてプラノプロフェン類が用いられる。
【0069】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、(C)成分の配合割合については、上記(A)及び(B)成分の種類、該(C)成分の種類、該眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、(C)成分が総量で0.0006〜0.5w/v%、好ましくは0.001〜0.2w/v%、更に好ましくは0.006〜0.1w/v%が例示される。より具体的には、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対する各(C)成分の配合割合として、以下の範囲が例示される。
(C)成分がプラノプロフェン類の場合:これらが総量で、通常0.005〜0.5w/v%、好ましくは0.01〜0.2w/v%、更に好ましくは0.025〜0.1w/v%;
(C)成分がクロルフェニラミン類の場合:これらが総量で、通常0.0006〜0.15w/v%、好ましくは0.001〜0.1w/v%、更に好ましくは0.006〜0.05w/v%。
【0070】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、上記(A)成分に対する上記(C)成分の比率については、特に制限されるものではないが、上記(B)成分により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大をより一層効果的に抑制するという観点から、上記(A)成分の総量100重量部当たり、上記(C)成分の総量が0.1〜10000重量部、好ましくは0.3〜2500重量部、より好ましくは0.5〜1000重量部、更に好ましくは3〜500重量部となる範囲が例示される。より具体的には、(A)成分の総量100重量部当たりの(C)成分の比率として、以下の範囲が例示される。
(C)成分がプラノプロフェン類の場合:これらが総量で、通常2.5〜2500重量部、好ましくは5〜1000重量部、更に好ましくは12.5〜500重量部;
(C)成分がクロルフェニラミン類の場合:これらが総量で、通常0.3〜750重量部、好ましくは0.5〜500重量部、更に好ましくは3〜250重量部。
【0071】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、(A)及び(B)成分以外に、更に緩衝剤を含有していてもよい。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤であり、より好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、及びリン酸緩衝剤であり、特に好ましい緩衝剤はホウ酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸、又はホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの中でも、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を一層高める、又は非イオン性SHCLへの上記(A)成分の透過性を一層高める、或いは上記(B)成分により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大をより一層有効に抑制するという観点から、ホウ酸緩衝剤、特にホウ酸とホウ砂の組合せが好ましい。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0072】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に緩衝剤を配合する場合、緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%、更に好ましくは0.5〜2w/v%となる割合が例示される。
【0073】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、更に等張化剤を含有していてもよい。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。これらの等張化剤の中でも、グリセリン、プロピレングリコールが好ましい。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0074】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に等張化剤を配合する場合、等張化剤の配合割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜3w/v%となる割合が例示される。
【0075】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物のpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは5.0〜9.0、更に好ましくは5.5〜8.5となる範囲が挙げられる。
【0076】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.5〜5.0、更に好ましくは0.6〜3.0、特に好ましくは0.7〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧)に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0077】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、ジフェンヒドラミン、フマル酸ケトチフェン等。
充血除去剤:例えば、テトラヒドロゾリン、ナファゾリン、エピネフリン、エフェドリン、メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、セチルピリジニウム、ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニド等。
ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、パンテノール、パントテン酸カルシウム、酢酸トコフェロール等。
アミノ酸類:例えば、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。
消炎剤:例えば、アラントイン、アズレン、アズレンスルホン酸、グアイアズレン、ε−アミノカプロン酸、ベルベリン、リゾチーム、甘草等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、クロモグリク酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、及びこれらの塩等。
【0078】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等。
糖類:例えば、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
キレート剤:例えば、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等。
【0079】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、所望量の上記(A)及び(B)成分、及び必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加することにより調製される。
【0080】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、その剤型については、眼科分野で使用可能である限り特に制限されないが、例えば、液状、軟膏状等が挙げられる。これらの中でも、液状が好ましい。また液状の中でも水性液状が好ましい。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物を水性液状にする場合、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される水を水性担体として使用すればよく、このような水として、具体的には、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等が例示される。これらの定義は第一五改正日本薬局方に基づく。ここで、水性液状とは、水を含有する液状の形態を意味し、通常は、非イオン性SHCL用眼科組成物中に水を1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上を含有するものを意味する。
【0081】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCL装用中に点眼可能な点眼剤(非イオン性SHCL用点眼剤)、非イオン性SHCL装用中に洗眼可能な洗眼剤(非イオン性SHCL用洗眼剤)、非イオン性SHCL装着液、非イオン性SHCLケア用剤(非イオン性SHCL消毒剤、非イオン性SHCL用保存剤、非イオン性SHCL用洗浄剤、非イオン性SHCL用洗浄保存剤等が含まれる)等として使用される。なお、非イオン性SHCL用点眼剤である場合、非イオン性SHCLを装着した眼にそのまま直接点してもよく、また非イオン性SHCLを装着する前に眼に点してもよい。
【0082】
これらの中でも、非イオン性SHCL用点眼剤又は非イオン性SHCL装着液、特に非イオン性SHCL用点眼剤は、眼球表面に非イオン性SHCLが接触している際に又は接触する直前(例えば、接触させることとなる装着行為の約10分前までに)に使用されるものであり、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制作用が強く求められる製剤形態である。また点眼剤は、他の眼科組成物に比べて一般に1日当たりの使用頻度が高いため、本発明の角膜上皮細胞接着抑制効果をより効果的に得ることができるという点で好ましい。さらに、点眼剤の場合、その配合成分により生じる非イオン性SHCL表面の摩擦増大とそれに伴う装用感の悪化は、患者のコンプライアンス(投薬遵守)を大きく害することとなりかねない。従って、点眼剤の場合は、適正な投薬指示を遵守させるために、そのような装用感悪化を生じさせる要因を可能な限り排除することが求められる製剤形態といえる。以上のような観点に鑑みれば、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態として点眼剤又は装着液、特に点眼剤は好適である。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)成分の非イオン性SHCLへの透過性が顕著に高められている。かかる本発明の効果に鑑みれば、好適な製剤形態として、非イオン性SHCL用点眼剤が挙げられる。
【0083】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、適用対象となる非イオン性SHCLの種類については特に制限されず、現在市販されている、或いは将来市販される全ての非イオン性SHCLを適用対象にできる。なお、ここで非イオン性とは、当業者が通常理解するように、米国FDA(米国食品医薬品局)基準に則り、コンタクトレンズ素材中のイオン性成分含有率が1mol%未満であることをいう。また、適用対象となる非イオン性SHCLの含水率についても特に制限されず、例えば、90%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下が挙げられる。なお、SHCLはハイドロゲル素材を含むものであるため、少なくとも0%より多い水分を含む。また、角膜上皮細胞の接着に関しては、含水率が35%以下の非イオン性SHCLは特に角膜上皮細胞に対する接着性が強い傾向がある。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、このように角膜上皮細胞に対する接着性が強い非イオン性SHCLに対しても、角膜上皮細胞の接着抑制効果を有効に奏することができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物の好適な適用対象の一例として、含水率が35%以下の非イオン性SHCLが挙げられる。
【0084】
ここでSHCLの含水率とは、SHCL中の水の割合を示し、具体的には以下の計算式により求められる。
【0085】
含水率(%)=(含水した水の重量/含水状態のSHCLの重量)×100
かかる含水率はISO18369-4:2006の記載に従って、重量測定方法により測定され得る。
【0086】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)成分に基づいて抗アレルギー作用をも発揮できるので、アレルギー症状の緩和剤としても有用である。とりわけ、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)成分のレンズ透過量が増大され角結膜への到達量が増加するため、非イオン性SHCLを装用したままでも十分な薬効を得ることが可能となる。
【0087】
また、従来、ポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のハードコンタクトレンズの装着によって、角膜へのレンズの固着等に起因して角膜上皮障害(3時−9時ステイニング)が惹起され易いことが知られている。また、SCLの装用でも、目が乾く症状等を有する者(例えば、ドライアイ患者)ではレンズにより角膜が損傷され易く、角膜ステイニングが生じ易い傾向があることが知られている。一方、非イオン性SHCLは、角膜上皮細胞と著しく接着する特性があり、更にはシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの固有の性質として通常の非シリコーンSCLよりも一般に固いため、角膜上皮に物理的損傷を与え易い傾向がある。このような非イオン性SHCLの特性を鑑みれば、非イオン性SHCLの装用によっても上述のような角膜上皮障害を生じさせ易いことが明らかである。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着を効果的に抑制できるので、非イオン性SHCLの装用によって引き起こされる角膜上皮障害を予防することができる。従って、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLの装用により生じる角膜上皮障害の予防剤として用いられることができ、とりわけ、目が乾く症状を有する者用(例えば、ドライアイ患者用)として好適に用いられる。
【0088】
また、角膜上皮細胞はアレルゲン等に対するバリアー機能も有しているので、上述のような非イオン性SHCL装用により引き起こされる角膜上皮障害は、そのバリアー機能を低下させ、目のアレルギー症状等を発症させ易くする畏れがある。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を抑制することによって、角膜上皮細胞を正常な状態に保持し、角膜上皮細胞のバリアー機能を維持させることが可能である。従って、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLを使用する者が、アレルギー症状を始めとする種々の眼病に対して抵抗力を高めて予防するための眼病予防剤(例えば、アレルギー症状の予防剤)として好適に用いられる。
【0089】
更に、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCL表面の摩擦を軽減させることができるので、非イオン性SHCLの摩擦低減用として用いることができる。また、眼球の上皮細胞はアレルゲンに対するバリアー機能も有しているので、非イオン性SHCL表面の摩擦により生じ得る細胞剥離等により引き起こされる上皮障害は、そのバリアー機能を低下させ、目のアレルギー疾患等を発症あるいは悪化させ易くする畏れがある。従って、かかる観点からも、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLを使用する者が、アレルギー疾患を始めとする種々の眼病に対して抵抗力を高めて予防するための眼病予防剤(例えば、アレルギー疾患の予防剤)として用いることができる。
【0090】
2.非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用の付与方法、及び非イオン性SHCL用眼科組成物の製造のための使用
前述するように、ペミロラスト類及び界面活性剤類を併用することによって、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制することができる。
【0091】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤類とを含有する非イオン性SHCL用眼科組成物と、非イオン性SHCLとを接触させることを特徴とする、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制する方法を提供する。更には、非イオン性SHCL用眼科組成物に、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤類とを配合することを特徴とする、非イオン性SHCL用眼科組成物に非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を付与する方法を提供する。
【0092】
また本発明は、更に別の観点から、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びに(B)界面活性剤類の、非イオン性SHCL用眼科組成物の製造のための使用を提供する。また本発明は、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びに(B)界面活性剤類の、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制するための非イオン性SHCL用眼科組成物の製造のための使用を提供する。
【0093】
これらの方法及び使用において、ペミロラスト類及び界面活性剤類の種類や配合割合、その他の配合成分の種類や配合割合、非イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0094】
3.非イオン性SHCLへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性の向上方法、並びに非イオン性SHCLへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させる作用の付与方法
前述するように、非イオン性SHCLへのペミロラスト類の透過性を界面活性剤類によって向上させることができる。
【0095】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)界面活性剤類とを併用することを特徴とする、非イオン性SHCLへの該(A)成分の透過性を向上させる方法を提供する。また、本発明は、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する非イオン性SHCL用眼科組成物に、(B)界面活性剤類を配合することを特徴とする、非イオン性SHCLへの該(A)成分の透過性を向上させる作用を該眼科組成物に付与する方法をも提供する。
【0096】
当該方法において、ペミロラスト類及び界面活性剤類の種類や配合割合、その他の配合成分の種類や配合割合、非イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0097】
4.非イオン性SHCLへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させるための剤
前述するように、非イオン性SHCLへのペミロラスト類の透過性を界面活性剤類によって向上させることができる。
【0098】
従って、本発明は、更に別の観点から、(B)界面活性剤類を有効成分として含有する、非イオン性SHCLへの(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の透過性を向上させるための剤を提供する。
【0099】
該剤において、有効成分である(B)成分の種類、適用対象となる非イオン性SHCL、非イオン性SHCLへの透過性の対象となる(A)成分の種類、これらの配合割合等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0100】
5.非イオン性SHCLの摩擦低減方法;及び非イオン性SHCLの摩擦を低減する作用を眼科組成物に付与する方法
前述するように、上記(A)成分と上記(B)成分とを併用することによって、該(B)成分との接触により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大を低減することができる。
【0101】
従って、本発明は、更に別の観点から、(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種と、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを併用することを特徴とする、前記(B)成分を接触させることにより増大される非イオン性SHCLの摩擦を低減させる方法を提供する。
【0102】
また本発明は、(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する非イオン性SHCL用眼科組成物に、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、前記(B)成分を接触させることにより増大される非イオン性SHCLの摩擦を低減する作用を該眼科組成物に付与する方法をも提供する。
【0103】
当該方法において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、その他の配合成分の種類や配合割合、非イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0104】
6.非イオン性SHCLの摩擦を低減させるための剤
前述するように、上記(B)成分を接触させることにより引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大を、上記(A)成分により抑制することができる。
【0105】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種を接触させることにより増大される非イオン性SHCLの摩擦を低減させるための剤を提供する。
【0106】
該剤において、有効成分である(A)成分の種類、適用対象となる非イオン性SHCL、非イオン性SHCLの摩擦増大を引き起こす(B)成分の種類、これらの配合割合等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0107】
7.非イオン性SHCLに対するペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させる物質のスクリーニング方法
また、前述するように、本発明者等によって、上記(A)成分が非イオン性SHCLへの透過性が著しく低いという新たな知見が得られている。そこで、更に、本発明は、非イオン性SHCLに対するペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のペミロラスト類の透過性を向上させる透過性向上物質をスクリーニングする方法をも提供する。具体的には、本スクリーニング方法は、下記(a)〜(c)工程を包含する方法である。
(a)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のペミロラスト類を含むコントロール溶液、並びにペミロラスト類と被験物質とを含む被験溶液を、試験溶液として各々調製する工程、
(b)上記試験溶液を各々、非イオン性SHCLの片側面のみに所定時間接触させ、該非イオン性SHCLの上記試験溶液を接触させていない他方の片側面から滲出したペミロラスト類の量を測定することにより、各試験溶液のペミロラスト類の透過量を求める工程、並びに
(c)上記工程(b)において測定されたペミロラスト類の透過量が、コントロール溶液よりも多い被験溶液を選び、該被験溶液に含まれる被験物質を上記透過性向上物質として選択する工程。
【0108】
本スクリーニング方法において、被験物質とは、スクリーニングに供される上記透過性向上物質の候補物質である。また、候補物質は、非イオン性SHCL用眼科組成物に配合できるように、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであることが望ましい。
【0109】
上記(a)工程において、被験溶液は、水や緩衝液等の水性担体にペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のペミロラスト類を例えば0.05〜0.5w/v%となるように添加し、更に被験物質を適当量添加することにより調製される。ここで、被験物質は段階的に希釈しておき、複数の濃度の被験物質を含む被験溶液を調製しておくことが望ましい。また、ペミロラスト類を含有するコントロール溶液は、被験物質を添加しないこと以外は、被験溶液と同組成とすることが望ましい。斯くして調製した被験溶液及びコントロール溶液を試験溶液として用いて、次の(b)工程に供する。
【0110】
上記(b)工程は、溶液を収容可能な2つの区画(セル)を有し且つこれらの2つの区画は非イオン性SHCLを介して隔てられている装置等を用いて実施することができる。このような装置としては、例えばビードレックス社製の膜透過実験装置が使用できる。具体的には、上記装置の一方の区画に上記試験溶液(コントロール溶液又は被験溶液)を充填し、更に他方の区画には何も充填しないか、或いは好ましくはペミロラスト類を含まない溶液(以下、ブランク溶液と表記する)等を充填して、所定時間(例えば4〜48時間程度)経過後に、非イオン性SHCLを介して上記他方の区画(ブランク溶液を充填した場合には、該ブランク溶液)側に移行したペミロラスト類の量を定量する。斯くして定量されるペミロラスト類の量が、上記(b)工程で求められるペミロラスト類の透過量である。なお、上記ブランク溶液は、充填される試験溶液(コントロール溶液又は被験溶液)と浸透圧が同等であることが望ましい。
【0111】
また、上記透過性向上物質の選択に関する工程(c)において、非イオン性SHCLへのペミロラスト類の透過性を向上させる作用が強い透過性向上物質を選択するには、(b)工程において求められたペミロラスト類の透過量がコントロール溶液よりも多い被験溶液を選べばよい。
【0112】
本スクリーニング方法により得られる透過性向上物質は、非イオン性SHCLへのペミロラスト及び/又はその塩の透過性を向上させることを目的として、ペミロラスト及び/又はその塩を含む非イオン性SHCL用眼科組成物に配合することができる。
【実施例】
【0113】
以下に、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0114】
参考試験例1:各種SCLの角膜上皮細胞の接着性評価
表1に示す5種類のソフトコンタクトレンズを用いて以下の実験を実施し、ソフトコンタクトレンズ表面の角膜上皮細胞接着性を評価した。なお、本試験に使用したソフトコンタクトレンズは、いずれも市販品である。
【0115】
【表1】
【0116】
具体的に以下の方法により評価した。増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)を900μLづつ入れた24ウェルマイクロプレートに、各ソフトコンタクトレンズをそれぞれ凸面が上になるように一枚づつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cells/ml)を100μLづつ播種し、37℃、5%CO2条件下で48時間培養後、ソフトコンタクトレンズに接着した生存細胞数を計測した。なお、コントロールとして、いずれのレンズも浸漬させず、マイクロプレートの底面で細胞を培養し、ウェル中の生細胞数を計測した(コントロール群)。なお、生存細胞数の測定にはCell Counting Kit((株)同仁化学研究所)を用いた。コントロール群のウェル中に含まれる生存細胞の総数に対して、各ソフトコンタクトレンズ表面に接着している生存細胞数の割合(コントロール群に対する生存細胞数の割合;%)をそれぞれ算出した。
【0117】
得られた結果を図1に示す。図1から明らかなように、非イオン性SHCLであるレンズA及びBは、イオン性のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズCや非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズD又はEと比較して、顕著な角膜上皮細胞接着性があることが確認された。また、細胞のソフトコンタクトレンズへの接着状況を顕微鏡で観察したところ、レンズC、D及びEには細胞接着が殆ど確認できなかったものの、レンズA及びBの表面には一面に角膜上皮細胞が接着していることが確認された。以上の結果より、非イオン性SHCLは、角膜上皮細胞の接着性が他の種類のレンズと比較して顕著に高いことが確認され、非イオン性SHCLの装用は角膜表面に損傷等の悪影響を与え得ることが明らかとなった。
【0118】
試験例1:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験:
表2に示す試験液を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を評価した。
【0119】
【表2】
【0120】
表1に示すレンズA(非イオン性SHCL)を、表2に示す各試験液(実施例1及び比較例1−2)3mlに一枚づつ浸漬し、34℃条件下で24時間静置した。各試験液から取り出したレンズAを生理食塩水で軽く洗浄後、水分を拭い去り、増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)が900μL入った24ウェルプレートに凸面が上になるように一枚づつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cells/ml)を100μLづつ播種し、37℃、5%CO2条件下で48時間培養した後、レンズに接着した生存細胞数を計測した(サンプル群)。また、コントロールとして、表2に示すコントロール試験液で同様の操作を行ったレンズAを用いて、上記と同条件でウサギ角膜上皮細胞株の細胞懸濁液を播種して培養を行い、レンズAに接着した生存細胞数を計測した(コントロール群)。更に、ブランクとして、ウサギ角膜上皮細胞を播種せずに増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)1000μLのみを添加したウェルを作製し、37℃、5%CO2条件下で48時間静置した(ブランク群)。なお、生存細胞数の計測には、Cell Counting Kit((株)同仁化学研究所)を用い、下式に従って細胞接着抑制率(%)を算出した。
【0121】
【数1】
【0122】
得られた結果を図2に示す。図2から明らかなように、ペミロラストカリウムを単独で用いた場合には、細胞接着を抑制しないばかりか、反って細胞を接着させ易くなる傾向があることが確認された(比較例1)。また、界面活性剤のポリソルベート80自体にも細胞接着抑制効果が殆ど無いことが明らかとなった(比較例2)。一方、全く予想外なことに、ペミロラストカリウムとポリソルベート80を組み合わせて用いた場合には、非イオン性SHCLに対する細胞接着抑制率が相乗的に著しく高められることが明らかとなった(実施例1)。
【0123】
参考試験例2:ペミロラストのSCL透過性の比較評価:
表3に示す3種類のソフトコンタクトレンズを用いて、ペミロラストのレンズ透過性について評価を行った。なお、本試験に使用したソフトコンタクトレンズも全て市販品である。
【0124】
【表3】
【0125】
ペミロラストのSCL透過性評価の測定は、膜透過実験装置(ビードレックス社製)を用いて以下の方法に従い実施した。表3に示す各ソフトコンタクトレンズを膜透過実験装置にセットし、一方のセルIには生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を5ml、他方のセルIIには0.1w/v%ペミロラストカリウム含有溶液(ホウ酸0.5w/v%、ホウ砂 適量、グリセリン2.0w/v%;pH8.0)を5ml充填した。試験開始から24時間後に、生理食塩水側の液を1ml採取し、常法に従いHPLC法にてペミロラストの濃度を測定し、セルIに移行したペミロラストの量を算出した。
【0126】
結果を図3に示す。図3から明らかなように、非イオン性SHCLであるレンズ3では、ハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズ1や2と比較して、著しくペミロラストのレンズ透過性が悪いことが判明した。
【0127】
試験例2:ペミロラストのレンズ透過試験1:
表4に示す試験液(比較例3及び実施例2−3)を用いて、ペミロラストのSHCL透過性について評価した。
【0128】
【表4】
【0129】
ペミロラストの非イオン性SHCL透過性評価の測定は、膜透過実験装置(ビードレックス社製)を用いて以下の方法に従い実施した。表3に示すレンズ3(非イオン性SHCL)を膜透過実験装置にセットし、一方のセルIには生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を5mL、他方のセルIIには表4に示す各試験液(比較例3及び実施例2−3)を5mL正確に充填した。尚、各試験液の浸透圧はほぼ同じとなるように揃えた。次いで、24時間後に生理食塩水側の液を1mL採取し、常法に従いHPLC法によりペミロラストの濃度を定量した。定量した結果から、ペミロラストのレンズ透過量を求め、比較例3の透過量を100%とした場合の各実施例の透過量をペミロラスト透過率(%)として算出した。
【0130】
結果を図4に示す。図4から明らかなように、実施例2及び3の試験液ではペミロラストのレンズ透過率が比較例3の試験液と比較して著しく増加することが判明した。即ち、ペミロラストと界面活性剤(ポリソルベート80又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)を併用することによって、非イオン性SHCLへのペミロラストの透過性が著しく向上し、非イオン性SHCL装用中に点眼しても本来のペミロラスト配合量から想定される程度により近い薬効が得られる非イオン性SHCL用眼科組成物を提供可能になることができることが明らかとなった。
【0131】
参考試験例3:ペミロラストのレンズ透過試験2:
表3に示すレンズ1(非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)を用いて、上記試験例2と同様の実験を行い、ペミロラストのレンズ透過性について評価を行った。試験液としては、上記表4に示す試験液(比較例3及び実施例2−3)を用いて実験を行った。
【0132】
この結果を図5に示す。図5より明らかなように、従来のハイドロゲルレンズの場合には、界面活性剤を併用することにより透過性向上効果が全く認められないか、反って透過性が悪化する場合もあることが明らかとなった。
【0133】
以上の結果より、ペミロラストと界面活性剤との併用により認められるペミロラストのレンズ透過性の向上効果は、対象レンズを非イオン性SHCLとした場合に特異的に認められる効果であることが明らかとなった。
【0134】
参考試験例4:非イオン性SHCL表面の摩擦の評価:
非イオン性SHCL表面の物性を測定するために、粘着性、粘弾性、乾燥性等の様々な表面物性変化を摩擦の増減の面から評価することが知られている剛体振り子物性試験器RPT−3000W((株)エー・アンド・デイ製)を用いて、各非イオン性SHCL表面の摩擦力の評価を行った。試験に使用した非イオン性SHCLは表5に示す2種の非イオン性SHCLであり、いずれも市販品である。
【0135】
【表5】
【0136】
これらの非イオン性SHCLを生理食塩水中に一晩浸漬させたものを試験サンプルとして用いた。測定条件は、温度25℃、相対湿度60%条件の下、振り子重量200g、センサー径4mmの条件で測定を実施し、測定開始から5分後の対数減衰率を以って、各非イオン性SHCL表面の摩擦の評価を行った。
【0137】
この結果を図6に示す。ここで測定される対数減衰率はレンズ表面の摩擦の大小を示し、対数減衰率が高いほど摩擦が大きいことを示す。図6に示されるように、非イオン性SHCLは対数減衰率が高く、摩擦が非常に大きいことが認められた。
【0138】
試験例3:非イオン性SHCL表面の摩擦に対する低減効果の評価(1):
非イオン性SHCLとして上記参考試験例4で使用したレンズIを用い、レンズ表面の摩擦低減効果について以下の方法により評価を行った。
【0139】
先ず、表6に示される各試験液(比較例4−7及び実施例4−5)を調製した。非イオン性SHCL(レンズI)の表面を生理食塩水で十分にすすいだ後、10mlの各試験液中に1枚づつ浸漬させ、7日間静置した。その後、レンズ表面の水分を軽くふき取り、温度25℃、相対湿度60%条件の下、振り子重量200g、センサー径4mmの条件で、対数減衰率を10秒毎に計3分間測定した。
【0140】
【表6】
【0141】
この結果を図7に示す。図7に示されるように、コントロール(比較例4)と比較して、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)の配合により対数減衰率は上昇し、摩擦の増大が認められた(比較例6,7)。一方、非イオン性界面活性剤と共にペミロラストカリウムを配合した実施例4及び5の試験液では、対数減衰率が減少し、コントロールと同程度まで摩擦を低減することができた。これは、ペミロラストカリウムを単独で用いた場合には、非イオン性SHCLに対する摩擦低減効果が殆ど認められなかったことを考慮すると(比較例5)、全く予想外の結果であった。
【0142】
試験例4:非イオン性SHCL表面の摩擦に対する低減効果の評価(2):
下記表7に示す各試験液(比較例8−9及び実施例6−7)について、試験液での浸漬時間を7日間から18時間に変更した以外は上記試験例3と同様の方法で、非イオン性SHCLに対する摩擦低減効果を評価した。
【0143】
【表7】
【0144】
この結果を、図8及び9に示す。図8(比較例8と実施例6の比較)に示されるように、ペミロラストカリウム及びポリソルベート80の配合割合や比率を変動させた場合にも、上記試験例3と同様の結果が認められた。また、図9(比較例9と実施例7の比較)に示されるように、ビタミンB6類(塩酸ピリドキシン)も界面活性剤類と同様に非イオン性SHCL表面の摩擦を増大させるものの、ペミロラストカリウムとの併用によりその増大を効果的に抑制できることが認められた。
【0145】
試験例5:非イオン性SHCL表面の摩擦に対する低減効果の評価(3):
下記表8に示す各試験液(比較例10−11及び実施例8−9)について、試験液量を10mlから6mlに変更した以外は上記試験例4と同様の方法で、非イオン性SHCLに対する摩擦低減効果を評価した。
【0146】
【表8】
【0147】
この結果を図10に示す。図10に示されるように、グリチルリチン酸二カリウム及びメントールも、界面活性剤類やビタミンB6類と同様に非イオン性SHCL表面の摩擦を増大させたが、これらとペミロラストカリウムを併用することによりそれらの摩擦増大を抑制できることが明らかとなった。中でも、メントールを用いた場合により高い摩擦増大が認められたが、ペミロラストカリウムとの併用によって、メントールにより生じる非イオン性SHCLの摩擦増大を効果的に抑制できていた。
【0148】
試験例6:非イオン性SHCL表面の摩擦に対する低減効果の評価(4):
下記表9に示す各試験液(実施例10−12)について、上記試験例4と同様の方法で、非イオン性SHCLに対する摩擦低減効果を評価した。
【0149】
【表9】
【0150】
結果を図11に示す。図11に示されるように、ポリソルベート80及びペミロラストカリウムに、マレイン酸クロルフェニラミン又はプラノプロフェンを組み合わせることにより、非イオン性SHCL表面に対する摩擦低減効果がより一層高まることが認められた。
製剤例
表10に記載の処方で、非イオン性SHCL用点眼剤(実施例13−20)が調製される。
【0151】
【表10】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項2】
(B)成分として、非イオン性界面活性剤、塩酸ピリドキシン、メントール、及びグリチルリチン酸二カリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項3】
更に、(C)プラノプロフェン類及びクロルフェニラミン類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1又は2に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項4】
(C)成分として、プラノプロフェン及びマレイン酸クロルフェニラミンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項5】
点眼剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項1】
(A)ペミロラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤類、ビタミンB6類、テルペノイド類、及びグリチルリチン酸類からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項2】
(B)成分として、非イオン性界面活性剤、塩酸ピリドキシン、メントール、及びグリチルリチン酸二カリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項3】
更に、(C)プラノプロフェン類及びクロルフェニラミン類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1又は2に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項4】
(C)成分として、プラノプロフェン及びマレイン酸クロルフェニラミンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項5】
点眼剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−98961(P2011−98961A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228984(P2010−228984)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】
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